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特開2022-166282診断分析及び薬物送達のためのカーボンドット
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  • 特開-診断分析及び薬物送達のためのカーボンドット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166282
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】診断分析及び薬物送達のためのカーボンドット
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/15 20170101AFI20221025BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20221025BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 47/52 20170101ALI20221025BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20221025BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20221025BHJP
   A61K 33/44 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20221025BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221025BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20221025BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221025BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C01B32/15
A61K47/69
A61K47/04
A61K47/22
A61K9/08
A61K47/52
A61K47/18
A61K47/64
A61K47/54
A61K33/44
A61K45/00
A61K38/28
A61K49/00
A61P43/00 121
A61P19/00
A61P3/10
A61P25/28
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022133069
(22)【出願日】2022-08-24
(62)【分割の表示】P 2018540795の分割
【原出願日】2017-02-06
(31)【優先権主張番号】62/292,026
(32)【優先日】2016-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510250892
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ マイアミ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF MIAMI
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】シャンガオ・リ
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー・エム・ルブラン
(72)【発明者】
【氏名】アイザック・スクロム
(72)【発明者】
【氏名】ジーリー・ペン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】中枢神経系(CNS)内の神経変性疾患を処置するための治療薬剤としての可能性を有するカーボンドットの形成方法及び応用を提供すること。
【解決手段】カーボンドットを形成する方法であって、炭素粉末を硫酸及び硝酸と混合することと、炭素粉末混合物を還流加熱して、炭素粉末を酸化させることとを含む方法を提供する。方法は、カーボンドットを単離及び精製することをさらに含む。本開示は、さらに、診断分析(例えば骨分析)、フィブリル化阻害、及び薬物送達へのカーボンドットの応用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンドットを形成する方法であって、
炭素粉末を硫酸及び硝酸と混合して、炭素粉末混合物を形成することと;
前記炭素粉末混合物を還流下で加熱して還流炭素粉末混合物を形成し、次いで前記還流炭素粉末混合物を冷却することと;
前記還流炭素粉末混合物を中和して、可溶化カーボンドットを含む中和炭素粉末混合物を形成することと;
前記可溶化カーボンドットを前記中和炭素粉末混合物から単離して、カーボンドット溶液を形成することと;
前記カーボンドット溶液を透析することと;
前記溶液の溶媒を前記カーボンドット溶液から分離して、固体カーボンドットを得ることとを含む方法。
【請求項2】
前記カーボンドットが、10nm未満のサイズの直径、好ましくは6nm以下の直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
硝酸に対する硫酸の比が、1超:1である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
硝酸に対する硫酸の比が、約1.1:1から約10:1の範囲内である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記還流炭素粉末混合物を中和することが、前記混合物に塩基を添加して、可溶化カーボンドットならびに硫酸塩及び/または硝酸塩の少なくとも1つを含む前記中和炭素粉末混合物を形成することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記可溶性カーボンドットを前記中和炭素粉末混合物から単離することが、硫酸塩及び硝酸塩の少なくとも1つを結晶化させ、前記中和炭素粉末混合物から前記塩を除去することを含む、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記可溶性カーボンドットを前記中和炭素粉末混合物から単離することが、前記中和炭素粉末混合物から不純物を除去することを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記分離することが、前記カーボンドット溶液を濃縮し、残留溶媒を蒸発させることを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
インスリンフィブリル化を阻害する方法であって、インスリンを溶液中で請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して形成された前記カーボンドットと組み合わせて、濃縮溶液を形成することと、前記濃縮された溶液をヒト対象に挿入して、前記ヒト対象を処置することとを含む方法。
【請求項11】
前記濃縮溶液中のカーボンドットの濃度が、2μg/mL以上である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記濃縮溶液中のカーボンドットの前記濃度が、10μg/mL以上である、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
血液脳関門透過溶液を形成する方法であって、
カーボンドットを有機化合物標的に共有結合的にコンジュゲートさせて、カーボンドット-有機化合物標的コンジュゲートを形成することと、前記コンジュゲートを溶媒と混合して、前記血液脳関門透過溶液を形成することとを含み、前記カーボンドットは、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して形成される方法。
【請求項14】
前記有機化合物標的が、トランスフェリン、染料標識化トランスフェリン、フルオレセイン、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記炭素粉末混合物を還流下で加熱することが、前記炭素粉末混合物を砂浴内で110℃に15時間加熱することを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記還流炭素粉末混合物を中和することが、水酸化ナトリウムの過飽和溶液を添加することを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記可溶化カーボンドットを前記中和炭素粉末混合物から単離することが、前記中和炭素粉末混合物を濾過して、未反応炭素粉末を除去することを含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記可溶カーボンドットを前記中和炭素粉末混合物から単離することが、前記硫酸塩及び/または硝酸塩の少なくとも1つを結晶化させる前に、前記中和炭素粉末混合物を濾過して、未反応炭素粉末を除去することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項19】
前記塩の結晶化が、硫酸ナトリウム結晶を前記中和炭素粉末混合物に添加して、前記塩の結晶化を開始させることを含む、請求項7または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記塩が、濾過により除去される、請求項7、18、または19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記塩の結晶化が、約75℃から85℃の範囲内の温度で前記溶媒の少なくとも一部を蒸発させることにより、前記中和炭素粉末混合物の前記溶媒の体積を低減し、濃縮溶液を形成することと、前記濃縮溶液を冷却して、固体塩結晶及びカーボンドット溶液を含む混合物を提供することとを含む、請求項7または18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記不純物が、有機溶媒による抽出により除去される、請求項8に記載の方法。
【請求項23】
透析の前に、前記カーボンドット溶液を遠心分離することをさらに含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記カーボンドット溶液が、5日間約4から10時間のインターバルで交換される4Lの脱イオン水で透析される、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記濃縮することが、前記カーボンドット溶液を約75~85℃の範囲内の温度に加熱することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項26】
前記炭素粉末が、炭素ナノ粉末を含む、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
薬物を骨に送達する方法であって、
請求項1から9または15から26のいずれか一項に従って調製されたカーボンドットに薬物を組み込んで、前記薬物が組み込まれたカーボンドットを形成することと、前記薬物が組み込まれた前記カーボンドットを対象に投与することとを含む方法。
【請求項28】
前記カーボンドットが、表面改質カーボンドットではない、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記カーボンドットが、表面改質カーボンドットを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記表面改質が、中性ビオチン、正電荷アミン基、負電荷カルボキシル基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年2月5日に出願された米国仮特許出願第62/292026号の35 U.S.C. §119(e)に基づく利益を主張する。上記出願の全開示が、参照することにより本明細書に援用される。
【0002】
政府援助の記述
本発明は、全米科学財団により授与された助成金番号1355317の下での政府援助によりなされた。政府は本発明に対し一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、カーボンドットの形成に関し、より具体的には、カーボンドットの形成ならびに診断分析(例えば骨分析)、フィブリル化阻害、及び薬物送達へのその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
本明細書において記載される背景技術の説明は、本開示の背景を全般的に示すことを目的とする。この背景技術の項または本明細書の別の箇所に記載されている範囲において、本発明の発明者の研究、ならびに出願の時点で別段に先行技術とみなされ得ない説明の態様は、明示的にも暗示的にも、本開示に対する先行技術として認められない。
【0005】
カーボンドットは、最近良性のナノ粒子として現れた量子サイズの炭素ナノ粒子であり、重金属含有毒性量子ドットに置き換わる可能性を有する。励起波長依存的光ルミネッセンス、優れた生体適合性、低い細胞毒性、及び光学的安定性等のその独特の特性のために、カーボンドットの潜在的な生物学的用途が大きな注目を集めている。
【0006】
カーボンドットは、典型的には化学的、電気化学的、または物理的技術により達成される、「トップダウン」または「ボトムアップ」手法により調製され得る。「トップダウン」合成経路は、レーザーアブレーション、アーク放電、及び電気化学的技術を使用して、グラファイト、カーボンナノチューブ、及びナノダイヤモンド等のより大きい炭素構造をカーボンドットに分解することを指す。一方、「ボトムアップ」合成経路は、水熱/溶媒熱処理、支援合成、及びマイクロ波合成経路を介して、炭水化物、シトレート、及びポリマー-シリカナノ複合体等の微小前駆体からカーボンドットを合成することを含む。
【0007】
カーボンドットは、容易に細胞膜を通過することができ、したがって、生体イメージング及びセラノスティクスにおける潜在的用途を有する。しかしながら、生体系内でのいかなる実用的応用においても、カーボンドットはペプチド及びタンパク質と不可避的に接触し、その構造を変化させる可能性がある。カーボンナノチューブ、酸化セリウムナノ粒子、二酸化チタンナノ粒子、及び金ナノ粒子等の既知のナノ粒子は、タンパク質及びペプチドのフィブリル化を促進し、タンパク質/ペプチド構造に変化をもたらすことが判明している。
【0008】
さらに、カーボンドットは、中枢神経系(CNS)内の神経変性疾患を処置するための治療薬剤としての可能性を有する。しかしながら、生体系内のCNSへの薬物送達は、高選択性透過障壁である血液脳関門(BBB)の存在に起因して、大きな医学的課題となっている。
【0009】
生きた骨へのカーボンドットの結合は、多目的薬物送達システムを提供するのに有利となるだろう。しかしながら、「Functionalized carbon dots enable simultaneous bone crack detection and drug deposition」, J. Mater. Chem. B 2014, 2, 8626-8632及び「In vitro detection of calcium in bone by modified carbon dots」, Analyst 2013, 138, 7107-7111において実証されているように、公開されたプロトコルに従って調製されたカーボンドットは、グルタミン酸(カルシウム結合性分子)にコンジュゲートした場合、及び取り出された骨においてのみ骨結合活性を示すだけであり、生きた動物においては示されていない。さらに、カーボンドットに薬物を組み込むためには、カーボンドットの表面を改質することが必要となり得、そのような改質は、カーボンドットの結合特性に影響し得る。
【0010】
したがって、タンパク質及びペプチド構造の変化の阻害、血液脳関門を透過する能力、ならびに/または生きた動物内の骨に結合する能力等の1つ以上の利点を示す、生物学的用途に有用な非毒性カーボンドットを提供することが有利となるであろう。
【発明の概要】
【0011】
本開示の一態様は、カーボンドットを形成する方法であって、炭素粉末を硫酸及び硝酸と混合して、炭素粉末混合物を形成することと、炭素粉末混合物を還流加熱することと、還流炭素粉末混合物を冷却することと、冷却された還流炭素粉末混合物を中和することとを含む方法を提供する。方法は、還流炭素粉末混合物を単離及び精製して、カーボンドット溶液を形成することと、カーボンドット溶液を透析することと、溶媒を溶液から除去して、固体カーボンドットを得ることとをさらに含む。
【0012】
本開示の別の態様は、インスリンフィブリル化を阻害する方法であって、インスリンを溶液中で本開示のカーボンドットと組み合わせて、濃縮溶液を形成することと、濃縮された溶液をヒト対象に挿入して、ヒト対象を処置することとを含む方法を提供する。
【0013】
本開示の別の態様は、血液脳関門透過溶液を形成する方法であって、本開示のカーボンドットを有機化合物標的に共有結合的にコンジュゲートさせて、血液脳関門透過溶液を形成することを含む方法を提供する。
【0014】
本開示の別の態様は、薬物を骨に送達する方法であって、本開示のカーボンドットに薬物を組み込んで、薬物が組み込まれたカーボンドットを形成することと、薬物が組み込まれたカーボンドットを対象に投与することとを含む方法を提供する。
【0015】
本明細書に記載される組成物及び方法に関して、構成成分、これらの組成範囲、条件、及びステップを含むがこれらに限定されない任意の特徴は、本明細書に提供される様々な態様、実施形態、及び実施例から選択されることが企図される。
【0016】
さらなる態様及び利点が、図面及び実施例と併せて以下の詳細な説明の調査から当業者には明らかになるであろう。カーボンドット、これらの作成方法、及びこれらの用途は、様々な形態での実施形態が可能な一方で、以下の説明は、本開示が例示的であるという理解のもと特定の実施形態を含み、本発明を本明細書に記載される特定の実施形態に制限することを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の理解をさらに促進するために、1つの図面が本明細書に添付される。
【0018】
図1】本開示に従って調製されたカーボンドットは、生きた動物内の石灰化骨に対する結合親和性を有し、一方他の出発材料から調製されたカーボンドットは、生きた動物内の石灰化骨に対する結合親和性を有さないことを示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示の一態様は、カーボンドットを形成する方法であって、炭素粉末を硫酸及び硝酸と混合して、炭素粉末混合物を形成することと、炭素粉末混合物を還流下で加熱して還流炭素粉末混合物を形成し、次いで還流炭素粉末混合物を冷却することと、還流炭素粉末混合物を中和して、可溶化カーボンドットを含む中和炭素粉末混合物を形成することと、可溶化カーボンドットを中和炭素粉末混合物から単離して、カーボンドット溶液を形成することと、カーボンドット溶液を透析することと、溶液の溶媒をカーボンドット溶液から分離して、固体カーボンドットを得ることとを含む方法を提供する。
【0020】
本明細書において使用される場合、及び別段に指定されない限り、「炭素粉末」は、100nm超の粒子サイズを有する炭素粉末、及び100nm以下の粒子サイズを有する炭素ナノ粉末を指す。
【0021】
いくつかの実施形態において、カーボンドットは、約10nm未満、任意選択で約6nm以下の平均直径を有する。いくつかの実施形態において、硫酸及び硝酸は、約1超:1(v/v)、任意選択で約1.1:1から約5:1(v/v)の比で提供される。
【0022】
実施形態において、還流炭素粉末混合物を中和することは、混合物に塩基を添加して、可溶化カーボンドットならびに硫酸塩及び/または硝酸塩の少なくとも1つを含む中和炭素粉末混合物を形成することを含む。任意選択で、塩基は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるアルカリ水酸化物である。実施形態において、塩基は、アルカリ水酸化物の過飽和溶液であってもよい。実施形態において、塩基は、水酸化ナトリウムの過飽和溶液であってもよい。
【0023】
実施形態において、可溶性カーボンドットを中和炭素粉末混合物から単離することが、硫酸塩及び/または硝酸塩の少なくとも1つを結晶化させ、中和炭素粉末混合物から塩を除去することを含む。実施形態において、塩の結晶化は、硫酸ナトリウム結晶を中和炭素粉末混合物に添加して、塩の結晶化を開始させることを含む。実施形態において、塩の結晶化は、中和炭素粉末混合物の溶媒の体積を低減することを含んでもよい。任意選択で、塩は、濾過により除去されてもよい。
【0024】
実施形態において、可溶性カーボンドットを中和炭素粉末混合物から単離することは、中和炭素粉末混合物から不純物を除去することを含む。任意選択で、不純物は、有機溶媒での抽出により除去されてもよい。実施形態において、中和炭素粉末混合物が濾過されて、未反応炭素粉末が除去されてもよい。任意選択で、中和炭素粉末混合物は、少なくとも1つの硫酸塩及び/または硝酸塩を結晶化させる前に濾過されて、未反応炭素粉末が除去されてもよい。
【0025】
実施形態において、カーボンドット溶液は、透析の前に遠心分離される。実施形態において、カーボンドット溶液は、約4Lの脱イオン水で約5日間透析されてもよい。実施形態において、溶媒は、蒸発により、例えばカーボンドット溶液を濃縮し残留溶媒を蒸発させることにより、カーボンドット溶液から分離されて、固体カーボンドットが得られる。
【0026】
本開示の別の態様は、インスリンフィブリル化を阻害する方法であって、インスリンを溶液中で本開示の方法に従って形成されたカーボンドットと組み合わせて、濃縮溶液を形成することと、濃縮された溶液をヒト対象に挿入して、ヒト対象を処置することとを含む方法を提供する。
【0027】
実施形態において、濃縮された溶液中のカーボンドットの濃度は、2μg/mL以上である。実施形態において、濃縮された溶液中のカーボンドットの濃度は、10μg/mL以上である。
【0028】
本開示の別の態様は、血液脳関門透過溶液を形成する方法であって、本開示の方法に従って形成されたカーボンドットを有機化合物標的に共有結合的にコンジュゲートさせて、カーボンドット-有機化合物標的コンジュゲートを形成することと、コンジュゲートを溶媒と混合して、血液脳関門透過溶液を形成することを含む方法を提供する。
【0029】
実施形態において、有機化合物標的は、トランスフェリン、染料標識化トランスフェリン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0030】
本開示の別の態様は、薬物を骨に送達する方法であって、本開示のカーボンドットに薬物を組み込んで、薬物が組み込まれたカーボンドットを形成することと、薬物が組み込まれたカーボンドットを対象に投与することとを含む方法を提供する。
【0031】
実施形態において、カーボンドットは、表面改質カーボンドットではない。実施形態において、カーボンドットは、表面改質カーボンドットを含む。任意選択で、表面改質は、中性ビオチン、正電荷アミン基、または負電荷カルボキシル基からなる群から選択され得る。
【0032】
本明細書において使用される場合、及び別段に指定されない限り、「表面改質カーボンドットではない」カーボンドットは、固体カーボンドット粉末の単離後にカーボンドット表面において意図的にさらに改質されない本開示に従って調製されたカーボンドットである。
【0033】
「含む(備える)」は、本明細書で使用される場合、本開示の実施において相まって用いられ得る様々な構成成分、成分、またはステップを意味する。したがって、用語「含む(備える)」は、より制限的な用語「から本質的になる」及び「からなる」を包含する。本組成物は、本明細書に開示される必須及び任意の要素のうちのいずれかを含み得るか、本質的にそれらからなり得るか、またはそれらからなり得る。本明細書に例示的に開示される発明は、本明細書に具体的に開示されない任意の要素またはステップの非存在下で好適に実施され得る。
【0034】
本明細書に記載される全ての範囲は、範囲の全ての可能性のあるサブセット及びそのようなサブセット範囲の任意の組み合わせを含む。デフォルトでは、範囲は、特に明記しない限り、記載される終了点を含む。値の範囲が提供されている場合、その範囲の上限と下限との間の各々の間の値、及びその記載される範囲内の任意の他の記載されているかまたは間にある値は、本開示内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は独立して、そのより小さい範囲内に含まれ得、また本開示内にも包含され、記載される範囲内の任意の具体的に除外される限度の影響下にある。記載される範囲がこれらの限度のうちの1つまたは両方を含む場合、これらの含まれる限度のいずれかまたは両方を除く範囲も、本開示の一部であることが企図される。
【0035】
カーボンドットを調製する方法
本出願は、「トップダウン」手法を使用してカーボンドット(本明細書において「C-ドット」とも呼ばれる)を形成する技術を含む。より具体的には、いくつかの例において炭素粉末を使用して、また他の例において炭素ナノ粉末を使用して、蛍光性C-ドットの調製に成功した。炭素粉末のサイズは特に限定されず、例えば、1000nm以下であってもよい。炭素粉末は、典型的には水溶性ではない。
【0036】
一般に、本開示のカーボンドットを調製する方法は、
(a)炭素粉末を酸と混合して、炭素粉末混合物を形成するステップと;
(b)炭素粉末混合物を加熱するステップと;
(c)炭素粉末混合物を冷却するステップと;
(d)形成されたカーボンドットを含む炭素粉末混合物を中和するステップと;
(e)可溶化されたカーボンドットを、中和反応において形成された塩、溶液中に存在する任意の不純物、及び/または任意の残留出発材料から単離するステップと;
(f)カーボンドット溶液を透析するステップと;
(g)溶媒をカーボンドット溶液から分離して、固体カーボンドットを形成するステップとを含む。
カーボンドットを調製するステップ(a)から(g)を、以下で詳細に説明する。
【0037】
本開示のカーボンドットを形成するために、酸を使用して炭素粉末が酸化される。炭素粉末は、まず酸と混合されて、炭素粉末混合物を形成する。カーボンドットの調製に好適な酸は、これらに限定されないが、硫酸及び硝酸の混合物、ならびにクロム酸を含む強酸化性の酸を含む。硫酸及び硝酸は、体積(v/v)で約1超:1、または約2超:1、または約3超:1、及び最大約10:1、または最大約5:1、または最大約4:1、例えば約1.1:1、約1.2:1、約1.5:1、約2:1、約2.5:1、約3:1、約3:5:1または約4:1(v/v)の比で提供されてもよい。理論に束縛されることを意図しないが、1:1(v/v)の比またはそれ未満を有する硫酸及び硝酸の混合物は、炭素粉末を酸化して表面に十分なカルボキシル基を生成して水溶性カーボンドットを提供するのに十分強くないと考えられる。
【0038】
例えば、硫酸及び硝酸の混合物(3:1、v/v)中において、炭素ナノ粉末は、1.5から6nmの間の直径を有する量子サイズまで酸化された。1:1の混合物または硝酸のみでは、同じ条件下でC-ドットを合成することができなかったため、酸の比が重要であった。調製直後のC-ドットは、既に水溶性及び蛍光性であった。同じ手順を使用して、炭素粉末からも同様のC-ドットが調製された。
【0039】
酸の量は、炭素粉末を湿潤させて炭素粉末懸濁液(混合物)を提供するのに好適な任意の量であってもよい。例えば、酸は、炭素粉末混合物が約20mg/mL、例えば約10mg/mLから約50mg/mL、または約10mg/mLから約40mg/mL、または約10mg/mLから約30mg/mL、または約20mg/mLから約40mg/mLの範囲内の炭素粉末濃度を有するように選択される量で提供され得る。
【0040】
次いで、炭素粉末混合物は、還流下で加熱されて、還流炭素ナノ粉末混合物を形成する。炭素粉末混合物は、例えば、約100℃超、または約110℃超、及び最大約120℃または最大約115℃の温度まで加熱され得る。加熱は、炭素粉末を酸化するのに好適な任意の期間維持され得る。炭素粉末混合物は、少なくとも1時間、少なくとも3時間、少なくとも6時間、少なくとも9時間、少なくとも12時間、または少なくとも15時間、及び最大約72時間、最大約60時間、最大約48時間、最大約36時間、最大約24時間、最大約20時間、または最大約16時間、還流下で加熱され得る。
【0041】
加熱後、還流炭素粉末混合物は、中和の前に冷却される。炭素粉末混合物の冷却は、特に限定されない。炭素粉末混合物は、周囲温度まで冷却されてもよく、次いで、中和の前に反応フラスコが氷浴内に設置されてもよい。中和ステップは、一般に極めて発熱性であり、したがって、還流後の炭素粉末混合物の冷却は、その後の中和の発熱を制御するために有利である。
【0042】
還流炭素粉末混合物は、中和されて、可溶化されたカーボンドットを含む中和炭素粉末混合物を形成する。中和炭素粉末混合物は、硫酸及び/または硝酸の塩をさらに含む。硫酸及び硝酸を中和するために使用される塩基は、特に限定されない。好適な塩基は、アルカリ水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、及びそれらの組み合わせを含んでもよい。塩基は、希釈溶液、飽和溶液、または過飽和溶液として添加され得る。過飽和溶液は、固体カーボンドットを得るために中和溶液から除去されるべき溶媒がより少ないため、有利となり得る。
【0043】
可溶化されたカーボンドットは、中和反応において形成された塩、溶液中に存在する任意の不純物、及び/または任意の残留出発材料から単離される。中和の間に形成される塩は、当技術分野において知られている任意の方法に従って除去され得る。例えば、塩は、中和炭素粉末混合物、ならびに固体塩及び液体上澄みを分離するために濾過された混合物から結晶化され得る。結晶化を促進するために、中和炭素粉末混合物は、溶媒の体積を低減することにより濃縮されてもよく、次いで、混合物からの塩の析出を開始するために濃縮物が冷却されてもよい。混合物は、例えば約70℃から約110℃、または約70℃から約100℃、または約75℃から約95℃、または約75℃から約90℃、または約75℃から約85℃の範囲内の任意の好適な温度で加熱して、溶媒の少なくとも一部を蒸発させることにより濃縮され得る。追加的に、または代替的に、混合物は、適切な種晶を中和炭素粉末混合物に含めることにより濃縮され得る。例えば、中和塩の結晶化を開始させるために硫酸ナトリウム結晶が添加されてもよい。
【0044】
不純物は、当技術分野において知られている任意の好適な手段により、中和炭素粉末混合物から除去され得る。不純物を除去する一般的な方法は、これらに限定されないが、遠心分離及び抽出を含む。水性中和炭素粉末混合物を有機溶媒と混合することにより、液体/液体抽出が(例えば、分液漏斗を使用して)行われてもよい。好適な有機溶媒は、水相と非混和性である溶媒であることが、当業者には容易に理解されるだろう。好適な有機溶媒は、これらに限定されないが、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、及び酢酸エチルを含む。中和後に任意の段階で遠心分離が実行されてもよい。実施形態において、遠心分離は、液体/液体抽出の後であるが、単離されたカーボンドット溶液の透析の前に行われる。
【0045】
可溶化されたカーボンドットの単離中に、残留出発材料もまた中和炭素粉末から除去され得る。残留出発材料は、当技術分野において知られている任意の方法により除去され得る。具体的には、出発炭素粉末は水溶性ではないが、形成されたカーボンドットは水溶性であるため、残留未反応炭素粉末は濾過により除去され得る。残留炭素粉末は、炭素粉末混合物の中和後の任意の段階で、例えば、中和塩の結晶化前もしくは後で、または不純物の抽出前もしくは後で除去され得る。
【0046】
単離された可溶化カーボンドットを含むカーボンドット溶液は、溶媒をカーボンドットから分離して、任意の残留硫酸塩及び/または硝酸塩、未反応酸、未反応炭素粉末、ならびに反応の副生成物として形成された任意の不純物を除去する前に透析されてもよい。カーボンドット溶液を透析するために使用される脱イオン水の期間及び体積は、特に限定されない。例えば、カーボンドット溶液は、少なくとも1日、少なくとも3日、または少なくとも5日、及び最大10日、最大8日、または最大6日の間透析されてもよい。脱イオン水は、約2時間、約4時間、約6時間、約8時間、または約10時間のインターバル後に交換されてもよい。各透析インターバルに提供される水の体積は、少なくとも約3L、少なくとも約4L、少なくとも約5L、または約8L未満、約7L未満、または約6L未満であってもよい。理論に束縛されることを意図しないが、水交換の頻度が高いほど、及び全体的な透析期間が長いほど、得られるカーボンドットの純度がより高くなると考えられる。
【0047】
固体カーボンドットは、溶媒をカーボンドット溶液から除去することにより得ることができる。溶媒は、当技術分野において知られている任意の方法に従って除去され得る。例えば、カーボンドット溶液が濃縮され、次いで残留溶媒が留去されてもよい。カーボンドット溶液の濃縮は、カーボンドット溶液を約70℃から約110℃、または約70℃から約100℃、または約75℃から約95℃、または約75℃から約90℃、または約75℃から約85℃の範囲内の温度まで加熱することにより行われてもよい。残留溶媒は、減圧下で、例えばロータリーエバポレータ(rotovap)を使用して留去されてもよい。
【0048】
固体カーボンドットは、意図される用途に好適な任意のサイズを有し得る。例えば、血液脳関門透過性膜における使用が意図される固体カーボンドットは、以下で説明されるように、受容体媒介エンドサイトーシスによりBBBを通過するのに十分小さくなければならない。好適には、カーボンドットは、10nm未満、例えば8nm以下、6nm以下、4nm以下、または2nm以下、例えば約1から約8nm、約2から約6nm、または約4nmの平均粒子直径を有する。調製直後のカーボンドットは、表面上に豊富な表面カルボン酸基及び豊富なsp炭素を有する炭素コアを有し、またカルボキシル基上に負電荷を有し得る。したがって、カーボンドットは、表面で改質されてもよく、及び/あるいは有機化合物とコンジュゲートされてもよく、及び/あるいはカルボン酸基における活性官能基(活性官能基の限定されない例は、アミン、アルコール、カルボキシル、及びチオールを含む)を有する化合物とのコンジュゲーションを介して、または吸着、静電相互作用、もしくはπ-π相互作用等の非共有結合的相互作用を介して薬物が組み込まれてもよい。
【0049】
一例において、硫酸(9mL)及び硝酸(3mL)を含有するアリコートを、フラスコ内で250mgの炭素ナノ粉末に添加した。混合物を、還流下、砂浴内で約110℃に15時間加熱した。冷却後、氷浴内で過飽和水酸化ナトリウム溶液を添加して、溶液を中和した。混合物を濾過して、未反応炭素粉末を除去した。次いで、氷浴を使用して、形成される塩を結晶化させた。溶液は過飽和されてもよく、結晶化を開始するために硫酸ナトリウム結晶片が必要となり得る。内容物を再び濾過し、暗褐色の上澄み溶液を得た。この手順を再び繰り返して、過飽和塩をさらに除去した。上澄み溶液をビーカーに移し、75~85℃で蒸発させることによりその体積を約25mLに低減させ、濃縮した。氷浴内で溶液を冷却し、塩結晶を除去し、暗褐色の上澄み溶液を得た。クロロホルム(15mL)を添加し、有機相中に不純物を抽出した。水相を保存し、抽出手順を2回繰り返した。次いで、溶液を3000rpmで30分間遠心分離し、いかなる析出物も除去した。溶液を分画分子量(MWCO)3500透析袋に移し、4Lの脱イオン水で5日間透析し、脱イオン水は4~10時間毎に交換した。次いで、約25mLが残るまで溶液を75~85℃に加熱することにより濃縮した。最後に、rotovapを使用して水を蒸発させ、C-ドットとして27.4mgの黒色粉末を生成した。
【0050】
タンパク質/ペプチドフィブリル化を阻害する方法
本出願は、カーボンドットの使用による生物学的作用の阻害、例えばカーボンドットをそれらに作用させることによるペプチドまたはタンパク質フィブリル化の阻害をさらに提供する。組織の細胞外空間におけるペプチドまたはタンパク質フィブリル化は、アルツハイマー病、2型糖尿病及びパーキンソン病等のいくつかの重篤なヒト疾患の発症において重要な役割を果たす。これらのペプチドまたはタンパク質フィブリルは、元の構造のミスフォールディングによる明確なクロスβシート構造を特徴とする。フィブリル化は、典型的には、オリゴマー化による微小核の初期形成、次いでプロトフィブリル形成を介したフィブリルの伸長を含む、核形成-成長パターンに従う。中間オリゴマー種及び成熟フィブリルは、関連細胞の死滅を惹起する細胞毒性を有する。したがって、ペプチドまたはタンパク質フィブリル化に関連した疾患に対する予防及び治療戦略は、フィブリル化プロセスを阻害または遅延させることである。
【0051】
インスリンフィブリルは、インスリン注入及び反復注射後の、2型糖尿病に罹患した一部の患者において見られる。インスリンは、生産量が最も多い治療タンパク質の1つであるが、そのフィブリル化は、タンパク質の生産、保存、及び送達において依然として困難な課題となっている。
【0052】
タンパク質及びペプチドフィブリル化は、タンパク質またはペプチドを本開示のカーボンドットと混合することにより阻害され得る。実施形態において、カーボンドットをタンパク質またはペプチドと混合することは、タンパク質またはペプチドの阻害を必要とする患者へのカーボンドットの濃縮溶液の投与を含む。実施形態において、カーボンドットをタンパク質またはペプチドと混合することは、対象へのカーボンドットの投与の前に行われる。任意選択で、タンパク質またはペプチド及びカーボンドットは、溶液中で混合されて、濃縮溶液を形成する。濃縮溶液は、対象を処置するために対象に投与され得る。
【0053】
濃縮溶液は、少なくとも2μg/mL、少なくとも4μg/mL、少なくとも6μg/mL、少なくとも8μg/mL、または少なくとも10μg/mL、及び最大約20μg/mL、最大約18μg/mL、最大約16μg/mL、最大約14μg/mL、または最大約12μg/mLの濃度のカーボンドットを含んでもよい。理論に束縛されることを意図しないが、本開示のカーボンドットは、濃度依存的にタンパク質及びペプチドフィブリル化を阻害すると考えられる。したがって、カーボンドットは、65℃の温度でインキュベートされながら、少なくとも5時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、少なくとも1日、少なくとも3日、または少なくとも5日、及び最大約30日、最大約25日、最大約20日、最大約15日、最大約10日、または最大約8日の間タンパク質またはペプチドのフィブリル化を阻害するのに十分な量で提供され得る。理論に束縛されることを意図しないが、65℃の温度におけるインキュベーションは、タンパク質またはペプチドに不利であるため、等量のカーボンドットと混合されているがより過酷でない条件、例えば周囲条件下で保存されるタンパク質またはペプチドに対しては、フィブリル化の阻害期間が増加することが推定されると考えられる。
【0054】
例えば、ペプチドまたはタンパク質フィブリル化に対するC-ドットの効果が検査される。一例において、インスリンフィブリル化に対するC-ドットの効果を調査するためのモデルとして、ヒトインスリンが選択された。6nm未満のサイズを有する水溶性の蛍光性C-ドットを炭素粉末から調製し、UV-vis分光法、蛍光、フーリエ変換赤外分光光度法、X線光電子分光法、透過型電子顕微鏡、及び原子間力顕微鏡により特性決定した。これらのC-ドットは、濃度依存的にインスリンフィブリル化を効率的に阻害することができた。C-ドットの阻害効果は、0.2μg/mLであっても観察された。重要なことに、40μg/mLのC-ドットは、0.2mg/mLのヒトインスリンのフィブリル化を65℃において5日間防止し、一方C-ドットがない場合、インスリンは、同じ条件下において65℃で3時間で変性する。細胞毒性試験は、これらのC-ドットが非常に低い細胞毒性を有することを示している。したがって、これらのC-ドットは、生体系内のインスリンフィブリル化を阻害することができ、また製薬産業においてインスリンの処理及び製剤化に使用され得る。カーボンドットの形成、及びペプチドまたはタンパク質フィブリル化阻害におけるその使用に関するさらなる詳細は、添付書類Aにおいて示されており、以下の実施例において見出すことができる。
【0055】
実施例において実証されるように、本開示のカーボンドットは、核形成のより早期の段階で添加された場合、ヒトインスリンフィブリル化に対するより大きな阻害効果を有する。理論に束縛されることを意図しないが、阻害効果は、核形成臨界濃度に達する前のカーボンドットとインスリン種(モノマー及びオリゴマー)との間の相互作用に起因し得ると考えられる。核形成臨界濃度に達すると、カーボンドットはフィブリル化の動力学を変化させない。さらに、理論に束縛されることを意図しないが、カーボンドットとヒトインスリン種との相互作用は、カーボンドットの複雑な表面の性質に起因する、水素結合、疎水性相互作用、及びファンデルワールス相互作用等の弱い相互作用によるものであると考えられる。これらの相互作用は、カーボンドットの表面上にインスリン種を吸着させ、フィブリル化の初期段階におけるヒトインスリンの自己凝集及び核形成を抑制するのに十分強くてもよい。静電相互作用は、あまり寄与しないと推定される。pH1.6におけるカルボン酸基のプロトン化に起因して、カーボンドットは、その表面上にあまり負電荷を有さない。
【0056】
ペプチド及びタンパク質は、その源、配列、及び機能とは無関係に、フィブリルを発達させる共通の分子機構を共有し得ることが十分認められている。さらに、他のタンパク質及びペプチドは、インスリン上に存在する同じ官能基を有するアミノ酸で形成されるため、カーボンドットは、インスリンと同じ様式で、水素結合、疎水性相互作用、及びファンデルワールス相互作用等の弱い相互作用を介して他のタンパク質及びペプチドと相互作用することが推定される。したがって、本開示のカーボンドットによるインスリンフィブリル化の阻害は、他のタンパク質及びペプチドのフィブリル化を同様に阻害することが推定される。
【0057】
血液脳関門透過組成物
本開示は、血液脳関門透過溶液中で本開示のカーボンドットを血液脳関門を通して輸送する方法をさらに提供する。脳及び脊髄からなる中枢神経系(CNS)は、感覚情報を統合し、それに応じて応答する機能を担う。CNSは、血液循環からCNSへの選択された分子の進入を許可する生理学的チェックポイントとして機能する、複雑で極めて制御された血液脳関門(BBB)により保護されている。BBBは、主に、密な細胞間結合により密接に相互接続された毛細管内皮細胞で構成される。したがって、BBBは、血液からCNSへの治療分子の送達に対する障壁である。研究によれば、CNS疾患に対して標的化された98%超の小分子薬物、及び実際には100%の巨大分子薬物が、BBBを容易に通過せず、したがって、CNS疾患に対する現在の処置は、依然として極めて制限されていることが示されている。
【0058】
血液脳関門透過溶液は、一般に、有機化合物標的に共有結合的にコンジュゲートされた本開示のカーボンドットを含む。カーボンドット-有機化合物標的コンジュゲートは、受容体媒介エンドサイトーシスにより血液脳関門を透過し得る。したがって、実施形態において、有機化合物標的は、血液脳関門において見られる受容体に特異的なリガンドであってもよい。血液脳関門における受容体に特異的なリガンドは、これらに限定されないが、トランスフェリン受容体、インスリン受容体、マンノース6-リン酸受容体(インスリン様成長因子II)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1受容体、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質2受容体、レプチン受容体、チアミン受容体、グルタチオン受容体、オピオイド受容体、p75ニューロトロフィン受容体、GT1bポリシアロガングリオシド、GPIアンカー型タンパク質受容体、及びジフテリア毒素受容体(ヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子)を含む。有機化合物標的は、トランスフェリン、インスリン、ヒト黒色腫抗原p97、低密度リポタンパク質、受容体関連タンパク質、ポリソルベート80被覆ナノ粒子、angiopep(例えばangiopep 2)、レプチン、チアミン、グルタチオン、合成オピオイドペプチド、狂犬病ウイルス糖タンパク質、破傷風毒素、テン-イレブン転位メチルシトシンジオキシゲナーゼ1(TET 1)、G23ペプチド、TATペプチド及びジフテリア毒素の非毒性突然変異(CRM197)からなる群から選択され得る。有機化合物標的はまた、対象内のカーボンドット-有機化合物コンジュゲートの画像化を向上させるために標識化されてもよい。画像化用途の造影剤として医薬に使用される任意の化合物が、好適な画像化標識である。画像化標識の限定されない例は、蛍光染料、例えばフルオレセイン、CF(商標)染料シリーズ、及びAlexa Fluor(登録商標)染料シリーズ、または放射線造影試薬、例えばヨウ素、バリウム、ガンドリニウムであってもよい。
【0059】
有機化合物標的をカーボンドットにコンジュゲートする方法は、当技術分野において周知である。有機化合物標的をカーボンドットに共有結合させる任意の方法が好適である。例えば、古典的なカルボジイミド化学(例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)またはスルホ-(NHS)を使用したEDC/NHS)を使用して、アミノまたはアルコール含有有機化合物をカーボンドットにコンジュゲートさせてもよい。
【0060】
別の例において、本技術は、カーボンドット(「C-ドット」)の形成、及び、具体的にはトランスフェリンコンジュゲートカーボンドットによる血液脳関門の通過におけるその使用を示す。出願者は、タンパク質(またはペプチド)フィブリル化に対するC-ドットの阻害効果を利用するためには、C-ドットがまずBBBを通過することによりCNS内に送達されるべきであることを特定した。C-ドットは、いくつかのCNS関連疾患に対する薬物送達及び処置における、効果的な薬物送達及び処置の可能性を示したが、治療薬剤がCNS内で病理組織に達するのを遮断する血液脳関門(BBB)を通過することにより、CNSにC-ドットを送達することが望ましい。本発明の研究以前、従来の技術は、C-ドットまたはC-ドットコンジュゲートがBBBを通過してCNSに進入することを実証できなかった。本発明の技術によって、C-ドットは、トランスフェリン及び染料標識化トランスフェリンに共有結合的にコンジュゲートされ、トランスフェリン受容体媒介送達を介してBBBを通過することが実証された。実験は、ゼブラフィッシュモデルを使用して行われ、トランスフェリンにコンジュゲートされたC-ドットはBBBを通過することによりCNSに進入し得るが、C-ドット単独では進入し得ないことが示唆された。ゼブラフィッシュ、マウス及びヒトにおけるBBBは極めて類似しており、したがって、ゼブラフィッシュにおける所見は、マウス及びヒトにも適用され得ると推定される。
【0061】
骨結合性組成物
蛍光顕微鏡を使用したin vivo骨画像化に使用される材料は、極めて希少である。蛍光顕微鏡によるin vivo画像化には、フルオロフォアが骨特異性を有し、他の細胞または器官への非特異的結合がない、または制限されていること、プローブがほぼ軟骨性の骨とほぼ石灰化した骨とを区別することができなければならないこと、標的部位におけるフルオロフォアの発光が信号を生成するのに十分強くなければならないこと、フルオロフォアが生体適合性で細胞毒性を有さない、または最小限である必要があること、ならびに標的フルオロフォアが投与後のより短い送達時間及びより長い染色時間のために同時に最適化される必要があることが必要である。
【0062】
本開示のカーボンドットは、有利にも、生きた動物内の石灰化骨に高い親和性及び特異性をもって結合することが判明している。結合は、非石灰化軟骨内要素を含む他の組織において観察されなかった発光の強い向上をもたらした。したがって、本開示のカーボンドットは、診断及び/または治療目的に使用され得る。
【0063】
カーボンドットの治療的使用は、特に限定されない。一般に、本開示のカーボンドットは、薬物を骨に送達する方法であって、本開示のカーボンドットに薬物を組み込んで、薬物が組み込まれたカーボンドットを形成することと、薬物が組み込まれたカーボンドットを対象に投与することとを含む方法において使用され得る。
【0064】
ナノ粒子上に組み込まれる薬物は、特に限定されない。カーボンドットにコンジュゲートし得る任意の薬物が、石灰化骨に送達され得る。薬物は、骨石灰化疾患(例えば、骨粗しょう症または異所性骨化)を処置するための薬物であってもよい。薬物は、骨源のエネルギー代謝疾患を処置するための薬物であってもよい。骨格は、脳、膵臓、胃腸及び肝臓と共に、エネルギー代謝(ひいては成長及び肥満)を制御する内分泌回路の一部であるため、本開示のカーボンドットは、内分泌系の骨成分を特異的に標的化することによりエネルギー代謝欠陥及び疾患を処置するための薬物を送達するために使用され得る。薬物はまた、骨及び血液がん、ならびに骨に転移する腫瘍を処置するための薬物であってもよい。骨がんは、任意の種類の骨組織において発症し得(例えば、骨肉腫及びユーイング肉腫類骨組織、軟骨組織における軟骨肉腫)、血液がんは、骨髄において発症し得(例えば多発性骨髄腫)、また骨は、転移がんの一般的な部位である(例えば転移性乳がん)。本開示に従って調製されたカーボンドットは、化学治療薬剤及び他の薬物を骨に送達してがん及び他の疾患を処置するために使用され得る。薬物はまた、これらに限定されないが、ペニシリン及びその誘導体、ならびにシプロフロキサシン及びその誘導体等の抗生物質であってもよい。骨は、免疫系が疾患または病気(例えば、糖尿病、関節炎、AIDS等)により弱まった、または骨が環境に露出した(例えば、開放骨折、または股関節、膝等の置換手術等)個人において、細菌(例えば黄色ブドウ球菌)に感染し得る。カーボンドットは、骨における感染症を特異的に処置するように使用され得る。
【0065】
理論に束縛されることを意図しないが、カルボン酸基が豊富な表面は、骨に対する高い親和性及び特異性を提供すると考えられる。さらに、理論に束縛されることを意図しないが、カーボンドットと薬物とのコンジュゲーションの後であっても、十分な量のカルボン酸基が残り、改質カーボンドットが骨に結合することが可能になると考えられる。表面が改質されていない本開示のカーボンドット、ならびにアミン、グルタミン酸、及びビオチンとコンジュゲートした本開示のカーボンドットは、すべて生きた動物内の骨に結合し、骨に特異的に結合して非石灰化骨基質(細胞外基質)等の他の組織には結合しない。他のカーボンドット表面改質が可能であり(例えばチオール)、改質カーボンドットの、アミン、グルタミン酸及びビオチンとの間で示されるものと同様の結合が生じると推定される。
【0066】
薬物は、カーボンドットの調整可能な表面官能性、及び薬物上に存在する任意の活性官能基により、カーボンドットに官能基を介して結合し得る。カルボキシル及びアミン基により示されるように、カーボンドットの表面は、親和性または特異性の損失なしに改質され得る。さらに、薬物が非改質カーボンドットの表面における官能基と化学的に適合しない官能基を有する場合、カーボンドットは、薬物の官能性に適合する異なる表面基で改質されてもよい。さらに、薬物は、非共有結合的相互作用により本開示のカーボンドット上に組み込まれてもよい。
【0067】
薬物をカーボンドットにコンジュゲートする方法は、当技術分野において周知である。例えば、古典的なEDC/NHSカップリング化学が使用されてもよい。
【0068】
本開示のカーボンドットの診断的使用は、特に限定されない。本開示のカーボンドットは、骨折及び微小骨折の画像化試薬として使用されてもよい。カーボンドットの固有蛍光特性が、石灰化骨の可視化を可能にする。カーボンドットはまた、骨への画像化造影試薬の送達ビヒクルとして使用されてもよい。カーボンドットの独特な骨親和性は、任意の知られた検出方法(例えば、X線、コンピュータトモグラフィー、MRI等)において骨構造を可視化するために使用され得る造影試薬の送達を可能にする。
【0069】
カーボンドットは、表面改質を有さなくてもよい。実施形態において、カーボンドットは、表面改質カーボンドットを含む。好適な表面改質は、中性ビオチン、正電荷アミン基、または負電荷カルボキシル基からなる群から選択され得る。表面改質は、カーボンドット上への薬物の組み込みを促進するために使用され得る。
【0070】
驚くべきことに、生きた動物内での骨結合は、カーボンドットの一般的特性ではないことが判明した。ゼブラフィッシュモデルを使用して、有利にも、本開示の方法に従い調製されたカーボンドットは、中性ビオチン、正電荷アミノ基及び負電荷カルボキシル基でさらに表面改質された本開示の方法に従い調製されたカーボンドット(図1B)と同様に、石灰化骨に結合することができることが判明した(図1A(C粉末))。本開示の方法に従って調製され表面改質されたカーボンドットは、石灰化骨に対して、非改質カーボンドットと同じ親和性を有することが判明した。さらに、本開示のカーボンドット及び非改質カーボンドットは、石灰化骨に特異的に結合し、非石灰化骨基質(細胞外基質)等の他の組織には結合しない。一方、知られている方法に従って調製された、すなわちグリセロールまたはクエン酸から調製されたカーボンドットは、カルシウム結合性カルボキシル基の量を増加させるために表面がグルタミン酸で改質された場合であっても(図1A、クエン酸+Glu)、図1A(グリセロール及びクエン酸)に示されるように石灰化骨に結合することができなかった。むしろ、知られている方法に従って調製されたカーボンドットの蛍光性は、胃腸及び解毒器官(肝臓、前腎(原始腎臓))において観察される。理論に束縛されることを意図しないが、石灰骨に対する本開示のカーボンドットの特異性及び親和性は、カーボンドットの純度、ならびにカルボキシル及びアルコール基が豊富な表面の組み合わせによるものであると考えられる。本開示のカーボンドットは、表面に豊富なカルボキシル及びアルコール基を有する(一般に負電荷である)純粋な炭素コアを有する。一方、知られている方法に従って調製されたカーボンドットは、より純度の低い炭素コア(重合及び炭化により形成された)ならびに調製方法に応じて表面上に他の異なる官能基を有する。例えば、グリセロールまたはクエン酸を有するように形成されたカーボンドットは、負電荷カルボキシル基及び正電荷アミン基を含む。
【0071】
カーボンドットは、当技術分野において知られている任意の好適な方法によって骨に投与され得る。投与の限定されない例は、血液への注射、腹腔内注射、及び創傷のカーボンドットへの直接的曝露による局所送達を含む。血流中に注射された場合、カーボンドットは、生物内を循環し、次いで骨に結合する。循環するカーボンドットは、骨に結合する際に血液から排除される。体腔内に直接注射された場合、カーボンドットは、循環系により腹膜から骨に分配される。人間に化学治療薬を送達するには、腹腔内注射が好適だろう。カーボンドットが局所的に送達される場合、カーボンドットは、露出した損傷骨に直接結合する。
【0072】
ゼブラフィッシュによる本開示のカーボンドットの保持は非常に安定であり、長期持続的であり、検出可能な毒性を有さず、投与方法に依存しなかった。
【0073】
本開示に従うカーボンドット及び方法は、以下の実施例の観点からよりよく理解され得、これらの実施例は、単に例示することが意図され、カーボンドット及び方法の範囲を限定することを多少なりとも意味しない。
【実施例0074】
実施例1:カーボンドットの調製
本開示のカーボンドットを以下のように調製した。硫酸(9mL)及び硝酸(3mL)をアリコートとしてフラスコ内の250mgの炭素ナノ粉末または炭素粉末に添加し、炭素粉末混合物を形成した。混合物を、砂浴内で約110℃で15時間還流加熱した。次いで、還流炭素粉末混合物を冷却した。フラスコが氷浴内にある間、過飽和水酸化ナトリウム溶液を添加して、冷却された還流炭素粉末混合物を中和した。混合物を濾過して、未反応炭素粉末を除去した。次いで、中和反応により形成された塩を、以下のように除去した。硫酸ナトリウム種晶を混合物に添加し、混合物を氷浴内で冷却して、塩の析出/結晶化を促進した。内容物を濾過して形成された固体塩を除去し、可溶化カーボンドットを含む暗褐色の上澄み溶液を得た。必要に応じて析出/結晶化/濾過を繰り返し、塩の全てを除去した。可溶化カーボンドットを含む上澄み溶液をビーカーに移し、周囲圧力下で75~85℃で蒸発させることによりその体積を約25mLに低減させた。液体/液体抽出を使用して、可溶化カーボンドット溶液から不純物を抽出した。特に、クロロホルム(15mL)を添加して、有機相中に不純物を抽出した。水相を回収し、抽出手順を繰り返した。次いで、溶液を3000rpmで30分間遠心分離し、いかなる析出物も除去した。溶液を分画分子量(MWCO)3500透析袋に移し、4Lの脱イオン水で5日間透析し、脱イオン水は4~10時間毎に交換した。約25mLが残るまで、得られた溶液を75~85℃に加熱することにより濃縮した。最後に、rotovap(または同等のもの)を使用して残りの水を蒸発させ、水溶性カーボンドットとして27.4mgの固体黒色粉末を得た。
【0075】
調製されたカーボンドットを、Shimadzu UV-2600分光器または同等のものを使用して、紫外-可視分光法(US-Vis)により1cmセル内で特性決定した。カーボンドットの固体粉末を使用して、Perkin Elmer Frontierまたは同等のものでフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを記録した。Horiba Jobin Yvon Fluorolog-3または同等のものにより、励起及び発光の両方に対して5nmのスリット幅を用いてカーボンドットの蛍光発光スペクトルを水溶液中で測定した。Perkin-Elmer PHI 560 ESCAシステムまたは同等のものを使用し、225W及び12.5KVで動作する複光路方式円筒鏡型分析器により、Mg Kαアノード及びhυ=1253.6eVの光子エネルギーを用いて、X線光電子分光法(XPS)を行った。炭素1s軌道及び酸素1軌道の内殻準位を走査し、それぞれの原子感度因子に従って強度を正規化した。Agilent 5420原子間力顕微鏡または同等のものでタッピングモードを使用して、及びJEOL 1200X TEMで、カーボンドットの顕微鏡画像を得た。
【0076】
幅広い強いUV-Vis吸収ピークが、200~400nmの範囲内に見られた。カーボンドットは、励起波長に依存的な発光を示した。カーボンドットの最大発光は、540nmで励起された場合、約580nmであった。発光ピークは、360nmで励起されると約500nmにシフトした。FTIR分析は、約3380(OH)、1715(C=O)、1582(C=C)、1236(C-O-C)及び1085cm-1(C-O)にピークを示した。これらの結合は、XPSによりさらに確認され、カーボンドット表面上の54.6%の炭素、43.8%の酸素、及び他の微量元素が示された。289.7 eVでのXPSピークは、カルボン酸基に起因し、これは23%の酸素信号を含んでいた。285.9eVのピークは、C-C/C=C結合に起因し、532.7eVのピークは、水からのヒドロキシル酸素に起因し、534.0eVのピークは、カルボニル酸素に起因した。TEM画像は、1.5から6nmの間に分布し、平均4nmである直径を有する球状カーボンドットを示した。
【0077】
したがって、実施例1は、本開示によるカーボンドットの調製及び特性決定を示す。
【0078】
比較例2:カーボンドットの調製の試行
実施例1に記載のようにカーボンドットを調製したが、但し、1つの調製においては、硫酸及び硝酸の1:1(v/v)混合物を3:1(v/v)混合物の代わりに使用し、第2の調製においては、硝酸のみを使用した。カーボンドットは、硫酸及び硝酸の1:1混合物を使用した調製、または硝酸のみを使用した調製のいずれにおいても形成しなかった。したがって、比較例2は、本開示のカーボンドットが硫酸対硝酸の比が1:1(v/v)以下である場合には得られないことを実証している。
【0079】
実施例3:インスリンフィブリル化に対するカーボンドットの効果
1mg/mLのヒトインスリン(約5.8kDa分子量)原液を、0.1M塩化ナトリウム(NaCl)を含む塩酸水溶液(pH1.6)中で調製した。0.2μm細孔サイズフィルタを通して溶液を濾過した。実施例1に従って調製されたカーボンドットを、1mg/mLの濃度で水に溶解した。インスリン原液をカーボンドット溶液と混合して、pH 1.6の0.1M NaCl溶液を使用して0、0.2、2、または10μg/mLのカーボンドットを含む0.2mg/mLのインスリン濃度を有するいくつかの試料を調製した。試料を65℃でインキュベートした。30分毎に試料のアリコートを採取し、チオフラビンT(ThT、pH 1.6で40μM、0.1M NaCl)で0.1mg/mLのタンパク質及び20μMのThTまで希釈した。Fluorolog-3蛍光光度計または同等のものにより、1cm石英キュベット内で、440nmの励起で、5nmの励起及び発光スリット幅でThT蛍光を記録した。JASCO J-810分光偏光計または同等のものを使用して、円偏光二色性(CD)スペクトルを用いてヒトインスリンの構造変化を特性決定した。ヒトインスリンまたはインスリン/カーボンドット混合物溶液から異なるインキュベーション時間で採取した希釈アリコート(0.1mg/mLのインスリンまで)を使用して、スペクトルを測定した。
【0080】
ThTは、フィブリル特異的染料である。したがって、インスリンフィブリル化は、ThT蛍光により特性決定され得、蛍光の増加は、フィブリル形成の増加を示す。誘導期、伸長期、及び飽和期の、インスリンフィブリル化の3つの段階が観察される。誘導期は、蛍光が観察されない(すなわち、該当する場合には形成するTht-フィブリルの量が検出限界未満である)期間である。伸長期は、フィブリル化が生じるにつれて蛍光の増加が観察される期間である。飽和期は、形成されるTht-フィブリルの量がが蛍光信号を飽和状態にするにつれて検出される蛍光の量が横ばい状態になる期間である。
【0081】
カーボンドットが存在しない場合、0.2mg/mLのインスリンは約2.5時間の誘導期、続いて1時間の伸長期を示し、4時間のインキュベーション後に飽和に達した。0.2μg/mLのカーボンドットがヒトインスリンと共に存在する場合、ヒトインスリンの誘導期時間は3.5時間に増加し、カーボンドットが存在しないインスリン試料よりも約1時間長かった。カーボンドットの濃度が2及び10μg/mLに増加すると、ヒトインスリンの誘導期は、それぞれ5.5及び12時間まで大幅に増加した。CDの結果は、観察された蛍光と一致していた。時間0におけるヒトインスリン単独は、主にα-螺旋構造を示し、5時間のインキュベーション後には成熟インスリンフィブリルのβ-シート構造を示し、時間0と時間5との間の構造変化が示された(例えば、ピークの収縮は、α-螺旋構造を示し、ピークの増加はβ-シート構造を示す)。2及び10μg/mLのカーボンドットと共にインキュベートされたインスリンに対して、誘導期(すなわち、α-螺旋構造が観察された時間)の大幅な増加が観察された。
【0082】
したがって、実施例3は、カーボンドットがヒトインスリンフィブリル化を阻害すること、及びヒトインスリンフィブリル化の阻害がカーボンドット濃度依存的であることを実証している。実施例3の結果は、本開示のカーボンドットがヒトインスリンの構造を安定化させること、ならびに、インスリンの保存、送達、及び投与中の構造変化に関連した製薬産業における問題に対応し得ることをさらに示唆している。
【0083】
実施例4:誘導期におけるインスリンフィブリル化の阻害
実施例3のようにインスリン原液を調製した。インスリン原液を使用して、0.2mg/mLのインスリン濃度を有するいくつかの試料を調製した。誘導期におけるインスリンフィブリル化に対する10μg/mLのカーボンドット(実施例1に従って調製される)の効果の阻害を決定するために、インスリン試料を65℃で0、1、及び2時間インキュベートした後に、それぞれカーボンドットを添加した。試料のアリコートを採取し、実施例3に記載のものと同じ条件下で、ThT蛍光によりチェックした。
【0084】
カーボンドットが存在しない場合、ヒトインスリンの誘導期は、約2.5時間であった。10μg/mLのカーボンドットが時間0において添加された場合、誘導時間は約12時間に増加した。1時間及び2時間のインキュベーション後に同じ量のカーボンドットがインスリンに添加された場合、誘導時間は、それぞれ5.5時間及び3.5時間に増加するのみであった。
【0085】
したがって、実施例4は、本開示のカーボンドットが、核形成のより早期の段階で添加された場合、ヒトインスリンフィブリル化に対するより大きな阻害効果を有することを示している。理論に束縛されることを意図しないが、阻害効果は、核形成臨界濃度に達する前のカーボンドットとインスリン種(モノマー及びオリゴマー)との間の相互作用に起因し得ると考えられる。核形成臨界濃度に達すると、カーボンドットはフィブリル化の動力学を変化させない。理論に束縛されることを意図しないが、カーボンドットとヒトインスリン種との相互作用は、カーボンドットの複雑な表面の性質に起因する、水素結合、疎水性相互作用、及びファンデルワールス相互作用等の弱い相互作用によるものである。これらの相互作用は、カーボンドットの表面上にインスリン種を吸着させ、フィブリル化の初期段階におけるヒトインスリンの自己凝集及び核形成を抑制するのに十分強くてもよい。静電相互作用は、あまり寄与しないと推定される。pH1.6におけるカルボン酸基のプロトン化に起因して、カーボンドットは、その表面上にあまり負電荷を有さない。
【0086】
実施例5:血液脳関門透過性
血液脳関門のカーボンドット-ヒトトランスフェリンコンジュゲートに対する透過性を試験するために、ゼブラフィッシュモデルを使用した。ゼブラフィッシュは、比較的複雑な脊椎動物種であり、ヒトに対する高度の生理学的及び遺伝的相同性を有する。ゼブラフィッシュはまた、ヒトと同様に、全ての主要な神経伝達物質、ホルモン、及びトランスフェリンを含む受容体を有する。ゼブラフィッシュとヒトとの間の脊髄発達及び機能における解剖学的及び生理学的保存は、実証及び証明されている。したがって、ゼブラフィッシュモデルは、in vivoでの新規治療薬剤の試験及び開発を可能にする。ゼブラフィッシュモデルの別の利点は、体の透明性であり、これによって非侵襲的画像化技術を使用した薬理学的処置の追跡が可能となる。成熟BBBを有する6 d.p.f.の幼生ゼブラフィッシュを、in vivoモデルとして選択した。
【0087】
実施例1に従って調製されたカーボンドットを、トランスフェリン、染料標識化トランスフェリン、またはフルオレセイン(5-(アミノメチル) フルオレセイン)の1つとコンジュゲートさせた。トランスフェリンを標識化するために使用された染料は、CF(商標)594 Dye(Biotium、Hayward、CA)であった。GE Healthcare Sephacryl S-300(Uppsala、Sweden)または同等のものからの充填されたサイズ排除クロマトグラフィーカラムを使用して、コンジュゲートをサイズ排除クロマトグラフィーにより精製した。UV-Vis吸収を使用して、トランスフェリン及び染料-トランスフェリンのカーボンドットへのコンジュゲーションを確認した。トランスフェリン-カーボンドットは、約260nmに吸収を有し、染料-トランスフェリン-カーボンドットは、約594nmに吸収を有する。円偏光二色性分光法を使用して、コンジュゲーションがトランスフェリンまたは染料-トランスフェリンに構造変化をもたらしたか否かを決定した。元のトランスフェリン、染料-トランスフェリン、トランスフェリン-カーボンドット及び染料-トランスフェリン-カーボンドットの間には認められ得る差は観察されなかったが、これは、トランスフェリン及び染料-トランスフェリンが、カーボンドットとのコンジュゲーション後にまだ元の構造を維持していたことを示している。
【0088】
トランスフェリンは、カーボンドットに共有結合的にコンジュゲートして、カーボンドットがトランスフェリン受容体媒介エンドサイトーシスにより血液脳関門を通過するのを可能にするために選択された。トランスフェリン受容体はBBB上で過剰発現し、幼生ゼブラフィッシュにおけるBBB上のトランスフェリン受容体の発現は6日齢において活性であると考えられる。カーボンドットの蛍光強度がCNSにおいて観察するには弱すぎる場合に、カーボンドットの蛍光信号を増加させるために、フルオレセインがコンジュゲートしたカーボンドットを使用した。
【0089】
カーボンドットまたはコンジュゲートを、ゼブラフィッシュの心臓に経脈管的に注射した。カーボンドットまたはコンジュゲートが血液脳関門を通過しCNSに進入するかどうかを検出するために、共焦点蛍光画像を使用した。注射なしの対照ゼブラフィッシュの画像は、CNSゾーンが本来蛍光性ではないことを示した。
【0090】
非改質カーボンドットは、対照ゼブラフィッシュにより示された蛍光性からの明確な差(またはその欠如)を示さなかった。フルオレセインがコンジュゲートしたカーボンドットは、体内では明るい蛍光性を示したが、CNS内では蛍光性は観察されなかった。トランスフェリン-カーボンドットは、カーボンドットのみの注射と同じ条件下で注射したが、カーボンドットに比べて蛍光性の差は観察されなかった。染料-トランスフェリン(蛍光染料で標識化されたトランスフェリン)カーボンドットコンジュゲートは、同じ手順に従ってゼブラフィッシュの心臓に注射した。CNS及び周囲の神経細胞体において蛍光が観察された。
【0091】
したがって、実施例5は、染料-トランスフェリンカーボンドットのコンジュゲーション系が、血液脳関門を透過し、成功裏にCNSに進入することができたことを実証している。トランスフェリン-カーボンドットコンジュゲートもまた、BBBを透過してCNSに進入することができたと考えられるが、カーボンドットの固有蛍光性は観察するには弱すぎた。
【0092】
実施例6:カーボンドットの骨結合
実施例1に従ってカーボンドットを調製した(C-ドットで指定される)。カーボンドットのいくつかの表面を、中性ビオチン(C粉末-ビオチンで指定される)、正電荷アミン基を提供するためのエチレンジアミン(C粉末-アミンで指定される)、または負電荷カルボキシル基を生成するためのグルタミン酸(C粉末-Gluで指定される)の1つでさらに改質した。古典的なEDC/NHSカップリング反応を使用して改質を行った。具体的には、カーボンドットの表面カルボン酸基をEDC及びNHSにより順次活性化し、次いで活性化されたカーボンドットをエチレンジアミン及びグルタミン酸上のアミノ部分とコンジュゲートした。そのような方法は、当技術分野において周知である。
【0093】
また、「Functionalized carbon dots enable simultaneous bone crack detection and drug deposition.」 J. Mater. Chem. B 2014, 2, 8626-8632及び「In vitro detection of calcium in bone by modified carbon dots」, Analyst 2013, 138, 7107-7111において説明されているような周知の方法に従って、カーボンドットをグリセロール及びクエン酸から調製した(それぞれグリセロール及びクエン酸で指定される)。クエン酸カーボンドットの試料を、グルタミン酸で表面改質した(クエン酸+Gluで指定される)。
【0094】
カーボンドットを生きた動物の石灰化骨内に導入した。中性リン酸干渉生理食塩水中に5μg/μLのカーボンドットを含有する5ナノリットルの溶液を、6日齢の幼生ゼブラフィッシュの腹腔内に注射した。注射から30分後、蛍光顕微鏡下で胚を可視化した。カーボンドットの固有蛍光特性を使用して、カーボンドットの検出を行った。明視野透過光及び蛍光(488ナノメートル)下、複合顕微鏡で100倍の倍率で画像を撮影した。
【0095】
図1に示されるように、本開示の方法に従って調製された全てのカーボンドット(C粉末、C粉末-ビオチン、C粉末-アミン、及びC粉末-Glu)が骨結合を示し、したがって石灰化骨に対する親和性を示した。特に、画像は、脊髄内(平行垂直線)及び頭蓋骨内の脊髄前方における石灰化骨構造、えら蓋ならびに擬鎖骨において蛍光を示している。さらに、当技術分野において知られている方法に従って調製されたカーボンドット(グリセロール、クエン酸、またはクエン酸-Glu)はいずれも、骨結合を示さなかった。特に、画像は、解毒器官(肝臓、胃腸、前腎)においてのみ蛍光性を示している。カーボンドットの骨への結合は、カーボンドット画像の蛍光パターンを、石灰化骨にのみ結合することが知られている染料(例えばAlizarin Red)から作成された画像と比較することにより確認された。さらに、カーボンドットは、中にカルシウムを有さない組織には結合しないことが判明した。したがって、実施例6は、本開示の方法に従って調製されたカーボンドットが、他の方法により調製されたカーボンドットにより示されない石灰化骨に対する特異的親和性を有することを実証している。
【0096】
実施例7:カーボンドットの細胞毒性
成熟した生殖腺を有する成体ウニから配偶子を採取した。低温濾過された人工セーターにより新鮮な卵を3回洗浄し、精子と混合して受精率を検査した。95%超の受精率を有する卵のみを、毒性試験に使用した。2mLの海水中の100の健康な受精卵を、新しい清浄な24ウェル細胞培養プレートのそれぞれのウェル内に堆積させた。実施例1に従って0、5、10、20、50、または100μg/mLの濃度で調製されたカーボンドットをウェルに添加した。受精卵及びカーボンドットのプレートを、15℃で16時間、間充組織胞胚期胚に達するまでインキュベートした。次いで、3つの個々の雌雄対を使用した3つの生物学的複製を採用した。16時間のインキュベーション後の胚の形態を分析することにより、カーボンドットの毒性を決定した。
【0097】
ウニ胚は、有毒化学物質に対して極めて敏感である。結果は、カーボンドットがウニ受精卵及び胚に対して低い細胞毒性を有することを示した。10μg/mLのカーボンドットの存在下では、16時間後に95%超のウニ胚が正常な形態を保持した。高濃度のカーボンドット(すなわち、50μg/mLのカーボンドット)であっても、90%超の胚が正常のままであり、細胞に対するカーボンドットの低い細胞毒性を示した。カーボンドットは、50μg/mLの濃度において析出物を形成することなく海水中で安定であり、100μg/mLの濃度では、16時間のインキュベーション後、析出物は肉眼では観察されなかったが、光学顕微鏡を用いると観察することができた。
【0098】
したがって、実施例7は、本開示によるカーボンドットが、海水中で低い細胞毒性及び高い安定性を示すことを実証している。
【0099】
前述の説明は、理解の明確さのためだけに示され、本発明の範囲内の変更形態は当業者には明白であり得るため、不必要な制限が前述の説明から理解されるべきではない。
【0100】
プロセスが特定の実施形態を参照して記載されているが、当業者には、その方法に関連する行為を行う他の方法が使用されてもよいことが容易に理解される。例えば、様々なステップの順序は、別段記載がない限り、その方法の範囲または趣旨から逸脱することなく変更されてもよい。さらに、個々のステップの一部は、組み合わせられ得るか、省略され得るか、または追加のステップへとさらに分割され得る。
【0101】
本明細書に引用される全ての特許、文献、及び参考文献は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。本開示と組み込まれている特許、文献、及び参考文献との間に矛盾がある場合、本開示が優先されるべきである。
図1
【手続補正書】
【提出日】2022-09-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンドット-有機化合物標的コンジュゲートおよび溶媒を含み、
カーボンドット-有機化合物標的コンジュゲートは、カーボンドットおよび有機化合物を含み、
有機化合物は、トランスフェリン受容体、インスリン受容体、マンノース6-リン酸受容体、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1受容体、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質2受容体、レプチン受容体、チアミン受容体、グルタチオン受容体、オピオイド受容体、p75ニューロトロフィン受容体、GT1bポリシアロガングリオシド、GPIアンカー型タンパク質受容体、ジフテリア毒素受容体、およびこれらの組み合わせから選択される血液脳関門における受容体に特異的なリガンドを含む、血液脳関門透過溶液。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0101
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0101】
本明細書に引用される全ての特許、文献、及び参考文献は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。本開示と組み込まれている特許、文献、及び参考文献との間に矛盾がある場合、本開示が優先されるべきである。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
カーボンドットを形成する方法であって、
炭素粉末を硫酸及び硝酸と混合して、炭素粉末混合物を形成することと;
前記炭素粉末混合物を還流下で加熱して還流炭素粉末混合物を形成し、次いで前記還流炭素粉末混合物を冷却することと;
前記還流炭素粉末混合物を中和して、可溶化カーボンドットを含む中和炭素粉末混合物を形成することと;
前記可溶化カーボンドットを前記中和炭素粉末混合物から単離して、カーボンドット溶液を形成することと;
前記カーボンドット溶液を透析することと;
前記溶液の溶媒を前記カーボンドット溶液から分離して、固体カーボンドットを得ることとを含む方法。
(態様2)
前記カーボンドットが、10nm未満のサイズの直径、好ましくは6nm以下の直径を有する、態様1に記載の方法。
(態様3)
硝酸に対する硫酸の比が、1超:1である、態様1または態様2に記載の方法。
(態様4)
硝酸に対する硫酸の比が、約1.1:1から約10:1の範囲内である、態様1から3のいずれか一つに記載の方法。
(態様5)
前記還流炭素粉末混合物を中和することが、前記混合物に塩基を添加して、可溶化カーボンドットならびに硫酸塩及び/または硝酸塩の少なくとも1つを含む前記中和炭素粉末混合物を形成することを含む、態様1から4のいずれか一つに記載の方法。
(態様6)
前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、態様5に記載の方法。
(態様7)
前記可溶性カーボンドットを前記中和炭素粉末混合物から単離することが、硫酸塩及び硝酸塩の少なくとも1つを結晶化させ、前記中和炭素粉末混合物から前記塩を除去することを含む、態様5または態様6に記載の方法。
(態様8)
前記可溶性カーボンドットを前記中和炭素粉末混合物から単離することが、前記中和炭素粉末混合物から不純物を除去することを含む、態様1から7のいずれか一つに記載の方法。
(態様9)
前記分離することが、前記カーボンドット溶液を濃縮し、残留溶媒を蒸発させることを含む、態様1から8のいずれか一つに記載の方法。
(態様10)
インスリンフィブリル化を阻害する方法であって、インスリンを溶液中で態様1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して形成された前記カーボンドットと組み合わせて、濃縮溶液を形成することと、前記濃縮された溶液をヒト対象に挿入して、前記ヒト対象を処置することとを含む方法。
(態様11)
前記濃縮溶液中のカーボンドットの濃度が、2μg/mL以上である、態様10に記載の方法。
(態様12)
前記濃縮溶液中のカーボンドットの前記濃度が、10μg/mL以上である、態様10または態様11に記載の方法。
(態様13)
血液脳関門透過溶液を形成する方法であって、
カーボンドットを有機化合物標的に共有結合的にコンジュゲートさせて、カーボンドット-有機化合物標的コンジュゲートを形成することと、前記コンジュゲートを溶媒と混合して、前記血液脳関門透過溶液を形成することとを含み、前記カーボンドットは、態様1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して形成される方法。
(態様14)
前記有機化合物標的が、トランスフェリン、染料標識化トランスフェリン、フルオレセイン、またはそれらの任意の組み合わせを含む、態様13に記載の方法。
(態様15)
前記炭素粉末混合物を還流下で加熱することが、前記炭素粉末混合物を砂浴内で110℃に15時間加熱することを含む、態様1から14のいずれか一つに記載の方法。
(態様16)
前記還流炭素粉末混合物を中和することが、水酸化ナトリウムの過飽和溶液を添加することを含む、態様1から15のいずれか一つに記載の方法。
(態様17)
前記可溶化カーボンドットを前記中和炭素粉末混合物から単離することが、前記中和炭素粉末混合物を濾過して、未反応炭素粉末を除去することを含む、態様1から16のいずれか一つに記載の方法。
(態様18)
前記可溶カーボンドットを前記中和炭素粉末混合物から単離することが、前記硫酸塩及び/または硝酸塩の少なくとも1つを結晶化させる前に、前記中和炭素粉末混合物を濾過して、未反応炭素粉末を除去することを含む、態様7に記載の方法。
(態様19)
前記塩の結晶化が、硫酸ナトリウム結晶を前記中和炭素粉末混合物に添加して、前記塩の結晶化を開始させることを含む、態様7または態様18に記載の方法。
(態様20)
前記塩が、濾過により除去される、態様7、18、または19のいずれか一つに記載の方法。
(態様21)
前記塩の結晶化が、約75℃から85℃の範囲内の温度で前記溶媒の少なくとも一部を蒸発させることにより、前記中和炭素粉末混合物の前記溶媒の体積を低減し、濃縮溶液を形成することと、前記濃縮溶液を冷却して、固体塩結晶及びカーボンドット溶液を含む混合物を提供することとを含む、態様7または18から20のいずれか一つに記載の方法。
(態様22)
前記不純物が、有機溶媒による抽出により除去される、態様8に記載の方法。
(態様23)
透析の前に、前記カーボンドット溶液を遠心分離することをさらに含む、態様1から22のいずれか一つに記載の方法。
(態様24)
前記カーボンドット溶液が、5日間約4から10時間のインターバルで交換される4Lの脱イオン水で透析される、態様1から23のいずれか一つに記載の方法。
(態様25)
前記濃縮することが、前記カーボンドット溶液を約75~85℃の範囲内の温度に加熱することを含む、態様9に記載の方法。
(態様26)
前記炭素粉末が、炭素ナノ粉末を含む、態様1から25のいずれか一つに記載の方法。
(態様27)
薬物を骨に送達する方法であって、
態様1から9または15から26のいずれか一つに従って調製されたカーボンドットに薬物を組み込んで、前記薬物が組み込まれたカーボンドットを形成することと、前記薬物が組み込まれた前記カーボンドットを対象に投与することとを含む方法。
(態様28)
前記カーボンドットが、表面改質カーボンドットではない、態様27に記載の方法。
(態様29)
前記カーボンドットが、表面改質カーボンドットを含む、態様27に記載の方法。
(態様30)
前記表面改質が、中性ビオチン、正電荷アミン基、負電荷カルボキシル基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、態様29に記載の方法。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンドット-有機化合物標的コンジュゲートおよび溶媒を含み、
カーボンドット-有機化合物標的コンジュゲートは、カーボンドットおよび有機化合物を含み、
有機化合物は、トランスフェリン受容体、インスリン受容体、マンノース6-リン酸受容体、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1受容体、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質2受容体、レプチン受容体、チアミン受容体、グルタチオン受容体、オピオイド受容体、p75ニューロトロフィン受容体、GT1bポリシアロガングリオシド、GPIアンカー型タンパク質受容体、ジフテリア毒素受容体、およびこれらの組み合わせから選択される血液脳関門における受容体に特異的なリガンドを含む、血液脳関門透過溶液。
【請求項2】
カーボンドットは、10nm未満の平均粒子直径を有する、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
カーボンドットは表面を有し、表面はカルボキシル基を含む、請求項1または2に記載の溶液。
【請求項4】
カーボンドットおよび有機化合物は、共有結合的な、または吸着、静電相互作用およびπ-π相互作用から選択される非共有結合的な相互作用を介してコンジュゲートされる、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項5】
血液脳関門における受容体に特異的なリガンドは、トランスフェリン、インスリン、ヒト黒色腫抗原p97、低密度リポタンパク質、受容体関連タンパク質、アンジオペプス、レプチン、チアミン、グルタチオン、合成オピオイドペプチド、狂犬病ウイルス糖タンパク質、破傷風毒素、テン-イレブン転位メチルシトシンジオキシゲナーゼ1、G23ペプチド、TATペプチド、ジフテリア毒素の非毒性突然変異、およびこれらの組合せを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項6】
血液脳関門における受容体がトランスフェリン受容体を含み、血液脳関門における受容体に特異的なリガンドがトランスフェリンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項7】
有機化合物が、カーボンドット-有機化合物コンジュゲートの画像化を向上させるために標識化されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項8】
薬物が組み込まれたカーボンドットを含み、
カーボンドットは表面を有し、表面はカルボキシル基を含み、カーボンドットはグルタミン酸で改質されていない、薬物を骨に送達するための組成物。
【請求項9】
薬物が、骨石灰化疾患、骨源のエネルギー代謝疾患、骨がん、血液がん、またはこれらの組み合わせを治療するための薬物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
薬物は、化学治療薬剤、抗生物質、抗菌剤、またはこれらの組み合わせを含む、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
カーボンドットは、中性ビオチン、正電荷アミン基、またはこれらの組み合わせで表面改質されている、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
骨折、微小骨折、または骨構造を画像化するための薬剤の製造におけるカーボンドットの使用方法。
【請求項13】
カーボンドットは、画像化造影試薬を含む、請求項12に記載の使用方法。
【請求項14】
カーボンドットは、
炭素粉末を、硝酸に対する硫酸の体積比が1.1:1から10:1の範囲内の硫酸及び硝酸と混合して、炭素粉末混合物を形成することと;
炭素粉末混合物を還流下で加熱して還流炭素粉末混合物を形成し、次いで還流炭素粉末混合物を冷却することと;
還流炭素粉末混合物を中和して、可溶化カーボンドットを含む中和炭素粉末混合物を形成することと;
可溶化カーボンドットを中和炭素粉末混合物から単離して、カーボンドット溶液を形成することと;
カーボンドット溶液を透析することと;
溶液の溶媒をカーボンドット溶液から分離して、固体カーボンドットを得ることと
によって調製され、
カーボンドットは、中性ビオチン、正電荷アミン基、負電荷カルボキシル基、またはこれらの組み合わせで表面改質されたカーボンドットではない、請求項12または13に記載の使用方法。
【外国語明細書】