(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166398
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】回転機システム、及びその診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/023 20190101AFI20221026BHJP
【FI】
G01M13/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071593
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧 晃司
(72)【発明者】
【氏名】南波 昇吾
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AB08
2G024BA27
2G024CA18
2G024DA09
2G024FA04
2G024FA14
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】低コストかつ短時間で動力伝達機構の異常を検知することが可能な回転機システムおよび回転機システムの診断方法を提供する。
【解決手段】回転機システムは、回転機4と負荷機械8または動力源とがベルト7などの動力伝達機構を介して接続されているものである。電流計測部101は、回転機4の少なくとも一相の相電流を計測する。周波数スペクトル算出部102は、電流計測部101で計測された相電流に対して周波数スペクトルを算出する。劣化指標計算部103は、周波数スペクトル算出部102で算出された周波数スペクトルに対して電源周波数を含む除去対象の周波数範囲を除く周波数での振幅の合計値または平均値を計算して劣化指標とする。異常度算出部104は、劣化指標計算部103で得られた劣化指標に基づいて異常度を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機と負荷機械または動力源とが動力伝達機構を介して接続されている回転機システムであって、
前記回転機の少なくとも一相の相電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部で計測された前記相電流に対して周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部と、
前記周波数スペクトル算出部で算出された前記周波数スペクトルに対して電源周波数を含む除去対象の周波数範囲を除いた周波数での振幅の合計値または平均値を計算して劣化指標とする劣化指標計算部と、
前記劣化指標計算部で得られた前記劣化指標に基づいて異常度を算出する異常度算出部と、
を有する、
回転機システム。
【請求項2】
請求項1記載の回転機システムにおいて、
前記劣化指標計算部は、前記電源周波数との差の絶対値が前記動力伝達機構の回転周波数より小さい周波数範囲を前記除去対象の周波数範囲に定め、前記劣化指標を計算する、
回転機システム。
【請求項3】
請求項1記載の回転機システムにおいて、
前記劣化指標計算部は、前記電源周波数との差の絶対値が前記負荷機械または前記動力源の回転周波数より小さい周波数範囲を前記除去対象の周波数範囲に定め、前記劣化指標を計算する、
回転機システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の回転機システムにおいて、
前記劣化指標計算部は、前記電源周波数のn倍(n=0,1,2,3,…)にそれぞれ対応する複数の前記除去対象の周波数範囲を除いた周波数での前記振幅の合計値または平均値を計算して前記劣化指標とする、
回転機システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の回転機システムにおいて、
前記劣化指標計算部は、前記振幅の合計値または平均値を、対数を用いて計算する、
回転機システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の回転機システムにおいて、
さらに、前記異常度算出部で算出された前記異常度が予め設定した閾値を超えたか否かを判定し、前記異常度が前記閾値を超えた場合に警告を発する故障判定部を有する、
回転機システム。
【請求項7】
請求項6記載の回転機システムにおいて、
前記閾値は、予め設定した学習期間中に算出された前記異常度を用いて決定される、
回転機システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の回転機システムにおいて、
さらに、予め設定された起動タイミングに達した際、または予め設定された起動条件を満たした際に、前記電流計測部で計測された前記相電流から前記異常度を算出させるための診断モードを起動する診断モード起動部を有する、
回転機システム。
【請求項9】
請求項8記載の回転機システムにおいて、
前記診断モード起動部は、前記電流計測部で計測された前記相電流を監視し、前記相電流の実効値が設定された時間継続して、設定された範囲に入ったときに前記診断モードを起動する、
回転機システム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の回転機システムにおいて、
前記異常度算出部は、算出した前記異常度を、前記回転機の運転状態を規定するパラメータと共に出力する、
回転機システム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の回転機システムにおいて、
さらに、前記電流計測部と前記周波数スペクトル算出部の間、または前記周波数スペクトル算出部と前記劣化指標計算部の間、または前記劣化指標計算部と前記異常度算出部の間のいずれかに、通信ネットワークを経由してデータを送信する送信部と、前記通信ネットワークを経由して前記データを受信する受信部とを備える、
回転機システム。
【請求項12】
回転機と負荷機械または動力源とが動力伝達機構を介して接続されている回転機システムを診断する方法であって、
前記回転機の少なくとも一相の相電流を計測し、計測された前記相電流に対して周波数スペクトルを算出し、算出された前記周波数スペクトルに対して電源周波数を含む除去対象の周波数範囲を除いた周波数での振幅の合計値または平均値を計算して劣化指標とし、得られた前記劣化指標に基づいて異常度を算出する、
回転機システムの診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機システム、及びその診断方法に関し、例えば、回転機と負荷機械または動力源とが動力伝達機構を介して接続されている回転機システム、及びその診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転機の駆動時の電流を計測し、当該駆動時の電流に対して周波数解析を行うことで、回転機に接続された電力伝達機構の異常を診断する異常診断装置が示される。具体的には、当該異常診断装置は、周波数解析によってスペクトルピークを検出し、電源周波数と動力伝達機構の回転周波数以外の側帯波を異常周波数として、異常周波数に含まれるスペクトルピークの個数をカウントし、その個数の増加に基づいて異常を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータや発電機といった回転機を含むシステムが突発故障により停止すると、大きな損害が発生する。特に、工場設備などに用いられる回転機システムの突発故障による停止は、生産設備の稼働率低下や生産計画の見直しを余儀なくされるなど、影響が大きい。そのため、実環境で使用している状態のままで高精度に故障の予兆診断を実施することで、回転機システムの突発故障を防止するというニーズが高まっている。
【0005】
一方、ベルトやチェーンなどの動力伝達機構は、システム構成を単純で安価にすることができることから、空気圧縮機、ベルトコンベア、自動ドア、送風機、工作機械など多くの回転機システムで使用されている。そのような安価な回転機システムの場合、故障の予兆診断を行うシステムに対してもより安価なものが期待されている。
【0006】
こうした中、特許文献1では、振動加速度センサなどの高価なセンサを使用せずに、回転機の稼働時電流の周波数解析を行い、異常周波数でのスペクトルピークの個数に基づいて、動力伝達機構を含む回転機システムの異常を診断する技術が開示されている。しかし、この技術では、異常周波数でのスペクトルピークを識別するのに必要な高い周波数分解能を確保するため、データを長い時間蓄積する必要があり、短時間で診断するのが困難となるおそれがあった。
【0007】
本発明は、このようなことに鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、低コストかつ短時間で動力伝達機構の異常を検知することが可能な回転機システムおよび回転機システムの診断方法を提供することにある。
【0008】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態の概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0010】
一実施の形態の回転機システムは、回転機と負荷機械または動力源とが動力伝達機構を介して接続されているものであり、電流計測部と、周波数スペクトル算出部と、劣化指標計算部と、異常度算出部と、を有する。電流計測部は、回転機の少なくとも一相の相電流を計測する。周波数スペクトル算出部は、電流計測部で計測された相電流に対して周波数スペクトルを算出する。劣化指標計算部は、周波数スペクトル算出部で算出された周波数スペクトルに対して電源周波数を含む除去対象の周波数範囲を除いた周波数での振幅の合計値または平均値を計算して劣化指標とする。異常度算出部は、劣化指標計算部で得られた劣化指標に基づいて異常度を算出する。
【発明の効果】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すると、低コストかつ短時間で動力伝達機構の異常を検知することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1による回転機システムにおいて、主要部の構成例を示す概略図である。
【
図2】
図1において、診断装置による回転機システムの診断方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図1の周波数スペクトル算出部で算出される周波数スペクトルの一例を示す概略図である。
【
図4A】
図1の劣化指標計算部の処理内容の一例を説明する図である。
【
図4B】
図1の劣化指標計算部の処理内容の一例を説明する図である。
【
図5】
図1の劣化指標計算部によって計算された劣化指標の一例を示す概略図である。
【
図6】実施の形態2による回転機システムにおいて、
図1の診断装置による回転機システムの診断方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態3による回転機システムにおいて、主要部の構成例を示す概略図である。
【
図8】実施の形態4による回転機システムにおいて、主要部の構成例を示す概略図である。
【
図9】実施の形態5による回転機システムにおいて、主要部の構成例を示す概略図である。
【
図10】実施の形態6による回転機システムにおいて、回転機システムの適用例となる空気圧縮機の構成例を示す概略図である。
【
図11】実施の形態7による回転機システムにおいて、回転機システムの適用例となるベルトコンベアの構成例を示す概略図である。
【
図12】実施の形態8による回転機システムにおいて、回転機システムの適用例となる自動ドアの構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
(実施の形態1)
<回転機システムの概略>
図1は、実施の形態1による回転機システムにおいて、主要部の構成例を示す概略図である。
図1に示す回転機システムは、回転機本体と、診断装置1とを備える。回転機本体は、電源3と、電源3に接続されて電力を授受する回転機4と、回転機4の相電流を計測する電流センサ2と、を備える。回転機4の回転軸は、例えば、第1のプーリ5、第2のプーリ6およびベルト7からなる動力伝達機構を介して負荷機械または動力源に接続される。この例では、第1のプーリ5は、回転機4の回転軸に設けられ、ベルト7を介して第2のプーリ6を回転させることで負荷機械8を駆動する。
【0015】
診断装置1は、電流センサ2の信号を読み込んで異常診断を実行する。診断装置1は、診断モード起動部100と、電流計測部101と、周波数スペクトル算出部102と、劣化指標計算部103と、異常度算出部104と、故障判定部105と、出力部106と、を備える。この内、診断モード起動部100、電流計測部101、周波数スペクトル算出部102、劣化指標計算部103、異常度算出部104および故障判定部105は、代表的には、回転機本体に含まれ回転機4の制御動作を担うマイクロコントローラまたはFPGA(Field Programmable Gate Array)などで実現される。
【0016】
電流計測部101は、例えば、マイクロコントローラ内のアナログディジタル変換器などで実現され、電流センサ2を介して回転機4の少なくとも一相の相電流を計測する。なお、
図1に記載された例では、電流センサ2は、一相の相電流を計測するように設置されているが、2相以上の相を計測するように設置されてもよい。診断モード起動部100、周波数スペクトル算出部102、劣化指標計算部103、異常度算出部104および故障判定部105は、例えば、マイクロコントローラ内のプロセッサを用いたプログラム処理などによって実現される。これらの詳細については後述する。
【0017】
出力部106は、異常度算出部104または故障判定部105から得られる各種情報を、ユーザ等を代表とする装置外部に出力する。出力部106は、例えば、ディスプレイ、ランプ、ブザーなど人間の五感に訴えるものであってよく、または、紙や電子ファイルに記録されるものであってもよい。あるいは、出力部106は、有線/無線LAN(Local Area Network)やブルートゥース(登録商標)などの通信ネットワークを経由して送信するものであってもよい。
【0018】
ここで、回転機システムの動力伝達機構、例えばベルト7に何らかの不具合が発生し、一時的なスリップが発生するようになると、回転機4の相電流の周波数スペクトルにおいて、正常状態ではピークが生じない周波数(明細書では異常周波数と呼ぶ)での振幅が増加し始める。例えば、特許文献1に記載された方式のように、異常周波数での振幅の増加を、ピークの個数という形で定量化する場合、ピークを識別できる程度に高い周波数分解能を達成する必要がある。周波数分解能はデータ蓄積時間に反比例するため、特許文献1に記載された方式では、短時間での診断が困難となる恐れがあった。
【0019】
そこで、周波数分解能が低く、異常周波数でのピークを識別できない場合であっても、異常を診断できるようにするため、
図1に記載された診断装置1が設けられる。診断装置1は、概略的には、相電流の周波数スペクトルにおいて、異常周波数でのピークの個数をカウントする代わりに、スペクトルの平均振幅レベルの上昇を異常兆候として捉える。ただし、相電流の周波数スペクトルにおける最大ピークである電源周波数でのピークを平均振幅レベルの計算に含めてしまうと、異常検出の感度が低下する。このため、平均振幅レベルを計算する際には、電源周波数を含む除去対象の周波数範囲は除かれる。
【0020】
なお、相電流の周波数スペクトルには、負荷機械8やベルト7の回転周波数に相当する側帯波でのピークが正常状態でも現れる。異常検出の感度を高める上では、それらのピークも平均振幅レベルの計算から除くほうが好ましい。ただし、一般に、それらのピークは電源周波数でのピークよりも十分に小さいため、実用上は除かなくても問題ない。
【0021】
<診断装置の詳細>
図2は、
図1において、診断装置による回転機システムの診断方法の一例を示すフローチャートである。最初に、ステップS100にて、診断モード起動部100は、診断モードを起動する。診断モードの起動方法の具体例として、ユーザが、回転機システムの設定項目から選択する方法のほか、診断モードを起動する機械式ボタンを押す方法や、ディスプレイに表示された「診断モード」ボタンをタッチする方法などが挙げられる。
【0022】
別の方法として、診断モード起動部100が自動的に診断モードを起動する方法が挙げられる。すなわち、診断モード起動部100は、予め設定された起動タイミングに達した際、または予め設定された起動条件を満たした際に診断モードを起動する。起動タイミングに関する具体例として、ユーザが、予め診断モード起動部100に対して特定の日時を設定しておく方法が挙げられる。
【0023】
起動条件に関する具体例として、診断モード起動部100は、電流計測部101からの相電流の実効値を監視し、当該実効値が設定された時間継続して、設定された範囲に入ったときに診断モードを起動してもよい。この場合、ユーザは、相電流の実効値の範囲やその継続時間を、起動条件として予め診断モード起動部100に設定しておく。また、起動条件に関する別の具体例として、診断モード起動部100は、回転機4が設定された制御動作を行う前または後に診断モードを起動してもよい。この場合、ユーザは、特定の制御動作を起動条件として予め診断モード起動部100に設定しておく。
【0024】
ここで、診断モードは、回転機4の運転状態が同等である期間で起動されることが望ましい。これは、回転機4の運転状態が変わると、診断条件、具体的には、後述する異常度を判定する際の最適な閾値なども変化し得るためである。そこで、診断モード起動部100は、前述したように、予め設定された起動タイミングに達した際、または予め設定された起動条件を満たした際に診断モードを起動すればよい。この場合、診断モードを起動する際の回転機4の運転状態をほぼ同等に保つことが可能になる。
【0025】
次に、ステップS101にて、電流計測部101は、電流センサ2を介して回転機4の少なくとも一相の相電流を計測する。あるいは、電流計測部101は、二相以上の相電流を計測してもよい。続いて、ステップS102にて、周波数スペクトル算出部102は、電流計測部101で計測された相電流に対して、FFT(高速フーリエ変換)などを用いて周波数スペクトルを算出する。
【0026】
図3は、
図1の周波数スペクトル算出部で算出される周波数スペクトルの一例を示す概略図である。
図3では、正常状態と異常状態での各周波数スペクトルが、重ねて表示されている。
図3において、50Hzに生じている振幅のピークは、回転機4に供給される電源3の電源周波数、言い換えれば回転機4の駆動周波数でのピークである。例えば、ベルト7に何らかの不具合が発生し、一時的なスリップが発生する異常状態になると、ベルト7の回転周波数が変動する。その結果、例えば30Hz近傍などのように、正常状態ではピークが生じない周波数、すなわち異常周波数での振幅が増加し始める。
【0027】
ここで、仮に、異常状態でのデータ蓄積時間を長くすると、例えば、
図3の30Hz近傍などにおいて、より鮮明なピークが現れる。ただし、当該ピークに基づいて診断を行う場合には、データ蓄積時間に応じて長い診断時間が必要となる。そこで、診断時間を短縮するため、実施の形態1の方式では、
図2のステップS103にて、劣化指標計算部103は、電源周波数を含む除去対象の周波数範囲を除いた周波数での振幅の合計値または平均値を計算して劣化指標とする。
【0028】
図4Aおよび
図4Bは、
図1の劣化指標計算部の処理内容の一例を説明する図である。
図4Aは、正常状態での相電流の周波数スペクトルであり、
図4Bは、異常状態での相電流の周波数スペクトルである。
図4Aおよび
図4Bにおいて、電源周波数及びその近傍の周波数である除去対象の周波数範囲FEを除いて、斜線を付けた周波数での振幅の合計値または平均値が劣化指標に該当する。
【0029】
なお、
図4Aおよび
図4Bに示した周波数スペクトルの縦軸は、詳細には、対数スケールとなっている。これに合わせて、劣化指標計算部103は、振幅の合計値または平均値を、対数を用いて計算してもよい。例えば、対数を用いない場合には、正常状態で得られる値と異常状態で得られる値との差分が非常に大きくなり得るため、正常状態と異常状態との境界を定め難くなる場合がある。このような場合に、対数を用いることが有益となる。
【0030】
除去対象の周波数範囲FEの決定方法は、例えば、電源周波数でのピークの高さに所定の比率を掛けた値で得られる帯域幅をもつ周波数範囲に定める方法や、電源周波数でのピークに隣接するピークであり、正常状態でも生じるピークを含まないような周波数範囲に定める方法などであってよい。当該電源周波数でのピークに隣接するピークは、多くの場合、電源周波数からベルト7の回転周波数だけ離れたピーク、もしくは電源周波数から負荷機械8の回転周波数、詳細には第2のプーリ6の回転周波数、だけ離れたピークとなる。
【0031】
したがって、劣化指標計算部103は、例えば、電源周波数との差の絶対値が動力伝達機構の回転周波数より小さい周波数範囲を、除去対象の周波数範囲FEに定め、劣化指標を計算すればよい。または、劣化指標計算部103は、電源周波数との差の絶対値が負荷機械8または動力源の回転周波数より小さい周波数範囲を、除去対象の周波数範囲FEに定め、劣化指標を計算すればよい。
【0032】
なお、
図4Aおよび
図4Bでは、劣化指標計算部103は、電源周波数となる50Hz近傍のピークを除いて劣化指標を計算した。ただし、これに加えて、劣化指標計算部103は、周波数分解能によっては38Hz近傍や62Hz近傍などに生じるピーク、すなわち、動力伝達機構や負荷機器などの回転周波数に基づいて生じるピークを除くことも可能である。
【0033】
図5は、
図1の劣化指標計算部によって計算された劣化指標の一例を示す概略図である。
図5には、正常状態で計算された劣化指標と、異常状態で計算された劣化指標の時系列変化の様子が示される。
図5より、正常状態と比較して、異常状態では劣化指標が明らかに大きくなっていることが分かる。
【0034】
次に、
図2のステップS104にて、異常度算出部104は、劣化指標計算部103で得られた劣化指標に基づいて異常度を算出する。例えば、異常度算出部104は、得られた劣化指標をそのまま異常度とする。あるいは、異常度算出部104は、劣化指標の移動平均を算出して異常度とする。
【0035】
続いて、ステップS105にて、故障判定部105は、異常度算出部104で算出された異常度が予め設定した閾値を超えているか否かを判定し、超えていた場合は故障の予兆を有りと判定する。そして、ステップS106にて、故障判定部105は、故障の予兆を有りと判定した場合には、出力部106から警告を発する。なお、故障判定部105は、故障の予兆を無しと判定した場合でも、その旨の診断結果を出力部106から出力してもよい。
【0036】
ここで、故障の予兆の有無を判定する閾値は、試験機などで別途検討した結果に基づいて決定されてもよいし、実機を用いた実環境での学習によって決定されてもよい。具体例として、まず、実環境において予め設定した学習期間中に複数回異常度を算出する。この際には、複数回の回毎に算出された異常度は、正常状態であっても若干変動し得る。そこで、例えば、複数回で算出された異常度の平均値及び変動幅を求め、それに対して所定のマージンを加えることなどで、誤報を生じないレベルの閾値が決定される。
【0037】
また、別途、機械学習などで精密診断できるように、異常度算出部104は、算出した異常度を、回転機4の運転状態を規定するパラメータと共に出力部106から出力してもよい。当該パラメータとしては、例えば、回転機4に対する回転速度の目標値や、相電流、ひいてはトルクの目標値などが挙げられる。このような多変数データをロガーなどで記録し、ベクトル量子化クラスタリングなどの機械学習のアルゴリズムで分析すれば、閾値判定では検知できなかったような微弱な異常を検知できることが期待できる。
【0038】
さらに、回転機4の運転状態毎に異常度の適切な閾値が得られる場合がある。その結果、ステップS100で述べたような、回転機4の運転状態が同等である場合に限らず、回転機4の運転状態が変わるような場合であっても対応可能になる。すなわち、任意のタイミングで診断モードを起動しても、ひいては診断モード時の回転機4の運転状態が変わるような場合であっても、回転機4の運転状態に応じて閾値を適切に変更しながら、故障の予兆の有無を判定することが可能になる。
【0039】
<実施の形態1の主要な効果>
以上、実施の形態1による回転機システムおよびその診断方法を用いることで、特許文献1の方式と異なり、周波数分解能が低くても、すなわち、データ蓄積時間が短くても、動力伝達機構の異常を捉えることができる。また、振動加速度センサなどの高価なセンサを使用せずに、動力伝達機構の異常を捉えることができる。その結果、代表的には、低コストかつ短時間で動力伝達機構の異常を検知することが可能になる。
【0040】
(実施の形態2)
<診断装置の詳細>
図6は、実施の形態2による回転機システムにおいて、
図1の診断装置による回転機システムの診断方法の一例を示すフローチャートである。
図2との相違点は、
図2のステップS103の代わりに、次のステップS203が設けられる点である。ステップS203において、劣化指標計算部103は、電源周波数のn倍(n=0,1,2,3,…)にそれぞれ対応する複数の除去対象の周波数範囲FEを除いた周波数での振幅の合計値または平均値を計算して劣化指標とする。
【0041】
例えば、電流計測部101が1kHzのサンプリング周波数で相電流を計測した場合、周波数スペクトル算出部102は、500Hz程度までの範囲で周波数スペクトルを算出できる。この場合、例えば、0Hz~500Hzの範囲で、50Hz毎の周波数を中心として、その各周波数の近傍の周波数範囲が
図4Aおよび
図4Bで述べた除去対象の周波数範囲FEにそれぞれ定められる。
【0042】
電源周波数のn倍(n=0,1,2,3,…)のピークは正常状態でも現れる。仮に、このような各ピークを含めて振幅の合計値または平均値を計算すると、異常状態で得られる劣化指標の値に対して正常状態でも得られる劣化指標の値が占める比率が大きくなり、異常検知感度が低下する恐れがある。そこで、当該電源周波数のn倍のピークおよびそれぞれの近傍を除いて劣化指標を計算することで、異常検知感度をより高めることが可能になる。
【0043】
(実施の形態3)
<回転機システムの概略>
図7は、実施の形態3による回転機システムにおいて、主要部の構成例を示す概略図である。
図1との相違点は、
図1の診断装置1内の各部を2個の診断装置1a,1bに分割した点にある。その一例として、
図7では、診断装置1aは、回転機本体の内部または近傍に設置され、診断モード起動部100および電流計測部101に加えて送信部110を有する。一方、診断装置1bは、回転機本体に対して遠隔に設置されたクラウド装置などであり、周波数スペクトル算出部102、劣化指標計算部103、異常度算出部104、故障判定部105および出力部106に加えて受信部111を有する。
【0044】
診断装置1aにおける送信部110は、例えば、回転機本体に搭載された通信ネットワークインタフェースなどで実現される。一方、診断装置1bにおいて、周波数スペクトル算出部102、劣化指標計算部103、異常度算出部104および故障判定部105は、例えば、クラウド装置などに搭載されたプロセッサによるプログラム処理などによって実現される。受信部111は、例えば、クラウド装置などに搭載された通信ネットワークインタフェースなどで実現される。
【0045】
診断装置1a内の送信部110は、電流計測部101で計測された相電流の電流データを、通信ネットワーク15を経由して診断装置1bへ送信する。通信ネットワーク15は、例えば、イーサネット(登録商標)、有線/無線LAN(Local Area Network)、ブルートゥース(登録商標)等の規格に基づくものである。一方、診断装置1b内の受信部111は、当該電流データを、通信ネットワーク15を経由して受信する。そして、診断装置1b内の周波数スペクトル算出部102は、受信部111からの電流データを受けて処理を実行する。なお、診断モード起動部100は、診断装置1bに搭載されてもよい。この場合、診断装置1bは、診断装置1aへ通信ネットワーク15を経由して診断モードを起動する命令を発行すればよい。
【0046】
<実施の形態3の主要な効果>
以上、実施の形態3では、診断装置の各部を分割して一部を遠隔に設置する形態を用いることで、回転機本体の内部または近傍に設置される診断装置1aの処理負荷を下げることができる。その結果、実施の形態1で述べた各種効果に加えて、回転機本体をより安価にすることができる。また、特許文献1の方式と異なり電流データの蓄積量を少なくできる方式を用いているため、診断装置1aから診断装置1bへの通信負荷も軽減できる。
【0047】
(実施の形態4)
<回転機システムの概略>
図8は、実施の形態4による回転機システムにおいて、主要部の構成例を示す概略図である。
図8の構成は、
図7の構成とは診断装置1内の各部の分割形態が異なっている。診断装置1cは、回転機本体の内部または近傍に設置され、診断モード起動部100、電流計測部101および周波数スペクトル算出部102に加えて送信部110を有する。一方、診断装置1dは、遠隔に設置されたクラウド装置などであり、劣化指標計算部103、異常度算出部104、故障判定部105および出力部106に加えて受信部111を有する。
【0048】
診断装置1c内の送信部110は、周波数スペクトル算出部102で算出された周波数スペクトルのデータを、通信ネットワーク15を経由して診断装置1dへ送信する。一方、診断装置1d内の受信部111は、当該周波数スペクトルのデータを、通信ネットワーク15を経由して受信する。そして、診断装置1d内の劣化指標計算部103は、受信部111からの周波数スペクトルのデータを受けて処理を実行する。なお、診断モード起動部100の搭載箇所に関しては、実施の形態3と同様である。
【0049】
<実施の形態4の主要な効果>
以上、実施の形態4の構成を用いることで、実施の形態3で述べた各種効果と同様の効果が得られる。特に、データ通信に必要な周波数スペクトルの周波数範囲を以後の処理で使用する範囲に限定した場合、通信量をより減らすことができ、運用時の通信コストを節約できる。
【0050】
(実施の形態5)
<回転機システムの概略>
図9は、実施の形態5による回転機システムにおいて、主要部の構成例を示す概略図である。
図9の構成は、
図7および
図8の構成とは診断装置1内の各部の分割形態が異なっている。診断装置1eは、回転機本体の内部または近傍に設置され、診断モード起動部100、電流計測部101、周波数スペクトル算出部102および劣化指標計算部103に加えて送信部110を有する。一方、診断装置1fは、遠隔に設置されたクラウド装置などであり、異常度算出部104、故障判定部105および出力部106に加えて受信部111を有する。
【0051】
診断装置1e内の送信部110は、劣化指標計算部103で計算された劣化指標のデータを、通信ネットワーク15を経由して診断装置1fへ送信する。一方、診断装置1f内の受信部111は、当該劣化指標のデータを、通信ネットワーク15を経由して受信する。そして、診断装置1f内の異常度算出部104は、受信部111からの劣化指標のデータを受けて処理を実行する。なお、診断モード起動部100の搭載箇所に関しては、実施の形態3と同様である。
【0052】
<実施の形態5の主要な効果>
以上、実施の形態5の構成を用いることで、実施の形態3で述べた各種効果と同様の効果が得られる。さらに、劣化指標のデータは小さいデータ量となるため、通信量を大きく減らすことができ、運用時の通信コストを大幅に節約できる。
【0053】
(実施の形態6)
<回転機システムの適用例>
図10は、実施の形態6による回転機システムにおいて、回転機システムの適用例となる空気圧縮機の構成例を示す概略図である。
図10において、負荷機械8は、ここでは圧縮機本体となり、それがタンク9と接続されている。空気圧縮機においては、起動直後などに回転機4が一定速度かつ一定負荷で運転する時間帯が通常存在する。このため、診断装置1は、そのタイミングで診断を実行するのが望ましい。このような時間帯は、例えば、空気を圧縮していないアンロードの状態などで存在する。
【0054】
また、空気圧縮機が実稼働している最中に診断する場合、実施の形態1で述べたように、診断モード起動部100は、相電流の実効値が設定された範囲に入ったときなどに診断モードを起動するとよい。または、診断モード起動部100は、回転機4が特定の制御動作を行う前または後に診断モードを起動してもよい。ただし、この場合、負荷の状態、すなわち、圧縮の進行具合などによって周波数スペクトルにおける各ピークの大きさが全体的に上下に変動する場合がある。このような場合、劣化指標計算部103は、周波数スペクトルを電源周波数でのピークの値で正規化した後に劣化指標を計算するとよい。
【0055】
(実施の形態7)
<回転機システムの適用例>
図11は、実施の形態7による回転機システムにおいて、回転機システムの適用例となるベルトコンベアの構成例を示す概略図である。ベルトコンベアにおいては、ベルト7上に搬送品10が無く、回転機4が一定速度かつ一定負荷で運転する時間帯が通常存在する。このため、診断装置1は、そのタイミングで診断を実行するのが望ましい。
【0056】
(実施の形態8)
<回転機システムの適用例>
図12は、実施の形態8による回転機システムにおいて、回転機システムの適用例となる自動ドアの構成例を示す概略図である。
図12では、回転機4の駆動時に逆向きに移動するベルト7の2箇所に、ドア11a,11bがそれぞれ設置されている。また、ドア11a,11bは、レール12に摺接され、ベルト7の移動に応じてレール上12を逆向きに摺動する。自動ドアの場合、回転機4が一定速度となる時間帯はあまり存在しないものの、ドアの開閉パターンはほぼ決まっている。このため、診断装置1は、ドアの開閉パターンに基づいて、同一条件となるタイミングを選択して診断を実行するのが望ましい。
【0057】
以上、実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0058】
さらに、実施の形態の回転機システムは、
図10、
図11および
図12で述べた空気圧縮機、ベルトコンベアおよび自動ドアに限らず、送風機、工作機械といった、ベルトやチェーンなどの動力伝達機構を有する回転機システムに広く適用できる。さらには、ロボット、パワーステアリング、エンジン発電機、OA機器などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f 診断装置
2 電流センサ
3 電源
4 回転機
5,6 プーリ
7 ベルト
8 負荷機械
9 タンク
10 搬送品
11a,11b ドア
12 レール
15 通信ネットワーク
100 診断モード起動部
101 電流計測部
102 周波数スペクトル算出部
103 劣化指標計算部
104 異常度算出部
105 故障判定部
106 出力部
110 送信部
111 受信部
FE 除去対象の周波数範囲