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特開2022-166365風力発電装置において長尺物を昇降させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166365
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】風力発電装置において長尺物を昇降させる方法
(51)【国際特許分類】
   F03D 13/10 20160101AFI20221026BHJP
   B66C 1/62 20060101ALN20221026BHJP
   B66C 13/08 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
F03D13/10
B66C1/62 C
B66C13/08 H
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071524
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】坂上 達也
(72)【発明者】
【氏名】山田 智一
(72)【発明者】
【氏名】緑川 洋祐
【テーマコード(参考)】
3F004
3H178
【Fターム(参考)】
3F004EA04
3H178AA03
3H178AA22
3H178AA43
3H178BB77
3H178CC14
3H178CC25
3H178DD33X
3H178DD67X
(57)【要約】
【課題】風力発電装置において長尺物を昇降させることが可能な方法を提供する。
【解決手段】回転可能に設けられたロータヘッドを備える風力発電装置において長尺物を昇降させる方法であって、ロータヘッドは、ロータヘッドの内部空間とロータヘッドの外部とを連通する開閉可能な開口部を含み、内部空間には、長尺物を吊るすための長尺の治具が設けられており、この方法は、内部空間において、開口部に近づくように、又は、開口部から離れるように、長尺物を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させる水平移動ステップと、内部空間内の開口部の鉛直方向上方で、長尺物の姿勢を水平姿勢と鉛直姿勢との間で変化させる姿勢変化ステップと、長尺物を鉛直姿勢の状態で治具から吊るしながら昇降させる昇降ステップとを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に設けられたロータヘッドを備える風力発電装置において長尺物を昇降させる方法であって、
前記ロータヘッドは、前記ロータヘッドの内部空間と前記ロータヘッドの外部とを連通する開閉可能な開口部を含み、前記内部空間には、前記長尺物を吊るすための長尺の治具が設けられており、
前記方法は、
前記内部空間において、前記開口部に近づくように、又は、前記開口部から離れるように、前記長尺物を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させる水平移動ステップと、
前記内部空間内の前記開口部の鉛直方向上方で、前記長尺物の姿勢を前記水平姿勢と鉛直姿勢との間で変化させる姿勢変化ステップと、
前記長尺物を前記鉛直姿勢の状態で前記治具から吊るしながら昇降させる昇降ステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記長尺物は、前記治具から吊るされた状態で前記水平移動ステップ及び前記姿勢変化ステップが行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
鉛直方向下方を向くようにして前記開口部を開く開口ステップをさらに含み、
前記昇降ステップにおいて前記長尺物を昇降させる際に、前記開口部を介して前記長尺物を前記内部空間から前記ロータヘッドの外部へ取り出し、又は、前記ロータヘッドの外部から前記内部空間内へ挿入させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記風力発電装置は、前記ロータヘッドを回転可能に支持するナセルを備え、
前記方法は、前記ナセル内に昇降機を設置する設置ステップをさらに含み、
一端が前記長尺物に連結したワイヤが、少なくとも1つの滑車を介して前記ワイヤの他端が前記昇降機に連結され、前記昇降機が前記ワイヤを巻き取る、又は、巻き戻すことにより、前記昇降ステップが行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記内部空間に前記治具を取り付ける取り付けステップをさらに含み、
前記取り付けステップは、
前記内部空間に設けられた支持部に、長尺の前記治具の一端を回動可能に取付けることと、
前記一端を中心に前記治具の他端を回動させて、前記治具を水平な状態で固定することと
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記治具は、上方及び左右から吊られるようにして水平な状態で固定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記長尺物は、前記内部空間内に設けられる油圧シリンダである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記風力発電装置は、ロータヘッドが回転しないように固定する固定装置を備え、
前記方法は、
前記内部空間内に設けられている前記油圧シリンダを前記開口部に近づくように前記水平方向に沿って移動させる前に、前記油圧シリンダが最も低い位置になる位置で前記ロータヘッドを前記固定装置によって固定する固定ステップ、又は、
前記昇降ステップによって前記油圧シリンダが上昇される前に、前記内部空間内で前記油圧シリンダが設けられる箇所が最も低い位置になる位置で前記ロータヘッドを前記固定装置によって固定する固定ステップ
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水平移動ステップにおいて、前記油圧シリンダは最も縮んだ状態で前記水平方向に沿って移動される、請求項7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風力発電装置において長尺物を昇降させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、風力発電装置において、ロータヘッド内の機器を昇降させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4551491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法は、ロータヘッド内の機器として油圧シリンダのような長尺物を想定していない。ロータヘッド内の空間は狭いため、このような長尺物をロータヘッドから出して地上に降ろしたり、地上からロータヘッドへ向かって上昇させてロータヘッド内に収容したりする際に、長尺物でない機器を昇降させる場合とは違った作業上の制約を受けることになる。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、風力発電装置において長尺物を昇降させることが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る方法は、回転可能に設けられたロータヘッドを備える風力発電装置において長尺物を昇降させる方法であって、前記ロータヘッドは、前記ロータヘッドの内部空間と前記ロータヘッドの外部とを連通する開閉可能な開口部を含み、前記内部空間には、前記長尺物を吊るすための長尺の治具が設けられており、前記方法は、前記内部空間において、前記開口部に近づくように、又は、前記開口部から離れるように、前記長尺物を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させる水平移動ステップと、前記内部空間内の前記開口部の鉛直方向上方で、前記長尺物の姿勢を前記水平姿勢と鉛直姿勢との間で変化させる姿勢変化ステップと、前記長尺物を前記鉛直姿勢の状態で前記治具から吊るしながら昇降させる昇降ステップとを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示の方法によれば、ロータヘッドの内部空間において、長尺物を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させることと、ロータヘッドの内部空間においてロータヘッドに形成された開口部の上方で、長尺物の姿勢を水平姿勢と鉛直姿勢との間で変化させることと、長尺物を鉛直姿勢の状態で治具から吊るしながら昇降させることにより、風力発電装置において長尺物を昇降させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る方法が適用される風力発電装置の構成図である。
図2】本開示の一実施形態に係る方法が適用される風力発電装置のロータヘッド及びナセルの概略断面図である。
図3】本開示の一実施形態に係る方法において長尺物を降ろす場合のフローチャートである。
図4】本開示の一実施形態に係る方法において長尺物を上昇させる場合のフローチャートである。
図5】本開示の一実施形態に係る方法において治具の取り付けステップを説明するための図である。
図6】治具を水平状態に固定する一例を示す模式図である。
図7】本開示の一実施形態に係る方法における水平移動ステップの動作を説明するための図である。
図8】本開示の一実施形態に係る方法における水平移動ステップの動作を説明するための図である。
図9】本開示の一実施形態に係る方法における姿勢変化ステップの動作を説明するための図である。
図10】本開示の一実施形態に係る方法における姿勢変化ステップの動作を説明するための図である。
図11】本開示の一実施形態に係る方法における下降ステップの動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態による方法、すなわち、風力発電装置において長尺物を昇降させる方法について、図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
<本開示の一実施形態に係る方法が適用される風力発電装置の構成>
図1に示されるように、風力発電装置1は、基礎2上に設けられるタワー3と、タワー3の上端に設けられるナセル4と、ナセル4の前端部側に回転可能に支持されるロータヘッド5とを備えている。ロータヘッド5には、その回転軸線周りに放射状に複数の風車翼6が取り付けられている。尚、ロータヘッド5に取り付けられる風車翼6の個数は任意である。
【0011】
風力発電装置1には、ロータヘッド5が回転しないように固定する固定装置7が設けられている。固定装置7の構成は特に限定するものではなく、ロータヘッド5の主軸に対するブレーキ装置や、ロータヘッド5の回転を止めることのできるブロックピンや、風車翼6のピッチを調整する装置等であってもよい。風車翼6のピッチを調整する装置は、風車翼6のピッチをフェザー位置にすることにより、風によってロータヘッド5が回転しないようになるので、固定装置7として機能することができる。また、固定装置7として、これら単独の構成ではなく、これらのうちの2つ以上を組み合わせた構成でもよい。
【0012】
図2に示されるように、ロータヘッド5は、風車翼6が取り付けられるとともに主軸(図示せず)と連結されたロータヘッド本体11と、ロータヘッド本体11の周囲に配置されるとともにロータヘッド5と一体に回転可能に構成されたカプセル12とを備えている。カプセル12の内部に、ロータヘッド5の内部空間10(ロータヘッド本体11の内部空間も含む)が構成されている。内部空間10には、各風車翼6のピッチを調整する装置としての油圧シリンダ8が設けられている。油圧シリンダ8が内部空間10に設けられているときは、油圧シリンダ8は、その長手方向が水平方向に沿って延びる姿勢、すなわち水平姿勢の状態で設けられている。ただし、本開示における「水平方向」及び「水平姿勢」の「水平」について、完全な水平に限定するものではなく、完全な水平に対してわずかに傾いた状態も含むこととする。
【0013】
カプセル12は、内部空間10とロータヘッド5の外部とを連通する開口部13が、少なくとも風車翼6すなわち油圧シリンダ8の個数に相当する個数だけ設けられている。ただし、図2には1つの開口部13のみが描かれている。各開口部13は、蓋17によって開閉可能である。ロータヘッド5を回転させて油圧シリンダ8の1つが最も低い位置となったときに、開口部13の1つが鉛直方向下方に向くように各開口部13が構成されている。
【0014】
後述する方法によって油圧シリンダ8を昇降させる際には、内部空間10において、ロータヘッド本体11の予め設けられた支持部11aに長尺の治具14が設けられる。治具14は、鉛直方向下方に向く開口部13の鉛直方向上方に位置するとともに水平方向に沿って延びるように(すなわち水平姿勢に)設けられる。治具14を支持部11aに設ける方法と、治具14が水平姿勢に固定される構成とについては後述する。
【0015】
ナセル4内にはクレーン9が設けられている。クレーン9は、前後方向、具体的には、ロータヘッド5に対して近づく方向又は離れる方向、すなわち図2において左右方向に移動可能に設けられている。ナセル4内においてクレーン9の鉛直方向下方には、後述する方法で使用されるウィンチ等の昇降機16及びその架台15の付け外しが可能になるように設けられる。
【0016】
<本開示の一実施形態に係る方法>
次に、本開示の一実施形態に係る方法、すなわち、風力発電装置1において長尺物を昇降させる方法について説明する。この方法で昇降される長尺物については特に限定しないが、以下では、油圧シリンダ8を長尺物の一例として説明する。
【0017】
まず、この方法の概要を説明する。この方法は、内部空間10に設けられている油圧シリンダ8を、開口部13を介してロータヘッド5の外部に出して地上に降ろす方法(下降方法)と、地上の油圧シリンダ8を上昇させて、開口部13を介して内部空間10に挿入し、内部空間10に設置する方法(上昇方法)とを含んでいる。前者のフローチャートを図3に示し、後者のフローチャートを図4に示す。
【0018】
図3に示されるように、下降方法は、ナセル4内に架台15を取り付けて架台15に昇降機16を設置する設置ステップS1と、ロータヘッド5が回転しないように固定する固定ステップS2と、ロータヘッド本体11の支持部11aに治具14を取り付ける取り付けステップS3と、開口部13の1つが鉛直方向下方を向くようにしてその開口部13を開く開口ステップS4とを含んでいる。固定ステップS2の後に取り付けステップS3及び開口ステップS4を行う必要があることを除けば、これらのステップの順序は適宜変更することが可能である。
【0019】
下降方法は、設置ステップS1~開口ステップS4を行った後に、内部空間10内において開口部13に近づくように油圧シリンダ8を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させる水平移動ステップS5と、水平移動ステップS5の後に、内部空間10内の開口部13の上方で油圧シリンダ8の姿勢を水平姿勢から鉛直姿勢へ変化させる姿勢変化ステップS6と、姿勢変化ステップS6の後に、油圧シリンダ8を鉛直姿勢の状態で治具14から吊るしながら下降させる下降ステップS7(後述する上昇ステップS11とともに「昇降ステップ」と定義する)とをさらに含んでいる。尚、上述した開口ステップS4は、水平移動ステップS5の後、又は、姿勢変化ステップS6の後に行うようにしてもよい。
【0020】
上昇方法は基本的には、上述した下降方法の手順を逆の順序で行うものであり、図4に示されるように、地上にある油圧シリンダを上昇させて、開口部13を介して油圧シリンダ8を内部空間10に挿入する上昇ステップS11と、上昇ステップS11の後に、油圧シリンダ8の姿勢を鉛直姿勢から水平姿勢へ変化させる姿勢変化ステップS12と、姿勢変化ステップS12の後に、内部空間10内において開口部13から離れるように油圧シリンダ8を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させて、内部空間10の適切な位置に油圧シリンダ8を設置する水平移動ステップS13とを含んでいる。尚、上昇ステップS11の前に、ロータヘッド5が回転しないように固定されていない場合は、上昇ステップS11の前に、内部空間10で油圧シリンダ8が設けられる箇所が最も低い位置になる位置でロータヘッド5を固定装置7によって固定する固定ステップS9を行う必要がある。また、上昇ステップS11の前に、開口部13が鉛直方向下方を向くように開いていない場合には、開口部13を開く開口ステップS10を行う必要がある。
【0021】
上昇方法は、上昇ステップS11~水平移動ステップS13を行った後に、開口部13を閉鎖する閉鎖ステップS14と、ロータヘッド本体11の支持部11aから治具14を取り外す取り外しステップS15と、ロータヘッド5の固定を解除する固定解除ステップS16と、ナセル4内の昇降機16及び架台15を撤去する撤去ステップS17とをさらに含んでいる。尚、閉鎖ステップS14は、上昇ステップS11の後、又は、姿勢変化ステップS12の後に行うようにしてもよい。
【0022】
次に、下降方法の詳細を説明する。設置ステップS1では、図2に示されるように、クレーン9によって地上から昇降機16をナセル4内に上昇させ、ナセル4内に取り付けられた架台15に昇降機16を設置する。固定ステップS2では、下降させる油圧シリンダ8が最も低い位置になる位置でロータヘッド5停止させ、固定装置7(図1参照)によってロータヘッド5をその位置に固定する。
【0023】
取り付けステップS3では、図5に示されるように、治具14の長手方向の一端14aにフランジ21が設けられ、支持部11aに設けられたフランジ22とフランジ21とをピン等で連結することにより、支持部11aに治具14の一端14aを回動可能に取付ける。治具14の上面14cの一端14a側に設けられたシャックル23と、カプセル12の内周面12aとロータヘッド本体11とを連結するサポート材35に固定されたシャックル24とをワイヤ25で連結する。ワイヤ25を引っ張ることにより、治具14をその一端14aすなわちピンを中心として治具14の他端14bを回動させて、治具14を水平な状態にする。水平器を使用して、治具14が水平であることを確認することが好ましい。これにより、治具14を適切に水平な状態にすることができる。この水平な状態を維持するように、治具14の上面14cにおいてシャックル23よりも他端14b側に設けられた取り付け部26とシャックル24とを連結するようにワイヤ25を繋ぎ変える。すなわち、ワイヤ25によって治具14を吊ることで治具14を水平状態に維持する。ただし、ワイヤ25の吊りだけでは、治具14の他端14bは水平方向に振れてしまうので、図6に示されるように、ワイヤ27,28によって左右方向からも吊った状態にする。すなわち、カプセル12(図5参照)の内周面12a(図5参照)とロータヘッド本体11(図5参照)とを連結するサポート材に固定されたシャックル29,30のそれぞれと、治具14に設けられたシャックル31,32のそれぞれとをワイヤ27,28のそれぞれで連結させる。このように、治具14を上方及び左右から吊るようにして水平な状態で固定することにより、治具14を容易かつ確実に水平な状態で固定することができる。
【0024】
フランジ22としては例えば、既設のアキュムレータフランジの吊り金具を使用することができる。シャックル24としては例えば、カプセル12のブラケットの吊りピースを使用することができる。シャックル29,30としては例えば、風車翼6の軸受ボルトの余長分を活用したブラケットを使用することができる。
【0025】
開口ステップS4では、図2に示されるように、蓋17を開口部13から取り外すことにより、開口部13を開口する。尚、蓋17の取り外しは手動で行う。上述した固定ステップS2により、ロータヘッド5が回転しないようになっているので、鉛直方向下方に向くように開いた開口部13の位置が変化しないようにすることができる。
【0026】
次に、水平移動ステップS5について説明する。図7に示されるように、下降させる油圧シリンダ8に対応する油圧アキュムレータに蓄圧がないことを確認した後、油圧シリンダ8に繋がる配管等を切り離し、油圧シリンダ8に対応する油圧ポンプを必要に応じて作動させて、油圧シリンダ8の突出するロッドを引き込ませる。すなわち、油圧シリンダ8が最も縮んだ状態にする。油圧シリンダ8を最も縮んだ状態にしておけば、内部空間10が狭くても、水平移動ステップS5において、油圧シリンダ8の水平移動を容易に行うことができるし、姿勢変化ステップS6において、油圧シリンダ8の姿勢を変化する際に、油圧シリンダ8がカプセル12の内面等にぶつかるおそれを低減することができる。
【0027】
この状態で油圧シリンダ8に3つのワイヤ41,42,43のそれぞれの一端を、油圧シリンダ8の長手方向において異なる位置に連結する。これら3つのワイヤのうち最も後方側(開口部13から水平方向に最も遠い位置)にあるワイヤ41の他端は、内部空間10の任意の柱44に対して固定されたシャックル45に連結される。3つのワイヤのうち真ん中のワイヤ42の他端は、治具14の下面14dにおいて治具14の一端14a側に位置するように設けられたシャックル33に連結される。3つのワイヤのうち最も前方側(水平方向に開口部13に最も近い位置)にあるワイヤ43の他端は、取り付け部26に連結される。
【0028】
3つのワイヤ41,42,43のそれぞれの一端を油圧シリンダ8に連結した後、内部空間10における油圧シリンダ8の固定を解除し、ワイヤ41の吊りを徐々に弱めていくと、油圧シリンダ8は治具14から吊るされた状態で、水平姿勢の状態で水平方向に沿って開口部13に近づくように水平移動し、図8に示されるように、油圧シリンダ8の少なくとも一部が開口部13の鉛直方向上方に位置するようになる。油圧シリンダ8は治具14から吊るされた状態で水平移動されるので、水平移動を容易に行うことができる。
【0029】
次に、姿勢変化ステップS6について説明する。図9に示されるように、ワイヤ42,43を引っ張ると、油圧シリンダ8は治具14から吊るされた状態で、開口部13の鉛直方向上方で上昇しながら回転し、水平姿勢から鉛直姿勢に向かって姿勢を変化させる。ワイヤ41,42を取外すと、図10に示されるように、油圧シリンダ8は、開口部13の鉛直方向上方で、鉛直姿勢でワイヤ43によって吊るされた状態となる。油圧シリンダ8は治具14から吊るされた状態で油圧シリンダ8の姿勢が変化されるので、油圧シリンダ8の姿勢変化を容易に行うことができる。
【0030】
次に、下降ステップS7について説明する。図11に示されるように、昇降機16によって巻取り又は巻き戻される昇降用のワイヤ56を、例えば5つの滑車51~55のそれぞれを通して油圧シリンダ8に連結し、油圧シリンダ8の荷重をワイヤ56に移行した後にワイヤ43を油圧シリンダ8から切り離す。最も油圧シリンダ8に近い滑車55は、治具14の下面14dにおいて治具14の他端14b側に位置するように設けられたシャックル34に連結されている。尚、ワイヤ56を通す滑車の個数は5個に限定するものではなく、任意の個数の滑車を用いてもよい。また、滑車の設ける位置も任意である。
【0031】
油圧シリンダ8は、滑車55を通ったワイヤ56によって治具14から鉛直姿勢で吊るされた状態となっている。この状態で昇降機16がワイヤ56を巻き戻すことにより、油圧シリンダ8が下降する。下降する油圧シリンダ8は、開口部13を介してロータヘッド5の外部に出て、さらに下降することで地上に降ろされる。この際、鉛直方向下方に向くように開いた開口部13の位置が変化しないようになっているので、油圧シリンダ8を下降させるだけで、開口部13を介して油圧シリンダ8をロータヘッド5の外部に出すことができる。このようにして、内部空間10に設けられた油圧シリンダ8を、地上に降ろすことができる。
【0032】
本開示の一実施形態に係る方法の概要を説明した際に述べたが、上記下降方法の手順を逆の順序で行うことで、地上の油圧シリンダ8を上昇させてロータヘッド5の内部空間10に設置することができる。
【0033】
このように、ロータヘッド5の内部空間10において、油圧シリンダ8を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させることと、ロータヘッド5の内部空間10においてロータヘッド5に形成された開口部13の上方で、油圧シリンダ8の姿勢を水平姿勢と鉛直姿勢との間で変化させることと、油圧シリンダ8を鉛直姿勢の状態で治具から吊るしながら昇降させることにより、風力発電装置1において油圧シリンダ8を昇降させることができる。
【0034】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0035】
[1]一の態様に係る方法は、
回転可能に設けられたロータヘッド(5)を備える風力発電装置(1)において長尺物(油圧シリンダ8)を昇降させる方法であって、
前記ロータヘッド(5)は、前記ロータヘッド(5)の内部空間(10)と前記ロータヘッド(5)の外部とを連通する開閉可能な開口部(13)を含み、前記内部空間(10)には、前記長尺物(8)を吊るすための長尺の治具(14)が設けられており、
前記方法は、
前記内部空間(10)において、前記開口部(13)に近づくように、又は、前記開口部(13)から離れるように、前記長尺物(8)を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させる水平移動ステップ(S5/S13)と、
前記内部空間(10)内の前記開口部(13)の鉛直方向上方で、前記長尺物(8)の姿勢を前記水平姿勢と鉛直姿勢との間で変化させる姿勢変化ステップ(S6/S12)と、
前記長尺物(8)を前記鉛直姿勢の状態で前記治具(14)から吊るしながら昇降させる昇降ステップ(下降ステップS7/上昇ステップS11)と
を含む。
【0036】
本開示の方法によれば、ロータヘッドの内部空間において、長尺物を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させることと、ロータヘッドの内部空間においてロータヘッドに形成された開口部の上方で、長尺物の姿勢を水平姿勢と鉛直姿勢との間で変化させることと、長尺物を鉛直姿勢の状態で治具から吊るしながら昇降させることにより、風力発電装置において長尺物を昇降させることができる。
【0037】
[2]別の態様に係る方法は、[1]の方法であって、
前記長尺物(8)は、前記治具(14)から吊るされた状態で前記水平移動ステップ(S5/S13)及び前記姿勢変化ステップ(S6/S12)が行われる。
【0038】
このような構成によれば、長尺物の水平移動及び姿勢変化を容易に行うことができる。
【0039】
[3]さらに別の態様に係る方法は、[1]または[2]の方法であって、
鉛直方向下方を向くようにして前記開口部(13)を開く開口ステップ(S4/S10)をさらに含み、
前記昇降ステップ(S7/S11)において前記長尺物(8)を昇降させる際に、前記開口部(13)を介して前記長尺物(8)を前記内部空間(10)から前記ロータヘッド(5)の外部へ取り出し、又は、前記ロータヘッド(5)の外部から前記内部空間(10)内へ挿入させる。
【0040】
このような構成によれば、開口部を鉛直方向下方に向くように開くことにより、長尺物を昇降させることによって、長尺物をロータヘッドの外部へ取り出すことができ、長尺物を内部空間内へ挿入させることができる。
【0041】
[4]さらに別の態様に係る方法は、[1]~[3]のいずれかの方法であって、
前記風力発電装置(1)は、前記ロータヘッド(5)を回転可能に支持するナセル(4)を備え、
前記方法は、前記ナセル(4)内に昇降機(16)を設置する設置ステップ(S1)をさらに含み、
一端が前記長尺物(8)に連結したワイヤ(56)が、少なくとも1つの滑車(51~55)を介して前記ワイヤ(56)の他端が前記昇降機(16)に連結され、前記昇降機(16)が前記ワイヤ(56)を巻き取る、又は、巻き戻すことにより、前記昇降ステップ(S7/S11)が行われる。
【0042】
このような構成によれば、昇降機によって長尺物を昇降させることができる。
【0043】
[5]さらに別の態様に係る方法は、[1]~[4]のいずれかの方法であって、
前記内部空間(10)に前記治具(14)を取り付ける取り付けステップ(S3)をさらに含み、
前記取り付けステップ(S3)は、
前記内部空間(10)に設けられた支持部(11a)に、長尺の前記治具(14)の一端(14a)を回動可能に取付けることと、
前記一端(14a)を中心に前記治具(14)の他端(14b)を回動させて、前記治具(14)を水平な状態で固定することと
を含む。
【0044】
このような構成によれば、治具の取り付け時に、水平器を使用して、治具が水平であることを確認することできるので、治具を適切に水平な状態にすることができる。
【0045】
[6]さらに別の態様に係る方法は、[5]の方法であって、
前記治具(14)は、上方及び左右から吊られるようにして水平な状態で固定される。
【0046】
このような構成によれば、治具を容易かつ確実に水平な状態で固定することができる。
【0047】
[7]さらに別の態様に係る方法は、[1]~[6]のいずれかの方法であって、
前記長尺物は、前記内部空間(10)内に設けられる油圧シリンダ(8)である。
【0048】
このような構成によれば、風力発電装置において長尺の油圧シリンダを昇降させることができる。
【0049】
[8]さらに別の態様に係る方法は、[7]の方法であって、
前記風力発電装置(1)は、ロータヘッド(5)が回転しないように固定する固定装置(7)を備え、
前記方法は、
前記内部空間(10)内に設けられている前記油圧シリンダ(8)を前記開口部(13)に近づくように前記水平方向に沿って移動させる前に、前記油圧シリンダ(8)が最も低い位置になる位置で前記ロータヘッド(5)を前記固定装置(7)によって固定する固定ステップ(S2)、又は、
前記昇降ステップ(S11)によって前記油圧シリンダ(8)が上昇される前に、前記内部空間(10)内で前記油圧シリンダ(8)が設けられる箇所が最も低い位置になる位置で前記ロータヘッド(8)を前記固定装置(7)によって固定する固定ステップ(S9)
を含む。
【0050】
このような構成によれば、長尺物の昇降中にロータヘッドが回転しないことから開口部の位置が変わらないので、長尺物を昇降させることによって、長尺物をロータヘッドの外部へ取り出すことができ、長尺物を内部空間内へ挿入させることができる。
【0051】
[9]さらに別の態様に係る方法は、[7]または[8]の方法であって、
前記水平移動ステップ(S5/S13)において、前記油圧シリンダ(8)は最も縮んだ状態で前記水平方向に沿って移動される。
【0052】
このような構成によれば、内部空間が狭くても油圧シリンダの水平移動を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
1 風力発電装置
4 ナセル
5 ロータヘッド
7 固定装置
8 油圧シリンダ(長尺物)
10 内部空間
11a 支持部
13 開口部
14 治具
14a (治具の)一端
14b (治具の)他端
16 昇降機
51 滑車
52 滑車
53 滑車
54 滑車
55 滑車
56 ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-07-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に設けられたロータヘッドを備える風力発電装置において長尺物を昇降させる方法であって、
前記ロータヘッドは、前記ロータヘッドの内部空間と前記ロータヘッドの外部とを連通する開閉可能な開口部を含み、前記内部空間には、前記長尺物を吊るすための長尺の治具が設けられており、
前記方法は、
前記内部空間において、前記開口部に近づくように、又は、前記開口部から離れるように、前記長尺物を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させる水平移動ステップと、
前記内部空間内の前記開口部の鉛直方向上方で、前記長尺物が前記治具から吊るされた状態で前記長尺物の姿勢を前記水平姿勢と鉛直姿勢との間で変化させる姿勢変化ステップと、
前記長尺物を前記鉛直姿勢の状態で前記治具から吊るしながら昇降させる昇降ステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記長尺物は、前記治具から吊るされた状態で前記水平移動ステップが行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
鉛直方向下方を向くようにして前記開口部を開く開口ステップをさらに含み、
前記昇降ステップにおいて前記長尺物を昇降させる際に、前記開口部を介して前記長尺物を前記内部空間から前記ロータヘッドの外部へ取り出し、又は、前記ロータヘッドの外部から前記内部空間内へ挿入させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記風力発電装置は、前記ロータヘッドを回転可能に支持するナセルを備え、
前記方法は、前記ナセル内に昇降機を設置する設置ステップをさらに含み、
一端が前記長尺物に連結したワイヤが、少なくとも1つの滑車を介して前記ワイヤの他端が前記昇降機に連結され、前記昇降機が前記ワイヤを巻き取る、又は、巻き戻すことにより、前記昇降ステップが行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記内部空間に前記治具を取り付ける取り付けステップをさらに含み、
前記取り付けステップは、
前記内部空間に設けられた支持部に、長尺の前記治具の一端を回動可能に取付けることと、
前記一端を中心に前記治具の他端を回動させて、前記治具を水平な状態で固定することと
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記治具は、上方及び左右から吊られるようにして水平な状態で固定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記長尺物は、前記内部空間内に設けられる油圧シリンダである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記風力発電装置は、ロータヘッドが回転しないように固定する固定装置を備え、
前記方法は、
前記内部空間内に設けられている前記油圧シリンダを前記開口部に近づくように前記水平方向に沿って移動させる前に、前記油圧シリンダが最も低い位置になる位置で前記ロータヘッドを前記固定装置によって固定する固定ステップ、又は、
前記昇降ステップによって前記油圧シリンダが上昇される前に、前記内部空間内で前記油圧シリンダが設けられる箇所が最も低い位置になる位置で前記ロータヘッドを前記固定装置によって固定する固定ステップ
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水平移動ステップにおいて、前記油圧シリンダは最も縮んだ状態で前記水平方向に沿って移動される、請求項7または8に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る方法は、回転可能に設けられたロータヘッドを備える風力発電装置において長尺物を昇降させる方法であって、前記ロータヘッドは、前記ロータヘッドの内部空間と前記ロータヘッドの外部とを連通する開閉可能な開口部を含み、前記内部空間には、前記長尺物を吊るすための長尺の治具が設けられており、前記方法は、前記内部空間において、前記開口部に近づくように、又は、前記開口部から離れるように、前記長尺物を水平姿勢の状態で水平方向に沿って移動させる水平移動ステップと、前記内部空間内の前記開口部の鉛直方向上方で、前記長尺物が前記治具から吊るされた状態で前記長尺物の姿勢を前記水平姿勢と鉛直姿勢との間で変化させる姿勢変化ステップと、前記長尺物を前記鉛直姿勢の状態で前記治具から吊るしながら昇降させる昇降ステップとを含む。