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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165846
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20221025BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221025BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20221025BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071389
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 瑞貴
(72)【発明者】
【氏名】田口 海志
(72)【発明者】
【氏名】小野 義隆
(72)【発明者】
【氏名】安田 博文
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AJ11
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029HJ04
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】充電時の固体電解質層へのダメージを低減する全固体電池を提供する。
【解決手段】正極層、固体電解質層、負極集電箔を備えた全固体電池において、前記固体電解質層の外周を周回するように弾性体が配置され、前記弾性体は、前記弾性体の外周を形成するとともに全固体電池の厚み方向から挟まれて接合している外側部材と、前記弾性体の内周を形成する内側部材と、を備え、前記内側部材の内周面は、前記正極層側に傾斜した第1傾斜面であり、前記固体電解質層は、全固体電池が完全放電状態のときに前記第1傾斜面に接触している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、固体電解質層、負極集電箔を備えた全固体電池において、
前記固体電解質層の外周を周回するように弾性体が配置され、
前記弾性体は、前記弾性体の外周を形成するとともに全固体電池の厚み方向から挟まれて接合している外側部材と、
前記弾性体の内周を形成する内側部材と、を備え、
前記内側部材の内周面は、前記正極層側に傾斜した第1傾斜面であり、
前記固体電解質層は、全固体電池が完全放電状態のときに前記第1傾斜面に接触している全固体電池。
【請求項2】
前記固体電解質層は、全固体電池が完全放電状態のときに前記負極集電箔と接触する中央部と、前記固体電解質層の平面視した外周を形成するとともに前記中央部よりも厚みが薄く且つ前記負極集電箔から離間している周縁部と、前記中央部と前記周縁部の間を周回するように配置され前記中央部の前記負極集電箔の側の主面と前記周縁部の前記負極集電箔の側の主面に接続するとともに全固体電池が完全放電状態のときに前記第1傾斜面に接触する第2傾斜面を備える傾斜部と、を備え、
前記外側部材は、前記負極集電箔と前記周縁部との間に挟まれて接合している請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記正極層の外周には絶縁性の枠材が配置され、
前記外側部材は、前記負極集電箔と前記枠材との間に挟まれて接合している請求項1に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記固体電解質層は、平面視でその外形が前記正極層の外形を内側に収容するように配置されている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記内側部材の内周は、平面視で前記正極層の外周と重なる位置又は前記正極層の外周よりも外側となる位置に配置されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記弾性体の接合面には弾性接着剤による接合層が配置されている請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、全固体電池の製造方法において、正極層、固体電解質層、及び負極層からなる構造体を正極集電箔及び負極集電箔で挟み込むとともに当該構造体の外周を周回するように耐熱性の絶縁部材を配置し、当該絶縁部材の内周及び当該内周よりも内側の領域を構造体の積層方向に加熱圧縮する内容が開示されている。
【0003】
特許文献1では、上記のように加熱圧縮することで固体電解質層の軟化に起因する固体電解質層の薄層化や正極-負極間の短絡を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5131283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の全固体電池を充電すると負極層と負極集電箔との間にリチウム金属層が析出されこの分だけ前記の構造体の厚みが膨張し、これに応じて絶縁部材の厚みも膨張する。このため、固体電解質層は絶縁部材の膨張により絶縁部材から応力(摩擦力)を受け破損する虞がある。
【0006】
本発明は、充電時の固体電解質層へのダメージを低減する全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による全固体電池は、正極層、固体電解質層、負極集電箔を備えた全固体電池において、固体電解質層の外周を周回するように弾性体が配置され、弾性体は、弾性体の外周を形成するとともに全固体電池の厚み方向から挟まれて接合している外側部材と、弾性体の内周を形成する内側部材と、を備える。内側部材の内周面は、正極層側に傾斜した第1傾斜面である。固体電解質層は、全固体電池が完全放電状態のときに第1傾斜面に接触している。
【発明の効果】
【0008】
全固体電池は、厚み方向から押圧されているので、固体電解質層と弾性体は面方向で互いに押し合う関係にある。また全固体電池を充電すると、負極集電箔と固体電解質層の間にリチウム金属層が析出され、リチウム金属層の厚みの変化に追従して、弾性体は厚み方向に膨張(伸展)し、固体電解質層はリチウム金属層及び弾性体から摩擦力を受ける。しかし、本発明によれば、固体電解質層は、内側部材の第1傾斜面を押圧しているので、当該応力は面方向(弾性体の外周に向かう方向)の成分と厚み方向(負極集電箔に向かう方向)の成分に分散される。このため、全固体電池を充電してリチウム金属層が析出された場合でも当該摩擦力は当該厚み方向の成分の大きさに基づいて小さくなる。また、全固体電池を充電した場合、内側部材は、第1傾斜面と固体電解質層とが離間する方向に変位するので、当該摩擦力は内側部材の変位量に基づいて低減する。さらに、第1傾斜面と固体電解質層が完全に離間すると当該摩擦力は消滅する。以上より固体電解質層とリチウム金属層及び弾性体との間に発生する摩擦力を低減し、固体電解質層へのダメージを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態の全固体電池の断面図である。
図2図2は、第1実施形態の全固体電池の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。
図3図3は、比較例の全固体電池の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。
図4図4は、図2の部分拡大図(B)であって、弾性体と固体電解質層の間にリチウム金属層が充填された場合を示す図である。
図5図5(a)は、第1実施形態の全固体電池の第1変形例の断面図(図2の部分拡大図(A)に相当)、図5(b)は、第1実施形態の全固体電池の第2変形例の断面図(図2の部分拡大図(A)に相当)である。
図6図6は、第2実施形態の全固体電池の断面図である。
図7図7は、第3実施形態の全固体電池の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の全固体電池100の断面図である。第1実施形態の全固体電池100は、複数回充放電が可能な二次電池である。全固体電池100は、その内部に、以下に説明する負極集電箔3、発電要素部1、正極集電箔2をそれぞれ複数積層したものを電池外装材であるラミネート層(不図示)で封止した状態で収容するいわゆる積層型の全固体電池100である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。
【0011】
全固体電池100は、負極集電箔3、正極集電箔2が交互に積層され、積層方向で互いに隣接する負極集電箔3と正極集電箔2の間に、発電要素部1が介装され、積層方向から押圧されて形成される。発電要素部1は、基本的に固体電解質層12、正極層11による積層構造を有する。
【0012】
図1に示す発電要素部1において、その下部が正極集電箔2に接続しその上部が負極集電箔3に接続する発電要素部1は、下から正極層11、固体電解質層12の順に積層されている。また、図1に示す発電要素部1において、その下部が負極集電箔3に接続しその上部が正極集電箔2に接続する発電要素部1は、下から固体電解質層12、正極層11の順に積層されている。
【0013】
また、詳細は後述するが、発電要素部1の側面を覆うように弾性体4、枠材5が配置されている。
【0014】
第1実施形態の全固体電池100では、負極集電箔3同士を並列に接続し、正極集電箔2同士を並列に接続することで、全ての発電要素部1を電気的に並列に接続することができる。なお、本実施形態において、負極集電箔3、発電要素部1、正極集電箔2は複数積層する必要はなく単層であってもよい。
【0015】
なお、第1実施形態の全固体電池100は、電池外装材に収容される前の状態において例えば円形又は矩形のシート状に構成される。また、本実施形態の全固体電池100の外観、及び内部における電気的な接続状態(電極構造)は特に限定されない。
【0016】
全固体電池100の外観は、平面視で、円、楕円、矩形形状が適用できる。或いは、単層、又は複数層の発電要素部1を巻き回して収容する円筒形状型であってもよい。また、全固体電池100の電極構造は、いわゆる非双極型(内部並列接続タイプ)、及び双極型(内部直列接続タイプ)のいずれが採用されてもよい。すなわち、以下に説明する構成以外に関しての全固体電池100の態様は、公知あるいは非公知に関わらず、特に制限されない。
【0017】
図2は、第1実施形態の全固体電池100の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。ここで、完全放電状態とは全固体電池100の開放電圧が所定の下限電圧以下の状態をいい、完全充電状態とは全固体電池100の開放電圧が前記の下限電圧よりも高い電圧である所定の基準電圧以上の状態をいう。
【0018】
正極集電箔2は、アルミニウム(Al)等の金属で形成された薄板である。負極集電箔3は、ステンレス(SUS)や、銅(Cu)等の金属で形成された薄板である。
【0019】
前記のように、発電要素部1は、負極集電箔3と正極集電箔2の間に介装され、基本的に正極層11と、固体電解質層12との積層構造を有する。また、発電要素部1は、平面視で正極集電箔2及び負極集電箔3よりも面積が小さく、且つ正極集電箔2の外形及び負極集電箔3の外形よりも内側となるように配置されている。
【0020】
正極層11は、正極集電箔2の両主面(単層の場合は正極集電箔2の負極集電箔3に対向する主面)に配置されている。正極層11は、例えばNMC811(ニッケルコバルトマンガン酸リチウム)を主原料として形成されたものが好適である。また、正極層11は、硫黄を含む正極活物質を含むことも好ましい。硫黄を含む正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S)のほか、有機硫黄化合物又は無機硫黄化合物の粒子又は薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。
【0021】
固体電解質層12は、固体電解質を主成分として含有し、負極集電箔3と正極層11との間に介在する層である。固体電解質としては、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。硫化物固体電解質としては、例えばLPS系(例えばアルジロダイト(LiPSCl)、弾性率1-30GPa)、LGPS系(例えばLi10GeP12)の材料が挙げられ、その弾性率がリチウム金属(5GPa)よりも高いものが好適である。
【0022】
第1実施形態において、固体電解質層12は、負極集電箔3の両主面(単層の場合は負極集電箔3の正極集電箔2に対向する主面)に配置されている。固体電解質層12は、平面視でその外形が正極層11の外形を内側に収容するように配置されることが好適である。
【0023】
固体電解質層12は、(全固体電池100が完全放電状態のときに)負極集電箔3と接触する中央部121と、固体電解質層12の平面視した外周を形成するとともに中央部121よりも厚みが薄く且つ負極集電箔3から離間している周縁部122と、中央部121と周縁部122の間を周回するように配置され中央部121の負極集電箔3の側の主面と周縁部122の負極集電箔3の側の主面に接続するとともに(全固体電池100が完全放電状態のときに)第1傾斜面42aに接触する第2傾斜面123aを備える傾斜部123と、を備える。
【0024】
周縁部122の内周及び傾斜部123の外周は、平面視で正極層11の外周と重なるように配置されている。
【0025】
図2(及び図1)に示すように、発電要素部1の外周を覆うように弾性体4及び枠材5が配置されている。
【0026】
弾性体4は、固体電解質層12の周縁の外形に倣って周回する枠形状を有している。すなわち、固体電解質層12が平面視で円形であれば円形のリング形状を有し、固体電解質層12が平面視で矩形であれば矩形の枠形状を有する。
【0027】
弾性体4は、負極集電箔3と固体電解質層12との間の空間を充填するように配置されている。弾性体4は、弾性体4の外周を形成し負極集電箔3の主面と周縁部122の主面の間に挟まれて接合している外側部材41と、弾性体4の内周を形成する内側部材42と、を備える。
【0028】
外側部材41は、図2の部分拡大図(A)(B)に示すように、その接合面に接合層7が配置されており、接合層7を介して負極集電箔3及び周縁部122にそれぞれ接合している。
【0029】
内側部材42は、負極集電箔3側の面が接合層7を介して負極集電箔3に接合している。ただし、内側部材42は、外側部材41と一体であり、内側部材42を負極集電箔3に必ずしも直接接合する必要はない。内側部材42の固体電解質層12に対向する面は、正極層11側に傾斜した第1傾斜面42aとなっている。
【0030】
ここで、内側部材42の第1傾斜面42aと固体電解質層12の傾斜部123の第2傾斜面123aは平面視で互いに重なり、且つ(全固体電池100が完全放電状態のときに)互いに接触(面接触)している。
【0031】
弾性体4(外側部材41、内側部材42)の材料としては、リチウム金属の弾性率(5GPa)よりも低い材料が好適であり、ポリエチレンテレフタラート(PET)(4GPa)、カプトン(登録商標)(3.3GPa)、エポキシ樹脂(2.4GPa)、ポリプロピレン(PP)(2GPa)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(0.5GPa)、ゴム(天然ゴム、合成ゴム)(0.1GPa)等が適用できる。本実施形態では、弾性率に関して、「固体電解質層12の弾性率」>「リチウム金属層13(リチウム金属)の弾性率」>「弾性体4の弾性率」、の関係を満たすことが好適である。
【0032】
枠材5は、正極集電箔2の主面と固体電解質層12の正極集電箔2の側の主面の間に挟まれるように配置されている。また枠材5は、弾性体4と同様に固体電解質層12の平面視した外形に倣って周回する枠形状を有している。枠材5の材料は、弾性体4と同様の材料を適用できる。図示は省略するが、枠材5は弾性体4と同様に接合層7を介して正極集電箔2及び固体電解質層12に接合されている。
【0033】
接合層7を形成する接着剤としては、例えばアクリル変性シリコーン樹脂系弾性接着剤(例えばセメダイン株式会社製:スーパーX(登録商標) No.8008、スーパーXG No.777、SX720W)、二液混合硬化型エポキシ・変性シリコーン系弾性接着剤(例えばセメダイン株式会社製:EP001K)等の樹脂系の接着剤、その他エポキシ樹脂又はシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂が適用される。これらの接着剤は、応力を吸収する性質を持ち、強靭で柔軟なゴム状弾性体となる。
【0034】
図2の縦に延びる破線よりも右側に示すように、第1実施形態の全固体電池100を充電(完全充電)すると、正極層11内のリチウムイオンが固体電解質層12を通過し、負極集電箔3と固体電解質層12との間にリチウム金属層13として析出される。リチウム金属層13は負極集電箔3及び固体電解質層12に接触している。また充電後の全固体電池100において放電を開始すると、リチウム金属層13からリチウムイオンが固体電解質層12を通過して正極層11内に吸蔵され、完全放電することでリチウム金属層13は消失する(図2の縦に延びる破線よりも左側)。なお、完全放電状態において、固体電解質層12は負極集電箔3に接触することで負極集電箔3と電気的に接続されている。また、完全充電状態、又は完全充電状態に満たない一定の充電状態において、固体電解質層12は、リチウム金属層13を介して負極集電箔3と電気的に接続されている。
【0035】
このとき弾性体4は、リチウム金属層13の厚みの変化に追従してその高さが膨張・収縮(伸縮)する。特に、リチウム金属の弾性率は5GPaであるので、弾性体4の材料として、前記のように弾性率を5GPa以下の材料を適用することで、弾性体4がリチウム金属層13よりも柔らかなくなり、弾性体4の高さ方向(全固体電池100の厚み方向)の追従性が向上する。
【0036】
また接合層7においても、上記の接着剤を適用することにより、リチウム金属層13の厚みの変化に追従してその高さを伸縮することができ、その分、弾性体4に対する負荷を軽減できる。
【0037】
[比較例と第1実施形態と対比]
図3は、比較例の全固体電池100Aの断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。比較例の全固体電池100Aは、第1実施形態の全固体電池100と比較して固体電解質層12の傾斜部123(第2傾斜面123a)はなく、平面視で正極層11の外周に倣って中央部121が配置され、弾性体4と重なる部分に周縁部122が配置されている。また、弾性体4は外側部材41のみで構成され内側部材42は省略されている。
【0038】
全固体電池100A(全固体電池100)は、正極集電箔2、発電要素部1、負極集電箔3の積層方向(厚み方向)から押圧力を受けるように構成され、これにより全固体電池100A(全固体電池100)の充放電効率を高めている。このため、固体電解質層12は厚み方向から押圧され、これに伴い固体電解質層12は面方向に広がる力を弾性体4に印加している。より詳細には、図3の部分拡大図(A)に示すように、弾性体4は、固体電解質層12から面方向外側に向かう力(図中の矢印a)が印加され、その抗力を固体電解質層12に印加する。このため、固体電解質層12と弾性体4は面方向で互いに押し合う関係となっている。
【0039】
一方、図3の部分拡大図(B)に示すように、比較例の全固体電池100Aを充電すると、負極集電箔3と固体電解質層12の間にリチウム金属層13が析出され、正極集電箔2と負極集電箔3との間隔がリチウム金属層13の厚みの分だけ増加する。その際、弾性体4はリチウム金属層13の厚みの分だけ厚み方向に膨張(伸展)する。
【0040】
しかし、リチウム金属層13も厚み方向から押圧力を受け、これに伴いリチウム金属層13においても面方向に広がる方向の力が発生する。よって、弾性体4とリチウム金属層13の間には摩擦力が発生しており、弾性体4は当該摩擦力により図中の矢印bに示す方向に引っ張り応力を受ける。
【0041】
このため、弾性体4の厚み方向でリチウム金属層13に対向する部分(図中の破線(C)で囲まれた部分)の膨張量は、弾性体4が厚み方向に均一に膨張(伸展)した場合の膨張量(均一膨張量)よりも小さくなる。
【0042】
一方、弾性体4の厚み方向で固体電解質層12に対向する部分(図中の(D)の領域)の膨張量は、弾性体4の図中の破線(C)で囲まれた部分の膨張量が小さくなった分だけ当該均一膨張量よりも大きくなる。
【0043】
したがって、固体電解質層12の中央部121と周縁部122との接合箇所、すなわち図中の(E)で囲まれた部分に対する応力(剪断応力)が、弾性体4が厚み方向に均一に膨張した場合よりも大きくなり、固体電解質層12が破損する虞がある。
【0044】
また、固体電解質層12が弾性体4から受ける摩擦力は、固体電解質層12(及びリチウム金属層13)が弾性体4を面方向の外側に押圧する力(図中の矢印a)の大きさに依存し、固体電解質層12(及びリチウム金属層13)が弾性体4を押圧する力と一致する。
【0045】
また、固体電解質層12の中央部121の外周であって弾性体4と接触する部分は、リチウム金属層13の析出による弾性体4の膨張により弾性体4から摩擦力を受け、これにより、固体電解質層12の中央部121の側面が破損する虞がある。
【0046】
一方、図2の部分拡大図(A)に示すように、第1実施形態の全固体電池100では、固体電解質層12の傾斜部123の第2傾斜面123aと弾性体4の内側部材42の第1傾斜面42aが接触した状態となっている。
【0047】
この場合、弾性体4が固体電解質層12から受ける押圧力は第2傾斜面123a及び第1傾斜面42aの法線方向(図中の矢印a)であり、この力は弾性体4を面方向の外側に押圧する成分(図中の矢印b)と弾性体4を正極層11側(厚み方向)に押圧する成分(図中の矢印c)に分散される。
【0048】
よって、固体電解質層12が弾性体4を面方向の外側に押圧する力(図中の矢印b)の大きさ、すなわち固体電解質層12が弾性体4から受ける摩擦力の大きさは、弾性体4を正極層11側に押圧する力(図中の矢印c)の大きさに基づいて減少する。
【0049】
より詳細には、固体電解質層12が弾性体4を第2傾斜面123aの法線方向に押圧する力の大きさをa、固体電解質層12が弾性体4を面方向に押圧する力の成分をb、固体電解質層12が弾性体4を正極層11側(厚み方向)に押圧する力の成分をcとすると、a=b+cとなる。よって、第1実施形態の全固体電池100においては固体電解質層12が弾性体4から受ける摩擦力は、比較例と比較して(a-b)/a=(a-(a-c1/2)/aの割合で減少する。
【0050】
また、第1実施形態の全固体電池100を充電して負極集電箔3と固体電解質層12の間にリチウム金属層13が析出された場合、弾性体4の内側部材42の第1傾斜面42aは、固体電解質層12お及びリチウム金属層13から離間する方向に変位するため、固体電解質層12及びリチウム金属層13が弾性体4の第1傾斜面42aに印加する押圧力、すなわち弾性体4が固体電解質層12及びリチウム金属層13から受ける摩擦力が低下する。
【0051】
よって、弾性体4がリチウム金属層13から受ける摩擦力、及び弾性体4が固体電解質層12から受ける摩擦力は、それぞれリチウム金属層13の厚みの増加に伴い低下する。
【0052】
したがって、比較例のような弾性体4の膨張の不均一性が小さくなるので、その分、固体電解質層12の傾斜部123と周縁部122との接合部分(図2の部分拡大図(B)中の破線の円(E)で囲まれた特定領域)に対する応力が低減するので、固体電解質層12の当該接合部分の破損を低減できる。同様に、固体電解質層12の第2傾斜面123aに対する摩擦力が低下することで傾斜部123(第2傾斜面123a)の破損を低減できる。
【0053】
さらに、リチウム金属層13の析出が進行すると、図2の部分拡大図(B)に示すように、弾性体4の内側部材42(第1傾斜面42a)は、固体電解質層12の傾斜部123(第2傾斜面123a)及びリチウム金属層13から完全に離間する。このとき、第1傾斜面42a、第2傾斜面123a、リチウム金属層13により隙間6が形成される。
【0054】
これにより、弾性体4は厚み方向に均一に膨張することになり、図2の部分拡大図(B)中の破線の円(E)で囲まれた特定領域に対する応力をさらに低減できる。さらに、固体電解質層12の傾斜部123(第2傾斜面123a)は弾性体4の内側部材42(第1傾斜面42a)から離間するので、固体電解質層12の傾斜部123(第2傾斜面123a)に対する摩擦力を回避し、傾斜部123(第2傾斜面123a)の破損を低減できる。
【0055】
[リチウム金属層13]
図4は、図2の部分拡大図(B)であって、弾性体4と固体電解質層12の間にリチウム金属層13が充填された場合を示す図である。前記のようにリチウム金属層13の析出が進行すると、弾性体4と固体電解質層12の間には隙間6が形成される。隙間6は、平面視して負極集電箔3の外形及び正極集電箔2の外形の内側に配置される。したがって、当該空間にリチウム金属層13が析出(充填)される場合がある。この場合であっても、弾性体4は隙間6を完全に密閉しているので、リチウム金属の外部への漏洩を防止できる。また、隙間6にリチウム金属が充填される分だけリチウム金属層13の厚み(負極集電箔3と固体電解質層12との距離)の増加を抑制できるので、その分、弾性体4の膨張(伸展)を抑制し、弾性体4に対する負担を低減できる。
【0056】
なお、リチウム金属層13のリチウム金属が固体電解質層12と弾性体4の界面を伝播し、正極層11に到達して短絡する場合があるが、周縁部122がリチウム金属に対する障壁となるので、全固体電池100の短絡を低減できる。
【0057】
[第1実施形態の変形例]
図5(a)は、第1実施形態の全固体電池100の第1変形例の断面図(図2の部分拡大図(A))、図5(b)は、第1実施形態の全固体電池100の第2変形例の断面図(図2の部分拡大図(A))である。
【0058】
図5(a)に示すように、第1変形例において、弾性体4の内側部材42は、傾斜角度の緩い傾斜面42bと傾斜角度が傾斜面42bよりも急な傾斜面42cを有している。固体電解質層12の傾斜部123は、傾斜面42bに面接触する傾斜面123bと、傾斜面42cに面接触する傾斜面123cを有している。
【0059】
図5(b)に示すように、第2変形例において、弾性体4の内側部材42の第1傾斜面42aは、凸面となる曲面形状の傾斜面となっている。固体電解質層12の傾斜部123の第2傾斜面123aは、凹面となる曲面形状であって第1傾斜面42aに面接触する傾斜面となっている。
【0060】
いずれの変形例においても、弾性体4の内側部材42の第1傾斜面42a(傾斜面42b,42c)が正極層11側に対向するように傾斜していること、すなわち内側部材42の負極集電箔3に接合している面と第1傾斜面42a(傾斜面42b,42c)とのなす角が90度未満になるように配置されることが好適である。これにより、リチウム金属層13の析出に伴って弾性体4は固体電解質層12から離間する方向に変位するので、固体電解質層12と弾性体4との間の摩擦力を低減できる。
【0061】
[第1実施形態の効果]
第1実施形態の全固体電池100によれば、正極層11、固体電解質層12、負極集電箔3を備えた全固体電池100において、固体電解質層12の外周を周回するように弾性体4が配置され、弾性体4は、弾性体4の外周を形成するとともに全固体電池100の厚み方向から挟まれて接合している外側部材41と、弾性体4の内周を形成する内側部材42と、を備え、内側部材42の内周面は、正極層11側に傾斜した第1傾斜面42aであり、固体電解質層12(第2傾斜面123a)は、全固体電池100が完全放電状態のときに第1傾斜面42aに接触している。
【0062】
全固体電池100は、厚み方向から押圧されているので、固体電解質層12と弾性体4は面方向で互いに押し合う関係にある。また全固体電池100を充電すると、負極集電箔3と固体電解質層12の間にリチウム金属層13が析出され、リチウム金属層13の厚みの変化に追従して、弾性体4は厚み方向に膨張(伸展)し、固体電解質層12はリチウム金属層13及び弾性体4から摩擦力を受ける。しかし、上記構成により、固体電解質層12は、内側部材42の第1傾斜面42aを押圧しているので、当該応力は面方向(弾性体4の外周に向かう方向)の成分と厚み方向(負極集電箔3に向かう方向)の成分に分散される。このため、全固体電池100を充電してリチウム金属層13が析出された場合でも当該摩擦力は当該厚み方向の成分の大きさに基づいて小さくなる。また、全固体電池100を充電した場合、内側部材42は、第1傾斜面42aと固体電解質層12とが離間する方向に変位するので、当該摩擦力は内側部材42の変位量に基づいて低減する。さらに、第1傾斜面42aと固体電解質層12が完全に離間すると当該摩擦力は消滅する。以上より固体電解質層12とリチウム金属層13及び弾性体4との間に発生する摩擦力を低減し、固体電解質層12へのダメージを低減できる。
【0063】
第1実施形態において、固体電解質層12は、全固体電池100が完全放電状態のときに負極集電箔3と接触する中央部121と、固体電解質層12の平面視した外周を形成するとともに中央部121よりも厚みが薄く且つ負極集電箔3から離間している周縁部122と、中央部121と周縁部122の間を周回するように配置され中央部121の負極集電箔3の側の主面と周縁部122の負極集電箔3の側の主面に接続するとともに全固体電池100が完全放電状態のときに第1傾斜面42aに接触する第2傾斜面123aを備える傾斜部123と、を備え、外側部材41は、負極集電箔3と周縁部122との間に挟まれて接合している。
【0064】
上記構成では、全固体電池100を充電する(リチウム金属層13が析出される)と弾性体4とリチウム金属層13との摩擦力、及び弾性体4と固体電解質層12との摩擦力により固体電解質層12との傾斜部123と周縁部122の境界(図2の部分拡大図(B)において破線の円(E)により囲まれた特定領域)に応力が集中する。しかし、前記のように、全固体電池100を充電した場合、内側部材42は、第1傾斜面42aと固体電解質層12とが離間する方向に変位する。したがって、前記のいずれの摩擦力が低減され前記の特定領域における応力の集中を低減でき、固体電解質層12に対するダメージを低減できる。
【0065】
また、リチウム金属層13のリチウム金属が固体電解質層12と弾性体4の界面を伝播して正極層11に到達して短絡する場合があるが、周縁部122がリチウム金属に対する障壁となるので、全固体電池100の短絡を低減できる。
【0066】
第1実施形態において、弾性体4の接合面には弾性接着剤による接合層7が配置されている。これにより、リチウム金属層13の厚みの変化に追従してその高さ(厚み)を伸縮することができ、その分、弾性体4に対する負荷を軽減できる。
【0067】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態の全固体電池100の断面図である。第2実施形態の全固体電池100は、第1実施形態の全固体電池100において、内側部材42の内周(内側部材42と外側部材41との境界)は、平面視で正極層11の外周と重なる位置又は正極層11の外周よりも外側となる位置に配置されている。これにより、正極層11は平面視でリチウム金属層13の外周と重なる位置又は当該外周よりも内側となる位置に配置される。したがって、正極層11全体を電池反応(リチウムイオンの授受)が可能な領域として利用でき、正極層11において電池反応の未使用領域をなくすことができる。
【0068】
[第3実施形態]
図7は、第3実施形態の全固体電池100の断面図であって、図中縦に延びる破線よりも左側が完全放電状態、右側が完全充電状態を示す。第3実施形態の全固体電池100において、固体電解質層12の周縁部122は省略されている。第1実施形態と同様に、正極層11の外周には絶縁性の枠材5が配置されている。図7の部分拡大図(A)(B)に示すように、弾性体4の外側部材41は、負極集電箔3と枠材5との間に挟まれ接合層7を介して負極集電箔3及び枠材5に接合している。
【0069】
第3実施形態においても、固体電解質層12は、内側部材42の第1傾斜面42aを押圧しているので、当該応力は面方向(弾性体4の外周に向かう方向)の成分と厚み方向(負極集電箔3に向かう方向)の成分に分散される(図2の部分拡大図(A)参照)。このため、全固体電池100を充電してリチウム金属層13が析出された場合でも当該摩擦力は当該厚み方向の成分の大きさに基づいて小さくなる。また、全固体電池100を充電した場合、内側部材42は、第1傾斜面42aと固体電解質層12とが離間する方向に変位するので、当該摩擦力は内側部材42の変位量に基づいて低減する。さらに、図7の部分拡大図(B)に示すように、第1傾斜面42aと固体電解質層12が完全に離間すると当該摩擦力は消滅する。以上より固体電解質層12とリチウム金属層13及び弾性体4との間に発生する摩擦力を低減し、固体電解質層12へのダメージを低減できる。
【0070】
ここで、リチウム金属層13は、弾性体4と固体電解質層12の間に析出される場合があるが(図4参照)、この場合、弾性体4と固体電解質層12との界面を伝って正極層11側に到達して全固体電池100が短絡する虞がある。
【0071】
そこで、正極層11は、平面視でその外形が固体電解質層12の傾斜部123の外周よりも内側に位置するように配置されることが好適である。すなわち、固体電解質層12は、平面視でその外形が正極層11の外形を内側に収容するように配置されることが好適である(第1実施形態、第2実施形態も同様)。これにより、正極層11が固体電解質層12と弾性体4との界面に接触しないので、全固体電池100の短絡を低減できる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0073】
100 全固体電池,1 発電要素部,11 正極層,12 固体電解質,13 リチウム金属層,2 正極集電箔,3 負極集電箔,4 弾性体,42a 第1傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7