IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドテックエンジニアリングの特許一覧

<>
  • 特開-マスクメンテナンスプログラム 図1
  • 特開-マスクメンテナンスプログラム 図2
  • 特開-マスクメンテナンスプログラム 図3
  • 特開-マスクメンテナンスプログラム 図4
  • 特開-マスクメンテナンスプログラム 図5
  • 特開-マスクメンテナンスプログラム 図6
  • 特開-マスクメンテナンスプログラム 図7
  • 特開-マスクメンテナンスプログラム 図8
  • 特開-マスクメンテナンスプログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016661
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】マスクメンテナンスプログラム
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/22 20060101AFI20220114BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20220114BHJP
   G03F 9/00 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
G03F7/22 Z
G03F7/20 501
G03F9/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192039
(22)【出願日】2021-11-26
(62)【分割の表示】P 2017233853の分割
【原出願日】2017-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】300091670
【氏名又は名称】株式会社アドテックエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【弁理士】
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】名古屋 淳
(57)【要約】
【課題】 透明板にフィルムマスクを容易に密着させることができ、転写されるパターンの形状精度の低下の問題がないようにする。
【解決手段】 透明板2に受けられているフィルムマスク1は、周辺部がマスクフレーム3の真空吸着孔34で真空吸着される。透明板2のフィルムマスク1に対向する面に形成されたガス抜き溝21は当該面の右側の縁に達し、面取り部22の途中で終端している。露光装置が備えるクリーニングローラ91は、フィルムマスク1の左側の縁から右側の縁までフィルムマスク1に接触して転動しながら移動し、異物cの除去と気泡gの押し出しを行う。気泡gを形成していたガスは、ガス抜き溝21、吸引口37を経由して排出される。
【選択図】 図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光作業位置に基板を搬送する搬送系と、
フィルムマスク及びフィルムマスクを受ける透明板を備えたマスクユニットと、
フィルムマスクを真空吸引することでフィルムマスクを透明板に密着させる真空排気系と、
露光作業位置に搬送された基板に対し、フィルムマスクを通して光を照射して基板を露光する露光ユニットと、
マスクユニットにおけるフィルムマスクに接触することが可能なクリーニングヘッドと、
フィルムマスクに接触した状態でクリーニングヘッドを移動させてフィルムマスクの表面の異物を除去する移動機構と、
各部を制御するメインコントローラと
を備えた露光装置においてメインコントローラに実装されるマスクメンテナンスプログラムであって、露光作業を行う前に、真空排気系が動作してフィルムマスクを真空吸引している状態で実行されるプログラムであり、
クリーニングヘッドをフィルムマスクに接触させた状態で透明板の一辺の縁に向けて移動させることでクリーニングと気泡除去とが同時に行われるよう移動機構に制御信号を送るプログラムであり、
クリーニングヘッドにより除去される気泡は、フィルムマスクと透明板の間に発生し得る気泡であり、
移動機構に送られる制御信号は、フィルムマスクを密着させるべき透明板の前記一辺とは反対側の一辺の縁から前記一辺の縁までクリーニングヘッドを移動させる制御信号であることを特徴とするマスクメンテナンスプログラム。
【請求項2】
前記制御信号は、前記クリーニングヘッドが前記一辺の縁に近づいた際に移動の速度を減速させる制御信号であることを特徴とする請求項1記載のマスクメンテナンスプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、各種製品の製造においてパターンの転写に用いられる露光装置において使用されるフィルムマスクのメンテナンスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定のパターンの光を対象物に照射して露光する露光装置は、フォトリソグラフィの中核的な要素技術として各種の用途に使用されている。露光装置には、パターンを直接描画するタイプのものも知られているが、通常、マスクを通して光を照射し、マスクのパターンを対象物に転写する。
【0003】
露光装置に搭載されるマスクは、透明なガラス板に遮光材料でパターンが描かれた構成とされる。通常は、ガラス板に遮光材料の膜を被着させ、フォトリソグラフィによってパターン化がされる。
このようなガラス製のマスクに対し、最近では、いわゆるフィルムマスクも多く使用されるようになってきている。遮光材料によってパターンが形成されているのは、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのような材料で形成された透明な薄いフィルムであり、このフィルム(フィルムマスク)をガラス板で受けた構造とされている。
フィルムマスクの場合、ガラス板は共用することができ、品種に合わせてフィルムマスクのみを種々製作して保管すれば良い。このため、低コストとなり、保管や取り扱いも容易である。保管に要するスペースも小さくなる。このようなことから、フィルムマスクを採用する露光装置が多くなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-41151号公報
【特許文献2】特開平11-30851号公報
【特許文献3】実願昭63-100722号のマイクロフィルム
【特許文献4】特開2005-300753号公報
【特許文献5】特開2009-157249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィルムマスクは、上記のような長所があるものの、ガラス板に対して十分に密着させた状態で露光装置に搭載しなければならず、この点が課題となっている。薄くて柔らかいフィルムマスクは、ガラス板に当てて密着させようとしても、間に気泡が残ってしまい易い。気泡が残ると、その部分でフィルムマスクのパターンが歪むため、転写されるパターンも歪んだものになってしまい、製品欠陥の原因となり易い。
【0006】
このため、フィルムマスクをガラス板に押し当てた後、作業者がへらで擦って気泡を外側に押し出す面倒な作業が必要になっており、生産性向上の障害となっている。また、へらで擦る際にフィルムマスクに歪み(伸び)が生じ、歪んだ状態でフィルムマスクがガラス板に密着、固定され易い。問題なのは、この歪みがランダムに発生するため、制御困難なことである。このため、転写されるパターンの形状精度の低下につながり易い。
この出願の発明は、上記のようなフィルムマスクにおける課題を解決するために為されたものであり、透明板にフィルムマスクを容易に密着させることができ、転写されるパターンの形状精度の低下の問題がないようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、露光作業位置に基板を搬送する搬送系と、
フィルムマスク及びフィルムマスクを受ける透明板を備えたマスクユニットと、
フィルムマスクを真空吸引することでフィルムマスクを透明板に密着させる真空排気系と、
露光作業位置に搬送された基板に対し、フィルムマスクを通して光を照射して基板を露光する露光ユニットと、
マスクユニットにおけるフィルムマスクに接触することが可能なクリーニングヘッドと、
フィルムマスクに接触した状態でクリーニングヘッドを移動させてフィルムマスクの表面の異物を除去する移動機構と、
各部を制御するメインコントローラと
を備えた露光装置においてメインコントローラに実装されるマスクメンテナンスプログラムであって、露光作業を行う前に、真空排気系が動作してフィルムマスクを真空吸引している状態で実行されるプログラムであり、
クリーニングヘッドをフィルムマスクに接触させた状態で透明板の一辺の縁に向けて移動させることでクリーニングと気泡除去とが同時に行われるよう移動機構に制御信号を送るプログラムであり、
クリーニングヘッドにより除去される気泡は、フィルムマスクと透明板の間に発生し得る気泡であり、
移動機構に送られる制御信号は、フィルムマスクを密着させるべき透明板の前記一辺とは反対側の一辺の縁から前記一辺の縁までクリーニングヘッドを移動させる制御信号であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記制御信号は、前記クリーニングヘッドが前記一辺の縁に近づいた際に移動の速度を減速させる制御信号であるという構成を有する。
【発明の効果】
【0008】
以下に説明する通り、本願の請求項1記載の発明によれば、フィルムマスクのクリーニングと気泡除去とを同時に行うことができる。作業者は、フィルムマスクの交換の際に手作業で気泡除去をする必要がないので、フィルムマスクの交換作業が全体として短時間に完了する。これは、装置の稼働停止時間が短くなることを意味し、生産性の向上につながる。
また、請求項2記載の発明によれば、上記効果に加え、クリーニングヘッドが一辺の縁に近づいた際に減速するので、ガスの逆流の恐れがなく、生産性を低下させることなく気泡残留防止の効果をより高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態のマスクメンテナンスプログラムが実装された露光装置に使用されるマスクユニットの正面断面概略図である。
図2図1のマスクユニットの分解斜視概略図である。
図3】マスクフレーム及びガラス板を下側から見た平面概略図である。
図4】ガス抜き溝の作用について示した正面断面概略図である。
図5】ガス抜き溝が面取り部に達していない場合の問題について示した正面断面概略図である。
図6】ガス抜き空間を形成する他の形状を示した概略図である。
図7】ガス抜き空間を形成する他の形状を示した概略図である。
図8】実施形態のマスクメンテナンスプログラムが実装された露光装置の正面概略図である。
図9】実施形態のマスクメンテナンスプログラムについて示した正面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、実施形態のマスクメンテナンスプログラムが実装された露光装置に使用されるマスクユニットの正面断面概略図、図2図1のマスクユニットの分解斜視概略図である。
図1及び図2に示すマスクユニットは、露光装置に搭載されるマスクユニットである。このマスクユニットは、フィルムマスク1と、透明板2と、マスクフレーム3とを備えている。
【0011】
フィルムマスク1は、ポリエステルのような材質の透明な薄いフィルムで、厚さは例えば100μm~200μm程度である。露光装置に搭載されるものであるため、フィルムマスク1には、転写するパターン(不図示)が描かれている。尚、この例では、フィルムマスク1は方形である。
【0012】
透明板2は、フィルムマスク1を露光中に弛みのない安定した形状とするために受ける部材である。この実施形態では、透明板2はガラス製(ガラス板)となっている。透明板2は、特に露光波長の光に対して十分に透明であることが必要であるが、青板や白板の名称で市販されているガラス板を使用することができる。厚さは、機械的強度を確保する観点から、5mm~10mm程度とすることが好ましい。尚、透明板2は、フィルムマスク1より少し小さいサイズの方形である。また、透明板2としては、アクリル樹脂のようなガラス以外の材質のものが使用されることもあり得る。
【0013】
図3は、透明板2及びマスクフレーム32を下側から見た平面概略図である。図3において、フィルムマスクは図示が省略されている。マスクフレーム3は、アルミ又はステンレス等の金属製であり、図2及び図3に示すように方形の枠状である。図1に示すように、マスクフレーム3は、内縁に段差を有している。段差の高さは、透明板2の厚みにほぼ等しく、この段差内に周辺部が位置する状態で透明板2がマスクフレーム3に取り付けられている。以下、段差のうち、透明板2の端面に対向した面31を内側面と呼び、透明板2の板面に対向した面32を板受け面と呼ぶ。
【0014】
透明板2は、周辺部においてマスクフレーム3に対して接着により固定されている。即ち、図1に示すように、透明板2の周辺部の上面とマスクフレーム3の板受け面32との間には、接着層20が設けられている。尚、透明板2の端面とマスクフレーム3の内側面31との間には、隙間30が存在している。以下、この隙間30を周囲空間と呼ぶ。
【0015】
フィルムマスク1は、透明板2及びマスクフレーム3に対して真空吸着により固定されるものとなっている。マスクフレーム3のフィルムマスク1を受ける面33をフィルム受け面と呼ぶ。図1に示すように、フィルム受け面33には、真空吸着孔34が形成されている。真空吸着孔34は、溝状であり、マスクフレーム3の各辺に延びて周状に形成されている。
【0016】
真空吸着孔34は、マスクフレーム3内に設けられた連通路(詳細図示略)35を介して管接続部36につながっている。図1に示すように、マスクユニットが使用される際、管接続部36には排気管61が接続されて真空吸引される。これにより、フィルムマスク1がマスクフレーム3に真空吸着される。真空吸着孔34は周状の溝であるので、フィルムマスク1は、周辺部が周状にマスクフレーム3に吸着する。
また、マスクフレーム3の内側面31には、吸引口37が形成されており、吸引口37はマスクフレーム3内の連通路35につながっている。このため、周囲空間30も真空排気されて負圧となるようになっている。
【0017】
この実施形態では、マスクユニットは水平な姿勢で使用され、透明板2の下側にフィルムマスク1が真空吸着により保持されるようになっている。以下、説明の都合上、透明板2のフィルムマスク1側の面を表面とし、それとは反対側を裏面という。
【0018】
このような実施形態におけるマスクユニットは、前述した気泡の発生を防止するための構造を有している。具体的には、図1及び図2に示すように、透明板2の表面には溝21が形成されている。この溝21は、フィルムマスク1と透明板2との間に気泡が形成されないようにガスを逃がすための空間(以下、ガス抜き空間という。)を形成するものである。以下、この溝21をガス抜き溝という。
【0019】
図2に示すように、ガス抜き溝21は複数設けられており、各ガス抜き溝21は透明板2の表面の右側の辺の縁に達している。各ガス抜き溝21が延びる方向は、透明板2の左右に延びる辺の方向と平行である。
各ガス抜き溝21の左端は、透明板2の中央よりかなり右側に寄った位置となっている。即ち、各ガス抜き溝21は、透明板2の表面の右端のマージン領域を横断するように形成されている。
尚、このようなガス抜き溝21は、透明板2がガラス板である場合、研削加工や化学エッチングで形成することができる。透明板2が樹脂製である場合、成型時に用いる型の形状で実現できる。
【0020】
また、図1に示すように、透明板2の表面の周縁には、面取り部22が形成されている。面取り部22は、透明板2の表面と端面とをつなぐ斜めの面である。面取り部22は、透明板2の表面の周縁が鋭利な角にならないようにしてフィルムマスク1の傷付きを防止するものである。そして、図1に示すように、各ガス抜き溝21は、表面の縁から面取り部22に達しており、面取り部22の途中が終端となっている。
【0021】
このような各ガス抜き溝22により、フィルムマスク1は、気泡のない状態で透明板2に密着するようになる。以下、この点について図4を参照して説明する。図4は、ガス抜き溝21の作用について示した正面断面概略図である。図4(A)にはガス抜き溝21のない参考例のマスクユニットが示されており、(B)には実施形態におけるマスクユニットが示されている。
【0022】
上記のように、排気管61から真空排気をすると、フィルムマスク1は周辺部においてマスクフレーム3に真空吸着される。この際、フィルムマスク1を透明板2に密着させるべく、へら等で擦って気泡gを押し出そうとした場合、ガス抜き溝21のない参考例では、図4(A)に示すように透明板2の表面の縁においてフィルムマスク1が強く吸着されるため、気泡gが押し出されてにくい。無理に押し出そうとしても、別の場所にまた気泡ができて(移動して)しまう。透明板2の表面の縁の部分でフィルムマスク1が強く吸着される理由は、マスクフレーム3の真空吸着孔34や吸引口37に近いためで、特に吸引口37からの吸引により透明板2の端面とマスクフレーム3の内側面31との間の空間が負圧となるため、マスクフィルムは透明板2の表面の周縁において強く吸着され易い。
【0023】
一方、ガス抜き溝21がある実施形態の構造では、透明板2の表面の周縁における吸着力が緩和される上、へら等で擦った際に気泡gを生成しているガスがガス抜き溝21を通って周囲空間30に達し、吸引口37から排気される。このため、図4(B)に示すように、気泡gの残留はなく、フィルムマスク1は透明板2の表面に十分に密着した状態となる。尚、ガス抜き溝21の幅は、例えば0.5mm~1mm程度、深さは0.05mm~0.3mm程度で良い。また、周縁からの長さは5mm~30mm程度である。
【0024】
上記実施形態におけるマスクユニットの構造において、ガス抜き溝21が面取り部22に達し
ている点は、真空吸着力を高くしてフィルムマスク1の固定力を高めた場合にも気泡の残留が生じないようにする意義がある。この点について、図5を参照して説明する。図5は、ガス抜き溝21が面取り部22に達していない場合の問題について示した正面断面概略図である。
【0025】
上述したように、フィルムマスク1がマスクフレーム3に真空吸着された際、周囲空間30も負圧となるから、フィルムマスク1は、周囲空間30の側に突出して少し湾曲した状態となる。この場合、透明板2の表面の縁でガス抜き溝21が終端していると、面取り部22にフィルムマスク1が強く吸着し、そこで閉じられてしまうことがあり得る。この場合、気泡を形成するガスが周囲空間30まで流れなくなり、図5に示すように気泡gが残留し易い。一方、面取り部22の途中までガス抜き溝21が達していると、図4(B)に示すように面取り部22でフィルムマスク1が強く吸着されることはなく、気泡は残留しない。
【0026】
但し、真空吸引力をそれほど高くしなければ、ガス抜き溝21が面取り部22の途中まで達していなくても図5に示すような状態にはならず、問題はない。逆に言えば、ガス抜き溝21が面取り部22の途中まで達している構造は、真空吸引力を高めてフィルムマスク1の固定強度をより高くできるメリットがある。尚、この効果を得るには、ガス抜き溝21が面取り部22の途中で終端している必要はなく、面取り部22と端面との境界にまで達していても良いことは、勿論である。
【0027】
上記実施形態におけるマスクユニットにおいて、マスクフレーム3の内側面31の吸引口37は必ずしも必須ではない。気泡を形成していたガスは、周囲空間30が完全に気密封止された空間でない限り漏出する。例えば、透明板2とマスクフレーム3とを接合した接着層20が有する微細な孔等から排出される。また、フィルムマスク1が真空吸着されている真空吸着孔34が無終端の周状ではなくマスクフィルム1が周囲空間30を気密封止した状態で真空吸着されない場合、封止していない箇所からガスは漏出する。但し、これらに比べると、吸引口37を設けて吸引する構成ではコンダクタンスが高くなるので、迅速にガスが排出される。このため、気泡残留防止の効果がより高くなる。尚、接着層20が間欠的に設けられていてガスのコンダクタンスが高い場合には、吸引口37が設けられないこともあり得る。但し、接着強度は低下するので、吸引口37を設けつつ接着層20を無終端の周状に(間欠的でなく)設ける方が好ましい。
【0028】
次に、ガス抜き空間を形成する他の形状について説明する。図6及び図7は、ガス抜き空間を形成する他の形状を示した概略図である。このうち、図6は、ガス抜き溝21の他の例について示した平面概略図、図7はガス抜き空間を形成する例について示した側面断面概略図である。
【0029】
上述した実施形態におけるガス抜き溝21は、透明板2の表面の一辺の方向において散在する複数のものであり、すべて均等間隔で設けられていたが、図6(1)に示すように、狭い間隔で設けられた複数のガス抜き溝21から成るグループが複数設けられていても良い。また、図6(2)(3)に示すように、枝分かれしたガス抜き溝21であっても良く、枝分かれしたものが複数設けられていても良い。
上記実施形態におけるガス抜き溝21は、側面断面図では図7(1)に示すような形状となるが、この他、図7(2)に示すような凸部23によってガス抜き空間が形成される場合もある。この場合、凸部23は、透明板2の表面の縁に向かって長い形状(凸条)であっても良く、突起が散在する形状であっても良い。尚、凹部又は凸部は、1個のみであってもガス抜き空間を形成できる場合があり、そのような形状が採用されることもあり得る。
【0030】
次に、実施形態のマスクメンテナンスプログラムが実装された露光装置について説明する。
図8は、実施形態のマスクメンテナンスプログラムが実装された露光装置の正面概略図である。図8に示す露光装置は、露光対象物としての基板Sを搬送する搬送系4と、露光作業位置に配置されたマスクユニット10と、マスクユニット10のフィルムマスク1を通して基板Sに光を照射して露光する露光ユニット5とを備えている。
この露光装置は、一例としてフレキシブルプリント基板用の基板のような帯状のフレキシブルな基板Sを露光する装置となっている。したがって、搬送系4は、ロールツールール方式で基板Sを搬送する機構となっている。
【0031】
具体的には、搬送系4は、未露光の基板Sが巻かれた送り出し側芯ローラ41と、送り出し側芯ローラ41から基板Sを引き出す送り出し側ピンチローラ42と、露光後の基板Sが巻かれる巻き取り側芯ローラ43と、露光後の基板Sを引き出して巻き取り側芯ローラ43に巻き取らせる巻き取り側ピンチローラ44とを備えている。尚、搬送系4による基板Sの送り方向をX方向とし、これに垂直な水平方向をY方向とする。Y方向は基板S幅方向である。XY平面に垂直な方向をZ方向とする。
【0032】
送り出し側ピンチローラ42と巻き取り側ピンチローラ44との間に、露光作業位置が設定されている。この露光装置は、基板Sの両面を同時に露光する装置となっており、露光作業位置の基板Sの両側(この例では上下)にマスクユニット10と露光ユニット5とが配置されている。したがって、マスクユニット10と露光ユニット5はそれぞれ二つずつ設けられている。
【0033】
上下のマスクユニット10及び露光ユニット5は、それぞれ同一の構成のものであり、露光作業位置の基板Sを挟んで上下に対称な配置となっている。即ち、上側のマスクユニット10はフィルムマスク1を下側に向けた状態で配置されており、透明板(図8中不図示)が上側でフィルムマスク1を受けている。下側のマスクユニット10はフィルムマスク1を上側に向けた状態で配置されており、透明板が下側でフィルムマスク1を受けている。
装置は、各マスクユニット10を取り付けるための不図示のステージ(以下、マスクステージ)を備えている。各マスクユニット10は、マスクフレーム3をマスクステージに対して固定することで装置に搭載される。
【0034】
また、装置は、各マスクユニット10においてフィルムマスク1がマスクフレーム3に吸着された状態とするための真空排気系6を備えている。真空排気系6の各排気管61は、前述したように各マスクフレーム3の管接続部36に接続されている。真空排気系6は、後述するメインコントローラ8によって制御されるが、メインコントローラ8の入力部81からの入力によりマニュアル制御も可能となっている。尚、説明は省略したが、各フィルムマスク1にはアライメント用のマーク(以下、マスクマーク)が設けられている。
【0035】
各露光ユニット5は、光源51と、光源51からの光をフィルムマスク1に照射する光学系52等を備えている。この装置はコンタクト露光を行う装置となっており、各露光ユニット5は、各フィルムマスク1に平行光を照射するユニットとなっている。したがって、光学系52は、コリメータレンズを含む。
コンタクト露光のため、各マスクユニット10にはマスク移動機構7が設けられている。各マスク移動機構7は、マスクをZ方向に移動させ、マスクを基板Sに密着させたり露光後に基板Sから離間させたりする機構である。尚、各マスク移動機構7は、露光の際のアライメントのため、各マスクユニット10をXY方向で移動させて基板Sに対してアライメント(位置決め)する機能も備えている。
【0036】
また、この露光装置は、フィルムマスク1に付着した異物を除去するマスククリーニング手段を備えている。クリーニング手段は、上下のフィルムマスク1のそれぞれに
ついて設けられている。
各クリーニング手段は、クリーニングヘッドと、フィルムマスク1に当接した状態でクリーニングヘッドを移動させることでクリーニングを行うヘッド移動機構とを備えている。この実施形態では、クリーニングヘッドは、表面に粘着層を有するローラ(以下、クリーニングローラという。)91であり、ヘッド移動機構はローラ移動機構92である。
【0037】
ローラ移動機構92の詳細は図示を省略するが、各クリーニングローラ91は、Y方向に沿った回転軸の回りに従動回転可能に保持されており、ローラ移動機構92は、ベアリングを介して回転軸を両端で保持したアームに、X方向移動源とZ方向(上下方向)移動源とを連結した構造となっている。例えば、ベース板上にリニアガイドを設け、リニアガイドにガイドされた状態でX方向に移動するようにリニアモータをアームとリニアガイドの連結部分に設け、さらにベース板に対してエアシリンダのような移動源を設けてZ方向に移動させる機構が考えられる。
【0038】
また、図8に示すように、装置は、各部を制御するメインコントローラ8を備えている。メインコントローラ8には、装置の各部が所定の手順で動作するように制御するメインシーケンスプログラム82が実装されている。即ち、メインコントローラ8の記憶部80にはメインシーケンスプログラム82が記憶されており、メインコントローラ8のプロセッサ(不図示)により実行可能となっている。尚、メインコントローラ8は、マニュアル動作等のための入力部81を備えている。
【0039】
次に、上記露光装置の動作について概略的に説明する。
一対のマスクユニット10は、Z方向において基板Sから離れた待機位置に位置している。メインシーケンスプログラム82は、搬送系4に制御信号を送り、所定のストロークだけ基板Sを送らせる。送り完了後、アライメントを行う。基板Sにはアライメント用のマーク(基板マーク)が設けられており、各フィルムマスク1のマスクマークと基板マークとを不図示のカメラで撮影し、撮影データに従ってマスク移動機構7がマスクユニット10をXY方向に移動させることでアライメントが行われる。
【0040】
アライメント完了後、メインシーケンスプログラム82は、マスク移動機構7に制御信号を送り、各マスクユニット10を基板Sに向けて移動させ、フィルムマスク1に密着させる。この状態で、メインシーケンスプログラム82は、各露光ユニット5を動作させ、各フィルムマスク1を通して光を照射させ、露光を行う。
所定時間の露光の後、メインシーケンスプログラム82は、マスク移動機構7に制御信号を送り、各マスクユニット10を基板Sから離れる向きに移動させ、当初の待機位置に戻す。そして、搬送系4に制御信号を送り、所定のストロークの送りを再び行わせる。その後は、上記動作を繰り返す。
【0041】
上記動作を繰り返した後、異なる品種の製品用の露光に切り替える場合、フィルムマスク1の交換作業が行われる。露光装置は、この交換作業の際に使用される特別の構成を備えている。以下、この点について説明する。
図8に示すように、メインコントローラ8には、メンテナンス用のプログラムとして、実施形態のマスクメンテナンスプログラム83が実装されている。マスクメンテナンスプログラム83は、主としてフィルムマスク1の交換の際に実行されるプログラムであり、入力部81からの入力により実行可能となっている。図9は、実施形態のマスクメンテナンスプログラム83について示した正面概略図である。
【0042】
前述したように、品種が異なると異なるフィルムマスク1が必要になり、フィルムマスク1の交換が行われる。この実施形態では、フィルムマスク1の交換は、マスクユニット10を取り外して行われる。
まず、作業者は、フィルムマスク1を吸着していた真空排気系6の動作を止め、マスクステージから取り外す。そして、使用していたフィルムマスク1を取り外し、次の品種用のフィルムマスク1をマスクフレーム3に装着する。この際、フィルムマスク1をマスクフレーム3に対して所定位置で被せ、粘着テープ等で仮止めする。マスクフレーム3には、フィルムマスク1の装着位置を示すマークが形成されているので、それを目印にして被せ、仮止めする。
【0043】
そして、フィルムマスク1を交換したマスクユニット10をマスクステージに元のように固定する。この状態で、作業者は、メインコントローラ8の入力部81を操作し、真空排気系6を動作させる。これにより、フィルムマスク1は、マスクフレーム3に真空吸着される。この状態で、作業者は、入力部81を操作してマスクメンテナンスプログラム83を実行する。
【0044】
マスクメンテナンスプログラム83は、ローラ移動機構92に制御信号を送り、各クリーニングローラ91が各フィルムマスク1に接触しながら各所定の向きに所定の速度で移動させる制御を行うようプログラミングされている。一対のクリーニングローラ91は上下対称であり、マスクメンテナンスプログラム83による動作も上下対称である。一例として、上側のクリーニングローラ91の動きが、図9に示されている。
【0045】
図9(1)に示すように、ローラ移動機構92は、上側のクリーニングローラ91が上側のフィルムマスク1の左側に設定された開始位置において当該フィルムマスク1に当接するようクリーニングローラ91を上昇させる。開始位置は、X方向において透明板2の左縁に相当する位置である。ローラ移動機構92は、開始位置からクリーニングローラ91を右縁に向けて移動させる(図9(2))。ローラ移動機構92は、フィルムマスク1の右側に設定された終了位置までクリーニングローラ91を移動させ、終了位置に達したら、所定距離下降させ、図9(3)に示すように左側の当初の待機位置まで戻す。終了位置は、X方向において透明板2の右縁に相当する位置である。シーケンスプログラムは、クリーニングローラ91がこのような動きをするようローラ移動機構92に制御信号を送る。
【0046】
上記動作において、クリーニングローラ91は、フィルムマスク1との摩擦力により従動回転する。そして、表面の粘着層によりフィルムマスク1の表面の異物cが除去される。さらに、図9に示すように、フィルムマスク1と透明板2との間に存在する気泡gを形成しているガスは、クリーニングローラ91によって押し出される。この際、前述したように、ガスはガス抜き溝21を通して迅速に押し出される。
【0047】
上記動作において重要なのは、ガス抜き溝21が設けられた側とは反対側の縁(開始位置)においてクリーニングローラ91がフィルムマスク1に当接し、ガス抜き溝21が設けられた側の縁(終了位置)に向けて移動することである。これを逆にしてしまうと、クリーニングローラ91がガスを押し出していった先にはガス抜き溝21がないので、ガスが逆流してしまい、気泡gが残留してしまい易い。
【0048】
上記説明から解るように、実施形態のマスクメンテナンスプログラム83は、フィルムマスク1のクリーニングと気泡除去とを同時に行う機能を実現するものとなっている。マスクメンテナンスプログラム83により気泡除去が行えるので、作業者は、フィルムマスク1の交換の際に手作業で気泡除去をする必要がない。このため、フィルムマスク1の交換作業が全体として短時間に完了する。これは、装置の稼働停止時間が短くなることを意味し、生産性の向上につながる。
【0049】
尚、気泡を形成しているガスをクリーニングローラ91が押し出す際、フィルムマスク1に多少の伸びが生じる。これは、フィルムマスク1が歪んでいるともいえるが、フィルムマスク1の伸びは、クリーニングローラ91のフィルムマスク1に対する押圧力が一定でクリーニングローラ91の移動速度が一定であれば、フィルムマスク1の伸びも一定である。つまり、フィルムマスク1の伸びは再現性があり、制御可能である。このため、伸びを考慮に入れてフィルムマスク1のパターンを形成する等の対応を取ることができ、パターンの転写精度低下の問題が生じないようにすることができる。
【0050】
また、発明者の研究によると、クリーニングローラ91の移動速度は、ガス抜き溝21が設けられた側の縁に近くなった際に低下させることが好ましい。この理由は、ガス抜き溝21が設けられた側の縁にクリーニングローラ91が近づくと、気泡を形成しているガスの圧力が高くなる傾向があり、ガス抜き溝21に達する前に圧力がある程度高くなると、クリーニングローラ91のフィルムマスク1への当接箇所を越えてガスが逆流してしまうことがあるからである。したがって、クリーニングローラ91については、最初は高速とし、その後低速とする速度制御を行うことが好ましい。この速度制御も、マスクメンテナンスプログラム83のシーケンスにより実現される。尚、最初から低速にしても良いが、所要時間が長くなって生産性が低下する問題がある。速度の一例を示すと、クリーニングローラ91の速度(線速度)は、当初は100~150mm/秒程度で、ガス抜き溝21の位置又はその少し手前で1~10mm/秒程度に減速される。
【0051】
各クリーニングローラ91については、使用を繰り返すと異物が多く付着した状態となるので、新しいものに交換されるか、別途設けられる移着ローラに異物を移着させる構成とされる。移着ローラが各クリーニングローラ91の待機位置の付近に設けられ、各クリーニングローラ91の粘着力よりも高い粘着力のローラとされる。移着ローラは駆動回転する構成とされ、各クリーニングローラ91に接触しながら回転し、各クリーニングローラ91上の異物を自身に移着させる構成とされる。
【0052】
上記露光装置の構成において、マスクユニット10におけるガス抜き空間としては、ガス抜き溝21に限らず、図6図7に示すような各種の構成を採用し得る。
また、クリーニングヘッドはクリーニングローラ91であったが、ローラ状ではないクリーニングヘッド(例えばへら状のもの)が使用されることもあり得る。但し、フィルムマスク1上で転動するクリーニングローラを使用すると、フィルムマスク1に無理な力が加わりにくく、フィルムマスク1の歪みを防止する上で好適である。尚、クリーニングヘッドについては、粘着力により異物を除去するものではなく、異物を掃き出して除去するものが使用される場合もあり、静電気により異物を吸着するものが使用される場合もある。
【0053】
尚、マスクユニット10において、マスクフレーム3に対する透明板2の固定は、接着ではなくネジ止め等の他の方法でも良い。例えば、透明板2をクランプする部材を設け、その部材をマスクフレーム3にネジ止めにより固定しても良い。但し、コンタクト方式やプロキシミティ方式の場合、フィルムマスク1の前側(基板Sの側)にはフィルムマスク1よりも突出した部材がないことが好ましく、その点で接着層20による固定が適している。
【0054】
実施形態のマスクメンテナンスプログラムが実装される露光装置としては、必ずしも両面露光を行うものには限らず、基板Sの片面のみを露光するものであっても良い。この場合は、基板Sの片側のみにマスクユニット10が設けられ、1個のフィルムマスク1についてクリーニングと気泡除去を行う1個のクリーニングローラ91が設けられる。
露光の対象物についても、上述したような帯状の基板Sではなく、方形の基板を対象物としても良く、フレキシブルではないリジッドな基板を露光対象物としても良い。したがって、基板の搬送方式としては、ロールツーロール方式の他、枚葉式の搬送であっても良
い。枚葉式の装置の場合、フィルムマスクに対向した状態となるステージが設けられ、ステージ上に基板が載置される。そして、マスクユニット又はステージが移動し、基板がフィルムマスクに密着した状態とされて露光が行われる。
さらに、露光の方式についても、コンタクト方式の他、プロキシミティ方式でも良く、投影露光方式であっても良い。
【符号の説明】
【0055】
1 フィルムマスク
2 透明板
21 ガス抜き溝
3 マスクフレーム
30 周囲空間
31 内側面
32 板受け面
33 フィルム受け面
34 真空吸着孔
35 連通路
36 管接続部
37 吸引口
4 搬送系
5 露光ユニット
6 真空排気系
61 排気管
7 マスク移動機構
8 メインコントローラ
83 マスクメンテナンスプログラム
91 クリーニングローラ
92 ローラ移動機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9