(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166022
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】エネルギー効率の良い金属キレートの無溶媒製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 229/76 20060101AFI20221025BHJP
C07C 323/58 20060101ALI20221025BHJP
C07F 3/06 20060101ALN20221025BHJP
C07F 1/08 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
C07C229/76
C07C323/58
C07F3/06
C07F1/08 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022119391
(22)【出願日】2022-07-27
(62)【分割の表示】P 2019556258の分割
【原出願日】2018-01-08
(31)【優先権主張番号】102017108611.0
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】502212268
【氏名又は名称】テヒニッシェ・ウニベルジテート・クラウシュタール
【氏名又は名称原語表記】Technische Universitat Clausthal
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ディーター・イー.・カウフマン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・シー.・ナミスロ
(72)【発明者】
【氏名】ビルギット・バブルチネク
(72)【発明者】
【氏名】ロマン・フロレスク
(57)【要約】 (修正有)
【課題】飼料添加剤、栄養物、栄養サプリメント、食品添加剤、医薬品、防腐剤等の用途に用いる構造的不均一性が小さい金属キレート化合物を含む組成物を提供する。
【解決手段】多価金属カチオンとα-およびβ-アミノ酸ならびにヒドロキシカルボン酸の群からの少なくとも1つのキレート形成性の酸を含む少なくとも1つのキレートリガンドとを有する少なくとも1つの金属キレート化合物を含む、金属キレート組成物であって、前記金属キレート化合物は、その99.9%が25μm以下の径を有し、その90%が15μm以下の径を有し、その50%が5μm以下の径を有する粒子の形態で存在し、そして、前記金属キレート化合物はミルおよび粉砕媒体のダストがないことを特徴とする、金属キレート組成物である。
【選択図】
図2a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物、金属水酸化物および金属塩の群からの少なくとも1つの金属化合物と、α-およびβ-アミノ酸ならびにヒドロキシカルボン酸の群からの少なくとも1つのキレート形成性の酸を含む少なくとも1つの固体有機酸との無溶媒混合物を、強い機械応力にさらす、アミノ酸-またはヒドロキシカルボン酸-金属キレートの製造方法であって、反応パートナーの金属化合物と有機酸とを、粒子状で、粉砕媒体なしで動作する流動床対向ジェットミルの流体ジェット中に導入し、前記流体ジェットのジェット領域中に形成された反応空間内での粒子衝突過程によって、前記反応パートナーの少なくとも一方の機械的活性化をもたらし、金属キレートを形成する固体反応を誘発させることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記流動床対向ジェットミルにおいて、導入された粒子状の反応パートナーを伴う、少なくとも2の流体ノズルのジェット方向の交差領域内の流体流区画内で、反応空間としての流動床を形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記流動床対向ジェットミルを、約300~1000m/秒の流動速度、約5~10バール、好ましくは約7~8バールの粉砕ガス圧力で動作させることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応パートナーを、輸送装置を用いて、粉砕チャンバ内へ輸送し、前記粉砕チャンバの内部の前記反応空間内へ自由落下で到達させることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記流体は、好ましくはガスの空気、窒素、アルゴン、二酸化炭素および蒸気の群から選択される、それぞれ個々のまたは混合したガスであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属化合物は、無機金属酸化物、金属水酸化物もしくは混合酸化物、または無機もしくは有機金属塩、好ましくは金属炭酸塩または金属シュウ酸塩であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属化合物は、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、セレン(Se)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)の群から選択される少なくとも1つの金属を含有するか、またはこの種の金属化合物の混合物を用いることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
多価金属カチオンとα-およびβ-アミノ酸ならびにヒドロキシカルボン酸の群からの少なくとも1つのキレート形成性の酸を含む少なくとも1つのキレートリガンドとを有する少なくとも1つの金属キレート化合物を含む、金属キレート組成物であって、前記化合物は、一桁のマイクロメートル領域の平均粒径を有する粒子の形態で存在することを特徴とする、金属キレート組成物。
【請求項9】
前記金属キレート化合物は、その90%が15μm以下の径を有し、その50%が5μm以下の径を有する粒子の形態で存在することを特徴とする、請求項8に記載の金属キレート組成物。
【請求項10】
前記金属キレート化合物は、その99.9%が25μm以下の径を有する粒子の形態で存在することを特徴とする、請求項8または9に記載の金属キレート組成物。
【請求項11】
前記金属キレート化合物は、ミルおよび粉砕媒体のダストがないことを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の金属キレート組成物。
【請求項12】
前記少なくとも1つの金属キレート化合物における、キレート形成性の酸の金属化合物に対する化学量論比が、0.5:1(モル/モル)~4:1(モル/モル)であることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項に記載の金属キレート組成物。
【請求項13】
前記1以上の金属キレート化合物の金属は、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、セレン(Se)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)の群から選択されることを特徴とする、請求項8~12のいずれか一項に記載の金属キレート組成物。
【請求項14】
存在する前記金属キレート化合物または少なくとも1つの金属キレート化合物は、亜鉛もしくは銅の2:1アミノ酸-金属キレート化合物、または鉄もしくはマンガンの3:1アミノ酸-金属キレート化合物であることを特徴とする、請求項8~13のいずれか一項に記載の金属キレート組成物。
【請求項15】
以下の金属キレート化合物:ビスグリシン酸亜鉛、ビスリシン酸亜鉛、ビスメチオニン酸亜鉛、ビスグリシン酸銅、ビスリシン酸銅、ビスメチオニン酸銅、(メチオニン酸セレン、システイン酸セレン、**)、ビスグリシン酸鉄、トリスグリシン酸鉄、ビスリシン酸鉄、トリスリシン酸鉄、ビスメチオニン酸鉄、トリスメチオニン酸鉄、ビスグリシン酸マンガン、トリスグリシン酸マンガン、ビスリシン酸マンガン、トリスリシン酸マンガン、ビスメチオニン酸マンガン、トリスメチオニン酸マンガンの少なくとも1つが含まれているか、またはこれらからなることを特徴とする、請求項8~14のいずれか一項に記載の金属キレート組成物。
【請求項16】
請求項8~14のいずれか一項に記載の金属キレート組成物の使用であって、飼料添加剤、栄養物、栄養サプリメント、食品添加剤、医薬品、防腐剤としてもしくはその中での、医薬組成物中での、発酵添加剤、肥料添加剤、種子処理剤、作物防疫剤、化学反応用の触媒としてもしくはその中での、または電気メッキ添加剤としてもしくはその中での、使用。
【請求項17】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法のプロセス生成物を含むか、または請求項8~14のいずれか一項に記載の金属キレート組成物を含む組成物であって、飼料添加剤、栄養物、栄養サプリメント、食品添加剤、医薬品、防腐剤、医薬組成物、発酵添加剤、肥料添加剤、種子処理剤、作物防疫剤、化学反応用の触媒、または電気メッキ添加剤の形態の、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属キレート、特にアミノ酸-金属キレートおよびヒドロキシカルボン酸-金属キレートを効率的に製造する方法に関し、上述したキレート錯体を製造するために、金属酸化物、金属水酸化物および金属塩の群からの少なくとも1つの金属化合物と、α-およびβ-アミノ酸ならびにヒドロキシカルボン酸の群からの少なくとも1つのキレート形成性の酸を含む少なくとも1つの固体有機酸とからなる乾燥すなわち無溶媒混合物を、強い機械応力にさらす。本発明はさらに、この方法によって得られる、対応する金属キレート組成物、その使用、および本発明によるプロセス生成物または金属キレート組成物を含有するさらなる組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
キレートまたは類義語であるキレート錯体は、少なくとも1つの多座リガンド(以下ではキレート形成性のリガンドとも「キレーター」とも称する)が、中心原子に対して少なくとも2の配位座または結合位置を占める配位化合物である。キレート錯体においては、中心原子当たり1または複数のキレーターが存在しうる。中心原子は、金属、例えばとりわけ亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、セレン(Se)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)の正電荷を帯びた金属イオンである。キレートにおいて、いくつかの金属は1の価数でのみカチオンとして存在するが(例えば、Zn2+)、他の金属(例えば、Cu、Fe、Ni、Co、V、CrまたはMo)は、複数の価数でまたはオキシカチオンとして存在し、例えばモリブデン-オキシカチオンは酸化数+IV、+Vおよび+VIにあり、バナジウムは通常バナジルVO2+の形態にある。
【0003】
微量元素および微量元素化合物が、少量で(「痕跡で」)動物、ヒトまたは植物の組織中に存在し、しばしば生命にとって重要な機能を果たすことは長く知られている。このことは、それらの欠乏が、欠乏の兆候または病徴をもたらし、全般的な衰弱および/または低い増殖率をもたらすことからわかる。したがって、これらの元素を好適な投与形態で供給できることは大きな関心事である。
【0004】
追加の電子供与基(-NH2、-OH)を含有する1(または複数)の有機酸アニオン、特にアミノ酸アニオンを、それぞれの金属のキレート錯体パートナーとして用い、これにより、微量元素に加えて、良好な生理学的な作用を有するサプリメントとしていずれにせよしばしば投与されるアミノ酸および/またはヒドロキシカルボン酸を、わずかにバイオアベイラブルな錯体の形態で利用することも長らく知られた通例の実践である(例えば、K.W. Ridenour、米国特許出願公開第5702718号明細書、1997年およびその中に引用された特許参照)。
【0005】
一般的には、天然アミノ酸だけでなく、アミノ基および/またはヒドロキシ基、好ましくはこれらの置換基をカルボキシル単位に対してα位またはβ位にもつ任意の有機酸が、一般的にこれらの金属キレートを製造するために好適である。しかし、天然由来のアミノ酸であるアラニン、アルギニン(塩基性)、アスパラギン、アスパラギン酸(酸性)、システイン、グルタミン、グルタミン酸(酸性)、グリシン、ヒスチジン(塩基性)、イソロイシン、ロイシン、リシン(塩基性)、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンを用いることが好ましい。
【0006】
例えば人類および動物栄養物中の添加剤として広く用いられる、こうした化合物を調製するために好適な方法は、大いに一般的な関心がある。キレート安定性は、アミノ酸またはヒドロキシカルボン酸のバイオアベイラビリティーに関して悪影響を及ぼしてはならない。多くのアミノ酸キレートは、共投与される中心カチオンのバイオアベイラビリティーを、このカチオンの塩または酸化物と比較して、さらに高める。
【0007】
科学的研究によって示されているように、ヒトまたは動物の組織における特定のキレート化合物の生体吸収性は特に効果的である。窒素原子を介したキレート化が穏やかな強度であるアミノ酸キレートは、特に高いバイオアベイラビリティーを示す。文献に十分に記述され、当業者に知られているように、それらをキレートの形態で用いる方が、対応する無機金属塩を用いる場合よりも、しばしば、有意に高い金属のバイオアベイラビリティーが見出される。
【0008】
現代の最先端によれば、有機微量元素化合物として好適なアミノ酸-金属キレートの製造は、主に、湿式化学的な手段によってほんの低いエネルギー効率で行われるか、代わりに、同様にエネルギー集約的な、粉砕媒体の関与を伴う機械的方法、特にボールミルにより行われる。後者の場合、与えたエネルギーの約90%が単に熱に変換される(欧州特許出願公開第2489670号明細書参照)。公知の湿式化学プロセスは、特に不可避的にエネルギー非効率で、相応してコスト高の材料の乾燥の負担がかかる。さらに、その生成物には、異種の無機アニオンがないわけではない。
【0009】
従来技術により、とりわけ無溶媒プロセスも公知である(Rummel、米国特許出願公開第2877253号明細書、1959年、Ashmead, Pedersen、米国特許第6426424号明細書、2002年、Pedersen, Ashmead、米国特許第6518240号明細書、2003年)。無溶媒プロセスは、それ自体、多量の溶媒(通常、水)を除去しなければならないという上述した欠点はないけれども、粉砕媒体を含む機械的ミル、特にボールミルで生成物形成を行うときに、追加のエネルギー量を必要とする。増加するエネルギー消費の理由は、例えばD. Ramhold, E. Gock, E. Mathies, W. Strauch、欧州特許出願公開第2489670号明細書、2012年に記載の偏心振動ミル(EVM)での方法において、粉砕媒体を追加の物体として動かさなければならないことである。偏心振動ミルを用いる場合、カウンターウェイトを駆動するためのエネルギー消費が追加される。さらに、こうした不均一に動作する振動ミルシステムにおいては、粉砕媒体自体への高い衝撃応力の結果として比較的高い磨滅が認められる。この場合、望ましくないことに、生成物中にダストが見出される。
【0010】
加えて、最初に述べた材料の乾燥は、最後に述べたプロセスにおいても関係がある。この種の反応粉砕において生じる反応水を、熱作用の下でおよび/または減圧によって、追加のエネルギー消費を伴って除去しなければならないためである。
【0011】
金属キレートを得るための上述した固体プロセスのさらなる欠点は、得られた固体生成物の、ときにはかなりのサイズ不均一性および構造不均一性である。したがって、例えば、欧州特許出願公開第2489670号明細書に記載された方法は、平均粒径が40~60μmであり、80%までの粒子が0超~100μmの粒径、2%までの粒子が500μm超の粒径(すなわち50μmの「平均粒径」に対して10倍大きい値)を有し、したがってかなりの量の過大粒子を含む、針状の金属-アミノ酸キレート構造体を製造する。
【0012】
大きな構造的な不均一性は、極めて一般的に、得られた金属キレート錯体のさらなる処理、例えば、粒径による分級、正確な計量およびさらなる物質との均一な混合の困難性を増加させる。活性化合物の放出速度も、粒径の不均一性によって悪影響を受ける。はなはだしく針状の形態は、粒状の生成物の流動性および分散性を妨げる。水に容易に溶けず、ときには酸不溶でさえある針状結晶の錯体は、ヒトまたは動物の体中で吸収されると、健康に有害でありうる。したがって、針状の構造は避けるべきである。
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明の目的は、製造方法に関する従来技術の欠点を可能な限り回避し、別の形態を有する金属キレートを提供することである。ここで、良好な収量を与え高い選択性を有するエネルギー効率の良い方法が利用可能になるであろう。特に有機の錯化リガンドの副生成物および分解生成物が回避されるであろう。
【0014】
この目的は、請求項1に記載の方法および特定のプロセス生成物すなわち生成された金属キレート、請求項8に記載の金属キレート組成物、請求項16に記載の使用、ならびに請求項17に記載の組成物によって達成される。本発明の有利な実施形態を、従属請求項に示している。
【0015】
この方法の出発材料は、固体状態にある。出発物質の性質は、その物質にとって通常の微粒または微結晶の市販の形態に対応しうる。出発物質の予備粉砕は通常必要ではない。用いる金属酸化物、例えば酸化亜鉛および酸化銅は、例えば150~300μmの範囲にある粒径で入手可能で、この形態で用いることができる。固体有機酸は、約200~500μmの粒径で市販品を入手でき、同様に入手したままで、すなわち市販の粒径で直接用いることができる。
【0016】
中心原子を提供するために、金属酸化物、金属水酸化物(混合酸化物および混合水酸化物を含む)、無機金属塩および有機金属塩の群から選択される金属化合物を用いる。キレートリガンドについては、すなわちキレート形成性の有機酸としては、アミノ酸および/またはヒドロキシカルボン酸を用いる。二座ではないさらなるリガンドを含んでいてもよい。出発物質を予備混合して用いてもよいし、またはそれらを個々に反応器として機能する流動床対向ジェットミルに導入し、別の装置内でまたは直接にミルの粉砕空間内で混合してもよい。金属酸化物、金属炭酸塩および金属シュウ酸塩が金属化合物として好適である。
【0017】
本発明によれば、反応パートナー、すなわち少なくとも用いる金属化合物と有機酸とを、粒子状で、粉砕媒体なしに動作する流動床対向ジェットミルの流体ジェット中に導入する。重要なのは、全ての反応パートナーを粉砕空間中の衝突ゾーンに供給し、その中で粉砕ガスジェット中、特にこれらのノズルジェットの中心での粒子-粒子衝突によって、反応パートナーの十分な励起および所望の錯化反応のための活性化エネルギーを与えることである。これは、本発明の流動床対向ジェットミルの使用のあいだ、「粉砕」(ここでは「ジェット粉砕」)が、すなわち従来の使用で起こり、ここでも追加で起こるであろう固体粒子の破砕が起こるゾーンと主に同じゾーンで起こる。粉砕空間は反応ゾーンを含み、ここで起こる反応粉砕または反応粉砕のための反応空間を形成する。このプロセスは、反応パートナーを連続的に供給することによって連続的に行うことができる。用いる流動床対向ジェットジェットミルは、粉砕媒体を有するミルよりもはるかに少ないエネルギーを要するばかりか、粉砕材料を粉砕ガス流とともに粉砕空間に導入し、粉砕材料とミル壁との間の摩擦プロセスが起こる従来のジェットミルの場合よりも少ないエネルギーを要するにすぎない。さらに、これにより、(伝統的なボールミルおよび従来のジェットミルとも対照的に)流動床対向ジェットミルは実質的に磨滅なしに動作する。
【0018】
要約すると、1または複数の流体ジェットのジェット領域内に形成される反応空間内での粒子衝突過程によって反応パートナーのうちの少なくとも1つの機械的活性化がもたらされ、金属キレートを形成するための固体反応が誘発されるといえるであろう。
【0019】
この方法は、高圧の粉砕ガス流を用いる粒子の加速と、これに続く、特に互いに向かい合う粉砕ガスジェットの焦点におけるこれらの粒子の衝突とに基づく。対応する衝突は、用いるそれぞれの有機酸および金属源が反応してキレートを形成するような高いエネルギー入力をもたらす。
【0020】
ここで、金属成分の酸素は、この方法の高い空気速度で、粉砕ガス流とともに排出される純水を生成する。したがって、この目的のためには、いかなる追加のエネルギーも消費されることはない。
【0021】
生成物形成に関しては、特にガスジェットの中心において、通常300m/秒~1000m/秒のジェット速度で誘発される粒子衝突が、既述した点負荷の結果生じる格子欠陥をもたらすと想定される。室温および6バールのゲージ圧においてさえ、500m/秒の粉砕ガス速度に達する。上述した格子欠陥は、おそらく用いる比重の大きい金属化合物中に主に存在し、引き続くアミノ酸-金属キレートを形成する反応を可能にする。(例えば、D. Ramhold, E. Gock, E. Mathies, W. Strauch、欧州特許出願公開第2489670号、2012年に記載されているような)偏心振動ミル中での対応する反応粉砕の場合のような、先行するエネルギー集約的な活性化は必ずしも必要ではなく、このことはさらなるエネルギー節約を意味している。示した粉砕ガス速度の高い値は、流動床対向ジェットミルの粉砕空間内での粒子-粒子衝突の程度にとって相応の利点を伴い、コンプレッサから当然のように熱く得られる粉砕ガスを、(さもなければ通例で行われるように)エネルギー消費を伴って冷却せずに、代わりに熱ガスとして直接用いる場合に特に達成される。
【0022】
金属キレートは、1の金属化合物と1のアミノ酸またはヒドロキシカルボン酸とから製造される「純粋な」キレートでも、種々の金属の金属酸化物および/または複数の異なる酸を混合物として用いた場合には混合生成物でもありうる。
【0023】
生成物は、流動床対向ジェットミルの下流に設けられた生成物フィルターによって収集される。
【0024】
プロセスエンジニアリングおよび/またはエネルギーの観点から不都合な、従来技術により公知の方法の欠点は、こうして回避されうる。本発明は、元来は非常に微細な粉砕のために設計された流動床対向ジェットミルが、出発物質および動作条件を適切に選択した場合に、粉砕媒体または他の摩擦面の関与を必要とすることなく、材料粒子の互いの衝突のみによってメカノケミカル反応が起こるような、粉砕材料への高エネルギー入力を可能にするという認識に基づいている。
【0025】
これと対照的に、文献によりこれまでに知られている場合には、このような固体反応は、ボールミル(遠心ミル、偏心振動ミル、例えば、D. Ramhols, E. Gock, E. Mathies, W. Strauch、欧州特許出願公開第2489670号、2012年参照)における粉砕媒体との衝突により誘発される。この種のメカノケミカル反応の機構は、局所的な高温と関連する一般的には巨大な点負荷であると想定される(例えば、B.V. Boldyrev, K. Meyer, Festkoerperchemie, VEB Verlag fuer Grundstoffindustrie, Leipzig, 1973;D. Margetic, V. Strukil, Mechanochemical Organic Synthesis, Elsevier Science Publishing Co. Inc., 2016年参照)。温度感受性の有機リガンド、すなわちここでのアミノ酸および/またはヒドロキシカルボン酸は、このような過程において望ましくない分解反応を受けることがある。
【0026】
一方、本発明による場合には、粉砕媒体は存在しない。相応して追加の物体を動かす必要がないため、こうしてかなりのエネルギー量を節約することができる。さらに、流動床対向ジェットミルにおける本発明による省資源的な方法は、上述した(スチール)粉砕媒体がないため、最終生成物に対応する金属ダストがないという利点を有する。同様に、有機リガンドも節約される。リガンドにおいて副反応および分解反応が起こる傾向は劇的に低減される。この方法では、熱反応のためにも、粉砕媒体の物体による強い機械的活性化の結果としても入熱が起こらないからである。
【0027】
この方法は、溶媒なしに行われるため、製造プロセスおよび生成物の両方において関連する溶媒汚染がない。熱乾燥によって起こる生成物の熱負荷が生じない。副生成物としてのかなりの量の残留塩の処分のような、問題となる塩溶液の工業的な使用が同様に省かれる。このプロセス生成物は、合成の結果、好ましくは硫黄および硫酸塩がなく、一般的にはこの方法に必要とされない塩アニオンがない。
【0028】
本発明によれば、互いに向かい合った複数の流体ノズルの中心で粒子衝突が起こる流動床対向ジェットミルを用いる。ここで、対向ジェットの配置は、流体ノズルすなわち粉砕ガスノズルの間の具体的な角度にかかわらず、対向ジェット原理が適用される任意の配置である。流体ノズルすなわち粉砕ガスノズルは、好ましくは互いに対して180°から60°の間の角度で配置させてよく、本発明により反応空間として利用される衝突空間を作るために「対向ジェットノズル」からのジェットを交差させる。
【0029】
好ましい実施形態では、導入された粒子状の反応パートナーを伴う少なくとも2の流体ノズルのジェット方向の交差領域内の流体流区画において、キレート形成のための反応空間を提供する流動床が形成される。対向ジェットモードで動作する2~6の流体ノズルが現状では好ましいと見なされ、より好ましくは2~4の流体ノズルすなわち粉砕ガスノズルである。
【0030】
好適な実施形態では、流動床対向ジェットミルを、流動速度約100~1000m/秒で、好ましくは250~1000m/秒で、より好ましくは300~1000m/秒で、特に300~700m/秒で、および粉砕ガス圧力約5~10バール、好ましくは約7~8バールで動作させる。
【0031】
ミルの入口でまたはミルへ供給するために与えられる反応パートナー、すなわち固体粒子状の金属水酸化物、金属炭酸塩または金属シュウ酸塩と、固体のアミノ酸および/またはヒドロキシカルボン酸を、従来の純粋な粉砕材料の代わりに「反応材料」として供給する。これは、一般的に1またはそれ以上の原料容器(貯蔵部)から、あるいはバッチで袋から、独立した供給装置、例えば追加の輸送手段のあるまたはないダクトまたは供給導管を用いて行われる。
【0032】
流動床対向ジェットミルの使用は、反応材料を粉砕空間に直接導入することを意味する。このようにして、ノズルを通して導入したガスは、それ自体、出発物質の粒子なしに保たれる。さもなければ、ノズルを通しての材料の輸送の結果としての従来のジェットミルの場合のように、および特に粉砕媒体を用いる伝統的なミル(特にボールミル)の場合のように、磨滅およびダストを生じることがありうる。
【0033】
特に好ましい実施形態では、反応パートナーを、輸送装置を用いて粉砕チャンバへ輸送し、粉砕チャンバ内部の反応空間に自由落下で到達させる。輸送装置は、好ましくは少なくとも1つのスクリューコンベヤを有する。
【0034】
最終生成物の粒径は、流動床対向ジェットミルとともに微粉砕のために通常は標準で取り付けられる分級ホイールの動作条件の選択によって、通常中程度から小さい一桁のマイクロメートル領域(この分野において通例の仕方、例えばレーザー回折法で決定される平均径)に設定することができる。
【0035】
このプロセス生成物は、小型で微細な粒状である。小型の構造は、実質的に針状結晶がなく、それほどの割合の過大粒子がない。80%超の粒子は、楕円体または立方体の構造を有し、最大粒径対最小粒径の比は4:1より小さい。小型で微細な粒状構造のため、さらに比較的大きな表面積があり、これは、例えば生成物の散乱性または流動性、乾燥混和性、分散性、計量精度および適切な場合には生成物の調剤特性にプラスの効果を与える。したがって、このプロセス生成物は、より容易に混合物およびペレットに組み込むことができ、これらの中でより均等に分布させることができる。
【0036】
生成物は、特に微細に分割された形態で狭い粒径分布をもって得られる。後者は、例えばD値、D99、D90、D50、(D10)の比からわかる。D値は、それぞれのD値として示される径よりも小さい粒子のパーセンテージを示す。このパーセンテージは、指標として示され、すなわち、D90=…は、「粒子の90%が、…よりも小さい(体積基準で決定した)径を有する」ことを意味する。関連するデータは、レーザー回折法を用いて得られる。
【0037】
粉砕媒体を用いる公知のエネルギー集約的な固体プロセスと比較して、特に小型で均一な粒径が達成される。例として、例えば、欧州特許出願公開第2389670号に記載され、電子顕微鏡写真に示された針状のキレート粒子は、平均粒径が40~60μmであり、粒子の80%までが0~100μmの範囲にあり、これは100μmのD80値に相当する。対照的に、本発明の場合には、非常に急峻で、はるかに均一で、よく規定された粒径分布が達成され、粒子は全体として(EVMプロセス(上記参照)の場合における40~60μmではなく)通常は平均粒径が1.5~3.5μmで一桁以上小さい。これは、さらなるプロセス工程のために、特に規定量のキレート量と規定量のさらなる物質との混合に有利である。均一な粒径分布が、機械による処理をかなり容易にするためである。凝塊形成のリスクが低減し、分級、測定、計量および充填設備の機械要素を特定のキレート結晶サイズによく合致させることができる。特定の後処理工程、例えば、均一で十分に小さい粒径を達成するための、得られたキレート結晶の粉砕を省くことができる。
【0038】
例えば動物飼料ではまたは触媒として使用する場合には、非常に少量の金属-酸キレートを、例えば1000倍量の他の物質と混合することがしばしばである。規定量のキレートを計量し、これらを他の物質と均一に混合することができるためには、均一で、明確に規定された粒径のキレートが非常に有利である。
【0039】
本発明によるプロセス生成物は、小型結晶の形態で、すなわち実質的に針状体がなく、それほどの割合の過大粒子なしに得られる。ヒトまたは動物に投与する場合、従来技術によって得られる針状キレート結晶の場合に懸念される健康への有害な影響はもはや生じない。
【0040】
流動床対向ジェットミルでの本発明による反応粉砕が、完全に自発的に、かつ必要な活性化エネルギーを含む生成物形成のための全エネルギーがもっぱらガスジェットによって与えられるような仕方で生じることは強調されるべきである。主に粉砕媒体自体の衝突および摩擦による継続プロセスを伴う伝統的な反応粉砕動作の場合のようには、温度上昇を外部から引き起こす必要はないし、用いる材料の制御できない温度上昇(これはおそらく生成物を害するであろう)も起こらない。さらに、本発明による方法は、伝統的なボールミル、通常は偏心振動ミルでの反応粉砕と対照的に、流動床対向ジェットミルがプロセスの連続動作、したがって低いエネルギー原単位での増加したスループットを可能にするという利点を有する。
【0041】
偏心振動ミル(シングルモジュール、ESM 504, Siebtechnik GmbH, Muelheim an der Ruhr)、および流動床対向ジェットミル(CGS 71, Erich NETZSCH GmbH & Co. Holding KG, Selb)におけるそれぞれのエネルギー原単位の比較算出を以下の段落に示す。
【0042】
偏心振動ミル ESM504:
電力(乾燥+ミキサー):27.5KW
スループット:40kg/時
粉砕媒体:Cylpeps 32mm×32mm(スチール)
エネルギー原単位[KWh/t]:27.5KW/40kg/時×1000kg=688KWh/t
【0043】
流動床対向ジェットミル CGS71:
空気流:1920m3/時(8bar、20℃;ISO 1217)
分級ホイール電力:15KW
コンプレッサ電力(1956m3/時、主駆動部+分離ブロワー):206KW
スループット:500kg/時
エネルギー原単位[KWh/t]:221KW/500kg/時×1000kg=442KWh/t
【0044】
流動床対向ジェットミルと対照的に、偏心振動ミルの場合にはバッチモードのみが可能である。
【0045】
したがって、本発明による流動床対向ジェットミルの使用の場合、1tの生成物当たりのエネルギー原単位は、偏心振動ミルに基づくアミノ酸-金属キレートの従来の生産施設のエネルギー原単位より3分の1以上下回る。さらに、本発明の方法は、触媒的に活性な試薬(例えば、鉄イオン)を省き、(エネルギーに関して)煩雑な前処理工程または後処理工程(例えば、スプレー乾燥)を回避することによって特徴付けられる。
【0046】
したがって、本発明によれば今や、キレート形成金属(例えば好ましくは亜鉛、銅、マンガン、セレン、鉄、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、コバルト、バナジウム、クロムまたはモリブデン、好ましくは亜鉛、銅およびセレン)と、固体有機酸(好ましくは天然由来のアミノ酸、好ましくはグリシン、メチオニン、リシンおよび/またはシステインだけでなく、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリンも)との錯体を製造するための効率的な無溶媒方法を利用できる。一般的に、合成および天然起源の両方の、全てのキレート形成アミノ酸および/またはヒドロキシカルボン酸が好適である。
【0047】
反応は、好ましくは酸化物の形態にある(特にZnO、CuO、Fe2O3、Mn2O3または、生成される生成物にとって望ましい他の金属の対応する酸化物)、代わりに製造する化合物のために選択した金属のシュウ酸塩または炭酸塩の形態にあるそれぞれの金属化合物を、固体有機酸(好ましくは少なくとも1つのアミノ酸を関与させて)と混合させた混合物を、上述したように、流動床対向ジェットミル中で機械的応力にさらすことのみによって達成される。
【0048】
メカノケミカル固体反応の過程における反応収率は、流動床対向ジェットミルにおける本発明に関連する動作条件に依存する。すなわち、粉砕ガス流および粉砕ガス圧力に、粉砕ガスまたは流体(好ましくは空気、任意に窒素、アルゴン、二酸化炭素または蒸気も)の種類および温度に、分級器回転速度に、および導入した出発物質の量に依存する。導入したガスの流入速度、したがって特にジェットノズルの形状、寸法および配置、ならびに反応チャンバ内での反応粉砕材料の蓄積の度合も、固体反応の発生にとって重要である。
【0049】
好適な流動床対向ジェットミルは、とりわけ無汚染の破砕に関して業界標準であり、原理的に長期間公知である(例えばP.M. Rockwell, A.J. Gitter, Am. Ceram. Soc. Bull. 1965, 44, 497-499参照)。約20年前に、この種の流動床対向ジェットミルの開発および最適化は、再び集中的に研究された(例えば、P.B. Rajendran Nair, S.S. Narayanan, From World Congress on Particle Technology 3, Brighton, UK, July 6 9, 1998 (1998), 2583-2595;M. Benz, H. Herold, B. Ulfik, Int. J. Min. Proc. 1996, 44-45, 507-519;Z. Korzen, R. Rink, A. Konieczny, Zeszyty Naukowe - Politechnika Lodzka, Inzynieria Chemiczna i Procesowa 1997, 22, 141-150;H. Berthiaux, J. Dodds, Powder Technol. 1999, 106, 78-87;H. Berthiaux, C. Chiron, J. Dodds, Powder Technol. 1999, 106, 88-97参照)。微粉砕または超微粉砕は一桁のマイクロメートル領域に下げるためにしばしば試みられており、薬学製品への応用がパラメータ最適化にあたってしばしば主に考慮されている(例えば、P.W.S. Heng, L.W. Chan, C.C. Lee, S.T.P. Pharma Sciences 2000, 10, 445-451又はL.W. Chan, C.C. Lee, P.W.S. Heng, Drug Development Ind. Pharm. 2002, 28, 939-947参照)。
【0050】
例えば非常に硬質の材料(例えば炭化シリコンまたは酸化アルミニウムを含む)の可能な破砕に、かなりの可能なエネルギー入力が反映される(Y. Wang, F. Peng, Part. Sci. Technol. 2010, 28, 566-580;Y. Wang, F. Peng, Powder Technology 2011, 214, 269-277;M.X. Zhang, H.Y. Chen, C.P. Yan, L.Y. Lin, Rev. Adv. Mat. Sci. 2013, 33, 77-84)。
【0051】
化学結合の切断および引き続く再形成、したがって流動床対向ジェットミルの動作条件下での反応粉砕によって特徴付けられる化学反応の実際の経過は、以前には、本発明の仕方では利用されてこなかった。ZnO-ナノ粒子の表面改質の例は、X. Su, Z. Cao, Q. Li, Z. Zhang, J. Adv. Microscopy Res. 2014, 9, 54-57及びX. Su, S. Xu, T. Cai, Guangzhou Huagong 2012, 40, 101-102(両方とも「ジェットグラインディング/ジェット粉砕」および表面改質の主題に関する)に見出されるであろう。
【0052】
本発明は、新規な、これまで達成できなかった生成物特性を有するプロセス生成物をもたらし、構造的に均一で、この形態では新規で非常に狭い粒径分布を有する生成物を含む。生成物の微細な粒状の性質も、特に強調する価値がある。
【0053】
したがって、本発明の目的は、多価金属カチオンと、少なくとも1つのキレートリガンド(これはα-およびβ-アミノ酸ならびにヒドロキシカルボン酸の群からの少なくとも1つのキレート形成性の酸を含む)とを有する少なくとも1つの金属キレート化合物を含有する金属キレート組成物によって達成される。ここで、この化合物は、方法との関連で上述したように、一桁のマイクロメートル領域の粒径、すなわち≦5μm(D50=1~5μm)の平均粒径を有する粒子の形態で存在する。
【0054】
金属キレート組成物は、少なくとも1つの金属キレート化合物を含むか、またはこれからなる。
【0055】
本発明は、本発明の方法によるプロセス生成物として直接得られた金属キレート化合物、すなわち出発物質の化学量論組成に基づいて形成された純粋な金属キレート化合物を含み、これらの金属キレート化合物だけでなく、第1に残留出発物質でありうる、または組成物を補いプロセス中にミルへ導入された添加剤または別の材料でありうる他の物質を含む組成物をも含む。
【0056】
金属キレート化合物は、上述したように、多価すなわち少なくとも二価の金属カチオンからなる少なくとも1つの中心原子と、少なくとも1つの有機のキレート形成性、すなわち錯化に関して少なくとも二座の、α-およびβ-アミノ酸ならびにヒドロキシカルボン酸の群から選択される有機酸とを含む配位化合物(錯体化合物、錯体ともいう)である。アミノ酸は、天然アミノ酸、特に必須アミノ酸でありうるが、代わりに二座の合成アミノ酸でもありうる。
【0057】
金属キレート化合物中の、特定して既述し特許請求したリガンドに加えた他のリガンド、すなわち別の二座または一座のリガンドおよび/または一価もしくは多価アニオンの存在は、本発明によれば排除されない。このことは、例えば、本発明の金属キレート組成物の使用の範囲を広げるために望まれることがありうる。
【0058】
キレート錯体に、リガンドとして、少なくとも1つのアミノ酸またはヒドロキシカルボン酸に加えて、組み込むことができる好ましい錯化性の酸は、ニコチン酸である。関連する生成物は、アミノ酸-ニコチン酸-金属キレート、例えば、銅-ニコチン酸塩-グリシン酸塩またはセレン-ニコチン酸塩-メチオニン酸塩である。
【0059】
本発明による金属キレート化合物および金属キレート組成物は、特徴的な構造および粒径分布を有する、乾燥した固体の粒状材料または生成物である。
【0060】
特に特徴的な実施形態において、金属キレート化合物は、その90%が15μ以下の平均粒径(個々の粒径)を有し、50%が5μm以下の平均粒径(個々の粒径)を有する粒子の形態で存在する(D90≦15μm、D50≦5μm)。平均粒径(試料中の全ての粒子にわたる平均)は、これらの実施形態については1μm~5μmの範囲である。
【0061】
個々の試料についての典型的なD50値は1.5~4.5μmの範囲である。個々の試料についての典型的なD90値は4~6μmの範囲である。D90は好ましくは15μm以下であり、D90はより好ましくは≦7μmである。個々の試料についての典型的なD99値は8~15μmの範囲である。D99は好ましくは20μm以下であり、D99はより好ましくは≦15μmである。これらの値に基づけば、過大粒子は存在しない。本発明による最大粒子は、25μmよりもっと小さい粒径を有するからである(D99.9≦25μm、<25μmと同一視または<25μmのふるい排除限界)。
【0062】
また、本発明によるプロセス生成物の粒径分布は、
図2cからわかるように、以前に得られたものよりかなり狭い。このことは、明らかに、本発明による生成物を、公知の湿式化学的または乾式化学的に得られる生成物と区別する。
【0063】
微細な粒状性および比較的一様な粒径のため、本発明による方法を用いて得られた金属キレートまたは金属キレート組成物は、容易に計量でき、より容易に散乱し、流動自由であり、容易に乾燥混合および分散できる。また、微細なミクロ構造は、生成物の吸収性にプラスの影響を与えうる。
【0064】
本発明による金属キレート化合物は、ミルおよび粉砕媒体のダストがない。
【0065】
金属キレート化合物は、好ましくは、リガンドとしての塩化物および/または硫酸塩イオンが全くない。
【0066】
また、金属キレート組成物は、好ましくは、キレート形成性の酸の金属化合物に対する化学量論比(モル比)が、それぞれ個々のキレート化合物に基づくキレート混合物の場合に、0.5対1~4対1であることを特徴とする。特定の実施形態では、本発明による金属キレート組成物中に存在する当該金属キレート化合物または少なくとも1つの金属キレート化合物は、2:1アミノ酸-金属(好ましくは亜鉛または銅の)キレート化合物か、または3:1アミノ酸-金属(好ましくは鉄またはマンガンの)キレート化合物である。
【0067】
下で報告した解析結果が明らかに示しているように、本発明の方法は、非常によく規定された化学的に純粋なキレートを得ることを可能にする。選択した金属-アミノ酸-1:2-キレートのIRスペクトルを用いて調べた通りである。アミノ酸キレートは特に容易に吸収可能であるか、またはそれらの構成成分は特に高いバイオアベイラビリティーを有するので、この生成物に関する高い転化率および化学純度は、本発明による生成物の非常に重要な品質の利点である。加えて、品質は、金属ダストの汚染がないこと(特に粉砕媒体を用いないため)、および生成物の特別な形態によって著しく目立つ。
【0068】
一般的には、幅広い種類の中心原子を選択できる。好ましい実施形態では、金属キレート化合物または少なくとも1つの金属キレート化合物の金属は、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、セレン(Se)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)の群から選択される。
【0069】
好ましい実施形態では、本発明による金属キレート組成物のキレート形成性の有機酸は、α-ヒドロキシカルボン酸、β-ヒドロキシカルボン酸、天然アミノ酸、必須アミノ酸および合成アミノ酸からなる群から選択される。
【0070】
本発明の金属キレートは特に、以下の物質種および物質を含む:ビスグリシン酸亜鉛、ビスリシン酸亜鉛、ビスメチオニン酸亜鉛、ビスグリシン酸銅、ビスリシン酸銅、ビスメチオニン酸銅、(メチオニン酸セレン、システイン酸セレン)、ビスグリシン酸鉄、トリスグリシン酸鉄、ビスリシン酸鉄、トリスリシン酸鉄、ビスメチオニン酸鉄、トリスメチオニン酸鉄、ビスグリシン酸マンガン、トリスグリシン酸マンガン、ビスリシン酸マンガン、トリスリシン酸マンガン、ビスメチオニン酸マンガン、トリスメチオニン酸マンガン。
【0071】
本発明の金属キレートは、通常の仕方で用いうる。特にここでは以下の使用に言及する。飼料添加剤中、栄養物中、栄養サプリメントとしておよびその中、栄養物添加剤としてまたはその中、医薬品としてまたはその中、防腐剤としてまたはその中、医薬組成物中、発酵添加剤としてまたはその中、肥料添加剤として、種子処理剤中、作物防疫剤中、化学反応用の触媒として、または電気メッキ添加剤中。したがって、本発明は、上述した使用のための組成物をも含む。この組成物は、これらの使用のために調製されるかまたは調合され、上でより詳細に説明したように、本発明の方法のプロセス生成物、すなわち金属キレート組成物を含む。
【0072】
流動床対向ジェットミルにおける、金属酸化物、金属炭酸塩または金属シュウ酸塩と、それぞれ有機酸、好ましくはアミノ酸とのメカノケミカル応力の本発明の本質的な効果を、以下に複数の実施例で説明する。ここで、本発明による方法の反応粉砕は、一例として2~22キログラムの規模で実施される。これは限定を示すものではない。原理的に、導入する個々の材料の量をより多くするため、および連続動作させるために、寸法調整により、かなり大きな流動床対向ジェットミルを、キレート製造用の反応器として実現することも可能である。ジェット粉砕用のより大きな流動床対向ジェットミルは、すでに産業上利用可能である。ここで示す実施例は、Hosokawa Alpine社(Augsburg)の品名AFG100およびAFG400、またはNetzsch社(Hanau)の品名CGS10の流動床対向ジェットミルに関する。
【0073】
実施例1
流動床対向ジェットミル中で、空気流50~80m
3/時、粉砕ガス圧力7.0バール、および分級器回転速度18.000s
-1で、1.501kgのグリシン(20.0モル)と、0.814kgの酸化亜鉛(10.0モル)とを、45分間、ともに粉砕した。最終生成物のIR分光解析(
図4)は、上述したアミノ酸が対応するグリシン酸亜鉛への実質的に完全な転化(>95%)を示している(ケミカルアブストラクトサービスCASによる類義語:a) bis(glycinato-N,O)zinc、b) bis(glycinato)zinc、c) glycine zinc salt、d) glycine, zinc complex、e) zinc bisglycinate、f) zinc glycinate、g) zinc(II) glycinate、h)zinc, bis(glycinato))。このIRスペクトルは、市販での参照番号CAS:14281-83-5に対応する。
【0074】
実施例2
流動床対向ジェットミル中で、空気流50~80m
3/時、粉砕ガス圧力7.0バール、および分級器回転速度18.000s
-1で、1.940kgのメチオニン(13.0モル)と、0.529kgの酸化亜鉛(6.5モル)とを、45分間、ともに粉砕した。最終生成物のIR分光解析(
図5)は、上述したアミノ酸の対応するメチオニン酸亜鉛への実質的に完全な転化(>95%)を示している(ケミカルアブストラクト番号、CAS:40816-51-1)。
【0075】
実施例3
流動床対向ジェットミル中で、空気流50~80m3/時、粉砕ガス圧力7.0バール、および分級器回転速度18.000s-1で、1.900kgのリシン(13.0モル)と、0.529kgの酸化亜鉛(6.5モル)とを、45分間、ともに粉砕した。最終生成物のリシン酸亜鉛が、同様に純度>95%で得られる。
【0076】
実施例4
流動床対向ジェットミル中で、空気流50~80m3/時、粉砕ガス圧力7.0バール、および分級器回転速度18.000s-1で、1.576kgのグリシン(21.0モル)と、0.835kgの酸化銅(10.5モル)とを、50分間、ともに粉砕した。最終生成物のグリシン酸銅が、同様に純度>95%で得られる。
【0077】
実施例5
流動床対向ジェットミル中で、空気流50~80m3/時、粉砕ガス圧力7.0バール、および分級器回転速度18.000s-1で、1.791kgのメチオニン(12.0モル)と、0.477kgの酸化銅(6.0モル)とを、55分間、ともに粉砕した。最終生成物のメチオニン酸銅が、同様に純度>95%で得られる。
【0078】
実施例6
流動床対向ジェットミル中に、空気流50~80m3/時、粉砕ガス圧力7.0バールで、および分級器回転速度18.000s-1で、1.900kgのリシン(13.0モル)と、0.517kgの酸化銅(6.5モル)とを、50分間、ともに粉砕した。最終生成物のリシン酸銅が、同様に純度>95%で得られる。
【0079】
実施例7
流動床対向ジェットミル中で、空気流800~1200m3/時、粉砕ガス圧力7.0バール(80℃、冷却していないコンプレッサ空気)、および分級器回転速度4.650s-1で、13.51kgのグリシン(180モル)と、7.33kgの酸化亜鉛(90モル)とを、4.5分間、ともに粉砕した。対応するグリシン酸亜鉛の特性解析を、IR分光法で行った。得られた生成物量は、280kg/時のスループットに相当する。
【0080】
本発明をよりよく説明するために、添付の図を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1a】
図1aは、流動床対向ジェットミル内で反応粉砕を行う装置の原理図であって、側方からの断面図である。
【
図1b】
図1bは、流動床対向ジェットミル内で反応粉砕を行う装置の原理図であって、上方からの断面図である。
【
図2a】
図2aは、亜鉛-グリシンのキレートの走査型電子顕微鏡写真である(左側)。
【
図2b】
図2bは、酸化亜鉛の走査型電子顕微鏡写真である(右側)。
【
図2c】
図2cは、ビスグリシン酸亜鉛について測定された粒径分布を示す図である。
【
図2d】
図2dは、グリシン酸銅の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、グリシンのATR-IRスペクトルを示す図である。
【
図4】
図4は、メチオニンのATR-IRスペクトルを示す図である。
【
図5】
図5は、亜鉛-グリシンのキレートのATR-IRスペクトルを示す図である。
【
図6】
図6は、亜鉛-メチオニンのキレートのATR-IRスペクトルを示す図である。
【
図7】
図7は、銅-グリシンのキレートのATR-IRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
図1は、流動床対向ジェットミル10における反応粉砕の概略図を示し、この略図はこの装置の本質的な部材に限定している。これに加えて、図示していない、原材料の供給および導入用、生成物排出用、ならびに閉ループおよび開ループ制御用などの装置部材が存在する。
【0083】
ここで図示した流動床対向ジェットミルは、市販品で、例えば固体の超微粒破砕(粉砕、「ジェット粉砕」)のために用いられる。ここで図示した例は、3ノズルシステムを有する流動床対向ジェットミルである。
【0084】
図1aは、この装置、すなわち、流動床対向ジェットミル10を側方から示した概略断面図であり、
図1bは、同じ流動床対向ジェットミル10を上方から見た断面図であり、ノズル配置を図示している。同じ部品には同じ参照符号を付している。
【0085】
図1aからわかるように、粉砕チャンバ1は、導管2を介して、粉砕材料貯蔵部3と連結されていて、この貯蔵部から粉砕材料を粉砕チャンバ1内に供給する。この実施例では、予備混合された固体の反応粉砕材料を、貯蔵部3から自由落下させ、したがって追加的なエネルギーコストなしに、導管2を通して粉砕チャンバ1内に導入し、これが本発明による反応粉砕のための反応空間1を提供または構成する。
【0086】
あるいは、特に導入を上方からではなく、例えば側方から行う場合には、導管2中に設備、例えば分配設備に加えて追加の輸送手段を設けることも可能である。さらに、これに代わる、ここでは図示しない実施形態では、反応パートナーを複数の別個の貯蔵部内に保存し、粉砕チャンバ1の直前で混合するか(これは、導管2のうちの1、または別個の混合チャンバ内で行ってもよい)、または、各貯蔵部から反応パートナーを別個に輸送し、器量して粉砕チャンバ1に入れ、混合を粉砕チャンバ自体の内部で行うこともできる。
【0087】
流動床対向ジェットミル10は、少なくとも2の流体ノズル4を有し、これらは、ノズル配置の中心で衝突ゾーンを作るために互いに対して向かっているか、またはある角度で互いに対して配置されていなければならない。
【0088】
図1bからわかるように、図示した例では粉砕ガス導入用の3の流体ノズル4を図示していて、ノズルまたはジェット方向のベクトルは、狭く限定されたゾーン内で交差し、ここで粒子は衝突し、続いて互いに反応する。流体ノズル4は、
図1aの図面の平面に垂直な平面で、
図1bの図面の平面に配置されていて、それぞれ120°の角度で互いに対して配向している。粉砕材料とガスとからなる流動床5が、ノズル配置の中心、すなわち、ノズル4を出るガスジェットによって形成される衝突ゾーン内で生じる。
【0089】
流動床内でそれぞれ互いに向かい合う流体ノズル4の中心であって、これにより形成された実際の反応空間5内にある粉砕材料粒子(ここでは、本発明によるキレート形成反応のための反応パートナーである)は、粒子衝突後に化学反応およびこれに関連した生成物形成が誘発される程度に、ガス流により加速される。
【0090】
その中で固体反応が生じる実際の反応空間5は、流動床内の上述した衝突ゾーン内にある。
【0091】
図2aに本発明に従って製造したグリシン酸亜鉛(ビスグリシン酸亜鉛)試料の走査型電子顕微鏡写真を、
図2bの金属化合物の出発物質として用いた酸化亜鉛(ZnO)と比較して示す。
【0092】
本発明の方法により、過大粒子の割合がそれほどなく小型粒子が形成され、すなわち、右の
図2bの出発物質である酸化亜鉛について認められるような針状体は存在しないことがわかる。その結果、この生成物は、さらなる加工性および散乱性がより良好であることを示している。粒径は、小さい一桁のマイクロメートル領域にあり粒径分布は比較的狭い。したがって、生成物は非常に均一であり、かつ比較的大きな表面を有する。したがって、この生成物は特に良好に分布でき、例えば比較的複雑な組成物中に微細に分布でき、計量されることができ、そればかりでなく容易に固められる。望ましくない異種の塩および副生成物は存在しないので、生成物中のアミノ酸および金属の密度は大きい。
【0093】
実施例1にしたがって製造した、
図2aに示したビスグリシン酸亜鉛の粒径分布を、レーザー回折法を用いてより詳細に調べた。結果を
図2cにグラフで示す。
【0094】
大多数の粒子は、約1~4μmの径を有する。単一の径曲線から読み取りうる狭い粒径分布は、(体積基準の)D10、D50およびD90の値に関する典型的な割合で示される。
【0095】
粒子の99%が、10.00μmより小さい径を有し(D99)、
粒子の90%が、6.82μmより小さい径を有し(D90)、
粒子の50%が、3.41μmより小さい径を有し(D50)、
粒子の10%が、0.86μmより小さい径を有する(D10)。
【0096】
本発明による別のアミノ酸キレートのさらなる別のテストは、1~5μmの範囲のD50値を示している。したがってD50は好ましくは1~5μmであり、さらに好ましくは1.5~3.5μmである。
【0097】
D90値は好ましくは4~7μmであり、D99値は調べた各々のケースにおいて15μm未満であった。
【0098】
図2dは、さらなる本発明による生成物、すなわち実施例4に従って製造したビスグリシン酸銅の走査型電子顕微鏡写真である。
【0099】
様々なアミノ酸キレート(ZnGly2およびCuGly2について)の写真は、本方法が、出発化合物に依存せず、均等で均一で微粒のアミノ酸キレートを提供することを非常に明瞭に示している。
【0100】
図3~7は赤外スペクトルを示すが、これについては後でより詳細に説明する。
【0101】
解析
本発明によるアミノ酸金属キレートの製造の場合、この種の化合物の解析、したがって(メカノ)ケミカル反応の発生の証明は、赤外スペクトル(IR)の特性吸収帯位置、吸収帯形状および吸収帯強度に基づいて行われる。例えば、H. Guenzler, H. U. Gremlich, IR-Spektroskopie, 4th Edition, Wiley-VCH GmbH & Co. KGaA, Weinheim, 2003;G. Socrates, Infrared and Raman Characteristic Group Frequencies: Tables and Charts, third edition, John Wiley & Sons, 2004;R.M. Silverstein, F.X. Webster, D.J. Kiemie, Spectrometric Identification of Organic Compounds, John Wiley & Sons, Inc., 2005;J. Liu, Y. Hou, S. Gao, M. Ji, R. Hu, Q. Shi, J. Therm. Anal. Calorim. 1999, 58, 323-330;M. Pedersen, H.D. Ashmead、米国特許第6518240号、2003年;J.J. C. Ko, S.X. J. Xie、欧州特許出願公開第2204099号、2010年参照。好ましくは、この解析は、公知の減衰全反射法を用いて、したがってATR-IRとして実施される。この手法は、いかなる試料調製もなしに、試料の直接計測を可能にし、したがって補助剤(例えば、KBrペレットとしての従来の試料調製における臭化カリウム)による汚染がない。補助剤による汚染は、ひるがえって、例えば吸収帯のブロードニングによる測定分解能の低下、または吸収帯形状の歪みにより、測定に影響しうる(クリスチャンセン効果)。粗粒によって起こる最後に言及した望ましくない効果は、本発明に従って製造した生成物材料では生じない。これらは、小さい一桁のマイクロメートル領域の小型粒子として、比較的大きな表面を有して現れるからである(
図2a、d)。
【0102】
例えばビスメチオニン酸亜鉛の構造的な特性解析は、R.B. Wilson, P. de Meester and D.J. Hodgson, Inorg. Chem. 1977, 16, 1498-1502 or M. Rombach, M. Gelinky, H. Vahrenkamp, Inorg. Chim. Acta 2002, 334, 25-33に見出されるであろう。本発明の場合にも、この種の基準分光計測により、本発明によって製造された生成物が、湿式化学的に製造された基準材料(時には市販品として入手できる)と一致することが実証されている。このことは、「American Association of Feed Control Officials」(AAFCO)が、この種のキレートを、可溶性金属塩の金属イオンとアミノ酸との反応生成物として定義しているため、特に強調される(例えば、S.D. Ashmead, M. Pedersen、米国特許第6426424号、2002年参照)。特に、本発明による製造方法の途中で、IRスペクトルの有意な変化によってキレート生成は実証されたが、これを適切な実施例に基づいて以下に説明する。
【0103】
ATR-IR解析 キレート形成の分光学的な証拠
本発明による方法の実施時にキレート形成を実証する目的でのIR解析の過程で、アンモニウム基の窒素-水素伸縮振動NHの位置変化が特に重要になる。この吸収帯は、アミノ酸がグリシンである場合には約3150波数(cm
-1、IRスペクトルの横座標の単位)(
図3)から、またはメチオニンの場合には2950cm
-1未満(
図4)から、キレート形成により、グリシン酸亜鉛については約3440cm
-1(
図5)またはメチオニン酸亜鉛については約3295cm
-1(
図6)までシフトする。生じる波数差が、錯化への窒素中心の関与、したがってキレート形成自体を実証している。この領域中の3000cm
-1より上のさらなる吸収帯は、実質的に結晶水の存在に帰することができる。さらに、ここでは高指紋領域の強い基本振動の高調波が見られる。元来存在するアミノ酸の非対称カルボキシレート伸縮振動V
as(COO
-)は、約1575cm
-1に現れる。その位置は、キレート形成の過程でほとんど移動しない。カルボキシレート振動の対称ペンダントV
sym(COO
-)の位置も安定なままである。しかしながら、本発明による反応の過程でのキレートの形成は、この高指紋領域においても明らかに認識できる。遊離アミノ酸の場合にのみ1500cm
-1の変形振動δ
sym(NH
3
+)が検出される(例えば、δ
sym(NH
3
+、グリシン):1498cm
-1
、δ
sym(NH
3
+
、メチオニン):1514cm
-1、δ
sym(NH
3
+、リシン):1511cm
-1)が、これは反応粉砕およびキレート形成の途中で消失するからである。これらのキレートにおけるそれぞれの金属-窒素振動は、金属の比較的高い原子質量のために、低指紋領域中の低波数でのみ見られ、例えばMet-N(メチオニン酸亜鉛)は419cm
-1である。ここでの、金属キレートのIRスペクトルの、遊離アミノ酸の対応するスペクトルと比較した有意な変化は、同様に本発明の方法の過程におけるキレート形成の明らかな証拠である。
【0104】
ビスグリシン酸銅の場合、出発材料であるグリシンと比較して、シグナルはキレート吸収帯のIR領域において3330、3260および3160cm
-1にある(
図7参照)。
【0105】
本発明の利点の要約
本発明は、エネルギー効率的で無溶媒で実施されるアミノ酸-金属キレートの製造方法を提供する。従来の方法に対するエネルギー節約は、後に行われる乾燥を伴う湿式化学反応が必要ではないことから生じる。メカノケミカル反応が実現されるが、従来技術と異なり、粉砕媒体および追加の物体、例えば偏心振動ミルにおける反応の場合のカウンターウェイトは必要ない。したがって、プロセス生成物は、粉砕媒体からの金属ダストがないままで維持される。好ましくは、加圧していない出発物質のアミノ酸/ヒドロキシカルボン酸と金属酸化物、金属炭酸塩または金属シュウ酸塩との混合物を、流動床対向ジェットミルにおける流体ジェット(ガスジェット)のみにより、ガス流により開始される粒子衝突に基づいて、メカノケミカル的に対応する金属キレートに転化させる。また、エネルギー効率は、本発明による方法が、熱エネルギー、放射エネルギーなどの導入の必要なしに、粉砕ガスジェットのみにより動作することから生じる。したがって、出発物質の完全な化学転化のための新規な自発反応プロセスが、有機酸、好ましくは天然由来のアミノ酸、例えば、グリシン、メチオニンまたはリシンと、微量元素金属、特に亜鉛、銅、マンガン、セレン、鉄、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、コバルト、バナジウム、クロムまたはモリブデンの、酸化物、炭酸塩またはシュウ酸塩との組み合わせを可能にする。このようにして、強く望まれてきた飼料添加剤または栄養サプリメント、例えば(ビス)グリシン酸亜鉛、(ビス)メチオニン酸亜鉛、(ビス)リシン酸亜鉛、(ビス)グリシン酸銅、(ビス)メチオニン酸銅、(ビス)リシン酸銅ほか多数が得られる。同様に可能な、アミノ酸に代わるヒドロキシカルボン酸の使用は、第1に食品添加剤をもたらす。この種のキレート化合物の他の(産業上の)使用も公知である。このプロセス生成物は非常に構造的に均一、かつ非常に純粋に得られる。有機キレートリガンド、特にアミノ酸の熱応力または熱分解が回避され、同様にミルおよび粉砕媒体のダストによる汚染も回避される。
【0106】
様々なミル例えば偏心振動ミルを用いる公知の方法と異なり、流動床対向ジェットミルは連続運転でも動作する。
【0107】
反応水は、特別なエネルギー入力なしに、流出する粉砕ガスとともに除去される。
【符号の説明】
【0108】
10 流動床対向ジェットミル
1 粉砕チャンバ
2 導管
3 粉砕材料貯蔵部
4 流体ノズル(粉砕ガスノズル)
5 流動床(反応空間)
【手続補正書】
【提出日】2022-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価金属カチオンとα-およびβ-アミノ酸ならびにヒドロキシカルボン酸の群からの少なくとも1つのキレート形成性の酸を含む少なくとも1つのキレートリガンドとを有する少なくとも1つの金属キレート化合物を含む、金属キレート組成物であって、前記金属キレート化合物は、その99.9%が25μm以下の径を有し、その90%が15μm以下の径を有し、その50%が5μm以下の径を有する粒子の形態で存在し、そして、前記金属キレート化合物はミルおよび粉砕媒体のダストがないことを特徴とする、金属キレート組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの金属キレート化合物における、キレート形成性の酸の金属化合物に対する化学量論比が、0.5:1(モル/モル)~4:1(モル/モル)であることを特徴とする、請求項1に記載の金属キレート組成物。
【請求項3】
前記1つ以上の金属キレート化合物の金属は、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、セレン(Se)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)の群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属キレート組成物。
【請求項4】
存在する前記金属キレート化合物または少なくとも1つの金属キレート化合物は、亜鉛もしくは銅の2:1アミノ酸-金属キレート化合物、または鉄もしくはマンガンの3:1アミノ酸-金属キレート化合物であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属キレート組成物。
【請求項5】
以下の金属キレート化合物:ビスグリシン酸亜鉛、ビスリシン酸亜鉛、ビスメチオニン酸亜鉛、ビスグリシン酸銅、ビスリシン酸銅、ビスメチオニン酸銅、(メチオニン酸セレン、システイン酸セレン、**)、ビスグリシン酸鉄、トリスグリシン酸鉄、ビスリシン酸鉄、トリスリシン酸鉄、ビスメチオニン酸鉄、トリスメチオニン酸鉄、ビスグリシン酸マンガン、トリスグリシン酸マンガン、ビスリシン酸マンガン、トリスリシン酸マンガン、ビスメチオニン酸マンガン、トリスメチオニン酸マンガンの少なくとも1つが含まれているか、またはこれらからなることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属キレート組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の金属キレート組成物の使用であって、飼料添加剤、栄養物、栄養サプリメント、食品添加剤、医薬品、防腐剤としてもしくはその中での、医薬組成物中での、発酵添加剤、肥料添加剤、種子処理剤、作物防疫剤、化学反応用の触媒としてもしくはその中での、または電気メッキ添加剤としてもしくはその中での、使用。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の金属キレート組成物を含む組成物であって、飼料添加剤、栄養物、栄養サプリメント、食品添加剤、医薬品、防腐剤、医薬組成物、発酵添加剤、肥料添加剤、種子処理剤、作物防疫剤、化学反応用の触媒または電気メッキ添加剤の形態の、組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0107
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0107】
反応水は、特別なエネルギー入力なしに、流出する粉砕ガスとともに除去される。
以下に、本願の出願時の特許請求の範囲を実施の態様として付記する。
[1] 金属酸化物、金属水酸化物および金属塩の群からの少なくとも1つの金属化合物と、α-およびβ-アミノ酸ならびにヒドロキシカルボン酸の群からの少なくとも1つのキレート形成性の酸を含む少なくとも1つの固体有機酸との無溶媒混合物を、強い機械応力にさらす、アミノ酸-またはヒドロキシカルボン酸-金属キレートの製造方法であって、反応パートナーの金属化合物と有機酸とを、粒子状で、粉砕媒体なしで動作する流動床対向ジェットミルの流体ジェット中に導入し、前記流体ジェットのジェット領域中に形成された反応空間内での粒子衝突過程によって、前記反応パートナーの少なくとも一方の機械的活性化をもたらし、金属キレートを形成する固体反応を誘発させることを特徴とする、方法。
[2] 前記流動床対向ジェットミルにおいて、導入された粒子状の反応パートナーを伴う、少なくとも2の流体ノズルのジェット方向の交差領域内の流体流区画内で、反応空間としての流動床を形成することを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3] 前記流動床対向ジェットミルを、約300~1000m/秒の流動速度、約5~10バール、好ましくは約7~8バールの粉砕ガス圧力で動作させることを特徴とする、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記反応パートナーを、輸送装置を用いて、粉砕チャンバ内へ輸送し、前記粉砕チャンバの内部の前記反応空間内へ自由落下で到達させることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5] 前記流体は、好ましくはガスの空気、窒素、アルゴン、二酸化炭素および蒸気の群から選択される、それぞれ個々のまたは混合したガスであることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか一つに記載の方法。
[6] 前記金属化合物は、無機金属酸化物、金属水酸化物もしくは混合酸化物、または無機もしくは有機金属塩、好ましくは金属炭酸塩または金属シュウ酸塩であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか一つに記載の方法。
[7] 前記金属化合物は、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、セレン(Se)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)の群から選択される少なくとも1つの金属を含有するか、またはこの種の金属化合物の混合物を用いることを特徴とする、[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[8] 多価金属カチオンとα-およびβ-アミノ酸ならびにヒドロキシカルボン酸の群からの少なくとも1つのキレート形成性の酸を含む少なくとも1つのキレートリガンドとを有する少なくとも1つの金属キレート化合物を含む、金属キレート組成物であって、前記化合物は、一桁のマイクロメートル領域の平均粒径を有する粒子の形態で存在することを特徴とする、金属キレート組成物。
[9] 前記金属キレート化合物は、その90%が15μm以下の径を有し、その50%が5μm以下の径を有する粒子の形態で存在することを特徴とする、[8]に記載の金属キレート組成物。
[10] 前記金属キレート化合物は、その99.9%が25μm以下の径を有する粒子の形態で存在することを特徴とする、[8]または[9]に記載の金属キレート組成物。
[11] 前記金属キレート化合物は、ミルおよび粉砕媒体のダストがないことを特徴とする、[8]~[10]のいずれか一つに記載の金属キレート組成物。
[12] 前記少なくとも1つの金属キレート化合物における、キレート形成性の酸の金属化合物に対する化学量論比が、0.5:1(モル/モル)~4:1(モル/モル)であることを特徴とする、[8]~[11]のいずれか一つに記載の金属キレート組成物。
[13] 前記1つ以上の金属キレート化合物の金属は、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、セレン(Se)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)の群から選択されることを特徴とする、[8]~[12]のいずれか一つに記載の金属キレート組成物。
[14] 存在する前記金属キレート化合物または少なくとも1つの金属キレート化合物は、亜鉛もしくは銅の2:1アミノ酸-金属キレート化合物、または鉄もしくはマンガンの3:1アミノ酸-金属キレート化合物であることを特徴とする、[8]~[13]のいずれか一つに記載の金属キレート組成物。
[15] 以下の金属キレート化合物:ビスグリシン酸亜鉛、ビスリシン酸亜鉛、ビスメチオニン酸亜鉛、ビスグリシン酸銅、ビスリシン酸銅、ビスメチオニン酸銅、(メチオニン酸セレン、システイン酸セレン、
**
)、ビスグリシン酸鉄、トリスグリシン酸鉄、ビスリシン酸鉄、トリスリシン酸鉄、ビスメチオニン酸鉄、トリスメチオニン酸鉄、ビスグリシン酸マンガン、トリスグリシン酸マンガン、ビスリシン酸マンガン、トリスリシン酸マンガン、ビスメチオニン酸マンガン、トリスメチオニン酸マンガンの少なくとも1つが含まれているか、またはこれらからなることを特徴とする、[8]~[14]のいずれか一つに記載の金属キレート組成物。
[16] [8]~[14]のいずれか一つに記載の金属キレート組成物の使用であって、飼料添加剤、栄養物、栄養サプリメント、食品添加剤、医薬品、防腐剤としてもしくはその中での、医薬組成物中での、発酵添加剤、肥料添加剤、種子処理剤、作物防疫剤、化学反応用の触媒としてもしくはその中での、または電気メッキ添加剤としてもしくはその中での、使用。
[17] [1]~[7]のいずれか一つに記載の方法のプロセス生成物を含むか、または[8]~[14]のいずれか一つに記載の金属キレート組成物を含む組成物であって、飼料添加剤、栄養物、栄養サプリメント、食品添加剤、医薬品、防腐剤、医薬組成物、発酵添加剤、肥料添加剤、種子処理剤、作物防疫剤、化学反応用の触媒、または電気メッキ添加剤の形態の、組成物。
【外国語明細書】