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特開2022-166514超微細化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤並びにその製造方法及び使用方法
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  • 特開-超微細化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤並びにその製造方法及び使用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166514
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】超微細化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤並びにその製造方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/08 20060101AFI20221026BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20221026BHJP
   A61K 31/57 20060101ALI20221026BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221026BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 31/4704 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 31/5383 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20221026BHJP
【FI】
A61K9/08
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/40
A61K47/69
A61K31/57
A61P27/02
A61P43/00 121
A61K31/4704
A61K31/5383
A61K31/196
A61K31/5377
A61K47/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071774
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000131245
【氏名又は名称】株式会社シード
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】長井 紀章
(72)【発明者】
【氏名】小早川 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】松永 透
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076BB24
4C076CC47
4C076DD38
4C076DD49
4C076EE32
4C076EE39
4C076FF16
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086BC85
4C086CB22
4C086DA10
4C086GA10
4C086GA12
4C086GA14
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA23
4C086MA58
4C086NA10
4C086ZA33
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA44
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA43
4C206MA78
4C206NA10
4C206ZA33
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、水難溶性薬物及び水溶性薬物を含みつつ、均質な懸濁液状態を維持してなる点眼剤及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、ナノ化水難溶性薬物と水溶性薬物とを含み、かつ静置後7日目において均質な懸濁液である、点眼剤;水難溶性薬物を超微細化処理に供することにより、ナノ化水難溶性薬物を得る工程と、前記ナノ化水難溶性薬物と水溶性薬物とを混和することにより、ナノ化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤を得る工程とを含む、点眼剤の製造方法などにより解決される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ化水難溶性薬物と水溶性薬物とを含み、かつ静置後7日目において均質な懸濁液である、点眼剤。
【請求項2】
前記ナノ化水難溶性薬物は、平均粒子径が10nm~400nmである、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
さらに懸濁補助剤を含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の点眼剤。
【請求項4】
前記懸濁補助剤は、包接化合物、界面活性剤、糖、糖アルコール、水溶性高分子及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の懸濁補助剤である、請求項3に記載の点眼剤。
【請求項5】
前記包接化合物は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン及びメチル-β-シクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のシクロデキストリンである、請求項4に記載の点眼剤。
【請求項6】
水難溶性薬物を超微細化処理に供することにより、ナノ化水難溶性薬物を得る工程と、
前記ナノ化水難溶性薬物と水溶性薬物とを混和することにより、該ナノ化水難溶性薬物及び該水溶性薬物を含む点眼剤を得る工程と
を含む、点眼剤の製造方法。
【請求項7】
前記超微細化処理が、懸濁補助剤の存在下での超微細化処理である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ナノ化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤と角膜とを接触させることにより、ナノ化していない水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤と角膜とを接触させる場合に比べて、水難溶性薬物及び水溶性薬物の角膜透過性を向上させる工程を含む、水難溶性薬物及び水溶性薬物の角膜透過性の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超微細化水難溶性薬物及び水溶性薬物を混合して含む点眼剤;超微細化水難溶性薬物と水溶性薬物とを混合することを含む点眼剤の製造方法;及び、超微細化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤を使用した水難溶性薬物及び水溶性薬物の角膜透過性の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障や緑内障などの眼疾患は、複数の薬物を併用した治療が行われている。また、白内障や網膜疾患などの眼疾患に対して手術を行った場合、術後管理には、抗菌薬や抗炎症薬などの薬物ごとに、複数種類の点眼剤が一般的に用いられている。
【0003】
点眼剤を用いて眼疾患を治療及び予防する場合、点眼剤は一日に数回の頻度で適用されることから、点眼剤の種類が多くなるほど、点眼回数が増えることになり、患者の負担が大きくなる。特に、白内障や緑内障などの眼疾患の患者は、その性質上大部分が高齢者であり、点眼の負担が増大することにより、点眼のアドヒアランス(自発的治療遵守)が低下するという問題がある。
【0004】
患者への負担を減らすことを目的として、点眼回数を減らすために、複数の薬物を混合した点眼剤が検討されている。しかし、薬物の中には水に易溶性の水溶性薬物もあれば、水に難溶性の水難溶性薬物もある。水難溶性薬物を用いる場合は、点眼剤は懸濁液状にあり、均一溶液にすることが難しく、薬物の分散安定性が低くなる傾向にある。水難溶性薬物を含む点眼剤における薬物の分散安定性又は可溶化率を高める方法として、特許文献1及び非特許文献1に記載の方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2020-534321号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Noriaki Nagai et al., Toxicology, 319 (2014), pp.53-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、水難溶性薬物だけではなく、水難溶性薬物と水溶性薬物とを併せて含む場合において、溶液全体が均質な懸濁液にする方法及び水難溶性薬物及び水溶性薬物の分散安定性が維持された点眼剤についてはこれまでにほとんど知られていない。
【0008】
そこで、本発明は、水難溶性薬物及び水溶性薬物を含みつつ、均質な懸濁液状態を維持してなる点眼剤及びその製造方法を提供することを本発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水難溶性薬物と水溶性薬物との混和性に着目し、該混和性を向上させる可能性として、水難溶性薬物を超微細化することに着眼した。その際、包接化合物の存在下で水難溶性薬物を超微細化することにより、水難溶性薬物間の凝集及びそれに伴う沈降を抑制することができた。このような知見により、超微細化水難溶性薬物と水溶性薬物とを含む点眼剤を作製することに成功した。
【0010】
しかも、驚くべきことに、得られた点眼剤を眼内に点眼したところ、水難溶性薬物のみならず、水溶性薬物についても、角膜透過性を向上することができることを見出した。このような知見を基にして、本発明者らは、本発明の課題を解決し得るものとして、超微細化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤を創作することに成功した。本発明は、このような知見及び成功例に基づいて完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下の態様の点眼剤及び方法が提供される:
[1]ナノ化水難溶性薬物と水溶性薬物とを含み、かつ静置後7日目において均質な懸濁液である、点眼剤。
[2]前記ナノ化水難溶性薬物は、平均粒子径が10nm~400nmである、[1]に記載の点眼剤。
[3]さらに懸濁補助剤包接化合物を含む、[1]~[2]のいずれか1項に記載の点眼剤。
[4]前記懸濁補助剤は、包接化合物、界面活性剤、糖、糖アルコール、水溶性高分子及びアミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の懸濁補助剤である、[3]に記載の点眼剤。
[5]前記包接化合物は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン及びメチル-β-シクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のシクロデキストリンである、[4]に記載の点眼剤。
[6]水難溶性薬物を超微細化処理に供することにより、ナノ化水難溶性薬物を得る工程と、
前記ナノ化水難溶性薬物と水溶性薬物とを混和することにより、該ナノ化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤を得る工程と
を含む、点眼剤の製造方法。
[7]前記超微細化処理が、懸濁補助剤の存在下での超微細化処理である、[6]に記載の方法。
[8]ナノ化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤と角膜とを接触させることにより、ナノ化していない水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤と角膜とを接触させる場合に比べて、水難溶性薬物及び水溶性薬物の角膜透過性を向上させる工程を含む、水難溶性薬物及び水溶性薬物の角膜透過性の向上方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様の点眼剤によれば、超微細化した水難溶性薬物と水溶性薬物とを含むことにより、薬物の分散安定性が高く、均質な懸濁液の状態を維持することが可能である。また、本発明によれば、水難溶性薬物及び水溶性薬物の両方について、角膜への透過性を高めることができ、これにより薬物による薬理作用を効果的に眼組織へ適用することができ、もって薬物が対象とする白内障、緑内障などの眼疾患を治療及び予防することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、後述する実施例に記載があるとおり、図1Aがレーザ散乱法により測定した市販のフルオロメトロン原末の平均粒子径を示す図であり;図1Bがレーザ散乱法により測定したナノ化フルオロメトロンの平均粒子径を示す図であり;図1Cがナノトラッキング法により測定したナノ化フルオロメトロンの平均粒子径を示す図であり;図1Dが走査型プローブ顕微鏡によりナノ化フルオロメトロン粒子を撮影した画像である。
図2図2は、後述する実施例に記載があるとおり、図2Aが経時的なフルオロメトロン濃度の測定結果を示す図であり;図2Bが経時的なレバミピド濃度の測定結果を示す図であり;図2Cが被験混合点眼剤を含むガラス管の撮影写真であり;図2Dが静置後0日及び1ヵ月における混合点眼剤FBL-NPsにおける平均粒子径が1μm以下であるナノ化フルオロメトロンの粒子の数を示す図である。図中の「*1」はP<0.05 vs.CA-FLを表し、「*2」はP<0.05 vs.FBL-MPsを表す。
図3図3は、後述する実施例に記載があるとおりの、被験混合点眼剤における水難溶性薬物(フルオロメトロン)のin vitro角膜透過性を評価する際に用いた装置の模式図である。
図4図4は、後述する実施例に記載があるとおりの、被験混合点眼剤における水難溶性薬物(フルオロメトロン)のin vitro角膜透過性の評価結果を示す図である。
図5図5は、後述する実施例に記載があるとおりの、被験混合点眼剤における水難溶性薬物及び水溶性薬物のin vivo角膜透過性を評価するための試験系の模式図である。
図6図6は、後述する実施例に記載があるとおりの、図6Aが被験混合点眼剤における水難溶性薬物(フルオロメトロン)のin vivo角膜透過性の評価結果を示す図であり;図6Bが被験混合点眼剤における水溶性薬物(レボフロキサシン)のin vivo角膜透過性の評価結果を示す図であり;図6Cが被験混合点眼剤における水溶性薬物(ブロムフェナクナトリウム)のin vivo角膜透過性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明は、本項目の事項によってのみに限定されず、本発明の目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0015】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、点眼剤を含む薬剤を扱う業界における当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0016】
「含有量」は、濃度と同義であり、溶液の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。本明細書では、別段の定めがない限り、含有量の単位は「質量%(wt%)」を意味する。なお、成分の含有量は、市販品を用いる場合は、市販品に含まれる成分の量であることが好ましいが、市販品自体の量であってもよい。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0%~100%」は、0%以上であり、かつ、100%以下である範囲を意味する。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まずに、それぞれ下限及び上限を意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーターなどの制限事項などが挙げられる。
【0017】
本発明の一態様の点眼剤は、ナノ化水難溶性薬物と水溶性薬物とを含む。また、本発明の一態様の点眼剤は、静置後7日目において均質な懸濁液である。
【0018】
ナノ化水難溶性薬物は、平均粒子径が1μm未満(ナノレベル)である水難溶性薬物をいう。水難溶性薬物は、日本薬局方に規定される溶解性の測定方法により、「溶けにくい(溶質 1g又は1mLを溶かすに要する溶媒量が100mL以上)~ほとんど溶けない(同10,000mL以上)」に分類される化合物をいう。それに対して、水溶性薬物は、日本薬局方に規定される溶解性の測定方法により、「極めて溶けやすい(同1mL未満)~やや溶けにくい(同100mL未満)」に分類される化合物をいう。なお、溶解性は、第17局日本薬局方に準じるとおりに、薬物を粉末とした後、水中に入れ、20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜて、30分以内に溶ける度合をいう。
【0019】
水難溶性薬物及び水溶性薬物は、点眼剤の有効成分として用いられるものであれば、公知の方法により製造したものでも、市販のものでも、いずれでもよい。水難溶性薬物の非限定的な具体例としては、フルオロメトロン、レバミピド、インドメタシン、ブリンゾラミド、トリアムシノロンアセトニド、ピレノキシン、ブリンゾラミド、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストンなどが挙げられる。水溶性薬物の非限定的な具体例としては、ブロムフェナクナトリウム、レボフロキサシン、チモロールマレイン酸などが挙げられる。水難溶性薬物及び水溶性薬物は、それぞれ上記したものの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせたものであり得る。
【0020】
水難溶性薬物は、製造又は市販されているものがナノレベルであれば、それ自体をナノ化水難溶性薬物として用いればよい。一方、一般的な市販の水難溶性薬物は、平均粒子径が1μm以上(マイクロレベル)である。そこで、水難溶性薬物がマイクロレベルである場合は、水難溶性薬物を超微細化処理に供してナノ化水難溶性薬物を得る。
【0021】
水難溶性薬物の超微細化処理は、水難溶性薬物が有する薬理作用に著しい影響が無い限り、特に限定されないが、例えば、ナノ粉砕機などの装置を用いて物理的に粉砕する処理、金属ビーズを用いたビーズミルによる破砕及び遠心分離を繰り返す処理などが挙げられる。超微細化処理は、粉砕用容器内に水難溶性薬物の粉末と任意成分の粉末とを加えて粉砕する乾式粉砕処理でも、このような粉砕を水の存在下で実施する湿式粉砕処理のいずれでもよいが、水溶性薬物をはじめとした水溶性の成分と水難溶性薬物との混合を良好にするために湿式粉砕処理であることが好ましい。
【0022】
また、水難溶性薬物の超微細化処理を実施する際は、懸濁補助剤を添加することが好ましい。懸濁補助剤を加えることにより、懸濁液における水難溶性薬物の分散性を向上することができる。水難溶性薬物を湿式粉砕処理により超微細化処理に供する場合は、水難溶性薬物を懸濁補助剤を含む水溶液に加えて湿式粉砕処理に供することが好ましい。
【0023】
懸濁補助剤は、水難溶性薬物の水溶液中での分散性を向上するものであれば特に限定されないが、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン及びメチル-β-シクロデキストリンなどの包接化合物;ドキュセートナトリウム、ベンザルコニウム塩化物、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤;カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸及びその塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩などの水溶性高分子;グリシン、ロイシン、イソロイシンなどのアミノ酸などが挙げられる。懸濁補助剤は、公知の方法により製造したものでも、市販のものでも、いずれでもよい。また、懸濁補助剤は、それぞれ上記したものの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせたものであり得る。
【0024】
上記した懸濁補助剤のうち、点眼剤において水難溶性薬物をより良好に分散することができることから、包接化合物であることがより好ましく、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンがさらに好ましい。2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなどの包接化合物を用いる場合、ナノ化水難溶性薬物は包接化合物に包接され、点眼剤において水難溶性薬物と水溶性薬物及び任意の成分との間において生じる凝集、該凝集に伴う沈降などを抑制し、水難溶性薬物の分散性がより良好に向上しつつ、水溶性薬物との混和性が向上し得る。また、点眼した際に、水難溶性薬物とともに、水溶性薬物の角膜透過性を向上することができる。
【0025】
懸濁補助剤は、水難溶性薬物の超微細化処理を実施する前に添加されることが好ましいが、水難溶性薬物の超微細化処理の後に添加して、ナノ化水難溶性薬物と混和してもよい。
【0026】
水難溶性薬物の超微細化処理の非限定的な具体例は、以下のとおりである。
水難溶性薬物の粉末と任意成分の粉末とからなる混合物を磨り潰しながら混合し、次いで得られた薬物混合物を、直径が数mm程度、好ましくは1mm~3mmである金属ビーズ(例えば、ジルコニアビーズ)を用いたビーズミル(例えば、2,000rpm~4,000rpm、10秒間~5分間、室温の条件)により微細化して、薬物微細粉末を得る。次いで、得られた薬物微細粉末を懸濁補助剤を含む水溶液に懸濁させて、水難溶性薬物含有懸濁液を得る。次いで、得られた水難溶性薬物含有懸濁液を、水難溶性薬物が分散された状態で、直径が1mm以下、好ましくは0.05mm~0.5mmの金属ビーズ(例えば、ジルコニアビーズ)を用いたビーズミルによる破砕(例えば、4,000rpm~6,500rpm、10秒間~5分間、約4℃の条件)及び遠心分離(例えば、500g~1,000g、30秒間~2分間、約4℃の条件)を数十回、好ましくは約30回繰り返すことで、ナノ化水難溶性薬物を含む分散液を得る。
【0027】
上記具体例では、金属ビーズを用いたビーズミルによる超微細化処理を用いているが、工業的規模で実施する場合は、適宜、工業的規模での実施に適した薬物の超微細化手段を採用すればよい。
【0028】
ナノ化水難溶性薬物の平均粒子径は、ナノレベル、すなわち、1μm未満であれば特に限定されないが、例えば、角膜内皮細胞の大きさが400nmであり、水難溶性薬物の角膜の透過性を考慮すれば、10nm~400nmであることが好ましく、20nm~300nmであることがより好ましく、50nm~200nmであることがさらに好ましい。ナノ化水難溶性薬物の平均粒子径は、後述する実施例に記載のとおり、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて、レーザ散乱法により個数基準により測定した値である。なお、水溶性薬物は、点眼剤中で溶解しているため、その平均粒子径は特に限定されない。
【0029】
点眼剤におけるナノ化水難溶性薬物、水溶性薬物及び懸濁補助剤の含有量は特に限定されず、例えば、薬物については所望の薬効及び安全性などに応じて、懸濁補助剤についてはナノ化水難溶性薬物の溶解性及び平均粒子径などに応じて、適宜設定すればよい。
【0030】
本発明の点眼剤の非限定的な好ましい具体的態様としては、ナノ化水難溶性薬物、水溶性薬物及び懸濁補助剤の含有量が、それぞれの総量として以下の量であるものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
[点眼剤の具体的態様1]
(1)ナノ化水難溶性薬物:0.01%(w/v)~5.0%(w/v)
(2)水溶性薬物:0.01%(w/v)~5.0%(w/v)
[点眼剤の具体的態様2]
(1)ナノ化水難溶性薬物:0.01%(w/v)~5.0%(w/v)
(2)水溶性薬物:0.01%(w/v)~5.0%(w/v)
(3)懸濁補助剤:0.1%(w/v)~10%(w/v)
[点眼剤の具体的態様3]
(1)ナノ化水難溶性薬物:0.05%(w/v)~3.0%(w/v)
(2)水溶性薬物:0.1%(w/v)~1.0%(w/v)
(3)懸濁補助剤:3%(w/v)~7%(w/v)
【0031】
本発明の一態様の点眼剤は、ナノ化水難溶性薬物を良好に分散された状態で含む均質な懸濁液である。本発明の一態様の点眼剤の均質性は、静置後7日目において均質な懸濁液であることにより評価される。「静置後7日目において均質な懸濁液である」ことは、後述する実施例に記載の方法、すなわち、本発明の一態様の点眼剤をガラス管に入れて室温暗所にて7日間静置した場合に、目視により一様に分散状態を維持しており、明らかな薬物の沈降部分及び清澄部分が確認されないこと、及び液面高さの90%部分についてサンプリングしてHPLCにより水難溶性薬物の濃度を測定した場合に初期濃度の80%以上が測定されることのいずれか一方、好ましくは両方により評価する。本発明の一態様の点眼剤は、静置後7日目において均質な懸濁液であればよいが、均質な状態を保持するものというためには、好ましくは静置後14日目において均質な懸濁液であり、より好ましくは静置後21日目において均質な懸濁液であり、さらに好ましくは静置後28日目において均質な懸濁液である。
【0032】
本発明の一態様の点眼剤は、本発明の課題解決を妨げない限り、ナノ化水難溶性薬物、水溶性薬物及び懸濁補助剤に加えて、種々のその他の成分を含み得る。その他の成分の典型例は、本発明の一態様の点眼剤は懸濁液であることから、水である。水以外のその他の成分としては、点眼剤の製造に通常使用される添加物を挙げることができ、例えば、基剤(含水エタノールなど);防腐剤(ベンザルコニウム塩化物、安息香酸ナトリウム、エタノール、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物など);pH調整剤(塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン-アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウムなど);等張化剤(亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、グリセリン、プロピレングリコールなど);安定化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリンなど);香料(メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウなど);精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、上記化合物の中には、懸濁補助剤としての機能を有するものがあり、その場合は懸濁補助剤としての機能を兼ねて配合してもよい。
【0033】
本発明の一態様の点眼剤は、点眼目的で使用される懸濁液状という性質を有する。本発明の一態様の点眼剤のその他の性状については、医薬品として許容される範囲内であれば特に限定されないが、例えば、pHは5.0~8.0であることが好ましく、6.0~7.0であることがより好ましく;粘度は10mPa・s以下であることが好ましく、0.5mPa・s~2.0mPa・sであることがより好ましく;浸透圧比は0.7~1.6が好ましい。なお、粘度については後述する実施例に記載の方法によって測定して得られる値であり、pH及び浸透圧比は公知の方法に従って測定すればよい。
【0034】
本発明の一態様の点眼剤は、1眼あたり1滴又は数滴を1回として1日1回又は数回に分けて点眼することが好ましく、1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日1回又は2回に分けて点眼することがより好ましい。本発明の一態様の点眼剤を1日数回に分けて点眼する場合には、その点眼間隔は1時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、3時間以上であることがさらに好ましい。1滴の体積は通常用いられている量であれば特に限定されないが、例えば、約0.01mL~約0.1mLであることが好ましく、約0.02mL~約0.05mLであることがより好ましい。
【0035】
本発明の一態様の点眼剤は、裸眼に直接適用してもよいが、薬物の角膜透過性が良好なものであることから、コンタクトレンズ装用時においても適用できる。コンタクトレンズは、ハードコンタクトレンズ及びソフトコンタクトレンズのいずれでもよく、繰り返し使用されるコンタクトレンズ、1日使い捨て用コンタクトレンズ、1週間使い捨て用コンタクトレンズ、2週間使い捨て用コンタクトレンズ、カラーコンタクトレンズなどの市販されるあらゆるタイプのコンタクトレンズに適用可能である。
【0036】
本発明の一態様の点眼剤は、市場に流通する場合、容器詰点眼剤であることが好ましい。容器は、通常点眼剤に使用される容器であれば特に限定されず、例えば、マルチドーズ型容器、1回使い切りのユニットドーズ型容器、PFMD(Preservative Free Multi Dose)容器などが挙げられる。容器の素材は特に限定されず、一般に汎用される点眼剤の容器に用いられる素材であればよいが、例えば、樹脂などが挙げられ、具体的にはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン-ポリエチレンコポリマー、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリスチレン、ポリ環状オレフィンコポリマーなどの樹脂が挙げられる。
【0037】
本発明の別の一態様は、本発明の一態様の点眼剤を製造する方法である。本発明の一態様の製造方法は、水難溶性薬物を超微細化処理に供することにより、ナノ化水難溶性薬物を得る工程(以下、工程1ともよぶ。)と、前記ナノ化水難溶性薬物と水溶性薬物とを混和することにより、ナノ化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤を得る工程(以下、工程2ともよぶ。)を含む。
【0038】
工程1は、懸濁補助剤の存在下で水難溶性薬物を超微細化処理することが好ましい。すなわち、前記したとおり、水難溶性薬物を含む混合物を、懸濁補助剤を含む水溶液に添加したものを湿式粉砕処理に供して超微細化処理を実施することが好ましい。
【0039】
工程2において、ナノ化水難溶性薬物と水溶性薬物とを混和する方法は特に限定されず、例えば、ナノ化水難溶性薬物を含む水溶液に水溶性薬物を添加して、均質な懸濁液が得られるまで混合することなどが挙げられる。
【0040】
本発明の一態様の製造方法は、工程1及び工程2に加えて、必要に応じて、pH、粘度、浸透圧などを所定の範囲内に調整する工程、加熱滅菌処理する工程などの追加の工程を適宜含むことができる。
【0041】
本発明の一態様の製造方法によれば、水難溶性薬物の溶解性が改善され、水溶性薬物との混和性が向上し、薬物の凝集及び沈降を抑制できることから、均一分散性の高い点眼剤を得ることができ、結果として点眼ごとの薬物濃度の不均等が解消された点眼剤を得ることができる。
【0042】
本発明の別の一態様は、本発明の一態様の点眼剤を使用した、水難溶性薬物及び水溶性薬物の角膜透過性の向上方法である。本発明の一態様の向上方法は、ナノ化水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤と角膜とを接触させることにより、ナノ化していない水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む点眼剤と角膜とを接触させる場合に比べて、水難溶性薬物及び水溶性薬物の角膜透過性を向上する工程を含む。
【0043】
本発明の一態様の方法において、ナノ化水難溶性薬物は、懸濁補助剤の存在下で水難溶性薬物を超微細化処理に供することによって得られたナノ化水難溶性薬物であることが好ましい。この場合、水難溶性薬物の超微細化及び懸濁補助剤による水難溶性薬物の溶解性向上が相俟って、水難溶性薬物の角膜への付着滞留性を増加して、角膜における薬効が向上することが期待される。また、能動的輸送機構による角膜透過性が、水難溶性薬物に限らず、水溶性薬物についても高まり、これら両方の薬物の眼内への移行性が向上する。
【0044】
以下、本発明の実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0045】
本実施例において、成分の含有量を示す「%」は、全て「質量体積パーセント濃度(w/v%)」を示す。統計解析は、二群間比較は対応のないスチューデントのt検定を使用し、複数群間の比較はDunnettの多重比較で評価した。p<0.05である場合を有意差ありとした。
【0046】
水難溶性薬物として、フルオロメトロン及びレバミピドを用いた。水溶性薬物として、レボフロキサシン、ブロムフェナクナトリウム及びチモロールマレイン酸を用いた。シクロデキストリンとして、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを用いた。これらを用いて、微細化した水難溶性薬物と水溶性薬物との2種類の薬物を含む混合点眼剤を作製し、該混合点眼剤中における水難溶性薬物の分散度及び分散安定性並びに角膜透過性について評価した。
【0047】
[被験混合点眼剤の調製]
1.ナノ化フルオロメトロン、ブロムフェナクナトリウム及びレボフロキサシンを含む懸濁液(FBL-NPs)
フルオロメトロン(FL)原末(平均粒子径:4μm~5μm) 0.2g、ベンザルコ塩化物(BAC) 0.0004g、D-マンニトール 0.04g及びメチルセルロース(MC) 0.2gをメノウ乳鉢にて約1時間研和して、薬物混合物を得た。次いで、得られた薬物混合物を、直径2.0mmのジルコニアビーズ 2.0gを含む2.0mLチューブに入れ、ビーズミル(3,000rpm、30秒間、冷却あり;和研薬社製)を用いることで微細化して、薬物微細粉末を得た。得られた薬物微細粉末を5%2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)水溶液にて懸濁させ、0.5%フルオロメトロン含有懸濁液を調製した。
【0048】
得られた0.5%フルオロメトロン含有懸濁液を、卓上型超音波洗浄機を用いて液中の成分を分散した後、直径0.1mmのジルコニアビーズ 2gを含む2.0mLチューブに、チューブの8割を満たす程度まで入れ、ビーズミルによる破砕(5,500rpm、30秒間、4℃)及び遠心分離(800g、60秒間、4℃)を30回繰り返すことで、フルオロメトロンナノ粒子含有分散液(FL-NPs)を調製した。
【0049】
さらに得られたFL-NPsにブロムフェナクナトリウム(BF)及びレボフロキサシン(LV)を溶解し、最終濃度として0.1% FL、0.001% BAC、0.1% D-マンニトール、5% HPβCD、0.5% MC、0.1% BF及び0.5% LVを含む懸濁液(FBL-NPs)を調製した。
【0050】
なお、FBL-NPsのpHは、室温にて、pHメーター「本体:Seven Compact S220、電極:InLab MicroPro-ISM」(Mettler Toledo社製)を用いて測定したところ、約6.5であった。
【0051】
FBL-NPsの粘度は、スピンドル・ロータ方式により、RB80型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、試料20mLを20℃に調節した後、BLアダプタ(コードNo.10)を浸して、回転数60rpm、測定時間3分で測定したところ、1.2mPa・s~1.7mPa・sであった。
【0052】
2.ナノ化レバミピド及びチモロールマレイン酸を含む懸濁液(TM/REB-NPs)
FBL-NPsの調製方法と同様にして、水難溶性薬物としてレバミピド(REB)原末(平均粒子径:0.05μm~0.2μm)を用い、水溶性薬物としてチモロールマレイン酸(TM)を用いて、最終濃度として2% REB、0.5% TM、0.001% BAC、0.1% D-マンニトール、5% HPβCD及び0.5% MCを含む懸濁液(TM/REB-NPs)を調製した。
【0053】
3.フルオロメトロン、ブロムフェナクナトリウム及びレボフロキサシンを含む懸濁液(FBL-MPs)
FL原末 0.2g、BAC 0.0004g、D-マンニトール 0.04g及びMC 0.2gをメノウ乳鉢にて約1時間研和して、薬物混合物を得た。次いで、得られた薬物混合物を、直径2.0mmのジルコニアビーズ 2.0gを含む2.0mLチューブに入れ、ビーズミル(3,000rpm、30秒間、冷却あり;和研薬社製)を用いることで微細化して、薬物微細粉末を得た。得られた薬物微細粉末を5%HPβCD水溶液にて懸濁させ、0.5%フルオロメトロン含有懸濁液を調製した。
【0054】
得られた0.5%フルオロメトロン含有懸濁液を、卓上型超音波洗浄機を用いて液中の成分を分散し、さらにBF及びLVを溶解し、各成分の最終濃度がFBL-NPsと同一であり、かつFLがナノ化されていない懸濁液(FBL-MPs)を調製した。
【0055】
4.レバミピド及びチモロールマレイン酸を含む懸濁液(TM/REB-MPs)
FBL-MPsの調製方法と同様にして、水難溶性薬物としてREBを用い、水溶性薬物としてTMを用いて、最終濃度として2% REB、0.5% TM、0.001% BAC、0.1% D-マンニトール、5% HPβCD及び0.5% MCを含む懸濁液(TM/REB-MPs)を調製した。
【0056】
5.市販の点眼剤(CA-FL、CA-BF、CA-LV、CA-REB)
市販のFL点眼剤として「フルメトロン点眼液0.1%」(0.1% FL;参天製薬(株)社製)を用い(CA-FL)、市販のBF点眼剤として「ブロナック点眼液0.1%」(0.1% BF;千寿製薬社製)を用い(CA-BF)、市販のLV点眼剤として「クラビット点眼液」(0.5% LV;参天製薬(株)社製)を用い(CA-LV)、市販のREB点眼剤として「ムコスタ点眼液UD2%」(2% REB;大塚製薬株式会社社製)を用いた(CA-REB)。
【0057】
[被験混合点眼剤における水難溶性薬物の平均粒子径の測定]
FBL-MPs及びFBL-NPsにおけるフルオロメトロンの平均粒子径を、レーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-7100」(島津製作所社製)を用いて、レーザ散乱法により個数基準により測定した。FBL-MPsにおけるフルオロメトロン原末の測定結果を図1Aに示し、FBL-NPsにおけるナノ化フルオロメトロンの測定結果を図1Bに示す。これらの結果が示すとおり、フルオロメトロン原末の平均粒子径は3.98μmであったのに対し、ナノ化フルオロメトロンの平均粒子径は74nmであり、十分に微細化されていることが確認された。
【0058】
また、ナノ化フルオロメトロンを、ナノトラッキング法粒子径測定装置「NANOSIGHT LM10」(Malvern社製)を用いて、ナノトラッキング法により個数基準により測定した。結果を図1Cに示す。図1Cに示すとおり、ナノ化フルオロメトロンの平均粒子径は119nmであり、ナノトラッキング法によってもナノサイズであることがわかった。
【0059】
さらに、ナノ化フルオロメトロンを、走査型プローブ顕微鏡「SPM-9700」(島津製作所社製)を用いて撮影した結果を図1Dに示す。図1Dが示すとおり、イメージ上でもナノ化フルオロメトロンがナノサイズであることがわかった。
【0060】
[被験混合点眼剤における水難溶性薬物の分散度の測定]
FBL-NPs 10mL及びFBL-MPs 10mLのそれぞれを分取し、遠心分離機「Optima MAX-MP」(BECKMAN COULTER社製)を用い、相対遠心力100,000g、60分間の条件で遠心分離処理を行い、上清を採取した。得られた上清中におけるフルオロメトロンの濃度を、高速液体クロマトグラフィーを用いて常法に従って測定した。
【0061】
測定結果より、ナノ化フルオロメトロンを含有したFBL-NPsは、フルオロメトロン原末を含有したFBL-MPsに比べて、上清中のフルオロメトロンの濃度が高く、混合点眼剤中における分散度が高いことが確認された。
【0062】
[被験混合点眼剤における水難溶性薬物の分散安定性の測定]
FBL-NPs 20mL、FBL-MPs 20mL及びCA-FL 20mLをそれぞれガラス管に分取し、室温暗所に静置した。このとき、ガラス管における液面の高さは、底面から4cmであった。静置を開始した際(0d)並びに静置後1日目、4日目、7日目、14日目、21日目及び28日目(1M)に、それぞれのガラス管より、液面から0.4cm(90%部分)について50μLの試料を採取し、高速液体クロマトグラフィーを用いてフルオロメトロン濃度を測定した。同様にして、TM/REB-NPs、TM/REB-MPs及びCA-REBについて、レバミピド濃度を測定した。
【0063】
経時的なフルオロメトロン濃度及びレバミピド濃度の測定結果を、それぞれ図2A及び図2Bに示す。
【0064】
さらに、0d及び1Mのガラス管の撮影写真を図2Cに示す。また、これらを目視で確認し、以下に従いフルオロメトロンの分散性を評価した結果を表1に示す。
<分散性の評価>
○:一様に分散状態を維持している
△:一部の薬物の沈降と、溶液中に清澄部分が確認される
×:薬物が完全に沈降し、溶液が清澄である
【0065】
【表1】
【0066】
図2A~2Bが示すとおり、ナノ化フルオロメトロン及びナノ化レバミピドを含有する混合点眼剤は、静置開始後1日目のフルオロメトロン濃度及びレバミピド濃度は90%程度であったのに対し、マイクロサイズのフルオロメトロン及びレバミピドを含有する混合点眼剤の濃度はそれぞれ25%程度及び10%程度であり、市販の点眼懸濁剤では僅か数%であった。
【0067】
また、図2Cが示すとおり、目視による確認においても、ナノ化フルオロメトロンを含有する混合点眼剤は分散状態が維持されたのに対し、マイクロサイズのフルオロメトロンを含有する混合点眼剤及び市販の点眼懸濁剤は静置することによりフルオロメトロンの凝集及び/又は沈降が確認された。
【0068】
さらに、平均粒子径が1μm未満であるナノ化フルオロメトロンを含有する混合点眼剤中におけるフルオロメトロンの粒子数について、それぞれ調製直後(0日目)及び28日目に測定した結果を図2Dに示す。図2Dが示すとおり、両者の濃度はほぼ一定していることが確認された。
【0069】
以上の結果より、水難溶性薬物をナノ化することにより、水難溶性薬物及び水溶性薬物を含む混合点眼剤中における調製時の分散性及び長期間の分散安定性が向上することがわかった。
【0070】
[被験混合点眼剤における水難溶性薬物の角膜透過性(in vitro)の測定]
図3に示すとおり、ドナーチャンバーとリザーバーチャンバーとをウサギ角膜により隔てる装置を用意した。なお、ウサギ角膜は、全厚520μm(上皮層 50μm;実質層 450μm;内皮層 20μm)であった。
【0071】
ドナーチャンバーには被験混合点眼剤又は市販の点眼懸濁剤 3.0mLを加え、リザーバーチャンバーにはグルコース含有HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジン・エタンスルホン酸)緩衝液 3.0mLを加えた。
【0072】
装置を、水浴の温度を35℃に設定してインキュベートし、測定開始から30分後、60分後、120分後、240分後、300分後及び360分後に、リザーバーチャンバーから試料 50μLを採取し、高速液体クロマトグラフィーを用いて試料中のフルオロメトロンの濃度を測定した。結果を図4に示す。
【0073】
市販の点眼懸濁剤(CA-FL)は、リザーバー側のフルオロメトロン濃度は上昇せず、薬物の透過がウサギ角膜により妨害されていることがわかった。それに対して、ナノ化フルオロメトロンを含む混合点眼剤(FBL-NPs)は、時間の経過とともにリザーバーチャンバーから採取した試料におけるフルオロメトロン濃度は上昇し、ナノ化処理された薬物は角膜透過性が優れていることがわかった。
【0074】
[被験混合点眼剤における各薬物の角膜透過性(in vivo)の測定]
被験混合点眼剤であるFBL-NPs、並びにフルオロメトロン、ブロムフェナクナトリウム及びレボフロキサシンのそれぞれを単独で含有する市販の点眼剤3種(CA-FL、CA-LV及びCA-BF)について、各薬物の角膜透過性を評価した。
【0075】
試験の概要を模式的に表したものを図5に示す。雄の日本白色ウサギにインフルラン吸入麻酔を施した後、先端にインシュリン注入用針(29G)を有するシリコーンチューブ(φ0.5mm)を備えたマイクロシリンジを用いて、針を角膜直下に穿刺した。この状態のウサギの目に向けて、被験点眼剤 5mL又は市販点眼剤 5mLを滴下した。滴下後から10分ごとに90分まで、ウサギの眼内にある眼房水 5μLをマイクロシリンジ内に採取した。採取した眼房水中の薬物濃度を、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0076】
FBL-NPsを滴下した際、又はCA-FL、CA-LV及びCA-BFをそれぞれ滴下した際の、採取した眼房水中のフルオロメトロン、ブロムフェナクナトリウム及びレボフロキサシンの濃度の経時的な測定結果を図6に示す。
【0077】
図6Aが示すとおり、水難溶性薬物であるフルオロメトロンについて、ナノ化フルオロメトロンを含む混合点眼剤を滴下した場合の方が、市販点眼剤を滴下した場合に比べて、全ての測定時間においてフルオロメトロン濃度が高かった。この結果は、水難溶性薬物であるフルオロメトロンをナノ化処理することにより角膜透過性が向上することがわかった。
【0078】
図6B及び図6Cが示すとおり、驚くべきことに、水難溶性薬物であるフルオロメトロンをナノ化した場合、フルオロメトロンだけではなく、共存する水溶性薬物であるブロムフェナクナトリウム及びレボフロキサシンについても、ナノ化フルオロメトロンを含む混合点眼剤を滴下した場合の方が、市販点眼剤を滴下した場合に比べて、全ての測定時間において各薬物の濃度が高かった。この結果は、水難溶性薬物であるフルオロメトロンをナノ化処理することにより、ナノ化フルオロメトロンと混和して共存する水溶性薬物は角膜透過性が相乗効果的に向上することを示す。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の一態様の点眼剤及び方法は、薬物の分散安定性が高く、均質な懸濁液の状態を維持することが可能であり、さらに優れた薬物の角膜への透過性により、薬物による薬理作用を効果的に眼組織へ適用することができ、白内障、緑内障などの眼疾患の治療及び予防を求める個体に対する健康及び福祉に資することができる。


図1
図2
図3
図4
図5
図6