(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165729
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】通信中継装置、システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/28 20090101AFI20221025BHJP
H04W 84/06 20090101ALI20221025BHJP
H04B 7/185 20060101ALI20221025BHJP
H04B 7/06 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H04W16/28
H04W84/06
H04B7/185
H04B7/06 152
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071194
(22)【出願日】2021-04-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、「HAPSを利用した無線通信システムに係る周波数有効利用技術に関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】田代 晃司
(72)【発明者】
【氏名】星野 兼次
(72)【発明者】
【氏名】長手 厚史
【テーマコード(参考)】
5K067
5K072
【Fターム(参考)】
5K067AA03
5K067EE02
5K067EE08
5K067KK02
5K067KK03
5K072DD06
5K072DD13
5K072DD17
(57)【要約】
【課題】上空滞在型の通信中継装置から地上又は海上にビームを向けて形成した第1セル内に配置された干渉抑圧対象に対するビーム干渉を抑圧する。
【解決手段】通信中継装置は、地上又は海上に向けて第1セルを形成し、前記第1セルに在圏する複数の端末装置との間で無線通信を行う。通信中継装置は、第1セルにおいて複数のビームからなるビームパターンを形成する複数のアンテナ素子を有するアレーアンテナと、アレーアンテナよりも低い位置に配置された干渉抑圧対象のアンテナの位置情報に基づいて、アレーアンテナによって形成されるビームパターンのヌルが干渉抑圧対象のアンテナに向くようにビームフォーミングを制御し、複数の端末装置との間の下りリンクの通信を行う。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上又は海上に向けて第1セルを形成し、前記第1セルに在圏する複数の端末装置との間で無線通信を行う上空滞在型の通信中継装置であって、
前記第1セルにおいて複数のビームからなるビームパターンを形成する複数のアンテナ素子を有するアレーアンテナと、
前記アレーアンテナよりも低い位置に配置された干渉抑圧対象のアンテナの位置情報に基づいて、前記アレーアンテナによって形成される前記ビームパターンのヌルが前記干渉抑圧対象のアンテナに向くようにビームフォーミングを制御し、前記複数の端末装置との間の下りリンクの通信を行う手段と、
を備えることを特徴とする通信中継装置。
【請求項2】
請求項1の通信中継装置において、
前記第1セルに在圏して当該通信中継装置に接続する複数の端末装置のそれぞれに向いた複数のビームを形成し、かつ、前記ビームパターンのヌルが前記干渉抑圧対象のアンテナに向くようにビームフォーミングを制御する、ことを特徴とする通信中継装置。
【請求項3】
請求項2の通信中継装置において、
前記複数の端末装置のチャネル状態情報に基づいて、前記複数の端末装置との間の下りリンクの通信に用いる複数の無線リソースを割り当てる無線リソース割当部と、
前記複数の無線リソースのそれぞれについて、複数の端末装置のそれぞれに向いた複数のビームを形成し、かつ、前記ビームパターンのヌルが前記干渉抑圧対象のアンテナに向くようにビームフォーミング制御を行い、周波数領域の送信信号を生成する複数の周波数領域のビームフォーミング制御部と、
を備えることを特徴とする通信中継装置。
【請求項4】
請求項2の通信中継装置において、
前記複数の端末装置のチャネル状態情報に基づいて、前記複数の端末装置との間の下りリンクの通信に用いる複数の無線リソースを割り当てる無線リソース割当部と、
前記複数の無線リソースのそれぞれについて、複数の端末装置のそれぞれに向いた複数のビームを形成するようにビームフォーミング制御を行い、周波数領域の送信信号を生成する複数の周波数領域のビームフォーミング制御部と、
前記複数の無線リソースの全体について、前記ビームパターンのヌルが前記干渉抑圧対象のアンテナに向くようにビームフォーミング制御を行い、前記周波数領域の送信信号から変換された時間領域の送信信号を生成する時間領域のビームフォーミング制御部と、
を備えることを特徴とする通信中継装置。
【請求項5】
請求項3又は4の通信中継装置において、
前記周波数領域のビームフォーミング制御部は、
前記アレーアンテナと前記干渉抑圧対象のアンテナのとの間のチャネル行列を生成し、
前記チャネル行列に基づいて、前記複数の無線リソースのそれぞれについて前記ビームフォーミングのウェイトを計算し、
前記複数の端末装置のそれぞれについて、前記端末装置に割り当てられた無線リソースと、当該無線リソースについて計算された前記ビームフォーミングのウェイトとに基づいて、周波数領域の下りリンク信号を生成する、
ことを特徴とする通信中継装置。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかの通信中継装置において、
前記複数の端末装置に向けた前記複数のビームが互いに無干渉となるように、かつ、前記複数のビームのそれぞれが前記基地局アンテナに対して無干渉になるように、前記ビームフォーミングを制御する、ことを特徴とする通信中継装置。
【請求項7】
請求項2乃至5のいずれかの通信中継装置において、
前記端末装置のSINRが最大になるように、前記ビームフォーミングを制御する、ことを特徴とする通信中継装置。
【請求項8】
請求項2乃至5のいずれかの通信中継装置において、
前記複数の端末装置に向けた前記複数のビームのそれぞれが前記基地局アンテナに対して無干渉になる条件の下で、前記端末装置のSINRが最大になるように、前記ビームフォーミングを制御する、ことを特徴とする通信中継装置。
【請求項9】
請求項2乃至5のいずれかの通信中継装置において、
前記複数の端末装置のそれぞれにビームを向ける第1のビームフォーミング制御と、前記ビームパターンのヌルを前記基地局アンテナに向ける第2のビームフォーミング制御とを互いに独立に行う、ことを特徴とする通信中継装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかの通信中継装置において、
前記干渉抑圧対象のアンテナは、前記アレーアンテナよりも低い位置に配置され前記第1セルと同一の周波数帯を用いて前記第1セル内に第2セルを形成する低位置の基地局アンテナである、ことを特徴とする通信中継装置。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかの通信中継装置において、
前記干渉抑圧対象のアンテナは、前記アレーアンテナよりも低い位置に配置された電波天文観測局のアンテナである、ことを特徴とする通信中継装置。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれかの通信中継装置と、前記通信中継装置との間でMU-MIMOの無線通信を行う端末装置と、を備えることを特徴とするシステム。
【請求項13】
地上又は海上に向けて第1セルにおいて複数のビームからなるビームパターンを形成する複数のアンテナ素子を有するアレーアンテナを介して、前記第1セルに在圏する複数の端末装置との間で無線通信を行う上空滞在型の通信中継装置に設けられたコンピュータ又はプロセッサで実行されるプログラムであって、
前記アレーアンテナよりも低い位置に配置された干渉抑圧対象のアンテナの位置情報に基づいて、前記アレーアンテナによって形成される前記ビームパターンのヌルが前記干渉抑圧対象のアンテナに向くようにビームフォーミングを制御し、前記複数の端末装置との間の下りリンクの通信を行うためのプログラムコード、
を含むことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上空滞在型の通信中継装置で形成する広域のセルにおける干渉の抑圧に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空中に浮揚して滞在可能な高高度プラットフォーム局(HAPS)(「高高度疑似衛星」ともいう。)等の上空滞在型の通信中継装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、HAPS等の上空滞在型の通信中継装置と、その上空滞在型の通信中継装置で形成されるセル内に位置する複数の端末装置(以下「UE」ともいう。)との間の通信として、massive MIMO(以下「mMIMO」ともいう。)伝送方式の通信が知られている。mMIMOは、多数のアンテナ素子を有するアレーアンテナを用いてデータ送受信を行うことにより大容量・高速通信を実現する無線伝送技術である。また、複数のUEのそれぞれに対して同時にビームフォーミングを行う伝送方式は、「MU(Multi User)-MIMO」とも呼ばれる。多素子のアレーアンテナを用いてMU-MIMO伝送を行うことにより、各UEの通信環境に応じてUEごとに適切なビームを向けて通信できるため、セル全体の通信品質を改善できる。また、同一の無線リソース(時間・周波数リソース)を用いて複数のUEとの通信ができるため、システム容量を拡大することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0046387号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記上空滞在型の通信中継装置と地上の複数のUEとの間でMU-MIMOの通信を行うために多素子のアレーアンテナを利用してUEごとに高利得のビームを向ける必要があるが、高利得のビームは、当該セル内にアンテナが位置する既存の地上基地局及び地上基地局に接続するUEを含む地上セルに対する干渉となる、という課題がある。なお、同様な課題は、上記上空滞在型の通信中継装置からのビーム干渉を抑圧する対象(以下「干渉抑圧対象」という。)が地上セル(地上基地局、UE)以外(例えば、電波天文観測局)の場合に発生し得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る通信中継装置は、地上又は海上に向けて第1セルを形成し、前記第1セルに在圏する複数の端末装置との間で無線通信を行う上空滞在型の通信中継装置である。この通信中継装置は、前記第1セルにおいて複数のビームからなるビームパターンを形成する複数のアンテナ素子を有するアレーアンテナと、前記アレーアンテナよりも低い位置に配置された干渉抑圧対象のアンテナの位置情報に基づいて、前記アレーアンテナによって形成される前記ビームパターンのヌルが前記干渉抑圧対象のアンテナに向くようにビームフォーミングを制御し、前記複数の端末装置との間の下りリンクの通信を行う手段と、を備える。
【0006】
前記通信中継装置において、前記第1セルに在圏して当該通信中継装置に接続する複数の端末装置のそれぞれに向いた複数のビームを形成し、かつ、前記ビームパターンのヌルが前記干渉抑圧対象のアンテナに向くようにビームフォーミングを制御してもよい。
【0007】
前記通信中継装置において、前記複数の端末装置のチャネル状態情報に基づいて、前記複数の端末装置との間の下りリンクの通信に用いる複数の無線リソースを割り当てる無線リソース割当部と、前記複数の無線リソースのそれぞれについて、複数の端末装置のそれぞれに向いた複数のビームを形成し、かつ、前記ビームパターンのヌルが前記干渉抑圧対象のアンテナに向くようにビームフォーミング制御を行い、周波数領域の送信信号を生成する複数の周波数領域のビームフォーミング制御部と、を備えてもよい。
【0008】
前記通信中継装置において、前記複数の端末装置のチャネル状態情報に基づいて、前記複数の端末装置との間の下りリンクの通信に用いる複数の無線リソースを割り当てる無線リソース割当部と、前記複数の無線リソースのそれぞれについて、複数の端末装置のそれぞれに向いた複数のビームを形成するようにビームフォーミング制御を行い、周波数領域の送信信号を生成する複数の周波数領域のビームフォーミング制御部と、前記複数の無線リソースの全体について、前記ビームパターンのヌルが前記干渉抑圧対象のアンテナに向くようにビームフォーミング制御を行い、前記周波数領域の送信信号から変換された時間領域の送信信号を生成する時間領域のビームフォーミング制御部と、を備えてよい、
【0009】
前記通信中継装置において、前記周波数領域のビームフォーミング制御部は、前記アレーアンテナと前記干渉抑圧対象のアンテナのとの間のチャネル行列を生成し、前記チャネル行列に基づいて、前記複数の無線リソースのそれぞれについて前記ビームフォーミングのウェイトを計算し、前記複数の端末装置のそれぞれについて、前記端末装置に割り当てられた無線リソースと、当該無線リソースについて計算された前記ビームフォーミングのウェイトとに基づいて、周波数領域の下りリンク信号を生成してもよい。
【0010】
前記通信中継装置において、前記複数の端末装置に向けた前記複数のビームが互いに無干渉となるように、かつ、前記複数のビームのそれぞれが前記基地局アンテナに対して無干渉になるように、前記ビームフォーミングを制御してもよい。
【0011】
前記通信中継装置において、前記端末装置のSINRが最大になるように、前記ビームフォーミングを制御してもよい。
【0012】
前記通信中継装置において、前記複数の端末装置に向けた前記複数のビームのそれぞれが前記基地局アンテナに対して無干渉になる条件の下で、前記端末装置のSINRが最大になるように、前記ビームフォーミングを制御してもよい。
【0013】
前記通信中継装置において、前記複数の端末装置のそれぞれにビームを向ける第1のビームフォーミング制御と、前記ビームパターンのヌルを前記基地局アンテナに向ける第2のビームフォーミング制御とを互いに独立に行ってもよい。
【0014】
前記通信中継装置において、前記干渉抑圧対象のアンテナは、前記アレーアンテナよりも低い位置に配置され前記第1セルと同一の周波数帯を用いて前記第1セル内に第2セルを形成する低位置の基地局アンテナであってもよいし、又は、前記アレーアンテナよりも低い位置に配置された電波天文観測局のアンテナであってもよい。
【0015】
本発明の他の態様に係るシステムは、前記いずれかの通信中継装置と、前記通信中継装置との間でMU-MIMOの無線通信を行う端末装置と、を備える。
【0016】
本発明の更に他の態様に係るプログラムは、地上又は海上に向けて第1セルにおいて複数のビームからなるビームパターンを形成する複数のアンテナ素子を有するアレーアンテナを介して、前記第1セルに在圏する複数の端末装置との間で無線通信を行う上空滞在型の通信中継装置に設けられたコンピュータ又はプロセッサで実行されるプログラムである。このプログラムは、前記アレーアンテナよりも低い位置に配置された干渉抑圧対象のアンテナの位置情報に基づいて、前記アレーアンテナによって形成される前記ビームパターンのヌルが前記干渉抑圧対象に向くようにビームフォーミングを制御し、前記複数の端末装置との間の下りリンクの通信を行うためのプログラムコードを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上空滞在型の通信中継装置から地上又は海上に向けて形成した第1セル内に配置された干渉抑圧対象に対するビーム干渉を抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係るHAPSを含む通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図。
【
図4】実施形態のHAPSのサービスリンクのアレーアンテナの一例を示す斜視図。
【
図5】実施形態のHAPSのサービスリンクのアレーアンテナの他の例を示す斜視図。
【
図6】HAPSのアレーアンテナを用いたMU-MIMOにおけるビームフォーミングを実施する場合の課題を示す説明図。
【
図7】実施形態に係るHAPSのアレーアンテナを用いたMU-MIMOにおけるビームフォーミングの一例を示す説明図。
【
図8】実施形態に係るHAPSにおける各UEに対する下りリンク通信の無線リソースの割り当ての一例を示す説明図。
【
図9】実施形態に係るHAPSの中継通信局と同一無線リソースが割り当てられた複数のUEとの間の下りリンク通信の通信モデルの一例を示す説明図。
【
図10】実施形態に係るビームフォーミング制御におけるZF型ビームフォーミング方式の一例を示す説明図。
【
図11】実施形態に係るビームフォーミング制御におけるMMSE型ビームフォーミング方式の一例を示す説明図。
【
図12】実施形態に係るビームフォーミング制御におけるハイブリッド型ビームフォーミング方式の一例を示す説明図。
【
図13】実施形態に係るビームフォーミング制御におけるセパレート型ビームフォーミング方式の一例を示す説明図。
【
図14】実施形態に係るHAPSの中継通信局の主要構成の一例を示すブロック図。
【
図15】
図14の中継通信局における基地局処理部の主要構成の一例を示すブロック図。
【
図16】
図15の基地局処理部におけるフルデジタルBFの場合の無線リソース割り当ての一例を示す説明図。
【
図17】
図14の中継通信局における基地局処理部の主要構成の他の例を示すブロック図。
【
図18】
図17の基地局処理部におけるハイブリッドBFの場合の無線リソース割り当ての一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本書に記載された実施形態に係るシステムは、地上又は海上に向けてセルを形成し、セルに在圏する複数の端末装置(UE)との間で、多素子のアレーアンテナを用いてMU-MIMO通信を行う上空滞在型の通信中継装置(HAPS)を備え、HAPSセル(第1セル)内に同一周波数帯を用いる既存の地上基地局で形成される地上セル(第2セル)や電波天文観測局等の干渉抑圧対象が位置する場合に、HAPSから地上セル(地上基地局及び地上基地局に接続するUE)等の干渉抑圧対象への干渉を抑圧することができる通信システム(HAPSシステム)である。本実施形態に係る通信システムは、多数の端末装置への同時接続や低遅延化などに対応する第5世代等の次世代の移動通信の3次元化ネットワークの実現に適する。
【0020】
図1は、実施形態に係るHAPS(上空滞在型の通信中継装置)を含む通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図である。
図1において、本実施形態の通信システム(以下「HAPSシステム」ともいう。)は、上空滞在型の通信中継装置(無線中継装置)としての高高度プラットフォーム局(HAPS)、(「高高度疑似衛星」、「成層圏プラットフォーム」ともいう。)10を備えている。HAPS10は、所定高度の空域に位置して第1セルとしての3次元セル(以下「HAPSセル」ともいう。)100Cを形成する。HAPS10は、自律制御又は外部からの制御により地面又は海面から所定高度の空域(浮揚空域)に浮遊あるいは飛行して位置するように制御される浮揚体(例えば、ソーラープレーン、飛行船、ドローン、気球)に、中継通信局が搭載されたものである。なお、上空滞在型の通信中継装置は、人工衛星に中継通信局が搭載されたものであってもよい。また、本実施形態の通信システムは、HAPS10が通信する一又は複数の端末装置を含んでもよいし、後述のゲートウェイ局(フィーダ局)を含んでもよい。
【0021】
HAPS10が位置する空域は、例えば、地上(又は海や湖などの水上)の高度が11[km]以上及び50[km]以下の成層圏の空域である。この空域は、気象条件が比較的安定している高度15[km]以上25[km]以下の空域であってもよく、特に高度がほぼ20[km]の空域であってもよい。
【0022】
HAPSは一般的な人工衛星の飛行高度よりも低く、地上や海上の基地局よりも高い場所を飛行するため、衛星通信よりも小さい伝搬ロスでありながら、高い見通し率を確保できる。この特徴から、HAPSから地上又は海上のセルラ携帯端末等のユーザ装置である端末装置(移動局)61に対して通信サービスを提供することも可能である。通信サービスをHAPSから提供することで、これまで多数の地上又は海上の基地局でカバーされていた広いエリアを少数のHAPSで一度にカバーできるため、低コストで安定した通信サービスを提供できるメリットがある。
【0023】
HAPS10の中継通信局は、利用者の端末装置(以下「UE」(ユーザ装置)という。)と無線通信するためのビームを地面(又は海面)に向けて形成することにより、UE61と無線通信可能なHAPSセル100Cを形成する。このHAPSセル100Cの地上(又は海上)におけるフットプリント100Fからなるサービスエリア100Aの半径は、例えば数10[km]~100[km]である。
【0024】
なお、本実施形態において、HAPS10の中継通信局は、複数の3次元セル(例えば、3セル又は7セル)を形成し、その複数の3次元セルの地上(又は海上)における複数のフットプリントからなるサービスエリア100Aを形成してもよい。
【0025】
本実施形態の通信システムは、上空滞在型の通信中継装置であるHAPS10と地上又は海上に位置する干渉抑圧対象であるセルを形成する低位置の基地局(以下「地上基地局」という。)30が混在した環境になっている。
図1の例では、HAPSセル100Cの内側に複数の低位置の地上基地局30のアンテナ(以下「基地局アンテナ」ともいう。)が位置し、3次元なセル100Cのフットプリント100Fからなるサービスエリア100Aの内側に、セル100Cのフットプリント100Fよりも小さい地上基地局30のセル(以下「地上セル」という。)300Cが形成される。HAPS10と地上基地局(例えばeNodeB、gNodeB)30はそれぞれ、自局のセル100C、300Cに在圏するUE61,65との間のサービスリンクの無線通信に同一の周波数帯を用いる。地上基地局30は、基地局アンテナを有するRRH(遠隔無線ヘッド)とBBU(ベースバンドユニット)とを光回線で接続した構成であってもよい。この場合、
図1中の基地局30の位置に、基地局アンテナを有するRRHが位置する。
【0026】
HAPS10の中継通信局は、例えば、地上(又は海上)側の移動通信網80のコアネットワークに接続され上空を向いたアンテナ71を有する中継局としてのゲートウェイ局(「フィーダ局」ともいう。)70と無線通信する基地局(例えば、eNodeB、gNodeB)である。HAPS10の中継通信局は、地上又は海上に設置されたフィーダ局70を介して、移動通信網80のコアネットワークに接続されている。HAPS10とフィーダ局70との間の通信は、マイクロ波などの電波による無線通信で行ってもよいし、レーザ光などを用いた光通信で行ってもよい。
【0027】
HAPS10は、内部に組み込まれたコンピュータ等で構成された制御部が制御プログラムを実行することにより、自身の浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理を自律制御してもよい。例えば、HAPS10はそれぞれ、自身の現在位置情報(例えばGPS位置情報)、予め記憶した位置制御情報(例えば、飛行スケジュール情報)、周辺に位置する他のHAPSの位置情報などを取得し、それらの情報に基づいて浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理を自律制御してもよい。
【0028】
また、HAPS10の浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理は、移動通信網80の通信センター等に設けられた管理装置としての管理装置(「遠隔制御装置」ともいう。)によって制御できるようにしてもよい。管理装置は、例えば、PCなどのコンピュータ装置やサーバ等で構成することができる。この場合、HAPS10は、管理装置からの制御情報を受信したり管理装置に監視情報などの各種情報を送信したりできるように制御用通信端末装置(例えば、移動通信モジュール)が組み込まれ、管理装置から識別できるように端末識別情報(例えば、IPアドレス、電話番号など)が割り当てられるようにしてもよい。制御用通信端末装置の識別には通信インターフェースのMACアドレスを用いてもよい。また、HAPS10は、自身又は周辺のHAPSの浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理に関する情報、HAPS10の状態に関する情報や各種センサなどで取得した観測データなどの監視情報を、管理装置等の所定の送信先に送信するようにしてもよい。制御情報は、HAPSの目標飛行ルート情報を含んでもよい。監視情報は、HAPS10の現在位置、飛行ルート履歴情報、対気速度、対地速度及び推進方向、HAPS10の周辺の気流の風速及び風向、並びに、HAPS10の周辺の気圧及び気温の少なくとも一つの情報を含んでもよい。
【0029】
図2は、実施形態の通信システムに用いられるHAPS10の一例を示す斜視図である。
図2のHAPS10は、ソーラープレーンタイプのHAPSであり、長手方向の両端部側が上方に反った主翼部101と、主翼部101の短手方向の一端縁部にバス動力系の推進装置としての複数のモータ駆動のプロペラ103とを備える。主翼部101の上面には、太陽光発電機能を有する太陽光発電部としての太陽光発電パネル(以下「ソーラーパネル」という。)102が設けられている。また、主翼部101の下面の長手方向の2箇所には、板状の連結部104を介して、ミッション機器が収容される複数の機器収容部としてのポッド105が連結されている。各ポッド105の内部には、ミッション機器としての中継通信局110と、バッテリー106とが収容されている。また、各ポッド105の下面側には離発着時に使用される車輪107が設けられている。ソーラーパネル102で発電された電力はバッテリー106に蓄電され、バッテリー106から供給される電力により、プロペラ103のモータが回転駆動され、中継通信局110による無線中継処理が実行される。
【0030】
図3は、実施形態の通信システムに用いられるHAPS10の他の例を示す斜視図である。
図3のHAPS10は、無人飛行船タイプのHAPSであり、ペイロードが大きいため大容量のバッテリーを搭載することができる。HAPS10は、浮力で浮揚するためのヘリウムガス等の気体が充填された飛行船本体201と、バス動力系の推進装置としてのモータ駆動のプロペラ202と、ミッション機器が収容される機器収容部203とを備える。機器収容部203の内部には、中継通信局110とバッテリー204とが収容されている。バッテリー204から供給される電力により、プロペラ202のモータが回転駆動され、中継通信局110による無線中継処理が実行される。なお、飛行船本体201の上面に、太陽光発電機能を有するソーラーパネルを設け、ソーラーパネルで発電された電力をバッテリー204に蓄電するようにしてもよい。
【0031】
なお、以下の実施形態では、UE61と無線通信する上空滞在型の通信中継装置が、
図2のソーラープレーンタイプのHAPS10及び無人飛行船タイプのHAPS20のいずれの一方の場合について図示して説明するが、上空滞在型の通信中継装置は
図3の無人飛行船タイプのHAPS10でもよい。また、以下の実施形態は、HAPS10以外の他の上空滞在型の通信中継装置にも同様に適用できる。
【0032】
また、HAPS10とフィーダ局としてのゲートウェイ局(以下「GW局」と略す。)70との間のリンクFL(F),FL(R)を「フィーダリンク」といい、HAPS10とUE61の間のリンクを「サービスリンク」という。特に、HAPS10とGW局70との間の区間を「フィーダリンクの無線区間」という。また、GW局70からHAPS10を経由してUE61に向かう通信の下りリンクを「フォワードリンク」FL(F)といい、UE61からHAPS10を経由してGW局70に向かう通信のアップリンクを「リバースリンク」FL(R)ともいう。
【0033】
本実施形態の通信システムにおいて、地上基地局30とUE65との無線通信の上りリンク及び下りリンクの複信方式は、特定の方式に限定されず、例えば、時分割複信(Time Division Duplex:TDD)方式でもよいし、周波数分割複信(Frequency Division Duplex:FDD)方式でもよい。また、地上基地局30とUE65との無線通信のアクセス方式は、特定の方式に限定されず、例えば、FDMA(Frequency Division Multiple Access)方式、TDMA(Time Division Multiple Access)方式、CDMA(Code Division Multiple Access)方式、又は、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)であってもよい。
【0034】
同様に、中継通信局110を介したUE61との無線通信の上りリンク及び下りリンクの複信方式は、特定の方式に限定されず、例えば、時分割複信(TDD)方式でもよいし、周波数分割複信(FDD)方式でもよい。また、中継通信局110を介したUE61との無線通信のアクセス方式は、特定の方式に限定されず、例えば、FDMA方式、TDMA方式、CDMA方式、又は、OFDMAであってもよい。
【0035】
また、本実施形態のサービスリンクの無線通信には、ダイバーシティ・コーディング、送信ビームフォーミング、空間分割多重化(SDM:Spatial Division Multiplexing)等の機能を有し、多数のアンテナ素子を有するアレーアンテナを用いてマルチレイヤ伝送を行うmassive MIMO(多入力多出力:Multiple-Input Multiple-Output)伝送方式を用いている。特に、本実施形態では、HAPS10の中継通信局からセル内の複数のUE61への下りリンク通信において、複数の異なるUE61に同一時刻・同一周波数で信号を送信するMU-MIMO(Multi-User MIMO)技術を用いている。多数のアンテナ素子を有するアレーアンテナを用いてMU-MIMO伝送を行うことにより、各UE61の通信環境に応じてUE61ごとに適切なビームを向けて通信できるため、セル全体の通信品質を改善できる。また、同一の無線リソース(時間・周波数リソース)を用いて複数のUE61との通信ができるため、システム容量を拡大することができる。
【0036】
図4及び
図5はそれぞれ、本実施形態のHAPS10におけるMU-MIMO伝送方式に用いることができる多素子で構成されるアレーアンテナ130の一例を示す斜視図である。
【0037】
図4のアレーアンテナ130は、平板状のアンテナ基体を有し、そのアンテナ基体の平面状のアンテナ面に沿って多数のパッチアンテナなどのアンテナ素子130aが互いに直交する軸方向に二次元的に配列された平面型のアレーアンテナである。
【0038】
図5のアレーアンテナ130は、円筒状又は円柱状のアンテナ基体を有し、そのアンテナ基体の第1アンテナ面としての円周側面の軸方向及び周方向のそれぞれに沿って多数のパッチアンテナなどのアンテナ素子130aが配置されたシリンダー型のアレーアンテナである。
図5のアレーアンテナ130では、図示のように、第2アンテナ面としての底面に沿って複数のパッチアンテナなどのアンテナ素子130aが円形状に配置されていてもよい。また、
図5におけるアンテナ基体は、多角筒状又は多角円柱状のアンテナ基体であってもよい。
【0039】
なお、アレーアンテナ130の形状、並びに、アンテナ素子の数、種類及び配置は、
図4及び
図5に例示したものに限定されない。
【0040】
図6は、HAPS10のアレーアンテナ130を用いたMU-MIMO伝送方式におけるビームフォーミングを実施する場合の課題を示す説明図である。
図6のHAPS10のアレーアンテナ130とサービスエリア100A(セル100Cのフットプリント100F)との間のサービスリンクSLにおいて、MU-MIMO伝送方式を用いて、各UE61の通信環境に応じて、各UE61(1)~61(4)に対して個別に適切な高利得のビーム100B(1)~100B(4)を向けて長距離の伝搬損失を補って通信するビームフォーミングを行うことにより、通信品質を改善することができる。特に、サービスリンクSLにおいて同一の無線リソース(例えば、同一の時間・周波数のリソースブロック(RB))を用いて複数のUE61と通信するMU-MIMO伝送方式を用いた場合は、システム容量を改善することができる。
【0041】
しかしながら、
図6のようにHAPS10と地上基地局30(1),30(2)が混在した環境において、HAPS10及び地上基地局30(1),30(2)が同一の周波数帯を利用して各セルに在圏するUE61,65と同時に通信を行う場合、HAPS10から送信した下りリンクの無線送信信号は、地上基地局30(1),30(2)と地上セル300C(1),300C(2)に在圏するUE65(1),65(2)との間のサービスリンクの通信(以下「地上システムの通信」ともいう。)に対する干渉となるおそれがある。このHAPS10からの干渉が発生すると、地上基地局30(1),30(2)とUE65との間の通信のスループットが大きく低下する。
【0042】
そこで、本実施形態では、HAPS10において、地上基地局の基地局アンテナの位置情報に基づいて、HAPSセル内に位置する地上基地局(アンテナ)に対してビームパターン(ビームの空間分布のプロファイル)のヌルが向くようにHAPSセルのビームフォーミング制御を行っている。これにより、HAPSセルに在圏する複数のUE61のそれぞれに対してマルチビームによって所望信号を送信する通信品質の大きな低下を発生させることなく、HAPS10が地上システムの通信に与える干渉を抑圧している。
【0043】
図7は、実施形態に係るHAPSのアレーアンテナを用いたMU-MIMOにおけるビームフォーミングの一例を示す説明図である。
図7の例では、HAPSセル100C内に位置する複数の地上基地局(アンテナ)30(1),30(2)のそれぞれに対してビームパターン(ビームの空間分布のプロファイル)のヌルが向くようにHAPS10側でビームフォーミング制御を行っている。これにより、HAPS10が地上基地局(アンテナ)30(1),30(2)のそれぞれの地上システムの通信に与える干渉を送信側で抑圧することができるので、地上基地局30(1),30(2)と地上セル300C(1),300C(2)内のUE65(1),65(2)は正常に通信することができる。また、HAPSセルに在圏する複数のUE61(1)~61(4)のそれぞれに所望信号を送信するマルチビームは維持されるため、HAPS10から複数のUE61(1)~61(4)への下りリンク通信の通信品質の大きな低下は発生しない。
【0044】
以下、本実施形態に係るHAPS10から複数のUE61(1)~61(4)への下りリンク通信における上記ビームパターンのヌルが地上基地局の方向に向くように行うビームフォーミング制御の実施例について説明する。
【0045】
本実施形態のHAPS10によるビームフォーミング制御を伴う下りリンク通信の処理フローは、例えば次のステップ0~ステップ3の手順で行うことができる。
ステップ0:準備処理
ステップ1:チャネル行列生成処理
ステップ2:ウェイト計算処理
ステップ3:下りリンク通信処理
【0046】
上記準備処理(ステップ0)では、HAPS10が下りリンク通信を行うHAPSセル100C内の全UE(全ユーザ)61のチャネル状態情報(CSI)を取得又は推定し、その取得結果又は推定結果に基づいて、各UE(各ユーザ)61に対する無線リソースの割り当てを行う。例えば、
図8に示すように、HAPSセル100Cに在圏するすべてのUE61を、各UE61のCSIに基づいて、Nu個のUE(ユーザ)ごとにK個のグループに分割する。ここで、同一の無線リソースを割り当てる同一グループに属するUE(ユーザ)は、例えばHAPS10からの方向が異なるように選択される。また、Nuは、MU-MIMO伝送を行う際に同一の無線リソース(同一のRB)に割り当てるUE61の数(無線リソースあたりのUE数(ユーザ数))である。Nuの値は、各無線リソースとも同数であってもよいし、無線リソースごとに異なってもよい。
【0047】
上記チャネル行列生成処理(ステップ1)では、例えば後述の方法により、各地上基地局30(1),30(2)の位置情報に基づいて、HAPS10と各地上基地局30(1),30(2)との間のチャネル行列HBSが生成される。
【0048】
上記ウェイト計算処理(ステップ2)では、例えば後述の複数の方法のいずれかにより、上記各地上基地局30(1),30(2)との間のチャネル行列HBSと、後述の通信モデルに基づいて無線リソースごとに決定されるUE(HAPSユーザ)61との間のチャネル行列Hとを用いて、各無線リソースにおいてビームフォーミング制御に用いるウェイト(以下「BFウェイト」ともいう。)を計算する。
【0049】
上記下りリンク通信処理(ステップ3)では、上記BFウェイトを用いて実施したビームフォーミング制御によって形成されるビームパターンの複数のビームにより、HAPSセル10内の各UE61との間で下りリンク通信を行う。
【0050】
[チャネル行列HBSの生成]
上記HAPS10と各地上基地局30との間のチャネル行列HBSは、例えば、HAPS10自体の位置に関する位置情報を有するとともに、HAPS10が地上基地局(基地局アンテナ)の位置に関する位置情報を有している又は当該位置を推定可能であることを前提として、例えば次のステップ1-1~1-2の手順で生成することができる。なお、HAPS10が上空の所定位置に滞在する場合や一定の飛行ルートを周回飛行する場合は、生成したチャネル行列HBSを保存し、複数回の下りリンク通信のビームフォーミング制御で使いまわすようにしてもよい。
【0051】
ステップ1-1:チャネル行列H
BSを次式(1)及び次式(2)で定義する。
【数1】
【数2】
【0052】
上記式(1)中の「Nb」はヌルを向ける対象となる地上基地局の数であり、「Nt」はアレーアンテナ(送信アンテナ)のアンテナ素子の総素子数である。また、上記式(2)はHAPS10と地上基地局bとの間のチャネルベクトルであり、当該チャネルベクトル中の「hBS,b,n」は、アレーアンテナの第n素子と地上基地局b(基地局アンテナ)との間のチャネル応答である。
【0053】
なお、上記式(1)等における
【数3】
は複素数全体の集合を表し、後述の式における
【数4】
は実数全体の集合を表す。
【0054】
ステップ1-2:HAPS10のアレーアンテナの全素子と地上基地局bとの間の直接波成分を、次式(3)で定義し、上記(2)式のチャネルベクトルh
BS,bとして用いる。
【数5】
【0055】
ここで、上記(3)中の「ρ
b」は、地上基地局bにおける伝搬損失係数であり、例えば自由空間伝搬の場合は次式(4)で表される。式(4)中の「D
b」はHAPS10と地上基地局b(基地局アンテナ)との間の距離であり、「λ」は搬送波の波長である。
【数6】
【0056】
また、HAPS10のアレーアンテナから見た地上基地局b(基地局アンテナ)の方位角及び仰角をそれぞれφ及びθとしたとき、上記(3)中の位相回転ベクトル「d
b」及び素子利得ベクトル「g
b」はそれぞれ、次式(5)及び次式(6)で表される。式(5)中の「D
b,n」は、HAPS10のアレーアンテナの第n素子と地上基地局b(基地局アンテナ)との間の距離である。式(6)中の「g(θ
b,n,φ
b,n)」は仰角θ及び方位角φにおけるアレーアンテナの第n素子の振幅応答を返す関数であり、「θ
b,n」は第n素子から見た地上基地局b(基地局アンテナ)の仰角であり、「φ
b,n」は第n素子から見た地上基地局b(基地局アンテナ)の方位角である。
【数7】
【数8】
【0057】
また、上記式(3)中の
【数9】
は、アダマール積の演算子である。
【0058】
[通信モデル]
上記HAPS10とUE(HAPSユーザ)61との間の下りリンク通信は、例えば次の通信モデルに基づいて無線リソースごとに個別にモデル化することができる。
【0059】
ある無線リソース(時間・周波数リソース,例えばリソースブロック(RB))に着目した場合の通信モデルにおいて、HAPS10から送信される送信信号の送信シンボルベルトルsは、次式(7)で表される。式(7)中の「s
u」は、ユーザuのUEへ送信する変調シンボルであり、「Nu」は無線リソースあたりのUE数(ユーザ数)である。
【数10】
【0060】
ここで、各変調シンボルの平均電力が次式(8)に示すように正規化されているとすると、送信電力は次式(9)の対角行列Pのみに依存する。
【数11】
【数12】
【0061】
上記式(8)中の「E[・]」はアンサンブル平均の演算子である。また、上記(9)式中の「p
u」はユーザuのUEへの送信シンボルに割り当てる電力であり、総送信電力P
tとの間に次式(10)の関係を有する。
【数13】
【0062】
ある無線リソース(時間・周波数リソース,例えばRB)に着目した場合の通信モデルにおいて、HAPS10と当該無線リソースが割り当てられた全ユーザuのUEとの間の無線伝搬路のチャネル行列Hは、次式(11)及び次式(12)で表される。式(12)のh
uは、HAPS10とユーザuのUEとの間のチャネルベクトルであり、式(12)中のh
u,nは、アレーアンテナの第n素子とユーザuのUEとの間のチャネル応答である。
【数14】
【数15】
【0063】
なお、上記式(7)~式(12)は、ユーザuのUEのアンテナの素子数が「1」の場合の例であるが、ユーザuのUEのアンテナが複数の素子を有する場合にも適用可能である。
【0064】
図9は、実施形態に係るHAPS10の中継通信局110と同一無線リソースが割り当てられた複数のUE61(1)~61(Nu)との間の下りリンク通信の通信モデルの一例を示す説明図である。
図9において、HAPS10の中継通信局110のアレーアンテナ130から送信される送信信号s(前述の式(7)参照)のベクトル(要素数:Nu×1)と、各ユーザuのUEで受信される受信信号のベクトルy(要素数:Nu×1)との間に、次式(13)が成り立つとする。式(13)中の「H」は、前述の式(11)及び式(12)で表されるHAPS10のアレーアンテナ130とユーザuのUEとの間のチャネル行列(要素数:Nu×Nt)である。また、式(13)中の「P」は、前述の式(11)及び式(12)で表されるHAPS10のアレーアンテナ130から各ユーザuのUEへ送信される送信信号の電力増幅に対応する送信電力行列(要素数:Nu×Nu)である。
【数16】
【0065】
上記式(13)における当該無線リソースが割り当てられた全ユーザuのUEの受信信号ベクトルyは、次式(14)で表される。式(14)中のy
uは、ユーザuのUEの受信信号である。
【数17】
【0066】
上記式(13)におけるベクトル「n」は、ユーザuのUEにおける受信時に加算される雑音ベクトル(要素数:Nu×1)であり、次式(15)で表される。式(15)中のn
uは、ユーザuのUEにおいて加算されるガウス性雑音である。
【数18】
【0067】
上記式(13)におけるベクトル「B」は、下りリンク通信時に各ユーザuのUEにビームを向けるためのBFウェイト行列(要素数:Nt×Nu)であり、次式(16)及び次式(17)で表される。式(17)中の「b
n,u」は、ユーザUのUEに対してビームを向けるためにアレーアンテナ130の第n素子に適用するBFウェイトである。
【数19】
【数20】
【0068】
なお、各ユーザUのUEに対するビームフォーミング(BF)による電力増幅はないので、次式(18)が成り立つ。
【数21】
[ビームフォーミング制御]
前述のHAPS10と各地上基地局30との間のチャネル行列H
BS(式(1)及び式(2)参照)と、前述のHAPS10とユーザuのUEとの間のチャネル行列H(式(12)及び式(13)参照)とを生成した後、例えば次の(1)~(4)に例示する複数方式のいずれかによりビームフォーミング制御を行う。
【0069】
[方式1:ZF型]
ZF(zero-forcing)型の方式1では、
図10に示すようにHAPS10に接続するNuユーザのUEそれぞれに向けたビームが互いに無干渉となるように(図中の実線の所望ビーム参照)、かつ、各ビームが各地上基地局に対しても無干渉となるように(図中の破線の干渉ビーム参照)、ビームフォーミングを行う。
【0070】
本方式1で用いるBFウェイトは、例えば次のステップ2(1)-1~2(1)-3の手順で生成することができる。
【0071】
ステップ2(1)-1:前述のHAPSユーザuに対するチャネル行列Hと地上基地局bに対するチャネル行列H
BSを用いて、地上基地局bを含めた拡張チャネル行列H
EXを、次式(19)のように定義する。
【数22】
【0072】
ステップ2(1)-2:次式(20)に示すように、拡張チャネル行列H
EXの擬似逆行列Wを算出する。
【数23】
【0073】
ステップ2(1)-3:次式(21)に示すように、上記擬似逆行列Wの要素w
1,w
2,・・・,w
Nuを列ごとに正規化することにより、BFウェイト行列Bを得る。
【数24】
【0074】
[方式2:MMSE型]
MMSE(minimum mean square error)型の方式2では、
図11に示すように地上基地局bも考慮してHAPSユーザuのSINRが最大となるように(図中の実線の所望ビーム及び破線の干渉ビーム参照)、ビームフォーミングを行う。
【0075】
本方式2で用いるBFウェイトは、例えば次のステップ2(2)-1~2(2)-3の手順で生成することができる。
【0076】
ステップ2(2)-1:前述のHAPSユーザuに対するチャネル行列Hと地上基地局bに対するチャネル行列H
BSを用いて、地上基地局bを含めた拡張チャネル行列H
EXを、次式(22)のように定義する。
【数25】
【0077】
ステップ2(2)-2:次式(23)及び次式(24)に示すように、拡張チャネル行列H
EXの擬似逆行列Wを算出する際に、正則化項Rを加える。式(24)中の「σ
2」は平均雑音電力であり、「I
Nu+Nb」は、(Nu+Nb)×(Nu+Nb)の単位行列である。
【数26】
【数27】
【0078】
ステップ2(2)-3:次式(25)に示すように、上記正則化項Rを加えた擬似逆行列Wの要素w
1,w
2,・・・,w
Nuを列ごとに正規化することにより、BFウェイト行列Bを得る。
【数28】
【0079】
[方式3:ハイブリッド型]
ハイブリッド型の方式3では、
図12に示すようにHAPS10に接続するNuユーザのUEそれぞれに向けたビームが各地上基地局bに対して無干渉となるような条件のもとで(図中の実線の所望ビーム参照)、HAPSユーザuのUEにおけるSINRが最大となるように、ビームフォーミングを行う。
【0080】
本方式3で用いるBFウェイトは、例えば次のステップ2(3)-1~2(3)-3の手順で生成することができる。
【0081】
ステップ2(3)-1:前述のHAPSユーザuに対するチャネル行列Hと地上基地局bに対するチャネル行列H
BSを用いて、地上基地局bを含めた拡張チャネル行列H
EXを、次式(26)のように定義する。
【数29】
【0082】
ステップ2(3)-2:次式(27)及び次式(28)に示すように、拡張チャネル行列H
EXの擬似逆行列Wを算出する際に、正則化項Rを加える。
【数30】
【数31】
【0083】
ステップ2(3)-3:次式(29)に示すように、上記正則化項Rを加えた擬似逆行列Wの要素w
1,w
2,・・・,w
Nuを列ごとに正規化することにより、BFウェイト行列Bを得る。
【数32】
【0084】
[方式4:セパレート型]
セパレート型の方式4では、地上基地局bに対するヌル形成とHAPSユーザuへ向けたビーム形成をそれぞれ独立に行う。本方式4では、
図13に示すように地上基地局bに対してヌルが形成され、所望ビーム(図中の実線)については、任意のビームフォーミング方式を適用可能である。
【0085】
例えば、地上基地局bに対してヌルを形成するための第1ウェイト行列
【数33】
と、HAPSユーザuへビームを形成するための第2ウェイト行列
【数34】
を互いに独立に生成し、2つのウェイト行列B
NULL及びB
BFに基づいて次式(30)に示すように全体のBFウェイト行列Bを得る。
【数35】
【0086】
なお、前述のようにHAPS10が上空の所定位置に滞在する場合や一定の飛行ルートを周回飛行する場合、本方式4で生成した第1ウェイト行列BNULLは保存して、複数回の下りリンク通信のビームフォーミング制御で使いまわすようにしてもよい。
【0087】
本方式4で用いるBFウェイトは、例えば次のステップ2(4)-1~2(4)-2の手順で生成することができる。
【0088】
ステップ2(4)-1:次式(31)を満たす第1ウェイト行列B
NULLを求める。
【数36】
【0089】
第1ウェイト行列B
NULLは前述のチャネル行列H
BSのヌルスペースと呼ばれ、チャネル行列H
BSを次式(32)のように特異値分解した際に特異値0に対応する右特異ベクトルがチャネル行列H
BSのヌルスペースとなる。
【数37】
【0090】
第1ウェイト行列BNULLは、右特異行列Vの列ベクトルvNb+1,・・・,vNtの中から任意のM個を選択し、それらを並べることで求まる。ここで、「M」は区間[Nb,Nt-Nb]の任意の整数である。
【0091】
ステップ2(4)-2:次式(33)の行列を新たなチャネル行列とみなし、任意のBFアルゴリズムに基づいて、前述の第2ウェイト行列B
BFを求める。
【数38】
【0092】
図14は、実施形態のHAPS10の中継通信局110の主要構成の一例を示すブロック図である。
図14の中継通信局110は、基地局タイプの中継通信局の例である。中継通信局110は、サービスリンク用アンテナ部111と、送受信部112と、フィーダリンク用アンテナ部113と、送受信部114と、監視制御部116と、電源部117と、モデム部118と、基地局処理部119と、位置情報取得部120とを備える。
【0093】
サービスリンク用アンテナ部111は、地上(又は海上)に向けて放射状のビームを形成するアレーアンテナを有し、UE61と通信可能な3次元セル100Cを形成する。送受信部112は、サービスリンク用アンテナ部111とともに第一無線通信部を構成し、送受共用器(DUP:DUPlexer)や増幅器などを有し、サービスリンク用アンテナ部111を介して、3次元セル100Cに在圏するUE61に無線信号を送信したりUE61から無線信号を受信したりする。
【0094】
サービスリンク用アンテナ部111及び送受信部112は、アレーアンテナ130を介して複数のUE61のそれぞれから、UE61を識別可能なアップリンク信号を受信するアップリンク(UL)受信部としても機能する。
【0095】
フィーダリンク用アンテナ部113は、地上(又は海上)のフィーダ局70と無線通信するための指向性アンテナを有する。送受信部114は、フィーダリンク用アンテナ部113とともに第二無線通信部を構成し、送受共用器(DUP:DUPlexer)や増幅器などを有し、フィーダリンク用アンテナ部113を介して、フィーダ局70に無線信号を送信したりフィーダ局70から無線信号を受信したりする。
【0096】
監視制御部116は、例えばCPU及びメモリ等で構成され、予め組み込まれたプログラムを実行することにより、HAPS10内の各部の動作処理状況を監視したり各部を制御したりする。特に、監視制御部116は、制御プログラムを実行することにより、プロペラ103,202を駆動するモータ駆動部141を制御して、HAPS10を目標位置へ移動させ、また、目標位置近辺に留まるように制御する。
【0097】
電源部117は、バッテリー106,204から出力された電力をHAPS10内の各部に供給する。電源部117は、太陽光発電パネル等で発電した電力や外部から給電された電力をバッテリー106,204に蓄電させる機能を有してもよい。
【0098】
モデム部118は、例えば、フィーダ局70からフィーダリンク用アンテナ部113及び送受信部114を介して受信した受信信号に対して復調処理及び復号処理を実行し、基地局処理部119側に出力するデータ信号を生成する。また、モデム部118は、基地局処理部119側から受けたデータ信号に対して符号化処理及び変調処理を実行し、フィーダリンク用アンテナ部113及び送受信部114を介してフィーダ局70に送信する送信信号を生成する。
【0099】
基地局処理部119は、例えば、LTE/LTE-Advancedの標準規格又は第5世代などの次世代の標準規格に準拠した方式に基づいてベースバンド処理を行う機能(例えば、e-NodeB、g-NodeBなどの機能)を有する。
【0100】
基地局処理部119は、例えば、3次元セル100Cに在圏するUE61からサービスリンク用アンテナ部111及び送受信部112を介して受信した受信信号に対して復調処理及び復号処理を実行し、モデム部118側に出力するデータ信号を生成する。また、基地局処理部119は、モデム部118側から受けたデータ信号に対して符号化処理及び変調処理を実行し、サービスリンク用アンテナ部111及び送受信部112を介して3次元セル100CのUE61に送信するベースバンド信号(IQ信号)を生成する。
【0101】
位置情報取得部120は、例えばHAPS10に組み込んだGNSS受信装置の出力に基づいて、HAPS10の位置の情報を取得する。
【0102】
図15は、
図14の中継通信局110における基地局処理部119の主要構成の一例を示すブロック図である。
図16は、
図15の基地局処理部119におけるフルデジタルBFの場合の無線リソース割り当ての一例を示す説明図である。
図15の構成例は、HAPSセル100Cに在圏するすべてのUE61をNu個のUE(ユーザ)ごとにK個のグループに分割し、各グループに異なる無線リソースを割り当て、無線リソースごとに行う前述の方式(1)~方式(3)のいずれかによるビームフォーミング制御を行う場合の構成例である。なお、
図15では、本実施形態に関係する主要構成のみが図示されており、UE61との間の通信に必要な他の構成部分については図示が省略されている。
【0103】
図15の基地局処理部119は、チャネル行列生成部1190と、複数(K)のデジタルビームフォーミング部1191(1)~1191(K)と、複数の周波数/時間変換部1192とを備える。チャネル行列生成部1190は、位置情報取得部120で取得したHAPS10の現在位置の位置情報と、地上基地局(基地局アンテナ)30の位置情報とに基づいて、HAPS10と地上基地局30との間のチャネル行列H
BSを生成する。
【0104】
図15の構成例では、
図16に示すように無線リソースごとにチャネル行列(チャネル応答)H及びBFウェイトBが異なるため、フルデジタルビームフォーミングの構成でのみ利用可能である。
【0105】
デジタルビームフォーミング部1191(1)~1191(K)はそれぞれ、複数の無線リソース1~Kに対応するように設けられている。各デジタルビームフォーミング部1191(n)は、対応する無線リソースnについて、下りリンクのMU-MIMO通信における複数(Nv)のレイヤ(ストリーム)による送信シンボルに、前述の各UE61に対するビームフォーミングと地上基地局(基地局アンテナ)30へのヌル形成とを考慮したBFウェイトB(n)を適用し、周波数領域の送信信号を生成する。
【0106】
複数の周波数/時間変換部1192は、アレーアンテナ130のアンテナ素子ごとに設けられ、デジタルビームフォーミング部1191(1)~1191(K)から受けた周波数領域の送信信号を時間領域の送信信号に変換し、電力増幅器などで構成されたアンテナ素子数と同数のRFチェーンに渡す。
【0107】
図17は、
図14の中継通信局110における基地局処理部119の主要構成の他の例を示すブロック図である。
図18は、
図17の基地局処理部119におけるハイブリッドBFの場合の無線リソース割り当ての一例を示す説明図である。
図17の構成例は、HAPSセル100Cに在圏するすべてのUE61をNu個のUE(ユーザ)ごとにK個のグループに分割し、各グループに異なる無線リソースを割り当て、無線リソースごとに行う前述の方式(4)によるビームフォーミング制御を行う場合の構成例である。なお、
図17では、本実施形態に関係する主要構成のみが図示されており、UE61との間の通信に必要な他の構成部分については図示が省略されている。
【0108】
図17の基地局処理部119は、チャネル行列生成部1190と、複数(K)のデジタルビームフォーミング部1191(1)~1191(K)と、複数の周波数/時間変換部1192と、各無線リソースに共通のアナログビームフォーミング部1193と、を備える。チャネル行列生成部1190は、位置情報取得部120で取得したHAPS10の現在位置の位置情報と、地上基地局(基地局アンテナ)30の位置情報とに基づいて、HAPS10と地上基地局30との間のチャネル行列H
BSを生成する。
【0109】
図17の構成例では、
図18に示すように無線リソースごとにユーザ(UE)との間のチャネル行列(チャネル応答)H及び各ユーザ(UE)にビームを向けるためのBFウェイトB
BFは異なるが、地上基地局(基地局アンテナ)30にヌルを向けるためのBFウェイトB
NULLは各無線リソースに共通である。従って、フルデジタルビームフォーミングの構成だけでなく、アナログ-デジタルを組み合わせたハイブリッドビームフォーミングの構成も利用可能である。
【0110】
デジタルビームフォーミング部1191(1)~1191(K)はそれぞれ、複数の無線リソース1~Kに対応するように設けられている。各デジタルビームフォーミング部1191(n)は、対応する無線リソースnについて、下りリンクのMU-MIMO通信における複数(Nv)のレイヤ(ストリーム)による送信シンボルに、前述の各UE61に対するビームフォーミングのみを考慮したBFウェイトBBF
(n)を適用し、周波数領域の送信信号を生成する。
【0111】
複数の周波数/時間変換部1192は、アレーアンテナ130のアンテナ素子ごとに設けられ、デジタルビームフォーミング部1191(1)~1191(K)から受けた周波数領域の送信信号を所定数の時間領域の送信信号に変換し、電力増幅器などで構成された中間信号処理のRFチェーンに渡す。中間信号処理のRFチェーンの数は、前述の方式(4)において選択したM(<Nt)と同数である。
【0112】
アナログビームフォーミング部1193は、地上基地局(基地局アンテナ)30へのヌル形成を考慮したBFウェイトBNULLを適用したビームフォーミング制御を行い、アンテナ素子数Ntと同数の時間領域の送信信号を生成し、電力増幅器などで構成されたアンテナ素子数と同数のRFチェーンに渡す。
【0113】
以上、本実施形態によれば、上空のHAPS10から地上又は海上に向けて形成したセル100C内に同一周波数帯を用いる地上基地局のアンテナで形成される地上セルが位置する場合に、HAPS10から地上セル(地上基地局30及びその地上基地局に接続するUE65)への干渉を抑圧することができる。
【0114】
なお、上記実施形態では、HAPS10からのビームの干渉を抑圧する干渉抑圧対象が、地上セル(地上基地局30及びその地上基地局に接続するUE65)である場合について説明したが、上記干渉抑圧対象は上記地上セルに限定されるものではない。
【0115】
例えば、上記実施形態で説明したHAPS10からからのビームの干渉を抑圧する干渉抑圧技術は、上記干渉抑圧対象が電波天文観測局である場合に適用することができる。電波天文観測局における電波天文業務で利用される周波数帯域の干渉保護規制として、非常に厳しい電力制限が課されている。HAPS10が電波天文業務で利用される周波数帯域に隣接するもしくは近い帯域を利用している場合、HAPS10が利用する帯域外への不要発射(スプリアス)により、上記電力制限基準を満たさない可能性がある。そこで、上記実施形態の干渉抑圧技術を利用して、電波天文観測局のアンテナの位置に対して常にHAPS10からのヌルを向けることで、電波天文観測局に対するHAPS10からの干渉を抑制できる。
【0116】
なお、本明細書で説明された処理工程並びにHAPS10等の通信中継装置の中継通信局、フィーダ局、ゲートウェイ局、管理装置、監視装置、遠隔制御装置、サーバ、端末装置(UE:ユーザ装置、移動局、通信端末)、基地局及び基地局装置の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0117】
ハードウェア実装については、実体(例えば、中継通信局、フィーダ局、ゲートウェイ局、基地局、基地局装置、中継通信局装置、端末装置(UE:ユーザ装置、移動局、通信端末)、管理装置、監視装置、遠隔制御装置、サーバ、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレー(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0118】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、前記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0119】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0120】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0121】
10 :HAPSセル
30 :地上基地局
80 :移動通信網
100A :サービスエリア
100B :ビーム
100C :HAPSセル(3次元セル)
100F :フットプリント
110 :中継通信局
119 :基地局処理部
120 :位置情報取得部
130 :アレーアンテナ
130a :アンテナ素子
300C :地上セル
1190 :チャネル行列生成部
1191 :デジタルビームフォーミング部
1192 :周波数/時間変換部
1193 :アナログビームフォーミング部