IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電子部品および情報読み取り方法 図1
  • 特開-電子部品および情報読み取り方法 図2
  • 特開-電子部品および情報読み取り方法 図3
  • 特開-電子部品および情報読み取り方法 図4
  • 特開-電子部品および情報読み取り方法 図5
  • 特開-電子部品および情報読み取り方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166601
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】電子部品および情報読み取り方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/11 20060101AFI20221026BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20221026BHJP
   G06K 19/06 20060101ALI20221026BHJP
   B22F 3/105 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
B22F3/11 A
H01F27/00 Q
G06K19/06 159
B22F3/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071921
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】乾 京介
(72)【発明者】
【氏名】豊田 晃正
(72)【発明者】
【氏名】外海 透
(72)【発明者】
【氏名】小柳 佑市
【テーマコード(参考)】
4K018
5E070
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA13
4K018BB04
4K018CA11
4K018CA29
4K018DA21
4K018HA01
4K018KA42
5E070AA01
5E070BB03
5E070DA13
5E070DA20
(57)【要約】
【課題】簡便な方法で形成することが可能であり、しかも情報の読み取りエラーが少ない表示領域を有する電子部品を提供すること。
【解決手段】素子本体4は、金属粒子12が分散している金属粒子分散体15を有し、金属粒子分散体15は、その表面に、表示領域10を有し、表示領域10は、金属粒子分散体15の基準表面Lから所定深さの凹部10aを有し、所定深さLは、金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12のD50よりも深い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子本体を有する電子部品であって、
前記素子本体は、金属粒子が分散している金属粒子分散体を有し、
前記金属粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、前記金属粒子分散体の基準表面から所定深さの凹部を有し、
前記所定深さは、前記金属粒子分散体に含まれる金属粒子のD90よりも浅いことを特徴とする電子部品。
【請求項2】
素子本体を有する電子部品であって、
前記素子本体は、金属粒子が分散している金属粒子分散体を有し、
前記金属粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、前記金属粒子分散体の基準表面から所定深さの凹部を有し、
前記所定深さは、前記金属粒子分散体に含まれる金属粒子のD50よりも深いことを特徴とする電子部品。
【請求項3】
前記凹部の開口幅を前記所定深さで割ったアスペクト比が2より大きく5.5より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記凹部の内表面には、樹脂リッチ部分が存在する請求項1~3のいずれかに記載の電子部品。
【請求項5】
素子本体を有する電子部品であって、
前記素子本体は、焼結粒子が分散している焼結粒子分散体を有し、
前記焼結粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、前記焼結粒子分散体の基準表面から所定深さの凹部を有し、
前記所定深さは、前記焼結粒子分散体に含まれる焼結粒子のD90よりも浅いことを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報の書き込みが容易で読み取りエラーが少ない表示領域を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1にも示すように、電子部品の表面には、表示領域が設けられ、その電子部品の型番、製造ロット番号、電子部品の性能を示す識別記号、あるいは電子部品の向きなどの識別記号などの記号や文字が書き込まれることがある。このような表示領域に設けられる文字や記号(バーコードや二次元コードなども含む)は、レーザ刻印により形成されることがある。
【0003】
しかも表示部に書き込まれている文字や記号の誤認識を防ぐために、電子部品の表面に深くレーザで刻印することが推奨されている。従来では、電子部品の素子本体を構成する粒子の粒径とは関係なく、電子部品の表面に比較的に深く刻印しないと、表示部の読み取りが困難になることが常識であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-56475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、簡便な方法で形成することが可能であり、しかも情報の読み取りエラーが少ない表示領域を有する電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者等は、鋭意検討した結果、電子部品の素子本体を構成する粒子の粒径との関係で所定深さが決められた凹部を表示領域に形成することで、比較的に精度よく情報の読み取りが可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1の観点に係る電子部品は、
素子本体を有する電子部品であって、
前記素子本体は、金属粒子が分散している金属粒子分散体を有し、
前記金属粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、前記金属粒子分散体の基準表面から所定深さの凹部を有し、
前記所定深さは、前記金属粒子分散体に含まれる金属粒子のD90よりも浅いことを特徴とする。
【0008】
また、発明の第2の観点に係る電子部品は、
素子本体を有する電子部品であって、
前記素子本体は、焼結粒子が分散している焼結粒子分散体を有し、
前記焼結粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、前記焼結粒子分散体の基準表面から所定深さの凹部を有し、
前記所定深さは、前記焼結粒子分散体に含まれる焼結粒子のD90よりも浅いことを特徴とする。
【0009】
本発明の電子部品によれば、電子部品の素子本体の表面に、たとえばレーザなどにより深く刻印するのではなく、金属粒子分散体(または焼結粒子分散体/以下同様)に含まれる金属粒子(または焼結粒子/以下同様)の粒度分布に応じて、その金属粒子のD90よりも浅い凹部を表示領域に形成する。このように構成することで、情報の読み取り精度が向上することが本発明者等により見出された。
【0010】
また、凹部は、たとえばレーザ光などのエネルギー光を照射することで形成される。その際のレーザ光の出力は、従来のレーザ光の出力よりも小さくてよく、しかも、短時間の照射で形成することができる。このため、バーコードや二次元コードなどの表示を、素子本体の表面に直接に容易に書き込むことが可能である。また、微細な表示パターンの形成も可能になり、ごく小さな電子部品への表示領域の形成も可能になる。
【0011】
発明の第3の観点に係る電子部品は、
素子本体を有する電子部品であって、
前記金属粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、前記金属粒子分散体の基準表面から所定深さの凹部を有し、
前記所定深さは、前記金属粒子分散体に含まれる金属粒子のD50よりも深いことを特徴とする。
【0012】
このように構成することで、情報の読み取り精度が向上することが本発明者等により見出された。また、凹部は、たとえばレーザ光などのエネルギー光を照射することで形成される。その際のレーザ光の出力は、従来のレーザ光の出力よりも小さくてよく、しかも、短時間の照射で形成することができる。このため、バーコードや二次元コードなどの表示を、素子本体の表面に直接に容易に書き込むことが可能である。また、微細な表示パターンの形成も可能になり、ごく小さな電子部品への表示領域の形成も可能になる。
【0013】
好ましくは、前記凹部の開口幅を前記所定深さで割ったアスペクト比が2より大きく5.5より小さい。このように構成することで、情報の読み取り精度が、さらに向上することが本発明者等により見出された。
【0014】
前記金属粒子分散体は、前記樹脂中に前記金属粒子が分散してある部分でもよく、あるいは、金属粒子単独で分散してある部分でもよい。凹部の内表面には、樹脂リッチ部分が存在してもよく、素子本体の表面にも、樹脂リッチ部分が存在してもよい。
【0015】
本発明の電子部品からの情報読み取り方法は、
上記のいずれかに記載の電子部品の表示領域に、赤色光、または赤色光の波長よりも波長が短い特定光を照射し、その反射光から前記表示領域に含まれている情報を読み取ることを特徴とする。特定光の波長は、好ましくは緑色光の波長以下、さらに好ましくは青色光の波長以下、特に好ましくはUV光である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の一実施形態に係る電子部品の概略断面図である。
図2図2図1に示す表示領域の拡大断面図である。
図3図3は本発明の実施例および比較例における凹部の深さとアスペクト比(AS比)と読み取り率の関係を示す概略図である。
図4図4は本発明の比較例における凹部の深さとアスペクト比(AS比)と読み取り率の関係を示す概略図である。
図5図5は本発明の実施例および比較例における凹部の深さと読み取り率の関係を示すグラフである。
図6図6は本発明の実施例および比較例における凹部のアスペクト比(AS比)と読み取り率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る電子部品としてのインダクタ2は、略直方体形状(略六面体)からなる素子本体4を有する。
【0019】
素子本体4は、上面4aと、上面4aとはZ軸方向の反対側に位置する底面4bと、X軸に沿って相互に反対側に位置する端面4c,4dと、図示されないY軸に沿って相互に反対側に位置する側面とを有する。素子本体4の寸法は、特に限定されない。たとえば、素子本体4のX軸方向の寸法を1.2~6.5mmとすることができ、Y軸方向の寸法を0.6~6.5mmとすることができ、高さ(Z軸)方向の寸法を、0.5~5.0mmとすることができる。
【0020】
素子本体4の底面4bには、一対の端子電極8が形成してある。一対の端子電極8は、X軸方向で離反して形成してあり、互いに絶縁してある。各端子電極8は、素子本体4の底面4bのみでなく、それぞれの近くに位置する端面4c,4dにも連続するように形成してある。
【0021】
本実施形態のインダクタ2では、この端子電極8に対して、図示しない配線などを介して外部回路が接続可能となっている。また、インダクタ2は、はんだや導電性接着剤などの接合部材を用いて、回路基板などの各種基板の上に実装可能となっている。基板に実装する場合、素子本体4の底面4bが実装面となり、端子電極8と基板とが、接合部材により接合される。
【0022】
素子本体4は、その内部において、コイル部5を有している。このコイル部5は、導体としてのワイヤ6をコイル状に巻回することで構成してある。本実施形態の図1において、コイル部5は、一般的なノーマルワイズで巻回された空芯コイルであるが、ワイヤ6の巻回方式は、これに限定されない。たとえば、ワイヤ6をα巻きした空芯コイルや、フラット巻またはエッジワイズ巻きした空芯コイルであってもよい。
【0023】
ワイヤ6は、主として銅などの低抵抗な金属を含む導体部と、その導体部の外周を覆う絶縁被膜とで構成してある。より具体的に、導体部は、無酸素銅やタフピッチ銅などの純銅、リン青銅や黄銅、丹銅、ベリリウム銅、銀-銅合金などの銅を含む合金、もしくは、銅被覆鋼線などで構成される。一方、絶縁被膜は、電気絶縁性を有していればよく、特に限定されない。たとえば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ナイロン、ポリエステルなど、もしくは、上記のうち少なくとも2種の樹脂を混合した合成樹脂が例示される。また、本実施形態において、ワイヤ6は、図1に示すように、丸線であり、導体部の断面形状が、円形となっているが、丸線に限らず、平角線などであってもよい。
【0024】
図2に示すように、本実施形態における素子本体4は、たとえば金属粒子12と、樹脂14とを含む圧粉体で構成することができる。金属粒子12は、磁性材料であればよく、特に限定されない。たとえば、Fe-Ni合金、Fe-Si合金、Fe-Co合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al合金、Feを含むアモルファス合金、Feを含むナノ結晶合金など、その他の軟磁性合金が例示される。なお、金属粒子12には、適宜、副成分が添加してあってもよい。
【0025】
素子本体4に含まれる金属粒子12については、そのメディアン径(D50)を0.1μm~100μm程度とすることができ、好ましくは、5μm以上、さらに好ましくは10μm以上である。D50の上限は、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。このような粒度分布である場合に、後述する凹部10aの深さとの関係で、表示領域10におけるデータの読み取り率が向上する。
【0026】
また、金属粒子12は、D50が10μm~50μmの大粒子と、D50が1μm~9μmの中粒子と、D50が0.3μm~0.9μmの小粒子とを混ぜ合わせて構成してもよい。上記のような3種の粒子群の組合せの他に、大粒子と中粒子との組み合わせ、大粒子と小粒子との組み合わせ、中粒子と小粒子との組み合わせなどであってもよい。なお、大粒子と中粒子と小粒子とは、全て同種の材質で構成してもよく、あるいは異なる材質で構成することもできる。
【0027】
上記のように複数の粒子群を混ぜ合わせる場合、各粒子群の含有割合は、特に制限されない。たとえば、3種の粒子群(大粒子と中粒子と小粒子)を混ぜ合わせる場合、素子本体4の断面において、大粒子、中粒子、および小粒子が占める面積の総和を100%とすると、大粒子が占める面積は5%~30%とすることが好ましく、中粒子が占める面積は0%~30%とすることが好ましく、小粒子が占める面積は50%~90%とすることが好ましい。金属粒子12を、複数の粒子群で構成することで、素子本体4に含まれる金属粒子12の充填率を高めることができる。その結果、透磁率や渦電流損失、直流重畳特性などのインダクタ2の諸特性が向上する。
【0028】
なお、金属粒子12の粒径、粒度分布、および、各粒子群が占める面積は、走査型電子顕微鏡(SEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)などで素子本体4の断面を観察し、得られた断面写真をソフトウェアにより画像解析することで測定できる。その際、金属粒子12の粒径は、円相当径換算で計測することが好ましい。
【0029】
また、素子本体4に含まれる金属粒子12は、当該粒子間が互いに絶縁されていてもよい。絶縁する方法としては、たとえば、粒子表面に絶縁被膜を形成する方法が挙げられる。絶縁被膜としては、樹脂または無機材料で形成する被膜、および、熱処理により粒子表面を酸化して形成する酸化被膜が挙げられる。樹脂または無機材料で絶縁被膜を形成する場合、樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0030】
無機材料としては、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガンなどのリン酸塩、ケイ酸ナトリウムなどのケイ酸塩(水ガラス)、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウ酸塩ガラス、硫酸塩ガラスなどが挙げられる。なお、金属粒子12の絶縁被膜の厚みは、5nm~200nmであることが好ましい。絶縁被膜を形成することで、粒子間の絶縁性を高めることができ、インダクタ2の耐電圧を向上させることができる。
【0031】
また、素子本体4に含まれる樹脂14としては、特に制限されないが、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、フラン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂などの熱硬化性樹脂、または、アクリル樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)、液晶ポリマー(LCP)などの熱可塑性樹脂などを用いることができる。樹脂14の含有量は、金属粒子100重量部に対して、2.0重量部~10重量部とすることができる。
【0032】
図1に示すように、コイル部5を構成するワイヤ6の両端である一対のリード部6aは、それぞれ、コイル部5から素子本体4の外面(たとえば底面4b)に露出して端子電極8,8とそれぞれ接続してある。リード部6aは、いずれもワイヤ6で構成してあるが、底面4bに露出した箇所では、ワイヤ6の外周側に存在する絶縁被膜が除去されて、ワイヤ6の導体部が露出している。
【0033】
本実施形態において、端子電極8は、樹脂電極層を有していてもよい。また、端子電極8は、樹脂電極層とその他の電極層とを有する積層構造であってもよい。端子電極8を積層構造とする場合、樹脂電極層は、素子本体4の底面4bと接触する部分に位置し、その他の電極層は、単層でも複数層でもよく、その材質は特に限定されない。たとえば、その他の電極層は、Sn、Au、Cu、Ni、Pt、Ag、Pdなどの金属、または、これらの金属元素のうち少なくとも1種を含む合金で構成することができ、メッキやスパッタリングにより形成することができる。また、端子電極8の全体の厚みは、平均で、3μm~60μmとすることが好ましく、樹脂電極層の厚みは、1μm~50μmとすることが好ましい。
【0034】
端子電極8の樹脂電極層には、樹脂成分と導体粉末とが含まれる。樹脂電極層における樹脂成分は、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂で構成される。一方、導体粉末は、Ag、Au、Pd、Pt、Ni、Cu、Snなどの金属粒子末、または、上記のうち少なくとも1種を含む合金の金属粒子末で構成することができ、特にAgを主成分として含むことが好ましい。
【0035】
また、導体粉末の形状は、球に近い形状、長球状、不規則なブロック状、針状、扁平状とすることができ、特に、針状もしくは扁平状であることが好ましい。本実施形態において、扁平状の粒子とは、樹脂電極層の断面において、アスペクト比(短手方向の長さに対する長手方向の長さの比)が2~30である粒子を意味する。なお、導体粉末の平均粒径は、SEMやSTEMで樹脂電極層の断面を観察し、得られる断面写真を画像解析することで測定できる。その測定に際して、導体粉末の平均粒径は、最大長さ換算で算出する。
【0036】
樹脂電極層の断面において、樹脂成分および導体粉末が占める合計面積を100%とすると、導体粉末が占める面積は、60%以下であることが好ましい。
【0037】
本実施形態では、素子本体4の上面4a(その他の面でもよい)に、単一または複数の表示領域10が形成してある。それぞれの表示領域10の面積は、特に限定されなず、素子本体4の上面4aの面積に対して、たとえば1/20~18/20程度である。
【0038】
図2に示すように、素子本体4は、樹脂14の中に磁性体の金属粒子12が分散してある金属粒子分散体15で構成してある。素子本体4を金型の内部で成形して作る場合には、素子本体4の外面が金型と接触する表面となり、その外面の一部である上面4aは、金型の内面に沿った平面となり、多少の表面粗さを有するが、基準平面Lを規定することができる。基準平面Lは、たとえば凹部10aが形成されていない素子本体4の表面をJIS B0601などで測定した表面粗さの中心線(平均線)を含む平面と規定することもできる。
【0039】
本実施形態では、表示領域10では、素子本体4の上面4aに、たとえば二次元バーコードなどの識別表示パターンに対応する少なくとも単一の凹部14aが形成してある。凹部14aは、すり鉢状に形成され、上面4aの基準平面Lに対して、Z軸方向に凹んでおり、所定深さD1と、所定の開口幅W1とを有する。所定深さD1は、基準平面Lからの凹部10aの最大深さとして定義される。また、開口幅W1は、凹部10aを含む断面写真において、基準平面Lに沿って測定した凹部10aの開口部の長さ(X軸、Y軸またはそれらの中間に沿う長さ)として定義される。
【0040】
本実施形態では、所定パターンの凹部10aは、たとえばレーザ光の照射などにより形成される。具体的には、レーザ光を所定の表示パターンで、素子本体4の上面4aに照射する。そのことにより、素子本体4の上面に、所定パターンの凹部10aが形成される。なお、凹部10aの内表面には、素子本体4の内部に比較して微粉が多く観察される傾向にある。
【0041】
また、レーザが照射されない部分は、凹部16が形成されずに基準平面Lに沿った平面となり、金属粒子12の粒径や樹脂14の表面厚みのバラツキなどに応じて、多少の微細な凹凸は存在する。なお、本実施形態では、凹部10aの内表面または凹部10aが形成されていない素子本体4の表面には、樹脂リッチ部分14aが存在していてもよい。
【0042】
樹脂リッチ部分14aの樹脂14の厚みは、特に限定されないが、好ましくは1μm以上であってもよく、30μm以下程度が好ましい。凹部10aの内表面で、樹脂リッチ部分14は、比較的大きな金属粒子12の回りに形成されてもよく、凹部10aの内表面で、金属粒子12が直接に露出しなくてもよい。
【0043】
本実施形態では、凹部16の所定深さD1は、好ましくは金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12のD90よりも浅く、さらに好ましくはD80よりも浅い。また好ましくは、凹部16の所定深さD1は、金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12のD50よりも深く、さらに好ましくはD60よりも深い。また、凹部10aの開口幅W1を所定深さD1で割ったアスペクト比(AS比)は、好ましくは、2より大きく5.5より小さく、さらに好ましくは、2.4~5.4である。
【0044】
凹部10aにより形成される表示パターンにより表される記号は、文字や数字、あるいはバーコード、二次元コード、データマトリックスコード、QRコード(登録商標)、Aztecコード、maxiコードなどが例示されるが、これらに限定されない。また、これらの記号により読み取ることができる情報も、特に限定されず、たとえば電子部品の型番、製造ロット番号、電子部品の性能を示す識別記号、あるいは電子部品の向きなどの識別記号、製造日、製造場所、製造方法、材料などが例示される。
【0045】
次に、本実施形態のインダクタ2の製造方法について、説明する。
【0046】
まず、素子本体4を作成する。素子本体4には、コイル部5がインサート成形される。素子本体4は、加熱加圧成形などのプレス法や、射出成形法などによって成形される。素子本体4を構成する原料としては、成形時に流動性がある複合材料が用いられる。具体的には、金属粒子12の原料粉と、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などのバインダとを混錬した複合材料を用いる。
【0047】
この複合材料には、適宜、溶媒、分散剤などが添加してあってもよい。また、図2に示す金属粒子12を、大粒子と中粒子と小粒子とで構成する場合、金属粒子12の原料粉全体に占める各粒子の配合比率は、所定の比率であることが好ましい。具体的に、大粒子の配合比率が50wt%~90wt%であることが好ましく、中粒子の配合比率が5wt%~30wt%であることが好ましく、小径粉の配合比率が0wt%~30wt%であることが好ましい。
【0048】
次に、素子本体4の底面4bの一部に露出しているリード部6a,6aの絶縁被膜を除去した後に、それぞれに対応して端子電極8,8を底面4bに形成し、リード部6a,6aと端子電極8,8とを、それぞれ接続する。
【0049】
端子電極8,8の形成は、たとえば以下のようにして行う。まず、素子本体4の底面4bの一部に、樹脂電極用ペーストを、印刷法などの手法によって塗布する。この際、樹脂電極用ペーストは、リード部6aが露出している底面4bを、それぞれ覆うように塗布する。
【0050】
なお、樹脂電極用ペーストには、樹脂成分となるバインダと、導体粉末となる金属原料粉末が含まれている。本実施形態において、金属原料粉末は、平均粒径が1μm~10μmであることが好ましく、3μm~5μmであることがより好ましい。
【0051】
素子本体4に樹脂電極用ペーストを塗布した後、素子本体4を所定の条件で加熱処理し、ペースト中のバインダ(樹脂成分)を硬化させる。加熱処理の条件は、使用するバインダの種類により適宜設定すればよい。こうして、素子本体4の底面4bおよび端面4c,4dに樹脂電極層が形成される。樹脂電極層の外面には、適宜、メッキ膜やスパッタ膜を形成してもよい。たとえば、樹脂電極層の外面に、Ni、Cu、Snなどのメッキ膜を形成して端子電極8,8を形成してもよい。以上のようにして、素子本体4に一対の端子電極8が形成されたインダクタ2が得られる。
【0052】
その後に、あるいは、端子電極8が形成される前に、たとえば素子本体4の上面4aで端子電極8,8が形成されていない部分に、たとえばレーザを照射して、表示領域10を形成する。
【0053】
レーザ光を所定の表示パターンで、素子本体4の上面4aに照射する。そのことにより、図2に示すように、所定パターンの凹部16が素子本体4の上面4aに形成される。レーザ光などのエネルギー光の出力やショット数は、特に限定されず、凹部16が所定深さD1とAS比となるように決定される。
【0054】
なお、凹部10aでは、たとえば隣接する金属粒子12間の隙間などに樹脂14が含まれる場合や、樹脂14で多少覆われている金属粒子12も残ることがある。あるいは樹脂リッチ部分14aが形成されてもよい。
【0055】
表示領域10の表示パターンを形成するために使用するレーザ光は、波長が400nm以下であることが好ましい。すなわち、照射するレーザ光は、グリーンレーザ光(波長:532nm)よりも短波長なUVレーザ光などであることが好ましい。上記のように短波長なレーザを使用することで、上記の凹部10aを形成しやすい。
【0056】
本実施形態のインダクタ2では、素子本体14の外面(たとえば上面4a)に、たとえばレーザ光などにより深く刻印するのではなく、金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12の粒度分布に応じて、その金属粒子12のD90よりも浅い凹部10aを表示領域10に形成する。このように構成することで、情報の読み取り精度が向上する。
【0057】
また、凹部10aは、たとえばレーザ光などのエネルギー光を照射することで形成される。その際のレーザ光の出力は、従来のレーザ光の出力よりも小さくてよく、しかも、短時間の照射で形成することができる。このため、バーコードや二次元コードなどの表示を、素子本体4の表面に直接に容易に書き込むことが可能である。また、微細な表示パターンの形成も可能になり、ごく小さな電子部品への表示領域の形成も可能になる。また、凹部10aのAS比を所定範囲とすることで、情報の読み取り精度が、さらに向上する。
【0058】
本実施形態のインダクタ2からの情報読み取り方法では、上述したインダクタ2の表示領域10に、赤色光、または赤色光の波長よりも波長が短い特定光を照射し、その反射光から表示領域10に含まれている情報を読み取ることができる。
【0059】
照明光としては、一般的には、赤色光を用いることが好ましいが、赤色光の波長よりも波長が短い特定光の波長を有することで、表示領域10での文字や記号の認識が容易になる。特に、特定光の波長は、好ましくは緑色光(G)の波長以下、さらに好ましくは青色光(B)の波長以下、特に好ましくはUV光である。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0061】
たとえば、上述した実施形態では、表示領域10は、素子本体4の上面4aに形成してあるが、その他の外面(ただし、端子電極8,8が形成されていない素子本体4の外面)、たとえば素子本体4の側面や底面4bに形成してもよい。
【0062】
また、素子本体4は、コイル部6を内蔵していなくてもよく、たとえばFT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、ドラム型、トロイダル型、ポット型、カップ型のコア自体であってもよい。
【0063】
また、本発明に係る電子部品は、インダクタに限定されず、トランス、チョークコイル、コモンモードフィルタ、コンデンサなどの電子部品、もしくは、インダクタ素子とコンデンサ素子などの他の素子とを組み合わせた複合電子部品であってもよい。さらに、素子本体を構成する金属粒子分散体の金属粒子は、磁性粒子に限らず、磁性を持たない金属粒子であってもよく、セラミックスなど金属以外の粒子(たとえば焼結粒子)であってもよい。
【実施例0064】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0065】
実施例1
【0066】
図1および図2に示す素子本体4のサンプルを複数製造した。各素子本体4のX-Z軸の断面を観察し、80×80μmの範囲内の断面写真で、金属粒子12の粒度分布はSEMにより求めた。10個のサンプルにおける平均のD50は、12.7μmであった。また、D90は、41.0μmであった。
【0067】
同じ条件で作製した素子本体4の上面4aに、異なる条件で、レーザ照射を行い、相互に異なる深さD1と異なるアスペクト比(AS比)の凹部10aから成る二次元バーコードの表示領域10の試料1~6および10~15を作成し、読み取り率を測定した。結果を図3図4に示す。
【0068】
なお、読み取り率の測定に際しては、二次元コードリーダを用いて表示領域10から情報の読み取りを5~20回行い、書き込んだデータとの一致を確認した。たとえば読み取り率100%とは、書き込んだデータとの一致が、読み取り回数の全数で一致していることを示す。
【0069】
図3および図4において、パワー100%とは、レーザ光の出力を示し、試料番号1を基準として100%とし、その他の試料番号のパワーは、試料番号1でのレーザ光の出力に対しての割合で示した。また、印字回数で、300%とは、試料番号1を基準として、レーザ光のショット数が3回という意味であり、同じパターンの凹部10aに沿ってのレーザ光のショット数が3回の場合を300%とした。
【0070】
図3および図4において、スピードとは、所定パターンの凹部10aに沿ってレーザ光を照射する速度を示し、照射速度が遅いほど、凹部10aの所定深さD1が深くなる傾向にある。図3および図4に示すデータから、所定深さ(堀込深さ)D1と読み取り率との関係を示すグラフを図5に示し、また、AS比と読み取り率との関係を示すグラフを図6に示す。
【0071】
図5に示すように、凹部16の所定深さD1は、好ましくは金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12のD90よりも浅く、さらに好ましくはD80よりも浅いことで、読み取り率が向上することが確認できた。また、凹部16の所定深さD1は、金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12のD50よりも深く、さらに好ましくはD60よりも深いことで、読み取り率が向上することが確認できた。
【0072】
なお、本実施例では、凹部16の所定深さD1は、41μmよりも小さいことが好ましく、さらに好ましくは30μmより小さく、好ましくは12.7μmより大きく、さらに好ましくは20μmよりも大きい。
【0073】
また、図6に示すように、凹部10aのアスペクト比(AS比)は、好ましくは、2より大きく5.5より小さく、さらに好ましくは、2.4~5.4である。
【符号の説明】
【0074】
2 … インダクタ
4 … 素子本体
4a … 上面
4b … 底面
4c,4d … 端面
5 … コイル部
6 … ワイヤ
6a … リード部
8 … 端子電極
10… 表示領域
10a… 凹部
12… 金属粒子
14… 樹脂
14a… 樹脂リッチ部分
15… 金属粒子分散体
L… 基準表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-04-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
発明の第3の観点に係る電子部品は、
素子本体を有する電子部品であって、
前記素子本体は、金属粒子が分散している金属粒子分散体を有し、
前記金属粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、前記金属粒子分散体の基準表面から所定深さの凹部を有し、
前記所定深さは、前記金属粒子分散体に含まれる金属粒子のD50よりも深いことを特徴とする。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
ワイヤ6は、主として銅などの低抵抗な金属を含む導体部と、その導体部の外周を覆う絶縁被膜とで構成してある。より具体的に、導体部は、無酸素銅やタフピッチ銅などの純銅、リン青銅や黄銅、丹銅、ベリリウム銅、銀-銅合金などの銅を含む合金、もしくは、銅被覆鋼線などで構成される。一方、絶縁被膜は、電気絶縁性を有していればよく、特に限定されない。たとえば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ナイロン、ポリエステルなど、もしくは、上記のうち少なくとも2種の樹脂を混合した合成樹脂が例示される。また、本実施形態において、ワイヤ6は、図1に示すように、丸線であり、導体部の断面形状が、円形となっているが、丸線に限らず、平角線などであってもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
また、レーザが照射されない部分は、凹部10aが形成されずに基準平面Lに沿った平面となり、金属粒子12の粒径や樹脂14の表面厚みのバラツキなどに応じて、多少の微細な凹凸は存在する。なお、本実施形態では、凹部10aの内表面または凹部10aが形成されていない素子本体4の表面には、樹脂リッチ部分14aが存在していてもよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
本実施形態では、凹部10aの所定深さD1は、好ましくは金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12のD90よりも浅く、さらに好ましくはD80よりも浅い。また好ましくは、凹部10aの所定深さD1は、金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12のD50よりも深く、さらに好ましくはD60よりも深い。また、凹部10aの開口幅W1を所定深さD1で割ったアスペクト比(AS比)は、好ましくは、2より大きく5.5より小さく、さらに好ましくは、2.4~5.4である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0047
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0047】
この複合材料には、適宜、溶媒、分散剤などが添加してあってもよい。また、図2に示す金属粒子12を、大粒子と中粒子と小粒子とで構成する場合、金属粒子12の原料粉全体に占める各粒子の配合比率は、所定の比率であることが好ましい。具体的に、大粒子の配合比率が50wt%~90wt%であることが好ましく、中粒子の配合比率が5wt%~30wt%であることが好ましく、小粒子の配合比率が0wt%~30wt%であることが好ましい。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
レーザ光を所定の表示パターンで、素子本体4の上面4aに照射する。そのことにより、図2に示すように、所定パターンの凹部10aが素子本体4の上面4aに形成される。レーザ光などのエネルギー光の出力やショット数は、特に限定されず、凹部10aが所定深さD1とAS比となるように決定される。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0056
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0056】
本実施形態のインダクタ2では、素子本体4の外面(たとえば上面4a)に、たとえばレーザ光などにより深く刻印するのではなく、金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12の粒度分布に応じて、その金属粒子12のD90よりも浅い凹部10aを表示領域10に形成する。このように構成することで、情報の読み取り精度が向上する。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0071
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0071】
図5に示すように、凹部10aの所定深さD1は、好ましくは金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12のD90よりも浅く、さらに好ましくはD80よりも浅いことで、読み取り率が向上することが確認できた。また、凹部10aの所定深さD1は、金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12のD50よりも深く、さらに好ましくはD60よりも深いことで、読み取り率が向上することが確認できた。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0072
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0072】
なお、本実施例では、凹部10aの所定深さD1は、41μmよりも小さいことが好ましく、さらに好ましくは30μmより小さく、好ましくは12.7μmより大きく、さらに好ましくは20μmよりも大きい。