(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166228
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20221025BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20221025BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221025BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221025BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20221025BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20221025BHJP
A61K 31/7115 20060101ALI20221025BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20221025BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20221025BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221025BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221025BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221025BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20221025BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20221025BHJP
C07K 7/04 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P17/02 ZNA
A61P43/00 105
A61K48/00
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/7115
C12N15/113 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
G01N33/53 D
C12N15/09 110
C12N15/115 Z
C07K16/18
C07K7/04
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022130528
(22)【出願日】2022-08-18
(62)【分割の表示】P 2020509485の分割
【原出願日】2019-12-04
(31)【優先権主張番号】10-2019-0117157
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】513225811
【氏名又は名称】テゴ サイエンス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】チョン・セファ
(72)【発明者】
【氏名】チョン・ホユン
(72)【発明者】
【氏名】オ・ナラ
(72)【発明者】
【氏名】キム・ユンヒ
(72)【発明者】
【氏名】ハン・ジクヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ムン・ヒョンア
(57)【要約】 (修正有)
【課題】肥厚性瘢痕の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【解決手段】本発明では、TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5-特異的siRNAを製作して、肥厚性瘢痕の治療可能性を確認した。したがって、前記タンパク質またはこれをコードする遺伝子のノックダウンは、肥厚性瘢痕で細胞死滅を誘導し、コラーゲン発現を減少させて、傷跡治療に非常に有用に使用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の活性を抑制したり、または前記一つ以上のタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分として含む、ケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記有効成分は、shRNA、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム(ribozyme)、Crispr-cas9、DNAzyme、PNA(peptide nucleic acids)、ペプチド、抗体、アプタマー、天然抽出物または化学物質であることを特徴とする請求項1に記載のケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項3】
前記有効成分は、前記遺伝子の発現を抑制するshRNA、siRNA、miRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項2に記載のケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項4】
(a)ケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)患者に由来した組織に試験物質を処理する段階;および
(b)前記試験物質が処理された組織または細胞で TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の活性または前記タンパク質をコードする遺伝子の発現量を分析する段階であって、正常組織での前記タンパク質の活性またはこれをコードする遺伝子の発現様相と異なる場合、前記試験物質をケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防または治療物質と判断する、ケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)の予防または治療物質のスクリーニング方法。
【請求項5】
TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子、またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の発現量を測定する物質を含む、ケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)診断用組成物。
【請求項6】
ケロイドまたは肥厚性瘢痕を有したり予想される個体から得た試料でTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子、またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の発現量を測定する段階;および
前記測定結果を正常個体の試料での前記遺伝子またはタンパク質の発現量と比較する段階;を含むケロイドまたは肥厚性瘢痕の診断方法。
【請求項7】
ケロイドまたは肥厚性パヌルルル有する個体に(a)有効成分としてTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子の発現を抑制したり、またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の活性を抑制する物質を含む薬学的組成物を投与することを含む、ケロイド疾患または肥厚性瘢痕を有する個体を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
手術または外傷によって真皮の深い層まで損傷を受けた場合、皮膚の緊張度を維持する真皮層のコラーゲンが過多に増殖して傷が治った後にも薄くなった皮膚を押して通過して皮膚の治癒跡を残すことになるが、これを「一般傷跡」という。これは、傷の治癒結果であるが、傷治癒過程を適切に調節し抑制する機能の障害がある場合には、非正常的に繊維組織が密集して成長して肥厚性瘢痕(Hypertrophic scars)やケロイド(Keloid)が生じることがある。肥厚性瘢痕は、傷の範囲を超えなく、時間が経過するにつれて次第に消える傾向を示すが、ケロイドは、時間が経過するにつれて損傷部位よりさらに広く成長して正常皮膚まで侵すという差異がある。肥厚性瘢痕やケロイドの治療のために、手術療法、放射線療法、ステロイド療法、シリコンゲルによる閉塞性ドレッシング、レーザー療法を含む様々な試みがあったが、制限的な効果だけを示していて、まだ確立された方法はない。
【0003】
肥厚性瘢痕やケロイドの生成は、傷治癒段階で細胞の移動が過活性化したり、組織の細胞と毛細血管が異常増殖して過形成されたり、正常に分解されないため、コラーゲンの過度な蓄積が原因であると知られている。韓国特許登録10-1505294号は、コラーゲンを加水分解して傷跡の形成を減少させるのに使用できるヒトデ孵化液抽出物を開示し、韓国特許登録10-1697396号は、線維症に関連した結合組織成長因子(CTGF)を標的とする化合物を使用して肥厚性瘢痕を治療する方法について開示した。
【0004】
傷跡が治る過程で必要以上に蓄積されるコラーゲンの形成および細胞増殖に関与するバイオマーカーに関する情報は殆どないのが現状である。このようなバイオマーカーを選別することによって、肥厚性瘢痕のような異常な傷跡を正確に診断し、前記バイオマーカーをターゲットとする物質をスクリーニングすることによって、肥厚性瘢痕またはケロイド形成を抑制して治療することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ケロイド(keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scars)の予防または治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、ケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防または治療方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、ケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防または治療物質のスクリーニング方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、ケロイドまたは肥厚性瘢痕を診断する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的のために、本発明者らは、肥厚性瘢痕組織および正常組織で示す様々なタンパク質発現の差異を比較することによって、異常な発現様相を示すタンパク質マーカーが肥厚性瘢痕の原因になると仮定し、正常組織と異なる発現様相を示すタンパク質を選別した。
【0010】
これより、本発明は、TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の発現量を測定する物質を含むケロイドまたは肥厚性瘢痕診断用組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、ケロイドまたは肥厚性瘢痕組織でTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子、またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の発現量を測定する段階と、前記測定結果を正常組織で前記遺伝子およびタンパク質の発現量と比較する段階とを含むケロイドまたは肥厚性瘢痕の診断方法を提供する。
【0012】
前記遺伝子またはタンパク質の発現量の測定は、当業界に公知となっている多様な方法を用いて実施され得る。例えば、RT-PCR(Sambrookなど、Molecular Cloning.A Laboratory Manual、3rd ed.Cold Spring Harbor Press(2001))、ノーザンブロッティング(Peter B.Kaufma et al.,Molecular and Cellular Methods in Biology and Medicine、102-108,CRC press)、cDNAマイクロアレイを利用したハイブリダイゼーション反応(Sambrookなど、Molecular Cloning.A Laboratory Manual、3rd ed.Cold Spring Harbor Press(2001))、ウェスタンブロッティングまたはインサイチュ(in situ)ハイブリダイゼーション反応(Sambrookなど、Molecular Cloning.A Laboratory Manual、3rd ed.Cold Spring Harbor Press(2001))を利用して実施することができる。
【0013】
また、本発明者らは、前記選別されたタンパク質の発現をケロイドまたは肥厚性瘢痕および正常組織でウェスタンブロットと免疫組織化学染色で確認した。ケロイドまたは肥厚性瘢痕組織で前記タンパク質をコードするそれぞれの遺伝子をノックダウン(knock-down)させた場合、タイプIコラーゲン、α-SMAおよびPCNAタンパク質発現が減少することを確認した。このような結果は、前記タンパク質の抑制またはこれをコードする遺伝子のノックダウンがケロイドまたは肥厚性瘢痕の治療に非常に有用になり得ることを裏付けている。
【0014】
これに伴い、本発明は、TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子の発現を抑制したり、またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の活性を抑制する物質を有効成分として含むケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、肥厚性瘢痕またはケロイド傷を有する個体に(a)有効成分としてTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子の発現を抑制したり、またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の活性を抑制する物質を含む薬学的組成物を投与することを含む、ケロイド疾患または肥厚性瘢痕を有する個体を治療する方法を提供する。
【0016】
本発明においてTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子の発現を抑制させる物質は、shRNA(short hairpin RNA)、siRNA(small interference RNA)、miRNA(microRNA)、Crispr-cas9、Crispr-cpf1、リボザイム(ribozyme)、DNAzyme、PNA(peptide nucleic acids)、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含むことができ、前記遺伝子により発現するタンパク質の活性を抑制する物質は、抗体、アプタマー、天然抽出物または化学物質を含むことができ、前記遺伝子の発現およびタンパク質の活性を抑制させる物質であれば、制限なしに含むことができる。
【0017】
本明細書において使用された用語「shRNA(short hairpin RNA)」は、45~70ヌクレオチドの長さを有する単一鎖のRNAとしてターゲット遺伝子siRNA塩基配列のセンスと相補的なノンセンスとの間に3~10個の塩基リンカーを連結するオリゴDNAを合成した後、プラスミドベクターにクローニングしたり、またはshRNAをレトロウイルスであるレンチウイルス(lentivirus)およびアデノウイルス(adenovirus)に挿入して発現させると、ループがあるヘアピン構造のshRNAが作られ、細胞内のダイサー(dicer)によりsiRNAに転換されてRNAi効果を示す。
【0018】
本発明において用語「siRNA」は、RNA妨害または遺伝子サイレンシングを媒介できる核酸分子を意味する(参照:WO00/44895、WO01/36646、WO99/32619、WO01/29058、WO99/07409およびWO00/44914)。siRNAは、標的遺伝子の発現を抑制できるので、効率的な遺伝子ノックダウン方法としてまたは遺伝子治療方法として提供される。siRNAは、植物、虫、ショウジョウバエおよび寄生虫で初めて発見されたが、最近siRNAを開発/利用して哺乳類細胞の研究に応用された(Degot S,et al.2002;Degot S、et al.2004;Ballut L,et al.2005)。
【0019】
本発明のsiRNA分子は、センス鎖(前記各遺伝子mRNA配列に相当する(corresponding)配列)とアンチセンス鎖(前記各遺伝子mRNA配列に相補的な配列)が互いに反対側に位置して二重鎖を成す構造を有し得る。または、本発明のsiRNA分子は、自己-相補性(self-complementary)センスおよびアンチセンス鎖を有する単一鎖構造を有し得る。siRNAは、RNA同士ペアをなす二重鎖RNA部分が完全にペアを成すものに限定されず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などによってペアをなさない部分が含まれ得る。全体長さは、10~100塩基、好ましくは15~80塩基、より好ましくは20~70塩基、そして最も好ましくは20~30塩基である。
【0020】
本明細書において使用された用語「miRNA(microRNA)」は、21~25ヌクレオチドの一本鎖RNA分子であって、ターゲットmRNAの破砕または解読段階での抑制を通じて真核生物の遺伝子発現を制御する調節物質である。このようなmiRNAは、二段階のプロセッシングよりなる。最初のmiRNA転写体(primary miRNA)が核内でDroshaというRNaseIIIタイプ酵素により70~90塩基程度のステム-ループ構造、すなわちpremiRNAで作られ、以後、細胞質に移動してダイサー(Dicer)という酵素により切断されて、21~25塩基の成熟したmiRNAで作られる。このように生成されたmiRNAは、標的mRNAに相補的に結合して転写後に遺伝子抑制子(post-transcriptional gene suppressor)として作用し、翻訳抑制とmRNA不安定化を誘導する。miRNAは、多様な生理学的現象および疾患に関与する。
【0021】
本明細書において使用された用語「アンチセンスオリゴヌクレオチド」とは、特定のmRNAの配列に相補的な核酸配列を含有しているDNAまたはRNA、またはこれらの誘導体を意味し、mRNA内の相補的な配列に結合してmRNAのタンパク質への翻訳を阻害する作用をする。本発明のアンチセンス配列は、前記各遺伝子に相補的であり、前記各遺伝子mRNAに結合できるDNAまたはRNA配列を意味し、前記遺伝子mRNAの翻訳、細胞質内への転位(translocation)、成熟(maturation)または他のすべての全体的な生物学的機能に対する必須の活性を阻害することができる。アンチセンス核酸の長さは、6~100塩基であり、好ましくは8~60塩基であり、より好ましくは10~40塩基でありうる。
【0022】
本発明の一具体例によれば、前記物質は、siRNAでありうる。より具体的に、TXDNC-5をノックダウンさせるsiRNAは、sense 5’-GGCCCUAACUAGAGUUCUAtt-3’(配列番号1)およびantisense 5’-UAGAACUCUAGUUAGGGCCtt-3’(配列番号2);PRRC1をノックダウンさせる2種のsiRNAは、sense 5’-CAAGAAGACCCUAGAAUUAtt-3’(配列番号3)およびantisense 5’-UAAUUCUAGGGUCUUCUUGtt-3’(配列番号4)、およびsense 5’-UAUCAAAUCUGGUGAAtt-3’(配列番号5)およびantisense siRNA UUCACCUCCAGAUUUGAUAtt-3’(配列番号6);そしてS100A11をノックダウンさせるsiRNAは、sense GAACUAGCUGCCACAAtt-3’(配列番号7)、antisense 5’- UUGUGAAGGCAGCUAGUUCtt-3’(配列番号8)の塩基配列よりなり得る。
【0023】
本明細書において用語「治療」は、(i)ケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防;(ii)ケロイドまたは肥厚性瘢痕の形成の抑制または改善;および(iii)ケロイドまたは肥厚性瘢痕の形成の抑制または改善による関連疾病または疾患の軽減を意味する。
【0024】
したがって、本明細書において用語「治療学的有効量」は、前記薬理学的効果を達成するのに十分な量を意味する。
【0025】
本発明の他の様態によれば、本発明は、(a)有効成分としてTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子の発現を抑制したり、またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の活性を抑制する物質の治療学的有効量;および(b)薬学的に許容される担体(carriers)を含むケロイド性(keloid)疾患または肥厚性瘢痕の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0026】
本発明の組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、製剤時に通常的に利用されるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチル セルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬学的組成物は、前記成分以外に潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。
【0027】
本発明の薬学的組成物は、非経口投与が好ましく、例えば静脈内投与、腹腔内投与、腫瘍内投与、筋肉内投与、皮下投与、肝門脈投与、肝動脈投与、または局部投与を利用して投与することができる。
【0028】
本発明の薬学的組成物の適合した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、疾病症状の程度、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因によって多様であり、通常熟練した医師は、目的とする治療に効果的な投与量を容易に決定および処方することができる。
【0029】
本発明の薬学的組成物は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法によって、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を利用して製剤化されることによって、単位用量の形態で製造されたりまたは多用量容器内に内入させて製造され得る。この際、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、エッキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含むことができる。
【0030】
本発明の薬学的組成物は、ケロイドまたは肥厚性瘢痕の改善または治療用皮膚外用剤として使用され得る。この場合、身体部位によって、その剤形が特に限定されない。具体的に、例えば、柔軟化粧水、栄養化粧水、マッサージクリーム、栄養クリーム、パック、 ジェルまたは皮膚粘着タイプ化粧料の剤形を有する化粧料組成物であってもよく、また、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、パッチまたは噴霧剤のような経皮投与型剤形でありうる。また、各剤形による外用剤組成物において、上記した本発明の薬学的組成物以外の他の成分は、その他皮膚外用剤の剤形または使用目的などによって当業者が困難なく適宜選定して配合することができ、この場合、他の原料と同時に適用する場合、相乗効果が起こり得る。
【0031】
また、本発明は、下記の段階を含むケロイド疾患または肥厚性瘢痕の予防または治療物質のスクリーニング方法を提供する:
(a)ケロイド組織またはケロイド細胞に試験物質を処理する段階;および
(b)前記試験物質が処理された組織または細胞で細胞内TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の活性または前記タンパク質をコードする遺伝子の発現量を分析する段階であって、正常組織での前記タンパク質の活性またはこれをコードする遺伝子の発現様相と異なる場合、前記試験物質をケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防または治療物質と判断することができる。
【0032】
本発明の方法によれば、まず、ケロイドまたは肥厚性瘢痕組織に分析しようとする試験物質を接触させる。本発明のスクリーニング方法を言及しながら使用される用語「試験物質」は、前記遺伝子の発現量、または前記タンパク質の量または活性に影響を及ぼすか否かを検査するためにスクリーニングで利用される未知の物質を意味する。前記試験物質は、化学物質、ヌクレオチド、アンチセンス-RNA、shRNA、miRNA、siRNA(small interference RNA)および天然物抽出物を含むが、これに限定されるものではない。
【0033】
次に、試験物質が処理された組織または細胞で細胞内前記遺伝子およびこれらのタンパク質の発現量を分析する。測定結果、細胞内前記遺伝子の発現が減少したり、またはタンパク質の活性または発現が減少する場合、前記試験物質をケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防または治療物質と判定することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、ケロイド性または肥厚性瘢痕の原因となり得る傷部位の異常なコラーゲン形成に関与するタンパク質を糾明することによって、当該タンパク質またはこれをコードする遺伝子を利用して肥厚性瘢痕を正確に診断することができる。また、前記タンパク質または遺伝子の発現および活性を抑制させる物質を提供することによって、ケロイド性または肥厚性瘢痕の改善または治療に効果的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、ヒト肥厚性瘢痕組織の候補タンパク質に対する免疫組織化学染色結果を示す。
【
図2】
図2は、ウェスタンブロットを利用して3種の候補タンパク質をターゲットとするsiRNAを処理した場合、タンパク質ノックダウン効率を確認した結果である。
【
図3】
図3は、候補タンパク質がノックダウンされた肥厚性瘢痕組織でコラーゲンの発現様相をウェスタンブロットで確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明しようとする。これらの実施例は、ただ本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例により制限されないことは、当業界において通常の知識を有する者にとって自明だろう。
【0037】
実施例
ヒト皮膚線維芽細胞、正常組織および肥厚性瘢痕組織の準備
実験に使用した皮膚組織は、総3人の患者から獲得し、男女の正常と瘢痕(scar)組織を利用してIHCを進め、各組織に由来した初代線維芽細胞(primary fibroblast cell)を利用してsiRNA形質転換による効果を観察した。
【0038】
組織を70%エタノールで水洗した後、トリミング(trimming)を通じて脂肪を除去し、チョッピング(chopping)して、IHC用組織を分離した。残った組織に追加トリミング後、チョッピングして、コラゲナーゼ、トリプシンおよびEDTAが混合された溶液を入れ、37℃、100rpmで細胞を分離した。分離した細胞は、10%ウシ胎児(FBS)、ゲンタマイシンが添加されたF12培地で培養した。
【0039】
肥厚性瘢痕組織に対する免疫組織化学(IHC)実験を通した候補タンパク質の発現比較
Biopsyで得られた組織をO.C.T compound(Cell Poth,KMA-0100-00A)を入れ、ドライアイスに入れて凍結した。凍結した組織をアセトンとメタノールが1:1で含有されたバッファーで固定した。バッファーの除去後、0.5%Triton X-100を常温で10分間処理してpermeabilizationさせた後、Ultravision hydrogen peroxide(Thermo kit/Ultravision LP detection system)を利用してペルオキシダーゼ(peroxidase)活性を阻害した。Ultravision blockバッファーを常温で10分間反応させた後、当該1次抗体を処理し、4℃でオーバーナイト処理した。一次抗体は、それぞれTXNDC5(Abcam,Ab155684)、PRRC1(Abcam/ab12544)、S100A11(Abcam/ab97329)、Galectin 1(Abcam,Ab108389)、Filamin A(Millipore/MAB1680)、eIF5-A(Abcam/ab32014)、Annexin A2(Cell singnaling/8235)、FABP5(Abcam/ab37267)を使用した。一次抗体エンハンサー(Primary antibody enhancer)を常温で10分間処理した後、HRP polymerを光遮断状態で常温で15分間反応させた。HRP-polymerを除去した後、PRRC1を除いたすべての組織をAEC(Spring,ASS-125)、PRRC1は、DAB(Thermo,TA-125-HDX)を1分間処理した。Mayer’s hematoxylinで常温で組織を染色し、脱水させた後、Canada balsam mixed Xyleneでmounting進行後、組織を顕微鏡で観察した。
【0040】
IHC結果、TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5は、正常組織対比肥厚性瘢痕組織で発現が増加する様相を示した。発現増加に対する様相は、真皮(dermis)および表皮(epidermis)、層の位置によって差異を示し、候補タンパク質に対する発現差異の結果は、下記の表1および
図1に示した。
【0041】
【0042】
候補タンパク質特異的siRNAの形質転換による効果変化-肥厚性瘢痕組織の繊維ア細胞でコラーゲンタイプIおよびa-SMAおよびPCNAの発現変化
前記IHC結果で選別された前記タンパク質のうち3種(TXNDC5,PRRC1,S100A11)に対してsiRNAを利用して各遺伝子発現をノックダウン(knock-down)させた後、傷跡で過度に発現するコラーゲンおよび線維芽細胞増殖関連タンパク質などの発現を分析した。
【0043】
具体的に、TXDNC-5をノックダウンさせるsiRNAは、sense 5’-GGCCCUAACUAGAGUUCUAtt-3’(配列番号1)およびantisense 5’-UAGAACUCUAGUUAGGGCCtt-3’(配列番号2);PRRC1ノックダウンさせる2種のsiRNAは、sense 5’-CAAGAAGACCCUAGAAUUAtt-3’(配列番号3)およびantisense 5’-UAAUUCUAGGGUCUUCUUGtt-3’(配列番号4)、およびsense 5’-UAUCAAAUCUGGUGAAtt-3’(配列番号5)およびantisense siRNA UUCACCUCCAGAUUUGAUAtt-3’(配列番号6);そしてS100A11をノックダウンさせるsiRNAは、sense GAACUAGCUGCCACAAtt-3’(配列番号7)およびantisense 5’- UUGUGAAGGCAGCUAGUUCtt-3’(配列番号8)を使用した。
【0044】
具体的に、肥厚性瘢痕組織から分離した線維芽細胞を10%FBSを添加したF12培地に培養後、各タンパク質をノックダウンさせる前記siRNAを形質感染(transfection)させた。siRNA形質感染48時間後、細胞ライセート(lysate)を抽出してウェスタンブロット(western blot)を実施して、コラーゲンなどの発現変化を観察した。
【0045】
その結果、siRNA形質感染によってターゲットタンパク質がノックダウンされることを確認し(
図2)、ターゲットタンパク質のノックダウンにより線維芽細胞の機能および生長に及ぼす影響をcollagen-1、α-SMAおよびPCNAタンパク質発現変化を通じて確認した。
【0046】
観察した結果、前記3種の遺伝子がいずれもそれぞれの発現が阻害されたとき、collagen-1、α-SMAおよびPCNAタンパク質発現が抑制されることを確認した(
図3)。
【0047】
結果的に、前記それぞれのタンパク質を抑制させることによって、肥厚性瘢痕で過度に生成するコラーゲンの合成阻害と線維芽細胞の増殖を効果的に抑制し、細胞死滅を誘導するので、前記候補タンパク質は、肥厚性瘢痕を改善したり治療するターゲットになり得ることを確認した。
【0048】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な技術は、単に好ましい具現例に過ぎず、これに本発明の範囲が制限されるものではない点は明白である。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とその等価物によって定義されると言える。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-08-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRRC1の発現レベルの測定のためのPRRC1に特異的に結合する抗体を含む、肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)診断用組成物。
【請求項2】
TXNDC5、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の発現レベルの測定のための、TXNDC5、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質に特異的に結合する抗体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
次に、試験物質が処理された組織または細胞で細胞内前記遺伝子およびこれらのタンパク質の発現量を分析する。測定結果、細胞内前記遺伝子の発現が減少したり、またはタンパク質の活性または発現が減少する場合、前記試験物質をケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防または治療物質と判定することができる。
本発明の態様を以下の項にさらに記載する:
[項1]
TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の活性を抑制したり、または前記一つ以上のタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分として含む、ケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)の予防または治療用薬学的組成物。
[項2]
前記有効成分は、shRNA、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム(ribozyme)、Crispr-cas9、DNAzyme、PNA(peptide nucleic acids)、ペプチド、抗体、アプタマー、天然抽出物または化学物質であることを特徴とする上記項1に記載のケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)の予防または治療用薬学的組成物。
[項3]
前記有効成分は、前記遺伝子の発現を抑制するshRNA、siRNA、miRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドであることを特徴とする上記項2に記載のケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)の予防または治療用薬学的組成物。
[項4]
(a)ケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)患者に由来した組織に試験物質を処理する段階;および
(b)前記試験物質が処理された組織または細胞で TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の活性または前記タンパク質をコードする遺伝子の発現量を分析する段階であって、正常組織での前記タンパク質の活性またはこれをコードする遺伝子の発現様相と異なる場合、前記試験物質をケロイドまたは肥厚性瘢痕の予防または治療物質と判断する、ケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)の予防または治療物質のスクリーニング方法。
[項5]
TXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子、またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の発現量を測定する物質を含む、ケロイド(Keloid)または肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)診断用組成物。
[項6]
ケロイドまたは肥厚性瘢痕を有したり予想される個体から得た試料でTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子、またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の発現量を測定する段階;および
前記測定結果を正常個体の試料での前記遺伝子またはタンパク質の発現量と比較する段階;を含むケロイドまたは肥厚性瘢痕の診断方法。
[項7]
ケロイドまたは肥厚性パヌルルル有する個体に(a)有効成分としてTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子の発現を抑制したり、またはTXNDC5、PRRC1、S100A11、Galectin 1、Filamin A、eIF-5A、Annexin A2およびFABP5よりなる群から選ばれる一つ以上のタンパク質の活性を抑制する物質を含む薬学的組成物を投与することを含む、ケロイド疾患または肥厚性瘢痕を有する個体を治療する方法。
【外国語明細書】