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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166579
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/39 20060101AFI20221026BHJP
   G11B 5/72 20060101ALI20221026BHJP
   G11B 5/41 20060101ALI20221026BHJP
   G11B 5/31 20060101ALI20221026BHJP
   G11B 5/02 20060101ALI20221026BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
G11B5/39
G11B5/72
G11B5/41 C
G11B5/31 Z
G11B5/02 Z
G11B5/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071860
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】末岡 義人
(72)【発明者】
【氏名】糸数 浩司
(72)【発明者】
【氏名】清木 規矢
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 通崇
【テーマコード(参考)】
5D006
5D034
5D091
【Fターム(参考)】
5D006AA02
5D006DA03
5D006EA03
5D006FA02
5D034BA02
5D034BB00
5D091AA10
5D091HH17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】磁気ヘッドへの汚染物の転写を低減できる磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】磁気記録再生装置1は、円盤状の磁気記録媒体2と、磁気記録媒体2を回転駆動するモータ3と、磁気記録媒体2に対する情報の読み出しを行う磁気ヘッド素子と情報の書き込みを行う磁気ヘッド素子とを有する磁気ヘッド4と、情報の読み出しを行う磁気ヘッド素子に所定のバイアス電圧を供給するバイアス回路と、を備える。磁気記録媒体は、基板上に磁性層と炭素保護層をこの順で有する。バイアス回路は、磁気記録媒体の電位に対し、-0.2V~-1.0Vの電圧を磁気ヘッド素子に供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を回転駆動するモータと、
前記磁気記録媒体に対する情報の読み出しを行う磁気ヘッド素子と前記情報の書き込みを行う磁気ヘッド素子とを有する磁気ヘッドと、
前記情報の読み出しを行う磁気ヘッド素子に所定のバイアス電圧を供給するバイアス回路と、を備え、
前記磁気記録媒体は、基板上に磁性層と炭素保護層をこの順で有し、
前記バイアス回路は、前記磁気記録媒体の電位に対し、-0.2V~-1.0Vの電圧を前記磁気ヘッド素子に供給する磁気記録再生装置。
【請求項2】
前記磁気ヘッド素子に供給する電圧が、-0.3V~-0.7Vである請求項1に記載の磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ、各種記録メディア等の記録媒体に各種データを記録して保管するため、磁気記録再生装置が広く使用されている。磁気記録再生装置は、磁気記録媒体に対して情報の読み書きに用いられる磁気ヘッドを備えている。磁気ヘッドは、書き込み用ヘッドと読み出し用ヘッドの2つで構成され、磁気記録媒体の表面を浮上走行しながら情報の読み書きを行う。
【0003】
書き込み用ヘッドは、コイルと磁性体を組み合わせた電磁石であり、アクセス領域の微小化に伴いコイルをエッチングによって磁性体の表面に生成した薄膜ヘッドが用いられている。
【0004】
読み出し用ヘッドには、磁気抵抗効果の利用により高い感度を持つMRヘッド(Magneto Resistive head)、巨大磁気抵抗効果を利用したGMRヘッド (Giant Magneto Resistive head)、トンネル磁気抵抗効果を利用したTMRヘッド (Tunnel Magneto Resistive head)等が用いられる。中でも、TMRヘッドは、TMR素子を2つの電極で挟んだ基本構造を有し、この2つの電極間の電流変化により磁気情報の読み出しを行う。
【0005】
2つの電極間には、通常は0.2V程度の電圧が印加されており、この2つの電極は磁気記録媒体との対向面に露出している。そのため、磁気記録媒体との放電を防ぐため、例えば、電極の一端を磁気記録媒体と接続することで、実質的に同電位にする磁気ディスクメモリ装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表特許WO00/057404号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気ヘッドの浮上量は、磁気記録媒体の記録密度の向上に伴って更に小さくなってきている。磁気ヘッドの浮上量が小さい場合、磁気記録媒体上に少しでも汚染物が存在したり、環境由来による化学物質が存在すると、磁気記録媒体と磁気ヘッドとの接触又は近接浮上により、磁気ヘッド側に汚染物が付着又は転写される。このような磁気ヘッドの汚染物は、磁気ヘッドの記録再生特性を低下させるばかりでなく、磁気ヘッドの浮上安定性を損ない、ひいては磁気ヘッドの破壊の原因ともなる。
【0008】
本発明の一態様は、上記事情に鑑みてなされたものであり、磁気ヘッドへの汚染物の転写を低減できる磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る磁気記録再生装置の一態様は、円盤状の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を回転駆動するモータと、前記磁気記録媒体に対する情報の読み出しを行う磁気ヘッド素子と前記情報の書き込みを行う磁気ヘッド素子とを有する磁気ヘッドと、前記情報の読み出しを行う磁気ヘッド素子に所定のバイアス電圧を供給するバイアス回路と、を備え、前記磁気記録媒体は、基板上に磁性層と炭素保護層をこの順で有し、前記バイアス回路は、前記磁気記録媒体の電位に対し、-0.2V~-1.0Vの電圧を前記磁気ヘッド素子に供給する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る磁気記録再生装置の一態様は、磁気ヘッドへの汚染物の転写を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置の構成を示す模式図である。
図2】磁気記録媒体と磁気ヘッドとを模式的に示す図である。
図3】磁気ヘッドと磁気記録媒体との間の電位差とΔタッチダウンパワーとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
<磁気記録再生装置>
本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置は、円盤状の磁気記録媒体と、磁気記録媒体を回転駆動するモータと、磁気記録媒体に対する情報の読み出し、又は書き込みを行う磁気ヘッド素子と、情報の読み出しを行う磁気ヘッド素子に所定のバイアス電圧を供給するバイアス回路を有し、磁気記録媒体は、基板上に磁性層と炭素保護層をこの順で有し、バイアス回路は、磁気記録媒体の電位に対し、-0.2V~-1.0Vの範囲内の電圧を磁気ヘッド素子に供給する。本実施形態に係る磁気記録再生装置は、上記のような構成を有することで、磁気記録媒体の汚染に起因する磁気ヘッドの汚染及び破損を低減できる。
【0014】
磁気記録媒体の表面に存在する汚染物は、磁気記録媒体の製造工程において外部(例えば、周囲環境又は磁気記録媒体のハンドリング)から取り込まれることが多いと考えられていた。そのため、磁気記録媒体の製造環境をよりクリーンにすることで、磁気記録媒体の表面に存在する汚染物の低減が試みられていた。
【0015】
一方で、磁気記録再生装置に求められる記録密度はますます高まり、磁気記録媒体の表面における磁気ヘッド浮上量はますます小さくなってきているため、従来の方法では除去できない極微少の汚染物が問題となりはじめていた。
【0016】
本願発明者は、磁気ヘッドに付着する極微少の汚染物の発生原因を解析したところ、かなり多くの比率を占める汚染物が、磁気記録媒体の炭素保護層から発生した炭素や窒化炭素より生成される生成物であり、これらが磁気記録媒体と磁気ヘッドの間に存在する電位により磁気ヘッドに付着することを見出した。また、これらの付着物は負の電荷を有し、磁気記録媒体と磁気ヘッドの間に存在する電位により磁気ヘッドに付着し易いことを見出した。本願発明者は、情報の読み出しを行う磁気ヘッド素子に所定のバイアス電圧を供給するバイアス回路を設け、このバイアス回路により、磁気記録媒体の電位に対し、-0.2V~-1.0Vの範囲内の電圧を磁気ヘッド素子に供給することで、磁気記録媒体の炭素保護層に由来して生じる付着物が磁気ヘッドに付着することを低減できることを見出した。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置の構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る磁気記録再生装置1は、円盤状の磁気記録媒体2と、磁気記録媒体2を回転駆動するモータ3と、磁気記録媒体2に対する情報の読み出し及び書きこみを行う磁気ヘッド4と、磁気ヘッド4を磁気記録媒体2上から退避させるランプ機構5を備えている。
【0018】
なお、図1は、磁気ヘッド4を用いて磁気記録媒体2に対する情報の読み出し又は書きこみを行っている状態を示しているが、磁気ヘッド4は、モータ3による磁気記録媒体2の回転によって生じた空気の渦によって磁気記録媒体2の主面上を垂直方向に浮上すると共に、ボイスコイルモータ7によって、磁気記録媒体2の表面と平行方向に駆動される。
【0019】
図2は、磁気記録媒体2と磁気ヘッド4とを模式的に示す図である。図2に示すように、磁気記録媒体2は、非磁性基板21、磁性層22、炭素保護層23、潤滑剤層24を非磁性基板21の上にこの順に積層して備える。また、磁気記録媒体2は、接地されている。
【0020】
磁気ヘッド4は、ヘッドアッセンブリ8のジンバル9の先端に設けられている。磁気ヘッド4は、磁気記録媒体2に対する情報の読み出しを行う磁気ヘッド素子41Aと、書き込みを行う磁気ヘッド素子41Bと、一対の電極42A及び42Bを有している。一対の電極42A及び42Bは、プリアンプ43に接続されており、読み出しを行う磁気ヘッド素子41Aからの出力信号はプリアンプ43に送られる。また、電極42Aとプリアンプ43とを接続する配線L1には、バイアス回路44が接続されている。バイアス回路44によって、磁気記録媒体2の接地電位に対し、電極42A及び42Bには-0.2V~-1.0Vの範囲内の電圧が印加される。
【0021】
読み出しを行う磁気ヘッド素子41Aの抵抗値は、通常は20Ω程度であり、それに流すバイアス電流は10mA程度であるため、磁気ヘッド素子41Aの電極42A及び42B同士の間には0.2V程度の電位差が生ずる。
【0022】
一般に、磁気記録再生装置では、磁気記録媒体との放電を防ぐため、磁気ヘッド素子の電極の一端を磁気記録媒体と接続する。そのため、磁気ヘッド素子41A及び41Bと磁気記録媒体2の間には絶対値で0~0.2Vの電位差が生じ、磁気ヘッド素子の両電極間には絶対値で0~0.2Vの電位差が生じる。
【0023】
一方で、本願発明者の検討によると、磁気ヘッド素子41A及び41Bと磁気記録媒体2の間に生ずる0~0.2Vの電位差が仮に負であっても、この電位差では炭素保護層23から発生した負の電荷を有する炭素及び窒化炭素の汚染物質が磁気ヘッド4に付着することを十分に抑制できない可能性が高いことに着目した。磁気ヘッド4の汚染を防ぐためには、磁気ヘッド素子41A及び41Bには磁気記録媒体2の電位に対し、絶対値で0.2V以上、好ましくは絶対値で0.3V以上の負の電位を印加する必要がある。磁気ヘッド素子41A及び41Bと磁気記録媒体2との間の負の電位が大きいほど、炭素保護層23から発生した炭素及び窒化炭素の負の電荷をもつイオン性物質の付着を低減できる。しかし、負の電位が大きくなりすぎると、正の電荷をもつ別のイオン性物質の付着を招くこととなり、磁気ヘッド素子41A及び41Bと磁気記録媒体2との間の放電の危険性も高まる。よって、磁気ヘッド素子41A及び41Bと磁気記録媒体2との間の負の電位は、絶対値で1.0V以下、好ましくは絶対値で0.7V以下にする。
【0024】
そこで、情報の読み出しを行う磁気ヘッド素子41Aは、その両端を2つの電極42A及び42Bで挟んだ構造を有するが、磁気ヘッド素子41A及び41Bと、電極42A及び42B及びとの全体において、磁気記録媒体2の接地電位に対して、-0.2V~-1.0Vの範囲内の電位、より好ましくは-0.3V~-0.7Vの範囲内の電位とする。
【0025】
なお、磁気記録媒体2は、非磁性基板21、磁性層22、炭素保護層23及び潤滑剤層24を含むこと以外に、他の層を含んでもよい。例えば、磁気記録媒体2は、非磁性基板21と磁性層22との間に、密着層、軟磁性下地層、シード層、配向制御層等を必要に応じて適宜備えてよい。軟磁性下地層は、例えば、第1軟磁性層、中間層及び第2軟磁性層を含んで構成されてもよい。配向制御層は、1層でもよいし、2層(例えば、第1の配向制御層、第2の配向制御層等)以上でもよい。密着層、軟磁性下地層、シード層、配向制御層等を形成する材料は、磁気記録媒体に使用される一般的な材料を用いることができる。
【0026】
磁気記録媒体2の製造方法の一例について説明する。磁気記録媒体2の製造方法は、非磁性基板21上に磁性層22を形成する工程と、磁性層22の上に炭素保護層23を形成する工程と、炭素保護層23の上に潤滑剤層24を形成する工程とを少なくとも含む。
【0027】
非磁性基板21としては、Al、Al合金等の金属材料からなる基体上に、NiP又はNiP合金からなる膜が形成されたもの等を用いることができる。また、非磁性基板21としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂等の非金属材料からなるものを用いてもよいし、この非金属材料からなる基体上にNiP又はNiP合金の膜を形成したものを用いてもよい。
【0028】
磁性層22としては、Co-Cr系、Co-Cr-Ta系、Co-Cr-Pt系、Co-Cr-Pt-Ta系、Co-Cr-Pt-B-Ta系合金等からなる層が用いられる。磁性層22は、従来の公知のいかなる方法によって形成してもよい。
【0029】
磁性層22の厚さは、5nm~100nmであることが好ましく、より好ましくは6nm~50nmであり、さらに好ましくは7nm~22nmである。磁性層22の厚さが、上記の好ましい範囲内であれば、高記録密度化を図れる。
【0030】
なお、本明細書において、磁性層22の厚さとは、磁性層22の主面に垂直な方向の長さをいう。磁性層22の厚さは、例えば、磁性層22の断面において、任意の場所を測定した時の厚さである。磁性層22の断面において、任意の場所で数カ所測定した場合は、これらの測定箇所の厚さの平均値としてもよい。以下、他の層も磁性層22の厚さと同様の測定方法を用いることができる。
【0031】
磁性層22は、非磁性基板21の上にスパッタリング法等により形成できる。
【0032】
磁性層22は、複数積層して含んでもよい。この場合、それぞれの磁性層22同士の間には、非磁性層を含んでよい。非磁性層は、磁気記録媒体に使用される一般的な材料を用いて形成してよい。それぞれの磁性層22は、同一種類の材料を用いて形成されてもよいし、異なる種類の材料を用いて形成されてもよい。
【0033】
炭素保護層23は、磁性層22を保護すると共に、磁気ヘッド4の摺動性を高める機能を有する。炭素保護層23は、炭素、窒化炭素、水素化炭素、水素化窒化炭素等の従来の公知の材料を使用できる。
【0034】
炭素保護層23の厚さは、1nm~10nmの範囲内であるのが、高記録密度状態で使用した場合の、磁気的スペーシングの低減又は耐久性の点から好ましい。ここで、磁気的スペーシングは、磁気ヘッド4の素子部と磁性層22との距離を表す。磁気的スペーシングが狭くなるほど電磁変換特性は向上する。
【0035】
炭素保護層23の成膜方法としては、通常、カーボンターゲット材を用いるスパッタ法や、エチレンやトルエン等の炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法、イオンビーム蒸着(IBD)法が用いられ、さらにはこれらの方法を組み合わせて複層の構成となっていてもよい。
【0036】
潤滑剤層24の厚さは、1nm~3nmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
潤滑剤層24は、液体潤滑剤層を用いて形成できる。液体潤滑剤層としては、化学的に安定で、低摩擦で、低吸着性を有するものが好適に用いられ、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含むパーフルオロポリエーテル系潤滑剤等のフッ素樹脂系潤滑剤が用いられることが好ましい。
【0038】
潤滑剤層24は、炭素保護層23の上に塗布法等により形成できる。
【0039】
このように、磁気記録再生装置1は、非磁性基板21上に磁性層22と炭素保護層23をこの順で有する磁気記録媒体2と、モータ3と、磁気ヘッド素子41A及び41Bを有する磁気ヘッド4と、バイアス回路44を備え、バイアス回路44は、磁気記録媒体2の電位に対し、-0.2V~-1.0Vの電圧を磁気ヘッド素子41A及び41Bに供給している。磁気記録再生装置1は、炭素保護層23から発生した炭素及び窒化炭素の負の電荷をもつイオン性物質の磁気ヘッド素子41A及び41Bへの付着を低減できると共に、正の電荷をもつ別のイオン性物質の磁気ヘッド素子41A及び41Bへの付着を低減できる。そのため、磁気記録再生装置1は、磁気ヘッド4へのイオン性物質等の汚染物の転写を低減することができる。これにより、磁気記録再生装置1は、情報の読み出し及び書き込みを確実に行うことができるため、安定した磁気記録再生特性を有することができる。さらに、磁気記録再生装置1は、磁気記録媒体2の汚染に起因する磁気ヘッド4の汚染及び破損を生じ難くすることができるため、優れた耐環境性を有することができる。
【0040】
磁気記録再生装置1は、磁気ヘッド素子41A及び41Bに供給する電圧を-0.3V~-0.7Vにできる。これにより、磁気記録再生装置1は、炭素保護層23から発生した炭素及び窒化炭素の負の電荷をもつイオン性物質及び正の電荷をもつ別のイオン性物質の磁気ヘッド素子41A及び41への付着をより低減できるため、磁気ヘッド4への汚染物の転写をより確実に低減できる。
【0041】
磁気記録再生装置1は、上記のような特性を有することにより、磁気ヘッドと磁気記録媒体との距離が狭くなり、磁気ヘッドの浮上量がさらに小さくなっても磁気ヘッド4への汚染物の転写を低減しながら使用できる。よって、磁気記録再生装置1は、更に高い記録密度を有する磁気記録再生装置に好適に用いることができる。
【実施例0042】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0043】
(磁気記録媒体の製造)
洗浄済みのガラス基板(HOYA社製、外形2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(C-3040、アネルバ社製)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10-5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した。
【0044】
その後、このガラス基板の上に、スパッタリング法によりCrターゲットを用いて厚さ10nmの密着層を成膜した。
【0045】
次に、スパッタリング法により、密着層の上に軟磁性下地層を形成した。軟磁性下地層としては、第1軟磁性層と中間層と第2軟磁性層とを成膜した。まず、Co-20Fe-5Zr-5Ta{Fe含有量:20原子%、Zr含有量:5原子%、Ta含有量5原子%、残部Co}のターゲットを用いて、100℃以下の基板温度で、厚さ25nmの第1軟磁性層を成膜した。次に、第1軟磁性層の上に、厚さ0.7nmのRuからなる中間層を成膜した。その後、中間層の上に、厚さ25nmのCo-20Fe-5Zr-5Taからなる第2軟磁性層を成膜した。
【0046】
次に、軟磁性下地層の上に、スパッタリング法によりNi-6W{W含有量:6原子%、残部Ni}ターゲットを用いて、厚さ5nmのシード層を成膜した。
【0047】
その後、シード層の上に、スパッタリング法により第1の配向制御層として、スパッタ圧力を0.8Paとして厚さ10nmのRu層を成膜した。次に、第1の配向制御層上に、スパッタリング法により第2の配向制御層として、スパッタ圧力を1.5Paとして厚さ10nmのRu層を成膜した。
【0048】
続いて、第2の配向制御層の上に、スパッタリング法により91(Co15Cr16Pt)-6(SiO)-3(TiO){Cr含有量:15原子%、Pt含有量:16原子%、残部Coの合金を91mol%、SiOからなる酸化物を6mol%、TiOからなる酸化物を3mol%}からなる第1磁性層を、スパッタ圧力を2Paとして厚さ9nmで成膜した。
【0049】
次に、第1磁性層の上に、スパッタリング法により88(Co30Cr)-12(TiO){Cr含有量30原子%、残部Coの合金を88mol%、TiOからなる酸化物を12mol%}からなる非磁性層を厚さ0.3nmで成膜した。
【0050】
その後、非磁性層の上に、スパッタリング法により92(Co11Cr18Pt)-5(SiO)-3(TiO){Cr含有量11原子%、Pt含有量18原子%、残部Coの合金を92mol%、SiOからなる酸化物を5mol%、TiOからなる酸化物を3mol%}からなる第2磁性層を、スパッタ圧力を2Paとして厚さ6nmで成膜した。
【0051】
その後、第2磁性層の上に、スパッタリング法によりRuからなる非磁性層を厚さ0.3nmで成膜した。
【0052】
次いで、非磁性層の上に、スパッタリング法によりCo-20Cr-14Pt-3B{Cr含有量20原子%、Pt含有量14原子%、B含有量3原子%、残部Co}からなるターゲットを用いて、スパッタ圧力を0.6Paとして第3磁性層を厚さ7nmで成膜した。
【0053】
次に、イオンビーム法により窒化炭素(窒素含有量は5原子%)からなる厚さ3nmの保護層を成膜した。
【0054】
次に、ディップコート法により、第3磁性層の上に、1.4nmのパーフルオロポリエーテル系の液体潤滑剤と塗布して潤滑層を形成し、磁気記録媒体を製造した。
【0055】
(磁気記録媒体のシーク評価)
製造した磁気記録媒体を用いて、図1の構造の磁気記録再生装置を製造しシーク評価を行った。磁気記録再生装置内はヘリウムで充填した。充填圧力は532torrとした。磁気記録再生装置を60℃の環境下に設置し、磁気記録媒体の回転数を7200rpm、磁気ヘッドを半径32mmの位置で浮上走行させ、磁気ヘッド素子の絶対値で高電位側と、磁気記録媒体との間の電位差を、+1.0V、+0.8V、+0.6V、+0.4V、0、-0.3V、-0.7V、-1.0Vと変化させ、各条件下で磁気ヘッドを900秒間定点浮上させて、磁気ヘッドに付着する汚染物質量の評価を行った。汚染物質量の評価は、磁気ヘッドのΔタッチダウンパワーを測定することによって行った。
【0056】
Δタッチダウンパワーとは、磁気ヘッドの読み込み素子部近傍に内蔵したヒーターの熱膨張を利用して読み込み素子を磁気記録媒体表面に近づけ、最終的に読み込み素子が磁気記録媒体に接触(タッチダウン)したときのヒーターへの印加パワーを指す。磁気ヘッドに付着する汚染物質量が増えるほど、Δタッチダウンパワーの絶対値は大きくなる。
【0057】
図3に磁気ヘッドと磁気記録媒体との間の電位差とΔタッチダウンパワーとの関係を示す。図3に示すように、磁気ヘッド素子の絶対値で高電位側と磁気記録媒体との間の電位差が-0.7V及び-1.0Vの時には、Δタッチダウンパワーがほとんどゼロであった。この図から、磁気記録媒体の電位に対し、-0.2V~-1.0V、より好ましくは、-0.3V~-0.7Vの電圧を磁気ヘッド素子に供給することで、磁気ヘッドに汚染物が付着することを低減できるといえる。
【0058】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 磁気記録再生装置
2 磁気記録媒体
3 モータ
4 磁気ヘッド
5 ランプ機構
7 ボイスコイルモータ
8 ヘッドアッセンブリ
9 ジンバル
21 非磁性基板
22 磁性層
23 炭素保護層
24 潤滑剤層
41A、41B 磁気ヘッド素子
42A、42B 電極
43 プリアンプ
44 バイアス回路
図1
図2
図3