(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166674
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】制電性織物及び制電性衣服
(51)【国際特許分類】
D03D 15/533 20210101AFI20221026BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20221026BHJP
A41D 31/26 20190101ALI20221026BHJP
A41D 13/008 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
D03D15/00 101
A41D31/00 502B
A41D31/26 100
A41D13/008
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072044
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】村佐 浩章
(72)【発明者】
【氏名】山内 一平
(72)【発明者】
【氏名】吉川 茂範
【テーマコード(参考)】
3B011
4L048
【Fターム(参考)】
3B011AB01
3B011AC06
3B011AC18
4L048AA07
4L048AA08
4L048AA20
4L048AB05
4L048AB17
4L048AB18
4L048AB19
4L048AC12
4L048AC13
4L048CA05
4L048DA02
(57)【要約】
【課題】吸汗性、速乾性、着心地性、防しわ性のバランスの取れた制電性織物及び制電性衣服を提供する。
【解決手段】本発明の制電性織物1は、導電糸2a,3aと非導電糸2b,3bを含み、導電糸2a,3aを経糸及び緯糸に間隔をおいて配置した制電性織物であって、少なくとも経糸に配置される導電糸2aは、芯鞘複合導電糸であり、芯部がポリエステル繊維とセルロース繊維を含む糸であり、鞘部が導電糸である。本発明の衣服は、前記の制電性織物を含む衣服である。経糸の非導電糸2bはポリエステル繊維とセルロース繊維との混紡糸が好ましい。緯糸の導電糸3a及び非導電糸3bはポリエステルストレッチ繊維糸を含ませてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電糸と非導電糸を含み、前記導電糸を経糸及び緯糸に間隔をおいて配置した制電性織物であって、
少なくとも経糸に配置される導電糸は、芯鞘複合導電糸であり、芯部がポリエステル繊維とセルロース繊維を含む糸であり、鞘部が導電糸であることを特徴とする制電性織物。
【請求項2】
前記経糸の非導電糸はポリエステル繊維とセルロース繊維との混紡糸である請求項1記載の制電性織物。
【請求項3】
前記緯糸に配置される導電糸は、芯鞘複合導電糸であり、芯部がポリエステル繊維とセルロース繊維を含む糸であり、鞘部が導電糸である請求項1又は2記載の制電性織物。
【請求項4】
前記緯糸に配置される導電糸は、芯鞘複合導電糸であり、芯部がポリエステルストレッチ繊維糸であり、鞘部が導電糸である請求項1~3のいずれか1項に記載の制電性織物。
【請求項5】
前記緯糸の非導電糸はポリエステルストレッチ繊維糸である請求項1~4のいずれか1項に記載の制電性織物。
【請求項6】
前記制電性織物は、JIS L1096 B法(定荷重法) に規定されている測定により、緯糸方向の伸縮性が8%以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の制電性織物。
【請求項7】
前記芯鞘複合導電糸は、シングルカバリング糸及びダブルカバリング糸から選ばれる少なくとも一つである請求項1~6のいずれか1項に記載の制電性織物。
【請求項8】
前記制電性織物は、IEC(国際電気標準会議)61340-5-1に規定されている測定による2点間電気抵抗値が、1×1011Ω未満である請求項1~7のいずれか1項に記載の制電性織物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の制電性織物を含む制電性衣服。
【請求項10】
前記衣服は作業服である請求項9に記載の制電性衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業服、ユニフォーム等に好適な制電性織物及び制電性衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性衣服は、静電気が障害となる部品・薬品を扱う作業場やクリーンルームにおいて、静電気吸塵を防ぐために用いられてきた。導電性衣服は、静電気対策のために導電糸が生地内に織り込まれている。例えば、導電糸が一定間隔でストライプ状や格子状に織り込まれ、静電気をコロナ放電によって中和することによって静電気吸塵を防止している。近年、静電気管理の要求特性としてIEC(国際電気標準会議)61340-5-1,5-2において導電性衣服の表面抵抗値の規定がなされており、衣服全体にわたる表面導通性が要求されている。特許文献1には、ポリエステルフィラメント糸に導電糸をダブルカバリングした糸と、ポリエステルフィラメント糸に導電糸をシングルカバリングした糸を使用した織物が提案されている。特許文献2には、ポリエチレンテレフタレート糸を芯に配置し、ポリブチレンテレフタレート導電糸を鞘に配置したダブルカバリング糸を使用したユニフォーム用織物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-350296号公報
【特許文献2】特開2010-285707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の制電性織物は、吸汗性、速乾性、着心地性、防しわ性のいずれかに問題があり、改善が求められていた。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するため、吸汗性、速乾性、着心地性、防しわ性のバランスの取れた制電性織物及び制電性衣服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制電性織物は、導電糸と非導電糸を含み、前記導電糸を経糸及び緯糸に間隔をおいて配置した制電性織物であって、少なくとも経糸に配置される導電糸は、芯鞘複合導電糸であり、芯部がポリエステル繊維とセルロース繊維を含む糸であり、鞘部が導電糸であることを特徴とする。
【0007】
本発明の衣服は、前記の制電性織物を含む衣服である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、導電糸と非導電糸を含み、前記導電糸を経糸及び緯糸に間隔をおいて配置した制電性織物であって、少なくとも経糸に配置される導電糸は、芯鞘複合導電糸であり、芯部がポリエステル繊維とセルロース繊維を含む糸であり、鞘部が導電糸であることにより、吸汗性、速乾性、着心地性、防しわ性のバランスの取れた制電性織物及び制電性衣服を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態の制電性織物の模式的平面図である。
【
図2】
図2Aは本発明の一実施形態のシングルカバリング糸の模式的断面図、
図2Bは同、ダブルカバリング糸の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、導電糸と非導電糸を含み、導電糸を経糸及び緯糸に間隔をおいて配置した制電性織物である。導電糸の間は非導電糸が配置される。少なくとも経糸に配置される導電糸は、芯鞘複合導電糸であり、芯部がポリエステル繊維とセルロース繊維を含む糸であり、鞘部が導電糸である。芯部は、特にポリエステルと綿(コットン)との混紡糸が好ましい。鞘部が導電糸であるため制電効果が高い。鞘部に用いる導電糸としては、クラレ社製「クラカーボ」、KBセーレン社製「ベルトロン」等があり、導電性成分が表面側に配された芯鞘型複合導電糸が好ましい。非導電糸としては、合成繊維や天然繊維、すなわち、ポリエステル、ナイロンなどのフィラメント糸や紡績糸、ポリエステルやナイロンなどのステープルとレーヨンステープル、綿繊維などとの混紡糸などが使用できる。
【0011】
経糸の非導電糸はポリエステル繊維とセルロース繊維との混紡糸が好ましい。セルロース繊維は吸汗性、着心地性が良く、ポリエステル繊維は速乾性、着心地性、防しわ性が良好である。セルロース繊維はコットンが好ましい。
【0012】
緯糸に配置される導電糸は、芯鞘複合導電糸であり、芯部がポリエステル繊維とセルロース繊維を含む糸であり、鞘部が導電糸であるのが好ましい。これにより、制電性、吸汗性、速乾性、着心地性、防しわ性のバランスの取れた織物となる。
【0013】
緯糸に配置される導電糸は、芯鞘複合導電糸であり、芯部がポリエステルストレッチ繊維糸であり、鞘部が導電糸であるのが好ましい。また、緯糸の非導電糸はポリエステルストレッチ繊維糸であるのが好ましい。作業ズボンの場合、下半身の身丈方向にストレッチ繊維糸を配置すると、膝及び腰の折り曲げ作業動作が容易となる。また作業上着の場合、身幅方向にストレッチ繊維糸を配置すると、肩及び上腕の作業動作が容易となる。ストレッチ繊維糸は、例えばポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸の仮撚糸、ポリエステルコンジュゲートマルチフィラメント糸などがある。
【0014】
本発明の制電性織物は、JIS L1096 B法(定荷重法) に規定されている測定により、緯糸方向の伸縮性が8%以上であるのが好ましい。これにより前記のような作業動作が容易となる。さらには既存の吸水加工を施すことも好ましい。また、各素材の混率としては、ポリエステル繊維、コットン及び鞘部の導電糸の割合として、ポリエステル繊維70~85wt%、コットン13~25wt%、導電糸1~4wt%がバランスが良く好ましい。
【0015】
芯鞘複合導電糸は、シングルカバリング糸及びダブルカバリング糸から選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。これにより、強度の高い導電糸となる。
【0016】
本発明の制電性織物は、IEC(国際電気標準会議)61340-5-1に規定されている測定による2点間電気抵抗値が、1×1011Ω未満であるのが好ましく、よりに好ましくは1×1010Ω未満であり、さらに好ましくは1×109Ω未満である。これにより、制電効果の高い織物となる。
【0017】
本発明の制電性衣服は、前記の制電性織物を含む。また衣服は作業服であるのが好ましい。作業服はシャツやジャンパー等の上衣、スラックスやスカート等の下衣、つなぎ服などに好適である。
【0018】
本発明の制電性性織物は、織物組織はどのようなものであってもよいが、好ましくは平織物で構成する。平織物であると、保形性を良好に保てる。平織物を構成する経糸及び緯糸は、非導電糸5~30本に1本程度の割合で導電糸を配置するのが好ましい。これにより制電性を発現できる。織物の単位面積当たりの質量(目付)は50~500g/m2が好ましく、さらに好ましくは100~450g/m2であり、とくに好ましくは140~300g/m2である。
【0019】
以下図面によって本発明の通気性織物を説明する。以下の図面の説明においては、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態の制電性織物1の模式的平面図である。この制電性織物1は、経糸が導電糸2aと非導電糸2bで構成され、導電糸2aは非導電糸2bが19本に対して1本配列されている。同様に、緯糸は導電糸3aと非導電糸3bで構成され、導電糸3aは非導電糸3bが15本に対して1本配列されている。導電糸2a及び導電糸3aは、一例として下記の
図2A及び
図2Bの説明の糸を使用する。織物組織は平織組織である。非導電糸2b及び非導電糸3bは、一例として次のとおりである。
・ポリエステル短繊維とセルロース短繊維を含む混紡糸
・ポリエステル短繊維とセルロース短繊維を含む精紡交撚糸
・ポリエステル長繊維とセルロース短繊維を含む精紡交撚糸
・ポリエステル長繊維とセルロース長繊維を含む交絡糸
・ポリエステルストレッチ繊維糸(仮撚マルチフィラメント糸など)
【0020】
図2Aは本発明の一実施形態のシングルカバリング糸4の模式的断面図である。芯の導電糸5に対して鞘の非導電糸6が1本巻き付けられている。鞘の非導電糸6の撚り係数Kは500~600が好ましい。
図2Bは本発明の一実施形態のダブルカバリング糸7の模式的断面図である。芯の導電糸8に対して鞘の非導電糸9,10の2本がS方向とZ方向に巻き付けられている。鞘の非導電糸9の一次撚り係数K
1は500~600が好ましく、非導電糸10の二次撚り係数K
2は550~650が好ましい。一例として芯糸と鞘糸は次のとおりである。
(1)芯糸
・ポリエステル短繊維とセルロース短繊維を含む混紡糸
・ポリエステル短繊維とセルロース短繊維を含む精紡交撚糸
・ポリエステル長繊維とセルロース短繊維を含む精紡交撚糸
・ポリエステル長繊維とセルロース長繊維を含む交絡糸
・ポリエステルストレッチ繊維糸(仮撚マルチフィラメント糸など)
(2)鞘糸
・マルチフィラメント糸からなる導電糸
【実施例0021】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
実施例における各評価は次のとおりである。
<制電性>
IEC(国際電気標準会議)61340-5-1に規定されている2点間電気抵抗値を測定した。この測定は第三者機関である公益法人 産業安全技術協会に依頼して報告を受けたものである。
<その他の物性>
その他の物性は日本工業規格(JIS)ないしは当業界で行われている測定に従って測定した。
【0022】
実施例における各素材は次のとおりである。下記において、とくに明示がない場合は、ポリエステルはポリエチレンテレフタレート(PET)である。
<導電糸>
A1:芯がポリエステル短繊維65質量%とコットン35質量%の混紡糸(綿番手34番)1本、鞘がクラレ社製、商品名”クラカーボ”(導電性フィラメント糸)2本をダブルカバリングした芯鞘複合導電糸。
A2:芯がポリエステル短繊維65質量%とコットン35質量%の混紡糸(綿番手16番)1本、鞘がクラレ社製、商品名”クラカーボ”(導電性フィラメント糸)2本をダブルカバリングした芯鞘複合導電糸。
A3:芯がポリエステルマルチフィラメント仮撚糸165decitex、1本、鞘がクラレ社製、商品名”クラカーボ”(導電性フィラメント糸)2本をダブルカバリングした芯鞘複合導電糸。
A4:芯がポリエステルマルチフィラメント仮撚糸330decitex、2本、鞘がクラレ社製、商品名”クラカーボ”(導電性フィラメント糸)2本をダブルカバリングした芯鞘複合導電糸。
A5:芯がポリエステル短繊維65質量%とコットン35質量%の混紡糸(綿番手16番)1本、鞘がクラレ社製、商品名”クラカーボ”(導電性フィラメント糸)2本をシングルカバリングした芯鞘複合導電糸。
A6:芯がポリエステル短繊維65質量%とコットン35質量%の混紡糸(綿番手16番)1本、鞘がクラレ社製、商品名”クラカーボ”(導電性フィラメント糸)3本をシングルカバリングした芯鞘複合導電糸。
<非導電糸1:非ストレッチ素材>
B1:再生PET短繊維65質量%とコットン35質量%の混紡糸(綿番手34番)、1本
B2:市販のレギュラーポリエステル短繊維65質量%とコットン35質量%の混紡糸(綿番手34番)、1本
B3:再生PET短繊維65質量%とコットン35質量%の混紡糸(綿番手20番)、1本
B4:再生PET短繊維65質量%とコットン35質量%の混紡糸(綿番手16番)、1本
<非導電糸2:ストレッチ素材>
C1:ポリエステルマルチフィラメントピン仮撚糸(セミダル品) 165decitex、1本
C2:ポリエステルマルチフィラメントピン仮撚糸(セミダル品) 330decitex、1本
C3:ポリエステルマルチフィラメント仮撚ウーリー糸 165decitex、1本
C4:ポリエステルマルチフィラメント仮撚ウーリー糸 165decitexの双糸、1本
【0023】
(実施例1)
・経糸:非導電糸として前記B2の糸を21本連続配置し、その間に導電糸として前記A1の糸を1本配列した。
・緯糸:非導電糸として前記C4の糸を15本連続配置し、その間に導電糸として前記A2の糸を1本配列した。
・織物組織:平織組織
以上のようにして織物を織製した。なお、実施例1においては、吸水加工も施している。
【0024】
(実施例2~6)
表1に示す以外は実施例1と同様に実施した。糸使いは実施例1も併せて表1に示し、各素材の混率は表2に示し、織物評価は表3にまとめて示す。なお、実施例2~実施例4については、吸水加工を施している。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
表1~3から明らかなとおり、本発明の各実施例の織物は制電性が良く、洗濯後の寸法安定性も良かった。また、本発明の各実施例の織物を使用して、作業着(上着)を縫製した。この作業着(上着)は、吸汗性、速乾性、着心地性、防しわ性のバランスの取れており、家庭洗濯も可能で、かつ着用感も良好であった。また、実施例3及び4の織物は伸縮性が良く、作業動作が容易な作業着であった。