(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166483
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】木製スプーンの製造方法
(51)【国際特許分類】
B27M 3/24 20060101AFI20221026BHJP
A47G 21/04 20060101ALI20221026BHJP
B27M 1/02 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
B27M3/24 Z
A47G21/04 Z
B27M1/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071717
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】592085780
【氏名又は名称】やなぎプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080746
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 武嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100217881
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 由美
(72)【発明者】
【氏名】渕側 吉胤
【テーマコード(参考)】
2B250
3B115
【Fターム(参考)】
2B250AA17
2B250BA05
2B250DA03
2B250FA01
2B250FA18
2B250FA21
2B250FA37
2B250FA53
2B250HA01
3B115AA11
3B115BA02
3B115DA15
3B115EA01
(57)【要約】
【課題】プレス成形の際、木製スプーンが割れることなく確実にプレス成形することができる木製スプーンの製造方法を提供する。
【解決手段】天然木材から成る加湿加温状態の帯状又は枚葉状の薄板材1を、加熱状態の上金型2と下金型3にて、打抜きとプレス成形を同時に行って、複数個のスプーンを同時に作製する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然木材から成る加湿加温状態の帯状又は枚葉状の薄板材(1)を、加熱状態の上金型(2)と下金型(3)にて、打抜きとプレス成形を同時に行って、複数個のスプーン(4)を同時に作製することを特徴とする木製スプーンの製造方法。
【請求項2】
上記プレス成形時の上記上金型(2)と下金型(3)の加熱温度(TP )を、 120℃≦TP ≦ 230℃に設定した請求項1記載の木製スプーンの製造方法。
【請求項3】
上記打抜きとプレス成形の直前の上記薄板材(1)の温度(T1 )を、80℃≦T1 ≦ 100℃に設定した請求項1又は2記載の木製スプーンの製造方法。
【請求項4】
上記上金型(2)と下金型(3)によって形成される各スプーン形成キャビティ(5)における壺成形キャビティ部(6)の間隙寸法(S)を、壺中央領域(7)から壺周縁部(8)に近づくに従って減少するように、設定し、上記プレス成形の際に、上記壺中央領域(7)から上記壺周縁部(8)に近づくに従ってプレス圧力がしだいに増加するようにした請求項1記載の木製スプーンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製スプーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンビニエンスストアのお弁当等に対して、プラスチック製のスプーンが提供されているが、プラスチックは、環境上問題となっている。この環境問題を回避するために、天然木材を用いてスプーンを製造することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1記載の木製スプーンの製造方法は、
図11(A)・
図11(B)に示すように、平板からスプーン形状の半製品30を打抜いた後、乾燥させた状態の(平板状)半製品30に対して、
図11(C)に示すように(上金型31・下金型32にて)凹凸成型プレスをする方法であった。
【0005】
しかしながら、このような製造方法では、次のような欠点があった。つまり、 (i) 1個ずつ、
図11(B)のように予め打抜いた半製品30を凹凸成型プレスするため製造能率が良くないという欠点、 (ii) 一旦打抜いた半製品30を上金型31と下金型32のキャビティ33内に正確に位置決めしつつセットするのが至難であって、不良品発生率が高いという欠点、(iii) 乾燥状態で凹凸プレス成形するため、天然木材ではスプーンの周端縁にトゲ(鋭利な小突出子)が生じたり、割れを生ずる虞れがあった。
【0006】
そこで、本発明は、このような従来の欠点を解消して、不良品の発生もなくなり、特に、スプーンの壺の形状が美しく成形され、トゲ(ヒゲ)が発生せず、かつ、割れも発生させずに、木製スプーンが能率良く製造できる木製スプーンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る木製スプーンの製造方法は、天然木材から成る加湿加温状態の帯状又は枚葉状の薄板材を、加熱状態の上金型と下金型にて、打抜きとプレス成形を同時に行って、複数個のスプーンを同時に作製する方法である。
【0008】
また、上記プレス成形時の上記上金型と下金型の加熱温度TP を、 120℃≦TP ≦ 230℃に設定した方法である。
また、上記打抜きとプレス成形の直前の上記薄板材の温度T1 を、80℃≦T1 ≦ 100℃に設定した方法である。
【0009】
また、上記上金型と下金型によって形成される各スプーン形成キャビティにおける壺成形キャビティ部の間隙寸法を、壺中央領域から壺周縁部に近づくに従って減少するように、設定し、上記プレス成形の際に、上記壺中央領域から上記壺周縁部に近づくに従ってプレス圧力がしだいに増加するようにした方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の木製スプーンの製造方法によれば、不良品の発生が少なく、特に、木製スプーンの壺の形状が立体的に美しく成形可能となり、また、トゲ(ヒゲ)が壺の周端縁に発生せず、かつ割れも発生せず、木製スプーンを能率的に製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図6】プレス成形時の状態を示す要部拡大図である。
【
図9】木製スプーンを示す図であって、(A)は側面図、(B)は(A)のZ-Z断面図である。
【
図11】従来例を示す図であって、(A)は打抜き加工を示す説明用平面図、(B)は乾燥工程を示す図、(C)はプレス成形時の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図示の実施の形態に基づいて本発明を詳説する。
図1~
図7は、本発明の実施の一形態を示す。天然木材から成る円柱状の丸太9を湯に浸漬して、アク抜きするとともに、80%~ 100%の含浸状態として、柔らかくする。例えば、85℃~ 100℃の湯に、24時間浸漬する。天然木材は、例えば、白樺、菩提樹等である。その後、
図1に示すように、浸漬槽から取出した丸太9を、直ちに、刃10にて、いわゆる桂剥きして、加湿加温状態の帯状の薄板材1を作製する。薄板材1の厚さ寸法tを、1mm≦t≦2mmに設定する。厚さ寸法tが、t<1mmの場合、木製スプーン4(
図8~
図10参照)が強度不足となる。厚さ寸法tが、2mm<tの場合、プレス成形が困難となり、かつ、スプーンとして使い難くなる。
【0013】
図2・
図3に示すように、天然木材から成る加湿加温状態の帯状の薄板材1を、加熱状態の上金型(雌金型)2・下金型(雄金型)3にて、スプーン周端縁15の打抜き(切断)、及び、スプーンの壺14のプレス成形を同時に行って、複数個(例えば、10個~20個)のスプーン4(
図8~
図10参照)を同時に作製する。例えば、下金型3を固定して、上金型2を上下動させる。
【0014】
図3・
図4の11は、刃部を示す。打抜き及びプレス成形を行う毎に、帯状の薄板材1に(間欠的に)送りを与える。なお、本発明に於て、「同時」とは、上金型2と下金型3とが、(相対的に)一回の往復動をする間の時間をいうものとする。
【0015】
打抜き及びプレス成形の直前の薄板材1の温度T1 を、80℃≦T1 ≦95℃に設定する。温度T1 が、T1 <95℃の場合、プレス成形時に、薄板材1が割れたり、ヒゲ(トゲ)が発生したり、壺14の正確な形状が出しにくくなる虞れがある。温度T1 が、 100℃<T1 の場合、加熱するのが困難である。
【0016】
プレス成形時の(上金型2及び下金型3の)加熱温度TP を、 120℃≦TP ≦ 230℃に設定する。好ましくは、プレス成形時の加熱温度TP を、 150℃≦T1 ≦ 210℃に設定する。最も好ましくは、プレス成形時の加熱温度TP を、 170℃≦T1 ≦ 200℃に設定する。加熱温度TP が、下限値未満の場合、プレス成形時に、薄板材1が割れる虞れがある。加熱温度TP が、上限値を超える場合、加熱エネルギーの無駄使いとなり、また、薄板材1が焦げる虞れがある。
【0017】
図3~
図6に示すように、上金型2・下金型3によって形成される各スプーン形成キャビティ5における壺成形キャビティ部6の間隙寸法Sを、壺中央領域7から壺周縁部8に近づくに従って減少するように、設定し、プレス成形の際に、壺中央領域7から壺周縁部8に近づくに従ってプレス圧力(天然木材への圧縮率)がしだいに増加するようにする。すなわち、上金型2の凹部12の曲率半径R
1 を、下金型3の凸部13の曲率半径R
2 よりも小さく設定する。
図10は、点の密度によって、スプーン4の密度分布を示した説明図である。スプーン4の壺中央領域7から壺周縁部8に近づくに従って、密度が高くなる。つまり、密度が高い壺周縁部8は、強度も増加する利点もある。
【0018】
なお、木製スプーン4の柄部17は、(
図3~
図6に於ては図示省略したが、)通常、打抜きのみで十分である。但し、所望により、デザイン上から横断面凹凸状に少々、成形しても良い。この柄部17の打抜き(さらには所望の横断面凹凸状成形)は、壺14の成形と同時に行う。
【0019】
プレス時間Aを、2秒≦A≦5秒に設定する。プレス時間Aが、上記範囲内にある場合、十分なプレスを行うことができ、プレス成型後の形状が安定する(形状保持性が良い)。プレス時間Aが、A<2秒の場合、十分にプレスされず、戻りが生じる虞れがある。プレス時間Aが、5秒<Aの場合、既に十分プレス成形されてからもプレスしており、無駄である。
【0020】
打抜き及びプレス成形した複数個のスプーン4(
図8~
図10参照)を、金型(上金型2・下金型3)から出して容器等(図示省略)の所定空間内に投入し、容器等を回転させて、相互に(軽く)衝突させつつ、攪拌状に熱風にて乾燥する。相互に衝突させつつ、攪拌状とすることで、いわゆるササクレ(本発明では、トゲ又はヒゲと呼ぶ場合もある)を除去する。熱風乾燥の熱風温度T
N は、例えば、40℃≦T
N ≦50℃の熱風にて、乾燥時間A
N を5時間≦A
N ≦10時間として、乾燥させる。熱風温度T
N <40℃の場合、乾燥させるために長時間を要する。熱風温度T
N が50℃<T
N の場合、スプーン4の形状変形又は割れ等の虞れがある。乾燥時間A
N が、A
N <5時間の場合、十分に乾燥することができない虞れがある。乾燥時間A
N <10時間の場合、既に乾燥しているので、無駄である。
【0021】
なお、本発明は、設計変更可能であって、例えば、加湿加温状態の枚葉状の薄板材1に対して、打抜き及びプレス成形を行っても良い。
【0022】
以上のように、本発明は、天然木材から成る加湿加温状態の帯状又は枚葉状の薄板材1を、加熱状態の上金型2と下金型3にて、打抜きとプレス成形を同時に行って、複数個のスプーン4を同時に作製するので、安心・安全な材質の(木製)スプーン4を、高品質に高能率(生産効率)で製造することができる。また、プレス成形の際、木製スプーン4が割れることなく確実にプレス成形することができる。しかも、ササクレ(トゲやヒゲ)が無く安心して使用できる木製スプーンが確実に安定して得られる。また、複数個の木製スプーン4を(多数個取りにて)効率良く製造することができる。
【0023】
また、上記プレス成形時の上金型2と下金型3の加熱温度TP を、 120℃≦TP ≦ 230℃に設定したので、木製薄板材1から、確実かつ十分にプレス成形を行うことができ、特に、壺14の立体的形状を高精度に美しく成形できる。
【0024】
また、上記打抜きとプレス成形の直前の上記薄板材1の温度T1 を、80℃≦T1 ≦ 100℃に設定したので、プレス成形を容易かつ確実に行うことができ、特に、壺14の立体的形状を高精度に美しく、かつ、割れやササクレ(トゲやヒゲ)を発生せずに、プレス成形できる。
【0025】
また、上記上金型2と下金型3によって形成される各スプーン形成キャビティ5における壺成形キャビティ部6の間隙寸法Sを、壺中央領域7から壺周縁部8に近づくに従って減少するように、設定し、上記プレス成形の際に、上記壺中央領域7から上記壺周縁部8に近づくに従ってプレス圧力がしだいに増加するようにしたので、スプーン4の壺14(凹部)の形状が、3次元弯曲形状(立体形状)を維持することができる。しかも、壺周縁部8の圧縮密度が高く成形されるので、壺周縁部8の機構的強度が高く、繰返しての使用も可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 薄板材
2 上金型
3 下金型
4 (木製)スプーン
5 スプーン形成キャビティ
6 壺成形キャビティ部
7 壺中央領域
8 壺周縁部
S 間隙寸法
T1 温度
TP 加熱温度