(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165737
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び超音波診断装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071213
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000189486
【氏名又は名称】上田日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸林 俊文
(72)【発明者】
【氏名】花岡 佑飛
(72)【発明者】
【氏名】藤木 俊昭
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE01
4C601EE13
4C601EE15
4C601HH21
4C601HH30
4C601JB02
4C601JB06
(57)【要約】
【課題】小型で低消費電力化を実現可能にできるアナログ遅延回路において、近距離から遠距離まで精度よく均一に超音波ビームをフォーカスすることを可能にした超音波診断装置を提供する。
【解決手段】超音波ビームを送信又は受信するための振動素子が複数並べられた振動素子部10と、振動素子によって受信された受信信号に対してアナログ遅延を施すアナログ遅延回路を含む送受信部12と、を備え、アナログ遅延回路は、被検体内における超音波ビームのフォーカス点の深度に応じて変更される遅延時間を適用して受信信号に対してアナログ遅延を施す超音波診断装置100とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波ビームを送信又は受信するための振動素子が複数並べられた振動素子部と、
前記振動素子によって受信された受信信号に対してアナログ遅延を施すアナログ遅延回路と、
を備え、
前記アナログ遅延回路は、被検体内における前記超音波ビームのフォーカス点の深度に応じて変更される遅延時間を適用して前記受信信号に対してアナログ遅延を施すことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置であって、
前記遅延時間は、前記フォーカス点の深度を複数の領域に分割し、前記領域毎に設定された遅延傾きに基づいて設定されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超音波診断装置であって、
前記アナログ遅延回路によって遅延された前記受信信号を前記振動素子のブロック毎にアナログ整相加算することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の超音波診断装置であって、
前記アナログ整相加算された前記ブロック毎の前記受信信号に対してデジタル遅延を施した上でデジタル整相加算することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の超音波診断装置であって、
前記アナログ遅延回路は、複数のコンデンサと、前記コンデンサの各々に対して設けられた書き込み用スイッチ及び読み出し用スイッチと、を含み、
所定の周期で前記書き込み用スイッチを順に選択して、選択された前記書き込み用スイッチに対応する前記コンデンサに前記受信信号をサンプル及びホールドさせる第1シフトレジスタと、
前記受信信号をサンプル及びホールドさせてから前記遅延時間の後に前記読み出し用スイッチを順に選択して、前記コンデンサにホールドされている前記受信信号を読み出させる第2シフトレジスタと、
を含むアナログ遅延制御回路を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
超音波ビームを送信又は受信するための振動素子が複数並べられた振動素子部と、
前記振動素子によって受信された受信信号に対してアナログ遅延を施すアナログ遅延回路と、を備える超音波診断装置の制御方法であって、
前記アナログ遅延回路において、被検体内における前記超音波ビームのフォーカス点の深度に応じて変更される遅延時間を適用して前記受信信号に対してアナログ遅延を施すことを特徴とする超音波診断装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置及び超音波診断装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置が広く用いられている。超音波診断装置は、被検体に対して超音波を送受信することで被検体の診断画像を生成し、ディスプレイに表示する。診断画像は、被検体の診断の他、被検体に対する施術にも用いられる。超音波診断装置では、測定用のプローブに回路を内蔵したハンディ型超音波プローブや超音波ビームを送信及び受信する振動素子を2次元に配置した2Dアレイ超音波プローブが開発されている。
【0003】
ハンディ型超音波プローブや2Dアレイ超音波プローブでは、開口部の振動素子によって送受信される超音波ビームをフォーカシングするために整相加算処理が行われる。整相加算処理では、
図6に示すように、アナログ/デジタル変換回路の削減による消費電力の低減、信号線の削減等のために部分的にアナログ遅延処理を行い、チャンネル数を削減したうえで、デジタル遅延処理を施す構成が採用されている。
【0004】
アナログ遅延処理には、昔は遅延線によるアナログ遅延回路を用いていたが、現在は
図7に示すように集積回路に実装可能なコンデンサによるアナログ遅延回路(ADL又はARAMと呼ぶ)が用いられている。このようなアナログ遅延回路では、入力側の選択スイッチによって選択されたコンデンサへの信号の書き込みと出力側の選択スイッチによって選択されたコンデンサからの読出しタイミングを変えることにより信号の遅延を実現している(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-121807号公報
【特許文献2】特開2019-208939号公報
【特許文献3】特表2018-503459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、デジタル遅延回路に比べて、アナログ遅延回路は、アナログ/デジタル変換回路を削減できることより小型化及び低消費電力化に有利である。しかしながら、アナログ遅延回路では、デジタル遅延回路で行われている細かい遅延処理によりダイナミックに遅延量を変えるダイナミックフォーカスが困難であった。したがって、アナログ遅延回路では、開口を構成する振動素子を分割して構成した小さなブロック毎でしか遅延処理を適用することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、超音波ビームを送信又は受信するための振動素子が複数並べられた振動素子部と、前記振動素子によって受信された受信信号に対してアナログ遅延を施すアナログ遅延回路と、を備え、前記アナログ遅延回路は、被検体内における前記超音波ビームのフォーカス点の深度に応じて変更される遅延時間を適用して前記受信信号に対してアナログ遅延を施すことを特徴とする超音波診断装置である。
【0008】
ここで、前記遅延時間は、前記フォーカス点の深度を複数の領域に分割し、前記領域毎に設定された遅延傾きに基づいて設定されることが好適である。
【0009】
また、前記アナログ遅延回路によって遅延された前記受信信号を前記振動素子のブロック毎にアナログ整相加算することが好適である。
【0010】
また、前記アナログ整相加算された前記ブロック毎の前記受信信号に対してデジタル遅延を施した上でデジタル整相加算することが好適である。
【0011】
また、前記アナログ遅延回路は、複数のコンデンサと、前記コンデンサの各々に対して設けられた書き込み用スイッチ及び読み出し用スイッチと、を含み、所定の周期で前記書き込み用スイッチを順に選択して、選択された前記書き込み用スイッチに対応する前記コンデンサに前記受信信号をサンプル及びホールドさせる第1シフトレジスタと、前記受信信号をサンプル及びホールドさせてから前記遅延時間の後に前記読み出し用スイッチを順に選択して、前記コンデンサにホールドされている前記受信信号を読み出させる第2シフトレジスタと、を含むアナログ遅延制御回路を備えることが好適である。
【0012】
本発明の別の態様は、超音波ビームを送信又は受信するための振動素子が複数並べられた振動素子部と、前記振動素子によって受信された受信信号に対してアナログ遅延を施すアナログ遅延回路と、を備える超音波診断装置の制御方法であって、前記アナログ遅延回路において、被検体内における前記超音波ビームのフォーカス点の深度に応じて変更される遅延時間を適用して前記受信信号に対してアナログ遅延を施すことを特徴とする超音波診断装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小型で低消費電力化を実現可能にできるアナログ遅延回路において、近距離から遠距離まで精度よく均一に超音波ビームをフォーカスすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す図である。
【
図2】超音波診断装置におけるフォーカス点と受信信号の遅延時間の関係を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るアナログ遅延処理を説明する図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るアナログ遅延制御回路の構成を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るデジタル遅延処理を説明する図である。
【
図6】超音波診断装置における整相加算回路の構成の例を示す図である。
【
図7】アナログ遅延回路の構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る超音波診断装置100は、
図1に示すように、超音波プローブ102及び表示部104を含んで構成される。超音波プローブ102は、振動素子部10、送受信部12、アナログ/デジタル変換回路14、信号処理部16、制御部18及び操作部20を含んで構成される。
【0016】
振動素子部10は、複数の振動素子を備える。振動素子部10において、複数の振動素子は1次元又は2次元に配置される。振動素子部10の各振動素子は、送受信部12から出力された送信信号に応じて、送信信号を超音波に変換して被検体に送信する。また、振動素子部10の各振動素子は、被検体で反射された超音波を受信し、電気信号に変換して送受信部12に出力する。超音波診断装置100による被検体の診断が行われる際には、振動素子部10に含まれる複数の振動素子の中でビームの位置に応じて使用する振動素子を含む開口を走査するチャンネルローテーションが行われる。
【0017】
送受信部12は、振動素子部10の各振動素子に対して超音波を送信させるための送信信号を生成して出力する。送受信部12は、振動素子部10において送信超音波ビームを出力する開口部となる振動素子を選択する。送受信部12によって送信のための開口を構成する振動素子は走査され、チャンネルローテーションが行われる。また、送受信部12は、開口を構成する各振動素子から発せられる超音波が被検体内の特定の位置で強め合うように、各振動素子に出力する送信信号の遅延時間を調整して振動素子部10へ出力する。送信超音波ビームを出力するタイミングは、信号処理部16から入力される送信タイミング信号STによって設定される。これによって、振動素子部10の各振動素子からその特定の位置に向けて超音波による送信超音波ビームが出力される。
【0018】
また、送受信部12は、被検体で反射され、振動素子部10の各振動素子において受信された超音波の受信信号を受けて、受信信号に処理を施してアナログ/デジタル変換回路14へ出力する。送受信部12は、受信においても超音波ビームを受信する開口部となる振動素子を選択する。すなわち、送受信部12によって受信のための開口を構成する振動素子は走査され、チャンネルローテーションが行われる。開口を構成する振動素子は、送信及び受信においてそれぞれ独立に選択することができる。送受信部12は、受信された超音波に基づく電気信号が強め合うように、各振動素子から出力された電気信号をアナログ整相加算して出力信号を生成する。送受信部12は、当該出力信号をアナログ/デジタル変換回路14へ出力する。すなわち、送受信部12における整相加算によって受信超音波ビームが形成され、その受信超音波ビームに応じた出力信号SR(SR0~SRn)が送受信部12からアナログ/デジタル変換回路14に出力される。
【0019】
なお、以下の説明では、送信超音波ビーム及び受信超音波ビームを総称して「超音波ビーム」とする。
【0020】
また、送受信部12において、タイム・ゲイン・コントロール回路(TGC)を設けて、各振動素子における超音波の受信タイミングに応じて、当該超音波の振幅を調整する処理を施してもよい。また、ハイパスフィルタ(HPF)やローパスフィルタ(LPF)を設けて、送受信部12からの出力信号に対してフィルタ処理を施してもよい。
【0021】
アナログ/デジタル変換回路14は、送受信部12からの出力信号SRをアナログ信号からデジタル信号に変換して出力する。アナログ/デジタル変換回路14の出力信号SDは、信号処理部16に入力される。アナログ/デジタル変換回路14での処理は、信号処理部16から制御される。
【0022】
信号処理部16は、アナログ/デジタル変換回路14から入力された信号に対してデジタル処理を施す。信号処理部16は、例えば、デジタル信号を処理するデジタル回路やプログラムによって処理を実行するコンピュータ、これらの組み合わせとして構成することができる。
【0023】
信号処理部16は、送受信部12においてアナログ整相加算された信号について、さらにデジタル整相加算処理を適用する。また、信号処理部16は、デジタル整相加算された信号に対して、ビームプロセスを適用することによって画像の輝度データを生成し、カラープロセスを適用することによって画像の流速データ及び分散データを生成する。ビームプロセス及びカラープロセスには、既存の超音波診断装置の画像処理技術を適用することができる。信号処理部16によって生成された輝度データ、流速データ及び分散データは、データ圧縮処理等された後に制御部18を介して表示部104へ出力される。
【0024】
さらに、信号処理部16は、送受信部12及びアナログ/デジタル変換回路14に対して制御信号を生成して出力する。信号処理部16は、送受信部12に対して開口を構成する振動素子を設定するための選択情報を出力する。また、信号処理部16は、アナログ/デジタル変換回路14におけるアナログ整相加算を行う際にどれだけ信号をさせるかを設定するための遅延情報を出力する。また、信号処理部16は、アナログ/デジタル変換回路14におけるアナログ信号からデジタル信号への変換のためのパラメータを設定する制御信号を出力する。
【0025】
制御部18は、超音波プローブ102の各部の制御を統合的に行う。制御部18は、プログラムによって処理を実行するコンピュータにより構成することができる。制御部18は、操作部20を用いたユーザの操作情報に基づいて超音波プローブ102の全体的な制御を行う。例えば、操作部20の診断ボタンがオンにされると信号処理部16に対して超音波ビームを送出して診断を開始するように制御信号を出力し、診断ボタンがオフにされると信号処理部16に対して超音波ビームを停止するように制御信号を出力する。また、制御部18は、信号処理部16から輝度データ、流速データ及び分散データを受信し、表示部104へ転送する処理を行う。表示部104との通信は、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0026】
操作部20は、超音波プローブ102に対するユーザの操作を受け付ける。操作部20は、スイッチ、ボタン、回転ツマミ、レバー等を含むことができる。操作部20は、ユーザの操作に基づく操作情報を制御部18に出力する。
【0027】
表示部104は、超音波診断の画像を表示する。表示部104は、ディスプレイ装置を含んで構成される。表示部104は、信号処理部16において生成された輝度データ、流速データ及び分散データに基づいて被検体から得られた超音波画像を表示する。
【0028】
[受信フォーカシング処理]
以下、超音波診断装置100における受信時の超音波ビームのフォーカシング処理について説明する。
【0029】
図2は、超音波プローブ102の振動素子部10から受信される超音波ビームをフォーカシングする際に遅延計算を説明する図である。受信におけるフォーカシング処理は、振動素子部10において開口を構成する振動素子から超音波ビームを送信し、被検体内のフォーカス点で反射した超音波ビームを振動素子で受信し、各振動素子からの信号に遅延を施した後に時相を合わせて整相加算することにより行われる。
【0030】
図2に示すように、各振動素子からの信号に対してアナログ遅延回路によって与える遅延量Roundtripは、被検体内のフォーカス点までの深度Depth、開口中心と被検体内のフォーカス点への超音波ビームのなす角度θ、開口中心から受信振動素子までの距離Xaとすると数式(1)で表される。
【数1】
【0031】
図3は、フォーカス点の深さに対する各チャンネルにおける超音波ビームの往復時間の関係を示す。
図3において、横軸は、振動素子部10において現在の開口の中心に位置する振動素子が超音波ビームを送信し、被検体内のフォーカス点で反射された超音波ビームを受信するまでの時間(開口中心での受信時間)を示す。すなわち、横軸は、振動素子部10の開口中心から被検体内のフォーカス点までの深度Depthに対応する受信時間を示す。
図3において、縦軸は、開口に含まれる振動素子で受信された超音波ビームの信号に対してアナログ遅延処理において与えるべき遅延時間を示す。
【0032】
図3には、振動素子部10において開口に含まれる振動素子iに対する遅延時間を求めるための遅延カーブと、当該振動素子iに対してアナログ遅延処理(ADL処理)を行った後のADL出力信号ラインとが示されている。アナログ遅延回路において振動素子iの受信信号に対して施す遅延時間は、
図3における振動素子iに対するADL出力信号ラインと振動素子iに対する遅延時間を示す遅延カーブとの差で表される。
【0033】
なお、
図3では、振動素子iに対する遅延時間を示す遅延カーブを示したが、他の振動素子に対してもそれぞれ同様に遅延時間を示す遅延カーブが設定される。遅延カーブは、例えば、数式(1)に基づいて開口中心から対象の振動素子までの距離Xaに応じて設定することが好適である。
【0034】
振動素子に対する遅延時間は、開口中心での受信時間に対して傾きが変化する。すなわち、振動素子に対する遅延時間は、被検体内のフォーカス点までの深度Depthに対して傾きが変化する。具体的には、開口中心での受信時間(被検体内のフォーカス点までの深度Depthに対応する時間)が大きくなるほど振動素子の遅延時間を示す遅延カーブの傾きは大きくすることが好適である。
【0035】
本実施の形態では、開口中心での受信時間を複数の領域に分割し、それぞれの領域において振動素子の遅延時間を示す遅延カーブに対して一定の傾き(遅延傾き)を設定する。
図3では、開口中心での受信時間を可変長の3つの領域に分割し、第1領域seg1に対して遅延傾き1(RX_SLOP1)、第2領域seg2に対して遅延傾き2(RX_SLOP2)、第3領域seg3に対して遅延傾き3(RX_SLOP3)を設定した例を示している。すなわち、開口中心での受信時間が第1領域seg1の時間範囲に該当する場合、振動素子iに対する遅延時間は、第1領域seg1における開口中心での受信時間に対応する振動素子iに対するADL出力信号と遅延傾き1(RX_SLOP1)を有する遅延カーブとの差に設定される。同様に、開口中心での受信時間が第2領域seg2の時間範囲に該当する場合、振動素子iに対する遅延時間は、第2領域seg2における開口中心での受信時間に対応する振動素子iに対するADL出力信号と遅延傾き2(RX_SLOP2)を有する遅延カーブとの差に設定される。さらに、開口中心での受信時間が第3領域seg3の時間範囲に該当する場合、振動素子iに対する遅延時間は、第3領域seg3における開口中心での受信時間に対応する振動素子iに対するADL出力信号と遅延傾き3(RX_SLOP3)を有する遅延カーブとの差に設定される。
【0036】
なお、開口中心での受信時間を分割する領域は第1領域seg1、第2領域seg2、第3領域seg3の3つに限定されるものではなく、開口中心での受信時間を2つ以上の領域に分割してそれぞれの領域に対して遅延傾きを設定するものであればよい。
【0037】
このように、被検体内のフォーカス点までの深度Depthに対応する受信時間に応じて可変調の直線近似(PWL:Piece Wise Linear)で受信信号に対する遅延時間を制御することによって、後述するアナログ遅延回路で使用されるデータ数を低減することができる。
【0038】
また、被検体内のフォーカス点までの深度Depthが0から所定値までは超音波診断装置100による測定の対象外の範囲として処理してもよい。当該所定値をCh受信開始深度と示す。すなわち、Ch受信開始深度に対応する受信時間を測定開始点(
図3では、CH受信開始RX_STARTと示す)とし、Ch受信開始深度に対応する受信時間を第1領域seg1の始点と一致させればよい。具体的には、開口中心での受信時間が0から第1領域seg1までの領域までの範囲については振動素子において受信された超音波ビームの信号をクリアしてもよい。例えば、送受信部12に設けたタイム・ゲイン・コントロール回路(TGC)によって、開口中心での受信時間が0から第1領域seg1までの領域において振動素子により受信された超音波ビームの信号の振幅を0にすればよい。
【0039】
図4は、本実施の形態における送受信部12に含まれるアナログ遅延制御回路200の構成を示す。アナログ遅延制御回路200は、深度カウンタ30、比較器32、選択器34、レートマルチプライヤー36、第1シフトレジスタ38及び第2シフトレジスタ40を含んで構成される。
【0040】
アナログ遅延制御回路200は、
図7に示したアナログ遅延回路に含まれるコンデンサの各々に対する書き込み用スイッチ(WSW)及び読み出し用スイッチ(RSW)のオン/オフ制御を行う。すなわち、書き込み用スイッチ(WSW)をオンにして超音波ビームの受信信号をコンデンサに書き込んだ後に書き込み用スイッチ(WSW)をオフにして受信信号のサンプル/ホールド処理を行う。その後、適切な遅延時間後に読み出し用スイッチ(RSW)をオンにしてコンデンサに書き込まれた受信信号を読み出すリード処理を行った後、読み出し用スイッチ(RSW)をオフにする制御を行う。これによって、超音波ビームの受信信号に対して適切なアナログ遅延処理を施すことができる。
【0041】
なお、本実施の形態では、
図7に示すようにアナログ遅延回路にはコンデンサ、書き込み用スイッチWSW(WSW0~WSW127)及び読み出し用スイッチRSW(RSW0~RSW127)の組み合わせが128個含まれる構成を例に説明する。ただし、これに限定されるものではなく、受信信号に対する遅延時間に応じて組み合わせの個数を変更すればよい。
【0042】
また、開口中心での受信時間を第1領域seg1、第2領域seg2、第3領域seg3の3つの可変調領域に分割して遅延傾きを直線近似して処理する例とする。ただし、これに限定されるものではなく、3つ以外の可変調領域に分割した場合も同様に処理することができる。
【0043】
深度カウンタ30は、超音波を送信してから振動素子にて超音波を受信するまでの時間を計測するためのカウンタである。深度カウンタ30は、超音波を送信してから振動素子にて超音波を受信するまでクロックをカウントする。当該カウント数は、
図3における横軸のフォーカス点までの深度に対応する受信時間に対応する。深度カウンタ30は、計測した受信時間を比較器32へ出力する。
【0044】
比較器32は、深度カウンタ30で計測された深度に対応する受信時間の入力を受けて、当該受信時間に応じてチャンネル受信信号CHST、アナログ遅延出力開始信号ADLST、セグメント切替信号SCを出力する。比較器32には、Ch受信開始時間、アナログ遅延開始時間、開口を構成する各振動素子の遅延カーブにおける第1領域Seg1,第2領域Seg2,第3領域Seg3の時間範囲の設定値が入力される。比較器32は、深度カウンタ30から入力された受信時間がCh受信開始時間に達すると、チャンネル受信信号CHSTを第1シフトレジスタ38へ出力する。また、比較器32は、深度カウンタ30から入力された受信時間がアナログ遅延開始時間に達すると、アナログ遅延出力開始信号ADLSTをレートマルチプライヤー36及び第2シフトレジスタ40へ出力する。また、比較器32は、深度カウンタ30から入力された受信時間が第1領域Seg1,第2領域Seg2,第3領域Seg3の時間範囲のいずれに該当するかを確認し、第1領域Seg1,第2領域Seg2,第3領域Seg3のうち当該受信時間が該当する領域を示すセグメント切替信号SCを選択器34及びレートマルチプライヤー36へ出力する。
【0045】
選択器34は、比較器32からセグメント切替信号SCを受信すると、第1領域Seg1,第2領域Seg2,第3領域Seg3のうちセグメント切替信号SCで示される領域に該当する遅延傾きをレートマルチプライヤー36へ出力する。具体的には、セグメント切替信号SCが第1領域Seg1を示している場合には遅延傾き1を出力し、第2領域Seg2を示している場合には遅延傾き2を出力し、第3領域Seg3を示している場合には遅延傾き3を出力する。
【0046】
レートマルチプライヤー36は、選択器34から受信した第1領域Seg1,第2領域Seg2,第3領域Seg3のうち1つの遅延傾きの加算を繰り返し、第2シフトレジスタ40のシフトを遅らせるための遅延クロック信号CYを生成して出力する。遅延クロック信号CYは、第2シフトレジスタ40へ出力される。
【0047】
第1シフトレジスタ38は、アナログ遅延回路に含まれる書き込み用スイッチWSW(WSW0~WSW127)をオン/オフ制御する。第1シフトレジスタ38は、比較器32からチャンネル受信信号CHSTを受けて、書き込み用スイッチWSW(WSW0~WSW127)のオン/オフ制御を開始する。すなわち、第1シフトレジスタ38は、チャンネル受信信号CHSTを受信すると、まず書き込み用スイッチWSW0をオンにする制御信号を出力する。その後、設定された書き込み間隔に対応するクロックに同期させて、書き込み用スイッチWSW0をオフする制御信号を出力すると共に書き込み用スイッチWSW1をオンする制御信号を出力する、書き込み用スイッチWSW1をオフする制御信号を出力すると共に書き込み用スイッチWSW2をオンする制御信号を出力する・・・と順番をシフトさせながら書き込み用スイッチWSW(WSW0~WSW127)を1つずつオンにする制御信号を出力する。これによって、アナログ遅延回路のADL入力によってコンデンサが順に充電され、受信信号がサンプル/ホールドされる。
【0048】
第2シフトレジスタ40は、アナログ遅延回路に含まれる読み出し用スイッチRSW(RSW0~RSW127)をオン/オフ制御する。第2シフトレジスタ40は、比較器32からアナログ遅延出力開始信号ADLSTを受けて、読み出し用スイッチRSW(RSW0~RSW127)のオン/オフ制御を開始する。すなわち、第2シフトレジスタ40は、アナログ遅延出力開始信号ADLSTを受信すると、まず読み出し用スイッチRSW0をオンにする制御信号を出力する。その後、レートマルチプライヤー36から入力された遅延クロック信号CYに同期させて、読み出し用スイッチRSW0をオフする制御信号を出力すると共に読み出し用スイッチRSW1をオンする制御信号を出力する、読み出し用スイッチRSW1をオフする制御信号を出力すると共に読み出し用スイッチRSW2をオンする制御信号を出力する・・・と順番をシフトさせながら読み出し用スイッチRSW(RSW0~RSW127)を1つずつオンにする制御信号を出力する。これによって、アナログ遅延回路のコンデンサにサンプル/ホールドされている受信信号がADL出力として読み出される。
【0049】
以上のようなアナログ遅延制御回路200におけるアナログ遅延処理によって、アナログ遅延回路のALD入力を被検体内のフォーカス点までの深度Depthに応じた遅延時間だけ遅延させることができる。送受信部12では、開口を構成する各振動素子において受信された超音波ビームの受信信号の各々に対してこのようにアナログ遅延処理を適用したうえで、開口に含まれる振動素子群を複数に分割したブロック毎に遅延された受信信号をアナログ整相加算して出力信号SR(SR0~SRn)を出力する。
【0050】
図5は、信号処理部16におけるデジタル整相加算処理を説明するための図である。
図5において、横軸は、振動素子部10において現在の開口の中心に位置する振動素子が超音波ビームを送信し、被検体内のフォーカス点で反射された超音波ビームを受信するまでの時間(開口中心での受信時間)を示す。
図5において、縦軸は、信号処理部16に含まれる受信データの先入先出処理における書き込みと読み出しの間の時間、すなわち開口に含まれる振動素子で受信された超音波ビームの信号データに対してデジタル遅延処理において与えるべき遅延時間を示す。
【0051】
信号処理部16では、
図5に示すように、送受信部12から出力された各ブロック(Block0~Block n)の出力信号SR(S0~SRn)に対して、それぞれデジタル遅延時間(Block0遅延~Block n遅延)を施してデジタル整相加算してDBF出力として出力する。なお、受信時間(深度)が0未満のデータについては0にクリアすればよい。
【0052】
以上のように、本実施の形態における超音波診断装置100では、送受信部12におけるアナログ遅延処理において被検体内のフォーカス点までの深度に応じて受信信号の遅延時間を調整することによってダイナミックフォーカスが可能となる。すなわち、デジタル遅延回路に比べて小型化及び低消費電力化に有利であるアナログ遅延回路を用いて、超音波ビームの受信信号に対してダイナミックフォーカスが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
10 振動素子部、12 送受信部、14 アナログ/デジタル変換回路、16 信号処理部、18 制御部、20 操作部、30 深度カウンタ、32 比較器、34 選択器、36 レートマルチプライヤー、100 超音波診断装置、102 超音波プローブ、104 表示部、200 アナログ遅延制御回路。