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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165860
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/14 20060101AFI20221025BHJP
   A61G 5/12 20060101ALI20221025BHJP
   A47C 7/42 20060101ALI20221025BHJP
   A47C 7/00 20060101ALI20221025BHJP
   A47C 7/02 20060101ALI20221025BHJP
   A47C 7/32 20060101ALI20221025BHJP
   A61G 5/08 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
A61G5/14
A61G5/12 701
A47C7/42
A47C7/00 Z
A47C7/02 Z
A47C7/32
A61G5/08 702
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071416
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】512036487
【氏名又は名称】村上 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】村上 潤
【テーマコード(参考)】
3B084
【Fターム(参考)】
3B084FA01
3B084FA05
3B084FA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安楽な姿勢で座ることができ、立ち上がり容易で、安全で簡便な機構の着座具の提供。
【解決手段】編地もしくは織地からなる着座用ファブリック4が椅子フレーム体12の座面部前端13と背面部上端14に支持される背もたれのある着座具1であって、着座用ファブリック4の座面部5下の左右端にそれぞれ前後方向を長手方向とする横棒体10と、左右の該横棒体10の間に張られた多数本の弾性バンド8を順に並べ配することで形成される座面下支持部9とを備えた着座具1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
編地もしくは織地からなる着座用ファブリックが椅子フレーム体の座面部前端と背面部上端に支持される背もたれのある着座具であって、
着座用ファブリックの座面部下の左右端にそれぞれ前後方向を長手方向とする横棒体と、
左右の該横棒体の間に張られた多数本の弾性バンドを順に並べ配することで形成される座面下支持部と
を備えた着座具。
【請求項2】
横棒体が長手方向から視て「への字」状に屈曲した棒体であり、座面下支持部の前端部座面が後方部の座面より前下がりとなっている、請求項1に記載の着座具。
【請求項3】
左右の横棒体の前端部を椅子フレーム体に回動自在に軸支する前方軸と、
左右の横棒体後端部同士をつなぐ連結棒と、
椅子フレーム体の後部上方から連結棒を吊り下げ支持する弾性吊り下げ支持部とを備え、座面下支持部は、その前端部を軸にして後方部が下方にやや沈み込むことのできる座面下支持部であること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の着座具。
【請求項4】
多数本の弾性バンドは、一部の弾性バンドが他の弾性バンドに比して高弾性であること、を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の着座具。
【請求項5】
弾性バンドはリング形状のバンドであって、多数本の弾性バンドの一部のリングの周長が他の弾性バンドのリング長と異なっていること、
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の着座具。
【請求項6】
着座用ファブリックの長辺中央部に把持部を有すること、
を特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の着座具。
【請求項7】
着座用ファブリックの長辺中央部に設けた弾性紐体を椅子フレーム体のアームレスト部に左右それぞれに係止していること、を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の手段に記載の着座具。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の着座具である椅子。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の着座具である車椅子。
【請求項10】
左右の横棒体は、座面下に儲けた車椅子のクロスパイプの上端と連結されていること、を特徴とする、請求項9に記載の車椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、快適安楽な着座姿勢を提供して長期に保持しうるための着座具である。すなわち、快適安楽な着座姿勢を提供して長期に保持しうるための椅子及び車椅子といった着座具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な椅子において、正しい着座姿勢とされる姿勢は、立位時の姿勢の胴体をそのままに保持しながら腰かける、背中をぴんと伸ばした姿勢であるという発想が従来からなされてきた。たしかに、立位時にはゆるやかにS字を描く背骨のラインの鉛直線上に頭部があり、体の重心が地面との接触面の鉛直線上に位置することから、正しいとされる背筋の伸びた姿勢は、重心の観点からは無理のない姿勢であるといえる。
【0003】
この立位の姿勢の前提として、人の体幹と下肢について説明すると、人の体幹と下肢とは骨盤を介して連結されている。すなわち、骨盤の上方は仙骨底により第5腰椎と、下方は寛骨臼により大腿骨頭と関節で連結されている。そして、骨盤をつくっている骨は仙骨、尾骨および左右の寛骨である。寛骨はさらに腸骨、恥骨、坐骨の3部から成っている。
【0004】
そして、人が真っ直ぐに直立した姿勢(側面から見て脊柱がダブルS字状を描いた姿勢)のときには、骨盤は坐骨が一番下側に位置する状態で垂直に安定した形になる。そして、耳の穴、肩(肩峰)、大転子(股関節の付け根の骨)、膝のやや前方、外果(外くるぶし)が一直線になった状態が、背筋の伸びた美しい姿勢(側面から見て脊柱がダブルS字状を描いた姿勢)とされているのである。
【0005】
そして、立位と同様な発想に基づけば、着座時の姿勢も、体の重心から垂線を下ろした際、大腿部の裏面から座骨周辺が椅子の座面と接触する面や足底のあたりに垂線が位置するような姿勢を志向することとなる。事実、こうした背筋を伸ばしたような座り方を想定した椅子が多数存在している。座面や背もたれの位置、角度を工夫することで着座時にも直立姿勢のような背筋の伸びた状態を維持する椅子が製作されてきた。
【0006】
しかしながら、この姿勢のまま着座すれば、坐骨に大きな荷重がかかり、座面に接する臀部の一部に偏った荷重がかかることとなる。また長時間同じ姿勢を保持するには、筋力のバランスからすると、無理な姿勢となるがゆえに、かえって余計な筋力を要するものであった。そこで、従前理想的とされている立位姿勢を前提にした姿勢を着座時に再現するのではなく、異なる方向性を模索する必要性がある。
【0007】
そこで、本発明者は、人間工学的に直立時と着座時の姿勢の違いについて、骨格と筋肉の張力バランスを考察することで、これまでに着座時には弛緩した状態では、背中が丸くなるのが自然であることを見出している。
【0008】
まず、人は立位の直立姿勢をとっているとき、下腹部側の「腸腰筋群」と臀部側の「殿筋群」の二つの筋肉が拮抗筋として作用することから、股関節という不安定な関節を跨いでお互いに引っ張り合う張力によって骨盤は坐骨を真下に位置させた「立った位置」でしっかりと安定保持されている。すなわち、真っ直ぐ立っているときには、前後の拮抗筋の張力でバランスがはかられるので、さほど筋力を使うことなくとも、そのまま楽に姿勢を維持することができる。
【0009】
ところが、人が座位の姿勢をとり、股関節が90度近く曲がることとなると、一方では下腹部側の「腸腰筋群」は筋の付着部である腰椎と大腿骨の位置が近くなり、伸びていた筋肉が緩むので張力が弱まることとなる。他方、臀部側の「殿筋群」は骨盤から股関節を中心に大腿骨まで、外側を回り込むようにして引き延ばされるので、張力が強くかかることとなる。
【0010】
そこで、座位姿勢時に、骨盤を支えているこれらの腸腰筋群と殿筋群といった拮抗筋が張力のバランスをとろうとすると、立位では坐骨を下に位置させて垂直に「立った位置」にあった骨盤が、坐骨を前方に押し出すように傾倒し、「傾斜した位置」となる。すなわち、骨盤を垂直に立った位置で安定させていた立位姿勢での筋肉の張力が、座位姿勢では、股関節を中心に骨盤を傾倒させる筋肉の張力として作用するのである。
【0011】
すると、土台となる骨盤が傾倒しているので、その上方に位置する腰椎をはじめとする脊柱が、S字状に真っ直ぐ伸びた姿勢を維持するには、かえって余計な筋力を要することとなる。すなわち、骨盤や腰椎の位置が坐骨を下にして坐骨底面の向きが直立時のような水平の向きになると、かえって余計な筋力を要するのである。
【0012】
そこで、健常者でも身障者でも、あえて弛緩して座ったときには、骨盤が自然と傾倒し、それに応じて背中も丸くなる。以上のことから、着座姿勢は直立時の姿勢に近いものを理想とうするべきではなく、むしろ、骨盤が坐骨を少し前に倒したようにして坐骨底面の向きが「傾斜した位置」をとることのほうが安楽なのである。ずっこけたような、背中が丸く湾曲した姿勢のままに安楽に着座できるほうが余計な力が入っておらず、自然で楽だから長時間の着座でも疲れないのである。
【0013】
そこで、本発明者は、安楽な姿勢を形成しやすい着座補助具として、背凭部のある椅子に背もたれから吊り下げるようにして用いる着座補助具の座布を発明をしている(特許文献1、2参照。)。背もたれから吊り下がるものであることから、着座時に本人にフィットするようにあわせやすく、適切に所望の安楽な姿勢が誘導されるものとなっている。
【0014】
また、本発明者は、簡易な構造で載置できる、背もたれに固定する必要がない構造であって、さらに着座姿勢で椅子からの立ち上がり動作が容易となる椅子座面用の載置式の着座補助具が提案した(特許文献3参照。)。
【0015】
また、本発明者は、着座時に骨盤が傾斜した位置にあることを前提としながら、かつ、人体の頭部が前方正面に正対してこれを自然に正視しうる姿勢を長期に安楽に維持させることができる、健常者にも身障者にも適した着座器具として、当初の提案として、椅子の腰当て部を傾動回転させる椅子を提案していた。これは、腰当て部の左右の回転軸同士を結んだ支点軸線が該着座した人体の第2腰椎と第3腰椎の椎間の椎間板平面から2cm以内の距離に近接するように位置させることで着座した人体の腰部に密着するようにした着座器具である(特許文献4参照。)。
この提案の手段は、椅子の腰当て部の板を左右から回転傾動可能に軸支したことで、適切な角度と位置で腰部をサポートすることで、弛緩した安楽な姿勢で着座できる。もっとも、人体の第2腰椎と第3腰椎の椎間の椎間板平面から2cm以内の距離に近接するように位置させる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2016-41358号公報
【特許文献2】特開2017-70465号公報
【特許文献3】特開2019-141539号公報
【特許文献4】特許第6112768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
着座時に弛緩しうるよう筋力のバランスを考慮して骨盤が傾斜するように座ろうとするときには、臀部が前方へと移動する、いわばずっこけた姿勢となることが望ましい。ところが、椅子の手前側に着座するようになるので、通常の榻背部(背もたれ部)を有する椅子にそのまま着座すると、かえって背面側の荷重までが座面側に大きくかかってしまうこととなる。また、座面の一部に大きな荷重がかかることとなることは、長時間の使用に耐えない着座姿勢となることから、弛緩させた姿勢で長時間着座すること自体がそもそも困難であった。
【0018】
そこで、安楽な、いわゆるずっこけたような姿勢を保持して着座するべく、骨盤が傾斜した状態で着座するためには、脊柱がS字状だった直立時とは異なる姿勢となる必要がある。すると、直立時とは荷重のかかり方も変わることから、専用の着座具や着座補助具を用いることが必要となる。
【0019】
たしかに、特許文献1や特許文献2にて本発明者が先に提案した着座補助具は、着座状態では安楽な姿勢を提供しうるものであり、一旦着座してしまえば安楽な姿勢を保持しやすいものである。もっとも、これらの着座補助具は、背もたれのある椅子の上にセットする必要があるので、椅子自体の座面よりもやや高い位置に着座補助具の座面が形成されることとなるので、もともとの椅子よりも若干着座面が高くなりやすい。
【0020】
また、椅子の座面上に載せ置かれた着座補助具の座面は前後にスライドして滑りやすい。そこで、着座時に前滑りしすぎてしまうと、膝裏から臀部、腰部、背面部までの全体で形成される本来の安楽な姿勢から崩れてしまい、背面がうまく沿わなくなることがあった。
【0021】
また、座布をハンモックのように吊り下げるだけの布だけで着座面を構成しても、着座者が前滑りしてしまい、背面が適切に沿わなくなるので、所望の安楽姿勢が保持しづらくなる。
【0022】
また、一旦着座してしまうとその姿勢を保持する作用が大きいため、すっぽりと収まってしまい、かえって立ち上がりにくいところがあった。立ち上がるには、一旦頭部を前方に大きく前傾させるなどしたうえで、重心を前方に大きく移動させた反動を使って立ち上がるといった動作が必要となっていた。
【0023】
そこで、本発明の解決しようとする課題は、骨盤を傾斜させて筋肉を弛緩させるようにして安楽な好ましい着座姿勢を形成、維持しやすい、背もたれのある着座具と、立ち上がりやすい簡便な機構の着座具を提供することである。膝裏から背中まで、着座者に見合ったラインに沿わせることができ、余計な緩衝材などを使用せずとも簡便に、個々人にみあったラインを形成できる着座具の機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の課題を解決するための第1の手段は、
編地もしくは織地からなる着座用ファブリックが椅子フレーム体の座面前端部と背面上端部に支持される背もたれのある着座具であって、
着座用ファブリックの座面部下の左右端にそれぞれ前後方向を長手方向とする横棒体と、
左右の該横棒体の間に張られた多数本の弾性バンドを順に並べ配することで形成される座面下支持部とを備えた着座具である。
【0025】
弾性バンドは、ベルト状のバンドの左右端を横棒体に係止して張ることができる。また、リング形状の弾性バンドを用いて、左右の横棒体を弾性バンドのリング内に通すことで弾性バンドを左右に引き延ばすようにして張ることもできる。
【0026】
その第2の手段は、横棒体が長手方向から視て「への字」状に屈曲した棒体であり、座面下支持部の前端部座面が後方部の座面より前下がりとなっている、第1の手段に記載の着座具である。
【0027】
その第3の手段は、
左右の横棒体の前端部を椅子フレーム体に回動自在に軸支する前方軸と、
左右の横棒体後端部同士をつなぐ連結棒と、
椅子フレーム体の後部上方から連結棒を吊り下げ支持する弾性吊り下げ支持部とを備え、座面下支持部は、その前端部を軸にして後方部が下方にやや沈み込むことのできる座面下支持部であること、
を特徴とする第1又は第2の手段に記載の着座具である。
【0028】
その第4の手段は、多数本の弾性バンドは、一部の弾性バンドが他の弾性バンドに比して高弾性であること、を特徴とする第1から第3のいずれか1の手段に記載の着座具である。
【0029】
その第5の手段は、弾性バンドはリング形状のバンドであって、多数本の弾性バンドの一部のリング長が他の弾性バンドのリングの周長と異なっていること、を特徴とする第1から第4のいずれか1の手段に記載の着座具である。
【0030】
その第6の手段は、着座用ファブリックの長辺中央部に把持部を有すること、を特徴とする第1から第5のいずれか1の手段に記載の着座具である。
【0031】
その第7の手段は、着座用ファブリックの長辺中央部の長辺中央部に設けた弾性紐体を椅子フレーム体のアームレスト部に左右それぞれに係止していること、を特徴とする第1から第6のいずれか1の手段に記載の着座具である。
【0032】
その第8の手段は第1から第7のいずれか1の手段に記載の着座具の椅子である。
【0033】
その第9の手段は、第1から第7のいずれか1の手段に記載の着座具の車椅子である。
【0034】
その第10の手段は、左右の横棒体は、座面下に儲けた車椅子のクロスパイプの上端と連結されていること、を特徴とする、第9の手段に記載の車椅子である。
【発明の効果】
【0035】
着座用ファブリックは編地または織地からなるたとえば長方形の布帛であって、この着座用ファブリックの四隅は、椅子フレーム体の座面前端部の左右端及び背面上端部左右端で支持されている。着座用ファブリックは着座者の大腿部から背面部までをすっぽり包み込むようにして体圧分散しながら着座者を受けとめつつ、骨盤を傾斜させた姿勢を自然と促すものとなる。また、着座時には、着座用ファブリックの座面部が座面部下に配された座面下支持部に当接し、弾性バンドが適度に伸長しつつ支承する。着座者の座骨が位置する弾性バンドが伸長することで座骨をしっかりと保持するので、着座用ファブリックが前方に滑ることがなく、前滑りせずに安楽な着座姿勢を保持することができる。
【0036】
そこで、本発明の着座具を椅子もしくは車椅子に設置すると、着座する健常者もしくは身障者は、骨盤を坐骨を前方に押し出すように傾倒させて坐る安楽な弛緩した姿勢をとることが簡易にできるので、着座姿勢を長期に維持できることとなる。そして、背面部から座面後方にかけて外装体が着座者の背中から腰部にかけてを包み込むように当接するので、着座者の荷重を広く分散でき、局所に荷重が集中することを避けることができるので、長時間着座をしても疲れにくいものとなる。
【0037】
横棒体をヘの字状に屈曲させることで、前方の弾性バンドが中央や後方の弾性バンドよりもやや前傾した面を構成するので、座面下支持部の前端部は他の座面より前下がりとなり、着座者が立ち上がる際に、膝の手前のあたりを下方に動かしやすく体重移動がしやすくなるので、着座用ファブリックにはまり込みにくく、着座者の立ち上がり動作が容易となる。
【0038】
また座面下支持部の後方部が前端部を軸として、水平状態よりも沈みこむことができると、座骨の位置が適切に保持しやすく、安楽な姿勢を形成しやすくなる。その際、後端部を上方から弾性吊り下げ支持部で吊り下げるようにすると、荷重に応じた適度なクッションとなる。さらに、立ち上がり動作の際には伸長していた弾性吊り下げ支持部が収縮することで下方から臀部を押し上げるので、荷重移動がしやすく立ち上がり動作がより容易となる。
【0039】
弾性バンドは、バンド毎に張力を変えることができるので、箇所に応じて適切に体圧を分散できるように張力を調整しつつ着座用ファブリックを座面下からサポートすることができる。弾性バンドがリング状であると、弾性バンドのリングの長さを変えることで、バンドの張力を調整することができるので、所望の張り具合に調整しやすいものとなる。
【0040】
矩形の着座用ファブリックの左右辺の中央あたりからゴム紐などの弾性紐体を椅子フレーム体のアームレスト部に左右それぞれに係止していると、座ったときに腰あたりからアームレストに伸びたゴム紐によって、着座用ファブリックの左右から体を包むようにバケット状となる。すると、着座者の股関節の大転子のあたりをしっかりとホールドすることとなるので、姿勢保持性がより向上する。
【0041】
本発明の手段を車椅子に用いるときには、弾性バンドが対向する座骨の荷重を受けて伸長し、これを正面から受け止めるため、前ずれしにくく、姿勢を安定させることができる。また、背もたれをやや後傾させて弛緩した姿勢をとることができるので、頭の重心が後方に位置するため、急停止しても慣性により身体が前方に投げ出されにくくなる。
【0042】
また、車椅子のフレームの座面下の部分にクロスパイプを用いることで、折りたたみすることができる。着座時にはクロスパイプの上端に連接された横棒体に座面下支持部の荷重がかかるので、クロスパイプは拡げられる方向に導かれるので、折り畳まれることがなく、使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の実施の一形態の着座具の椅子の分解概略図である。上方の着座用ファブリックは、その四隅を下方の椅子フレーム体に載置して係止される。
図2】本発明の実施の一形態の着座具に着座した様子を示した図である。座骨に正する位置の弾性ベルトがより下方に撓んでおり着座者が前すべりしにくくなっている。
図3】本発明の実施の一形態の着座具の椅子の座面下支持部が、横棒体の前端を支点に回動し、点線で示した位置から着座時に下がる様子を示した図である。
図4】本発明の他の実施形態である車椅子の側面図である。
図5】通常の従来例のハイバックの椅子に、(a)背中を沿わせるように着座した場合と、(b)弛緩させた姿勢で着座した場合、の人体の腰椎と骨盤、座骨底面の向きを示した、着座姿勢の違いを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の着座具の実施の形態として、まず、椅子に適用した場合を例に、適宜、図1~4を参照しつつ説明する。なお、本発明の着座具は、椅子および車椅子のいずれにも適用できる。
【0045】
まず、本発明の着座具(1)は、着座者(21)の着座姿勢が、骨盤を直立時のように坐骨が真っ直ぐ下にくる位置(図5(a)の姿勢参照。)で坐るのではなく、坐骨(23)が斜めになるように骨盤(29)がやや傾いた姿勢(図5(b)参照。座骨底面の位置(17)が水平ではなく後傾している。)で着座するような弛緩した姿勢で使用するための着座具(1)の椅子(2)である。図5(b)の姿勢で着座するにも、図5のような従来の椅子では、ずっこけたように前滑りしただけであるから姿勢を保持しづらい。そこで、本発明は、図5(b)のような姿勢で着座者(21)が適切に着座できるための着座具(1)である。
【0046】
そして、椅子(2)は、前後方向を長辺とする矩形の編地(もしくは織地)の着座用ファブリック(4)を、椅子フレーム体(12)の座面部前端(13)部と背面部上端(14)部に係止されており、着座者(21)は着座用ファブリック(4)に体をもたせかける。そこで、本発明では、座骨底面(17)と正対するように、弾性バンド(8)が伸長しながら座面下支持部(9)の面を形成することができる。
【0047】
着座用ファブリック(4)は幅が40~45cm、長辺の長さは例えば85~95cmであって、座面部前端(13)部と背面部上端(14)部の対角線距離(65~70cm)よりも長く、たるみをもたせた布帛を用いている。そこで、上端と下端が椅子フレーム体(12)に係止された着座用ファブリック(4)は、上下を支持(たとえば四隅を支持した状態。)された状態で座ると、ハンモックを斜めに係止したように湾曲して吊り下がる。たとえば、着座用ファブリック(4)の四隅には、上端(26)と下端(25)の縦向きの椅子フレーム体(12)に差し込む開口ポケットを係止部(24)として設け、フレーム体に差し入れて係止することで支持する。着座用ファブリック(4)の四隅の係止部(24)は、フレーム体(12)に差し込む以外に、四隅に設けた紐でフレーム体(12)に緊締するなどして支持することもできる。また四隅に設けたフックでフレーム体(12)に引っかけることとしてもよい。
【0048】
着座用ファブリック(4)は、織地、編地など人の荷重に耐えうる強度であれば特段に制限なく適用できる。たとえば、表地をダブルラッセルの編地とすると、クッション性と通気性を備えることができる。着座用ファブリック(4)の背面部(6)及び座面部(5)には、適宜、裏面側から補強をすることができる。たとえば、着座用ファブリック(4)の裏面に背面部左右上端から荷重のかかる背面部中央にかけて、2~4cm幅程度のポリプロピレン製の帯紐をY字状に縫製したり、座面部の左右前端から中央に向かって逆Yの字に帯紐を縫製したりしている。図面における実施例では、着座用ファブリック(4)の背面に、背もたれ部上端から座面部先端まで、左右1対の帯紐が四隅から中央に向かって補強のために縫製されている。
なお、着座用ファブリック(4)には、薄いシート材を用い、その上からクッション材をカバーするように組み合わせてもよい。
【0049】
もっとも、着座用ファブリック(4)だけで、その上に着座してしまうとなれば、布帛がぴんと張るだけなので、その上を着座者(21)の上体が前滑りしてしまいやすくなってしまうことから、安楽な所望の姿勢を保持しづらいこととなり、姿勢が崩れやすくなる。そこで、本発明では、着座用ファブリック(4)の座面部(5)の下に、弾性バンド(8)を多数本、左右方向に張ることで形成した座面下支持部(9)を設けて、着座者(21)の臀部を下支えして、理想的な姿勢を保持しやすくしている。
【0050】
座面下支持部(9)の弾性バンド(8)は、例えば幅5cmといった広幅(平断面)のゴム紐(平ゴム)であり、織ゴム、編ゴムなどが適用できる。弾性バンド(8)は、座面部(5)下の左右端に前後方向を長手方向として配された左右の横棒体(10,10)の間に張られている。弾性バンド(8)は、両端部をそれぞれ横棒体(10,10)に係止して張ることができる。たとえば、横棒体(10)にフックをひっかけるフック孔を設け、弾性バンド(8)の両端に設けたフックを横棒体(10)のフック孔に挿し入れるようにして張ることができる。
【0051】
また、弾性バンド(8)は、弾性糸の張力の選択などの材質や、張り方を変えることで、座面下支持部(9)に張り渡された弾性バンド(8)の弾性率を位置毎に変えるようにしてもよい。たとえば、臀部のあたりには、より高弾性な弾性バンドを配するといったことができる。
【0052】
さらに、弾性バンド(8)の係止には、両端をフックでひっかける構造以外にも、リング状にした弾性バンド(8)を用いることができる。リング状の弾性バンド(8)を左の横棒体(10)と右の横棒体(10)にかけ、弾性バンド(8)のリング内に通された左右の横棒体(10,10)で弾性バンド(8)を左右に引き延ばすようにして張るのである。あらかじめリング状に縫製した弾性バンド(8)を横棒体(10)に通すだけなので、作業性がよく、また、リングの周長の調整などによっても弾性率を変化させることができるので、弾性率を調整させることも容易にできる。
【0053】
本発明では、座面下支持部(9)として多数の弾性バンド(8)を左右に張り渡して並行に並べて面を形成している。すると、着座者(21)の坐骨の傾斜(坐骨底面の向き)と正対するように、着座用ファブリック(4)を下支えする座面下支持部(9)の弾性バンド(8)が伸びることで受けとめる。すると、図2に示すように、座骨部分が座面下支持部(9)の対向する弾性バンド(8)に軽く食い込むので、前滑りが抑制されることから、前滑りせずに、安楽な姿勢を維持しうることとなる。
そこで、本発明の着座補助具(1)の背面部(6)と座面部(5)とでしっかりとサポートされた状態で着座者(21)の身体が安楽に保持され、快適に体圧分散して長時間着座しうるようになる。
【0054】
左右に配された横棒体(10)は、たとえば長さ55cmの角鋼材である。さらに、この横棒体(10)を前端から12~15cmぐらいの位置で、軽く15°程度屈曲させ、ヘの字状に形成してもよい。横棒体(10)をへの字に屈曲させると、前方の屈曲部(11)の上に張られた弾性バンド(8)は、中央から後方にかけて張られた弾性バンド(8)に比して、やや前傾することとなる。そして、座面下支持部(9)の前方が前下がりとなる。すると、着座したとき、膝裏あたりが前下がりとなるので、立ち上がり動作のときに前傾する荷重移動が容易になり、立ち上がり時の負担が軽減されて良好となる。
本発明では、着座用ファブリック(4)自体には凹凸を設けたりしていないものの、着座用ファブリック(4)は下方から支える座面下支持部(9)に沿うこととなる。そこで、横棒体(10)の前方をへの字に傾けることで、これに張られる弾性バンド(8)の面が前傾し、座面下支持部(9)に沿って、着座用ファブリック(4)の前端が前傾することとなる。
【0055】
さらに、図3に示すように、横棒体(10)の前端部を椅子フレーム体(12)の回転軸(27)に回動可能に軸支することで着座時に後端部がやや下方に沈みこめるようにし、立ち上がり動作時に後方から押し上げるように追従するものとすると、クッションと同時に立ち上がり動作も良好となる。そこで、横棒体(10)の前端部を椅子フレームに回動可能に軸支し、左右の横棒体(10)の後端部同士を連結棒(20)でつなぎ、この連結棒(20)を椅子フレーム体(12)の背面上方から、弾性バンドでできた弾性吊り下げ支持部(18)で吊り下げるようにしてもよい。このようにすると、座面下支持部(9)の後方が沈み込み可能となる。たとえば、2本の平ゴムを連結棒(20)を配すると、座面下指示部(9)の後端が着座時に左右均等に沈みこみやすくなるので、理想的な姿勢が形成しやすくなる。着座者(21)が立ち上がろうと体を前に傾けて荷重を移動する際に、座面下指示部(9)の後端が上方に押し上がるので、立ち上がり動作がやりやすくなる。
【0056】
さらに、平ゴムの長さや張力を調整することで、クッション性と立ち上がりのバランスを調整できるので、使用者の想定荷重や、健常者、身障者などのコンディションにあわせて調整することができる。なお、平ゴムは、連結棒からフレーム背面上方を経て、さらにフレーム下方に引き延ばして固定することとしてもよい。
【0057】
さらに着座用ファブリック(4)の長辺中央部(15)付近、すなわち、着座者の腰あたりの両端に、把持部(16)を設けてもよい。座面下支持部(9)と着座用ファブリック(4)が独立しているため、把持部(16)を把持して持ち上げるようにすることができる。すると、介助者が立ち上げ動作をする際に、本人をかかえるのではなく、着座用ファブリック(4)に両手を添えて引っ張ることができるので、背中全体が面で押されるようになり、スムーズな立ち上げ介助が少ない負担でできることとなるので、身障者の利用にも好適となる。
【0058】
また、着座用ファブリック(4)の長辺中央部(15)付近に設けた弾性紐体(17)のゴム紐を椅子フレーム体(12)の座面左右上方のアームレスト部(22)に、左右それぞれ係止しておくようにしてもよい。着座用ファブリック(4)上に着座者(21)が着座した際に、腰の左右の着座用ファブリック(4)が弾性紐体に引っ張られてアームレストのほうに引き上げられることとなるので、着座者(21)の腰回りを左右から着座用ファブリック(4)が包みこむようにして着座することとなる。そこで、着座者(21)の姿勢が安定しやすくなる。健常者のみならず、身障者の着座にも好適な椅子(2)となる。
【0059】
さて、このように本発明の着座具を椅子に使用すると、健常者のみならず、身障者も含めて広く安楽な姿勢で着座することができる。そして、この着座具の機構を車椅子に用いることもできる。
【0060】
そこで、本発明の他の実施の形態として以下に車椅子に用いた場合について説明する。
本発明の車いすは、車椅子(3)の背もたれのフレーム上端と、座面前端に、着座用ファブリック(4)を係止し、座面部(5)の下に、着座用ファブリック(4)を下支えするための、左右の横軸棒(10)の間に弾性バンド(8)を多数順に並べて張り渡して座面下支持部(9)を備えている。
【0061】
この弾性バンド(8)はリング状のものを横軸棒(10,10)に通して引き延ばして張るようにすることができる。リングの周長を変えることで弾性率を適宜変化させることができるので、弾性バンド(8)は、位置ごとに硬さを変えることもできる。
【0062】
車いす(3)の背面フレームは、垂直に立ち上がるのではなく、約10°後傾しており、座面下支持部(9)を支える横軸棒(10)も10~20°程度後傾している。他方、横軸棒(10)はへの字に屈曲しているので、前方部分は、2~5°程度前傾している。そこで、座面下支持部(9)は、前方の膝下近くの部分がわずかに前傾する一方で、太ももから臀部にかけての部分は、後傾した状態となっている。
【0063】
そこで、図4では、着座用ファブリック(4)の長辺中央部(15)付近に設けた弾性紐体(17)のゴム紐を椅子フレーム体(12)の座面左右上方のアームレスト部(22)に、左右それぞれ係止して、立ち上がり時に着座用ファブリック(4)の腰部付近が上方に追従容易となるようにすることで、立ち上がりが容易になるようにしている。
【0064】
もしくは、座面下支持部(9)と着座用ファブリック(4)が独立しているため、着座用ファブリック(4)の長辺中央部に把持部を設けることとしてもよい。このようにすると、車いすから立ち上がる際に着座者と向き合う介助者がこの把持部を引っ張ることで、着座用ファブリック(4)のみが引張あがることとなるので、着座用ファブリック(4)の面を用いて着座者の身障者を抱え上げることができる。
【0065】
車椅子(3)の椅子フレーム体(12)は、図4に示すように、前後2カ所のクロスパイプ(23)で左右のフレームが折り畳み可能に連接されている。このクロスパイプ(23)のXのリンクが縦長になるように狭まると、車いすは折り畳まれ、着座時はXの左右上端に横軸棒の荷重が加わって、押し拡がるので、安定して着座することができる。
【0066】
本発明の車椅子(3)に着座すると、骨盤を坐骨を前方に押し出すように傾倒させて坐る安楽な弛緩した姿勢をとることが簡易にできるので、安楽に着座できる。
また、いわばずっこけた姿勢で座っているので、頭部や上半身がやや後傾した状態となり、重心が後方に向かうことから、車椅子(3)が急停止したときに、慣性で着座者(21)が前方に飛び出すといったことを回避しやすくなる。
加えて、座骨付近の当接する弾性バンド(8)が下がるため、座面が座骨付近を正面から支えるようになり、前後にずれにくくなる。そこで、体が前滑りしにくく、急停止などでも、前滑りによる飛び出しもしづらくなる。
【0067】
(慣性速度衝突試験)
A(一般的なタイプの車椅子)あるいはB(本発明の機構の車椅子)の座面上に、a(骨格標本)及b(幼児模型)を載せ置いて、傾斜角度5°のスロープ上で手を離して180cm前向きに自走させた後、その惰性速度のまま水平に140cm走行させて、前方の壁に衝突させたときの、臀部のズレを5回計測し、平均値を記録した。結果を下に示す。
【0068】
a:骨格標本(170cm、9kg)の場合
A(一般的な車椅子)-a(骨格標本):22.8cm
B(本発明の車椅子)-a(骨格標本): 0.2cm
【0069】
b:幼児模型(76cm、7kg)の場合
A(一般的な車椅子)-b(幼児模型): 8.1cm
B(本発明の車椅子)-b(幼児模型): 1.4cm
【0070】
これらの試験結果からも、本発明の車椅子は、座骨付近を沈みこませて姿勢を安定させることができ、背もたれをやや後傾させることもできるので、一般的なタイプの車椅子に比して、安定して座ることができることに加えて、急停止で飛び出したり前ずれしにくく、より安全であることも確認された。
【符号の説明】
【0071】
1 着座具
2 椅子
3 車椅子
4 着座用ファブリック
5 座面部
6 背面部
7 座骨当接位置
8 弾性バンド
9 座面下支持部
10 横棒体
11 屈曲部
12 椅子フレーム体
13 座面部前端
14 背面部上端
15 長辺中央部
16 把持部
17 弾性紐体
18 弾性吊り下げ支持部
19 背面部横梁
20 連結棒
21 着座者
22 アームレスト部
23 クロスパイプ
24 係止部
25 座面部前端
26 背面部上端
27 回転軸
28 座骨底面の向き
29 骨盤
30 坐骨
図1
図2
図3
図4
図5