(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166028
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】インスリン受容体基質-2の発現を促進する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20221025BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20221025BHJP
C12N 9/68 20060101ALI20221025BHJP
C12N 15/58 20060101ALI20221025BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
A61K38/48 100
A61P3/10 ZNA
C12N9/68
C12N15/58
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022119582
(22)【出願日】2022-07-27
(62)【分割の表示】P 2019532019の分割
【原出願日】2017-06-19
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2016/110171
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】518217305
【氏名又は名称】タレンゲン インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TALENGEN INTERNATIONAL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リー, チーナン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】糖尿病の発症メカニズムの多くの方面に作用しうる治療薬を提供する。
【解決手段】被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する方法、糖尿病被験者のインスリン分泌を促進する方法、被験者の膵島β細胞のアポトーシスを減少させる方法、被験者の膵島β細胞損傷の修復を促進する方法、糖尿病被験者の血糖を降下する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する方法。
【請求項2】
被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のインスリン分泌を促進する方法。
【請求項3】
前記プラスミノーゲンは、前記プラスミノーゲンはインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、被験者の膵島β細胞のアポトーシスを減少させる方法。
【請求項5】
前記プラスミノーゲンは、前記プラスミノーゲンはインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、被験者の膵島β細胞損傷の修復を促進する方法。
【請求項7】
前記プラスミノーゲンは、前記プラスミノーゲンはインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記プラスミノーゲンはさらに、被験者の多方向核転写因子NF-kBの発現を促進する、請求項2~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の膵島β細胞の機能修復を促進する方法であって、前記プラスミノーゲンは、膵島炎症の修復の促進と膵島β細胞のアポトーシスの減少によって糖尿病被験者の膵島β細胞の機能修復を促進する、方法。
【請求項10】
前記プラスミノーゲンは、細胞因子TNF-α、多方向核転写因子NF-kB、及びインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の血糖を降下する方法。
【請求項12】
前記血糖は、血清ブドウ糖レベルと、血清フルクトサミンレベルと、血清糖化ヘモグロビンレベルとからなる群より選ばれる一つ以上のものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記血糖は血清ブドウ糖レベルである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記糖尿病はT1DMまたはT2DMである、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の糖の耐量を高める方法。
【請求項16】
前記糖尿病はT2DMである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の食後の血糖降下を促進する方法。
【請求項18】
前記プラスミノーゲンを被験者の食前30分間から1.5時間までの間に投与する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記プラスミノーゲンを被験者の食前30分間から1時間までの間に投与する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のブドウ糖利用を促進する方法。
【請求項21】
被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のインスリン分泌を促進する方法。
【請求項22】
前記プラスミノーゲンはさらに糖尿病被験者のインスリンの発現を促進する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記糖尿病はT1DMまたはT2DMである、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記プラスミノーゲンは糖尿病被験者の食後のインスリン分泌を促進する、請求項20~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記プラスミノーゲンは糖尿病被験者の禁食状態下のインスリン分泌を促進する、請求項20~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記プラスミノーゲンは、糖尿病被験者の応答血糖の上昇により刺激されるインスリン分泌を促進し、血糖を正常または正常に近いレベルに戻らせる、請求項20~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記プラスミノーゲンは、前記インスリンの発現及び/または分泌を促進するとともに被験者のグルカゴンの発現及び/または分泌を低める、請求項21~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記プラスミノーゲンは、前記インスリンの発現及び/または分泌を促進するとともに被験者のグルカゴンの発現及び/または分泌を低めることにより、被験者の血糖を正常または正常に近いレベルに戻らせる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記プラスミノーゲンは一種以上のその他の薬物または治療方法と併用することができる、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記プラスミノーゲンは、抗糖尿病薬と、抗心脳血管疾患薬と、抗血栓薬と、抗高血圧薬と、抗血脂薬と、抗凝固薬と、抗感染薬とからなる群より選ばれる一つ以上の薬物と併用することができる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記プラスミノーゲンは配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然プラスミノーゲン活性を有するものである、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記プラスミノーゲンは配列2、6、8、10または12において、1-100、1-90、1-80、1-70、1-60、1-50、1-45、1-40、1-35、1-30、1-25、1-20、1-15、1-10、1-5、1-4、1-3、1-2、1個のアミノ酸を添加、削除及び/または置換したものであり、且つ依然プラスミノーゲン活性を有するタンパク質である、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記プラスミノーゲンはプラスミノーゲン活性フラグメントを含有し、且つ依然プラスミノーゲン活性を有するタンパク質である、請求項1~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記プラスミノーゲンは、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、δ-プラスミノーゲンまたはそれらのプラスミノーゲン活性を保持した変異体である、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記プラスミノーゲンは、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、またはその依然プラスミノーゲン活性を保持した変異体若しくはフラグメントである、請求項1~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記プラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、またはその依然プラスミノーゲン活性を保持した変異体若しくはフラグメントである、請求項1~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記プラスミノーゲンのアミノ酸配列は配列2、6、8、10または12に示される通りである、請求項1~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記プラスミノーゲンは、ヒト由来の天然プラスミノーゲンである、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記被験者はヒトである、請求項1~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記被験者はプラスミノーゲンが不足、または欠乏している、請求項1~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記不足または欠乏は、先天的、継発的及び/または局所的である、請求項1~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
請求項1~41のいずれか1項に記載の方法に使用されるプラスミノーゲン。
【請求項43】
薬学的に許容される担体及び請求項1~41のいずれか1項に記載の方法に使用されるプラスミノーゲンを含む薬物組成物。
【請求項44】
(i)請求項1~41のいずれか1項に記載の方法に使用されるプラスミノーゲンと、(ii)前記プラスミノーゲンを前記被験者に送達するための手段(means)とを含む、予防性または治療性キット。
【請求項45】
前記手段はシリンジまたはバイアルである、請求項44に記載のキット。
【請求項46】
請求項1~41のいずれか1項に記載の方法を実施するように前記プラスミノーゲンを前記被験者に投与することを指示するラベルまたはプロトコルをさらに含む、請求項44または45に記載のキット。
【請求項47】
ラベルを含む容器と、
(i)請求項1~41のいずれか1項に記載の方法に使用されるプラスミノーゲン、またはプラスミノーゲンを含む薬物組成物とを含む製品であって、前記ラベルは、請求項1~41のいずれか1項に記載の方法を実施するように前記プラスミノーゲンまたは組成物を前記被験者に投与することを指示する、製品。
【請求項48】
その他の薬物を含む、もう一つ以上の部材または容器をさらに含む、請求項44~46のいずれか1項に記載のキット、または請求項47に記載の製品。
【請求項49】
前記その他の薬物は、抗糖尿病薬と、抗心脳血管疾患薬と、抗血栓薬と、抗高血圧薬と、抗血脂薬と、抗凝固薬と、抗感染薬とからなる群より選ばれる、請求項48に記載のキットまたは製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、インスリン受容体基質-2の発現を促進する方法に関するとともに、インスリン受容体基質-2の発現を促進するための薬物にも関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病(diabetes mellitus、DM)はよく見られる、遺伝的傾向のあるブドウ糖の代謝異常と内分泌障害性疾患であり、絶対性または相対性インスリンの分泌不足によって引き起こされる。2015年に全世界では4.15億の糖尿病患者があり、2040年までに、糖尿病患者数は6.42億に達すると予想される[1]。糖尿病は人類の健康を深刻に害する重大な病気の一つである。
【0003】
糖尿病は主に糖代謝異常及び脂肪、タンパク質などの物質の代謝障害として表され、長期的に高血糖状態にあると、微小血管合併症、糖尿病腎症、糖尿病心筋症、糖尿病神経系病変、糖尿病に伴う皮膚病変、糖尿病合併感染などを含む深刻な糖尿病合併症を招いてしまう。その中で、糖尿病腎症及び糖尿病神経系病変は患者の生活の質に対する影響は巨大であり、害も深刻である。
【0004】
臨床的によく見られる糖尿病は、1型糖尿病(type 1 diabetes、T1DM)、2型糖尿病(type 2 diabetes、T2DM)、妊娠糖尿病、特殊型糖尿病の4種類に分けられる。その中で、T1DMとT2DMの患者は最も多く、妊娠糖尿病と特殊型糖尿病の患者は比較的に少ない。
【0005】
T1DMは遺伝的要因、環境要因(例えば、ウイルス感染、糖尿病を引き起こす化学物質、飲食要因)、及び自己免疫要因に関係すると考えられる。研究によると、T1DM関連の遺伝子部位は少なくとも17個あり、異なる染色体に位置している。環境要因については、T1DMの発症に影響がある環境要素は、ウイルス感染、糖尿病を引き起こす化学物質、及び飲食要素を含み、中ではウイルス要素が最も重要である。耳下腺炎、風疹ウイルス、巨大細胞ウイルスなどがT1DMの発症に関連していることは発見された。そのメカニズムは、ウイルスが膵島β細胞を直接に破壊し、ウイルスが膵島β細胞を損傷した後に自己免疫反応を刺激してさらに膵島β細胞を損傷することにある。糖尿病を引き起こす化学物質としては、アロキサン、ストレプトゾトシン(STZ)、ペンタミジンが挙げられ、これらは膵島β細胞に作用して膵島β細胞の破壊を招く。自己免疫要素は体液性免疫と細胞性免疫とを含む。体液性免疫は、患者の血液循環中に多種の抗膵島β細胞の自己抗体が多く存在することとして表される。細胞性免疫は主に、HLA-DA抗原の異常発現と、IL-2受容体と膵島細胞表面HLA-1類抗原の過剰発現とを膵島炎症性浸潤細胞と膵島β細胞の表面に観察でき、外周血のCD4+/CD8+の割合、及びIL-1、TNF-α、INF-γのレベルが上昇することとして表される。これらの要因による病理的変化は膵島β細胞の破壊に集中し、体内のインスリンのレベルが絶対的に低下し、T1DMを引き起こすので、T1DMは自己免疫性疾患であると考えられている。
【0006】
T2DMは多遺伝子遺伝性疾患であり、その発生は多源性であるとかんがえられ、その中では、環境要因と遺伝的要因が共に作用してインスリン抵抗を引き起こし、生体の抵抗機能によって同じレベル濃度のインスリンが正常レベルの機能を果たせなくなることとして表される。そして、生体は正常な血糖レベルに達するために、インスリンを「低い効率」で使用する状態を緩和するようにインスリンを過剰に分泌することになり、長期に亘って膵島β細胞に対する要求が高まり、最終的には膵島β細胞が「働きすぎ」て自己損傷になってしまい、インスリンの絶対的不足となる。
【0007】
DMの発症メカニズム
DMの発症メカニズムは複雑であり、主に家族の遺伝傾向、種族異質性、インスリン受容体の欠陥、インスリン受容体の基質による損傷、タンパク質チロシンホスファターゼ関連遺伝子の発現上昇、過度の免疫炎症性反応、脂質毒性、酸化ストレス、及びミトコンドリア損傷などと関連している[2-3]。
【0008】
1.遊離脂肪酸
遊離脂肪酸レベルの上昇は、インスリン抵抗の発症原因の一つでもあり、インスリン抵抗状態の重要な特徴の一つでもある。遺伝的要因または環境要因の作用下で、血液中の遊離脂肪酸レベルが高くなり、脂肪組織の貯蔵能力を超えるとインスリン抵抗がおこる。研究によると、長期的な高脂食は膵島β細胞の機能異常を引き起こすことになる。その原因として、高脂食は外周インスリン抵抗を引き起こす他、腹腔脂肪含有量を上昇させ、インスリンが脂肪分解を抑制する能力を低下させ、これによって遊離脂肪酸の含有量の上昇を促進し、さらにインスリン受容体及びその基質IRS-1、IRS-2のチロシンリン酸化を抑制し、P13Kの活性を抑制し、インスリンシグナル伝達経路が阻害されてインスリン抵抗が形成する。
【0009】
2.炎症性反応
1)炎症とインスリン抵抗
T2DMは軽度の非特異性炎性疾患である。近年の研究で示されているように、炎症によるインスリン抵抗の主なメカニズムは、炎性因子とインスリン受容体基質のシグナル伝達が交差し、非特異性炎症による炎性因子がIRS/PI3Kシグナル経路に対して阻害作用を果たす一方、炎性因子によって活性化された一連のキナーゼがIRSのセリン、スレオニン部位のリン酸化を誘導して正常なチロシンリン酸化を阻害し、最終的にインスリンのシグナル伝達能力が低下してインスリン抵抗が誘発される[2-3]。
【0010】
ターゲット細胞において、インスリンとその受容体との結合は受容体を活性化させることができ、その後細胞内のシグナル伝達経路では一連の細胞内伝達分子が生じて酵素とカスケード反応してシグナルが細胞内に逐次伝達されて増幅され、シグナルが最後にターゲット器官に伝達されて一連の生物学的効果が生じる。シグナル伝達経路は主に二つあり、一つはIRS-1-PI3K-PKB/AKTルートであり、もう一つはマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(Shc/Raf/MAPK)ルートである。一つ目の経路では、まず外因性インスリン及び/mたはブドウ糖の刺激の下でインスリンとその受容体とが結合し、受容体の内因性チロシンキナーゼが活性化される。活性化されたチロシンキナーゼは自身のリン酸化を実現すると同時に、インスリン受容体基質IRSのチロシン部位のリン酸化を誘発する。活性化されたIRSは細胞膜に移り、リン酸チロシン結合領域(PTB)によりリン酸チロシンをIRSチロシンキナーゼにアンカーし、チロシンリン酸化されたIRSはそのSH2構造領域を通してPI3Kの調節サブユニットP85に募集される。P85は、ホスホイノシチドの3リン酸分子と結合し、ホスファチジルイノシトール1リン酸(PIP)をホスファチジルイノシトール2リン酸(PIP2)とホスファチジルイノシトール3リン酸(PIP3)に変換し、これらはインスリンとその他の成長因子の第2のメッセンジャーであり、下流のシグナル分子ホスホイノシチドが頼るプロテインキナーゼー1(PDK1)及び(または)プロテインキナーゼc(PKC)のある亜型のアンカーポイントである。PDK1はプロテインキナーゼB(PKB、Aktとも呼ばれる)とある非典型的なPKC亜型を活性化させることができる。活性化されたPKBは、セリン/スレオニンリン酸化によってグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(GSK3)を不活性化させる一方、哺乳動物のレパーマイシンターゲットポイント(mTOR)プロテインキナーゼを活性化させ、下流の70ku―S6キナーゼ(p70S6K)のリン酸化活性化を誘導する。mTORプロテインキナーゼは「ATP感受器」として、Ca2
+/cAMPを通さずにp70S6Kを活性化させ、タンパクの合成を制御し、遺伝子の転写を強化し、膵島β細胞肥大化及びその他の生物効果を促進することができる。PKBはある 転写因子のセリン/スレオニンリン酸化を直接に誘導して細胞の有糸分裂の発生を促進することができる[4-5]。二つ目の経路では、Rasの活性化は二つの通路を通じて実現できる。1)活性化されたインスリン受容体はIRS-2タンパク質を活性化させ、IRS-2タンパク質はシグナルをアダプタータンパク質成長因子受容体結合タンパク質2(Grb2)に送り、シグナルタンパク質GDP/GTP交換因子(mSOS)と相互作用し、不活性化させられたRas-GDPから変換されたRas-GTを活性化させてRasの活性化を実現することができる。インスリン受容体の直接な作用により、シグナルタンパク質Shcのチロシンリン酸化がされ、そしてShcとGrb2とが結合してmSOSルート経由でRasを活性化させる。活性化されたRas-GTPはRafセリンキナーゼを募集し、MAPKキナーゼ、MAPKをこの順でリン酸化する。活性化されたMAPKははその他のプロテインキナーゼを活性化させて遺伝子転写の誘導や細胞アポトーシスの調節制御などの過程に参加させることができる[6]。
【0011】
IRS-1のセリン残基は、c-Junアミノ末端キナーゼ(JNK)、IkBキナーゼβ(IkKβ)、プロテインキナーゼC(PKC)-θなどの多種の炎症キナーゼによりリン酸化されることができることは目前に実証されている。セリン307部位は、JNKによりIRS-1をリン酸化する主要な部位であり、その変異は、JNKにより誘導されるIRS-1リン酸化とTNFがインスリンによるIRS-1チロシンリン酸化に対する抑制作用を消失させることは、IRS-1放射免疫分析法により明らかになった。JNKは、リン酸かされたIRS-1のセリン307により、インスリン受容体基質のチロシンリン酸化を低減し、インスリンシグナルの伝達を抑制する[7]。食事性肥満マウスとоb/оbマウスの肝臓、筋肉、脂肪組織の中のJNK活性が著しく上昇しているとHirosumiらは発見した。遺伝子ノックアウト(JNK1-/-)は、食事誘導性肥満マウスのインスリン抵抗現象を弱め、оb/оbマウスの肥満、高血糖、及び高インスリン血症を緩和することができる。肥満マウスの肝臓組織IRS-1のセリン307部位のリン酸化レベルは、リーンマウスより高いが、遺伝子ノックアウト(JNK1-/-)の肥満マウスでは上昇することはないことから、IRS-1のセリン307部位がJNKの体内作用のターゲットであることが分かる[8]。TNFαにより肝臓細胞インスリン抵抗を刺激誘起するモデルにおいて、JNK阻害剤はセリン307のリン酸化を完全に遮断できることは研究によって明らかである。IkKβは少なくとも二つのルートでインスリンシグナルの伝達を影響することができ、IRS-1のSer307部位のリン酸化を直接に誘導してもよく、IkBのリン酸化によってNF-kBをさらに活性化させ、多種の炎症因子の発現を刺激することによってインスリン抵抗を間接的に誘発してもよい。
【0012】
炎症反応は、感染、組織損傷及びストレス反応後に人体免疫システムがこれらの損傷を対抗する防御反応であるとともに、糖尿病、心血管疾患及び腫瘍の病因または発症メカニズムでもある。
【0013】
1993年には、Hotmamisligilら[9]は動物実験により、インスリン抵抗の肥満ラットの脂肪組織の中で炎症性細胞因子、TNF-αのレベルが高いことを証明した。その後、多くの研究者は炎症と肥満、インスリン抵抗との関係を検討し始め、分子の発症メカニズムを研究し始めた。2006年にHotmamisligilら[10]は代謝性炎症(metabоlic inflammatiоn)という新しい医学的定義を初めて提案し、この低度の慢性的な全身炎症が主に余分な栄養物質と代謝物質によるものであると強調した。代謝性炎症には、典型的な炎症と類似した分子とシグナルの伝達経路が存在する可能性があり、今まで認識している典型的な炎症とは違い、代謝性炎症には赤、腫れ、熱、痛み、機能障害の症状は存在しない。正常な状況では、生体内の環境は安定しており、炎症と代謝はそれぞれ及び相互に動的なバランスを保っている。生体に代謝障害が起こると、生体のバランス状態が破られ、免疫システムのバランスが崩れ、炎症シグナル伝達経路が刺激され、生体から一連の炎症因子の放出が促進される。一部の炎症因子はさらに自身の炎症反応を拡大し、炎症の滝効果が形成され、さらに生体からインスリン抵抗が発生し、代謝症候群を引き起こす。
【0014】
TNF-αは代謝症候群と密接な関係があることは研究によって証明された。TNFはカケクチンとも呼ばれ、主に活性化したマクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、及びTリンパ球から生じるものであり、マクロファージから分泌されるTNFはTNF-αと呼ばれ、Tリンパ球から分泌されるリンパ毒素はTNF-βと呼ばれる。TNF-αの生物学的活性はTNFの全活性の70%~95%を占めているので、よく係わっているTNFは多くの場合TNF-αを指す。長年の研究検討を経て、TNF-αがインスリン抵抗、自己免疫性疾患、腫瘍、慢性B型肝炎など多くの病気と関係があることは明らかになっている。インスリン抵抗の発生発展過程においてTNF-αは極めて重要な役割を果たす。Swaroopら[11]はT2DM患者の血清TNF-αレベルを50例検出することにより、T2DM患者のTNF-αレベルが上昇し、BMI、空腹インスリンレベル及び定常状態モデルインスリン抵抗性指数(HOMA-IR)と著しく相関することに至り、TNF-αがT2DM発症メカニズムにおいて重要な役割を果たしていることは示唆されている。また、TNF-αはインスリン受容体のリン酸化を抑制させることができ、インスリン受容体のリン酸化が抑制されると、グルコース輸送タンパク質の遺伝子発現を減少させることができ、リポタンパク質リパーゼの活性を低下させ、最終的に脂肪分解を引き起こすことができると研究によって指摘されている[12]。
【0015】
2)炎症と膵島β細胞のアポトーシス
慢性低度炎症反応は膵島β細胞の機能障害と密接に関係している。β細胞数の減少による膵島β細胞の機能障害はT2DMの発症のもう一つの重要な原因であり、β細胞アポトーシスはβ細胞数の減少の最も重要な原因である。遺伝または飲食の原因で、T2DM患者にはインスリン抵抗が発生し易く、患者の血糖が上昇し、高血糖の状態はまたIL-6の発生を促進することができる。IL-6はGLUT4発現を減少させ、脂肪細胞のブドウ糖に対する輸送を低下させ、グリコーゲンの合成を阻害し、インスリンの感度を低下させることができるだけではなく、同時に膵島細胞のIL-6の分泌を促進し、悪循環を引き起こすこともできる。高血糖に誘導されるIL-1βは大量に生成し、NF-kB、MAPK、Fas、NOなどの経路を活性化させることによって膵島細胞のアポトーシが発生し、多種の炎症経路は互いに交差して促進され、膵島細胞のアポトーシスを激化してついに膵島機能の低下を招く[13]。また、IL-1βは、白細胞間の相互作用を介在し、しかもIFN-γ、TNF-αなどのその他の細胞因子と互いに影響制約することができ、β細胞の損傷過程で重要な役割を果たしている。T2DMの血中脂質異常はレプチンなどのホルモン類物質とIL-6レベルを増加させる。レプチンはIL-1βの放出を増加させてβ細胞アポトーシスを誘導することができ、インスリンの分泌をマイナスコントロールすることができる[14]。ROSはインスリン抵抗を招く他、膵島β細胞の損傷に対しても作用があり、酸化ストレス状態下で、インスリン遺伝子転写因子の発現及びインスリン結合部位は顕著に減少してインスリンの生成及び分泌に影響を与える。TNF-αのようなその他の脂肪細胞因子とレプチンもβ細胞の機能を低下させることができる[15]。これらの細胞因子の連合作用は、膵島β細胞の機能に対してより顕著な損傷をもたらす。また、一部の炎症因子はインスリン受容体基質2の肝心な部位にも作用し、セリン/スレオニンをリン酸化させ、インスリン受容体基質2の分解を加速し、膵島β細胞のアポトーシスを促進する。
【0016】
3.酸化ストレス
酸化ストレスはT2DMの発生及び発展を引き起こす要素であることは研究によって示されている。酸化ストレスとは、活性酸素(reactive оxygen species、ROS)と活性窒素(reactive nitrоgen species、RNS)の発生と、生体内の抗酸化防御システムの除去との間のバランスが崩れ、ROSとRNSが過剰に発生して生体組織細胞およびタンパクや核酸などの生体高分子に損傷を与えることをいう[13]。高血糖は酸化ストレスを引き起こす主因であり、ミトコンドリア電子伝達鎖[14]、ブドウ糖の自己酸化、多価アルコール経路などのルート[15]を通して生体内のROSとRNS含有量を増加させ、その中で、ミトコンドリア電子伝達鎖はROSを発生させる主要なルートである。ミトコンドリア電子伝達鎖は主に酵素複合体I~IV、細胞色素cおよび補酵素Qに係り、酵素複合体IとIIIにおいて、スーパーオキシドアニオン、過酸化水素、ヒドロキシルラジカルを含む少量の超酸化物が持続的に生成し、超酸化物不均化酵素、過酸化水素酵素、及びグルタチオン過酸化物酵素は、超酸化物を酸素と水に変換する。しかし、肥満または高血糖の条件下で、超酸化物は大幅に増加し、超酸化物の生成速度がその除去速度を超えたときに酸化ストレスが発生する。
【0017】
多くの研究[16-18]により示されているように、ROSは直接にβ細胞を損傷し、特に細胞ミトコンドリア構造を破壊し、β細胞のアポトーシスを促進することができる;ROSはインスリンシグナル伝達経路に影響を与えることでβ細胞の機能を間接的に抑制することができ、例えば、核転写因子kB(nuclear transcriptiоn factоr kB、NF-kB)シグナル経路を活性化してβ細胞の炎症反応を引き起こすことができる;膵臓・十二指腸ホメオボックス因子1(pancreatic and duоdenal hоmeоbоx 1、PDX-1)の核質の転位を抑制し、ミトコンドリアのエネルギー代謝を抑制し、インスリンの合成と分泌などを減少させる。酸化ストレスはNF-kB経路を通じてβ細胞の損傷を引き起こしてNF-kBはp50とRelAとの二サブユニットからなる二量体になり、休止細胞において、抑制タンパクIkBと結合して非活性の三量体として細胞質中に存在し、細胞がストレス、細胞因子、ラジカル、細菌ウイルスなどの刺激に対する応答および遺伝子発現の瞬時調節などに主に関与する[19]。高血糖に誘発されるROSは細胞内シグナル伝達を攪乱することによりNF-kBを活性化させ、β細胞の損傷を誘起することは研究によって示されている[20]。Mariappanら[21]はピロリジンジチオカルバメート(PDTC)を用いて肥満db/dbマウスの体内NF-kB発現を抑制した結果、酸化ストレスがマウスのβ細胞ミトコンドリアに対する損傷程度が明らかに軽減されたことを発見した;Hоfmannら[22]は抗酸化薬α-チオクト酸を利用して糖尿病患者を治療した結果、患者体内のNF-kB活性が顕著に低下し、患者の病状も改善されたことを発見した;Eldorら[23]は遺伝子組み換え技術によりマウスのNF-kBの発現を特異的に抑制し、STZ誘導後のマウスの糖尿病発症率を顕著に低下させた。
【0018】
NF-kBは多方向核転写因子として、活性化された後、細胞増殖、細胞アポトーシス、炎症および免疫など多くの遺伝子の調節に寄与する[24]。糖尿病の生体には、NF-kBは、例えばIL-1(interleukin-1)とMCP-1(monocyte/macrophage chemoattractant protein-1)因子などの細胞因子と走化性因子の遺伝子発現を調節することにより、膵島白細胞の増加を引き起こし、β細胞損傷を引き起こす[25]。また、腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor α、TNF-α)などの、NF-kBに調節制御される多くの遺伝子生成物はさらにNF-kBを活性化させ、β細胞損傷を重くする[26]。
【0019】
Mahadevら[27]の研究によると、ROSはインスリンシグナル伝達に対して調節制御の作用があり、しかもこのような作用は多面性である。インスリンの刺激の下で、生体はNox(NADPH oxidase)依存メカニズムによって迅速に微量のROSを生成し、後者は第二のメッセンジャーとして、主に酸化作用によってPTP1Bの活性を抑制してインスリンカスケード反応を促進する[28]。DPI(diphenyleneiodonium)でNoxを抑制した後、インスリンに刺激されるインスリン受容体(insulin receptor, InsR)とインスリン受容体基質(insulin receptor substrate, IRS)のリン酸化が48%低下した[29]。Lоhら[30]の研究によると、生理的なROSは、インスリンに対する生体の感度を促進することができる。生理状態では、インスリンの刺激による微量のROSはインスリンの作用を促進するが、長期的に高血糖にあると、生体はミトコンドリア経由で大量のROSを生成し[31]、インスリン抵抗を引き起こす。
【0020】
InsRとIRSはインスリンシグナル伝達経路において重要なシグナル要素である。前者はインスリンシグナル伝達の開始要素であり、IRSは前者と経路下流要素との接続橋である。酸化ストレスは複数のルートでInsRとIRSのリン酸化反応を妨害してインスリンシグナル伝達を阻害することができることは大量の研究によって示されている。IKKはNF-kBの抑制サブユニットIkBの活性化剤であり、ROSの刺激の下でIKKはInsRとIRSのセリン/スレオニンリン酸化キナーゼとしてInsRとIRSにセリンリン酸化をさせることができ、正常なチロシン化が抑制され、インスリンシグナル伝達を阻害する[32]。Brownlee[33]の研究によると、IKKはIRS307部位のセリン残基を直接にリン酸化させることができ、IRSの正常なチロシンリン酸化が弱まり、InsRとIRSとの結合を阻害し、インスリン抵抗を引き起こす。
【0021】
IKKの他にも、MAPK家族の複数のメンバーはInsRとIRSに対して影響がある。JNK、細胞外調整プロテインキナーゼ(extracellularregulated protein kinases, ERK)およびp38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(p38 MAPK)はMAPK家族のメンバーであり、セリン/スレオニンプロテインキナーゼ活性を持ち、酸化ストレス、細胞因子およびG-タンパク質共役型受容体作動剤などの作用下で活性化させられることができる。多くの研究によると、JNK、ERKおよびp38MAPKの活性化は、InsRとIRSのセリン/スレオニンのリン酸化程度を重くし、InsRとIRSとの間のタンパク結合能力、およびIRS活性化下流にSH-2構造領域を含むシグナル分子の能力を低下させることができる[34-36]。
【0022】
糖尿病の高糖状態による酸化ストレスは、多種の慢性合併症が形成する重要な原因の一つであり、DNA損傷を誘発する重要な要素でもある[37]。糖尿病が発生すると、細胞外液に持続的な高糖が見える。この状態下で、ミトコンドリア電子伝達鎖によって発生する電子は明らかに増え、過剰なROSが生成し、細胞内環境と脂質、タンパク質とDNAなどの生体高分子に損傷を与える。生体が有酸素代謝ルートで発生する活性酸素は突然変異誘導剤として、DNA連鎖上のグアニンを8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-hydrоxy-2’-deоxyguanоsine、8-OHdG)に酸化することができる。DNA複製過程において、8-OHdGはアデニンとミスマッチングしがちであり、G:CからT:Aへの転換型突然変異を引き起こしてDNA損傷をもたらす。また、ROSは、DNA鎖の破壊、DNA部位の突然変異、DNA二重鎖の歪み、がん原遺伝子と腫瘍抑制遺伝子の突然変異などを含むその他の形のDNA損傷を引き起こす。また、DNA損傷はROSおよび酸化ストレス過程を激化させる可能性があり、例えば、DNA損傷はH2AX-還元型補酵素II酸化酵素1(Nox1)/Rac1経路によってROSを誘発することができる。ROSはさらに大量のCa2
+をミトコンドリアに入らせ、細胞の壊死とアポトーシスを引き起こし、あるいはミトコンドリアを直接に損傷してミトコンドリアの機能障害を引き起こし、さらに膵島β細胞を損傷し、糖尿病の病理的過程を悪化させる[38]。
【0023】
ROSはインスリン抵抗を引き起こす他、膵島β細胞の損傷に対しても作用があり、酸化ストレスの状態下で、インスリン遺伝子転写因子の発現及びインスリン結合部位は明らかに減少してインスリンの発生及び分泌に影響を与える。TNF-αのようなその他の脂肪細胞因子もβ細胞の機能を低下させることができる[15]。これらの細胞因子の連合作用は、膵島β細胞の機能に対してより顕著な損傷をもたらす。また、一部の炎症因子はインスリン受容体基質2の肝心な部位にも作用し、セリン/スレオニンをリン酸化させ、インスリン受容体基質2の分解を加速し、膵島β細胞のアポトーシスを促進することができる。
【0024】
以上から分かるように、糖尿病の発生と発展の過程における酸化ストレスの役割は非常に複雑である。ROSは膵島β細胞を直接に損傷する他、シグナル分子としてあるストレス感受性経路を活性化させ、相関因子の発現を調節し、β細胞のアポトーシスまたは壊死を引き起こし、インスリン分泌を抑制、インスリン抵抗を誘発し、最終的に糖尿病を誘発または激化し得る。
【0025】
DMの治療
糖尿病について通常は薬物治療は採用され、伝統的な薬物治療は、インスリン類の薬物と経口類の血糖降下薬を含む。
【0026】
早期にはインスリンは主に豚や牛などの動物の膵臓から抽出され、人体に適用されると明らかなアレルギー反応が発生した。20世紀90年代になるとますます成熟してきて、インスリンの類似物は次第に応用されてきている。このようなインスリンは伝統的なインスリンの薬物動態学を顕著に変えることができ、低血糖の発生率が低く、効果が速く、作用が長持ちであるなどの利点を持っている。現在、インスリン製剤に対する探索が進むにつれて、一部の経口類インスリン製剤はすでに試験段階に入っているが、技術的には難点があるため、いまだに臨床に適用される効果的な経口製剤はない。
【0027】
伝統的な経口類血糖降下薬は多く、一般的には下記のようなものが挙げられる。(1)メトホルミンのようなビグアナイド系。メトホルミンは心血管を保護する良好な作用があり、血糖降下効果も悪くない。現在、多くの国でT2DMを治療する第一線の薬物として用いられている。(2)スルホニル尿素系:スルホニル尿素系はインスリン分泌促進剤の一種であり、膵島β細胞を刺激してインスリンを分泌させ、血糖レベルを改善する効果がある。現在、中国では市販が許可されているこの種類のインスリンは主にグリメピリド、グリベンクラミド、グリピジド、グリクラジド、グリキドンなどがあるが、このような薬物を長期的に服用すると血糖降下効果が失敗する可能性があり、低血糖と体質量の増加などの合併症が発生しやすいことはいくつかの研究より明らかになった。(3)チアゾリジンジオン(thiazolidinedione compounds,TZD)系。1999年にFDAは、ロシグリタゾンとピオグリタゾンのT2DMにおける使用を承認し、前者は心臓病のリスクを増やす可能性があるため、その後第二線治療薬物としてその使用が制限されるとともに、心不全症における使用は禁止された。2013年6月にFDAはロシグリタゾンを新たに審査した結果、この薬物が引き続き臨床に使用できることを指摘し、さらにこの薬物およびその合成調合剤の使用を緩しまたは完全に禁止を解除した。(4)α-グリコシダーゼ阻害剤:このようなインスリンは腸の粘膜上皮細胞のグリコシダーゼを抑制し、さらに炭水化物の吸収作用を緩和し、食後の血糖レベルを低下させる。常用のこのような薬物として、ボグリボース、アカルボース、ミグリトールなどが挙げられる。
【0028】
現段階で糖尿病を治療する薬物は主に伝統的な糖尿病薬物であり、スルホニル尿素系、グリニド系、ビグアナイド系、チアゾリジンジオン(thiazolidinedione compounds,TZD)系、α-グルコシダーゼ阻害剤およびインスリンなどを含む。これらの薬物はいずれも、低血糖、胃腸障害、肥満などの異なる程度の不良反応がある。糖尿病の基礎理論に対する研究が進むにつれて、伝統的な血糖降下薬の副作用を避けて膵島β細胞に保護作用をもたらすために、人々は積極的に糖尿病治療の新しいターゲットを探している。現在、糖尿病の発症メカニズムに関連するターゲットは主に、グルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1,GLP-1)、ジペプチドペプチダーゼ-4(dipeptide peptidase-4,DPP-4)、ナトリウム・グルコース共輸送体-2(sodium-glucose cotransporter-2,SGLT-2)、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(glycogen synthase kinase-3,GSK-3)、タンパク質チロシンホスファターゼ(protein tyrosine phosphates,PTP)、グルコキナーゼ(glucokinase,GK)などを含む。その中で、グルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1,GLP-1)類似物、GLP-1受容体作動剤およびジぺプチジルペプチダーゼ-4(dipeptidyl peptidase-4,DPP-4)阻害剤のようなグルカゴンの調整に基づく薬物は、効果的に血糖の安定性を維持し、β細胞の機能を改善し、糖尿病の発展を遅らせ、さらに糖尿病の病症過程を逆転することができると考えられている。
【0029】
いまだに糖尿病を完全に治癒できる効果的な薬物または手段はなく、現在の薬物による治療は主に、血糖を一定の範囲内にコントロールすることで合併症の発生を低くして遅らせることにある。糖尿病の発症メカニズムに対する理解がより深く、全面的になるにつれて、糖尿病の治療薬についての研究も、伝統的なメカニズムを有する薬物についての研究から新しいターゲットと新しい作用メカニズムを有する薬物についての研究へ移行している。例えば、GLP-1受容体作動剤、DPP-4阻害剤、及びSGLT-2阻害剤など、一部はすでに市販されており、GPR119受容体作動剤、11β-HSD1阻害剤、PTP1B阻害剤およびGK作動剤など、一部の薬物は臨床または臨床前研究段階にあり、その治療効果と安全性について臨床的に検証する必要がある。近年来、新しいターゲット抗糖尿病薬の登場はDM治療により多くの選択を提供しているが、糖尿病の発症メカニズムが複雑であるため、係るホルモン、酵素および受容体は多く、新薬の研究分野では、シングルターゲット薬の作用範囲が狭く、血糖降下作用が弱く、全身システムに作用して不良反応を引き起こすなどの問題があり、更なる研究が必要である。そのため、糖尿病の発症メカニズムの多くの方面に作用でき、より効果的な治療薬を探す必要がある。
【0030】
プラスミノーゲンは、糖尿病実験のマウスの膵臓組織の損傷を軽減し、炎症を抑制し、膵島β細胞のアポトーシスを減少させ、膵臓組織を修復し、膵島β細胞の分泌機能を回復し、血糖を降下することができ、糖尿病の発症メカニズムの多くの方面に全面的に対する新しい薬物となる見込みがあることは、本発明により発見された。
【発明の概要】
【0031】
本発明は下記項に係る。
【0032】
1.被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する方法。
【0033】
2.被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のインスリン分泌を促進する方法。
【0034】
3.前記プラスミノーゲンは、前記プラスミノーゲンはインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する、項2に記載の方法。
【0035】
4.被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、被験者の膵島β細胞のアポトーシスを減少させる方法。
【0036】
5.前記プラスミノーゲンは、前記プラスミノーゲンはインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する、項4に記載の方法。
【0037】
6.被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、被験者の膵島β細胞損傷の修復を促進する方法。
【0038】
7.前記プラスミノーゲンは、前記プラスミノーゲンはインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する、項6に記載の方法。
【0039】
8.前記プラスミノーゲンはさらに、被験者の多方向核転写因子NF-kBの発現を促進する、項2~7のいずれか1項に記載の方法。
【0040】
9.被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の膵島β細胞の機能修復を促進する方法であって、前記プラスミノーゲンは、膵島炎症の修復の促進と膵島β細胞のアポトーシスの減少によって糖尿病被験者の膵島β細胞の機能修復を促進する、方法。
【0041】
10.前記プラスミノーゲンは、細胞因子TNF-α、多方向核転写因子NF-kB、及びインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する、項9に記載の方法。
【0042】
11.被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の血糖を降下する方法。
【0043】
12.前記血糖は、血清ブドウ糖レベルと、血清フルクトサミンレベルと、血清糖化ヘモグロビンレベルとからなる群より選ばれる一つ以上のものである、項11に記載の方法。
【0044】
13.前記血糖は血清ブドウ糖レベルである、項12に記載の方法。
【0045】
14.前記糖尿病はT1DMまたはT2DMである、項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【0046】
15.被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の糖の耐量を高める方法。
【0047】
16.前記糖尿病はT2DMである、項15に記載の方法。
【0048】
17.被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の食後の血糖降下を促進する方法。
【0049】
18.前記プラスミノーゲンを被験者の食前30分間から1.5時間までの間に投与する、項17に記載の方法。
【0050】
19.前記プラスミノーゲンを被験者の食前30分間から1時間までの間に投与する、項18に記載の方法。
【0051】
20.被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のブドウ糖利用を促進する方法。
【0052】
21.被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のインスリン分泌を促進する方法。
【0053】
22.前記プラスミノーゲンはさらに糖尿病被験者のインスリンの発現を促進する、項21に記載の方法。
【0054】
23.前記糖尿病はT1DMまたはT2DMである、項21または22に記載の方法。
【0055】
24.前記プラスミノーゲンは糖尿病被験者の食後のインスリン分泌を促進する、項20~23のいずれか1項に記載の方法。
【0056】
25.前記プラスミノーゲンは糖尿病被験者の禁食状態下のインスリン分泌を促進する、項20~23のいずれか1項に記載の方法。
【0057】
26.前記プラスミノーゲンは、糖尿病被験者の応答血糖の上昇により刺激されるインスリン分泌を促進し、血糖を正常または正常に近いレベルに戻らせる、項20~25のいずれか1項に記載の方法。
【0058】
27.前記プラスミノーゲンは、前記インスリンの発現及び/または分泌を促進するとともに被験者のグルカゴンの発現及び/または分泌を低める、項21~26のいずれか1項に記載の方法。
【0059】
28.前記プラスミノーゲンは、前記インスリンの発現及び/または分泌を促進するとともに被験者のグルカゴンの発現及び/または分泌を低めることにより、被験者の血糖を正常または正常に近いレベルに戻らせる、項27に記載の方法。
【0060】
29.前記プラスミノーゲンは一種以上のその他の薬物または治療方法と併用することができる、項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【0061】
30.前記プラスミノーゲンは、抗糖尿病薬と、抗心脳血管疾患薬と、抗血栓薬と、抗高血圧薬と、抗血脂薬と、抗凝固薬と、抗感染薬とからなる群より選ばれる一つ以上の薬物と併用することができる、項29に記載の方法。
【0062】
31.前記プラスミノーゲンは配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然プラスミノーゲン活性を有するものである、項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【0063】
32.前記プラスミノーゲンは配列2、6、8、10または12において、1-100、1-90、1-80、1-70、1-60、1-50、1-45、1-40、1-35、1-30、1-25、1-20、1-15、1-10、1-5、1-4、1-3、1-2、1個のアミノ酸を添加、削除及び/または置換したものであり、且つ依然プラスミノーゲン活性を有するタンパク質である、項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【0064】
33.前記プラスミノーゲンはプラスミノーゲン活性フラグメントを含有し、且つ依然プラスミノーゲン活性を有するタンパク質である、項1~32のいずれか1項に記載の方法。
【0065】
34.前記プラスミノーゲンは、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、δ-プラスミノーゲンまたはそれらのプラスミノーゲン活性を保持した変異体である、項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【0066】
35.前記プラスミノーゲンは、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、またはその依然プラスミノーゲン活性を保持した変異体若しくはフラグメントである、項1~34のいずれか1項に記載の方法。
【0067】
36.前記プラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、またはその依然プラスミノーゲン活性を保持した変異体若しくはフラグメントである、項1~34のいずれか1項に記載の方法。
【0068】
37.前記プラスミノーゲンのアミノ酸配列は配列2、6、8、10または12に示される通りである、項1~36のいずれか1項に記載の方法。
【0069】
38.前記プラスミノーゲンは、ヒト由来の天然プラスミノーゲンである、項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【0070】
39.前記被験者はヒトである、項1~38のいずれか1項に記載の方法。
【0071】
40.前記被験者はプラスミノーゲンが不足、または欠乏している、項1~39のいずれか1項に記載の方法。
【0072】
41.前記不足または欠乏は、先天的、継発的及び/または局所的である、項1~40のいずれか1項に記載の方法。
【0073】
42.項1~41のいずれか1項に記載の方法に使用されるプラスミノーゲン。
【0074】
43.薬学的に許容される担体及び項1~41のいずれか1項に記載の方法に使用されるプラスミノーゲンを含む薬物組成物。
【0075】
44.(i)項1~41のいずれか1項に記載の方法に使用されるプラスミノーゲンと、(ii)前記プラスミノーゲンを前記被験者に送達するための手段(means)とを含む、予防性または治療性キット。
【0076】
45.前記手段はシリンジまたはバイアルである、項44に記載のキット。
【0077】
46.項1~41のいずれか1項に記載の方法を実施するように前記プラスミノーゲンを前記被験者に投与することを指示するラベルまたはプロトコルをさらに含む、項44または45に記載のキット。
【0078】
47.ラベルを含む容器と、
(i)項1~41のいずれか1項に記載の方法に使用されるプラスミノーゲン、またはプラスミノーゲンを含む薬物組成物とを含む製品であって、前記ラベルは、項1~41のいずれか1項に記載の方法を実施するように前記プラスミノーゲンまたは組成物を前記被験者に投与することを指示する、製品。
【0079】
48.その他の薬物を含む、もう一つ以上の部材または容器をさらに含む、項44~46のいずれか1項に記載のキット、または項47に記載の製品。
【0080】
49.前記その他の薬物は、抗糖尿病薬と、抗心脳血管疾患薬と、抗血栓薬と、抗高血圧薬と、抗血脂薬と、抗凝固薬と、抗感染薬とからなる群より選ばれる、項48に記載のキットまたは製品。
【0081】
一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のフィブリンプラスミノーゲンまたはプラスミンを投与することを含む、糖尿病を予防及び治療する方法に係る。
【0082】
もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の血糖を降下する方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の血糖降下におけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の血糖を降下する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明は、糖尿病被験者の血糖降下に用いられるプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記血糖は、血清ブドウ糖レベルと、血清フルクトサミンレベルと、血清糖化ヘモグロビンレベルとからなる群より選ばれる一つ以上のものである。もう一部の実施形態において、前記血糖は血清ブドウ糖レベルである。上記実施形態において、前記糖尿病はT1DMまたはT2DMである。
【0083】
もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の糖の耐量を高める方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の糖の耐量の向上におけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の糖の耐量を高める薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、糖尿病被験者の糖の耐量の向上に用いられるプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記糖尿病はT2DMである。
【0084】
一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の食後の血糖降下を促進する方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の食後の血糖降下の促進におけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の食後の血糖を降下する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、糖尿病被験者の食後の血糖低下の促進に用いられるプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンを被験者の食前30分間から1.5時間までの間に投与する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンを被験者の食前30分間から1時間までの間に投与する。
【0085】
一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のブドウ糖利用を促進する方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者のブドウ糖利用の促進におけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者のブドウ糖利用を促進する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、糖尿病被験者のブドウ糖利用を促進するために用いられるプラスミノーゲンに係る。もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のインスリン分泌を促進する方法に係る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはさらに糖尿病被験者のインスリンの発現を促進する。上記実施形態において、前記糖尿病はT1DMまたはT2DMである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは糖尿病被験者の食後のインスリン分泌を促進する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは糖尿病被験者の禁食状態下のインスリン分泌を促進する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、糖尿病被験者の応答血糖の上昇により刺激されるインスリン分泌を促進し、血糖を正常または正常に近いレベルに戻らせる。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、前記インスリンの発現及び/または分泌を促進するとともに被験者のグルカゴンの発現及び/または分泌を低め、具体的には、前記プラスミノーゲンは、前記インスリンの発現及び/または分泌を促進するとともに被験者のグルカゴンの発現及び/または分泌を低めることにより、被験者の血糖を正常または正常に近いレベルに戻らせる。
【0086】
一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者のグルカゴン分泌を低める方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者のグルカゴン分泌を低めることにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者のグルカゴン分泌を低める薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、糖尿病被験者のグルカゴン分泌を低めるために用いられるプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはさらに糖尿病被験者のグルカゴンの発現を低める。上記実施形態において、前記糖尿病はT1DMまたはT2DMである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、糖尿病被験者の食後のグルカゴン分泌を低める。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、糖尿病被験者の禁食状態下のグルカゴン分泌を低める。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、糖尿病被験者の血糖が上昇した状態下にグルカゴン分泌を低め、血糖を正常または正常に近いレベルに戻らせる。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、糖尿病被験者の血糖が上昇した状態下にグルカゴン分泌を低め、血糖を正常または正常に近いレベルに戻らせる。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、被験者のグルカゴンの発現及び/または分泌を低めるとともに、前記インスリンの発現及び/または分泌を促進し、具体的には、前記プラスミノーゲンは、被験者のグルカゴンの発現及び/または分泌を低めるとともに前記インスリンの発現及び/または分泌を促進することにより、被験者の血糖を正常または正常に近いレベルに戻らせる。上記実施形態において、前記プラスミノーゲンはインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する。
【0087】
一つの局面において、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の膵島細胞損傷の修復を促進する方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の膵島細胞損傷の修復を促進することにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の膵島細胞損傷の修復を促進する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、糖尿病被験者の膵島細胞損傷の修復を促進するために用いられるプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは細胞因子TNF-αの発現を促進する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは被験者の多方向核転写因子NF-kBの発現を促進する。一部の実施形態において、前記膵島細胞の損傷は、膵島β細胞の合成及びインスリン分泌の機能損傷、膵島組織構造の損傷、膵島コラーゲンの沈着、膵島の繊維化、膵島細胞のアポトーシス、膵島が分泌するグルカゴンとインスリンのバランス障害、膵島が分泌するグルカゴンとインスリンのレベルが被験者の血糖レベルに適応できないことからなる群より選ばれる一つ以上である。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、前記糖尿病被験者のグルカゴン分泌を減少させ、インスリン分泌を増加させ、具体的には、前記膵島グルカゴンとインスリン分泌の正常なバランスが修復される。
【0088】
もう一つの局面において、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、被験者の膵島を保護する方法に係る。本発明はさらに、被験者の膵島の保護におけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、被験者の膵島を保護する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、被験者の膵島を保護するために用いられるプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは膵島コラーゲンの沈着を減少させる。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは膵島の繊維化を軽減する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは膵島細胞のアポトーシスを抑制する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは膵島インスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは膵島炎症の修復を促進する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは細胞因子TNF-αの発現を促進する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは被験者の多方向核転写因子NF-kBの発現を促進する。上記実施形態において、前記被験者は糖尿病患者であり、具体的には、前記糖尿病患者はT1DMまたはT2DMである。一部の実施形態において、前記T1DM被験者はPLG活性が正常な被験者またはPLG活性が損傷された被験者である。
【0089】
もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の膵島の炎症の修復を促進する方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の膵島の炎症の修復を促進することにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の膵島の炎症の修復を促進する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、糖尿病被験者の膵島の炎症の修復を促進するプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは細胞因子TNF-αの発現を促進する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは被験者の多方向核転写因子NF-kBの発現を促進する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは膵島コラーゲンの沈着を減少させる。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは膵島の繊維化を軽減する。もう一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは膵島細胞のアポトーシスを抑制する。上記実施形態において、前記糖尿病患者はT1DMまたはT2DMであり、具体的には、前記T1DM被験者はPLG活性が正常な被験者またはPLG活性が損傷された被験者である。
【0090】
一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の細胞因子TNF-αの発現を促進する方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の細胞因子TNF-αの発現を促進することにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の細胞因子TNF-αの発現を促進する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、糖尿病被験者の細胞因子TNF-αの発現を促進するために用いられるプラスミノーゲンに係る。
【0091】
もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の多方向核転写因子NF-kBの発現を促進する方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の多方向核転写因子NF-kBの発現を促進することにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の多方向核転写因子NF-kBの発現を促進する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。
【0092】
もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、膵島インスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する方法に係る。本発明はさらに、膵島インスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進することにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、膵島インスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、膵島インスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進するために用いられるプラスミノーゲンに係る。
【0093】
もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与してインスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進することを含む、糖尿病被験者のインスリン分泌を促進する方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者のインスリン分泌を促進することにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者のインスリン分泌を促進する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、糖尿病被験者のインスリン分泌を促進するために用いられるプラスミノーゲンに係る。
【0094】
もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、糖尿病被験者の膵島β細胞数の増加を促進する方法に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の膵島β細胞数の増加を促進することにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、糖尿病被験者の膵島β細胞数の増加を促進する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、糖尿病被験者の膵島β細胞数の増加を促進するために用いられるプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、インスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する。
【0095】
もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、膵島β細胞のアポトーシスを減少させる方法に係る。本発明はさらに、膵島β細胞のアポトーシスを減少させることにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、膵島β細胞のアポトーシスを減少させる薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、膵島β細胞のアポトーシスを減少させるために用いられるプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、インスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する。
【0096】
もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、膵島β細胞の損傷の修復を促進する方法に係る。本発明はさらに、膵島β細胞の損傷の修復を促進することにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、膵島β細胞の損傷の修復を促進する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、膵島β細胞の損傷の修復を促進するために用いられるプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、インスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する。
【0097】
もう一つの局面において、本発明は、被験者に有効量のプラスミノーゲンを投与することを含む、膵島β細胞の機能の回復を促進する方法に係る。本発明はさらに、膵島β細胞の機能の回復を促進することにおけるプラスミノーゲンの用途に係る。本発明はさらに、膵島β細胞の機能の回復を促進する薬物の製造におけるプラスミノーゲンの用途に係る。また、本発明はさらに、膵島β細胞の機能の回復を促進するために用いられるプラスミノーゲンに係る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、インスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進する。
【0098】
上記実施形態において、前記プラスミノーゲンは一種以上のその他の薬物または治療方法と併用することができる。具体的には、前記プラスミノーゲンは、抗糖尿病薬と、抗心脳血管疾患薬と、抗血栓薬と、抗高血圧薬と、抗血脂薬と、抗凝固薬と、抗感染薬とからなる群より選ばれる一つ以上の薬物と併用することができる。
【0099】
上記実施形態において、前記プラスミノーゲンは配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然プラスミノーゲン活性を有するものである。
【0100】
上記実施形態において、前記プラスミノーゲンのアミノ酸は、例えば配列2、6、8、10または12に示される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは配列2、6、8、10または12において、1-100、1-90、1-80、1-70、1-60、1-50、1-45、1-40、1-35、1-30、1-25、1-20、1-15、1-10、1-5、1-4、1-3、1-2、1個のアミノ酸を添加、削除及び/または置換したものであり、且つ依然プラスミノーゲン活性を有するタンパク質である。
【0101】
上記実施形態において、前記プラスミノーゲンはプラスミノーゲン活性フラグメントを含有し、且つ依然プラスミノーゲン活性を有するタンパク質である。具体的には、前記プラスミノーゲンは、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、δ-プラスミノーゲンまたはそれらのプラスミノーゲン活性を保持した変異体である。
【0102】
上記実施形態において、プラスミノーゲンは、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、またはその依然プラスミノーゲン活性を保持した変異体若しくはフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、またはその依然プラスミノーゲン活性を保持した変異体若しくはフラグメントであり、例えば、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するフィブリンプラスミノーゲンのオルソログであり、例えばゴリラ、アカゲザル、マウス、ウシ、ウマ、イヌに由来するフィブリンプラスミノーゲンのオルソログである。もっとも好ましくは、本発明のフィブリンプラスミノーゲンのアミノ酸配列は配列2、6、8、10または12に示される通りである。
【0103】
上記実施形態において、前記被験者はヒトである。一部の実施形態において、前記被験者はプラスミノーゲンが不足、または欠乏している。具体的には、前記不足または欠乏は、先天的、継発的及び/または局所的である。
【0104】
一つの実施形態において、前記フィブリンプラスミノーゲンは好ましくは、表面、静脈内、筋肉内、皮下、吸入、脊柱管内、局所注射、関節内注射または直腸投与によって全身または局所にて投与される。一つの実施形態において、前記局所投薬は、例えばドレッシング材やガイドチューブなどによって骨希薄化した領域に直接に行われる。
【0105】
一つの実施形態において、前記プラスミノゲンは適切なポリペプチド担体または安定化剤と組み合わせて投与される。一つの実施形態において、前記プラスミノゲンは毎日0.0001-2000mg/kg、0.001-800mg/kg、0.01-600mg/kg、0.1-400mg/kg、1-200mg/kg、1-100mg/kg、10-100mg/kg(体重一キロあたりで計算)または0.0001-2000mg/cm2、0.001-800mg/cm2、0.01-600mg/cm2、0.1-400mg/cm2、1-200mg/cm2、1-100mg/cm2、10-100mg/cm2(体表面積平方センチメートルあたりで計算)の用量を投与し、好ましくは少なくとも一回繰り返し、好ましくは毎日投与する。局所投与の場合、前記用量はさらに状況に応じて調整することができる。一つの局面において、本発明は、薬学的に許容される担体及び本発明に記載の方法に使用されるプラスミノーゲンを含む薬物組成物に係る。
【0106】
もう一つの局面において、本発明は、(i)本発明に記載の方法に使用されるプラスミノーゲンと、(ii)前記プラスミノーゲンを前記被験者に送達するための手段(means)とを含む、予防性または治療性キットに係る。具体的には、前記手段はシリンジまたはバイアルである。一部の実施形態において、前記キットは、本発明に記載の方法を実施するように前記プラスミノーゲンを前記被験者に投与することを指示するラベルまたはプロトコルをさらに含む。
【0107】
もう一つの局面において、本発明は、ラベルを含む容器と、(i)本発明に記載の方法に使用されるプラスミノーゲン、またはプラスミノーゲンを含む薬物組成物とを含む製品であって、前記ラベルは、本発明に記載の方法を実施するように前記プラスミノーゲンまたは組成物を前記被験者に投与することを指示する、製品に係る。
【0108】
上記実施形態において、前記キットまたは製品は、その他の薬物を含む、もう一つ以上の部材または容器をさらに含む。一部の実施形態において、前記その他の薬物は、抗糖尿病薬と、抗心脳血管疾患薬と、抗血栓薬と、抗高血圧薬と、抗血脂薬と、抗凝固薬と、抗感染薬とからなる群より選ばれる。
【0109】
[発明の詳細な説明]
「糖尿病」は遺伝的要素、免疫機能の乱れ、微生物感染及びその毒素、フリーラジカル毒素、精神要因などの各種病気誘発因子が生体に作用することによる、膵島機能不全、インスリン抵抗などによって引き起こされる糖、タンパク質、脂肪、水及び電解質等の一連の代謝に乱れが生じる症候群であり、臨床的には高血糖を主な特徴とする。
【0110】
「糖尿病合併症」は糖尿病プロセスにおける血糖の制御不良によって引き起こされる身体のその他の臓器または組織のダメージまたは機能障害であり、肝臓、腎臓、心臓、網膜、神経系のダメージまたは機能障害等を含む。世界保健機関(WHO)の統計によれば、糖尿病合併症は100種類以上あり、現在における合併症が最も多い疾患である。
【0111】
「インスリン抵抗」とは、様々な原因でインスリンがブドウ糖の摂取と利用を促進する効率が低下してしまい、血糖の安定性を維持するように生体が代償的に過剰のインスリンを分泌して高インスリン血症が生じることをいう。
【0112】
「プラスミン」は血液中に存在する非常に重要な酵素であり、フィブリン多量体を分解することができる。
【0113】
「プラスミノーゲン(plasminogen,plg)」はプラスミンの酵素前駆体の形であり、swiss prot中の配列に基づいて、シグナルペプチドの天然ヒト由来プラスミノーゲンのアミノ酸配列(配列4)は計算によれば810個のアミノ酸からなり、分子量は約90kDであり、主に肝臓において合成され且つ血液中で循環できる糖タンパク質であり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列3に示される通りである。フルサイズのプラスミノーゲンは七つのドメインを含む:C末端に位置するセリンプロテアーゼドメイン、N末端に位置するPan Apple(PAp)ドメイン及び5つのKringleドメイン(Kringle1-5)を含む。swiss prot中の配列を参照すれば、そのシグナルペプチドは残基Met1-Gly19を含み、Papは残基Glu20-Val98を含み、Kringle1は残基Cys103-Cys181を含み、Kringle2は残基Glu184-Cys262を含み、Kringle3は残基Cys275-Cys352を含み、Kringle4は残基Cys377-Cys454を含み、Kringle5は残基Cys481-Cys560を含む。NCBIデータによれば、セリンプロテアーゼドメインは残基Val581-Arg804を含む。
【0114】
Glu-プラスミノーゲンは天然のフルサイズのプラスミノーゲンであり、791個のアミノ酸からなる(19個のアミノ酸からなるシグナルペプチドを含まない)。該配列をコードするcDNA配列は配列1に示される通りであり、そのアミノ酸配列は配列2に示される通りである。体内において、さらにGlu-プラスミノーゲンの第76-77位のアミノ酸の位置で加水分解することにより形成されたLys-プラスミノーゲンが存在し、例えば配列6に示されるものであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列5が示す通りである。δ-プラスミノーゲン(δ-plasminogen)はフルサイズのプラスミノーゲンにKringle2-Kringle5構造の欠損が生じているフラグメントであり、Kringle1及びセリンプロテアーゼドメインしか含有せず[39、40]、δ-プラスミノーゲンのアミノ酸配列(配列8)を報告している文献があり[40]、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は例えば配列7である。ミニプラスミノーゲン(Mini-plasminogen)はKringle5及びセリンプロテアーゼドメインからなり、残基Val443-Asn791(シグナルペプチドGlu-プラスミノーゲン配列を含まないGlu残基を開始アミノ酸とする)について文献が報告しており[41]、そのアミノ酸配列は配列10に示される通りであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列9が示す通りである。しかしマイクロプラスミノーゲン(Micro-plasminogen)はセリンプロテアーゼドメインのみ含有し、そのアミノ酸配列は残基Ala543-Asn791(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基は開始アミノ酸である)と文献が報告し[42]、特許文献CN102154253Aはそれが残基Lys531-Asn791を含むと開示し(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基を開始アミノ酸とする)、本特許の配列は特許文献CN102154253Aを参照でき、そのアミノ酸配列は配列12に示される通りであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列11に示される通りである。
【0115】
本発明の「プラスミン」と「フィブリンプラスミン」、「繊維タンパクプラスミン」は互いに置き換えて使用でき、その意味は同じである。「プラスミノーゲン」と「フィブリンプラスミノーゲン」、「繊維タンパクプラスミノーゲン」は互いに置き換えて使用でき、その意味は同じである。
【0116】
本願において、プラスミノーゲンの「欠乏」とは、被験者体内のプラスミノーゲンの含有量または活性が正常な人より低く、被験者の正常な生理学的機能に影響を及ぼすのに十分に低いことをいう。プラスミノーゲンの「欠乏」の意味は、被験者体内のプラスミノーゲンの含有量または活性が正常な人より明らかに低く、活性または発現が極微量であり、外部供給によってのみ正常な生理学的機能を維持できることである。
【0117】
当業者は以下のように理解できる。本発明のプラスミノーゲンのすべての技術構成はプラスミンに適用でき、そのため、本発明に記載の技術構成はプラスミノーゲン及びプラスミンをカバーするものである。
【0118】
本発明の実施形態において、「老衰」と「早老」は互いに置き換えて使用でき、その意味は同じである。
【0119】
循環プロセスにおいて、プラスミノーゲンは閉鎖した非活性コンフォメーションであるが、血栓または細胞表面に結合した際、プラスミノーゲン(PLG)活性化剤(plasminogen activator,PA)の介在下において、開放性のコンフォメーションを有する活性プラスミン(PLM)となる。活性を有するプラスミン(PLM)はさらにフィブリン凝塊をフィブリン分解生成物及びD-二量体に加水分解させ、これにより血栓を溶解させる。そのうちプラスミノーゲンのPApドメインはプラスミノーゲンを非活性閉鎖コンフォメーションにする重要なエピトープであり、しかしKRドメインは受容体及び基質上のリジン残基と結合できるものである。プラスミノーゲン活性化剤としての酵素は、既に複数種類知られ、以下を含む:組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA)、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤(uPA)、カリクレイン及び凝結因子XII(ハーゲマン因子)などである。
【0120】
「プラスミノーゲン活性フラグメント」とはプラスミノーゲンタンパク質において、基質中のターゲット配列と結合してタンパク質加水分解機能を発揮できる活性フラグメントである。本発明はプラスミノーゲンの技術構成に係り、プラスミノーゲン活性フラグメントでプラスミノーゲンの代替とする技術構成を含む。本発明に記載のプラスミノーゲン活性フラグメントはプラスミノーゲンのセリンプロテアーゼドメインを含むタンパク質であり、好ましくは、本発明に記載のプラスミノーゲン活性フラグメントは配列14、配列14と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性のアミノ酸配列を含有するタンパク質を含むものである。そのため、本発明に記載のプラスミノーゲンは該プラスミノーゲン活性フラグメントを含み、且つ依然として該プラスミノーゲン活性を有するタンパク質を含む。
【0121】
現在、血液中のフィブリンプラスミノーゲン及びその活性測定方法は以下を含む:組織フィブリンプラスミノーゲン活性化剤の活性に対する測定(t-PAA)、血漿組織フィブリンプラスミノーゲン活性化剤抗原に対する測定(t-PAAg)、血漿組織プラスミノーゲン活性に対する測定(plgA)、血漿組織プラスミノーゲン抗原に対する測定(plgAg)、血漿組織フィブリンプラスミノーゲン活性化剤の阻害物活性に対する測定、血漿組織フィブリンプラスミノーゲン活性化剤の阻害物抗原に対する測定、血漿フィブリンプラスミン-抗プラスミン複合物に対する測定(PAP)。最もよく見られる測定方法は発色基質法である:測定対象の血漿中にストレプトキナーゼ(SK)と発光基質を添加し、測定対象の血漿中のPLGはSKの作用下においてプラスミンとなり、後者は発光基質に作用し、それから分光光度計で測定し、吸光度の増加はフィブリンプラスミノーゲンの活性と正比例関係となる。この他にも免疫化学法、ゲル電気泳動法、免疫比濁法、放射免疫拡散法などを用いて血液中のフィブリンプラスミノーゲン活性に対して測定を行うことができる。
【0122】
「オルソログ(ortholog)」とは異なる種どうしのホモログであり、タンパク質の相同物もDNAの相同物も含む。それは具体的に異なる種どうしの同じ祖先の遺伝子から進化して得られるタンパク質または遺伝子を言う。本発明のプラスミノーゲンはヒト由来の天然プラスミノーゲンを含み、さらには異なる種に由来する、プラスミノーゲン活性を有するプラスミノーゲンオルソログを含む。
【0123】
「保存的置換バリアント」とはそのうちの一つの指定されたアミノ酸残基が改変されたがタンパク質または酵素の全体のコンフォメーション及び機能を変えないものであり、これは類似の特性(例えば酸性、塩基性、疎水性など)のアミノ酸でペアレントタンパク質中のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換するものを含むがこれらに限られない。類似の性質を有するアミノ酸は知られている通りである。例えば、アルギニン、ヒスチジン及びリジンは親水性の塩基性アミノ酸であり且つ互いに置き換えることができる。同じように、イソロイシンは疎水アミノ酸であり、ロイシン、メチオニンまたはバリンによって置換されることができる。そのため、機能の類似する二つのタンパク質またはアミノ酸配列の類似性は異なる可能性もある。例えば、MEGALIGNアルゴリズムに基づいて70%~99%の類似性(同一性)を有する。「保存的置換バリアント」はさらにBLASTまたはFASTAアルゴリズムに基づいて60%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチドまたは酵素を含み、75%以上に達すればさらによく、最も好ましくは85%以上に達し、さらには90%以上に達するのが最も好ましく、さらに天然またはペアレントタンパク質または酵素と比較して同じまたは基本的に類似する性質または機能を有する。
【0124】
「分離された」プラスミノーゲンとは天然環境から分離及び/または回収されたプラスミノーゲンタンパク質である。いくつかの実施形態において、前記プラスミノーゲンは(1)90%を超える、95%を超える、または98%を超える純度(重量で計算した場合)になるまで精製し、例えばLowry法によって決まるもので、例えば99%(重量で計算した場合)を超えるまで精製する、(2)少なくともスピニングカップ配列分析装置によりN末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基が得られる程度になる精製する、または(3)同質性になるまで精製する。該同質性はクマシーブリリアントブルーまたは銀染色により還元性または非還元性条件下のドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミノゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって決まるものである。分離されたプラスミノーゲンはバイオエンジニアリング技術により組み換え細胞から製造することができ、さらに少なくとも一つの精製ステップで分離されたプラスミノーゲンを含む。
【0125】
用語の「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は本明細書において互いに置き換えて使用でき、いかなる長さのアミノ酸の重合体を指し、遺伝的にコードされた及び非遺伝的にコードされたアミノ酸、化学的または生化学的に修飾されまたは派生したアミノ酸、及び修飾されたペプチド主鎖を有するポリペプチドを含む。該用語は融合タンパク質を含み、異種性アミノ酸配列を有する融合タンパク質を含むがこれに限られず、異種性と同種性由来のリーダー配列(N端メチオニン残基を有するか有しない)を含む融合物;等々である。
【0126】
参照ペプチド配列の「アミノ酸配列同一性パーセンテージ(%)」の定義は、必要な時にギャップを導入することで最大のパーセンテージ配列の同一性を実現した後、如何なる保存的な置換も配列同一性の一部として見なさない場合、候補配列中における参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同じアミノ酸残基のパーセンテージである。パーセンテージのアミノ酸配列の同一性を測定することを目的とした比較は本分野の技術範囲における複数種類の方式によって実現でき、例えば公衆が入手できるコンピュータソフトウエア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウエアによって実現できる。当業者は配列をアライメントするための適切なパラメータを決めることができ、該パラメータが比較対象の配列のフルサイズに対して最大比較の要求を実現するための如何なるアルゴリズムも含む。しかし、本発明の目的のために、アミノ酸配列の同一性パーセンテージは配列比較コンピュータソフトウエアALIGN-2により得られるものである。
【0127】
ALIGN-2を用いることによりアミノ酸配列を比較する場合、所定のアミノ酸配列Aの所定のアミノ酸配列Bに対するアミノ酸配列同一性%(または所定のアミノ酸配列Bに対して、及び、またはについてのあるアミノ酸配列と同一性を有する又は含む所定のアミノ酸配列Aともいう)は以下のように計算される:
分数X/Y×100
【0128】
そのうちXは配列アライメントプログラムALIGN-2において該プログラムのA及びBのアライメントにおいて同一でマッチングすると評価したアミノ酸残基の数であり、且つそのうちYはBにおけるアミノ酸残基の総数である。以下のように理解するべきである:アミノ酸配列Aの長さとアミノ酸配列Bの長さが等しくない場合、AのBに対するアミノ酸配列の同一性%は、BのAに対するアミノ酸配列同一性%とは異なる。特に断りのない限り、本文中において使用するすべてのアミノ酸配列同一性値%は前記の段落に記載の通りであり、ALIGN-2コンピュータプログラムによって得られるものである。
【0129】
本文において使用されているように、用語の「治療」及び「処理」は期待される薬理及び/または生理的効果が得られることを言う。前記効果は疾患またはその症状を完全または一部予防すること、及び/または疾患及び/またはその症状を一部または完全に治癒するものとすることができる。さらに以下を含む:(a)疾患が被験者の体内で発生することを予防し、前記被験者は疾患の要因を持っているが、該疾患を有すると診断されていない状況であること;(b)疾患を抑制し、その形成を阻害すること;及び(c)疾患及び/またはその症状を減軽し、即ち疾患及び/またはその症状を減退させること。
【0130】
用語の「個体」、「被験者」及び「患者」は本明細書中において互いに置き換えて使用でき、哺乳動物を指し、ネズミ(ラット、マウス)、ヒト以外の霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)などを含むがこれらに限られない。
【0131】
「治療上有効量」または「有効量」とは、哺乳動物またはその他の被験者に投与して疾患の治療に用いられる際に疾患の前記予防及び/または治療を実現できるプラスミノーゲンの量である。「治療上有効量」は使用するプラスミノーゲン、治療しようとする被験者の疾患及び/または症状の重症度及び年齢、体重などに従って変化するものである。
【0132】
2.本発明のプラスミノーゲンの調製
プラスミノーゲンは治療の用途に用いられるために、自然界から分離及び精製されるものでもよく、標準的な化学ペプチド合成技術によって合成することでもよい。化学的手法によりポリペプチドを合成する際、液相または固相で合成を行うことができる。固相ポリペプチド合成(SPPS)(配列のC末端アミノ酸を不溶性支持体に附着させ、順番に配列中の残りのアミノ酸を添加する)はプラスミノーゲンの化学的合成に適したものである。各種形式のSPPS、例えばFmoc及びBocは、プラスミノーゲンの合成に用いることができる。固相合成に用いられる技術は以下に記載されている:Barany及びSolid-Phase Peptide Synthesis;3-284ページ、The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology.第二巻:Special Methods in Peptide Synthesis,Part A.,Merrifield,tら J.Am.Chem.Soc.,85:2149-2156(1963);Stewartら,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.Pierce Chem.Co.,Rockford,Ill.(1984);及びGanesan A.2006Mini Rev.Med Chem.6:3-10及びCamarero JAら 2005Protein Pept Lett.12:723-8。簡単に言えば、その上にペプチド鎖が構築されている機能性ユニットにより不溶性の多孔ビーズを処理する。カップリング/脱保護の繰り返し循環後に、附着した固相の遊離N末端アミンと単一のN保護を受けているアミノ酸ユニットをカップリングさせる。それから、該ユニットを脱保護し、他のアミノ酸と接続する新しいN末端アミンを露出させる。ペプチドを固相上に固定したままにし、それからそれを切除する。
【0133】
標準的な組み換え方法により本発明のプラスミノーゲンを生産する。例えば、プラスミノーゲンをコードする核酸を発現ベクター中に挿入し、それと発現ベクター中の制御配列を操作可能に接続させる。発現制御配列はプロモーター(例えば天然に関連されているプロモーター、または異種由来のプロモーター)、シグナル配列、エンハンサーエレメント及び転写終了配列を含むが、これらに限られない。発現の制御はベクター中の真核プロモーターシステムとすることができ、前記ベクターは真核宿主細胞(例えばCOSまたはCHO細胞)を形質転換またはトランスフェクションさせる。一旦ベクターを適切な宿主に導入すれば、ヌクレオチド配列の高レベル発現及びプラスミノーゲンの収集及び精製に適した条件下において宿主を維持する。
【0134】
適切な発現ベクターは通常宿主体内において附加体または宿主染色体DNAの整合部分として複製される。通常、発現ベクターは選択マーカー(例えばアンピシリン耐性、ハイグロマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、カナマイシン耐性またはネオマイシン耐性)を含み、インビトロで所望のDNA配列によって形質転換されたそれらの細胞に対して測定を行うことに有用である。
【0135】
大腸菌(Escherichia coli)は目的抗体をコードするポリヌクレオチドをクローンする原核宿主細胞の例である。その他の使用に適した微生物宿主は桿菌を含み、例えばバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)及びその他の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えばサルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、及び各種シュードモナス属(Pseudomonas)種である。これらの原核宿主において、発現ベクターを生成でき、通常は宿主細胞と相容する発現制御配列(例えば複製開始点)を含むものである。また、多くの公知のプロモーターが存在し、例えば乳糖プロモーターシステム、トリプトファン(trp)プロモーターシステム、β-ラクタマーゼプロモーターシステム、またはファージλ由来のプロモーターシステムである。プロモーターは一般的に発現を制御し、必要に応じて遺伝子配列を制御する場合に、転写及び翻訳を起動するために、、さらにリボソームの結合位置配列を有してもよい。
【0136】
その他の微生物、例えば酵母も発現に用いることができる。酵母(例えばサッカロミセス(S.cerevisiae))及びピキア(Pichia)が適した酵母宿主細胞の例であり、そのうちの適切な担体は必要に応じて発現制御配列(例えばプロモーター)、複製開始点、終止配列など含む。典型的なプロモーターは3-ホスホグリセリン酸キナーゼ及びその他の糖分解酵素を含む。誘導型酵母プロモーターはアルコール脱水素酵素、イソチトクロムC、及び麦芽糖とガラクトースの利用のための酵素のプロモーターを含む。
【0137】
微生物以外に、哺乳動物細胞(例えば体外細胞培養物中において培養された哺乳動物細胞)も本発明のプラスミノーゲンの発現に用いることができる(例えば目的抗-Tau抗体をコードするポリヌクレオチド)。例えばWinnacker,From Genes to Clones,VCH Publishers,N.Y.,N.Y.(1987)参照。適した哺乳動物宿主細胞はCHO細胞系、各種Cos細胞系、HeLa細胞、骨髄腫細胞系、及び形質転換されたB細胞またはハイブリドーマを含む。これらの細胞に用いられる発現ベクターは発現制御配列、例えば複製開始点、プロモーター、及びエンハンサー(Queenら,Immunol.Rev.89:49(1986))、及び必要とされる加工情報位置、例えばリボソームの結合サイト、RNAの切断サイト、ポリアデノシン酸化サイト、及び転写ターミネーター配列を含むことができる。適切な発現制御配列の例はウサギ免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシ乳頭腫ウィルス、サイトメガロウイルスなどの派生のプロモーターである。Coら、J.Immunol.148:1149(1992)を参照すること。
【0138】
一旦合成(化学または組み換え的に)されれば、本分野の標準的な手順、例えば硫酸アンモニウム沈殿、アフィニテイカラム、カラムクロマトグラフィー、高速液相クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル電気泳動などにより本発明に記載のプラスミノーゲンを精製することができる。該プラスミノーゲンは基本的に純粋なものであり、例えば少なくとも約80%から85%の純度で、少なくとも約85%~90%の純度で、少なくとも約90%~95%の純度で、または98%~99%の純度またはさらに純度が高いものであり、例えば汚染物を含まず、前記汚染物は例えば細胞砕片、目的抗体以外の大分子などである。
【0139】
3.薬物配合剤
所望の純度のプラスミノーゲンと必要に応じて薬用担体、賦形剤、または安定化剤(Remington′s Pharmaceutical Sciences,第16版,Osol,A.ed.(1980))を混合して凍結乾燥製剤または水溶液を形成して治療用の配合剤を得る。許容可能な担体、賦形剤、安定化剤は所要の用量及び濃度下において被験者に対して毒性がなく、さらに例えばリン酸塩、クエン酸塩及びその他の有機酸などの緩衝剤を含む。抗酸化剤はアスコルビン酸和メチオニンを含む;防腐剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメチレンジアミン;塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride)、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブタノールまたはベンジルアルコール;アルキルパラヒドロキシ安息香酸エステル、例えばメチルまたはプロピルのパラヒドロキシ安息香酸エステル;ピロカテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;m-クレゾール);低分子量ポリペプチド(少なくとも約10個の残基を有するもの);タンパク質例えば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性重合体、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン酸、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンである;単糖、二糖及びその他の炭水化物はグルコース、マンノース、またはデキストリンを含む;キレート剤は例えばEDTAである;糖類は例えばショ糖、マンニトール、フコースまたはソルビトールである;塩形成イオン、例えばナトリウム;金属複合体(例えば亜鉛-タンパク複合体);及び/または非イオン界面活性剤、例えばTWEENTM、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG)である。好ましくは凍結乾燥された抗-VEGF抗体配合剤であり、WO 97/04801に記載されているとおりであり、本明細書において参考とされるものである。
【0140】
本発明の配合剤は治療を必要とする具体的な症状の必要とする一種類以上の活性化合物を含有してもよく、好ましくは活性が相補的で互いに副作用を有しないものである。例えば、血圧降下薬、抗不整脈薬、糖尿病治療薬等である。
【0141】
本発明のプラスミノーゲンは例えば凝集技術または界面重合によって作られるマイクロカプセル中に内包ことができ、例えば、膠質薬物輸送系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン剤、ナノ粒子及びナノカプセル)中に入れまたは粗エマルジョン状液中のヒドロキシメチルセルロースまたはゲルーマイクロカプセル及びポリ―(メタアクリル酸メチル)マイクロカプセル中に入れることができる。これらの技術はRemington′s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0142】
体内に投与することに用いられる本発明のプラスミノーゲンは必ず無菌である必要がある。これは凍結乾燥及び再度配合する前または後に除菌濾過膜で濾過することで容易に実現できる。
【0143】
本発明のプラスミノーゲンは緩衝製剤を調製できる。緩衝製剤の適切な実例は一定の形状を有し且つ糖タンパクを含む固体の疎水性重合体の半透過マトリックスを含み、例えば膜またはマイクロカプセルである。緩衝基質の実例はポリエステル、水性ゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタアクリル酸エステル)(Langerら,J.Biomed.Mater.Res.,15:167-277(1981);Langer,Chem.Tech.,12:98-105(1982))またはポリ(ビニールアルコール)、ポリラクチド(米国特許3773919,EP 58,481)、L-グルタミン酸とエチル-L-グルタミン酸の共重合体(Sidman,ら,Biopolymers 22:547(1983)),分解できないエチレン-ビニルアセテート(ethylene-vinyl acetate)(Langer,ら,出所は前記と同じ)、または分解可能な乳酸-ヒドロキシ酢酸共重合体、例えばLupron DepotTM(乳酸-ヒドロキシ酢酸共重合体及びリュープロレリン(leuprolide)酢酸エステルからなる注射可能なミクロスフェア体)、及びポリD-(-)-3-ヒドロキシ酪酸を含む。重合体、例えばエチレン-酢酸エチル及び乳酸-ヒドロキシ酢酸は、持続的に分子を100日間以上放出することができ、しかしいくつかの水性ゲルがタンパク質を放出する時間は比較的短い。関連のメカニズムに応じてタンパク質を安定化させる合理的なストラテジーにより設計できる。例えば、凝集のメカニズムが硫化ジスルフィド結合の交換によって分子間S-S結合を形成するであれば、メルカプト基残基を修飾することにより、酸性溶液中から凍結乾燥させ、湿度を制御し、適切な添加剤を用いて、及び特定の重合体基質組成物を開発することで安定化を実現できる。
【0144】
4.投与及び使用量
異なる方式、例えば静脈内、腹膜内、皮下、頭蓋骨内、髄腔内、動脈内(例えば頸動脈)、筋肉内、鼻内、体表または皮内投与または脊髄または脳内輸送により本発明の薬物組成物の投与を実現できる。エアロゾル製剤例えば鼻噴霧製剤は活性剤を含有する精製した水性またはその他の溶液及び防腐剤と等張剤を含有する。このような製剤を鼻粘膜と相容し得るpH及び等張状態に調整する。
【0145】
一部の場合において、以下の方式により本発明のプラスミノーゲン薬物組成物を修飾または配合することができ、これにより血液脳関門を通過できる能力を提供する。
【0146】
胃腸外での投与に用いられる製造物は無菌水性または非水性溶液、懸濁液及び乳剤を含む。非水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、例えばオリーブオイルのような植物油、及び注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体は水、アルコール性/水性溶液、乳剤または懸濁液を含み、食塩水及び緩衝媒介を含む。胃腸外媒介物は塩化ナトリウム溶液、リンガ―デキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、または固定油である。静脈内媒介物は液体及び栄養補充物、電気分解補充物などを含む。されには防腐剤及びその他の添加剤、例えば抗微生物製剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなども存在してもよい。
【0147】
いくつかの実施形態において、本発明のプラスミノーゲンは血液脳関門の通過を促進する薬剤と配合されている。いくつかの場合において、本発明のプラスミノーゲンは直接またはリンカにより血液脳関門の通過を促進する担体分子、ペプチドまたはタンパク質と融合する。一部の実施形態において、本発明のプラスミノーゲンは内在性血液脳関門(BBB)受容体に結合するポリペプチドと融合する。プラスミノーゲンと内在性血液脳関門受容体に結合するポリペプチドは、BBBの通過を促進する。内在性血液脳関門(BBB)受容体に結合するポリペプチドは抗体、例えばモノクローナル抗体、またはその抗原結合フラグメントを含み、それは特異的に内在性BBB受容体に結合する。適切な内在性BBB受容体はインスリン受容体を含むがこれに限られず、抗体はリポソームに内包されたものである。例えば米国特許公開書類No.2009/0156498を参照すること。
【0148】
医療関係者は各種臨床的要素により用量案を決めることができる。例えば医学分野で公知のように、任意の患者の用量は複数の要素によって決められ、これらの要素は患者の体型、体表面積、年齢、投与される具体的な化合物、性別、投与回数及び経路、全体の健康度、及び同時に投与するその他の薬物を含む。本発明が含有するプラスミノーゲンの薬物組成物の用量の範囲は例えば被験者体重に対して毎日約0.0001~2000mg/kgであり、または約0.001~500mg/kg(例えば0.02mg/kg,0.25mg/kg,0.5mg/kg,0.75mg/kg,10mg/kg,50mg/kgなど)とすることができる。例えば、用量は1mg/kg体重または50mg/kg体重または1-50mg/kgの範囲とすることができ、または少なくとも1mg/kgである。この例示性の範囲より高いまたは低い用量もカバーされ、特に前記の要素を考慮した場合である。前記範囲中の中間用量も本発明の範囲内に含まれるものである。被験者は毎日、隔日、毎週または経験分析によって決められた任意のスケジュール表に従ってに従ってこのような用量を投与できる。例示的な用量のスケジュール表は連続数日1-10mg/kg投与することである。本発明の薬物の投与過程において血栓及びその関連疾患の治療効果及び安全性はリアルタイムに評価、定期的に評価すべきである。
【0149】
5.治療の効力と治療安全性
本発明の一つの実施形態はプラスミノーゲンを用いて被験者を治療した後、治療効力及び治療安全性に対して判断を行うことに係る。よく用いられる骨の希薄化症の治療効果のモニタリングと評価内容は、定着フォロー(不良反応、規則正しい服薬、基礎措置および骨折リスク因子再評価など)、新発骨折評価(臨床的骨折、身長低下、映像学検査)、骨密度(bone mineral density,BMD)測定と骨代謝回転マーカー(bone turnover markers,BTM)測定、及びこれらのデータに基づく総合的再評価などを含む。その中で、BMDは現在最も広範に応用されている治療効果のモニタリングと評価方法である。例えば、二重エネルギーX線吸収測定器(dual energy X-ray absorptiometry,DXA)、定量CT(quantitative computed tomography,QCT)、単一光子吸収法(SPA)、または超音波測定法によりBMDを測定することができる。治療開始後、毎年BMDを1回測定し、BMDが安定してから間隔を適切に延長することができ、例えば、2年に1回モニタリングすることができる。BTMについて、現在、血清学指標においてよく使用されている骨形成指標は、血清1型プロコラゲンN末端プロペプチド(procollagen type 1 n-terminal propeptide,PINP)であり、骨吸収指標は血清1型プロコラゲンC末端テロペプチド(serum C-terminal telopeptide,S-CTX)である。研究の進展により、より合理的な測定指標を適時に調整することができる。治療開始前にベースライン値を測定し、形成を促進する薬物を用いて治療してから3ヶ月、吸収を抑制する薬物を用いて治療してから3~6ヶ月に測定すべきである。BTMは骨格の動態情報を提供することができ、作用と機能ではBMDから独立しているとともに、BMDと相互補完のモニタリング手段となり、両者を結合するとより高い臨床的価値を有する。一般的には、治療後BMDが上昇したり安定したりし、BTMには予想される変化があり、しかも治療中に骨折がない場合、治療反応が良好であると考えられる。また、本発明はさらに、プラスミノーゲン及びその変体を用いて被験者を治療する過程中および治療後に該治療案の安全性に対する判断に係り、これは、被験者体内での薬物の血清半減期、治療半減期、半数中毒量(TD50)、半数致死量(LD50)を統計し、または治療過程においてまたは治療後に発生する、アレルギー反応のような様々な不良事件を観察することを含むが、これらに限定されていない。
【0150】
6.製品または薬物キット
本発明の一つの実施形態は製品または薬物キットに係るものであり、本発明のプラスミノーゲンを含有する。前記製品は好ましくは一つの容器、ラベルまたはプロトコルを含む。適切な容器はボトル、バイアル、注射器などである。容器は各種材料例えばガラスまたはプラスチックから作られることができる。前記容器は組成物を含有し、前記組成物は本発明の疾患または症状を有効に治療し且つ無菌の入口を有する(例えば前記容器は静脈輸液用パックまたはバイアルであり、皮下注射針によって貫通される栓を含む)。前記組成物中の少なくとも一種類の活性化剤がプラスミノーゲンである。前記容器上にあるまたは添付されているラベルは前記組成物を本発明の前記老衰または老衰の関連疾患の治療に用いられると説明するものである。前記製品はさらに薬用緩衝液を含有する第二容器を含み、前記薬用緩衝液は例えばリン酸塩緩衝の食塩水、リンガー溶液及びブドウ糖溶液を含む。さらには商業及び使用者の角度から見ると必要とされるその他の物質、即ちその他の緩衝液、希釈剤、濾過物、針及び注射器を含むことができる。また、前記製品は使用説明を有するプロトコルを含み、これは例えば前記組成物の使用者にプラスミノーゲン組成物及び疾患の治療に伴うその他の薬物を患者に投与することを指示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【
図1】
図1は18週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の膵島IRS-2免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群であり、Dは定量分析結果である。その結果、溶媒PBS投与対照群マウスの膵島IRS-2陽性発現(矢印に表記される)はプラスミノーゲン投与群より明らかに少なく、しかもその差が統計学的に極めて有意である(**は、P<0.01を表す);プラスミノーゲン投与群のIRS-2発現レベルは溶媒PBS投与対照群より正常対照群マウスにより近い。これは、プラスミノーゲンが膵島細胞IRS-2の発現を効果的に増加させ、インスリンシグナル伝達を改善し、糖尿病マウスの膵島β細胞損傷を減少させることができることを示している。
【
図2】
図2は24~25週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを10日、31日投与した後の血糖測定結果を示したものである。その結果、プラスミノーゲン投与群マウスの血糖は溶媒PBS投与対照群より明らかに低く、しかもその差が統計学的に有意である(*は、P<0.05を表し、**は、P<0.01を表す)ことは示されている。また、投与時間が長くなるにつれて、溶媒PBS投与対照群マウスの血糖は上昇する傾向があるに対して、プラスミノーゲン投与群の血糖は徐々に低下する。これは、プラスミノーゲンが血糖を降下する作用があることを示している。
【
図3】
図3はプラスミノーゲンが糖尿病マウスの血清フルクトサミンの濃度に対する影響を示したものである。測定した結果、プラスミノーゲン投与後の血清フルクトサミンの濃度は明らかに低下し、投与前と比べ、その差が統計学的に極めて有意である(**は、P<0.01を表す)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンが糖尿病マウスの血糖を顕著に降下することができることを示している。
【
図4】
図4は26週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の血漿糖化ヘモグロビンの測定結果を示したものである。その結果、プラスミノーゲン投与群マウスの糖化ヘモグロビンのOD値は溶媒PBS投与対照群より明らかに低く、しかもその差が統計学的に極めて有意である(**は、P<0.01を表す)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンが糖尿病マウスの血糖を降下する作用があることを示している。
【
図5】
図5は26週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを10日投与した後のIPGTT測定結果を示したものである。その結果、ブドウ糖を腹腔に注射した後、プラスミノーゲン投与群マウスの血糖レベルは溶媒PBS投与対照群より低く、しかも溶媒PBS投与対照群と比べてプラスミノーゲン投与群の糖耐性曲線は正常なマウスにより近いことは示されている。これは、プラスミノーゲンが糖尿病マウスの耐糖能を明らかに改善できることを示している。
【
図6】
図6はT1DMモデルPLG活性が正常であるマウスにプラスミノーゲンを10日投与してから禁食後の血糖測定結果を示したものである。その結果、溶媒PBS投与対照群マウスの血糖はプラスミノーゲン投与群より明らかに高く、しかもその差が統計学的に極めて有意である(***は、P<0.001を表す)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンが、T1DMモデルにおけるPLG活性が正常なマウスの血糖レベルを顕著に低下させることができることを示している。
【
図7】
図7はT1DMモデルにおけるPLG活性が正常なマウスにプラスミノーゲンを28日投与した後のIPGTT測定結果を示したものである。その結果、溶媒PBS投与対照群マウスのブドウ糖注射後の血糖濃度はプラスミノーゲン投与群より明らかに高く、しかも溶媒PBS投与対照群と比べ、プラスミノーゲン投与群の糖耐性曲線は正常なマウスにより近いことは示されている。これは、プラスミノーゲンが、T1DMモデルにおけるPLG活性が正常なマウスの耐糖能を高めることができることを示している。
【
図8】
図8は26週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の血清インスリンの測定結果を示したものである。その結果、プラスミノーゲン投与群の血清インスリンレベルは溶媒PBS投与対照群より明らかに高く、しかもその差が統計学的に有意である(*は、P<0.05を表す)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンがインスリンの分泌を効果的に促進できることを示している。
【
図9】
図9は24~25週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを31日投与した後の膵臓のHE染色の写真および膵島面積比を示したものである。A、Bは溶媒PBS投与対照群であり、CとDはプラスミノーゲン投与群であり、Eは膵島面積定量分析結果である。その結果、溶媒PBS投与対照群の大部分の膵島が委縮し、委縮した膵島細胞は腺房(↓により示される)に置き換えられ、膵島のヘリの腺房が増殖して膵島と腺房との境目があいまいになっている;プラスミノーゲン投与群の大部分の膵島は対照群より面積が大きく、しかも膵島内には腺房増殖がなく、ただ僅かの膵島内に僅かの腺房が残存しており、膵島と腺房との境目がはっきりしていることは示されている。プラスミノーゲン投与群と対照群の、膵島と膵臓との面積比を比較すると、プラスミノーゲン投与群は対照群の倍近くになっていることが分かる。これは、プラスミノーゲンが24~25週齢の糖尿病マウスの膵島損傷の修復を促進でき、損傷した膵島を修復することにより糖尿病を治療することができることを示している。
【
図10】
図10は24~25週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを31日投与した後の膵島シリウスレッド染色の観察結果を示したものである。Aは溶媒PBS投与対照群であり、Bはプラスミノーゲン投与群であり、Cは定量分析結果である。その結果、プラスミノーゲン投与群マウスの膵島コラーゲン沈着(矢印に標記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに少なく、しかもその差が統計学的に有意である(*は、P<0.05を表す)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンが糖尿病動物の膵島の繊維化を改善できることを示している。
【
図11】
図11は24~25週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを31日投与した後の膵島Caspase-3免疫組織化学的染色の観察結果を示したものである。Aは溶媒PBS投与対照群であり、Bはプラスミノーゲン投与群である。その結果、プラスミノーゲン投与群のCaspase-3の発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに低いことは示されている。これは、プラスミノーゲンが膵島細胞のアポトーシスを減少させ、糖尿病マウスの膵臓組織を保護できることを示している。
【
図12】
図12は18週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の膵島インスリン免疫組織化学的染色結果を示すものである。Aは溶媒PBS投与対照群であり、Bはプラスミノーゲン投与群であり、Cは定量分析結果である。その結果、プラスミノーゲン投与群のインスリンの発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに高く、しかもその差が統計学的な有意の差に近い(P=0.15を表す)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンが膵島の機能修復を促進でき、インスリンの生成と分泌Tを促進できることを示している。
【
図13】
図13は24~25週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後のインスリン免疫組織化学的染色の観察結果を示すものである。Aは溶媒PBS投与対照群であり、Bはプラスミノーゲン投与群であり、Cは定量分析結果である。その結果、プラスミノーゲン投与群のインスリンの発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに高く、しかもその差が統計学的に有意である(*は、P<0.05を表す)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンが膵島の機能修復を促進でき、インスリンの生成と分泌Tを促進できることを示している。
【
図14】
図14は26週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後のインスリン免疫組織化学的染色の観察結果を示すものである。Aは溶媒PBS投与対照群であり、Bはプラスミノーゲン投与群であり、Cは定量分析結果である。その結果、プラスミノーゲン投与群のインスリンの発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに高く、しかもその差が統計学的に極めて有意である(**は、P<0.01を表す)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンが膵島の機能修復を効果的に促進でき、インスリンの生成と分泌Tを促進できることを示している。
【
図15】
図15は24~25週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを31日投与した後の膵臓組織NF-kB免疫組織化学的染色の観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群であり、Dは定量分析結果である。その結果、プラスミノーゲン投与群のNF-kBの発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに高く、しかもその差が統計学的に有意である(*は、P<0.05を表す)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンが多方向核転写因子NF-kBの発現を促進でき、24~25週齢の糖尿病マウスの膵島炎症の修復を促進できることを示している。
【
図16】
図16は18週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の膵島グルカゴン免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群であり、Dは定量分析結果である。その結果、グルカゴンは正常対照群マウスにおいて膵島周辺のα細胞の領域に発現されている。プラスミノーゲン投与群と比べ、溶媒PBS投与対照群のグルカゴンの陽性細胞(矢印に表記される)は明らかに増え、グルカゴンの陽性細胞は膵島の中央に浸潤し、しかも平均光学密度の定量分析結果の差が統計学的に極めて有意である(**は、P<0.01を表す);プラスミノーゲン投与群のグルカゴンの陽性細胞は膵島周辺に散在的に分布し、PBS投与対照群と比べ、プラスミノーゲン投与群の膵島形態は正常マウスにより近い。これは、プラスミノーゲンが膵島α細胞の増殖およびグルカゴンの分泌を顕著に抑制でき、膵島α細胞の分布の乱れを修正でき、膵島損傷の修復を促進できることを示している。
【
図17】
図17は24~25週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の膵島グルカゴン免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。その結果、グルカゴンは正常対照群マウスにおいて膵島周辺のα細胞の領域に発現されている。プラスミノーゲン投与群と比べ、溶媒PBS投与対照群のグルカゴンの陽性細胞(矢印に表記される)は明らかに増え、陽性細胞は膵島の中央領域に浸潤している;プラスミノーゲン投与群のグルカゴンの陽性細胞は膵島周辺に散在的に分布し、PBS投与対照群と比べ、プラスミノーゲン投与群の膵島形態は正常マウスにより近い。これは、プラスミノーゲンが膵島α細胞の増殖およびグルカゴンの分泌を顕著に抑制でき、膵島α細胞の分布の乱れを修正でき、膵島損傷の修復を促進できることを示している。
【
図18】
図18は26週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の膵島グルカゴン免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群であり、Dは定量分析結果である。その結果、グルカゴンは正常対照群マウスにおいて膵島周辺のα細胞の領域に発現されている。プラスミノーゲン投与群と比べ、溶媒PBS投与対照群のグルカゴンの陽性細胞(矢印に表記される)は明らか増え、陽性細胞は膵島の中央に浸潤し、しかも平均光学密度の定量分析結果の統計学的差異がある(*は、P<0.05を表す);プラスミノーゲン投与群のグルカゴンの陽性細胞は膵島周辺い散在的に分布し、PBS投与対照群と比べ、プラスミノーゲン投与群の膵島形態は正常マウスにより近い。これは、プラスミノーゲンが膵島α細胞の増殖およびグルカゴンの分泌を顕著に抑制でき、膵島α細胞の分布の乱れを修正でき、膵島損傷の修復を促進できることを示している。
【
図19】
図19はプラスミノーゲンを28日投与した後のPLG活性が正常であるマウスがT1DMモデルにおける膵島グルカゴン免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aはブランク対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群であり、Dは定量分析結果である。その結果、溶媒PBS投与対照群のグルカゴンの陽性発現はプラスミノーゲン投与群より明らかに多く、しかも平均光学密度の定量分析結果のその差が統計学的に有意である(*は、P<0.05を表す)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンが糖尿病マウスの膵島α細胞のグルカゴン分泌を顕著に減少させることができ、膵島損傷の修復を促進できることを示している。
【
図20】
図20は24~25週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを31日投与した後の膵島IRS-2免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群であり、Dは定量分析結果である。その結果、溶媒PBS投与対照群マウスの膵島IRS-2陽性発現(矢印に表記される)はプラスミノーゲン投与群より明らかに少なく、しかもその差が統計学的に有意である(*は、P<0.05を表す);プラスミノーゲン投与群のIRS-2発現レベルは溶媒PBS投与対照群より正常対照群マウスにより近い。これは、プラスミノーゲンが膵島細胞IRS-2の発現を効果的に増加させ、インスリンシグナル伝達を改善し、糖尿病マウスの膵島β細胞損傷を減少させることができることを示している。
【
図21】
図21は26週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の膵島IRS-2免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群であり、Dは定量分析結果である。その結果、溶媒PBS投与対照群マウスの膵島IRS-2陽性発現(矢印に表記される)はプラスミノーゲン投与群より明らかに少ない;プラスミノーゲン投与群のIRS-2発現レベルは溶媒PBS投与対照群より正常対照群マウスにより近い。これは、プラスミノーゲンが膵島細胞IRS-2の発現を効果的に増加させ、インスリンシグナル伝達を改善し、糖尿病マウスの膵島β細胞損傷を減少させることができることを示している。
【
図22】
図22はプラスミノーゲンを28日投与した後のPLG活性が正常であるT1DMマウスの膵島IRS-2免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。その結果、溶媒PBS投与対照群マウスの膵島IRS-2陽性発現(矢印に表記される)はプラスミノーゲン投与群より明らかに少ない;プラスミノーゲン投与群のIRS-2発現レベルは溶媒PBS投与対照群より正常対照群マウスにより近い。これは、プラスミノーゲンが膵島細胞IRS-2の発現を効果的に増加させ、インスリンシグナル伝達を改善し、PLG活性が正常であるT1DMマウスの膵島β細胞損傷を減少させることができることを示している。
【
図23】
図23は26週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の膵島好中球の免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。その結果、プラスミノーゲン投与群の陽性発現の細胞(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より少なく、しかもプラスミノーゲン投与群は溶媒PBS投与対照群より正常対照群により近い。これは、プラスミノーゲンが好中球の浸潤を減少させることができることを示している。
【
図24】
図24はT1DMモデルにおけるPLG活性が損傷したマウスにプラスミノーゲンを28日投与した後の膵島好中球の免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aはブランク対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。その結果、プラスミノーゲン投与群の陽性発現の細胞(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より少なく、しかもプラスミノーゲン投与群は溶媒PBS投与対照群よりブランク対照群により近い。これは、プラスミノーゲンがPLG活性が損傷したマウスのT1DMモデルにおける膵島好中球の浸潤を減少させることができることを示している。
【
図25】
図25はT1DMモデルにおけるPLG活性が正常であるマウスにプラスミノーゲンを28日投与した後の膵島好中球の免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aはブランク対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。その結果、プラスミノーゲン投与群の陽性発現の細胞(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より少なく、しかもプラスミノーゲン投与群は溶媒PBS投与対照群よりブランク対照群により近い。これは、プラスミノーゲンがPLG活性が正常であるマウスのT1DMモデルにおける膵島好中球の浸潤を促進できることを示している。
【
図26】
図26はT1DMモデルにおけるPLG活性が損傷したマウスにプラスミノーゲンを28日投与した後の膵島インスリンの免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aはブランク対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。免疫組織化学的結果によると、プラスミノーゲン投与群のインスリン陽性発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに多く、しかもプラスミノーゲン投与群は溶媒PBS投与対照群よりブランク対照群により近い。これは、プラスミノーゲンがPLG活性が損傷したマウスのT1DMモデルにおけるインスリンの合成と分泌を促進できることを示している。
【
図27】
図27はT1DMモデルにおけるPLG活性が正常であるマウスにプラスミノーゲンを28日投与した後の膵島インスリンの免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aはブランク対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。免疫組織化学的結果によると、プラスミノーゲン投与群のインスリン陽性発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに多く、しかもプラスミノーゲン投与群は溶媒PBS投与対照群よりブランク対照群により近い。これは、プラスミノーゲンがPLG活性が正常であるマウスのT1DMモデルにおけるインスリンの合成と発現を促進できることを示している。
【
図28】
図28はT1DMモデルにおけるPLG活性が損傷したマウスにプラスミノーゲンを28日投与した後の膵島NF-kBの免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aはブランク対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。その結果、プラスミノーゲン投与群のNF-kB発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに多いことは示されている。これは、プラスミノーゲンが炎症修復因子NF-kBの発現を促進することができ、膵島炎症の修復を促進することができることを示している。
【
図29】
図29は18週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の膵島NF-kBの免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは溶媒PBS投与対照群であり、Bはプラスミノーゲン投与群である。その結果、プラスミノーゲン投与群のNF-kB発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに多いことは示されている。これは、プラスミノーゲンが多方向核転写因子NF-kBの発現を促進することができ、比較的に若い(18週齢)糖尿病マウスの膵島炎症の修復を促進することができることを示している。
【
図30】
図30は26週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の膵島NF-kBの免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。本発明の実験結果によると、プラスミノーゲン投与群のNF-kB発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに高いことは示されている。これは、プラスミノーゲンが多方向核転写因子NF-kBの発現を促進することができ、比較的に老齢(26週齢)の糖尿病マウスの膵島炎症の修復を促進することができることを示している。
【
図31】
図31は24~25週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを31日投与した後の膵島TNF-αの免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。研究結果によると、プラスミノーゲン投与群のTNF-αの陽性発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに高く、しかもプラスミノーゲン投与群は溶媒PBS投与対照群より正常対照群により近いことは示されている。これは、プラスミノーゲンがTNF-αの発現を促進することができ、24~25週齢の糖尿病マウスの膵島損傷の修復を促進することができることを示している。
【
図32】
図32は26週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを31日投与した後の膵島TNF-αの免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。研究結果によると、プラスミノーゲン投与群のTNF-αの陽性発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに高く、しかもプラスミノーゲン投与群は溶媒PBS投与対照群より正常対照群により近いことは示されている。これは、プラスミノーゲンがTNF-αの発現を促進することができ、26週齢の糖尿病マウスの膵島損傷の修復を促進することができることを示している。
【
図33】
図33はT1DMモデルにおけるPLG活性が損傷したマウスにプラスミノーゲンを28日投与した後の膵島TNF-αの免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aは溶媒PBS投与対照群であり、Bはプラスミノーゲン投与群である。研究結果によると、プラスミノーゲン投与群のTNF-αの陽性発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに高い。これは、プラスミノーゲンがTNF-αの発現を促進することができ、T1DMモデルにおけるPLG活性が損傷したマウスの膵島損傷の修復を促進することができることを示している。
【
図34】
図34はT1DMモデルにおけるPLG活性が損傷したマウスにプラスミノーゲンを28日投与した後の膵島IgMの免疫組織化学的観察結果を示すものである。Aはブランク対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。本実験研究の結果によると、プラスミノーゲン投与群のIgMの陽性発現(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに低く、しかもプラスミノーゲン投与群は溶媒PBS投与対照群より正常対照群により近い。これは、プラスミノーゲンがIgMの発現を低下させることができ、T1DMモデルにおけるPLG活性が損傷したマウスの膵島損傷を減少させることができることを示している。
【
図35】
図35は24~25週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを31日投与した後の膵島TUNEL染色の観察結果を示すものである。Aは正常対照群であり、Bは溶媒PBS投与対照群であり、Cはプラスミノーゲン投与群である。本実験研究の結果によると、プラスミノーゲン投与群の陽性細胞数(矢印に表記される)は溶媒PBS投与対照群より明らかに少ない。正常対照群のTUNEL陽性染色は極めて低い。正常対照群のアポトーシス率は約8%であり、溶媒PBS投与対照群のアポトーシス率は約93%であり、プラスミノーゲン投与群のアポトーシス率は約16%である。これは、プラスミノーゲンが糖尿病マウスの膵島細胞のアポトーシスを顕著に減少させることができることを示している。
【
図36】
図36は26週齢の糖尿病マウスにプラスミノーゲンを35日投与した後の血清フルクトサミンの測定結果を示すものである。測定結果によると、プラスミノーゲン投与群の血清フルクトサミンの濃度は溶媒PBS投与対照群より明らかに低く、その差が統計学的な有意の差に近い(P=0.06)。これは、プラスミノーゲンが糖尿病マウスの血糖レベルを顕著に低下させることができることを示している。
【
図37】
図37はT1DMモデルマウスにプラスミノーゲンを20日投与した後の血糖測定結果を示すものである。その結果、溶媒PBS投与対照群マウスの血糖はプラスミノーゲン投与群マウスより明らかに高く、しかもその差が統計学的に有意である(P=0.04)ことは示されている。これは、プラスミノーゲンがT1DMマウスのブドウ糖分解能力を促進でき、血糖を降下することができることを示している。
【
図38】
図38はT1DMモデルマウスにプラスミノーゲンを20日投与した後の血清インスリンの測定結果を示すものである。その結果、溶媒PBS投与対照群マウスの血清インスリン濃度はプラスミノーゲン投与群マウスより明らかに低く、しかもその差が統計学的な有意の差に近い(P=0.08)。これは、プラスミノーゲンがT1DMマウスのインスリン分泌を促進することができることを示している。
【実施例0152】
実施例1は、プラスミノーゲンが18週齢の糖尿病マウスの膵島インスリン受容体基質2(IRS-2)の発現を促進することに関するものである。
18週齢のdb/dbオスマウスを7匹、db/mオスマウスを3匹取り、実験開始当日を0日目とし、体重を計って体重によってランダムに二つの群に分け、プラスミノーゲン投与群に3匹、溶媒PBS投与対照群に4匹であり、db/mマウスを正常対照群とした。一日目からプラスミノーゲンまたは溶媒PBSを投与し、プラスミノーゲン投与群に2mg/0.2mL/匹/日でヒトソースのプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒PBS投与対照群にも同じ体積のPBSを尾静脈注射により投与し、連続して35日投与した。36日目にマウスを殺処分して膵臓を取り、4%パラホルムアルデヒド固定液において固定を行った。固定後の膵臓組織をアルコールで段階的に脱水させ及びキシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋処理を行った。組織切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせて浸水して1回水で洗った。PAPマーカーで組織を丸で囲み、3%過酸化水素水で15分間インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。5%の健常ヒツジ血清液(Vector laboratories,Inc.,USA)で30分間ブロッキングした;時間になった後、ヒツジ血清液を廃棄し、ウサギ抗マウスIRS-2抗体(Abcam)を滴加して4℃で終夜インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。ヤギ抗ウサギIgG(HRP)抗体(Abcam)二次抗体を室温で1時間インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。DABキット(Vector laboratories,Inc.,USA)で呈色させ、3回水洗いした後にヘマトキシリンで30秒複染色して、流水で5分間流した。アルコールで段階的に脱水させてキシレンで透徹にし、中性ゴムに封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
インスリン受容体基質2(Insulin Receptor Substrate-2,IRS-2)は活性され得るインスリン受容体チロシンキナーゼに作用される基質であり、インスリンシグナル伝達経路における重要な分子であり、しかも膵島β細胞の生存に対して極めて重要である。IRS-2は膵島β細胞の発現の増加時に保護作用があり、機能性膵島β細胞の維持に対して極めて重要である
[46,47]。
IRS-2免疫組織化学的結果によると、溶媒PBS投与対照群マウス(
図1B)の膵島IRS-2の陽性発現(矢印に表記される)はプラスミノーゲン投与群(
図1C)より明らかに少なく、しかもその差が統計学的に極めて有意であり(
図1D)、しかも溶媒PBS投与対照群と比べ、プラスミノーゲン投与群はブランク対照群(
図1A)により近い。これは、プラスミノーゲンが、18週齢の糖尿病マウスの膵島細胞IRS-2の発現を効果的に増加させることができることを示している。