(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165779
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20221025BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221025BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20221025BHJP
B01J 33/00 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M8/10 101
H01M4/86 M
B01J23/42 M
B01J33/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071276
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】上野 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 弘幸
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA22B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BE34B
4G169CC32
4G169DA05
4G169EA03X
4G169EA03Y
4G169ED01
4G169EE01
5H018AA06
5H018AS01
5H018BB00
5H018BB06
5H018BB08
5H018DD05
5H018EE02
5H018EE05
5H018EE18
5H018HH01
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】高加湿条件及び低加湿条件の両方の運転条件における発電性能を向上させる。
【解決手段】第1電極触媒層20は、疎水性被膜を有する触媒担持粒子21と、高分子電解質22と、平均繊維長が0.7μm以上20μm以下である親水化カーボンファイバー23とを含む。触媒担持粒子21は、担体と、担体に担持された触媒とを含む。担体の含有量を100質量部としたとき、親水化カーボンファイバー23の含有量は、5質量部以上30質量部以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体において高分子電解質膜に接合する電極触媒層であって、
疎水性被膜を有する触媒担持粒子と、高分子電解質と、平均繊維長が0.7μm以上20μm以下である親水化カーボンファイバーとを含み、
前記触媒担持粒子は、担体と、前記担体に担持された触媒とを含み、
前記担体の含有量を100質量部としたとき、前記親水化カーボンファイバーの含有量は、5質量部以上30質量部以下であることを特徴とする電極触媒層。
【請求項2】
前記担体の含有量を100質量部としたとき、前記高分子電解質の含有量は、40質量部以上100質量部以下である請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
前記親水化カーボンファイバーは、平均繊維径が10nm以上300nm以下である請求項1又は請求項2に記載の電極触媒層。
【請求項4】
高分子電解質膜と、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電極触媒層とを備え、
前記電極触媒層が、前記高分子電解質膜に接合されている膜電極接合体。
【請求項5】
請求項4に記載の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の厚さ方向に前記膜電極接合体を挟む一対のガス拡散層と、
前記膜電極接合体の厚さ方向に前記膜電極接合体及び前記一対のガス拡散層を挟む一対のセパレーターとを備える固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
年々増大する地球環境負荷への対策として、よりクリーンなエネルギー創出に対する需要が高まりつつある。燃料電池は、水素と酸素の化学反応によって電気エネルギーを生成し、水のみを排出する発電システムであり、燃料電池には、将来的なエネルギー源として高い期待が寄せられている。
【0003】
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、固体高分子形、溶融炭酸塩形、及び固体酸化物形などに分類される。固体高分子形燃料電池は、室温付近で使用可能なことから、車載用電源や家庭据置用電源などへの幅広い活用が見込まれている。そのため、固体高分子形燃料電池の実用化に向けて、発電特性や耐久性の向上、コスト低減対策などについての研究開発が盛んに行われている。
【0004】
固体高分子形燃料電池は、プロトン伝導性を有する高分子電解質膜と、アノードである燃料極と、カソードである空気極とを備えている。高分子電解質膜の厚さ方向において、燃料極と空気極とが高分子電解質膜を挟んでいる。燃料極は、燃料ガスをプロトンと電子に分離する電極触媒層を有する。空気極は、高分子電解質膜を介して輸送されたプロトンを、酸素を含む酸化剤により酸化するとともに、外部回路から電子を受け取る電極触媒層を有する。燃料極及び空気極の電極触媒層は、白金系の貴金属などの触媒物質と、触媒物質を担持する担体、及び高分子電解質を含む。
【0005】
固体高分子形燃料電池は、燃料極及び空気極の各々の電極触媒層における高分子電解質膜と反対側の面にガス拡散層及びセパレーターを配置したものを基本構成である単セルとし、この単セルが複数積層されてなる。ガス拡散層は、導電性を有し、反応ガスを均一に拡散するための層である。セパレーターは、ガス流路及び冷却水流路を有するとともに電子を外部回路に取り出す役割を担う部材であり、ガス拡散層の外側に配置される。以下、高分子電解質膜の両面に燃料極、空気極が形成されたものを膜電極接合体という。
【0006】
固体高分子形燃料電池は、燃料極に水素を含む燃料ガスが供給され、空気極に酸素を含む酸化剤ガスが供給されることにより、燃料極及び空気極において下記の式1及び式2に示す電極反応が生じ、発電する。
【0007】
燃料極:H2→2H++2e-・・・(式1)
空気極:1/2O2+2H++2e-→H2O・・・(式2)
式1に示すように、燃料極に供給された燃料ガスが、燃料極の電極触媒層に含まれる触媒物質によりプロトンと電子に分離される。分離したプロトンは、燃料極の電極触媒層に含まれる加湿された高分子電解質及び高分子電解質膜を通って空気極に移動する。分離した電子は、燃料極から外部回路に取り出され、外部回路を通って空気極に移動する。式2に示すように、空気極では、酸化剤ガスと、燃料極から移動してきたプロトン及び電子とが反応して水が生成される。電子が外部回路を通ることにより電流が生じる。
【0008】
ところで、膜電極接合体内のプロトン伝導性を高めるためには、膜電極接合体内を比較的高く加湿する必要がある。そのため、加湿器を用いて系内の水分を補う処理が行われている。しかしながら、燃料電池を広く普及させる壁となっているコストの低減の観点においては、加湿器を削減することが望ましい。加湿器を削減した場合には、加湿器を用いない低加湿条件で発電性能を発現することのできる膜電極接合体が必要になる。
【0009】
こうした膜電極接合体に関する技術として、特許文献1及び特許文献2に開示される技術が知られている。特許文献1には、電極触媒層とガス拡散層の間に所定の保水層と疎水性水分管理層を設けることにより、低加湿条件での発電性能の改善を図る技術が開示されている。また、特許文献2には、ガス拡散層の構成材料を親水化処理することにより、低加湿条件での発電性能の改善を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-169315号公報
【特許文献2】特開2004-031325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1及び特許文献2に開示される電極触媒層を用いた従来の燃料電池には、高加湿条件及び低加湿条件の両方の運転条件における発電性能を向上させる観点において改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための電極触媒層は、膜電極接合体において高分子電解質膜に接合する電極触媒層であって、疎水性被膜を有する触媒担持粒子と、高分子電解質と、平均繊維長が0.7μm以上20μm以下である親水化カーボンファイバーとを含み、前記触媒担持粒子は、担体と、前記担体に担持された触媒とを含み、前記担体の含有量を100質量部としたとき、前記親水化カーボンファイバーの含有量は、5質量部以上30質量部以下である。
【0013】
上記電極触媒層において、前記担体の含有量を100質量部としたとき、前記高分子電解質の含有量は、40質量部以上100質量部以下であってもよい。
上記電極触媒層において、前記親水化カーボンファイバーは、平均繊維径が10nm以上300nm以下であってもよい。
【0014】
上記課題を解決するための膜電極接合体は、高分子電解質膜と、上記電極触媒層とを備え、前記電極触媒層が、前記高分子電解質膜に接合されている。
上記課題を解決するための高分子形燃料電池は、上記膜電極接合体と、前記膜電極接合体の厚さ方向に前記膜電極接合体を挟む一対のガス拡散層と、前記膜電極接合体の厚さ方向に前記膜電極接合体及び前記一対のガス拡散層を挟む一対のセパレーターとを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高加湿条件及び低加湿条件の両方の運転条件における発電性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態における膜電極接合体の構造を示す断面図。
【
図2】一実施形態における第1電極触媒層の構造を模式的に示す模式図。
【
図3】一実施形態における第1電極触媒層に含まれる触媒担持粒子の構造を示す断面図。
【
図4】一実施形態における固体高分子形燃料電池の構成を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から
図4を参照して、電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池の一実施形態を説明する。図面の各図は、理解を容易にするために適宜誇張して表現している。また、本発明の電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、及びそれらの製造方法の構成及び材料は、以下に記載する構成及び材料に限定されるものではなく、同様の機能を持つと類推される全ての材料及び構成を含む。
【0018】
[膜電極接合体]
図1に示すように、膜電極接合体10は、高分子電解質膜11と、カソード側電極触媒層12Cと、アノード側電極触媒層12Aとを備えている。
【0019】
高分子電解質膜11は、固体状の高分子電解質膜である。高分子電解質膜11は、例えば、プロトン伝導性を有する高分子材料によって形成されている。プロトン伝導性を有する高分子材料としては、例えば、フッ素系樹脂、炭化水素系樹脂が挙げられる。フッ素系樹脂としては、例えば、Nafion(デュポン社製、登録商標)、Flemion(AGC社製、登録商標)、Gore-Select(ゴア社製、登録商標)が挙げられる。炭化水素系樹脂としては、例えば、エンジニアリングプラスチック、及びスルホン酸基が導入されたエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0020】
カソード側電極触媒層12Cは、カソードである空気極を構成する電極触媒層であり、高分子電解質膜11の片側の面に接合している。カソード側電極触媒層12Cは、高分子電解質膜11を介して輸送されたプロトンを、酸素を含む酸化剤により酸化するとともに、外部回路から電子を受け取るための層である。アノード側電極触媒層12Aは、アノードである燃料極を構成する電極触媒層であり、高分子電解質膜11におけるカソード側電極触媒層12Cが接合する面の反対側の面に接合している。アノード側電極触媒層12Aは、燃料ガスをプロトンと電子に分離するための層である。また、以下では、カソード側電極触媒層12C及びアノード側電極触媒層12Aを含む概念として電極触媒層と記載する場合がある。
【0021】
[電極触媒層]
以下、電極触媒層としての第1電極触媒層及び第2電極触媒層について説明する。カソード側電極触媒層12C及びアノード側電極触媒層12Aは共に第1電極触媒層である。または、カソード側電極触媒層12C及びアノード側電極触媒層12Aのいずれか一方は、第1電極触媒層であり、いずれか他方は、第2電極触媒層である。つまり、カソード側電極触媒層12C及びアノード側電極触媒層12Aの少なくとも一方を第1電極触媒層としている。これにより、高加湿条件及び低加湿条件の両方の運転条件における発電性能を向上させる効果が得られる。なお、上記効果を高める観点から、カソード側電極触媒層12C及びアノード側電極触媒層12Aの一方のみを第1電極触媒層とする場合には、空気極を構成するカソード側電極触媒層12Cを第1電極触媒層とすることが好ましい。
【0022】
(第1電極触媒層)
図2に示すように、第1電極触媒層20は、触媒担持粒子21と、高分子電解質22と、親水化カーボンファイバー23とを含む。また、第1電極触媒層20は、任意成分として、燃料電池の電極触媒層に含有される公知のその他成分を含んでもよい。
【0023】
<触媒担持粒子>
図3に示すように、触媒担持粒子21は、触媒21aと、触媒21aを担持する担体21bと、触媒21a及び担体21bを被覆する疎水性被膜21cとを備えている。
【0024】
触媒21aとしては、例えば、白金族に含まれる金属、白金族以外の金属、又はこれらの合金、酸化物、複酸化物、炭化物を用いることができる。白金族に含まれる金属としては、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムが挙げられる。白金族以外の金属としては、例えば、金、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムが挙げられる。これらの中でも、白金、金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、及びこれらの合金は、触媒としての活性が高く、好適である。なお、触媒担持粒子21を構成する触媒21aは、上記例の一種類のみであってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0025】
触媒21aの平均粒子径は、例えば、0.5nm以上20nm以下であることが好ましく、1nm以上5nm以下であることがより好ましい。触媒21aの平均粒子径を0.5nm以上とすることにより安定性の低下を抑制できる。また、触媒21aの平均粒子径を20nm以下とすることにより活性の低下を抑制できる。なお、本明細書では、粒度測定から求めた算術平均粒子径を平均粒子径と定義する。
【0026】
担体21bとしては、導電性を有し、触媒21aに侵されず、かつ触媒21aを担持することが可能な物質を用いる。担体21bを構成する上記物質としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等の炭素材料が挙げられる。なお、触媒担持粒子21を構成する担体21bは、上記例の一種類のみであってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0027】
担体21bの形状は特に限定されるものではなく、例えば、粒子形状であってもよいし、繊維形状であってもよい。なお、触媒21aの表面で生じる電子を円滑に系外に伝達する観点において、担体21bは、その外表面に触媒21aを担持可能な形状であることが好ましい。
【0028】
担体21bの平均粒子径は、例えば、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることがより好ましい。担体21bの平均粒子径を10nm以上とすることにより、電極触媒層内に電子の伝導経路が形成されやすくなる。また、担体21bの平均粒子径を1000nm以下とすることにより、第1電極触媒層20の厚みが増大することによる抵抗増加を抑制できる。
【0029】
疎水性被膜21cとしては、例えば、少なくとも一つの極性基を有するフッ素系化合物から形成される被膜を用いることができる。極性基としては、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、カーボネート基、アミド基が挙げられる。極性基の存在により、触媒21aを担持した担体21bの最表面にフッ素系化合物を固定化することができる。フッ素系化合物における極性基以外の部分は、疎水性及び化学的安定性の高さからフッ素及びカーボンからなる構造であることが好ましい。しかし、疎水性被膜21cが十分な疎水性及び化学的安定性を有するならばこのような構造に限られるものではない。
【0030】
疎水性被膜21cの膜厚は、十分に反応ガスを透過する膜厚であることが好ましい。疎水性被膜21cの膜厚は、例えば、40nm以下であることが好ましい。この場合、十分に反応ガスを透過させることができ、活性点への反応ガスの供給が阻害されることを抑制できる。
【0031】
また、疎水性被膜21cの膜厚は、例えば、2nm以上であることが好ましい。この場合、触媒担持粒子21に十分に疎水性を付与することができるとともに、電池反応により電極内に生成する生成水を十分に撥水することができる。また、この場合には、生成水の滞留を抑えることができ、その結果、活性点に対する反応ガスの供給が滞留した生成水により阻害されることを抑制できる。
【0032】
<高分子電解質>
高分子電解質22としては、プロトン伝導性を有する物質を用いる。プロトン伝導性を有する物質としては、例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質が挙げられる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)に代表されるテトラフルオロエチレン骨格を有するものが挙げられる。炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンが挙げられる。なお、第1電極触媒層20を構成する高分子電解質22は、上記例の一種類のみであってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0033】
第1電極触媒層20における高分子電解質の含有量は、例えば、第1電極触媒層20における担体21bの含有量を100質量部としたとき、40質量部以上100質量部以下であることが好ましい。高分子電解質の含有量を40質量部以上とすることにより、プロトンの伝導経路が欠損することによるプロトン伝導性の低下を抑制することができる。その結果、第1電極触媒層20におけるプロトン伝導性及び電子伝導性のバランスを確保することが容易になる。高分子電解質の含有量を100質量部以下とすることにより、触媒担持粒子21の触媒21aを好適に露出させることができる。その結果、第1電極触媒層20における触媒活性が向上する。
【0034】
<親水化カーボンファイバー>
親水化カーボンファイバー23としては、例えば、親水性を持つように製造された親水化カーボンファイバー、非親水性のカーボンファイバーに対して親水性を付与する処理が施された親水化カーボンファイバーを用いることができる。親水性を付与する処理としては、例えば、オゾンや酸素プラズマ処理、電解酸化処理、混酸処理が挙げられる。
【0035】
親水化カーボンファイバー23の形状は特に限定されるものではなく、例えば、中空構造であってもよいし、中実構造であってもよい。親水化カーボンファイバー23の具体例としては、VGCF(Vapor Grown Carbon Fiber)、CNT(Carbon Nano Tube)が挙げられる。なお、第1電極触媒層20を構成する親水化カーボンファイバー23は、上記例の一種類のみであってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0036】
親水化カーボンファイバー23の平均繊維長は、0.7μm以上20μm以下である。親水化カーボンファイバー23の平均繊維長を上記範囲とすることにより、親水化カーボンファイバー23を用いることによる第1電極触媒層20の保湿性を向上させつつ、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0037】
詳述すると、第1電極触媒層20に親水化カーボンファイバー23を含有させることにより得られる主な効果は、第1電極触媒層20内の保湿、第1電極触媒層20内における電子の伝導経路の構築、及び第1電極触媒層20の構造的強化である。親水化カーボンファイバー23の平均繊維長を0.7μm以上とすることにより、親水化カーボンファイバー23同士のネットワークが形成されやすくなる。これにより、第1電極触媒層20内における電子の伝導経路の構築及び第1電極触媒層20の構造的強化を十分に行うことができ、その結果、燃料電池の発電性能が向上する。親水化カーボンファイバー23の平均繊維長を20μm以下とすることにより、後述する触媒インクを用いて第1電極触媒層20を形成する際の親水化カーボンファイバー23の分散性を向上させることができる。
【0038】
また、燃料電池において、電池反応の結果、電極触媒層内に生成される生成水の量は、化学反応の量に比例する。そのため、高電流密度で発電した場合、生成水の量は増大する。この生成水が十分に電極触媒層外に排水されないと、電極触媒層に滞留した生成水がガスの拡散経路を塞ぐ場合がある。この場合、反応ガスが活性点に到達できず発電性能が著しく低下する現象であるフラッディング(flooding)が生じる。
【0039】
親水化カーボンファイバー23の平均繊維長を20μm以下とすることにより、第1電極触媒層20内に十分な空隙を確保することができ、第1電極触媒層20の排水性能が向上する。これにより、高電流密度で発電した場合にもフラッディングが生じ難くなり、燃料電池の発電性能が向上する。
【0040】
親水化カーボンファイバー23の平均繊維径は、例えば、10nm以上300nm以下であることが好ましい。この場合には、第1電極触媒層20内に適切な大きさの空隙を形成することができるため、第1電極触媒層20内のガス拡散性が向上する。
【0041】
第1電極触媒層20における親水化カーボンファイバー23の含有量は、第1電極触媒層20における担体21bの含有量を100質量部としたとき、5質量部以上30質量部以下である。また、親水化カーボンファイバー23の含有量は、5質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0042】
親水化カーボンファイバー23の含有量を5質量部以上とすることにより、親水化カーボンファイバー23同士のネットワークが形成されやすくなる。これにより、電極触媒層内における電子の伝導経路の構築及び電極触媒層の構造的強化を十分に行うことができる。その結果、燃料電池の発電性能が向上する。親水化カーボンファイバー23の含有量を30質量部以下とすることにより、第1電極触媒層20の厚みが増大することによる抵抗増加を抑制できる。
【0043】
(第2電極触媒層)
第2電極触媒層としては、膜電極接合体に適用される公知の電極触媒層を用いることができる。第2電極触媒層としては、例えば、疎水性被膜21cを有していない触媒担持粒子21を用いる点、及び親水化カーボンファイバー23を含まない点において第1電極触媒層20と相違し、その他の構成は、第1電極触媒層20と同様である電極触媒層が挙げられる。
【0044】
なお、第1電極触媒層及び第2電極触媒層の構成成分に用いられる上記の材料に関して、カソード側電極触媒層12Cに用いられる場合の材料と、アノード側電極触媒層12Aに用いられる場合の材料は、同一であってもよいし、少なくとも一部が異なっていてもよい。
【0045】
[固体高分子形燃料電池]
次に、膜電極接合体10を備える固体高分子形燃料電池の構成を説明する。以下では、固体高分子形燃料電池の一例として、単セルの固体高分子形燃料電池について説明する。固体高分子形燃料電池は、単セルの構成に限定されるものではなく、複数の単セルを備え、かつ複数の単セルが積層された構成であってもよい。
【0046】
図4に示すように、固体高分子形燃料電池30は、膜電極接合体10と、一対のガス拡散層31a、31bと、一対のセパレーター32a、32bとを備える。
ガス拡散層31a、31bは、反応ガスを均一に拡散するための層である。ガス拡散層31aは、膜電極接合体10のカソード側電極触媒層12Cと対向するように配置される。ガス拡散層31bは、膜電極接合体10のアノード側電極触媒層12Aと対向するように配置される。一対のガス拡散層31a、31bは、膜電極接合体10の厚さ方向において膜電極接合体10を挟んでいる。また、カソード側電極触媒層12C及びガス拡散層31aは、カソードである空気極を形成する。アノード側電極触媒層12A及びガス拡散層31bは、アノードである燃料極を形成する。
【0047】
ガス拡散層31a、31bは、電子伝導性及びガス拡散性を有する材料により構成される。ガス拡散層31a、31bを構成する材料としては、例えば、ポーラスカーボン材を用いることができる。ポーラスカーボン材としては、例えば、カーボンクロス、カーボンペーパー、不織布が挙げられる。
【0048】
セパレーター32a、32bは、電子を外部回路に取り出す役割を担う部材であり、ガス拡散層31bの外側に配置される。一対のセパレーター32a、32bは、膜電極接合体10の厚さ方向において、膜電極接合体10及び一対のガス拡散層31a、31bを挟んでいる。
【0049】
セパレーター32a、32bは、ガス流路33a、33b及び冷却水流路34a、34bを有している。ガス流路33a、33bは、反応ガスを流通させるための流路であり、セパレーター32a、32bにおけるガス拡散層31a、31bに対向する面に形成されている。冷却水流路34a、34bは、冷却水を流通させるための流路であり、セパレーター32a、32bにおけるガス拡散層31a、31bに対向する面と反対側の面に形成されている。
【0050】
セパレーター32a、32bは、導電性及びガスに対する不透過性を有する材料によって形成される。セパレーター32a、32bを構成する材料としては、例えば、カーボン材料、金属材料が挙げられる。また、セパレーター32a、32bを構成する材料は、ある程度強度を持ち成形性の良いものであることが好ましい。
【0051】
空気極を構成するガス拡散層31aに対向するセパレーター32aのガス流路33aには、反応ガスとしての酸化剤ガスが供給される。酸化剤ガスは、例えば、空気、酸素ガスである。燃料極を構成するガス拡散層31bに対向するセパレーター32bのガス流路33bには、反応ガスとしての燃料ガスが供給される。燃料ガスは、例えば、水素ガスである。
【0052】
固体高分子形燃料電池30は、燃料極に水素を含む燃料ガスが供給され、空気極に酸素を含む酸化剤ガスが供給されることにより、燃料極及び空気極において下記の式1及び式2に示す電極反応が生じ、発電する。また、固体高分子形燃料電池は、ガス供給装置や冷却装置などの付随装置と組み合わせて用いられる。
【0053】
燃料極:H2→2H++2e-・・・(式1)
空気極:1/2O2+2H++2e-→H2O・・・(式2)
[膜電極接合体の製造方法]
以下、膜電極接合体10の製造方法を説明する。
【0054】
膜電極接合体10の製造方法は、触媒インクを調製する調製工程と、触媒インクを用いて電極触媒層を形成する形成工程とを有する。
(調製工程)
調製工程では、電極触媒層を構成する各成分を、分散媒を用いて混合することにより触媒インクを調製する。
【0055】
分散媒は、電極触媒層を構成する各成分を分散できるものであれば特に限定されない。分散媒としては、例えば、水、アルコール、ケトン類又はその混合物が挙げられる。具体的には、水や、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等のアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイゾブチルケトン、メチルアミルケトン、ペンタノン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類を適宜使用することができる。
【0056】
また、触媒インクには、電極触媒層を構成する各成分を良好に分散させるための分散剤が含まれていてもよい。分散剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0057】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテルカルボン酸塩、エーテルカルボン酸塩、アルカノイルザルコシン、アルカノイルグルタミン酸塩、アシルグルタメート、オレイン酸・N-メチルタウリン、オレイン酸カリウム・ジエタノールアミン塩、アルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、特殊変成ポリエーテルエステル酸のアミン塩、高級脂肪酸誘導体のアミン塩、特殊変成ポリエステル酸のアミン塩、高分子量ポリエーテルエステル酸のアミン塩、特殊変成リン酸エステルのアミン塩、高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩、特殊脂肪酸誘導体のアミドアミン塩、高級脂肪酸のアルキルアミン塩、高分子量ポリカルボン酸のアミドアミン塩、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のカルボン酸型界面活性剤、ジアルキルスルホサクシネート、スルホコハク酸ジアルキル塩、1,2-ビス(アルコキシカルボニル)-1-エタンスルホン酸塩、アルキルスルホネート、アルキルスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホネート、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホネート-ホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホネート、アルカノイルメチルタウリド、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイル硫酸エステルナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸型界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、硫酸アルキル塩、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、アルキルポリエトキシ硫酸塩、ポリグリコールエーテルサルフェート、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、硫酸化油、高度硫酸化油等の硫酸エステル型界面活性剤、リン酸(モノ又はジ)アルキル塩、(モノ又はジ)アルキルホスフェート、(モノ又はジ)アルキルリン酸エステル塩、リン酸アルキルポリオキシエチレン塩、アルキルエーテルホスフェート、アルキルポリエトキシ・リン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、リン酸アルキルフェニル・ポリオキシエチレン塩、アルキルフェニルエーテル・ホスフェート、アルキルフェニル・ポリエトキシ・リン酸塩、ポリオキシエチレン・アルキルフェニル・エーテルホスフェート、高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルジナトリウム塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛等のリン酸エステル型界面活性剤が挙げられる。
【0058】
カチオン界面活性剤としては、例えば、ベンジルジメチル{2-[2-(P-1,1,3,3-テトラメチルブチルフェノオキシ)エトキシ]エチル}アンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂トリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、1-ヒドロキシエチル-2-牛脂イミダゾリン4級塩、2-ヘプタデセニルーヒドロキシエチルイミダゾリン、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン塩酸塩、トリエタノールアミンモノステアレートギ酸塩、アルキルピリジウム塩、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリアクリルアミドアミン塩、変成ポリアクリルアミドアミン塩、パーフルオロアルキル第4級アンモニウムヨウ化物が挙げられる。
【0059】
両性界面活性剤としては、例えば、ジメチルヤシベタイン、ジメチルラウリルベタイン、ラウリルアミノエチルグリシンナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、アミドベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチン、3-[ω-フルオロアルカノイル-N-エチルアミノ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、N-[3-(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]-N,N-ジメチル-N-カルボキシメチレンアンモニウムベタインが挙げられる。
【0060】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、オレイン酸ジエタノールアミド(1:1型)、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールヤシアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコール牛脂アミン、ポリエチレングリコール牛脂プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ジメチルステアリルアミンオキサイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、ポリビニルピロリドン、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ソルビットの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、砂糖の脂肪酸エステルが挙げられる。
【0061】
上記の界面活性剤の中でも、アルキルベンゼンスルホン酸、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸型の界面活性剤は、カーボンの分散効果に優れる点、分散剤の残存による触媒性能の変化が生じ難い点から、分散剤として好適に用いることができる。
【0062】
調製工程における分散方法は、触媒インクに含まれる各成分を分散できるものであれば特に限定されるものではなく、公知の分散方法を用いることができる。公知の分散方法としては、例えば、遊星型ボールミル、ビーズミル、又は超音波ホモジナイザーを用いた方法が挙げられる。また、触媒インクにおける各成分及び分散媒の配合比率は、塗工性や要求される発電性能に応じて適宜、選択することができる。
【0063】
(形成工程)
形成工程では、調製工程にて得られた触媒インクを基材に塗布した後、分散媒を揮発させる乾燥処理を行うことにより、塗膜状の電極触媒層を形成する。基材としては、高分子電解質膜11、転写用基材、又はガス拡散層31a、31bを用いることができる。
【0064】
基材に触媒インクを塗布する際の塗布方法は特に限定されるものではなく、スラリー状の混合物を基材上に均一な膜厚で塗布する場合に適用される公知の塗布方法を用いることができる。公知の塗布方法としては、例えば、ダイコート、バーコート、スプレーコート、ディッピング、スクリーン印刷が挙げられる。これらの中でも、比較的塗工できる触媒インクの粘度範囲が広い点、及び高い膜厚均一性で塗布することができる点から、ダイコート法を用いることが好ましい。
【0065】
乾燥処理に用いる乾燥方法は、分散媒を揮発させることができる方法であれば特に限定されるものではなく、オーブン、ホットプレート、遠赤外線を用いた方法等の公知の乾燥方法を用いることができる。また、乾燥処理における乾燥温度及び乾燥時間は、電極触媒層及び基材に用いた材料に応じて適宜選択することができる。
【0066】
また、基材として転写用基材を用いた場合には、転写用基材に形成された電極触媒層を、転写用基材から高分子電解質膜11に転写する処理を行う。その際の転写方法としては、例えば、熱圧着による転写方法を用いることができる。
【0067】
転写用基材は、形成された電極触媒層を離型させて、高分子電解質膜に転写できるものであれば特に限定されない。転写用基材としては、例えば、フッ素系樹脂フィルムを用いることができる。フッ素系樹脂フィルムは、転写性に優れている。フッ素系樹脂フィルムを構成するフッ素系樹脂としては、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
【0068】
転写用基材として、高分子電解質膜11又は転写用基材を用いた場合には、高分子電解質膜11の両面に電極触媒層を設けることにより膜電極接合体10が得られる。そして、得られた膜電極接合体10と、ガス拡散層31a、31bと、セパレーター32a、32bとを積層することにより、固体高分子形燃料電池30が得られる。
【0069】
また、転写用基材として、ガス拡散層31a、31bを用いた場合には、高分子電解質膜11と、電極触媒層が形成されたガス拡散層31a、31bとを積層することにより、ガス拡散層31a、31bを有する膜電極接合体10が得られる。そして、得られた膜電極接合体10にセパレーター32a、32bを積層することにより、固体高分子形燃料電池30が得られる。
【0070】
なお、カソード側電極触媒層12Cを製造する際の電極触媒層の製造方法と、アノード側電極触媒層12Aを製造する際の電極触媒層の製造方法は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【実施例0071】
次に、実施例及び比較例を挙げて上記実施形態を更に具体的に説明する。なお、本発明は、実施例欄に記載の構成に限定されるものではない。
[実施例1]
触媒担持粒子と、高分子電解質と、カーボンファイバーと、分散媒とを混合した混合液に対して分散処理を実施することにより触媒インクを調製した。高分子電解質の配合量は、触媒担持粒子に含まれる担体の配合量、即ち、担体換算の触媒担持粒子の配合量100質量部に対して70質量部となる量とした。カーボンファイバーの配合量は、担体換算の触媒担持粒子の配合量100質量部に対して20質量部となる量とした。分散媒の配合量は、触媒インクの固形分濃度が10質量%となる量とした。分散処理は、直径3mmのジルコニアボール及び遊星型ボールミルを用いて600rpmの回転速度で60分間、実施した。触媒インクに用いた各成分の詳細は以下のとおりである。
【0072】
触媒担持粒子:フッ素系化合物により形成される疎水性被膜を備えた白金担持カーボン触媒(担持密度50質量%、疎水性被膜の厚さ25nm)
高分子電解質:フッ素系高分子電解質(和光純薬工業社製ナフィオン(登録商標)分散液)
カーボンファイバー:親水化されていないカーボンファイバー(昭和電工社製VGCF-H(登録商標))に対して、酸素プラズマ処理による親水化処理を施したカーボンファイバー(平均繊維長6μm、平均繊維径150nm)
分散媒:水と1-プロパノールの質量比1:1の混合液
次に、ダイコーターを用いて、高分子電解質膜(Dupont社製ナフィオン(登録商標)211)の片面に対して、調製した触媒インクを塗布することにより、縦50mm×横50mmの四角形状の塗膜を形成した。触媒インクの塗布量は、白金担持量が0.3mg/cm2となる量とした。そして、80℃のオーブンを用いた乾燥処理を実施し、塗膜に含まれる分散媒を揮発させることにより、カソード側電極触媒層を形成した。
【0073】
次に、高分子電解質膜におけるカソード側電極触媒層が形成された面の反対の面に対して、調製した触媒インクを塗布することにより、縦50mm×横50mmの四角形状の塗膜を形成した。触媒インクの塗布量は、白金担持量が0.1mg/cm2となる量とした。そして、80℃のオーブンを用いた乾燥処理を実施し、塗膜に含まれる分散媒を揮発させてアノード側電極触媒層を形成することにより、実施例1の膜電極接合体を得た。
【0074】
[比較例1]
触媒担持粒子の種類を変更した点以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例1の膜電極接合体を得た。比較例1で用いた触媒担持粒子の詳細は以下のとおりである。
【0075】
触媒担持粒子:疎水性被膜を備えていない白金担持カーボン触媒(担持密度50質量%)
[比較例2]
カーボンファイバーの種類を変更した点以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例2の膜電極接合体を得た。比較例2で用いたカーボンファイバーの詳細は以下のとおりである。
【0076】
カーボンファイバー:親水化されていないカーボンファイバー(昭和電工社製VGCF-H(登録商標)、平均繊維長6μm、平均繊維径150nm)
[比較例3]
触媒担持粒子の種類を変更した点及びカーボンファイバーの種類を変更した点以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例3の膜電極接合体を得た。比較例3で用いた触媒担持粒子及びカーボンファイバーの詳細は以下のとおりである。
【0077】
触媒担持粒子:疎水性被膜を備えていない白金担持カーボン触媒(担持密度50質量%)
カーボンファイバー:親水化されていないカーボンファイバー(昭和電工社製VGCF-H(登録商標)、平均繊維長6μm、平均繊維径150nm)
[比較例4]
カーボンファイバーの配合量を、担体換算の触媒担持粒子の配合量100質量部に対して70質量部となる量とした点以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例4の膜電極接合体を得た。
【0078】
[比較例5]
カーボンファイバーの配合量を、担体換算の触媒担持粒子の配合量100質量部に対して2質量部となる量とした点以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例5の膜電極接合体を得た。
【0079】
[発電性能の評価]
実施例1及び比較例1~5の膜電極接合体の各々について、膜電極接合体を挟持するように、ガス拡散層であるカーボンペーパーを貼りあわせてサンプルを作製した。各サンプルを、発電評価セル内に設置し、燃料電池測定装置を用いて電流電圧測定を行った。測定時のセル温度は、80℃に設定した。運転条件は、以下に示す高加湿条件及び低加湿条件を採用した。また、燃料ガスとして水素を用い、酸化剤ガスとして空気を用いた。この際に、水素を水素利用率が80%となる流量で流すとともに、空気を酸素利用率が40%となる流量で流した。なお、背圧は50kPaとした。
【0080】
(運転条件)
高加湿条件:相対湿度 アノード90%RH、カソード80%RH
低加湿条件:相対湿度 アノード90%RH、カソード30%RH
測定された各サンプルの発電性能を表1の発電性能欄に示す。なお、表1では、電流密度が2.0A/cm2のときの電圧が0.65V以上である場合を「〇」で示し、同電圧が0、65V未満である場合を「×」で示している。
【0081】
【表1】
表1に示すように、実施例1を用いた場合には、高加湿条件及び低加湿条件のいずれの運転条件においても良好な発電性能を示した。また、高加湿条件の発電性能の評価が「〇」であることから、実施例1を用いた場合は、高加湿条件においてもフラッディングは生じておらず、生成水を十分に排水できていると考えられる。
【0082】
一方、疎水性被膜を備えていない触媒担持粒子を採用した比較例1を用いた場合には、高加湿条件における発電性能が低下した。親水化処理されていないカーボンファイバーを採用した比較例2を用いた場合には、低加湿条件における発電性能が低下した。疎水性被膜を備えていない触媒担持粒子及び親水化処理されていないカーボンファイバーを採用した比較例3を用いた場合には、高加湿条件及び低加湿条件の両方における発電性能が低下した。
【0083】
実施例1及び比較例1~3の結果から、疎水性被膜を備える触媒担持粒子及び親水化処理されたカーボンファイバーを組み合わせて用いることにより、高加湿条件及び低加湿条件の両方の運転条件における発電性能を向上させる効果が得られることが示された。この効果が得られるメカニズムは、以下のように推測される。実施例1では、電極触媒層を形成する触媒インクに、疎水性の物質である、疎水性被膜を備える触媒担持粒子と、親水性の物質である、親水化処理されたカーボンファイバーとを含有させている。これにより、塗布された触媒インクを乾燥させて電極触媒層を形成する際に、電極触媒層内に形成される空隙の形状及び分布などの構成が、発電時において、気体の水を層内に残しつつ、液体の水を層外へ排出することに適した構成になる。その結果、高加湿条件及び低加湿条件の両方の運転条件における発電性能が向上する。
【0084】
また、親水化カーボンファイバーの含有量が5質量部以上30質量部以下の範囲外である比較例4及び比較例5を用いた場合には、高加湿条件及び低加湿条件の両方における発電性能が低下した。比較例4及び比較例5の結果から、実施例1により得られる、高加湿条件及び低加湿条件における発電性能を向上させる効果は、疎水性被膜を備える触媒担持粒子及び親水化処理されたカーボンファイバーを単純に組み合わせて用いるのみでは得られないことが示された。そして、上記効果を得るためには、疎水性被膜を備える触媒担持粒子及び親水化処理されたカーボンファイバーを用いることに加えて、親水化カーボンファイバーの含有量を特定範囲に設定する必要があることが示された。