(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166098
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】新規なヒト血清アルブミン変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/14 20060101AFI20221025BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20221025BHJP
C07K 14/765 20060101ALI20221025BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221025BHJP
C07K 14/61 20060101ALI20221025BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221025BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221025BHJP
A61P 5/06 20060101ALI20221025BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20221025BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20221025BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20221025BHJP
A61K 38/27 20060101ALI20221025BHJP
C12N 15/85 20060101ALN20221025BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
C12N15/14 ZNA
C12N15/62 Z
C07K14/765
C07K19/00
C07K14/61
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61P5/06
A61P3/02
A61K47/64
A61K47/65
A61K38/27
C12N15/85 Z
C12P21/02 C
C12P21/02 H
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125052
(22)【出願日】2022-08-04
(62)【分割の表示】P 2021082852の分割
【原出願日】2016-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2015177093
(32)【優先日】2015-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(74)【代理人】
【識別番号】100225118
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 慧
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 彩
(72)【発明者】
【氏名】森本 秀人
(72)【発明者】
【氏名】木下 正文
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生理活性蛋白質と結合させることによりその生理活性蛋白質の血中安定性を高めることのできる、新規なヒト血清アルブミン変異体を提供する。
【解決手段】生理活性蛋白質と連結させてその蛋白質の血中安定性を高めることのできる、特定のアミノ酸配列を含んでなるヒト血清アルブミン変異体、及びこれを連結させた他の蛋白質(A)との連結蛋白質。ここで、当該他の蛋白質(A)は、例えば、ヒト成長ホルモンである。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるヒト血清アルブミン変異体。
【請求項2】
請求項1に記載のヒト血清アルブミン変異体のアミノ酸配列を含んでなる第1のポリペプチド鎖と,これに連結された他の蛋白質(A)のアミノ酸配列を含んでなる第2のポリペプチド鎖とを含んでなるものである,ヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項3】
(a)該第1のポリペプチド鎖のN末端に該第2のポリペプチド鎖のC末端が,又は
(b)該第1のポリペプチド鎖のC末端に該第2のポリペプチド鎖のN末端が,
ペプチド結合を介して連結しているものである,請求項2に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項4】
該ペプチド結合を介した連結が,リンカーとのペプチド結合を含むものである,請求項3に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項5】
該リンカーが,1~50個のアミノ酸残基からなるものである,請求項4に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項6】
該リンカーが,1~6個のアミノ酸残基からなるものである,請求項4に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項7】
該リンカーが,Gly-Ser,Gly-Gly-Ser,配列番号4,配列番号5,及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる群から選択されるものである,請求項6に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項8】
該リンカーが,アミノ酸配列Gly-Serで示されるものである,請求項6に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項9】
該他の蛋白質(A)が,生体内に投与したときに生理活性を示すものである,請求項2乃至8の何れかに記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項10】
該他の蛋白質(A)が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリルスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ,ヘパラン硫酸N-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,CLN1~10を含むリソソーム酵素,PD-1リガンド,骨形成蛋白質(BMP),インスリン,プロラクチン,モチリン,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),メラノサイト刺激ホルモン(MSH),甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH),甲状腺刺激ホルモン(TSH),黄体形成ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH),副甲状腺ホルモン(PTH)トロンボポエチン,幹細胞因子(SCF),レプチン,バソプレシン,オキシトシン,カルシトニン,グルカゴン,ガストリン,セクレチン,パンクレオザイミン,コレシストキニン,アンジオテンシン,アンジオスタチン,エンドスタチン,ヒト胎盤ラクトーゲン(HPL),ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(HCG),エンケファリン,エンドルフィン,インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン2,サイモポイエチン,サイモスチムリン,胸腺液性因子(THF),血中胸腺因子(FTS),サイモシン,サイミックファクターX,腫瘍壊死因子(TNF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),ウロキナーゼ,組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA),デイノルフィン,ボンベシン,ニューロテンシン,セルレイン,ブラディキニン,アスパラギナーゼ,カリクレイン,サブスタンスP,神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),脳由来神経栄養因子(BDNF),グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),血管内皮増殖因子(VEGF),骨形成タンパク質(BMP),巨核球増殖分化因子(MGDF),血液凝固因子VII,血液凝固因子VIII,血液凝固因子IX,スーパーオキシドジスムターゼ(SOD),組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA),塩酸リゾチーム,ポリミキシンB,コリスチン,グラミシジン,バシトラシン,胃酸分泌抑制ポリペプチド(GIP),血管作動性腸ポリペプチド(VIP),血小板由来成長因子(PDGF),成長ホルモン分泌因子(GRF),上皮細胞成長因子(EGF),エリスロポエチン,ソマトスタチン,インスリン様成長因子1(IGF-1),20K成長ホルモン,22K成長ホルモン,及びこれらの塩,若しくは変異体からなる群から選択されるものである,請求項9に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項11】
該他の蛋白質(A)が,22Kヒト成長ホルモンである,請求項9に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項12】
該他の蛋白質(A)が,ヒト20Kヒト成長ホルモンである,請求項9に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項13】
該ヒト血清アルブミン変異体のN末端に,該20Kヒト成長ホルモンのC末端がペプチド結合した,配列番号12で示されるアミノ酸配列からなる,請求項12に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【請求項14】
請求項9に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質を有効成分として含有してなる,医薬。
【請求項15】
骨端線閉鎖を伴わない成長ホルモン分泌不全性低身長症,骨端線閉鎖を伴わないターナー症候群における低身長,骨端線閉鎖を伴わない慢性腎不全による低身長症,骨端線閉鎖を伴わないプラダーウィリー症候群における低身長症,骨端線閉鎖を伴わない軟骨異栄養症における低身長症,骨端線閉鎖を伴わないSGA性低身長症,成人成長ホルモン分泌不全症,AIDSによる消耗,及び拒食症による消耗からなる群から選択される疾患の治療剤である,請求項12に記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質を有効成分として含有してなる,医薬。
【請求項16】
請求項1に記載のヒト血清アルブミン変異体をコードする遺伝子を含むDNA。
【請求項17】
請求項2乃至8の何れかに記載のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質をコードする遺伝子を含むDNA。
【請求項18】
請求項17に記載のDNAを含んでなる発現ベクター。
【請求項19】
請求項18に記載のベクターで形質転換された哺乳類細胞。
【請求項20】
請求項19に記載の哺乳類細胞を,無血清培地で培養することにより得られる,ヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,生理活性を有する蛋白質と連結させることにより,当該蛋白質の血中安定性を高めることのできる新規なヒト血清アルブミン変異体,及び当該ヒト血清アルブミン変異体と生理活性を有する蛋白質とを連結させたヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(HSA変異体連結蛋白質),例えばヒト血清アルブミン変異体連結ヒト成長ホルモンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト血清アルブミン(HSA)は,その成熟型が585個のアミノ酸からなる蛋白質である。HSAは,血漿蛋白質の中では最も量の多い成分で,血漿中での半減期が14~20日と長い。HSAは,血漿の浸透圧の調節に寄与するとともに,血中の陽イオン,脂肪酸,ホルモン類,ビリルビンその他の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質と結合してそれらを運搬する機能を有する。一般に,HSAと結合した物質は,臓器に取り込まれ難くなり,血中をより長時間循環できるようになる。
【0003】
ヒト血清アルブミン(HSA)には,天然のバリアントが複数あることが知られている。ヒト血清アルブミンRedhillはその一つである(非特許文献1,2)。ヒト血清アルブミンRedhillは,585個のアミノ酸からなる上記の通常のヒト血清アルブミンのアミノ酸配列と比べて,そのN末端側から320番目のアミノ酸残基がアラニンでなくトレオニンであり,且つそのN末端にアルギニン残基が一つ付加している点で異なり,586個のアミノ酸からなる。上記アラニンのトレオニンへの変化により,アルブミンRedhillではそのアミノ酸配列中にAsn-Tyr-Thrで表される配列が生じ,この配列中のAsn(アスパラギン)残基がN-結合型グリコシド化される。このためアルブミンRedhillは,上記の通常のヒト血清アルブミンと比較して分子量が2.5kDa程大きく観察される。
【0004】
酵素等の蛋白質の血漿中での安定性を,当該蛋白質にHSAを融合させることによって増加させる方法が報告されている(非特許文献3,特許文献1,2)。HSAと酵素等との融合蛋白質は,HSAをコードする遺伝子と酵素等の蛋白質をコードする遺伝子とをインフレームに結合させたDNAを組込んだ発現ベクターを導入した形質転換細胞を作製し,この細胞を培養することにより,培地中又は細胞内に組換え蛋白質として作製される。
【0005】
ヒト血清アルブミン(HSA)と融合させて血漿中での安定性を増加させた蛋白質の例としては,HSAとG-CSFとの融合蛋白質(特許文献1,3),HSAとインターフェロンαとの融合蛋白質(特許文献4),HSAとGLP-1との融合蛋白質(特許文献5),HSAとインスリンとの融合蛋白質(特許文献6),HSAとエリスロポエチンとの融合蛋白質(特許文献7),HSAと成長ホルモンとの融合蛋白質(特許文献4,5及び8~11)等がある。
【0006】
ヒト成長ホルモン(hGH)は,視床下部の制御下で下垂体前葉から分泌される蛋白質である。hGHは,軟骨形成促進,蛋白質同化促進等の成長促進活性を示すほか,体組成及び脂質代謝改善作用を示す。hGHの分泌が少ない小児は,健常児と比較して低身長を呈する成長ホルモン分泌不全性低身長症を発症する。
【0007】
hGH遺伝子を導入した大腸菌を用いて組換え蛋白質として製造された分子量約22KDのhGHを有効成分として含有する製剤(hGH製剤)が,成長ホルモン分泌不全性低身長症,ターナー症候群における低身長,骨端線閉鎖を伴わないSGA(Small-for-Gestational Age)性低身長症,慢性腎不全による低身長症,プラダーウィリー症候群における低身長症,軟骨異栄養症における低身長症の治療剤として広く臨床応用されている。hGH製剤は,皮下又は筋肉内に投与されて血中を循環し,その成長促進活性により患者の成長を促す効果を奏する。また,hGH製剤は,成人成長ホルモン分泌不全症の治療剤としても広く臨床応用されている。成人成長ホルモン分泌不全症の患者では,脂質代謝異常等種々の異常が認められるが,hGH製剤の投与により,患者の脂質代謝が正常化する等,患者のQOLが改善される。成長ホルモン分泌不全性低身長症,成人成長ホルモン分泌不全症等に対するhGH製剤としては,例えば,グロウジェクト(登録商標)がある。
【0008】
血漿中におけるhGHの安定性を増加させる試みは,臨床上の要請によるものである。hGHの血漿中における半減期は20分未満とされており,患者に投与されたhGHは,速やかに血中から消失する。このため,hGHの薬効を患者で実質的に発揮させるには,患者にhGHを週に3回筋肉内に又は毎日皮下に投与する必要がある。このような頻繁な投与は患者の負担となっている。従って,hGHの血漿中における安定性を増加させて半減期を延長させることにより患者へのhGHの投与回数を減らすことができれば,患者の負担を軽減させることができ,好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平7-503368号公報
【特許文献2】特開平3-178998号公報
【特許文献3】特表平7-503844号公報
【特許文献4】特表2003-530838号公報
【特許文献5】特表2005-514060号公報
【特許文献6】特表2010-500031号公報
【特許文献7】特開2011-015690号公報
【特許文献8】特表2000-502901号公報
【特許文献9】特表2008-518615号公報
【特許文献10】特表2013-501036号公報
【特許文献11】特表2013-518038号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Brand S. et al., Clin Chim Acta. 136, 197-202 (1984)
【非特許文献2】Brennan SO. et al., Proc Natl Acad Sci USA. 87, 26-30 (1990)
【非特許文献3】Poznansky MJ. et al., FEBS Letter. 239, 18-22 (1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記背景の下で,本発明の一目的は,所望の生理活性蛋白質(本明細書において蛋白質(A)ともいう。)と結合させることによりその生理活性蛋白質の血中安定性を高めることのできる,新規なヒト血清アルブミン変異体を提供することである。本発明の更なる一目的は,所望の蛋白質(例えば,成長ホルモン)と,これに連結された当該ヒト血清アルブミン変異体とを含んでなる,ヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質を提供することである。本発明の尚も更なる一目的は,所望の蛋白質を当該ヒト血清アルブミン変異体と連結させることにより,当該蛋白質の血中安定性を高める方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは,上記目的に向けた研究において検討を重ねた結果,585個のアミノ酸からなる通常のヒト血清アルブミンと比較してそのN末端から320番目のアミノ酸残基であるアルギニンがトレオニンで置き換わっているものであるアミノ酸配列よりなる変異体(ヒト血清アルブミン変異体)をヒト成長ホルモン(hGH)と連結させて得た化合物(ヒト血清アルブミン変異体連結hGH)が,これを生体に投与したときに,元のヒト成長ホルモンに比べて著しく高い血中安定性を示すことを見出し,更に検討を続けて本発明を完成させた。すなわち,本発明は以下を提供する。
1.配列番号3で示されるアミノ酸配列に対し,10個以下のアミノ酸残基が欠失し及び/又は10個以下のアミノ酸残基が置換されてなるアミノ酸配列であって,但し配列番号3で示されるアミノ酸配列のN末端から318番目のアスパラギン残基及び320番目のトレオニン残基がこれら2残基の間にプロリン以外の単一のアミノ酸残基(X)を介してペプチド結合により連結された状態で保存されているものであるアミノ酸配列を含んでなる,ヒト血清アルブミン変異体。
2.該アミノ酸残基(X)がチロシンである,上記1のヒト血清アルブミン変異体。
3.配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるものである,請求項2のヒト血清アルブミン変異体。
4.上記1~3の何れかのヒト血清アルブミン変異体のアミノ酸配列に対し,配列番号3で示されるアミノ酸配列のN末端から318番目~320番目に対応する位置の配列部分以外において,10個以下のアミノ酸残基が付加されてなり,且つ配列番号2に示されるアミノ酸配列とは同一でないものである,ヒト血清アルブミン変異体。
5.上記1~3の何れかのヒト血清アルブミン変異体のアミノ酸配列に対し,10個以下のアミノ酸残基がN末端又はC末端に付加されてなり,且つ配列番号2に示されるアミノ酸配列とは同一でないものである,ヒト血清アルブミン変異体。
6.上記1~5の何れかのヒト血清アルブミン変異体のアミノ酸配列を含んでなる第1のポリペプチド鎖と,これに連結された他の蛋白質(A)のアミノ酸配列を含んでなる第2のポリペプチド鎖とを含んでなるものである,ヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
7.(a)該第1のポリペプチド鎖のN末端に該第2のポリペプチド鎖のC末端が,又は
(b)該第1のポリペプチド鎖のC末端に該第2のポリペプチド鎖のN末端が,
ペプチド結合を介して連結しているものである,上記6のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
8.該ペプチド結合を介した連結が,リンカーとのペプチド結合を含むものである,上記7のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
9.該リンカーが,1~50個のアミノ酸残基からなるものである,上記8のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
10.該リンカーが,1~6個のアミノ酸残基からなるものである,上記8のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
11.該リンカーが,Gly-Ser,Gly-Gly-Ser,配列番号4,配列番号5,及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる群より選択されるものである,上記8のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質。
12.該リンカーが,アミノ酸配列Gly-Serで示されるものである,上記8のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
13.該蛋白質(A)が,生体に投与したときに生理活性を示すものである,上記6~12の何れかのヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
14.該蛋白質(A)が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-ホスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリルスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ,ヘパラン硫酸N-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,CLN1~10を含むリソソーム酵素,PD-1リガンド,骨形成蛋白質(BMP),インスリン,プロラクチン,モチリン,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),メラノサイト刺激ホルモン(MSH),甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH),甲状腺刺激ホルモン(TSH),黄体形成ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH),副甲状腺ホルモン(PTH)トロンボポエチン,幹細胞因子(SCF),レプチン,バソプレシン,オキシトシン,カルシトニン,グルカゴン,ガストリン,セクレチン,パンクレオザイミン,コレシストキニン,アンジオテンシン,アンジオスタチン,エンドスタチン,ヒト胎盤ラクトーゲン(HPL),ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(HCG),エンケファリン,エンドルフィン,インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン2,サイモポイエチン,サイモスチムリン,胸腺液性因子(THF),血中胸腺因子(FTS),サイモシン,サイミックファクターX,腫瘍壊死因子(TNF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),ウロキナーゼ,組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA),ダイノルフィン,ボンベシン,ニューロテンシン,セルレイン,ブラディキニン,アスパラギナーゼ,カリクレイン,サブスタンスP,神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),脳由来神経栄養因子(BDNF),グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),血管内皮増殖因子(VEGF),骨形成蛋白質(BMP),巨核球増殖分化因子(MGDF),血液凝固因子VII,血液凝固因子VIII,血液凝固因子IX,スーパーオキシドジスムターゼ(SOD),塩酸リゾチーム,ポリミキシンB,コリスチン,グラミシジン,バシトラシン,胃酸分泌抑制ポリペプチド(GIP),血管作動性腸ポリペプチド(VIP),血小板由来成長因子(PDGF),成長ホルモン分泌因子(GRF),上皮細胞成長因子(EGF),エリスロポエチン,ソマトスタチン,インスリン様成長因子1(IGF-1),20K成長ホルモン,22K成長ホルモン,及びこれらの塩若しくは変異体からなる群より選択されるものである,上記6~13の何れかのヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
15.該蛋白質(A)が,22K成長ホルモンである,上記6~12の何れかのヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
16.該蛋白質(A)が,20K成長ホルモンである,上記6~12の何れかのヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
17.配列番号11で示されるアミノ酸配列からなるものである,上記15のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
18.配列番号12で示されるアミノ酸配列からなるものである,上記16のヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
19.上記6~18の何れかのヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)を有効成分として含有してなる,医薬。
20.成長ホルモン分泌不全性低身長症,ターナー症候群における低身長,慢性腎不全による低身長症,プラダーウィリー症候群における低身長症,軟骨異栄養症における低身長症,及びSGA性低身長症であって,何れも骨端線閉鎖を伴わないもの,並びに成人成長ホルモン分泌不全症,AIDSによる消耗,及び拒食症による消耗からなる群より選択される疾患の治療剤である,上記19の医薬。
21.上記1~5の何れかのヒト血清アルブミン変異体をコードする遺伝子を含んでなるDNA。
22.上記6~18の何れかのヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)をコードする遺伝子を含んでなるDNA。
23.上記21又は22のDNAを含んでなる発現ベクター。
24.上記23のベクターで形質転換された哺乳類細胞。
25.上記24の哺乳類細胞を,無血清培地で培養することにより得られる,ヒト血清アルブミン変異体又はヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,医薬品として動物(ヒトを含む)に投与されるべき生理活性のある所望の生理活性蛋白質の血中安定性を高めることができる。そのため,それらの生理活性蛋白質の薬効を高めることができ,その薬効の持続時間の延長ももたらすことができる。またそれにより,それらの生理活性蛋白質の投与量や投与頻度を減ずることも可能となり,患者のQOLの向上を可能にすると共に,従来の頻繁な投与に起因する感染や医療事故の防止にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】pE-neoベクターの構築方法を示す流れ図。
【
図2】pE-hygrベクターの構築方法を示す流れ図。
【
図3-1】pE-IRES-GS-puroの構築方法を示す流れ図。
【
図3-2】pE-IRES-GS-puroの構築方法を示す流れ図。
【
図3-3】pE-IRES-GS-puroの構築方法を示す流れ図。
【
図3-4】pE-IRES-GS-puroの構築方法を示す流れ図。
【
図3-5】pE-IRES-GS-puroの構築方法を示す流れ図。
【
図3-6】pE-IRES-GS-puroの構築方法を示す流れ図。
【
図3-7】pE-IRES-GS-puroの構築方法を示す流れ図。
【
図3-8】pE-IRES-GS-puroの構築方法を示す流れ図。
【
図3-9】pE-IRES-GS-puroの構築方法を示す流れ図。
【
図4】pE-mIRES-GS-puroの構築方法を示す流れ図。
【
図5】BaF3/hGHR細胞を用いたHSA-hGH融合蛋白質の細胞増殖活性の測定結果を示す図。縦軸は490nmの吸光度,横軸は各検体の濃度(nM)を示す。縦棒は標準偏差を示す。
【
図6】カニクイザルを用いたHSA-hGH融合蛋白質の薬物動態解析の結果を示すグラフ。縦軸はカニクイザル血漿中のHSA-hGH融合蛋白質の濃度(ng/mL),横軸はHSA-hGH融合蛋白質を投与後の経過時間(時間)を示す。グラフ内の縦棒は標準偏差を示す。
【
図7】カニクイザルを用いたHSA-hGH融合蛋白質の薬効解析の結果を示すグラフ。縦軸はHSA-hGH融合蛋白質を投与前の濃度を100%としたときの,カニクイザル血漿中のIGF-1の濃度(%),横軸はHSA-hGH融合蛋白質を投与後の経過時間(日)を示す。グラフ内の縦棒は標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において,単に「ヒト血清アルブミン」又は「HSA」というときは,配列番号1で示される585個のアミノ酸残基からなる通常の野生型のヒト血清アルブミンに加え,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等の通常の野生型ヒト血清アルブミンとしての機能を有するものである限り,配列番号1で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するHSAの変異体も特に区別することなく包含する。アミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。例えば,配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端又はC末端のアミノ酸残基が欠失した,584個のアミノ酸残基からなる変異体も,ヒト血清アルブミンに含まれる。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせてもよい。更に,通常の野生型のHSA又はその変異体のアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端側若しくはC末端側に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加(「付加」は配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものでもよい。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。
【0016】
これらアミノ酸の置換及び欠失,及び付加の3種類の変異のうち,少なくとも2種類の変異を組み合わせて導入したHSAの変異体としては,配列番号1で示されるアミノ酸配列に対し,0~10個のアミノ酸残基の欠失と,0~10個のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換と,更に0~10個のアミノ酸残基の付加とを行ってなるアミノ酸配列を有するものが好ましい。より好ましくは,配列番号1で示されるアミノ酸配列に対するそれら欠失,置換,及び/又は付加されるアミノ酸残基の個数は,好ましくはそれぞれ5個以下,更に好ましくは3個以下である。
【0017】
本発明において,「ヒト血清アルブミンRedhill」(HSA-Redhill)の語は,ヒト血清アルブミンのバリアントであって,配列番号2で示される586個のアミノ酸残基からなるものを意味する。ヒト血清アルブミンRedhillは,配列番号1で示される585個のアミノ酸からなる野生型のヒト血清アルブミンのアミノ酸配列に対して,N末端から320番目のアミノ酸残基がアラニンでなくトレオニンであり且つN末端にアルギニン残基が一つ付加したものに相当する。このアラニンのトレオニンへの置換により,アルブミンRedhillではそのアミノ酸配列中にAsn-Tyr-Thrで表される配列部分が生じ,この配列部分中のAsn(アスパラギン)残基がN-結合型グリコシド化されている。このためアルブミンRedhillは,通常の野生型アルブミン(配列番号1)と比較して分子量が2.5kDa程大きく観察される。
【0018】
本発明において,「ヒト血清アルブミン変異体」(HSA変異体)の語は,通常の野生型HSA(配列番号1)に対する上述の変異体であって,但し配列番号2で示されるバリアント(HSA-Redhill)以外のものをいう。本発明において好ましいHSA変異体は,配列番号3で示されるものに加え,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等の通常の野生型ヒト血清アルブミンとしての機能を有するものである限り,配列番号3で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加されたアミノ酸配列であって,但し配列番号3で示されるアミノ酸配列のN末端から318番目のアスパラギン残基及び320番目のトレオニン残基が,これら2残基の間にプロリン以外の単一のアミノ酸残基(X)を介してペプチド結合により連結された状態で保存されているものであるアミノ酸配列を有するものを含む。当該アミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。例えば,配列番号3で示されるアミノ酸配列のN末端又はC末端のアミノ酸残基が欠失した,584個のアミノ酸残基からなる変異体でもよい。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせたものであってもよい。更に,それら変異体のアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端側若しくはC末端側に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加されたものであってもよい。即ち,配列番号3で示されるアミノ酸配列に対し,アミノ酸の置換及び欠失,及び付加の3種類の変異のうち,少なくとも2種類の変異を組み合わせて導入したものであって,0~10個のアミノ酸残基の欠失と,0~10個のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換と,更に0~10個のアミノ酸残基の付加とを行ったものであることができる。但し,配列番号3に示されるアミノ酸配列のN末端から318~320番目のアミノ酸残基はアスパラギン-X-トレオニン(「X」はプロリン以外のアミノ酸残基)でなければならず,好ましくは,アスパラギン-チロシン-トレオニンである。
【0019】
本発明の種々のHSA変異体における通常の野生型HSAと比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,付加)は,両HSAのアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。
【0020】
後述の実施例において作製されたヒト血清アルブミン変異体(本発明のHSA変異体の典型的一例)は,585個のアミノ酸からなる野生型のヒト血清アルブミンのアミノ酸配列(配列番号1)に対し,N末端から320番目のアミノ酸残基がアラニンでなくトレオニンである点においてのみ異なる(配列番号3)。この相違により,当該HSA変異体(「HSA(A320T)」という。)ではそのアミノ酸配列中にAsn-Tyr-Thrで表される配列部分が生じ,この配列部分においてAsn(アスパラギン)残基がN-結合型グリコシド化されることができる。
【0021】
本発明のHSA変異体は,本発明のHSA変異体をコードするDNAを組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを用いて形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として製造することができる。
【0022】
本発明において,ヒト血清アルブミン変異体に連結される相手となる生理活性を有する蛋白質(本明細書において,「蛋白質(A)」ともいう。)は,血清アルブミン(変異体か否かを問わない)以外の蛋白質であって生理活性を有するものをいう。また,ここに「生理活性」とは,生体に対し作用して何等かの特定の生理的変化をもたらす能力をいい,例えば,種々の酵素(例えば,リソソーム酵素群),ペプチドホルモン(蛋白質ホルモン),神経伝達物質,成長因子,シグナル伝達因子等,種々の生理的調節(促進,抑制)に関与する蛋白質を含む。
【0023】
本明細書において,「ヒト血清アルブミン変異体連結蛋白質(A)」又は「HSA変異体連結蛋白質(A)」の語は,本発明のHSA変異体が連結されている蛋白質(A)をいい,これは両者の各アミノ酸配列を有するポリペプチド同士を連結させることで得られる化合物である。ここで,それらのポリペプチドを「連結」させる」とは,一方のN末端と他方のC末端との間の直接のペプチド結合による場合のみならず,両ポリペプチドをリンカーを介して間接的に結合させる場合も含む。
【0024】
ここに「リンカー」は,上記2つのポリペプチドの間にあって両者を共有結合で連結する構造部分であり,本発明のHSA変異体とその連結相手である蛋白質(A)の何れの末端にも由来しないものである。リンカーは,両ポリペプチドとペプチド結合した,単一のアミノ酸残基であるか又は2個以上のアミノ酸残基からなるペプチド鎖部分(ペプチドリンカー)であることができ,これら1個以上のアミノ酸残基からなるリンカーを,本明細書において包括的に「ペプチドリンカー」という。本発明においてリンカーは,ペプチドリンカー以外の2価の基であってHSA変異体と蛋白質(A)との間を共有結合により連結する構造部分であることもでき,それらを本明細書において「非ペプチドリンカー」という。また,本明細書において,HSA変異体と蛋白質(A)が「ペプチド結合を介して」連結しているというときは,両者が直接ペプチド結合により連結している場合と両者がペプチドリンカーとの結合により連結している場合とを包含する。なお,本明細書において,HSA変異体と蛋白質(A)とが直接に又はペプチドリンカーを介して結合している場合,当該化合物である「HSA変異体連結蛋白質(A)」は,「HSA変異体融合蛋白質(A)」ともいう。
【0025】
本発明のHSA変異体と蛋白質(A)がペプチドリンカーを介して連結されているとき,そのリンカーは,好ましくは1~50個,より好ましくは1~17個,更に好ましくは1~10個,尚も好ましくは1~6個のアミノ酸残基で構成されており,例えば,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個又は25~29個のアミノ酸で構成されるものであり,更に例えば,1個のアミノ酸残基のみで,又は2個,3個,5個,6個又は20個のアミノ酸残基から構成されるものである。ペプチドリンカーで連結されたHSA変異体部分がHSAとしての機能を保持し且つ蛋白質(A)の部分も生理的条件下で蛋白質(A)の生理活性を発揮できる限り,ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基又はアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものである。ペプチドリンカーの好適な例として,Gly-Ser,Gly-Gly-Ser,Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号4),Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号5),Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号6)からなるもの,及びこれらアミノ酸配列を含んでなるものが挙げられる。これらのアミノ酸配列の何れか一種が2~10回,あるいは2~5回連続してなる配列を有するものも,ペプチドリンカーとして好適に使用でき,また,これらのアミノ酸配列の何れかニ種以上が組み合わさって1~10回,あるいは2~5回連続してなる配列を有するものも,ペプチドリンカーとして好適に使用できる。これらのアミノ酸配列の何れかニ種以上が組み合わさったペプチドリンカーの好適なものとして,アミノ酸配列Gly-Serに続いてアミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号5)が3個連続してなる計20個のアミノ酸配列を含むものが挙げられる。
【0026】
2つの異なるポリペプチドを連結する方法としては,例えば,一方のポリペプチドをコードする遺伝子の下流に,インフレームで他方のポリペプチドをコードする遺伝子を結合させたDNAを組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを用いて形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え融合蛋白質として発現させる方法が一般的であり,本発明において利用できる。
【0027】
組換え体として形質転換細胞に発現させることによりHSA変異体融合蛋白質(A)を産生させる場合,蛋白質(A)のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドが,HSA変異体のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドのN末端又はC末端の何れかに連結された形の融合蛋白質が得られる。
【0028】
HSA変異体のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドのN末端側に蛋白質(A)のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを連結させる場合,蛋白質(A)のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドをコードする遺伝子の下流に,HSA変異体のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドをコードする遺伝子をインフレームで連結させたDNAを組み込んだ発現ベクターが用いられる。ペプチドリンカーを介して2つのポリペプチドを間接的に連結させる場合は,2つのポリペプチドをコードする遺伝子の間に,当該リンカーをコードするDNA配列がインフレームで挿入される。
【0029】
HSA変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドのC末端側に蛋白質(A)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを連結させる場合,蛋白質(A)のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子の上流に,HSA変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子をインフレームで連結させたDNAを組み込んだ発現ベクターが用いられる。ペプチドリンカーを介して2つのポリペプチドを間接的に連結させる場合は,2つのポリペプチドをコードする遺伝子の間に,当該リンカーをコードするDNA配列がインフレームで挿入される。
【0030】
HSA変異体又はHSA変異体融合蛋白質(A)を宿主細胞に産生させるには,それらの何れかをコードするDNAを組み込んだ発現ベクターが宿主細胞に導入される。このために用いることのできる宿主細胞は,そのような発現ベクターを導入することにより本発明のHSA変異体又はHSA変異体融合蛋白質(A)を発現させることができるものである限り特に制限はなく,哺乳動物細胞,酵母,植物細胞,昆虫細胞等の真核生物細胞,大腸菌,枯草菌等の原核細胞の何れであってもよいが,哺乳動物細胞が特に好適である。但し,糖鎖修飾された蛋白質(A)として発現させる場合の宿主細胞は,哺乳動物細胞,酵母,植物細胞,昆虫細胞等の真核生物細胞から選択される。通常野生型のHSAの320番目のアミノ酸残基がトレオニンとなることにより生じるAsn-Tyr-Thrで表される配列部分のAsn残基,又はAsn-X-Thr(「X」はプロリン以外のアミノ酸残基)で表される配列中のAsn残基は,HSA変異体融合蛋白質(A)の発現を真核生物細胞で行わせることによりN-結合型グリコシド化される。
【0031】
哺乳動物細胞を宿主細胞として使用する場合,該哺乳動物細胞の種類について特に限定はないが,ヒト,マウス,チャイニーズハムスター由来の細胞が好ましく,特にチャイニーズハムスター卵巣細胞由来のCHO細胞,又はマウス骨髄腫に由来するNS/0細胞が好ましい。またこのとき本発明のHSA変異体又はHSA変異体融合蛋白質(A)をコードするDNA断片を組み込んで発現させるために用いる発現ベクターは,哺乳動物細胞内に導入したとき該遺伝子の発現をもたらすものであれば特に限定なく用いることができる。発現ベクターに組み込まれた該遺伝子は,哺乳動物細胞内で遺伝子の転写の頻度を調節することができるDNA配列(遺伝子発現制御部位)の下流に配置される。本発明において用いることのできる遺伝子発現制御部位としては,例えば,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1α(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター等が挙げられる。
【0032】
このような発現ベクターが導入された哺乳動物細胞は,発現ベクターに組み込まれている蛋白質を発現するようになるが,その発現量は個々の細胞により異なり一様ではない。従って,本発明のHSA変異体又はHSA変異体融合蛋白質(A)を効率よく生産するためには,発現ベクターが導入された哺乳動物細胞から,これらの発現レベルが高い細胞を選択するステップが必要となる。この選択ステップを行うために,発現ベクターには選択マーカーとして働く遺伝子が組み込まれている。
【0033】
選択マーカーとして最も一般的なものはピューロマイシン,ネオマイシン等の薬剤を分解する酵素(薬剤耐性マーカー)である。哺乳動物細胞は通常一定濃度以上のこれらの薬剤の存在下で死滅する。しかし,薬剤耐性マーカー遺伝子の組み込まれた発現ベクターが導入された哺乳動物細胞は,発現された薬剤耐性マーカーにより上記薬剤を分解し,これを無毒化又は弱毒化することができるため,上記薬剤存在下でも生存可能となる。選択マーカーとして薬剤耐性マーカーが組み込まれた発現ベクターを哺乳動物細胞に導入し,その薬剤耐性マーカーに対応する薬剤を含有する選択培地中で,その薬剤の濃度を徐々に上昇させながら培養を続けると,より高濃度の薬剤存在下でも増殖可能な細胞が得られる。このようにして選択された細胞では,薬剤耐性マーカーとともに,一般に,発現ベクターに組み込まれた目的の蛋白質をコードする遺伝子の発現量も増加し,結果として当該蛋白質の発現レベルの高い細胞が選択される。
【0034】
また,選択マーカーとして,グルタミン合成酵素(GS)を用いることもできる。グルタミン合成酵素は,グルタミン酸とアンモニアからグルタミンを合成する酵素である。哺乳動物細胞を,グルタミン合成酵素の阻害剤,例えばメチオニンスルホキシミン(MSX)を含有し,且つグルタミンを含有しない選択培地中で培養すると,細胞は通常死滅する。しかし,選択マーカーとしてグルタミン合成酵素が組み込まれた発現ベクターを哺乳動物細胞に導入すると,該細胞では,グルタミン合成酵素の発現レベルが上昇するようになるので,より高濃度のMSX存在下でも増殖可能となる。このとき,MSXの濃度を徐々に上昇させながら培養を続けると,より高濃度のMSX存在下でも増殖可能な細胞が得られる。このようにして選択された細胞では,グルタミン合成酵素とともに,一般に,発現ベクターに組み込んだ目的の蛋白質をコードする遺伝子の発現量も増加し,結果として当該蛋白質の発現レベルの高い細胞が選択される。
【0035】
また,選択マーカーとして,ジヒドロ葉酸レデクターゼ(DHFR)を用いることもできる。DHFRを選択マーカーとして用いる場合,発現ベクターを導入した哺乳動物細胞は,メトトレキセート,アミノプテリン等のDHFR阻害剤を含有する選択培地中で培養される。DHFR阻害剤の濃度を徐々に上昇させながら培養を続けると,より高濃度のDHFR阻害剤存在下でも増殖可能な細胞が得られる。このようにして選択された細胞では,DHFRとともに,一般に,発現ベクターに組み込んだ目的の蛋白質をコードする遺伝子の発現量も増加し,結果として当該蛋白質の発現レベルの高い細胞が選択される。
【0036】
目的の蛋白質をコードする遺伝子の下流側に内部リボソーム結合部位(IRES:internal ribosome entry site)を介して,選択マーカーとしてグルタミン合成酵素(GS)を配置した発現ベクターが知られている(国際特許公報WO2012/063799,WO2013/161958)。これら文献に記載された発現ベクターは,本発明のHSA変異体又はHSA変異体融合蛋白質(A)の製造に特に好適に使用することができる。
【0037】
例えば,目的の蛋白質を発現させるための発現ベクターであって,第1の遺伝子発現制御部位,並びに,その下流に該蛋白質をコードする遺伝子,更に下流に内部リボソーム結合部位,及び更に下流にグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を含み,且つ,上記第1の遺伝子発現制御部位の又はこれとは別の第2の遺伝子発現制御部位の下流にジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子又は薬剤耐性遺伝子を更に含んでなる発現ベクターは,本発明のHSA変異体又はHSA変異体融合蛋白質(A)の製造に好適に使用できる。この発現ベクターにおいて,第1の遺伝子発現制御部位又は第2の遺伝子発現制御部位としては,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1αプロモーター(hEF-1αプロモーター),ヒトユビキチンCプロモーターが好適に用いられるが,hEF-1αプロモーターが特に好適である。
【0038】
また,内部リボソーム結合部位としては,ピコルナウイルス科のウイルス,口蹄疫ウイルス,A型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,コロナウイルス,ウシ腸内ウイルス,サイラーのネズミ脳脊髄炎ウイルス,コクサッキーB型ウイルスからなる群より選択されるウイルスのゲノム,又はヒト免疫グロブリン重鎖結合蛋白質遺伝子,ショウジョウバエアンテナペディア遺伝子,ショウジョウバエウルトラビトラックス遺伝子からなる群から選択される遺伝子の5’非翻訳領域に由来するものが好適に用いられるが,マウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位が特に好適である。マウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位を用いる場合,野生型のもの以外に,野生型の内部リボソーム結合部位に含まれる複数の開始コドンのうちの一部が破壊されたものも好適に使用できる。また,この発現ベクターにおいて,好適に用いられる薬剤耐性遺伝子は,好ましくはピューロマイシン又はネオマイシン耐性遺伝子であり,より好ましくはピューロマイシン耐性遺伝子である。
【0039】
また,例えば,目的の蛋白質を発現させるための発現ベクターであって,ヒト伸長因子-1αプロモーター,その下流に該蛋白質をコードする遺伝子,更に下流にマウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位,及び更に下流にグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を含み,且つ別の遺伝子発現制御部位及びその下流にジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子を更に含む発現ベクターであって,該内部リボソーム結合部位が,野生型の内部リボソーム結合部位に含まれる複数の開始コドンのうちの一部が破壊されたものである発現ベクターは,本発明のHSA変異体又はHSA変異体融合蛋白質(A)の製造に好適に使用できる。このような発現ベクターとして,WO2013/161958に記載された発現ベクターが挙げられる。
【0040】
また,例えば,目的の蛋白質を発現させるための発現ベクターであって,ヒト伸長因子-1αプロモーター,その下流に該蛋白質をコードする遺伝子,更に下流にマウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位,及び更に下流にグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を含み,且つ別の遺伝子発現制御部位及びその下流に薬剤耐性遺伝子を更に含む発現ベクターであって,該内部リボソーム結合部位が,野生型の内部リボソーム結合部位に含まれる複数の開始コドンのうちの一部が破壊されたものである発現ベクターは,本発明のHSA変異体又はHSA変異体融合蛋白質(A)の製造に好適に使用できる。このような発現ベクターとして,WO2012/063799に記載されたpE-mIRES-GS-puro及びWO2013/161958に記載されたpE-mIRES-GS-mNeoが挙げられる。
【0041】
野生型のマウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位の3’末端には,3つの開始コドン(ATG)が存在しており,その3つの開始コドンを含む配列部分は配列番号7(5'-ATGataatATGgccacaaccATG-3':開示コドンのATGを大文字で示す)で示される。この配列部分中の開始コドンのうちの一部が破壊されたものとして,例えば,配列番号8(5'-atgataagcttgccacaaccatg-3')で示されるものがあり,上記のpE-mIRES-GS-puro及びpE-mIRES-GS-mNeoは,配列番号8で示される配列を含むIRESを有する発現ベクターである。
【0042】
本発明において,本発明のHSA変異体又はHSA変異体連結蛋白質(A)をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターが導入された哺乳動物細胞は,これらの発現レベルの高い細胞を選択するために,選択培地中で選択培養される。
【0043】
選択培養において,DHFRを選択マーカーとして使用する場合,選択培地に含まれるDHFR阻害剤の濃度を段階的に上昇させる。その最大濃度は,DHFR阻害剤がメトトレキセートの場合,好ましくは0.25~5μMであり,より好ましくは0.5~1.5μMであり,更に好ましくは約1.0μMである。
【0044】
GSを選択マーカーとして使用する場合,選択培地に含まれるGS阻害剤の濃度を段階的に上昇させる。その最大濃度は,GS阻害剤がMSXの場合,好ましくは100~1000μMであり,より好ましくは200~500μMであり,更に好ましくは約300μMである。またこのとき,一般的にグルタミンを含有しない培地が選択培地として用いられる。
【0045】
ピューロマイシンを分解する酵素を選択マーカーとして使用する場合,選択培地に含まれるピューロマイシンの最大濃度は,好ましくは3~30μg/mLであり,より好ましくは5~20μg/mLであり,更に好ましくは約10μg/mLである。
【0046】
ネオマイシンを分解する酵素を選択マーカーとして使用する場合,選択培地に含まれるG418の最大濃度は,好ましくは0.1mg~2mg/mLであり,より好ましくは0.5~1.5mg/mLであり,更に好ましくは約1mg/mLである。
【0047】
また,哺乳動物細胞の培養のための培地としては,選択培養で用いる培地,後述する組換え蛋白質を生産するために用いる培地(組換え蛋白質生産用培地)ともに,哺乳動物細胞を培養して増殖させることのできるものであれば,特に限定なく用いることができるが,好ましくは無血清培地が用いられる。HSAは血清中に含まれる成分を吸着する性質を有するため,血清を含有する培地を用いてHSAを生産した場合には,血清中の不純物を吸着したHSAが得られることから,その後の工程でこの不純物を除去する必要が生じる。
【0048】
本発明のHSA変異体又はHSA変異体融合蛋白質(A)は,特に,これらを発現している細胞を無血清培地で培養して得られるものである。無血清培地を用いることにより,HSAへの不純物の吸着量を低減することができるので,その後の精製工程を簡便化することができる。
【0049】
選択培養により選択された組換え蛋白質の発現レベルの高い細胞が組換え蛋白質の生産に用いられる(組換え蛋白質産生細胞)。組換え蛋白質の生産は,組換え蛋白質産生細胞を組換え蛋白質生産用培地中で培養することにより行われる。この培養を生産培養という。
【0050】
本発明において,組換え蛋白質生産用培地として用いられる無血清培地としては,例えば,アミノ酸を3~700mg/L,ビタミン類を0.001~50mg/L,単糖類を0.3~10g/L,無機塩を0.1~10000mg/L,微量元素を0.001~0.1mg/L,ヌクレオシドを0.1~50mg/L,脂肪酸を0.001~10mg/L,ビオチンを0.01~1mg/L,ヒドロコルチゾンを0.1~20μg/L,インシュリンを0.1~20mg/L,ビタミンB12を0.1~10mg/L,プトレッシンを0.01~1mg/L,ピルビン酸ナトリウムを10~500mg/L,及び水溶性鉄化合物を含有する培地が好適に用いられる。所望により,チミジン,ヒポキサンチン,慣用のpH指示薬及び抗生物質等を培地に添加してもよい。
【0051】
組換え蛋白質生産用培地として用いられる無血清培地として,DMEM/F12培地(DMEMとF12の混合培地)を基本培地として用いてもよく,これら各培地は当業者に周知である。更にまた,無血清培地として,炭酸水素ナトリウム,L-グルタミン,D-グルコース,インスリン,ナトリウムセレナイト,ジアミノブタン,ヒドロコルチゾン,硫酸鉄(II),アスパラギン,アスパラギン酸,セリン及びポリビニルアルコールを含むものである,DMEM(HG)HAM改良型(R5)培地を使用してもよい。更には市販の無血清培地,例えば,CD OptiCHOTM培地,CHO-S-SFM II培地又はCD CHO培地(Thermo Fisher Scientific社,旧ライフテクノロジーズ社),IS cho-VTM 培地(Irvine Scientific社),EX-CELLTM302培地又はEX-CELLTM325-PF培地(SAFC Biosciences社)等を基本培地として使用することもできる。
【0052】
HSA変異体連結蛋白質(A)を得るためには,両蛋白質を別々に作製し,それぞれのポリペプチドを非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーで連結するという方法も採用してもよい。非ペプチドリンカーの例としては,ポリエチレングリコール(PEG),ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,若しくはこれらの誘導体,又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。他方,ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ本発明のHSA変異体又は所望の蛋白質の何れかとペプチド結合を形成することにより,本発明のHSA変異体と所望の蛋白質とを連結するものである。
【0053】
非ペプチドリンカーとしてPEGを用いて本発明のHSA変異体と蛋白質(A)とを連結させたものは,これを特記する場合,HSA変異体PEG連結蛋白質(A)という。HSA変異体PEG連結蛋白質(A)は,HSA変異体とPEGを結合させ(PEG化HSA変異体),これに蛋白質(A)を結合させることにより,又は,先に蛋白質(A)とPEGとを結合させ(PEG化生理活性蛋白質(A)),これにHSA変異体を結合させることによって,製造することができる。PEGをHSA変異体又は蛋白質(A)と結合させるには,カーボネート,カルボニルイミダゾール,カルボン酸の活性エステル,アズラクトン,環状イミドチオン,イソシアネート,イソチオシアネート,イミデート,又はアルデヒド等の官能基で修飾されたPEGが用いられる。これらPEGに導入された官能基が,主に本発明のHSA変異体及び蛋白質(A)のアミノ基と反応することにより,本発明のHSA変異体及び蛋白質(A)が共有結合する。このとき用いられるPEGの分子量及び形状に特に限定はないが,その平均分子量(MW)は,好ましくはMW=500~60000であり,より好ましくはMW=500~20000である。例えば,平均分子量が約300,約500,約1000,約2000,約4000,約10000,約20000等であるPEGは,非ペプチドリンカーとして好適に使用することができる。
【0054】
例えば,PEG化HSA変異体は,本発明のHSA変異体とアルデヒド基を官能基として有するポリエチレングリコール(ALD-PEG-ALD)とを,HSA/(ALD-PEG-ALD) のモル比が11,12.5,15,110,120等になるように混合し,これにNaCNBH3等の還元剤を添加して反応させることにより得られる。次いで,上記PEG化HSA変異体を,NaCNBH3等の還元剤の存在下で,蛋白質(A)と反応させることにより,HSA変異体PEG連結蛋白質が得られる。逆に,先に蛋白質(A)とALD-PEG-ALDとを結合させてPEG化蛋白質(A)を作製し,これと本発明のHSA変異体とを結合させることによっても,本発明のHSA変異体PEG連結蛋白質(A)を得ることができる。
【0055】
本発明のHSA変異体と連結させる蛋白質(A)は,好ましくは生体に投与したときに生理活性を示す蛋白質であり,所望により選択される。このような蛋白質としては,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-ホスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリルスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ,ヘパラン硫酸N-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,CLN1~10を含むリソソーム酵素,PD-1リガンド,骨形成蛋白質(BMP),インスリン,プロラクチン,モチリン,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),メラノサイト刺激ホルモン(MSH),甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH),甲状腺刺激ホルモン(TSH),黄体形成ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH),副甲状腺ホルモン(PTH)トロンボポエチン,幹細胞因子(SCF),レプチン,バソプレシン,オキシトシン,カルシトニン,グルカゴン,ガストリン,セクレチン,パンクレオザイミン,コレシストキニン,アンジオテンシン,アンジオスタチン,エンドスタチン,ヒト胎盤ラクトーゲン(HPL),ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(HCG),エンケファリン,エンドルフィン,インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン2,サイモポイエチン,サイモスチムリン,胸腺液性因子(THF),血中胸腺因子(FTS),サイモシン,サイミックファクターX,腫瘍壊死因子(TNF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),ウロキナーゼ,組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA),デイノルフィン,ボンベシン,ニューロテンシン,セルレイン,ブラディキニン,アスパラギナーゼ,カリクレイン,サブスタンスP,神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),脳由来神経栄養因子(BDNF),グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),血管内皮増殖因子(VEGF),骨形成蛋白質(BMP),巨核球増殖分化因子(MGDF),血液凝固因子VII,血液凝固因子VIII,血液凝固因子IX,スーパーオキシドジスムターゼ(SOD),組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA),塩酸リゾチーム,ポリミキシンB,コリスチン,グラミシジン,バシトラシン,胃酸分泌抑制ポリペプチド(GIP),血管作動性腸ポリペプチド(VIP),血小板由来成長因子(PDGF),成長ホルモン分泌因子(GRF),上皮細胞成長因子(EGF),エリスロポエチン,ソマトスタチン,インスリン様成長因子1(IGF-1),20K成長ホルモン,22K成長ホルモン,及びこれらの塩,若しくは変異体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。
【0056】
本発明において,HSA変異体と連結させるべき蛋白質(A)は,それが由来する生物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物由来の蛋白質であり,より好ましくは,ヒト,アフリカミドリザル等の霊長類,マウス,ラット,チャイニーズハムスター等のげっ歯類,ウサギ,イヌ由来の蛋白質であり,特に好ましくはヒト由来の蛋白質である。
【0057】
本発明において,蛋白質(A)は,野生型のものに限られない。即ち,野生型のアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸が置換,欠失,及び/又は付加された変異体であって,元の蛋白質(A)の生理活性を保持するものの他,野生型の蛋白質(A)と拮抗して機能する(これは,内因性の蛋白質(A)の働きに影響を及ぼす)ものでもあってもよい。置換,欠失,及び/又は付加されていてよいアミノ酸の個数は,各変異タイプにつき,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。これらアミノ酸の置換,欠失及び/又は付加は組み合わせて起こっていることができる。
【0058】
本発明のHSA変異体連結蛋白質(A)は,HSA変異体が連結していない元の蛋白質(A)に比べ,血中での安定性が高まり半減期が長くなる。投与経路や投与量により変動はするが,皮下注射でカニクイザルに投与したときの血中半減期(t1/2β)が概ね5時間以上と,血中で極めて安定になる。例えば,本発明のHSA変異体連結ヒト成長ホルモンの血中半減期(t1/2β)は,0.5~10mg/kgの用量で雄性カニクイザルに単回皮下投与したとき,血中半減期(t1/2β)は,5~40時間である。
【0059】
本発明のHSA変異体連結蛋白質(A)は,生体に投与したときに蛋白質(A)の部分が示す活性によって,医薬として使用することができる。ここに,「生体」とは,ヒトを含む哺乳類,特に好ましくはヒトの生体である。
【0060】
本発明のHSA変異体連結蛋白質(A)は血中での安定性が高められているため,従来は血中で不安定で投与後すぐに分解されて十分な薬効を示すことができなかった蛋白質(A)であっても,これに本発明のHSA変異体を連結させることにより,血中で安定化させその生理活性を発揮させることが可能となり,医薬としての開発の途が開かれる。
【0061】
また,従来医薬として使用可能であった蛋白質(A)であっても,これに本発明のHSA変異体を連結させることにより,血中での安定性を更に向上させて長期に渡って活性を保持した状態で血中に留まらせることができるため,蛋白質(A)の投与頻度又は投与量を減じることが可能となる。例えば,毎日投与が必要である医薬の投与頻度を,本発明のHSA変異体と連結させることにより,例えば3~30日毎の投与とすることができる。また,当該医薬の投与量を,モル比で例えば1/3~1/100にまで減じることができる。
【0062】
本発明のHSA変異体連結蛋白質(A)を有効成分として含有してなる医薬は,注射剤として静脈内,筋肉内,腹腔内又は皮下に投与することができる。医薬の投与経路は,その剤形,適用症等により適宜選択される。それらの注射剤は,凍結乾燥製剤又は水性液剤として供給することができる。水性液剤とする場合,バイアルに充填した形態としてもよく,注射器に予め充填したものであるプレフィルド型の製剤として供給することもできる。凍結乾燥製剤の場合,使用前に水性媒質に溶解し復元して使用する。
【0063】
本発明のHSA変異体と連結させるべき蛋白質(A)の一つとしてヒト成長ホルモンが挙げられる。ヒト成長ホルモンには,主に22Kヒト成長ホルモンと20Kヒト成長ホルモンの分子量の異なる2種類がある。22K成長ホルモンは,配列番号9で示されるアミノ酸配列を有する,191個のアミノ酸から構成される蛋白質である。通常,「ヒト成長ホルモン(又はhGH)」というときは,この22K成長ホルモンのことを意味するが,本明細書において,単に「ヒト成長ホルモン(又はhGH)」というときは,22Kヒト成長ホルモンと20Kヒト成長ホルモンの双方を包含する。
【0064】
本明細書において,単に「22Kヒト成長ホルモン(又は22KhGH)」というときは,配列番号9で示されるアミノ酸配列を有する野生型の22KhGHに加え,これに対し1個又は複数個のアミノ酸が,置換,欠失及び/又は付加されたものである22KhGH変異体であって成長促進活性を有するものも含まれる。置換,欠失及び/又は付加されてよいアミノ酸の個数は,各変異タイプにつき,好ましくは1~8個であり,より好ましくは1~4個であり,更に好ましくは1~2個である。
【0065】
野生型の20Kヒト成長ホルモンは,野生型の22K成長ホルモン(配列番号9)を構成する191個のアミノ酸のうちN末端から数えて32番目~46番目の15個のアミノ酸が欠失したものに相当し,176個のアミノ酸から構成されるアミノ酸配列(配列番号10)よりなる,成長促進活性を有する蛋白質である。但し,本明細書において,単に「20Kヒト成長ホルモン(又は20KhGH)」というときは,配列番号10で示される野生型の20KhGHに加え,当該配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸が,置換,欠失及び/又は付加されたものに相当する20KhGHの変異体であって成長促進活性を有するものも含まれる。置換,欠失及び/又は付加されてよいアミノ酸の個数は,各変異タイプにつき,好ましくは1~8個であり,より好ましくは1~4個であり,更に好ましくは1~2個である。
【0066】
hGH遺伝子を導入した大腸菌を用いて組換え蛋白質として製造された分子量約22KDのhGHを有効成分として含有する製剤(hGH製剤)が,成長ホルモン分泌不全性低身長症,ターナー症候群における低身長,骨端線閉鎖を伴わないSGA性低身長症,慢性腎不全による低身長症,プラダーウィリー症候群における低身長症,及び軟骨異栄養症における低身長症の治療剤として広く臨床使用されている。hGH製剤は,皮下又は筋肉内に投与されることで成分のhGHが血中を循環し,その成長促進活性により患者の成長を促進する効果を発揮する。また,hGH製剤は,成人成長ホルモン分泌不全症の治療剤としても広く臨床使用されている。成人成長ホルモン分泌不全症の患者では,脂質代謝異常が認められるが,hGH製剤の投与により,患者の脂質代謝等が正常化し,患者のQOLが改善される。AIDSによる消耗の治療剤としても成長ホルモンは臨床応用されている。成長ホルモン分泌不全性低身長症,成人成長ホルモン分泌不全症等のhGH製剤としては,例えば,グロウジェクト(登録商標)がある。
【0067】
本発明において,ヒト血清アルブミン変異体(mHSA)の連結相手である蛋白質(A)としてヒト成長ホルモンを採用したものを,「ヒト血清アルブミン変異体連結ヒト成長ホルモン」又は「mHSA連結hGH」等といい,ペプチド結合を介して連結させてある場合は,特に,ヒト血清アルブミン変異体融合ヒト成長ホルモン」,「mHSA融合hGH」等ともいう。
【0068】
本発明のHSA変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドとhGHのアミノ酸配列を含むポリペプチドとを連結させる具体的方法としては,例えば,一方のポリペプチドをコードする遺伝子の下流に,インフレームで他方のポリペプチドをコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを用いて形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として発現させる方法が一般的であり,本発明において利用できる。
【0069】
組換え蛋白質として形質転換細胞に発現させる方法によりmHSA連結hGHを作製するとき,hGHのアミノ酸配列を含むポリペプチドは,本発明のHSA変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドのN末端側又はC末端側の何れかに,直接,又はリンカーを介して間接的に連結される。
【0070】
本発明のHSA変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドのN末端側にhGHのアミノ酸配列を含むポリペプチドを連結する場合,hGHのアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子の下流に,本発明のHSA変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子をインフレームで結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターが用いられる。2つのポリペプチドをペプチドリンカーを介して間接的に連結する場合は,2つのポリペプチドをコードする遺伝子の間に,当該リンカーをコードするDNA配列がインフレームで配置される。
【0071】
本発明のHSA変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドのC末端側にhGHのアミノ酸配列を含むポリペプチドを連結する場合,hGHのアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子の上流に,本発明のHSA変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子をインフレームで結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターが用いられる。2つのポリペプチドをペプチドリンカーを介して間接的に連結する場合は,2つのポリペプチドをコードする遺伝子の間に,当該リンカーをコードするDNA配列がインフレームで配置される。
【0072】
その他,本発明のHSA変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドとhGHのアミノ酸配列を含むポリペプチドとを連結する方法としては,例えば組換え蛋白質として2つのポリペプチドを別々に作製し,次いで,それら2つを,非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して連結させる方法がある。非ペプチドリンカーとしては,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。他方,ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ本発明のHSA変異体又は所望の蛋白質の何れかとペプチド結合を形成することにより,本発明のHSA変異体と所望の蛋白質とを連結するものである。
【0073】
非ペプチドリンカーとしてPEGを用いてHSA変異体と蛋白質(A)とを連結させたものは,リンカーを明示する場合,HSA変異体PEG連結蛋白質(A)という。即ち,蛋白質(A)としてhGHを選択した場合には,HSA変異体PEG連結hGHという。HSA変異体PEG連結hGHは,HSA変異体とPEGとを先ず結合させ(PEG化HSA変異体),これにhGHを結合させることにより,又は,先にhGHとPEGとを結合させ(PEG化hGH),これにHSA変異体を結合させることによって,製造することができる。PEGを本発明のHSA変異体又はhGHと結合させるには,カーボネート,カルボニルイミダゾール,カルボン酸の活性エステル,アズラクトン,環状イミドチオン,イソシアネート,イソチオシアネート,イミデート,又はアルデヒド等の官能基で修飾されたPEGが用いられる。これらPEGに導入された官能基が,主に本発明のHSA変異体及びhGH分子のアミノ基と反応することにより,本発明のHSA変異体及びhGHが共有結合する。このとき用いられるPEGの分子量及び形状に特に限定はないが,その平均分子量(MW)は,好ましくはMW=500~60000であり,より好ましくはMW=500~20000である。例えば,平均分子量が約300,約500,約1000,約2000,約4000,約10000,約20000等であるPEGは,非ペプチドリンカーとして好適に使用することができる。
【0074】
例えば,PEG化HSA変異体は,本発明のHSA変異体とアルデヒド基を官能基として有するポリエチレングリコール(ALD-PEG-ALD)とを,HSA/(ALD-PEG-ALD) のモル比が11,12.5,15,110,120等になるように混合し,これにNaCNBH3等の還元剤を添加して反応させることにより得られる。次いで,上記PEG化HSA変異体を,NaCNBH3等の還元剤の存在下で,hGHと反応させることにより,HSA変異体PEG連結hGHが得られる。逆に,先にhGHとALD-PEG-ALDとを結合させてPEG化hGHを作製し,これとHSA変異体とを結合させることによっても,本発明のHSA変異体PEG連結hGHを得ることができる。
【0075】
本発明において,mHSA連結(融合)hGHの好適な一例として,配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するHSA(A320T)のN末端に,リンカーを介さずに,配列番号9で示されるアミノ酸配列を有する22Kヒト成長ホルモンのC末端をペプチド結合により連結させたものである,配列番号11で示されるアミノ酸配列を有するmHSA連結hGHが挙げられる。本発明において,この順序でHSA(A320T)と22KhGHとを連結したものを,「22Kヒト成長ホルモン-mHSA」又は「22KhGH-mHSA」という。同様に,HSA(A320T)のC末端に,リンカーを介さずに,22Kヒト成長ホルモンのN末端がペプチド結合により結合したものを「mHSA-22Kヒト成長ホルモン」又は「mHSA-22KhGH」という。
【0076】
また,配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するヒト血清アルブミン(A320T)のN末端に,リンカーを介さずに,配列番号10で示されるアミノ酸配列を有する20Kヒト成長ホルモンのC末端をペプチド結合により連結させたものである,配列番号12で示されるアミノ酸配列を有するmHSA連結hGHを,「20Kヒト成長ホルモン-mHSA」又は「20KhGH-mHSA」という。同様に,ヒト血清アルブミン(A320T)のC末端に,リンカーを介さずに,20Kヒト成長ホルモンのN末端がペプチド結合により連結したものを「mHSA-20Kヒト成長ホルモン」又は「mHSA-22KhGH」という。
【0077】
本発明のHSA変異体連結ヒト成長ホルモンは,皮下注射でカニクイザルに投与したときの血中半減期(t1/2β)が概ね10時間以上と血中で極めて安定になることを特徴とする。投与量により変動はするが,例えば,4mg/kgの用量で雄性カニクイザルに単回皮下投与したときの,mHSA-22KhGH及び22KhGH-mHSAの血中半減期(t1/2β)は,20~35時間である。
【0078】
本発明のHSA変異体連結ヒト成長ホルモンは,医薬として使用することができる。ヒト成長ホルモンとHSA変異体の生体内における機能を協働させることにより,医薬として使用することもできる。
【0079】
本発明のHSA変異体連結ヒト成長ホルモンは,血中で極めて安定である。従って,本発明によればヒト成長ホルモンを血中で安定化させて長時間に渡って活性を保持した状態で血中に留まらせることができ,医薬として用いる場合のヒト成長ホルモンの投与頻度又は投与量を減じることが可能となる。例えば,毎日投与が必要である医薬の投与頻度を,本発明のHSA変異体と連結することにより,例えば3~30日毎の投与とすることも可能となる。また,当該医薬の投与量を,モル比で1/3~1/100にまで減じることも可能となる。
【0080】
本発明のHSA変異体連結ヒト成長ホルモンは,成長ホルモン分泌不全性低身長症,ターナー症候群における低身長,慢性腎不全による低身長症,プラダーウィリー症候群における低身長症,軟骨異栄養症における低身長症,SGA性低身長症であって,何れも骨端線閉鎖を伴わないもの,成人成長ホルモン分泌不全症,AIDSによる消耗,及び拒食症による消耗を対象疾患とする医薬として使用することができるが,これに限らず,成長ホルモンの有する軟骨形成促進,蛋白質同化促進等の成長促進活性,体組成及び脂質代謝改善作用等の生理活性を,長期に渡って作用させることにより症状が改善され得る疾患の治療剤として使用することができる。
【0081】
mHSA-22KhGHを,骨端線閉鎖を伴わない成長ホルモン分泌不全性低身長症の患者に投与する場合,1回当たりの好ましい投与量は0.01~0.7mg/Kg体重である。mHSA-22KhGHを,骨端線閉鎖を伴わないターナー症候群における低身長症の患者に投与する場合,1回当たりの好ましい投与量は0.015~1.4mg/Kg体重である。mHSA-22KhGHを,骨端線閉鎖を伴わない慢性腎不全による低身長症の患者に投与する場合,1回当たりの好ましい投与量は0.01~1.4mg/Kg体重である。mHSA-22KhGHを,骨端線閉鎖を伴わないプラダーウィリー症候群における低身長症の患者に投与する場合,1回当たりの好ましい投与量は0.012~0.98mg/Kg体重である。mHSA-22KhGHを,骨端線閉鎖を伴わない軟骨異栄養症における低身長症の患者に投与する場合,1回当たりの好ましい投与量は0.015~1.4mg/Kg体重である。mHSA-22KhGHを,骨端線閉鎖を伴わないSGA性低身長症の患者に投与する場合,1回当たりの好ましい投与量は0.012~1.9mg/Kg体重である。mHSA-22KhGHを,成人成長ホルモン分泌不全症の患者に投与する場合,1回当たりの好ましい投与量は0.001~0.34mg/Kg体重である。mHSA-22KhGHを,AIDSにより消耗した患者に投与する場合,1回当たりの好ましい投与量は0.005~0.4mg/Kg体重である。但し,投与量は患者の検査所見等によって,適宜変更されるべきものである。また,これら疾患における,好ましいmHSA-22KhGHの投与間隔は,7~30日毎に1回であり,患者の検査所見等によって,7~14日毎,10~20日毎,又は14~21日毎に1回と適宜変更されるべきものである。また,投与方法は,好ましくは皮下注射,筋肉内注射又は静脈注射であり,より好ましくは皮下注射又は筋肉内注射である。
【0082】
本発明のHSA変異体連結蛋白質を有効成分として含有してなる医薬は,注射剤として静脈内,筋肉内,腹腔内,皮下又は脳室内に投与することができる。それらの注射剤は,凍結乾燥製剤又は水性液剤として供給することができる。水性液剤とする場合,バイアルに充填した形態としてもよく,注射器に予め充填したものであるプレフィルド型の製剤として供給することもできる。凍結乾燥製剤の場合,使用前に水性媒質に溶解し復元して使用する。
【実施例0083】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0084】
〔実施例1〕pE-mIRES-GS-puroの構築
pEF/myc/nucベクター(インビトロジェン社)を,制限酵素(KpnI及びNcoI)で消化し,EF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含むDNA断片を切り出し,このDNA断片をT4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。別に,pCI-neo(インビトロジェン社)を,制限酵素(BglII及びEcoRI)で消化して,CMVのエンハンサー/プロモーター及びイントロンを含む領域を切除した後に,T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。これに,上記のEF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域(平滑末端化処理後のもの)を挿入して,pE-neoベクターを構築した(
図1)。
【0085】
pE-neoベクターを,制限酵素(SfiI及びBstXI)で消化し,ネオマイシン耐性遺伝子を含む約1kbpの領域を切除した(
図2)。pcDNA3.1/Hygro(+)(インビトロジェン社)を鋳型にしてプライマーHyg-Sfi5'(配列番号13)及びプライマーHyg-BstX3'(配列番号14)を用いて,PCRによりハイグロマイシン遺伝子を増幅した(
図2)。増幅したハイグロマイシン遺伝子を,制限酵素(SfiI及びBstXI)で消化し,上記のpE-neoベクターに挿入して,pE-hygrベクターを構築した(
図2)。
【0086】
発現ベクターpPGKIH (Miyahara M. et.al., J. Biol. Chem. 275,613-618(2000))を制限酵素(XhoI及びBamHI)で消化し,マウス脳心筋炎ウイルス(EMCV)に由来する内部リボソーム結合部位(IRES),ハイグロマイシン耐性遺伝子(Hygr遺伝子)及びマウスホスホグリセリン酸キナーゼ(mPGK)のポリアデニル化領域(mPGKpA)を含む塩基配列IRES-Hygr-mPGKpA(配列番号15:5’末端から,塩基1~6からなる領域が「XhoI部位」,塩基120~715及びこれに続く塩基716~718(atg)からなる領域が「マウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位を含む塩基配列」,該塩基716~718(atg)を含む塩基716~1741からなる領域が「ハイグロマイシン耐性遺伝子をコードする塩基配列」,塩基1747~2210からなる領域が「マウスホスホグリセリン酸キナーゼ(mPGK)のポリアデニル化領域を含む塩基配列」,及び3’末端の6個の塩基(塩基2211~2216)からなる領域が「BamHI部位」である。)よりなるDNA断片を切り出した(なお,Hygr遺伝子に対応するアミノ酸配列は,配列番号16で示されたものである。)。このDNA断片をpBluescript SK(-)(Stratagene社)のXhoI部位とBamHI部位の間に挿入し,これをpBSK(IRES-Hygr-mPGKpA)とした(
図3-1)。
【0087】
pBSK(IRES-Hygr-mPGKpA)を鋳型とし,プライマーIRES5'(配列番号17)及びプライマーIRES3'(配列番号18)を用いて,PCRによりEMCVのIRESの一部を含むDNA断片を増幅した。このDNA断片を制限酵素(XhoI及びHindIII)で消化し,pBSK(IRES-Hygr-mPGKpA)のXhoI部位とHindIII部位の間に挿入し,これをpBSK(NotI-IRES-Hygr-mPGKpA)とした(
図3-2)。pBSK(NotI-IRES-Hygr-mPGKpA)を制限酵素(NotI及びBamHI)で消化し,pE-hygrベクターのNotI部位とBamHI部位の間に挿入し,これをプラスミドpE-IRES-Hygrとした(
図3-3)。
【0088】
発現ベクターpPGKIHを鋳型とし,プライマーmPGKP5'(配列番号19)及びプライマーmPGKP3'(配列番号20)を用いて,PCRによりmPGKのプロモーター領域(mPGKp)を含む塩基配列(配列番号21:5’末端から,塩基4~9が「BglII部位」,これに続く塩基10~516からなる領域が「マウスホスホグリセリン酸キナーゼ遺伝子のプロモーター領域を含む塩基配列」,これに続く塩基524~529からなる領域が「EcoRI部位」である。)よりなるDNA断片を増幅した。このDNA断片を制限酵素(BglII及びEcoRI)で消化し,pCI-neo(プロメガ社)のBglII部位とEcoRI部位の間に挿入し,これをpPGK-neoとした(
図3-4)。pE-IRES-Hygrを制限酵素(NotI及びBamHI)で消化してDNA断片(IRES-Hygr)を切り出し,pPGK-neoのNotI部位とBamHI部位の間に挿入し,これをpPGK-IRES-Hygrとした(
図3-5)。
【0089】
CHO-K1細胞からcDNAを調製し,このcDNAを鋳型とし,プライマーGS5'(配列番号22)及びプライマーGS3'(配列番号23)を用いて,PCRによりGS遺伝子を含むDNA断片を増幅した。このDNA断片を制限酵素(BalI及びBamHI)で消化し,pPGK-IRES-HygrのBalI部位とBamHI部位の間に挿入し,これをpPGK-IRES-GS-ΔpolyAとした(
図3-6)。
【0090】
pCAGIPuro(Miyahara m. et.al., J. Biol. Chem. 275,613-618(2000))を鋳型とし,プライマーpuro5'(配列番号24)及びプライマーpuro3'(配列番号25)を用いて,PCRによりピューロマイシン耐性遺伝子(puro遺伝子)を含む塩基配列(配列番号26:5’末端から,塩基2~7からなる領域が「AflII部位」,これに続く塩基8~607からなる領域が「ピューロマイシン耐性遺伝子(puro遺伝子)をコードする塩基配列」,及び,その次の塩基608~619からなる領域が「BstXI部位」である。)よりなるDNA断片を増幅した(なお,puro遺伝子に対応するアミノ酸配列は,配列番号27で示されたものである。)。このDNA断片を制限酵素(AflII及びBstXI)で消化し,発現ベクターpE-neoのAflII部位とBstXI部位の間に挿入し,これをpE-puroとした(
図3-7)。
【0091】
pE-puroを鋳型とし,プライマーSV40polyA5'(配列番号28)及びプライマーSV40polyA3'(配列番号29)を用いて,PCRによりSV40後期ポリアデニル化領域を含むDNA断片を増幅した。このDNA断片を制限酵素(NotI及びHpaI)で消化し,発現ベクターpE-puroのNotI部位とHpaI部位の間に挿入し,これをpE-puro(XhoI)とした(
図3-8)。pPGK-IRES-GS-ΔpolyAを制限酵素(NotI及びXhoI)で消化し,IRES-GS領域を含むDNA断片を切り出し,このDNA断片を発現ベクターpE-puro(XhoI)のNotI部位とXhoI部位の間に挿入し,これをpE-IRES-GS-puroとした(
図3-9)。
【0092】
発現ベクターpE-IRES-GS-puroを鋳型とし,プライマーmIRES-GS5'(配列番号30)及びプライマーmIRES-GS3'(配列番号31)を用いて,PCRにより,EMCVのIRESからGSにかけての領域を増幅し,EMCVのIRESの5’側から2番目に位置する開始コドン(atg)に変異を加えて破壊したDNA断片を増幅した。発現ベクターpE-IRES-GS-puroを鋳型として,このDNA断片と上記のプライマーIRES5'を用いて,PCRによりIRESからGSにかけての上記領域を含むDNA断片を増幅した。このDNA断片を制限酵素(NotI及びPstI)で消化し,切り出されたDNA断片を,発現ベクターpE-IRES-GS-puroのNotI部位とPstI部位の間に挿入し,哺乳動物細胞用の発現ベクターpE-mIRES-GS-puroとした(
図4)。
【0093】
〔実施例2〕HSA-22KhGH発現用ベクターの構築
野生型HSA(配列番号1)のC末端と22KhGHのN末端とを融合させたものである融合蛋白質HSA-22KhGHのアミノ酸配列を,配列番号32に示す。このアミノ酸配列中,1~585番目のアミノ酸残基が野生型の成熟HSAのアミノ酸配列(配列番号1)に相当し,586~776番目のアミノ酸残基が22KhGHのアミノ酸配列に相当する。HSA-22KhGHをコードする遺伝子(HSA-22KhGH遺伝子)を含む配列番号33で示した塩基配列を有するDNAを化学的に合成した。この配列において,塩基11~82がHSAのリーダーペプチドを,塩基83~1837が成熟型HSAを,そして塩基1838~2410が成熟型hGHを,それぞれコードする。このDNAを制限酵素(MluI及びNotI)で消化し,実施例1で作製したpE-mIRES-GS-puroのMluI部位とNotI部位の間に組み込むことにより,HSA-22KhGH発現用ベクターpE-mIRES-GS-puro(HSA-22KhGH)を構築した。
【0094】
〔実施例3〕mHSA-22KhGH発現用ベクターの構築
HSA(A320T)(配列番号3)のC末端と22KhGHのN末端とを融合させたものである,配列番号34で示すアミノ酸配列を有する融合蛋白質を,mHSA-22KhGHとした。配列番号34で示すアミノ酸配列中,1~585番目のアミノ酸残基がmHSAのアミノ酸配列に相当し,586~776番目のアミノ酸残基が22KhGHのアミノ酸配列に相当する。実施例2で作製したpE-mIRES-GS-puro(HSA-22KhGH)を鋳型として,プライマーYA082(配列番号35)及びプライマーYA083(配列番号36)を用いて,PCRによりmHSA-22KhGHをコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅した。このDNA断片をセルフアニールさせて,mHSA-22KhGH発現用ベクターであるpE-mIRES-GS-puro(mHSA-22KhGH)を構築した。
【0095】
〔実施例4〕22KhGH-HSA発現用ベクターの構築
22KhGHのC末端と野生型HSA(配列番号1)のN末端とを融合させたものである,配列番号37で示したアミノ酸配列を有する融合蛋白質を,22KhGH-HSAとした。配列番号37で示したアミノ酸配列中,1~191番目のアミノ酸残基が22KhGHのアミノ酸配列に相当し,192~776番目のアミノ酸残基がHSAのアミノ酸配列に相当する。22KhGH-HSAをコードする遺伝子(22KhGH-HSA遺伝子)を含む配列番号38で示した塩基配列を有するDNAを化学的に合成した。この配列において,塩基11~88がhGHのリーダーペプチドを,塩基89~661が成熟型hGHを,塩基662~2416が成熟型HSAを,それぞれコードする。このDNAを制限酵素(MluI及びNotI)で消化し,実施例1で作製したpE-mIRES-GS-puroのMluI部位とNotI部位の間に組み込むことにより,HSA-22KhGH発現用ベクターであるpE-mIRES-GS-puro(22KhGH-HSA)を構築した。
【0096】
〔実施例5〕22KhGH-mHSA発現用ベクターの構築
22KhGHのC末端とHSA(A320T)(配列番号3)のN末端とを融合させたものである,配列番号39に示したアミノ酸配列を有する融合蛋白質を,22KhGH-mHSAとした。実施例4で作製したpE-mIRES-GS-puro(22KhGH-HSA)を鋳型として,プライマーYA082(配列番号35)及びプライマーYA083(配列番号36)を用いて,PCRにより22KhGH-mHSAをコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅した。このDNA断片をセルフアニールさせて,22KhGH-mHSA発現用ベクターであるpE-mIRES-GS-puro(22KhGH-mHSA)を構築した。
【0097】
〔実施例6〕融合蛋白質発現細胞の作製
HSA-22KhGH,mHSA-22KhGH,22KhGH-HSA,及び22KhGH-mHSAの各融合蛋白質を発現させるための細胞を次のようにして作製した。チャイニーズハムスターの卵巣に由来する細胞であるCHO-K1細胞に,Gene Pulser Xcell エレクトロポレーションシステム(Bio Rad社)を用いて,実施例2~5で作製した,HSA-22KhGH発現用ベクターpE-mIRES-GS-puro(HSA-22KhGH),mHSA-22KhGH発現用ベクターpE-mIRES-GS-puro(mHSA-22KhGH),22KhGH-HSA発現用ベクターpE-mIRES-GS-puro(22KhGH-HSA),及び22KhGH-mHSA発現用ベクターpE-mIRES-GS-puro(22KhGH-mHSA)をそれぞれ導入した。それぞれの発現ベクターを導入した細胞を,メチオニンスルホキシミン(SIGMA社)及びピューロマイシン(SIGMA社)を含むCD OptiCHOTM培地(Thermo Fisher Scientific社)を用いて選択培養し,HSA-22KhGH発現細胞,mHSA-22KhGH発現細胞,22KhGH-HSA発現細胞,及び22KhGH-mHSA発現細胞をそれぞれ確立した。選択培養の際には,メチオニンスルホキシミン及びピューロマイシンの濃度を段階的に上昇させて,最終的にメチオニンスルホキシミンの濃度を300μM,ピューロマイシンの濃度を10μg/mLとして,より高い薬剤耐性を示す細胞を選択的に増殖させた。
【0098】
こうして得られたHSA-22KhGH発現用細胞,mHSA-22KhGH発現用細胞,22KhGH-HSA,及び22KhGH-mHSA発現用細胞を,HSA-hGH融合蛋白質発現細胞と総称し,それらの細胞を培養することにより得られるHSAとhGHとの融合蛋白質を,HSA-hGH融合蛋白質と総称する。
【0099】
〔実施例7〕融合蛋白質発現細胞の培養
HSA-22KhGH発現細胞,mHSA-22KhGH発現細胞,22KhGH-HSA発現細胞,及び22KhGH-mHSA発現細胞の培養を,次のようにして行った。CD OptiCHOTM培地(Thermo Fisher Scientific社)に,メチオニンスルホキシミンとピューロマイシンとを,それぞれ300μM及び10μg/mLの濃度となるように添加して,細胞培養用培地を調製した。実施例6で作製した各発現細胞を,それぞれ2×105 個/mLの細胞密度となるように5mLの細胞培養用培地に添加し,5%CO2存在下37℃で培養した。5日毎に,2×105 個/mLの細胞密度となるように,細胞を新しい培養用培地に移して,継代培養を行った。
【0100】
〔実施例8〕HSA-hGH融合蛋白質の精製
HSA-22KhGH,mHSA-22KhGH,22KhGH-HSA,及び22KhGH-mHSAの精製を次のようにして行った。実施例7で継代培養した各発現細胞を,それぞれ細胞培養用培地に全量が240mLとなるように2×105個/mLの密度で懸濁した。この細胞懸濁液を30mLずつ,径15cmのシャーレ8枚に加えて,5日間,5%CO2存在下,37℃で培養した。培養終了後に培地を回収し,膜フィルター(孔径0.22μm,Millipore社)でろ過して,培養上清とした。次いで,各培養上清に,1M HEPES(pH8.0)を加えて,pHを7.0~7.2に調整した。
【0101】
ポリプロピレン製のカラム(ポリプレップTMカラム,バイオラッド社)に,5mLの抗ヒト成長ホルモン抗体を結合させた樹脂(Capture SelectTM anti hGH resin,Thermo Fisher Scientific社)を充てんし,カラム体積の5倍容の500mM NaClを含有する10mM HEPES緩衝液(pH7.5)で樹脂を平衡化させた。次いで,pHを調整した上記の培養上清を,カラムに約2.5mL/分の流速で負荷し,HSA-hGH融合蛋白質をそれぞれ樹脂に吸着させた。引き続き,同流速で,カラム体積の5倍容の500mM NaClを含有する10mM HEPES緩衝液(pH7.5)でカラムを洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の100mM NaClを含有する0.1M グリシン緩衝液(pH3.0)でHSA-hGH融合蛋白質をそれぞれ樹脂から溶出させた。HSA-hGH融合蛋白質を含む溶出画分を回収し,直ちに7%(v/v)の1M HEPES緩衝液(pH8.0)を添加した。溶出画分に含まれるHSA-hGH融合蛋白質の濃度を,PierceTM BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社)を用い,BSAを標準物質として測定した。
【0102】
〔実施例9〕BaF3/hGHR細胞の作製
ヒトGH受容体(hGHR)遺伝子をマウスBaF3細胞に導入することによりGH依存性増殖能を獲得させたBaF3/hGHR細胞を,以下の通りにして作製した。配列番号40に示した塩基配列を有するhGHR ECD人工合成遺伝子(hGHRの細胞外領域(Extra Cellular Domain)をコードするhGHR遺伝子の5’側断片)を鋳型として,プライマーYA034(配列番号41)及びプライマーYA035(配列番号42)を用いてPCRを行った。得られたPCR産物をアガロース電気泳動に供し,QIAEX II(QIAGEN社)を用いて精製した。このDNA断片をメガプライマーとした。ヒト肺由来cDNAを鋳型として,プライマーK708(配列番号43)及びプライマーK709(配列番号44)を用いてPCRを行い,hGHR遺伝子の全長を含むDNA断片を増幅した。得られたPCR産物をアガロース電気泳動に供し,QIAEX IIを用いて精製した。次いで,精製したhGHR遺伝子の全長を含むDNA断片を鋳型として,上記メガプライマー及びプライマーK709(配列番号44)を用いてPCRを行い,5’側にhGHR ECD人工合成遺伝子配列を有するhGHRの全長をコードする遺伝子を含む,配列番号45に示した塩基配列を有するDNA断片を増幅した。このDNA断片を制限酵素(MluI及びNotI)で消化し,レトロウイルスベクターであるpMX-II(Ono Y., Oncogene. 19. 3050-8(2000))のMluIとNotIの間に組み込み,これをhGHR発現用レトロウイルスベクター(hGHR/pMX-II)とした。
【0103】
10mLの10%FBSを含むDMEM培地に6×106個の293細胞(大日本製薬社)を懸濁させ,これを細胞培養用10cmディッシュに添加し,5%CO2存在下,37℃で24時間培養した。なお,ここで用いた293細胞は,アデノウイルスのE1遺伝子により形質転換されたヒト胎児腎細胞である。
【0104】
500μLのOpti-MEMITM培地(Thermo Fisher Scientific社)に,15μLのX-tremeGENE 9 DNA Transfection Reagent(Roche社)を加えて混合し,これに更に5μgのレトロウイルスパッケージングベクターであるpCL-Eco(IMGENEX社)と,5μgのhGHR/pMX-IIを加えて混合した。この混合液を,室温にて15分間静置した後,上記の293細胞を24時間培養させた10cmディッシュに添加した。次いで,細胞を5%CO2存在下,37℃で24時間培養した後,培地を3000rpmで5分間遠心して上清を回収した。回収した上清をhGHR発現レトロウイルス液とした。
【0105】
WEHI-3細胞(理化学研究所)を10%FBS含有RPMI1640培地で培養した後,培地を3000rpmで5分間遠心して上清を回収した。2mLのhGHR発現レトロウイルス液に,500μLのWEHI-3細胞の培養上清と2.5mLの10%FBS含有RPMI1640培地を加えて混合した。この混合液を,2×106個のIL-3依存性細胞株であるBaF3細胞(理化学研究所)に添加して細胞を懸濁させた。この細胞懸濁液を75cm2培養フラスコに移し,細胞を5%CO2存在下,37℃で8時間培養し,更に,500μLのWEHI-3細胞の培養上清と2.5mLの10%FBS含有RPMI1640培地を加えて16時間培養した。培養終了後,細胞を遠心して回収し,PBSで3回洗浄した。回収した細胞に100ng/mLの22KhGHを含む10%FBS含有RPMI1640培地を5mL添加して細胞を懸濁させ,次いで,この細胞懸濁液を培養フラスコに移し,5%CO2存在下,37℃で培養し,hGHR遺伝子が発現することによりhGH依存的増殖能を獲得したBaF3細胞を得た。この細胞をBaF3/hGHR細胞とした。
【0106】
〔実施例10〕BaF3/hGHR細胞を用いた細胞増殖活性の測定
HSA-hGH融合蛋白質の細胞増殖活性を,実施例9に記載の方法で作製したBaF3/hGHR細胞を用いて評価した。
【0107】
対数増殖期にあるBaF3/hGHR細胞をPBSで3回洗浄した後,1%ウマ血清を含む15mLのRPMI1640培地で1×106個/mLになるように希釈し,5%CO2存在下37℃で16時間培養した。培養後,細胞を3×105個/mLになるよう同培地で希釈し,96ウェル培養プレートの各ウェルに100μLずつ播種した。0.1%BSAを含むPBSを用いて,実施例8で精製したHSA-hGH融合蛋白質(HSA-22KhGH,mHSA-22KhGH,22KhGH-HSA及び22KhGH-mHSA)を希釈し,それぞれ7段階の濃度(90.3nM,18.1nM,3.6nM,0.72nM,0.14nM,0.029nM,及び0.0058nM)の希釈液を調整した。
【0108】
こうして調製した検体希釈液を,BaF3/hGHR細胞を播種した96ウェル培養プレートの各ウェルに20μLずつ添加し,プレートシェーカーを用いて混合した後,細胞を5%CO2存在下37℃で22時間培養した。培養後,生細胞数を測定する比色定量分析用試薬であるCellTiter 96TM Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay試液(プロメガ社)を24μLずつ各ウェルに加えて混和し,更に3時間培養した。次いで,プレートリーダーを用いて各ウェルの490nmにおける吸光度を測定した。縦軸に490nmにおける吸光度,横軸に各検体のモル濃度(nM)をとり,測定値をプロットした。490nmにおける吸光度は,生細胞数の相対値を示すことから,測定値をプロットして得られた曲線は,検体の濃度と細胞の増殖量との相関を示すものであり,この曲線で求められる細胞の増殖量の最大値に対して,細胞の増殖量が50%であるときの検体の濃度をEC50として求めた。なお,何れの検体についても測定は3回実施した。
【0109】
〔実施例11〕カニクイザルを用いた薬物動態及び薬効解析
実施例8で精製したHSA-hGH融合蛋白質(HSA-22KhGH,mHSA-22KhGH,22KhGH-HSA及び22KhGH-mHSA)を,それぞれ,4.0mg/kgの用量で雄性カニクイザルに単回皮下投与した。なお,HSA-22KhGHの投与は3匹のカニクイザルを用いて行い,mHSA-22KhGH,22KhGH-HSA及び22KhGH-mHSAの投与については,それぞれ1匹のカニクイザルを用いて行った。
【0110】
薬物動態解析用に,投与15分後,1,4,8,12,24,48,72,120,168,及び216時間後に動物の末梢血を採取した。血液をEDTA2カリウム入り採血管に採り,氷冷した後,遠心分離(1700×g,5分間,4℃)して血漿を分離した。調製した血漿中に含まれるHSA-hGH融合蛋白質の濃度を実施例12で詳述する方法により測定し,縦軸にHSA-hGH融合蛋白質の濃度を,横軸に投与後の時間をプロットすることによりCmax,AUC0-216h,AUC0-inf及びt1/2βを求めて薬物動態解析を行った。
【0111】
また,IGF-1分泌促進を指標とし,HSA-hGH融合蛋白質の薬効を次のようにして解析した。HSA-hGH融合蛋白質投与前,投与6,12時間後,1,2,3,4,5,6,7,8,及び9日後に末梢血を採血し,上記の手法により末梢血より血漿を調製した。血漿中に含まれるIGF-1の濃度を実施例13で詳述する方法により測定し,縦軸にIGF-1の濃度を,横軸に投与後の時間をプロットすることにより薬効解析を行った。また,コントロールとして更に1匹のカニクイザルを準備して,これに0.3mg/kgの用量で22KhGH(グロウジェクト(登録商標))を7日間連続して皮下投与し,血漿中のIGF-1の濃度を同様に測定した。
【0112】
〔実施例12〕血漿中のHSA-hGH融合蛋白質の定量
マウス抗HSAモノクローナル抗体及びマウス抗hGH抗体を,当業者に周知の手法により,HSA又はhGHで免疫したマウスの脾細胞をそれぞれミエローマ細胞と融合させて得たハイブリドーマ細胞を培養して得た。マウス抗hGHモノクローナル抗体を,0.1M NaHCO3溶液(pH9)で透析した後,溶液中の抗体濃度をNanoDropTM(Thermo Scientific社)を用いて測定した。次いで,5mg/mLの濃度でDMSOに溶解したEZ-LinkTM NHS-LC-Biotin(Thermo Fisher Scientific社)を,1mgの抗体当たり60μgのNHS-LC-Biotinの比率で抗体溶液に添加し,室温で2時間反応させた後,反応溶液をPBSで透析しビオチン化マウス抗hGHモノクローナル抗体を得た。下記の定量法において,マウス抗HSAモノクローナル抗体を一次抗体,ビオチン化マウス抗hGHモノクローナル抗体を二次抗体として使用した。
【0113】
血漿中のHSA-hGH融合蛋白質の濃度は,Sector Imager 6000(Meso Scale Diagnostics社)を用いて,電気化学発光(ECL)イムノアッセイ法により測定した。ECLイムノアッセイ法は,ルテニウム錯体であるSULFO-TAGでラベルした二次抗体にプレート上で電気化学的刺激を与え,SULFO-TAGの電解酸化・還元による波長620nmの発光をCCDカメラで検出することにより,検体を定量する方法である。
測定は,Sector Imager 6000の使用説明書に従って,概ね下記のとおり実施した。マウス抗HSAモノクローナル抗体をHigh Bind Plate(Meso Scale Diagnostics社)に添加し,1時間静置して抗HSA抗体(一次抗体)をプレートに固定した。次いで,Superblock Blocking buffer in PBS(Thermo Fisher Scientific社)をプレートに添加して1時間振盪し,プレートをブロッキングした。プレートをPBST(0.05% Tween20を含有するPBS)で洗浄した後,検体を添加して1時間振盪した。プレートをPBSTで洗浄した後,ビオチン化マウス抗hGHモノクローナル抗体(二次抗体)を添加して1時間振盪した。プレートをPBSTで洗浄した後,SULFO-Tag-Streptavidin(Meso Scale Diagnostics社)を添加して1時間振盪した。プレートをPBSTで洗浄した後,Read buffer T(Meso Scale Diagnostics社)を添加し,Sector Imager 6000(Meso Scale Diagnostics社)で波長620nmの発光を測定した。同様にして同一プレート上で既知濃度のHSA-hGHを定量して標準曲線を求め,これに検体の測定値を内挿し,血漿中のHSA-hGH融合蛋白質の濃度を求めた。
【0114】
〔実施例13〕血漿中のIGF-1の定量
血漿中に含まれるIGF-1の定量は,Human IGF-I Quantikine ELISA kit(R&D systems)を用いて,ELISA法により行った。
【0115】
〔実施例14〕結果と考察
(1)BaF3/hGHR細胞を用いた細胞増殖活性の測定
図5は,縦軸に490nmにおける吸光度,横軸に各検体のモル濃度(nM)をとり測定値をプロットした,BaF3/hGHR細胞を用いた細胞増殖活性の測定結果を示す図である。この図から,各検体のEC
50を求めた結果を表1に示す。
【0116】
【0117】
表1に見られる通り,ヒト血清アルブミンのC末端側に22KhGHを連結させたものであるHSA-22KhGHとmHSA-22KhGHのEC50は,それぞれ1.38×10-1nMと1.53×10-1nMであり,両者はほぼ同等の細胞増殖活性を有する。また,ヒト血清アルブミンのN末端側に22KhGHを連結させたものである22KhGH-HSAと22KhGH-mHSAについてみると,それらのEC50はそれぞれ8.78×10-1nMと1.20nMであり,これらも互いにほぼ同等の細胞増殖活性を有することが示された。
【0118】
他方,HSA-22KhGHと22KhGH-HSAのEC50を比較すると,22KhGH-HSAのEC50はHSA-22KhGHのEC50の約6.4倍を示し,また,mHSA-22KhGHと22KhGH-mHSAのEC50を比較すると,22KhGH-mHSAのEC50はmHSA-22KhGHのEC50の約7.8倍を示した。
【0119】
これらの結果は,22KhGHとヒト血清アルブミンを連結させて融合蛋白質とする場合,少なくともin vitroでは,22KhGHをヒト血清アルブミンのN末端側に連結させるよりもC末端側に連結させる方が,22KhGHの有する細胞増殖活性のより高い融合蛋白質が得られることを示すものである。従って,上記結果はまた,22KhGHとヒト血清アルブミンを連結させて成長ホルモン分泌不全性低身長症等の治療剤とする場合,22KhGHをヒト血清アルブミンのC末端側に結合させる方が好ましいことを示唆するものである。
【0120】
(2)カニクイザルを用いた薬物動態解析
図6は,縦軸にカニクイザル血清中のHSA-hGH融合蛋白質(HSA-22KhGH,mHSA-22KhGH,22KhGH-HSA及び22KhGH-mHSA)の濃度,横軸にHSA-hGH融合蛋白質を投与後の経過時間をプロットした,HSA-hGH融合蛋白質の薬物動態解析の結果を示す図である。この図から,各検体のCmax,AUC
0-216h,AUC
0-inf及びt
1/2βを求めた結果を表2に示す。
【0121】
【0122】
表2に見られるとおり,AUCは,ヒト血清アルブミンのC末端側に22KhGHを連結させたものであるHSA-22KhGHとmHSA-22KhGHのAUC0-infについては,それぞれ752±55μg・時/mL,737μg・時/mLの値を示している。これに対し,ヒト血清アルブミンのN末端側に22KhGHを連結させたものである22KhGH-HSAと22KhGH-mHSAのAUC0-infは,それぞれ2220μg・時/mLと3260μg・時/mLであり,このことは,ヒト血清アルブミンのN末端側に22KhGHを連結させたものは,ヒト血清アルブミンのC末端側に22KhGHを連結させたものに比較して,血中で遥かに安定であることを明らかにしている。また,ヒト血清アルブミンのC末端側に22KhGHを連結させたものであるHSA-22KhGHとmHSA-22KhGH同士は同等のAUC0-inf値を示したが,ヒト血清アルブミンのN末端側に22KhGHを連結させたものである22KhGH-HSAと22KhGH-mHSAとの比較では,22KhGH-mHSAのAUC0-infが,22KhGH-HSAに比して約1.47倍の高値を示し,22KhGH-mHSAが血中で特に安定であることを示している。
【0123】
これらの結果は,予想外にも,ヒト血清アルブミンのC末端にヒト成長ホルモンのN末端を連結させた場合と,逆にヒト成長ホルモンのC末端にヒト血清アルブミンのN末端を連結させた場合とで,それらの融合蛋白質の血中安定性が各段に相違し,後者の場合において遥かに高い安定性が達成できることを示している。加えてこれらの結果は,ヒト成長ホルモンのC末端側にHSA(A320T)のN末端側を連結した場合にヒト成長ホルモンの血中安定性が特に顕著に高まること,即ちHSA(A320T)が,そのN末端側に連結させた蛋白質の血中安定性を顕著に高める能力を有することも示している。即ち,総合すると,これらの結果は,医薬品としてヒトその他の動物に投与されるべき成長ホルモン等の種々の蛋白質を投与後の血中において安定化する手段として,それらの蛋白質とHSA(A320T)を連結させることが有効であり,特にそれらの蛋白質のC末端をHSA(A320T)のN末端と,例えばペプチド結合により,連結させることが有効であることを示すものである。
【0124】
(3)カニクイザルを用いた薬効解析
図7は,HSA融合22KhGHの薬物動態解析の結果を示す図であり,縦軸は血漿中のIGF-1の濃度を,横軸はHSA-22KhGH融合蛋白質を投与後の経過時間を表す。IGF-1は成長ホルモンによって分泌が誘導される骨成長促進作用等の活性を有するポリペプチドであり,hGHの生理活性の一部はIGF-1を介して発揮されることが知られている。
【0125】
図7に見られるように,ヒト血清アルブミンのC末端側に22KhGHを連結させたものであるHSA-22KhGH又はmHSA-22KhGHを投与した動物において,血漿中IGF-1濃度は,HSA-22KhGH投与動物では投与後3日目に投与前の約1.5倍と最大値を示し,HSA-m22KhGH投与動物では投与後2日目に投与前の約2倍と最大値を示している。しかし,何れにおいてもその後は血漿中IGF-1濃度は低下し,投与後5日目以降は,対照である22KhGHとほぼ同等の値となっている。なお,
図7で22KhGHの投与後に血漿中IGF-1濃度の顕著な上昇が認められないのは,22KhGHの血中半減期が約20分と短く,血液を採取した時点においてIGF-1濃度がほぼ投与前の値にまで戻ったためと考えられる。また,22KhGH投与動物の血漿中IGF-1の濃度は,2日目から上昇し,その後測定最終日である9日目までの間,投与前の値よりも高い値を示しているが,これは,22KhGHのみ7日間連続投与を行ったことにより,22KhGHの効果が蓄積して表れたためと考えられる。
【0126】
他方,ヒト血清アルブミンのN末端側に22KhGHを連結させたものであるHSA-22KhGH又はmHSA-22KhGHを投与した動物の血漿中IGF-1の濃度は,22KhGH-HSA投与動物では投与後7日目に投与前の約2.0倍と最大値を示し,22KhGH-mHSA投与動物でも投与後7日目に投与前の約2.0倍と最大値を示している。また,何れも,対照である22KhGHと比較して,投与後9日目においても血漿中のIGF-1の濃度は高値に維持されている。更に,HSA-22KhGHとmHSA-22KhGHを比較すると,投与後3日目まではHSA-22KhGHのIGF-1濃度がより高い傾向にあったものの,投与後5日目以降はmHSA-22KhGHのIGF-1濃度の方が一貫して高く,mHSA-22KhGHがHSA-22KhGHと比較して,より長期に渡り血中のIGF-1濃度を高値に持続できることが示されている。
【0127】
これらの結果は,成長ホルモンをHSA(A320T)のN末端側に連結させることにより,成長ホルモンの薬効を顕著に長期化できることを示すものであり,従って,既存の成長ホルモン製剤(グロウジェクト(登録商標)等)よりも薬効が長時間にわたって続く持続型の成長ホルモンとして,成長ホルモンのC末端側をHSA(A320T)のN末端側に連結させたものである22KhGH-mHSAを好適に使用し得ることを示す。更には,これらの結果は,医薬品等として動物に投与されるべき生理活性蛋白質をHSA(A320T)のN末端側に連結させることにより,それらの生理活性蛋白質の活性を血漿中において顕著に持続できることを示すと共に,薬効が長時間にわたって続く持続型の医薬品を製造する手段として,生理活性蛋白質をHSA(A320T)と連結させることが有効であり,特に生理活性蛋白質のC末端をHSA(A320T)のN末端とペプチド結合させることが有効であることを示すものである。
【0128】
22KhGH-mHSA投与動物では,投与後9日目においても血漿中IGF-1濃度が非常に高値に維持されていることから,22KhGH-mHSAを成長ホルモン不全性低身長症,成人成長ホルモン不全症等の患者に投与する場合,投与間隔を7日~14日としても,その薬効が十分に発揮されるであろうと合理的に予測される。表3に22KhGH-mHSAを成長ホルモン不全性低身長症,成人成長ホルモン不全症等の患者に投与するときの用法・用量を例示する。表3に示した投与量,投与間隔は,臨床症状及びIGF-1濃度等の検査所見に応じて適宜増減されるべきものである。また,好ましくは22KhGH-mHSAは,筋肉内注射又は皮下注射の形で患者に投与される。
【0129】
【0130】
〔製剤実施例1〕水性注射剤
リン酸水素二ナトリウム七水和物・・・・1.33mg
リン酸二水素ナトリウム・・・・・・・・1.57mg
ポリオキシエチレン(160)ポリオキシ
プロピレン(30)グリコール・・・・・3mg
ベンジルアルコール・・・・・・・・・13.5mg
D-マンニトール・・・・・・・・・・52.5mg
22KhGH-mHSA・・・・・・・・1mg
上記成分比率で各成分を注射用水に溶解させ,pHを6.0~6.4に調整し,液量を1.5mLとして水性注射剤とする。
【0131】
〔製剤実施例2〕水性注射剤
L-ヒスチジン・・・・・・・・・・・・1mg
フェノール・・・・・・・・・・・・・・4.5mg
ポリオキシエチレン(160)ポリオキシ
プロピレン(30)グリコール・・・・・4.5mg
D-マンニトール・・・・・・・・・・60mg
22KhGH-mHSA・・・・・・・・1mg
上記成分比率で各成分を注射用水に溶解させて,pHを6.0~6.4に調整し,液量を1.5mLとして水性注射剤とする。
【0132】
〔製剤実施例3〕凍結乾燥剤
リン酸水素二ナトリウム七水和物・・・・2.475mg
リン酸二水素ナトリウム・・・・・・・・0.394mg
塩化ナトリウム・・・・・・・・・・・1.125mg
アミノ酢酸・・・・・・・・・・・・・11.25mg
D-マンニトール・・・・・・・・・・22.5mg
22KhGH-mHSA・・・・・・・・1mg
上記成分からなる凍結乾燥剤を,使用時に9.7mgのベンジルアルコールを含有する1mLの注射用水に溶解する。
本発明によれば,医薬品として動物に投与されるべき所望の蛋白質の血中安定性を高めることができるので,医薬品として投与したときの当該所望の蛋白質の投与量を減ずることのできる,新たな医薬品を提供することができる。