IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小松精練株式会社の特許一覧

特開2022-166595布地の製造方法、布地及びそれを用いた繊維製品
<>
  • 特開-布地の製造方法、布地及びそれを用いた繊維製品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166595
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】布地の製造方法、布地及びそれを用いた繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06B 11/00 20060101AFI20221026BHJP
   D06P 1/16 20060101ALI20221026BHJP
   D06P 1/34 20060101ALI20221026BHJP
   D06P 3/54 20060101ALI20221026BHJP
   D06P 3/82 20060101ALI20221026BHJP
   D06P 3/87 20060101ALI20221026BHJP
   D06B 3/04 20060101ALI20221026BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20221026BHJP
【FI】
D06B11/00 C
D06P1/16
D06P1/34
D06P3/54 Z
D06P3/82
D06P3/87 C
D06B3/04 Z
D03D15/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071911
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 泰治
(72)【発明者】
【氏名】米澤 和洋
(72)【発明者】
【氏名】森 幸治
(72)【発明者】
【氏名】埴田 修
【テーマコード(参考)】
3B154
4H157
4L048
【Fターム(参考)】
3B154AA07
3B154AA08
3B154AB02
3B154BA08
3B154BA09
3B154BB12
3B154BB33
3B154BB47
3B154BD01
3B154BE02
3B154DA13
4H157AA01
4H157AA02
4H157BA08
4H157BA32
4H157DA01
4H157DA17
4H157DA22
4H157DA24
4H157DA30
4H157GA06
4H157GA15
4H157GA21
4H157JA10
4H157JA11
4H157JB03
4L048AA06
4L048AA08
4L048AA13
4L048AA20
4L048AA24
4L048AB07
4L048AB21
4L048AC07
4L048DA01
4L048DA13
4L048DA27
(57)【要約】
【課題】インジゴ染料を用いて着色された布地の染色堅牢度や、当該布地を製造する際の生産性を向上させる。
【解決手段】ポリエステル繊維を含む第1の糸状物に分散染料を付与する工程S1、前記分散染料が付与された前記第1の糸状物と、ナイロン繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維、再生繊維、半合成繊維及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を含む第2の糸状物とを用いて、織物又は編物を製織又は編成する工程S2、インジゴ染料を含む処理液に前記織物又は編物を接触させる工程S3、並びに、前記処理液に接触させた前記織物又は編物を洗浄する工程S4、を含む布地の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維を含む第1の糸状物に分散染料を付与する工程、
前記分散染料が付与された前記第1の糸状物と、ナイロン繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維、再生繊維、半合成繊維及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を含む第2の糸状物とを用いて、織物又は編物を製織又は編成する工程、
インジゴ染料を含む処理液に前記織物又は編物を接触させる工程、並びに、
前記処理液に接触させた前記織物又は編物を洗浄する工程、
を含む布地の製造方法。
【請求項2】
前記第2の糸状物がナイロン繊維及び綿のうちの少なくとも一方の繊維を含む、
請求項1に記載の布地の製造方法。
【請求項3】
前記第1の糸状物に前記分散染料を付与する工程の前に、前記第1の糸状物を整経する工程を含む、
請求項1又は2に記載の布地の製造方法。
【請求項4】
前記第1の糸状物に前記分散染料を付与する工程において、インクジェット法及びスプレー法のうちの少なくとも一方の方法により、前記第1の糸状物に前記分散染料を付与する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の布地の製造方法。
【請求項5】
前記第1の糸状物に前記分散染料を付与する工程の以後であって、前記処理液に前記織物又は編物を接触させる工程よりも前に、前記第1の糸状物に対して、150℃以上250℃以下の乾熱処理、及び、90℃以上190℃以下の蒸熱処理、のうちの少なくとも一方の熱処理を施す工程を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の布地の製造方法。
【請求項6】
前記処理液に前記織物又は編物を接触させる工程において、前記処理液へと前記織物又は編物を接触させることと、前記処理液に接触させた後の前記織物又は編物を空気に接触させることとを複数回行う、
請求項1~5のいずれか1項に記載の布地の製造方法。
【請求項7】
前記処理液に前記織物又は編物を接触させる工程、及び、前記処理液に接触させた前記織物又は編物を洗浄する工程、のうちの少なくとも一方の工程にて排出されたインジゴ染料を含む排液に対して、オゾン処理及び紫外線処理のうちの少なくとも一方の処理を施す工程を含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の布地の製造方法。
【請求項8】
第1の糸状物と第2の糸状物とを含む布地であって、
前記第1の糸状物は、ポリエステル繊維を含み、且つ、分散染料にて着色され、
前記第2の糸状物は、ナイロン繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維、再生繊維、半合成繊維及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を含み、且つ、インジゴ染料にて着色され、
前記布地は、JIS L0849に規定の摩擦試験機II形(学振形)法に準じた摩擦堅牢度が乾燥試験及び湿潤試験において3級以上であり、且つ、JIS L0842に規定の紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法のうち第3露光法に準じた耐光堅牢度が3級以上である、
布地。
【請求項9】
前記布地は、JIS L0844 A-1号に準じた洗濯に対する染色堅牢度が変退色及び汚染とも3級以上である、
請求項8に記載の布地。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の布地を少なくとも一部に用いた繊維製品であって、
衣服、靴、鞄、シーツ、布団カバー、傘、椅子カバー又はテントのうちのいずれかである、
繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジゴ染料を用いた布地の製造方法、布地及びそれを用いた繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インジゴ染料で染色された繊維製品は、独特の藍色を有し、ジーパン、ジャンパー、シャツ、帽子をはじめ、着物、のれん、風呂敷等の和装品を含め様々なものに使用されている。そして、その染色方法は、インジゴ染料が水不溶性であり、繊維に対する親和性が低いため、ハイドロサルファイトと水酸化ナトリウムとを含むアルカリ性の還元浴で還元し水溶性のロイコ型(ロイコ塩)とし、当該ロイコ型インジゴ染料を繊維に吸着させた後に、空気酸化によって、元の水不溶性の染料に戻すという作業を繰り返して目的の濃度の染色物を得ている。
【0003】
上記の染色方法で綿を中心とした天然繊維を染色していたが、さらに合成繊維を染色する方法もさまざま検討がされてきている。(特許文献1、2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018―145556号公報
【特許文献2】特開2018-009266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ナイロン繊維からなる糸を、インジゴ系染料と還元剤とを含有する35~88℃の染色液に浸漬して、デニム製品用糸を連続的に製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の方法で得られた糸は、ディップ-ニップを繰り返す浸漬法により染料が付与されたもののため、糸の表面に大量のインジゴ系染料が付着している。また、特許文献1の方法で得られた糸を用いて布地を製造した場合、当該布地の摩擦堅牢度や洗濯堅牢度が悪く、天然繊維ではなくナイロンという合成繊維を用いた布地としては受け入れ難いものであった。さらに、特許文献1においては耐光堅牢度について検討されていない。
【0006】
特許文献2には、インジゴ染料を含む糊剤を用いて捺染法により染色して得られたナイロン繊維等からなる布地であって、摩擦堅牢度、洗濯堅牢度、耐光堅牢度に優れたものが開示されている。しかしながら、捺染法を採用すると糸や布地の生産性が悪化し易い。
【0007】
以上の通り、従来技術においては、インジゴ染料を用いて着色された布地の染色堅牢度や、当該布地を製造する際の生産性に関して、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は、上記課題を解決するための手段の1つとして、以下の布地の製造方法を開示する。
【0009】
(1)本開示の布地の製造方法は、
ポリエステル繊維を含む第1の糸状物に分散染料を付与する工程、
前記分散染料が付与された前記第1の糸状物と、ナイロン繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維、再生繊維、半合成繊維及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を含む第2の糸状物とを用いて、織物又は編物を製織又は編成する工程、
インジゴ染料を含む処理液に前記織物又は編物を接触させる工程、並びに、
前記処理液に接触させた前記織物又は編物を洗浄する工程、
を含む。
(2)本開示の布地の製造方法においては、前記第2の糸状物がナイロン繊維及び綿のうちの少なくとも一方の繊維を含んでいてもよい。
(3)本開示の布地の製造方法は、前記第1の糸状物に前記分散染料を付与する工程の前に、前記第1の糸状物を整経する工程を含んでいてもよい。
(4)本開示の布地の製造方法においては、前記第1の糸状物に分散染料を付与する工程において、インクジェット法及びスプレー法のうちの少なくとも一方の方法により、前記第1の糸状物に前記分散染料を付与してもよい。
(5)本開示の布地の製造方法は、前記第1の糸状物に分散染料を付与する工程の以後であって、前記処理液に前記織物又は編物を接触させる工程よりも前に、前記第1の糸状物に対して、150℃以上250℃以下の乾熱処理、及び、90℃以上190℃以下の蒸熱処理、のうちの少なくとも一方の熱処理を施す工程を含んでいてもよい。
(6)本開示の布地の製造方法においては、前記処理液に前記織物又は編物を接触させる工程において、前記処理液へと前記織物又は編物を接触させることと、前記処理液に接触させた後の前記織物又は編物を空気に接触させることとを複数回行ってもよい。
(7)本開示の布地の製造方法は、前記処理液に前記織物又は編物を接触させる工程、及び、前記処理液に接触させた前記織物又は編物を洗浄する工程、のうちの少なくとも一方の工程にて排出されたインジゴ染料を含む排液に対して、オゾン処理及び紫外線処理のうちの少なくとも一方の処理を施す工程を含んでいてもよい。
【0010】
また、本願は、上記課題を解決するための手段の1つとして、以下の布地を開示する。
【0011】
(8)本開示の布地は、
第1の糸状物と第2の糸状物とを含む布地であって、
前記第1の糸状物は、ポリエステル繊維を含み、且つ、分散染料にて着色され、
前記第2の糸状物は、ナイロン繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維、再生繊維、半合成繊維及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を含み、且つ、インジゴ染料にて着色され、
前記布地は、JIS L0849に規定の摩擦試験機II形(学振形)法に準じた摩擦堅牢度が乾燥試験及び湿潤試験において3級以上であり、且つ、JIS L0842に規定の紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法のうち第3露光法に準じた耐光堅牢度が3級以上である。
(9)本開示の布地は、JIS L0844 A-1号に準じた洗濯に対する染色堅牢度が変退色及び汚染とも3級以上であるとよい。
【0012】
また、本願は、上記課題を解決するための手段の1つとして、以下の繊維製品を開示する。
【0013】
(10)本開示の繊維製品は、
上記の布地を少なくとも一部に用いた繊維製品であって、
衣服、靴、鞄、シーツ、布団カバー、傘、椅子カバー又はテントのうちのいずれかである。
【発明の効果】
【0014】
本開示の製造方法によれば、インジゴ染料で着色され、且つ、摩擦堅牢度や耐光堅牢度等の染色堅牢度に優れた布地を得ることができる。また、本開示の製造方法は、従来の捺染法による方法と比較して布地の生産性を向上させ易い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る布地の製造方法の流れの一例を示している。(A)が整経後に分散染料を付与する場合、(B)が整経前に分散染料を付与する場合である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、いずれも本発明の一例であり、本発明は以下の態様のみに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲において多くの変形が可能である。
【0017】
1.布地の製造方法
図1に示されるように、本実施形態に係る布地の製造方法は、
ポリエステル繊維を含む第1の糸状物に分散染料を付与する工程S1、
前記分散染料が付与された前記第1の糸状物と、ナイロン繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維、再生繊維、半合成繊維及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を含む第2の糸状物とを用いて、織物又は編物を製織又は編成する工程S2、
インジゴ染料を含む処理液に前記織物又は編物を接触させる工程S3、並びに、
前記処理液に接触させた前記織物又は編物を洗浄する工程S4、
を含む。
【0018】
1.1 工程S1
工程S1においては、ポリエステル繊維を含む第1の糸状物に分散染料を付与する。
【0019】
1.1.1 第1の糸状物
第1の糸状物に含まれるポリエステル繊維としては、テレフタル酸とエチレングリコールとを用いて得られるポリエチレンテレフタレートより得られるポリエステル繊維(以下、レギュラーポリエステル繊維ともいう)、ポリブチレンテレフタレートより得られるポリエステル繊維、ポリトリメチレンテレフタレートより得られるポリエステル繊維などが挙げられる。また、ポリエステル繊維は、常圧可染ポリエステル繊維といわれるものであってもよい。常圧可染型ポリエステル繊維としては、ポリエステルにスルホン酸基を導入したカチオン染料可染型ポリエステル繊維やポリマー改質により常圧で染色可能としたものであってもよい。また、前記ポリエステル繊維は短繊維、長繊維であってもよい。
【0020】
第1の糸状物は、前記ポリエステル繊維の長繊維を含むフィラメント糸、前記ポリエステル繊維の短繊維を含むスパン糸、また、前記短繊維と前記長繊維を組み合わせて得られた糸のいずれであってもよく、特に限定されるものではない。目的とする繊維製品に合わせ任意に選択するとよい。また、第1の糸状物にはポリエステル繊維以外の公知の繊維が含まれていてもよい。ポリエステル繊維以外の繊維としては、後述の第2の糸状物を構成する繊維として例示されたもののほか、ウレタン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、モダクリル繊維、アラミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ビニロン繊維、EVOH繊維、ポリ乳酸繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等が挙げられる。第1の糸状物においては、これらのポリエステル繊維以外の繊維を構成する素材とポリエステルとの混繊、混紡、カバリングヤーン又は芯-鞘構造を有した繊維を用いることもできる。第1の糸状物は、ポリエステル繊維を60質量%以上、65質量%以上又は75質量%以上含むものであってもよい。また、第1の糸状物は、生糸であっても、撚糸や仮撚りなどを施された加工糸であってもよい。第1の糸状物の太さは、目的とする繊維製品に合わせ、例えば、7デシテックス~1000デシテックス程度のものを用いることができる。
【0021】
1.1.2 分散染料
第1の糸状物に付与される分散染料としては、公知の分散染料を用いることができ、アゾ系、キノン系、キノリン系、ニトロ系、クマリン系、メチン系、アミノケトン系などの分散染料を用いることができる。
【0022】
工程S1において、第1の糸状物は、インジゴ染料によって着色される色相に近い色に着色されることが好ましく、例えば、水色、青色、紺色に着色されることが好ましい。この点、第1の糸状物に付与される分散染料として、C.I.Disperse Blue 56、C.I.Disperse Blue 73、C.I.Disperse Blue 79:1、C.I.Disperse Blue 165:1、C.I.Disperse Blue 214、C.I.Disperse Blue 281、C.I.Disperse Blue 291、C.I.Disperse Blue 291:1等から選ばれる少なくとも一つを用いるとよい。
【0023】
1.1.3 付与方法
ポリエステル繊維を含む第1の糸状物に分散染料を付与する手段や方法は特に限定されるものではない。例えば、インクジェット法及びスプレー法のうちの少なくとも一方の方法により、前記第1の糸状物に前記分散染料を付与することが好ましい。或いは、グラビアコータやキスコータなどを用いた転写法により、前記第1の糸状物に前記分散染料を付与してもよい。これらの方法は、チーズ染色やカセ染色等の先染め法に比べ第1の糸状物に付与する分散染料や分散染料を含む処理液(第1の処理液)の量を少なくでき、第1の糸状物の中心部にまで染料が浸透することを抑制することが容易である。このように第1の糸状物の表面に多くの染料を配置し、第1の糸状物の中心部への染料の浸透を抑制することにより、第1の糸状物の表面部と中心部との染料の付着量差が大きくなり、得られる糸状物は、糸の中心部が白く見える中白となりやすく、結果として、繊維製品に、洗いざらし感や着古し感(これらをウオッシュ感とも記載)を付与しやすい。
【0024】
第1の糸状物に対する分散染料の付与は、例えば、分散染料を含む処理液(第1の処理液)を用いて行うことができる。第1の処理液を構成する分散染料以外の成分に特に制限は無い。以降の工程にて分散染料が第1の糸状物から脱落することを抑える観点、及び、分散染料が第1の糸状物の中央部へと浸透することを抑える観点より、分散染料を含む処理液の中には糊剤が含まれているとよい。また、中白形成の観点からは、第1の糸状物の表面に糊剤が付着しているとよい。なお、乾燥に要する時間や中白形成の観点から、分散染料を含む処理液の量は、第1の糸状物の質量に対し0.01質量%以上又は0.1質量%以上であってもよく、50質量%以下又は30質量%以下であってもよい。
【0025】
また、第1の糸状物に対する分散染料の付与量は、希望する色濃度に応じて、任意に調整されればよい。得られる布地の色濃度及び染色堅牢度の観点から、分散染料の付与量は、ポリエステル繊維の質量に対し0.001質量%以上、0.01質量%以上又は0.05質量%以上であってもよく、10質量%以下、5質量%以下又は1質量%以下であってもよい。
【0026】
本実施形態に係る布地の製造方法において、第1の糸状物に分散染料を付与する工程S1は、分散染料を含む第1の処理液を第1の糸状物に付着させること、及び、前記第1の処理液が付着した第1の糸状物を熱処理すること、を含んでいてもよい。第1の処理液が付着した第1の糸状物に対して熱処理を施すことにより、以降の工程において第1の処理液の飛散を防止でき、織機等の周辺機器が分散染料によって汚染されることを抑制でき、生産性を向上させ易くなる。なお、この際の熱処理は、第1の糸状物に付着した第1の処理液を乾燥させることを目的として行われてもよい。また、後述のように、分散染料のポリエステルへの染着を目的として行われてもよい。工程S1における熱処理は、例えば、30℃~250℃にて1秒~5分程度行えばよい。工程S1における熱処理が、第1の糸状物に付着した第1の処理液を乾燥させることを目的とするものである場合、以降の工程における糸状物に付着している糊剤等の除去性、インジゴ染料による染色性及び得られる布帛の風合い、堅牢度、糸の強度維持の観点から、当該熱処理の温度や時間は、30℃~130℃にて、1秒~90秒程度が好ましい。工程S1における熱処理は公知の加熱装置を用いて行えばよい。
【0027】
1.1.4 分散染料を付与するタイミング
工程S1は、製織又は編成によって織物又は編物を得る前に行われればよい。特に、製織の準備工程にあたるポリエステル繊維を含む第1の糸状物の整経後であって、かつ、製織前に行うとよい。すなわち、本実施形態に係る布地の製造方法は、図1(A)に示されるように、第1の糸状物に分散染料を付与する工程S1の前に、第1の糸状物を整経する工程S11を含んでいてもよい。
【0028】
織物の製造にあたっては、製織を行う前に準備工程として整経が必須である。ここで、図1(A)に示されるように、ポリエステル繊維を含む第1の糸状物を経糸とし、整経後の第1の糸状物に分散染料を付与することにより、糸状物への分散染料の付与と製織とを連続して行うことができ、生産性に優れる。また、第1の糸状物の整経により、第1の糸状物が引き揃えられ、見かけ上、シート状となっており、一本、一本の糸状物に分散染料を付与する場合に比べ、インクジェット法及び/又はスプレー法にて効率よく、多数の糸状物に分散染料を付与することができる。
【0029】
一方で、第1の処理液の削減率や布地の生産性については若干劣るものの、本実施形態に係る布地の製造方法は、図1(B)に示されるように、第1の糸状物に分散染料を付与する工程S1の後に、第1の糸状物及び第2の糸状物のうちの少なくとも一方を整経する工程S11を含むものであってもよい。すなわち、チーズ染色やカセ染色等の先染め法によって第1の糸状物への分散染料の付与を行った後で、整経を行ってもよい。
【0030】
1.2 工程S2
工程S2においては、分散染料が付与された第1の糸状物と、ナイロン繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維、再生繊維、半合成繊維及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を含む第2の糸状物とを用いて、織物又は編物を製織又は編成する。第1の糸状物や第2の糸状物は、布地として織物を製造する場合には、経糸、緯糸のいずれに用いても良く、経糸、緯糸の両方に用いてもよい。また、布地として織物を製造する場合、当該織物の種類は特に限定されるものではない。例えば、平織物、斜文織物(綾織物)、朱子織物、変化平織物、変化斜文織物、変化朱子織物、梨地織物、蜂巣織物、また、変わり織物等であってよい。また、斜文織物の場合、片面斜文織、両面斜文織いずれであってもよい。インジゴ染料で染色された繊維製品の色合い、洗いざらし感、着古し感を得るとの観点からは、織物の片面に第2の糸状物が多く配置されるような織組織、例えば綾織りや朱子織りとすることが好ましい。一方で、布地として編物を製造する場合、編物の種類は特に限定されるものではない。経編物、緯編物等のいずれの編物であってもよい。
【0031】
1.2.1 第2の糸状物
第2の糸状物に用いられるナイロン繊維としては、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン等の任意のナイロン樹脂を用いて得られるものが挙げられる。カチオン染料可染型ポリエステル繊維としては、ポリエステルにスルホン酸基を導入したものなどが挙げられる。また、再生繊維としては、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどを挙げることができる。また、半合成繊維としては、トリアセテート、ジアセテートなどのアセテート繊維が挙げられる。また、天然繊維としては、綿、麻、絹、羊毛などを挙げることができる。得られる布地の濃度、洗いざらし感、着古し感、染色堅牢度の観点からは、第2の糸状物がナイロン繊維及び綿のうちの少なくとも一方の繊維を含むとよい。
【0032】
第2の糸状物には、上記以外の他の繊維が含まれていてもよい。上記以外の他の繊維としては、例えば、ウレタン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、モダクリル繊維、アラミド繊維等が挙げられる。第2の糸状物においては、上記以外の他の繊維を構成する素材と、上記の繊維を構成する素材との混繊、混紡、カバリングヤーン又は芯-鞘構造を有した繊維が採用されてもよい。第2の糸状物は、ナイロン繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維、再生繊維、半合成繊維及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を合計で60質量%以上、65質量%以上又は75質量%以上含むものであってもよい。また、第2の糸状物は、生糸であっても、撚糸や仮撚りなどを施された加工糸であってもよい。第2の糸状物の太さは、目的とする繊維製品に合わせ、例えば、7デシテックス~1000デシテックス程度のものを用いることができる。
【0033】
1.2.2 製織又は編成
第1の糸状物と第2の糸状物とを用いた製織は、公知の織機を用いて行えばよい。織機としては、例えば、シャトル織機、レピア織機、エアージェットルーム、ウオータージェットルームなどが挙げられる。ポリエステル繊維を含む第1の糸状物から分散染料が脱落することを防ぐ観点、また、第1の糸状物の中白を維持する観点からは、シャトル織機、レピア織機、エアージェットルームのいずれかを用いるとよい。また、製織中の糸状物同士あるいは糸状物と織機間の摩擦による分散染料の飛散(第1の糸状物に付与された分散染料に起因する粉体)が少なく作業者の作業環境の悪化が抑えられるとの観点及びエアーノズルや空気フィルターの汚染解消のための洗浄の必要がないあるいは回数が減らせるなど織機のメンテナンスの観点からはレピア織機がより好ましい。一方で、第1の糸状物と第2の糸状物とを用いた編成も、公知の編機を用いて行えばよい。例えば、緯編機、経編機などから、目的とする編物に応じ適宜選択すればよい。
【0034】
1.3 熱処理
図1に示されるように、本実施形態に係る布地の製造方法は、上記の工程S1及びS2を経て得られた織物又は編物を熱処理する工程S12を含んでいてもよい。この際の熱処理は、分散染料のポリエステル繊維への染着を目的として行われるものであってよい。熱処理条件は、用いられているポリエステル繊維の特性にもよるが、95℃~250℃で、10秒から2時間の範囲で行うとよい。また、得られる布地の発色性や染色堅牢度の観点より、熱処理方法として乾熱処理の場合には150℃~250℃、蒸熱処理の場合には90℃~190℃程度が好ましい。工程S12における熱処理は公知の加熱装置を用いて行えばよい。
【0035】
尚、上述の通り、工程S1において第1の糸状物に対して分散染料を付与する際に行われる熱処理が、分散染料のポリエステル繊維への染着を目的とする熱処理を兼ねていてもよく、この場合には上記の工程S12を省略してもよいし、省略しなくてもよい。すなわち、本実施形態に係る布地の製造方法は、第1の糸状物に分散染料を付与する工程S1の以後であって、後述するインジゴ染料を含む処理液(第2の処理液)に織物又は編物を接触させる工程S3よりも前に、第1の糸状物に対して、150℃以上250℃以下の乾熱処理、及び、90℃以上190℃以下の蒸熱処理、のうちの少なくとも一方の熱処理を施す工程を含んでいてもよい。尚、「工程S1の以後・・・熱処理を施す」とは、工程S1において第1の処理液を付着させた第1の糸状物に対して熱処理を施す形態、工程S1の後、且つ、工程S2の前に第1の糸状物に対して熱処理を施す形態、及び、上記工程S12のように、工程S2の後、且つ、工程S3の前に織物又は編物に対して熱処理を施す形態、のうちの少なくとも一つの形態を含む主旨である。分散染料のポリエステル繊維への染着を目的とする熱処理は1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。
【0036】
1.4 工程S3
工程S3においては、インジゴ染料を含む処理液(第2の処理液)に上記の織物又は編物を接触させる。例えば、第2の処理液に上記の織物又は編物を浸漬してもよいし、浸漬以外の方法で接触させてもよい。第2の処理液は、インジゴ染料以外の成分を含んでいてもよく、例えば、インジゴ染料、還元剤及びアルカリ剤を含んでいてもよい。
【0037】
1.4.1 インジゴ染料を含む処理液(第2の処理液)
インジゴ染料としては公知のインジゴ染料を用いることができ、天然インジゴ染料、合成インジゴ染料のいずれであってもよい。合成インジゴ染料としては、C.I.Vat Blue 1、C.I.Vat Blue 3、C.I.Vat Blue 5などが挙げられる。DyStar Indigo gran、DyStar Indigo Vat60% gran、Mitsui Indigo 35% paste、Mitsui Tsuya Indigo RN、Mitsui Tsuya Indigo 2B(いずれもダイスタージャパン株式会社より提供。)などとして供給されている。なお、第2の処理液中のインジゴ染料の濃度は、求められる染色濃度により任意の濃度とすればよい。
【0038】
また、還元剤とアルカリ剤とが第2の処理液に含まれていることにより、インジゴ染料が還元され、ロイコ型(ロイコ塩)となることで水溶性となり、第2の糸状物に含まれる前記繊維に染着する。還元剤としては、ハイドロサルファイト、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリットC)、二酸化チオ尿素などが挙げられ、これらを単独または配合して用いるとよい。還元剤の添加量は、インジゴ染料の還元の観点から、上限は第2の処理液の酸化還元電位が約-600mV以下となるような量であることがよく、好ましくは約-700mV以下、より好ましくは約-800mV以下となるような量であるとよい。下限は特に限定されないが、染料が過還元されるおそれがあるため約-1100mV以上となるような量であるとよく、好ましくは約-1000mV以上となるような量であるとよい。
【0039】
また、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ剤の添加量は、インジゴ染料をロイコ型(ロイコ塩)とするため、第2の処理液のpHが約9.0以上、より好ましくは約10.0以上となるような量であるとよい。上限は特にないが、インジゴ染料が加水分解するおそれがあるためpH約13.0以下、より好ましくはpH約12.5以下となるような量であるとよい。
【0040】
第2の処理液の温度は、使用される還元剤の種類にもよるが、約40℃以上が好ましく、より好ましくは約50℃以上、さらに好ましくは約60℃以上がよい。また、上限は約100℃程度である。
【0041】
1.4.2 接触方法
インジゴ染料を含む処理液への織物又は編物の接触は、ドラム型染色機、液流型染色機、ウインス型染色機などをもちいたバッチ処理でも可能であるが、生産性の観点より、インジゴ染料を含む処理液へと拡布状にて連続的に布地を浸漬し、引き続き空気への接触を行うことができるディップ法あるいはディップ-ニップ法を用いたものが好ましい。ロイコ型(ロイコ塩)となっているインジゴ染料は、酸化されることにより水に対し不溶性となり、繊維に強固に染着し、本来の色を発色し、染色堅牢性を有することとなる。この酸化を空気への接触にておこなう。
【0042】
また、インジゴ染料を含む前記処理液に前記織物又は編物を接触させる工程S3において、インジゴ染料を含む前記処理液へと前記織物又は編物を接触させることと、前記処理液に接触させた後の前記織物又は編物を空気接触させることとを複数回行う(すなわち、第2の処理液への接触と空気への接触とを繰り返す)と、最終的に得られる布地の着色の均染性、着色濃度が一層良好なものとなる。複数回とは、3回以上が好ましく、より好ましくは5回以上、さらにより好ましくは7回以上、またさらに好ましくは10回以上がよい。上限は特に限定されないが、生産性や加工装置の大きさなどの観点からは、50回以下が好ましい。
【0043】
1.5 工程S4
工程S4においては、前記インジゴ染料を含む処理液に接触させた布地を洗浄する。洗浄は、摩擦堅牢度、洗濯堅牢度、耐光堅牢度の観点及び求められる繊維製品の外観(ウオッシュ感や着色濃度)にもよるが常温~60℃にて、5分~2時間行うとよい。洗浄に用いる洗浄液には、アルカリ剤や界面活性剤などを含むものや中和や酸化を目的として酸を含むものを用いてもよい。例えば、洗浄は、第一工程として、40~60℃、洗浄液として水のみを用いた洗浄、第二工程として、40~60℃、洗浄液として水にアルカリ剤と界面活性剤を含む洗浄液を用いた洗浄、第三工程として、常温~40℃、洗浄液として水に酸を含む洗浄液を用いた洗浄、第四工程として、常温~40℃、洗浄液として水のみを用いた洗浄、といったように異なる洗浄条件で複数の段階に分かれたものであってもよい。また、染色堅牢度向上の目的で、第四工程にて、例えば第2の糸状物としてナイロン繊維を用いた場合には水にフィックス剤である合成タンニン等を含む洗浄液を用いフィックス処理を同時に行ってもよい。
【0044】
また、洗浄は、ドラム型染色機、液流染色機、ウインス型染色機などをもちいたバッチ処理、拡布状連続ソーピング機、ロープ状連続ソーピング機などを用いた連続式処理などで行えばよい。なお、最終的に得られる布地に洗いざらし感、着古し感を付与したい場合には、ドラム型染色機を用い、また、軽石やゴムボールを併用し、洗浄を行ってもよい。洗浄後の織物又は編物は、例えば、50~130℃程度にて、10秒~10分程度乾燥を行ってもよい。
【0045】
洗浄を行った後または同時に、織物又は編物に対し、難燃加工、制電加工、吸水加工、消臭加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮蔽加工、耐光向上加工、撥水加工、防汚加工などを行ってもよい。また、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂などからなる樹脂膜を、織物又は編物の片面に積層し、防水性を付与するなどしてもよい。
【0046】
1.6 排液処理
図1に示されるように、本実施形態に係る布地の製造方法は、上記工程(特に、前記処理液に前記織物又は編物を接触させる工程S3、及び、前記処理液に接触させた前記織物又は編物を洗浄する工程S4、のうちの少なくとも一方の工程)により排出されたインジゴ染料を含む排液に対して、オゾン処理及び紫外線処理のうちの少なくとも一方の処理を施す工程S13を含んでいてもよい。
【0047】
インジゴ染料による染色工程で排出される排液は、大量のインジゴ染料、アルカリ剤、還元剤を含むものであり、活性汚泥法での処理では微生物に対し負荷が大きい。特に、微生物は酸化により排液中の化合物を分解するが、排液中に大量の還元剤が含まれていると、当該還元剤の処理が優先的に起こり、微生物による他の化合物の処理能力が低下し、排液処理能力が低下する。また、活性汚泥法では、インジゴ染料にて着色した排液を脱色することは困難である。
【0048】
これに対し、本実施形態のように、排液に対し、オゾン処理及び/又は紫外線処理を行うことにより、微生物への負荷を軽減し、かつ、インジゴ染料に起因する色素を分解し、排液の着色を低下させ、良好な排液処理が可能となる。
【0049】
さらに詳細に説明すると、本実施形態においては、インジゴ染料を含む処理液を廃棄する際に排出される排液やインジゴ染料を含む処理液に接触させた織物又は編物の洗浄工程にて排出される排液などには、未染着の染料(主としてインジゴ染料。分散染料も含まれる。)、アルカリ剤、還元剤、糸状物(整経前等)に付与された糊やサイジング剤、洗浄時に用いられた界面活性剤をはじめこれらの分解生成物などが含まれている。
【0050】
これらを含む排液に対し、本実施形態では、オゾン処理及び/又は紫外線処理を行う。好ましくは、オゾン処理及び紫外線処理の双方を行うとよい。より具体的には、まず排液に対し、オゾン処理を行うとよい。オゾン処理は、排液にオゾンガスを混合(溶解)し、オゾンにより排液に含まれる各種成分(化合物)を分解する。また、オゾンを含んだ排液に対し紫外線を照射することにより、オゾンからヒドロキシラジカルを生成させるなどし、オゾンによる酸化をより促進させ、排液に含まれる各種成分(化合物)を一層分解することができる。特に、還元剤をオゾンにて酸化し、活性汚泥法に用いられている微生物への影響を低減させ、また、紫外線により、インジゴ染料及びインジゴ染料分解生成物の無色化を促進し、排液の着色を低下させる。
【0051】
なお、排液に対し、オゾンガスを混合(溶解)させる方法は、曝気など公知の方法を用いればよいが、排液の排出流路において部分的に流速を増加させることで圧力を低下させオゾンガスを排水に流入・混合できるエジェクター(インジェクター、アスピレータ)を用いると排液に細かなバブル状のオゾンガスを混合(溶解)でき、排液の処理性能が向上する。
【0052】
また、紫外線処理は、400nm以下の波長を有する紫外線を用い、当該紫外線を排液に照射するとよい。好ましくは310nm以下の波長を含む紫外線を用いるとよい。このような紫外線を用いることにより、先にも述べた通りオゾンによる排液に含まれる各種成分、特に活性汚泥法では脱色の難しい、インジゴ染料に起因する着色成分を分解、無色化することができる。
【0053】
また、オゾンガスによる排液処理効率の向上の観点からは、排出流路内にてこれらの処理を行う場合には、排液にオゾンガスを混合した後、しばらくタイミングを取ってから、紫外線処理を行うことが好ましい。具体的には排液にオゾンガスを混合した後、1秒以上経過した後、当該排液を紫外線処理するとよい。より好ましくは2秒以上、さらにより好ましくは3秒以上60秒以下経過後がよい。60秒以内であれば、オゾンガスとの組み合わせの効果が大きい。また、「オゾン処理」と「紫外線処理」とを繰り返してもよい。
【0054】
また、排液の滞留槽を設け、滞留槽内にて排液に対しオゾン処理と紫外線処理とを行ってもよい。また、滞留槽に循環路を形成し、ポンプなどを用い、排液を循環させ、この循環路にてオゾン処理や紫外線処理を行ってもよい。この場合、循環路に前記エジェクターを取り付けて細かなバブル状のオゾンガスを排液に混合(溶解)させてもよい。これらの槽を用いた排液の処理では、排液が槽内に滞留する時間は、排液の浄化の観点からは、5分以上がよく、好ましくは10分以上がよい。上限は特に限定されるものではないが60分程度である。
【0055】
以上、本実施形態に係る布地の製造方法によれば、インジゴ染料で着色され、且つ、摩擦堅牢度や耐光堅牢度に優れた布地を生産性よく製造することができる。また、上記のオゾン処理や紫外線処理を行う場合、インジゴ染料を用いた染色工程において排出される排液の環境負荷を軽減することができ、上記の製造方法を工業的に実施し易くなる。
【0056】
2.布地
次に、本実施形態に係る布地について説明する。なお、前記の製造方法で説明した事項については一部説明を省略した。
【0057】
本実施形態に係る布地は、第1の糸状物と第2の糸状物とを含む布地であって、前記第1の糸状物は、ポリエステル繊維を含み、且つ、分散染料にて着色され、前記第2の糸状物は、ナイロン繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維、再生繊維、半合成繊維及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を含み、且つ、インジゴ染料にて着色され、前記布地は、JIS L0849に規定の摩擦試験機II形(学振形)法に準じた摩擦堅牢度が乾燥試験及び湿潤試験において3級以上であり、且つ、JIS L0842に規定の紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法のうち第3露光法に準じた耐光堅牢度が3級以上である。
【0058】
分散染料にて着色され、且つ、ポリエステル繊維を含む第1の糸状物と、ナイロン繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維、再生繊維、半合成繊維及び天然繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を含む第2の糸状物とについては、前述の通りである。摩擦堅牢度や洗濯堅牢度の観点からは、布地における第1の糸状物の配合割合は、10質量%以上がよく、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上がよい。インジゴ染料で染色された繊維製品の特有の色合い、洗いざらし感、着古し感を得るとの観点からは、布地における第2の糸状物の配合割合は、30質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%、さらに好ましくは60質量%以上がよい。なお、第1の糸状物の配合割合と第2の糸状物の配合割合の合計は、100質量%以下である。
【0059】
本実施形態に係る布地は、JIS L0849に規定の摩擦試験機II形(学振形)法に準じた摩擦堅牢度が乾燥試験及び湿潤試験において3級以上である。より好ましくは、当該摩擦堅牢度は乾燥試験及び/又は湿潤試験において3-4級以上、さらに好ましくは、当該摩擦堅牢度は乾燥試験及び/又は湿潤試験において4級以上であるとよい。
【0060】
また、本実施形態に係る布地は、JIS L0844 A-1号に準じた洗濯に対する染色堅牢度が変退色及び汚染とも3級以上であるとよい。より好ましくは当該変退色及び/又は汚染が3-4級以上、さらに好ましくは4級以上であるとよい。なお、本実施形態において、JIS L0844 A-1号に準じた洗濯に対する染色堅牢度の試験は、洗剤として中性洗剤「エマール」(登録商標。花王株式会社製)を1.5ml/l使用して行うものとする。
【0061】
また、洗濯堅牢度測定時の洗濯液の汚染(色落ちともいう。)は、汚染用グレースケール(JIS L0805)にて判定し、2級以上が好ましく、より好ましくは3級以上、さらに好ましくは4級以上がよい。
【0062】
また、本実施形態に係る布地は、JIS L0842に規定の紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法のうち第3露光法に準じた耐光堅牢度が3級以上であり、4級以上が好ましい。
【0063】
摩擦堅牢度、さらには洗濯堅牢度が上記の通り優れ、かつ、耐光堅牢度が上記の通り優れる布地は、衣服をはじめ種々の繊維製品に用いることができる。
【0064】
一般に、摩擦堅牢度、洗濯堅牢度、耐光堅牢度のいずれもよくするには、布地を構成する糸状物の表面には過剰な染料が付着せず、染料が糸に強固に染着し、光に対し安定な化学構造を有していることが必要である。しかしながら、インジゴ染料を用い着色された繊維製品では、インジゴ染料特有の洗いざらし感、着古し感と消費者の嗜好にあった濃色から単色にわたる色濃度ものが求められる。
【0065】
洗いざらし感、着古し感を出すためには、糸状物の中心部に比べ表面部に染料を多く付着(中白)させたうえで、摩耗や水によって、糸状物の表面に付着している染料を一部脱落させる必要がある。つまり表面部の一部の染料は弱く染着しているとよい。一方で、繊維表面に弱く染着している場合には、インジゴ染料は、摩擦や洗濯に対する堅牢度に加え、耐光性も弱くなる。
【0066】
このような状況において、本実施形態では、分散染料が付与されたポリエステル繊維を含む第1の糸状物と、インジゴ染料が付与された第2の糸状物とを構成要素に含む布地を用いることにより、摩擦堅牢度、耐光堅牢度といった染色堅牢度に優れ、かつ、インジゴ染料で染色された繊維製品特有の洗いざらし感、着古し感や色相を有する布地を生産性良く得ることができる。
【0067】
3.繊維製品
上記布地は様々な繊維製品に用いられる。例えば、本実施形態に係る繊維製品は、上記布地を少なくとも一部に用いた繊維製品であって、シャツ、ブラウス、Tシャツ、ズボン、下着、和服、作業着、帽子、マフラーなどの衣服、靴、鞄、シーツ(布団の側地含む)、布団カバー(まくらカバー)、傘、椅子カバー(椅子張り含む)又はテントのいずれかであってよい。上記布地が用いられることにより、繊維製品の当該布地を用いた部分は、インジゴ染料で染色された繊維製品特有の洗いざらし感、着古し感や色相を有する。また、摩擦堅牢度と耐光堅牢度、さらには洗濯堅牢度にも優れている。繊維製品は、上記のものに限定されるものではなく、上記以外のもの、例えば、マスクや筆入れ等であってもよい。
【実施例0068】
以下、実施例を示しつつ本発明についてさらに詳細に説明を行うが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
以下の実施例における評価方法は次の通りである。
【0070】
A 摩擦堅牢度
JIS L0849に規定の摩擦試験機II形(学振形)法に準じて乾燥試験及び湿潤試験を行い、摩擦堅牢度を判定した。摩擦面は、第2の糸状物として用いたナイロンが表面に多く露出している面側とした。
【0071】
B 洗濯堅牢度
JIS L0844 A-1号に準じた洗濯に対する染色堅牢度試験を行い、洗濯堅牢度を判定した。なお、洗剤として中性洗剤「エマール」(登録商標。花王株式会社製)を1.5ml/l使用して試験を行った。また、添付白布は、ナイロンと綿とを用い、汚染のひどい方にて等級判定を行った。また、洗濯堅牢度測定時の洗濯液の汚染(色落ちともいう)を、汚染用グレースケール(JIS L0805)にて判定した。
【0072】
C 耐光堅牢度
JIS L0842に規定の紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法のうち第3露光法に準じて、2級と3級と4級の試験を行い、耐光堅牢度を判定した。光の照射面は、第2の糸状物として用いたナイロンが表面に多く露出している面側とした。
【0073】
(実施例1)
レギュラーポリエステル繊維からなる第1の糸状物(84デシテックス/72フィラメント。仮撚り加工糸)を整経し、糊付けし、ビーム管に巻き取ったものを、綾取り、引き通しを行い織機(レピア織機)にセットした。次に、整経された第1の糸状物が巻かれたビーム管と織機の綜絖及び筬の手前に、ビーム管に近い方からスプレー装置とヒーターを設置した。スプレー装置で噴霧する処理液には、分散染料として、C.I.Disperse Blue 214の水分散液を用いた。また、緯糸として、ナイロン繊維からなる第2の糸状物(78デシテックス/24フィラメント)を用いた。
【0074】
次に織機を稼働させながら、ビーム管から移動してきた経糸となる第1の糸状物(整経され、一方向に配列しているためシート状。)の片面に分散染料を含む処理液をスプレー装置から噴霧した。噴霧量は、第1の糸状物の質量あたり分散染料の付与量が1質量%となるように噴霧をおこなった。分散染料を含む処理液の第1の糸状物に対する付与量は、20質量%であった。引き続き、分散染料を含む処理液が噴霧された第1の糸状物を、ヒーター部に移動させて、120℃で15秒加熱し、分散染料を第1の糸状物に付与した。
【0075】
次に、経糸となる分散染料が付与されたポリエステル繊維からなる第1の糸状物を織機に移動させ、緯糸となるナイロン繊維からなる第2の糸状物が打ち込まれた織物を得た。織組織は朱子織とした。
【0076】
次に、織物を200℃で60秒間、連続式のヒートセッターを用い熱処理を行い、分散染料をポリエステル繊維に染着させた。
【0077】
次に、インジゴ染料を含む処理液に織物を浸漬した。具体的には、インジゴ染料を含む処理液を入れた5つの槽を準備し、槽と槽の間には、織物が次の槽に入るまでに空気と接触(酸化)する時間を確保できるようにバーを設置し、生地をジグザグ状に通過させることができる装置を用いた。当該装置に織物を拡布状にて連続的に通過させた。1槽あたりの浸漬時間2分、次の槽にて処理液に織物が浸漬するまでの(空気接触)時間6分を繰り返した。この処理を4回(5つの処理槽の各々へ4回浸漬した。合計浸漬回数20回)繰り返し、インジゴ染料を織物に付与した。
【0078】
なお、インジゴ染料を含む処理液は、インジゴ染料、アルカリ剤及び還元剤を含むものであって、インジゴ染料としてDyStar Indigo gran 1.0g/l、アルカリ剤として水酸化ナトリウム 2.5g/l、還元剤としてハイドロサルファイト 0.5g/l、二酸化チオ尿素 2g/lを含むものとした。また、処理液の温度は55℃±5℃とした。還元電位は950~1000mVm、pHは12±0.5とした。
【0079】
インジゴ染料を含む処理液に浸漬した後、織物を洗浄した。洗浄は、40℃の水のみにて湯洗いを行った後、トリポリリン酸ソーダを0.2g/l、ソーピング剤(非イオン系界面活性剤)を0.5g/l含む40℃の洗浄水にて洗浄し、さらに、40℃の水のみにて湯洗いを行った。また、引き続き合成タンニンを1g/l含む処理液にてフィックス処理を行い、120℃で乾燥し、160℃にて仕上セットを行い、インジゴ染料で着色された繊維布帛を得た。
【0080】
本実施例においては、捺染法を用いたものに比べ、捺染糊の製造の必要がなく、また、布地の加工量が数百mになるごとに装置を止めての捺染型の洗浄処理の必要がないなど生産性に優れていた。
【0081】
また、本実施例における排液(分散染料を含む処理水、インジゴ染料を含む処理液、洗浄水、洗浄処理後の洗浄水を含む)を、循環路を設けた滞留槽に溜め、循環路にエジェクターを設置し、排液にオゾンガスを混合した。また、滞留槽内に紫外線発生装置を取り付け、紫外線処理を行った。この滞留槽で30分程度排液を滞留させたところ、当初の排液はインジゴに起因すると思われる青色を呈していたが、滞留槽にて30分間滞留した排液は、インジゴ染料に起因すると思われる青色はほぼ無くなっていた。
【0082】
引き続き当該排液に対して活性汚泥法にて処理を行った。活性汚泥法で処理された排液は、従来のインジゴ染料を含まない染色時の排液と何ら変わりなく、排液はほぼ着色しておらず、BODの数値等、正常に排水処理がなされた。
【0083】
なお、オゾン処理及び紫外線処理を行わなかった排液を、活性汚泥法にて処理したところ、汚泥が青色に染まり、また、活性汚泥処理槽を通過した水は、まだ青色に着色しており、BODも従来の排液処理後の数値に比べ悪化していた。
【0084】
本実施例にて得られた布地は、インジゴ特有の鮮やかな赤みの藍色の布地であった。また、摩擦堅牢度が乾燥試験3-4級、湿潤試験4級、洗濯堅牢度が変退色4級、汚染4-5級、色落ち4-5級、耐光堅牢度は4級と摩擦や洗濯などの水系の染色堅牢度に優れるとともに、光に対しても優れた染色堅牢度を有していた。
【0085】
上記のようにして得られた布地のナイロンが表面に多く露出している面側を表面(衣服の外側の面)としてジャケットを製造した。このジャケットと軽石をドラム型染色機に入れ、50℃にてウオッシュ処理を1時間行った。得られたジャケットは、ウオッシュ処理前に比べ、色はやや薄くなったものの、インジゴ染特有の洗いざらし感、着古し感を有するジャケットとなった。
【0086】
(比較例1)
レギュラーポリエステル繊維からなる第1の糸状物をナイロン繊維からなる糸状物((78デシテックス/24フィラメント)に替え、且つ、当該糸状物を分散染料で着色しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、インジゴ染料にて着色された布地を得た(ナイロン繊維のみからなる布地)。得られた布地は、インジゴ特有の鮮やかな赤みの藍色の繊維製品であった。しかしながら、摩擦堅牢度が乾燥試験1-2級、湿潤試験1-2級、洗濯堅牢度が変退色2-3級、汚染2級、色落ち1級、耐光堅牢度は3級以上4級未満と、十分な染色堅牢度を有していないものであった。
図1