(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166236
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ダイナミン2関連疾患のためのアレル特異的サイレンシング療法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20221025BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221025BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20221025BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022130778
(22)【出願日】2022-08-18
(62)【分割の表示】P 2019528473の分割
【原出願日】2017-11-29
(31)【優先権主張番号】16306575.8
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】511244322
【氏名又は名称】アソシアシオン・アンスティテュ・ドゥ・ミオロジー
【氏名又は名称原語表記】ASSOCIATION INSTITUT DE MYOLOGIE
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ビトゥン,マルク
(72)【発明者】
【氏名】トロシェ,デルフィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】プリュドン,ベルナール
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ダイナミン2(DNM2)のヘテロ接合型突然変異及び/又は過剰発現によって引き起こされる疾患を処置するための治療用化合物及び方法を提供する。
【解決手段】細胞内のヘテロ接合型DNM2遺伝子の一方のアレルのみの発現をサイレンシングすることができるアレル特異的siRNA(AS-siRNA)を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のヘテロ接合型DNM2遺伝子の一方のアレルのみの発現をサイレンシングすることができるアレル特異的siRNA(AS-siRNA)。
【請求項2】
19~23、好ましくは19塩基対長である、請求項1記載のAS-siRNA。
【請求項3】
DNM2遺伝子が、非病理学的多型の存在についてヘテロ接合型である及び/又は疾患を引き起こす突然変異の存在についてヘテロ接合型である、請求項1又は2記載のAS-siRNA。
【請求項4】
非病理学的多型を含むDNM2遺伝子転写物の領域を標的とする、請求項3記載のAS-siRNA。
【請求項5】
非病理学的多型が、疾患を引き起こす突然変異と同じアレルに存在する、請求項4記載のAS-siRNA。
【請求項6】
非病理学的多型が、rs2229920(C又はT)又はrs12461992(A又はT)、好ましくはrs2229920(C又はT)である、請求項3~5のいずれか一項記載のAS-siRNA。
【請求項7】
19塩基対長及びcであり、そして、ミスマッチの位置が、AS-siRNAのセンス鎖の5’末端からN16又はN17位、好ましくはN17位に位置する、請求項6記載のAS-siRNA。
【請求項8】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4、好ましくは、配列番号1又は配列番号2からなる群から選択されるセンス鎖を含む、請求項6~7のいずれか一項記載のAS-siRNA。
【請求項9】
疾患を引き起こす突然変異を含むDNM2遺伝子転写物の領域を標的とする、請求項3記載のAS-siRNA。
【請求項10】
疾患を引き起こす突然変異が、1393C>T;c.1105C>T、c.1106G>A、c.1856C>T、又はc.1948G>A、好ましくは1393C>Tである、請求項8記載のAS-siRNA。
【請求項11】
19塩基対長であり、そして、ミスマッチの位置が、AS-siRNAのセンス鎖の5’末端からN9、N10、N11、N12、N15、又はN16位、好ましくはN9又はN10位、そして、より好ましくはN9位に位置する、請求項10記載のAS-siRNA。
【請求項12】
配列番号5~配列番号10、好ましくは、配列番号5又は配列番号6、そして、より好ましくは配列番号5からなる群から選択されるセンス鎖を含む、請求項9~11のいずれか記載のAS-siRNA。
【請求項13】
DNM2 mRNA及び/又はDNM2タンパク質の発現を20~60%、好ましくは約50%低減することができる、請求項1~12のいずれか一項記載のAS-siRNA。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項記載のAS-siRNAをコードしているベクターであって、好ましくは、プラスミド又はウイルスのベクター、例えば、AAVベクターであるベクター。
【請求項15】
請求項14記載のベクターがトランスフェクト又は形質導入されている標的細胞。
【請求項16】
標的細胞内のDNM2遺伝子の野生型アレルの発現をサイレンシングすることなく、前記DNM2遺伝子の突然変異型アレルの発現をサイレンシングするインビトロ法であって、前記標的細胞に請求項1~13のいずれか一項記載のAS-siRNA又は請求項14記載のベクターを導入することを含む方法。
【請求項17】
ダイナミン2の過剰発現に関連する疾患を処置する、好ましくは、X連鎖性筋細管ミオパシー又は癌、例えば、前立腺癌及び膵臓癌を処置する方法において使用するための、請求項1~13のいずれか一項記載のAS-siRNA又は請求項14記載のベクター又は請求項15記載の細胞。
【請求項18】
DNM2遺伝子における疾患を引き起こす突然変異によって誘導される疾患を処置する、好ましくは、常染色体優性中心核ミオパシー、T細胞性急性リンパ芽球性白血病、シャルコー・マリー・ツース病、又は遺伝性痙性対麻痺を処置する、そして、より好ましくは、常染色体優性中心核ミオパシーを処置する方法において使用するための、請求項1~13のいずれか一項記載のAS-siRNA又は請求項14記載のベクター又は請求項15記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ダイナミン2のヘテロ接合型突然変異及び/又は過剰発現によって引き起こされる疾患を処置するための、ヘテロ接合型DNM2遺伝子の一方のアレルのみの発現をサイレンシングすることができるアレル特異的siRNAに関する。
【0002】
背景
ダイナミン2は、ラージGTPaseのスーパーファミリーに属する、遍在的に発現するタンパク質である。ダイナミン2(DNM2)は、生体膜を変形させる機械化学的足場分子として作用し、その結果、新生小胞が放出される。原形質膜において、DNM2は、クラスリン依存性及びクラスリン非依存性のエンドサイトーシスに関与している。このタンパク質は、エンドソームからの小胞の形成及びトランスゴルジネットワークにも関与している。幾つかの研究によって、アクチン及び微小管の細胞骨格の制御因子としてのダイナミン2の役割が明らかになっている。
【0003】
幾つかの優性遺伝性疾患は、該ダイナミン2タンパク質をコードしているDNM2遺伝子のヘテロ接合型突然変異によって引き起こされる。具体的には、常染色体優性中心核ミオパシー(AD-CNM)は、DNM2遺伝子における突然変異から生じる。AD-CNMは、再生過程の非存在下で筋線維の中心に位置する核が高頻度で発生することを特徴とする稀な先天性ミオパシーである。AD-CNMは、重篤な新生児型から軽度の成人型まで広範囲にわたる臨床スペクトルに関連している。一般に、運動のマイルストーンが遅れ、そして、主に顔面筋及び肢筋がびまん性骨格筋脱力に冒される。筋脱力は、緩徐進行性であるが、40代の間に独立歩行が失われる場合がある。重篤かつ早期発症型のCNMでは、小児科患者は、通常、全身性脱力、筋緊張低下、開口、眼瞼下垂、及び眼筋麻痺を伴う中等度の顔面脱力を有する。AD-CNMに利用可能な根治的処置は存在しない。
【0004】
DNM2遺伝子における突然変異は、シャルコー・マリー・ツース病及び遺伝性痙性対麻痺の稀な症例にも関与している。シャルコー・マリー・ツース病(CMT)は、身体の様々な部分にわたる筋組織及び触覚の進行性消失を特徴とする遺伝性運動感覚性ニューロパシーである。遺伝性痙性対麻痺(HSP)は、可変比率で生じる下肢の痙縮及び脱力を特徴とする遺伝性疾患である。DNM2遺伝子における約30のヘテロ接合型突然変異が、AD-CNM、CMT、又はHSPの疾患に関与していると同定されているが、それらに対して利用可能な根治的処置は存在しない。
【0005】
突然変異の非存在下におけるDNM2の過剰発現は、X連鎖性筋細管ミオパシー又は癌、例えば、前立腺癌及び膵臓癌等の他の疾患の幾つかの病態生理学的機序にも関与している。
【0006】
したがって、DNM2のヘテロ接合型突然変異及び/又は過剰発現によって引き起こされる疾患を処置するための治療用化合物及び方法が差し迫って必要とされている。
【0007】
DNM2の過剰発現に関連する病状を処置するために、従来のsiRNA又は薬理学的阻害剤を用いてダイナミン2を阻害するストラテジーが、幾つかの研究チームによって開発されている。本発明は、正常な細胞機能を可能にするのに十分な量の機能的DNM2を保持しながら、突然変異した又は過剰発現したダイナミン2を阻害することができるこれらストラテジーの改良に関する。
【0008】
発明の概要
一態様では、本発明は、細胞内のヘテロ接合型DNM2遺伝子の一方のアレルのみの発現をサイレンシングすることができるアレル特異的siRNA(AS-siRNA)を提供する。具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、19~23、好ましくは19塩基対長である。
【0009】
具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、細胞内のヘテロ接合型DNM2遺伝子の一方のアレルのみの発現をサイレンシングすることができ、該DNM2遺伝子は、非病理学的多型の存在についてヘテロ接合型である及び/又は疾患を引き起こす突然変異の存在についてヘテロ接合型である。
【0010】
具体的には、本発明のAS-siRNAは、該非病理学的多型を含むDNM2遺伝子転写物の領域を標的とする。具体的な実施態様では、該非病理学的多型は、疾患を引き起こす突然変異と同じアレルに存在する。より具体的には、該非病理学的多型は、rs2229920(C又はT)又はrs12461992(A又はT)、好ましくはrs2229920(C又はT)である。
【0011】
より具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、19塩基対長であり、そして、ミスマッチを含む。このミスマッチにより、他のアレルを保持しながら、該多型を有するアレルのみをAS-siRNAが特異的に標的とし、そして、サイレンシングすることが可能になる。具体的な実施態様では、ミスマッチの位置は、該AS-siRNAのセンス鎖の5’末端からN16又はN17位、好ましくはN17位に位置する。
【0012】
具体的には、AS-siRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4、好ましくは、配列番号1又は配列番号2からなる群から選択されるセンス鎖を含む。
【0013】
別の具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、該疾患を引き起こす突然変異を含むDNM2遺伝子転写物の領域を標的とする。より具体的には、疾患を引き起こす突然変異は、1393C>T;c.1105C>T、c.1106G>A、c.1393C>T、c.1856C>T、又はc.1948G>A、好ましくは1393C>Tである。具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、19塩基対長であり、そして、ミスマッチを含む。このミスマッチにより、野性型アレルを保持しながら、該突然変異体アレルをAS-siRNAが特異的に標的とし、そして、サイレンシングすることが可能になる。具体的な実施態様では、ミスマッチの位置は、該AS-siRNAのセンス鎖の5’末端からN9、N10、N11、N12、N15、又はN16位、好ましくはN9又はN10位、そして、より好ましくはN9位に位置する。
【0014】
具体的には、AS-siRNAは、配列番号5~配列番号10、好ましくは、配列番号5又は配列番号6、そして、より好ましくは配列番号5からなる群から選択されるセンス鎖を含む。
【0015】
幾つかの実施態様では、本発明のAS-siRNAは、DNM2 mRNA及び/又はDNM2タンパク質の発現を20~60%、好ましくは約50%低減することができる。
【0016】
本発明の別の態様は、本発明のAS-siRNAをコードしているベクターであって、好ましくは、プラスミド又はウイルスのベクター、例えば、AAVベクターであるベクターに関する。
【0017】
本発明は、また、本発明のベクターがトランスフェクト又は形質導入された標的細胞に関する。
【0018】
更なる態様では、本発明は、標的細胞内のDNM2遺伝子の野生型アレルの発現をサイレンシングすることなく、DNM2遺伝子の突然変異型アレルの発現をサイレンシングするインビトロ法であって、該標的細胞に本発明のAS-siRNA又はベクターを導入することを含む方法を提供する。
【0019】
別の態様によれば、ダイナミン2の過剰発現に関連する疾患を処置する、好ましくは、X連鎖性筋細管ミオパシー又は癌、例えば、前立腺癌及び膵臓癌を処置する方法において使用するための、本発明のAS-siRNA、ベクター、又は細胞が本明細書に開示される。
【0020】
本発明の別の態様は、DNM2遺伝子における疾患を引き起こす突然変異によって誘導される疾患を処置する、好ましくは、常染色体優性中心核ミオパシー、T細胞性急性リンパ芽球性白血病、シャルコー・マリー・ツース病、又は遺伝性痙性対麻痺を処置する、そして、より好ましくは、常染色体優性中心核ミオパシーを処置する方法において使用するための、本発明のAS-siRNA、ベクター、又は細胞に関する。
【0021】
本発明の他の態様及び実施態様は、以下の詳細な説明において明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ヘテロ接合型マウス胎仔線維芽細胞(MEF)におけるアレル特異的siRNAのスクリーニング。(A)ヌクレオチド変化の領域における野生型(WT)及び突然変異型(R465W)のmRNA配列に加えて、単一点突然変異を標的とする19の可能性のあるsiRNA(該mRNA配列に対して相補的ではないsiRNAセンス鎖)の配列を示す。矢印は、この試験で評価した12のsiRNAを示す。(B)突然変異型ヌクレオチドを中心とするDnm2 RT-PCR産物のアガロースゲル電気泳動におけるEcoNI切断プロファイル。siRNAとWT配列との間に導入されたミスマッチの位置に対してsiRNAを付番する。Sc:スクランブルsiRNA。NT:非トランスフェクト細胞。ヒストグラムは、各siRNAについて計算されたHTZ/WT比の平均±SEMを表す。
*スクランブル値と比較したマンホイットニーU検定を用いてP<0.05(n=5)。
【
図2】ヘテロ接合型マウス胎仔線維芽細胞(MEF)におけるアレル特異的si9及びsi10。(A)Dnm2及びGapdhのmRNAについてのRT-PCR産物のアガロースゲル、並びにローディング対照として用いたGapdhに対して正規化されたDnm2発現の定量。(B)si9、si10、及びスクランブルsiRNAをトランスフェクトした細胞からのDnm2アンプリコンの配列。四角は、突然変異型ヌクレオチド(スクランブルsiRNAのN=T及びA)を示す。(C)アガロースゲル電気泳動におけるDnm2アンプリコンのEcoNI切断プロファイル、及び突然変異体/WT比の定量。(D)処理細胞及び対照細胞におけるDnm2に対する代表的なウエスタンブロット、並びにデンシトメトリーによるシグナルの定量。Gapdhをローディング対照として用いた。Sc:スクランブルsiRNA。NT:非トランスフェクト細胞。A、C、及びDでは、ヒストグラムは平均±SEMを表す。
**スクランブル値と比較したマンホイットニーU検定を用いてP<0.001(n=5)。
【
図3】si9及びsi10は、マウス筋芽細胞におけるアレル特異的siRNAである。100nM siRNAを48時間かけて細胞にトランスフェクトした。(A)不死化マウス筋芽細胞におけるデスミン免疫染色の代表的な画像。スケールバー=50μm。(B)siRNAがトランスフェクトされた筋芽細胞からのDnm2及びGapdhの半定量的RT-PCR産物、並びにGapdhに対して正規化されたDnm2発現の定量。(C)RT-PCR及びEcoNI切断後の突然変異型及びWTのDnm2転写物の定量、並びにGapdh発現に対する正規化。散布図のバーは、平均±SEMを表す。
*スクランブル値と比較した片側マンホイットニーU検定を用いてP<0.05(n=4)。
【
図4】TA筋における収縮特性。P0:絶対力。sP0:特定最大強縮力。mo:月。n:分析した筋肉数。マンホイットニーU検定を用いて統計比較を実施した。WTに対する統計解析:a:P<0.05及びb:P<0.001。HTZ noShに対する統計解析:c:P<0.05、d:P<0.01、及びe:P<0.001。
【
図5】マウスにおけるshAAVが形質導入された筋肉の分子的及び組織学的特徴。(A)shAAVが形質導入されたHTZ TA筋からのDnm2及びGapdhのmRNAについてのRT-PCR産物のアガロースゲル、並びにローディング対照として用いたGapdhに対して正規化されたDnm2発現の定量。WT筋肉を対照として含めた。ヒストグラムは、平均±SEMを表す。
*nosh値と比較したマンホイットニーU検定を用いてP<0.05(n=5)。(B)sh9-、sh10-、及びnosh-AAVを形質導入したTA筋肉からのDnm2アンプリコンの配列。四角は、突然変異型ヌクレオチド(N=T及びA)の位置を示す。(C)アガロースゲル電気泳動におけるDnm2アンプリコンのEcoNI切断プロファイル、及び突然変異体/WT比の定量。ヒストグラムは、平均±SEMを表す。
*nosh値と比較したマンホイットニーU検定を用いてP<0.05(n=5)。(D)WTマウス及びshAAV又は空AAVを形質導入したHTZマウスからのTA切片の代表的な組織化学的染色。HE:ヘマトキシリンエオシン染色。DPNH:還元ジホスホピリジンヌクレオチドジアホラーゼ染色。スケールバー=50μm。(E)形質導入HTZ TA筋における線維サイズの頻度の定量。WT筋肉を対照として用いた(条件あたりn=3)。
【
図6】患者由来の線維芽細胞におけるsi9及びsi10のアレル特異性。(A)Dnm2及びGapdhのmRNAについてのRT-PCR産物のアガロースゲル、並びにローディング対照として用いたGapdhに対して正規化されたDnm2発現の定量。(B)si9、si10、及びスクランブルsiRNAをトランスフェクトした細胞からのDnm2アンプリコンの配列。四角は、突然変異型ヌクレオチド(スクランブル及びsi10 siRNAのN=T及びC)を示す。(C)アガロースゲル電気泳動におけるDnm2アンプリコンのPfoI切断プロファイル、及び突然変異体/WT比の定量。(D)処理細胞及び対照細胞におけるDnm2に対する代表的なウエスタンブロット、並びにデンシトメトリーによるシグナルの定量。Gapdhをローディング対照として用いた。Sc:スクランブルsiRNA。NT:非トランスフェクト細胞。A、C、及びDでは、ヒストグラムは平均±SEMを表す。スクランブル値と比較したマンホイットニーU検定を用いて
*P<0.05及び
**P<0.001(n=5)。
【
図7】100nMでヒト線維芽細胞においてsi9によって誘導されたアレル特異的サイレンシング。(A)100nM siRNAをトランスフェクトした48時間後のDnm2及びHPRTのRT-PCR産物のアガロースゲル電気泳動。NT:非トランスフェクト細胞。ヒストグラムは、HPRTに対して正規化されたDNM2の平均±SEMを表す。
**スクランブル値と比較したマンホイットニーU検定を用いてP<0.001(n=5)。(B)アガロースゲル電気泳動におけるDNM2アンプリコンのBglI切断プロファイル、及び突然変異体/WT比の定量。ヒストグラムは、平均±SEMを表す。
**スクランブル値と比較したマンホイットニーU検定を用いてP<0.001(n=5)。(C)100nM si9及びスクランブルsiRNAをトランスフェクトした48時間後のヒト線維芽細胞の代表的な写真。
【
図8】線維芽細胞におけるトランスフェリン取り込みアッセイ。(A)患者由来の線維芽細胞におけるトランスフェリン取り込みアッセイ。37℃で15分間インキュベートした後にトランスフェリンの取り込みを定量した。ヒストグラムは平均±SEMを表し(各細胞株について2回の独立した実験からn=65細胞)、そして、スチューデントt検定を用いて統計解析を実施した(
***2つの対照細胞株に対してp<0.0001)。(B)健常対照線維芽細胞におけるトランスフェリン取り込みアッセイ。37℃で15分間インキュベートした後にトランスフェリンの取り込みを定量した。ヒストグラムは平均±SEMを表し(各細胞株について2回の独立した実験からn=65細胞)、そして、スチューデントt検定を用いて統計解析を実施したところ、各対照細胞株についてスクランブルの値とsi9の値との間に有意な差を示さなかった。
【
図9】ヒト細胞における非病理学的多型に対するアレル特異的siRNAの開発。(A)ヘテロ接合型多型の2つのバージョン(T又はC)に対する、siRNAをトランスフェクトしたヒト線維芽細胞(30nMで48時間)からのDNM2及びHPRTのmRNAのRT-PCR産物のアガロースゲル。スクランブル:スクランブルsiRNA。NT:非トランスフェクト細胞。(B)DNM2/HPRT比の定量。ヒストグラムは、平均±SEMを表す。スクランブル値と比較したマンホイットニーU検定を用いて
**P<0.01及び
***P<0.0001(NT、スクランブル、si17-713Cについてはn=8。si16-713Cについてはn=6。si17-713Tについてはn=2)。Sc:スクランブルsiRNA。
【
図10】ヘテロ接合型多型に対するsiRNAのアレル特異性。(A)siRNAをトランスフェクトした細胞(30nMで48時間)又は非トランスフェクト細胞(NT)からのDNM2 RT-PCR産物の代表的なアガロースゲル。この患者由来の細胞株では、突然変異は、多型のバージョンCとインフレームである。WT非切断アレルと突然変異型切断アレルとを識別するために、RT-PCR産物をBglI切断に供する。(B)突然変異体/WT比及びWT/HPRT比の定量。ヒストグラムは、平均±SEMを表す。スクランブル値と比較したマンホイットニーU検定を用いて
**P<0.01及び
***P<0.0001(NT、Sc、si17-713Cについてはn=8。si16-713Cについてはn=6。si17-713Tについてはn=2)。Sc:スクランブルsiRNA。NT:非トランスフェクト細胞。
【
図11】ヘテロ接合型多型に対するアレル特異的siRNAの長さの改変。(A)siRNAの配列。下線付き配列は、17位に多型(太字のC)を有する19bp長のsiRNAの配列を示す。太字は、改変されたsiRNAにおける追加の塩基を示す。(B)全DNM2のRT-PCR産物(上のパネル)、BglIによって切断されたRT-PCR産物(中央のパネル)、及びHPRTのRT-PCR産物(下のパネル)のアガロースゲル。(C)合計DNM2/HPRT比の定量。(D)アレルC/アレルT比の定量。C及びDでは、ヒストグラムは平均±SEMを表す(n=2)。
【0023】
発明を実施するための形態
発明の詳細な説明
本開示は、細胞内のヘテロ接合型DNM2遺伝子の一方のアレルのみの発現を効率的にサイレンシングすることができるアレル特異的siRNA(AS-siRNA)であって、DNM2関連疾患を処置するために使用されるAS-siRNAの予想外の発見に基づく。
【0024】
ダイナミン2は、DNM2遺伝子(Gene ID 1785)によってコードされている。より正確には、DNM2遺伝子は、19番染色体の短腕内の13.2の位置(19p13.2)に位置する。ダイナミン2の遺伝子又は遺伝子産物は、CMT2M、CMTDI1、CMTDIB、DI-CMTB、DYN2、DYN2_HUMAN、dynamin II、DYNIIを含むがこれらに限定されない他の名称によっても知られている。DNM2は、エンドサイトーシス及び細胞の構造フレームワーク(細胞骨格)において重要な役割を有している。このタンパク質は、構造を提供するためにフィラメントを構築する微小管及びアクチンを含む細胞骨格の複数の部分と相互作用する。これら細胞骨格の部分は、細胞内の分子の運動、細胞の形状、細胞の可動性、及び細胞の互いの又は細胞外マトリクスへの接着に関与している。したがって、DNM2遺伝子の変化は、エンドサイトーシスを妨害し、そして、細胞骨格の配置又はダイナミクスに干渉して、異常な細胞機能を引き起こす可能性がある。既に記載した通り、常染色体優性中心核ミオパシー、シャルコー・マリー・ツース病、及び遺伝性痙性対麻痺等の幾つかの優性遺伝性疾患は、DNM2遺伝子のヘテロ接合型突然変異によって引き起こされる。また、DNM2の過剰発現も病理学的であり、そして、X連鎖性筋細管ミオパシー又は癌、例えば、前立腺癌及び膵臓癌等の他の疾患の幾つかの病態生理学的機序に関与している。
【0025】
本発明者らは、他のDNM2アレルを保持しながら、DNM2の一方のアレルのみの発現を特異的に抑制することに基づく治療アプローチについて調べた。一方では、このストラテジーは、DNM2の過剰発現に関連する疾患の場合、制御された方法でDNM2発現レベルを低下させることを目的とする。他方、このストラテジーは、正常な細胞機能に必要な野生型DNM2アレルのレベルを低下させることなく、突然変異体アレルの発現を特異的に阻害することによって、DNM2遺伝子におけるヘテロ接合型突然変異に起因する常染色体優性遺伝性疾患において有用であろう。この目的のために、本発明者らは、細胞内のヘテロ接合型DNM2遺伝子の一方のアレルのみを制御された方法で阻害することができる、非常に効率的なアレル特異的siRNAを発見した。
【0026】
したがって、本発明の第1の態様は、細胞内のヘテロ接合型DNM2遺伝子の一方のアレルのみの発現をサイレンシングすることができるアレル特異的siRNA(AS-siRNA)である。
【0027】
RNA干渉は、典型的には特定のmRNA分子の破壊を引き起こすことによって、RNA分子が遺伝子発現を阻害する生物学的プロセスである。したがって、干渉RNAは、標的タンパク質の発現をダウンレギュレーションすることができるRNAである。例えば、それは、低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、一本鎖RNA(ssRNA)、及び短いヘアピン型RNA(shRNA)の分子を包含する。RNA干渉とは、dsRNAが、転写後レベルにおいて標的遺伝子の発現を特異的に抑制する現象のことをいう。正常状態では、RNA干渉は、数千塩基対長の二本鎖RNA分子(dsRNA)によって開始される。インビボでは、細胞に導入されたdsRNAが、DICERと呼ばれる酵素によってsiRNAと呼ばれる短いdsRNA分子の混合物に切断される。哺乳類細胞では、Dicerによって生成されたsiRNAは、約21塩基対(bp)長である。次いで、siRNAは、同種mRNAに対して作用し、そして、それを分解するRNase複合体RISC(RNA誘導サイレンシング複合体)に取り込まれる。また、RNA干渉は有用な研究ツールでもあるが、その理由は、19~23bpの二本鎖siRNAを使用して、対象となる特定の遺伝子の抑制を選択的かつロバストに誘導することができるためである。このアプローチの主な関心は特異性であるが、その理由は、単一ヌクレオチドのみが異なる場合であっても、siRNAが2つの配列を識別することができるためである。
【0028】
本発明者らは、ヘテロ接合型DNM2遺伝子の一方のアレルを特異的に阻害するためにsiRNAのこの特異性を使用した。その結果、その特定の場合において、siRNAは「アレル特異的siRNA」(AS-siRNA)と呼ばれる。
【0029】
AS-siRNAとは、標的遺伝子の一方のアレルのみを特異的にサイレンシングすることができる任意のsiRNAを意味し、アレルは、染色体上の所与の遺伝子座を占める遺伝子の幾つかの択一形態のうちの1つである。「遺伝子サイレンシング」とは、遺伝子発現の抑制又は低減を指す。遺伝子サイレンシングは、転写に影響を与えるプロセス及び/又は転写後機構に影響を与えるプロセスを通して媒介され得る。幾つかの実施態様では、遺伝子サイレンシングは、siRNAがRNA干渉を介して配列特異的に遺伝子のmRNAの分解を開始させたときに生じる。したがって、遺伝子は、コード配列及び/又は発現に必要な制御配列を含む。例えば、「遺伝子」とは、mRNA、機能RNA、又は特定のタンパク質(制御配列を含む)を発現する核酸断片を指す。また、「遺伝子」は、例えば他のタンパク質についての認識配列を形成することができる、非発現DNAセグメントも含む。
【0030】
本発明の状況では、遺伝子は、ダイナミン2タンパク質をコードしているDNM2遺伝子である。したがって、本発明のAS-siRNAは、DNM2遺伝子の変異体形態であるDNM2遺伝子の一方のアレルを特異的にサイレンシングする。
【0031】
本発明の状況では、DNM2遺伝子は、ヘテロ接合型DNM2遺伝子である。ヘテロ接合型DNM2遺伝子は、細胞内においてヘテロ接合型状態で存在するDNM2遺伝子である。「ヘテロ接合型」とは、所与の染色体座が2つの異なるアレルを有することを意味する。ヒト等の二倍体生物は、相同染色体と呼ばれる、2コピーの各染色体(一方は母系染色体、そして、もう一方は父系染色体)を含有する。したがって、各相同染色体は、所与の遺伝子の一方のアレルを有する。二倍体生物は、所与の遺伝子の該2つのアレルが所与の変異又は多型に関して異なる場合、ヘテロ接合型である。
【0032】
本発明の状況では、細胞又は生物は、DNM2遺伝子に関してヘテロ接合型であり、該DNM2遺伝子は、ヘテロ接合型状態で存在する、すなわち、DNM2遺伝子の2つのアレルは、所与の変異又は多型に関して異なる。
【0033】
本発明の一実施態様では、ヘテロ接合型とは、一方のアレルが野生型DNM2配列を有し、そして、他方のアレルがDNM2変異体をコードしている配列を有する遺伝子型を指す。具体的には、DNM2変異体をコードしている配列は、野生型配列に存在しない突然変異を含む。
【0034】
第1の好ましい実施態様では、DNM2遺伝子は、疾患を引き起こす突然変異の存在についてヘテロ接合型である。この実施態様では、本発明のAS-siRNAは、該疾患を引き起こす突然変異を含むDNM2遺伝子のアレルを標的とする。
【0035】
第2の好ましい実施態様では、DNM2遺伝子は、非病理学的多型の存在についてヘテロ接合型である。この第2の実施態様では、本発明のAS-siRNAは、該非病理学的多型を含むか又は含まない、DNM2遺伝子のアレルの一方のみを標的とする。
【0036】
以下では、これら2つの好ましい実施態様について別々に説明する。
【0037】
疾患を引き起こす突然変異を含むDNM2遺伝子のアレルを標的とするAS-siRNA
疾患を引き起こす突然変異を含むDNM2遺伝子
本発明の一実施態様では、DNM2遺伝子は、疾患を引き起こす突然変異の存在についてヘテロ接合型である。したがって、DNM2遺伝子は、2つのアレルに対応する2つの異なる形態で存在する:一方のDNM2アレルは「野生型アレル」であるのに対して、他方は「突然変異体アレル」である。この実施態様では、本発明のAS-siRNAは、野生型アレルを標的とすることなく、該疾患を引き起こす突然変異を含むDNM2遺伝子のアレルを特異的に標的とし、そして、サイレンシングする。したがって、AS-siRNAは、野生型アレルに由来するmRNA及びタンパク質の発現に影響を与えることなく、突然変異体アレルに由来するダイナミン2mRNA及びダイナミン2タンパク質の発現をサイレンシングすることができる。
【0038】
具体的には、疾患を引き起こす突然変異は、病状に関与しているか又は病状に相関しているDNM2遺伝子内のヌクレオチドの任意の欠失、挿入、又は置換であり得る。好ましい実施態様では、疾患を引き起こす突然変異は、優性突然変異である。優性突然変異とは、優性アレルを生じさせる任意の突然変異を意味する。「優性アレル」とは、同じ遺伝子の劣性アレルの存在よりも上位で表現型に対してその効果を発揮するアレルを意味する。優性アレル及び劣性アレルという用語は、互いに対して相対的に定義され、そして、絶対的なものではない。言い換えれば、1つの突然変異体アレルと1つの野生型アレルとを有するヘテロ接合型個体では、優性突然変異の表現型の結果が観察される。劣性アレルは、個体が2コピーの突然変異型アレル(ホモ接合型としても知られている)又は2つの異なる突然変異型アレル(複合ヘテロ接合型としても知られている)を有する場合にのみにその効果を示す。
【0039】
具体的な実施態様では、優性突然変異は、機能獲得型突然変異である。機能獲得型突然変異は、タンパク質に対して新しい又は強化された活性を付与する突然変異として定義される。機能獲得型突然変異は、変化した遺伝子産物が新しい分子機能又は新しいパターンの遺伝子発現を有する突然変異の一種である。したがって、DNM2内の疾患を引き起こす突然変異は、機能獲得型のダイナミン2タンパク質を生じさせる。
【0040】
具体的な実施態様では、優性突然変異は、優性阻害効果による機能喪失型突然変異である。機能喪失型突然変異は、タンパク質の正常な活性を喪失又は減少させる突然変異として定義される。優性阻害効果は、突然変異型アレルの産物が野生型アレルからの産物の機能を変化させると定義される。これは、例えば、タンパク質の正常な機能にオリゴマー形成が必要なとき及び突然変異型タンパク質が野生型タンパク質とオリゴマー形成することができるときに生じる。したがって、DNM2内の疾患を引き起こす突然変異は、突然変異型ダイナミン2タンパク質の存在により、機能喪失型の野生型ダイナミン2タンパク質を生じさせる。
【0041】
別の具体的な実施態様では、疾患を引き起こす突然変異についてヘテロ接合型であるDNM2遺伝子は、ハプロ不全ではない。ハプロ不全は、遺伝子の1コピーが不活化又は欠失しており、そして、該遺伝子の残りの機能性コピーが、正常機能を保持するのに十分な量の遺伝子産物を生成するのに十分ではないときに生じる。言い換えれば、本発明の野生型DNM2アレルは、本発明のAS-siRNAによって突然変異体アレルをサイレンシングした後、正常機能を保持することができる。したがって、本発明は、好ましくは、ハプロ不全が存在しない常染色体優性疾患に関する。
【0042】
具体的な実施態様では、DNM2遺伝子内の優性突然変異は、常染色体優性疾患を生じさせる。常染色体優性疾患は、個体が常染色体の対において1コピーの突然変異体遺伝子及び1つの正常遺伝子を有する疾患である(常染色体は、性染色体ではない任意の染色体である)。常染色体優性疾患を有する個体は、50%の確率で、突然変異体遺伝子、ひいては障害をその各次代に伝える。
【0043】
好ましい一実施態様では、常染色体優性疾患は、常染色体優性中心核ミオパシー(AD-CNM)、T細胞性急性リンパ芽球性白血病、シャルコー・マリー・ツース病(CMT)、又は遺伝性痙性対麻痺(HSP)から選択される。好ましくは、常染色体優性疾患は、常染色体優性中心核ミオパシー(AD-CNM)である。
【0044】
別の実施態様では、DNM2遺伝子内の疾患を引き起こす突然変異は、常染色体優性中心核ミオパシー(AD-CNM)、T細胞性急性リンパ芽球性白血病、シャルコー・マリー・ツース病(CMT)、又は遺伝性痙性対麻痺(HSP)から選択される疾患に関与しているか又は相関している。好ましくは、DNM2遺伝子内の疾患を引き起こす突然変異は、常染色体優性中心核ミオパシー(AD-CNM)に関与しているか又は相関している。
【0045】
好ましい実施態様では、DNM2遺伝子内の疾患を引き起こす突然変異は、単一ヌクレオチドの置換であり、より好ましくは、疾患を引き起こす突然変異は、ミスセンス突然変異である。ミスセンス突然変異とは、単一ヌクレオチドの変化によって異なるアミノ酸をコードしているコドンが生じる点突然変異を意味する。具体的な実施態様では、標的アレルは、p.E368K、p.E368Q、p.R369W、p.R369Q、p.V375G、p.R465W、p.R522H、p.R522C、p.R523G、p.E540K、p.E560K、p.D614N、p.A618T、p.A618D、p.S619L、p.S619W、p.L621P、p.624ins-1G、p.V625del、p.P627H、p.P627R、p.KDQ629-631del-ins、p.P647R、及びp.E650Kからなる群から選択されるAD-CNMに関連する少なくとも1つの突然変異、又はp.G358R、p.G537C、p.K554fs、p.D555_E557del、p.K559del、p.K562E、p.K562del、p.L570H、p.M580T、及びp.859-860delからなる群から選択されるCMTに関連する少なくとも1つの突然変異を有するタンパク質をコードしている。これら2つの群の突然変異については、アミノ酸をヒトDNM2アイソフォーム1(NP_001005360.1)に対して付番する。より好ましい実施態様では、DNM2遺伝子は、それぞれDNM2タンパク質配列における以下の置換:p.R465W、p.R369W、p.R369Q、p.R522H、p.S619L、及びp.E650Kに関与しているc.1393C>T;c.1105C>T;c.1106G>A;c.1393C>T;c.1856C>T、又はc.1948G>Aからなる群から選択されるミスセンス突然変異の存在についてヘテロ接合型である。更により好ましい実施態様では、DNM2遺伝子は、DNM2タンパク質配列におけるp.R465W置換に関与しているc.1393C>T突然変異の存在についてヘテロ接合型である。
【0046】
AS-siRNA
本発明のAS-siRNAは、DNM2遺伝子の突然変異体アレルに由来する遺伝子転写物(メッセンジャーRNA又はmRNA)に特異的にハイブリダイズすることによって、DNM2遺伝子の該突然変異体アレルをサイレンシングすることができる。したがって、本発明のAS-siRNAは、DNM2の該突然変異体アレルに由来するmRNAに対して相補的であり、そして、塩基対合によって該mRNAに結合する。用語「相補的」とは、別のポリヌクレオチド分子と塩基対を形成するポリヌクレオチドの能力を指す。塩基対は、典型的には、逆平行ポリヌクレオチド鎖におけるヌクレオチド単位間の水素結合によって形成される。好ましくは、本発明に係るAS-siRNAと標的mRNAとの間の相補性の程度は、約100%に等しい。
【0047】
具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、該疾患を引き起こす突然変異を含むDNM2遺伝子転写物の領域を標的とする。したがって、本発明のAS-siRNAは、該疾患を引き起こす突然変異を含むmRNAの配列に対して相補的である。siRNAの特異性によって、単一ヌクレオチドだけが異なる場合であっても、2つの配列を識別することが可能になる。この特性により、本発明のAS-siRNAが、単一ヌクレオチド置換を生じさせる突然変異等の疾患を引き起こす突然変異を標的とすることが可能になる。
【0048】
本発明の一実施態様では、AS-siRNAは、19~23、例えば、19、20、21、22、又は23塩基対長である。好ましい具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、19塩基対長である。
【0049】
具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、各鎖の3’末端にヌクレオチドの突出を含む。より具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、各鎖の3’末端に2つのデオキシチミジン(dTdT)で構成されるジヌクレオチドの突出を含む。
【0050】
幾つかの実施態様では、本発明のAS-siRNAは、(突然変異体アレルによってコードされている)該疾患を引き起こす突然変異を含む突然変異体DNM2 mRNA配列に対して完全に相補的である。他方、本発明のAS-siRNAは、突然変異体mRNAと比較したとき、ヌクレオチドが突然変異していない位置における単一ヌクレオチドのミスマッチを除いて、(野生型アレルによってコードされている)野生型DNM2 mRNA配列に対して相補的である。このミスマッチにより、野性型アレルを保持しながら、該突然変異体アレルをAS-siRNAが特異的に標的とし、そして、サイレンシングすることが可能になる。
【0051】
具体的な実施態様では、DNM2遺伝子は、DNM2タンパク質配列におけるp.R465W置換に関与しているc.1393C>T突然変異の存在についてヘテロ接合型であり、そして、本発明のAS-siRNAは、19塩基対長である。したがって、該ミスマッチの位置は、AS-siRNA内の19の可能性のある位置のうちのいずれかであり得る。
【0052】
好ましい実施態様では、ミスマッチの位置は、AS-siRNAのセンス鎖の5’末端からN9、N10、N11、N12、N15、又はN16位に位置する。より好ましくは、ミスマッチの位置は、N9又はN10位、そして、更により好ましくはN9位に位置する。「センス鎖」とは、該疾患を引き起こす突然変異を含む標的突然変異体アレルと同じ配列を有するAS-siRNAの鎖を意味する。したがって、AS-siRNAの他の鎖は「アンチセンス」と呼ばれるが、その理由は、その配列が、「センス」配列と呼ばれる標的突然変異体DNM2 mRNAに対して相補的であるためである(その結果、mRNAのセンスセグメント「5'-AAGGUC-3’」は、アンチセンスmRNAセグメント「3'-UUCCAG-5’」にハイブリダイズする)。
【0053】
「センス鎖の5’末端からN9位」とは、(標的配列と同じ配列を有する)センス鎖の5’末端から9番目のヌクレオチドを意味する。センス鎖の5’末端からN9位は、siRNAが19塩基対長であるとき、アンチセンス鎖の5’からN11位に対応する。
【0054】
具体的な実施態様では、本発明は、センス鎖が配列番号5~配列番号10、好ましくは、配列番号5又は配列番号6、そして、より好ましくは配列番号5からなる群から選択される配列を含む、19~23塩基対長のAS-siRNAに関する。
【0055】
より具体的な実施態様では、本発明は、センス鎖が配列番号5~配列番号10、好ましくは、配列番号5又は配列番号6、そして、より好ましくは配列番号5からなる群から選択される配列からなる、19~23塩基対長のAS-siRNAに関する。
【0056】
具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、全DNM2 mRNA及び/又はDNM2タンパク質の発現を20~60%、例えば、20、30、40、50、又は60%低減するために使用される。好ましくは、本発明のAS-siRNAは、全DNM2 mRNA及び/又はDNM2タンパク質の発現を約50%低減するために使用される。「約」とは、+又は-10%、好ましくは+又は-5%の値を意味する。例えば、約50%は、45~55%、好ましくは、47.5%~52.5%を意味する。
【0057】
非病理学的多型を含むDNM2遺伝子のアレルを標的とするAs-siRNA
非病理学的多型を含むDNM2遺伝子
本発明の別の態様は、細胞内のヘテロ接合型DNM2遺伝子の一方のアレルのみの発現をサイレンシングすることができるAs-siRNAに関し、該DNM2遺伝子は、非病理学的多型の存在についてヘテロ接合型である。
【0058】
具体的な実施態様では、DNM2遺伝子は、一般的なヘテロ接合型非病理学的多型を含む。「一般的なヘテロ接合型非病理学的多型」とは、高いヘテロ接合型頻度を有する、すなわち、ヘテロ接合型状態で集団中に高頻度で存在する多型を指す。「高頻度」とは、母集団の少なくとも20%、30%、40%、好ましくは少なくとも40%がヘテロ接合型状態でみられる多型を意味する。
【0059】
「非病理学的多型」とは、疾患に関連しない遺伝子の核酸配列における変異を意味する。したがって、本発明によれば、非病理学的多型は、他の配列改変とは独立であると考えられるとき、単独では病状に関連していない遺伝子における配列変異に対応する。明確にするために、非病理学的多型が細胞内でヘテロ接合型である場合、それは、同じ遺伝子で生じる可能性のある他の配列変異とは独立であると考えられるとき、両多型が非病理学的であると考えられることを意味する。非病理学的多型は、コード領域及び非コード領域に変異を含み得る。更に、非病理学的多型は、病状を引き起こさないミスセンス及びナンセンスの突然変異を生じさせるものを含む、ヌクレオチドの置換、欠失、及び/又は付加を含む。好ましくは、非病理学的多型は、単一ヌクレオチド置換である。
【0060】
ヘテロ接合型の一般的な多型を標的とすることによって、本発明のAS-siRNAは、特に突然変異の非存在下でのDNM2の過剰発現が病理学的状態に関連するとき、DNM2タンパク質の発現を減少させるために使用することができる。例えば、突然変異の非存在下におけるDNM2タンパク質の過剰発現は、X連鎖性筋細管ミオパシー又は癌、例えば、前立腺癌及び膵臓癌に相関する。したがって、本発明は、非病理学的多型を含むDNM2アレルを標的とするAS-siRNAに関する。
【0061】
別の実施態様では、非病理学的多型を含むDNM2アレルは、ヘテロ接合型の疾患を引き起こす突然変異と同じアレルに存在する。各特定の疾患を引き起こす突然変異ではなくヘテロ接合型の一般的な多型を標的とすることによって、単一のAS-siRNAを用いて、1人超の患者における1超の疾患を引き起こす突然変異の発現を阻害することができる。したがって、一実施態様では、ヘテロ接合型の非病理学的多型の標的バージョンは、該疾患を引き起こす突然変異と同じアレルに存在し、そして、他のバージョンの多型を有する野生型アレルには存在しない。言い換えれば、ヘテロ接合型の非病理学的多型を標的とすることによって、突然変異体及び野生型のDNM2アレルを区別することが可能になる。該疾患を引き起こす突然変異は、疾患に関与しているか又は関連しているDNM2遺伝子内の任意のヘテロ接合型突然変異であってよい。例えば、DNM2遺伝子内の疾患を引き起こす突然変異は、常染色体優性中心核ミオパシー(AD-CNM)、T細胞性急性リンパ芽球性白血病、シャルコー・マリー・ツース病(CMT)、又は遺伝性痙性対麻痺(HSP)から選択される疾患に関与しているか又は相関している。好ましくは、DNM2遺伝子内の疾患を引き起こす突然変異は、常染色体優性中心核ミオパシー(AD-CNM)に関与しているか又は相関している。より好ましい実施態様では、DNM2遺伝子は、それぞれDNM2タンパク質配列における以下の置換:p.R465W、p.R369W、p.R369Q、p.R522H、p.S619L、及びp.E650Kに関与しているc.1393C>T;c.1105C>T;c.1106G>A;c.1393C>T;c.1856C>T、又はc.1948G>Aからなる群から選択されるミスセンス突然変異の存在についてヘテロ接合型である。更により好ましい実施態様では、DNM2遺伝子は、DNM2タンパク質配列におけるp.R465W置換に関与しているc.1393C>T突然変異の存在についてヘテロ接合型である。
【0062】
具体的な実施態様では、ヘテロ接合型の非病理学的多型は、rs2229920(C又はT)又はrs12461992(A又はT)、好ましくはrs2229920(C又はT)である。
【0063】
AS-siRNA
本発明のAS-siRNAは、DNM2遺伝子の該アレルに由来する遺伝子転写物(メッセンジャーRNA又はmRNA)に特異的にハイブリダイズすることによって、ヘテロ接合型の非病理学的多型を含むDNM2遺伝子の一方のアレルのみをサイレンシングすることができる。したがって、本発明のAS-siRNAは、DNM2の該アレルに由来するmRNAに対して相補的であり、そして、塩基対合によって該mRNAに結合する。用語「相補的」とは、別のポリヌクレオチド分子と塩基対を形成するポリヌクレオチドの能力を指す。塩基対は、典型的には、逆平行ポリヌクレオチド鎖におけるヌクレオチド単位間の水素結合によって形成される。好ましくは、本発明に係るAS-siRNAと標的mRNAとの間の相補性の程度は、約100%に等しい。
【0064】
具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、該非病理学的多型を含むDNM2遺伝子転写物の領域を標的とする。したがって、本発明のAS-siRNAは、該非病理学的多型を含むmRNAの配列に対して相補的である。siRNAの特異性によって、単一ヌクレオチドだけが異なる場合であっても、2つの配列を識別することが可能になる。この特性により、本発明のAS-siRNAが、単一ヌクレオチド置換を生じさせる多型を標的とすることが可能になる。
【0065】
具体的な一実施態様では、標的アレル(そして、結果的には標的mRNA)は、DNM2のmRNA及び/又はタンパク質のレベルを低下させるために、疾患を引き起こす突然変異の非存在下で任意に選択することができる。具体的には、本発明のAS-siRNAは、目的がDNM2 mRNA又はDNM2タンパク質の合計レベルを低下させることのみであるとき、該非病理学的多型を有する又は有しないmRNAを標的とすることができる。例えば、本発明のAS-siRNAは、DNM2が細胞内、例えば、X連鎖性筋細管ミオパシー又は癌、例えば、前立腺癌及び膵臓癌において過剰発現している、ヘテロ接合型の非病理学的多型の2つのバージョンのうちの1つを有するDNM2アレルのいずれか1つを標的とすることができる。
【0066】
別の具体的な実施態様では、非病理学的多型の標的バージョンは、疾患を引き起こす突然変異と同じアレルに存在する。したがって、本発明のAS-siRNAは、該多型の標的バージョン及び該疾患を引き起こす突然変異を有するアレルのみを標的とし、そして、サイレンシングする。この具体的な実施態様は、疾患を引き起こす突然変異の位置を予め確認しておくことを必要とする。
【0067】
本発明の一実施態様では、AS-siRNAは、19~23、例えば、19、20、21、22、又は23塩基対長である。好ましい具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、19塩基対長である。
【0068】
具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、各鎖の3’末端にヌクレオチドの突出を含む。より具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、各鎖の3’末端に2つのデオキシチミジン(dTdT)で構成されるジヌクレオチドの突出を含む。
【0069】
幾つかの実施態様では、本発明のAS-siRNAは、該非病理学的多型の標的バージョンを含むDNM2 mRNA配列に対して完全に相補的である。他方、本発明のAS-siRNAは、多型が存在しない位置における1つの単一ヌクレオチドミスマッチを除いて、(他のアレルによってコードされている)該多型を含まないDNM2 mRNA配列に対して相補的である。このミスマッチにより、他のアレルを保持しながら、該多型を有するアレルのみをAS-siRNAが特異的に標的とし、そして、サイレンシングすることが可能になる。
【0070】
具体的な実施態様では、DNM2遺伝子は、非病理学的多型rs2229920(C又はT)の存在についてヘテロ接合型であり、該多型は、個体の40%においてヘテロ接合型状態でみられる。したがって、本発明は、Cを含む配列又はT(mRNA配列ではUに対応)を含む配列のいずれかを標的とするAS-siRNAに関する。
【0071】
好ましい実施態様では、本発明のAS-siRNAは、非病理学的多型rs2229920(C又はT)を標的とし、そして、19塩基対長である。したがって、該ミスマッチの位置は、AS-siRNA内の19の可能性のある位置のうちのいずれかであり得る。
【0072】
好ましい実施態様では、ミスマッチの位置は、AS-siRNAのセンス鎖の5’末端からN16又はN17位に位置する。より好ましくは、ミスマッチの位置はN17位に位置する。「センス鎖」とは、該非病理学的多型を含む標的アレルと同じ配列を有するAS-siRNAの鎖を意味する。したがって、AS-siRNAの他の鎖は「アンチセンス」と呼ばれるが、その理由は、その配列が、「センス」配列と呼ばれる標的DNM2 mRNAに対して相補的であるためである(その結果、mRNAのセンスセグメント「5'-AAGGUC-3’」は、アンチセンスmRNAセグメント「3'-UUCCAG-5’」によってブロックされる)。
【0073】
「センス鎖の5’末端からN17位」とは、(標的配列と同じ配列を有する)センス鎖の5’末端から17番目のヌクレオチドを意味する。センス鎖の5’末端からN17位は、siRNAが19塩基対長であるとき、アンチセンス鎖の3’からN3位に対応する。
【0074】
具体的な実施態様では、本発明は、センス鎖が配列番号1~配列番号4、好ましくは、配列番号1又は配列番号2からなる群から選択される配列を含む、19~23塩基対長のAS-siRNAに関する。
【0075】
より具体的な実施態様では、本発明は、センス鎖が配列番号1~配列番号4、好ましくは、配列番号1又は配列番号2からなる群から選択される配列からなる、19~23塩基対長のAS-siRNAに関する。
【0076】
具体的な実施態様では、本発明のAS-siRNAは、DNM2 mRNA及び/又はDNM2タンパク質の発現を20~60%、例えば、20、30、40、50、又は60%低減するために使用される。好ましくは、本発明のAS-siRNAは、DNM2 mRNA及び/又はDNM2タンパク質の発現を約50%低減するために使用される。「約」とは、+又は-10%、好ましくは+又は-5%の値を意味する。例えば、約50%は、45~55%、好ましくは、47.5%~52.5%を意味する。
【0077】
AS-siRNAの方法及び使用
本発明は、本発明のAS-siRNAを標的mRNAに到達させる様々な方法を企図する。AS-siRNAは、直接、又はトランスフェクション試薬、例えば、脂質誘導体、リポソーム、リン酸カルシウム、ナノ粒子、マイクロインジェクション、若しくはエレクトロポレーションを用いて、単離オリゴヌクレオチドとして細胞に投与され得る。
【0078】
別の実施態様では、本発明は、ベクターの形態でAS-siRNAを細胞に導入することを企図する。したがって、本発明の別の態様は、本発明のAS-siRNAをコードしているベクターに関する。ベクターは、具体的には、プラスミド又はウイルスのベクターであってよい。本発明の実施において有用な代表的なウイルスベクターは、アデノウイルス、レトロウイルス、具体的にはレンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するベクターを含むが、これらに限定されるわけではない。具体的な実施態様では、ベクターは、AAV1、AAV8、又はAAV9のベクターである。適切なウイルスベクターの選択は、無論、標的細胞及びウイルスの向性に依存する。具体的な実施態様では、標的細胞は筋肉細胞であるが、具体的には筋肉向性を含む広い向性を有するウイルスベクターを用いてもよい。具体的な実施態様では、例えば、筋肉内注射で使用するために、AAV1ベクターが用いられる。別の実施態様では、ベクターは、全身経路を介して(例えば、血管内又は動脈内の経路を介して)投与されるべきであり、そして、ベクターは、AAV8又はAAV9のベクターである。
【0079】
具体的な実施態様では、本発明は、また、更なる急なヘアピンターンを有する、本発明のAS-siRNAに対応するshRNA(短いヘアピン型RNA)に関する。次いで、shRNAヘアピン構造は、細胞装置によってsiRNAに切断される。本発明の更なる態様は、本発明のAS-siRNAに対応するshRNAをコードしているベクターに関する。別の態様では、本発明は、また、本発明のAS-siRNAを含むか又は本発明のベクターがトランスフェクト若しくは形質導入された標的細胞に関する。例えば、標的細胞は、筋肉細胞(又は筋肉系統の細胞)、例えば患者由来の筋芽細胞等の筋芽細胞、又は例えば患者由来の線維芽細胞等の線維芽細胞から選択され得る。
【0080】
別の態様では、本発明は、標的細胞、例えば、筋肉標的細胞(例えば、筋肉細胞、例えば筋芽細胞、具体的には、患者由来の筋芽細胞)内のDNM2遺伝子の野生型アレルの発現をサイレンシングすることなく、DNM2遺伝子の突然変異型アレルの発現をサイレンシングするインビトロ法であって、該標的細胞に本発明のAS-siRNA又はベクターを導入することを含む方法に関する。
【0081】
別の態様では、本発明は、標的細胞内のDNM2遺伝子の他のアレルの発現をサイレンシングすることなく、ヘテロ接合型の非病理学的多型を有するDNM2遺伝子の一方のアレルの発現をサイレンシングするインビトロ法であって、該標的細胞に本発明のAS-siRNA又はベクターを導入することを含む方法に関する。
【0082】
更なる態様では、本発明は、DNM2遺伝子における疾患を引き起こす突然変異によって誘導される疾患を処置する方法において使用するための、本発明のAS-siRNA、ベクター、又は細胞に関する。好ましくは、本発明のAS-siRNA、ベクター、又は細胞は、中心核ミオパシー(例えば、常染色体優性中心核ミオパシー)、T細胞性急性リンパ芽球性白血病、シャルコー・マリー・ツース病(CMT)、又は遺伝性痙性対麻痺(HSP)を処置する方法において使用される。より好ましくは、本発明のAS-siRNA、ベクター、又は細胞は、常染色体優性中心核ミオパシーを処置する方法において使用される。
【0083】
別の態様では、本発明は、筋ジストロフィー、例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを処置する方法において使用するための、本発明のAS-siRNA、ベクター、又は細胞に関する。
【0084】
別の態様では、本発明は、ダイナミン2の過剰発現に関連する疾患を処置する、好ましくは、X連鎖性筋細管ミオパシー又は癌、例えば、前立腺癌及び膵臓癌を処置する方法において使用するための、本発明のAS-siRNA、ベクター、又は細胞に関する。
【0085】
本明細書で使用するとき、用語「処置する」及び「処置」とは、被験体が疾患の少なくとも1つの症状の低減又は疾患の改善、例えば、有益な又は望ましい臨床結果を有するように、有効量の本発明のAS-siRNAを被験体に投与することを指す。この発明の目的のために、有益な又は望ましい臨床結果は、検出可能であろうと検出不可能であろうと、1つ以上の症状の軽減、疾患の程度の減少、疾患の安定化(すなわち、悪化しない)状態、疾患の進行の遅延又は減速、疾患状態の改善又は緩和、及び(部分的であろうと完全であろうと)寛解を含むが、これらに限定されない。「処置する」は、処置を受けなかった場合の予想生存時間と比較して生存時間が延長することを指すことができる。あるいは、処置は、疾患の進行が低減又は停止した場合「有効」である。また、「処置」は、処置を受けなかった場合の予想生存時間と比較して生存時間が延長することも意味することができる。処置を必要としているものは、DNM2関連障害であると既に診断されているものに加えて、遺伝的感受性又は他の要因に起因してこのような障害を発する可能性があるものを含む。本明細書で使用するとき、用語「処置する」及び「処置」は、疾患又は障害の予防も指し、これは、このような疾患又は障害の発症を遅らせるか又は防ぐことを意味する。
【0086】
本発明のAS-siRNA、本発明に係るベクター又は細胞は、DNM2遺伝子におけるヘテロ接合型突然変異によって引き起こされるか又はDNM2の過剰発現によって引き起こされる任意の疾患を処置するため、好ましくは、常染色体優性中心核ミオパシー、T細胞性急性リンパ芽球性白血病、シャルコー・マリー・ツース病、遺伝性痙性対麻痺、X連鎖性筋細管ミオパシー、又は癌、例えば、前立腺癌及び膵臓癌を処置するために処方及び投与することができる。本発明のAS-siRNA、本発明に係るベクター又は細胞は、AS-siRNAを、それを必要としている被験体におけるその作用部位と接触させる任意の手段によって処方される。
【0087】
本発明は、また、本発明のAS-siRNA、本発明に係るベクター又は細胞を含む医薬組成物を提供する。このような組成物は、治療上有効な量の治療剤(本発明のAS-siRNA、ベクター、又は細胞)と薬学的に許容し得る担体とを含む。特定の実施態様では、用語「薬学的に許容し得る」は、連邦政府若しくは州政府の規制当局によって承認されているか、あるいは米国薬局方若しくは欧州薬局方、又は動物及びヒトにおける使用についての他の一般的に認められている薬局方に掲載されていることを意味する。用語「担体」とは、治療剤と共に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤、又はビヒクルを指す。このような薬学的担体は、滅菌液体、例えば、食塩溶液、水、及び石油、動物、植物、又は合成起源のものを含む油、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油等であってよい。医薬組成物が静脈内投与されるとき、生理食塩水が好ましい担体である。食塩水、並びにデキストロース及びグリセロールの水溶液も、特に注射液のための液体担体として使用することができる。好適な医薬賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脂肪粉乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等を含む。
【0088】
組成物は、必要に応じて、微量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有していてもよい。これら組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉剤、徐放製剤等の形態を取り得る。経口製剤は、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等の標準的な担体を含み得る。好適な医薬担体の例は、E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。このような組成物は、被験体に適切に投与するための形態を提供するために、好適な量の担体と共に、好ましくは純粋な形態の治療剤を治療上有効な量含有する。
【0089】
医薬組成物は、哺乳類、具体的にはヒトへの任意の種類の投与に適合させ、そして、常法に従って処方される。組成物は、好適な従来の薬学的担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を使用することによって処方される。組成物の投与は、その経路を介して標的組織が利用可能である限り、任意の一般的な経路を介していてよい。
【0090】
ヌクレオチド反復配列伸長の処置において有効な本発明の治療剤の量は、標準的な臨床技術によって決定することができる。更に、インビボ及び/又はインビトロのアッセイは、場合により、最適な投薬量範囲を予測するのを支援するために使用され得る。処方において使用されるべき正確な用量は、投与経路及び疾患の重篤度にも依存し、そして、医師の判断及び各患者の状況に従って決定すべきである。それを必要としている被験体に投与されるAS-siRNA、ベクター、又は細胞の投薬量は、投与経路、被験体の年齢、又は必要な治療効果を得るために必要な発現レベルを含むがこれらに限定されるわけではない幾つかの要因に基づいて変動する。当業者は、この分野における知見に基づいて、これら要因及びその他に基づいて必要とされる投薬量範囲を容易に決定することができる。
【0091】
実施例
疾患を引き起こす突然変異を含むDNM2遺伝子のアレルを標的とするAS-siRNA
材料及び方法
細胞培養
13.5日齢胚からマウス胎仔線維芽細胞(MEF)を調製した。ペニシリン、ストレプトマイシン、L-グルタミン酸、及びピルビン酸ナトリウムを添加した10% ウシ胎仔血清(FCS)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中において、細胞を37℃(5% CO2)で培養した。初代培養物、すなわち、胚解剖後2~3回継代したMEFに対して実験を実施した。健常対照被験体(C1及びC2)に由来する、及びp.R465W突然変異を有するDNM2に連鎖しているCNM患者1人に由来するヒト皮膚線維芽細胞を、同じ培地を用いて培養した。ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)を発現するレンチウイルスを形質導入した後、不死化細胞集団に対して実験を実施した。トランスフェクションについては、70%コンフルエントになるまで細胞を成長させ、そして、製造業者のプロトコル(Polyplus Transfection, France)に従ってJetPrimeトランスフェクション試薬を用いてsiRNAをトランスフェクトした。各実験におけるsiRNAの濃度を図のレジェンドに示す。スクランブルsiRNA(Eurogentec, Belgium)を対照として用いた。RNA及びタンパク質の抽出並びに免疫組織化学のために、48時間後に細胞を収集した。
【0092】
全RNA抽出及びcDNA分析
製造業者のプロトコルに従って、それぞれ細胞及び筋肉についてRNA easy又はRNA easy Fibrous tissue mini kits(Qiagen, France)を用いて全RNAを単離した。溶解バッファ中で破壊するために、細胞又は組織切片を22Gシリンジに数回通した。六量体プライマーを用い、Superscript III reverse transcriptase kit(Life Technologies)を用いて、全RNA(1μg)を逆転写に供した。以下の条件下でPCRによってcDNAを増幅させた:96℃で5分間;96℃で30秒間、適切な温度(58~62℃)で30秒間、72℃で30秒間~1分間のサイクル;及び72℃で7分間の最終工程。Gapdhを増幅させるために23サイクル、Dnm2の半定量的分析については28サイクル、ヒト及びマウスのDnm2アンプリコンの制限酵素切断については30サイクル、そして、遺伝子型判定及び他のPCRについては30サイクルを実施した。使用した全てのプライマーの配列を以下の表に示す:
【0093】
【0094】
37℃で2時間、2UのEcoNI(New England Biolabs, France)又はPfoI(ThermoFisher Scientific, France) 2Uによる制限酵素切断にPCR産物の半分を用いた。G-box(Ozyme, France)を用いてアガロースゲル電気泳動後のPCR産物の画像取得を実施し、そして、ImageJ Software(NIH;http://rsbweb.nih.gov/ij)を用いて関連するシグナルを定量した。プライマー(Eurofins, France) 5pmolを用いて20ng DNA/100bpに対してDNAシークエンシングを実施した。
【0095】
タンパク質抽出及びウエスタンブロット
1% プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich, France)を添加した50mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、1mM EDTA、1% NP40を含有する溶解バッファ中で、細胞ペレット及び凍結前脛骨筋(TA)をホモジナイズした。更に、Fastprep Lysing Matrix D及びFastprep apparatus(MP Biomedical, France)を用いて、前脛骨筋を溶解バッファ中で機械的にホモジナイズした。遠心分離(14,000g、4℃、15分間)後、BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific Pierce, France)を用いて上清中のタンパク質濃度を決定した。タンパク質 20μgをローディングバッファ(50mM Tris-HCl、2% SDS、10% グリセロール、1% β-メルカプトエタノール、及びブロモフェノールブルー)と混合し、そして、90℃で5分間変性した。タンパク質サンプルを10% SDS-PAGEで分離し、そして、100mA、4℃で一晩、PVDFメンブレン(孔径0.45μm、Life Technologies)に転写した。5% 脱脂粉乳及び0.1% Tween20を含有するPBS中において、室温で1時間メンブレンをブロッキングし、次いで、4℃で一晩、0.1% PBS-Tween20、1% ミルク中の以下の一次抗体:ウサギポリクローナル抗ダイナミン2(Abcam ab3457, United Kingdom)及びウサギポリクローナル抗GAPDH(Santa Cruz, France)に曝露した。0.1% PBS-Tween20でメンブレンをすすぎ、そして、0.1% PBS-Tween20中二次セイヨウワサビペルオキシダーゼ結合抗体(Jackson ImmunoResearch, United Kingdom製の抗ウサギ)と共に1時間インキュベートした。G-Box(Ozyme, France)内でECL detection Kit(Merck-Millipore, Germany)を用いて化学発光を検出し、そして、ImageJソフトウェアを用いて関連するシグナルの定量を実施した。
【0096】
AAV生成及びインビボAAV注入
pSMD2-Dnm2-PTMプラスミド、AAV生成に必須のアデノウイルス配列をコードしているpXX6プラスミド、及びAAV1カプシドをコードしているpRepCApプラスミドを用いて、293細胞にトランスフェクトすることによって、AAV2/1偽型ベクターを調製した。イオジキサノール勾配においてベクター粒子を精製し、そして、Amicon Ultra-15 100Kカラム(Merck-Millipore)で濃縮した。定量PCRによって粒子価(ウイルスゲノム(vg)数/mL)を決定した。イソフルラン麻酔下で1月齢の野生型及びヘテロ接合型のKI-Dnm2R465Wマウスに注射した。1011vg/筋肉で29Gニードルを用いて2つのTAにおいて、AAV-sh9、AAV-sh10、又はAAV-nosh(ウイルスゲノム中にshRNA配列を有しない陰性対照)の筋肉内注射を2回行った(30μL/TA、24時間間隔)。動物実験は、実験動物の使用に関する仏国の法律及び規制に従い、そして、外部の倫理委員会によって承認された(French Ministry of Higher Education and Scientific Researchによる承認番号00351.02)。
【0097】
筋肉収縮特性
60mg/kg ペントバルビタールで麻酔したマウスにおいてTA筋の等尺性収縮特性をインサイツで試験した。TA筋の遠位腱をサーボモータシステム(305B Dual-Mode Lever, Aurora Scientific)のレバーアームに取り付けた。持続時間0.1msの最大上(10V)方形波パルスを用いて、双極銀電極によって坐骨神経を刺激した。電気刺激に応答した等尺性収縮中に絶対最大等尺性力(P0)を測定した(周波数25~150Hz;連発刺激500ms)。P0が得られた最適筋長(L0)において全ての等尺性収縮測定を行った。TA筋を計量し、そして、P0を筋肉重量で除することによって特定力(sP0)を計算した。
【0098】
組織形態学的分析
イソフルラン麻酔下で頸椎脱臼によってマウスを屠殺した。TA筋を液体窒素で冷却したイソペンタンで冷凍した。TA筋の横断切片(厚さ8μm)をヘマトキシリン及びエオシン(HE)で染色し、そして、標準的な方法によってニコチンアミドアデニンジヌクレオチド-テトラゾリウムレダクターゼ(NADH-TR)で還元した。正立顕微鏡(DMR, Leica)を用いて光学顕微鏡観察を実施し、そして、白黒カメラ(DS-Ri1, Nikon)及びNIS-Elements BRソフトウェア(Nikon, France)を用いて画像取込した。全ての撮像について、比較したサンプル間の曝露設定は同一であり、そして、室温で観察した。ImageJソフトウェアを用いてフェレット径を測定することによって、ラミニンで免疫細胞化学的に標識されたTA筋切片における線維サイズ分布を求めた。
【0099】
免疫細胞化学
細胞及びTA凍結切片(厚さ8μm)を4% パラホルムアルデヒドで固定した(室温で15分間)。PBSで洗浄した後、細胞及び凍結切片を室温で10分間PBS中0.5% Triton X-100で透過処理し、そして、30分間0.1% PBS-Triton X-100、5% BSA、及び5% ロバ血清でブロッキングした。サンプルを、0.1% Triton X-100及び1% BSAを含むPBS中において4℃で一晩、一次抗体:ウサギ抗C末端ダイナミン2(Abcam ab3457)又はウサギ抗ラミニン(Abcam ab11575)と共にインキュベートした。0.1% PBS-Triton X-100で洗浄した後、サンプルを、室温で60分間、ロバ抗ウサギAlexa 488二次抗体(Life Technologies, France)と共にインキュベートした。VECTASHIELD封入剤(Vector Laboratories, United Kingdom)を用いてスライドグラスを封入した。axiophot顕微鏡(Zeiss)又は共焦点顕微鏡(Olympus FV-1000)のいずれかを用いて画像を取得した。
【0100】
トランスフェリン取り込みアッセイ
siRNAをトランスフェクトした48時間後の健常対照細胞株2つ(C1及びC2)及びp.R465W突然変異を発現している患者由来の細胞株1つを用いた。37℃で45分間、FCSを含まないDMEM中で細胞を培養した。Transferrin-AlexaFluor488(Life Technologies, France)を40μg/mLで添加し、そして、細胞を37℃で15分間インキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、そして、室温で15分間4% パラホルムアルデヒドで固定した。共焦点Leica SP2顕微鏡を用いて細胞画像のスタック(0.5μm間隔)を得た。ImageJソフトウェアを用いてスタック投影において蛍光陽性表面を定量し、そして、全細胞表面に対して正規化した。
【0101】
結果
ヘテロ接合型細胞におけるアレル特異的siRNAの同定
p.R465W DNM2突然変異を用いてKI-Dnm2
R465Wマウスモデルを構築した。マウスでは、このミスセンス突然変異は、エキソン11における単一点突然変異A>Tに対応している。ヘテロ接合型(HTZ)KI-Dnm2マウスから培養したマウス胎仔線維芽細胞(MEF)において、WTのDnm2アレルに影響を与えることなく突然変異型Dnm2アレルをサイレンシングするアレル特異的siRNAのスクリーニングを実施した。アンプリコンの制限酵素切断後にWT及び突然変異型のアレルを識別するために開発されたRT-PCRアッセイを用いて、本発明者等は19の可能性があるsiRNAの中で12のsiRNAのアレル特異性について評価した(
図1A)。
図1AにsiRNAセンス鎖を表す。標的突然変異体mRNAに対して相補性によって結合するのは他のsiRNA鎖(アンチセンス鎖)である。低濃度(20nM)では、スクランブルsiRNAがトランスフェクトされた細胞及び非トランスフェクト細胞は、WT及び突然変異型の両方のアレルの発現が同様であることと一致して、1に等しい突然変異体/WT比を示す(
図1B)。12の評価したsiRNAの中でも、6つのsiRNA(si9、si10、si11、si12、si15、si16)は、スクランブルsiRNAがトランスフェクトされた対照細胞と比べて有意に低下した突然変異体/WT比によって証明される通り、アレル特異的サイレンシング特性を示す(
図1B)。これら6つのsiRNA内において、ミスマッチの位置は、それぞれ、AS-siRNAのセンス鎖の5’末端からN9、N10、N11、N12、N15、又はN16位に位置する。
【0102】
アレル特異的サイレンシングを確立するために、2つの最も効率的なsiRNA、すなわち、si9及びsi10について、高濃度(100nM)で更なる分析を続けた。48時間後、全Dnm2-mRNA発現(WT+突然変異型)は、両siRNAについて約50%減少する(
図2A)。アンプリコンのシークエンシングは、スクランブルがトランスフェクトされた細胞においてHTZ Dnm2配列を示し、そして、si9及びsi10がトランスフェクトされた細胞ではWT配列のみを示した(
図2B)。突然変異型アレルに対する2つのsiRNAのアレル特異性は、測定された突然変異体/WT比が約0.2であることにより証明され(
図2C)、そして、ハウスキーピングGapdh mRNA発現に対する突然変異体及びWTのmRNAの両方の発現レベルの定量によって確認される(データ不図示)。タンパク質レベルでは、si9及びsi10はいずれも、Dnm2の細胞内局在を変化させることなく(データ不図示)、ウエスタンブロットによって証明された通り、Dnm2発現レベルの約50%の減少を誘導した(
図2D)。これら条件下では、si9及びsi10は、Dnm1及びDnm3の転写物の発現に影響を与えない(データ不図示)。まとめると、これらデータによって、si9及びsi10が効率的なアレル特異的siRNAであることが確認されるが、その理由は、両方ともWTに影響を与えることなく突然変異型Dnm2転写物を特異的にノックダウンし、その結果、残りの発現がDnm2の転写物及びタンパク質の残留半分になるためである。HTZ KI-Dnm2マウスに由来する不死化マウス筋芽細胞におけるRT-PCRによって、突然変異体アレルを特異的にサイレンシングする100nM si9及びsi10の能力が確認された(
図3)。
【0103】
KI-Dnm2マウスにおける筋肉表現型の回復
HTZ KI-Dnm2マウス由来のTA筋における筋肉の表現型は、2月齢で完全に確立され、そして、収縮特性の欠陥、線維サイズの減少による筋萎縮、及び酸化的染色における形態学的異常を含む。インビボ評価のために、si9及びsi10に対応するshRNAを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、並びにshRNA配列を有しない対照AAV(AAV-nosh)を構築した。1月齢のHTZ KI-Dnm2マウスのTA筋にAAVを筋肉内注射し、そして、3ヶ月後に筋肉の表現型を調べた。WT TAと比べて、noshを注射したHTZ筋肉では、質量が約30%、絶対力が40%、そして、特定力が15%の有意な減少が存在する(
図4)。sh9の発現によって、絶対力及び特定力がWT値まで完全に回復した。また、sh9注射マウスでは、筋肉量はnoSh筋肉と比べて大きく増加する(+30%)が、WT筋肉の質量よりもわずかに低くとどまっている(-10%)。また、絶対力及び特定力、並びに筋肉量が増大することにより、sh10の発現によって有意な回復が達成される。(
図4)。
【0104】
Dnm2転写物の発現レベルをRT-PCRによって定量したところ、sh9発現筋肉におけるDnm2含量はnosh値と比べて有意な減少(-30%)を示したが、sh10を発現している筋肉では統計的有意性には到達していない(
図5A)。それと一致して、Dnm2アンプリコンのシークエンシングは、AAVが形質導入された筋肉において突然変異型ヌクレオチド位置でHTZ配列を示し、ピークはsh9では突然変異型ヌクレオチドに対応するピークが実質的に減少し、そして、sh10ではより少ない程度であった(
図5B)。RT-PCR及びEcoNI切断プロファイルを用いて突然変異体/WT比を定量することによって、アレル特異的サイレンシングを評価した。突然変異体/WT比の予測される低下が達成され、値はそれぞれsh9及びsh10について約0.5及び0.7に達した(
図5C)。sh9によって達成された突然変異型転写物の特異的サイレンシングは、WT及び突然変異体のmRNAに対応する切断産物のGapdh発現に対する定量によっても示され、そして、WT又は突然変異型のアレルのいずれかを特異的に増幅するために設計されたプライマーを用いた第2のRT-PCRによって確認された(データ不図示)。
【0105】
組織学的レベルにおける表現型の回復を更に評価した。WT筋肉と比べたとき、HTZ TA筋は、HE染色に示されている線維サイズの減少、及びDPNH酸化的染色における酸化的物質の中央への蓄積を示す(
図5D)。sh9発現筋肉では、線維サイズがより大きいと思われ、そして、DPNH染色において異常は見られなかった。対照的に、sh10発現TAには形態学的異常が依然として存在していた。線維サイズの頻度の計算(
図5E)によって、sh9-AAVが形質導入されたHTZ TA筋においてのみ、これらパラメータが完全に回復することが確認される。まとめると、これらデータは、3ヶ月間処理した後にマウスにおける筋肉の表現型を完全に元に戻すsh9の能力を証明するが、sh10は、同じ条件下で部分的な回復を誘導しただけであった。しかし、この回復を改善するために、十分に当業者の一般知識の範囲内であるベクターの量、処理時間、又は他の適応の最適化を実施することができる。
【0106】
患者由来の細胞におけるアレル特異的サイレンシング
si9及びsi10のDnm2標的配列は、マウス配列とヒト配列との間で79%の同一性を示す(19bpのうちの15)。p.R465W突然変異を発現している患者由来の線維芽細胞株1つにおいてインビボ評価するためにヒト特異的si9及びsi10を生成した。50nMで48時間si9をトランスフェクトした細胞においてDnm2のmRNA含量は約50%減少する(
図6A)。アンプリコンのシークエンシングによって、WT及び突然変異型のDNM2のミックスを依然として発現しているスクランブル-及びsi10がトランスフェクトされた細胞と比べて、si9がトランスフェクトされた線維芽細胞において突然変異型mRNAが消失したことが確認される(
図6B)。本発明者等はアンプリコンのPfoI切断後にWT及び突然変異型のアレルを識別するために開発された半定量的RT-PCRアッセイを用いた。このアッセイを使用したところ、非トランスフェクト細胞及びスクランブルがトランスフェクトされた細胞については突然変異体/WT比が1に等しく、そして、si10では0.8に、そして、si9では0.2に有意に減少する(
図6C)。48時間にわたってsi9及びsi10の両方をトランスフェクトした結果、ウエスタンブロットによって証明された通り、DNM2タンパク質含量が減少した(
図6D)。si9がヒト細胞においてアレル特異的siRNAの予測される特性を全て示したことに鑑みて、その結果、より高用量(100nM)でsi9について更に調べた。この用量では、DNM2転写物の発現は依然として約50%減少し(
図7A)、そして、明らかな細胞毒性なく(
図7C)、突然変異型DNM2 mRNAに対するアレル特異性は維持される(
図7B)。si9(センス鎖及びアンチセンス鎖)についての潜在的オフターゲットを同定するために使用したBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)は、13の連続ヌクレオチドにおける完全同一性に対応する68%の同一性を有する最も近縁な配列としてSLC9A8を示した。本発明者等は100mM siRNAをトランスフェクトした48時間後にRT-PCRによって、SLC9A8のmRNAのサイレンシングがsi9によって誘導される可能性について調べた。スクランブルsiRNAと比べて、si9はSLC9A8転写物の発現に影響を与えない(データ不図示)。
【0107】
最後に、患者由来の細胞における機能救済について調べることによってsi9特性を評価した。患者由来の線維芽細胞では、クラスリン媒介エンドサイトーシスに欠陥が生じる。蛍光トランスフェリン取り込みアッセイを用いて、正常エンドサイトーシスを回復させるsi9の能力を評価した。2つの健常対照細胞株と比べて、CNM患者由来のスクランブルがトランスフェクトされた細胞では15分間のトランスフェリン取り込みが減少するが、アッセイ前48時間にわたってsi9がトランスフェクトされた細胞では正常値が達成される(
図8A)。対照細胞株におけるsi9のトランスフェクトは、WT Dnm2 mRNAに対する効果が存在しないことと一致して、クラスリン媒介エンドサイトーシスに影響を与えない(
図8B)。
【0108】
考察
RNAiによるアレル特異的サイレンシングは、単一ヌクレオチドのみが異なる場合であっても2つの配列を識別することができる、siRNAによって媒介されるRNA干渉プロセスの顕著な特異性から益を得る。この特性によって、AD-CNMに罹患している患者で同定された24のDNM2突然変異の大部分を表す単一ヌクレオチド置換をもたらす優性突然変異、特にそのうち最も高頻度のもの(患者の30%)、すなわち、p.R465W突然変異をアレル特異的RNAiが標的とすることができるようになった。上記結果は、救済動物モデルを通して、そして、患者由来の細胞において、DNM2に関連するCNMの治療ストラテジーとしてのp.R465W突然変異に対するアレル特異的RNAiの効率を証明した。
【0109】
WT及び突然変異型アレルが同様に発現している優性遺伝性疾患の状況では、アレル特異的siRNAは、WTに影響を与えずに突然変異型アレルをサイレンシングした結果、標的のmRNA及びタンパク質の発現を約50%減少させると予測される。この試験では、マウス及びヒトの細胞におけるsi9がそうである。
【0110】
非病理学的多型を含むDNM2遺伝子のアレルを標的とするAS-siRNA
材料及び方法
細胞培養
ペニシリン、ストレプトマイシン、L-グルタミン酸、及びピルビン酸ナトリウムを添加した10% ウシ胎仔血清(FCS)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中において、p.R465W突然変異を有する1人のDNM2連鎖性CNM患者由来のヒト皮膚線維芽細胞を37℃(5% CO2)で培養した。ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)を発現するレンチウイルスを形質導入した後、不死化細胞集団に対して実験を実施した。トランスフェクションについては、70%コンフルエントになるまで細胞を成長させ、そして、製造業者のプロトコル(Polyplus Transfection, France)に従ってJetPrimeトランスフェクション試薬を用いてsiRNAをトランスフェクトした。各実験におけるsiRNAの濃度を図のレジェンドに示す。スクランブルsiRNA(Eurogentec, Belgium)を対照として用いた。RNA及び抽出及びRT-PCR分析のために、48時間後に細胞を収集した。
【0111】
全RNA抽出及びcDNA分析
製造業者のプロトコルに従ってRNA easyキット(Qiagen, France)を用いて全RNAを単離した。溶解バッファ中で破壊するために、細胞を22Gシリンジに数回通した。六量体プライマーを用い、Superscript III reverse transcriptase kit(Life Technologies)を用いて、全RNA(1μg)を逆転写に供した。以下の条件下でPCRによってcDNAを増幅させた:96℃で5分間;96℃で30秒間、適切な温度(58~62℃)で30秒間、72℃で30秒間~1分間のサイクル;及び72℃で7分間の最終工程。HPRTを増幅させるために27サイクル、DNM2の半定量的分析については27サイクル、DNM2アンプリコンの制限酵素切断については30サイクルを実施した。使用した全てのプライマーの配列を以下の表に示す:
【0112】
【0113】
37℃で2時間、2UのBglI(New England Biolabs, France) 2Uを用いる制限酵素切断にPCR産物の半分を用いた。G-box(Ozyme, France)を用いてアガロースゲル電気泳動後のPCR産物の画像取得を実施し、そして、ImageJ Software(NIH;http://rsbweb.nih.gov/ij)を用いて関連するシグナルを定量した。
【0114】
結果
ヘテロ接合型非病理学的多型を標的とすることによるアレル特異的siRNAの同定
患者由来の細胞はp.R465W DNM2突然変異を有し、そして、DNM2タンパク質配列における713位のアミノ酸をコードしているコドンの1つの塩基に対応する単一ヌクレオチド多型(SNP)rs2229920(C及びT)についてヘテロ接合型である。DNM2 mRNAをシークエンシングすることによって、本発明者等は、その突然変異が多型のCバージョンとインフレームであることを示した。HTZ SNPの存在によって、SNPの2つの可能性のあるバージョン(C及びT)に対して効率的なAS-siRNAをスクリーニングすることができた。Cに対する2つのsiRNA(それぞれ16又は17位におけるミスマッチ、すなわち、si16-713C及びsi17-713Cを含む)及びTに対する1つのsiRNA(si17-713Tと呼ばれる17位におけるミスマッチを含む)を評価した。RT-PCR分析前に48時間、30nM siRNAを細胞にトランスフェクトした。3つの試験したsiRNAは、スクランブルsiRNAがトランスフェクトされた細胞又は非トランスフェクト細胞と比べたとき、DNM2転写物の発現を減少させるのに効率的である(
図9A)。ハウスキーピング遺伝子として使用したHPRT mRNAに対するDNM2転写物の定量(
図9B)は、17位におけるミスマッチが16位と比べてより効率的であることを示す。アンプリコンの制限酵素切断後にアレルC及びアレルTを識別するために開発されたRT-PCRアッセイを用いて、本発明者等は30nMにおけるこれら3つのsiRNAのアレル特異性を48時間にわたって評価した。スクランブルsiRNAがトランスフェクトされた細胞及び非トランスフェクト細胞は、WT及び突然変異型のアレル両方の発現が同様であることと一致して、1に等しいC(突然変異体)/T(WT)比を示す(
図10)。Cに対するsiRNAを使用したときは該比が減少するが、Tに対するsiRNAを使用したときは増加する(
図10Bの左パネル)。HPRT発現に対してTヌクレオチドを有するmRNAレベルを定量することによって、これら3つのsiRNAのアレル特異性を確認したsi17-713Tを用いたときのみ減少を示す(
図10Bの右パネル)。
【0115】
非病理学的多型のCアレルに対するアレル特異的siRNAの配列の改変
siRNAの効率を増大させる目的で、5’又は3’にヌクレオチドを付加することによってsi17-713Cの長さを改変した(
図11A)。50nMで48時間トランスフェクトしたとき、3つの改変されたsiRNA全てが、スクランブルsiRNAと比べてDNM2転写物の発現を減少させることができる(
図11C)が、その中でもsi713C-17/21は効率が低いと思われる(それでも約30%は減少するので依然として関心対象である)。RT-PCR、その後BglI切断を用いてアレル特異性を評価した。非トランスフェクト細胞及びスクランブルsiRNAがトランスフェクトされた細胞において、計算されたアレルC/アレルT比は、両アレルの発現レベルが同様であることと一致して約1である。予想の通り、Cに対する改変AS-siRNAの全てを50nMで48時間トランスフェクトした結果、アレルC/アレルT比が減少する。
【0116】
考察
幾つかの原因突然変異が同定されている優性疾患の場合、RNAiストラテジーによる2つのアレル特異的サイレンシングを開発することができる。第1のストラテジーは、AD-CNMを引き起こすp.R465W DNM2突然変異について開発されたので、各同定された突然変異に対するAS-siRNAを開発することによって個別療法に対応する。第2のストラテジーは、該疾患に関連する非病理学的変異体に対するAS-siRNAを開発することである。ここで、本発明者等はDNM2転写物のコード領域に存在する一般的な非病理学的単一ヌクレオチド多型(SNP)を標的とすることによって、DNM2連鎖性CNMについてこの汎突然変異ストラテジーを開発できることを示す。このSNPが高頻度でヘテロ接合型状態(一方のアレルはC、そして他方はT)でみられることに鑑みて、SNPに対するAS-siRNAは、突然変異とインフレームのSNPのバージョンに対するAS-siRNAを用いることによって、突然変異型転写物全てをサイレンシングすることができる。
【0117】
ここで、本発明者等は、SNP rs2229920の2つの可能性のあるバージョン(Cアレル又はTアレルのいずれか)に対する幾つかの効率的なAS-siRNAを同定した。この結果は、生じる疾患が何であろうと(CNM、CMT、又はHSP)優性DNM2突然変異全てを標的とし、そして、このタンパク質の過剰発現に関連する疾患(X連鎖性中心核ミオパシー、膵臓癌、及び前立腺癌)においてDNM2発現を制御された方法で減少させることもできる可能性を初めて明らかにする。
【配列表】
【外国語明細書】