(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165841
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】排液器具
(51)【国際特許分類】
A61M 27/00 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
A61M27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071381
(22)【出願日】2021-04-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(71)【出願人】
【識別番号】521170567
【氏名又は名称】青木 信裕
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮原 英靖
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 大介
(72)【発明者】
【氏名】青木 信裕
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA03
4C267AA21
4C267AA33
4C267AA38
4C267BB25
4C267CC01
(57)【要約】
【課題】腹水または胸水を排液するためカニューレを腹部または胸部に対して略垂直に保持する処置を容易にする。
【解決手段】排液器具1は、腹腔内に留置されるカニューレ2と、カニューレ2の基端部に接続されたハブ3と、ハブ3を介してカニューレ2に挿入される穿刺針4と、ハブ3に接続される軟質管からなる廃液チューブ5と、カニューレ2を患者の穿刺部に対して略垂直な姿勢で保持する保持部6とを備えている。保持部6は、ハブ3に取り付けられるとともに、患者に固定される患者側固定部6b、6cを有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹腔に溜まった腹水または胸部に溜まった胸水を排液するための排液器具において、
先端部が腹腔内または胸腔内に留置されるカニューレと、
前記カニューレの基端部に接続されたハブと、
前記ハブを介して前記カニューレに挿入され、挿入状態で前記カニューレの先端部から突出するように配置される穿刺針と、
前記ハブに接続される軟質管からなる廃液チューブと、
前記カニューレを患者の穿刺部に対して略垂直な姿勢で保持する保持部とを備え、
前記保持部は、前記ハブに固定された状態で設けられるとともに、患者に固定される患者側固定部を有していることを特徴とする排液器具。
【請求項2】
請求項1に記載の排液器具において、
前記ハブは弁体を有しており、
前記穿刺針は、前記弁体を介して前記カニューレに挿入されることを特徴とする排液器具。
【請求項3】
請求項2に記載の排液器具において、
前記保持部は、前記カニューレよりも硬質な部材で構成されていることを特徴とする排液器具。
【請求項4】
請求項2または3に記載の排液器具において、
前記弁体は、前記ハブにおける前記カニューレの延長線上に配置されていることを特徴とする排液器具。
【請求項5】
請求項4に記載の排液器具において、
前記ハブには、前記廃液チューブの上流部が接続されるチューブ接続筒部が前記カニューレの延長線と交差する方向に突出するように設けられていることを特徴とする排液器具。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の排液器具において、
前記ハブには、前記カニューレの基端部が接続されるカニューレ接続筒部が前記カニューレの延長線方向に突出するように設けられ、
前記保持部は、前記カニューレ接続筒部に取り付けられていることを特徴とする排液器具。
【請求項7】
請求項6に記載の排液器具において、
前記保持部は、所定方向に長い板状をなしており、
前記保持部の長手方向中間部には、前記カニューレ接続筒部が嵌入する嵌入孔が形成され、
前記保持部は、前記嵌入孔に前記カニューレ接続筒部を嵌入した状態で取り付けられていることを特徴とする排液器具。
【請求項8】
請求項7に記載の排液器具において、
前記保持部の前記嵌入孔が形成された部位よりも長手方向一側及び他側に、それぞれ前記患者側固定部を有していることを特徴とする排液器具。
【請求項9】
請求項7または8に記載の排液器具において、
前記保持部の前記嵌入孔が形成された部位よりも長手方向一側及び他側は、前記カニューレの先端方向へ向けて折り曲げ可能に構成されていることを特徴とする排液器具。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1つに記載の排液器具において、
前記カニューレには、体内への穿刺深さを示す目盛りが設けられていることを特徴とする排液器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹腔に溜まった腹水や胸腔に溜まった胸水を排液するための排液器具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば腹部の臓器に発生した癌等による炎症のため、腹腔に腹水が溜まることがある。腹腔に溜まった腹水は排液する必要があり、その排液処置の際に静脈用留置針や透析用留置針が利用される場合がある。
【0003】
また、特許文献1には、腹水等排除用穿刺具として、外筒の基端部に連通するT字管と、このT字管を介して外筒に挿入可能な内針と、T字管に接続される排液パイプとを備えたものが開示されている。使用時には、内針を外筒に挿入した状態で腹部に穿刺し、所望の深さまで穿刺した後、内針を抜くとともに、排液パイプの中途部に設けられた固定用ひれ体を患部近傍に接着テープ等で固定するようにしている。
【0004】
また、特許文献2には、腹水を排液する際に腹部に穿刺された留置針の外筒チューブを腹部に対して略垂直で保持するための外筒チューブ固定具が開示されている。外筒チューブ固定具は、外筒チューブを固定する天面部と、天面部に連設され、天面部と腹部との距離を一定に保つための側面部とを有している。外筒チューブは、天面部に形成されたスリットに挟み込まれた状態で保持されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-4885号公報
【特許文献2】実用新案登録第3215534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、腹水の排液処置の際には、特許文献2にも開示されているように外筒チューブを腹部に対して略垂直にすることで排液の効率を高めることが可能になる。しかしながら、静脈用留置針や透析用留置針を利用する場合、これら留置針は体表面に近い血管に穿刺される針であることから、体表面に沿うような方向で穿刺されるものであり、略垂直に穿刺した状態で保持することが想定されていない。
【0007】
そこで、例えば特許文献1に開示されている腹水等排除用穿刺具を用いることが考えられる。この腹水等排除用穿刺具は、排液パイプの中途部に設けられた固定用ひれ体を患部近傍に接着テープ等で固定可能になっているが、排液パイプは軟質材であることから、固定用ひれ体を固定したとしても、外筒を固定できるものではなく、したがって外筒の角度を保持できるものではない。
【0008】
これに対し、特許文献2に開示されている外筒チューブ固定具を用いれば、外筒チューブを腹部に対して略垂直に保持することができると考えられる。しかしながら、外筒チューブ固定具が外筒チューブとは別体であることから、固定の際、外筒チューブ固定具のスリットに外筒チューブを通して挟む必要があるとともに、挟んだ状態で外筒チューブが外筒チューブ固定具に対してずれないように固定する必要があり、処置が煩雑である。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、腹水や胸水を排液するためカニューレを腹部や胸部に対して略垂直に保持する処置を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の開示は、腹腔に溜まった腹水または胸部に溜まった胸水を排液するための排液器具において、先端部が腹腔内に留置されるカニューレと、前記カニューレの基端部に接続されたハブと、前記ハブを介して前記カニューレに挿入され、挿入状態で前記カニューレの先端部から突出するように配置される穿刺針と、前記ハブに接続される軟質管からなる廃液チューブと、前記カニューレを患者の穿刺部に対して略垂直な姿勢で保持する保持部とを備えている。前記保持部は、前記ハブに固定された状態で設けられるとともに、患者に固定される患者側固定部を有している。
【0011】
この構成によれば、穿刺針を、ハブの弁体を介してカニューレに挿入すると、穿刺針の先端部がカニューレから突出するように配置される。この状態で患者の腹部に穿刺することで、カニューレの先端部を腹腔内の所定位置に配置することができる。その後、保持部の患者側固定部を患者に固定すると、カニューレが穿刺部に対して略垂直な姿勢で保持される。このとき、保持部は、予めハブに固定されているので、現場において保持部をハブに固定するという処置は不要であるとともに、保持部とハブとの相対的な位置ずれが抑制される。また、保持部が廃液チューブよりも硬質な部材からなるものなので、保持部自体は変形し難く、カニューレの姿勢の崩れが抑制される。穿刺針を胸部に穿刺して胸水を排水する場合も同様である。
【0012】
第2の開示では、前記ハブは弁体を有しており、前記穿刺針は、前記弁体を介して前記カニューレに挿入されるものである。
【0013】
第3の開示では、前記保持部が、前記カニューレよりも硬質な部材で構成されているものである。
【0014】
第4の開示では、前記弁体が前記ハブにおける前記カニューレの延長線上に配置されているので、穿刺後、穿刺針をカニューレから抜く時、カニューレの延長線上に引き抜くだけでよく、手技が容易になる。
【0015】
第5の開示では、前記ハブに、前記廃液チューブの上流部が接続されるチューブ接続筒部が前記カニューレの延長線と交差する方向に突出するように設けられているので、穿刺針をカニューレから抜く方向と、廃液チューブの上流部の延びる方向とが異なることになり、穿刺針をカニューレから抜く時に廃液チューブが邪魔にならず、手技が容易になる。また、チューブ接続筒部とカニューレの延長線とは直交する位置関係にあることで、カニューレが廃液チューブとの接触による抜け防止にも効果的である。チューブ接続筒部とカニューレの延長線とは直交する位置関係にあってもよい。
【0016】
第6の開示では、前記ハブには、前記カニューレの上流部が接続されるカニューレ接続筒部が前記カニューレの延長線方向に突出するように設けられており、前記保持部は、前記カニューレ接続筒部に取り付けられている。この構成によれば、保持部をカニューレの基端部に近づけることができるので、カニューレの姿勢を保持し易くなる。
【0017】
第7の開示では、前記保持部が所定方向に長い板状をなしており、前記保持部の長手方向中間部には、前記カニューレ接続筒部が嵌入する嵌入孔が形成され、前記保持部は、前記嵌入孔に前記カニューレ接続筒部を嵌入した状態で取り付けられている。
【0018】
第8の開示では、前記保持部の前記嵌入孔が形成された部位よりも長手方向一側及び他側がそれぞれ前記患者側固定部とされているので、患者に対して保持部の複数箇所を固定することができ、保持部を安定させることがきる。
【0019】
第9の開示では、前記保持部の前記嵌入孔が形成された部位よりも長手方向一側及び他側は、前記カニューレの先端方向へ向けて折り曲げ可能に構成されている。すなわち、腹腔内の腹水の量が多い時にはカニューレを深く刺す必要があるので、保持部の長手方向一側及び他側を折り曲げることなく、平らに近い形状にしておけばよいが、腹水の量が少なくなってくると、カニューレの穿刺深さを浅くすることによって対応する必要があり、この時、保持部の長手方向一側及び他側をカニューレの先端方向へ向けて折り曲げた状態で患者に固定することで、カニューレの穿刺深さを浅く維持できる。胸水を排水する場合も同様である。
【0020】
第10の開示では、前記カニューレには、体内への穿刺深さを示す目盛りが設けられていることを特徴とするものである。これにより、カニューレ2の体内への穿刺深さを目視で確認することができ、穿刺作業が容易になる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、腹水または胸水を排液するためカニューレを患者の穿刺部に対して略垂直な姿勢で保持する保持部をハブに固定したので、カニューレを腹部または腹部に対して略垂直に保持する処置を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態1に係る排液器具を上方から見た斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る排液器具の分解斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る排液器具を下方から見た斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る排液器具の側面図である。
【
図5】本発明の実施形態1に係る排液器具を廃液側から見た図である。
【
図6】本発明の実施形態1に係る排液器具を穿刺側から見た図である。
【
図10】本発明の実施形態2に係る
図4相当図である。
【
図11】本発明の実施形態2に係る
図3相当図である。
【
図12】本発明の実施形態3に係る
図1相当図である。
【
図13】排液器具の使用例を示す
図7相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る排液器具1を示すものである。排液器具1は、例えば腹部の臓器に発生した癌等による炎症のため、腹腔に腹水が溜まった場合、その腹腔に溜まった腹水を排液する排液処置の際に使用される器具である。また、排液器具1は、胸腔に胸水が溜まった場合、その胸腔に溜まった胸水を排液する排液処置の際に使用することもできる。
この排液器具1は医療従事者が使用するものであり、医療器具と呼ぶこともできる。
【0025】
排液器具1は、カニューレ2と、ハブ3と、穿刺針4と、廃液チューブ5と、保持部6とを備えている。排液器具1は、一度使用したら廃棄する、いわゆる使い捨てタイプの器具である。穿刺針4は、
図1及び
図2ではカニューレ2から抜いた状態を示しており、
図4ではカニューレ2に挿入した状態を示している。
【0026】
カニューレ2は、軟質樹脂製の管体からなる部材であり、外針、外筒と呼ぶこともできる。カニューレ2を構成する樹脂材としては、例えばポリウレタンやテフロン等を挙げることができる。このような樹脂材を用いることで、カニューレ2に適度な柔軟性を持たせることができる。例えば、例えば患者に穿刺したカニューレ2の基端部に対して曲げ力が作用するとカニューレ2が容易に曲がり、患者に痛みを与えることなく、また患者の組織に損傷を与えないようにすることができる。また、患者へ穿刺した状態で潰れないようになっており、内部の液体流路が確保されるようになっている。カニューレ2には、体内への穿刺深さを示す目盛りが設けられていてもよい。これにより、カニューレ2の体内への穿刺深さを目視で確認することができ、穿刺作業が容易になる。目盛りの単位はmmであってもよいし、cmであってもよい。
【0027】
カニューレ2は腹腔内に留置される先端部において開口している。また、カニューレ2の中心線方向中央部よりも先端部寄りには、複数の開口部2aが互いにカニューレ2の中心線方向に間隔をあけて設けられている。複数の開口部2aの開口方向は互いに異なる方向に設定することができる。先端部の開口とは別に側面に開口部2aを設けることで、合計の開口面積を拡大させて腹水が流入し易くなる。カニューレ2における開口部2aが形成されている部分は、腹腔内に留置される部分である。
図4に、カニューレ2の中心線の延長線を符号100で示している。
【0028】
ハブ3は、カニューレ2の基端部に接続される部材であり、カニューレ2の基端部と廃液チューブ5とを接続するコネクタ部材と呼ぶこともできる。
図2に示すように、ハブ3は、筒状の本体部31と、弁体32と、カバー33とを備えている。本体部31及びカバー33は、カニューレ2を構成する樹脂材よりも硬質な硬質樹脂材で構成されており、容易に変形しないような剛性を有している。ハブ3の樹脂材としては、例えばポリプロピレンやポリカーボネート等を挙げることができる。
【0029】
本体部31には、廃液チューブ5の上流部が接続されるチューブ接続筒部31aがカニューレ2の延長線100と交差する方向に突出するように設けられている。廃液チューブ5の上流部がチューブ接続筒部31a内に差し込まれた状態で、例えば接着等により液密に接続されている。本体部31は一体成形品であり、本体部31の一部がチューブ接続筒部31aである。尚、本体部31とチューブ接続筒部31aとを別部材で構成し、本体部31にチューブ接続筒部31aを取り付けるようにしてもよい。
【0030】
この実施形態では、側面視でチューブ接続筒部31aがカニューレ2の延長線100と直交する方向に突出しているが、これに限らず、側面視でチューブ接続筒部31aとカニューレ2の延長線100とは直交していなくてもよい。また、この実施形態では、平面視(カニューレ2の延長線100方向に沿って見たとき)で、チューブ接続筒部31aがカニューレ2の延長線100と直交する方向に突出しているが、これに限らず、平面視においてもチューブ接続筒部31aとカニューレ2の延長線100とは直交していなくてもよい。
【0031】
本体部31には、カニューレ2の基端部が接続されるカニューレ接続筒部31bがカニューレ2の延長線100方向に突出するように設けられている。カニューレ2の基端部がカニューレ接続筒部31b内に差し込まれた状態で、例えば接着等により液密に接続されている。本体部31は一体成形品であることから、本体部31の一部がカニューレ接続筒部31bである。尚、本体部31とカニューレ接続筒部31bとを別部材で構成し、本体部31にカニューレ接続筒部31bを取り付けるようにしてもよい。
【0032】
この実施形態では、カニューレ接続筒部31bの中心線がカニューレ2の延長線100と同軸上に位置するように、カニューレ接続筒部31bが設けられているが、これに限らず、延長線100方向に沿って見たとき、カニューレ接続筒部31bの中心線とカニューレ2の延長線100とは、径方向にずれていてもよい。
【0033】
カニューレ接続筒部31bの外周面には、その基端部に形成される基端側突出部31cと、基端側突出部31cから先端部寄りに離れて形成される中間突出部31dとが設けられている。基端側突出部31cは、カニューレ接続筒部31bの外周面から径方向に突出して周方向に延びるフランジ状をなしている。中間突出部31dも、カニューレ接続筒部31bの外周面から径方向に突出して周方向に延びるフランジ状をなしている。基端側突出部31cと中間突出部31dとの間隔は、後述する保持部6の中央部の厚みと同程度に設定されている。また、基端側突出部31cの外径は、中間突出部31dの外径よりも大きく設定されている。
【0034】
本体部31におけるカニューレ接続筒部31bの反対側は開放されている。この本体部31におけるカニューレ接続筒部31bの反対側には、弁体32が収容されるようになっている。弁体32は、例えばゴム等の弾性変形可能な材料で構成されており、本体部31の内周面に対して全周に亘って接触する円板状をなしている。弁体32の中心部は、カニューレ2の延長線100上に位置付けられている。すなわち、弁体32は、ハブ3における前記カニューレ2の延長線100上に配置されている。
【0035】
図4に示すように、弁体32には穿刺針4が穿刺され、弁体32に穿刺された穿刺針4は、弁体32を介してカニューレ2に挿入される。穿刺針4は、カニューレ2への挿入状態でカニューレ2の先端部の開口から突出するように配置される。穿刺針4におけるカニューレ2の先端部から突出した部分は、先鋭形状となっている。また、穿刺針4の基端部には医療従事者が把持する把持部4aが設けられている。
【0036】
例えば弁体32の中央部を貫通するように穿刺針4を穿刺することで、穿刺針4をカニューレ2に挿入することができる。この挿入状態では、穿刺針4の外周面の形状に沿うように弁体32が弾性変形することで、弁体32と穿刺針4の外周面との間からの液漏れが抑制される。また、穿刺針4を抜き取ると、弁体32の形状が穿刺針4の跡を閉塞するように復元する。これにより、穿刺針4を抜き取った後も弁体32からの液漏れが抑制される。弁体32の構成は上述した構成に限られるものではなく、従来から周知の弁構造を用いることができる。
【0037】
カバー33は、本体部31の開放部分を覆うことによって当該本体部31に収容された弁体32の脱落を抑制するための部材である。
図1や
図2に示すように、カバー33の中央部には、貫通孔33aが形成されている。貫通孔33aは、弁体32の中央部と一致しており、穿刺針4を貫通孔33aに差し込んでいくと、弁体32の中央部に穿刺することが可能になっている。カバー33の周縁部は、本体部31の開放部分の周縁部に固定されており、カバー33と本体部31とは一体化されている。
【0038】
廃液チューブ5は、ハブ3に接続される軟質管で構成されている。廃液チューブ5を構成する樹脂材としては、例えば塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリウレタン等を挙げることができ、ハブ3の本体部31よりも軟質な材料で構成されている。廃液チューブ5の径は、カニューレ2の径よりも大きく設定されている。また、廃液チューブ5の長さは、カニューレ2の長さと同程度であってもよいし、カニューレ2の長さよりも長くてもよく、特に限定されるものではない。
【0039】
廃液チューブ5の下流部には、筒状の硬質樹脂材からなるコネクタ部材51が接続されている。コネクタ部材51には、図示しないが排液した腹水を貯留するバッグから延びるチューブが接続されるようになっている。
【0040】
保持部6は、廃液チューブ5よりも硬質な部材からなり、カニューレ2を患者の穿刺部に対して略垂直な姿勢で保持するためのものである。カニューレ2を使用して腹腔内の腹水を排液する場合には、カニューレ2を患者の穿刺部に対して略垂直にしておくのが排水効率の観点から好ましい。穿刺部は狭い面積を持った面であるが、この穿刺部を構成している面は平面に近似して考えることができる。この平面に直交する方向が垂直な方向であり、カニューレ2の姿勢をそのようにするのが好ましい。尚、カニューレ2を患者の穿刺部に対して厳密に垂直にしておかなくてもよく、例えば、患者の穿刺部に対して80度以下の傾斜角を持ってカニューレ2を保持してもよい。つまり、腹腔内の腹水の排液効率が殆ど低下しない程度の傾斜角であれば、「略垂直」に含まれる。
【0041】
保持部6を構成する樹脂材としては、例えば熱可塑性エラストマーやゴム等を挙げることができる。保持部6は、ハブ3のカニューレ接続筒部31bに固定された状態で設けられる。具体的には、
図2に示すように、保持部6は、所定方向に長い板状をなしている。保持部6の長手方向中間部には、カニューレ接続筒部31bが嵌入する嵌入孔60が形成されている。嵌入孔60の形状は、略円形であり、カニューレ接続筒部31bにおける基端側突出部31cと中間突出部31dとの間の部分の外形状と略一致している。嵌入孔60の径は、基端側突出部31cの外径及び中間突出部31dの外径よりも小さく設定されており、カニューレ接続筒部31bにおける基端側突出部31cと中間突出部31dとの間の部分の外径と略一致している。また、保持部6の嵌入孔60が形成された部分、即ち中央部6aの肉厚は、保持部6の中央部6aよりも長手方向一側の一側部6b及び保持部6の中央部6aよりも長手方向他側の他側部6bの肉厚よりも厚く設定されている。保持部6をカニューレ接続筒部31bに固定する際には、カニューレ接続筒部31bをその先端側から保持部6の嵌入孔60に押し込んでいき、中間突出部31dないし保持部6の嵌入孔60周りを弾性変形させながら、保持部6の中央部6aが中間突出部31dを乗り越えるまでカニューレ接続筒部31bを押し込む。保持部6の中央部6aが中間突出部31dを乗り越えて基端側突出部31cと中間突出部31dとの間に配置されると、保持部6の中央部6aが基端側突出部31cと中間突出部31dとで厚み方向に挟持される。これにより、保持部6は、嵌入孔60にカニューレ接続筒部31bを嵌入した状態で固定されて、ハブ3から容易に離脱しないように一体化する。尚、保持部6とハブ3とは接着してもよいし、保持部6とハブ3とを樹脂材によって一体成形してもよい。
【0042】
保持部6の一側部6b及び他側部6bは、患者に固定される患者側固定部である。この実施形態では、一側部6b及び他側部6bの両方を患者側固定部としているが、一方のみ患者側固定部としてもよい。一側部6b及び他側部6bを患者に固定する際には、例えば医療の分野で従来から用いられている粘着テープ(図示せず)を利用することができ、この粘着テープによって一側部6b及び他側部6bを患者の皮膚に貼り付けて固定する。一側部6b及び他側部6bの固定方法は、粘着テープによる固定方法に限られるものではない。
【0043】
一側部6bには、複数の開口部6dが保持部6の長手方向に互いに間隔をあけて設けられている。また、同様に他側部6bにも複数の開口部6eが設けられている。開口部6d、6eは省略してもよい。
【0044】
保持部6の一側部6b及び他側部6bは、カニューレ2の先端方向へ向けて折り曲げ可能に構成されている。
図5は、保持部6の一側部6b及び他側部6bが平坦な形状の場合を示している。この
図5では、カニューレ2を最も深い所まで穿刺できる。
【0045】
図7は、保持部6の一側部6b及び他側部6bをカニューレ2の先端方向へ向けて折り曲げた状態を示しており、一側部6b及び他側部6bにおける中央部6a近傍を屈曲させることで、中央部6aが一側部6b及び他側部6bよりもカニューレ2の基端方向(反穿刺方向)に位置する。これにより、
図5に示す場合に比べてカニューレ2の穿刺深さは浅くなる。また、
図5及び
図7に示す場合、一側部6b及び他側部6bの大部分が患者の皮膚に沿って延びているので、患者へ固定可能な範囲が広くなる。
【0046】
また、
図8及び
図9は、保持部6の一側部6b及び他側部6bをカニューレ2の先端方向へ向けて折り曲げた状態を示しており、
図7に示す場合に比べて中央部6aが一側部6bの先端部及び他側部6bの先端部よりも反穿刺方向に離れている。従って、カニューレ2の穿刺深さは
図7に示す場合に比べて浅くなる。尚、カニューレ2の穿刺深さは一側部6b及び他側部6bの形状によって略無段階に設定することができる。
【0047】
図8及び
図9に示す場合、一側部6bの先端部及び他側部6bの先端部が患者の皮膚に沿って延びる部分であり、この部分を粘着テープで固定することができる。
図8及び
図9に示す場合、患者へ固定可能な範囲は、
図5及び
図7に示す場合に比べて狭くなるが、少なくとも2か所は固定箇所として確保できるので、安定性に問題はない。このように、一側部6b及び他側部6bを変形させることにより、一側部6bの先端部及び他側部6bの先端部と、中央部6aとの穿刺方向の距離を変更させることができる。
【0048】
すなわち、保持部6の一側部6b及び他側部6bは、
図5に示す形状、
図7に示す形状、及び
図8に示す形状のいずれの形状にも変形させることができる。そして、保持部6の一側部6b及び他側部6bは、変形後の形状を維持する形状維持性を備えている。このような形状維持性は、上述した樹脂材を用いることで可能になる。また、例えば金属板を埋め込むことにより、当該金属板を塑性変形させることによっても、保持部6の一側部6b及び他側部6bを変形後の形状で維持できる。
【0049】
(排液器具1の使用方法)
排液器具1を使用する際には、はじめに、
図4に示すように穿刺針4をカニューレ2に挿入しておく。また、腹水を排液する初期段階では腹水が多いと想定されるので、
図5に示すようにカニューレ2を深く穿刺できるように、保持部6の一側部6b及び他側部6bを平坦に近い形状にしておく。その後、穿刺針4とカニューレ2を患者の腹部に穿刺し、カニューレ2の先端部が所望の深さに達した時点で穿刺を停止し、穿刺針4をカニューレ2から抜き取る。抜き取った後は弁体32によってハブ32が閉塞されるので液漏れは起こらない。
【0050】
また、カニューレ2を穿刺部に対して略垂直な姿勢とした後、保持部6の一側部6b及び他側部6bを患者の皮膚に固定する。これにより、カニューレ2が倒れることはなく、排液効率を高めることができる。腹腔内の腹水はカニューレ2内の流路を流通してハブ3の本体部31に達し、廃液チューブ5から廃液されていく。
【0051】
腹腔内の腹水が減少すると、カニューレ2を少しだけ抜き、穿刺深さを浅くする。このとき、その穿刺深さに対応するように、
図7に示すように保持部6の一側部6b及び他側部6bを折り曲げたり、
図8に示すように保持部6の一側部6b及び他側部6bを折り曲げた後、一側部6b及び他側部6bを患者の皮膚に固定する。これにより、カニューレ2の穿刺深さが浅くなったとしても、カニューレ2を穿刺部に対して略垂直な姿勢で保持できる。胸水を排液する場合も腹水の場合と同様に、排液器具1を使用することができる。
【0052】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、保持部6の一側部6b及び他側部6bを患者に固定すると、カニューレ2が穿刺部に対して略垂直な姿勢で保持されるので排液効率を高めることができる。このとき、保持部6は、予めハブ3に固定されているので、現場において保持部6をハブ3に固定するという処置は不要であるとともに、保持部6とハブ3との相対的な位置ずれが抑制される。また、保持部6が廃液チューブ5よりも硬質な部材からなるものなので、保持部6自体は変形し難く、カニューレ2の姿勢の崩れが抑制される。
【0053】
また、保持部6の一側部6b及び他側部6bが折り曲げ可能に構成したので、腹水の量に応じてカニューレ2の穿刺深さを変更しても、カニューレ2を穿刺部に対して略垂直な姿勢で保持できる。
【0054】
(実施形態2)
図10及び
図11は、本発明の実施形態2に係る排液器具1を示すものである。実施形態2の排液器具1は、実施形態1のものに対し、保持部6の形状を使用者が変更できないようになっている点で異なっており、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0055】
この実施形態2では、保持部6の形状が予め決まった形状となっており、使用者が保持部6を折り曲げることができなくなっている。この実施形態2の場合も、保持部6の一側部6b及び他側部6bを患者の皮膚に固定することでカニューレ2を穿刺部に対して略垂直な姿勢とすることができる。よって、実施形態1と同様な作用効果を奏することができる。
【0056】
(実施形態3)
図12は、本発明の実施形態3に係る排液器具1を示すものである。実施形態3の排液器具1は、実施形態1のものに対し、保持部6の形状を使用者が変更できないようになっている点と、ハブ3の形状とが異なっており、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0057】
この実施形態3では、実施形態2と同様な保持部6を有している。また、ハブ3は筒状に成形されており、全体として、カニューレ2が接続されるカニューレ接続筒部31bの中心線方向に延びている。ハブ3におけるカニューレ接続筒部31bと反対側の端部には、穿刺針4が挿入される挿入孔3fが形成されている。穿刺後、穿刺針4を抜いた後、挿入孔3fに実施形態1と同様な廃液チューブ(図示せず)を、コネクタ部材(図示せず)を介して接続することができる。コネクタ部材は従来から周知のルアーテーパを有するものであるので、液漏れは起こらないようになっている。
【0058】
この実施形態3の場合も、保持部6の一側部6b及び他側部6bを患者の皮膚に固定することでカニューレ2を穿刺部に対して略垂直な姿勢とすることができる。よって、実施形態1と同様な作用効果を奏することができる。
【0059】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0060】
例えば、穿刺針4の先端部が腹水や胸水まで届くように保持部6を折り畳んだ後、穿刺針4を患者に穿刺することも可能である。これにより、カニューレ2の穿刺深さを保持部6によって任意に変更することが可能になる。
【0061】
また、
図13に示すように、保持部6とハブ3の位置関係は、保持部6の一側部6b及び他側部6cがハブ3の下面と同じか、ハブ3の下面よりも穿刺針4の先端側の部分で固定されることが好ましい。また、穿刺後、必要に応じて保持部6を変形させればよく、保持部6を変形させずに使用してもよい。
【0062】
また、保持部6は回転させることができる。保持部6を回転させることで、カニューレ2が抜け難くなる任意の角度で腹壁に固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明に係る排液器具は、腹腔に溜まった腹水や胸腔に溜まった胸水を排液する際に使用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 排液器具
2 カニューレ
3 ハブ
4 穿刺針
5 廃液チューブ
6 保持部
6b 一側部(患者側固定部)
6c 他側部(患者側固定部)
31a チューブ接続筒部
31b カニューレ接続筒部
32 弁体
60 嵌入孔