(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166471
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】乳分とカフェインとを含有する容器詰アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20221026BHJP
【FI】
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071700
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 由利子
(72)【発明者】
【氏名】河野 美香
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LH09
4B115LH11
4B115LP01
4B115LP02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】乳分の加熱劣化臭を低減した、乳分を含有する飲料を提供する。
【解決手段】乳分と、1~135ppmのカフェインと、1.0~9.0v/v%のアルコールとを含有する容器詰飲料であって、加熱殺菌された飲料である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳分と、1~135ppmのカフェインと、1.0~9.0v/v%のアルコールとを含有する容器詰飲料。
【請求項2】
加熱殺菌された飲料である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
アルコールの含有量が1.0~9.0v/v%である乳分含有容器詰飲料における乳分の加熱劣化臭を低減する方法であって、
前記飲料が1~135ppmのカフェインを含有するように原料を混合する工程を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳分とカフェインとを含有するアルコール飲料、及び関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
常温で長期保存可能な容器詰めの乳分含有飲料の製造工程においては、容器に充填される前、または充填された後のいずれかに高温殺菌が施される。この加熱処理によって、飲料中の乳分が熱変性し、乳独特の劣化臭を発生させることが知られている。
【0003】
そこで、乳分含有飲料において、乳加熱臭を抑制する方法が種々開発されている。例えば、牛乳中の溶存酸素を不活性の窒素ガスと置換することにより、加熱により生成するジメチルスルフィド及びジメチルジスルフィドに起因する乳加熱臭の生成を抑制する方法(特許文献1)、α-グリコシルトレハロースを含有させることにより、フルーツミルクやコーヒーミルクといった乳飲料における乳加熱臭の生成を抑制する方法(特許文献2)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3091752号公報
【特許文献2】特開2006-94856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、乳分を含有する飲料において、乳分の加熱劣化臭を低減する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、乳分を含有する飲料にアルコールとカフェインを添加すると、乳分の加熱劣化臭を効率よく低減することができることを見出した。
本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されない。
1.乳分と、1~135ppmのカフェインと、1.0~9.0v/v%のアルコールとを含有する容器詰飲料。
2.加熱殺菌された飲料である、1に記載の飲料。
3.アルコールの含有量が1.0~9.0v/v%である乳分含有容器詰飲料における乳分の加熱劣化臭を低減する方法であって、
前記飲料が1~135ppmのカフェインを含有するように原料を混合する工程を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、乳分を含有する飲料において、乳分の加熱劣化臭を効率よく低減することができる。特に、本発明の飲料中のアルコールとカフェインの含有量が特定範囲にある場合、当該低減効果が高まる。
【0008】
なお、本明細書において、乳分の加熱劣化臭とは、乳分をレトルト殺菌した際に生じる加熱された乳の乳臭さや、もったりと後引きする香味を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の飲料、及び関連する方法について、以下に説明する。
なお、特に断りがない限り、本明細書において用いられる「ppm」は、重量/容量(w/v)のppmを意味し、これは「mg/L」と同義である。
【0010】
(乳分)
本明細書において用いられる「乳分」との用語は、飲料にミルク風味やミルク感を付与するために添加する成分を指し、主に乳(例えば、牛乳、羊乳、山羊乳)及び乳製品を意味する。乳分には、乳等省令に定義されている乳及び乳製品が含まれる。より具体的には、乳としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳などが挙げられ、乳製品としては、クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、調製液状乳、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料などが挙げられる。本発明の飲料は、これらの内の一種だけを含有してもよいし、二種以上を含有してもよい。好ましい乳分は、全粉乳、脱脂粉乳、牛乳、生クリームであり、より好ましい乳分は脱脂粉乳である。
【0011】
本発明の飲料における乳分の含有量は、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、固形分換算で好ましくは10~300ppm、より好ましくは30~180ppm、より好ましくは50~150ppm、より好ましくは80~120ppmである。
【0012】
ここでいう固形分とは、乳分を一般的な乾燥法(凍結乾燥、蒸発乾固など)を用いて乾燥させて水分を除いたのちに得られる乾固物のことをいう。当該含有量は、当該飲料が複数種類の乳分を含有する場合には、それらの乳分から得られる固形分の総量である。また、本発明において、乳分が特定のものに限定される場合には、当該飲料中の乳分の含有量は、当該限定された乳分の含有量を意味する。
【0013】
(アルコール)
本発明の飲料は、アルコールを含有する飲料、すなわちアルコール飲料である。本明細書に記載の「アルコール」との用語は、特に断らない限りエタノールを意味する。
【0014】
本発明の飲料のアルコールの含有量は、1.0~9.0v/v%、好ましくは2.0~8.0v/v%である。アルコール含有量が前記の範囲にあると、優れた乳分加熱劣化臭低減効果が得られる。特に、アルコール含有量が2.0~8.0v/v%である場合には、カフェインの乳分加熱劣化臭低減効果を高めることができる。アルコール含有量は、香味上、9.0v/v%未満が好ましい。
【0015】
本明細書においては、飲料のアルコール含有量は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、飲料から濾過又は超音波によって必要に応じて炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を水蒸気蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。
【0016】
本発明の飲料には、アルコールをどのような手段で含有させてもよいが、典型的には、本発明の飲料は蒸留酒を含有し、それによってアルコールを含有する。当該蒸留酒は、その原料や製造方法によって限定されない。当該蒸留酒としては、例えば、スピリッツ(例えば、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、アクアビット)、ニュートラルスピリッツ、リキュール類、焼酎が挙げられる。好ましくは、当該蒸留酒はニュートラルスピリッツである。
【0017】
本発明のアルコール飲料の種類は特に限定されないが、好ましくは、ハイボール、チューハイ(酎ハイ)、サワーなどである。「ハイボール」、「チューハイ」、「サワー」との用語は、本発明の飲料との関連で用いられる場合、水と蒸留酒と炭酸とを含有する飲料を意味する。それらは、さらに果汁またはフレーバー(香料)を含有してもよい。
【0018】
(カフェイン)
本発明の飲料は、1~135ppm、好ましくは5~135ppm、より好ましくは10~135ppm、より好ましくは30~135ppm、より好ましくは80~135ppmのカフェインを含有する。
【0019】
本発明で用いるカフェインの供給源は特に限定されないが、食品添加物として市販されているカフェインの精製品(カフェイン含量95%以上、より好ましくは98%以上)を用いてもよいし、コーヒー豆の抽出物や、茶葉の抽出物を用いてもよい。また、カフェインの供給源は水和物や無水物であってもよい。
【0020】
飲料中のカフェインの含有量は、HPLCなどの公知の方法を用いて測定することができる。
(容器詰飲料)
本発明の飲料は、容器詰めの形態で提供される。容器の形態には、缶等の金属容器、ペットボトル、紙パック、ガラス瓶、パウチなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
(加熱殺菌)
本願発明の飲料は、加熱殺菌されていてもよいし、加熱殺菌されていないがそうされる可能性のあるものであってもよい。好ましくは、本発明の飲料は、加熱殺菌された容器詰飲料である。
【0022】
加熱殺菌はある程度過酷な殺菌処理である。したがって、加熱殺菌は、乳分とアルコールに起因して不快な劣化臭を発生するが、本発明の飲料は、この劣化臭を効果的に低減することができる。
【0023】
ここで、加熱殺菌された飲料とは、80℃以上(好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上)160℃以下(好ましくは150℃以下)で、0.01分以上(好ましくは0.03分以上)60分以下(好ましくは30分以下)の加熱殺菌処理が行われた飲料をいう。加熱殺菌処理の方法は、容器によって適宜選択することができ、耐熱性容器(金属容器、ガラス等)を使用する場合には、レトルト殺菌を行えばよい。また、非耐熱性容器(ペットボトル、紙容器等)を用いる場合は、例えば、調合液を予めプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌し、一定の温度まで冷却した後、容器に充填することができる。
【0024】
(他の成分)
本発明における飲料には、他にも、本発明の効果を損なわない限り、飲料に通常配合する添加剤、例えば、炭酸、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、保存料、調味料、pH調整剤、品質安定剤等を配合することができる。
【0025】
(方法)
本発明は、別の側面ではアルコールの含有量が1.0~9.0v/v%である乳分含有容器詰飲料における乳分の加熱劣化臭を低減する方法である。当該方法は、前記飲料が1~135ppmのカフェインを含有するように原料を混合する工程を含む。
【0026】
飲料中の乳分、カフェイン、アルコールの含有量を調整する方法は、当該飲料に関する上の記載から自明である。そのタイミングも限定されない。最終的に得られた飲料が、上記の条件を満たせばよい。また、好ましい成分の種類、含有量の好ましい範囲は、飲料に関して上記した通りである。さらに、追加的な他の成分の具体例や量も、飲料に関して上記した通りである。
【0027】
(数値範囲)
明確化のために記載すると、本明細書における数値範囲は、その端点、即ち下限値及び上限値を含む。
【実施例0028】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定される
ものではない。
(試験例1) アルコール及びカフェインの効果
アルコール及びカフェインの、乳分の加熱劣化臭に対する効果を検討した。
【0029】
具体的には、アルコール含有量とカフェイン含有量を変動させつつ、ニュートラルスピリッツ、水、乳分、カフェインを混合してサンプル飲料を複数調製した(アルコールとカフェインの含有量は、以下の表に示す)。乳分として脱脂粉乳を用い、全ての飲料において、その含有量は、固形分換算で300ppmであった。次いで、得られた飲料の各々を190mlのスチール缶に詰めて、加熱殺菌処理に付した後、官能評価を実施した。加熱殺菌処理条件は、121℃で30分間であった。
【0030】
官能評価は、乳分の加熱劣化臭の低減効果に加えて総合評価について3~4名のパネラーが実施した。総合評価とは、乳由来のまろやかな味わい、すっきりとした後味、を含めたアルコール飲料としての総合的な美味評価である。
【0031】
加熱劣化臭の低減効果に関しては、以下の基準を設けて評価し、その平均点を求めた。
1:効果がみられない
2:効果がわずかにみられる
3:効果がみられる
4:明らかに効果がみられる
5:非常に効果がみられる
総合評価に関しては、以下の基準を設けて評価し、その平均点を求めた。
【0032】
1:好ましくない
2:あまり好ましくない
3:ふつう(平均レベル)
3.5:好ましい
4:とても好ましい
5:非常に好ましい
なお、評価に先立って、各点数と、それに対応する基準飲料を用いて、各点数に関する共通認識を形成した。
【0033】
結果を以下に示す。アルコール含有量とカフェイン含有量が特定範囲にある場合に、乳分加熱劣化臭に対する優れた低減効果が認められ、総合評価も優れていた。
【0034】
【0035】
(試験例2) 乳分の種類の影響
乳分の種類が加熱劣化臭に対して与える効果を検討した。
具体的には、脱脂粉乳の代わりに牛乳を固形分換算で300ppm用いたことを除いて、試験例1と同じようにして4つのサンプル飲料を調製した。カフェインとアルコールの含有量は、以下の表に示したとおりである。そして、得られた加熱殺菌済み飲料について、試験例1と同様にして官能評価を実施した。その結果も以下の表に示す。乳分の種類を変動させても、試験例1と同様の傾向が認められた。
【0036】