(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166443
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】窒化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/587 20060101AFI20221026BHJP
H01L 23/15 20060101ALI20221026BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20221026BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C04B35/587
H01L23/14 C
H01L23/36 M
H05K1/03 610D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071649
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】松本 理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光隆
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BB04
5F136FA18
5F136GA31
(57)【要約】
【課題】焼結後の冷却時の体積収縮を小さくして、窒化ケイ素焼結体中のボイドを少なくし、窒化ケイ素焼結体の反りを小さくする。
【解決手段】窒化ケイ素粉末と焼結助剤との混合物を焼結する焼結工程は、1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200とし、焼結助剤で形成される粒界相をアモルファス構造とする。半導体検出器を備えたX線回折装置を使用して得られたX線回折パターンにおいて粒界相に由来するピークが検出されないことが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素粉末と焼結助剤との混合物を焼結する焼結工程は、1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200とし、焼結助剤で形成される粒界相をアモルファス構造とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
半導体検出器を備えたX線回折装置を使用して得られたX線回折パターンにおいて粒界相に由来するピークが検出されない請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記焼結工程において、焼成用の閉鎖状態の筐体内に、製造する窒化ケイ素焼結体とは別体の予め焼結した板状の窒化ケイ素焼結体を配置する請求項1又は2に記載の窒化ケイ素の製造方法。
【請求項4】
前記焼結助剤として少なくともMgO又はMgSiN2を含有し、SrOを含有しない請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記焼結工程により、製造する窒化ケイ素焼結体が相対密度98%以上に緻密化する請求項1~4のいずれか一項に記載の窒化ケイ素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板、放熱部材等として使用される窒化ケイ素焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路基板、放熱部材等として使用される絶縁性セラミックス(焼結体)の材料としては、窒化アルミニウム(AlN)や、窒化ケイ素(Si3N4 )が挙げられる。
窒化アルミニウムは、熱伝導率が150W/m・K以上と高いが、機械的強度が低いため、クラックが生じやすく使いづらい。
窒化ケイ素は、熱伝導率が窒化アルミニウムほどではないが50W/m・K以上はあるうえ、機械的強度が高いため、クラックが生じにくく薄型化ができる等の利点を有する。そのため、近年、窒化ケイ素焼結体の開発及び採用が進んでいる。
【0003】
特許文献1には、窒化ケイ素結晶粒の粒界相に存在する結晶相がX線回折ピークの強度比で(窒化ケイ素を1として)0.05~0.40である窒化ケイ素焼結体、及び、その材料のグリーンシートを、窒素雰囲気中にて1600~1900℃で焼結した後、1100~1700℃で残留ガラス相を除去する製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、回路部材等の接合性を改善し、厚さ3mmの基板で測定した絶縁破壊電圧が36~47kV/mm(同文献の表6)である窒化ケイ素基板、及び、その材料のグリーンシートを、成分の揮発を抑制するために酸化マグネシウム及び酸化エルビウムの共材を配置した焼成炉に入れて、1750℃で3~5時間焼結する製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、気孔率0~1.0%、ポア最大直径0.2~3μm、厚さ0.15~0.635mmの基板で測定した絶縁耐力が17~29kV/mm(同文献の表7,8)である窒化ケイ素基板、及び、その材料のグリーンシートを、非酸化性雰囲気中にて1800~1900℃で焼結する製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、反りが2.0μm/mm以下である窒化ケイ素基板、及び、その材料のグリーンシートを、窒素加圧雰囲気中にて1800~2000℃で8~18時間焼結した後、荷重を印加しながら1550~1700℃で熱処理して反りを抑制する製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献5には、反りが小さく高い強度を有する窒化ケイ素基板、及び、その材料のグリーンシートを、窒化ケイ素及びマグネシアの揮発を抑制するために酸化マグネシウム等の詰め粉を配置した焼成容器に入れて、1860℃で5時間焼結する製造方法が記載されている。
【0008】
特許文献6には、空孔割合0.1~4%、厚さ0.15~0.25mmの基板で測定した絶縁破壊の強さが32~36kV/mm(同文献の表3)である窒化ケイ素基板、及び、その材料のグリーンシートを、窒素雰囲気中にて1850~1900℃で3~5時間焼結する製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5-279124号公報
【特許文献2】国際公開2011-087055号
【特許文献3】特開2017-178776号公報
【特許文献4】特開2009-218322号公報
【特許文献5】特開2020-93978号公報
【特許文献6】特開2014-73937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1~6のいずれにも、焼結工程の温度及び時間を管理して、焼結助剤で形成される粒界相をアモルファス構造とする方法については記載されていない。むしろ、特許文献1には、粒界相に焼結助剤がガラス相として残留すると、高温強度、耐クリープ性等の高温特性が低下することを問題点とし、上記のとおり焼結後に1100~1700℃で残留ガラス相を結晶化させて除去することが記載されている。
【0011】
これに対して、本発明者の検討によると、焼結助剤で形成される粒界相が結晶相であると、焼結後の冷却時の体積収縮が大きくなり、窒化ケイ素焼結体中のボイドが多くなり、窒化ケイ素焼結体の反りが大きくなることが分かってきた。そして、焼結工程の温度及び時間を管理して、焼結助剤で形成される粒界相をアモルファス構造とすることにより、焼結後の冷却時の体積収縮が小さくなり、窒化ケイ素焼結体中のボイドが少なくなり、窒化ケイ素焼結体の反りが小さくなることも分かってきた。本発明は、この検討をさらに鋭意進めてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]窒化ケイ素粉末と焼結助剤との混合物を焼結する焼結工程は、1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200とし、焼結助剤で形成される粒界相をアモルファス構造とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。
[2]半導体検出器を備えたX線回折装置を使用して得られたX線回折パターンにおいて粒界相に由来するピークが検出されないことが好ましい。
[3]前記焼結工程において、焼成用の閉鎖状態の筐体内に、製造する窒化ケイ素焼結体とは別体の予め焼結した板状の窒化ケイ素焼結体を配置することが好ましい。
[4]前記焼結助剤として少なくともMgO又はMgSiN2を含有し、SrOを含有しないことが好ましい。
[5]前記焼結工程により、製造する窒化ケイ素焼結体が相対密度98%以上に緻密化することが好ましい。
【0013】
[作用]
1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200とすることにより、焼結が実現されるとともに、焼結中のSiO2の揮発が抑制されて、粒界相の結晶化が抑制される。焼結助剤で形成される粒界相をアモルファス構造とすることにより、焼結後の冷却時に、体積収縮が小さくなるとともに、焼結助剤がより低温まで液相として存在して窒化ケイ素結晶粒間の狭い部分まで行き渡るため、窒化ケイ素焼結体中のボイドが少なくなり、窒化ケイ素焼結体の内部応力が減少して反りが小さくなる。また、ボイド形状の凹凸が小さくなる。
また、焼結工程において、焼成用の閉鎖状態の筐体内に、製造する窒化ケイ素焼結体とは別体の予め焼結した板状の窒化ケイ素焼結体(以下「ダミー窒化ケイ素焼結体」という。)を配置すると、焼成時にダミー窒化ケイ素焼結体のSiO2が揮発することにより、製造する窒化ケイ素焼結体のSiO2の揮発が抑制されるので、これによっても結晶化が抑制され、また、焼結密度の低下が防止される。ダミー窒化ケイ素焼結体は、製造する窒化ケイ素焼結体と、同一組成である必要はないが、同一助剤系であることが好ましい。
また、焼結助剤としてアルカリ土類金属を添加することにより、液相の融点を下げる効果がある。しかしながら、アルカリ土類金属であってもSrOは、MgO又はMgSiN2よりも揮発しにくいことから焼成後に残存してしまい、熱伝導を阻害する要因になってしまうため、少なくともMgO又はMgSiN2を含有し、SrOを含有しないことにより、高熱伝導率の窒化ケイ素焼結体を得ることができる。
また、窒化ケイ素焼結体が相対密度98%以上に緻密化することにより、曲げ強度が高くなり、絶縁破壊電圧も高くなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、窒化ケイ素焼結体中のボイドが少なくなり、窒化ケイ素焼結体の反りが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は窒化ケイ素焼結体のX線回折パターン図を示し、(a)は実施例1の同図、(b)は比較例1の同図である。
【
図2】
図2は窒化ケイ素焼結体のSEM写真を示し、(a)は実施例1の同写真、(b)は比較例1の同写真である。
【
図4】
図4は窒化ケイ素焼結体の反りの測定方法を説明する図である。
【
図5】
図5は窒化ケイ素焼結体の用途例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の窒化ケイ素焼結体の製造方法は、窒化ケイ素粉末と焼結助剤との混合物を緻密化させる焼結工程は、1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200とし、焼結助剤で形成される粒界相をアモルファス構造とすることを特徴とする。上記手段に例示した好ましい態様に加え、次の好ましい形態を例示する。
【0017】
1.粒界相
窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素と、焼結助剤で形成される粒界相とからなり、前記粒界相がアモルファス構造であることが好ましい。
前記粒界相は、少なくともMgO又はMgSiN2を含有し、SrOを含有しないことが好ましい。
前記粒界相は、少なくともMg、稀土類元素(RE)、Siを含むアモルファス構造であることが好ましい。
半導体検出器を備えたX線回折装置を使用して得られたX線回折パターンにおいて回折角2θが28°~32°の範囲に存在する粒界相における結晶化合物のピークのうち、最も大きい積分強度が、窒化ケイ素(101)面の積分強度に対して5%以下であるものを、アモルファス構造と定義する。
窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの平面投影面積率が1.0%以下であることが好ましい。
窒化ケイ素焼結体の熱伝導率が80W/m・K以上であることが好ましい。
【0018】
粒界相がアモルファス構造であることにより、焼結後の冷却時に、体積収縮が小さくなるとともに、焼結助剤がより低温まで液相として存在して窒化ケイ素結晶粒間の狭い部分まで行き渡るため、窒化ケイ素焼結体中のボイドが少なくなり、窒化ケイ素焼結体の内部応力が減少して反りが小さくなる。また、ボイド形状の凹凸が小さくなる。
【0019】
2.ボイド
窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.9以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の10%以上を占めていることが好ましい。
窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.8以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の30%以上を占めていることが好ましい。
前記エリアにおいて、ボイドの平面投影面積率が1.0%以下であることが好ましい。
【0020】
凹凸度が0.9以上のボイドが10%以上を占めていることにより、又は、凹凸度が0.8以上のボイドが30%以上を占めていることにより、電圧印加時にボイド形状の凹凸部において発生する部分放電が、凹凸が小さいために発生しにくくなって減少し、絶縁破壊電圧が高くなる。
また、ボイドの平面投影面積率が1.0%以下であることにより、窒化ケイ素焼結体の反りが小さくなる。
【0021】
3.反り
板状の窒化ケイ素焼結体を120℃で1時間以上保持してから25℃の平坦な試料台に載せて1分経過する以前に測定した、窒化ケイ素焼結体の上面の最高点の試料台からの高さと最低点の試料台からの高さとの差の、窒化ケイ素焼結体の最大横断長さに対する割合として算出される反りが0.2%以下であることが好ましい。
ここで、窒化ケイ素焼結体の最大横断長さとは、窒化ケイ素焼結体の板面をその縁の1点から別の1点へ横断する線分のうち最大の線分長さをいい、例えば板面が長方形の場合は対角線長さ、板面が円形の場合は直径長さである。
【0022】
上記のとおり測定した反りが0.2%以下であることにより、窒化ケイ素焼結体が回路基板、放熱部材等として使用された製品が100℃を越えるような高温環境にさらされても、窒化ケイ素焼結体の反りが小さいので、十分な放熱効果が得られ、破損が生じにくい。
【0023】
4.絶縁破壊電圧
厚さ100μmの板状の窒化ケイ素焼結体に交流電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が5kV以上であることが好ましい。
【0024】
厚さ100μmの板状の窒化ケイ素焼結体に交流電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が5kV以上であることにより、実際に厚さ100μmほどに形成したときに高い絶縁破壊電圧が要求される窒化ケイ素焼結体の用途に対応することができる。
なお、「厚さ100μm」は、絶縁破壊電圧の測定条件として規定するだけであり、窒化ケイ素焼結体製品の厚さを規定するものでない。すなわち、窒化ケイ素焼結体製品はどのような厚さでもよく、それを厚さ100μmに加工して測定した絶縁破壊電圧が5kV以上であれば好ましい。
【0025】
5.用途
窒化ケイ素焼結体の用途としては、特に限定されないが、次の用途を例示できる。
図5(a)に示すような、半導体モジュール、LEDパッケージ、ペルチェモジュール、プリンタ、複合機、半導体レーザー、光通信、高周波などで使用される回路基板。
図5(b)に示すような汎用の放熱部材。
図5(c)に示すようなパワー半導体モジュール用放熱部材(ヒートシンク)。
図5(d)に示すような絶縁板。
図5(e)に示すような接合ウエハ用の絶縁板。
図5(f)に示すような柔軟性を有する樹脂等に埋設した放熱部材。
図示しないが、ジャイロトロンやクライストロンなどに用いられる高周波窓。
【実施例0026】
次に、本発明を具体化した実施例について、比較例と比較しつつ、図面を参照して説明する。なお、実施例の各部の材料、数量及び条件は例示であり、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0027】
表1及び表2に示す実施例1~21に示す窒化ケイ素焼結体と、表3に示す比較例1~8の窒化ケイ素焼結体を作製した。以下「各例」というときは、実施例1~21及び比較例1~8の各々を指すものとする。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
[1]材料
主原料である窒化ケイ素(Si3N4 )として、イミド熱分解法、もしくは、直接窒化法によって製造された、平均粒子径(D50)が約1.0μmの窒化ケイ素粉末を各例に用いた。
【0032】
焼結助剤として、表1~3に示すように、MgO、MgSiN2、Y2O3、La2O3、Nd2O3、Sm2O3、Dy2O3の各粉末から選んだ2種を、各例に用いた。実施例1~21では、少なくともMgO又はMgSiN2を用いており、SrOを用いていない。
【0033】
[2]製造方法
(i)材料の混合工程
各例について、窒化ケイ素粉末に対して表1~3に示す質量%の焼結助剤粉末を配合した(窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末との計が100質量%)。この配合粉末100重量部に対して、界面活性型分散剤を0.3重量部と、トルエンとエタノールの混合溶媒を約50重量部添加して、樹脂製容器と窒化ケイ素玉石を用いたボールミルによって粉砕混合を行った。
【0034】
この粉砕混合物に、さらにバインダーとしてポリビニルブチラールを10重量部と、可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを4重量部と、トルエンとエタノールの混合溶媒を約20重量部とからなる溶解バインダー溶液を加え、溶解バインダー溶液と前記粉砕混合物が完全に混合されるまで、ボールミルによって攪拌混合した後、スラリーを作製した。そして、スラリーを真空中で加熱放置し、脱泡及び溶媒を揮発させることで、25℃における粘度を15000cpsに調整した。
【0035】
(ii)グリーンシートの作製工程
次いで、作製した各例のスラリーから、ドクターブレード法によって板状のグリーンシートを得た。ドクターブレード成形装置内での最終乾燥温度は90℃とした。得られたグリーンシートを、金型プレス加工により長方形180mm×250mmへ型抜きした。
【0036】
型抜きしたグリーンシートの表面へ、離型材としての窒化ホウ素(BN)粉体スラリーをスプレーによって吹き付け、そのグリーンシートを複数枚重ねたグリーンシート積層体をBN製の筐体へ配置し、乾燥空気流量中において500℃に約4時間加熱し、バインダーなどの有機成分を除去する脱脂工程を行った。
【0037】
(iii)グリーンシートの焼結工程
実施例1~21については、BN製の底板にグリーンシート積層体を配置し、その上にBN製のセッターを置き、セッターの上に載荷体としてタングステン製ブロックを置き、載荷体の上に上述した板状のダミー窒化ケイ素焼結体を配置した。
次いで、前記底板にBN製の側板及び天板を設置して、閉鎖状態の筐体を組み立てた。こうしてグリーンシート等を内包した筐体を焼成炉に入れ、焼成炉内を0.9MPaの窒素雰囲気とした。筐体は、完全な密閉ではなく、窒素が流入しうる程度の閉鎖状態なので、筐体内も0.9MPaの窒素雰囲気となる。
【0038】
この状態で、各例について、表1~2に示す焼成温度で焼成時間加熱することで、グリーンシート積層体を焼結させ、焼結後の積層体を1枚ずつの窒化ケイ素焼結体に分離した。分離した窒化ケイ素焼結体について、ホーニングによってBN離型材の除去を行った。ホーニング後の窒化ケイ素焼結体の外周4辺をダイヤモンドスクライバーでブレーク処理を行い、最終的に得られた窒化ケイ素焼結体の形状寸法は、長方形板状の139.6mm×190.5mm×0.32mmであった。
実施例1~21では、焼成温度を1830~1920℃の範囲とし、次の式1を満たすように比較的短時間、焼結した。
1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200・・・(式1)
【0039】
比較例1~7では、焼成温度を1860~1880℃の範囲としたが、上記の式1の上限を越えるように比較的長時間、焼結した。
比較例8では、焼成温度を1800℃とし、式1の下限を下回るように短時間、焼結した。
【0040】
[3]特性
各例の窒化ケイ素焼結体の特性として、相対密度、3点曲げ強度、熱伝導率、X線回折法による粒界相の同定、ボイド、反り、絶縁破壊電圧を測定した(表1~3に示す)。
【0041】
(i)相対密度と3点曲げ強度
窒化ケイ素焼結体の相対密度は、測定密度/理論密度である。測定密度は、純水に窒化ケイ素焼結体を沈めるアルキメデス法により測定した。理論密度は、原料粉末の密度として、Si3N4=3.18g/cm3、MgO=3.60g/cm3、MgSiN2=3.07g/cm3、Y2O3=5.01g/cm3、La2O3=6.51g/cm3、Nd2O3=7.24g/cm3、Sm2O3=7.60g/cm3、Dy2O3=7.81g/cm3などの値を使用し、原料粉末の混合比から算出した。
3点曲げ強度は、窒化ケイ素焼結体をサイズ40mm×20mm×0.32mmの試験片に加工し、株式会社島津製作所製の万能試験機:型式「AG-IS」を使用して、クロスヘッドスピード0.5mm/分、支点間距離30mmで、室温(23±2℃)にて測定した。
【0042】
実施例1~21と比較例1~4,6,7は相対密度が98%以上であり、十分に緻密化できているために、3点曲げ強度が600MPa以上となった。
比較例5,8は相対密度が98%未満であり、十分に緻密化できていないために、3点曲げ強度が600MPa未満となり、高強度の窒化ケイ素焼結体を得ることができなかった。
【0043】
(ii)熱伝導率
熱伝導率は、窒化ケイ素焼結体をサイズ10mm×10mm×0.32mmの試験片に加工し、表面処理(Ag膜蒸着+カーボン黒化処理)した後、NETZSCH社製の熱伝導性計測器:型式「LFA 467 HyperFlash」を使用して測定した。
【0044】
(iii)X線回折法による粒界相の同定
窒化ケイ素焼結体をサイズ10mm×10mm×0.32mmの試験片に加工し、株式会社リガク製のX線回折装置:型式「Ultima IV」(封入式管球のターゲットはCu、Niフィルター使用、検出器は1次元半導体方式)を使用して、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折法により、試験片平面のX線回折パターンを得た。
得られたX線回折パターンにおいて、α-Si3N4の(101)面の積分強度(以下「I窒化ケイ素」という。)と、回折角2θが28°~32°の範囲にある粒界相のSi-Y-N-O化合物のピークのうちの最大ピークの積分強度(以下「I粒界相」という。)とを、次の手順で算出し、積分強度比(I粒界相/I窒化ケイ素)を求めた。
(1) バックグラウンド除去、Kα2除去及び平滑化の前処理を行い、ピークサーチを行う。
(2) ピークプロファイルを測定データから差し引くことでバックグラウンドのプロファイルを計算し、計算で算出したデータをBスプライン関数でフィッティングする。
(3) ピーク形状は分割擬ヴォイト関数で表し、積分強度を算出する。
【0045】
図1(a)に実施例1のX線回折パターンを示す。焼結助剤で形成される粒界相に由来するピークが検出されず、表1のとおり、積分強度比は0であった。これは、粒界結晶相が存在せず、粒界相が実質的にアモルファス構造であることを示している。
実施例2~19も実施例1と同様であった。
実施例20,21では焼結助剤で形成される粒界相に由来するピークが検出されたが、表1のとおり、積分強度比は2.4%、3.8%であった。このように、粒界相に結晶相は存在するがその積分強度比が5%以下と僅かであるものを、アモルファス構造と定義する。
【0046】
図1(b)に比較例1のX線回折パターンを示す。焼結助剤で形成される粒界相に由来するピークが検出され、表3のとおり、積分強度比は24.6%であった。これは、粒界結晶相が存在するだけでなく、粒界相が実質的に結晶相からなることを示している。
比較例2~7も比較例1と(積分強度比は異なるものの)基本的に同様であった。
比較例8では焼結助剤で形成される粒界相に由来するピークが検出されず、表1のとおり、積分強度比は0であった。これは、粒界結晶相が存在せず、粒界相が実質的にアモルファス構造であることを示している。但し、比較例8は、後述するように、相対密度が低く、凹凸度0.8以上のボイドが少ない。
【0047】
(iv)ボイド
窒化ケイ素焼結体を、次のように表面処理した。
窒化ケイ素焼結体を8mm×8mm×0.32mmの試験片に加工し、日化精工株式会社製のアルコワックス「5402SL」を使用して、φ40のアルミ製試料台へ固定した。
試料台をアイエムティー株式会社製の試料回転機:型式「SP―L1」へセットし、同社製の卓上研磨機:型式「IM-P2」を使用して、#80、#600、#1200の順にダイヤモンド研磨パッド(同社製)を用いて窒化ケイ素焼結体を表面研磨(研磨荷重:15N、研磨盤回転数:150rpm、試料回転数:150rpm)し、平坦度の調整を行った。ダイヤモンド研磨パッドにおける最終研磨量は、約50μmとなるように調整した。その後、粒度が15μm、6μm、1μmのダイヤモンドスラリー(同社製)を用いて、それぞれのダイヤモンドスラリーで5分間の表面研磨(研磨荷重:15N、研磨盤回転数:150rpm、試料回転数:150rpm)を行った。
さらに、仕上げ用研磨剤として粒度が0.05μmのアルミナスラリー(Buehler社製)を使用して20分間研磨を行うことで、鏡面仕上げとした。
鏡面仕上げ後、メイワフォーシス株式会社製のプラズマエッチング装置:型式「SEDE-PHL」を使用して、4分間のCF4ガス中でのプラズマエッチングを行い、微構造観察面を調整した。
その後、観察試料表面に導電処理を施す目的で、株式会社日立ハイテク製のイオンスパッタ:型式「E-1010」を使用してAu膜を形成した。スパッタ時間は120秒とし、操作マニュアルによると、形成されるAu膜の厚さは約15~20nmである。
【0048】
上記表面処理後の窒化ケイ素焼結体を、株式会社日立ハイテク製の走査型電子顕微鏡(SEM):型式「S-3400N」を使用し、加速電圧10kVにて観察しSEM写真を撮影した。
図2(a)に実施例1のSEM写真を示し、
図2(b)に比較例1のSEM写真を示す。
【0049】
撮影したSEM写真を、旭化成エンジニアリング株式会社製のソフトウェア「A像くん Ver.2.58」を使用して画像解析し、研磨面の任意の一つの64μm×48μmのエリアに存在するボイドの、凹凸度を測定するとともに、凹凸度を6つに区分(0.9以上、0.8以上0.9未満、0.7以上0.8未満、0.6以上0.7未満、0.5以上0.6未満、0.5未満)し区分ごとのボイドの個数と、各区分ごとのボイドの個数がボイドの全個数に占める割合を算出した。
ここで、凹凸度は、
図3に示すようにボイドの輪郭線と包絡線に基づき、次の式2により算出されるものである。凹凸度が1に近いほど凹凸が少なく、1より小さいほど凹凸が多い。
凹凸度=ボイドの輪郭線内の面積/ボイドの包絡線内の面積・・・(式2)
【0050】
実施例1~21は、凹凸度が0.9以上のボイドが10%以上を占め、凹凸度が0.8以上のボイドが30%以上を占めていた。
比較例1~8は、凹凸度が0.9以上のボイドが10%未満であり、凹凸度が0.8以上のボイドが30%未満であった。
【0051】
次に、窒化ケイ素焼結体のSEM写真の64μm×48μmのエリアを、上記ソフトウェアを使用して画像解析し、ボイドの平面投影面積率(%)を次の式3により算出した。
平面投影面積率=(ボイドの平面投影面積の合計/エリアの面積)×100 …(式3)
実施例1~21と比較例3は、平面投影面積率が1.0%以下であった。
比較例1,2,4~8は、平面投影面積率が1.0%を越えていた。
【0052】
(v)反り
図4に示すように、各例について3枚の窒化ケイ素焼結体(139.6mm×190.5mm×0.32mm、対角線長さ236mm)を、120℃、相対湿度1%rhに調整した加熱炉に入れて同温度で1時間保持した後、加熱炉から取り出してからGFMesstechnik社製の光学式3次元測定器:型式「MikroCAD」が装備する平坦な天然石の試料台(25℃)に載せて1分経過する以前に、同測定器により窒化ケイ素焼結体の最高点の試料台からの高さと最低点の試料台からの高さとの差(μm)を測定し、該差の3枚の平均値を算出し、該平均値の、窒化ケイ素焼結体の板面の最大横断長さ(本例では対角線長さ)に対する割合(%)を反りの値とした。
【0053】
実施例1~21と比較例8は、反り(平均値)が0.2%以下であった。
比較例1~7は、反り(平均値)が0.2%を越えていた。
【0054】
また、実施例1について、120℃で保持する時間を2時間、4時間、8時間と長くし、その他は上記と同様に反りを測定したが、1時間保持したときの測定結果に対して±1%以内であったことから、保持時間による有意差は見られなかった。
また、加熱炉から取り出してから25℃の平坦な試料台に載せて測定するまでの経過時間を20秒後、40秒後と変えて、その他は上記と同様に反りを測定したが、1分経過後の測定結果に対して±3%以内であったことから、1分以内であれば、加熱炉から取り出してからの経過時間による有意差は見られなかった。なお、±3%以内とは、反り0.2%の窒化ケイ素焼結体に対して0.194%~0.206%の間の変動を意味しており、有意差はないといえる。
【0055】
また、次の表4に示すように、実施例14(組成及び焼成条件が全実施例のうちで平均的である)については、反りを測定した2枚目の窒化ケイ素焼結体を、4分割してサイズを小さくした(69.8mm×95.3mm×0.32mm、対角線長さ118mm)ものと、これをさらに2分割してサイズを小さくした(69.8mm×47.6mm×0.32mm、対角線長さ85mm)ものと、これをさらに2分割してサイズを小さくした(34.9mm×47.6mm×0.32mm、対角線長さ59mm)ものについても、上記と同様に120℃保持後の反りを測定した。
【0056】
【0057】
分割前(対角線長さ236mm)の反り0.14%に対して、分割後(対角線長さ118mm、85mm、59mm)の反りはそれぞれ0.12%、0.13%、0.15%であった。このことから、サイズを小さく分割していっても、分割前の反りとほとんど変わらない結果が得られた。
【0058】
(vi)絶縁破壊電圧
窒化ケイ素焼結体を20mm×20mmの個片に切り出し、両面研磨によって厚さ100μmにすることで測定試料とした。なお、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡:型式「VKX―150」を使用して研磨試料表面の200μm×200μm範囲(対物レンズの倍率は50倍)における面粗さ(Sa)を測定した結果、Sa=0.48~0.52μmの範囲であった。測定電極としてφ10.4mmの導電性銅箔粘着テープを試料両面に貼り付け、菊水電子工業株式会社の耐電圧試験器:型式「TOS5101」を使用して、フッ素系不活性液体(スリーエムジャパン株式会社製、フロリナート FC-43)中で交流電圧(正弦波)を印加した。交流電圧の昇圧速度は500V/sとして、3つのサンプルの測定における平均の絶縁破壊電圧を測定した。
【0059】
実施例1~21は、絶縁破壊電圧が5kV以上であった。
比較例1~7は、絶縁破壊電圧が5kV未満であった。
【0060】
絶縁破壊電圧は、100μmよりも厚さが大きい(例えば300μm)焼結体で測定されることが多いが、そのような焼結体の測定結果を100μmあたりに換算して得られる数値はあくまでも理論的な数値である。そのため、実際に100μmほどに形成したときの当該焼結体の絶縁破壊電圧も、換算した数値になることを保証することはできない。本発明は、その保証を可能とするものである。
【0061】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
前記焼結工程において、焼成用の閉鎖状態の筐体内に、製造する窒化ケイ素焼結体とは別体の予め焼結した板状の窒化ケイ素焼結体を配置する請求項1に記載の窒化ケイ素の製造方法。