(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166290
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】試料観察装置
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20221025BHJP
G02B 3/06 20060101ALI20221025BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20221025BHJP
G02B 21/36 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B3/06
G02B21/06
G02B21/36
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133252
(22)【出願日】2022-08-24
(62)【分割の表示】P 2018074871の分割
【原出願日】2018-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】小林 正典
(72)【発明者】
【氏名】山本 諭
(57)【要約】
【課題】観察光の非点収差を低減できる試料観察装装置を提供する。
【解決手段】試料観察装置1は、試料Sに面状光L2を照射する照射光学系3と、面状光L2の照射面Rを通過するように試料Sを一方向に走査する走査部4と、照射面Rに対して傾斜する観察軸P2を有し、面状光L2の照射によって試料Sで発生した観察光L3を結像する結像光学系5と、結像光学系5によって結像された観察光L3の光像に対応する画像データ31を取得する画像取得部6と、画像取得部6によって取得された画像データ31に基づいて試料Sの観察画像データ32を生成する画像生成部8と、を備え、結像光学系5は、観察光L3の一方軸の光線L3aを曲げる一方で、一方軸に直交する他方軸の光線L3bを曲げない非軸対称の光学素子を有している。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に面状光を照射する照射光学系と、
前記面状光の照射面を通過するように、前記面状光の光軸と直交する平面内の一方向に前記試料を走査する走査部と、
前記照射面に対して傾斜する観察軸を有し、前記面状光の照射によって前記試料で発生した観察光を結像する結像光学系と、
前記結像光学系によって結像された前記観察光の光像に対応する画像データを取得する画像取得部と、
前記画像取得部によって取得された前記画像データに基づいて前記試料の観察画像データを生成する画像生成部と、を備え、
前記結像光学系は、前記観察光の一方軸の光線を曲げる一方で、前記一方軸に直交する他方軸の光線を曲げない非軸対称の光学素子を有している試料観察装置。
【請求項2】
前記光学素子は、ウェッジプリズムである請求項1記載の試料観察装置。
【請求項3】
前記光学素子は、シリンドリカルレンズである請求項1記載の試料観察装置。
【請求項4】
前記結像光学系は、対物レンズを含み、
前記光学素子は、前記照射面と前記対物レンズとの間に配置されている請求項1~3のいずれか一項記載の試料観察装置。
【請求項5】
前記結像光学系は、対物レンズを含み、
前記光学素子は、前記対物レンズと前記画像取得部との間に配置されている請求項1~3のいずれか一項記載の試料観察装置。
【請求項6】
前記結像光学系は、対物レンズ及び結像レンズを含み、
前記光学素子は、前記結像レンズと前記画像取得部との間に配置されている請求項1~3のいずれか一項記載の試料観察装置。
【請求項7】
前記結像光学系は、対物レンズ及び結像レンズを含み、
前記光学素子は、前記対物レンズと前記結像レンズとの間に配置されている請求項1~3のいずれか一項記載の試料観察装置。
【請求項8】
前記面状光の照射面に対する前記結像光学系の前記観察軸の傾斜角度は、10°~80°となっている請求項1~7のいずれか一項記載の試料観察装置。
【請求項9】
前記面状光の照射面に対する前記結像光学系の前記観察軸の傾斜角度は、20°~70°となっている請求項1~8のいずれか一項記載の試料観察装置。
【請求項10】
前記面状光の照射面に対する前記結像光学系の前記観察軸の傾斜角度は、30°~65°となっている請求項1~9のいずれか一項記載の試料観察装置。
【請求項11】
前記観察画像データを解析し、解析結果を生成する解析部を更に備える請求項1~10のいずれか一項記載の試料観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞などの3次元立体構造を持つ試料の内部を観察する手法の一つとして、SPIM(Selective Plane Illumination Microscopy)が知られている。例えば特許文献1に記載の断層像観察装置は、SPIMの基本的な原理を開示したものであり、面状光を試料に照射し、試料の内部で発生した蛍光又は散乱光を結像面に結像させて試料内部の観察画像データを取得する。
【0003】
面状光を用いた他の試料観察装置としては、例えば特許文献2に記載のSPIM顕微鏡が挙げられる。この従来のSPIM顕微鏡では、試料の配置面に対して一定の傾斜角をもって面状光を照射し、面状光の照射面に対して直交する観察軸を有する観察光学系によって試料からの観察光を撮像する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-180241号公報
【特許文献2】特開2014-202967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献2のように、照射光学系と観察光学系とをそれぞれ試料の配置面に対して傾斜させる構成では、観察光の非点収差の影響が考えられる。この特許文献2では、非点収差の影響を低減するため、水と同程度の屈折率を有する試料配置部を用い、液浸対物レンズで試料の観察を行うことを提案している。しかしながら、このような構成では、試料を走査しながら観察を実施することが困難となり、観察画像データを得るまでのスループットが低下してしまうおそれがある。
【0006】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、観察光の非点収差を低減できる試料観察装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る試料観察装置は、試料に面状光を照射する照射光学系と、面状光の照射面を通過するように試料を一方向に走査する走査部と、照射面に対して傾斜する観察軸を有し、面状光の照射によって試料で発生した観察光を結像する結像光学系と、結像光学系によって結像された観察光の光像に対応する画像データを取得する画像取得部と、画像取得部によって取得された画像データに基づいて試料の観察画像データを生成する画像生成部と、を備え、結像光学系は、観察光の一方軸の光線を曲げる一方で他方軸の光線を曲げない非軸対称の光学素子を有している。
【0008】
この試料観察装置では、結像光学系が観察光の一方軸の光線を曲げる一方で他方軸の光線を曲げない非軸対称の光学素子を有している。これにより、面状光の照射面に対して結像光学系の観察軸が傾斜する場合であっても、結像光学系における観察光の非点収差を低減することができ、観察画像データの画質を向上できる。
【0009】
光学素子は、ウェッジプリズムであってもよい。この場合、非軸対称の光学素子を好適に構成できる。
【0010】
光学素子は、シリンドリカルレンズであってもよい。この場合、非軸対称の光学素子を好適に構成できる。
【0011】
結像光学系は、対物レンズを含み、光学素子は、照射面と対物レンズとの間に配置されていてもよい。照射面と対物レンズとの間に光学素子を配置することにより、上述した作用効果が好適に奏される。
【0012】
結像光学系は、対物レンズを含み、光学素子は、対物レンズと画像取得部との間に配置されていてもよい。この位置に光学素子を配置する場合、光学素子が他の構成要素と干渉しにくくなり、結像光学系を容易に構成することができる。
【0013】
結像光学系は、対物レンズ及び結像レンズを含み、光学素子は、結像レンズと画像取得部との間に配置されていてもよい。この位置に光学素子を配置する場合、光学素子が他の構成要素と干渉しにくくなり、結像光学系を容易に構成することができる。
【0014】
結像光学系は、対物レンズ及び結像レンズを含み、光学素子は、対物レンズと結像レンズとの間に配置されていてもよい。対物レンズ及び結像レンズによって無限遠補正光学系を構成する場合、対物レンズと結像レンズとの間に光学素子を配置することによって、上述と同様の作用効果が好適に奏される。
【0015】
面状光の照射面に対する結像光学系の観察軸の傾斜角度は、10°~80°となっていてもよい。この範囲では、観察画像の解像度を十分に確保できる。
【0016】
面状光の照射面に対する結像光学系の観察軸の傾斜角度は、20°~70°となっていてもよい。この範囲では、観察画像の解像度を一層十分に確保できる。また、観察軸の角度変化量に対する視野の変化を抑えることができ、視野の安定度を確保できる。
【0017】
面状光の照射面に対する結像光学系の観察軸の傾斜角度は、30°~65°となっていてもよい。この範囲では、観察画像の解像度及び視野の安定度を一層好適に確保できる。
【0018】
試料観察装置は、観察画像データを解析し、解析結果を生成する解析部を更に備えていてもよい。画像生成部によって生成された観察画像データを解析部で解析するため、解析のスループットも向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、観察光の非点収差を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】試料観察装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【
図3】画像生成部による観察画像データの生成の一例を示す図である。
【
図4】画像取得部による画像取得の様子を示す図である。
【
図5】試料観察装置における視野の算出例を示す図である。
【
図6】観察軸の傾斜角度と解像度との関係を示す図である。
【
図7】観察軸の傾斜角度と視野の安定度との関係を示す図である。
【
図8】観察軸の傾斜角度と試料からの観察光の透過率との関係を示す図である。
【
図10】ウェッジプリズムを通過する観察光の光線の様子を示す図である。
【
図11】ウェッジプリズムの有無による観察光の非点収差の比較図である。
【
図13】結像光学系の構成の更なる別例を示す図である。
【
図14】結像光学系の構成の更なる別例を示す図である。
【
図15】結像光学系の構成の更なる別例を示す図である。
【
図16】ウェッジプリズムの非点収差及び色収差の低減効果の確認試験結果を示す図である。
【
図17】ウェッジプリズムの非点収差及び色収差の低減効果の確認試験結果を示す図である。
【
図18】ウェッジプリズムの非点収差及び色収差の低減効果の確認試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る試料観察装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は、試料観察装置の一実施形態を示す概略構成図である。この試料観察装置1は、面状光L2を試料Sに照射し、試料Sの内部で発生した観察光(例えば蛍光又は散乱光など)を結像面に結像させて試料S内部の観察画像データを取得する装置である。この種の試料観察装置1としては、スライドガラスに保持される試料Sの画像を取得し表示するスライドスキャナ、あるいはマイクロプレートに保持される試料Sの画像データを取得し、画像データを解析するプレートリーダなどがある。試料観察装置1は、
図1に示すように、光源2と、照射光学系3と、走査部4と、結像光学系5と、画像取得部6と、コンピュータ7とを備えて構成されている。
【0023】
観察対象となる試料Sとしては、例えばヒト或いは動物の細胞、組織、臓器、動物或いは植物自体、植物の細胞、組織などが挙げられる。また、試料Sは、溶液、ゲル、或いは試料Sとは屈折率の異なる物質に含まれていてもよい。
【0024】
光源2は、試料Sに照射される光L1を出力する光源である。光源2としては、例えばレーザダイオード、固体レーザ光源といったレーザ光源が挙げられる。また、光源2は、発光ダイオード、スーパールミネッセントダイオード、ランプ系光源であってもよい。光源2から出力された光L1は、照射光学系3に導光される。
【0025】
照射光学系3は、光源2から出力された光L1を面状光L2に整形し、整形された面状光L2を光軸P1に沿って試料Sに照射する光学系である。以下の説明では、照射光学系3の光軸P1を面状光L2の光軸という場合もある。照射光学系3は、例えばシリンドリカルレンズ、アキシコンレンズ、或いは空間光変調器などの光整形素子を含んで構成され、光源2に対して光学的に結合されている。照射光学系3は、対物レンズを含んで構成されていてもよい。照射光学系3によって形成された面状光L2は、試料Sに照射される。面状光L2が照射された試料Sでは、面状光L2の照射面Rにおいて観察光L3が発生する。観察光L3は、例えば面状光L2によって励起された蛍光、面状光L2の散乱光、或いは面状光L2の拡散反射光である。
【0026】
試料Sの厚さ方向に観察を行う場合、分解能を考慮して、面状光L2は、厚さ2mm以下の薄い面状光であることが好ましい。また、試料Sの厚さが非常に小さい場合、すなわち、後述するZ方向解像度以下の厚さの試料Sを観察する場合には、面状光L2の厚さは分解能に影響しない。したがって、厚さ2mmを超える面状光L2を用いてもよい。
【0027】
走査部4は、面状光L2の照射面Rに対して試料Sを走査する機構である。本実施形態では、走査部4は、試料Sを保持する試料容器11を移動させる移動ステージ12によって構成されている。試料容器11は、例えばマイクロプレート、スライドガラス、シャーレ等であり、面状光L2及び観察光L3に対して透明性を有している。本実施形態では、マイクロプレートを例示する。試料容器11は、
図2に示すように、試料Sが配置される複数のウェル13が一直線状(或いはマトリクス状)に配列された板状の本体部14と、本体部14の一面側においてウェル13の一端側を塞ぐように設けられた板状の透明部材15とを有している。
【0028】
ウェル13内への試料Sの配置にあたっては、ウェル13内が水などの媒体で充填されていてもよい。透明部材15は、ウェル13内に配置された試料Sに対する面状光L2の入力面15aを有している。透明部材15の材質は、面状光L2に対する透明性を有する部材であれば特に限定はされないが、例えばガラス、石英、或いは合成樹脂である。試料容器11は、入力面15aが面状光L2の光軸P1と直交するように移動ステージ12に対して配置されている。なお、ウェル13の他端側は、外部に開放された状態となっている。試料容器11は、移動ステージ12に対して固定されていてもよい。
【0029】
移動ステージ12は、
図1に示すように、コンピュータ7からの制御信号に従い、予め設定された方向に試料容器11を走査する。本実施形態では、移動ステージ12は、面状光L2の光軸P1と直交する平面内の一方向に試料容器11を走査する。以下の説明では、面状光L2の光軸P1方向をZ軸、移動ステージ12による試料容器11の走査方向をY軸、面状光L2の光軸P1と直交する平面内においてY軸に直交する方向をX軸と称する。試料Sに対する面状光L2の照射面Rは、XZ平面内の面となる。
【0030】
結像光学系5は、面状光L2の照射によって試料Sで発生した観察光L3を結像する光学系である。結像光学系5は、
図2に示すように、例えば対物レンズ16を含んで構成されている。結像光学系5の光軸は、観察光L3の観察軸P2となっている。この結像光学系5の観察軸P2は、試料Sにおける面状光L2の照射面Rに対して傾斜角度θをもって傾斜している。傾斜角度θは、試料Sに向かう面状光L2の光軸P1と観察軸P2とがなす角とも一致する。傾斜角度θは、10°~80°となっている。観察画像の解像度を向上させる観点から、傾斜角度θは、20°~70°であることが好ましい。また、観察画像の解像度の向上及び視野の安定性の観点から、傾斜角度θは、30°~65°であることが更に好ましい。
【0031】
画像取得部6は、
図1に示すように、結像光学系5によって結像された観察光L3による光像に対応する画像データを複数取得する装置である。画像取得部6は、例えば観察光L3による光像を撮像する撮像装置を含んで構成されている。撮像装置としては、例えばCMOSイメージセンサ、CCDイメージセンサといったエリアイメージセンサが挙げられる。これらのエリアイメージセンサは、結像光学系5による結像面に配置され、例えばグローバルシャッタ或いはローリングシャッタによって光像を撮像し、二次元画像のデータをコンピュータ7に出力する。
【0032】
画像取得部6は、観察光L3による光像の一部に対応する部分画像データを複数取得する態様であってもよい。この場合、例えばエリアイメージセンサの撮像面においてサブアレイを設定し、当該サブアレイに含まれる画素列のみを読み出すようにして部分画像データを取得してもよい。また、エリアイメージセンサの全ての画素列を読み出しエリアとし、その後の画像処理によって二次元画像の一部を抽出して部分画像データを取得してもよい。エリアイメージセンサに代えてラインセンサを用い、撮像面自体を一の画素列に限定して部分画像データを取得してもよい。観察光L3の一部のみを透過させるスリットをエリアイメージセンサの前面に配置し、スリットに対応する画素列の画像データを部分画像データとして取得してもよい。スリットを用いる場合、エリアイメージセンサに代えて光電子増倍管などのポイントセンサを用いてもよい。
【0033】
コンピュータ7は、物理的には、RAM、ROM等のメモリ、及びCPU等のプロセッサ(演算回路)、通信インターフェイス、ハードディスク等の格納部、ディスプレイ等の表示部を備えて構成されている。かかるコンピュータ7としては、例えばパーソナルコンピュータ、クラウドサーバ、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット端末など)などが挙げられる。コンピュータ7は、メモリに格納されるプログラムをコンピュータシステムのCPUで実行することにより、光源2及び移動ステージ12の動作を制御するコントローラ、試料Sの観察画像データを生成する画像生成部8、及び観察画像データを解析する解析部10として機能する(
図1参照)。
【0034】
コントローラとしてのコンピュータ7は、ユーザによる測定開始の操作の入力を受け、光源2、移動ステージ12、及び画像取得部6を同期させて駆動する。この場合、コンピュータ7は、移動ステージ12による試料Sの移動中、光源2が光L1を連続的に出力するように光源2を制御してもよく、画像取得部6による撮像に合わせて光源2による光L1の出力のON/OFFを制御してもよい。また、照射光学系3が光シャッタ(不図示)を備えている場合、コンピュータ7は、当該光シャッタの制御によって試料Sへの面状光L2の照射をON/OFFさせてもよい。
【0035】
また、画像生成部8としてのコンピュータ7は、画像取得部6によって生成された複数の画像データに基づいて試料Sの観察画像データを生成する。画像生成部8は、画像取得部6から出力された複数の部分画像データに基づいて、例えば面状光L2の光軸P1に直交する面(XY面)における試料Sの観察画像データを生成する。画像生成部8は、ユーザによる所定の操作に従って、生成した観察画像データの格納、モニタ等への表示等を実行する。
【0036】
本実施形態では、
図1及び
図2に示したように、試料Sに対する面状光L2の照射面Rは、XZ平面内の面であり、試料Sに対して照射面RがY軸方向に走査される。したがって、画像生成部8には、
図3(A)に示すように、XZ断面像である画像データ31をY軸方向に複数取得することによって、試料Sの3次元情報が蓄積される。画像生成部8では、複数の画像データ31を用いてデータが再構築され、例えば
図3(B)に示すように、バックグラウンドを抑えた観察画像データ32が生成される。ここでは、観察画像データ32は、試料SにおけるZ軸方向の任意の位置において任意の厚さを持ったXY断面像を示すデータとなる。
【0037】
解析部10としてのコンピュータ7は、画像生成部8によって生成された観察画像データ32に基づいて解析を実行し、解析結果を生成する。解析部10は、ユーザによる所定の操作に従って、生成した解析結果の格納、モニタ等への表示等を実行する。なお、画像生成部8によって生成された観察画像データ32のモニタ等への表示は行わず、解析部10によって生成された解析結果のみをモニタ等に表示してもよい。画像生成部8によって生成された観察画像データを解析部10で解析することにより、解析のスループットを向上させることができる。
【0038】
続いて、上述した試料観察装置1について、更に詳細に説明する。
【0039】
試料観察装置1では、
図4(A)に示すように、面状光L2の照射面Rに対して試料Sを走査しながら画像取得部6によって画像取得を行っている。また、試料観察装置1では、面状光L2の照射面Rに対し、結像光学系5の観察軸P2が傾斜している。このため、画像取得部6では、面状光L2の光軸P1方向(Z軸方向)における断層面の画像データ31を順次取得することが可能となり、画像生成部8では、複数の画像データ31に基づいて、試料Sの観察画像データ32を生成できる。
【0040】
この試料観察装置1では、
図4(B)に示すように、試料Sを走査させながら画像取得を順次行うことが可能となる。従来の試料観察装置の動作では、移動ステージの駆動及び停止の際の度に、慣性の影響等により時間的なロスが生じる。これに対し、試料観察装置1では、移動ステージ12の駆動及び停止の回数を削減し、試料Sの走査動作と画像取得とを同時進行することが可能となる。したがって、観察画像データ32を得るまでのスループットの向上が図られる。
【0041】
また、試料観察装置1では、
図2に示したように、試料Sが面状光L2の入力面15aを有する試料容器11によって保持され、照射光学系3による面状光L2の光軸P1が試料容器11の入力面15aに対して直交するように配置されている。さらに、試料観察装置1では、照射光学系3による面状光L2の光軸P1(Z軸方向)に対して直交する方向(Y軸方向)に走査部4が試料Sを走査する。これにより、画像取得部6で取得した画像データ31の位置補正などの画像処理が不要となり、観察画像データ32の生成処理を容易化できる。
【0042】
また、試料観察装置1では、試料Sにおける面状光L2の照射面Rに対する結像光学系5の観察軸P2の傾斜角度θが10°~80°、好ましくは、20°~70°、より好ましくは30°~65°となっている。以下、この点について考察する。
図5は、試料観察装置における視野の算出例を示す図である。同図に示す例では、結像光学系が屈折率n1の媒質A中に位置し、面状光の照射面が屈折率n2の媒質B中に位置している。結像光学系における視野をV、照射面をV’、照射面に対する観察軸の傾斜角度をθ、媒質A,Bの境界面での屈折角をθ’、視野Vの傾斜角度θにおける媒質Aと媒質Bの界面での距離をLとした場合、以下の式(1)~(3)が成り立つ。
(数1)
L=V/cosθ …(1)
(数2)
sinθ’=(n1/n2)sinθ …(2)
(数3)
V’=L/tanθ’ …(3)
【0043】
図6は、観察軸の傾斜角度と解像度との関係を示す図である。同図では、横軸を観察軸の傾斜角度θとし、縦軸を視野の相対値V’/Vとしている。そして、媒質Aの屈折率n1を1(空気)とし、媒質Bの屈折率n2を1.0から2.0まで0.1刻みで変化させたときのV’/Vの値を傾斜角度θに対してプロットしている。V’/Vの値が小さいほど試料の深さ方向の解像度(以下、「Z方向解像度」と称す)が高く、大きいほどZ方向解像度が低いことを示している。
【0044】
図6に示す結果から、媒質Aの屈折率n1と媒質Bの屈折率n2とが等しい場合には、傾斜角度θに対してV’/Vの値が反比例していることが分かる。また、媒質Aの屈折率n1と媒質Bの屈折率n2とが異なる場合には、傾斜角度θに対してV’/Vの値が放物線を描くことが分かる。この結果から、試料の配置空間の屈折率、結像光学系の配置空間の屈折率、及び観察軸の傾斜角度θによってZ方向解像度をコントロールできることが分かる。そして、傾斜角度θが10°~80°の範囲では、傾斜角度θが10°未満及び80°を超える範囲に比べて良好なZ方向解像度が得られることが分かる。
【0045】
また、
図6に示す結果から、Z方向解像度が最大となる傾斜角度θは、屈折率n1と屈折率n2との差が大きくなるにつれて小さく傾向があることが分かる。屈折率n2が1.1~2.0の範囲では、Z方向解像度が最大となる傾斜角度θは、約47°~約57°の範囲となる。例えば屈折率n2が1.33(水)の場合、Z方向解像度が最大となる傾斜角度θは、およそ52°と見積もられる。また、例えば屈折率n2が1.53(ガラス)の場合、Z方向解像度が最大となる傾斜角度θは、およそ48°と見積もられる。
【0046】
図7は、観察軸の傾斜角度と視野の安定度との関係を示す図である。同図では、横軸を観察軸の傾斜角度θとし、縦軸を視野の安定度としている。安定度は、傾斜角度θでのV’/Vに対する傾斜角度θ+1でのV’/Vと傾斜角度θ-1でのV’/Vとの差分値の割合で表され、下記式(4)に基づいて算出される。安定度が0%に近い程、傾斜角度の変化に対する視野の変化が小さく、視野が安定していると評価できる。この
図7では、
図6と同様に、媒質Aの屈折率n1を1(空気)とし、媒質Bの屈折率n2を1.0から2.0まで0.1刻みで変化させたときの安定度がプロットされている。
(数4)
安定度(%)=((V’/V)
θ+1-(V’/V)
θ-1)/(V’/V)
θ …(4)
【0047】
図7に示す結果から、傾斜角度θが10°未満及び80°を超える範囲では、安定度が±20%を超えており、視野のコントロールが困難であることが分かる。一方、傾斜角度θが10°~80°の範囲では、安定度が±20%以下となり、視野のコントロールが可能となる。さらに、傾斜角度θが20°~70°の範囲では、安定度が±10%以下となり、視野のコントロールが容易となる。
【0048】
図8は、観察軸の傾斜角度と試料からの観察光の透過率との関係を示す図である。同図では、横軸を観察軸の傾斜角度θとし、左側の縦軸を視野の相対値、右側の縦軸を透過率としている。この
図8では、試料容器における試料の保持状態を考慮し、媒質Aの屈折率n1を1(空気)、媒質Bの屈折率n2を1.53(ガラス)、媒質Cの屈折率n3を1.33(水)とし、透過率の値は、媒質B,Cの界面及び媒質A,Bの界面の透過率の積としている。
図8には、P波の透過率、S波の透過率、及びこれらの平均値の角度依存性がプロットされている。また、
図8には、媒質Cにおける視野の相対値が併せてプロットされている。
【0049】
図8に示す結果から、観察軸の傾斜角度θを変化させることで、試料から結像光学系に至る観察光の透過率が可変となることが分かる。傾斜角度θが80°以下の範囲では、少なくとも50%以上の透過率が得られることが分かる。また、傾斜角度θが70°以下の範囲では、少なくとも60%以上の透過率が得られ、傾斜角度θが65°以下の範囲では、少なくとも75%以上の透過率が得られることが分かる。
【0050】
以上の結果から、試料のZ方向解像度が要求される場合には、例えば視野の相対値であるV’/Vの値が3以下であり、安定度が5%未満、かつ観察光の透過率(P波及びS波の平均値)が75%以上となるように、傾斜角度θを30°~65°の範囲から選択することが好適である。また、試料のZ方向解像度が要求されない場合には、傾斜角度θを10°~80°の範囲から適宜選択すればよく、1画素当たりの視野の範囲を確保する観点から、10°~30°若しくは65°~80°の範囲から選択することが好適である。
【0051】
上述のように、試料Sにおける面状光L2の照射面Rに対して結像光学系5の観察軸P2を傾斜させる場合、結像光学系5における観察光L3の非点収差の影響を考慮する必要がある。観察光L3の非点収差の影響が大きくなると、結像光学系5の結像面での観察光L3の結像性能が低下し、観察画像の画質が劣化してしまうことが考えられる。
【0052】
これに対し、試料観察装置1の結像光学系5は、より詳細には、
図9に示すように、対物レンズ16と、結像レンズ17と、ウェッジプリズム18とを備えて構成されている。対物レンズ16と結像レンズ17とは、無限遠補正光学系を構成している。試料Sからの観察光L3は、対物レンズ16と結像レンズ17との間で平行光となり、結像レンズ17によって結像面(画像取得部6の撮像面)Fで結像する。
【0053】
ウェッジプリズム18は、本実施形態では、面状光L2の照射面Rと対物レンズ16との間に配置されている。ウェッジプリズム18は、一方の主面18aと他方の主面18bとが一方向において平行であるが、当該一方向と直交する他方向において他方の主面18bが一方の主面18aに対して一定の角度で傾斜しているプリズムである。すなわち、ウェッジプリズム18は、一方向において厚さが一様に変化し、一方向に直交する他方向において厚さが変化しないプリズムである。このため、ウェッジプリズム18は、
図10(A)に示すように、観察光L3の一方軸の光線L3aを入射位置によって所定の偏角で曲げる一方で、
図10(B)に示すように、一方軸に直交する観察光L3の他方軸の光線L3bを曲げない非軸対称の光学素子として機能する。なお、
図9のように、ウェッジプリズム18が面状光L2の照射面Rと対物レンズ16との間に配置されている場合、一方の主面18aは、対物レンズ16の光軸と直交するように配置されてもよい。この場合、光学調整が容易になる。
【0054】
図11は、ウェッジプリズムの有無による観察光の非点収差の比較図である。同図では、横軸をフォーカス位置とし、縦軸を試料深さとしている。
図11には、観察軸P2の傾斜角度θが45°である場合を想定し、ウェッジプリズム18を結像光学系5に配置した場合と配置していない場合とで、試料深さが0μm(界面)から300μmに至るまでのTangential像面及びSagital像面のフォーカス位置がそれぞれプロットされている。
【0055】
ここでは、Tangential像面は、ウェッジプリズム18によって曲げられていない軸の光線L3bによる像面であり、Sagital像面は、ウェッジプリズムによって曲げられた軸の光線L3aによる像面である。各試料深さにおいて、Tangential像面のフォーカス位置とSagital像面のフォーカス位置との差が観察光L3の非点収差の程度を表している。
図11の結果から、試料深さが0μm(界面)から300μmに至るまでの全ての範囲において、ウェッジプリズム18を結像光学系5に配置した場合の方が、ウェッジプリズム18を結像光学系5に配置しない場合に比べて、Tangential像面のフォーカス位置とSagital像面のフォーカス位置との差が小さくなっている。したがって、ウェッジプリズム18を結像光学系5に配置する構成が、観察光L3の非点収差の低減に寄与することが確認できる。
【0056】
なお、
図9に示した形態では、ウェッジプリズム18が面状光L2の照射面Rと対物レンズ16との間に配置されているが、ウェッジプリズム18の配置は当該態様に限られるものではない。ウェッジプリズム18は、例えば
図12に示すように、結像レンズ17と画像取得部6との間に配置されていてもよい。対物レンズ16及び結像レンズ17によって無限遠補正光学系を構成する場合、対物レンズ16と結像レンズ17との間にウェッジプリズム18を配置することによって、上述と同様に観察光L3の非点収差を低減する作用効果が好適に奏される。また、ウェッジプリズム18は、例えば
図13に示すように、対物レンズ16と結像レンズ17との間に配置されていてもよい。この位置にウェッジプリズム18を配置する場合、ウェッジプリズム18が走査部4などの他の構成要素と干渉しにくくなり、結像光学系5を容易に構成することができる。
【0057】
また、
図14に示すように、結像光学系5に複数のウェッジプリズム18を配置してもよい。ウェッジプリズム18を2体組み合わせたものはダブレットプリズムと称され、3体組み合わせたものはトリプレットプリズムと称される。
図14の例では、2体のウェッジプリズム18が面状光L2の照射面Rと対物レンズ16との間に配置されている。複数のウェッジプリズム18を配置することで、観察光L3の非点収差の低減に加え、観察光L3の色収差の低減も図ることができる。
【0058】
複数のウェッジプリズム18は、主面18a,18b同士を接触させた状態或いは貼り合わせた状態で配置されていてもよく、互いに離間して配置されていてもよい。ウェッジプリズム18が離間して配置される場合、各ウェッジプリズム18の配置位置は、面状光L2の照射面Rと対物レンズ16との間、対物レンズ16と結像レンズ17との間、及び結像レンズ17と画像取得部6との間のいずれであってもよい。例えば
図15に示すように、一方のウェッジプリズム18が面状光L2の照射面Rと対物レンズ16との間に配置され、他方のウェッジプリズム18が結像レンズ17と画像取得部6との間に配置されていてもよい。
【0059】
図16~
図18は、ウェッジプリズム18の非点収差及び色収差の低減効果の確認試験結果を示す図である。これらの確認試験結果は、観察軸P2の傾斜角度θを55°とし、試料深さが0μm(界面)から300μmに至るまでの観察光L3のスポット形状を50μm刻みで示したダイアグラムである。観察光L3の波長は、458nm、530nm、629nm、680nmの4波長とし、それぞれのスポット形状を重ね合わせて示している。スポット形状の横方向への歪み(拡がり)が大きい程、非点収差が大きいことを示し、スポット形状の縦方向へのばらつきが大きい程、色収差(倍率色収差)が大きいことを示している。図中の円は、エアリーディスクの直径である。
【0060】
図16は、結像光学系5にウェッジプリズム18を配置しない比較例の結果を示している。
図17は、結像光学系5に1体のウェッジプリズム18を配置した実施例の結果を示している。
図18は、結像光学系5に2体のウェッジプリズム18を配置した実施例の結果を示している。これらの結果から、結像光学系5に1体のウェッジプリズム18を配置した場合には、観察光L3の非点収差が低減し、結像光学系5に2体のウェッジプリズム18を配置した場合には、観察光L3の非点収差及び色収差の双方が低減していることが分かる。これらの結果から、観察軸P2の傾斜によって観察画像のZ方向解像度を向上させつつ、ウェッジプリズム18の配置により観察光L3の非点収差を低減できることが確認できる。また、ウェッジプリズム18を複数配置することで、観察光L3の色収差も低減できることが確認できる。
【0061】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上述した実施形態では、対物レンズ16及び結像レンズ17を含む結像光学系5を例示したが、対物レンズ16として有限対物レンズを用いる場合には結像レンズ17の配置は不要となる。この場合、ウェッジプリズム18は、面状光L2の照射面Rと対物レンズ16との間、及び結像レンズ17と画像取得部6との間のいずれの位置に配置してもよい。また、例えば上述した実施形態では、非点収差を補正する光学素子としてウェッジプリズム18を例示したが、かかる光学素子としては、ウェッジプリズムのほか、シリンドリカルレンズ、トロイダルレンズ、自由曲面レンズ、回折光学素子などを用いることもできる。
【符号の説明】
【0062】
1…試料観察装置、3…照射光学系、4…走査部、5…結像光学系、6…画像取得部、8…画像生成部、10…解析部、16…対物レンズ、17…結像レンズ、18…ウェッジプリズム(光学素子)、31…画像データ、32…観察画像データ、L2…面状光、L3…観察光、L3a,L3b…光線、P2…観察軸、R…照射面、S…試料、θ…傾斜角度。