(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166721
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】可変ギャップモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 41/06 20060101AFI20221026BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20221026BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
H02K41/06
H02K7/116
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072124
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永野 正雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 公昭
(72)【発明者】
【氏名】上田 孝治
【テーマコード(参考)】
3J027
5H607
5H641
【Fターム(参考)】
3J027FA50
3J027FB34
3J027GA01
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC13
3J027GC22
3J027GD03
3J027GD09
3J027GD12
3J027GE12
5H607BB01
5H607BB06
5H607BB14
5H607BB23
5H607CC01
5H607DD02
5H607DD03
5H607DD16
5H607EE33
5H641BB13
5H641BB17
5H641BB19
5H641GG02
5H641HH07
5H641HH10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エネルギ効率の高い可変ギャップモータを提供する。
【解決手段】可変ギャップモータ10は、周方向に所定の間隔で配置され、多相電流の各相の電流を通電させる界磁用コイル24が巻回された複数の固定子突極22を有する円環状の界磁用固定子14と、界磁用固定子の径方向内方に界磁用固定子に対して相対回転不能にかつ相対揺動可能に配置される円環状の強磁性体製の可動子16を有する。界磁用コイルへの通電により固定子突極22と可動子突極26とに互いに接近すべく作用する径方向の電磁力の方向において互いに対向する固定子突極の先端面と可動子突極の先端面とがなす径方向の隙間を1mm以下にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に所定の間隔で配置され、多相電流の各相の電流を通電させる界磁用コイルが巻回された複数の固定子突極を有する円環状の界磁用固定子と、
前記界磁用固定子の径方向内方に前記界磁用固定子に対して相対回転不能にかつ相対揺動可能に配置され、対応する前記固定子突極との間に磁束が通過する磁気ギャップを画定する外周面及び内歯を形成された内周面を有する円環状の強磁性体製の可動子と、
前記可動子の径方向内方に前記界磁用固定子と同軸的に回動可能に配置され、前記内歯に噛み合い、且つ前記内歯より少ない歯数の外歯を外周面に有する外歯歯車とを備え、
前記固定子突極に発生させた回転磁界が前記可動子を偏心揺動させることにより、前記外歯歯車から回転出力を発生する可変ギャップモータであって、
前記内歯と前記外歯との間の噛合領域の中心と前記可動子の中心とを結んだ線分を基準線とし、前記基準線に対して90度を超える方向から前記可動子に前記回転磁界による電磁力が作用するように前記界磁用コイルへの通電を制御するように構成され、
前記界磁用コイルへの通電により前記固定子突極と前記可動子とに互いに接近すべく作用する径方向の電磁力の方向において互いに対向する前記固定子突極の先端面と前記可動子の外面とがなす径方向の隙間が1mm以下である可変ギャップモータ。
【請求項2】
前記可動子は周方向に所定の間隔をおいて径方向外方に突出した複数の可動子突極を有し、各可動子突極の先端面が前記可動子の前記外面をなす請求項1に記載の可変ギャップモータ。
【請求項3】
前記可動子は円筒形状である請求項1に記載の可変ギャップモータ。
【請求項4】
前記可動子は金属ブロックによる無垢鉄心である請求項1~3の何れか一項に記載の可変ギャップモータ。
【請求項5】
前記界磁用固定子の内周面と前記可動子の外周面とに円弧凹面が互いに対向して形成され、
前記界磁用固定子の前記円弧凹面と前記可動子の前記円弧凹面との間に配置されたピンを有し、
前記ピンは、前記円弧凹面の内径より小さい外径を有し、前記界磁用固定子の前記円弧凹面および前記可動子の前記円弧凹面に転動可能に係合して前記界磁用固定子と前記可動子とを連結している請求項1~4の何れか一項に記載の可変ギャップモータ。
【請求項6】
前記界磁用固定子及び前記可動子の前記円弧凹面及び/又は前記ピンの外周面に微粒子ショットピーニング処理によるマイクロディンプルを有する硬質薄膜が設けられている請求項5に記載の可変ギャップモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変ギャップモータに関し、さらに詳細には、内接式遊星歯車機構が組み込まれた可変ギャップモータに関する。
【背景技術】
【0002】
内接式遊星歯車機構が組み込まれた可変ギャップモータとして、円環状の界磁用固定子と、界磁用固定子の径方向内方に界磁用固定子に対して相対回転不能にかつ相対揺動可能に配置され、内周面に形成された内歯を有する円環状の可動子と、可動子の径方向内方に配置され、内歯に噛み合う外歯を外周面に有する外歯歯車と、外歯歯車と同軸に回転する出力軸とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
界磁用固定子は、周方向に所定の間隔で配置され、多相電流の各相の電流を通電させるコイルが巻回された複数の固定子突極(磁極)を有する。可動子は、対応する固定子突極との間に磁束が通過する磁気ギャップ(エアギャップ)を画定するべく外周面に形成された複数の可動子突極を有する。外歯歯車は可動子の偏心揺動によって回転し、出力トルク(回転出力)が発生する。このとき、可動子を偏心揺動させるために、回転磁界による電磁力が可動子の中心から内歯と外歯との噛合領域の中心への向きに対して平均して90度~180度の角度をなすように、コイルへの通電を制御するものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-317552号公報
【特許文献2】特開2017-28808号公報
【特許文献3】特許6761778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような可変ギャップモータにおいて、入力電力に対する出力トルクの割合、すなわちエネルギ効率を高める一つの要因として可動子に作用する電磁力の大きさがある。可動子に作用する電磁力は、磁束が通過する磁気ギャップの径方向の間隙の大きさ、つまり、固定子突極と可動子突極との径方向の間隙の大きさに関係する。
【0006】
発明者らは、可動子に有効に作用する電磁力と磁気ギャップとの相関について実験的研究を行ったところ、可動子に永久磁石が設けられている可変ギャップモータでは、可動子に作用する電磁力は磁気ギャップの減少に概ね比例して大きくなり、臨界的特性を示さないことが分かった。これに対し、可動子突極に永久磁石が設けられていない磁石レスの可変ギャップモータにおいては、回転磁界による電磁力が可動子の中心から内歯と外歯との噛合領域の中心への向きに対して90度~180度の角度をなすように、固定子突極のコイルへの通電を制御した場合、磁気ギャップが1mmより小さくなると、可動子に作用する電磁力が劇的に増大する臨界的特性を示すことを見出した。
【0007】
発明が解決しようとする課題は、この認識のもとにエネルギ効率の高い可変ギャップモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの実施形態による可変ギャップモータは、周方向に所定の間隔で配置され、多相電流の各相の電流を通電させる界磁用コイル(24)が巻回された複数の固定子突極(22)を有する円環状の界磁用固定子(14)と、前記界磁用固定子の径方向内方に前記界磁用固定子に対して相対回転不能にかつ相対揺動可能に配置され、対応する前記固定子突極との間に磁束が通過する磁気ギャップを画定する外周面及び内歯(40)を形成された内周面を有する円環状の強磁性体製の可動子(16)と、前記可動子の径方向内方に前記界磁用固定子と同軸的に回動可能に配置され、前記内歯に噛み合い、かつ前記内歯より少ない歯数の外歯(42)を外周面に有する外歯歯車(18)とを備え、前記固定子突極に発生させた回転磁界が前記可動子を偏心揺動させることにより、前記外歯歯車から回転出力を発生する可変ギャップモータ(10)であって、前記内歯と前記外歯との間の噛合領域の中心と前記可動子の中心とを結んだ線分を基準線とし、前記基準線に対して90度を超える方向から前記可動子に前記回転磁界による電磁力が作用するように前記界磁用コイルへの通電を制御するように構成され、前記界磁用コイルへの通電により前記固定子突極と前記可動子とに互いに接近すべく作用する径方向の電磁力の方向において互いに対向する前記固定子突極の先端面と前記可動子の外面とがなす径方向の隙間(G)が1mm以下である。
【0009】
この構成によれば、径方向の隙間が1mmよりも大きい場合に比してエネルギ効率が高くなる。
【0010】
上記可変ギャップモータにおいて、好ましくは、前記可動子は周方向に所定の間隔をおいて径方向外方に突出した複数の可動子突極(26)を有し、各可動子突極の先端面が前記可動子の前記外面をなす。
【0011】
この構成によれば、界磁用コイルによる回転磁界の磁束が可動子突極に集中し、エネルギ効率が高くなる。
【0012】
上記可変ギャップモータにおいて、好ましくは、前記可動子は円筒形状である。
【0013】
この構成によれば、可動子が円筒形状であることにより、高い寸法精度を容易に確保でき、これに伴い磁気ギャップを高精度に維持できる。
【0014】
上記可変ギャップモータにおいて、好ましくは、前記可動子は金属ブロックによる無垢鉄心である。
【0015】
この構成によれば、可動子の寸法精度を容易に確保でき、これに伴い磁気ギャップを高精度に維持できる。
【0016】
上記可変ギャップモータにおいて、好ましくは、前記界磁用固定子の内周面と前記可動子の外周面とに円弧凹面(32、34)が互いに対向して形成され、前記界磁用固定子の前記円弧凹面と前記可動子の前記円弧凹面との間に配置されたピン(36)を有し、前記ピンは、前記円弧凹面の内径より小さい外径を有し、前記界磁用固定子の前記円弧凹面および前記可動子の前記円弧凹面に転動可能に係合して前記界磁用固定子と前記可動子とを連結している。
【0017】
この構成によれば、界磁用固定子に対する可動子の偏心揺動が高精度に規定され、これに伴い磁気ギャップを高精度に維持できる。
【0018】
上記可変ギャップモータにおいて、好ましくは、前記界磁用固定子及び前記可動子の前記円弧凹面及び/又は前記ピンの外周面に微粒子ショットピーニング処理によるマイクロディンプルを有する硬質薄膜(38)が設けられている。
【0019】
この構成によれば、円弧凹面とピンとの転動面の耐摩耗性が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明による可変ギャップモータによれば、エネルギ効率が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る可変ギャップモータを示す正面図
【
図2】実施形態に係る可変ギャップモータの連結機構の作動状態を示す説明図
【
図3】実施形態に係る可変ギャップモータの作動状態における変化を示す説明図
【
図4】実施形態に係る可変ギャップモータにおける、電磁力の径方向分力による楔効果を示す模式的説明図
【
図5】可変ギャップモータの磁気ギャップと電磁力との関係を示すグラフ
【
図6】他の実施形態に係る可変ギャップモータを示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明による可変ギャップモータの実施形態を、図を参照して説明する。
【0023】
図1に示されているように、本実施形態の可変ギャップモータ10は、3相交流リラクタンス型のものであり、アウターケース(固定部材)12と、アウターケース12内に固定された円環状の界磁用固定子14と、界磁用固定子14の内方に配置されて偏心揺動する円環状の可動子16と、可動子16の内方に配置されて可動子16の偏心揺動によって回転する外歯歯車18と、外歯歯車18に固定されて外歯歯車18と同軸に回転する出力軸20とを備える。
【0024】
界磁用固定子14は、鉄系金属等の強磁性金属により構成され、円環状主部21から周方向に所定の間隔をおいて各々径方向内方に突出した6個の固定子突極(ティース)22を有する。各固定子突極22の外周には界磁用コイル24が巻回されている。各界磁用コイル24には3相交流の各相の電流が通電される。界磁用固定子14は、隣り合う固定子突極22を互いに繋ぐように固定子突極22に固定された固定部材28を含む。
【0025】
可動子16は、鉄系金属等の強磁性を有する金属ブロックによる無垢鉄心として構成され、永久磁石及び電磁コイルを有さない磁石レスの可動子である。可動子16は、固定子突極22に対向すべく、外周部から周方向に所定の間隔をおいて各々径方向外方に突出した6個の可動子突極(ティース)26を有する。各可動子突極26は、径方向に対向する固定子突極22の互いの先端面間に、界磁用コイル24による磁束が通過する磁気ギャップ(エアギャップ)Gが構成される。磁気ギャップGmは界磁用固定子14に対する可動子16の偏心揺動によって変化する。
【0026】
界磁用固定子14と可動子16との間には、可動子16が界磁用固定子14に対して相対回転不能にかつ相対揺動可能となるように、連結機構30が設けられている。連結機構30は、各固定部材28の内周面及び可動子16の外周面に互いに対向するように形成された複数の円弧凹面32、34と、対応する円弧凹面32、34間に配置されたピン36とを有する。ピン36は、円弧凹面32、34の内径より小さい外径を有し、円弧凹面32、34に転動可能に係合して界磁用固定子14と可動子16とを連結している。尚、ピン36は、両端をアウターケース12に形成されたピン36の外径よりも大きい内径の孔(不図示)に遊嵌合し、アウターケース12より支持されている。
【0027】
ここで云う「相対回転不能かつ相対揺動可能」とは、可動子16が界磁用固定子14に対して転動することはできず(相対回転不能)、可動子16上の任意の点が後述する偏心量Eを半径とする円軌道を描くように可動子16が界磁用固定子14に対して偏心揺動可能な状態を意味する。
【0028】
図2(I)~(V)は、可動子16の1回の偏心揺動における連結機構30の動きを示している。
図2の(I)および(V)は、可動子16の偏心揺動において界磁用固定子14と可動子16とが最も径方向に離れた位置にある連結機構30の状態を示している。この状態の時には、円弧凹面32、34の双方がピン36の外周面より離間している。
図2の(III)は、可動子16の偏心揺動において界磁用固定子14と可動子16とが最も径方向に近付いた位置にある連結機構30の状態を示している。この状態の時には、ピン36は正対した円弧凹面32、34によって径方向の両側から挟まれる。
図2の(II)および(IV)は、上述した二つの状態の中間的な位置にある連結機構30の状態を示している。この状態では、円弧凹面32、34は正対ではないものの、ピン36は周方向に互いに偏倚している円弧凹面32、34によって径方向の両側から挟まれる。
【0029】
これにより、界磁用固定子14に対する可動子16の偏心揺動が高精度に規定される。尚、(II)~(IV)の区間では、ピン36は転動しながら円弧凹面32、34に径方向の両側から挟まれるだけであり、ピン36には圧縮力が作用するが、剪断力が作用することはない。
【0030】
尚、連結機構30について、より詳細な説明が必要ならば、特開2017-25979号公報を参照されたい。
【0031】
図1に示されているように、円弧凹面32、34及びピン36の外周面には微粒子ショットピーニング処理によるマイクロディンプルを有する膜厚0.1~2.0μm程度の硬質薄膜38が設けられている。これにより、円弧凹面32、34とピン36との転動面の耐摩耗性が向上し、連結機構30の作用が長期間に亘って適切に維持される。
【0032】
可動子16の内周面には内歯40が形成されている。これにより、可動子16は内接式遊星歯車装置の内歯部材を兼ねており、内接式遊星歯車装置の入力部材をなす。
【0033】
外歯歯車18は、界磁用固定子14と同軸的に回動可能に配置され、出力軸20を介してアウターケース12に回転可能に支持されている。外歯歯車18の外周には複数の外歯42が形成されている。外歯42は、内歯40と同一ピッチで設けられ、外歯42の歯数は、内歯40の歯数より少なくとも1つ以上少ない。外歯歯車18は、出力軸20に対して同軸であり、且つ一体に回転する。可動子16の中心C2は、外歯歯車18の回転中心C1に対して軸線方向に直交する方向に偏心量Eだけ偏倚しており、偏心量Eは、内歯40及び外歯42の歯丈より大きい。可動子16は、回転位相が変化しない(周方向に沿って転動しない)ように、且つ、その中心C2が外歯歯車18の軸線回りに偏心量Eを半径とする円軌道を描くように変位すること、すなわち、偏心揺動が可能である。外歯42のうち、外歯歯車18の回転中心C1に対する可動子16の中心C2とは反対側の所定の範囲の外歯42は、所定の範囲の内歯40と噛合している。
【0034】
可動子16の回転位相が変化せず、且つ内歯40と外歯42とが噛み合っていることにより、可動子16の偏心揺動によって外歯歯車18が回転する。内歯40及び外歯42の歯形は、インボリュート歯形であるが、楔形若しくは台形、又はこれに類する先細形状の歯形に変更してもよい。
【0035】
上述の構成により、界磁用固定子14と可動子16とが可変ギャップ方式のモータをなす。各界磁用コイル24に対する通電は制御部50により制御され、この制御のもとに回転磁界が発生する。この回転磁界によって、可動子16の中心C2が円軌道を描いて変位すべく可動子16が偏心揺動することにより、内歯40と外歯42との噛合のもとに外歯歯車18が回転し、出力軸20に回転出力が発生する。
【0036】
可動子16の偏心揺動において、界磁用固定子14は、可動子16の偏心揺動を阻害することなく、可動子16から反力を受け止める反力部材をなす。外歯42の歯数をZa、内歯40の歯数をZbとした場合、減速比G=Za/(Za-Zb)をもって外歯歯車18が可動子16の揺動回転数に対し減速回転する。外歯42の歯数は、内歯40の歯数より少なくとも1つ以上少ないため、回転磁界を時計廻り方向に発生させて可動子16を時計廻り方向に偏心揺動させると、外歯歯車18及び出力軸20は、反時計廻り方向に回転する。
【0037】
次に、
図3を参照して、制御部50(
図1参照)による界磁用コイル24の通電の制御と、この制御によってもたらされる作用効果について説明する。以下の説明において、6個の界磁用コイル24を、それぞれ区別するときは、
図3の各図の紙面の上部のものから時計廻り方向に、符号24にa~fの添え字を付して説明する。また、以下の説明における向きは、可動子16の中心C2から紙面の真上に向かう向きに対する時計廻り方向の角度で示す。尚、
図3では、連結機構30の図示を省略している。
【0038】
図3(1)に示されているように、可動子16の内歯40と外歯歯車18の外歯42とが、紙面の下部の一定の領域で噛み合っており(以下、「噛合領域」という)、可動子の中心C2から噛合領域の中心への向きPは、180度である。可動子16の中心C2から噛合領域の中心への向きPが、150度~210度のときは、互いに隣接する2つの界磁用コイル24f,24aに通電し、330度の向きQの電磁力を発生させる。すると、可動子16に電磁力が作用し、外歯歯車18は反時計廻り方向に回転する。電磁力と外歯歯車18の噛合領域からの反力により、60度の向きの可動子突極26が界磁用固定子14に近接するように可動子16が偏心揺動する。また、噛合領域が時計廻り方向に変位する。可動子16の中心C2から噛合領域の中心への向きPと電磁力の向きQとがなす角度θは、120度~180度であり、その平均値は、150度である。
【0039】
可動子16の中心C2から噛合領域の中心への向きPが、210度になると、界磁用コイル24fへの通電を停止するとともに、界磁用コイル24bへの通電を開始する。すなわち、互いに隣接する2つの界磁用コイル24a,24bに通電し、電磁力の向きQを、
図3(2)に示されているように30度にする。可動子16の中心C2から噛合領域の中心への向きPが270度になるまで、界磁用コイル24c,24dに通電する(
図3(2)では、向きPが240度の状態を示している)。この区間における、可動子16の中心C2から噛合領域の中心への向きPと電磁力の向きQとがなす角度関係(角度θ)は、
図2(1)に代表される、界磁用コイル24f,24aに通電したときと同様である。従って、可動子16に電磁力が作用し、外歯歯車18は反時計廻り方向に回転し、電磁力と外歯歯車18の噛合領域からの反力によって可動子16は120度の向きの可動子突極26が界磁用固定子14に近接するように偏心揺動し、噛合領域が時計廻り方向に変位する。
【0040】
以下、同様に、向きPが270度~330度の時は、互いに隣接する2つの界磁用コイル24b,24cに通電し、電磁力の向きQを、
図3(3)に示されているように90度にする。向きPが330度~390度(30度)の時は、互いに隣接する2つの界磁用コイル24c,24dに通電し、電磁力の向きQを、
図3(4)に示されているように150度にする。向きPが30度~90度の時は、互いに隣接する2つの界磁用コイル24d,24eに通電し、電磁力の向きQを、
図3(5)に示されているように210度にする。向きPが90度~150度の時は、互いに隣接する2つの界磁用コイル24e,24fに通電し、電磁力の向きQを、
図3(6)に示されているように210度にする。向きPが150度になると、
図2(1)に示されているように再び互いに隣接する2つの界磁用コイル24f,24aに通電する。このような通電の制御を繰り返すことにより、回転磁界が発生して可動子16の偏心揺動が継続し、それにより外歯歯車18及び出力軸20が回転する。
【0041】
本実施形態では、電磁力の向きQが、向きPに対してなす角度θの平均値を150度としたが、この角度の平均値は、90度より大きく180度より小さい範囲で変更可能である。つまり、内歯40と外歯42との間の噛合領域の中心と可動子16の中心C2とを結んだ線分を基準線(向きPの線分)とし、基準線に対して90度を超える方向から可動子16に回転磁界による電磁力が作用するように界磁用コイル24への通電を制御する。
【0042】
電磁力は、噛合領域の中心から可動子16の中心C2に向かう向き(向きPと同一方向であって逆向き)の径方向分力と、これに直交する向きの周方向分力とに分解できる。周方向分力だけでなく、径方向分力も、可動子16を介して外歯歯車18を回転させるように作用する。
【0043】
図4を参照して、径方向分力が可動子16を介して外歯歯車18を回転させるように作用することを説明する。内歯40及び外歯42の歯形は先細となっている。
図3に図示したように、時計廻り方向に回転磁界を発生させ、外歯歯車18を時計廻り方向に回転させる場合、噛合領域では内歯40の反時計廻り方向側の歯面と外歯42の時計廻り方向側の歯面とが接している。電磁力の径方向分力が可動子16は径方向内側に吸引する。この時、内歯40及び外歯42の歯形は先細になっているため、内歯40の反時計廻り方向側の歯面が外歯42の時計廻り方向側の歯面を径方向内側に向かって摺動すると、内歯40が外歯42を反時計廻り方向の周方向に押し出す。このような楔効果により、電磁力の径方向分力が外歯歯車18を回転させる力として作用する。すなわち、噛合領域に径方向分力を作用させることによって、可変ギャップモータ10の出力トルクが増大する。
【0044】
本実施形態では、上述の界磁用コイル24への通電により固定子突極22と可動子突極26とに互いに接近すべく作用する径方向の電磁力の方向において互いに対向する固定子突極22の先端面と可動子突極26の先端面とがなす径方向の隙間、つまり磁気ギャップGmが1mm以下である。
【0045】
図5は固定子突極22と可動子突極26との間に作用するモータ回転に有効な電磁力Pmと磁気ギャップGmとの関係を示している。
図5において、特性線Aは永久磁石及び電磁コイルを有さない磁石レスの可動子の特性を、特性線Bは永久磁石を有する可動子の特性を示している。
【0046】
可動子に永久磁石を有する可変ギャップモータでは、特性線Bによって示されているように、可動子16に作用する電磁力Pmは磁気ギャップGmの減少に概ね比例して大きくなり、臨界的特性を示さない。
【0047】
可動子突極に永久磁石が設けられていない磁石レスの可変ギャップモータ10においては、特性線Aにより示されているように、磁気ギャップGmが1mm程度のところに変曲点を有し、磁気ギャップGmが1mmより小さくなると、可動子16に作用する電磁力Pmが劇的に増大する臨界的特性を示す。
【0048】
永久磁石は、自ら磁束を発生するが、電磁コイルによる磁束を通し難い物性がある。このため、可動子に永久磁石を有する可変ギャップモータでは、磁気ギャップGmを小さくしても可動子16に作用する電磁力Pmが飛躍的に増大することはないが、可動子16に永久磁石を有さない可変ギャップモータ10では、界磁用コイル24の磁束が永久磁石による磁気的影響を受けないので、界磁用コイル24による磁気ギャップGmが1mmより小さくなると、可動子16に作用する電磁力Pmが劇的に増大すると考えられる。
【0049】
これにより、磁石レスの可変ギャップモータ10において、磁気ギャップGmが1mm以下であることにより、可動子16に作用する電磁力Pmが大きくなり、これに伴い可変ギャップモータ10の出力トルクが増大する。
【0050】
この小さい磁気ギャップGmは、連結機構30の作用のもとに高精度に維持されるから、可変ギャップモータ10の出力トルクの増大が保証される。
【0051】
可動子16が、無垢鉄心とであることにより、積層鉄心よりも高い寸法精度を容易に得ることができので、このことによっても小さい磁気ギャップGmが高精度に維持され、可変ギャップモータ10の出力トルクの増大が保証される。
【0052】
また、可動子突極26を有する可動子16では、界磁用コイル24による回転磁界の磁束が可動子突極26に集中し、エネルギ効率が高くなる。
【0053】
図6は、本発明による可変ギャップモータ10の他の実施形態を示している。尚、
図6において、
図1に対応する部分は、
図1に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0054】
本実施形態では、上述した実施形態における可動子突極26は省略され、可動子16は、鉄系金属等の強磁性を有する金属ブロックによる無垢鉄心として円筒形状に構成されている。この実施形態では、磁気ギャップGmは可動子16の外周面と固定子突極22との間に形成される。
【0055】
可動子16が突極レスの単純な円筒形状であることにより、高い寸法精度を容易に確保でき、これに伴い1mm以下の適正な磁気ギャップGmを高精度に維持でき、可変ギャップモータ10の出力トルクの増大効果が安定して得られる。
【0056】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 :可変ギャップモータ
12 :アウターケース
14 :界磁用固定子
16 :可動子
18 :外歯歯車
20 :出力軸
21 :円環状主部
22 :固定子突極
24 :界磁用コイル
26 :可動子突極
28 :固定部材
30 :連結機構
32 :円弧凹面
34 :円弧凹面
36 :ピン
38 :硬質薄膜
40 :内歯
42 :外歯
50 :制御部