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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166302
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ボールねじの製造方法及び仮ナット
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
F16H25/24 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133943
(22)【出願日】2022-08-25
(62)【分割の表示】P 2020008631の分割
【原出願日】2020-01-22
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テレスコ
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 泰明
(57)【要約】
【課題】ナット本体とピストンとが一体の部品となっている場合であっても、組み立てることが可能なボールねじの製造方法を提供する。
【解決手段】ナット本体と押圧部を備えるナットと、ねじ軸本体を備えるねじ軸と、複数の転動体と、を備え、ナット本体と押圧部は、同一材料により一体に形成され、ねじ軸本体は、転動体を転動路の一端から他端へ導く複数の循環溝を備えるボールねじの製造方法であって、筒状の仮ナットを準備し、仮ナットにおける軸方向の他端から仮ナットの内部にねじ軸本体を挿入し、仮ナットの内周面と第2ねじ溝との間に転動体を配置する転動体配置工程と、仮ナットの軸方向の一端の端面と、ナット本体の軸方向の他端の端面と、を対向させる対向工程と、と、ねじ軸とナットとを相対回転させながらねじ軸をナット本体の内部に移動させるねじ軸移動工程と、仮ナットをナットから取り外す取り外し工程と、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に第1ねじ溝を備える筒状のナット本体、及び前記ナット本体の軸方向の一端を塞ぐ押圧部を備えるナットと、
外周面に複数の第2ねじ溝を備え且つ前記ナット本体の内側に配置されるねじ軸本体を備えるねじ軸と、
前記第1ねじ溝及び複数の前記第2ねじ溝の間の螺旋状の空間である複数の転動路に配置される複数の転動体と、
を備え、
前記ナット本体と前記押圧部は、同一材料により一体に形成され、
前記ねじ軸本体は、前記転動体を前記転動路の一端から他端へ導く複数の循環溝を備えるボールねじの製造方法であって、
筒状の仮ナットを準備し、前記仮ナットにおける前記軸方向の他端から前記仮ナットの内部に前記ねじ軸本体を挿入し、前記仮ナットの内周面と前記第2ねじ溝との間に前記転動体を配置する転動体配置工程と、
前記仮ナットの前記軸方向の一端の端面と、前記ナット本体の軸方向の他端の端面と、を対向させる対向工程と、
前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させながら前記ねじ軸を前記ナット本体の内部に移動させるねじ軸移動工程と、
前記仮ナットを前記ナットから取り外す取り外し工程と、
を含むボールねじの製造方法。
【請求項2】
前記転動体配置工程は、
複数の前記第2ねじ溝のうち1つの前記第2ねじ溝の一部を前記仮ナットに覆われた状態にする第1工程と、
一部が前記仮ナットに覆われた前記第2ねじ溝に前記転動体を入れる第2工程と、
前記ねじ軸を前記仮ナットの前記軸方向の他端の方に移動させ、前記転動体が入れられた前記第2ねじ溝の全てを前記仮ナットに覆われた状態にする第3工程と、
を含み、
前記転動体配置工程は、
複数の前記第2ねじ溝の全てに前記転動体が入れられるまで、前記第1工程、前記第2工程及び前記第3工程を繰り返し行う
請求項1に記載のボールねじの製造方法。
【請求項3】
前記対向工程は、前記仮ナットの前記軸方向の一端を前記ナット本体の軸方向の他端の外周側に嵌合させる
請求項1または請求項2に記載のボールねじの製造方法。
【請求項4】
筒状を成し、かつ前記軸方向の一端に前記ナットの前記軸方向の他端の外周側に嵌合可能な凹部を有している請求項3に記載の仮ナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじの製造方法及び仮ナットに関する。
【背景技術】
【0002】
ナット、ナットを貫通するねじ軸、及びナットとねじ軸との間に配置される複数のボールを備えるボールねじが知られている。特許文献1には、ブレーキパッドを押圧するためのピストンを移動させるボールねじが記載されている。特許文献1のピストンは、ブレーキパッドを押圧する接触表面を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/034417号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるピストンにおいては、駆動ナットに対して別部品としてのピストンが取り付けられている。このため、部品点数が多くなると共に、部品間のトルクを伝達するための機構が必要となるため、ピストンが径方向に大型化する。このため、特許文献1のピストンを小型化することには限界がある。その一方で、ピストンの作動性を向上させるために、駆動ナットと駆動スピンドルとの間には複数の転動体が配置されることが望ましい。しかし、特許文献1のピストンと駆動ナットを単に一体の部品とした場合、駆動ナットと駆動スピンドルとの間に転動体を配置できなくなる。仮に駆動ナットが両端の開口した筒状であれば、駆動ナットに仮ねじ軸を挿入した状態で転動体を駆動ナットのねじ溝に入れた後、仮ねじ軸を軸方向に移動させながら駆動スピンドルと入れ替えることができる。しかし、駆動ナットの一端が塞がっている場合には、仮ねじ軸と駆動スピンドルを入れ替えることができないので、駆動ナットと駆動スピンドルとの間に転動体を配置できない。すなわち、特許文献1のピストンと駆動ナットを単に一体の部品とした場合、駆動ナット、駆動スピンドル及び転動体を備えるボールねじを組み立てることは困難である。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、ナット本体とピストンとが一体の部品となっている場合であっても、組み立てることが可能なボールねじの製造方法及びその製造方法で使用される仮ナットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様のボールねじの製造方法は、内周面に第1ねじ溝を備える筒状のナット本体、及び前記ナット本体の軸方向の一端を塞ぐ押圧部を備えるナットと、外周面に複数の第2ねじ溝を備え且つ前記ナット本体の内側に配置されるねじ軸本体を備えるねじ軸と、前記第1ねじ溝及び複数の前記第2ねじ溝の間の螺旋状の空間である複数の転動路に配置される複数の転動体と、を備え、前記ナット本体と前記押圧部は、同一材料により一体に形成され、前記ねじ軸本体は、前記転動体を前記転動路の一端から他端へ導く複数の循環溝を備えるボールねじの製造方法である。ボールねじの製造方法は、筒状の仮ナットを準備し、前記仮ナットにおける前記軸方向の他端から前記仮ナットの内部に前記ねじ軸本体を挿入し、前記仮ナットの内周面と前記第2ねじ溝との間に前記転動体を配置する転動体配置工程と、前記仮ナットの前記軸方向の一端の端面と、前記ナット本体の軸方向の他端の端面と、を対向させる対向工程と、前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させながら前記ねじ軸を前記ナット本体の内部に移動させるねじ軸移動工程と、前記仮ナットを前記ナットから取り外す取り外し工程と、を含む。
【0007】
本開示のボールねじの製造方法は、ナットではなくねじ軸が循環溝を備えることによって、ナットの一端が塞がれていながらも容易に組み立てることができる。具体的には、仮ナットを用いることによって、転動体を転動路に配置することができる。本開示のボールねじにおいては、被押圧部材を押圧する面を備えるナット、ねじ軸、及び転動体を組み立てることができる。したがって、本開示のボールねじは、被押圧部材を押す部材を小型化できる。
【0008】
上記の本開示のボールねじの製造方法において、前記転動体配置工程は、複数の前記第2ねじ溝のうち1つの前記第2ねじ溝の一部を前記仮ナットに覆われた状態にする第1工程と、一部が前記仮ナットに覆われた前記第2ねじ溝に前記転動体を入れる第2工程と、前記ねじ軸を前記仮ナットの前記軸方向の他端の方に移動させ、前記転動体が入れられた前記第2ねじ溝の全てを前記仮ナットに覆われた状態にする第3工程と、を含む。前記転動体配置工程は、複数の前記第2ねじ溝の全てに前記転動体が入れられるまで、前記第1工程、前記第2工程及び前記第3工程を繰り返し行う。また、上記の本開示のボールねじの製造方法において、前記対向工程は、前記仮ナットの前記軸方向の一端を前記ナット本体の軸方向の他端の外周側に嵌合させる。
【0009】
これによれば、第2ねじ溝に入った転動体は、第3工程により仮ナットに覆われるので、第2ねじ溝から脱落しない。また、仮ナットにナット本体が嵌ると、ナットの芯が、仮ナットの芯に対してずれにくくなる。
【0010】
また、本開示の一態様の仮ナットは、筒状を成し、かつ前記軸方向の一端に前記ナットの前記軸方向の他端の外周側に嵌合可能な凹部を有している。
【0011】
ねじ軸本体の第2ねじ溝に入った転動体は、仮ナットに覆われるので、第2ねじ溝から脱落しない。また、仮ナットの凹部にナット本体が嵌ると、ナットの芯が、仮ナットの芯に対してずれにくくなる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ナット本体とピストンとが一体の部品となっている場合であっても、ボールねじを組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態のボールねじの斜視断面図である。
図2図2は、実施形態のボールねじの斜視断面図である。
図3図3は、実施形態のボールねじの製造方法を示す斜視断面図である。
図4図4は、実施形態のボールねじの製造方法を示す斜視断面図である。
図5図5は、実施形態のボールねじの製造方法を示す斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、下記実施形態において、前述したものと同様の構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は適宜省略することがある。
【0015】
(実施形態)
図1及び図2は、実施形態のボールねじの斜視断面図である。ボールねじ10は、回転運動を直進運動に変換する装置である。図1に示すように、本実施形態のボールねじ10は、ナット30と、ねじ軸40と、複数の転動体51と、を備える。
【0016】
ボールねじ10において、ねじ軸40が回転軸Zを中心に回転する。ねじ軸40は、回転軸Zを中心に回転でき且つ回転軸Zに沿う方向には移動しない。ナット30は、回転軸Zを中心に回転せず且つ回転軸Zに沿う方向に移動できる。ねじ軸40が回転すると、ナット30が回転軸Zに沿う方向に移動する。ボールねじ10は、例えば、車両のブレーキパッドを移動させるための装置として用いられる。
【0017】
以下の説明において、ねじ軸40の回転軸Zに沿う方向は、単に軸方向と記載される。軸方向に対して直交する方向は、単に径方向と記載される。径方向は、放射方向とも呼ばれる。回転軸Zを中心とした円周に沿う方向は、単に周方向と記載される。周方向は、回転軸Zを中心とした円の接線方向ということもできる。
【0018】
図1に示すように、ナット30は、ナット本体31と、押圧部33と、を備える。ナット本体31は、円筒状の部材である。ナット本体31の外周面は、軸方向の全長に亘って円柱面である。すなわち、ナット本体31の外周面は、軸方向及び周方向の全長に亘って溝などが設けられていない平滑な曲面である。ナット本体31は、第1ねじ溝311を備える。第1ねじ溝311は、ナット本体31の内周面に配置される螺旋状の溝である。例えば、第1ねじ溝311の断面形状は、2つの円弧を含むゴシックアーチである。
【0019】
押圧部33は、ナット本体31の軸方向の一端を塞ぐように配置される板状の部材である。押圧部33は、円板状である。押圧部33の端面は、被押圧部材に接する接触面である。被押圧部材は、例えば、ブレーキパッドである。ナット30は、被押圧部材を押すピストンであるともいえる。
【0020】
図1及び図2に示すように、第1ねじ溝311は、ナット本体31の内周面の一部に設けられる。第1ねじ溝311は、押圧部33が配置される端部とは反対側の端部から、押圧部33に向かって延びている。すなわち、第1ねじ溝311の押圧部33側の端部は、押圧部33と重ならない。
【0021】
図1に示すように、ナット30は、支持部材100によって支持される。支持部材100の内周面には、環状のシール部材101が配置される。シール部材101は、例えばOリングである。シール部材101は、ナット本体31の外周面に接する。これにより、支持部材100とナット本体31との間の隙間が密封される。
【0022】
図1に示すように、ねじ軸40は、ナット30を貫通する。ねじ軸40は、ねじ軸本体41と、支持部43と、を備える。ねじ軸本体41は、ナット30に挿入される。ねじ軸本体41は、ナット本体31の内側に配置される。ねじ軸本体41は、複数の第2ねじ溝411と、循環溝415と、を備える。例えば、ねじ軸本体41は、2つの第2ねじ溝411を備える。第2ねじ溝411は、ねじ軸本体41の外周面に配置される螺旋状の溝である。1つの第2ねじ溝411の周方向の長さは、ねじ軸本体41の外周よりも小さい。1つの第2ねじ溝411の一端及び他端は、周方向で離れて配置される。第2ねじ溝411の断面形状は、2つの円弧を含むゴシックアーチである。循環溝415は、略S字状の溝である。循環溝415は、1つの第2ねじ溝411の一端及び他端を繋ぐ。
【0023】
支持部43は、ナット30の外側に配置される。支持部43は、ねじ軸本体41から押圧部33とは反対側に延びている。支持部43は、略円柱状である。支持部43は、環状溝431を備える。環状溝431は、支持部43の外周面を一周する。
【0024】
図1に示すように、ねじ軸40は、軸受70に支持される。軸受70は、外輪71と、複数の転動体73を備える。外輪71は、円環状の部材である。転動体73は、外輪71と支持部43の環状溝431との間に配置される。転動体73は、例えば玉である。転動体73は、外輪71と環状溝431とによって形成される環状の転動路の中を移動する。支持部43は、軸受70の内輪を兼ねているともいえる。軸受70によって、ねじ軸40は、回転軸Zを中心に回転できるように支持される。
【0025】
図1に示すように、複数の転動体51は、ナット本体31とねじ軸本体41との間に配置される。転動体51は、例えば玉である。複数の転動体51は、第1ねじ溝311及び第2ねじ溝411によって形成される螺旋状の転動路55の中を移動する。転動体51は、循環溝415によって、1つの転動路55の一端から他端へ導かれる。転動体51は、転動路55を無限循環する。本実施形態のボールねじ10は、いわゆるねじ循環方式のボールねじである。
【0026】
図2に示すように、距離D1は、距離D2よりも大きい。距離D1は、押圧部33から第1ねじ溝311の押圧部33側の端部までの軸方向の距離である。距離D2は、押圧部33に面するねじ軸40の端面から循環溝415の押圧部33側の端部までの距離である。
【0027】
図1は、押圧部33がねじ軸40に最も近付いた状態(ねじ軸40がナット30の最も奥まで入った状態)を示す。図2は、押圧部33がねじ軸40から最も遠ざかった状態(ねじ軸40のうちナット30に入った部分が最も少ない状態)を示す。図1及び図2に示すように、第2ねじ溝411は、ナット30の外側には出ない。すなわち、図1の状態及び図2の状態のいずれにおいても、第2ねじ溝411が第1ねじ溝311に面した状態が保たれる。
【0028】
図2に示す距離D1が距離D2よりも大きいので、図1に示すようにねじ軸40がナット30の最も奥まで入っても、ねじ軸40は押圧部33に接しない。また、図1の状態及び図2の状態のいずれにおいても、ナット30は被押圧部材(例えばブレーキパッド)を押している。図2の状態でナット30が被押圧部材から受ける反力は、図1の状態でナット30が被押圧部材から受ける反力よりも大きい。図2の状態でナット30が被押圧部材から受ける反力によって、ナット30は、図2の状態よりもねじ軸40からさらに抜け出す方向には移動できない。これにより、ねじ軸40からナット30が脱落することが抑制される。
【0029】
図3から図5は、実施形態のボールねじの製造方法を示す斜視断面図である。ボールねじ10の製造方法は、転動体配置工程と、対向工程と、ねじ軸移動工程と、取り外し工程と、を含む。転動体配置工程は、筒状の仮ナットを準備し、前記仮ナットにおける前記軸方向の他端から前記仮ナットの内部に前記ねじ軸本体を挿入し、前記仮ナットの内周面と前記第2ねじ溝との間に前記転動体を配置する工程である。図3から図5に示すように、本実施形態のボールねじ10は、仮ナット200を用いて製造される。仮ナット200は、円筒状の部材である。仮ナット200は、内周面にねじ溝を備えていない。仮ナット200は、軸方向の一端に環状の凹部201を備える。凹部201の内周長は、ナット本体31の外周長と略等しい。
【0030】
図3に示すように、続いて転動体配置工程において、ねじ軸本体41が仮ナット200に挿入される。1つの第2ねじ溝411の一部が仮ナット200に覆われた状態で、転動体51が第2ねじ溝411に入れられる。第2ねじ溝411及び循環溝415が転動体51で満たされるまで、転動体51が第2ねじ溝411に入れられる。その後、ねじ軸本体41が仮ナット200にさらに挿入される。次の第2ねじ溝411に対して、転動体51が入れられる。全ての第2ねじ溝411が転動体51で満たされるまで、上述した工程が繰り返される。つまり、本開示の転動体配置工程は、複数の第2ねじ溝のうち1つの第2ねじ溝の一部を前記仮ナットに覆われた状態にする第1工程と、一部が前記仮ナットに覆われた前記第2ねじ溝に前記転動体を入れる第2工程と、前記ねじ軸を前記仮ナットの前記軸方向の他端の方に移動させ、前記転動体が入れられた前記第2ねじ溝の全てを前記仮ナットに覆われた状態にする第3工程と、を含んでいる。そして、前記転動体配置工程は、複数の前記第2ねじ溝の全てに前記転動体が入れられるまで、前記第1工程、前記第2工程及び前記第3工程を繰り返し行う。図4に示すように、第2ねじ溝411に入った転動体51は、仮ナット200に覆われるので、第2ねじ溝411から脱落しない。
【0031】
次の対向工程は、仮ナット200の軸方向の一端の端面と、ナット本体31の軸方向の他端の端面と、を対向させる。また、本実施形態では、仮ナット200の凹部201を有しており、仮ナット200の軸方向の一端をナット本体31の軸方向の他端の外周側に嵌合させる。これによれば、図5に示すように、仮ナット200にナット30が嵌められる。仮ナット200の凹部201にナット本体31が嵌まる。これにより、ナット30の芯が、仮ナット200の芯に対してずれにくくなる。次のねじ軸移動工程は、ねじ軸40とナット30とを相対回転させながらねじ軸40をナット本体31の内部に移動させる。これによれば、凹部201にナット本体31が嵌まった状態で、ねじ軸40がナット30側に移動させられる。転動体51が第1ねじ溝311に至ったら、ねじ軸40が回転させられる。これにより、転動体51が第1ねじ溝311の中に入っていく。すなわち、転動体51が転動路55に配置される。取り外し工程は、全ての転動体51が転動路55に配置された後、ナット30から仮ナット200が取り外される。このようにして、ボールねじ10が製造される。
【0032】
なお、ボールねじ10の適用対象は、特に限定されない。ボールねじ10は、車両のブレーキパッドだけでなく、その他の装置に適用できる。例えば、ボールねじ10は、電動ブレーキの倍力装置に用いられてもよい。ボールねじ10は、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)又はセミオートマチックトランスミッション(AMT)等のクラッチ機構に用いられてもよい。ボールねじ10は、電動パーキングブレーキに用いられてもよい。ボールねじ10は、2輪駆動(2WD)及び4輪駆動(4WD)の切替装置に用いられてもよい。ボールねじ10は、電動パワーステアリング装置のチルトテレスコ機構に用いられてもよい。ボールねじ10は、ラック式の電動パワーステアリング装置に用いられてもよい。ボールねじ10は、電動パワーウィンドウ、電動スライドドア、又は電動シートアジャスター等に用いられてもよい。
【0033】
ねじ軸40が備える第2ねじ溝411及び循環溝415の数は、特に限定されない。ねじ軸40は、少なくとも1組の第2ねじ溝411及び循環溝415を備えていればよい。また、ねじ軸40は、循環部材を備えていてもよい。例えば、ねじ軸40は、循環部材として、循環溝415に配置されるコマを備えていてもよい。
【0034】
以上で説明したように、ボールねじ10は、ナット30と、ねじ軸40と、複数の転動体51と、を備える。ナット30は、内周面に第1ねじ溝311を備える筒状のナット本体31、及びナット本体31の軸方向の一端を塞ぐ押圧部33を備える。ねじ軸40は、外周面に第2ねじ溝411を備え且つナット本体31の内側に配置されるねじ軸本体41を備える。複数の転動体51は、第1ねじ溝311及び第2ねじ溝411の間の螺旋状の空間である転動路55に配置される。ねじ軸本体41は、転動体51を転動路55の一端から他端へ導く循環溝415を備える。
【0035】
特許文献1に記載されるピストンにおいては、駆動ナットに対して別部品としてのピストンが取り付けられている。このため、部品点数が多くなると共に、部品間のトルクを伝達するための機構が必要となるため、ピストンが径方向に大型化する。このため、特許文献1のピストンを小型化することには限界がある。その一方で、ピストンの作動性を向上させるために、駆動ナットと駆動スピンドルとの間には複数の転動体が配置されることが望ましい。
【0036】
しかし、特許文献1のピストンと駆動ナットを単に一体の部品とした場合、駆動ナットと駆動スピンドルとの間に転動体を配置できなくなる。仮に駆動ナットが両端の開口した筒状であれば、駆動ナットに仮ねじ軸を挿入した状態で転動体を駆動ナットのねじ溝に入れた後、仮ねじ軸を軸方向に移動させながら駆動スピンドルと入れ替えることができる。しかし、駆動ナットの一端が塞がっている場合には、仮ねじ軸と駆動スピンドルを入れ替えることができないので、駆動ナットと駆動スピンドルとの間に転動体を配置できない。すなわち、特許文献1のピストンと駆動ナットを単に一体の部品とした場合、駆動ナット、駆動スピンドル及び転動体を備えるボールねじを組み立てることは困難である。
【0037】
これに対して、本実施形態のボールねじ10は、ナット30ではなくねじ軸40が循環溝415を備えることによって、ナット30の一端が塞がれていながらも容易に組み立てることができる。具体的には、図3から図5に示すように、仮ナット200を用いることによって、転動体51を転動路55に配置することができる。本実施形態のボールねじ10においては、被押圧部材を押圧する面を備えるナット30、ねじ軸40、及び転動体51を組み立てることができる。したがって、本実施形態のボールねじ10は、被押圧部材(ブレーキパッド)を押す部材(ナット30)を小型化できる。
【0038】
ボールねじ10において、ナット本体31の外周面は、円柱面である。
【0039】
ねじ軸40の循環溝415によって転動体51が循環するので、ナット30に循環溝が設けられる場合に循環部品をナット30の内部に挿入するために必要となる穴が不要となる。このため、ナット30の外周面を、円柱面として形成することが可能である。本実施形態のボールねじ10によれば、ナット本体31の外周面を、シール部材を当てるための面として使用できる。したがって、本実施形態のボールねじ10は、ナット本体31の外周面に設けられた溝にシール部材を配置する場合と比較して、押圧部材(ブレーキパッド)を押す部材(ナット30)をより小型化できる。
【0040】
ボールねじ10において、押圧部33から第1ねじ溝311の押圧部33側の端部までの距離D1は、押圧部33に面するねじ軸40の端面から循環溝415の押圧部33側の端部までの距離D2よりも大きい。
【0041】
これにより、ねじ軸40が押圧部33に当たる前に、転動体51が第1ねじ溝311の端部に至るので、ナット30が停止する。このため、ねじ軸40と押圧部33との接触が抑制される。その結果、本実施形態のボールねじ10は、転動体51に過大な負荷が加わることを抑制できる。
【符号の説明】
【0042】
10 ボールねじ
30 ナット
31 ナット本体
33 押圧部
40 ねじ軸
41 ねじ軸本体
43 支持部
51 転動体
55 転動路
70 軸受
71 外輪
73 転動体
100 支持部材
101 シール部材
200 仮ナット
201 凹部
311 第1ねじ溝
411 第2ねじ溝
415 循環溝
431 環状溝
Z 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5