(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166046
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】多峰性ポリエチレン組成物及びそれを含むフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 23/06 20060101AFI20221025BHJP
C08F 10/02 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C08L23/06
C08F10/02
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022121457
(22)【出願日】2022-07-29
(62)【分割の表示】P 2018550559の分割
【原出願日】2017-09-08
(31)【優先権主張番号】16188329.3
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】517301210
【氏名又は名称】タイ ポリエチレン カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】514163756
【氏名又は名称】エスシージー ケミカルズ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】マッタヤン,アルンスリ
(72)【発明者】
【氏名】トライシラヌン,サラニャ
(72)【発明者】
【氏名】チーバスリルンルアン,ワチャリー
(72)【発明者】
【氏名】クロムカモル,ワラチャド
(57)【要約】 (修正有)
【課題】多峰性ポリエチレン組成物及びフィルムを提供する。
【解決手段】(A)40~65重量部の低分子量ポリエチレンであって、20,000~90,000g/molの重量平均分子量、且つASTMD1238による500~1.000g/10minのMFRaを有する低分子量ポリエチレン;(B)8~20重量部の、150,000超~1,000,000g/molの重量平均分子量を有する第1の高分子量ポリエチレン又は1,000,000超~5,000,000g/molの重量平均分子量を有する第1の超高分子量ポリエチレン;及び(C)30~50重量部の、150,000超~1,000,000g/molの重量平均分子量を有する第2の高分子量ポリエチレン又は1,000,000超~5,000,000g/molの重量平均分子量を有する第2の超高分子量ポリエチレンを含む多峰性ポリエチレン組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多峰性ポリエチレン組成物であって、
(A)40~65重量部、好ましくは43~52重量部、最も好ましくは44~50重
量部の低分子量ポリエチレンであって、20,000~90,000g/molの重量平
均分子量(Mw)を有し、且つASTM D1238による500~1,000g/10
分のMI2を有する低分子量ポリエチレン;
(B)8~20重量部、好ましくは10~18重量部、最も好ましくは10~15重量
部の、150,000超~1,000,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有
する第1の高分子量ポリエチレン又は1,000,000超~5,000,000g/m
olの重量平均分子量(Mw)を有する第1の超高分子量ポリエチレン;及び
(C)30~50重量部、好ましくは37~47重量部、最も好ましくは39~45重
量部の、150,000超~1,000,000g/molの重量平均分子量(Mw)を
有する第2の高分子量ポリエチレン又は1,000,000超~5,000,000g/
molの重量平均分子量(Mw)を有する第2の超高分子量ポリエチレン
を含み、
前記第1の高分子量ポリエチレン又は前記第1の超高分子量ポリエチレン及び前記第2
の高分子量ポリエチレン又は前記第2の超高分子量ポリエチレンの密度が、0.920~
0.950g/cm3の範囲内であり、且つ
前記多峰性ポリエチレン組成物の分子量分布が、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測
定される、20~28、好ましくは24~28である、
多峰性ポリエチレン組成物。
【請求項2】
前記MI2が600~800g/10分である、請求項1に記載の多峰性ポリエチレン
組成物。
【請求項3】
前記分子量分布が、23~28、好ましくは24~26、より好ましくは25~26で
ある、請求項1又は2に記載の多峰性ポリエチレン組成物。
【請求項4】
前記多峰性ポリエチレン組成物が、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、1
50,000~400,000g/mol、好ましくは200,000~350,000
g/molの重量平均分子量を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の多峰性ポ
リエチレン組成物。
【請求項5】
前記多峰性ポリエチレン組成物が、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、5
,000~15,000g/mol、好ましくは7,000~12,000g/molの
数平均分子量を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の多峰性ポリエチレン組成
物。
【請求項6】
前記多峰性ポリエチレン組成物が、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、1
,000,000~3,000,000g/mol、好ましくは1,000,000~2
,500,000g/molのZ平均分子量を有する、請求項1から5のいずれか一項に
記載の多峰性ポリエチレン組成物。
【請求項7】
前記多峰性ポリエチレン組成物が、ASTM D1505による0.950~0.96
2g/cm3、好ましくは0.953~0.959g/cm3の密度、及び/又は0.0
3~0.15g/10分、好ましくは0.03~0.12g/10分のMI2を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載のポリエチレン組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の多峰性ポリエチレン組成物を含むフィルムであ
って、4~40μm、好ましくは4~30μm、最も好ましくは4~20μmの厚さを有
する、フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムを製造するための多峰性ポリエチレン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン樹脂の需要は、様々な用途においてますます使用されている。ポリエチレ
ンの高性能が比較的新しいプラスチックに必要であるため。加工性と、エチレンコポリマ
ーの物理特性のバランスをとるために、多峰性組成物における開発が調査された。
【0003】
単層として、或いは多層フィルムのコア又は表面に適用されてもよい様々なフィルムが
当分野において公知である。同じく、様々なポリマー組成物、特にポリエチレン組成物が
、このようなフィルムを製造するために記述されている。
【0004】
国際公開第2013/144324号には、特定のMFR5、密度及び分子量分布のホ
モポリマー、第1のコポリマー及び第2のコポリマーを含むポリマー組成物が開示されて
いる。ポリマー組成物は、スラリーループ反応器及び2つの気相反応器を伴うプロセスに
おいて調製される。
【0005】
国際公開第2006/092378号には、特定のMFR5及び密度を有し、且つ3つ
の成分、すなわち、ホモポリマー及び2つの異なるコポリマーを含むポリマー組成物から
調製されたフィルムが開示されている。
【0006】
米国特許出願公開第2015/0051364号は、少なくとも3つの成分を含み、且
つ特定の密度及びMFR21を有する多峰性ポリエチレンコポリマーに関する。3つの成
分のうちの少なくとも1つはコポリマーである。
【0007】
米国特許出願公開第2010/0016526号は、特定の密度を有する二峰性HDP
Eポリマーから製造され得る薄フィルムに関する。組成物は、混合触媒系を使用する系列
を伴う2段階のカスケード重合によって調製される。
【0008】
しかし、上述の先行技術に照らして、先行技術の欠点を克服する、フィルムを調製する
ための多峰性ポリエチレン組成物、並びに多峰性ポリエチレン組成物、特に、4~40ミ
クロン又は好ましくはそれ未満のフィルム厚で、高出力、良好なバブル安定性、高い機械
強度及び高い靱性に関して改善された特性を持つブローフィルムのための高密度ポリエチ
レン組成物を使用することによって調製されたフィルムを提供することが依然として必要
とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2013/144324号
【特許文献2】国際公開第2006/092378号
【特許文献3】米国特許出願公開第2015/0051364号
【特許文献4】米国特許出願公開第2010/0016526号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の別の目的は、先行技術の欠点を克服する、特に上述の欠点を克服
する、フィルムを調製するための多峰性ポリエチレン組成物、及びこのようにして調製さ
れたフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
多峰性ポリエチレン組成物であって、
(A)40~65重量部、好ましくは43~52重量部、最も好ましくは44~50重
量部の低分子量ポリエチレンであって、20,000~90,000g/molの重量平
均分子量(Mw)を有し、且つASTM D1238による500~1,000g/10
minのMI2を有する低分子量ポリエチレン;
(B)8~20重量部、好ましくは10~18重量部、最も好ましくは10~15重量
部の、150,000超~1,000,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有
する第1の高分子量ポリエチレン又は1,000,000超~5,000,000g/m
olの重量平均分子量(Mw)を有する第1の超高分子量ポリエチレン;及び
(C)30~50重量部、好ましくは37~47重量部、最も好ましくは39~45重
量部の、150,000超~1,000,000g/molの重量平均分子量(Mw)を
有する第2の高分子量ポリエチレン又は1,000,000超~5,000,000g/
molの重量平均分子量(Mw)を有する第2の超高分子量ポリエチレン
を含み、
第1の高分子量ポリエチレン又は第1の超高分子量ポリエチレン及び第2の高分子量ポ
リエチレン又は第2の超高分子量ポリエチレンの密度が、0.920~0.950g/c
m3の範囲内であり、且つ
多峰性ポリエチレン組成物の分子量分布が、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定さ
れる、20~28、好ましくは23~28、好ましくは24~26、より好ましくは25
~26である、
多峰性ポリエチレン組成物。
【0012】
好ましい実施形態において、MI2は、500~1000g/10min、好ましくは
600~800g/10minである。
【0013】
好ましい実施形態において、多峰性ポリエチレン組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィ
ーにより測定される、150,000~400,000g/mol、好ましくは200,
000~350,000g/molの重量平均分子量を有する。
【0014】
さらに、多峰性ポリエチレン組成物が、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される
、5,000~15,000g/mol、好ましくは7,000~12,000g/mo
lの数平均分子量を有することが好ましい。
【0015】
好ましくは、多峰性ポリエチレン組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定さ
れる、1,000,000~3,000,000g/mol、好ましくは1,000,0
00~2,500,000g/molのZ平均分子量を有する。
【0016】
好ましくは、多峰性ポリエチレン組成物は、ASTM D1505による0.950~
0.962g/cm3、好ましくは0.953~0.959g/cm3の密度、及び/又
は0.03~0.15g/10min、好ましくは0.03~0.12g/10minの
MI2を有する。
【0017】
最後に、この目的は、本発明の多峰性ポリエチレン組成物を含むフィルムによって達成
され、フィルムは、4~40μm、好ましくは4~30μm、最も好ましくは4~20μ
mの厚さを有する。
【0018】
好ましい実施形態において、「重量部」は「重量パーセント」である。
【0019】
本発明のフィルムに関して、フィルムが、本発明の多峰性ポリエチレン組成物を主に含
むことが好ましく、これは、フィルムが別の成分を、出力、バブル安定性、機械強度、靱
性などに関してフィルム特性に影響しない量でのみ含むことを意味する。最も好ましくは
、フィルムは、本発明の多峰性ポリエチレン組成物からなる。加えて、先行技術よりも優
れている本発明の多峰性ポリエチレン組成物を使用することによって、高出力、良好なバ
ブル安定性、高い機械強度及び高い靱性で、特に5~12ミクロンのフィルム厚でブロー
フィルムを調製できることが明らかになった。
【0020】
この目的はさらに、
(a)第1の反応器内で、チーグラー・ナッタ触媒又はメタロセンから選択される触媒
系の存在下、及び第1の反応器内の気相中に存在する全気体に対して0.1~95mol
%の量の水素の存在下で、不活性炭化水素媒体中のエチレンを重合して、低分子量ポリエ
チレン又は中分子量ポリエチレンを得る工程;
(b)水素除去ユニット内で、103~145kPa(abs)の範囲内の圧力の第1
の反応器から得られたスラリー混合物に含まれる98.0~99.8重量%の水素を除去
し、且つ得られた残留混合物を第2の反応器に移送する工程;
(c)第2の反応器内で、チーグラー・ナッタ触媒又はメタロセンから選択される触媒
系の存在下、及び工程(b)において得られた量の水素の存在下で、エチレン及び任意選
択でC4~C12α-オレフィンコモノマーを重合して、ホモポリマー若しくはコポリマ
ーの形態の第1の高分子量ポリエチレン又は第1の超高分子量ポリエチレンを得、且つ得
られた混合物を第3の反応器に移送する工程;及び
(d)第3の反応器内で、チーグラー・ナッタ触媒又はメタロセンから選択される触媒
系の存在下、及び第3の反応器内の水素の量が、第3の反応器内の気相中に存在する全気
体に対して0.1~70mol%、好ましくは0.1~60mol%の範囲内である水素
の存在下で、又は任意選択で水素の実質的な不在下で、エチレン及び任意選択でC4~C
12α-オレフィンコモノマーを重合して、ホモポリマー若しくはコポリマーの形態の第
2の高分子量ポリエチレン又は第2の超高分子量ポリエチレンを得る工程
を含む、多峰性ポリエチレン組成物を製造するためのプロセスによって達成される。
【0021】
好ましくは、水素除去ユニット内の除去は、98.0~99.8重量%、より好ましく
は98.0~99.5重量%、最も好ましくは98.0~99.1重量%の水素の除去で
ある。
【0022】
プロセスにおいて使用するための触媒は、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン系触媒
及び非メタロセン系触媒を含むシングルサイト触媒、又はクロム系から選択され、好まし
くは従来のチーグラー・ナッタ触媒又はシングルサイト触媒が使用できる。触媒は、典型
的には、当分野において周知の共触媒と共に使用される。
【0023】
不活性炭化水素は、好ましくは、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、イソブタンを含
む脂肪族炭化水素である。好ましくは、ヘキサン(最も好ましくはn-ヘキサン)が使用
される。配位触媒、エチレン、水素及び任意選択でα-オレフィンコモノマーが、第1の
反応器内で重合される。第1の反応器から得られた全生成物は、次いで、98.0~99
.8重量%の水素、未反応のガス及び一部の揮発物を除去するために水素除去ユニットに
移送された後、重合を継続するために第2の反応器に供給される。第2の反応器から得ら
れたポリエチレンは、第1の反応器から得られた生成物及び第2の反応器の生成物の組み
合わせである二峰性ポリエチレンである。この二峰性ポリエチレンは、次いで、重合を継
続するために第3の反応器に供給される。第3の反応器から得られた最終的な多峰性(三
峰性)ポリエチレンは、第1、第2及び第3の反応器からのポリマーの混合物である。
【0024】
第1、第2及び第3の反応器における重合は、異なるプロセス条件下で実施される。こ
れらは、気相中のエチレン及び水素の変化並びに濃度、各反応器に供給されるコモノマー
の温度又は量であり得る。所望の特性の、特に所望の分子量の各ホモポリマー又はコポリ
マーを得るための適切な条件は、当分野において周知である。当業者は、その一般的な知
識に基づいて、これに基づく各条件を選ぶことができる。その結果、各反応器内で得られ
たポリエチレンは、異なる分子量を有する。所望の特性の、特に所望の分子量の各ホモポ
リマー又はコポリマーを得るための適切な条件は、当分野において周知である。好ましく
は、低分子量ポリエチレンは、第1の反応器内で製造され、一方、超高分子量及び/又は
高分子量ポリエチレンは、第2及び第3の反応器内でそれぞれ製造される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
第1の反応器という用語は、低分子量ポリエチレン(LMW)又は中分子量ポリエチレ
ン(MMW)が製造される段階を指す。第2の反応器という用語は、第1の高分子量又は
超高分子量ポリエチレン(HMW1)が製造される段階を指す。第3の反応器という用語
は、第2の高分子量又は超高分子量ポリエチレン(HMW2)が製造される段階を指す。
【0026】
第1の反応器内で重合された低分子量ポリエチレンポリマーは、20,000~90,
000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する。
【0027】
第1の反応器内で重合された中分子量ポリエチレンポリマーは、9,000~12,0
00g/molの数平均分子量(Mn)及び90,000超~150,000g/mol
の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0028】
第2の反応器内で重合された第1の高分子量又は超高分子量ポリエチレンポリマーは、
150,000超~5,000,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する。
【0029】
第3の反応器内で重合された第2の高分子量又は超高分子量ポリエチレンポリマーは、
150,000超~5,000,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する。
【0030】
LMW又はMMWは、ホモポリマーを得るために、第1の反応器内でコモノマーの不在
下で製造される。
【0031】
このプロセスにおいて、エチレンは、0.965g/cm3以上の密度、及びLMWに
ついては10~1000g/10min、MMWについては0.1~10g/10min
の範囲内のMI2を有する高密度LMW又はMMWポリエチレンを得るために、第1の反
応器内でコモノマーの不在下で重合される。目標密度及びMIを第1の反応器内で得るた
めに、重合条件が制御及び調節される。第1の反応器内の温度は、65~90℃、好まし
くは68~85℃の範囲である。水素が、ポリエチレンの分子量を制御するように、第1
の反応器に供給される。気相中のエチレンに対する水素のモル比は、目標MIに応じて変
化させることができる。しかし、好ましいモル比は、0.5~8.0、より好ましくは3
.0~6.0の範囲である。第1の反応器は、250~900kPaの間、好ましくは4
00~850kPaの圧力で運転される。第1の反応器の気相中に存在する水素の量は、
20~95モル%、好ましくは50~90mol%の範囲内である。
【0032】
第2の反応器に供給される前に、好ましくはヘキサン中のLMW又はMMWポリエチレ
ンを含む第1の反応器から得られたスラリーは、水素除去ユニットに移送され、この水素
除去ユニットは、揮発物、未反応のガス及び水素がスラリー流から除去されるように、フ
ラッシュドラム内の圧力が下げられる真空ポンプ、圧縮機、ブロワ及びエジェクタのうち
の1つ又は組み合わせを好ましくは含む減圧装置と接続されたフラッシュドラムを有して
もよい。水素除去ユニットの運転圧力は、典型的には、98.0~99.8重量%、好ま
しくは98.0~99.5重量%の水素を除去できる、103~145kPa(abs)
、好ましくは104~130kPa(abs)の範囲である。
【0033】
第2の反応器の重合条件は、第1の反応器の重合条件とは著しく異なる。第2の反応器
内の温度は、70~90℃、好ましくは70~80℃の範囲である。エチレンに対する水
素のモル比は、この反応器内では制御されないが、その理由は、水素が第2の反応器内に
供給されないからである。第2の反応器内の水素は、水素除去ユニットにおいてフラッシ
ングされた後にスラリー流内に残る第1の反応器からの残留水素である。第2の反応器内
の重合圧力は、100~3000kPa、好ましくは150~900kPa、より好まし
くは150~400kPaの範囲であり、不活性ガス、例えば窒素の添加によって制御さ
れる。
【0034】
水素除去は、水素除去ユニット通過前後のスラリー混合物中に存在する水素の量の比較
結果である。水素除去の計算は、ガスクロマトグラフィーによる第1及び第2の反応器内
のガス組成の測定に従って実施される。
【0035】
本発明の濃度を得るために相当量の水素が除去された後、水素除去ユニットからのスラ
リーは、重合を継続するために第2の反応器に移送される。この反応器内で、エチレンを
α-オレフィンコモノマーあり、又はなしで重合して、第1の反応器から得られたLMW
又はMMWポリエチレンの存在下でHMW1ポリエチレンを生成できる。共重合に有用で
あるα-オレフィンコモノマーには、C4-12、好ましくは1-ブテン及び/又は1-
ヘキセン、より好ましくは1-ブテンが含まれる。
【0036】
第2の反応器内の重合後、得られたスラリーは、重合を継続するために第3の反応器に
移送される。
【0037】
HMW2は、第1及び第2の反応器から得られるLMW及びHWM1の存在下、エチレ
ンを任意選択でα-オレフィンコモノマーと共重合することによって第3の反応器内で製
造される。共重合に有用であるα-オレフィンコモノマーには、C4-12、好ましくは
1-ブテン及び/又は1-ヘキセン、より好ましくは1-ブテンが含まれる。
【0038】
目標密度及び目標MIを第3の反応器内で得るために、重合条件が制御及び調節される
。しかし、第3の反応器の重合条件は、第1及び第2の反応器とは著しく異なる。第3の
反応器内の温度は、68~90℃、好ましくは68~80℃の範囲である。水素は、ポリ
エチレンの分子量を制御するように、第3の反応器に供給される。エチレンに対する水素
のモル比は、目標MIに応じて変化させることができる。しかし、好ましいモル比は、0
.01~2.0の範囲である。
【0039】
第3の反応器内の重合圧力は、150~900kPa、好ましくは150~400kP
aの範囲であり、不活性ガス、例えば窒素の添加によって制御される。
【0040】
最終的な(自由流動)多峰性ポリエチレン組成物は、第3の反応器から排出されたスラ
リーからヘキサンを分離することによって得られる。
【0041】
得られたポリエチレン粉末は、次いで、押し出され、ペレットに造粒される前に、酸化
防止剤及び任意選択で添加剤と混合されてもよい。
【0042】
ペレットを、次いで、従来の管状のインフレーションフィルムプロセスを使用して異な
る厚さでフィルムに延伸し、フィルム特性についてさらに評価した。
【0043】
定義及び測定方法
【0044】
MI
2
:ポリエチレンのメルトフローインデックスを、190℃、荷重2.16kgの
試験条件下でのポリマーの流動性を測定するASTM D1238に従って測定し、g/
10minで表した。
【0045】
密度:ペレットが液柱勾配管に沈むレベルを公知の密度の標準と比べて観察することに
よって、ポリエチレンの密度を測定した。この方法は、ASTM D1505に従った、
120℃でアニーリングした後の固体プラスチックの測定である。
【0046】
分子量及び多分散性指数(PDI):重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)
及びZ平均分子量(MZ)(g/mol)をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分
析した。多分散性指数はMw/Mnにより計算した。
【0047】
約8mgのサンプルを8mlの1,2,4-トリクロロベンゼンに160℃で90分間
溶解した。次いで、サンプル溶液200μlを、IR5、赤外線検出器(Polymer
Char(スペイン))を備えた高温GPCに、カラムゾーン内は145℃、検出器ゾ
ーン内は160℃で、0.5ml/minの流量で注入した。データは、GPC One
(登録商標)ソフトウェア(Polymer Char(スペイン))により処理した。
【0048】
フィルムバブル安定性:これは、ブローフィルムプロセスの間に確認し、ニップロール
巻取速度を増加させる間、フィルムバブルの軸方向振動が観察されたが、30分を超えて
継続する。良好なバブル安定性は、フィルムが振動せず、バブルが破壊しないときと定義
される。
【0049】
出力:フィルムを、ブローフィルム条件に従って延伸した。次いで、フィルムを1分間
集め、秤量した。g/minの単位によるフィルムの出力が次いで計算され、kg/hr
の単位で報告される。
【0050】
ダート落下衝撃:この試験方法は、自由落下ダート衝撃の指定の条件下でプラスチック
フィルムが不合格になるエネルギーの測定を対象に含むASTM D1709のメソッド
Aに従う。このエネルギーは、試験された試験片の50%が不合格になる指定の高さ0.
66±0.01mからの落下の重量によって表される。
【0051】
突刺抵抗:この試験は自社の方法であり、試験片が、張力をかけずにUTM内のリング
クランプアタッチメントの円板の間にクランプされる。力が、試験片の支持されていない
部分の中央に対して、荷重指示計に取り付けられた棒鋼によって、試験片の破壊が起こる
まで加えられる。記録される最大の力が突刺抵抗値である。
【0052】
フィルムの引張強さ:この試験方法は、ASTM D882に従ったフィルム(厚さ1
.0mm未満)の引張特性の測定を対象に含む。試験では、一定のグリップ分離速度(5
00mm/min)を用いる。
【0053】
引裂強さ:この試験方法は、プラスチックフィルムの指定の長さにわたって引裂きを伝
える平均力の測定を対象とし、ASTM D1922に従ったエルメンドルフ形引裂試験
機を使用する。
【0054】
溶融強度及びドローダウン比(DD):これらは、GOEFFERT Rheoten
sを使用して測定される。溶融押出は、ダイ直径2mmの一軸スクリュー押出機によって
、溶融温度190℃で実施される。押出物は、ランプ速度が制御されたRheotens
haul-offを通過する。引取力が記録される。力(N)が延伸比(DD)に応じ
て収集される。溶融強度及びドローダウン比は、破断力及び破断ドローダウン比(draw d
own ratio at break)とそれぞれ定義される。
【実施例0055】
本発明のフィルムを上述の組成物から調製するために、本発明の反応器システムを使用
して得ることができるある部分範囲の多峰性ポリエチレン組成物が特に好ましいことが明
らかになった。詳細には、本発明のフィルムの生成に適した組成物は以下の通りであり、
以下の特性を有する。以下の比較例は、フィルムに関する組成物に関係する。
【0056】
本発明の実施例E1を、開示のプロセスに従って製造し、表1に示す多峰性ポリエチレ
ン組成物を調製した。特定の多峰性ポリエチレン組成物は、フィルムの優れた特性、特に
薄フィルムを調製する能力を高める。薄フィルムは、厚さが薄い、例えば5ミクロンのフ
ィルムである。これはまた、同等の特性を持つフィルム厚を従来のフィルム厚にダウンゲ
ージする能力にも関係し得る。
【0057】
本発明の実施例E2は、開示のプロセスによって製造された、表3に示す特許請求の範
囲内の0.114g/10minのMI2及び0.9570g/cm3の密度を有するポ
リマーを有する多峰性ポリエチレン組成物である。これは、フィルム製造における良好な
加工及びより高い出力速度を示すと共に、12ミクロンのフィルム厚で、特性、特にダー
ト落下衝撃及び突刺抵抗を維持する。
【0058】
【0059】
比較例1(CE1)は、市販の樹脂EL-Lene(商標)H5604Fであり、0.
03g/10minのMI2及び0.9567g/cm3の密度を有する。これは、スラ
リーカスケードプロセスにおいて製造された二峰性ポリエチレンである。
【0060】
比較例2(CE2)は、CE1と、1.0g/10minのMI2及び0.9180g
/cm3の密度を有する市販の樹脂LLDPE(Dow(商標)Butene 1211
)とのブレンドである。これは、フィルム製造において、より良いフィルム強度、特にダ
ート落下衝撃及び引裂強さを得るための実際的な方法である。
【0061】
比較例3(CE3)は、開示のプロセスによって製造された、薄フィルム用組成物の特
定の範囲外の組成及び分子量分布を有する多峰性ポリエチレン組成物である。
【0062】
そのように調製された成形組成物から、フィルムを以下のように製造した。異なる厚さ
及び出力を有するフィルムを、管状のインフレーションフィルム装置と接続している一軸
スクリュー押出機を含む内部のブローフィルム装置で調製した。押出機からダイまでの温
度設定は175~205℃である。各実験において異なるフィルム厚を調製するためのス
クリュー速度及びニップロール巻取速度は表2に記載されている。フィルムを、ブローア
ップ比4:1及びネック高さ30cm並びにバブル直径23cm及びフィルムレイフラッ
ト39cmで製造した。
【0063】
【0064】
フィルムを、表3に示す通り、加工性及び機械特性について縦方向MD及び横方向TD
の両方でさらに評価した。
【0065】
【0066】
本発明の実施例1及び2、E1は、比較例CE1、CE2及びCE3と比べて、同じ条
件により調製された12ミクロンのフィルムの優れた特性を示す。E2は、フィルム特性
及びより高い出力並びに良好なバブル安定性の維持を示す。特に、フィルムの両方向のダ
ート落下衝撃強さ、引張強さ及び突刺抵抗。また、フィルムは、より高い出力で製造され
る。
【0067】
薄フィルムを5ミクロンで調製する別の実験を実験2において実施した。本発明の実施
例E1は、より良い延伸能をより高い出力で示し、容易に5ミクロンのフィルムに延伸で
きて、良好なバブル安定性及び良好な機械強度を持つ。同じ実験を比較例CE1に適用し
たが、バブル破壊が突然見られた。CE1を用いた5ミクロンのフィルムの調製は、実験
3において実施したようにスクリュー速度及びニップロール巻取速度を下げて出力を低下
させた場合のみ可能であった。これもまた、rheotenにより測定される破断ドロー
ダウンに関連する。本発明の実施例1 E1は、比較例CE1と比べてさらに高い破断ド
ローダウンを有する。
【0068】
さらに、実験2において本発明の実施例E1により調製された5ミクロンのフィルムの
特性もまた、実験1でCE1により調製された12ミクロンのフィルムと同等である(特
にダート落下衝撃強さ、引張破断強さ及び突刺抵抗)。これもまた、機械特性を犠牲にす
ることなくフィルム厚をダウンゲージできる能力を示した。また、LLDPEを使用せず
に、比較例CE2と比べて良好な機械特性を得ることも可能であった。
【0069】
これらの結果は、本発明の多峰性ポリエチレン組成物が、薄フィルム調製のための機械
強度と高出力のより良いバランスをもたらすことを支持する。
【0070】
以上の説明及び特許請求の範囲に開示されている特徴は、個別でも、任意の組み合わせ
でも、本発明をその多様な形態で実現するために重要であり得る。