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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166338
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】糸挿入装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 51/32 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
B65H51/32 K
B65H51/32 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019180899
(22)【出願日】2019-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】508253111
【氏名又は名称】株式会社オーガンテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 隆慶
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】今田 泰平
(72)【発明者】
【氏名】乾 健至
(72)【発明者】
【氏名】森 悠
(72)【発明者】
【氏名】岸本 恭介
(72)【発明者】
【氏名】坂井 久
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝
(72)【発明者】
【氏名】岡本 尚一
【テーマコード(参考)】
3F051
【Fターム(参考)】
3F051FB01
(57)【要約】
【課題】ガイド糸付きの再生毛包原基の製造を効率化することが可能な糸挿入装置を提供する。
【解決手段】糸3を送り出し可能な、糸送り部10と、糸送り部10から送り出された糸3を切断可能な、切断部20と、糸送り部10に対向するとともに、糸送り部10に対して相対的に移動可能な、支持部30と、糸送り部10、切断部20及び支持部30を制御する制御部40と、を備え、制御部40は、支持部30が第1位置にあるときに糸送り部10を作動させ、切断部20を作動させた後、支持部30を糸送り部10に対して相対的に第2位置に移動させて、再度糸送り部10を作動させ、切断部20を作動させる、糸挿入装置1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を送り出し可能な、糸送り部と、
前記糸送り部から送り出された糸を切断可能な、切断部と、
前記糸送り部に対向するとともに、前記糸送り部に対して相対的に移動可能な、支持部と、
前記糸送り部、前記切断部及び前記支持部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記支持部が第1位置にあるときに前記糸送り部を作動させ、前記切断部を作動させた後、前記支持部を前記糸送り部に対して相対的に第2位置に移動させて、再度前記糸送り部を作動させ、前記切断部を作動させる、糸挿入装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸挿入装置において、
前記糸送り部は、互いに対向するとともに、それぞれ糸に接触可能に配された複数のローラーを有している、糸挿入装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の糸挿入装置において、
前記糸送り部は、上下方向に貫通し、糸が挿通される貫通孔を有する筒状部材を有しており、
前記貫通孔は、下側の開口が、上側の開口よりも小さくなっている、糸挿入装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の糸挿入装置において、
前記制御部は、前記支持部に向かって糸を送り出すように前記糸送り部を作動させるとともに、糸が前記支持部に接触する前に糸を切断するように前記切断部を作動させる、糸挿入装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の糸挿入装置において、
前記支持部は、前記糸送り部に対して相対的に移動可能なステージと、前記ステージ上に配された複数の容器とを有している、糸挿入装置。
【請求項6】
請求項5に記載の糸挿入装置において、
前記支持部は、前記複数の容器上に配され、前記複数の容器のそれぞれの開口よりも小さい複数の孔が設けられた蓋部材を有している、糸挿入装置。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の糸挿入装置において、
前記切断部は、エアニッパーである、糸挿入装置。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の糸挿入装置において、
複数の前記糸送り部を有しており、前記複数の糸送り部は、一列に並んで配置されている、糸挿入装置。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の糸挿入装置において、
前記糸送り部は、糸を加熱する、ヒーターを有している、糸挿入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、糸挿入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
男性型脱毛症(AGA)をはじめ、先天性脱毛、瘢痕(はんこん)、熱傷性脱毛、女性の休止期脱毛などの脱毛症の治療方法として、患者の正常な頭皮から摂取した少量の毛包器官から上皮性幹細胞と間葉性幹細胞とを分離し、これらの幹細胞からなる細胞集団を凝集させたものにガイド糸を挿入してガイド糸付きの再生毛包原基を製造し、このガイド糸付きの再生毛包原基を患者の脱毛症部位に移植するようにした治療方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/108069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のように、人の手作業で細胞集団にガイド糸を挿入する作業は煩雑であり、ガイド糸付きの再生毛包原基を効率的に製造することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決すべく、本開示の実施形態に係る糸挿入装置は、糸を送り出し可能な、糸送り部と、前記糸送り部から送り出された糸を切断可能な、切断部と、前記糸送り部に対向するとともに、前記糸送り部に対して相対的に移動可能な、支持部と、前記糸送り部、前記切断部及び前記支持部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記支持部が第1位置にあるときに前記糸送り部を作動させ、前記切断部を作動させた後、前記支持部を前記糸送り部に対して相対的に第2位置に移動させて、再度前記糸送り部を作動させ、前記切断部を作動させる糸挿入装置である。
【発明の効果】
【0006】
本開示の実施形態によれば、ガイド糸付きの再生毛包原基の製造を効率化することが可能な糸挿入装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施の形態に係る糸挿入装置の構成を示す説明図である。
図2】ウェルプレートの一部の平面図である。
図3】蓋部材が装着されたウェルプレートの一部の平面図である。
図4】蓋部材の変形例を示す断面図である。
図5】蓋部材の他の変形例を示す断面図である。
図6図1に示す糸挿入装置により、容器に収納された再生毛包原基に糸を挿入する手順を示す説明図である。
図7】切断部により切断された糸の下端の形状を示す斜視図である。
図8】複数の糸送り部を備えた変形例の糸挿入装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、本開示の一実施の形態に係る糸挿入装置1を詳細に例示説明する。
【0009】
図1に示す本実施の形態に係る糸挿入装置1は、ボビン2に巻き付けられている糸3を、容器4に向けて順に送り出し、容器4に収納されている再生毛包原基5に挿入するとともに、挿入した糸3を所定長さで切断し、これを複数の容器4に対して順に繰り返し行うことにより、複数のガイド糸6付きの再生毛包原基5を製造する用途に用いることができるものである。
【0010】
糸3としては、例えばナイロン等のポリマー、ステンレス等の金属、炭素繊維、ガラス繊維等の化学繊維などにより形成されたものを用いることができる。本実施の形態では、糸3はナイロン製である。
【0011】
ナイロン製の糸3としては、種々の直径のものを用いることができるが、直径が0.03~0.12mmのものが好ましい。本実施の形態では、糸3の直径は0.09mmである。
【0012】
複数の容器4に収納される再生毛包原基5としては、例えば、複数の上皮性細胞5aを含む細胞集団と、複数の間葉性細胞5bを含む細胞集団とで構成されたものを用いることができる。この場合、複数の上皮性細胞5aを含む細胞集団よりも下方側(容器4の底側)に複数の間葉性細胞5bを含む細胞集団が配置されているのが好ましい。
【0013】
「上皮性細胞」とは、上皮組織から採取した細胞及び採取した細胞を培養して得られる細胞を意味し、例えば毛包由来バルジ領域の外毛根鞘の最外層から採取した細胞(バルジ領域由来の上皮性細胞)、成体又は胎児皮膚の表皮から採取した細胞、多能性幹細胞から誘導した上皮性細胞、毛包、皮膚を構成する上皮性幹細胞に分化する可能性がある上皮性前駆細胞やそれらの幹細胞などを挙げることができる。
【0014】
「間葉性細胞」とは、間葉組織から採取した細胞及び採取した細胞を培養して得られる細胞を意味し、例えば、毛乳頭由来の細胞(例えば、毛乳頭細胞)、毛母細胞、毛根鞘細胞、内毛根鞘細胞、外毛根鞘細胞(最外層の細胞を除く)、成体又は胎児皮膚間葉性細胞、多能性幹細胞から誘導した毛包間葉性細胞、血液細胞を含まない骨髄細胞、骨髄由来の間葉性細胞、顎骨内部の骨髄細胞、頭部神経堤細胞に由来する間葉性細胞またはこれらの細胞に分化する可能性がある間葉性前駆細胞や幹細胞等を挙げることができる。
【0015】
「多能性幹細胞」とは、生体の様々な組織に分化する能力を有する細胞を意味し、例えば、ES細胞(Embryonic stem cells)、ntES細胞(nuclear transfer Embryonic stem cells)、EG細胞(Embryonic germ cells)、GS細胞(Germline stem cells)、iPS細胞(induced Pluripotent Stem cells)が挙げられる。
【0016】
なお、再生毛包原基5は、上記以外の他の構成のものであってもよい。また、再生毛包原基5は、例えば、特許文献1に記載されている方法で作製されたものとすることができるが、他の方法で作製されたものであってもよい。
【0017】
ボビン2は支持体2aに回転自在に支持されており、ボビン2から引き出された糸3は、プーリー7により移動方向が変換され、プーリー7と容器4との間において、上方から下方に向けて上下方向に沿って真っ直ぐに移動するようになっている。
【0018】
糸挿入装置1は、糸3を送り出し可能な、糸送り部10を備えている。
【0019】
糸送り部10は、例えば、互いに対向するとともに、それぞれ糸3に接触可能に配された複数のローラーを有した構成とすることができる。本実施の形態では、糸送り部10は、一対のローラー11、12を有している。一対のローラー11、12は、プーリー7と容器4との間に配置されている。
【0020】
一方のローラー11は鋼材等の金属製となっており、例えばステッピングモータ等の駆動源13により駆動されて所定の回転角度ずつ回転することができる。他方のローラー12は、鋼材等の金属製のローラー本体12aの外周に合成ゴム等のゴム系の材料で形成された滑り止め用のリング12bが装着された構成となっている。ローラー11とローラー12は互いに対向して配置されており、糸3はローラー11とローラー12との間に挟持されている。ローラー11の外周面は、リング12bの外周面に接触していてもよく、糸3の直径以下の間隔でリング12bの外周面から離れていてもよい。
【0021】
糸送り部10は、駆動源13により駆動してローラー11を所定の回転角度ずつ回転させることで、糸3をボビン2から引き出しつつ容器4に向けて一定の長さで、繰り返し自動的に送り出すことができる。
【0022】
本実施の形態では、糸送り部10を、互いに対向するとともに、それぞれ糸3に接触可能に配された複数のローラー11、12を有する構成としたので、ローラー11、12に対する糸3の滑りを低減して、糸3を一定の長さで精度よく送り出すことができる。
【0023】
糸送り部10は、一対のローラー11、12を備えた構成に限らず、互いに対向するとともに、それぞれ糸3に接触可能に配された3つ以上のローラーを備えた構成とすることもできる。
【0024】
また、糸送り部10は、糸3を送り出し可能な構成であれば、ローラーを用いない他の構成としてもよい。
【0025】
糸送り部10は、筒状部材14を有する構成とすることができる。筒状部材14は、筒状部材14を上下方向に貫通する貫通孔14aを有しており、糸3は貫通孔14aに挿通される。筒状部材14は、貫通孔14aの内径を上方から下方に向けて徐々に縮径させるテーパー状部分14bを有しており、筒状部材14の下側の開口14cは上側の開口14dよりも小さくなっている。下側の開口14cの内径は、糸3の直径よりも僅かに大きくなっている。下側の開口14cの内径は、例えば、糸3の直径の110~120%に設定するのが好ましい。本実施の形態では、直径が0.087mmの糸3に対して、下側の開口14cの内径は0.096mmである。
【0026】
筒状部材14は、一対のローラー11、12と容器4との間に配置される。一対のローラー11、12から容器4に向けて送り出された糸3は、筒状部材14の貫通孔14aを通って筒状部材14に案内される。したがって、糸3は、筒状部材14により移動方向が規定される。筒状部材14を通った糸3は、筒状部材14の下側の開口14cから容器4に向けて送り出される。
【0027】
一対のローラー11、12と容器4との間に筒状部材14を設けることにより、一対のローラー11、12よりも容器4の側において糸3の移動方向を規制することができる。したがって、一対のローラー11、12から容器4に向けて送り出された糸3の位置決め精度を高めて、容器4に対する糸3の位置ずれを低減することができる。糸3の容器4に対する位置ずれが低減されることにより、容器4に収納された再生毛包原基5の所定位置に糸3を挿入することができる。
【0028】
糸送り部10は、糸3を加熱するヒーター15を有する構成とすることができる。本実施の形態では、プーリー7と一対のローラー11、12との間にヒーター15が設けられている。
【0029】
ヒーター15は、上下方向に沿って延びる真っ直ぐで細長い金属製のパイプ15aを備えている。糸3は、パイプ15aに挿入され、パイプ15aを通って一対のローラー11、12にまで案内される。
【0030】
ヒーター15はパイプ15aを所定の温度にまで加熱することができる。パイプ15aを加熱するヒーター15の設定温度は、例えば、110~130℃とするのが好ましい。本実施の形態では、ヒーター15の設定温度は120度である。
【0031】
ボビン2に巻き付けられた糸3は巻き癖を有しており、巻き癖が付いたままの糸3を糸送り部10から容器4に向けて送り出すと、糸3が容器4に対して位置ずれを生じやすくなる。
【0032】
これに対し、糸3を加熱するヒーター15を備えた構成とすることで、ボビン2に巻き付けられていた糸3の巻き癖を、加熱によって矯正して低減することができる。特に、ヒーター15を、糸3が挿通される真っ直ぐなパイプ15aを備えた構成とした場合には、糸3を真っ直ぐな状態で加熱することができるので、ボビン2に巻き付けられていた糸3の巻き癖を効果的に低減することができる。糸3の巻き癖を低減することにより、一対のローラー11、12により容器4に向けて送り出された糸3が容器4に対して位置ずれを生じることを低減することができる。なお、パイプ15aの直径は、例えば0.15~1mmに設定されていればよい。本実施形態では、0.34mmに設定されている。
【0033】
ヒーター15とボビン2との間に、糸3に張力を付与する張力付与機構16を設けた構成とすることもできる。張力付与機構16は、例えば、ボビン2とプーリー7との間に配置された一対の固定プーリー16a、16bと、一対の固定プーリー16a、16bの間に配置された可動プーリー16cとを備えた構成とすることができる。可動プーリー16cは、ガイド溝16dに沿って上下方向に移動自在となっている。糸3は、一対の固定プーリー16a、16bに上側から掛け渡されるとともに可動プーリー16cに下側から掛け渡されており、可動プーリー16cの自重によって糸3に所定の張力が付与されるようになっている。
【0034】
なお、ボビン2は、支持体2aに支持されており、一対のローラー11、12の回転によって糸3が引かれたときには支持体2aに対して回転して糸3が引き出されるが、張力付与機構16により付与される張力(可動プーリー16cの自重)によっては回転せず、糸3が引き出されないようになっている。
【0035】
ヒーター15とボビン2との間に張力付与機構16を設けることで、ヒーター15に加熱されている糸3に所定の張力を付与することができる。これにより、糸3を真っ直ぐに張った状態で加熱することができるので、糸3の巻き癖を、効果的に低減することができる。なお、可動プーリー16cは、例えば50g~100gのものを使用すればよい。本実施形態では、70gの可動プーリー16cを使用している。
【0036】
糸挿入装置1は、糸送り部10から送り出された糸3を切断可能な切断部20を有している。本実施の形態では、切断部20はエアニッパーである。エアニッパーである切断部20は、圧縮空気を駆動源として作動する駆動部21と、駆動部21により駆動されて切断動作する一対の刃部22とを有している。図1においては、一方の刃部22のみが示されている。刃部22は、糸送り部10から容器4に向けて送り出された糸3の移動経路上に配置されており、糸送り部10と容器4との間で糸3を切断することができる。
【0037】
本実施の形態では、切断部20としてエアニッパーを用いるようにしたので、糸送り部10から一定の長さで送り出された糸3を、当該長さで自動的に切断することができる。
【0038】
糸挿入装置1は、糸送り部10に対向するとともに、糸送り部10に対して相対的に移動可能な、支持部30を備えている。本実施の形態では、支持部30は、糸送り部10に対して相対的に移動可能なステージ31と、ステージ31上に配されたウェルプレート32とを有している。
【0039】
本実施の形態では、ステージ31は、糸送り部10に対して、糸3の送り出し方向(上下方向)に垂直な面に沿うX軸方向及びこれに直交するY軸方向に相対的に移動可能なX-Yステージ(直交2軸ロボット)として構成されている。ステージ31は、電動モータ等の駆動源により駆動されて、ウェルプレート32とともに糸送り部10に対して相対的にX軸方向及びY軸方向に所定の移動量(複数の容器4の間のピッチに相当する距離)ずつ、自動的に移動することができる。
【0040】
図2に示すように、ウェルプレート32は、縦方向及び横方向に並べて配置された複数のウェル(窪み)32aを備えている。本実施の形態では、ウェルプレート32は、12列、8行で並ぶ、合計96個のウェル32aを備えている。それぞれのウェル32aは、再生毛包原基5を収納する容器4を構成している。すなわち、ウェルプレート32は、複数の容器4を一体に備えた構成となっている。図2においては、便宜上、1つのウェル32a(容器4)のみに符号を付してある。
【0041】
ウェルプレート32は、例えばポリスチレン製とすることができる。この場合、ウェルプレート32は、ポリスチレンの塊を切削加工して形成されたものとしてもよく、成形型を用いてポリスチレンを射出成形して形成されたものとしてもよい。
【0042】
なお、ウェルプレート32は、ポリスチレン製に限らず、例えば、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリレート、ポリアリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、シリコン樹脂、アクリル、PFAなどの他の樹脂材料で形成されたものとすることができ、また、ガラス等の他の材質で形成されたものとすることもできる。
【0043】
図1図6に示すように、容器4は、例えば、円筒状の第1凹部4aと、第1凹部4aの円錐状の底部に設けられた第2凹部4bとを備えた構成とすることができる。第2凹部4bは第1凹部4aよりも小径の円筒状となっており、その底部は円錐状となっている。
【0044】
それぞれのウェル32aないし容器4において、再生毛包原基5は第2凹部4bに収納されている。また、それぞれのウェル32aないし容器4には、所定量の培養液8が収納されている。
【0045】
再生毛包原基5は、それぞれの容器4に、間葉性細胞を複数含む細胞懸濁液を適量充填し、遠心により、複数の間葉性細胞を含む細胞集団を第2凹部4bの底部側に凝集させ、次に、間葉性細胞を複数含む細胞懸濁液の上澄み液を除去した後、それぞれの容器4に、上皮性細胞を複数含む細胞懸濁液を適量充填し、遠心により、第2凹部4bに、間葉性細胞の細胞集団の上方に重ねて複数の上皮性細胞を含む細胞集団を凝集させることで、製造することができる。
【0046】
支持部30は、ウェルプレート32の複数の容器4上に配された蓋部材33を有した構成とすることもできる。図3に示すように、蓋部材33には、複数の容器4のそれぞれの開口(第1凹部4aの開口)よりも小さい複数の孔33aが設けられている。糸送り部10から送り出された糸3は、何れか1つの孔33aを通して容器4の内部に挿入される。なお、図3においては、便宜上、1つの孔33aにのみ符号を付してある。
【0047】
本実施の形態では、蓋部材33は、複数のステンレス製の線材を組み合わせて網目状(メッシュ)に構成され、当該網目が孔33aとなっている。蓋部材33は、例えば接着等の手段により、ウェルプレート32の上面に固定されている。
【0048】
蓋部材33の孔33aの目開きは、複数の容器4のそれぞれの開口よりも小さく、且つ、糸3の直径よりも大きくなっている。孔33aの目開きは、例えば350~550μmとするのが好ましい。本実施の形態では、孔33aの目開きは、460μmである。
【0049】
複数の容器4のそれぞれの開口よりも小さい複数の孔33aが設けられた蓋部材33を複数の容器4上に配した構成とすることにより、糸送り部10から容器4に向けて送り出された糸3が再生毛包原基5に挿入され、切断部20により所定長さに切断されてガイド糸6となったときに、孔33aに挿通されているガイド糸6を蓋部材33の孔33aの縁により支持して、ガイド糸6が再生毛包原基5に対して倒れ込みを生じることを低減することができる。
【0050】
特に、糸3を挿入した直後において、再生毛包原基5を構成する細胞が凝縮前の崩れ易い状態であっても、ガイド糸6を蓋部材33の孔33aの縁により支持して、ガイド糸6が再生毛包原基5に対して倒れ込みを生じることを低減することにより、再生毛包原基5の崩れ、ガイド糸6が再生毛包原基5に対して所定位置から動いてしまうこと等を低減することができる。
【0051】
図4に示す変形例のように、蓋部材33は、容器4の内部に向けて凹む凹み部33bを備えた構成とすることもできる。凹み部33bは、容器4の第1凹部4aの内面に沿って下方に延びる円筒状部分と、円筒状部分の下端に連なる平らな底部分とを有しており、糸3は底部分の孔33aに挿通される。この変形例の蓋部材33によれば、切断部20による糸3の切断位置を容器4に近付けて、ガイド糸6を所望の長さにまで短くすることが可能である。
【0052】
蓋部材33は、複数の線材を組み合わせた網目状の構成に限らず、図5に示すように、合成樹脂材料等により、容器4の開口に嵌合可能な形状に形成されて当該開口を閉塞するとともに、容器4の軸心に対応する位置に孔33aを備えた構成とすることもできる。この場合、孔33aの内径は、例えば0.1~2.0mmとするのが好ましい。また、蓋部材33の孔33aの周りに、ガス通過用の他の孔33cを周方向に間隔を並べて複数設けた構成とすることもできる。
【0053】
図1に示すように、糸挿入装置1は、制御部40を備えている。制御部40は、例えばCPU(中央演算処理装置)、メモリ等の記憶手段を備えたマイクロコンピュータに構成することができる。
【0054】
制御部40は、糸送り部10、切断部20及び支持部30のステージ31に接続されている。制御部40は、支持部30が第1位置にあるときに糸送り部10を作動させ、次いで切断部20を作動させた後、支持部30を糸送り部10に対して相対的に第2位置に移動させて、再度糸送り部10を作動させ、次いで切断部20を作動させるように、糸送り部10、切断部20及びステージ31の作動を制御する。
【0055】
より具体的には、図6(a)に示すように、複数の容器4のうちの1つの容器4が糸送り部10の真下に位置する第1位置にあるときに、制御部40は、駆動源13を作動させてローラー11を所定の回転角度だけ回転させる。ローラー11が回転すると、図6(b)に示すように、糸3が、糸送り部10の筒状部材14から容器4に向けて送り出される。このように、制御部40は、支持部30を構成する容器4に向かって糸3を送り出すように糸送り部10を作動させる。
【0056】
ローラー11が所定の回転角度だけ回転し、所定の長さの糸3が糸送り部10から容器4に向けて送り出されると、図6(c)に示すように、糸3は、蓋部材33の孔33aを通って容器4の内部に侵入し、容器4に収納されている再生毛包原基5に挿入される。
【0057】
このとき、糸3は筒状部材14により案内されて、容器4ないし再生毛包原基5の中心位置に向けて挿入される。
【0058】
次に、制御部40は、図6(c)に示すように、切断部20を作動させる。切断部20が作動すると、駆動部21により2つの刃部22が互いに接近するように移動し、これらの刃部22の間に糸3が挟み込まれる。これにより、再生毛包原基5に挿入された糸3が、所定の長さとなる部分で切断される。切断部20により切断された糸3は、所定の長さのガイド糸6となる。
【0059】
切断部20による糸3の切断は、糸送り部10による糸3の送り出しを停止させた後に行うのが好ましいが、糸送り部10により糸3を送り出しつつ行ってもよい。
【0060】
制御部40は、糸送り部10から容器4に向けて送り出された糸3の下端が、支持部30である容器4の底部分に接触する前に、糸3を切断するように切断部20の作動を制御する構成とすることができる。
【0061】
糸送り部10から容器4に向けて送り出された糸3の下端が容器4の底部分に接触した後、さらに糸送り部10から糸3が送り出されると、容器4の底部分と糸送り部10との間で糸3が座屈して張力が発生し、糸3が切断部20により切断されたときに、当該張力により糸3が容器4から飛び出す虞がある。これに対し、上記のように、糸3の下端が容器4の底部分に接触する前に、糸3を切断するように制御部40が切断部20の作動を制御する構成とすることで、糸3が座屈して張力が発生することを無くして、上記問題が生じることを防止することができる。
【0062】
容器4の内部において、糸送り部10から送り出された糸3が再生毛包原基5に挿入され、切断部20により糸3が切断されることで、ガイド糸6付きの再生毛包原基5が製造される。ガイド糸6は、その下端側において再生毛包原基5に挿入され、再生毛包原基5の中央部を貫通するように配置される。また、ガイド糸6の上方側の部分は、再生毛包原基5から上方に所定の長さだけ突出している。
【0063】
制御部40は、複数の容器4のうちの最初の容器4に対して、糸送り部10を作動させて再生毛包原基5に糸3を挿入し、次いで切断部20を作動させて糸3を切断して、ガイド糸6付きの再生毛包原基5を製造した後、ステージ31をX軸方向に向けて所定距離(隣り合う容器4のピッチに相当する距離)だけ移動するように制御し、ステージ31を糸送り部10に対して相対的に第2位置にまで移動させる。
【0064】
ステージ31が第2位置となると、第1位置において糸送り部10の真下に位置した容器4の隣の容器4が糸送り部10の真下に位置することになる。制御部40は、第2位置において糸送り部10の真下に位置する容器4に対して、前回と同様、糸3を容器4に向けて送り出して容器4に収納されている再生毛包原基5に挿入するように、糸送り部10を作動させ、次いで、糸3を所定長さで切断するように切断部20を作動させる。これにより、当該容器4の内部において、ガイド糸6付きの再生毛包原基5を製造する。
【0065】
制御部40は、以降も同様に、ステージ31を糸送り部10に対して相対的にX軸方向に順次移動させ、1行分の複数の容器4のそれぞれに対して、糸送り部10の作動及び切断部20の作動を繰り返し行って、それぞれの容器4の内部においてガイド糸6付きの再生毛包原基5を製造する。
【0066】
1行分の複数の容器4のそれぞれにおいてガイド糸6付きの再生毛包原基5の製造が完了すると、制御部40は、ステージ31を糸送り部10に対して相対的にY軸方向に移動させる。そして、次の1行分の複数の容器4に対して、ステージ31を相対的にX軸方向に順次移動させ、次の1行分の複数の容器4のそれぞれに対して、糸送り部10の作動及び切断部20の作動を繰り返し行って、それぞれの容器4の内部においてガイド糸6付きの再生毛包原基5を製造する。
【0067】
制御部40は、以降同様に、複数の行の全ての容器4に対して上記工程を行うように、糸送り部10、切断部20及びステージ31の作動を制御し、全ての容器4の再生毛包原基5へのガイド糸6の挿入が完了すると、これらの作動を停止させる。
【0068】
このように、本実施の形態に係る糸挿入装置1によれば、複数の容器4に収納されている複数の再生毛包原基5のそれぞれに、糸3を自動的に挿入するとともに、挿入した糸3を所定の長さで自動的に切断して、複数のガイド糸6付きの再生毛包原基5を自動的に製造することができる。すなわち、本実施の形態に係る糸挿入装置1によれば、一定の長さのガイド糸6を、容器4の内部の再生毛包原基5に安定して自動的に挿入することができる。したがって、ガイド糸6付きの再生毛包原基5の製造を、手作業で行う場合よりも、効率化することができる。
【0069】
切断部20により切断された糸3の下端は、図7に示すように、一対の刃部22により挟まれて切断されることで、下方に向けて尖った山形形状(平鑿形状)となっている。したがって、糸送り部10から送り出された糸3は、その下端において再生毛包原基5に挿入し易くなっている。
【0070】
また、本実施の形態では、第2凹部4bの底部分を円錐形状としているので、下方に向けて尖った山形形状のガイド糸6の下端を、円錐形状の底部分によって案内し易くして、ガイド糸6の下端を容器4の中央部に位置決めすることができる。
【0071】
さらに、本実施の形態では、容器4に蓋部材33を設けたことにより、ガイド糸6の下端側を第2凹部4bの円錐形状の底部分で支持しつつ、ガイド糸6の上端側部分を蓋部材33の孔33aにより支持することができる。これにより、再生毛包原基5に挿入されたガイド糸6の倒れを低減して、ガイド糸6の再生毛包原基5の中心からの位置ずれを低減することができる。
【0072】
図8に示すように、糸挿入装置1は、複数の糸送り部10を有し、複数の糸送り部10が一列に並んで配置された構成とすることもできる。この場合、糸送り部10は、ウェルプレート32にY軸方向に並べて設けられた1列分の複数の容器4(ウェル32a)と同数設けられており、それぞれの糸送り部10が対応する容器4に向けて糸3を送り出すことができる。なお、図示するように、ローラー11、12を、複数の糸送り部10に対応した軸方向長さを有するものとして、各糸送り部10においてローラー11、12を共用化することもできる。
【0073】
それぞれの糸送り部10の下方には、当該糸送り部10に対応した複数の切断部20が設けられている。
【0074】
制御部40は、駆動源13を制御してローラー11、12を回転させることにより、それぞれの糸送り部10から対応する複数の容器4に向けて同時に複数本の糸3を送り出し、次いで、複数の切断部20を作動させることで、これらの糸3を同時に切断することができる。
【0075】
このような変形例の構成により、ウェルプレート32に設けられた1列分の複数の容器4に同時に糸3を送り出すとともに切断して、1列分の複数の容器4において、同時に複数のガイド糸6付きの再生毛包原基5を製造することができる。
【0076】
また、1列分の複数の容器4において同時に複数のガイド糸6付きの再生毛包原基5を製造することができるので、1列分の製造が完了した後、糸送り部10に対して、支持部30をX軸方向に順次相対移動させつつ、糸3の送り出し、切断を繰り返し行うことで、ウェルプレート32に複数列に分けて設けられた全て容器4において、ガイド糸6付きの再生毛包原基5を製造することができる。
【0077】
本開示は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0078】
例えば、前記実施の形態においては、位置が固定された糸送り部10に対してステージ31を移動させることで、複数の容器4を糸送り部10の真下に移動させるようにしているが、これに限らず、支持部30の位置を固定し、糸送り部10を移動させることで、複数の容器4を糸送り部10の真下に移動させる構成としてもよい。
【0079】
また、例えば、容器4の第2凹部4bの中心を制御部40の画像処理でサーチし、その中央に糸3を移動、挿入しても良い。
【0080】
前記実施の形態では、容器4を、第1凹部4aと第2凹部4bとを備えた形状としたが、その形状は種々変更可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 糸挿入装置
2 ボビン
2a 支持体
3 糸
4 容器
4a 第1凹部
4b 第2凹部
5 再生毛包原基
5a 上皮性細胞
5b 間葉性細胞
6 ガイド糸
7 プーリー
8 培養液
10 糸送り部
11 ローラー
12 ローラー
12a ローラー本体
12b リング
13 駆動源
14 筒状部材
14a 貫通孔
14b テーパー状部分
14c 下側の開口
14d 上側の開口
15 ヒーター
15a パイプ
16 張力付与機構
16a 固定プーリー
16b 固定プーリー
16c 可動プーリー
16d ガイド溝
20 切断部
21 駆動部
22 刃部
30 支持部
31 ステージ
32 ウェルプレート
32a ウェル
33 蓋部材
33a 孔
33b 凹み部
33c 孔
40 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8