(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165984
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20221025BHJP
C09D 11/101 20140101ALI20221025BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221025BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/101
B41M5/00 120
B41J2/01 127
B41J2/01 501
B41J2/01 125
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115809
(22)【出願日】2022-07-20
(62)【分割の表示】P 2016204684の分割
【原出願日】2016-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】原田 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】光本 欣正
(57)【要約】
【課題】低粘度の無溶剤系のエネルギー線硬化型インクジェットインクを得ようとすると、その一手段として、一般的に粘度が低い単官能モノマーの比率を大きくすることが考えられる。しかし、単官能モノマーの比率を大きくすると、インクを硬化させた際に反応性が低く、硬化性が低くなることが懸念される。さらに、インク層の延伸性、硬化性が不十分だと、記録工程でRolltoRoll等を用いる場合、巻取りの際に非記録媒体にクラックが入ったり、非記録媒体同士がべたつくといった問題が生じる。
【解決手段】溶剤を実質的に含まないエネルギー線硬化型インクジェットインク組成物が、単官能モノマーと、アクリル当量が150より大きい第一の多官能モノマーと、アクリル当量150以下第二の多官能モノマーとを有するようにする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と光重合開始剤を含むインクジェットインク組成物であって、
前記重合性化合物は、
単官能モノマーと、
アクリル当量が150より大きく、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第一の多官能モノマーと、
アクリル当量150以下、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第二の多官能モノマーとを有するインクジェットインク組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記インクジェットインク組成物の全体に対して、前記単官能モノマー含有量が50~80質量%、前記第一の多官能モノマーの含有量が1~10質量%、前記第二の多官能モノマーの含有量が5~35質量%となるインクジェットインク組成物。
【請求項3】
請求項1において、
前記重合性開始剤は、アルキルフェノン系化合物と、チオキサントン系化合物の少なくとも1つを含むインクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項1において、
前記単官能モノマーのガラス転移温度が-70℃以上、29℃以下であり、
前記第一の多官能モノマーのガラス転移温度が-25℃以上、180℃以下であり、
前記第二の多官能モノマーのガラス転移温度が43℃以上、100℃以下であるインクジェットインク組成物。
【請求項5】
請求項1において、
前記インクジェットインク組成物は、表面調整剤及び着色剤を含むインクジェットインク組成物。
【請求項6】
請求項1において、
前記インクジェットインク組成物は、25℃で6.5~8.0mPa・sの粘度を有するインクジェットインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物に関し、特にエネルギー線硬化型インクジェットインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクヘッドノズルから液状のインクを吐出し、被記録媒体に記録する方式である。インクジェット記録方式で用いられるインクの一つに、エネルギー線硬化型インクジェットインクが挙げられる。この方式では、インクが吐出された後、エネルギー線(例えば紫外線等)の照射によりインク中の重合性化合物が架橋することで、エネルギー線硬化型インクジェットインクは、硬化し、インク層を形成する。エネルギー線硬化型インクジェットインクは、大別すると、有機溶剤や水を含む溶剤系と、有機溶剤等を実質的に含まない無溶剤系がある。
【0003】
エネルギー線硬化型インクジェットインクは、通常、インクヘッドノズルから吐出できる程度の粘度とする必要がある。さらに、高精細な印刷物を得るために、吐出するインクの液滴サイズを小さくし、安定して吐出できるように、より低い粘度とすることが要求される。低い粘度を有するエネルギー線硬化型インクジェットインクを得るための一例として、特許文献1には、「重合性化合物は、300以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマーと、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する多官能モノマーとのみからなり、前記光重合開始剤は、α-アミノアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物を含有」するエネルギー線硬化型インク組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、上述した通り、低い粘度となるエネルギー線硬化型インク組成物が開示されているが、より低い粘度(粘度が約10mPa・s(25℃)以下)となるエネルギー線硬化型インクジェットインクの組成は開示されていない。
【0006】
より低粘度の無溶剤系のエネルギー線硬化型インクジェットインクを得ようとすると、一般的に粘度が低い単官能モノマーの比率を大きくすることが考えられる。しかし、単官能モノマーの比率を大きくすると、インクを硬化させた際に反応性が低くなり、硬化性が低くなる。硬化性が低くなる事を防ぐために、特許文献1に記載されるようなエネルギー線硬化型インクジェットインク組成物が考えられるが、多官能モノマーを用いると硬化性は高くなるものの、インクの粘度も高くなる事が考えられる。
【0007】
また、非記録媒体への記録工程において、Rool to Rollといった巻取が要求される非記録媒体への記録に対しては、非記録媒体への記録後、巻取りの際にクラックが入らないよう、また、非記録媒体同士のべたつきを防ぐため、非記録媒体のインク層の延伸性と硬化性が必要とされる。特許文献1では、上記点については考慮されていない。
【0008】
本発明は、エネルギー線硬化型インクジェットインクにおいて、低粘度であり、且つ、硬化性及び延伸性に優れたエネルギー線硬化型インクジェットインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一例によれば、インクジェットインク組成物は、重合性化合物と光重合開始剤を含み、前記重合性化合物は、単官能モノマーと、アクリル当量が150より大きく、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第一の多官能モノマーと、アクリル当量150以下、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第二の多官能モノマーとを有するよう構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エネルギー線硬化型のインクジェットインク組成物において、低粘度であり、且つ、硬化性及び延伸性に優れたエネルギー線硬化型のインクジェットインク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態のエネルギー線硬化型インクジェットインク(以下、インクとも言う)は、重合性化合物である単官能モノマー及び多官能モノマーと、光重合開始剤とを少なくとも含む。その他に、着色剤、添加剤などを含む。
【0013】
重合性化合物は、エネルギー線(紫外線、電子線等)の照射により重合反応をし、硬化する化合物である。重合性化合物のうち、単官能モノマーは、一分子中にエチレン性二重結合を1個有し、多官能モノマーは、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する。
【0014】
また、本実施形態のエネルギー線硬化型インクは、無溶剤系であり、溶剤を実質的に含まない。ここで、溶剤を実質的に含まないとは、希釈溶剤を含有させる必要はないが、例えば、工業製品使用時にインクに希釈溶剤が不可避的に混入する場合等があり、インク全質量において含有される溶剤の含有量が3質量%以下であることを意味する。溶剤とは、例えば、エーテル、ケトン、芳香族、キシレン等の公知の各種の溶剤を意味する。
【0015】
エネルギー線硬化型インクが無溶剤であることにより、インク層中に揮発性の溶剤の残留が無く、揮発性有機化合物フリーの観点から好ましい。
【0016】
<1.重合性化合物>
<1-1.単官能モノマー>
単官能モノマーとしては、具体的には、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート2-(2-エトキシエトキシエチルアクリレート)ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、エトキシ化ノニルフェニルアクリレートなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。また、上記モノマーは、リンやフッ素などの官能基で置換されていてもよい。
【0017】
これらの中でも、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシエチルアクリレート)、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、は低粘度であるため、より好ましい。さらに、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートを併用すると、特に好ましい。ヒドロキシル基等官能基を含有する2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートを併用することで、低粘度を保ちつつ、非記録媒体(基材)との密着性を付与できる。
【0018】
前述したように、単官能モノマーは、2種類以上を併用することができ、1種類は粘度10mPa・s以下(25℃)の単官能モノマーを用い、他の1種類は粘度が80mPa・s以上(25℃)の単官能モノマーを用いることができる。これにより、エネルギー線硬化型インクを低粘度とすることができ、且つ、非記録媒体との密着性を向上することができる。
【0019】
粘度10mPa・s以下(25℃)の単官能モノマーは、具体的には、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシエチルアクリレート)、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。粘度が80mPa・s以上(25℃)の単官能モノマーは、具体的には、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、エトキシ化ノニルフェニルアクリレートが挙げられる。粘度が80mPa・s以上(25℃)の単官能モノマーを用いる場合でも、粘度10mPa・s以下(25℃)の単官能モノマーを併用することにより、インクの粘度を低く保ちつつ、インクの非記録媒体への密着性を向上することができる。
【0020】
さらに、単官能モノマーは、官能基を有する事が好ましく、具体的には、ヒドロキシル基、カルボキシル基、リン酸基などが挙げられる。これらの官能基を有する事により、非記録媒体との密着性を向上することができる。これらの中でも、ヒドロキシル基が特に好ましく、より密着性を向上することができる。
【0021】
また、単官能モノマーのガラス転移温度は、-70℃以上30℃以下であることが好ましい。これにより塗膜に適度な硬さとインク層(インク塗膜)の延伸性を付与できる。
【0022】
<1-2.多官能モノマー>
多官能モノマーは、アクリル当量が150より大きく、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第一の多官能モノマーと、アクリル当量が150以下、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第二の多官能モノマーを含む。重合性化合物には、第一の多官能モノマーと第二の多官能モノマーがそれぞれ少なくとも1つ含まれる。
【0023】
多官能モノマーとして、第一の多官能モノマーと第二の多官能モノマーを用いることにより、インク層の延伸性と硬度(塗膜強度)を両立することができる。さらに、多官能モノマーを用いることで、インク層の硬化性も向上することができる。
【0024】
アクリル当量とは、(アクリル当量)=(モノマーの分子量/モノマーの官能基数)により算出される。
【0025】
<1-2-1.第一の多官能モノマー>
アクリル当量が150より大きく、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個有する第一の多官能モノマーとしては、具体的には、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、エトキシ化(3)ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。
【0026】
一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーとしては、具体的には、エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクレートなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。
【0027】
上記多官能モノマーの中でも、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレートが好ましい。これらの多官能モノマーを用いることで、インクを低粘度に保ち、且つ、インク層の塗膜強度を高くする事ができる。
【0028】
また、第一の多官能モノマーのガラス転移温度は、-25℃以上180℃以下であることが好ましい。
【0029】
<1-2-2.第二の多官能モノマー>
アクリル当量150以下、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個有する第二の多官能モノマーとしては、具体的には、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、シキロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。
【0030】
一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーとしては、具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリルトリ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性、プロピレンオキサイド変性、カプロラクトン変性体などが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。
【0031】
上記多官能モノマーの中でも、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、が好ましい。これらの多官能モノマーを用いることで、インクを低粘度に保ち、インク層の硬化性を向上する事ができる。
【0032】
また、第二の多官能モノマーのガラス転移温度は、43℃以上100℃以下であることが好ましい。これによりインク層の塗膜強度を高くすることができる。
【0033】
上記第一の多官能モノマーと第二の多官能モノマーの中でも、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートと1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートの組合せが好ましい。これにより、インクの粘度を低粘度、且つ、インク層の塗膜強度を高くすることができる。
【0034】
<1-3.各重合性化合物の含有量について>
インク組成物中の重合性化合物の含有量は、インク組成物全体に対して、70質量%以上、90質量%以下が好ましく、78質量%以上、88質量%以下がより好ましい。上記重合性化合物の含有量の範囲であれば、低粘度を維持しつつ、高い硬化性及び密着性を有するインクを得ることができる。
【0035】
また、単官能モノマーの含有量は、インク組成物全体に対して、50質量%以上、80質量%が好ましく、55質量%以上、75質量%以下がより好ましい。単官能モノマーの含有量が50質量%以上であれば、低粘度のインク組成物を得ることができる。一方、単官能モノマーの含有量が80質量%以下であれば、高反応性の多官能モノマーをその分含有させることができ、硬化性及び密着性を向上することができる。
【0036】
単官能モノマーの含有量が50質量%未満であると、多官能モノマーが増えるため、インクを低粘度に保つ事ができない。
【0037】
第一の多官能モノマーの含有量は、インク組成物全体に対して、0.5質量%以上、10質量%以下が好ましく、1質量%以上、8質量%以下がより好ましい。第一の多官能モノマーを前述の含有量とする事により、インク塗膜の強度(塗膜強度)を付与できる。
【0038】
第二の多官能モノマーの含有量は、インク組成物全体に対して、5質量%以上、35質量%以下が好ましく、6質量%以上、30質量%以下がより好ましい。第二の多官能モノマーを前述の含有量とする事により、インク層の硬化速度の向上を付与できる。
【0039】
従来技術において、多官能モノマーのアクリル当量が150より高いと、300以下のアクリル当量を有する多官能モノマーを併用しても、低エネルギー照射では硬化性及び密着性が低下する事が示されている。一方、本実施形態では、アクリル当量が150より大きい多官能モノマーを用いた場合でも、単官能モノマーと、アクリル当量が150以下の多官能モノマーを併用することで、低粘度であり、且つ、低エネルギー照射でも硬化性及び延伸性に優れたエネルギー線硬化型インクとする事を可能としている。
【0040】
また、重合性化合物(単官能モノマー、第一の多官能モノマー、第二の多官能モノマー)の含有量を上記の範囲とすることで、低粘度であり、且つ、硬化性及び延伸性により優れたエネルギー線硬化型インクを提供する。
【0041】
本実施形態の重合性化合物は、インク組成物全体に対する単官能モノマーの含有量の割合が50質量%以上であるため、上記のような一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーを含有しても低粘度のインク組成物を得ることができる。
【0042】
また、重合性化合物中の単可能モノマーの割合は、重合性化合物全体に対して、60%以上、95%以下が好ましく、62%以上91%以下がより好ましい。
【0043】
重合性化合物中の第一の多官能モノマーの割合は、重合性化合物全体に対して、1%以上、10%以下が好ましい。さらに、重合性化合物中の第二の多官能モノマーの割合は、5%以上、35%以下が好ましい。
【0044】
重合性化合物中の単官能モノマーと多官能モノマーとの割合は、単官能モノマーの含有量と多官能モノマーの含有量との質量比(単官能モノマー/多官能モノマー)で1~10が好ましい。
【0045】
多官能モノマー中のアクリル当量が150より大きい第一の多官能モノマーとアクリル当量が150以下の第二の多官能モノマーとの割合は、第一の多官能モノマーの含有量と第二の多官能モノマーの含有量との質量比(第二の多官能モノマー/第一の多官能モノマー)で2~15が好ましい。
【0046】
以上のように、重合性化合物として、単官能モノマー、アクリル当量が150より大きい第一の多官能モノマー、アクリル当量が150以下の第二の多官能モノマーを用いることで、溶剤を実質的に含まないエネルギー線硬化型のインクジェットインクにおいて、低粘度であり、且つ、硬化性及び延伸性に優れたエネルギー線硬化型のインクジェットインクを提供することができる。
【0047】
<2.光重合開始剤>
光重合開始剤としてアルキルフェノン系化合物、チオキサントン系化合物のうち少なくとも一つを含有する。これにより、エネルギー照射によりインク組成物の重合を開始させることができる。
【0048】
アルキルフェノン系化合物としては、α-アミノアルキルフェノン系又はベンジルメチルケタール系が挙げられ、具体的には、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン-1、2-メチル-1-[4-(メトキシチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-2-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なアルキルフェノン系化合物としては、チバ社製のIrgacure 369、Irgacure 907、Irgacure 651などが挙げられる。
【0049】
チオキサントン系化合物としては、具体的には、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン,2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントンなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なチオキサントン系化合物としては、日本化薬社製のKAYACURE DETX-S、ダブルボンドケミカル社製のChivacure ITXなどが挙げられる。
【0050】
インク組成物中の光重合開始剤の含有量は、組成物全体に対して、8質量%以上、15質量%以下が好ましい。
【0051】
インク組成物は、上記以外に、アシルホスフィンオキサイド系化合物、アリールアルキルケトン、オキシムケトン、アシルホスフィンオキサイド、アシルホスホナート、チオ安息香酸S-フェニル、チタノセン、芳香族ケトン、ベンジル、キノン誘導体、ケトクマリン類などの従来公知の光重合開始剤をさらに含有してもよい。
【0052】
これらの光重合開始剤としては、具体的には、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン1,2-オクタンジオン-[4-(フェニルチオ)-2-(o-ベンゾイルオキシム)]、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0053】
<3.着色剤>
着色材として、従来公知の各種染料を使用してもよいが、耐候性の観点より、無機顔料、有機顔料のいずれかまたは両方を使用することが好ましい。
【0054】
無機顔料としては、具体的には、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカなどが挙げられる。
【0055】
有機顔料としては、具体的には、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリン系の有機顔料などが挙げられる。また、酸性、中性または塩基性カーボンからなるカーボンブラックを用いてもよい。さらに、架橋したアクリル樹脂の中空粒子なども有機顔料として用いてもよい。
【0056】
シアン色を有する顔料としては、具体的には、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー22、C.I.ピグメントブルー60などが挙げられる。これらの中でも、耐候性、着色力などの点から、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4のいずれかまたは両方が好ましい。
【0057】
マゼンタ色を有する顔料としては、具体的には、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド48(Ca)、C.I.ピグメントレッド48(Mn)、C.I.ピグメントレッド57(Ca)、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントバイオレット19などが挙げられる。これらの中でも、耐候性、着色力などの点から、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド254、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0058】
イエロー色を有する顔料としては、具体的には、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー2、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14C、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー73、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー75、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー114、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー130、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー147、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー213、C.I.ピグメントイエロー214などが挙げられる。これらの中でも、耐候性などの点から、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー213、及びC.I.ピグメントイエロー214からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0059】
ブラック色を有する顔料としては、具体的には、三菱化学社製のHCF、MCF、RCF、LFF、SCF;キャボット社製のモナーク、リーガル;デグサ・ヒュルス社製のカラーブラック、スペシャルブラック、プリンテックス;東海カーボン社製のトーカブラック;コロンビア社製のラヴェンなどが挙げられる。これらの中でも、三菱化学社製のHCF#2650、HCF#2600、HCF#2350、HCF#2300、MCF#1000、MCF#980、MCF#970、MCF#960、MCF88、LFFMA7、MA8、MA11、MA77、MA100、及びデグサ・ヒュルス社製のプリンテックス95、プリンテックス85、プリンテックス75、プリンテックス55、プリンテックス45からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0060】
ホワイト色を有する顔料としては、具体的には、ピグメントホワイト6,18,21が例示でき、塩基性炭酸鉛(2PbCO3Pb(OH)2、いわゆる、シルバーホワイト)、酸化亜鉛(ZnO、いわゆる、ジンクホワイト)、酸化チタン(TiO2、いわゆる、チタンホワイト)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3、いわゆる、チタンストロンチウムホワイト)などが挙げられる。これらの中でも、酸化チタンは、他の白色顔料と比べて比重が小さく、屈折率が大きく化学的、物理的にも安定であるため、顔料としての隠蔽力や着色力が大きく、さらに、酸やアルカリ、その他の環境に対する耐久性にも優れている。したがって、白色顔料としては酸化チタンを利用することがより好ましい。
【0061】
インク組成物中の着色材の含有量は、インク組成物全体に対して、1~10質量%が好ましく、1~9重量%がより好ましい。
【0062】
着色材として顔料が用いられる場合、顔料の分散性を向上させるため、顔料誘導体や顔料分散剤をさらに使用してもよい。
【0063】
顔料誘導体としては、具体的には、ジアルキルアミノアルキル基を有する顔料誘導体、ジアルキルアミノアルキルスルホン酸アミド基を有する顔料誘導体などが挙げられる。
【0064】
顔料分散剤としては、具体的には、イオン性または非イオン性の界面活性剤や、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の高分子化合物などが挙げられる。これらの中でも、分散安定性の点から、カチオン性基またはアニオン性基を含む高分子化合物が好ましい。市場で入手可能な顔料分散剤としては、ルーブリゾール社製のSOLSPERSE、ビックケミー社製のDISPERBYK、エフカアディティブズ社製のEFKAなどが挙げられる。
【0065】
インク組成物中の顔料誘導体及び顔料分散剤の含有量はそれぞれ、インク組成物全体に対して、0.05~5質量%が好ましい。
【0066】
<4.添加剤>
<4-1.表面調整剤>
表面調整剤として、ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物を含有できる。上記重合性化合物とともに、表面調整剤として上記シリコーン系化合物を使用すればインクの表面張力などの液物性をインクジェット記録方式に適した範囲に調整することができる。
【0067】
上記シリコーン系化合物としては、具体的には、ビックケミー社製のBYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-UV3570、デグサ社製のTego-Rad2100、Tego-Rad2200N、Tego-Rad2250、Tego-Rad2300、Tego-Rad2500、Tego-Rad2600、Tego-Rad2700、共栄社化学社製のUCR-L72、UCR-L93が好ましい。これらは、分子内にエチレン性二重結合を有するポリジメチルシロキサン構造を含んでいるため、さらに密着性を向上できる。
【0068】
インク組成物中の上記シリコーン系化合物の含有量は、インク組成物全体に対して、0.005質量%以上、1質量%以下が好ましい。
【0069】
<4-2.ゲル化防止剤>
ゲル化防止剤として、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル基を有するヒンダードアミン系化合物をさらに含有することが好ましい。高反応性の重合性化合物及び光重合開始剤とともに、上記ヒンダードアミン系化合物をゲル化防止剤として使用すれば、インクの反応性を低下させることなく、保存安定性に優れたインクを得ることができる。上記ゲル化防止剤としては、具体的には、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニ-4-イル)セバケート、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシ、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステルなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なゲル化防止剤としては、チバ社製のIRGASTAB UV-10、TINUVIN 123、エボニックデグサジャパン社製, HYDROXY-TEMPOなどが挙げられる。
【0070】
インク組成物中の上記ゲル化防止剤の含有量は、インク組成物全体に対して、0.1質量%以上、4質量%以下が好ましい。ゲル化防止剤の含有量が0.1質量%未満では、保存時に発生するラジカルを十分に捕捉することができず、保存安定性が低下する傾向がある。一方、ゲル化防止剤の含有量が4質量%より多い場合、ラジカルを捕捉する効果が飽和するとともに、エネルギー線照射時の重合反応が阻害される傾向がある。
【0071】
ゲル化防止剤として、他のヒンダードアミン系化合物や、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ハイドロキノンモノアルキルエーテルなどをさらに含有してもよい。このようなゲル化防止剤としては、具体的には、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、t-ブチルカテコール、ピロガロール、チバ社製のTINUVIN 111 FDL、TINUVIN 144、TINUVIN 292、TINUVIN XP40、TINUVIN XP60、TINUVIN 400などが挙げられる。
【0072】
<4-3.その他添加剤>
本実施の形態のインク組成物には、さらに必要により、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、pH調整剤、電荷付与剤、殺菌剤、防腐剤、防臭剤、電荷調整剤、湿潤剤、皮はり防止剤、香料などの公知の一般的な添加剤を、任意成分として配合してもよい。
【0073】
<5.調整方法について>
インクの調製方法としては、従来から公知の調製方法を使用できるが、着色材として顔料を用いる場合、以下の調製方法が好ましい。
【0074】
まず、着色材と、重合性化合物の一部と、必要により顔料分散剤とをプレミックスした混合液を調製し、この混合液を分散機により分散させて、一次分散体を調製する。分散機としては、具体的には、ディスパ;ボールミル、遠心ミル、遊星ボールミルなどの容器駆動媒体ミル;サンドミルなどの高速回転ミル;撹拌槽型ミルなどの媒体撹拌ミルなどが挙げられる。
【0075】
次に、一次分散体に、残りの重合性化合物と、光重合開始剤と、表面調整剤と、必要によりゲル化防止剤などの他の添加剤とを添加し、撹拌機を用いて均一に混合する。撹拌機としては、具体的には、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパ、ホモジナイザーなどが挙げられる。また、ラインミキサーなどの混合機を用いて、インク組成物を混合してもよい。さらに、インク組成物中の粒子をより微細化する目的でビーズミルや高圧噴射ミルなどの分散機を用いて、インク組成物を混合してもよい。
【0076】
着色材として顔料を使用する場合、インク組成物中の顔料粒子の分散平均粒子径は20~250nmが好ましく、50~230nmがより好ましい。
【0077】
本実施の形態によれば、単官能モノマーと、アクリル当量が150より大きく、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第一の多官能モノマーと、アクリル当量が150以下且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第二の多官能モノマーから重合性化合物が構成されるため、25℃において、6~8mPa・sの低粘度のインク組成物を調製することができる。
【0078】
また、本実施の形態のインク組成物は、希釈溶剤で希釈する必要がなく、加温しなくても、低粘度であり、さらに着色材が顔料である場合の顔料分散性も良好で、保存中や使用中に粘度が上昇したり、顔料が沈降するなどの支障をきたさない良好な分散安定性を有している。このため、インクジェット記録方式において、インクを加温することなく、室温で安定な吐出が得られる
【0079】
<6.その他について>
インクジェット記録方式としては、特に限定されるものではないが、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えてインクに照射する放射圧を利用した音響インクジェット記録方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット記録方式などが挙げられる。なお、上記インクジェット記録方式には、フォトインクと呼ばれる低濃度のインクを微小体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式、無色透明のインクを用いる方式などが含まれる。
【0080】
本実施の形態において、照射手段としては、水銀灯やメタルハライドランプなどの紫外線照射手段が挙げられる。本実施の形態のインク組成物であれば、紫外線の積算光量として、200mJ/cm2以下の低エネルギーを利用することもできる。エネルギー線は、記録媒体上にインク組成物を吐出した後、1~1,000ms経過するまでの間にインク組成物に照射するのが好ましい。経過時間が1ms未満の場合、ヘッドと光源との距離が短かすぎて、ヘッドへエネルギー線が照射されて不測の事態を招く虞がある。一方、経過時間が1,000msを超えると、多色が利用される場合のインク滲みにより画質が劣化する傾向がある。
【0081】
以下、実施例に基づきさらに具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下で、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【実施例0082】
各実施例及び比較例で用いたインク組成物の成分を以下の表1に示す。
【0083】
【0084】
[インク組成物の調製]
実施例(実)1~9、比較例(比)1~6は、表2に示されるインク組成物の配合量の通り、調整された。尚、表2の表示は、表1の記載と対応する。
【0085】
100ccのプラスチック製ビンに、着色材、顔料分散剤、及び単官能モノマーを表2に示す配合量で計り取り、これにジルコニアビーズ100部を加えて、ペイントコンディショナー(東洋精機社製)により2時間分散して、一次分散体を得た。次に、得られた一次分散体に、表2に示す配合量で残りの成分を加え、マグネチックスターラーにより混合物を30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、混合物を吸引ろ過し、インク組成物を調製した。なお、比較例4,5では、単官能モノマーの代わりに、それぞれ、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートと、1,6ヘキサンジオールジアクリレートを用いて一次分散体を作製した以外は、上記と同様にしてインク組成物を調製した。
【0086】
【0087】
[評価]
以上のようにして調製した実施例及び比較例の各インク組成物について、粘度を測定した。
【0088】
さらに、実施例及び比較例の各インク組成物を用いて、非記録媒体に記録したインク層(印字膜)について、下記の密着性、塗膜強度、延伸性及び硬化性を評価した。表2に示される各実施例及び比較例の下記評価結果を表3に示す。
〔粘度〕
R100型粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、コーンの回転数20rpmの条件下で、粘度を測定した。
〔硬化性〕
ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるフィルムの非記録媒体上に、インク組成物を印刷して、厚さ2μmの印字膜を形成した。この印字膜に、照射手段としてメタルハライドランプを用い、トータル照射光量が200mJ/cm2となるように紫外線を照射して、硬化させた。
【0089】
このように硬化させた印字膜を指及び爪で触り、指及び爪へのインク付着の有無を目視で調べ、下記の基準で評価した。
【0090】
〇:指及び爪にインクが付着せず、爪で擦っても印字膜表面に傷がつかない
×:指にインクが付着する
【0091】
〔密着性〕
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる各フィルムの非記録媒体上に、インク組成物を印刷して、厚さ2μmの印字膜を形成した。この印字膜に、照射手段としてメタルハライドランプを用い、トータル照射光量が200mJ/cm2となるように、紫外線を照射して硬化させた。
【0092】
このように硬化させた印字膜を、JIS-K-5400に準じて、セロテープ(登録商標)による剥離状態を確認する碁盤目試験(1mm角,100個)を実施した。100個中の剥離数を調べ、下記の基準で評価した。
【0093】
〇:碁盤目試験にて剥離数が10個以下
×:碁盤目試験にて剥離数が21個以上
【0094】
〔塗膜強度〕
アクリル板の非記録媒体上に、インク組成物を印刷して、厚さ2μmの印字膜を形成した。この印字膜に、照射手段としてメタルハライドランプを用い、トータル照射光量が200mJ/cm2となるように紫外線を照射して、硬化させた。
【0095】
このように硬化させた印字膜の鉛筆硬度を測定し、下記の基準で評価した。なお、日本工業規格(JIS)K5400に規定された鉛筆硬度の測定方法に基づき、新東科学社製の表面性試験機“HEIDON-14DR”を用いて測定した。
【0096】
〇:鉛筆硬度4H以上
×:鉛筆硬度4H未満
【0097】
〔延伸性〕
延伸試験用メディアの非記録媒体上に、インク組成物を印刷して、印字膜を形成した。この印字膜に、照射手段としてメタルハライドランプを用い、トータル照射光量が200mJ/cm2となるように紫外線を照射して、硬化させた。
【0098】
このように得られた印字膜を10mm×70mmの短冊状に切り出し、試験片とした。試験片の両側10mmの位置を試料台に固定し、引っ張り試験機:SIMADZU社製AUTOGRAGH AGS-H 100Nを用いて、引っ張り速度50mm/分にて評価した。試験片の印刷部分にひび割れが生じた時点で引っ張りを止め、その伸び率を求め、下記の基準で評価した。
【0099】
〇:伸び率160%以上
×:伸び率160%未満
【0100】
【0101】
上記表3に示すように、重合性化合物として単官能モノマーと、150より大きいアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第一の多官能モノマーと、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第二の多官能モノマーと、光重合開始剤としてアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物のうち少なくとも1つを、表面調整剤としてポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物を含有する実施例のインク組成物は、25℃で6mPa・s以上、8mPa・s以下の粘度を有し、低い粘度となることが分かる。
【0102】
表2及び表3の実施例1~9で示されるように、本実施形態により、溶剤を実質的に含まないエネルギー線硬化型のインクジェットインク組成物において、低粘度であり、且つ、硬化性及び延伸性に優れたエネルギー線硬化型のインクジェットインク組成物を提供することができる。このため、実施例のインク組成物は、吐出安定性に優れ、高精細な印刷物を提供する事ができる。
【0103】
また、溶剤を実質的に含まないエネルギー線硬化型インクでは、重合性化合物としてオリゴマーを含有することも考えられるが、この場合、インクの粘度が高くなり、吐出安定性が不十分となる。連続吐出性に劣るとともに、硬化性及び密着性も不十分となる。
【0104】
重合性化合物として単官能モノマーのみを含有するインク組成物は、多官能モノマー成分がないため塗膜強度が劣り、架橋成分が少ないため密着性及び硬化性が劣ることが分かる(比較例1)。
【0105】
重合性化合物として単官能モノマーとアクリル当量が150より大きい第一の多官能モノマーを含有するインク組成物は、架橋成分の多官能モノマー成分が極端に少なくなるため塗膜強度が劣り、引張強度に耐えうるだけの塗膜強度がなくなるため延伸性及び密着性が劣ることが分かる。(比較例2)
【0106】
重合性化合物として単官能モノマーとアクリル当量150以下の第二の多官能モノマーを含有するインク組成物は、架橋成分の多官能モノマー成分が少なくなるため塗膜強度が劣ることが分かる。(比較例3)
【0107】
重合性化合物としてアクリル当量が150より大きい第一の多官能モノマーのみを含有するインク組成物、及び、アクリル当量150以下の第二の多官能モノマーのみを含有するインク組成物は、希釈・密着成分である単官能モノマー成分がなくなるため、粘度が高くなり、また、密着性が劣る。多官能モノマーのみになるため塗膜が硬くなるため延伸性が劣ることが分かる。(比較例4、5)
【0108】
重合性化合物として単官能モノマーとアクリル当量150より大きい第一の多官能モノマーとアクリル当量150以下の第二多官能モノマーを含有するインク組成物であっても、単官能モノマーの含有量がインク組成物全体に対して45質量%以下である場合、希釈・密着成分である単官能モノマー成分がなくなるため、粘度が高くなり、密着性が劣り、架橋成分の多官能モノマー比率が高くなるため塗膜が硬くなり延伸性が劣ることが分かる。(比較例6)
本発明の好ましい態様は、以下を包含する。
〔1〕重合性化合物と光重合開始剤を含むインクジェットインク組成物であって、
前記重合性化合物は、
単官能モノマーと、
アクリル当量が150より大きく、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第一の多官能モノマーと、
アクリル当量150以下、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第二の多官能モノマーとを有するインクジェットインク組成物。
〔2〕〔1〕において、前記インクジェットインク組成物の全体に対して、前記単官能モノマー含有量が50~80質量%、前記第一の多官能モノマーの含有量が1~10質量%、前記第二の多官能モノマーの含有量が5~35質量%となるインクジェットインク組成物。
〔3〕〔1〕において、前記重合性開始剤は、アルキルフェノン系化合物と、チオキサントン系化合物の少なくとも1つを含むインクジェットインク組成物。
〔4〕〔1〕において、
前記単官能モノマーのガラス転移温度が-70℃以上、29℃以下であり、
前記第一の多官能モノマーのガラス転移温度が-25℃以上、180℃以下であり、
前記第二の多官能モノマーのガラス転移温度が43℃以上、100℃以下であるインクジェットインク組成物。
〔5〕〔1〕において、前記インクジェットインク組成物は、表面調整剤及び着色剤を含むインクジェットインク組成物。
〔6〕〔1〕において、前記インクジェットインク組成物は、25℃で6.5~8.0mPa・sの粘度を有するインクジェットインク組成物。