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特開2022-166111水溶液からの洗浄剤の除去のための組成物、システムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166111
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】水溶液からの洗浄剤の除去のための組成物、システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6806 20180101AFI20221025BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C12Q1/6806 Z
C12N15/10 100Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125531
(22)【出願日】2022-08-05
(62)【分割の表示】P 2018562570の分割
【原出願日】2017-05-30
(31)【優先権主張番号】62/343,293
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507306090
【氏名又は名称】ディーエヌエー ジェノテック インク
【住所又は居所原語表記】3000-500 Palladium Drive Kanata,Ontario,Canada
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーンボイム ハイマン チェイム
(72)【発明者】
【氏名】ネパール ラジーブ マニ
(72)【発明者】
【氏名】レイ ビタピ
(72)【発明者】
【氏名】ゲイジ ジェシカ リン
(72)【発明者】
【氏名】アスキュー クリストファー ゴードン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水溶液から、陰イオン洗浄剤などの洗浄剤を除去するための組成物を提供する。
【解決手段】a)塩;b)式:R-OH(式中、Rは、任意に置換されてもよい直鎖、分枝、または環式C-C12アルキルである)の水不混和性アルコール;およびc)水不混和性ハロカーボン、を含むシステム、組成物、方法およびキットを提供し、前記ハロカーボンは前記式Iのアルコールと混和性である。本システムは、洗浄剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)など)、および何らかの洗浄剤関連分子または洗浄剤結合分子の効率的な除去のために、水相および非水相を形成し、それらを非水相に隔離できる。本組成物、システム、方法およびキットは、水溶液からポリメラーゼ連鎖反応(PCR、逆転写酵素PCR(RT-PCR)を含む)、ライブラリー調製、およびヌクレオチドシーケンシングを含む下流の用途などの反応を阻害する阻害物質を除去し得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液から洗浄剤を除去するための洗浄剤除去システムであって、
a.塩;
b.式I:
-OH I
(式中、Rは、任意に置換されてもよい直鎖、分枝、または環式C-C12アルキルである)の水不混和性アルコール;および
c.水不混和性のハロカーボンを含み、前記ハロカーボンが、前記式Iのアルコールと混和性であり、
前記水性混合物の処理時に、水相および非水相を含む2相が形成され、前記非水相がほぼ全ての洗浄剤を含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年5月31日に出願された米国特許出願第62/343,293号に対する優先権を主張する。本出願の全文は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本出願は、水溶液から洗浄剤を除去するための組成物、システム、方法およびキットに関する。本出願の組成物、システム、方法およびキットはまた、水溶液から洗浄剤関連分子および/または洗浄剤結合分子を除去するためにも使用し得る。
【背景技術】
【0003】
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、多くの洗浄製品および個人向け衛生用製品に使用される陰イオン洗浄剤である。SDSは、タンパク質の研究のための、核酸精製手順、ならびに核酸安定化組成物において、SDS-PAGE(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法)などの分子生物学用途にもよく使われる。
【0004】
生物試料を用い、そこから核酸を取り出そうとする場合、その両親媒性特性により細胞膜および粒子膜を溶解する能力は、リシスバッファー中で引き出される。さらに、SDSは、タンパク質に強く結合し、抽出手順中にタンパク質-核酸相互作用を破壊するために使用される。例えば、SDSは、正に帯電したヒストンと、核酸骨格中の負に帯電した燐酸塩との間のイオン相互作用を破壊するため、核酸をタンパク質から分離するのに役立つ。多くの一般的検査室のデオキシリボ核酸(DNA)を精製するプロトコル、例えば、従来のDNAのエタノール沈殿(Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Third Edition))、塩化リチウム沈殿(Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Third Edition))またはプラスミドDNAを得るためのSDS-アルカリ変性法(Birnboim,H.C.(1983)A Rapid Alkaline Extraction Method for the Isolation of Plasmid DNA.,Methods Enzymol.100,243-55)は、SDSを利用する。
【0005】
タンパク質に強く結合し、それらの構造を破壊するタンパク質を変性させるSDSの能力は、ヌクレアーゼを含むほとんどの酵素の不活化をもたらす。Birnboimらにより米国特許第7,482,116号、米国特許出願公開第2010/099149号および同第2009/123976号中で教示されているように、この性質は、生物試料中の核酸を安定化させ、保存するために利用される。しかし、この性質は、SDSが完全に除去されない場合に、核酸を用いたその後の用途で、酵素依存性反応を阻害する望ましくない効果を有する。
【0006】
SDSの能力と特性は、生化学および分子生物学の技術を日常的に実施している人にはよく知られている。核酸を抽出し、精製するほとんどの手順は、溶液から核酸を取り出し、後に阻害物質と不純物を残すことにより、実施されている。例えば、水溶液に1~2倍量のエタノールの添加は、核酸の沈殿を生じ、遠心分離ステップ後に、核酸をペレットから回収できる。あるいは、核酸を、固体マトリックス、例えば、シリカ粒子、に結合させることができ、その後、それから核酸を溶出できる。得られた精製核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素PCR(RT-PCR)、シーケンシングライブラリー調製またはシーケンシングなどの下流の用途に使用できる。
【0007】
核酸の抽出と精製のための手順を単純化および改善するために、過去5~60年にわたる多くの試みがなされてきた。通常、これらの手順で使用される試薬は、精製核酸を利用する下流の用途に対し阻害性である。したがって、処理中に最初の試料に添加される試薬は、完全に除去しなければならない。例えば、低濃度のSDSは、PCR反応で使用されるTaqDNAポリメラーゼに阻害性である。Weyant et al.1990、Rossen et al.1992およびSaunders et al.1999により報告されているように、最終PCRにおける体積当たりの重量が0.01%程度の少量のSDSで阻害性である。これは、下記で立証されている。試料からSDSを除去するためのいくつかの製品が市場に存在する(例えば、SDS Away(登録商標)[ProteaBiosciences];Detergent-Out(登録商標)[Millipore];SDS-Out(登録商標)[Pierce Biotechnology Inc.]は3つの例である)が、これらは、核酸の溶液中に存在するSDSではなく、タンパク質に強く結合したSDSを除去するために最適化され、配合されている。
【0008】
現時点では、大きく分けて3種類の次に示す市販核酸精製キットが存在する:(i)フェノール系抽出法(例えば、トリゾール(登録商標)[Invitrogen]およびTriReagent(登録商標)[Molecular Research Centre,Inc.])、(ii)核酸の固体マトリックス(例えば、磁気ビーズおよびカラム上のシリカ表面)へのグアニジニウムをベースにした結合、および(iii)SDS系の方法。いくつかのSDS系化学反応は、グアニジニウム系の化学反応と相いれない。理由は、2つの試薬の混合により、不溶性のグアニジニウム塩としてSDSの沈殿が生ずるためである。フェノール/クロロホルム抽出中のSDSの存在は、ミルク状沈殿物を形成させることが観察された。しかし、SDSを事前に実質的に除去すれば、SDS含有試料は、フェノール/クロロホルム系またはグアニジニウム系化学反応で使用可能であることが観察された。SDS濃度を減らす簡単な方法は、試料をSDSがもはや沈殿しないレベルまで希釈することであろうが、これは、後のステップで試料を濃縮する必要性が生じることになる。水性試料からの簡単で迅速なSDSの除去に関しては、生化学および分子生物学技術における必要性が満たされていない。
【0009】
したがって、陰イオン洗浄剤を含む任意の水溶液に対し使用される場合、わずかに検出可能なレベル(0.01重量/体積%未満)まで、容易に、迅速におよび効率的に、洗浄剤を効率的に除去できる組成物および方法に対する必要性が残されている。
【0010】
この背景情報は、出願者が考えている既知の情報を本発明に可能な限り関連づけるために提供されている。前述のいずれかの情報が本発明に対する先行技術となることを承認することを必然的に意図するものではなく、そのように解釈されるべきものでもない。
【発明の概要】
【0011】
本出願の目的は、水溶液から洗浄剤を除去するための組成物、システム、方法およびキットを提供することである。この組成物、システム、方法およびキットはまた、水溶液から、タンパク質を含む洗浄剤関連分子または洗浄剤結合分子を除去するためにも使用し得る。
【0012】
一態様では、(a)塩;(b)式I:
-OH I
(式中、Rは、任意に置換されてもよい直鎖、分枝、または環式C-C12アルキルである)の水不混和性アルコール;および(c)水不混和性ハロカーボンを含む洗浄剤除去システムが提供され、ハロカーボンはアルコールと混和性である。場合により、塩は、四級アンモニウム塩またはアルカリ金属塩である。特定の実施形態では、洗浄剤は陰イオン洗浄剤である。特定の実施形態では、システムは、水溶液中に存在する可能性がある洗浄剤関連分子および/または洗浄剤結合分子を除去するためにも使用し得る。
【0013】
別の態様では、前記洗浄剤を含む水溶液から洗浄剤を除去する方法が提供され、前記方法は、水溶液を、塩;式I:
-OH I
(式中、Rは、任意に置換されてもよい直鎖、分枝、または環式C-C12アルキルである)の水不混和性のアルコール;および水不混和性のハロカーボン(ハロカーボンは、アルコールと混和性である)と混合して2相混合物を形成するステップを含み、ほぼ全ての洗浄剤が非水相中に存在する。特定の実施形態では、洗浄剤は陰イオン洗浄剤である。特定の実施形態では、方法はまた、水溶液中に存在する可能性がある洗浄剤関連分子および/または洗浄剤結合分子の除去にも使用し得る。
【0014】
別の態様では、塩;式I:
-OH I
(式中、Rは、任意に置換されてもよい直鎖、分枝、または環式C-C12アルキルである)の水不混和性のアルコール;および水不混和性のハロカーボンを、洗浄剤を含む水溶液と混合することにより形成される2相組成物が提供され、ほぼ全ての洗浄剤が非水相中に存在する。特定の実施形態では、洗浄剤は陰イオン洗浄剤である。特定の実施形態では、2相組成物の非水相は、洗浄剤関連分子および/または洗浄剤結合分子を含み得る。
【0015】
別の態様では、前記洗浄剤を含む水溶液から洗浄剤を除去するためのキットが提供され、前記キットは、塩;式I:
-OH I
(式中、Rは、任意に置換されてもよい直鎖、分枝、または環式C-C12アルキルである)の水不混和性のアルコール;水不混和性のハロカーボン;少なくとも1種の試薬容器;および場合により、使用説明書(単一または複数)を含み、前記ハロカーボンは前記式Iのアルコールと混和性である。特定の実施形態では、洗浄剤は陰イオン洗浄剤である。特定の実施形態では、キットはまた、洗浄剤関連分子および/または洗浄剤結合分子を、それらが存在する可能性がある水溶液から除去するために使用し得る。
【0016】
したがって、本組成物、システム、方法およびキットは、理想的に使用され、水溶液から阻害物質、すなわち、限定されないが、PCR(RT-PCRを含む)、ライブラリー調製、およびヌクレオチドシーケンシングを含む下流の用途などの反応を阻害する阻害物質を除去し得る。阻害物質には、例えば、その後の用途などにおける酵素阻害物質、例えば、酵素依存性反応の阻害物質が挙げられる。
【0017】
特定の実施形態では、少なくとも一部の水相(すなわち、洗浄剤、および、存在する場合、洗浄剤関連分子または洗浄剤結合分子を実質的に含まない相)は、限定されないが、PCR(RT-PCRを含む)、ライブラリー調製、およびヌクレオチドシーケンシングを含む下流の用途のために直接使用し得る。
【0018】
本発明、ならびに他の態様およびそのさらなる特徴をより良く理解するために、図面の簡単な説明に対する参照を行うが、これは添付の図面と併せて使用されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、水溶液中の1%SDSの洗浄剤除去組成物による処理を示す;組成物1は、1-ペンタノールとブロモジクロロメタン(BDCM)の1:1混合物および150mMの塩化アンモニウム(NHCl)を含む;組成物2は、1-ペンタノールとクロロホルムの1:1混合物および150mMのNHClを含む;組成物3は、1-ペンタノールと2-ヨードプロパンの1:1混合物および150mMのNHClを含む。
図2図2は、水溶液中の4%SDSの洗浄剤除去組成物による処理を示す;調査した全組成物は、1-ペンタノールとBDCMの1:1混合物および次の塩を含む:組成物4:175mMのNHCl;組成物5:200mMのNHCl;組成物6:125mMのメチルトリ-n-ブチルアンモニウムクロリド;組成物7:150mMのメチルトリ-n-ブチルアンモニウムクロリド;組成物8:150mMのトリエチルアミン塩酸塩;組成物9:175mMのトリエチルアミン塩酸塩;組成物10:175mMのテトラ-n-ブチルアンモニウムアセテート;組成物11:200mMのテトラ-n-プロピルアンモニウムクロリド。
図3図3は、水溶液中の10%SDSの洗浄剤除去組成物による処理を示す;調査した全組成物は、1-ペンタノールとBDCMの1:1混合物および種々の濃度の次のNHClを含む:組成物12:275mM;組成物13:300mM;および組成物14:325mM。得られたデータは、10%の出発濃度であっても、SDSを、1/5の体積の組成物を用いて1ステップで<0.00625%まで減らし得ることを示す。
図4図4は、2%SDSを含む水溶液中に収集した唾液試料の洗浄剤除去組成物による処理を示す;使用した組成物は、1-ペンタノールとBDCMの1:1混合物および125mMの塩化アンモニウムからなり、結果は、この生物試料の存在下でもSDSの効率的な除去を示した。
図5図5は、2.5%SDSを含む水溶液中に収集した血液試料の洗浄剤除去組成物による処理を示す;使用した組成物は、1-ペンタノールとBDCMの1:1混合物および175mMの塩化アンモニウムからなり、結果は、この複雑な生物試料の存在下でもSDSの効率的な除去を示した。
図6図6は、既知のSDS濃度の水溶液:SDSなしのコントロール、および0.001%SDS、0.005%SDS、0.01%SDS、0.05%SDS、0.1%SDSおよび1%SDSの溶液に対して試験、比較したqPCRの結果を示す。結果は、qPCRの部分的な阻害が0.005%SDSの存在下で起こり、SDSが0.01%で存在する場合に、完全な阻害が起こることを示した。
図7図7は、洗浄剤溶液中に収集し、本明細書に記載の洗浄剤除去組成物で処理した唾液試料由来の水層の分割量の電気泳動後に、SybrGold(登録商標)(Invitrogen)で染色したアガロースゲルの写真である。1kb+DNAラダーの横に並んだ試料レーンに高分子量DNAを認めることができ、洗浄剤除去組成物は、DNAの分解を起こさなかったことを示している。
図8図8は、洗浄剤溶液中に収集し、洗浄剤除去組成物で処理した唾液試料由来の水相の分割量に対し実施したqPCRの、既知の量のDNAの2つの標準的コントロールの横に並べた、結果を示す。結果は、洗浄剤除去処理後に水相中に残っているDNAは、qPCRでの使用に好適することを示す。
図9図9は、洗浄剤溶液中に収集し、洗浄剤除去組成物で処理した血液試料由来の水相の分割量の電気泳動後に、SybrGold(登録商標)(Invitrogen)で染色したアガロースゲルの写真である。1kb+DNAラダーの横に並んだ試料レーンに高分子量DNAを認めることができ、洗浄剤除去組成物は、DNAの分解を起こさなかったことを示している。
図10図10は、洗浄剤溶液中に収集し、洗浄剤除去組成物で処理した血液試料由来の水相の2種の異なる量の分割量に対し実施したqPCRの、既知の量のDNAを含むコントロール由来の分割量の横に並べた、結果を示す。結果は、洗浄剤除去処理後に水相中に残っているDNAは、qPCRでの使用に好適したことを示す。
図11図11は、洗浄剤溶液中に収集し、洗浄剤除去組成物で処理した唾液試料由来の水層の分割量の電気泳動後に、SybrGold(登録商標)(Invitrogen)で染色したアガロースゲルの写真である。唾液試料中の細菌細胞由来の細菌16Sおよび23SリボソームRNAバンドをゲル上に認めることができ、細菌RNAが洗浄剤除去処理により分解されなかったことを示す。
図12図12は、洗浄剤溶液中に収集し、洗浄剤除去組成物で処理した唾液試料から採取した水相の1μlの分割量から調製した逆転写酵素生成物のqPCRの結果を示す。
図13図13は、洗浄剤溶液中に収集し、洗浄剤除去組成物で処理した唾液試料から採取した水相の3μlの分割量から調製した逆転写酵素生成物のqPCRの結果を示す。
図14図14は、洗浄剤溶液中に収集し、洗浄剤除去組成物で処理した血液試料由来の水層の分割量の電気泳動後に、SybrGold(登録商標)(Invitrogen)で染色したアガロースゲルの写真である。ヒト18Sおよび28SリボソームRNAバンドを認めることができ、ヒトRNAが分解されなかったことを示す。
図15図15は、洗浄剤溶液中に収集し、洗浄剤除去組成物で処理した血液試料の水層の1μlの分割量から調製した逆転写酵素生成物のqPCRの結果を示す。
図16図16は、SDS-PAGE後、クーマシーブルーで染色してタンパク質バンドを示したポリアクリルアミドゲルの写真である。標準的EDTAチューブ中に収集した同じ血液試料の分割量を取り出し、本明細書に記載の種々の成分の洗浄剤除去組成物で処理した。レーン1はタンパク質分子量マーカーを含み、レーン2は空であり、レーン3は0.5μlの洗浄剤除去前の溶解した血液試料を含み、レーン4は空である。レーン5は1μlの洗浄剤除去前の溶解した血液試料を含み、レーン6は空であり、レーン7は溶解した血液試料をBDCMのみで処理後の7.5μlの水相を含み、レーン8は空であり、レーン9は溶解した血液試料を3:7(体積/体積)の1-ペンタノール:BDCM混合物で処理後の7.5μlの水相を含み、レーン10は溶解した血液試料を1:1(体積/体積)の1-ペンタノール:BDCMの混合物で処理後の7.5μlの水相を含み、レーン11は溶解した血液試料を7:3(体積/体積)の1-ペンタノール:BDCMの混合物で処理後の7.5μlの水相を含み、およびレーン12は溶解した血液試料を1-ペンタノールのみで処理後の7.5μlの水相を含む。
図17図17は、2%のサルコシルを含む水溶液中に収集した唾液試料の洗浄剤除去組成物による処理を示す。使用した洗浄剤除去組成物は、1-ペンタノールと(ポリ)クロロトリフルオロエチレンの1:0.8混合物および200mMの塩化アンモニウムからなり、結果は、この生物試料の存在下であっても、サルコシルが効率的に除去されたことを示す。
図18A図18Aは、ドナーA由来のSTAT-およびprepIT・L2P処理唾液試料のバイオアナライザーゲル画像を示す。
図18B図18Bは、ドナーB由来のSTAT-およびprepIT・L2P処理唾液試料のバイオアナライザーゲル画像を示す。
図19A図19は、2人のドナーの唾液試料から構築したライブラリープレップのバイオアナライザーゲルの出力図を示す。図19Aは、Oragene/prepIT・L2Pで精製したドナーAの唾液試料から構築したライブラリープレップの出力図を示す。
図19B図19Bは、Oragene/STATで処理したドナーAの唾液試料から構築したライブラリープレップの出力図を示す。
図19C図19Cは、Oragene/prepIT・L2Pで精製したドナーBの唾液試料から構築したライブラリープレップの出力図を示す。
図19D図19Dは、Oragene/STATで処理したドナーBの唾液試料から構築したライブラリープレップのバイオアナライザーゲルの出力図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
特に断らなければ、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者により一般に理解されているものと同じ意味を有する。
【0021】
本明細書および請求項で用いられる単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上別段の明確な記載がない限り、複数形の指示対象を包含する。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語の「含む(comprising)」は、後に続くリストが非包括的であり、任意のその他の追加の適切な項目、例えば、必要に応じて1つまたは複数のさらなる特徴(単一または複数)、構成要素(単一または複数)および/または成分(単一または複数)を含んでも、または含まなくてもよいことを意味するものと理解される。
【0023】
本出願は、水溶液から洗浄剤(例えば、陰イオン洗浄剤またはアニオン性界面活性剤など)を除去するためのシステム、方法、組成物およびキットを提供する。システム、方法、組成物およびキットはまた、水溶液から洗浄剤関連分子および/または洗浄剤結合分子が存在する場合、これらを除去するためにも使用し得る。本システムおよび方法は、タンパク質などの洗浄剤および洗浄剤関連分子/洗浄剤結合分子を有機層に隔離することにより、洗浄剤、および存在する何らかの洗浄剤関連分子/洗浄剤結合分子をわずかに検出可能なレベルまで効率的に除去する。水溶液を組成物と混合した結果は、洗浄剤および存在する可能性のあるどの洗浄剤関連分子/洗浄剤結合分子も実質的に不含の上段水相と、洗浄剤および存在する可能性のある何らかの洗浄剤関連分子/洗浄剤結合分子を含む下段のより密な有機相を含む2相混合物である。洗浄剤除去組成物は、以下の成分から構成される:1)塩;2)水不混和性アルコール;および3)ハロカーボン。
【0024】
本明細書で使用される場合、洗浄剤除去組成物、洗浄剤除去システム、洗浄剤除去方法、および洗浄剤除去キットは、洗浄剤および、存在する場合、洗浄剤関連分子および/または洗浄剤結合分子を水溶液から除去するための、組成物、システム、方法およびキットを意味する。特定の実施形態では、洗浄剤は陰イオン洗浄剤である。
【0025】
当該技術分野において熟練した作業者ならわかるように、洗浄剤および存在する洗浄剤関連分子/洗浄剤結合分子が、水溶液から「除去される」として本明細書に記載される場合、若干の低濃度の洗浄剤または洗浄剤関連分子/洗浄剤結合分子が水溶液中に残っているであろう。しかし、「除去された」と見なされるためには、水溶液中の洗浄剤および洗浄剤関連分子/洗浄剤結合分子の濃度は、水溶液の最終的な用途を基準に選択された閾値洗浄剤濃度未満に低下していることになる。一実施形態では、本システム、組成物、方法およびキットを用いて洗浄剤(および存在する場合、洗浄剤関連分子/洗浄剤結合分子)の「除去」後、水溶液中の洗浄剤(および存在する場合、洗浄剤関連分子/洗浄剤結合分子)の濃度は、実施例1に記載のステインズオールアッセイを用いて、検出可能な濃度未満である。
【0026】
特定の実施形態では、本明細書で使用される場合、「洗浄剤」には、限定されないが、例えば、陰イオン洗浄剤を含む洗浄剤が含まれる。本洗浄剤除去システム、方法、組成物、およびキットを用いて水溶液から除去できる陰イオン洗浄剤の非限定的例には、ナトリウムドデシルスルフェート(SDS)およびサルコシルがある。
【0027】
洗浄剤除去組成物およびシステム
上述のように、本明細書に記載の洗浄剤除去組成物およびシステムは、少なくとも3種の成分:塩;水不混和性アルコール;およびハロカーボンを含む。これらの成分は、水溶液からの洗浄剤(および存在する場合、洗浄剤関連分子/洗浄剤結合分子)の除去に使用する前に、それらが洗浄剤除去のために水溶液と混合されるまで、別々に保持でき、またはそれらを混合して、全3種の成分の混合物、もしくは3種の成分の内のいずれか2種の混合物として貯蔵できる。従って、本洗浄剤除去システムは、使用前に、塩;水不混和性アルコール;およびハロカーボン成分を貯蔵する1つまたは複数の容器をさらに含み得る。
【0028】
したがって、本組成物およびシステムは、理想的に使用され、水溶液から阻害物質、すなわち、限定されないが、PCR(RT-PCRを含む)、ライブラリー調製、およびヌクレオチドシーケンシングを含む下流の用途などの反応を阻害する阻害物質を除去し得る。阻害物質には、すなわち、その後の用途などにおける酵素阻害物質、例えば、酵素依存性反応の阻害物質が挙げられる。
【0029】
特定の実施形態では、少なくとも一部の水相(すなわち、洗浄剤、および、存在する場合、洗浄剤関連分子または洗浄剤結合分子を実質的に含まない相)は、限定されないが、PCR(RT-PCRを含む)、ライブラリー調製、およびヌクレオチドシーケンシングを含む下流の用途のために直接使用し得る。
【0030】
塩成分
本システム、組成物および方法に有用な塩は、四級アンモニウム塩またはアルカリ金属塩である。本システム、組成物および方法で使用可能な塩の具体例には、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、ベタイン塩、塩化コリン、ジエチルアミン塩酸塩、ジメチルエタノールアミン、エタノールアミン、エチルアンモニウムクロリド、メチルアンモニウムクロリド、テトラ-n-ブチルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムクロリド一水和物、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラ-n-プロピルアンモニウムクロリド、メチルトリ-n-ブチルアンモニウムクロリド、トリエチルアミン塩酸塩、トリエチルメチルアンモニウムクロリド、トリメチルアミン塩酸塩、1-ブチルアミンの酸性塩、1-ペンチルアミンの酸性塩、1-ヘキシルアミンの酸性塩、1-ドデシルアミンの酸性塩、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
アルコール成分
本システムおよび方法は、洗浄剤を含む水溶液が本洗浄剤除去組成物と混合される場合、陰イオン洗浄剤などの洗浄剤の溶解度特性の変化を利用する。2相混合物の形成を容易にするために、アルコール成分は、水に不混和性であるか、またはわずかに混和性であるのみでなければならない。水不混和性アルコールは、式I:
-OH I
(式中、Rは、任意に置換されてもよい直鎖、分枝、または環式C-C12アルキルである)の構造を有する。
【0032】
洗浄剤除去のために、本システム、方法および組成物に有用な水不混和性アルコールの例には、1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-ブタノール、1-ヘプタノール、1,2-ヘキサンジオール、1-ヘキサノール、2-ノナノール、1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、シクロペンタノール、1-プロパノール、1-ウンデカノールまたはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
ハロカーボン成分
ハロカーボン成分の機能の1つは、有機相が下相で、水相が上相となるように、水溶液と本洗浄剤除去組成物との混合物を形成する2相混合物中の有機相の密度を高めることである。さらに、2相の良好な分離を確実にするために、ハロカーボンは水に不混和性であるか、またはわずかに混和性であるのみでなければならず、また、アルコール成分と混和性でなければならない。
【0034】
洗浄剤除去のための本システム、方法および組成物に有用なハロカーボンの例には、1-ブロモ-3-クロロプロパン、1-ブロモ-6-クロロヘキサン、ブロモジクロロメタン(BDCM)、クロロジブロモメタン、クロロホルム、2-ヨードプロパン、(ポリ)クロロトリフルオロエチレン(-(CFCFCl)-、式中、n=2~10;特に、Halocarbon Products Corporation,River Edge,NJ;CAS#9002-83-9から入手できるハロカーボン油6.3)、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ペルフルオロノナンは、本洗浄剤除去組成物でうまく機能しなかったハロカーボンの例である。理論に束縛されるものではないが、ペルフルオロノナンはアルコール成分と混和性ではなかったという事実に起因すると考えられる。
【0035】
任意成分
本システムおよび組成物は、例えば、除去される洗浄剤を含む水溶液の性質に応じて、または洗浄剤除去(および、存在する場合、洗浄剤関連分子または洗浄剤結合分子の除去)後の水溶液の最終的な用途に応じて、任意に追加の成分を含むことができる。
【0036】
一実施形態では、洗浄剤除去システムは、さらに、ガラスビーズを含み、これは、水性試料中に存在する細胞の溶解を改善および/または加速するように、または洗浄剤を含む水溶液と、塩、アルコールおよびハロカーボン成分との混合を改善するように機能し得る。理論に制約されるものではないが、未処理の試料(例えば、唾液)が、SDSおよび本発明の組成物と同時に強く混合される場合、ビーズは試料の均一化、細胞の溶解を助け、SDSをタンパク質結合DNAと接触させると考えられている。その後、SDSは、DNAからタンパク質を剥ぎ取り、組成物はSDSおよびSDS関連/SDS結合分子を有機相に分離させる。
【0037】
別の実施形態では、洗浄剤除去システムはさらに還元剤を含む。還元剤はまた、本洗浄剤除去組成物と混合する前に、除去される洗浄剤を含む水溶液中に存在することも、またはその水溶液に添加することもできる。このような還元剤は、例えば、ジチオトレイトール(DTT)、メルカプトヘキサノール、メルカプトウンデカノール、ジメルカプトプロパノールまたはメルカプトブタノールとすることができる。
【0038】
さらに別の実施形態では、洗浄剤除去システムはさらにキレート化剤および/または緩衝液を含む。還元剤および/または緩衝液はまた、本洗浄剤除去組成物と混合する前に、除去される洗浄剤を含む水溶液中に存在することも、またはその水溶液に添加することもできる。このようなキレート化剤は、例えば、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン三酢酸(EDTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、クエン酸塩無水物、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸アンモニウム、二クエン酸アンモニウム、クエン酸、クエン酸二アンモニウム、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸リチウム、またはこれらの任意の組み合わせとすることができる。任意の好適な緩衝液を使用してよく、当業者にはよく知られている。
【0039】
別の実施形態では、洗浄剤除去システムはさらにナイルレッドなどの親油性染色剤を含む。ナイルレッドは、細胞内脂質、細胞膜および疎水性タンパク質表面を染色する。生物試料および本組成物と混合されると、染色剤は有機下層のみに分離し、水性上相は透明で無色で残される。このような親油性染色剤は、例えば、9-アントリルジアゾメタン、Fluorol Yellow088、N,N,N-トリメチル-4-(6-フェニル-1,3,5-ヘキサトリエン-1-イル)フェニルアンモニウム p-トルエンスルホネート(TMA-DPH)、3,3’-ジオクタデシルオキサカルボシアニンペルコロレート、1,6-ジフェニル-1,3,5-ヘキサトリエン、Sudan III、Sudan Orange G、Nile BlueクロリドおよびSolvent Blue 37であり得る。
【0040】
洗浄剤除去方法
本出願は、水溶液から洗浄剤を除去する方法を提供する。特定の実施形態では、洗浄剤は陰イオン洗浄剤である。特定の実施形態では、陰イオン洗浄剤はSDSまたはサルコシルである。方法はまた、水溶液中に存在する可能性がある洗浄剤関連分子または洗浄剤結合分子の除去にも使用し得る。したがって、本方法は、理想的に使用され、水溶液から阻害物質、すなわち、限定されないが、PCR(RT-PCRを含む)、ライブラリー調製、およびヌクレオチドシーケンシングを含む下流の用途などの反応を阻害する阻害物質を除去し得る。阻害物質には、例えば、その後の用途などにおける酵素阻害物質、例えば、酵素依存性反応の阻害物質が挙げられる。
【0041】
本方法は、除去される洗浄剤を含む水溶液を、塩、水不混和性アルコール、およびハロカーボンと混合することからなるにすぎない。3種の成分は、単一ステップで、または複数ステップで、溶液と混合できる。添加の順番は重要ではなく、洗浄剤除去組成物の成分が水溶液とよく混合されることの方が重要である。この混合ステップには、混合を改善するまたは容易にするために、ボルテックスなどの機械的な撹拌を含めることができる。
【0042】
水溶液は、除去される洗浄剤を含むどのような水溶液であってもよい。特定の実施形態では、洗浄剤は陰イオン洗浄剤である。特定の実施形態では、洗浄剤はSDSまたはサルコシルである。水溶液は、洗浄剤関連分子および/または洗浄剤結合分子を含んでもよい。このような溶液は、例えば、唾液、喀痰、頬側スワブ試料、血清、血漿、血液、咽頭、鼻部/鼻部咽頭または洞スワブまたは分泌物、咽頭スワブまたは擦過物、尿、粘液、糞便、キームス、吐瀉物、胃液、膵液、消化管液、精液/精子、脳脊髄液、乳汁分泌または月経生成物、卵黄、羊水、水様液、硝子体液、頸部分泌物またはスワブ、膣液/分泌物/スワブまたは擦過物、骨髄吸引液、胸水、汗、膿、涙液、リンパ液、気管支または肺洗浄液または吸引液、細胞培養液および細胞懸濁液、結合組織、上皮、粘膜、筋組織、胎盤組織、臓器組織、神経組織、毛髪、皮膚、爪、植物、植物抽出物、藻類、微生物、土壌試料、下水、廃水、食糧、などであってよい。
【0043】
試料が細胞または組織を含む場合、洗浄剤除去を最大化するために、洗浄剤除去組成物との良好な混合を確実にすることは有益である。一実施形態では、混合の前またはその間に、ガラスビーズまたはその他の機械的手段を加えて、試料分散および細胞溶解を促進する。あるいは、組織試料は、SDSと洗浄剤除去組成物との混合の前または後での機械的もしくは化学的手段または酵素(例えば、プロテイナーゼK)消化により均一化させ得る。あるいは、SDS単独でも、固体組織片(例えば、筋肉生検材料または腫瘍生検材料)の表面を覆う十分な数の細胞を溶解して、核酸を溶液中に放出させ、その後、洗浄剤除去組成物で処理して下流の用途での使用が可能である。
【0044】
生物試料は、ウイルス、細菌、酵母、真菌、古細菌、および原生生物などの微生物を含んでいても、含んでいなくてもよい。
【0045】
水溶液と洗浄剤除去組成物との完全混合後、得られた混合物は静置するか、または短時間遠心分離して2相が形成される。洗浄剤(および何らかの洗浄剤関連分子または洗浄剤結合分子)は、下側有機相中に分配され、上側の水相は実質的に洗浄剤不含の状態で残される。上段の水相は、デカンテーションまたはピペット操作などの標準的な手段により下側有機相からの混入なしに、下流分析のために容易に単離できる。
【0046】
この方法は、水溶液からの陰イオン洗浄剤などの洗浄剤の除去に有効であるのみでなく、洗浄剤関連分子または洗浄剤結合分子および高分子の除去にも有効である。特定の実施形態では、洗浄剤関連分子または連洗浄剤結合分子はタンパク質である。SDSなどの陰イオン洗浄剤は、膜脂質二重層を破壊し、タンパク質を変性することにより、生物試料中の細胞を溶解することが知られている。SDSはタンパク質を効率的に可溶化し、それに強く結合するので、本洗浄剤除去方法およびシステムは、洗浄剤および洗浄剤関連タンパク質/結合タンパク質の両方を容易に除去し、下側有機相中に分離できると考えられている。したがって、本出願は、生物試料などの水溶液からタンパク質を抽出する方法をさらに提供する。したがって、本明細書に記載の方法、組成物、システムおよびキットは、理想的に使用され、水溶液から阻害物質、すなわち、限定されないが、PCR(RT-PCRを含む)、ライブラリー調製、およびヌクレオチドシーケンシングを含む下流の用途などの反応を阻害する阻害物質を除去し得る。阻害物質には、例えば、その後の用途などにおける酵素阻害物質、例えば、酵素依存性反応の阻害物質が挙げられる。
【0047】
少なくとも一部の水相(すなわち、洗浄剤、および、存在する場合、洗浄剤関連分子または洗浄剤結合分子を実質的に含まない相)は、限定されないが、その後、PCR(RT-PCRを含む)、ライブラリー調製、およびヌクレオチドシーケンシングを含む下流の用途のために直接使用し得る。
【0048】
また、洗浄剤除去用のキットも本明細書で提供される。キットは、単一の容器、または2つまたは3つの別々の容器に入れた、洗浄剤除去組成物の塩、アルコールおよびハロカーボン成分を含む。場合により、キットは、本洗浄剤除去方法を実施するための説明書および/または試料収集容器および/または洗浄剤溶液を含む試料収集容器も含む。上述のように、特定の実施形態では、キットはまた、洗浄剤関連分子および/または洗浄剤結合分子を、存在する可能性がある水溶液から除去するために使用し得る。
【0049】
本明細書に記載の本発明をさらに理解するために、以下の実施例を示す。これらの実施例は、単に例示目的であることを理解されたい。したがって、これらは本発明の範囲を限定するものでない。
【実施例0050】
実施例1:低濃度のSDSを検出するための高感度アッセイシステム
試料中のSDSの極めて小さい(<0.01重量/体積%)量を定量するために、高感度アッセイシステムを開発した。このアッセイで、SDSの定量化は、ステインズオールとしても知られる、3,3′-ジエチル-9-メチル-4,5,4′,5′-ジベンゾチアカルボシアニン染料を基準にしている。これは、SDSの存在下で黄色に変わるフクシア染料である。このアッセイは、試料中の0.003%程度の少ないSDSの正確な検出および定量化を可能とする。
【0051】
このアッセイは、“Quantification of Sodium Dodecyl Sulfate in Microliter-Volume Biochemical Samples by Visible Light Spectroscopy.” Analytical Biochemistry.2001.295,31-37中でRusconiらにより記載されたものを改良した。
【0052】
装置
・Tecan Infinite 200プレートリーダー
・Grenier96ウエル平底透明ポリスチロールプレート
【0053】
試薬
・ステインズオール[Sigma-Aldrich、カタログ番号E9379-1G]
・イソプロパノール[EMD、カタログ番号PX1834-6]
・DMSO[BDH、カタログ番号B10323]
・10%SDS(w/v)[EMD、カタログ番号DX2490-2]
アッセイの実行前にHO中の1%に希釈
【0054】
溶液の調製
・50%(v/v)イソプロパノール中の1mg/mLからなるステインズオールストック溶液(1.8mM)。このストック溶液は、暗所、4℃で1ヶ月間安定である。
・ステインズオール中間体溶液(90μM):
中間体溶液は、1mLのステインズオールストック溶液(1.8mM)と、1mLのDMSO、および18mLのHOを混合することにより調製した。このステインズオール中間体溶液は、暗所、室温で貯蔵した場合、3日間安定である。
【0055】
SDS検量線の作成:次の標準溶液を用いて検量線を作成した:
a.0.05%SDS=5μlの1%SDS+95μlのH
b.0.025%SDS=50μl(A)+50μlのH
c.0.0125%SDS=50μl(B)+50μlのH
d.0.0625%SDS=50μl(C)+50μlのH
e.0.003125%SDS=50μl(D)+50μlのH
f.0.0015625%SDS=50μl(E)+50μlのH
g.0.00078125%SDS=50μl(F)+50μlのH
h.0%SDS=H
【0056】
手順
1.5μlのSDS標準溶液または試料を96ウェルプレートのウエルに移す。
2.吸光度を読み取る直前に、195μlのステインズオール中間体溶液をそれぞれの試料に加える(注意:ステインズオールは感光性である)。
3.標準的プレートリーダーを用いて、420nm~480nmから吸光度を読み取る。
4.吸光度の「曲線下面積」(AUC)(420~480nm)を、GraphPad Prism5ソフトウェアで計算する。
【0057】
既知のSDS濃度に対しAUCをプロットすることにより、検量線(グラフの暗色バーで表される)を作成した。これにより、未知の試料中のSDSの濃度は、計算されたAUCおよび検量線を用いて容易に得られた。特に指示がない限り、この方法を使って、次の実施例のSDS濃度を決定した。
【0058】
実施例2:洗浄剤除去組成物の比較
本発明の種々の洗浄剤除去組成物を用いて、既知の量のSDSを含む水溶液からSDSを除去した。異なる濃度のSDSを含む100マイクロリットルの分割量の水性組成物を調製した。塩および20μlの1:1(vol/vol)の高級アルコールとハロカーボンの混合物を下記のように加えることにより、SDS除去を実施した。チューブを強く2分間ボルテックスし、13,000rpmで2分間遠心分離した。上段の(水性)相を取り出し、水相中の残留SDSを、実施例1に記載の改良ステインズオールアッセイを用いて定量した。結果を、図1~3に示す。暗色バーは、SDS標準溶液を表し、白色バーは、試験した洗浄剤除去組成物による結果を表す。
【0059】
図1に示すグラフは、1%SDS含有水溶液を種々の洗浄剤除去組成物で処理した場合の実験結果を示す。組成物1は、1-ペンタノールとブロモジクロロメタン(BDCM)の1:1混合物および150mMの塩化アンモニウム(NHCl)を含む。組成物2は、1-ペンタノールとクロロホルムの1:1混合物および150mMのNHClを含む。組成物3は、1-ペンタノールと2-ヨードプロパンの1:1混合物および150mMのNHClを含む。いずれの場合にも、処理後の水相中で検出されたSDSの量は、0.00625%未満であり、使用ハロカーボンが2-ヨードプロパンの場合には、洗浄剤除去後に検出されたSDSの量は、0.003125%未満であった。これは、1/5の体積のみの洗浄剤除去組成物を用いた単回処理で、極めて効率的な(>99.7%)SDSの水相からの抽出を示す。
【0060】
図2に示すグラフは、4%SDS含有水溶液を種々の洗浄剤除去組成物で処理した場合の実験結果を示す。この調査では、全組成物は、1-ペンタノールとBDCMの1:1混合物および下記の塩からなる:組成物4:175mMのNHCl;組成物5:200mMのNHCl;組成物6:125mMのメチルトリ-n-ブチルアンモニウムクロリド;組成物7:150mMのメチルトリ-n-ブチルアンモニウムクロリド;組成物8:150mMのトリエチルアミン塩酸塩;組成物9:175mMのトリエチルアミン塩酸塩;組成物10:175mMのテトラ-n-ブチルアンモニウムアセテート;組成物11:200mMのテトラ-n-プロピルアンモニウムクロリド。いずれの場合にも、処理後の水相中で検出されたSDSの量は、0.00625%未満であった。この結果も、1/5の体積のみの洗浄剤除去組成物を用いた単回処理で、極めて効率的な(最大>99.9%)SDSの水相からの抽出を示す。
【0061】
図3に示すグラフは、10%SDS含有水溶液を種々の洗浄剤除去組成物で処理した場合の実験結果を示す。この調査では、全組成物は、1-ペンタノールとBDCMの1:1混合物および下記に示す種々濃度のNHClからなる:組成物12:275mM;組成物13:300mM;および組成物14:325mM。いずれの場合にも、処理後の水相中で検出されたSDSの量は、0.00625%未満であった。この結果も、極めて高い初期SDS濃度(10重量/体積%)であっても、1/5の体積のみの洗浄剤除去剤を用いた単回処理で、極めて効率的な(最大>99.9%)SDSの水性成分からの抽出を示す。
【0062】
実施例3:唾液含有試料からのSDSの除去
生物試料を含む水性組成物における本発明の有効性を示すために、新しいヒト唾液試料を15mlのコニカルチューブに収集した。1ミリリットルの唾液を、4%SDSおよび250mMのLiClを含む同体積のリシスバッファーで処理し、プロテイナーゼK(「PK」)を用いて60℃で15分間消化した。PKは、90℃で15分間加熱することにより不活化し、93.75μlの分割量のリシスバッファー中で処理した唾液を、6.25μlの2M 塩化アンモニウム溶液と混合した。
【0063】
20μlの1-ペンタノールとBDCMの1:1混合物を100μlの処理した唾液試料に加えることにより、洗浄剤除去を実施した。チューブを強く2分間ボルテックスし、13,000rpmで2分間遠心分離した。上段の(水性)相を取り出し、SDSを、実施例1に記載の改良ステインズオールアッセイを用いて定量した。結果を、図4に示す。これらの結果は、本明細書に記載の組成物および手順を用いて、唾液含有水性試料から99.7%を超えるSDSの除去に成功したことを示す。
【0064】
実施例4:静脈血由来試料からのSDSの除去
複雑な生物試料を含む水性組成物における本発明の有効性を示すために、ヒト静脈血をEDTAチューブに収集した。1ミリリットルの血液を3倍量のSDSおよび塩化アンモニウム含有リシスバッファーに70℃で15分間溶解した。溶解した血液試料中のSDSおよび塩化アンモニウムの最終濃度は、それぞれ2.5%および175mMであった。
【0065】
20μlのペンタノールとBDCMの1:1混合物を、100μlの溶解した血液試料に加えることにより、洗浄剤除去を実施した。チューブを強く2分間ボルテックスし、13,000rpmで2分間遠心分離した。上段の(水性)相を取り出し、SDSを、実施例1に記載の改良ステインズオールアッセイを用いて定量した。結果を図5に示すが、これは、静脈血などの複雑な生物試料からでも、SDSを成功裏に除去(>99%)できることを示した。
【0066】
実施例5:種々の濃度のSDSによるPCRの阻害
下記のマスターミックスを用いて、複数のqPCR反応を実施した:2.5μlの1mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)、2.5μlの10xPCR緩衝液、1.5μlの50mM MgCl、0.5μlの10mM dNTP、0.5μlの10pMol順方向プライマー、0.5μlの10pMol逆方向プライマー(ヒト18S-165順方向5’gtggagcgatttgtctggttおよびヒト18S-165逆方向5’ggacatctaagggcatcacag)、0.5μlの0.5μM Syto9、0.2μlの5U/μl Taqポリメラーゼ、12.3μlの水。
【0067】
既知の量のコントロールDNAおよび1%~0.001重量/体積%の範囲の種々の濃度のSDSによるqPCR反応を、18S rRNA遺伝子、57.4℃のプライマーアニーリング温度および30サイクルを用いて実施した。
【0068】
図6に示す結果は、qPCRは、0.01%の低いSDS濃度で完全に阻害され、0.005%の濃度で部分的阻害が観察された。これらの範囲は、上記で参照した発表データと一致する。
【0069】
実施例6:qPCRに対する以下の洗浄剤除去後の生物試料中のDNAの使用
唾液由来試料
実施例3に記載のように、洗浄剤除去組成物で処理後、溶解した唾液試料の水相を得た。12μlの分割量の水相を1%アガロースゲル中で、1kbDNAラダーの横に並べて電気泳動した。その後、ゲルをSybrGold(登録商標)(Invitrogen、カタログ番号S11494)で染色した。結果を図7に示すが、高分子量DNA(>23kb)を認めることができ、したがって、本発明の組成物による処理は、DNAを無傷のまま水溶液中に残すことを示す。
【0070】
上記実施例5に記載の方法に従って、洗浄剤除去後の水相の分割量を用いて、qPCRを実施した。合計25μlのqPCR反応に直接添加された4μlの唾液由来水相のデータを図8に示す。比較のために、18S rRNA遺伝子の5ngおよび50ngの精製DNAもqPCRに供した。
【0071】
これらの結果は、上記洗浄剤除去手順後、SDSは、効率的に、急速に唾液由来水性試料から除去し得ることをさらに実証している。図8で得られたqPCRの成功を示すデータは、唾液由来水相が極少ない量のみの残留PCR阻害物質を含むことを示唆する。おそらく、より多い量のqPCR混合物中のより少ない分割量の使用でも類似の結果を与えるであろう。実際に、希釈は、血液試料中に天然に存在する阻害物質を取り扱うために、よく行われる手法である。しかし、この手法は、試料から得ることができる全DNAが減少し、その実験方法により多くのエラー源を持ち込むことになろう。いつの場合でも、より多くの量の、より高い濃度の試料を用いる能力を有することが好ましい。本明細書中に記載した方法および組成物は、高希釈手法を使用する必要のない試料の使用を可能とする。
【0072】
血液由来試料
実施例4に記載のように、この実施例用として、溶解した血液試料から洗浄剤除去後に、水相を得た。洗浄剤除去後に8μlの分割量の水相を0.8%アガロースゲル中で、1kbDNAラダーの横に並べて電気泳動した。その後、ゲルを臭化エチジウムで染色した。結果を図9に示すが、高分子量DNA(>23kb)を認めることができ、したがって、本発明の組成物による処理は、DNAを無傷のまま水溶液中に残すことを示す。
【0073】
上記実施例5に記載のように、洗浄剤除去後の水相の分割量を用いて、qPCRを実施した。合計25μlのqPCR反応を得るように直接添加された2μlおよび4μl両方の血液由来水相のデータを図10に示す。
【0074】
これらの結果は、上記洗浄剤除去手順後、SDSは、効率的に血液由来水性試料から除去されたことをさらに実証している。血液は、かなりの量のPCR阻害物質を含むことがわかっているので、図10のデータは、実施例4に記載のように、SDS含有血液試料を洗浄剤除去組成物で処理すれば、高希釈の試料は必要なかったという点でかなり注目すべきである。以下に示すように、SDSが試料から除去されたのみではなく、何らかのSDS関連タンパク質も同様に除去されたことを理由にして、この際だった結果を説明し得るかも知れない。
【0075】
実施例7:逆転写酵素(RT)-PCRに対する洗浄剤除去後の生物試料由来RNAの使用
唾液
2mLの新しい唾液試料を15mlのコニカルチューブに収集し、等体積のリシスバッファー(4%SDS、250mMのLiCl)と混合した。
溶解した唾液の200μlの分割量をPKと混合し、60℃で15分間、インキュベートした。PKを90℃で15分間加熱することにより不活化した。10μlの2Mの塩化アンモニウムおよび40μlの1-ペンタノールと(ポリ)クロロトリフルオロエチレンの1:0.8(vol/vol)混合物を加えた。チューブを強く2分間ボルテックスし、13,000rpmで2分間遠心分離した。上段(水性)相を取り出し、1%アガロースゲルで電気泳動した。ゲルをSybrGoldで処理して、核酸を染色した(図11)。細菌16Sおよび23SリボソームRNAバンドは、本明細書に記載の洗浄剤除去組成物が、無傷のRNAを水相中に残すことを示すことが認められる。ヒト28Sおよび18SリボソームRNAは、認められなかった。理由は、それらは、非常に少ない量で唾液中に存在し、少なすぎてSybrGoldによる染色により検出できないためである。しかし、ヒトリボソームRNAは、次のセクションで示すように、RT-PCRにより検出できる。
【0076】
唾液試料由来の水相は、BDCM:1-ペンタノールの1:1(vol/vol)混合物が洗浄剤除去組成物として使用されたこと以外は、上述と同様に処理された。1μlの唾液水相を、20μlのRT反応混合物(4μlの5X First Strand Buffer(Invitrogen)、2μlの100mM DTT、2μlの10mM dNTP、2μlの50mM MgCl、1μlのRNAse阻害物質(10U/μl)、1μlのランダムプライマー(125ng/μl、Invitrogen)、2μlのM-MLV逆転写酵素(Invitrogen)、残りは水)に直接添加した。その後、1μlのRT生成物を、24μlのqPCR反応に加え、上記実施例5に記載のように処理し、ヒト18SリボソームRNA cDNAを検出した。ネガティブコントロールチューブ(RT酵素不含)を-RTとして標識した。結果を図12に示す。
【0077】
別の新しい唾液試料を正確に上述のように処理した。上段水相を取り出し、3μlを、18μlのRT反応混合物(上述)に直接加えた。その後、2μlのRT生成物を、23μlのqPCR反応に加え、上記実施例5に記載のように処理し、ヒト18SリボソームRNA cDNAを検出した。ネガティブコントロールチューブ(逆転写酵素不含)を-RTとして標識した。結果を図11に示す。両方の場合で(図12および13)、結果は、18SリボソームRNAは、洗浄剤除去組成物で処理した溶解した唾液試料の水相中で検出し得ることを示している。予想通り、RT反応で1μlおよびqPCR反応で1μlの使用(図12)に代えて、それぞれ、RT反応で3μlおよびqPCR反応で2μlの使用(図13)は、PCR反応でのより低いCt値により明らかなように、RT反応においてより多くの18SリボソームRNA cDNAを産生した。より大きな量の水相による、RT生成物のかなりの増加、したがって、qPCR生成物の増加により、阻害物質の下側有機相への隔離における洗浄剤除去組成物の顕著な有効性が実証された。-RTシグナルは、ヒトゲノムDNAの存在に起因し、これは、これらの調査では除去されなかった。
【0078】
血液
ヒト静脈血を標準的EDTAチューブに収集した。1倍量の血液を9倍量のリシスバッファー(4%SDS、250mMのLiCl)と混合した。溶解した血液をPKにより60℃で15分間消化した。次に、90℃で15分間、PKを不活化した。100μlの分割量の溶解した血液からのSDSの除去を、5μlの2Mの塩化アンモニウムおよび20μlの1-ペンタノールと(ポリ)クロロトリフルオロエチレンの1:0.8(vol/vol)混合物を混合することにより実施した。チューブを強く2分間ボルテックスし、13,000rpmで2分間遠心分離した。上段(水性)相を取り出し、分割量を1%アガロースゲルで泳動させた(図14)。核酸をSybrGoldで染色した。ヒト18Sおよび28SリボソームRNAに対応するバンドを認めることができる。1μlの血液水相を、20μlのRT反応混合物(4μlの5X First Strand Buffer(Invitrogen)、2μlの100mM DTT、2μlの10mM dNTP、2μlの50mM MgCl、1μlのRNAse阻害物質(10U/μl)、1μlのランダムプライマー(125ng/μl、Invitrogen)、1.5μlのM-MLV逆転写酵素(Invitrogen)、残りは水)に添加した。その後、1μlのRT生成物を、24μlのqPCR反応に加え、上記実施例5に記載のように処理した。逆転写酵素不含のネガティブコントロールチューブを-RTとして標識した。図15に示す結果は、SDSが、SDSに結合した可能性のある追加の阻害物質と共に、洗浄剤除去組成物により除去されると、ヒト18SリボソームRNAは、RT-PCRにより検出され得ることを明確に示した。
【0079】
実施例8:アルコールの比較
いくつかの代表的アルコールを、洗浄剤除去組成物中でのそれらの実行能力を調査した。一級アルコール、二級アルコール、環状アルコール、ジオールおよび固体および液体アルコールの両方を(室温で)試験した。アルコールを、未処理の生物試料に対して、および/または簡単な水とSDS(4重量/体積%)混合物が使用される「モデルシステム」で試験した。効率的に相分離をさせるために、アルコールは、水中でほとんど不混和性であるが、ハロカーボンとは可溶性でなければならない。結果を下記の通りまとめている:
【0080】
【表1】
【0081】
上記で得られた観察から推定できるように、水不混和性アルコールは、式I:
-OH I
(式中、Rは、任意に置換されてもよい直鎖、分枝、または環式C-C12アルキルである)の構造を有するいずれかのアルコールであり得る。
【0082】
実施例9:水性試料からのタンパク質の除去
ヒト静脈血を標準的EDTAチューブに収集した。1倍量の血液を、3倍量の4%SDSおよび30mMのDTTを含むリシスバッファーと完全に混合した。洗浄剤およびタンパク質除去を以下のように実施した。NHClを最終濃度の100mMまで、溶解した血液試料の100μlの分割量に加えた。それぞれの溶解した血液の分割量に、種々の量の1-ペンタノールおよびBDCMを含む20μlの洗浄剤除去組成物を加えた(詳細は下記参照)。チューブを強く2分間ボルテックスし、13,000rpmで2分間遠心分離した。初期の溶解した血液試料(すなわち、洗浄剤除去前)、ならびに洗浄剤除去後の水相をSDS-PAGEにより分析した。ポリアクリルアミドゲルをクーマシーブルーで染色し、タンパク質バンドを示した。結果を図16に示す。レーン1は、タンパク質分子量マーカーを含む。レーン2は空である。レーン3は0.5μlの洗浄剤除去前の溶解した血液試料を含む。レーン4は空である。レーン5は1μlの洗浄剤除去前の溶解した血液試料を含む。レーン6は空である。レーン7はBDCMのみで溶解した血液試料の処理後の7.5μlの水相を含む。レーン8は空である。レーン9は3:7(vol/vol)の1-ペンタノール:BDCM混合物で溶解した血液試料の処理後の7.5μlの水相を含む。レーン10は1:1(vol/vol)の1-ペンタノール:BDCM混合物で溶解した血液試料の処理後の7.5μlの水相を含む。レーン11は7:3(vol/vol)の1-ペンタノール:BDCM混合物で溶解した血液試料の処理後の7.5μlの水相を含む。レーン12は1-ペンタノールのみで溶解した血液試料の処理後の7.5μlの水相を含む。
【0083】
結果は、試料が洗浄剤除去組成物で処理されている、レーン9、10および11には、タンパク質がごくわずか存在するかまたは全く存在しないことを示す。この顕著に効率的なタンパク質の抽出は、極めて意外である。これは、1/5もの少ない体積の洗浄剤除去組成物(すなわち、100μlの溶解した血液試料に加えられた20μlの組成物)で、血液から大部分のタンパク質を効率的に除去できることを示している。観察されたヘモグロビンの暗赤色の除去(データは示さず)は、SDS含有試料に対する洗浄剤除去組成物の意外に強力な除タンパク力の別の指標である。タンパク質バンドがレーン3、5、7および12に認められ、これらのケースでは、本出願の洗浄剤除去組成物を使用しなかった(レーン3および5)か、またはいくつかの成分を除外(レーン7および12)しており、良い結果を得るためには、これらの3種の成分が不可欠であることを示している。
【0084】
実施例10:生物試料からのサルコシルの除去およびqPCRでのDNAの使用
生物試料を含む水性組成物中の洗浄剤除去のための、本方法および組成物の有効性を示すために、新しいヒト唾液試料を15mlのコニカルチューブに収集した。1ミリリットルの唾液を、4%サルコシルを含む同体積のリシスバッファーで処理し、プロテイナーゼK(「PK」)を用いて60℃で15分間消化した。PKは、90℃で15分間加熱することにより不活化し、90μlの分割量のリシスバッファー中で処理した唾液を、10.00μlの2M 塩化アンモニウム溶液と混合した。
【0085】
20μlの1-ペンタノールと(ポリ)クロロトリフルオロエチレンの1:0.8混合物を100μlの処理した唾液試料に加えることにより、洗浄剤除去を実施した。チューブを強く2分間ボルテックスし、13,000rpmで2分間遠心分離した。上記実施例5に記載の方法に従って、上段(水性)相を取り出し、4μlを、ヒト18s-165bp PCR反応に加えた。合計25μlのqPCR反応に直接添加された4μlの唾液由来水相のデータを図17に示す。
【0086】
実施例11:洗浄剤除去後のライブラリープレップの構築のための生物試料中のDNAの使用
次世代シーケンシング(NGS)の主要素は、高品質ライブラリー調製である。ほとんどの高スループットNGSライブラリー構築ワークフローは、共通の一連のステップに依存し、そのいくつかは、酵素的に-DNAフラグメンテーション、末端修復、Aテイリング、アダプターリゲーション、およびPCR増幅-により達成される。入力DNA品質はまた、ライブラリー構築の成功のための重要な決定因子である。洗浄剤などの酵素阻害物質は、生物試料の精製中持ち越され、最終収率の低下、ライブラリープレップの失敗、または生物情報学的に分析される場合に低く、不均一なカバー率をもたらし得る。理想的には、抽出プロトコルまたはシステムは、阻害物質不含核酸に純化するように最適化されるべきである。
【0087】
この実施例では、DNAは生物試料から、2種の異なる方法により精製され、単離されたDNAを使って、NGS用のライブラリープレップの構築に直接使用された。シーケンシングライブラリーの品質は、試験したDNA精製法による阻害物質除去の有効性に直接相関した。一方法では、唾液を2人のドナーから等容積の、洗浄剤およびその他のシーケンシング阻害物質を含むDNA抽出および精製試薬である、Oragene(登録商標)(DNA Genotek,Ottawa,Canada)中に収集し、続けて、下流側分析の阻害物質を除去するように設計された試薬と方法である、prepIT(登録商標)・L2P(DNA Genotek)を加え、最後にエタノール沈殿を行い精製DNAを回収した。第2の方法では、Oragene中に収集した同じ唾液の分割量を本発明の組成物と単純に混合した。特に、100μlの唾液/Orageneを10μlの2M NHClおよび20μlのペンタノール:ハロカーボン油6.3(1:0.8(v/v))と混合し、20分間静置した。得られた核酸を含む上清を、ライブラリープレップ構築の準備が整っている清浄なチューブに移した(IlluminaのNextera(登録商標)XT DNAライブラリー調製ガイド)。
【0088】
本組成物(「STAT」)で処理したOragene/唾液試料から、およびOragene/prepIT・L2Pを用いて抽出した精製DNAから、シーケンシングライブラリーを調製した。調製したライブラリーを、Agilent高感度DNAキットを用いて、Agilent2100バイオアナライザーで分析した。バイオアナライザーゲル画像(図18a~b)および出力図(図19a~d)は、STATを使って洗浄剤およびその他の阻害物質が除去されている唾液試料から調製したライブラリーは、精製DNAから調製したライブラリーと同じ平均フラグメントサイズおよびフラグメント長さ分布、ならびに類似の濃度を有することを示す。したがって、STAT処理生物試料の上清は、NGS用のライブラリー調製の構築に直接使用でき、かなりの時間と出費を節約できる。
【0089】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許および特許出願は、本発明が属する当業者の技術レベルの指標であり、個々の刊行物、特許、または特許出願が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0090】
したがって、記載される本発明は、多くの方法で変更することができることは明らかであろう。このような変更は、本発明の趣旨および範囲からの乖離であると見なされるべきものではなく、また、当業者には明らかである全てのこのような修正は、次の請求項の範囲内に含まれることが意図されている。
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