IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両用ドアハンドル構造 図1
  • 特開-車両用ドアハンドル構造 図2
  • 特開-車両用ドアハンドル構造 図3
  • 特開-車両用ドアハンドル構造 図4
  • 特開-車両用ドアハンドル構造 図5
  • 特開-車両用ドアハンドル構造 図6
  • 特開-車両用ドアハンドル構造 図7
  • 特開-車両用ドアハンドル構造 図8
  • 特開-車両用ドアハンドル構造 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166504
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】車両用ドアハンドル構造
(51)【国際特許分類】
   E05B 85/12 20140101AFI20221026BHJP
   E05B 79/06 20140101ALI20221026BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
E05B85/12 Z
E05B79/06 A
B60J5/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071760
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 心
(72)【発明者】
【氏名】大井 貴典
【テーマコード(参考)】
2E250
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250HH02
2E250MM01
2E250MM03
2E250QQ09
(57)【要約】
【課題】把持しやすく効率よく操作可能な車両用ドアハンドル構造を提供する。
【解決手段】車両のドアの開閉時に乗員に操作される車両用ドアハンドル構造100において、当該車両用ドアハンドル構造100は、ドア102の車内側に車両前後方向に延びるよう設置されるスライド部118と、スライド部118にスライド可能に設置されるスライドハンドル104とを備える。スライドハンドル104は、スライド部118に嵌合しつつスライド部118の長手方向における複数の箇所に位置決め可能な基部106と、基部106に支持され上下に延びていて乗員に把持される把持部110とを有することを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアの開閉時に乗員に操作される車両用ドアハンドル構造において、
前記ドアの車内側に車両前後方向に延びるよう設置されるスライド部と、
前記スライド部にスライド可能に設置されるスライドハンドルとを備え、
前記スライドハンドルは、
前記スライド部に嵌合しつつ該スライド部の長手方向における複数の箇所に位置決め可能な基部と、
前記基部に支持され上下に延びていて乗員に把持される把持部とを有することを特徴とする車両用ドアハンドル構造。
【請求項2】
前記スライドハンドルはさらに、前記把持部を前記基部に対して前後に傾動可能に支持する第1傾動軸を有し、
前記第1傾動軸は、前記把持部の姿勢を所定の角度で保持可能になっていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ドアハンドル構造。
【請求項3】
前記ドアは、車体に対して車外側に開くスイングドアであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ドアハンドル構造。
【請求項4】
前記ドアは、車体に対して前後方向にスライド可能なスライドドアであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ドアハンドル構造。
【請求項5】
前記スライドハンドルはさらに、所定箇所に設けられ車体に対する前記ドアの固定を解除する解錠部を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用ドアハンドル構造。
【請求項6】
前記スライドハンドルはさらに、前記把持部を前記基部に対して前後に傾動可能に支持する第2傾動軸を有し、
前記解錠部は、前記基部に対する前記把持部の後方への傾動を検知しまたは該傾動に連動して前記解除を行うことを特徴とする請求項5に記載の車両用ドアハンドル構造。
【請求項7】
当該車両用ドアハンドル構造はさらに、前記ドアが閉止されるまたは前記把持部が乗員の手から解放されると前記スライドハンドルを前方に移動させるハンドル移動部を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用ドアハンドル構造。
【請求項8】
当該車両用ドアハンドル構造はさらに、前記基部を前記スライド部の長手方向における複数の箇所に位置決めするロック機構を備え、
前記ロック機構は、
前記スライド部の長手方向に沿って設けられる固定部と、
前記基部に設けられて前記固定部に嵌合または電磁的に引き寄せられる可動部とを有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の車両用ドアハンドル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドアハンドル構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のドアは、車内側からは主にインサイドハンドルを操作して開閉する仕組みになっている。一般的なインサイドハンドルは、ドアトリムよりも窪んだベース内に設けられていて、引く方向に操作することでドアのロックを解除することが可能になっている。
【0003】
インサイドハンドルが乗員から離れた位置に存在する車両では、インサイドハンドルを操作した後にアームレスト等の他の部材に持ち替えてドアを開閉する場合もある。その他、例えば特許文献1のドア操作装置16には、乗員によって操作可能な操作手段30が設けられている。操作手段30は、円形パイプ形状のフレーム31の前側に操作部32を設けた構成になっていて、操作部32によるドアの解錠や、ドアを開閉する際の把持などが、手を移動させることなく簡単に行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-59184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、フレーム31および操作部32が前後方向に延びているため、操作部32を把持する際に手の甲を上に向けた状態で手首を小指側に傾ける尺屈と称される動作が必要になる。尺屈動作は、手首に負担がかかりやすく、力も入れにくい傾向がある。また、操作部32が前後方向に長いため、乗員の体格やシート位置によっては操作部32と乗員の身体が近くなる場合もあり、腕の力を操作部32に作用させ難いなど、ドアの開閉操作が行い難くなることも考えられる。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、把持しやすく効率よく操作可能な車両用ドアハンドル構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用ドアハンドル構造の代表的な構成は、車両のドアの開閉時に乗員に操作される車両用ドアハンドル構造において、ドアの車内側に車両前後方向に延びるよう設置されるスライド部と、スライド部にスライド可能に設置されるスライドハンドルとを備え、スライドハンドルは、スライド部に嵌合しつつスライド部の長手方向における複数の箇所に位置決め可能な基部と、基部に支持され上下に延びていて乗員に把持される把持部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、把持しやすく効率よく操作可能な車両用ドアハンドル構造を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に係る車両用ドアハンドル構造を示す斜視図である。
図2図1の車両用ドアハンドル構造を車内側から見た図である。
図3図2の車両用ドアハンドル構造の概要を示す図である。
図4図3(b)の凹部の概要を示した図である。
図5図3(a)のスライドハンドルを上方から見た概略図である。
図6図3の車両用ドアハンドル構造の第1変形例を示す図である。
図7図2の車両用ドアハンドル構造の第2変形例を示した図である。
図8図7のスライドハンドルを上方から見た図である。
図9図3の車両用ドアハンドル構造の第3変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る車両用ドアハンドル構造は、車両のドアの開閉時に乗員に操作される車両用ドアハンドル構造において、ドアの車内側に車両前後方向に延びるよう設置されるスライド部と、スライド部にスライド可能に設置されるスライドハンドルとを備え、スライドハンドルは、スライド部に嵌合しつつスライド部の長手方向における複数の箇所に位置決め可能な基部と、基部に支持され上下に延びていて乗員に把持される把持部とを有することを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、スライドハンドルの把持部が上下に延びているため、乗員は手の甲を車外側に向けつつ肘の角度を変えるだけで把持部を握ることができ、スライドハンドルを操作するときの手の尺屈動作を抑えることができる。また、スライドハンドルはスライド部の長手方向における任意の位置に移動させることができるため、これらによって力を加えやすくより軽い動作でドアの開閉を行うことが可能になる。
【0012】
上記のスライドハンドルはさらに、把持部を基部に対して前後に傾動可能に支持する第1傾動軸を有し、第1傾動軸は、把持部の姿勢を所定の角度で保持可能になっていてもよい。
【0013】
上記構成によれば、座席に着座した乗員に対して把持部を握りやすい角度に保持することで、手の掌屈や背屈、さらには肘を移動させる機会などを減らし、操作しやすいスライドハンドルを実現することができる。また、例えばスライドハンドルの把持部が後方に傾動可能な場合、ドアがスイングドアであればそのスイング方向と把持部の傾動方向とが一致するため、乗員の力がスライドハンドルを通じてドアに作用させやすくなり、ドアをより開けやすくすることができる。
【0014】
上記のドアは、車体に対して車外側に開くスイングドアであってもよい。上記のスライドハンドルを適用することで、より開けやすいスイングドアを実現することができる。
【0015】
上記のドアは、車体に対して前後方向にスライド可能なスライドドアであってもよい。上記スライドハンドルを適用することで、より開けやすいスライドドアを実現することができる。
【0016】
上記のスライドハンドルはさらに、所定箇所に設けられ車体に対するドアの固定を解除する解錠部を有してもよい。この構成によれば、スライドハンドルを介してドアロックを解除することが可能になるため、例えばスライドハンドルを握ったままの連続した動作でドアロックが解錠可能になるなど、利便性の高いドアを実現することが可能になる。
【0017】
上記のスライドハンドルはさらに、把持部を基部に対して前後に傾動可能に支持する第2傾動軸を有し、解錠部は、基部に対する把持部の後方への傾動を検知しまたは傾動に連動して解除を行ってもよい。
【0018】
上記構成によっても、スライドハンドルを介してドアロックを解除することが可能になるため、例えばスライドハンドルを握ったままドアロックが解錠可能になるなど、乗員の手の動作を抑えることができ、利便性の高いドアを実現することが可能になる。
【0019】
当該車両用ドアハンドル構造はさらに、ドアが閉止されるまたは把持部が乗員の手から解放されるとスライドハンドルを前方に移動させるハンドル移動部を備えてもよい。
【0020】
上記のハンドル移動部によれば、スライドハンドルの操作が終了したときに、スライドハンドルが前方の初期位置に自動で戻るため、乗員の近くの空間を広く確保したり、ドアの美観を向上させたりすることが可能になる。
【0021】
当該車両用ドアハンドル構造はさらに、基部をスライド部の長手方向における複数の箇所に位置決めするロック機構を備え、ロック機構は、スライド部の長手方向に沿って設けられる固定部と、基部に設けられて固定部に嵌合または電磁的に引き寄せられる可動部とを有してもよい。この構成によれば、スライドハンドルをスライド部の長手方向の各箇所に好適に位置決めすることが可能になる。
【実施例0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
図1は、本発明の実施例に係る車両用ドアハンドル構造100を示す斜視図である。以下、図1その他の本願のすべての図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Backward)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Leftward)、R(Rightward)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(upward)、D(downward)で例示する。
【0024】
当該車両用ドアハンドル構造100は、スライドハンドル104を中心として構成されている。スライドハンドル104は、ドア102を開閉する際に乗員に操作される部位であって、把持部110が上下方向に延びた構成になっている。当該スライドハンドル104は、車両前後方向にスライドして位置を変えることが可能になっていて、これによって乗員の体格や座席の位置が異なる状況にも対応した、把持しやすく効率よく操作可能なドア102を実現している。
【0025】
図2は、図1の車両用ドアハンドル構造100を車内側から見た図である。スライドハンドル104は、ドア102のロックを解除するドアハンドル112の後方であって、ドア操作部114およびアームレスト116の上方に設けられている。ドア操作部114は、アームレスト116に腕を置いたまま操作がしやすいように、アームレスト116から一段下がった位置に設けられている。
【0026】
スライド部118は、スライドハンドルがスライドする部位であり、車両前後方向に延びるように設けられている。後述する図4に示すように、本実施例では、スライド部118は上下二列のレール124a、124bを中心として構成されている。なお、他の例として、スライド部118は、溝の上下に複数のローラを設けた構成としても実現可能である。
【0027】
スライドハンドル104の把持部110は、上下方向に延びていることで、乗員の手の尺屈を避けることが可能になっている。尺屈とは、手首を小指側に曲げる動作である。手首を親指側に曲げる動作は、撓屈と言う。その他、手首を甲側に曲げる動作を背屈と言い、手首を手のひら側に曲げる動作を掌屈と言う。尺屈は手首に負担がかかりやすいため、本実施例では尺屈を避けることで、力を加えやすくより軽い動作でドアの開閉を行うことを可能にしている。
【0028】
なお、把持部110は、厳密な鉛直方向に沿って設ける必要は無く、前方または後方に傾斜して設けることも可能である。
【0029】
図3は、図2の車両用ドアハンドル構造100の概要を示す図である。図3(a)は、車両用ドアハンドル構造100の内部構成を示している。スライド部118は、ドアトリム120に設けた凹部122の内側にレール124a、124bを設けた構造になっている。凹部122の車内側は、カバー126によって覆い隠されている。カバー126には、スライドハンドル104の支持部108a、108bに沿った溝128a、128bが設けられている。
【0030】
スライドハンドル104は、凹部122の内側でレール124a、124bに嵌合する基部106と、基部106から延びる上下一対の支持部108a、108b、および支持部108a、108bを上下につなぐように延びる把持部110を有している。
【0031】
当該車両用ドアハンドル構造100には、ロック機構130も設けられている。ロック機構130は、スライドハンドル104の基部106をスライド部118の長手方向における複数の箇所に位置決めするためのものであって、凹部122の内側に設けた固定部132、およびスライドハンドル104の基部106に設けた可動部134a、134bを含んで構成されている。本実施例では、固定部132は孔状の部位、可動部134a、134bはピン状の構造物として実現されている。
【0032】
図3(b)は、図3(a)のスライドハンドル104のスイッチ136を押した状態の図である。スライドハンドル104の把持部110には、上端にスイッチ136が設けられている。スイッチ136は、ロック機構130を構成する部材であって、押すことでピン状の可動部134a、134bが基部106から突出したり収納されたりする構成になっている。
【0033】
図4は、図3(b)の凹部122の概要を示した図である。凹部122では、上下一対のレール124a、124bが設けられている他、上面138および下面140のそれぞれに、レール124a、124bの長手方向に沿って複数の孔状の固定部132が設けられている。
【0034】
図3(b)のピン状の可動部134a、134bは、基部106の上下それぞれから突出して固定部132に嵌合する。可動部134a、134bが固定部132に嵌合することで、スライドハンドル104はスライド不能になって位置が固定される。そして、スイッチ136を押して可動部134a、134bが固定部132から引き抜かれると、再びスライドハンドル104がスライド可能になる。
【0035】
上記の可動部134a、134b(図3(b)参照)および固定部132によれば、基部106をスライド部118(図2参照)の長手方向の複数の箇所に位置決めすることが可能になる。なお、複数の固定部132は、少なくとも2つ以上あればよく、これによって基部106がスライド部118の長手方向の少なくとも2箇所に位置決め可能になり、ひいてはスライドハンドル104をドア102上の2箇所に移動および位置決めることが可能になる。
【0036】
図5は、図3(a)のスライドハンドル104を上方から見た概略図である。図5(a)は、スライドハンドル104の把持部110が基部106に対して垂直な状態を示す図である。スライドハンドル104には、把持部110の姿勢を変える第1傾動軸142が設けられている。第1傾動軸142は、把持部110から延びる支持部108aを、基部106に対して前後に傾動可能に支持している。第1傾動軸142は、軸方向が上下方向に沿っていて、把持部110を車両前後方向に傾けることを可能にしている。
【0037】
図5(b)は、図5(a)の把持部110を後方に傾けた状態を示す図である。第1傾動軸142は、把持部110の姿勢を所定の角度で保持可能になっている。例えば、第1傾動軸142は、把持部110を後方に傾けた姿勢で固定することができる。
【0038】
第1傾動部142を備えることで、座席に着座した乗員に対して把持部110を握りやすい角度に保持することができ、手の掌屈や背屈、さらには肘を移動させる機会などを減らし、操作しやすいスライドハンドル104を実現することができる。また、例えばスライドハンドル104の把持部110が後方に傾動可能な場合、ドア102(図1等参照)がスイングドアであればそのスイング方向と把持部の傾動方向とが一致する。これによって、乗員がドア102(図1等参照)を開けるとき、乗員の力がスライドハンドル104を通じてドア102に作用しやすくなり、ドア102をより開けやすくすることができる。
【0039】
なお、把持部110の第1傾動軸142による姿勢変更は、乗員が手動によって行うことができる。この場合、不図示のスイッチの操作に起因して、把持部110の可動状態と固定状態とを切り替える構成とすることができる。その他、把持部110の姿勢変更は、乗員の操作に応じてモータ等の動力源を駆動して電気的に行うことも可能である。この場合、車両の操作部(ボタンやタッチパネル等)または車両と通信可能な操作部(リモコンやスマートフォン)の乗員の操作に起因して把持部110が動く構成とすることもできる。
【0040】
これらのように、本実施例の車両用ドアハンドル構造100によれば、まず把持部110が上下方向に延びているため、乗員は手の甲を車外側に向けつつ肘の角度を変えるだけで把持部110を握ることができる。特に、把持部110を握ったときに手の甲が水平方向を向き、例えドアがスイング式であってもスライド式であってもそのまま手首を動かさずに腕の動作によってドアを開けることができるため、スライドハンドル104を操作するときの乗員の手首の尺屈や撓屈などの動作を抑えることができる。さらに、当該車両用ドアハンドル構造100では、スライドハンドル104をスライド部118の長手方向における任意の位置に移動させたり、把持部110の角度を変えたりすることができるため、力を加えやすくより軽い動作でドア102(図1等参照)の開閉を行うことが可能になる。
【0041】
当該車両用ドアハンドル112が適用されるドア102(図1等参照)は、車体に対してドアヒンジによって車外側に開くスイングドアであってもよい。前側にドアヒンジを有するスイングドアであれば、スライドハンドル104を後方に移動させることで、乗員の力がドアヒンジに作用しやすくなり、より軽い力でドアを開けることが可能になる。また、例えばスイングドアに対して把持部110を第1傾動軸142(図5(b)参照)によって後方に傾けることで、把持部110の傾斜している方向とスイングドアのスイング方向が一致しやすくなり、乗員の力がドアヒンジに作用しやすくなる等、より開けやすいドア102を実現することが可能になる。
【0042】
さらに、当該車両用ドアハンドル112が適用されるドア102(図1等参照)は、車体に対して前後方向にスライド可能なスライドドアであってもよい。スライドドアであっても、スライドハンドル104を後方に移動させたり把持部110を後方に傾けたりすることで、ドア102の移動方向とスライドハンドル104に対して乗員の手の力がかかる方向とを一致させ、例えばドア102を後方に引っ張りやすくさせるなど、より開けやすいドア102を実現することができる。
【0043】
なお、スライドハンドル104はさらに、基部106に対して支持部108a、108bおよび把持部110が上下にスライド可能な構成を採用することも可能である。この構成によれば、例えば把持部の高さを座席の高さや乗員の体格に合わせて調整可能にすることで、より把持しやすいスライドハンドル104を実現することが可能になる。
【0044】
(第1変形例)
図6は、図3の車両用ドアハンドル構造100の第1変形例(車両用ドアハンドル構造160)を示す図である。図6以降では、上記実施例にて既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0045】
車両用ドアハンドル構造160では、リニアモータを利用した電気駆動式のロック機構162が搭載されている。例えば、ロック機構162は、凹部122の上面138および下面140のそれぞれに、スライド部118の長手方向に沿って固定部164が設けられている。固定部164には、鉄心にコイルを巻いた複数の電磁石が設けられている。このコイルは、バッテリ174と電気的に接続されている。
【0046】
スライドハンドル104の基部106の上下の可動部166a、166bには、基部106のうちスライド部118の長手方向に沿って複数の永久磁石が設けられている。
【0047】
ロック機構162には、制御部168などの構成要素も設けられている。制御部168は、CPUの一部として実装することができ、操作部170を介して乗員からの操作を受けて、インバータ172を通じてバッテリ174の電力を固定部164の電磁石を構成するコイルに有線または非接触給電にて供給する。コイルに電力が供給されると、固定部164が複数の電磁石、すなわち磁石として機能する。
【0048】
可動部166a、166bは、基部106の上端および下端に、スライド部118の長手方向に沿って隣接する磁極の極性が反対の極性となるように複数の永久磁石が配置されている。これら可動部166a、166bは、固定部152への電力供給を停止することにより、永久磁石の磁気吸引力によって磁束によってスライド部118を所定の位置に留められる。なお、電力が供給された固定部164から発生する電磁石磁束を用いてスライドハンドル104をスライド部118の所定の位置に留めることもできる。
【0049】
このように、車両用ドアハンドル構造160では、固定部164のコイルに通電して磁界を発生させ、この磁界を永久磁石である可動部166a、166bに作用させて固定部164と可動部166a、166bとの間に磁気的な反発力および吸引力を発生させて、スライドハンドル104を移動させることが可能になっている。なお、他の例として、固定部164側に複数の永久磁石を配置し、可動部166a、166b側に複数の電磁石を配置した構成を採用することも可能である。
【0050】
その他、当該車両用ドアハンドル構造160では、不図示の音声認識部を設けることにより、スライドハンドル104の停止する位置を乗員の声によって操作可能に構成することも可能である。
【0051】
また、スライドハンドル104の移動は、予め乗員が設定した位置をメモリに記録しておき、ドアを開けるときに自動で実行される構成とすることもできる。この構成により、乗員がドアを開けるたびにスライドハンドル104の位置調整を行うという手間を省くことができる。
【0052】
さらに、制御部168は、スライドハンドル104を初期位置に自動的に戻すハンドル移動部としても機能することができる。ハンドル移動部としての制御部168は、例えばドア102が閉止されるまたは把持部110が乗員の手から解放されたことを検知すると、固定部164および可動部166a、166bの反発力および吸引力を利用してスライドハンドル104を前方の初期位置に移動させることができる。このようなハンドル移動部を実現するために、例えばスライドハンドル104の把持部110には、乗員の体温を検知する温度センサや、把持する力を検知する圧力センサなどを設けることも可能である。
【0053】
上記構成によれば、スライドハンドル104の操作が終了したとき、すなわち乗員が降車した後にスライドハンドル104が前方の初期位置に自動で戻るため、乗員の近くの空間を広く確保したり、ドア102の美観を向上させたりすることが可能になる。なお、ハンドル移動部は、制御部168のような電気的な構成要素だけでなく、不図示のスプリングの付勢力などを利用してスライドハンドル104を移動させることも可能である。これらハンドル移動部は、図3の車両用ドアハンドル構造100に適用することも、後述する図7の車両用ドアハンドル構造180や図9の車両用ドアハンドル構造200に適用することも可能である。
【0054】
上記のスライドハンドル104の初期位置は、スライド部118(図2)の前端側の位置にかぎらず、例えばスライド部118の長手方向の前端よりやや中央側など、乗員によって設定および変更可能な構成としてもよい。なお、ハンドル移動部は当該車両用ドアハンドル構造100の必須の要素ではないため、スライドハンドル104の初期位置は必ずしも設定しなくてもよい。
【0055】
(第2変形例)
図7は、図2の車両用ドアハンドル構造100の第2変形例(車両用ドアハンドル構造180)を示した図である。車両用ドアハンドル構造180では、スライドハンドル182がドアロックの解除も行うことができ、ドアハンドル112(図2参照)が省略されている。車両用ドアハンドル構造180では、ドアハンドル112を省略した分、スライド部184を前後方向に長く確保することができる。アームレスト186は、腕を置きやすいように、ドア操作部114と同じ高さになっている。特に、ドア操作部114の上面とアームレスト186の上面を同じ高さに設定することで、アームレスト186に腕を置いた状態でドア操作部114を操作することが可能になっている。
【0056】
スライド部184は、前端がドア操作部114の各操作ボタンよりも前方にまで延び、後端がアームレスト186の後部にまで延びるよう設定されている。特に、スライド部184の前端側はスライドハンドル182の初期位置であって、この初期位置のスライドハンドル182がドア操作部114の各操作ボタンよりも前方に位置するよう設定されている。例えば、スライド部184の前端側は、図2においてドア操作部114の各操作ボタンよりも前方にまでわたって設置されているドアハンドル112の前縁と同じ程度の位置に設定している。これによって、図7のようにスライドハンドル182が初期位置にあるとき、アームレスト186に腕を置くと手がスライドハンドル182に触れることなくドア操作部114の各操作ボタン付近に位置する状態になる。
【0057】
上記構成によって、当該車両用ドアハンドル構造180では、アームレスト186に腕を置いたままでもドア操作部114が操作しやすくなっていて、そこから前方に腕を伸ばすだけでスライドハンドル182を把持することが可能になっている。また、スライド部184の後端側がアームレスト186の後部にまで延びているため、スライドハンドル182をより乗員の身体の近くにまで引き寄せることができ、座席の位置や乗員の体格に応じた位置にスライドハンドル182を移動させてドア102を操作することが可能になっている。
【0058】
図8は、図7のスライドハンドル182を上方から見た図である。図8(a)は、スライドハンドル182の把持部110が基部106に対して垂直な状態を示す図である。スライドハンドル182には、把持部110の姿勢を変える第2傾動軸188が設けられている。第2傾動軸188は、把持部110から延びる支持部108aを、基部106に対して前後に傾動可能に支持している。第2傾動軸188は、軸方向が上下方向に沿っていて、把持部110を車両前後方向に傾けることを可能にする。
【0059】
図8(b)は、図8(a)の把持部110を後方に傾けた状態を示す図である。把持部110は、車体に対するドア102の固定を解除する解錠部190を有している。解錠部190は、有線もしくは無線、または機械的な接続によって不図示のドアロック機構につながっていて、基部106に対する把持部110の後方への傾動を検知してドアロックの解除を行う。その際、解錠部190は、把持部110の角度を検知し、所定の角度以上に傾動したと判定した場合にドアロックを解除する。把持部110の角度の検知は、電気的または光学的なセンサによって行うことができる。また、他の例として、解錠部190は、把持部110と機械的に接続していて、把持部110の第2傾動軸118を中心とした回転に連動して力をドアロックに伝えて解錠する構成とすることもできる。
【0060】
車両用ドアハンドル構造180によれば、スライドハンドル182だけでドアロックの解除とドア102の開閉の操作が可能になる。特に、スライドハンドル182を把持したまま、スライド操作や解錠操作をしつつドア102を開けることができるため、手を握り変えることなく連続した動作で各操作を行うなど、より利便性の高いドア102を実現することができる。なお、スライドハンドル182の解錠操作とスライド操作を行う順番に制限は無く、解錠操作の前にスライド操作を行ってもよいし、解錠操作の後にスライド操作を行ってもよい。また、上述したように、スライドハンドル182が解錠部190を備えることで、ドアハンドル112(図2参照)を省略してスライドハンドル182の可動範囲を前後に拡張できるため、座席位置や乗員の体格に合わせたスライドハンドル182の位置調節がより行いやすくなる。
【0061】
なお、解錠部190のさらなる他の例として、スイッチ式の解錠部を設けることも可能である。例えば、把持部110にプッシュ式ボタンを設け、乗員が把持部110を強く握ったときにボタンが押圧されてロックが解除される構成とすることも可能である。
【0062】
(第3変形例)
図9は、図3の車両用ドアハンドル構造100の第3変形例(車両用ドアハンドル構造200)を示した図である。車両用ドアハンドル構造200では、スライドハンドル202がL字状になっていて、把持部203の上端から支持部204がドアトリム120に向かって延びている。
【0063】
本変形例では、ドアトリム120の車内側にスライド部208が設けられ、アームレスト222にスライド部210が設けられている。支持部204がつながる基部206は、スライド部208の内側のレール214に接続され、把持部203の下端の基部212はスライド部210の内側のレール216に接続されている。なお、スライドハンドル202は、図5の第1傾動軸142等による傾動は必須ではなく、姿勢が固定された構成とすることができる。
【0064】
本変形例であれば、把持部203の全体がL字形状になっているので、把持部203のドアトリム120側の空間が広く確保され、把持部203の内側に手を入れやすく、把持部203をより握りやすくすることができる。さらに、スライドハンドル202は、把持部203が下方からアームレスト222で支持されているため、上下方向の振動を抑制し、安定した動きでスライド移動させることが可能になっている。
【0065】
当該車両用ドアハンドル構造200においても、図6を参照して説明したロック機構162を適用することが可能である。例えば、スライド部208、210それぞれに固定部164を設け、基部206、212それぞれに可動部166a、166bを設けることで、電気駆動式のロック機構162によってスライドハンドル202をスライド部208、210の任意の位置に保持することが可能になる。
【0066】
上記ロック機構162(図6参照)を適用した場合、スライド部208、210を覆うカバー218、220は、アルミニウム等の金属層を含む電磁ノイズ遮蔽機能付きのものを採用することができる。この構成によれば、永久磁石からは磁束が常時出ているところ、カバー218、220によって磁束を車室内に漏れ難くすることができる。また、当該カバー218、220によれば、電磁石を構成するコイルから発生する磁束も、車室内に漏れ難くすることができる。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、車両用ドアハンドル構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
100…車両用ドアハンドル構造、102…ドア、104…スライドハンドル、106…基部、108a、108b…支持部、110…把持部、112…ドアハンドル、114…ドア操作部、116…アームレスト、118…スライド部、120…ドアトリム、122…凹部、124a、124b…レール、126…カバー、128a、128b…溝、130…ロック機構、132…固定部、134a、134b…可動部、136…スイッチ、138…上面、140…下面、142…第1傾動軸、160…車両用ドアハンドル構造、162…ロック機構、164…固定部、166a、166b…可動部、168…制御部、170…操作部、172…インバータ、174…バッテリ、180…車両用ドアハンドル構造、182…スライドハンドル、184…スライド部、186…アームレスト、188…第2傾動軸、190…解錠部、200…車両用ドアハンドル構造、202…スライドハンドル、203…把持部、204…支持部、206…基部、208…スライド部、210…スライド部、212…基部、214…レール、216…レール、218、220…カバー、222…アームレスト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9