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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166653
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】掻破防止貼付材
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/10 20060101AFI20221026BHJP
   A41D 13/08 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
A61F13/10 D
A41D13/08 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072006
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】320006966
【氏名又は名称】ピアック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【弁理士】
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】岡 圭二
(72)【発明者】
【氏名】市位 政嗣
【テーマコード(参考)】
3B011
【Fターム(参考)】
3B011AA06
3B011AB08
3B011AC17
3B011AC21
3B011AC22
(57)【要約】
【課題】粘着剤層が異方粘着性を発揮することにより、装着時に、指爪に対して容易に貼付できるとともに、外れにくく、かつ、非装着時に、外しやすい掻破防止貼付材を提供する。
【解決手段】表面部材と、粘着剤層と、を含む掻破防止貼付材において、粘着剤層が、少なくとも熱可塑性エラストマー及び粘着付与剤を含有し、粘着剤層における、剥離強度(P1)を5~25N/10mmの値とし、かつ、せん断接着力(P2)を50~300N/cmの値とし、P1/P2で表される数値を0.06~0.26(cm/10mm)の値とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面部材と、粘着剤層と、を含む掻破防止貼付材において、
前記粘着剤層が、少なくとも熱可塑性エラストマー及び粘着付与剤を含有し、
前記粘着剤層における、JIS Z0237:2009に準拠して90°の方向に300mm/分の速度で引き剥がした時に測定される剥離強度を5~25N/10mmの範囲内の値とし、
JIS Z1541:2009に準拠して測定されるせん断接着力を50~300N/cmの範囲内の値とし、
かつ、
前記剥離強度の値をP1とし、前記せん断接着力の値をP2としたときに、P1/P2で表される数値を0.06~0.26(cm/10mm)の範囲内の値とすることを特徴とする掻破防止貼付材。
【請求項2】
前記表面部材を付け爪又は布帛とすることを特徴とする請求項1に記載の掻破防止貼付材。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー100重量部に対して、前記粘着付与剤の配合量を、25~320重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の掻破防止貼付材。
【請求項4】
前記粘着剤層の構成成分として、更に、軟化剤を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の掻破防止貼付材。
【請求項5】
前記表面部材と、前記粘着剤層との間に、粘着力調整層を設けることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の掻破防止貼付材。
【請求項6】
前記表面部材の表面に、装飾層を設けることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の掻破防止貼付材。
【請求項7】
前記粘着剤層の厚さを10~300μmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の掻破防止貼付材。
【請求項8】
前記表面部材が、形状記憶樹脂から構成してあることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の掻破防止貼付材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掻破行動による皮膚損傷を軽減できるとともに、使い勝手に優れた掻破防止貼付材に関する。
より詳しくは、粘着剤層が異方粘着性を発揮することにより、装着時には、指爪に対して容易に貼付できるとともに外れにくく、かつ、非装着時には、外しやすい掻破防止貼付材に関する。
【背景技術】
【0002】
患部に激しい痒みを伴うアトピー性皮膚炎のような皮膚疾患の患者、特に、幼児にとって、その痒みは耐え難く、患部を指の爪で引掻いてしまうという事象があった。
特に就寝中は、無意識に激しく引掻くことが多く、症状を悪化させるという問題が生じやすかった。
【0003】
そこで、指先に取り付ける掻破防止用貼付材や被覆具が、各種提案されている。
例えば、指先に貼付することによって、指先で患部を引っ掻いても、皮膚の破傷や症状の悪化を起こさずに掻痒感を軽減でき、しかも、指先からは脱離しにくい、皮膚掻破防止用貼付材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
より具体的には、布帛を支持体とし、当該支持体の片面には感圧性接着剤層が形成された皮膚掻破防止用貼付材であって、支持体の接着剤層非形成面の摩擦係数が0.5~0.8、貼付材全体の50%モジュラスが0.2~5N/cmの皮膚掻破防止用貼付材である。
【0004】
又、装飾用のネイルチップを、爪に繰り返し貼り付け及び剥離を目的としたネイルチップ用接着シートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
より具体的には、少なくとも一種のエラストマー100重量部と、粘着付与剤300~500重量部と、軟化剤100~150重量部と、を含んでなる粘着剤層を有するネイルチップ用接着シートである。
【0005】
更に又、皮膚疾患の患部掻破を防止すべく、外部刺激から保護し、かつ、指先に効率的に取り付けることを目的とした指先被覆具が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
より具体的には、指先被覆シートと、固定バンドと、を含む指先被覆具であって、指先被覆シートは、指先を包むように取り付けられ、固定バンドは、指先被覆シートから突出し、指先被覆シートが指先を包み込むように取り付けられた状態で、指先被覆シートの周縁に沿って巻装される構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-305594号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2016-216539号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2015-043921号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された皮膚掻破防止用貼付材は、粘着剤として、事実上、アクリル系粘着剤を使用しており、そのため、異方粘着性を示すことができなかった。
しかも、アクリル系粘着剤の凝集力を低下させ、粘着性を高めて、指爪に容易に取り付けられたとしても、掻破時に力が加わった場合には、容易に外れてしまい、しかも、繰り返し装着することができないという問題が見られた。
【0008】
又、特許文献2に開示されたネイルチップ用接着シートは、粘着剤層において、エラストマー100重量部に対して、粘着付与剤の配合量を300~500重量部と相当多量に配合し、かつ、軟化剤の配合量についても、同様に100~150重量部と、相当多量に配合しなければならないという制約があった。
従って、粘着剤の凝集力を低下させ、指爪に容易に取り付けられたとしても、掻破時に力が加わった場合には、容易に外れてしまい、表面を洗浄したとしても、繰り返し装着することは容易でないという問題が見られた。
【0009】
更に又、特許文献3に開示された指先被覆具は、構造が複雑であって、指爪の長さによっては、指先被覆シートで覆った際に、当該指先被覆シートの一部が尖った状態となり、患部への損傷を軽減するどころか、増幅させる恐れが見られた。
又、ベルトが取り付けてあるため、ベルトによって、指部位を過度に圧迫したり、あるいは、ベルトに起因して、気密性が高くなり、通気性の確保が困難となって、指先部位が蒸れやすくなったりするという問題が見られた。
【0010】
そこで、本発明者は、従来の問題を鋭意検討した結果、表面部材と、粘着剤層と、を含む掻破防止貼付材の簡易構造において、粘着剤層に所定配合成分を、所定量配合し、剥離強度及びせん断接着力を制御し、かつ、それらの比率を制御することにより、掻破行動による皮膚損傷を軽減できるとともに、使い勝手に優れた掻破防止貼付材等を提供できることを見出し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、粘着剤層が異方粘着性を発揮することにより、装着時には、指爪に対して容易に貼付できるとともに外れにくく、かつ、非装着時には、引きはがし方向を考慮して、外しやすい掻破防止貼付材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、表面部材と、粘着剤層と、を含む掻破防止貼付材において、粘着剤層が、少なくとも熱可塑性エラストマー及び粘着付与剤を含有し、粘着剤層における、JIS Z0237:2009に準拠して90°の方向に300mm/分の速度で引き剥がした時に測定される剥離強度(以下、引きはがし粘着力と称する場合があり、単に、剥離強度と称する場合もある。)を5~25N/10mmの範囲内の値とし、JIS Z1541:2009に準拠して測定されるせん断接着力(以下、引張せん断接着力と称する場合があり、単に、せん断接着力と称する場合もある。)を50~300N/cmの範囲内の値とする。
そして、剥離強度の値をP1とし、せん断接着力の値をP2としたときに、P1/P2で表される数値を0.06~0.26(cm/10mm)の範囲内の値とすることを特徴とする掻破防止貼付材が提供され、上述した問題を解決することができる。
すなわち、粘着剤層が、熱可塑性エラストマー及び粘着付与剤を含有することにより、凝集力や皮膚に対する粘着性を調整し、所望範囲の剥離強度やせん断接着力を得ることができる。
又、P1/P2で表される数値を所定範囲に制限することにより、装着時には、容易に貼付し、かつ、外れにくく、更に非装着時には、容易に剥離することができる。
なお、例えば、P1を10N/10mmとし、P2を100N/cmとした場合に、P1/P2は、0.1(cm/10mm)となる。
【0012】
又、本発明の掻破防止貼付材を構成するにあたり、表面部材の構成を付け爪又は布帛とすることが好ましい。
このように構成することにより、所定の表面部材により、指爪が飛び出すことが無いため、掻破時に皮膚患部の炎症悪化を効果的に防ぐことができる。
【0013】
又、本発明の掻破防止貼付材を構成するにあたり、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、粘着付与剤の配合量を25~320重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
このように粘着付与剤の配合量を所定範囲内の値に制限することによって、剥離強度とせん断接着力を、定量性をもって制御しやすくなる。
【0014】
又、本発明の掻破防止貼付材を構成するにあたり、粘着剤層の構成成分として、更に、軟化剤を含むことが好ましい。
このように構成することにより、粘着剤層の凝集力等を低下させる方向に調整し、より明確に、異方粘着性を発現させることができる。
【0015】
又、本発明の掻破防止貼付材を構成するにあたり、表面部材と、粘着剤層との間に、粘着力調整層を設けることが好ましい。
このように、所定箇所に粘着力調整層を設けることによって、粘着剤層の特性のばらつき等を吸収し、装着時には、更に容易に貼付し、かつ、外れにくく、更に非装着時には、剥離方向を考慮すれば、容易に剥離することができる。
【0016】
又、本発明の掻破防止貼付材を構成するにあたり、表面部材の表面に、装飾層を設けることが好ましい。
このように装飾層を設けることによって、装飾効果や情報効果を発揮できるとともに、指の大きさや長さ等に対応した掻破防止貼付材の区別等が容易になる。
【0017】
又、本発明の掻破防止貼付材を構成するにあたり、粘着剤層の厚さを10~300μmの範囲内の値とすることが好ましい。
このように粘着剤層の厚さを所定範囲内の値に制限することによって、剥離強度とせん断接着力を、定量性をもって制御しやすくなる。
又、指爪の表面形状や凹凸に対して、隙間なく粘着でき、剥離強度やせん断接着力の低下を低減することができる。
【0018】
又、本発明の掻破防止貼付材を構成するにあたり、表面部材が、形状記憶樹脂から構成してあることが好ましい。
このように構成することにより、使用者の指爪の形状によりフィットさせることができ、剥離強度やせん断接着力の低下を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(a)~図1(b)は、本発明の掻破防止貼付材の構成部品及び構成状態を説明するための図であり、図1(c)は、粘着剤層部分を含む掻破防止貼付材の断面図であり、図1(d)~図1(f)は、それぞれ掻破防止貼付材の異なる形態を説明するための図である。
図2図2(a)~図2(g)は、本発明の掻破防止貼付材における表面部材の変形例を説明するための図である。
図3図3は、本発明の粘着剤層における熱可塑性エラストマーと粘着付与剤の配合量に対する剥離強度とせん断接着力の関係を説明するための図である。
図4図4(a)は、本発明の粘着剤層における剥離強度P1/せん断接着力P2で表される数値と評価4(外れ性)の関係を説明するための図であり、図4(b)は、本発明の粘着剤層における剥離強度P1/せん断接着力P2で表される数値と評価4(取り外し性)の関係を説明するための図である。
図5図5(a)~図5(c)は、本発明の掻破防止貼付材の使用例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態は、表面部材と、粘着剤層と、を含む掻破防止貼付材において、粘着剤層が、少なくとも熱可塑性エラストマー及び粘着付与剤を含有し、粘着剤層における、JIS Z0237:2009に準拠して90°の方向に300mm/分の速度で引き剥がした時に測定される剥離強度を5~25N/10mmの範囲内の値とし、かつ、JIS Z1541:2009に準拠して測定されるせん断接着力を50~300N/cmの範囲内の値とし、剥離強度の値をP1とし、せん断接着力の値をP2としたときに、P1/P2で表される数値を0.06~0.26(cm/10mm)の範囲内の値とすることを特徴とする掻破防止貼付材である。
以下、本発明の実施形態の掻破防止貼付材について、適宜図面を参照しつつ、具体的に説明する。
【0021】
1.全体構成
図1(a)と図1(b)は、本実施形態の掻破防止貼付材10の構成例を示す図である。
図1(a)は掻破防止貼付材10の上面図であり、図1(b)は、図1(a)の点線α-α’に沿って掻破防止貼付材10を垂直方向に切断して、切断面を矢印Xに沿った方向から眺めた場合の断面図である。
かかる掻破防止貼付材10は、基本的に、表面部材11と、粘着剤層12と、を含み、指先と指爪を覆うように貼付する。この際、粘着剤層12は指爪の表面に接着する。
又、図1(c)に例示するように、粘着剤層12は表面部材11とは反対側の面に、剥離シート13を積層した構成とする。
又、図1(d)に例示するように、粘着力調整層14が、表面部材11と粘着剤層12との間に設けられた構成とすることも好ましい。
更に又、図1(e)に例示するように、装飾層15が、表面部材11の粘着剤層12とは反対の面に設けられた構成とすることも好ましい。
更に又、図1(f)に例示されるように、表面部材11が布帛の場合に、フィルム16が、表面部材11と粘着剤層12との間に設けられた構成とすることも好ましい。
【0022】
従って、第1の実施形態の掻破防止貼付材10は、指爪が直接、皮膚患部に接触することを防ぐのに適しており、剥離シート13を除去した状態で、粘着剤層12が指爪の表面に接着し、表面部材11が、指爪表面ならび指先を覆うように貼付して使用することを意図している。
すなわち、指爪表面から指先の裏側、側面を覆うものの、覆う領域が限定されていることから蒸れが発生しづらい構成となっている。
又、粘着剤層は指爪表面に接着し、原則、指先の皮膚には接着しないことから、指先に患部がある場合に、粘着剤層が接して患部の症状が悪化することを回避することができる。
【0023】
2.表面部材
本発明の掻破防止貼付材の一部を構成する表面部材の種類としては特に制限されるものではなく、例えば、付け爪や布帛等が挙げられる。
【0024】
(1)種類1(付け爪1)
掻破防止貼付材の表面部材として、付け爪の構成材料は特に制限されるものでないが、プラスチック樹脂、ゴム材料、紙材料、繊維材料、フェルト材料、木材、皮等の少なくとも一つから構成されていることが好ましい。
特に、付け爪の構成材料がプラスチック樹脂であれば剛性があることから、指爪が直接、皮膚患部に接触することを防ぐことができる。
それだけでなく、指爪が伸びている場合であっても、表面部材が指爪により突起することが無いため、掻破時に、皮膚患部の炎症の悪化を防ぐことができることからより好ましい。
又、付け爪の構成材料がゴム材料であれば優れた弾性変形が可能であることから、付け爪が皮膚患部に接触した際に、変形することで接触面積を増えて、患部に過度な刺激が発生するのを軽減できる。
更には、指爪が伸びている場合であっても、表面部材が変形して指爪により突起を軽減し、掻破時に、皮膚患部の炎症の悪化を防ぐことができることからより好ましい。
その上、弾性変形により、フィット感に優れている観点からもより好ましい態様である。
又、付け爪の構成材料が紙材料であれば、多孔質構造であり、通気性を確保することが期待できることからより好ましい。
又、付け爪の構成材料が繊維材料であれば、柔軟性と通気性を確保することが期待できるからより好ましい。
【0025】
(2)種類2(付け爪2)
又、付け爪の構成材料として、形状記憶樹脂を用いることが好ましい。
この理由は、これらの形状記憶樹脂であれば、使用者の指爪の形状によりフィットさせることができるためである。
すなわち、ガラス転移温度と一致する加工温度付近(例えば、60~80℃、以下同様である。)でゴム状となるため、付け爪を、使用者の指爪の形状や指先の曲率にあわせる際の調整が容易となり、結果として、剥離強度やせん断接着力の低下を低減することができるためである。
又、通常使用時である常温では剛性のある樹脂であることから、指爪が直接、皮膚患部に接触することを防ぐことができるためである。
更に、それだけでなく、指爪が伸びている場合であっても、表面部材が指爪により突起することが無いため、掻破時に、皮膚患部の炎症の悪化を防ぐことができるためである。
ここで、形状記憶樹脂の種類としては、特に制限はないが、ポリウレタン系形状記憶樹脂、ポリウレタン-ユリアポリマー系形状記憶樹脂、ポリノルボルネン系形状記憶樹脂、トランスポリイソプレン系形状記憶樹脂又はスチレン・ブタジエン系形状記憶樹脂等の少なくとも一つが挙げられる。
【0026】
(3)種類3(布帛)
又、本発明の掻破防止貼付材の表面部材として、布帛を構成するにあたり、布帛が、不織布、織布、ガーゼ、包帯、フェルトの少なくとも一つであることが好ましい。
この理由は、このように布帛の種類を制限することにより、指爪が直接患部へ接触することを防ぐともに、指先の蒸れを防ぐために、水や水蒸気との通り道を確保しつつ、良好な柔軟性を得ることができるためである。
【0027】
(4)形状
又、かかる表面部材の形状は、特に制限されるものではないが、通常、指先から指爪の生え際までを覆う円筒形あるいは楕円筒形の本体部と、本体部の指爪側を覆い、皮膚患部と接触することとなる先端部とが連設された形状であることが好ましい。
より具体的には、本体部と先端部を平面視した場合に、図2(a)~(g)に示すように、先端部が半円形(図2(a))、円形(図2(b))、楕円形(図2(c))、多角形(図2(d))、筆状(図2(e))、短冊状(図2(f))、異形(図2(g))である形状の少なくとも一つであることが好ましい。
この理由は、半円形、円形、楕円形、多角形、筆状、短冊状、異形であれば、指爪が直接、皮膚患部に接触することを防ぐことができ、掻破時に皮膚患部の炎症の悪化を防ぐことができるからである。
又、特に、半円形、円形、楕円形であれば、皮膚患部に接触した際に、患部に対して指圧に近い血流促進作用が期待でき、患部に保湿クリームが塗布されている際には好適である。
又、特に、多角形(ただし、角はフィレット処理済み)、異形であれば、掻破時に皮膚患部の炎症の悪化を防ぎつつも、患部への適度な刺激による爽快感をもたらすという効果を発揮することができる。
更に又、特に、筆状、短冊状であれば、患部への保湿クリームの塗布、浸透を補助することが期待できる。
【0028】
(5)厚さ
又、かかる表面部材の厚さは、特に制限されるものでないが、0.05~2mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる表面部材の厚さが0.05mm未満の値になると、機械的強度が低下し、掻破防止貼付材として、指爪から皮膚患部を保護できない場合があるためである。
一方、かかる表面部材の厚さが2mmを超えると、過度に厚くなって、取り扱いが困難となるばかりか、表面部材の消費量が増えることから、経済性が悪くなる場合があるためである。
従って、表面部材の厚さを0.1~1.5mmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.3~1mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0029】
又、表面部材の厚さは均一ではなく、指先から指爪の生え際あるいは指先から指の腹に向かって、順次に厚さが異なるテーパーがついていることも好ましい。
この理由は、指爪が指爪の生え際から先端にかけてあるいは、指の腹から指先にかけて傾斜がついているため、表面部材の所定範囲の厚みにテーパーをつけることで、粘着剤層を介して指爪表面と表面部材との接着性を向上させたり、掻破防止貼付材の指先全体へのフィット感を向上させたりすることができるためである。
従って、テーパーがついている場合、表面部材の平均厚さを0.05~2.0mmの範囲の値とすることが好ましく、0.3~1.6mmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5~1.2の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0030】
(6)寸法
幼児から成人までを使用者と想定した場合、かかる表面部材における各部位の寸法は、図1(a)のL(長さ)を5~15mmとし、図1(b)のφ(内径)を8~24mmとするのが好ましい。
より具体的には、幼児の場合には、Lを5~10mmとし、φを8~12mmとするのが好ましい。
又、成人の場合には、Lを8~15mmとし、φを12~24mmとするのが好ましい。
例えば、かかる好適範囲を外れた場合、粘着剤層が指爪表面に接着できず、固定性に劣ったり、必要以上に指先を覆い、通気性や悪化させたり、蒸れを生じさせたりする場合がある。
【0031】
3.粘着剤層
本発明の掻破防止貼付材の粘着剤層を構成するベース樹脂の種類は、例えば、以下に説明する、熱可塑性エラストマーと粘着付与剤の構成とすることが好ましい。
【0032】
(1)熱可塑性エラストマー
本発明の掻破防止貼付材の粘着剤層を構成するにあたり、ベース樹脂となる熱可塑性エラストマーの構成を、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、及びポリアミド系エラストマーからなる群から選択される少なくとも一種類とすることが好ましい。
この理由は、これらの熱可塑性エラストマーであれば、粘着付与剤を配合等することによって、弾性力や伸縮性に優れた粘着剤成分とすることができ、ひいては、異方粘着性を発現しやすくなるためである。
又、これらの熱可塑性エラストマーであれば、各種粘着付与剤との相溶性が良く、良好な粘着力を得ることができるためである。
【0033】
より具体的には、オレフィン系エラストマーとして、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-オクテン等のαオレフィンが共重合してなるエラストマーあるいはこれらと環状オレフィン、スチレン系モノマー、非共役ジエンとが共重合してなるエラストマーやプラストマーと呼ばれるもの等が挙げられる。
非共役ジエンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン等を挙げることができる。
【0034】
又、スチレン系エラストマーとして、スチレン系化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体及びその水添体が挙げられる。
このスチレン系化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等のアルキルスチレン、p-メトキシスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの中でもスチレンが好ましい。
共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、メチルペンタジエン、フェニルブタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン等が挙げられる。これらの中でもブタジエン及びイソプレンが好ましい。
【0035】
又、ウレタン系エラストマーとして、ポリウレタンアクリル樹脂及びポリウレタン樹脂が挙げられる。
ポリウレタン樹脂としては、例えば、カーボネート系ポリウレタン、エステル系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタンなどが挙げられる。
【0036】
又、熱可塑性エラストマーの配合量を粘着剤層の全体量100重量部に対して、20~80重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このように熱可塑性エラストマーの配合量を所定範囲内の値に制限することによって、剥離強度とせん断接着力を、定量性をもって制御しやすくなるためである。
又、表面部材が布帛の場合には、粘着剤層の伸縮性の低下を抑制し、ひいては、掻破防止貼付材全体における良好な伸縮性や柔軟性を維持することができるためである。
【0037】
又、熱可塑性エラストマーの配合量に関し、粘着剤層の全体量100重量部に対して20重量部未満の値になると、粘着剤層の凝集力が低下し、良好な剥離強度やせん断接着力を得ることができない場合がある。
一方、熱可塑性エラストマーの配合量が、粘着剤層の全体量100重量部に対して80重量部を超えた値になると、相対的に粘着付与剤等の配合量が減り、良好な剥離強度やせん断接着力を得ることができない場合があるためである。
従って、熱可塑性エラストマーの配合量を、粘着剤層の全体量100重量部に対して、25~60重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、30~50重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0038】
(2)粘着付与剤
粘着剤層に配合する粘着付与剤の種類は特に制限されるものでないが、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油系樹脂等の少なくとも一つが好ましい。
より具体的には、ロジン系樹脂としては、未変性ロジン樹脂、変性ロジン樹脂、ロジンフェノール樹脂、ロジンエステル樹脂等の少なくとも一つが挙げられる。
又、テルペン系樹脂としては、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、スチレン変性テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水素化テルペン樹脂、αピネン樹脂、βピネン樹脂等の少なくとも一つが挙げられる。
又、石油系樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族・芳香族共重合系石油樹脂、脂環族系水添石油樹脂等の少なくとも一つが挙げられる。
又、その他の合成樹脂としては、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂等の少なくとも一つが挙げられる。
又、上記の粘着付与剤のうち、特に、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等の天然物及びその誘導体を使用することが好ましい。
この理由は、かかる粘着付与剤であれば、ベース樹脂である熱可塑性エラストマーとの相溶性に優れており、良好な粘着特性を発揮することができるためである。
【0039】
又、粘着付与剤の配合量を、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、25~320重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このように粘着付与剤の配合量を所定範囲内の値に制限することによって、剥離強度とせん断接着力を定量的に制御し、ひいては、異方粘着性を発揮しやすくなるためである。
より具体的には、かかる粘着付与剤の配合量が、25重量部未満の値になると、粘着剤層の粘着特性が低下し、良好な剥離強度やせん断接着力を得ることができない場合がある。
一方、かかる粘着付与剤の配合量が、320重量部を超えた値になると、ベース樹脂である熱可塑性エラストマーの配合量が減り、良好な剥離強度やせん断接着力を得ることができない場合があるためである。
従って、粘着付与剤の配合量を、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、50~270重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、80~200重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
ここで、図3を参照して、粘着付与剤の配合量と、剥離強度(P1)及びせん断接着力(P2)との関係について説明する。
すなわち、図3には、横軸に、所定の熱可塑性エラストマー100重量部に対する粘着付与剤としてのテルペンフェノール(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターT130)の配合量をとり、縦軸に、得られた粘着剤層におけるステンレス板に対する剥離強度(P1)及びせん断接着力(P2)をとった、特性曲線A及びBが示されている。
これらの特性曲線A及びBから、粘着付与剤の配合量が、25~320重量部の範囲であれば、本発明の掻破防止貼付材において、粘着剤層に所定の剥離強度とせん断接着力を発揮させることができる。
なお、図3には、本発明の実施例及び比較例とは別に作成した試作例における粘着付与剤の配合量、剥離強度及びせん断接着力の測定値を用いた。又、粘着剤層の組成や剥離強度等の測定条件等は、実施例に記載の通りである。
【0040】
(3)軟化剤
又、粘着剤層の構成成分として、更に、軟化剤を含むことが好ましい。
この理由は、粘着剤層の凝集力等を調整することができ、粘着特性の向上に有効なためである。
より具体的には、軟化剤としては、たとえば、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-イソプレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、スチレン-エチレン-プロピレンゴム、及びこれらの水添加などの誘導体、スクワレン、スクワラン、パラフィン油、流動パラフィン、ワックス等の炭化水素類、動植物油脂、脂肪酸エステル類を挙げることができる。
本発明において、これらの軟化剤を適宜に選択して一種又は二種以上を用いることができる。
【0041】
又、軟化剤の配合量を、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、10~150重量部の範囲の値とすることが好ましい。
この理由は、軟化剤の配合量を所定範囲に制限することよって、粘着剤層の粘着特性や柔軟性を向上させることができるためである。
より具体的には、軟化剤の配合量が10重量部未満の値になると、粘着剤層の粘着特性が低下する場合があるためである。
一方、軟化剤の配合量が150重量部を超えた値になると、粘着剤層の粘着特性が低下する場合があるだけでなく、例えば表面部材が布帛であった場合には、粘着剤層が裏抜けするなどの場合があるためである。
従って、軟化剤の配合量を30~120重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、50~90重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0042】
(4)添加剤
又、粘着剤層の構成物中に、耐久性、物理特性、機械特性等を改良すべく、各種添加剤を配合することも好ましい。
より具体的には、酸化防止剤、老化防止剤、粘度調整剤、架橋剤、紫外線吸収剤、着色剤、充填剤、カップリング剤等の少なくとも一つの公知の添加剤を、粘着剤層の全体量100重量部に対して、通常、0.01~10重量部の範囲の値で配合することが好ましく、0.1~1重量部の範囲の値で配合することがより好ましい。
【0043】
(5)厚さ及び形状
又、粘着剤層の厚さについても特に制限されるものではないが、通常、10~300μmの範囲内の値であることが好ましい。
この理由は、かかる粘着剤層の厚さが10μm未満の値となると、爪表面と粘着剤層の間に隙間が生じることで、剥離強度やせん断接着力が低下する場合があるためである。
一方、粘着剤層の厚さが300μmを超えると、安定的に製造することが困難になる場合があるためである。更には、材料過剰となり経済性が悪化するためである。
従って、粘着剤層の厚さを30~200μmの範囲内の値とすることがより好ましく、50~150μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
又、粘着剤層の形状(平面形状)は、通常、長方形、正方形、楕円、円形、並びにこれらの形状の組み合わせた形状とすることができる。
【0044】
(6)剥離強度
又、JIS Z0237:2009に準拠した粘着剤層(厚さ100μm)の剥離強度(剥離方向:90°、被着体:ステンレス板、剥離速度:300mm/min)を5~25N/10mmの範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる剥離強度をこのように所定範囲内の値とすることにより、粘着剤層において、良好な剥離強度を得ることができるためである。
より具体的には、かかる剥離強度が5N/10mm未満の値になると、掻破時に、指爪から容易に掻破防止貼付材が剥がれてしまい、掻破防止貼付材としての機能に劣る場合があるためである。
一方、かかる剥離強度が25N/10mmを超えると、過度に指爪へ力がかかってしまい、不快感や痛みが生じたりする場合があるためである。
従って、かかる粘着剤層の剥離強度を8~23N/10mmの範囲内の値とすることがより好ましく、11~21N/10mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0045】
(7)せん断接着力
又、JIS Z1541:2009に準拠した粘着剤層(厚さ100μm)のせん断接着力(引張方向又は剥離方向:180°、被着体:ステンレス板、剥離速度:300mm/min)を50~300N/cmの範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかるせん断接着力をこのように所定範囲の値とすることにより、粘着剤層において、良好なせん断接着力を得ることができるためである。
より具体的には、かかるせん断接着力が50N/cm未満の値になると、使用時に、掻破防止貼付材が指爪から外れてしまう場合があるためである。
一方、かかるせん断接着力が300N/cmを超えると、後述する掻破防止貼付材の使用方法において、掻破防止貼付材の剥離時に、剥離しづらくなってしまう場合があるばかりか、過度に指爪へ力がかかってしまい、不快感や痛みが生じたりする場合があるためである。
従って、かかる粘着剤層のせん断接着力を60~250N/cmの範囲内の値とすることがより好ましく、70~200N/cmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0046】
(8)剥離強度とせん断接着力の比
粘着剤層において、JIS Z0237:2009に準拠した剥離強度の値をP1とし、JIS Z1541:2009に準拠した、せん断接着力の値をP2としたときに、P1/P2で表される数値を0.06~0.26(cm/10mm)の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、P1/P2で表される数値を所定範囲の数値に制限することで、貼付状態では、使用者の意図に反して掻破防止貼付材が外れることがなく、それでいて剥離したい場合には、せん断方向に掻破防止貼付材の表面部材を引くことで容易に剥離することができるためである。
より具体的には、P1/P2で表される数値が、0.06(cm/10mm)未満の値になったり、あるいは、0.26(cm/10mm)を超えたりすると、剥離強度P1とせん断接着力P2が所定範囲内の値であっても、意図せず掻破防止貼付材が剥がれてしまったり、粘着剤層が崩れて指爪の表面上に残り、掻破防止貼付材を剥離しづらくなってしまう場合があるためである。
従って、P1/P2で表される数値を0.08~0.24(cm/10mm)の範囲内の値とすることがより好ましく、0.10~0.22(cm/10mm)の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0047】
ここで、図4(a)と図4(b)を参照して、P1/P2で表される数値と、外れ性又は取り外し性の関係を、それぞれ説明する。
すなわち、図4(a)の横軸に、P1/P2で表される数値をとって示してあり、縦軸に、外れ性の評価(相対値)をとって、特性曲線Cで示してある。縦軸の外れ性の評価(相対値)は、例えば、実施例1の評価4における◎を5、〇を3、△を1、×を0として数値化したものである。
かかる特性曲線Cから、P1/P2で表される数値が、0.06~0.26(cm/10mm)の範囲内の値であれば、外れ性の評価(相対値)は3以上となり、作成された掻破防止貼付材が外れにくいという優れた外れ性が発揮されていることが理解される。
それに対して、P1/P2で表される数値が、0.06(cm/10mm)未満又は0.26(cm/10mm)を超える値では、外れ性の評価(相対値)は3未満となり、十分な外れ性が発揮されていないことが理解される。
【0048】
又、図4(b)の横軸に、P1/P2で表される数値をとって示してあり、縦軸に、取り外し性の評価(相対値)をとって、特性曲線Dで示してある。縦軸の取り外し性の評価(相対値)は、例えば、実施例1の評価5における◎を5、〇を3、△を1、×を0として数値化したものである。
かかる特性曲線Dから、P1/P2で表される数値が、0.025~0.26(cm/10mm)の範囲内の値であれば、取り外し性の評価(相対値)は3以上となり、作成された掻破防止貼付材が取り外ししやすいという優れた取り外し性が発揮されていることが理解される。
それに対して、P1/P2で表される数値が、0.025(cm/10mm)未満又は0.26(cm/10mm)を超える値では、取り外し性の評価(相対値)は3未満となり、十分な取り外し性が発揮されていないことが理解される。
すなわち、図4(a)と図4(b)より、P1/P2で表される数値を0.06~0.26(cm/10mm)の範囲内に制御することで、本発明の掻破防止貼付材が異方粘着性を有し、結果として、優れた外れ性及び取り外し性の双方を発揮できると理解される。
【0049】
4.粘着力調整層
(1)目的
表面部材と、粘着剤層との間に、粘着力調整層を設けることが好ましい。
この理由は、所定箇所に粘着力調整層を設けることによって、表面部材等に対する粘着剤層の特性のばらつき等を吸収することができるためである。
従って、掻破防止貼付材の装着時には、更に容易に貼付し、かつ、外れにくく、更に、掻破防止貼付材の非装着時には、剥離方向を考慮すれば、爪等から容易に剥離することができるためである。
【0050】
(2)構成1
粘着力調整層の構成樹脂として、粘着剤層と同様の、熱可塑性エラストマー/粘着付与剤の構成とすることも好ましいし、あるいは、アクリル粘着剤、シリコーン粘着剤、エポキシ粘着剤、ウレタン粘着剤、ポリエステル粘着剤等の少なくとも一つとすることが好ましい。
又、皮膚に、掻破防止貼付材の装着した際に、下方から表面側に向かって、粘着剤層、粘着力調整層、表面部材の順で積層している場合に、粘着剤層及び粘着力調整層が所定の粘着関係にあることが好ましい。
すなわち、粘着剤層の凝集力(G1)>粘着力調整層の凝集力(G2)とするとともに、粘着剤層の剥離強度(P1)>粘着力調整層の剥離強度(P3)の関係を満足することが好ましい。
なお、粘着剤層の凝集力(G1)及び粘着力調整層の凝集力(G2)は、JIS Z1541:2009に準拠して測定されるせん断接着力の値で代用できるし、あるいは、JIS Z0237:2009に準拠して測定される保持力での値でも代用することができる。
【0051】
(3)構成2
そして、粘着剤層及び粘着力調整層が所定の粘着関係にあるように調整すべく、粘着力調整層に、所定量(粘着力調整層の全体量の0.1~10重量%)のカップリング剤、特にアミノシランカップリング剤を配合することが好ましい。
又、粘着力調整層に、粘着剤層よりも、相対的に多くの粘着付与剤(例えば、320重量部超え)や軟化剤(例えば、150重量部超え)を配合することも好ましい。
更には、粘着力調整層に対して、粘着剤層よりも凝集力が低下しやすい粘着付与剤(例えば、C5250石油系樹脂)や軟化剤(低分子量パラフィンオイル)を配合したりすることも好ましい。
【0052】
(4)厚さ
粘着力調整層の厚さを、通常、0.1~300μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、過度に薄くなると、粘着力調整層としての効果を適切に発揮しない場合があるためであって、逆に、過度に厚くなると、均一な厚さに形成することが困難となったり、粘着剤層の効果を阻害したりする場合があるためである。
従って、粘着力調整層の厚さを1~100μmの範囲内の値とすることがより好ましく、5~50μmn範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0053】
5.装飾層
(1)目的
表面部材の表面に、装飾層を設けることが好ましい。この理由は、このように装飾層を設けることによって、装飾効果や情報効果を発揮できるとともに、指の大きさや長さ等に対応した掻破防止貼付材の区別等の容易になるためである。
より具体的には、装飾効果として、数字柄、漢字柄、絵文字柄、あるいは写真絵柄等を表示させることで、掻破防止貼付材を使用する際の使い勝手性が向上するばかりか、ファッション性についての価値も向上させることができるためである。
又、情報効果として、文字、図形、記号等を表示させることで、最適サイズの掻破防止貼付材を一目瞭然で選別することができ、掻破防止貼付材を使用する際の使い勝手を著しく向上させることができるためである。
【0054】
(2)厚さ
装飾層の厚さを、通常、0.1~150μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、装飾層が過度に薄くなると、均一な厚さに形成することが困難となったり、耐久性が著しく低下したりする場合があるためである。
一方、装飾層が過度に厚くなると、均一な厚さに形成することが困難となったり、掻破防止効果を阻害したりする場合があるためである。
従って、装飾層の厚さを1~80μmの範囲内の値とすることがより好ましく、3~40μmn範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0055】
6.剥離シート
又、剥離シート13は、図1(c)に示されるように、掻破防止貼付材10の粘着剤層12に対して、仮接着される部材である。
すなわち、このように剥離シート13を備えることにより、保存や持ち運びに耐え得る掻破防止貼付材10を得ることができる。
従って、剥離シート13は、シリコーン材料やフッ素材料等の剥離剤を塗布した紙やプラスチックフィルムであることが好ましい。
【0056】
7.フィルム
又、フィルム16は、図1(f)に示されるように、掻破防止貼付材10の表面部材11が布帛の場合に、表面部材11と粘着剤層12の間に構成される部材である。
すなわち、このようにフィルム16を備えることにより、粘着剤層が裏抜けすることを抑制することができる。
更に又、粘着剤層の凝集力が低い場合において、掻破防止貼付材を指爪から取り外す際に、粘着剤層が崩れて指爪の表面上に残り、円滑に取り外すことができなくなってしまうことを低減することができる。
【0057】
8.使用方法
ここで、図5(a)~(c)を参照して、掻破防止貼付材10の貼付方法と剥離方法について説明する。
【0058】
(1)貼付方法
すなわち、図5(a)に示されるように、掻破防止貼付材10(側面図)の粘着剤層12から剥離シートを除去した後、粘着剤層12の表面を露出させて、この露出表面が指爪の表面に重なる位置まで、掻破防止貼付材10の表面部材11を指先に被せる。
次いで、図5(b)に示されるように、粘着剤層12を指爪の表面に接着させるために、表面部材11を指爪の表面に向かって押しつける。
その際、表面部材11が付け爪(形状記憶樹脂)である場合には、ドライヤーの熱を利用して、付け爪の構成成分である形状記憶樹脂のガラス転移温度よりも高い温度にして変形可能状態にし、指爪の表面形状に合うように変形させる。変形させた後、ガラス転移温度以下の温度にして変形状態を保持させることにより、指爪の表面形状に合う表面部材となり、指爪表面と掻破防止貼付材との隙間を低減できることから、表面部材が付け爪であっても、優れた粘着特性を維持することができる。
【0059】
(2)剥離方法
剥離方法としては、異方粘着性を利用して、図5(c)に示すように、指爪に貼付された掻破防止貼付材10において、表面部材11を、指先から前方水平方向に、そのまま引き、指爪から掻破防止貼付材10(表面部材11と粘着剤層12を含む)を剥離させることが好ましい。
その際、指爪に対して、上方向(剥離強度の90°引きはがし方向)に、表面部材11を剥離しないように注意する必要がある。
この理由は、過度に指爪へ力がかかってしまい、不快感や痛みが生じたりする場合があるためである。
なお、掻破防止貼付材10は、上述の貼付方法と剥離方法により、複数回の再剥離が可能であるため、例えば、粘着剤層12が指爪の表面にうまく接着していない場合には、一旦剥離して、再度貼付して接着状態を調整することができる。
【0060】
9.製造方法
掻破防止貼付材の製造方法については、特に制限されるものでないが、一例として、下記工程を含んで製造することが好ましい。
【0061】
(1)粘着剤層の形成工程
剥離シート上に、一例として、ロールコーターを用いて、粘着剤層を形成する工程である。
又、粘着剤組成物の種類によるが、溶剤を飛散させたり、架橋処理を施したりするために、一定条件下で、加熱処理することも好ましい。
なお、剥離シートは、粘着剤層の片面に設けてあれば良いが、粘着剤層の両面に設けてあっても良い。
【0062】
(2)表面部材の形成工程
次いで、表面部材を形成する。すなわち、シート状の表面部材を所定形状となるように打ち抜き、表面部材とすることが好ましい。
【0063】
(3)粘着剤層の貼付工程
次いで、表面部材の第1層の所定の位置に、剥離シート付の粘着剤層を貼付する。
すなわち、表面部材の所定箇所に、工程(1)で得られた粘着剤層を貼り付け、掻破防止貼付材とすることができる。
【実施例0064】
以下、本発明を実施例に基づき、詳細に説明する。但し、特に理由なく、本発明の権利範囲が、実施例の記載によって狭められることはない。
【0065】
[実施例1]
1.掻破防止貼付材の作成
以下の工程(1)~(4)に準じて、掻破防止貼付材を製造した。
【0066】
(1)粘着剤の準備工程
攪拌装置を備えた容器内に、配合割合として、熱可塑性エラストマーとしてのSBSブロックポリマー(旭化成ケミカルズ株式会社製、アサプレンT-420)100重量部と、粘着付与剤A1としての水素化石油樹脂(荒川化学工業株式会社製、アルコンM115)80重量部と、軟化剤としてのshelflex371N(Shell社製)20重量部と、酸化防止剤としてのタマノル526(荒川化学工業株式会社製)2重量部とを収容し、均一な熱可塑性樹脂溶液になるように、所定温度(例えば200℃)で加熱しながら60分間攪拌した。
【0067】
(2)粘着剤層の形成工程
次いで、シリコーン系剥離層を有するPETフィルム(厚さ50μm)を剥離シートとして準備した。
次いで、剥離シート上に、アプリケーターを用いて、工程(1)を経て得られた熱可塑性樹脂溶液を塗布し、所定厚さ100μmの粘着剤層を形成した。
【0068】
(3)表面部材の形成工程
一方で、表面部材を形成した。すなわち、厚さ50μmの半透明PPシートを所定形状(爪型)となるように打ち抜き、表面部材とした。
【0069】
(4)粘着剤層の貼付工程
次いで、表面部材の所定の位置に、剥離シート付の粘着剤層を積層した。
すなわち、表面部材の所定の箇所に、工程(1)及び(2)を経て得られた剥離シート付きの粘着剤層を、工程(3)を経て得られた表面部材に積層し、掻破防止貼付材とした。
【0070】
2.掻破防止貼付材の評価
(1)剥離強度(評価1)
JIS Z0237:2009に準拠して、万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所製)を用い、粘着剤層において、90°の方向に300mm/分の速度で引き剥がした時の剥離強度(N/10mm、P1)を測定し、以下の基準に準じて評価した。
◎:8~23(N/10mm)の範囲内の値である。
〇:5~25(N/10mm)の範囲内の値であって、上記◎の範囲外である。
△:4~30(N/10mm)の範囲内の値であって、上記〇の範囲外である。
×:4(N/10mm)未満又は30(N/10mm)を超える値である。
【0071】
(2)せん断接着力(評価2)
JIS Z1541:2009に準拠して、万能引張圧縮試験機(株式会社島津製作所製)を用い、粘着剤層において、せん断方向に300mm/分の速度で引っ張った時のせん断接着力(N/cm、P2)を測定し、以下の基準に準じて評価した。
◎:100~250(N/cm)の範囲内の値である。
〇:50~300(N/cm)の範囲内の値であって、上記◎の範囲外である。
△:10~350(N/cm)の範囲内の値であって、上記〇の範囲外である。
×:10(N/cm)未満又は350(N/cm)を超える値である。
【0072】
(3)剥離強度とせん断接着力の比(評価3)
粘着剤層の剥離強度(P1)とせん断接着力(P2)からP1/P2を算出し、以下の基準に準じて評価した。
◎:0.08~0.24(cm/10mm)の範囲内の値である。
〇:0.06~0.26(cm/10mm)の範囲内の値であって、上記◎の範囲外である。
△:0.04~0.30(cm/10mm)の範囲内の値であって、上記〇の範囲外である。
×:0.04(cm/10mm)未満又は0.30(cm/10mm)を超える値である。
【0073】
(4)外れ性(評価4)
又、得られた掻破防止貼付材(測定数:3)を指先に貼付した状態での外れ性を、以下の基準に沿って評価した。
◎:60秒間以上、手を繰り返し振った場合でも、外れることがない。
○:30秒間以上、手を繰り返し振った場合でも、外れることがない。
△:10秒間以上、手を繰り返し振った場合でも、外れることがない。
×:10秒間未満で、手を繰り返し振った場合に、外れることがある。
【0074】
(5)取り外し性(評価5)
又、得られた掻破防止貼付材を指先に貼付した状態で、所定方向(図5(c)の矢印方向)から取り外した際の取り外し性を、以下の基準に沿って評価した。
◎:1秒以内に、円滑に取り外すことができる。
○:5秒以内に、円滑に取り外すことができる。
△:10秒以内に、円滑に取り外すことができる。
×:10秒を超えても、円滑に取り外すことができない。
【0075】
(6)その他
掻破防止貼付材の表面部材における摩擦係数は、付け爪の場合には0.3程度であって、布帛の場合には0.5~0.8程度であって、かつ、掻破防止貼付材の50%モジュラス及び100%モジュラスは、それぞれ5N/cmを超えた値であることを確認した。
【0076】
[実施例2~8]
実施例2~8において、表1に示すように、表面部材の種類、粘着付与剤及び配合量、軟化剤の配合量等を変えた以外、実施例1と同様に、掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0077】
すなわち、実施例2において、粘着剤層において、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、粘着付与剤A2として、C5-C9系石油系樹脂(東ソー株式会社製、ペトロタック)を100重量部の割合で混合した以外は、実施例1と同様に掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0078】
又、実施例3において、粘着剤層において、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、粘着付与剤A3として、テルペンフェノール(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターT130)を130重量部の割合で混合した以外は、実施例1と同様に掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0079】
又、実施例4において、表面部材の付け爪を、形状記憶樹脂(日本ゼオン株式会社製、ノーソレックス)から構成し、粘着剤層において、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、軟化剤としてのshelflex371N(Shell社製)を40重量部とした以外は、実施例1と同様に掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0080】
又、実施例5において、表面部材の布帛を、不織布1として、ビスコース製スパンレース不織布(青島千高国際貿易有限会社製)とした以外は、実施例1と同様に掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0081】
又、実施例6において、表面部材の布帛を、不織布2として、ポリオレフィン系不織布(三井化学株式会社、シンテックススタンダード)とし、粘着剤層において、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、軟化剤としてのshelflex371N(Shell社製)を40重量部とした以外は、実施例2と同様に掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0082】
又、実施例7において、表面部材の布帛を、不織布3として、吸水性不織布シート(共和ゴム株式会社製)とした以外は、実施例3と同様に掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0083】
又、実施例8において、表面部材の布帛を、形状記憶樹脂製シート(三井化学株式会社製、HUMOFIT)とし、粘着剤層において、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、軟化剤としてのshelflex371N(Shell社製)を60重量部とした以外は、実施例1と同様に掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0084】
[比較例1]
比較例1において、表1に示すように、剥離強度P1及びP1/P2を満足しない、掻破防止貼付材を作成し、実施例1と同様に、掻破防止貼付材を作成し、評価した。
すなわち、粘着剤層において、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、粘着付与剤A2として、C5-C9系石油系樹脂(東ソー株式会社製、ペトロタック)を330重量部の割合で混合した以外は、実施例1と同様に掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0085】
[比較例2]
比較例2において、表1に示すように、剥離強度P1及びP1/P2を満足しない、掻破防止貼付材を作成し、実施例1と同様に、掻破防止貼付材を作成し、評価した。
すなわち、粘着剤層において、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、粘着付与剤A2として、C5-C9系石油系樹脂(東ソー株式会社製、ペトロタック)を20重量部の割合で混合した以外は、実施例1と同様に掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0086】
[比較例3]
比較例3において、表1に示すように、剥離強度P1、せん断接着力P2及びP1/P2を満足しない、掻破防止貼付材を作成し、実施例1と同様に、掻破防止貼付材を作成し、評価した。
すなわち、表面部材の布帛を、不織布1として、ビスコース製スパンレース不織布(青島千高国際貿易有限会社製)とし、粘着剤層において、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、粘着付与剤A3として、テルペンフェノール(ヤスハラケミカル株式会社製、YSポリスターT130)を200重量部と、軟化剤としてのshelflex371N(Shell社製)を160重量部の割合で混合した以外は、実施例1と同様の掻破防止貼付材を作成し、評価した。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上の説明の通り、本発明によれば、患部に激しい痒みを伴うアトピー性皮膚炎のような皮膚疾患の患者を対象とした、従来の指先に取り付ける掻破防止用貼付材や被覆具の欠点を解消し、剥離方向により粘着力の異なる異方粘着性を有することで、装着時には、指爪に対して容易に粘着可能でありながら、掻破時に力が加わっても外れることがなく、非装着時には、容易に剥離できる掻破防止貼付材を提供することができるようになった。
よって、掻破行動による皮膚患部の炎症の悪化を防ぐ用具として、アトピー性皮膚炎のような皮膚疾患の患者に対して、幅広く適用されることが期待される。
【符号の説明】
【0090】
10:掻破防止貼付材
11:表面部材
12:粘着剤層
13:剥離シート
14:粘着力調整層
15:装飾層
16:フィルム
21:指爪
22:指
図1
図2
図3
図4
図5