(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165716
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】透明なゴム変性スチレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 279/06 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
C08F279/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071179
(22)【出願日】2021-04-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 亘
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AA17
4J026AA68
4J026AC11
4J026AC32
4J026BA05
4J026BA27
4J026BB03
4J026DB02
4J026DB09
4J026DB15
4J026DB40
4J026FA07
4J026GA01
(57)【要約】
【課題】透明性と面衝撃強度に優れるゴム変性スチレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、スチレン系共重合体を含む連続相と、ゴム状重合体を含む分散粒子と、を含有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン系共重合体が、スチレン系単量体単位と、一種以上の(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位と、を有し、前記スチレン系共重合体のグラフト率が2.10~2.40である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系共重合体を含む連続相と、ゴム状重合体を含む分散粒子と、を含有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系共重合体が、スチレン系単量体単位と、一種以上の(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位と、を有し、
前記スチレン系共重合体のグラフト率が2.10~2.40である、
ゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
2mm厚み成形体の曇り度が5%以下である、請求項1に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ゴム状重合体がスチレン-ブタジエンゴムである、請求項1または請求項2に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
屈折率が1.53~1.57である、請求項1~請求項3いずれかに記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチレン系共重合体を含む連続相と、ゴム状重合体を含む分散粒子と、を含有するゴム変性スチレン系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐衝撃性に優れるゴム変性スチレン系樹脂組成物の1つであるハイインパクトポリスチレン(HIPS)は、ポリブタジエンの存在下でスチレンモノマーをグラフト共重合して得られるが、連続相であるポリスチレンとポリブタジエンを含む分散粒子の屈折率差により不透明である。連続相と分散粒子の屈折率を合わせるため、連続相では(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を共重合し、分散粒子ではスチレンを共重合したスチレン-ブタジエンゴムを使用することで透明なゴム変性スチレン系樹脂組成物が得られ、透明性、耐衝撃性、剛性などの諸性質を有することから、幅広い分野で使用されている。成形性に優れることから射出成形で成形体が作られることが多いが、実用的な強度に関連する面衝撃強度に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4663107号公報
【特許文献2】特許第4386772号公報
【特許文献3】特許第3618876号公報
【特許文献4】特許第3151481号公報
【特許文献5】特表2004-520459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、透明性、面衝撃強度及びシャルピー衝撃強さに優れるゴム変性スチレン系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、スチレン系共重合体を含む連続相と、ゴム状重合体を含む分散粒子と、を含有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン系共重合体が、スチレン系単量体単位と、一種以上の(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位と、を有し、前記スチレン系共重合体のグラフト率が2.10~2.40である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物が提供される。
【0006】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、2mm厚み成形体の曇り度が5%以下である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物である。
好ましくは、前記ゴム状重合体がスチレン-ブタジエンゴムである、ゴム変性スチレン系樹脂組成物である。
好ましくは、屈折率が1.53~1.57である、ゴム変性スチレン系樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、透明性、面衝撃強度及びシャルピー衝撃強さに優れることから、外観と実用強度の高い成形体が得られる。また、流動性に優れることから、特に射出成形用途に適している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<用語の説明>
本願明細書において、例えば、「A~B」なる記載は、A以上でありB以下であることを意味する。
【0009】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、スチレン系共重合体を含む連続相と、ゴム状重合体を含む分散粒子と、を含有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン系共重合体がスチレン系単量体単位と、一種以上の(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位とを有する、透明なゴム変性スチレン系樹脂組成物である。
【0011】
スチレン系単量体単位は、重合に用いられたスチレン系単量体に由来する単位である。スチレン系単量体とは、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等である。これらの中でもスチレンが好ましい。スチレン系単量体単位は、単独でも良いが2種類以上を併用してもよい。
【0012】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位は、重合に用いられた(メタ)アクリル酸エステル系単量体に由来する単位である。(メタ)アクリル酸エステル系単量体とは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートの(メタ)アクリル酸エステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-メチルへキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレートの単独又は2種以上の混合物がある。色相や耐熱性に優れるという観点から、メチル(メタ)アクリレートを主成分として用いることが好ましい。また、一態様においては、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位として、メチル(メタ)アクリレート及びn-ブチルアクリレートを含むことが好ましい。
【0013】
連続相を構成するスチレン系共重合体は、スチレン系単量体単位と、一種以上の(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位と、を有する共重合体である。スチレン系共重合体がスチレン系単量体単位を主成分とし、一種以上の(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含有するが、二種以上の(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含有することが好ましく、耐熱性に優れる成分と流動性に優れる成分を併用することでゴム変性樹脂組成物の流動性を向上することができる。例えば、スチレン-メチル(メタ)アクリレート-ブチルアクリレート共重合体がある。
【0014】
ゴム状重合体は、常温でゴム的性質を示すもので、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、スチレンブタジエンブロックゴム等が挙げられるが、好ましくは、スチレン-ブタジエンゴムのスチレン-ブタジエンゴム、スチレンブタジエンブロックゴムである。スチレン-ブタジエンゴム、スチレンブタジエンブロックゴムのスチレン含有量は10~50質量%であることが好ましく、より好ましくは30~45質量%である。
【0015】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、ゴム状重合体の存在下に、スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体をグラフト共重合して得らえる。グラフト共重合の方法は、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)の製造で行われている方法を用いることができる。HIPSの製造は連続重合法で行われることが多く、例えば、ゴム状重合体をスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、重合溶媒に溶解し、原料溶液とした後、反応器に連続的に供給し、グラフト共重合を行う。重合の進行とともに分散粒子が形成される転相を経た後、さらに重合反応を進める。反応器から出てきた重合溶液は、脱揮工程に供給され、未反応単量体と重合溶媒の除去と同時に分散粒子を構成するゴム状重合体の架橋を進める。反応器の様式としては、完全混合型の槽型反応器、プラグフロー性を有する塔型反応器、重合を進行させながら一部の重合溶液を抜き出すループ型の反応器等が例示される。これら反応器の配列の順序に特に制限は無い。脱揮工程は加熱器付きの真空脱揮槽やベント付き脱揮押出機などで構成される。脱揮工程を出た溶融状態の樹脂は造粒工程へ移送される。造粒工程では、多孔ダイよりストランド状に溶融樹脂を押出し、コールドカット方式や空中ホットカット方式、水中ホットカット方式にてペレット形状に加工される。重合反応器は、1個以上連続して配置されるが、1個の場合は、単独でよく、2個以上の場合は、少なくとも2つは連続的(直列)に配置される。
【0016】
重合反応の制御のため、重合溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤を使用することができる。重合溶媒は、重合速度の調整、分子量の調整、重合溶液の粘性を低下させるために用いるものであり、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等のアルキルベンゼン類やアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が使用できる。重合溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、重合反応器内の組成として、1~50質量%であることが好ましく、3~25質量%の範囲内であることがより好ましい。50質量%を超える場合は、生産性が著しく低下したり、ゴム変性スチレン系樹脂組成物の分子量が過度に低下する場合がある。
【0017】
重合開始剤は、ラジカル重合開始剤が好ましく、公知慣用の例えば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ジ(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシアセテート、t-アミルパーオキシイソノナノエート等のアルキルパーオキサイド類、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ポリエーテルテトラキス(t-ブチルパーオキシカーボネート)等のパーオキシカーボネート類、N,N'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、N,N'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、N,N'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、N,N'-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤は、例えば、脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマー及びテルピノーレン等が挙げられる。
【0018】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物のグラフト率は、2.10~2.40であり、2.15~2.35であることが好ましい。一態様においては、グラフト率は2.10超であることが好ましい。グラフト率が2.10未満では、面衝撃強度や透明性に劣る場合があり、2.40を超えると、シャルピー衝撃強度が低下することがある。グラフト率は、具体的には例えば、2.10,2.15,2.20,2.25,2.30,2.35,2.40であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。グラフト率はゲル分とゴム分より、グラフト率=(ゲル分-ゴム分)/ゴム分によって算出され、単位ゴム分当たりのゴム以外の成分の比を表す。ゴム以外の成分とは、ゴムに結合したスチレン等の成分、グラフトしたスチレン系共重合体、内包したスチレン系共重合体等である。グラフト率は、使用するゴム状重合体の組成や1,2-ビニル結合の含有量、初期に添加する重合開始剤の種類及び添加量、ゴム粒子を形成させる反応器の形式などによって調整することができるが、更に、転相後の重合溶液に添加する重合開始剤の種類及び添加量によっても調整することができる。
【0019】
ゲル分は、分散粒子の含有量を表し、1gのゴム変性スチレン系樹脂組成物を精秤し(質量W)、50%メチルエチルケトン/50%アセトン混合溶液35mlを加えて溶解し、その溶液を遠心分離機(コクサン社製H-2000B(ローター:H))にて、14000rpmで30分間遠心分離して不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去して不溶分を得て、セーフティーオーブンにて90℃で2時間予備乾燥し、更に真空乾燥機にて120℃で1時間真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、乾燥した不溶分の質量Gを測定して、次のように求めることができる。
ゲル分(質量%)=(G/W)×100
なお、デカンテーションにより分離した上澄み液を300mlビーカーに入れ、メタノール250mlを急激に加え、ポリマー分を再沈させ、沈殿したポリマー分をフィルターで吸引ろ過し、フィルター上のポリマーを真空乾燥機にいれて1.5時間以上真空乾燥し、後述の連続相を構成するスチレン系樹脂の単量体単位と重量平均分子量の測定に使用した。
【0020】
ゴム分は、ポリブタジエン成分の場合、ゴム変性スチレン系樹脂組成物をクロロホルムに溶解させ、一定量の一塩化ヨウ素/四塩化炭素溶液を加え、暗所に約1時間放置後、ヨウ化カリウム溶液を加え、過剰の一塩化ヨウ素を0.1Nチオ硫酸ナトリウム/エタノール水溶液で滴定し、付加した一塩化ヨウ素量から求めることができる。
【0021】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物の膨潤比SRは8~12であることが好ましい。膨潤比は分散粒子の架橋度を表しており、8未満では耐衝撃性が低下することがあり、12を超えると外観が悪化することがある。膨潤比SRは、1gのゴム変性スチレン系樹脂を精秤し、トルエン30mlを加え溶解し、その溶液を遠心分離機(コクサン社製H-2000B(ローター:H))にて、14000rpmで30分間遠心分離して不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去してトルエンで膨潤した不溶分の質量Sを測定し、続いてトルエンで膨潤した不溶分をセーフティーオーブンにて90℃で2時間予備乾燥した後、更に真空乾燥機にて120℃で1時間真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、不溶分の乾燥質量Dを測定して、次のように求めることができる。
膨潤比SR=S/D
【0022】
ゴム状重合体を含む分散粒子の粒子径は、0.2~2.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.4~1.5μmである。粒子径が0.2μm未満では、耐衝撃性が低下することがあり、2.0μmを超えると透明性等の外観が悪化することがある。粒子径は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のペレットから超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察を行い、連続相に分散した粒子の画像解析により、約2,000個の粒子の円相当径Diを計測して下記の式により算出した値である。
粒子径=Σni・ Di4/Σni・Di3
粒子径は、使用するゴム状重合体の組成や1,2-ビニル結合の含有量、分散粒子が形成される転相時の反応器攪拌数、転相前に添加される重合開始剤および連鎖移動剤の種類や添加量で調整することができる。
【0023】
連続相を構成するスチレン系共重合体の単量体単位は、スチレン系単量体単位35~75質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体25~65質量%であることが好ましく、より好ましくは、スチレン系単量体単位45~70質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体30~55質量%である。構成単位が上記範囲内であれば、得られるゴム変性スチレン系樹脂組成物の透明性と耐衝撃性や流動性などの物性バランスに優れる。連続相を構成する構成単位は、ゲル分の測定で得られた、ゲル分を除いた上澄み液の再沈物を用い、13C-NMRによって測定した値である。連続相を構成するスチレン系樹脂の単量体単位は、重合に使用する原料の組成によって調整することができる。
【0024】
連続相を構成するスチレン系共重合体の重量平均分子量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物の強度と成形性の観点から、80,000~220,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~180,000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、THF溶媒中で測定されるポリスチレン換算の値であり、ゲル分の測定で得られた、ゲル分を除いた上澄み液の再沈物を用い、次の条件で測定した。
装置名:SYSTEM-21 Shodex(昭和電工社製)
カラム:PL gel MIXED-Bを3本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(PL社製)を用いて作製した。
【0025】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物の2mm厚みの成形体の曇り度は、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。曇り度は、射出成型機(東芝機械社製IS-50EP)を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度60℃の成形条件で成形された縦90mm、横55mm、厚み2mmの鏡面プレートをASTM D1003に準拠しヘーズメータ(日本電色工業社製NDH-1001DP型)を用いて測定した。
【0026】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物の屈折率は、1.53~1.57であることが好ましく、より好ましくは1.54~1.56である。屈折率が上記範囲内であれば、得られるゴム変性スチレン系樹脂組成物の透明性と耐衝撃性や流動性などの物性バランスに優れる。屈折率は2mm厚みの成形品を作製し、アッベ屈折率計を用いて測定することができる。
【0027】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、透明性を損なわない範囲で、ブルーイング剤等の染料、可塑剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系安定剤、帯電防止剤、ステアリン酸等の内部潤滑剤、エチレンビスステアリルアミド等の外部潤滑剤、MS樹脂、MBS樹脂、乳化グラフト共重合体等を添加しても良い。
【0028】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物は公知の成形方法によって成形体とすることができるが、流動性に優れるため、特に射出成形用に使用することが好ましい。
【実施例0029】
以下、詳細な内容について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1~5、比較例1~3)
完全混合型撹拌槽である第1反応器および第2反応器と攪拌翼付塔型プラグフロー型反応器である第3反応器を直列に接続して重合工程を構成した。各反応器の容量は、第1反応器を5L、第2反応器を15L、第3反応器を40Lとした。表1に記載の原料組成にて、原料溶液を作成し、第1反応器に原料溶液を表1に記載の流量にて連続的に供給した。ゴム状重合体は、旭化成社製アサプレン670A(スチレン-ブタジエンゴム、スチレン含有量が40質量%、温度25℃における5質量%スチレン溶液粘度32mPa・s、1,2-ビニル結合の割合13.5モル%)を使用した。重合開始剤及び連鎖移動剤は、第1反応器および第3反応器の入口で表1に記載の添加濃度(原料供給流量に対する質量基準の濃度)となるように原料溶液に添加し、均一混合した添加した。表1中、重合開始剤-1は1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン(日油株式会社製パーヘキサCを使用した。)であり、重合開始剤-2はt-ブチルクミルパーオキサイド(日油株式会社製パーブチルCを使用した。)であり、連鎖移動剤はn-ドデシルメルカプタンである。反応温度は表1記載の温度に槽内温度を調整し、第3反応器では、入口温度130℃から出口温度が165℃となるよう勾配をつけて調整した。続いて、第3反応器より連続的に取り出した重合溶液を予熱器付き真空脱揮槽に導入し、樹脂温度が230℃となるよう予熱器の温度を調整し、脱揮槽内の圧力を1kPaに調整することで、未反応スチレン及びエチルベンゼンを分離した後、多孔ダイよりストランド状に押し出しして、コールドカット方式にて、ストランドを冷却および切断しペレット化したゴム変性スチレン系樹脂組成物を得た。得たゴム変性スチレン系樹脂組成物及びこれに含まれるスチレン系共重合体についての測定及び評価について表2に示す。
【0031】
(ゴム分)
ポリブタジエン成分をゴム分として求めた。ゴム変性スチレン系樹脂組成物をクロロホルムに溶解させ、一定量の一塩化ヨウ素/四塩化炭素溶液を加え、暗所に約1時間放置後、ヨウ化カリウム溶液を加え、過剰の一塩化ヨウ素を0.1Nチオ硫酸ナトリウム/エタノール水溶液で滴定し、付加した一塩化ヨウ素量から求めた。
【0032】
(ゲル分)
1gのゴム変性スチレン系樹脂組成物を精秤し(質量W)、50%メチルエチルケトン/50%アセトン混合溶液35mlを加えて溶解した。その溶液を遠心分離機(コクサン社製H-2000B(ローター:H))にて、14000rpmで30分間遠心分離して不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去して不溶分を得た。その不溶分を、セーフティーオーブンにて90℃で2時間予備乾燥し、更に真空乾燥機にて120℃で1時間真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、乾燥した不溶分の質量Gを測定した。G及びWを用いて、次の式に基づきゲル分を算出した。
ゲル分(質量%)=(G/W)×100
【0033】
(グラフト率)
グラフト率は次の式に基づき算出した。
グラフト率=(ゲル分-ゴム分)/ゴム分
【0034】
(膨潤比SR)
膨潤比SRは、1gのゴム変性スチレン系樹脂を精秤し、トルエン30mlを加え溶解し、その溶液を遠心分離機(コクサン社製H-2000B(ローター:H))にて、14000rpmで30分間遠心分離して不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去してトルエンで膨潤した不溶分の質量Sを測定し、続いてトルエンで膨潤した不溶分をセーフティーオーブンにて90℃で2時間予備乾燥した後、更に真空乾燥機にて120℃で1時間真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、不溶分の乾燥質量Dを測定して、次の式に基づき算出した。
膨潤比SR=S/D
【0035】
(ゴム粒子径)
粒子径は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のペレットから超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察を行い、連続相に分散した粒子の画像解析により、約2,000個の粒子の円相当径Diを計測して下記の式により算出した。
粒子径=Σni・ Di4/Σni・Di3
【0036】
(屈折率)
屈折率は2mm厚みの成形品を作製し、JIS K 7142に準じてアッベ屈折率計を用いて測定した。
【0037】
(重量平均分子量)
連続相を構成するスチレン系共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、THF溶媒中で測定されるポリスチレン換算の値として、ゲル分の測定で得られた、ゲル分を除いた上澄み液の再沈物を用い、次の条件で測定した。
装置名:SYSTEM-21 Shodex(昭和電工社製)
カラム:PL gel MIXED-Bを3本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(PL社製)を用いて作製した。
【0038】
再沈物は、上記ゲル分の測定において、デカンテーションにより分離した上澄み液を300mlビーカーに入れ、メタノール250mlを急激に加え、ポリマー分を再沈させ、沈殿したポリマー分をフィルターで吸引ろ過し、フィルター上のポリマーを真空乾燥機にいれて1.5時間以上真空乾燥したものを使用した。
【0039】
(スチレン含有量・MMA含有量)
連続相を構成する構成単位である、スチレン単量体単位の含有量(スチレン含有量)及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の含有量(MMA含有量)は、ゲル分の測定で得られた、ゲル分を除いた上澄み液の再沈物を用い、13C-NMRによって測定した。再沈物については、(重量平均分子量)における再沈物と同様である。
【0040】
【0041】
(メルトマスフローレイト)
メルトマスフローレイトは、JIS K7210に基づき、200℃、49N荷重にて測定した。
【0042】
(曇り度)
射出成型機(東芝機械社製IS-50EP)を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度60℃の成形条件で成形された縦90mm、横55mm、厚み2mmの鏡面プレートをASTM D1003に準拠しヘーズメータ(日本電色工業社製NDH-1001DP型)を用いてHazeを測定した。
【0043】
(シャルピー衝撃強さ)
シャルピー衝撃強さは、JIS K7111-1に基づき、ノッチあり試験片を用い、打撃方向はエッジワイズを採用して測定した。なお、測定機は東洋精機製作所社製デジタル衝撃試験機を使用した。
【0044】
(面衝撃強度)
射出成型機(東芝機械社製IS-55EPN)を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度60℃、射出速度70%の成形条件で成形された縦90mm、横90mm、厚み2mmの試験片(フィルムゲート)を用い、島津製作所製の高速パンクチャー衝撃試験機(HITS-PX)で面衝撃試験を実施した。23℃、ストライカー径12.7mm(ASTM D3763)、ピストン速度5m/secの条件で、クランプに固定した試験片の中央部分に衝撃を加えて破壊し、最大衝撃点に達するまでに吸収したエネルギーを面衝撃強度とした。
【0045】
(曲げ弾性率)
曲げ弾性率は、JIS K7171に基づき、曲げ速度2mm/minで測定した。
【0046】
【0047】
表2の結果より、実施例のゴム変性スチレン系樹脂組成物は透明性、面衝撃強度及びシャルピー衝撃強さに優れる。
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物により、透明で耐衝撃性に優れた成形体が得られる。また、流動性に優れることから、特に射出成形用に適しており、面衝撃強度に優れることから家電製品の筐体等に使用することができる。