(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166342
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】2ペースト型歯科用接着性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20221026BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20221026BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20221026BHJP
A61K 6/79 20200101ALI20221026BHJP
A61K 6/889 20200101ALI20221026BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20221026BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/60
A61K6/70
A61K6/79
A61K6/889
A61K6/831
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070438
(22)【出願日】2021-04-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】森本 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】福留 啓志
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089AA10
4C089BA13
4C089BD02
4C089BD10
4C089BD20
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】
シランカップリング材を含むことによりシリカ系セラミックス修復物に対しても高い接着性を有し、且つシリカ系フィラーとシランカップリング材とを共存さても長期間安定に保存できる、歯科用セメントとして好適な、歯科用接着性組成物を提供すること。
【解決手段】
酸性基含有重合性単量体及び酸性基非含有重合性単量体からなる重合性単量体成分(A):100質量部、シリカ系フィラー(B):50~1000質量部、及びシランカップリング材(C):0.1~20質量部を含む歯科用接着性組成物において、前記シランカップリング材(C)の97質量%以上を、ケイ素原子にラジカル重合性官能基を少なくとも1個有する1価のラジカル重合性有機残基及びα位に分枝を有する炭素数3~5の分岐アルコキシ基が結合した有機ケイ素化合物からなるα分枝アルコキシシラン系シランカップリング材とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~30質量部が酸性基含有重合性単量体(a1)であり、残余が酸性基非含有重合性単量体(a2)である重合性単量体成分(A):100質量部、
シリカ系フィラー(B):50~1000質量部、及び
シランカップリング材(C):0.1~20質量部
を含む歯科用接着性組成物であって、
前記シランカップリング材(C)の97質量%以上が、ケイ素原子にラジカル重合性官能基を少なくとも1個有する1価のラジカル重合性有機残基及びα位に分枝を有する炭素数3~5の分岐アルコキシ基が結合した有機ケイ素化合物からなるα分枝アルコキシシラン系シランカップリング材(c1)である、
ことを特徴とする歯科用接着性組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング材(C)100質量部に対して、1.5~300質量部の水(D)を含む、請求項1に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項3】
重合開始剤(E)を更に含んでなる、請求項1又は2に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項4】
互いに分包された、夫々ペースト状の第1剤と第2剤とからなり、両剤を混合することにより請求項1~3の何れか一項に記載の歯科用接着性組成物を調製するための2ペースト型歯科用接着性組成物であって、
第1剤は、酸性基含有重合性単量体(a1)、酸性基非含有重合性単量体(a2)、及びシリカ系フィラー(B)を含み、前記シランカップリング材(C)を含まず、
第2剤は、酸性基非含有重合性単量体(a2)、シリカ系フィラー(B)、及び前記シランカップリング材(C)を含み、酸性基含有重合性単量体(a1)を含まず、
前記歯科用接着性組成物が、酸性基含有重合性単量体(a1)、酸性基非含有重合性単量体(a2)、シリカ系フィラー(B)及び前記シランカップリング材(C)以外の成分を含む場合におけるこれら成分は、第1剤及び/又は第2剤に含まれる、
ことを特徴とする前記2ペースト型歯科用接着性組成物。
【請求項5】
前記第1剤及び/又は前記2剤が、前記シランカップリング材(C)100質量部に対して、1.5~300質量部の水(D)を含む、請求項4に記載の2ペースト型歯科用接着性組成物。
【請求項6】
前記重合性単量体成分(A):100質量部に対して前記α分枝アルコキシシラン系シランカップリング材(c1)を3~12質量部含み、且つ前記第1剤が、前記α分枝アルコキシシラン系シランカップリング材(c1)100質量部に対して、1.8~12質量部の水(D)を含み、前記第1剤が水(D)を含まないか又は10質量部以下含む、請求項5に記載の2ペースト型歯科用接着性組成物。
【請求項7】
請求項1~3の何れか一項に記載の歯科用接着性組成物からなる歯科用セメント。
【請求項8】
請求項4~6の何れか一項に記載の2ペースト型歯科用接着性組成物からなる2ペースト型歯科用セメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療においては、酸性基を有する重合性単量体(以下、「酸性モノマー」ともいう。)を含む重合性単量体成分、フィラー及び重合開始剤を含む接着性硬化性組成物が広く使用されており、フィラーとしては、ペーストの粘度調整や硬化物の審美性向上等、様々な目的で配合されるものであるが、粒子の形状やサイズ等の制御が容易である等の理由によりシリカ系フィラーが用いられることが多い(特許文献1~3参照)。
【0003】
このような接着性硬化性組成物の一つに歯科用セメント(特に歯科用レジンセメント)があり、齲蝕等により損傷を受けた歯質を各種金属や各種セラミックス等で作られた補綴物で修復する場合には、レジンセメントを用いて補綴物と歯質とを接着するのが一般的である。
【0004】
歯科用(レジン)セメント、特に自己接着性レジンセメントは、酸性モノマーを含むため、歯質や金属、ジルコニアに対する接着性を有し、シランカップリング材(γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランやγ―メタクリロキシプロピルトリエトキシシシランなど)を配合してポーセレン等のシリカ系セラミックスからなる修復物に対する接着性を高めることもできる。しかし、シランカップリング材を配合した場合には、シランカップリング材配合が酸性基を有する重合性単量体等の酸成分と共存しないように2剤に分割して保管して使用時に両者を混合する必要があり、このような使用形態とした場合でも保存安定性には課題が残る。すなわち、使用時の操作性等の観点から上記2剤のペースト性状に差が生じないようにするため各剤には夫々フィラーが配合されるところ、フィラーとしてシリカ系フィラーを用いた場合には、長期の保管中にシリカ系フィラーの表面酸点の影響で不活性化してしまうという問題が生じる。
【0005】
このような状況下、シランカップリング材を含む歯科用セメントもいくつか開発されている。たとえば、特許文献4には、「酸性基を有する重合性単量体(a)、酸性基を有しない重合性単量体(b)、重合開始剤(c)、及びフィラー(d)を含み、さらに必要に応じて、光重合開始剤(h)、重合禁止剤、着色剤、蛍光剤、抗菌性物質、紫外線吸収剤、染料、顔料を含み、前記した成分以外の含有量が1.0重量%未満であり、前記重合開始剤(c)が、有機過酸化物、無機過酸化物及び遷移金属錯体からなる群から選ばれる1種以上である第1剤と、酸性基を有しない重合性単量体(b)、塩基性ガラスフィラー及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも1種の塩基性フィラー(e)、重合促進剤(f)、及び下記一般式〔I〕
【0006】
【0007】
(式中、R1は(メタ)アクリロイル基、ビニル基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる官能基を少なくとも1個有する有機残基を表し、R2は水酸基、炭素数1~5のアルキル基又は炭素数1~5のアルコキシ基を表し、R3、R4はそれぞれ水酸基又は炭素数1~5のアルコキシ基を表し、R2~R4の少なくとも一つが炭素数2~5のアルコキシ基である。)
で表されるシランカップリング剤(g)を含む第2剤とから構成される2ペースト型歯科用硬化性組成物」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6854155号公報
【特許文献2】特開昭63-51308号公報
【特許文献3】WO2009/084586号パンフレット
【特許文献4】特許第6346086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4に記載された前記2ペースト型歯科用硬化性組成物では、シランカップリング材を含む第2剤ではフィラーとしてバリウムガラス等の塩基性フィラー(e)を使用する必要があり、たとえば第1剤のフィラー(d)としてシリカ系フィラーを用いた場合には、(第2剤にシリカ系フィラーを一定の範囲内で追加配合したとしても)両剤のペースト性状を一致させることが困難となる。
【0010】
そこで、本発明は、歯科用セメント、特に歯科用レジンセメントとして好適に使用できる歯科用接着性組成物であって、シランカップリング材を含むことによりシリカ系セラミックス修復物に対しても高い接着性を有し、且つシリカ系フィラーとシランカップリング材とを共存させても長期間安定に保存できる歯科用接着性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、1~30質量部が酸性基含有重合性単量体(a1)であり、残余が酸性基非含有重合性単量体(a2)である重合性単量体成分(A):100質量部、シリカ系フィラー(B):50~1000質量部、及びシランカップリング材(C):0.1~20質量部を含む歯科用接着性組成物であって、前記シランカップリング材(C)の97質量%以上が、ケイ素原子にラジカル重合性官能基を少なくとも1個有する1価のラジカル重合性有機残基及びα位に分枝を有する炭素数3~5の分岐アルコキシ基が結合した有機ケイ素化合物からなるα分枝アルコキシシラン系シランカップリング材(c1)である、ことを特徴とする歯科用接着性組成物である。
【0012】
上記形態の歯科用接着性組成物(以下、「本発明の歯科用接着性組成物」ともいう。)は、重合開始剤(D)を更に含有することが好ましく、また、前記シランカップリング材(C)100質量部に対して、1.5~300質量部の水(E)を含む、ことが好ましい。
【0013】
本発明の第二の形態は、互いに分包された、夫々ペースト状の第1剤と第2剤とからなり、両剤を混合することにより本発明の歯科用接着性組成物を調製するための2ペースト型歯科用接着性組成物であって、第1剤は、酸性基含有重合性単量体(a1)、酸性基非含有重合性単量体(a2)、及びシリカ系フィラー(B)を含み、前記シランカップリング材(C)を含まず、第2剤は、酸性基非含有重合性単量体(a2)、シリカ系フィラー(B)、及び前記シランカップリング材(C)を含み、酸性基含有重合性単量体(a1)を含まず、前記歯科用接着性組成物が、酸性基含有重合性単量体(a1)、酸性基非含有重合性単量体(a2)、シリカ系フィラー(B)及び前記シランカップリング材(C)以外の成分を含む場合におけるこれら成分は、第1剤及び/又は第2剤に含まれる、ことを特徴とする前記2ペースト型歯科用接着性組成物である。
【0014】
上記形態の2ペースト型歯科用接着性組成物(以下、「本発明の2ペースト型歯科用接着性組成物」ともいう。)においては、前記第1剤及び/又は前記2剤が、前記シランカップリング材(C)100質量部に対して、1.5~300質量部の水(D)を含む、ことが好ましく、前記重合性単量体成分(A):100質量部に対して前記α分枝アルコキシシラン系シランカップリング材(c1)を3~12質量部含み、且つ前記第1剤が、前記α分枝アルコキシシラン系シランカップリング材(c1)100質量部に対して、1.8~12質量部の水(D)を含み、前記第1剤が水(D)を含まないか又は10質量部以下含む、ことが特に好ましい。
【0015】
本発明の第三の形態は、本発明の歯科用接着性組成物からなる歯科用セメントである。 本発明の第四の形態は、本発明の2ペースト型歯科用接着性組成物からなる2ペースト型歯科用セメントである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の歯科用接着性組成物は、酸モノマー及びシランカップリング材を含むため歯質や金属、ジルコニアといった材料のみならずシリカ系セラミックスに対しても高い接着性を有し、しかも2剤に分ける、具体的には、本発明の2ペースト型歯科用接着性組成物とする、ことによって長期間安定に保管することができるという優れた特長を有する。さらに、2つの剤に分けるに際して、前記シランカップリング材(C)はシリカ系フィラーと共存しても安定であるため、両剤に同種のフィラーを配合することができ、両剤のペースト性状を揃え易い。
【0017】
従って、本発明の歯科用接着性組成物及び本発明の2ペースト型歯科用接着性組成物は、歯科用(レジン)セメントとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記したような優れた効果が得られるのは、シランカップリング材(以下、「SC材」ともいう。)として“ケイ素原子にラジカル重合性官能基を少なくとも1個有する1価のラジカル重合性有機残基及びα位に分枝を有する炭素数3~5の分岐アルコキシ基が結合した有機ケイ素化合物からなる”「α分枝アルコキシシラン系」(「分枝RO系」と略記することもある。)ともいう。)シランカップリング材(SC材)(c1)を使用し、それ以外のシランカップリング材実質的に含有しないようにした点、具体的には使用するSC材の97質量%以上、好ましくは99質量%以上をα分枝アルコキシシラン系SC材とした点にある。
【0019】
上記α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)を用いることにより前記効果が得られる理由について詳細は不明であるが、水が含まれる場合に促進効果が見られることから、本発明者らは、次のような理由によるものと推測している。すなわち、α分枝アルコキシシラン系SC材は、加水分解時の脱離基となるアルコキシが、α位に分枝を有するため嵩高い構造となっているため、フィラー(固体)表面に存在する酸点の影響がブロックされて加水分解・縮合が抑制され、高い保存安定性を示すようになったものと推測される。一方で、液体中に溶解した酸成分のアクセスは阻害されないため、使用時においては酸モノマー等の酸成分の作用により加水分解が起こってα位分枝アルコキシ基が脱離してシラノール基が形成され、このシラノール基がシリカ系フィラーの表面の水酸基と脱水縮合して結合するため、シリカ系セラミックスに対して高い接着性が発現したものと考えられる。
【0020】
なお、特許文献4において、前記式〔I〕で表されるシランカップリング剤(g)として具体的に例示されているものは、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキエトキシ)シラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルトリエトキシシラン、κ-メタクリロキシデシルトリエトキシシラン及び11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリエトキシシランであり、特許文献4にはα分枝アルコキシシラン系SC材に関する記載は存在しない。
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0022】
1.本発明の歯科用接着性組成物の構成成分について
1-1.重合性単量体成分(A)
本発明の歯科用接着性組成物における重合性単量体成分(A)は、酸性基含有重合性単量体(酸性モノマー)(a1)及び酸性基非含有重合性単量体(以下、「非酸性モノマー」ともいう。)(a2)からなる。α分枝アルコキシシラン系SC材活性化及び硬化体の機械強度の観点から重合性単量体(A)の総量100質量部中に占める酸性モノマー(a1)の量は1~30質量部である必要があり、3~20質量部であることが好ましく、5~10質量部であることが特に好ましい。なお、上記酸性モノマー(a1)量を除いた残余の量は、酸性基非含有重合性単量体(a2)の量となる。
【0023】
1-1-1.酸性モノマー(a1)
本発明の歯科用接着性組成物において、酸性モノマー(a1)とは、分子内に、カルボキシル基又はその酸無水物基、ホスホノオキシ基等の酸性基を有する重合性単量体を意味し、それ自体が接着成分として機能するだけでなく、α分枝アルコキシシラン系SC材(C)と反応し活性化する機能を有する。酸性モノマー(a1)としては、従来の歯科用接着性組成物で使用される酸性モノマーが特に制限なく使用でき、中でも重合性の観点から、分子内に酸性基を有する(メタ)アクリレートが好適に使用される。
【0024】
好適に使用できる酸性モノマーを例示すれば、ビス(6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル)ハイドロジェンホスフェート、ビス(10-(メタ)アクリロイルオキシデシル)ハイドロジェンホスフェート、ビス{2-(メタ)アクリロイルオキシエチル}ハイドロジェンホスフェート、ビス{2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル}ハイドロジェンホスフェート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートハロドロジェンホスフェート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートハロドロジェンホスフェート等を挙げることができる。これらの中でも、入手のしやすさの観点から、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス{2-(メタ)アクリロイルオキシエチル}ハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが好ましい。なお、これら酸性モノマーは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
1-1-2.非酸性モノマー(a2)
非酸性モノマー(a2)は分子内に少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基を有し、酸性基を有しないものであれば、特に限定されない。重合性の観点及び生体への安全性の観点からは、(メタ)アクリレートが好適に使用される。好適に使用できる酸性基非含有重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等を挙げことができる。これら非酸性モノマーは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
なお、本発明の歯科用接着性組成物の硬化体に、より優れた機械的強度が要求される場合には、非酸性モノマーとしては、複数のラジカル重合性基を有する二、三または四官能性ラジカル重合性単量体を用いることが好ましい。
【0027】
1-2.シリカ系フィラー(B)
本発明の歯科用接着性組成物において、シリカ系フィラー(B)は組成物の機械強度の向上及びα分枝アルコキシシラン系SC材(C)を活性化させる機能を有する。シリカ系フィラー(B)としては、従来の歯科材料等で使用されているシリカ系フィラーが特に制限なく利用できる。また、シリカ系フィラーは1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0028】
シリカ系フィラーとは、シリカを主成分とする無機粒子である。シリカを主成分とするとは、フィラー中にシリカ成分を60質量%以上含むことを意味し、70質量%以上含まれることが好ましい。
【0029】
シリカ系フィラーの形状は特に限定されず、不定形の粒子であってもよいし、球状の粒子であってもよい。シリカ系フィラーの平均粒径は特に限定されるものではないが、0.01μm~100μm程度が好ましく、0.1μm~50μm程度がより好ましい。
【0030】
特に好適に使用されるシリカ系フィラーを例示すれば、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア等のケイ素を構成元素として含む複合酸化物;タルク、モンモリロナイト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム等のケイ素を構成元素として含む粘土鉱物或いはケイ酸塩類を挙げることができる。これらのシリカ系フィラーは、重合性単量体とのなじみを良くし、得られる硬化体の機械的強度や耐水性を向上させるために、シランカップリング材等の表面処理剤で表面処理して使用されることもある。前記シリカ系フィラーは、化学的安定性に優れており、シランカップリング材等での表面処理が容易である点から好ましく、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア等ケイ素を構成元素として含む複合酸化物が特に好ましい。
【0031】
シリカ系フィラー(B)の含有量は、練和性や硬化体の機械的強度の観点から歯科用材料に含まれる重合性単量体(A)100質量部に対して、50~1000質量部であり、100~300質量部が好ましい。
【0032】
1-3.シランカップリング材(C)
本発明の歯科用接着性組成物は、シリカ系セラミックス修復物に対する接着性を高めるためにシランカップリング材(SC材)(C)を重合性単量体成分(A):100質量部に対して0.1~21質量部、好ましくは1~18質量部が好ましく、より好ましくは3~12.5質量部含む。そして、シリカ系フィラーと共存しても安定に保管できるようにするためにSC材(C)の97質量%以上をα分枝アルコキシシラン系SC材(c1)とする。α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)の含有率が97質量%未満であるときには、高い保存安定性を得ることが困難となる。効果の観点から、SC材中に占めるα分枝アルコキシシラン系SC材(c1)の割合は99質量%以上であることが好ましい。以下に、α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)について詳しく説明する。
【0033】
1-3-1.α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)
α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)とは、ケイ素原子にラジカル重合性官能基を少なくとも1個有する1価のラジカル重合性有機残基及びα位に分枝を有する炭素数3~5の分岐アルコキシ基が結合した有機ケイ素化合物からなるシランカップリング材を意味する。
【0034】
上記1価のラジカル重合性有機残基が有するラジカル重合性官能基として好適なものを例示すれば(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイロキシ基、ビニル基、及び(メタ)アクリルアミド基を挙げることができる。前記1価のラジカル重合性有機残基としては、ビニル基又は、炭素数1~20のアルキル基、特に炭素数3~10の直鎖状アルキル基の末端炭素原子に結合する水素原子がラジカル重合性官能基に置換した基であることが好ましい。前記1価のラジカル重合性有機残基として好適な基を例示すれば、ビニル基、3-(メタ)アクリロキシプロピル基、5-(メタ)アクリロキシペンチル基、7-メタクリロキシへプチル基、9-(メタ)アクリロキシノニル基等を挙げることができる。
【0035】
α位に分枝を有する炭素数3~5の分岐アルコキシ基としては、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、シクロペントキシ基等を挙げることができる。
【0036】
α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)は、ケイ素原子に結合する4つ基のうち2つが前記1価のラジカル重合性有機残基及びα位に分枝を有する炭素数3~5の分岐アルコキシ基であればよく、これら基以外の基(「その他の基」ともいう。)を有していても良い。その他の基を有する場合の当該その他の基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、フェニル基等の炭素数1~6の炭化水素基であることが好ましい。
【0037】
ケイ素原子に結合する「前記1価のラジカル重合性有機残基」をR1とし、その結合数をaとし;ケイ素原子に結合する「炭素数3~5の分岐アルコキシ基」をR2とし、その結合数をbとし;ケイ素原子に結合し得る「その他の基」をR3とし、その結合数をcとすれば、α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)となる有機ケイ素化合物は一般式:Si(R1)a(R2)b(R3)cで表すことができる。但し、式中のaは1~3の整数であり、bは1~3の整数であり、cは0~2の整数であり、且つa+b+c=4の条件を常に満足する。
【0038】
好適に使用できるα分枝アルコキシシラン系SC材(有機ケイ素化合物)を例示すれば、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルジイソプロポキシメチルシラン、ビニルイソプロポキシジメチルシラン、1-(メタ)アクリロキシメチルトリイソプロトシシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリイソプロポキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルトリイソプロポキシシラン、7-(メタ)アクリロキシへプチルトリイソプロポトキシシラン、9-(メタ)アクリロキシノニルトリイソプロポキシシラン、11-(メタ)アクリロキシウンデニルトリイソプロポキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジイソプロポキメチルシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリtert-ブトキシシラン等を挙げることができる。これらの中でも、接着性及び入手しやすさの観点から3-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリtert-ブトキシシランを使用することが好ましい。なお、これらα分枝アルコキシシラン系SC材(有機ケイ素化合物)は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)の配合量は、接着性及び機械強度の観点から歯科用材料に含まれる重合性単量体(A)100質量部に対して、0.1~20質量部であり、1~17質量部が好ましく、3~12質量部が特に好ましい。
【0040】
1-3-2.α分枝アルコキシシラン系SC材以外のSC材(c2)
本発明の歯科用接着性組成物に配合されるSC材に、3質量%以下、好ましくは1質量%以下であれば含まれていてもよい、α分枝アルコキシシラン系SC材以外のSC材(c2)は、このような条件を満足するものであれば、従来の歯科用接着性組成物に配合されている、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシシランの有機ケイ素化合物からなるSC材が特に制限なく使用できる。
【0041】
1-4.その他任意成分
1-4-1.水(D)
本発明の歯科用接着性組成物において、α分枝アルコキシシラン系SC材を加水分解することで接着を促し、α分枝アルコキシシラン系SC材とシリカ系セラミックス修復物の接着強さをより強固なものにするために水(D)を、α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)100質量部に対して、1.5~300質量部、特に1.5~100質量部含有することが好ましく、1.8~12質量部含有することが最も好ましい。
【0042】
1-4-2.非シリカ系フィラー(E)
本発明の歯科用接着性組成物には、フルオロアルミノシリケートガラス、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等の、シリカ系フィラー以外のフィラー(非シリカ系フィラー)を配合しても良い。非シリカ系フィラーの配合量は、α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)の活性化の観点からシリカ系フィラー(B)100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましい。
【0043】
1-4-3.重合開始剤(F)
重合開始剤(F)は、組成物を重合、硬化させる働きを持つ。重合開始剤(F)として、例えば、光重合開始剤、化学重合開始剤、熱重合開始剤が挙げられる。歯科用接着剤やセメントでは、口腔内での操作性の観点から、光重合開始剤と化学重合開始剤が特に用いられる。これらは特に制限されることなく公知のものが使用できる。これら重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0044】
代表的な光重合開始剤として、α-ジケトン類、ケタール類、チオキサントン類、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-アミノアセトフェノン類が挙げられる。また、一般的に、α-ジケトン類およびチオキサントン類は、アミン類と併用されることで重合開始剤として作用する。これら重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0045】
アミン類としては、例えば、芳香族アミン、脂肪族アミンが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0046】
化学重合開始剤としては、酸化剤、還元剤、必要に応じて遷移金属化合物を組み合わせた化学重合開始剤が挙げられる。
【0047】
酸化剤としては有機過酸化物及び無機過酸化物が挙げられる。これら酸化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0048】
代表的な有機過酸化物として、ヒドロペルオキシド、ペルオキシエステル、ケトンペルオキシド、ペルオキシケタール、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。有機過酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
無機過酸化物としては、ペルオキソ二硫酸塩及びペルオキソ二リン酸塩などが挙げられる。これらの中でも、無機過酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
還元剤としては、例えば、アミン類、芳香族スルフィン酸塩、チオ尿素化合物、アリールボレート化合物などが挙げられる。還元剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0051】
遷移金属化合物としては、第4周期遷移金属化合物が挙げられる。
【0052】
第4周期遷移金属化合物において、第4周期の遷移金属とは、周期表第4周期の3~12族の金属元素であり、好ましくは、バナジウム(V)、銅(Cu)である。これらの遷移金属元素は、各々が複数の価数を取りうるが、安定に存在できる価数のもの、例えば、V(III~V)、Cu(I、II)の化合物が、有機過酸化物および還元剤と組み合わされて化学重合開始剤として使用される。
【0053】
これらの中でも、+IV及び/又は+V価のバナジウム化合物または+I及び/+II価の銅化合物がより好ましく、最も好ましいものは+IV価のバナジウム化合物または+II価の銅化合物等を挙げることができ、これらは、単独でも2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0054】
2.本発明の歯科用接着性組成物の使用形態について
前記したように、シランカップリング材として実質的にα分枝アルコキシシラン系SC材(c1)のみを使用した場合においても、酸性モノマーと共存させて保管した場合には、良好な保存安定性を得ることはできない。このため、本発明の歯科用接着性組成物を構成する各成分、特にα分枝アルコキシシラン系SC材(c1)と酸性モノマー(a1)とが、互いに化学的に接触不可能な状態に維持された2つ以上の部分組成物の組合せとし、使用時にこれらを混合して用いることが好ましい。
【0055】
なお、本願明細書において、「化学的に接触不可能な状態」とは、(1)一の組成物と他の組成物とが「物理的に接触不可能な状態」である場合、あるいは、(2)一の組成物と他の組成物とが物理的に接触可能な状態であっても、一の組成物と他の組成物との間で一方向あるいは双方向の分子拡散が生じない場合を意味する。後者(2)の具体例としては、組成物を保管する際の温度環境において、一の組成物と他の組成物とが完全に固化した状態で互いに接触している状態などが挙げられる。
【0056】
また、本願明細書において、「物理的に接触不可能な状態」とは、一の組成物と他の組成物とが両者間での分子拡散を阻害する阻害部材によって分離されている状態を意味する。阻害部材としては、一般的には、容器や袋の素材として好適に用いられる樹脂、ガラス、金属、セラミックスなどの固体部材が用いられる。「物理的に接触不可能な状態」の典型例としては、たとえば、外気および外光を遮断する容器内に密封された状態で1種類の組成物が保管されている状態が挙げられる。
【0057】
上記組成物を構成する各成分が、互いに化学的に接触不可能な状態に維持された2つ以上の部分組成物の組合せとする場合、各部分組成物に配分する各成分としては、混合させることで反応が進行する成分同士が各々の部分組成物に振り分けられる様にすることが、保存安定性の点から好ましい。
【0058】
なお、実用上の観点からは、本発明の歯科用接着性組成物は2つの部分組成物の組合せから構成されること、すなわち本発明の2ペースト型歯科用接着性組成物とすることが好ましい。
【0059】
以下、本発明の2ペースト型歯科用接着性組成物について説明する。
【0060】
3.本発明の2ペースト型歯科用接着性組成物
本発明の2ペースト型歯科用接着性組成物は、互いに分包された、夫々ペースト状の第1剤と第2剤とからなり、両剤を混合することにより本発明の歯科用接着性組成物を調製するための2ペースト型歯科用接着性組成物である。
【0061】
そして、第1剤は、酸性基含有重合性単量体(a1)、酸性基非含有重合性単量体(a2)、及びシリカ系フィラー(B)を含み、前記シランカップリング材(C)を含まない第一の部分組成物からなる。
【0062】
また、第2剤は、酸性基非含有重合性単量体(a2)、シリカ系フィラー(B)、及び前記シランカップリング材(C)を含み、酸性基含有重合性単量体(a1)を含まない第二の部分組成物からなる。
【0063】
なお、本発明の歯科用接着性組成物が、その他任意成分、すなわち、酸性基含有重合性単量体(a1)、酸性基非含有重合性単量体(a2)、シリカ系フィラー(B)及び前記シランカップリング材(C)以外の成分、を含む場合におけるこれら成分は、保存安定性等を勘案して適宜、第1剤及び/又は第2剤(第一の部分組成物及び/又は第二の部分組成物)に含まれるようにする。
【0064】
このとき、その他任意成分として水(D)を含有する場合には、第1剤に配合することが好ましく、シリカ系セラミックスに対する接着性がより高くなり、長期間保管後にも高い接着性を維持することができるという理由から、第1剤には、水(D)を、α分枝アルコキシシラン系SC材(c1)100質量部に対して、1.8~12質量部配合することが好ましい。なお、第2剤に水を多く配合すると接着強度が低下する傾向があるので、水は配合しないことが好ましく、配合する場合でも10質量部以下とすることが好ましい。
【0065】
また、その他任意成分としてその他のフィラー(E)を含む場合には、第1剤又は第2剤(第一の部分組成物又は第二の部分組成物)の何れか一方のみ配合しても良く、両方に分けて配合してもよい。
【0066】
更に、その他任意成分として重合開始剤(F)を配合する場合には、保管中に重合性単量体成分が重合しないように注意する必要がある。具体的には、重合開始剤(F)が光重合開始剤である場合には、モノマー成分(A)と共存させても、たとえば遮光する等して活性化しない状態とすれば問題ないが、化学重合化し剤を使用する場合には注意が必要である。通常、非酸性モノマー(a2)は第1剤及び第2剤の両方に含まれるので、化学重合開始剤としては複数の成分で構成され、各成分単独ではモノマー成分(A)に対して重合活性を有しないものを使用し、さらに第1剤及び第2剤中でも重合が起こらないようにして、これら成分を分割する必要がある。たとえば、化学重合開始剤として遷移金属化合物の共存下で酸化剤と還元剤とが作用して重合活性を示すようになる化学重合開始剤を使用する場合には、保存安定性の観点から遷移金属化合物は第1剤のみに、還元剤は第2剤のみ配合する必要がある。このとき酸化剤は、第1剤のみに配合することが好ましいが、種類によっては第2剤に配合することもできる。
【0067】
混合後の組成物全体に対する第一の部分組成物及び第二の部分組成物に振り分ける各組成物の割合は、各組成物に配合される各成分の配合量に応じて適宜決定すれば良い。具体的には、振り分けた後の各部分組成物の取り扱いやすさや、該組成物をキット化する際のパッケージ化の容易性等を勘案して適宜決定すれば良い。両成分の質量或いは体積があまりに異なる場合、取扱いにくくなったり、製品パッケージ化が困難となる場合もあり得るため、組成物を構成するために使用される第一の部分組成物と第二の部分組成物の質量比或いは体積比は、第一の部分組成物:第二の部分組成物=1/5~5/1の範囲とすることが好ましく、1/3~3/1の範囲とすることがより好ましく、1/1とすることが特に好ましい。シリカ系フィラー、及び重合性単量体の両成分への配分比を調整することで第一の部分組成物と第二の部分組成物の質量比或いは体積比を上記範囲内に収めることが可能である。
【実施例0068】
以下に本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものでは無い。
【0069】
1.各種原材料
まず、実施例及び比較例において歯科用接着性組成物調製する際に使用した各構成成分となる原材料について説明する。
【0070】
(1)重合性単量体(モノマー)(A)成分
(1-1)酸性モノマー(a1)
MDP;10-メタクリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
SPM;2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス{2-メタクリロイルオキシエチル}ハイドロジェンホスフェートの1:2の混合物。
【0071】
(1-2)非酸性モノマー(a2)
BisGMA;2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン
D-2.6E;2,2-ビス(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
UDMA;2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
HEMA;2-ヒドロキシエチルメタクリレート。
【0072】
(2)フィラー成分
(2-1)シリカ系フィラー(B)
特許3277502号公報に開示されている方法に準じて、テトラエチルシリケート及びテトラブチルジルコネートを用いて、下記シリカジルコニア充填剤を合成した。
F1;平均粒径3μmのシリカジルコニア充填材(シリカ含有量80質量%)
F2;平均粒径0.2μmのシリカジルコニア充填材(シリカ含有量80質量%)。
【0073】
(2-2)非シリカ系フィラー(E)
G1:平均粒径3μmのガラス充填剤(GM27884、SHOTT社製、シリカ含有量55質量%)
G2:平均粒径0.4μmのガラス充填剤(GM27884、SHOTT社製、シリカ含有量55質量%)
G3:平均粒径3μmのガラス充填剤(G018-117、SHOTT社製、シリカ含有量50質量%)
G4:平均粒径0.4μmのガラス充填剤(G018-117、SHOTT社製、シリカ含有量50質量%)
G5:平均粒径3μmのガラス充填剤(V-124-1125を粉砕処理したもの、ESSTECH社製、シリカ含有量57%)
G6:平均粒径0.4μmのガラス充填剤(V-124-1125を粉砕処理したもの、ESSTECH社製、シリカ含有量57%)。
【0074】
(3)シランカップリング材(SC材)(C)成分
(3-1)α分枝アルコキシシラン系(分枝RO系)SC材(c1)
MPTiPS;3-メタクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン
MPDiPMS;3-メタクリロキシプロピルジイソプロポキメチルシシラン
MPTtBS;3-メタクリロキシプロピルトリtert-ブトキシシラン
MHTiPS;7-メタクリロキシへプチルトリイソプロポトキシシラン。
【0075】
(3-2)α分枝RO系以外のSC材(その他SC材)(c2)
MPTES;γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン
MPTMS;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシシラン。
【0076】
(4)重合開始剤(F)成分
CuA;酢酸銅(II)一水和物
CuAA;アセチルアセトン銅(II)
BMOV;ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)
VOAA;酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)
BPT;t-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート
TMBPH;1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド
CHP;クメンヒドロペルオキシド
CQ;カンファーキノン
PhBNa;テトラフェニルホウ素のナトリウム塩
PhBTEOA;テトラフェニルホウ素のトリエタノールアミン塩
AcTU;アセチルチオ尿素
BzTU;ベンゾイルチオ尿素
DMBE;4-ジメチルアミノ安息香酸エチル。
【0077】
(5)モノマー組成物
各実施例及び比較例において第1剤及び第2剤を調製する際に使用する、モノマー成分(A)と重合開始剤成分(F)をモノマー組成物として表1及び表2に示す組成の第1剤用モノマー組成物I-1~I―15及び第2剤用モノマー組成物II-1~II―6を調製して使用した。なお表中の括弧内の数字は質量部を表し、「↑」は同上を意味する。また、X(x)/Y(y)の表記は、X:x質量部とY:y質量部の混合物であることを意味する。
【0078】
【0079】
【0080】
2.実施例及び比較例
実施例1
(1)2ペースト型歯科用接着性組成物(第一剤および第二剤)の調製
第1剤用モノマー組成物I-1及び第2剤用モノマー組成物II-1を用い、以下に示す組成の第一部分組成物及び第二部分組成物(何れもモノマー成分及びフィラー成分を含むペースト状組成物)を調製し、夫々を第1剤及び第2剤とした。
【0081】
[第一剤(第一部分組成物)の組成]
・モノマー(A)成分
酸性モノマー(a1):MDP 10質量部、
非酸性モノマー(a2):HEMA 10質量部、D-2.6E 10質量部及び3G 20質量部の混合物
・フィラー成分
シリカ系フィラー(B):F1 54質量部及びF2 36質量部の混合物、
・重合開始剤(F)成分
BPT 2質量部及びCuA 0.02質量部
【0082】
[第2剤(第二部分組成物)の組成]
・モノマー(A)成分
非酸性モノマー(a2):BisGMA 30質量部及び3G 20質量の混合物
・フィラー成分
シリカ系フィラー(B):F1: 54質量部及びF2 36質量部の混合物
・シランカップリング材成分
α分枝RO系SC材(c1):MPTiPS 3質量部、
・重合開始剤(F)成分
PhBNa 2質量部及びAcTU 1質量部。
【0083】
なお、上記組成は第1剤と第2剤に含まれる(A)成分の総量100質量部となる様に表している。また、第1剤は、(a1)、(a2)及(F)を混合し、完全に溶解させた後、シリカ系フィラー(B)を混合して調製し、第二剤は、(b2)、(C)、及び(F)を混合し、完全に溶解させた後、(B)を混合して調製した。
【0084】
(2)歯科用接着性組成物の調製
上記の様にして調製した第一剤および第二剤を質量比1:1で混合して、評価対象となる歯科用接着性組成物を調製した。
【0085】
(3)歯科用接着性組成物の調製の評価方法
(2)で得られた歯科用接着性組成物の接着強度を評価した。評価に際しては、第一剤および第二剤の保存安定性を調べる為に、試料として(a)第一剤および第二剤を調製してから3時間以内のものを用いて調製した歯科用接着性組成物からなる試料(「調製直後」試料)と、(b)第一剤および第二剤を調製してから夫々別容器に填入した状態にて、50℃で2週間保管した後に、これらを用いて調製した歯科用接着性組成物からなる試料(「保管後」試料)の2種の試料について測定を行った。また、接着強度は、シリカ系セラミックスであるポーセレンに対する接着強さとして次のようにして測定した。
【0086】
先ず、ポーセレンを注水下、#800の耐水研磨紙で研磨し、平面を削り出した。この平面に圧縮空気を吹き付けて乾燥させた後、直径3mmの円孔の開いた両面テープをそれぞれ固定し、接着面積を規定した。続いて直径8mmの円柱状の金属アタッチメントに、前記方法で調製した歯科用接着性組成物を塗布し、両面テープの円孔と金属アタッチメントの面が同心円状になるように、歯科用接着性組成物の塗布面をポーセレン面に圧接した。この試験サンプルを37℃の水中にて24時間浸漬した後、万能試験機(AG-I型、島津製作所社製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/mmの条件で荷重を開始し、測定サンプルが破断するまで試験サンプルに荷重を加え、最大荷重から下記式(2)を用いて接着強さを求めた。
【0087】
・式(2) 接着強さ(MPa)=最大荷重(N)/被着面積(mm2)。
【0088】
(4)評価結果
上記した評価方法に基づいて評価を行った結果、ポーセレンに対する接着強さは、調製直後で15.4(MPa)であり、保管後で13.2(MPa)であった。この結果から、実施例1の歯科用接着性組成物は、優れた接着性及び保存安定性を有すことが判った。
【0089】
実施例2~35及び比較例1~10
実施例1と同様の方法で、表3~5に示す組成の第1剤及び第2剤を調製した。なお、これら表においても、表記の仕方は表1及び2と同様である。また、表3~5における各実施例及び比較例で使用される第1剤用モノマー組成物及び第2剤用モノマー組成物の各成分の質量部については、表1及び表2の質量部がそのまま適用でき、第1剤と第2剤に含まれる(A)成分の総量100質量部となっている。
【0090】
このようにして調製した第1剤及び第2剤を用い、実施例1と同様の方法で歯科用接着性組成物の調製の評価を行った。結果を表3~5に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
表3及び表4に示されるように、本発明で示される構成を満たしたように配合した実施例1~35では、調製直後及び保管後の接着強さが10MPa以上と高い接着強度を示した。特に、分枝RO系SC材(c1)の配合量がモノマー(A)100質量部に対して3~12質量部であり、且つ第1剤に水(D)を、分枝RO系SC材(c1)100質量部に対して、1.8~12質量部配合した場合には、調製直後の接着強さが20MPa以上と高く、保管後でも調製直後とほぼ同等の接着強度を示した。
【0095】
これに対し、本発明で示される構成を満たさないように配合した比較例1~10では表5に示されるように良好な結果が得られていない。すなわち、比較例1~4は、酸性基含有重合性単量体、またはSC材の含有量が本発明で示される構成を満たさない例であり、低い接着強さを示した。比較例5、6は、分枝RO系SC材(c1)以外のSC材(c2)であるMPTESやMPTMSのみを含む例であり、保存後に低い接着強さを示した。比較例7は、SC材中の分枝RO系SC材(c1)の含有率が下限値以下の例であり、保存後に低い接着強さを示した。比較例8~10は、シリカ系フィラーを用いない例であり、初期及び保存後に低い接着強さを示した。
上記形態の2ペースト型歯科用接着性組成物(以下、「本発明の2ペースト型歯科用接着性組成物」ともいう。)においては、前記第1剤及び/又は前記2剤が、前記シランカップリング材(C)100質量部に対して、1.5~300質量部の水(D)を含む、ことが好ましく、前記重合性単量体成分(A):100質量部に対して前記α分枝アルコキシシラン系シランカップリング材(c1)を3~12質量部含み、且つ前記第1剤が、前記α分枝アルコキシシラン系シランカップリング材(c1)100質量部に対して、1.8~12質量部の水(D)を含み、前記第2剤が水(D)を含まないか又は10質量部以下含む、ことが特に好ましい。