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特開2022-166257アニオン交換体及びカルシウム塩を含む止血用組成物
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  • 特開-アニオン交換体及びカルシウム塩を含む止血用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166257
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】アニオン交換体及びカルシウム塩を含む止血用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/14 20060101AFI20221025BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20221025BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 47/52 20170101ALI20221025BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20221025BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20221025BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
A61K31/14
A61P7/04
A61P43/00 121
A61K33/06
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/14
A61K47/52
A61K47/58
A61K47/61
A61K9/70
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022131617
(22)【出願日】2022-08-22
(62)【分割の表示】P 2019534316の分割
【原出願日】2017-12-13
(31)【優先権主張番号】249725
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(31)【優先権主張番号】62/437,840
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511203455
【氏名又は名称】オムリックス・バイオファーマシューティカルズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Omrix Biopharmaceuticals Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アウアーバッハ-ニーボー・タマル
(72)【発明者】
【氏名】ネグラヌ-ギルボア・タリ
(72)【発明者】
【氏名】アルペリン・ハダス
(72)【発明者】
【氏名】ヌル・イスラエル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】出血部位において止血をもたらすための薬剤として使用するための、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む組成物、並びにその調製方法を提供する。
【解決手段】組成物は、アニオン交換体と、カルシウム塩とを含み、前記アニオン交換体は、マトリックスに結合した1つ又は2つ以上の正荷電基を含み、前記マトリックスは、架橋デキストラン、セルロース、ヒドロキシル化メタクリルポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、前記正荷電基は、ジエチルアミノエチル(DEAE)基、ジエチル-(2-ヒドロキシプロピル)アミノエチル基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、前記組成物は、ポリアニオンを欠く。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出血部位において止血をもたらすための薬剤として使用するための組成物であって、
アニオン交換体と、
カルシウム塩とを含み、
前記アニオン交換体は、マトリックスに結合した1つ又は2つ以上の正荷電基を含み、
前記マトリックスは、架橋デキストラン、セルロース、ヒドロキシル化メタクリルポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記正荷電基は、ジエチルアミノエチル(DEAE)基、ジエチル-(2-ヒドロキシプロピル)アミノエチル基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記組成物は、ポリアニオンを欠く、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、血液凝固カスケードのいかなるタンパク質も実質的に欠いている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、粉末、スラリー又は液体の形態である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記スラリー又は液体の形態の前記組成物が、医薬的に許容される担体を更に含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記使用が、所望により前記出血部位に向けて、前記組成物に圧力を加えることを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記アニオン交換体及び前記カルシウム塩は、均質に混合されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
止血用組成物であって、
アニオン交換体と、
カルシウム塩とを含み、
前記アニオン交換体は、マトリックスに結合した1つ又は2つ以上の正荷電基を含み、
前記マトリックスは、架橋デキストラン、セルロース、ヒドロキシル化メタクリルポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記正荷電基は、ジエチルアミノエチル(DEAE)基、ジエチル-(2-ヒドロキシプロピル)アミノエチル基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記止血用組成物は、ポリアニオンを欠く、止血用組成物。
【請求項8】
さらに、医薬的に許容される担体を含む、請求項7に記載の止血用組成物。
【請求項9】
前記止血用組成物が、血液凝固カスケードのいかなるタンパク質も実質的に欠いている、請求項7又は8に記載の止血用組成物。
【請求項10】
前記止血用組成物が、粉末、スラリー又は液体の形態である、請求項7~9のいずれか一項に記載の止血用組成物。
【請求項11】
前記スラリー又は液体の形態の前記止血用組成物が、医薬的に許容される担体を更に含む、請求項10に記載の止血用組成物。
【請求項12】
前記アニオン交換体及び前記カルシウム塩は、均質に混合されている、請求項7~11のいずれか一項に記載の止血用組成物。
【請求項13】
止血用組成物であって、
マトリックスに結合したジエチルアミノエチル(DEAE)と、
カルシウム塩とを含み、
前記マトリックスは、架橋デキストラン、セルロース、ヒドロキシル化メタクリルポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記止血用組成物は、ポリアニオンを欠く、止血用組成物。
【請求項14】
止血用組成物の調製方法であって、
1つ又は2つ以上の正荷電基を架橋マトリックスに共有結合させることによってアニオン交換体を調製することと、
前記アニオン交換体にカルシウム塩を添加することと、を含み、
前記架橋マトリックスは、架橋デキストランであり、
前記正荷電基は、ジエチルアミノエチル(DEAE)基、ジエチル-(2-ヒドロキシプロピル)アミノエチル基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記止血用組成物は、ポリアニオンを欠く、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止血用組成物の分野に関する。より具体的には、本発明は、アニオン交換体及びカルシウムを含む止血用組成物、並びにその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出血は、脊椎動物の循環系からの血液の漏出を説明するために一般的に使用される用語である。出血は、身体の内側(内部出血)、又は身体の外側(外部出血)で起こり得る。出血部位は、身体のほとんど全ての領域であり得る。典型的には、内部出血は、血管又は臓器への損傷によって血液が漏出するときに生じる。外部出血は、血液が皮膚の損傷を通って出るとき、又は血液が、口、鼻、耳、膣、又は直腸などの身体の自然開口部を通って出るときのいずれかで起こる。
【0003】
出血は、外傷性損傷(擦傷、かすり傷、裂傷、切開、針又はナイフなどの道具による穿刺創、挫滅傷、及び銃痕を含む)、又は凝固因子が欠乏している、関連する凝固障害を有する対象などの特定の医学的状態を含む、多種多様な障害又は状態によって引き起こされ得る。更に、出血は、いくつかの非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drug、NSAID)又は抗凝固薬、例えば、ワルファリン、低分子量ヘパリン、アピキサバン(ELIQUIS(登録商標))、ダビガトラン(PRADAXA(登録商標))、エドキサバン(SAVAYSA(登録商標))、及び)リバーロキサバン(XARELTO(登録商標))などの特定の薬剤を使用することによって引き起こされ得る。
【0004】
継続的に、未処理の出血は、瀉血、すなわち、血液量の過剰な減少(血液量減少症)をもたらし、死につながる場合がある。
【0005】
出血の停止又は制御は止血と呼ばれ、これは血液凝固を伴い、この機序の促進、加速、又は強化は、応急処置及び手術の両方の重要な部分である。止血を増強、促進、又は加速する薬剤及び組成物は、「止血剤」と呼ばれる。
【0006】
止血剤(hemostatic agent)は、止血剤(hemostat)、シーラント、又は粘着剤を含んでもよい。典型的には、止血剤は、機械的止血剤(ゼラチン、コラーゲン、酸化再生セルロースなど)、活性止血剤(トロンビンなど)、流動性止血剤(トロンビンと併用するゼラチンマトリックスなど)、及びフィブリンシーラントに細分される。
【0007】
いくつかの既知の止血剤は、緊急事態において貴重な時間を浪費する多数の工程を伴う、使用前の長時間の調製を必要とする。
【0008】
生物学的止血剤は非常に有効であるが、潜在的な安全リスクを有し、その生産コストは高い。
【0009】
多くの既知の止血剤は冷蔵を必要とし、その冷蔵は、発展途上国において、及び様々な状況において(戦場において、隔離領域において、緊急事態においてを含む)、又は電気障害の間に、利用できないか、又は非常に高価である場合がある。更に、冷蔵の必要条件は、製造、出荷、及び保管のコストを増加させる。
【0010】
多くの既知の止血剤は、ヘパリン、アスピリン、又はクマジンなどの抗凝血薬を使用する患者にとって効果的ではない。
【0011】
多くの既知の止血剤には、汚染の潜在的リスクを伴い、高生産コスト、短い有効期限を有し、通常は冷蔵を必要とする、凝血剤が含まれる。
【0012】
したがって、先行技術の欠点の少なくともいくつかを有しない、安全かつ有効な止血剤が必要とされている。
【0013】
背景技術は、米国特許第5,502,042号及び同第8,741,335号、米国特許出願公開第2009/0062849号、並びに国際公開第2013/071235号及び同第1993/05822号を含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、アニオン交換体と、カルシウムと、医薬的に許容される担体とを含む止血用組成物、並びに止血をもたらすためのその使用方法を提供する。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、それを必要とする対象の出血部位において止血をもたらす方法であって、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む有効量の止血用組成物を出血部位に適用することを含む方法が提供される。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、マトリックスに結合した1つ又は2つ以上の正荷電基を含む。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、正荷電基(ポリカチオンとも呼ばれる)は、強塩基、弱塩基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される塩基によってもたらされている。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、強塩基は、四級アミノ基を含む。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、弱塩基は、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ基を含む。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、弱塩基はジエチルアミノエチル(Diethylaminoethyl、DEAE)基からなる。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは、脂肪族ポリエステル、多糖類、ポリペプチド、ポリスチレン-ジビニルベンゼン、タンパク質(コラーゲンゼラチン又はアルブミンなど)、シリカ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている。
【0022】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは架橋しており、所望により共有結合で架橋している。
【0023】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、血液凝固カスケードのいかなるタンパク質も実質的に欠いている。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、スラリー、粉末、繊維、フィルム、パッチ、及び液体からなる群から選択される形態である。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、スラリー又は液体の形態の組成物は、医薬的に許容される担体を更に含む。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、適用は、組成物に、所望により、出血部位に向かって圧力を加えることによって行われる。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、アニオン交換体と、カルシウム塩と、所望により医薬的に許容される担体とを含む止血用組成物が提供される。
【0028】
いくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、マトリックスに結合した1つ又は2つ以上の正荷電基を含む。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、固相に連結される。
【0030】
いくつかの実施形態によれば、正荷電基は、強塩基、弱塩基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される塩基からなる。
【0031】
いくつかの実施形態によれば、強塩基は、四級アミノ基を含む。
【0032】
いくつかの実施形態によれば、弱塩基は、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ基を含む。
【0033】
いくつかの実施形態によれば、弱塩基はジエチルアミノエチル(DEAE)基からなる。
【0034】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは、脂肪族ポリエステル、多糖類、ポリペプチド、ポリスチレン-ジビニルベンゼン、シリカ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている。
【0035】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは架橋しており、所望により共有結合で架橋している。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、多糖類は、セルロース、デキストラン、アガロース、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている。
【0037】
いくつかの実施形態によれば、タンパク質は、コラーゲン若しくはゼラチンなどの構造タンパク質、又はアルブミンなどの血漿中に多量にあるタンパク質である。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、血液凝固カスケードのいかなるタンパク質も実質的に欠いている。
【0039】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、スラリー、粉末、フィルム、パッチ、及び液体からなる群から選択される形態である。
【0040】
いくつかの実施形態によれば、スラリー又は液体の形態の組成物は、医薬的に許容される担体を更に含む。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、マトリックスに結合したジエチルアミノエチル(DEAE)とカルシウム塩とを含む止血用組成物が提供される。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、1つ又は2つ以上の正荷電基を架橋マトリックスに共有結合させることによってアニオン交換体を調製することと、上記アニオン交換体にカルシウム塩を添加することと、を含む、止血用組成物の調製方法が提供される。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、本明細書に開示される方法によって得ることができる止血用組成物が提供される。
【0044】
本明細書中で使用される場合、「止血をもたらす」という用語は、止血を引き起こす、もたらす、促進する、加速する、及び/又は増強することを指す。
【0045】
本明細書中で使用される場合、「出血部位」という用語は、能動的に出血している部位を指し、かつ、例えば手術部位、吻合部位、及び/又は縫合糸部位などの出血性合併症の傾向又は影響を受けやすい可能性がある部位を指す。
【0046】
本明細書中で使用される場合、「医薬的に許容される担体」という用語は、生物活性を有さず、ヒト又は他の動物での使用に適した任意の不活性希釈剤又はビヒクルを指す。担体は、リン酸緩衝溶液(phosphate buffered solution、PBS)、生理食塩水、塩化ナトリウム溶液、塩化カルシウム溶液、乳酸リンゲル(lactated ringers、LR)、通常の生理食塩水中の5%デキストロース溶液、種々の糖類、糖アルコール(マンニトール、ソルビトールなど)、及び注射用水などであるが、これらに限定されない、当該技術分野において既知の任意の担体から選択することができる。
【0047】
本明細書中で使用される場合、「スラリー」という用語は、厚い、軟質の、湿った物質を指す。典型的には、スラリーは、乾燥成分(例えば、粉末又は固体親水性粒子)を液体と混合することによって生成される。乾燥成分濃度は、スラリー組成物全体の0.5%~99% w/wであり得る。典型的には、スラリーは、15~40℃の温度範囲で成形可能な材料である。
【0048】
本明細書中で使用される場合、組成物の成分に関する「~を欠く」という用語は、組成物全体の0.1% w/w未満の濃度で組成物中に存在する成分を指す。
【0049】
本明細書中で使用される場合、「~を含む(comprising)」、「~を含む(including)」、「有する」、及びその文法的変形は、記載される特徴、整数、工程、又は構成要素を特定するものとして理解されるが、1つ以上の追加的特徴、整数、工程、構成要素、又はこれらの群の追加を排除するものではない。これらの用語は、「~からなる」及び「~から本質的になる」という用語を包含する。
【0050】
本明細書中で使用される場合、不定冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、文脈が明確にそうでない旨を表さない限り、「少なくとも1つの」又は「1つ又は2つ以上の」を意味する。
【0051】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、±10%を指す。
【0052】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されている意味と同一の意味を有する。加えて、表現、材料、方法、及び実施例は、単に例示的なものであり、限定することを意図するものではない。本発明を実施する上で、本明細書に記載されるものと類似又は同等の方法及び材料を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
本発明のいくつかの実施形態は、添付の図面を参照して、本明細書において説明されている。図面と共に説明を読むことにより、本発明のいくつかの実施形態がどのように実施され得るかということが、当業者にとって明らかとなる。図面は、例示的考察を目的とするものであり、実施形態における構造の詳細を、本発明の基本的理解に必要である以上に詳細に示そうとするものではない。明確性のため、図面に示されるいくつかの物体は、縮尺通りではない。
【0054】
図において:
図1】30秒間(DEAE SEPHADEX(商標)A-50について)、又は60秒間(市販のゼラチン止血剤について)の圧縮時間で、DEAE SEPHADEX(商標)A-50(10% w/v)及び市販のゼラチン止血剤を適用した後の、インビボヘパリン化ブタ脾臓円形パンチモデル(直径4mm、深さ2mm)における出血の低減を示す。
図2a】「銃弾様」創傷を作製するために、ブタ脾臓の解決しにくい出血モデルに使用される装置を示す。
図2b】ブタ脾臓における図2aの装置によって作製された創傷を示す。図2bに見られるように、創傷は、脾臓から重度の出血をもたらす。DEAE SEPHADEX(商標)A-50を、20mM CaCl中10% w/vのスラリーとして調製し、創傷に適用した。スラリーの適用後、4分間の圧縮時間に続いて、図1に記載されるように、適用後の出血強度を評価した。
図2c】重度出血創傷の完全な止血を達成した、DEAE SEPHADEX(商標)A-50及びタンポナーデを適用した後の銃弾様の創傷を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明は、アニオン交換体と、カルシウム塩と、所望により、医薬的に許容される担体とを含む止血用組成物、並びに止血を達成するためのその使用方法を提供する。
【0056】
本明細書における教示の原理、使用法、及び実施は、添付の記載を参照してよりよく理解され得る。本明細書を精査することにより、当業者は、過度な努力又は実験を行うことなく、本発明を実施することができる。
【0057】
少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その用途において、構成要素の構造若しくは構成及び/又は以下の説明に記載する方法の詳細に必ずしも限定されないことを理解されたい。本発明は他の実施形態が可能であり、あるいは様々な方法で実行又は実施することが可能である。
【0058】
本明細書において使用される表現及び用語は、便宜上のものであり、限定するものとしてみなされるべきではない。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態の一態様によれば、必要とする対象において出血部位での止血をもたらす方法であって、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む有効量の止血用組成物を出血部位に適用することを含む方法が提供される。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、出血部位における止血をもたらすのに使用するための、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む止血用組成物が提供される。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、止血をもたらすための薬剤の製造における、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む止血用組成物の使用が提供される。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、止血をもたらすための薬剤の製造における、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む止血医薬用組成物の使用が提供される。
【0063】
本明細書に開示される、方法、使用のための組成物、調製の使用、又は方法のいくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、マトリックスに結合した1つ又は2つ以上の正荷電基(2~10の範囲のpHで)(ポリカチオンとも呼ばれる)を含む。いくつかのこのような実施形態では、止血用組成物は、ポリアニオンを欠く。
【0064】
本明細書に開示される、方法、使用のための医薬組成物、調製の使用、又は方法のいくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、マトリックスに結合した1つ又は2つ以上の正荷電基(2~10の範囲のpHで)(ポリカチオンとも呼ばれる)を含む。いくつかのこのような実施形態では、止血用組成物は、ポリアニオン(ポリアニオンポリマーなど)を欠く。
【0065】
ポリアニオンは、1つを超える負電荷を有する分子又は化学錯体である。ポリカチオンは、1つを超える正電荷を有する分子又は化学錯体である。
【0066】
一実施形態において、マトリックスはアニオン性残基を含んでもよいが、アニオン交換体の全体的な正味電荷は正である。
【0067】
いくつかの実施形態によれば、正荷電基は、2mmol/g以上、例えば2~5、3~4mmol/gの総イオン容量で止血用組成物中に存在する。
【0068】
本明細書中で使用される場合、「総イオン容量」という用語は、交換のために利用可能な組成物中の荷電部位の総量を指す。総イオン容量は、乾燥重量、湿重量、又は湿潤体積に基づいて表される。
【0069】
いくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、全止血用組成物の0.5~99% w/vの濃度、所望により、全止血用組成物の5~15% w/v、例えば5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13% 14%又は15%などの濃度で存在する。
【0070】
いくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、全止血用組成物の少なくとも10% w/vの濃度で存在し、止血用組成物中のアニオン交換体とカルシウムとの間の比は、1:5~1:70の範囲である。いくつかの実施形態において、この比は約1:34である。
【0071】
いくつかの実施形態によれば、正荷電基は、強塩基(四級アミノ基を含むものなど)、弱塩基(一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基からなる群から選択されるアミノ基を含むものなど)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される塩基からなる。
【0072】
いくつかの実施形態によれば、弱塩基はジエチルアミノエチル(DEAE)基からなる。
【0073】
いくつかの実施形態によれば、正荷電基は、マトリックス支持体と正荷電基との間に存在するリンカーを介してマトリックス、例えばマトリックス支持体に結合する。
【0074】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは、脂肪族ポリエステル、多糖類、ポリペプチド(ゼラチン、ウシ血清アルブミン(BSA)、若しくはコラーゲン、又はこれらの組み合わせなど)、ポリアクリルアミド、アクリレートコポリマー、ポリスチレン-ジビニルベンゼン、シリカ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている。
【0075】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは架橋しており、所望により共有結合で架橋している。いくつかのこのような実施形態では、マトリックスはイオン架橋を欠いている。
【0076】
いくつかの実施形態によれば、多糖類は、セルロース、デキストラン、アガロース、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている。
【0077】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは、SEPHADEX(商標)(デキストラン)、SEPHACEL(商標)(セルロース)、若しくはTOYOPEARL(商標)(ヒドロキシル化メタクリルポリマー)、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態によれば、組成物は、スラリー、粉末、フィルム、パッチ、及び液体からなる群から選択される形態である。いくつかのこのような実施形態によれば、スラリー又は液体の形態の組成物は、医薬的に許容される担体を更に含む。
【0078】
本明細書に開示される方法のいくつかの実施形態によれば、出血部位に止血用組成物を適用することは、出血部位に向けて(例えばガーゼによって)組成物に圧力を適用することによって実施される。
【0079】
本発明のいくつかの実施形態の態様によると、アニオン交換体と、カルシウム塩と、所望により医薬的に許容される担体とを含む止血用組成物が提供される。
【0080】
いくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、マトリックスに結合した1つ又は2つ以上の正荷電基(ポリカチオンとも呼ばれる)を含む。いくつかのこのような実施形態では、止血用組成物は、ポリアニオンを実質的に欠いている。
【0081】
いくつかの実施形態によれば、正荷電基は、2mmol/g以上、例えば2~5、3~4mmol/gの総イオン容量で止血用組成物中に存在する。
【0082】
いくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、全止血用組成物の少なくとも10% w/vの濃度で存在し、止血用組成物中のアニオン交換体とカルシウムとの間の比は、1:5~1:70の範囲である。いくつかの実施形態において、この比は約1:34である。
【0083】
いくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、全止血用組成物の1~99% w/vの濃度、所望により、全止血用組成物の5~15% w/v、例えば5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13% 14%又は15%などの濃度で存在する。
【0084】
いくつかの実施形態によれば、正荷電基は、強塩基(四級アミノ基を含むものなど)、弱塩基(一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ基を含むものなど)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される塩基によってもたらされている。
【0085】
いくつかの実施形態によれば、弱塩基はジエチルアミノエチル(DEAE)基を含む。
【0086】
いくつかの実施形態によれば、正帯電基は、マトリックス支持体と正荷電基との間に存在するリンカーを介してマトリックスに結合する。
【0087】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは、多糖類、ポリペプチド(ゼラチン、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)、若しくはコラーゲン、又はこれらの組み合わせなど)、ポリアクリルアミド、アクリレートコポリマー、ポリスチレン-ジビニルベンゼン、シリカ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている。
【0088】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは架橋しており、所望により共有結合で架橋している。いくつかのこのような実施形態では、マトリックスはイオン架橋を欠いている。
【0089】
いくつかの実施形態によれば、多糖類は、セルロース、デキストラン、アガロース、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている。
【0090】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは、SEPHADEX(商標)(デキストラン)、SEPHACEL(商標)(セルロース)、若しくはTOYOPEARL(商標)(ヒドロキシル化メタクリルポリマー)、又はこれらの組み合わせを含む。
【0091】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、スラリー、粉末、フィルム、パッチ、及び液体からなる群から選択される形態である。いくつかのこのような実施形態によれば、スラリー又は液体の形態の組成物は、医薬的に許容される担体を更に含む。
【0092】
いくつかの実施形態によれば、本明細書で使用される塩は、正の二価カチオンである。
【0093】
本明細書に開示される方法、使用のための組成物、使用、又は止血用組成物のいくつかの実施形態によれば、カルシウムは、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、リン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、又はこれらの組み合わせなどのカルシウム塩として、止血用組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、カルシウム塩は、所望により溶液として存在する塩化カルシウムであり、更に所望により1~100mMの濃度で存在する。いくつかのこのような実施形態では、止血用組成物中に存在するカルシウムは、塩化カルシウムである。
【0094】
本明細書に開示される方法、使用のための組成物、使用、又は止血用組成物のいくつかの実施形態によれば、止血用組成物は、血液凝固カスケードの全てのタンパク質を実質的に欠いている。
【0095】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは、以下のポリアニオン性ポリマー、すなわち、アルギネート及び/又はヒアルロネートを欠いている。
【0096】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは、ポリスチレンスルホネート(ポリスチレンスルホン酸ナトリウムなど)、ポリアクリレート(ポリアクリル酸ナトリウムなど)、ポリメタクリレート(ポリメタクリレートナトリウムなど)、ポリビニルサルフェート(ポリビニルサルフェートナトリウムなど)、ポリホスフェート(ポリリン酸ナトリウムなど)、イオタカラギーナン、カッパカラギーナン、ジェランガム、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルアガロース、カルボキシルメチルデキストラン、カルボキシルメチルキチン、カルボキシルメチルキトサン、カルボキシルメチル基で修飾されたポリマー、アルギネート(アルギン酸ナトリウムなど)、複数のカルボキシレート基を含むポリマー、キサンタンガム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1つ又は2つ以上の架橋性ポリアニオン性ポリマーを欠いている。
【0097】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスのポリマーは、カルボキシメチル(carboxymethyl、CM)基の付加によって修飾されていない。
【0098】
いくつかの実施形態によれば、生体適合性ポリマーは、カチオン性官能基を得るためにジエチルアミノエチル(DEAE)基で修飾され、ポリカチオン性ポリマーとなっている。
【0099】
いくつかの実施形態によれば、ポリカチオン性ポリマーは、キトサン(キトサンクロリドなど)、キチン、ジエチルアミノエチル-デキストラン、ジエチルアミノエチル-セルロース、ジエチルアミノエチル-アガロース、ジエチルアミノエチル-アルギネート、ジエチルアミノエチル基で修飾されたポリマー、複数のプロトン化アミノ基を含むポリマー、及び7を超える平均残基等電点を有するポリペプチド、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましくは、ポリカチオン性ポリマーはジエチルアミノエチル-デキストラン(DEAE-デキストラン)である。
【0100】
本明細書に開示される方法、使用のための組成物、使用、又は止血用組成物のいくつかの実施形態によれば、マトリックスは、アルギン酸及びペクチン酸を欠いている。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、マトリックスに結合したジエチルアミノエチル(DEAE)とカルシウム塩とを含む止血用組成物が提供される。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、少なくとも1つの正荷電基を架橋マトリックスに共有結合させることによってアニオン交換体を調製することと、当該アニオン交換体にカルシウム塩を添加することと、を含む、止血用組成物の調製方法が提供される。
【0103】
本発明のこのような実施形態の更なる態様によれば、本明細書に開示される方法によって得ることができる止血用組成物が提供される。
【0104】
本明細書に開示される方法、使用のための組成物、使用、止血用組成物のいくつかの実施形態によれば、止血用組成物は、全ての生物学的止血剤を実質的に欠いており、すなわち、血液凝固カスケードの全てのタンパク質成分、すなわち、フィブリノーゲン、フィブリン、第V因子、第Va因子、第VII因子、第VIIa因子、第VIII因子、VIIIa因子、第IX因子、第IXa因子、第X因子、第Xa因子、第XIa因子、第XI因子、第XII因子、第XIIa因子、組織因子(tissue factor、TF)、及びトロンビン、及びプロトロンビンナーゼ複合体、プロトロンビン、及びvWF、タンナーゼ複合体、高分子キニノゲン(high-molecular-weight kininogen、HMWK)、プレカリクレイン、カリクレイン、トロンボプラスチンを欠いている。
【0105】
本明細書に開示される方法、使用のための組成物、使用、又は止血用組成物のいくつかの実施形態によれば、止血用組成物は、血液凝固カスケードの全てのタンパク質(トロンビン、プロトロンビン、及びフィブリノーゲンなど)を実質的に欠いている。
【0106】
いくつかの実施形態では、アニオン交換体は、固体又は半固体であり得るマトリックス(「支持体」、「バッキング」、「バックグラウンド」、「塩基ビーズ」又は「樹脂」とも呼ばれる)を含み、このマトリックスは、所望により、1つ又は2つ以上の正荷電基が結合するビーズの形態であってもよい。
【0107】
有利には、マトリックスは、出血を止めるため補助材料を使用する場合に手術中に典型的に加えられる圧力を、崩壊せずに支持することができる。
【0108】
いくつかの実施形態では、マトリックスは架橋ポリマーを含む。いくつかの実施形態では、固体又は半固体のマトリックス材料は、止血が達成されるまで(止血用組成物の適用から少なくとも1分)溶解又は崩壊しない。
【0109】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスが形成されるポリマーは水に不溶性であり、好ましくは多孔質であり、少なくとも20KDaの排除限界を有する。
【0110】
いくつかの実施形態によれば、マトリックスは、手動の物理的圧縮を受けたときに崩壊しない。
【0111】
本明細書中で使用される場合、「正荷電基」という用語は、アンモニウム、アルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、トリアルキルアンモニウム、第四級アンモニウム、ジエチルアミノエチル(DEAE)、ジメチルアミノエチル(DMAE)、トリエチルアミノエチル、トリメチルアミノエチル、アルキル基、アミノ官能基(例えば、NR)、ジエチル-(2-ヒドロキシプロピル)アミノエチル、トリメチルアミノ-ヒドロキシプロピル、及びこれらの組み合わせなどのpH範囲で2.0~10の正電荷を担持する化学基を含む分子を指す。
【0112】
一実施形態では、イオン交換体は、6~14の範囲の複数のpKa値を有する。更なる実施形態では、イオン交換体は、9を超える単一のpKa値を有する。
【0113】
いくつかの実施形態によれば、アニオン交換体は、マトリックスの止血有効性を高めるために、止血特性を有することが知られている任意のマトリックスに結合したDEAEを含む。適したマトリックスの例としては、ゼラチン、セルロース、コラーゲン、及びデンプンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0114】
いくつかの実施形態によれば、止血用組成物は、少なくともアニオン交換体とカルシウムとの配合物を含む。「配合物」という用語は、少なくともアニオン交換体とカルシウムとの、任意の形態の、均質又は不均質の混合物を指すことを意図する。配合物は、所望により他の成分を更に含んでもよい。
【0115】
いくつかの実施形態によれば、配合物は、血液凝固カスケードの任意のタンパク質成分を実質的に含まないか、又は欠いており(すなわち、そのような成分は、全組成物の0.1% w/w未満の濃度で組成物中に存在する)、例えば、配合物は、トロンビン及びフィブリノーゲンを実質的に含まなくてもよく、又は欠いていてもよい。
【0116】
いくつかの実施形態によれば、配合物は、スラリー、粉末又は液体配合物である。
【0117】
いくつかの実施形態によれば、配合物は凍結状態で提供され、使用前に、製品は解凍され、配合物がその使用可能な状態にある、室温(すなわち、15~40℃範囲)になるようにされる。
【0118】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に開示される組成物は、1分以内に創傷の出血を止める。
【0119】
本明細書中で使用される場合、「止血剤」又は「止血用組成物」という用語は、血液を血塊にさせる、すなわち止血をもたらすことによって機能する材料又は組成物を指す。典型的には、止血剤は血液凝固を増加させる。
【0120】
一実施形態では、組成物に関する「止血をもたらす」という用語は、プロトロンビンなどの凝固因子の活性化によって血液を血塊にさせ、結果として出血の停止又は出血強度の低下をもたらす組成物を指す。
【0121】
本明細書中で使用される場合、組成物に関する「出血を止める」又は「出血の停止」という用語は、創傷部位に適用されるとき、以下の材料及び方法のセクションに記載されるように、例えば0(出血なし)~5のスケールで出血が生じない組成物を指す。
【0122】
本明細書中で使用される場合、「出血強度の低下」(本明細書では「止血有効性」とも呼ばれる)という用語は、初期出血強度と適用後の出血強度との間の差を指す。
【0123】
本明細書中で使用される場合、「初期出血強度」という用語は、創傷の形成直後及び組成物の適用前に、例えば、以下の材料及び方法のセクションに記載されるような0~5のスケールで評価される、出血の強度を指す。
【0124】
本明細書中で使用される場合、特定の圧縮時間に関する「適用後の出血強度」という用語は、以下の材料及び方法のセクションに記載されるように、組成物の適用後及び圧縮時間後、例えば0~5のスケールで評価される、出血の強度を指す。
【0125】
本組成物の止血有効性は、出血創傷に適用されたときの圧縮時間の観点から評価することができる。
【0126】
本明細書中で使用される場合、「圧縮時間」という用語は、組成物の適用後に、手動での圧縮が出血創傷に適用される時間を指す。典型的には、この力は、止血を達成するための補助製品の使用時に外科医によって通常加えられる強度に等しい。圧縮が適用されないいくつかの実施形態では、圧縮時間は0秒と呼ばれる。
【0127】
いくつかの実施形態では、圧縮時間は約8~12分である。いくつかの実施形態では、解決しにくい出血において、圧縮時間は約5分である。いくつかの実施形態では、一般的な外科的処置において遭遇する出血において、圧縮時間は約1~2分である。「解決しにくい出血」は、クラスIII出血として定義され、世界保健機関の分類に応じて上記に定義される。典型的には、クラスIII出血は、循環血液量の30~40%の損失を伴う。典型的な症状としては、患者の血圧の低下、心拍数の増加、末梢低灌流(ショック)が挙げられる。
【0128】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、本発明者らは、本明細書に開示される組成物が出血創傷又は部位に適用されると、トロンビンがインサイチューで生成されると仮定する。驚くべきことに、このインサイチュートロンビン生成は、止血を達成するのに十分な程度及び十分な速度で発生することが見出された。
【0129】
有利には、物理的マトリックスの存在により、止血用組成物を出血部位に、所望により圧縮によって、容易に適用することが可能となる。更に、マトリックス自体は、酸化再生セルロース(oxidized regenerated cellulose、ORC)と同様に、血小板を封入することによって凝固に寄与し得る。
【0130】
以下の実施例のセクションに示されるように、マトリックスは、DEAEなどの正荷電官能基の止血能力に必要なものであることが見出された。典型的には、マトリックスは、液体との最初の接触時に溶解せず、止血が達成されるまで、例えば、少なくとも1分間、その完全性を維持し、血液タンパク質の凝集が創傷部位で局所的に濃縮され、したがって凝固カスケードの開始を可能にするような性質であるべきである。有利には、マトリックスは、止血を達成するために一般的な手術中に外科医によって通常加えられる圧力下で安定である。有利には、マトリックスの性質は、所望により圧縮を使用して、適用後に創傷上及び/又は創傷内に分布するようなものである。
【0131】
本発明によれば、種々のSephadexタイプ及び市販のゼラチン止血剤は、出血を止めることができなかった(肝臓出血モデルにおいて)、すなわち、出血強度の低下は観察されなかったことが見出された。
【0132】
同一のベースポリマー、すなわち、スラリーを調製する粉末として提供される架橋デキストランを含むとき、種々のSephadexタイプは、驚くべきことに出血を低減した。
【0133】
更に、DEAE Sephadexの適用後、臓器を両側から折り畳むことによって脾臓を手作業で操作して、再出血が生じなかった。
【0134】
市販のゼラチン止血剤は、60秒の圧縮時間後に出血を止めることができなかったが、DEAE SEPHADEX(商標)A-50 10%(w/v)は、30秒の短い圧縮時間後であっても出血を首尾よく止めることが判明した。また、マトリックスに結合したDEAEなどのアニオン交換体を、カルシウム塩と共に含む組成物は、完全な止血をもたらすことも見出された。
【0135】
これらの組成物は、使用される特定のマトリックスにかかわらず、完全な止血を実質的にもたらす。
【0136】
また、SEPHADEX(商標)、SEPHACEL(商標)、及びTOYOPEARL(商標)(それぞれ、デキストラン、セルロース、及びヒドロキシ化メタクリルポリマー)などの、マトリックスに結合したDEAEなどのアニオン交換体を、カルシウム塩と共に含む組成物は、完全な止血をもたらすことも見出された。
【0137】
より具体的には、CaClを加えたDEAE Sephadexinは、60秒及び30秒の圧縮後に出血を止めることができたことが見出された。
【0138】
DEAE SEPHADEX(商標)A-50(8% w/v)の適用を、圧縮なしで使用して、出血強度を低下させることができることが見出された。
【0139】
DEAE Sephadex(DEAE SEPHADEX(商標)A-50など)及びカルシウム塩を含む組成物の止血能力は、例えば、同一の圧縮時間(30秒又は10秒の圧縮など)を使用したときに、市販のトロンビンを含むゼラチン止血剤と同様の有効性を示すことが見出された。しかしながら、マトリックスに結合したDEAEを含むアニオン交換体とカルシウム塩とに基づく止血剤の止血能力は、トロンビンなどの生物学的活性成分の不在下で市販のゼラチン止血剤の止血能力よりも十分に優れていた。
【0140】
本発明によれば、NaClを有して調製したがカルシウム塩を欠く、DEAE Sephadexを含む組成物は、出血強度を低下させなかったことが見出された。
【0141】
結果は、カルシウム塩の存在下でマトリックスに結合したDEAE基を含む組成物の使用が、効果的に止血を達成したことを示す。
【0142】
結果はまた、カルシウム塩の存在下でのDEAE Sephadex適用後の30秒及び60秒の圧縮時間が、完全な止血をもたらしたことも示した。
【0143】
カルシウムの存在下での正常血漿の止血時間(TTH)(例えば、凝固アッセイによって測定される)は、約200秒である。一方で、本発明によるカルシウム及びアニオン交換体の存在下での正常な血漿のTTHは、約10~180秒の範囲、例えば約10~60秒の範囲、約10~30秒の範囲、約15~60秒の範囲、約15~30秒の範囲、及び約30~60秒の範囲である。一実施形態において、TTHは約30秒である。
【0144】
本発明によれば、マトリックスに結合したDEAEなどのアニオン交換体が、カルシウム塩と共に、完全な止血をもたらしたことが示された。この結果は、使用されるマトリックスにかかわらず得られた。結果は、ゼラチンなどの市販の止血剤をトロンビンと共に使用するときに得られるものと同等である。
【0145】
QAE SEPHADEX(商標)は、カルシウム塩と共に出血を低減したことが見出された。
【0146】
カルシウム塩及び/又はマトリックスを欠く組成物は、出血強度に影響を及ぼさなかった。
【0147】
DEAE及びQAEによるこれらの結果は、マトリックスに結合したアニオン交換体を含み、かつカルシウム塩を含む組成物が止血剤として有効であることを示唆する。
【0148】
カルシウム塩の存在下で架橋ポリマーに結合したDEAEの止血能力は、参照により、完全に本明細書に記載されているかのように本明細書に組み込まれる、Holcomb JB、Pusateri AE、Harris RAら(Effect of dry fibrin sealant dressings versus gauze packing on blood loss in grade V liver injuries in resuscitated swine.J Trauma.1999;46:49~58)によって開示されているものから修正された、解決しにくい出血のより困難なモデルで更に裏付けられた。
【0149】
本発明による架橋マトリックスに結合したDEAEは、ヘパリン化ブタ脾臓円形パンチモデルにおいてインビボで完全な止血を達成するのに成功した一方で、マトリックスに結合していないDEAEは、出血強度を低下させなかったことが示された。
【0150】
本明細書に開示されるマトリックスに結合している正荷電基の密度(すなわち存在)は、止血を達成するために重要であることが示されている。マトリックス上の電荷は、有利には、本発明による止血を達成するのに十分な密度で存在し得る。
【0151】
評価された全ての正電荷が同一レベルの止血有効性を提供していないことが、本発明により見出された。したがって、電荷密度及び電荷の種類を評価するために、最適な密度範囲が存在することを確実にするために分析を行うことができる。
【0152】
例えば、合成されたマトリックスは、酸加水分解などによってモノマー化され、それらが担持する種々の電荷に基づいてモノマーを分離することができる分析器具(例えば、高圧液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー)に適用することができる。このようにして、特定の分子上の電荷密度を評価するために分析を実施することができる。
【実施例0153】
材料及び方法
【0154】
【表1-1】
【0155】
【表1-2】
【0156】
インビボ円形パンチモデル。
モデルは、国際公開第2012/087774(A1)号に既に記載されているモデルに基づいており、いくつかの改変を行った。このモデルは、インビボで出血を低下させる試験組成物の有効性(止血有効性)を評価する。
【0157】
最初に、止血が研究される臓器を露出させ、次いで、単一の生検パンチ(実施例1及び5において、直径4mm、深さ2mm、実施例2の第2の実験において、直径4mm、深さ2mm、又は直径8mm、深さ3mm)に供した。パンチ内の組織を除去した。初期出血強度(「初期出血」)は、0-「出血なし」、1-「毛細管性出血」、2-「非常に軽度の出血」、3-「軽度の出血」、4-「中程度の出血」、5-「重度の出血」の、0~5のスケールで格付けした。
【0158】
各試験組成物の止血有効性を評価するために、約0.5mlのスラリー又は100mgの粉末(粉末として適用された組成物の場合)を、出血性パンチ創傷に適用した。スラリーとして適用した組成物はシリンジを使用して創傷に適用し、粉末として適用した組成物は、創傷上に直接適用した。
【0159】
組成物の適用後、ガーゼを使用して、特定の時間(本明細書では「圧縮時間」とも呼ばれる)にわたって所望により手動圧縮を適用した。圧縮後、ガーゼを除去し、適用後の出血強度を直ちに評価し、更に1分後、定性的に(はい/いいえ)、又は定量的に(上記のように0~5のスケールを使用して)評価した。
【0160】
出血強度(少なくとも3で開始)を、1(毛細管性出血)又は0(出血なし)へと減少させる試験組成物は、有効であると考えられた。定性的判定のために、出血の有無を視覚的に調べ、また、処理領域の周縁に押し付けられたガーゼ片を観察した。
【0161】
ヘパリン化生検パンチモデルは、強い止血を評価するのに適したモデルであると考えられる。
【0162】
止血までの時間(Time to Hemostasis、TTH)を、組成物の適用後に評価した。止血までの時間(TTH)を、組成物の適用後に評価した。TTHは、組成物の適用から完全な止血(スコア0)が観察されるまでの時間間隔として定義される。
【0163】
実施例1:インビボ脾臓モデルにおける、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む組成物の止血特性。
アニオン交換体及びカルシウム塩を含む組成物の止血特性の初期評価は、アニオン交換体としてSephadexに共有結合したDEAE(DEAE-SEPHADEX(商標))を使用して、上記のようなインビボヘパリン化ブタ脾臓円形パンチモデルで実施した。この実験では、パンチサイズは直径4mm、深さ2mmであった。適用後、30又は60秒の圧縮時間を使用した。DEAE SEPHADEX(商標)A-50を2つの濃度で試験した。この実験では、適用後の出血強度を定性的に評価した。
【0164】
以下の組成物(上記表1の詳細を参照)を、止血有効性について評価した:
1.20mM CaCl溶液中の10% w/vスラリーとして調製されたDEAE SEPHADEX(商標)A-50(0.5mlは、50mgのDEAE SEPHADEX(商標)A-50を含む)(30秒圧縮時間)、
2.20mM CaCl溶液中の6.6% w/vスラリーとして調製されたDEAE SEPHADEX(商標)A-50(0.5mlは、33mgのDEAE SEPHADEX(商標)A-50を含む)(60秒圧縮時間)、
3.20mM CaCl溶液中の10% w/vスラリーとして調製されたSEPHADEX(商標)G-75 Superfine(0.5mlは、50mgのSEPHADEX(商標)G-75 Superfineを含む)(60秒圧縮時間)、
4.20mM CaCl溶液中の10% w/vスラリーとして調製されたSEPHADEX(商標)G-50 Medium(0.5mlは、50mgのSEPHADEX(商標)G-50 Mediumを含む)(60秒圧縮時間)、
5.スラリーとして調製された市販のゼラチン止血剤(0.5mlは55mgのゼラチンを含む)(60秒圧縮時間)。
【0165】
4つのSEPHADEX(商標)サンプルは全て、同一のベースポリマー、架橋デキストランを含む。組成物1~4を、スラリーを調製する粉末として提供し、上記の表1に記載のようにスラリーを調製した。市販のゼラチン流動性止血剤を対照例として使用した。
【0166】
SEPHADEX(商標)G-50 Medium、SEPHADEX(商標)G-75 Superfine、及び市販のゼラチン止血剤は、出血を止めることができない、すなわち、出血強度の低下は観察されなかったことが見出された(結果は示さず)。
【0167】
驚くべきことに、DEAE SEPHADEX(商標)A-50は、試験された全ての圧縮時間において出血を低下させた。DEAE SEPHADEX(商標)A-50の適用後、臓器を両側から折り畳むことによって脾臓を手作業で操作した。試験した濃度のいずれにおいても、2つの異なる圧縮時間に続いて、再出血は生じなかった(結果は示さず)。DEAE基を補充したマトリックスにおいてのみ止血が生じたため、止血効果はDEAE基の存在によるものであると結論付けられた。
【0168】
図1は、DEAE SEPHADEX(商標)A-50 10%(w/v)及び市販のゼラチンを使用して得られた例示的な結果を示す。図に示されるように、市販のゼラチン止血剤は、60秒の圧縮時間後に出血を止めることができなかったが、一方でDEAE SEPHADEX(商標)A-50 10%(w/v)は、30秒のより短い圧縮時間後であっても出血を首尾よく止めた。
【0169】
実施例2:インビボブタ肝臓モデルにおける、止血に対する、アニオン交換体及びカルシウムを含む組成物の効果。
以下の実施例では、上記のように、インビボヘパリン化ブタ肝臓円形パンチモデルを使用して、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む組成物の各成分の止血に対する効果を、別々に及び組み合わせて評価した。本実験は、止血を達成するために組成物の成分のいずれが必要であるかを特定する。
【0170】
各組成物の調製を上記表1に記載する。圧縮時間を下記表2に列挙する。この実験では、初期出血強度及び適用後の出血強度を、0~5スケールに従って評価した。
【0171】
以下の組成物を評価した:
1.20mM CaCl溶液中の8% w/vスラリーとして調製されたDEAE SEPHADEX(商標)A-50(0.5mlは、40mgのDEAE SEPHADEX(商標)A-50を含む)、
2.スラリーとして調製された市販のゼラチン止血剤(0.5mlは55mgのゼラチンを含む)、
3.スラリーとして調製されたトロンビンを含む市販のゼラチン止血剤(0.5mlは55mgのゼラチンを含む)、
4.20mM CaCl溶液中の14% w/vスラリーとして調製されたSEPHADEX(商標)G-50 Medium(0.5mlは、70mgのSEPHADEX(商標)G-50 Mediumを含む)、
5.20mM NaCl溶液中の8% w/vスラリーとして調製されたDEAE SEPHADEX(商標)A-50(0.5mlは、40mgのDEAE SEPHADEX(商標)A-50を含む)、
6.20mM CaCl溶液中の8% w/vスラリーとして調製されたSP SEPHADEX(商標)C-50(0.5mlは、40mgのSP SEPHADEX(商標)C-50を含む)、
7.20mM CaCl溶液中の8% w/vスラリーとして調製されたQAE SEPHADEX(商標)(0.5mlは、40mgのQAE SEPHADEX(商標)を含む)、
8.スラリーとして調製されたDEAE SEPHACEL(商標)(100mg)、及び
9.粉末形態で調製されたTOYOPEARL DEAE-650M(商標)(100mg)。
【0172】
各試験組成物の適用後の圧縮時間、及び出血強度の結果を表2に示す。初期出血強度から適用後の出血強度を減じることによって、出血強度低下を計算した。
【0173】
【表2】
初期出血強度から適用後の出血強度を減じることによって計算した。
【0174】
【表3】
初期出血強度から適用後の出血強度を減じることによって計算した。
【0175】
概して、マトリックスに結合したDEAEなどのアニオン交換体をカルシウム塩と共に含む組成物が、完全な止血をもたらすことが分かる(全てカルシウム塩を含むDEAE SEPHADEX(商標)A-50、DEAE SEPHACEL(商標)、及びTOYOPEARL DEAE-650M(商標)について表2を参照されたい)。これらの組成物は、使用される特定のマトリックスにかかわらず、完全な止血を実質的にもたらす。例えば、SEPHADEX(商標)、SEPHACEL(商標)、及びTOYOPEARL(商標)(それぞれ、デキストラン、セルロース及びヒドロキシル化メタクリルポリマー)などのマトリックスは、出血強度を低下させるのに同様の効果を有した。
【0176】
より具体的には、CaCl中のDEAE SEPHADEX(商標)A-50 8%w/vは、60及び30秒の圧縮後に出血を止めることができた。結果はまた、DEAE SEPHADEX(商標)A-50(8% w/v)の適用を、圧縮なしで使用して、出血強度を低下させることができることを示した(表2)。
【0177】
DEAE SEPHADEX(商標)A-50及びカルシウム塩を含む組成物の止血能力は、同一の圧縮時間(30秒)を使用したとき、及びわずか10秒の圧縮でさえも、市販のトロンビンを含むゼラチン止血剤と同様の有効性を示した。しかしながら、マトリックスに結合したDEAEを含むアニオン交換体とカルシウム塩とに基づく止血剤の止血能力は、トロンビンなどの生物学的活性成分の不在下で市販のゼラチン止血剤の止血能力よりも十分に優れていた。
【0178】
表3に示すように、NaClを用いて調製され、カルシウム塩を欠くDEAE SEPHADEX(商標)を含む組成物は出血強度の低下をもたらさず、このサンプルは出血を止めるのに有効ではなかったと結論付けることができる。
【0179】
イオン交換基の止血能力に対する影響を評価する際、カルシウム塩と共にアニオン性基、スルホプロピル(SP)を含むSP SEPHADEX(商標)は、出血強度を低下させなかったことが示された。換言すれば、正(DEAE)基の代わりに負(SP)基を有する材料は、止血剤として有効ではなかった。
【0180】
カルシウム塩を有する四級アミノエチル、QAE SEPHADEX(商標)が、出血強度を低下させることができたことが更に示された。
【0181】
実施例1と同様に、官能基が不在のマトリックス単独(カルシウム塩を有するが、DEAE基を有さないSEPHADEX(商標)G-50)では、止血有効性を有しなかったことも示された。
【0182】
結果は、カルシウム塩の存在下でマトリックスに結合したDEAE基を含む組成物の使用が、効果的に止血を達成したことを示す。
【0183】
結果はまた、DEAE SEPHADEX(商標)A-50(8% w/v)適用後の30秒及び60秒の圧縮時間が完全な止血をもたらすことをも示し、したがってTTHが30秒として定義された。
【0184】
したがって、マトリックスに結合したDEAEなどのアニオン交換体が、カルシウム塩と共に、完全な止血をもたらしたことが示された。この結果は、使用されるマトリックスにかかわらず得られた。結果は、トロンビンを含むゼラチンなどの市販の止血剤を使用するときに得られるものと同等である。
【0185】
QAE SEPHADEX(商標)は、カルシウム塩と共に出血を低減したことが見出された。
【0186】
カルシウム塩及び/又はマトリックスを欠く組成物は、出血強度に影響を及ぼさなかった。
【0187】
これらの結果は、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む組成物が止血剤として有効であることを示唆する。
【0188】
実施例3:インビボブタ脾臓モデルにおける、止血に対する、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む組成物の効果。
前の実験は、架橋ポリマーに結合したDEAEからなるアニオン交換体及びカルシウム塩を含む組成物が、インビボ脾臓円形パンチモデルにおいて出血強度を低下させるのに有効であったことを示した。
【0189】
この実験では、組成物の止血活性が、別のモデルである、インビボヘパリン化ブタ脾臓円形パンチモデル(上記のように実施される)で裏付けられた。このモデルは、出血強度に関して以前のモデルよりも重度であった。全てのサンプルの圧縮時間は30秒であった。サンプル1~6について、パンチサイズは、直径4mm及び深さ2mmであった。サンプル7~9について、パンチサイズは、直径8mm及び深さ3mmであった。典型的には、出血の重症度は、パンチサイズの増加及び/又はヘパリンの添加によって増加した。
【0190】
以下のサンプルを、止血有効性について試験した:
1.20mM CaCl溶液中の8% w/vスラリーとして調製されたDEAE SEPHADEX(商標)A-50(0.5mlは、40mgのDEAE SEPHADEX(商標)A-50を含む)、
2.20mM CaCl溶液中の10% w/vスラリーとして調製されたDEAE SEPHADEX(商標)A-50(0.5mlは、50mgのDEAE SEPHADEX(商標)A-50を含む)、2連で試験された、
3.スラリーとして調製された市販のゼラチン止血剤(0.5mlは55mgのゼラチンを含む)、
4.スラリーとして調製されたトロンビンを含む市販のゼラチン止血剤(0.5mlは55mgのゼラチンを含む)、
5.20mM CaCl溶液中の14% w/vスラリーとして調製されたSEPHADEX(商標)G-50 Medium(0.5mlは、70mgのSEPHADEX(商標)G-50 Mediumを含む)、
6.20mM NaCl溶液中の8% w/vスラリーとして調製されたDEAE SEPHADEX(商標)A-50(0.5mlは、40mgのDEAE SEPHADEX(商標)A-50を含む)、
7.純DEAE、
8.CaCl(20mM)、及び
9.CaClを有するDEAE。
【0191】
CaClの存在下でDEAE SEPHADEX(商標)A-50 8%及び10% w/vは、出血強度を低下させることができ(約2~3点の減少が観察された)、より高い割合でより良好な結果をもたらすことが観察された。このモデルでは、DEAE SEPHADEX(商標)A-50の止血能力は、トロンビンを有する又は有さない市販のゼラチンベースの止血剤の止血能力よりも優れていた。
【0192】
肝臓実験に示されるように、ナトリウム塩を有する、SEPHADEX(商標)G-50単独とDEAE SEPHADEX(商標)の両方が、出血強度を低下させなかった。
【0193】
純DEAEは、出血強度を低下させなかった。したがって、DEAEが架橋ポリマーに結合していないとき、有効な止血剤として機能しない(すなわち、顕著な出血低下が生じていない)と結論付けられた。カルシウム塩の添加は、カルシウム塩組成物と共にDEAEを含む組成物に見られるように(0点減少)、マトリックスの不在下でのDEAEの止血能力を改善しなかった。カルシウム塩単独で止血能力を有さなかったことも実証された。
【0194】
この実験は、前の実験を更に裏付け、実証された止血有効性のために、カルシウム塩、DEAE基、及びマトリックスの組み合わせが必要であったことを示した。
【0195】
実施例4:インビボブタ脾臓解決しにくい出血モデルにおける、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む溶液の止血特性。
この実施例では、カルシウム塩の存在下で架橋ポリマーに結合したDEAEの止血能力は、参照により、完全に本明細書に記載されているかのように本明細書に組み込まれる、Holcomb JB、Pusateri AE、Harris RAら(Effect of dry fibrin sealant dressings versus gauze packing on blood loss in grade V liver injuries in resuscitated swine.J Trauma.1999;46:49~58)によって開示されているものから修正された解決しにくい出血のより困難なモデルで更に試験された。
【0196】
DEAE SEPHADEX(商標)A-50を、25mMのCaCl溶液中で10% w/vスラリーとして調製した。パンチを専用の装置(図2aを参照)を使用して実施し、各アームは5.5cmの長さであり、中心孔は1.5cm深さ、銃弾形状、及び直径9.5mmであるX字形状の創傷をもたらした(図2b)。創傷は、解決しにくい出血(銃弾による負傷など)を表している。
【0197】
約20mlの試験組成物を創傷に適用した。手動圧縮を創傷部位に4分間適用した。試験した組成物は出血を止めた。
【0198】
実験を3回実施し(更に2回の繰り返し)、同様の結果を得た。
【0199】
第1のトライアルにおいて、完全な止血を達成するために十分な材料が存在しない場合、追加の材料を適用し、圧縮を更に3分間加えた。次いで、完全な止血を達成した。
【0200】
実施例5:マトリックス要件の評価
以下の実施例では、DEAEが結合するマトリックスの要件を、上記のように、インビボヘパリン化ブタ脾臓円形パンチモデルを使用して更に評価した。組成物の調製を上記表1に記載する。圧縮時間は60秒であった。この実験では、初期出血強度及び適用後の出血強度を、0~5スケールに従って評価した。
【0201】
DEAEデキストラン500は、デキストランのポリカトニック誘導体であり、デキストラン鎖が架橋されていない、平均分子量500kDのデキストランから調製される。
【0202】
以下の組成物を評価した:
1.20mM CaCl溶液中の10% w/vスラリーとして調製されたDEAE SEPHADEX(商標)A-50(0.5mlは、40mgのDEAE SEPHADEX(商標)A-50を含む)、
2.10%(w/w)CaCl粉末によって調製したDEAEデキストラン500(100mg粉末は、90mgのDEAEデキストラン及び10mgのCaClを含んでいた)。
【0203】
種々の試験組成物の出血強度の結果を表4に示す。
【0204】
【表4】
【0205】
架橋マトリックスに結合したDEAEは、完全な止血を達成するのに成功したが、マトリックスに結合していないDEAEは、出血強度を低下させなかった。
【0206】
実施例6:止血に対する正荷電基の効果
本明細書に開示されるマトリックスに結合している正荷電基の密度(すなわち存在)は、止血を達成するために重要であることが示されている。マトリックス上の電荷は、有利には、上記のように止血を達成するのに十分な密度で存在すべきである。
【0207】
評価された全ての正電荷が同一レベルの止血有効性を提供していないことが、これまでの実施例で示された。したがって、電荷密度及び電荷の種類を評価するために、最適な密度範囲が存在することを確実にするために分析を実施する。
【0208】
この目的のために、合成されたマトリックスは、酸加水分解などによってモノマー化され、それらが担持する種々の電荷に基づいてモノマーを分離することができる分析器具(例えば、高圧液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー)に適用する。このようにして、特定の分子上の電荷密度を評価するために分析を実施する。
【0209】
本発明の特定の特徴は、明確性のために別個の実施形態の文脈において記載されているが、これはまた、単一の実施形態において組み合わせて提示されてもよいことが理解されるであろう。逆に、本発明の様々な特徴は、簡潔さのために、単一の実施形態の文脈において記載されているが、これはまた、別個に、若しくは任意の好適な部分的組み合わせで、又は本発明の任意のその他の記載される実施形態において好適にもたらされてもよい。様々な実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしには動作不可能である場合を除き、それらの実施形態の必須特徴であるとして考慮されるべきではない。
【0210】
本発明は、その特定の実施形態と共に記載されてきたが、多くの代替、修正、及び変形が当業者には明白となることは明らかである。したがって、添付の請求項の範囲内にある全てのそのような代替、修正、及び変形を包含することが意図される。
【0211】
本出願におけるいずれの参照文献の引用又は特定も、そのような文献が本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものと解釈されるべきではない。
【0212】
〔実施の態様〕
(1) 出血部位において止血をもたらすための薬剤として使用するための、アニオン交換体及びカルシウム塩を含む組成物。
(2) 前記アニオン交換体が、マトリックスに結合した1つ又は2つ以上の正荷電基を含む、実施態様1に記載の組成物。
(3) 前記正荷電基が、強塩基、弱塩基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される塩基によってもたらされている、実施態様2に記載の組成物。
(4) 前記強塩基が、四級アミノ基を含む、実施態様3に記載の組成物。
(5) 前記弱塩基が、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ基を含む、実施態様3に記載の組成物。
【0213】
(6) 前記弱塩基がジエチルアミノエチル(DEAE)基からなる、実施態様3に記載の組成物。
(7) 前記マトリックスが、脂肪族ポリエステル、多糖類、ポリペプチド、ポリスチレン-ジビニルベンゼン、シリカ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている、実施態様2~6のいずれかに記載の組成物。
(8) 前記マトリックスが架橋している、実施態様2~7のいずれかに記載の組成物。
(9) 前記マトリックスが共有結合で架橋している、実施態様8に記載の組成物。
(10) 前記組成物が、血液凝固カスケードのいかなるタンパク質も実質的に欠いている、実施態様1~9のいずれかに記載の組成物。
【0214】
(11) 前記組成物が、スラリー、粉末、フィルム、パッチ、及び液体からなる群から選択される形態である、実施態様1~10のいずれかに記載の組成物。
(12) 前記スラリー又は液体の形態の前記組成物が、医薬的に許容される担体を更に含む、実施態様11に記載の組成物。
(13) 前記使用が、所望により前記出血部位に向けて、前記組成物に圧力を加えることを含む、実施態様1~12のいずれかに記載の組成物。
(14) アニオン交換体と、
カルシウム塩と、
所望により、医薬的に許容される担体とを含む、止血用組成物。
(15) 前記アニオン交換体が、マトリックスに結合した1つ又は2つ以上の正荷電基を含む、実施態様14に記載の止血用組成物。
【0215】
(16) 前記正荷電基が、強塩基、弱塩基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される塩基によってもたらされている、実施態様15に記載の止血用組成物。
(17) 前記強塩基が、四級アミノ基を含む、実施態様16に記載の止血用組成物。
(18) 前記弱塩基が、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ基を含む、実施態様16に記載の止血用組成物。
(19) 前記弱塩基がジエチルアミノエチル(DEAE)基からなる、実施態様16に記載の止血用組成物。
(20) 前記マトリックスが、脂肪族ポリエステル、多糖類、ポリペプチド、ポリスチレン-ジビニルベンゼン、シリカ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている、実施態様14~19のいずれかに記載の止血用組成物。
【0216】
(21) 前記マトリックスが架橋している、実施態様15~20のいずれかに記載の止血用組成物。
(22) 前記架橋ポリマーが共有結合で架橋している、実施態様21に記載の止血用組成物。
(23) 前記多糖類が、セルロース、デキストラン、アガロース、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている、実施態様20~22のいずれかに記載の止血用組成物。
(24) 前記組成物が、血液凝固カスケードのいかなるタンパク質も実質的に欠いている、実施態様15~23のいずれかに記載の止血用組成物。
(25) 前記組成物が、スラリー、粉末、フィルム、パッチ、及び液体からなる群から選択される形態である、実施態様15~24のいずれかに記載の止血用組成物。
【0217】
(26) 前記スラリー又は液体の形態の前記組成物が、医薬的に許容される担体を更に含む、実施態様25に記載の止血用組成物。
(27) マトリックスに結合したジエチルアミノエチル(DEAE)と、
カルシウム塩とを含む、止血用組成物。
(28) 止血用組成物の調製方法であって、
1つ又は2つ以上の正荷電基を架橋マトリックスに共有結合させることによってアニオン交換体を調製することと、
前記アニオン交換体にカルシウム塩を添加することと、を含む、方法。
(29) 実施態様28に記載の方法により得ることのできる、止血用組成物。
図1
図2a
図2b
図2c
【外国語明細書】