IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人海洋研究開発機構の特許一覧

<>
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図1
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図2
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図3
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図4
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図5
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図6
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図7
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図8
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図9
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図10
  • 特開-無細胞リン脂質合成方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165906
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】無細胞リン脂質合成方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/6481 20220101AFI20221025BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
C12P7/6481
C12N15/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040563
(22)【出願日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021070902
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「ミニマルゲノムから成る人工細胞の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128107
【弁理士】
【氏名又は名称】深石 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】車 兪▲徹▼
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AD85
4B064CA21
4B064CC24
(57)【要約】
【課題】本発明は、1つの無細胞合成系において、脂肪酸及びリン脂質合成酵素の合成を行い、さらにリン脂質合成を行う無細胞系合成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の無細胞リン脂質合成方法は、リン脂質合成酵素を合成するための無細胞タンパク質合成系と、脂肪酸合成酵素と、リポソームとを混合し、反応混合液を得る第1の工程と、リン脂質合成酵素を合成する第2の工程と、脂肪酸合成反応の基質及び電子供与体を添加し、脂肪酸合成及びリン脂質合成を連続的に行う第3の工程とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質合成酵素を合成するための無細胞タンパク質合成系と、脂肪酸合成酵素と、リポソームとを混合し、反応混合液を得る第1の工程と、
リン脂質合成酵素を合成する第2の工程と、
脂肪酸合成反応の基質及び電子供与体を添加し、脂肪酸合成及びリン脂質合成を連続的に行う第3の工程と
を含む、無細胞リン脂質合成方法。
【請求項2】
前記リン脂質合成酵素を合成するための無細胞タンパク質合成系が、リン脂質合成酵素をコードする核酸、翻訳開始因子、翻訳伸長因子、翻訳終結因子、アミノアシルtRNA合成酵素、リボソーム、アミノ酸、NTP、及びtRNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂肪酸合成酵素が、FabA、FabB、FabD、FabF、FabG、FabH、FabI、FabZ、及びアシルキャリアプロテイン(ACP)を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記脂肪酸合成反応の基質が、アセチルCoA及びマロニルCoAを含み、前記電子供与体がNADPH及び/又はNADHを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第1の工程又は第3の工程において、アセチルCoA合成酵素(ACS)及びアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)をさらに添加する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記脂肪酸合成反応の基質が、コエンザイムA(CoA)、酢酸、及び炭酸水素塩を含み、前記電子供与体がNADPH及び/又はNADHを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第3の工程において反応の途中で、前記基質及び/又は前記電子供与体を追加することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無細胞リン脂質合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成生物学の分野で生体分子を人工的に組み合わせて人工細胞を創る研究が進められている。人工細胞の例として、脂質から形成される、直径数μmから数十μmのカプセル状の膜小胞の内に、タンパク質合成に必要な酵素、リボソーム、遺伝子、低分子化合物などを封入して、膜の中でタンパク質を合成する擬似的な細胞が挙げられる。このように最小限の因子から構成される人工細胞は、生きるために必要な最小限の機能又は遺伝子をボトムアップ的に実証することになるため、また、設計したゲノムDNAを容易に発現、評価できるため、合成生物学、ゲノム科学などの分野で大きく注目されている。また、地球上に生物、すなわち細胞が誕生したばかりの初期の様相を反映していると考えられていることから、生命の起源を探究する新しい側面を担う研究としても注目されている。
【0003】
リン脂質合成に関しても、細胞内でのリン脂質合成系を模した、無細胞リン脂質合成系が研究されてきた。例えば、無細胞タンパク質合成系により合成したリン脂質合成酵素を用いて、アシルCoA及びグリセロール3-リン酸を基質として、無細胞リン脂質合成を行った報告がある(非特許文献1)。この無細胞合成系においては、リン脂質の合成量が約30μMに留まっている。
【0004】
上記の無細胞合成系では、リン脂質生合成の前段階である脂肪酸の合成が行われていなかった。脂肪酸の無細胞合成系ついては、細菌などの原核細胞が持つII型脂肪酸合成系に関わる9種類の酵素fatty acid binding protein(Fab)にチオエステラーゼ(TesA)を加えた、再構築された無細胞合成系が報告された(非特許文献2)。しかしながら、この無細胞脂肪酸合成系による脂肪酸の合成量は、200~300μM程度に留まっており、これ以上の合成量増加が困難であった。
【0005】
また、再構成型無細胞タンパク質合成系として、PURE systemが開発された(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Andrew Scott et al., “Cell-Free PhospholipidBiosynthesis by Gene-Encoded Enzymes Reconstituted in Liposomes”, PLOS ONE,DOI:10.1371/journal.pone.0163058, October 6, 2016
【非特許文献2】Xingye Yu et al., “In vitro reconstitutionand steady-state analysis of the fatty acid synthase from Escherichia coli”, PNAS, 2011, vol. 108, no. 46, 18643-18648
【非特許文献3】Yoshihiro Shimizu et al., “Cell-freetranslation reconstituted with purified components”,(2001)Nat. Biotecnol., vol. 19, p. 751-755
【非特許文献4】Vincent Noireaux and Albert Libchaber, “Avesicle bioreactor as a step toward an artificial cell assembly”, Proceeding of the National Academy of Science of the United Stateof America, Vol. 101, No. 51, page 17669-17674, 2004, DOI:10.1073/pnas.0408236101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、1つの無細胞合成系において、脂肪酸及びリン脂質合成酵素の合成を行い、さらにリン脂質合成を行う方法がなかった。本発明は、1つの無細胞合成系において、脂肪酸及びリン脂質合成酵素の合成を行い、さらにリン脂質合成を行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、従来の脂肪酸合成系とリン脂質合成系を個別に構築し最適化した後に単に組み合わせても、リン脂質の高い合成量を得られないことを発見した。その理由として、合成された脂肪酸及びリゾリン酸が反応系に対して負のレギュレーションをしていると考え、脂肪酸とリン脂質を連続的に合成する系を設計し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
リン脂質合成酵素を合成するための無細胞タンパク質合成系と、脂肪酸合成酵素と、リポソームとを混合し、反応混合液を得る第1の工程と、
リン脂質合成酵素を合成する第2の工程と、
脂肪酸合成反応の基質及び電子供与体を添加し、脂肪酸合成及びリン脂質合成を連続的に行う第3の工程と
を含む、無細胞リン脂質合成方法。
[2]
上記リン脂質合成酵素を合成するための無細胞タンパク質合成系が、リン脂質合成酵素をコードする核酸、翻訳開始因子、翻訳伸長因子、翻訳終結因子、アミノアシルtRNA合成酵素、リボソーム、アミノ酸、NTP、及びtRNAを含む、[1]に記載の方法。
[3]
上記脂肪酸合成酵素が、FabA、FabB、FabD、FabF、FabG、FabH、FabI、FabZ及びアシルキャリアプロテイン(ACP)を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
上記脂肪酸合成反応の基質が、アセチルCoA及びマロニルCoAを含み、上記電子供与体がNADPH及び/又はNADHを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
第1の工程又は第3の工程において、アセチルCoA合成酵素(ACS)及びアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)をさらに添加する、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[6]
上記脂肪酸合成反応の基質が、コエンザイムA(CoA)、酢酸、及び炭酸水素塩を含み、上記電子供与体がNADPH及び/又はNADHを含む、[5]に記載の方法。
[7]
上記第3の工程において反応の途中で、上記基質及び/又は上記電子供与体を追加することを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無細胞リン脂質合成系を用いることにより、脂肪酸、リン脂質合成酵素及びリン脂質を1つの無細胞合成系で合成することができ、かつ、高濃度のリン脂質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態の無細胞リン脂質合成系の模式図である。
図2】試験例1の無細胞脂肪酸合成系における脂肪酸合成の結果を示すグラフである。(A)は反応液1の結果であり、(B)は反応液2の結果である。
図3】試験例1の無細胞脂肪酸合成系における脂肪酸合成の結果を示すグラフである。(A)は脂肪酸(オレイン酸)添加による脂肪酸合成への影響を示した結果であり、(B)はリポソーム添加による脂肪酸合成への影響を示した結果である。
図4】試験例2の無細胞タンパク質合成系の結果を示す画像である。(A)はPlsX、PlsY、及びPlsC合成反応を行った反応液をSDS-PAGE電気泳動した結果であり、(B)は緑色蛍光タンパク質(GFP)を連結させたPlsX及びPlsYを巨大脂質膜小胞内部で合成し共焦点顕微鏡で観察した画像である。
図5】実施例1の無細胞リゾリン酸合成系におけるリゾリン酸合成の結果を示すグラフである。
図6】実施例2の無細胞リン酸合成系におけるリン酸合成量の結果を示すグラフである。
図7】実施例2の無細胞リン酸合成系における合成されたリン脂質の組成を示すグラフである。
図8】一実施形態の、アセチルCoA合成酵素及びアセチルCoAカルボキシラーゼを添加する無細胞リン脂質合成系の模式図である。
図9】実施例3のCoA循環型無細胞リン酸合成系におけるリン酸合成量の結果を示すグラフである。
図10】実施例4の、他種のリン脂質合成酵素を合成した、無細胞リン酸合成系におけるリン酸合成量の結果を示すグラフである。
図11】実施例5の、脂質膜小胞内部でのリン脂質合成系を微分干渉ユニットを搭載した共焦点顕微鏡で観察した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
リン脂質は、構造中にリン酸エステル部分をもつ脂質の総称である。両親媒性を持ち、脂質二重層を形成して細胞膜の主要な構成成分となるほか、生体内でのシグナル伝達にも関わる。代表的なリン脂質は、グリセリン又はスフィンゴシンを中心骨格として脂肪酸とリン酸が結合し、さらにリン酸にアルコールがエステル結合した構造をもつ。脂肪酸及びアルコールには様々な分子種があるため、組み合わせによってきわめて多くの種類が存在する。
【0013】
一実施形態において、リン脂質は、グリセリンを骨格とするグリセロリン脂質を含む。グリセロリン脂質は、グリセリンのC1、C2位に脂肪酸が、C3位にリン酸がそれぞれエステル結合した分子であるホスファチジン酸と、ホスファチジン酸からC2位の脂肪酸が外れた分子であるリゾホスファチジン酸を含む。
【0014】
グリセリンに結合する脂肪酸としては、特に限定されず、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよく、また、グリセリンのC1には飽和脂肪酸が、C2位には不飽和脂肪酸が結合している場合が多いが、これに限定されない。
【0015】
飽和脂肪酸としては、炭素数4~30の飽和脂肪酸であってよく、炭素数12~22の飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数が12~18の飽和脂肪酸であることがより好ましい。具体的には、カプリン酸(10:0)、ラウリン酸(12:0)、ミリスチン酸(14:0)、パルミチン酸(16:0)、ステアリン酸(18:0)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
不飽和脂肪酸としては、1つ以上の不飽和の炭素結合をもつ脂肪酸であればよく、例えば、モノ不飽和脂肪酸、ジ不飽和脂肪酸、トリ不飽和脂肪酸、テトラ不飽和脂肪酸、ペンタ不飽和脂肪酸、ヘキサ不飽和脂肪酸を挙げられる。モノ不飽和脂肪酸又はジ不飽和脂肪酸であることが好ましい。また、炭素数4~30の不飽和脂肪酸であってよく、炭素数12~22の不飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数が12~18の不飽和脂肪酸であることがより好ましい。具体的には、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
アルコールとしては、特に限定されないが、窒素原子を含むアルコールであることが好ましい。例えば、コリン、エタノールアミン、イノシトール、セリン、シチジン2リン酸(CDP)、グリセロールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
一実施形態において、合成されるリン脂質としては特に限定されないが、例えば、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸、ホスファチジルコリン(レシチンともいう)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール(カルジオリピン)、CDP-ジアシルグリセロールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
一実施形態において、本発明の無細胞リン脂質合成方法は、リン脂質合成酵素を合成するための無細胞タンパク質合成系と、脂肪酸合成酵素と、リポソームとを混合し、反応混合液を得る第1の工程と、リン脂質合成酵素を合成する第2の工程と、脂肪酸合成反応の基質及び電子供与体を添加し、脂肪酸合成及びリン脂質合成を連続的に行う第3の工程とを含む。
【0020】
一実施形態のリン脂質の合成スキームの模式図は図1に示す。図1に示すように、リン脂質の無細胞合成系は、脂肪酸合成系、タンパク質(リン脂質合成酵素)合成系、及びリン脂質合成系を含む。以下、合成方法の各工程及び各合成系について詳細に説明する。
【0021】
第1の工程における無細胞タンパク質合成系は、細胞を利用しないで(例えば、試験管内で)タンパク質を合成する系を意味する。そのため、試験管内合成系とも呼ばれる。本明細書では、無細胞合成系と試験管内合成系は同じ意味で使用する。無細胞タンパク質合成系としては、特に限定されないが、既知の無細胞タンパク質合成系、又は既知のものを適宜に改良・最適化した合成系があげられる。例えば非特許文献3等に記載されているような、転写翻訳反応に必須な酵素及び因子から再構築した純度の高い系が望ましい。また、市販の無細胞タンパク質合成系を利用してもよい。
【0022】
無細胞タンパク質合成系は、合成目的タンパク質(すなわち、リン脂質合成酵素)をコードする核酸(DNA又はmRNA)、並びに、翻訳反応に必要なリボソーム、タンパク質因子(翻訳開始因子、翻訳伸長因子、翻訳終結因子、アミノアシルtRNA合成酵素(ARS))、tRNA、アミノ酸、及びNTP(ATP、GTP)を含む。転写と共役する場合は、RNAポリメラーゼ、及びUTP、CTPもさらに含んでよい。翻訳効率を上げるために、メチオニルtRNAフォルミル転移酵素、リボソーム再生因子などを含んでもよい。さらに、エネルギー再生系(エネルギー再生に必要な酵素タンパク質とその基質)を含んでもよい。また、必要に応じて、合成タンパク質の高次構造形成を助ける分子シャペロンを添加して合成することもできる。分子シャペロンとしては、大腸菌のDnaKやGroEが挙げられるが、この他のものを使用してもよい。各成分及びその組成は、非特許文献3などに基づき、当業者が適宜に調整できる。
【0023】
一実施形態において、リン脂質合成酵素を合成するための無細胞タンパク質合成系が、リン脂質合成酵素をコードするテンプレート核酸(DNA又はmRNA)、翻訳開始因子(例えば、IF1、IF2、IF3)、翻訳伸長因子(例えば、EF-Tu、EF-Ts、EF-G)、翻訳終結(解離)因子(例えば、RF1、RF2、RF3)、リボソーム再生因子(RRF)、20種類のアミノアシルtRNA合成酵素(例えば、AlaRS、ArgRS、AsnRS、AspRS、CysRS、GlnRS、GluRS、GlyRS、HisRS、IleRS、LeuRS、LysRS、MetRS、PheRS、ProRS、SerRS、ThrRS、TrpRS、TyrRS、ValRS)、翻訳開始反応の効率を上げるメチオニルtRNAフォルミル転移酵素、リボソーム、転写反応に必要なRNAポリメラーゼ(例えば、T7RNAポリメラーゼ、)、エネルギー再生に必要な酵素タンパク質(例えば、クレアチンキナーゼ、ヌクレオシド二リン酸キナーゼ、ミオキナーゼ))、ピロリン酸を分解する無機ピロホスファターゼ、L-アミノ酸(アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、セリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、メチオニン、システイン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸)、NTP(例えば、ATP、GTP、UTP、CTP)、及びtRNA(例えば、大腸菌由来のtRNA抽出物)を含む。各成分の具体例が図1の左下の表に示す。それぞれの成分は、細胞抽出液に含まれているものであってもよいが、細胞抽出液を使用せず、精製した因子(各種酵素や低分子化合物)を混合した反応液を使用することが好ましい。
【0024】
また、テンプレート核酸以外の成分としては、ジーンフロンティア社が提供しているPUREfrex(登録商標)1.0及び2.0及びDnaK mixを利用してもよい。このPUREfrexは、精製した因子を混合した反応液を使用するため、組成を自由に調節でき、タンパク質合成に無関係なタンパク質をほとんど含まないなどの利点を有する。
【0025】
リン脂質合成酵素は特に限定されないが、たとえば、細菌のリン脂質合成系におけるPlsX、PlsY及びPlsCを挙げられる。PlsX酵素は、リン脂質合成の初期過程(リゾホスファチジン酸合成)において、脂肪酸を結合したアシルキャリアプロテイン(ACP)からACPを解離させアシルリン酸を合成する。さらにこのアシルリン酸を基質としてアシル転移酵素PlsYがアシル基をグリセロール3-リン酸(G3P)に転移する。PlsCは、リゾリン酸とアシルACPからホスファチジン酸を合成する酵素である。PlsX及びPlsYの代わりに、PlsBを使用してもよい。リン脂質合成酵素としては、特に限定されないが、大腸菌(例えば、K12株)由来の遺伝子、例えば、PlsX(Gene ID:946165)、PlsY(Gene ID:947561)、PlsB(Gene ID:948541)、及びPlsC(Gene ID:947496)、或いは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)由来の遺伝子、例えば、PlsX(NCBI_Ref.Seq.:WP_000239746)、PlsY(NCBI_Ref.Seq.:WP_000972779.1)、PlsC(NCBI_Ref.Seq.:WP_000287588)遺伝子が挙げられる。
【0026】
リン脂質合成酵素をコードする核酸(テンプレート)としては、DNAであってもRNAであってもよい。また、テンプレートDNAとしては、これらの酵素をコードする遺伝子DNAの全長であってもよく、酵素をコードするcDNAであってもよい。テンプレートRNAとしては、上記テンプレートDNAが転写されたRNAを相当するものであってよい。核酸は、大腸菌、MRSAなどのゲノム遺伝子からPCR等で増幅してもよく、完全又は一部人工合成によって得ることができる。
【0027】
第1の工程における脂肪酸合成酵素は、脂肪酸の合成に必要な酵素(脂肪酸シンターゼ;FAS)であれば特に限定されない。脂肪酸シンターゼの出発物質(基質)は、アセチルCoA及びマロニルCoAであり、これらの基質から、順次飽和脂肪酸も不飽和脂肪酸も合成され得る。また、合成される脂肪酸は一般的に複数種の鎖式炭化水素の脂肪酸の混合物であるが、酵素の種類及び組成を調整することで、所望の脂肪酸の割合を増やすことも可能である。図1の右上のスキームに示すように、一般的な脂肪酸シンターゼは、FabA、FabB、FabD、FabF、FabG、FabH、FabI、FabZ及びACP(アシルキャリアプロテイン)の9種類の酵素が必要である。これらの酵素は、非特許文献2等に記載されており、公知のものである。
【0028】
第1の工程におけるリポソームは、特に限定されないが、リン脂質を含むリポソームであればよい。リポソームは、例えば無細胞系のタンパク質合成反応を阻害しない適当なバッファー(例えば、50mM Hepes-KOH(pH 7.6))等にリン脂質を加え、超音波処理を行うことで調製することができる。さらに得られたリポソームを、例えば孔サイズ100nmのポリカーボネートメンブレンを配したマイクロエクストルーダーで処理することで、均一なサイズのリポソームが得られる。リポソームを形成する脂質は特に限定されないが、無細胞系内で安定性が高いホスファチジルコリンベースのもの、例えば、POPC(palmitoyloleoylphosphatidylcholine)及び/又はPOPG(palmitoyloleoylphosphatidylglycerol)が好ましく用いられ、例えば、POPC:POPG=90:10から50:50(mol/mol)がより好ましい。第1の工程においてリポソームを添加することで、第2の工程において無細胞タンパク質合成系で合成された、膜タンパク質であるリン脂質合成酵素が、合成と共役してリポソームの膜へ挿入させ、局在させることができる。
【0029】
第1の工程において、各成分の添加量は当業者が任意に選択でき、また、添加順番が特に限定されないが、リン脂質合成酵素をコードする核酸(テンプレート)を最後に投入することが好ましい。
【0030】
第2の工程は、リン脂質合成酵素を合成できる条件で行えばよい。例えば、37℃、1~3時間で行えばよい。リン脂質合成酵素の合成を確認するために、所定の反応時間後に反応液からサンプリングし、電気泳動(例えば、富士フィルム和光純薬社製スーパーセップTMエース(198-15041)を使用して)及びウエスタンブロッティング法により目的タンパク質の分子量を確認することができ、また、得られたバンドの濃さによって合成量も推測することができる。第2工程の反応時間は特に限定されず、所望の合成量のリン脂質合成酵素が得られれば、次の第3の工程に進むことができる。
【0031】
第3の工程において、脂肪酸合成反応の基質及び電子供与体を添加し、脂肪酸合成及びリン脂質合成を連続的に行う。脂肪酸合成反応の基質としては、好ましくはアセチルCoA及びマロニルCoAを含み、また、電子供与体としてはNADPH及び/又はNADHを含む。これらの基質の添加濃度は、当業者が適宜に選択することができる。例えば、終濃度2mMのアセチルCoAと終濃度4mMのNADPHなどでもよい。これらの基質は、脂肪酸合成の基質であるため、基質が添加されることで、脂肪酸合成反応が開始され、また、合成された脂肪酸は、反応液中に存在する、リポソームの膜に局在したリン脂質合成酵素によって、さらにリン脂質へと合成される。このように連続した反応によって、反応液中の合成された脂肪酸の濃度が過剰に上昇することなく、脂肪酸合成系への負のレギュレーションを回避することができる。
【0032】
第3の工程は、リン脂質を合成できる条件で行えばよい。例えば、30℃、30分以上で行えばよい。リン脂質の合成を確認するために、所定の反応時間後に反応液からサンプリングし、例えば実施例1に記載のようにLC-MSにて検出・定量することができる。この場合、13C安定同位体ラベル化したアセチルCoA及びマロニルCoAを使用することが望ましい。第3工程の反応時間は特に限定されず、例えば30分以上、1時間以上、2時間以上であってもよく、所望の合成量のリン脂質が得られれば、止めることができる。
【0033】
第3工程において、反応の途中で、基質及び/又は電子供与体を追加してもよい。すなわち、反応開始の所定時間後に、基質及び/又は電子供与体をさらに添加してもよい。これによって、最初の基質及び電子供与体が枯渇したのちに、さらに反応を進めることができる。追加添加のタイミングは特に限定されず、例えば、反応開始30分後、1時間後であってもよい。また、1回追加してもよく、2回以上追加してもよい。
【0034】
本発明の方法において、1分子のリン脂質を合成するのに最大18分子のCoAが生成されるため、リン脂質を合成すれば合成するほどCoAが副産物として蓄積してしまう。一方、脂肪酸合成反応の基質であるアセチルCoA及びマロニルCoAが高価であることから、例えば、図8に示すように、系の中でCoAをリサイクルさせ、副産物が蓄積しない、持続可能なリン脂質合成系を作ることもできる。副産物のCoAからアセチルCoA及びマロニルCoAを合成するために、例えば図8に示すように、アセチルCoA合成酵素(ACS)及びアセチルCoAカルボキシラーゼ(Acc)を系内に添加してもよい。アセチルCoA合成酵素(ACS)としては、例えばAMP形成型ACSなどが挙げられ、アセチルCoAカルボキシラーゼ(Acc)としては、例えば、AccBC、AccDAなどが挙げられる。
【0035】
ACS及びAccBCDAを系に添加するタイミングは特に限定されず、第1の工程において(例えば、第1の工程の反応混合液中に)添加してもよく、また、第3の工程において(例えば、脂肪酸合成反応の基質及び電子供与体と同時に、又は、反応の途中で)添加してもよい。ACS及びAccBCDAを添加する場合の脂肪酸合成反応の基質が、コエンザイムA(CoA)、酢酸、及び炭酸水素塩を含むことが好ましい。ACS及びAccBCDAの添加により、CoAと酢酸からアセチルCoAを合成でき、さらにアセチルCoAと炭酸水素塩からマロニルCoAを合成できる。このCoAリサイクル系を取り入れることで、比較的高価なアセチルCoA及びマロニルCoAを炭素源として使用せず、安価な酢酸や炭酸水素塩からリン脂質を合成することが可能になる。
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【実施例0037】
<試験例1 無細胞脂肪酸合成系>
表1に示す反応液1又は反応液2を用意し、30℃で60分反応させ、脂肪酸を合成した。FabA、FabB、FabD、FabF、FabG、FabH、FabI、FabZ、アシルキャリアプロテイン(ACP)、チオエステラーゼ(TesA)は精製標品を使用した。[13C]アセチルCoA、[13C]マロニルCoA、NADH、NADPHはシグマアルドリッチ社から購入した。
【表1】
【0038】
反応1分、5分、10分、30分及び60分の時点で、反応液をサンプリングし、50%MeOH溶液で10倍に灰希釈したものを、4℃で16,000g×5分にて遠心分離し、上清を回収し、フィルター(0.20μm(MILLIPORE社製 Millex(登録商標)-LG, Cat. No. SLLGH04NL))にかけ、上清中の各種脂肪酸の組成を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)(SHIMADZU社製LCMS2020)で測定した。その結果を図2に示す。
【0039】
図2の(A)は反応液1の結果であり、(B)は反応液2の結果である。図中の脂肪酸はそれぞれ、12:0(ラウリン酸)、14:0(ミリスチン酸)、16:1(バルミトオレイン酸又はサピエン酸)、16:0(バルミチン酸)、18:1(オレイン酸)、及び18:0(ステアリン酸)であった。図1によれば、この無細胞脂肪酸合成系では、150μM以上の脂肪酸を合成することが可能であり、また、(A)と(B)を比較すると、FabA、FabB及びFabZの濃度を変えることで、得られる脂肪酸の組成を変えることが可能であったことが分かった。反応液1の場合、飽和脂肪酸が全脂肪酸に占める割合が15%であったのに対して、反応液2の場合、70~80%となった。
【0040】
反応液2を用いて、かつ、(1)オレイン酸(0μM、50μM、200μM、又は1000μM)、或いは(2)リポソーム(0、10μg/mL、50μg/mL、150μg/mL、又は250μg/mL)を添加し、30℃で30分反応させ、脂肪酸を合成した。リポソームは、POPC(palmitoyloleoylphosphatidylcholine):POPG(palmitoyloleoylphosphatidylglycerol)=50:50(mol/mol)を用いて調製したものであり、100~200nmの直径を有した。
【0041】
合成した脂肪酸の混合物中の各種脂肪酸の組成を試験例1と同様に測定し、その結果を図3に示す。図3の(A)はオレイン酸添加の結果であり、(B)はリポソーム添加の結果である。オレイン酸もリポソームも添加されない場合、合成された脂肪酸の量が約200μMであった(図3)。オレイン酸が添加される場合、合成される脂肪酸の量がオレイン酸濃度依存的に減少した。このことは、反応産物の脂肪酸の蓄積により、脂肪酸合成酵素の働きを止める可能性があり、すなわち、反応系に対して負のレギュレーションをしていることを示唆した。一方、リポソームが添加される場合、合成される脂肪酸が増加し、リポソームの量が50μg/mL以上の場合は、合成量がほぼ横ばいとなり、約300μMとなった。これは、合成された遊離脂肪酸がリポソーム脂質二重層の中に入り込み、反応液中の遊離脂肪酸の濃度が低減したから、負のレギュレーションを一部回避できたと考えられる。
【0042】
<試験例2 無細胞タンパク質合成系>
表2に示す成分を試験管内で混合し、37℃で2時間反応させ、リン脂質合成酵素であるPlsX、PlsY、PlsCを試験管内(無細胞)で合成した。再構成型無細胞タンパク質合成のためのPUREfrex(登録商標)2.0及びDnaK mixはGeneFrontierより購入した。リポソームは、POPC(palmitoyloleoylphosphatidylcholine):POPG(palmitoyloleoylphosphatidylglycerol)=50:50 (mol/mol)を50mM Hepes-KOH(pH 7.6)に加え、超音波処理を行うことで調製した。得られたリポソームを、さらに孔サイズ100nmのポリカーボネートメンブレンを配したマイクロエクストルーダーで処理することで、100nmの直径を有するリポソームを得た。plsX(Gene ID:946165)、plsY(Gene ID:947561)、plsC(Gene ID:947496)は、これら遺伝子配列の上流にT7転写開始配列、及びリボソーム結合配列を配し、また、下流には終始コドン配列、及びT7転写終結配列を配したものを、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)により調製した。
【表2】
【0043】
反応後の反応液の一部を、電気泳動(富士フィルム和光純薬社製スーパーセップTMエース(198-15041))及びウエスタンブロッティング法(WB法)により、合成されたタンパク質の分子量を確認した。その際、各タンパク質のC末端側に連続した6つのヒスチジン(6His)が付加されるようDNAを設計したものを用意し、テンプレート核酸として使用した。これら、6Hisに特異的に結合する抗体を使用して、WB法により合成されたタンパク質分子を可視化した。その結果を図4の(A)に示す。タンパク質の分子量から、PlsX及びPlsY及びPlsCが合成されたことが確認された。
【0044】
また、表2の組成からリポソームを除き、且つ2Mスクロースを終濃度200mMになるよう加えたものを、エマルジョン沈降法により、直径数~数十μmの脂質膜小胞に内包し、内部でタンパク質合成を行い、その局在を顕微鏡により観察した。エマルジョン沈降法(非特許文献4)は、リン脂質が1mMの濃度で溶解したミネラルオイル(又は流動パラフィン)内に無細胞タンパク質合成系を加え懸濁し、乳化させたものを、200mMグルコースを含んだ等張液(例えば、PUREfrex(登録商標)2.0又は1.0の1´Sol. I)に重層し、20,000×g、4℃、30分間遠心処理することで、無細胞タンパク質合成系を内包した脂質膜小胞を調製した。合成したタンパク質を可視化するために、緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子をPlsXの上流、又はPlsYの下流に配したものを使用した。反応後の脂質膜小胞は、Nikon社製共焦点顕微鏡システムA1により観察した。その結果を図4の(B)に示す。GFPの蛍光が膜小胞の脂質膜上に強く観察されたことから、合成されたPlsX及びPlsYタンパク質が脂質膜に局在していることが示唆された。
【0045】
<実施例1 無細胞リゾリン酸合成系>
表3に示す成分を試験管内で混合し、37℃で2時間反応させ、リン脂質合成酵素(PlsX、PlsY)を合成させた。FA酵素 mixは、精製したFabA、FabB、FabD、FabF、FabG、FabH、FabI、FabZ、ACPがそれぞれ、100mM、100mM、10mM、10mM、10mM、10mM、100mM、10mM、300mMになるよう調製した混合溶液であった。
【表3】
【0046】
反応液に、さらに100mM [13C]アセチルCoA(終濃度2mM)、100mM [13C]マロニルCoA(終濃度4mM)、100mM NADPH/NADH(1:1)混合物(終濃度4mM)、100mM KPO(pH7.8)(終濃度10mM)を添加し、30℃で30分以上反応させた。上記と同様にMeOH処理したものをLC-MSにて定量した。その結果を図5に示す。合成された各種リゾリン酸(LPA)の合計量は110μMを超えた。この合成量は、非特許文献1の合成量によりも高かった。
【0047】
<実施例2 無細胞ホスファチジン酸合成系>
表4に示す成分を試験管内で混合し、37℃で2時間反応させ、リン脂質合成酵素(PlsX、PlsY、PlsC)を合成させた。
【表4】
【0048】
反応液に、さらに100mM [13C]アセチルCoA(終濃度2mM)、100mM [13C]マロニルCoA(終濃度4mM)、100mM NADPH/NADH(1:1)混合物(終濃度4mM)、100mM KPO(pH7.8)(終濃度10mM)を添加し、30℃で30分以上反応させた。また、30℃で反応30分後の時点で、[13C]アセチルCoA、[13C]マロニルCoA、NADPH/NADHを同じ終濃度になるように追加した。
【0049】
反応0分、30分、60分、及び120分の時点で、反応液からサンプリングし、上記と同様にMeOH処理したものをLC-MSより定量した。その結果を図6に示す。図6から、追加あり(追+)の場合、400μMを超えたリン脂質の合成量が観察され、これは追加なし(追-)の約2倍の量であった。
【0050】
追加ありで合成されたリン脂質における各種リン脂質の組成は、図7に示す。仮に、4mMのマロニルCoAが全てリン脂質(例えば、(DOPA:18:1/18:1))に変換された場合、最大合成量は250μMとの計算になる。250μMのリン脂質を合成するために、4mM NADPH/NADHが必要と考えられる。図6及び図7の結果から、反応前に添加された基質混合溶液は、30分以内にリン脂質合成反応が完了しており、基質が全て消費されたことが推察される。
【0051】
実施例2の結果より、本発明の無細胞リン脂質合成系は、高い生産量でリン脂質を合成できることが証明された。
【0052】
<実施例3 CoA循環型無細胞ホスファチジン酸合成系>
表5に示す成分を試験管内で混合し、37℃で2時間反応させ、リン脂質合成酵素(PlsX、PlsY、PlsC)を合成させた。ACS、AccBC、AccDAは精製標品を使用した。
【表5】
【0053】
反応液に、さらに50mM CoA(終濃度1mM)、250mM 炭酸水素カリウム(終濃度10mM)、100mM NADPH/NADH(1:1)混合物(終濃度4mM)、100mM KPO(pH7.8)(終濃度10mM)を添加し、30℃で30分以上反応させた。CoAはシグマアルドリッチ社から購入した。
【0054】
反応30分の時点で、CoAを加えたものと加えなかった反応液から、各々サンプリングし、上記と同様にMeOH処理したものをLC-MSより定量した。その結果を図9に示す。図9から、CoAを加えたものの場合、約85μMのリン脂質(ホスファチジン酸)の合成量が観察された。
【0055】
<実施例4 他種リン脂質合成酵素による無細胞ホスファチジン酸合成系>
表6に示す成分を試験管内で混合し、37℃で2時間反応させ、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)由来のリン脂質合成酵素(PlsX、PlsY、PlsC)を合成させた。テンプレートしては、plsX(NCBI_Ref.Seq.:WP_000239746)、plsY(NCBI_Ref.Seq.:WP_000972779.1)、plsC(NCBI_Ref.Seq.:WP_000287588)を用い、これら遺伝子配列の上流にT7転写開始配列、及びリボソーム結合配列を配し、また、下流には終始コドン配列、及びT7転写終結配列を配したものを、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)により調製した。
【表6】
【0056】
反応液に、さらに100mM [13C]アセチルCoA(終濃度2mM)、100mM [13C]マロニルCoA(終濃度4mM)、100mM NADPH/NADH(1:1)混合物(終濃度4mM)、100mM KPO(pH7.8)(終濃度10mM)を添加し、30℃で120分反応させた。
【0057】
反応60分の時点で、反応液からサンプリングし、上記と同様にMeOH処理したものをLC-MSより定量した。定量した結果を、大腸菌由来のplsX、plsY、plsCを合成した実験結果と比較したものを図10に示す。図10から、全て大腸菌の遺伝子を使った反応系と比較して、MRSA由来の遺伝子を使ったものの方が約1.4倍高いことを示す結果が得られた。
【0058】
<実施例5 脂質膜小胞内部でのリン脂質合成系>
実施例3に示す、上記表5のCoA循環型無細胞リン脂質合成系の組成からリポソームを除き、CoA(終濃度0.5~1.0mM)を加えたものを脂質膜小胞に内包し、内部でリン脂質合成を実行した。対照として、CoAを添加しない系も用意した。脂質膜小胞は界面通過法により、50mol%のホスファチジルグリセロールを含むホスファチジルコリンで形成した。
【0059】
37℃で3~4時間反応させ、タンパク質合成を行なった後、脂質膜小胞外部に100mM NADPH/NADH(1:1)混合物(終濃度4mM)、100mM KPO(pH7.8)(終濃度10mM)を加えて、37℃で1時間反応させ脂質膜小胞内部の脂肪酸合成とリン脂質合成を稼働させた。
【0060】
反応後、GFPを結合したSPO20(終濃度3μg/mL)を脂質膜小胞外部に加えて、内部で合成されたホスファチジン酸が小胞の膜上に局在していることを可視化した。SPO20はホスファチジン酸と特異的に結合する酵母由来のタンパク質である。
【0061】
得られた脂質膜小胞を、微分干渉ユニットを搭載した共焦点顕微鏡(Nikon社製・A1R)にて観察し、その結果を図11に示す。図11の(A)は得られた顕微鏡画像であり、(B)は得られた蛍光画像の蛍光強度を示す。図11から、CoAを添加した系(+CoA)は、CoAを添加しない系(-CoA)に比べて、膜上に蛍光を示した脂質膜小胞が観察された。脂質膜小胞の膜において、ホスファチジン酸が合成されたことを示唆した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11