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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166682
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/26 20060101AFI20221026BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
H01L21/26 G
H01L21/26 T
H01L21/265 602B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072063
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】谷村 英昭
(72)【発明者】
【氏名】古川 雅志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎朗
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆博
(72)【発明者】
【氏名】溝尻 貴文
(72)【発明者】
【氏名】中村 祥章
(72)【発明者】
【氏名】横森 岳彦
(57)【要約】
【課題】基板を効率良く加熱することができる熱処理方法を提供する。
【解決手段】半導体ウェハーWを収容するチャンバー6の上方に複数のフラッシュランプFLが配置されるとともに、下方に複数のLEDランプ45が配置される。複数のLEDランプ45からの光照射によって予備加熱した半導体ウェハーWの表面にフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射する。LEDランプ45から波長900nm以下の光を照射して半導体ウェハーWを30℃/秒以上の昇温レートで予備加熱温度にまで昇温する。LEDランプ45から放射された波長900nm以下の光は、500℃以下の低温域の半導体ウェハーWにも良好に吸収されるため、半導体ウェハーWを効率良く加熱することができる。また、フラッシュ光照射後にLEDランプ45を消灯して半導体ウェハーWを10℃/秒よりも大きな降温レートで降温させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法であって、
チャンバー内にて保持部に保持された基板に対して前記チャンバーの一方側に設けられたLEDランプから波長900nm以下の光を照射して前記基板を30℃/秒以上の昇温レートで所定の予備加熱温度にまで昇温する第1加熱工程と、
前記予備加熱温度に加熱された前記基板に対して前記チャンバーの他方側に設けられたフラッシュランプからフラッシュ光を照射して前記基板をさらに加熱する第2加熱工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理方法において、
前記第2加熱工程の後、前記LEDランプを消灯して前記基板を10℃/秒よりも大きな降温レートで降温させる降温工程をさらに備えることを特徴とする熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハー等の薄板状精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、極めて短時間で半導体ウェハーを加熱するフラッシュランプアニール(FLA)が注目されている。フラッシュランプアニールは、キセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」とするときにはキセノンフラッシュランプを意味する)を使用して半導体ウェハーの表面にフラッシュ光を照射することにより、半導体ウェハーの表面のみを極めて短時間(数ミリ秒以下)に昇温させる熱処理技術である。
【0003】
キセノンフラッシュランプの放射分光分布は紫外域から近赤外域であり、従来のハロゲンランプよりも波長が短く、シリコンの半導体ウェハーの基礎吸収帯とほぼ一致している。よって、キセノンフラッシュランプから半導体ウェハーにフラッシュ光を照射したときには、透過光が少なく半導体ウェハーを急速に昇温することが可能である。また、数ミリ秒以下の極めて短時間のフラッシュ光照射であれば、半導体ウェハーの表面近傍のみを選択的に昇温できることも判明している。
【0004】
このようなフラッシュランプアニールは、極短時間の加熱が必要とされる処理、例えば典型的には半導体ウェハーに注入された不純物の活性化に利用される。イオン注入法によって不純物が注入された半導体ウェハーの表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射すれば、当該半導体ウェハーの表面を極短時間だけ活性化温度にまで昇温することができ、不純物を深く拡散させることなく、不純物活性化のみを実行することができるのである。
【0005】
このようなフラッシュランプアニールを実行する装置として、典型的には半導体ウェハーを収容するチャンバーの上方にフラッシュランプを設けるとともに、下方にハロゲンランプを設けた熱処理装置が使用される(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示の装置においては、ハロゲンランプからの光照射によって半導体ウェハーを予備加熱した後、その半導体ウェハーの表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射している。ハロゲンランプによって予備加熱を行うのは、フラッシュ光照射のみでは半導体ウェハーの表面が目標温度にまで到達しにくいためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-159713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ハロゲンランプは比較的波長の長い赤外光を主として放射する。シリコンの半導体ウェハーの分光吸収率においては、500℃以下の低温域では1μm以上の長波長の赤外光の吸収率が低い。すなわち、500℃以下の半導体ウェハーは、ハロゲンランプから照射された赤外光をあまり吸収しないため、ハロゲンランプによって予備加熱を行うと予備加熱の初期段階では非効率的な加熱が行われることとなる。
【0008】
また、ハロゲンランプから出射された光はチャンバーに設けられた石英窓を透過してから半導体ウェハーに照射される。石英の分光透過率においては、比較的長い波長域の光の透過率が低い。すなわち、ハロゲンランプの出射された光の一部は石英窓によって吸収されてしまうため、ハロゲンランプによる予備加熱の効率がさらに低下することとなっていた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、基板を効率良く加熱することができる熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法において、チャンバー内にて保持部に保持された基板に対して前記チャンバーの一方側に設けられたLEDランプから波長900nm以下の光を照射して前記基板を30℃/秒以上の昇温レートで所定の予備加熱温度にまで昇温する第1加熱工程と、前記予備加熱温度に加熱された前記基板に対して前記チャンバーの他方側に設けられたフラッシュランプからフラッシュ光を照射して前記基板をさらに加熱する第2加熱工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理方法において、前記第2加熱工程の後、前記LEDランプを消灯して前記基板を10℃/秒よりも大きな降温レートで降温させる降温工程をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1および請求項2の発明によれば、LEDランプから波長900nm以下の光を照射して基板を30℃/秒以上の昇温レートで所定の予備加熱温度にまで昇温しており、LEDランプから出射された光は低温域の基板にも良好に吸収され、基板を効率良く加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る熱処理方法を実行する熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
図2】保持部の全体外観を示す斜視図である。
図3】サセプタの平面図である。
図4】サセプタの断面図である。
図5】移載機構の平面図である。
図6】移載機構の側面図である。
図7】円環状の基板上に配置された複数のLEDランプを示す平面図である。
図8図1の熱処理装置における熱処理時の半導体ウェハーの表面温度の変化を示す図である。
図9】半導体ウェハーの昇温時の温度変化を示す図である。
図10】半導体ウェハーの降温時の温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る熱処理方法を実行する熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。図1の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0016】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のLED(Light Emitting Diode)ランプ45を内蔵するLED加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にLED加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、LED加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0017】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、LED加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0018】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0019】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。
【0020】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0021】
さらに、チャンバー側部61には、貫通孔61aが穿設されている。チャンバー側部61の外壁面の貫通孔61aが設けられている部位には放射温度計20が取り付けられている。貫通孔61aは、後述するサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を放射温度計20に導くための円筒状の孔である。貫通孔61aは、その貫通方向の軸がサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの主面と交わるように、水平方向に対して傾斜して設けられている。よって、放射温度計20はサセプタ74の斜め下方に設けられることとなる。貫通孔61aの熱処理空間65に臨む側の端部には、放射温度計20が測定可能な波長領域の赤外光を透過させるフッ化バリウム材料からなる透明窓21が装着されている。
【0022】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は処理ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84が介挿されている。バルブ84が開放されると、処理ガス供給源85から緩衝空間82に処理ガスが送給される。緩衝空間82に流入した処理ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。処理ガスとしては、例えば窒素(N)等の不活性ガス、または、水素(H)、アンモニア(NH)等の反応性ガス、或いはそれらを混合した混合ガスを用いることができる(本実施形態では窒素ガス)。
【0023】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。また、処理ガス供給源85および排気部190は、熱処理装置1に設けられた機構であっても良いし、熱処理装置1が設置される工場のユーティリティであっても良い。
【0024】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプタ74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプタ74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0025】
基台リング71は円環形状から一部が欠落した円弧形状の石英部材である。この欠落部分は、後述する移載機構10の移載アーム11と基台リング71との干渉を防ぐために設けられている。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(図1参照)。基台リング71の上面に、その円環形状の周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。
【0026】
サセプタ74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。図3は、サセプタ74の平面図である。また、図4は、サセプタ74の断面図である。サセプタ74は、保持プレート75、ガイドリング76および複数の基板支持ピン77を備える。保持プレート75は、石英にて形成された略円形の平板状部材である。保持プレート75の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、保持プレート75は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。
【0027】
保持プレート75の上面周縁部にガイドリング76が設置されている。ガイドリング76は、半導体ウェハーWの直径よりも大きな内径を有する円環形状の部材である。例えば、半導体ウェハーWの直径がφ300mmの場合、ガイドリング76の内径はφ320mmである。ガイドリング76の内周は、保持プレート75から上方に向けて広くなるようなテーパ面とされている。ガイドリング76は、保持プレート75と同様の石英にて形成される。ガイドリング76は、保持プレート75の上面に溶着するようにしても良いし、別途加工したピンなどによって保持プレート75に固定するようにしても良い。或いは、保持プレート75とガイドリング76とを一体の部材として加工するようにしても良い。
【0028】
保持プレート75の上面のうちガイドリング76よりも内側の領域が半導体ウェハーWを保持する平面状の保持面75aとされる。保持プレート75の保持面75aには、複数の基板支持ピン77が立設されている。本実施形態においては、保持面75aの外周円(ガイドリング76の内周円)と同心円の周上に沿って30°毎に計12個の基板支持ピン77が立設されている。12個の基板支持ピン77を配置した円の径(対向する基板支持ピン77間の距離)は半導体ウェハーWの径よりも小さく、半導体ウェハーWの径がφ300mmであればφ270mm~φ280mm(本実施形態ではφ270mm)である。それぞれの基板支持ピン77は石英にて形成されている。複数の基板支持ピン77は、保持プレート75の上面に溶接によって設けるようにしても良いし、保持プレート75と一体に加工するようにしても良い。
【0029】
図2に戻り、基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプタ74の保持プレート75の周縁部とが溶接によって固着される。すなわち、サセプタ74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されている。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、サセプタ74の保持プレート75は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。すなわち、保持プレート75の保持面75aは水平面となる。
【0030】
チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプタ74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。このとき、半導体ウェハーWは保持プレート75上に立設された12個の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。より厳密には、12個の基板支持ピン77の上端部が半導体ウェハーWの下面に接触して当該半導体ウェハーWを支持する。12個の基板支持ピン77の高さ(基板支持ピン77の上端から保持プレート75の保持面75aまでの距離)は均一であるため、12個の基板支持ピン77によって半導体ウェハーWを水平姿勢に支持することができる。
【0031】
また、半導体ウェハーWは複数の基板支持ピン77によって保持プレート75の保持面75aから所定の間隔を隔てて支持されることとなる。基板支持ピン77の高さよりもガイドリング76の厚さの方が大きい。従って、複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの水平方向の位置ずれはガイドリング76によって防止される。
【0032】
また、図2および図3に示すように、サセプタ74の保持プレート75には、上下に貫通して開口部78が形成されている。開口部78は、放射温度計20が半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。すなわち、放射温度計20が開口部78およびチャンバー側部61の貫通孔61aに装着された透明窓21を介して半導体ウェハーWの下面から放射された光を受光して当該半導体ウェハーWの温度を測定する。さらに、サセプタ74の保持プレート75には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0033】
図5は、移載機構10の平面図である。また、図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。移載アーム11およびリフトピン12は石英にて形成されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0034】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプタ74に穿設された貫通孔79(図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプタ74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0035】
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0036】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。複数のフラッシュランプFLが配列される領域は半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きい。
【0037】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された円筒形状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。すなわち、フラッシュランプFLは、1秒未満の極めて短い時間で瞬間的に発光するパルス発光ランプである。なお、フラッシュランプFLの発光時間は、フラッシュランプFLに電力供給を行うランプ電源のコイル定数によって調整することができる。
【0038】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0039】
チャンバー6の下方に設けられたLED加熱部4は、筐体41の内側に複数個のLEDランプ45を内蔵している。LED加熱部4は、複数のLEDランプ45によってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する。
【0040】
図7は、円環状の基板44上に配置された複数のLEDランプ45を示す平面図である。LED加熱部4には、数千個のLEDランプ45が配置されるのであるが、図7では図示の便宜上個数を簡略化して描いている。従来のハロゲンランプが棒状ランプであったのに対して、各LEDランプ45は点光源ランプである。複数のLEDランプ45が配置されている円環状の基板44は、保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って平行に(つまり水平方向に沿って)設置されている。よって、複数のLEDランプ45の配列によって形成される平面は水平面である。
【0041】
また、図7に示すように、複数のLEDランプ45は同心円状に配置される。より詳細には、保持部7に保持される半導体ウェハーWの中心軸CXと同軸の同心円状に複数のLEDランプ45は配置される。各同心円において、複数のLEDランプ45は均等な間隔で配置される。例えば、図7に示す例では、内側から二番目の同心円においては、8個のLEDランプ45が45°間隔で均等に配置される。
【0042】
LEDランプ45は、発光ダイオードを含んでいる。発光ダイオードは、ダイオードの一種であり、順方向に電圧を加えた際にエレクトロルミネセンス効果によって発光する。本実施形態のLEDランプ45は、波長900nm以下の光を放射する。また、LEDランプ45は、少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。
【0043】
複数のLEDランプ45のそれぞれには電力供給部49(図1)から電圧が印加されることによって、当該LEDランプ45が発光する。電力供給部49は、制御部3の制御に従って、複数のLEDランプ45のそれぞれに供給する電力を個別に調整する。すなわち、電力供給部49は、LED加熱部4に配置された複数のLEDランプ45のそれぞれの発光強度および発光時間を個別に調整することができる。
【0044】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0045】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にLEDランプ45およびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるLED加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、LED加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0046】
次に、熱処理装置1における処理動作について説明する。処理対象となる半導体ウェハーWは、前工程としてのイオン注入によって不純物が注入されたシリコン(Si)の半導体基板である。その不純物の活性化が熱処理装置1によるアニール処理により実行される。以下に説明する半導体ウェハーWの処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0047】
まず、半導体ウェハーWの処理に先立って給気のためのバルブ84が開放されるとともに、排気用のバルブ89が開放されてチャンバー6内に対する給排気が開始される。バルブ84が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。
【0048】
続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。このときには、半導体ウェハーWの搬入にともなって装置外部の雰囲気を巻き込むおそれがあるが、チャンバー6には窒素ガスが供給され続けているため、搬送開口部66から窒素ガスが流出して、そのような外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制することができる。
【0049】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプタ74の保持プレート75の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。このとき、リフトピン12は基板支持ピン77の上端よりも上方にまで上昇する。
【0050】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプタ74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。半導体ウェハーWは、保持プレート75上に立設された複数の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。また、半導体ウェハーWは、パターン形成がなされて不純物が注入された表面を上面として保持部7に保持される。複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)と保持プレート75の保持面75aとの間には所定の間隔が形成される。サセプタ74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0051】
半導体ウェハーWが石英にて形成された保持部7のサセプタ74によって水平姿勢にて下方より保持された後、LED加熱部4の複数のLEDランプ45が点灯して予備加熱(アシスト加熱)が開始される。複数のLEDランプ45から出射された光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの下面に照射される。LEDランプ45からの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが予備加熱されて温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、LEDランプ45による加熱の障害となることは無い。
【0052】
図8は、熱処理装置1における熱処理時の半導体ウェハーWの表面温度の変化を示す図である。時刻t1に複数のLEDランプ45が点灯して半導体ウェハーWが昇温を開始する。LEDランプ45からの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度は放射温度計20によって測定される。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、LEDランプ45からの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、電力供給部49を制御してLEDランプ45の出力を調整する。すなわち、制御部3は、放射温度計20による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるようにLEDランプ45の出力をフィードバック制御する。予備加熱温度T1は、半導体ウェハーWに添加された不純物が熱により拡散する恐れのない、200℃ないし800℃程度、好ましくは350℃ないし600℃程度とされる(本実施の形態では600℃)。
【0053】
LEDランプ45からの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度は時刻t2に予備加熱温度T1に到達する。図9は、半導体ウェハーWの昇温時の温度変化を示す図である。図9の実線にて示すのは、LEDランプ45からの光照射によって昇温する本実施形態の半導体ウェハーWの温度変化である。図9の点線にて比較例として示すのは、従来のハロゲンランプからの光照射によって昇温する半導体ウェハーの温度変化である。
【0054】
本実施形態においては、LEDランプ45から波長900nm以下の光を半導体ウェハーWに照射する。シリコンの半導体ウェハーWの分光吸収率においては、500℃以下の低温域では波長1μm以上の赤外光の吸収率が低いものの、波長900nm以下の光の吸収率は相対的に高い。すなわち、500℃以下の低温域であっても、半導体ウェハーWはLEDランプ45から照射された光を良好に吸収する。従って、予備加熱の初期段階に半導体ウェハーWの温度が500℃以下のときにも、LEDランプ45によって半導体ウェハーWを効率良く加熱することができる。
【0055】
一方、ハロゲンランプは主として波長1μm以上の赤外光を半導体ウェハーに照射する。従って、特に半導体ウェハーの温度が500℃以下の比較的低温のときには、半導体ウェハーはハロゲンランプから照射された赤外光をほとんど吸収しないため、半導体ウェハーの加熱効率は低くなる。その結果、図9に示すように、LEDランプ45から光照射される半導体ウェハーWの昇温レートはハロゲンランプから光照射される半導体ウェハーの昇温レートに比較して顕著に高くなるのである。ハロゲンランプから光照射される半導体ウェハーの昇温レートが7℃/秒程度であるのに対して、LEDランプ45からの光照射によって加熱される半導体ウェハーWの昇温レートは30℃/秒以上である。すなわち、本実施形態においては、半導体ウェハーWにLEDランプ45から波長900nm以下の光を照射することによって、半導体ウェハーWを30℃/秒以上の昇温レートで予備加熱温度T1にまで昇温しているのである。
【0056】
また、複数のLEDランプ45と保持部7との間には石英の下側チャンバー窓64が存在している。よって、LEDランプ45から放射された光は石英の下側チャンバー窓64を透過してから半導体ウェハーWに照射されることとなる。石英の分光透過率においては、比較的長い波長域の光の透過率が低いものの、波長900nm以下の光の透過率は高い。従って、LEDランプ45から放射された光は下側チャンバー窓64によってはほとんど吸収されない。このため、LEDランプ45によって半導体ウェハーWをより効率良く加熱することができる。
【0057】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、放射温度計20によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時刻t2に制御部3がLEDランプ45の出力を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0058】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時刻t3にフラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLがサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光照射を行う。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。
【0059】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃以上の処理温度T2まで上昇し、半導体ウェハーWに注入された不純物が活性化された後、表面温度が急速に下降する。このように、熱処理装置1では、半導体ウェハーWの表面温度を極めて短時間で昇降することができるため、半導体ウェハーWに注入された不純物の熱による拡散を抑制しつつ不純物の活性化を行うことができる。なお、不純物の活性化に必要な時間はその熱拡散に必要な時間に比較して極めて短いため、0.1ミリセカンドないし100ミリセカンド程度の拡散が生じない短時間であっても活性化は完了する。
【0060】
フラッシュ加熱処理が終了した後、所定時間経過後の時刻t4にLEDランプ45が消灯する。これにより、半導体ウェハーWが予備加熱温度T1から急速に降温する。降温中の半導体ウェハーWの温度は放射温度計20によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、放射温度計20の測定結果より半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。
【0061】
図10は、時刻t4以降の半導体ウェハーWの降温時の温度変化を示す図である。図10の実線にて示すのは、LEDランプ45を消灯したときの本実施形態の半導体ウェハーWの温度変化である。図10の点線にて比較例として示すのは、従来のハロゲンランプを消灯したときの半導体ウェハーの温度変化である。
【0062】
LEDランプ45は、従来のハロゲンランプに比較して出力の立ち上がりおよび立ち下がりが高速である。すなわち、LEDランプ45は点灯するとほぼ同時に目標出力に到達するとともに、消灯した後は熱放射を一切行わない。このため、LEDランプ45が消灯した後は半導体ウェハーWには全く光が照射されず、半導体ウェハーWの温度は急速に降温する。
【0063】
一方、ハロゲンランプは消灯してもフィラメントの温度が直ちに下がらないため、消灯後も暫時光を放出し続ける。従って、ハロゲンランプが消灯した後もしばらくは半導体ウェハーには幾らかの光が照射し続けられることとなり、半導体ウェハーの急速な降温が妨げられる。その結果、図10に示すように、LEDランプ45が消灯したときの半導体ウェハーWの降温レートはハロゲンランプが消灯したときの半導体ウェハーの降温レートよりも大きくなる。LEDランプ45が消灯したときの半導体ウェハーWの降温レートは10℃/秒よりも大きい。すなわち、本実施形態においては、時刻t4にLEDランプ45が消灯した後、半導体ウェハーWが10℃/秒よりも大きな降温レートで降温するのである。
【0064】
半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプタ74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプタ74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットによりチャンバー6から搬出され、半導体ウェハーWの加熱処理が完了する。
【0065】
本実施形態においては、LEDランプ45からの光照射によって半導体ウェハーWを予備加熱温度T1に予備加熱した後、フラッシュランプFLから半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光を照射して当該表面を処理温度T2にまで昇温している。LEDランプ45によって半導体ウェハーWを予備加熱するときの消費エネルギーは、従来のハロゲンランプによる予備加熱時の消費エネルギーの半分以下である。すなわち、LEDランプ45によって半導体ウェハーWの予備加熱を行えば、消費エネルギーを少なくして環境負荷を低減することが可能となる。
【0066】
また、LEDランプ45によって半導体ウェハーWの予備加熱を行うことにより、従来のハロゲンランプに比較して半導体ウェハーWの昇温レートおよび降温レートの双方がともに高くなる。従って、半導体ウェハーWの昇温時間および降温時間ともに短くなる。その結果、LEDランプ45によって半導体ウェハーWの処理時間を短くすることができ、スループットを向上させることができる。
【0067】
また、LEDランプ45によって半導体ウェハーWの予備加熱を行うことにより、半導体ウェハーWの昇温レートが高くなれば、昇温時間が短くなって半導体ウェハーWに注入された不純物の不要な拡散を抑制することができる。その結果、予備加熱に続いてフラッシュ加熱を行ったときに、不純物の拡散を抑制しつつ不純物の活性化を行うことができ、浅い接合を実現することが可能となる。
【0068】
さらに、本実施形態においては、フラッシュ光照射後にLEDランプ45を消灯したときの半導体ウェハーWの降温レートも大きい。フラッシュ光照射後の半導体ウェハーWの降温レートが小さい場合には、フラッシュ加熱によって活性化した不純物が不活性になるおそれがある(不活性化)。本実施形態においては、フラッシュ光照射後の半導体ウェハーWの降温レートも大きいため、フラッシュ加熱によって活性化した不純物が不活性になるのを防止することができる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、複数のLEDランプ45を同心円状に配置していたが、これに限定されるものではない。例えば、複数のLEDランプ45を等間隔で格子状に配置するようにしても良い。
【0070】
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。
【0071】
また、熱処理装置1によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などのフラットパネルディスプレイに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。
【符号の説明】
【0072】
1 熱処理装置
3 制御部
4 LED加熱部
5 フラッシュ加熱部
6 チャンバー
7 保持部
20 放射温度計
45 LEDランプ
49 電力供給部
65 熱処理空間
74 サセプタ
75 保持プレート
77 基板支持ピン
FL フラッシュランプ
W 半導体ウェハー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10