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特開2022-165767生体吸収性綿状体及び生体吸収性綿状体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165767
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】生体吸収性綿状体及び生体吸収性綿状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/26 20060101AFI20221025BHJP
   A61L 15/64 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
A61L15/26
A61L15/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071255
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA01
4C081AA14
4C081AC16
4C081BA16
4C081BB01
4C081CA171
4C081DA04
4C081DA05
4C081DB01
4C081EA04
4C081EA05
4C081EA12
(57)【要約】
【課題】吸水性の高い生体吸収性綿状体及び該生体吸収性綿状体の製造方法を提供する。
【解決手段】医療用途に用いられる生体吸収性綿状体であって、ポリグリコリドからなり、平均繊維径が0.5μm以上7.0μm以下であり、JIS L 1097に準拠した方法で測定される比容積が50cm/g以上100cm/g以下であり、JIS L 1912-1997に準拠した方法で測定される保水率が150%以上である生体吸収性綿状体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用途に用いられる生体吸収性綿状体であって、
ポリグリコリドからなり、
平均繊維径が0.5μm以上7.0μm以下であり、
JIS L 1097に準拠した方法で測定される比容積が50cm/g以上100cm/g以下であり、
JIS L 1912-1997に準拠した方法で測定される保水率が150%以上である
ことを特徴とする生体吸収性綿状体。
【請求項2】
請求項1記載の生体吸収性綿状体の製造方法であって、ノズル温度がポリグリコリドの融点の+20℃以上+50℃以下、ノズルとコンベア間の距離が50cm以上150cm以下の条件でメルトブロー法によってポリグリコリドの溶液を吐出する工程を有することを特徴とする生体吸収性綿状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性の高い生体吸収性綿状体及び該生体吸収性綿状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野では、手術用具の材料として生体吸収性材料が用いられることがある。生体吸収性材料を用いることで、役割を果たした後は体内へ吸収され消滅することから、再度取り出しのための再手術を行う必要がなく、安全性を高めることができる。具体的には、体液漏れ、空気漏れを防止する基材として、例えば、特許文献1に開示されるような生体吸収性材料からなる不織布が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-76586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、医療の分野では綿が多様な用途で日常的に用いられている。例えば、外科手術においては、体液を吸収させる目的に綿が用いられている。このような外科手術で用いられる綿は、取り出し忘れのミスが起こり得るため、取り出し忘れてしまった際の安全性を確保するために、生体吸収性材料からなる綿への需要が高まっている。しかしながら、従来の生体吸収性材料は平面の不織布がほとんどであり、綿状とすることが難しいという問題があった。また、従来の生体吸収性材料からなる不織布は吸水性が低いという問題もあり、吸水性の高い生体吸収性の綿状体を得ることはより困難であった。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、吸水性の高い生体吸収性綿状体及び該生体吸収性綿状体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、医療用途に用いられる生体吸収性綿状体であって、ポリグリコリドからなり、平均繊維径が0.5μm以上7.0μm以下であり、JIS L 1097に準拠した方法で測定される比容積が50cm/g以上100cm/g以下であり、JIS L 1912-1997に準拠した方法で測定される保水率が150%以上である生体吸収性綿状体である。
以下、本発明について詳説する。
【0007】
本発明の生体吸収性綿状体は、ポリグリコリドからなる。
材料にポリグリコリドを用いることで、綿状体に生体吸収性を付与することができる。また、ポリグリコリドは比較的分解速度が速いことから、より短期間で体内に吸収させることができる。更に、ポリグリコリドを用いることで、より綿に近い物性とすることができる。なおここで、綿状体とは、繊維が絡まりあって低密度の塊の状態になっているものを指す。
【0008】
上記ポリグリコリドの重量平均分子量は特に限定されないが、30000以上200000以下であることが好ましい。
ポリグリコリドの重量平均分子量が30000以上であることで、得られる生体吸収性綿状体の強度をより高めることができ、200000以下であることで、分解速度をより高めることができる。上記ポリグリコリドの重量平均分子量は、50000以上であることがより好ましく、150000以下であることがより好ましい。
【0009】
本発明の生体吸収性綿状体は、平均繊維径が0.5μm以上7.0μm以下である。
生体吸収性綿状体を構成する繊維の平均繊維径が上記範囲にあると、メルトブロー法によって製造する際に、繊維同士が適度に絡み合うため、綿状とすることができる。上記平均繊維径は、1.0μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましく、5.0μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であることがより好ましい。上記平均繊維径は、製造条件によって調節することができる。
なお、ここで上記平均繊維径とは、生体吸収性綿状体の中央の一部を切り取り、電子顕微鏡を用いて繊維径をランダムに10カ所測定し、平均したものを意味する。
【0010】
本発明の生体吸収性綿状体は、JIS L 1097に準拠した方法で測定される比容積が50cm/g以上100cm/g以下である。
平均繊維径及び比容積を上記範囲とすることで、形状及び物性を綿に近づけることができる。また、後述する保水率を後述する範囲に調節しやすくすることができる。上記比容積は、55cm/g以上であることが好ましく、60cm/g以上であることがより好ましく、95cm/g以下であることが好ましく、90cm/g以下であることがより好ましい。上記比容積は、生体吸収性綿状体の製造条件によって調節することができる。
なお、上記比容積は、以下の方法で測定することができる。
【0011】
まず、得られた生体吸収性綿状体を20×20cmのサンプルとし、質量が約40gとなるまで積み重ねて試験片を得る。次いで、得られた試験片を1時間放置し、秤量する。次いで、試験片に14gの厚板を載せ、更に63gの重りAを30秒間載せ、その後重りAを取り除いて30秒間放置する。この操作を3回繰り返し、3回目終了後の試験片の4すみの高さを測定して平均値を求める。得られた4すみの高さの平均値を基に下記式から比容積を算出する。なお、試験は3個の試験片について行い、比容積は3個の測定値の平均で表す。
比容積(cm/g)=(5×5×(h0/10))/W
h0:重りA除去後の試験片の4すみの高さの平均値(mm)
W:試験片の質量(g)
【0012】
本発明の生体吸収性綿状体は、JIS L 1912-1997に準拠した方法で測定される保水率が150%以上である。
生体吸収性綿状体の保水率が上記範囲であることで、外科手術に用いた場合であっても体液を充分に吸収して綿の代わりとして用いることができる。上記保水率は200%以上であることが好ましく、250%以上であることがより好ましい。上記保水率の上限は特に限定されず、高いほどよいものであるが、例えば、1000%以下である。
なお、上記保水率は、具体的には以下の方法によって測定することができる。
【0013】
まず、標準状態のサンプルの初期重量を測定し、水を入れた容器に180秒間水面下に入れる。その後、水中からサンプルを取り出し、120秒間垂直に吊るし、試験後重量を0.1mgの範囲まで測定する。得られた重量を基に、下記式より保水率を算出する。
=(M-M)/M×100
:保水率(%)
:初期重量(g)(5回平均値)
:試験後重量(g)(5回平均値)
【0014】
本発明の生体吸収性綿状体は、メルトブロー法を用いてポリグリコリドを吐出する際のノズル温度と、ノズルとコンベア間の距離とを特定範囲とすることで、製造することができる。従来の方法では、生体吸収性材料を用いた綿状体を製造することは難しく、平坦な不織布の状態でしか製造することができなかったが、本発明では、上記製造方法を用いることで、簡便に生体吸収性の綿状体を製造することができる。
このような、本発明の生体吸収性綿状体の製造方法であって、ノズル温度がポリグリコリドの融点の+20℃以上+50℃以下、ノズルとコンベア間の距離が50cm以上150cm以下の条件でメルトブロー法によってポリグリコリドの溶液を吐出する工程を有する生体吸収性綿状体の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0015】
本発明の生体吸収性綿状体の製造方法は、ノズル温度がポリグリコリドの融点の+20℃以上+50℃以下、ノズルとコンベア間の距離が50cm以上150cm以下の条件でメルトブロー法によってポリグリコリドの溶液を吐出する工程を有する。
ノズル温度とノズル-コンベア間距離を上記範囲とすることで、吐出されたポリグリコリドの繊維の結晶化が遅くなるため、付近の繊維と適度に絡み合った状態とすることができるとともに、絡み合ったポリグリコリドの繊維をコンベア上に低密度で堆積させることができる。その結果、従来実現できなかった、上記平均繊維径、比容積及び保水率を満たすような綿状体を得ることができる。
上記ノズル温度は、ポリグリコリドの融点の+30℃以上であることが好ましく、+40℃以下であることが好ましい。
また、上記ノズルとコンベア間の距離は、60cm以上であることが好ましく、70cm以上であることがより好ましく、140cm以下であることが好ましく、130cm以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明の生体吸収性綿状体は、医療分野において通常の綿と同じ用途で用いる。特に、本発明は、生体吸収性かつ吸水性に優れることから、外科手術において患部周辺に詰めて体液を吸わせるような用途で大きな効果を発揮する。本発明を外科手術に用いることで、たとえ生体吸収性綿状体を体内に残留させてしまった場合であっても、時間の経過とともに体内へ吸収され、消滅することから、安全性が高い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、吸水性の高い生体吸収性綿状体及び該生体吸収性綿状体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの態様にのみ限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
メルトブロー法により、重量平均分子量12万、融点:223℃のポリグリコリドからなる糸を吐出することで生体吸収性綿状体を得た。メルトブロー法の具体的な条件は、ノズル-コンベア間距離80cm、ポリマー吐出量0.1kg/h、吐出出口付近のエア風速50m/秒、コンベアの移動速度1.0m/min、ノズル温度を260℃とした。
【0020】
(参考例1)
綿(オーガニックコットン100%)をそのまま用いた。
【0021】
(参考例2)
ポリエステル綿(ポリエステルコットン100%、清原株式会社製 手芸わた(SW-300))をそのまま用いた。
【0022】
<物性>
実施例で得られた生体吸収性綿状体及び参考例の綿について以下の測定を行った。結果を表1に示した。
【0023】
(1)平均繊維径の測定
得られた生体吸収性綿状体又は綿の中央部を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍に拡大した画像を撮影した。得られた画像から繊維部分をランダムに10か所選び出し繊維径を測定、平均することで平均繊維径を測定した。
【0024】
(2)比容積(密度)の測定
JIS L 1097に準拠した方法で生体吸収性綿状体及び綿の比容積、圧縮率及び回復率を測定した。結果を表1に示した。
具体的には、まず、得られた生体吸収性綿状体又は綿を20×20cmのサンプルとし、質量が約40gとなるまで積み重ねて試験片を得た。次いで、得られた試験片を1時間放置し、秤量した。次いで、試験片に14gの厚板を載せ、更に63gの重りAを30秒間載せ、その後重りAを取り除いて30秒間放置した。この操作を3回繰り返し、3回目終了後の試験片の4すみの高さを測定して平均値を求めた。得られた4すみの高さの平均値を基に下記式から比容積を算出した。なお、試験は3個の試験片について行い、3個の測定値の平均で表した。
比容積(cm/g)=(5×5×(h0/10))/W
h0:重りA除去後の試験片の4すみの高さの平均値(mm)
W:試験片の質量(g)
【0025】
(3)圧縮率、回復率の測定
上記比容積の測定と同様の方法で試験片の4すみの高さを測定した後、126gの重りBを30秒載せ、試験片の4すみの高さを測定した。次いで、重りBを取り除いて3分後の試験片の4すみの高さを測定した。測定した4すみの高さをそれぞれ平均し、得られた3つの平均値を用いて下記式より圧縮率及び回復率を算出した。なお、試験は3個の試験片について行い、3個の測定値の平均で表した。
圧縮率(%)=(h0-h1)/h0×100
回復率(%)=(h2-h1)/(h0-h1)×100
h1:重りBを載せたときの試験片の4すみの高さの平均値(mm)
h2:重りB除去後の試験片の4すみの高さの平均値(mm)
【0026】
(4)保水率の測定
JIS L 1912-1997に準拠した方法で生体吸収性綿状体及び綿の保水率を測定し、吸水性を評価した。
具体的には、まず、標準状態のサンプルの初期重量を測定し、水を入れた容器に180秒間水面下に入れた。その後、水中からサンプルを取り出し、120秒間垂直に吊るし、試験後重量を0.1mgの範囲まで測定した。得られた重量を基に、下記式より保水率を算出した。結果を表1に示した。
=(M-M)/M×100
:保水率(%)
:初期重量(g)(5回平均値)
:試験後重量(g)(5回平均値)
【0027】
【表1】
【0028】
表1より実施例の不織布が綿と似た性能を有しており、綿の代わりに用いることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、吸水性の高い生体吸収性綿状体及び該生体吸収性綿状体の製造方法を提供することができる。