(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166784
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】車両用無段変速機の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20221026BHJP
F16H 61/18 20060101ALI20221026BHJP
F16H 61/662 20060101ALI20221026BHJP
F16H 59/06 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/18
F16H61/662
F16H59/06
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072212
(22)【出願日】2021-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 教裕
(72)【発明者】
【氏名】酒井 宏平
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA07
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA19
3J552PA51
3J552PA63
3J552RA21
3J552RB01
3J552RB22
3J552RB23
3J552TB02
3J552VA18W
3J552VA62W
3J552VD16X
3J552VE04Z
(57)【要約】
【課題】ベルトスリップを防止してベルト保護を確実にすると共に走行性能の低下を回避できる無段変速機の制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】ドライブプーリとドリブンプーリの溝幅を変化させることで変速比を変化させ駆動源からの駆動力を車輪12に伝達させる無段変速機の側圧制御であって、ドライブプーリおよびドリブンプーリのそれぞれの側圧を制御する制御部を有し、制御部は前記無段変速機がインギア状態でない場合あるいはシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致している場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第1の側圧増大補正量に設定し、前記無段変速機がインギア状態でシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第2の側圧増大補正量に設定し、前記第2の側圧増大補正量が前記第1の側圧増大補正量より小さい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブプーリと、ドリブンプーリと、前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリに巻き掛けられたベルトとを備え、前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリの溝幅を変化させることで変速比を変化させ駆動源からの駆動力を車輪に伝達させる無段変速機を搭載した車両における前記無段変速機の側圧制御装置であって、
前記ドライブプーリの側圧を発生させる第1側圧発生回路と、
前記ドリブンプーリの側圧を発生させる第2側圧発生回路と、
前記第1および第2側圧発生回路を制御し前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリのそれぞれの側圧を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記無段変速機がインギア状態でなく前記シフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第1の側圧増大補正量に設定し、
前記無段変速機がインギア状態でシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第2の側圧増大補正量に設定し、
前記第2の側圧増大補正量が前記第1の側圧増大補正量より小さいことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記駆動源の出力軸と前記無段変速機の入力軸との間に配置されるトルクコンバータを更に有し、
前記制御部は、
前記無段変速機がインギア状態でシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記トルクコンバータの入力側と出力側との回転差を算出し、
前記回転差に従って前記第2の側圧増大補正量を生成し、
前記回転差が大きい程、前記第2の側圧増大補正量を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記トルクコンバータと前記無段変速機の入力軸との間に配置される前後進切換機構を更に有し、前記インギア状態が前記前後進切換機構のクラッチを締結した状態であることを特徴とする請求項2に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】
ドライブプーリと、ドリブンプーリと、前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリに巻き掛けられたベルトとを備え、前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリの溝幅を変化させることで変速比を変化させ駆動源からの駆動力を車輪に伝達させる無段変速機を搭載した車両における前記無段変速機の側圧制御方法であって、
前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリのそれぞれの側圧を制御する制御部が、
前記無段変速機のインギア状態およびシフトポジションと前記車両の進行方向とを検出し、
前記無段変速機がインギア状態でなくシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第1の側圧増大補正量に設定し、
前記無段変速機がインギア状態でシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第2の側圧増大補正量に設定し、
前記第2の側圧増大補正量が前記第1の側圧増大補正量より小さいことを特徴とする無段変速機の制御方法。
【請求項5】
前記車両は前記駆動源の出力軸と前記無段変速機の入力軸との間に配置されるトルクコンバータを更に有し、
前記制御部は、
前記無段変速機がインギア状態でシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記トルクコンバータの入力側と出力側との回転差を算出し、
前記回転差に従って前記第2の側圧増大補正量を生成し、
前記回転差が大きい程、前記第2の側圧増大補正量を大きくすることを特徴とする請求項4に記載の無段変速機の制御方法。
【請求項6】
前記車両は前記トルクコンバータと前記無段変速機の入力軸との間に配置される前後進切換機構を更に有し、前記インギア状態が前記前後進切換機構のクラッチを締結した状態であることを特徴とする請求項5に記載の無段変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドライブ(駆動あるいはプライマリ)プーリとドリブン(従動あるいはセカンダリ)プーリとにベルトを巻き付けた構成を含む無段変速機におけるプーリの側圧を制御する制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)を搭載した車両では、ベルトがスリップすると耐久性を劣化させることから、これを防止する技術が種々提案されている。たとえば特許文献1に開示された動力伝達装置では、駆動源と無段変速機との間に設けられた前後進切換機構のクラッチを無断変速機のベルトスリップよりも先にスリップさせるようにクラッチ伝達トルクを調整すること、いわゆるトルクヒューズとして機能することでベルトスリップを防止している。また特許文献2に開示されたシステムでは、シフトポジションが前進(D)または後退(R)である時に車両が逆方向に移動した場合、エンジン出力を制限したりプライマリプーリの油圧を増大したりしてベルトスリップを防止している。
【0003】
特許文献2によれば、ベルト式CVTにおいて、上り坂の途中でシフトレバーをD(前進)レンジのままアクセルペダルもブレーキペダルも踏まない状態で車両が後退すると、プライマリ圧とセカンダリ圧との油圧バランスが崩れ、その結果、プライマリ圧が低下してトルク容量(ベルトを滑らせることなく伝達可能な最大トルク)が減少しベルトスリップを生じる可能性が指摘されている。特許文献2では、このようなベルトスリップを防止するためにエンジン出力を制限したりプライマリプーリの油圧を増大したりする手段が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5480227号公報
【特許文献2】特許第3821764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献2のようにプライマリプーリの油圧低下を補うためのライン圧を最大に上げた場合、ベルトスリップは防止可能であるがプライマリプーリとセカンダリプーリとの油圧バランスが崩れるため、所望の変速比を維持することが出来なくなる。以下、車両が登坂逆行する場合を一例として説明する。
【0006】
図1に例示するように、ベルト式CVTを搭載した車両10が登坂しているときに、たとえば対向車があった場合、停止し(
図1A)、続いて後退し(
図1B)、後退した地点で停止し(
図1C)、そして再発進する(
図1D)という動作が必要となることがある。この場合、通常のスイッチバック操作、すなわちシフトポジションをNあるいはRにして後退し、後退した地点でブレーキを踏んで停止し、シフトポジションをN/RからDに切り替えて再発進する操作ではCVTレシオがLOWに保持されており何ら問題はない。
【0007】
このようなスイッチバック操作とは別に、シフトポジションをD(前進)にしたままでブレーキを外して車両を後退させた場合(
図1B)、車両をブレーキではなくアクセスペダルを踏んで停止させることもできる(
図1C)。その場合、そのままアクセルペダルを踏み込んで再発進(
図1D)させることができれば、シフトポジションの変更もブレーキ操作も不要となりペダル操作を簡略化できて望ましい。
【0008】
ところが、上述した特許文献2では、シフトポジションがDのままブレーキを踏まない状態で車両を後退させると(
図1B)、プライマリ圧とセカンダリ圧との油圧バランスが崩れてプライマリ圧が低下しベルトスリップを生じることが認識されており、そのベルトスリップを防止するためにプライマリプーリの側圧を増大する制御が行われる。このために、アクセスペダルを踏んで後退車両を停止させ、そのままアクセルペダルを踏み込んで再発進させようとすると、CVTの変速比がLOWから離れてスムーズな発進ができない。
【0009】
このようにシフトポジションをD(前進)にしたままで車両が後退すると油圧バランスが崩れてプライマリ圧が低下するので、それによるベルトスリップを防止するためにプライマリプーリの側圧を増大させる必要がある。しかしながら、後退車両をブレーキではなくアクセスペダルを踏んで停止させ、そのままアクセルペダルを踏み込んで再発進させようとすれば、プライマリプーリの側圧増大制御が逆にCVTの変速比をLOWから逸脱させる原因となりスムーズな発進が阻害され走行性能が低下する。
【0010】
そこで、本発明の目的は、ベルトスリップを防止してベルト保護を確実にすると共に走行性能の低下を回避できる無段変速機の制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、ドライブプーリと、ドリブンプーリと、前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリに巻き掛けられたベルトとを備え、前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリの溝幅を変化させることで変速比を変化させ駆動源からの駆動力を車輪に伝達させる無段変速機を搭載した車両における前記無段変速機の制御装置であって、前記ドライブプーリの側圧を発生させる第1側圧発生回路と、前記ドリブンプーリの側圧を発生させる第2側圧発生回路と、前記第1および第2側圧発生回路を制御し前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリのそれぞれの側圧を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記無段変速機がインギア状態でなくシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第1の側圧増大補正量に設定し、前記無段変速機がインギア状態でシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第2の側圧増大補正量に設定し、前記第2の側圧増大補正量が前記第1の側圧増大補正量より小さいことを特徴とする。
本発明の他の態様によれば、ドライブプーリと、ドリブンプーリと、前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリに巻き掛けられたベルトとを備え、前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリの溝幅を変化させることで変速比を変化させ駆動源からの駆動力を車輪に伝達させる無段変速機を搭載した車両における前記無段変速機の制御方法であって、前記ドライブプーリおよび前記ドリブンプーリのそれぞれの側圧を制御する制御部が、前記無段変速機のインギア状態およびシフトポジションと前記車両の進行方向とを検出し、前記無段変速機がインギア状態でシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記無段変速機がインギア状態でなくシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第1の側圧増大補正量に設定し、前記無段変速機がインギア状態でシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第2の側圧増大補正量に設定し、前記第2の側圧増大補正量が前記第1の側圧増大補正量より小さい、ことを特徴とする。
本発明によれば、前記制御部は、前記無段変速機がインギア状態でなくシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第1の側圧増大補正量に設定し、前記無段変速機がインギア状態でシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記ドライブプーリの側圧の増大補正量を第2の側圧増大補正量に設定し、前記第2の側圧増大補正量は前記第1の側圧増大補正量より小さく設定される。これにより、ドライブプーリの側圧とドリブンプーリの側圧との差圧を拡大することができ、無段変速機の変速比をLOWに保持すると共に再発進時の走行性能の低下を回避できる。
前記駆動源の出力軸と前記無段変速機の入力軸との間に配置されるトルクコンバータを更に有し、前記制御部は、前記無段変速機がインギア状態でシフトポジションと前記車両の進行方向とが一致していない場合、前記トルクコンバータの入力側と出力側との回転差を算出し、前記回転差に従って前記第2の側圧増大補正量を生成し、前記回転差が大きい程、前記第2の側圧増大補正量を大きくすることができる。これにより、足軸トルク変動が小さい範囲で第2の側圧増大補正量を小さくすることができ、ドライブプーリの側圧とドリブンプーリの側圧との差圧を効率的に拡大することができる。
前記トルクコンバータと前記無段変速機の入力軸との間に配置される前後進切換機構を更に有してもよく、前記インギア状態を前記前後進切換機構のクラッチを締結した状態で実現できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベルトスリップを防止してベルト保護を確実にすると共に走行性能の低下を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(A)~(D)は登坂逆行時の停止および再発進を説明するためのペダルおよびシフトポジションの操作シーケンスを示す模式図である。
【
図2】
図2は本発明の一実施形態による側圧制御装置を適用した無段変速車両の動力伝達系の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は
図1に示す油圧供給機構の一例を示す油圧回路図である。
【
図4】
図4は本実施形態による側圧制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は本実施形態による側圧制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は本実施形態による側圧制御方法で使用される、側圧増大補正量とトルコンスリップ率との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は逆転トルコン特性の一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は足軸トルク変動を説明するためのグラフである。
【
図9】
図9は本実施形態による側圧制御装置を用いた無段変速車両の登坂逆行から再発進までの動作を説明するためのタイムチャートである。
【
図10】
図10はドライブプーリとドリブンプーリの油圧について従来例と本実施形態とを比較した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素は単なる例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0015】
1.動力伝達系
図2において、駆動源としてのエンジン10が駆動輪12を備えた無段変速車両14に搭載されている。エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構16に接続され、DBW機構16により開閉される。
【0016】
スロットルバルブで調量された吸気は、インテークマニホルドを通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブが開弁されたとき、当該気筒の燃焼室に流入する。燃焼室において混合気は点火プラグで点火されて燃焼し、ピストンを駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
【0017】
クランクシャフト22の回転はトルクコンバータ24および前後進切換機構28を介してCVT26に入力される。即ち、クランクシャフト22はトルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービン・ランナ24bはメインシャフト(入力軸)MSに接続される。
【0018】
無段変速機を構成するCVT26はメインシャフトMS、より正確にはその外周側シャフトに配置されたドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフト(出力軸)CS、より正確にはその外周側シャフトに配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される無端可撓部材からなる動力伝達要素、例えば金属製のベルト26cと、からなる。
【0019】
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMSの外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体26a1と、メインシャフトMSの外周側シャフトに相対回転不能で固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2と、からなる。
【0020】
ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSの外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体26b1と、カウンタシャフトCSに相対回転不能で固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2と、からなる。
【0021】
前後進切換機構28は、車両14の前進方向への走行を可能にする前進クラッチ28aと、後進方向への走行を可能にする後進ブレーキ28bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構28cと、からなる。CVT26はエンジン10に前進クラッチ28aを介して接続される。
【0022】
前進クラッチ28aと後進ブレーキ28bが、より具体的には主として前進クラッチ28aがいわゆるトルクヒューズのクラッチとして機能する。
【0023】
プラネタリギヤ機構28cにおいて、サンギヤ28c1はメインシャフトMSに固定されると共に、リングギヤ28c2は前進クラッチ28aを介してドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。
【0024】
サンギヤ28c1とリングギヤ28c2の間には、ピニオン28c3が配置される。ピニオン28c3は、キャリア28c4でサンギヤ28c1に連結される。キャリア28c4は、後進ブレーキ28bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
【0025】
カウンタシャフトCSの回転はギヤを介してセカンダリシャフト(中間軸)SSから駆動輪12に伝えられる。即ち、カウンタシャフトCSの回転はギヤ30a,30bを介してセカンダリシャフトSSに伝えられ、その回転はギヤ30cを介してディファレンシャル32からドライブシャフト(駆動軸)34を介して左右の駆動輪(右側のみ示す)12に伝えられる。
【0026】
駆動輪(前輪)12と従動輪(後輪。図示せず)からなる4個の車輪の付近にはディスクブレーキ36が配置されると共に、車両運転席床面にはブレーキペダル40が配置される。
【0027】
前後進切換機構28において前進クラッチ28aと後進ブレーキ28bの切換は、車両運転席に設けられたレンジセレクタ44を運転者が操作して例えばP,R,N,Dなどのレンジ(シフトポジション)のいずれかを選択することで行われる。運転者のレンジセレクタ44の操作によるレンジ選択は、後述する油圧供給機構46のマニュアルバルブに伝えられる。
【0028】
レンジセレクタ44を介して例えばD,S,Lのシフトポジションが選択されると、それに応じてマニュアルバルブのスプールが移動し、後進ブレーキ28bのピストン室から作動油(油圧)が排出される一方、前進クラッチ28aのピストン室に油圧が供給されて前進クラッチ28aが締結される。
【0029】
前進クラッチ28aが締結されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(前進方向)に駆動され、よって車両14は前進方向に走行する。
【0030】
Rのシフトポジションが選択されると、前進クラッチ28aのピストン室から作動油が排出される一方、後進ブレーキ28bのピストン室に油圧が供給されて後進ブレーキ28bが作動する。従ってキャリア28c4が固定されてリングギヤ28c2はサンギヤ28c1とは逆方向に駆動され、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSとは逆方向(後進方向)に駆動され、車両14は後進方向に走行する。以下、前後切換機構28の前進クラッチ28aあるいは後進ブレーキ28bのいずれかが締結されている状態をインギア状態という。
【0031】
PあるいはNのシフトポジションが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されて前進クラッチ28aと後進ブレーキ28bが共に開放され、前後進切換機構28を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10とCVT26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
【0032】
2.油圧供給機構
図3に例示するように、油圧供給機構46には油圧ポンプ46aが設けられる。油圧ポンプ46aはギヤポンプからなり、エンジン(E)10によって駆動され、リザーバ46bに貯留された作動油を汲み上げてPH制御バルブ(PH REG VLV)46cに圧送する。
【0033】
PH制御バルブ46cの出力(PH圧(ライン圧))は、一方では油路46dから第1、第2のレギュレータバルブ(DR REG VLV, DN REG VLV)46e,46fを介してCVT26のドライブプーリ26aの可動プーリ半体26a2のピストン室(DR)26a21とドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室(DN)26b21に接続されると共に、他方では油路46gを介してCRバルブ(CR VLV)46hに接続される。
【0034】
CRバルブ46hはPH圧を減圧してCR圧(制御圧)を生成し、油路46iから第1、第2、第3の(電磁)リニアソレノイドバルブ46j,46k,46l(LS-DR, LS-DN, LS-CPC)に供給する。
【0035】
第1、第2のリニアソレノイドバルブ46j,46kはそのソレノイドの励磁に応じて決定される出力圧を第1、第2のレギュレータバルブ46e,46fに作用させ、よって油路46dから送られるPH圧の作動油を可動プーリ半体26a2,26b2のピストン室26a21,26b21に供給し、それに応じてプーリ側圧を発生させる。したがって、第1のリニアソレノイドバルブ46j、第1のレギュレータバルブ46e、ピストン室26a21およびこれらの油圧系はドライブプーリ26aの側圧を発生させる第1側圧発生回路であり、第2のリニアソレノイドバルブ46k、第2のレギュレータバルブ46f、ピストン室26b21およびこれらの油圧系はドリブンプーリ26bの側圧を発生させる第2側圧発生回路である。
【0036】
従って、可動プーリ半体26a2,26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧が発生させられてドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化し、ベルト26cの巻掛け半径が変化する。このように、プーリの側圧を調整することで、エンジン10の出力を駆動輪12に伝達するレシオ(変速比)を無段階に変化させることができる。
【0037】
CRバルブ46hの出力(CR圧)は第3のリニアソレノイドバルブ46lのソレノイドの励磁に応じて調圧され、油路46mを介して前記したマニュアルバルブ(MAN VLV)46oに送られ、そこから前後進切換機構28の前進クラッチ28aのピストン室(FWD)28a1と後進ブレーキ28bのピストン室(RVS)28b1に接続される。
【0038】
マニュアルバルブ46oは、前記した如く、運転者によって操作(選択)されたレンジセレクタ44の位置に応じてCRバルブ46hの出力を前進クラッチ28aと後進ブレーキ28bのピストン室28a1,28b1のいずれかに接続する。
【0039】
また、PH制御バルブ46cの出力は、油路46pを介してTCレギュレータバルブ(TC REG VLV)46qに送られ、TCレギュレータバルブ46qの出力はLCコントロールバルブ(LC CTL VLV)46rを介してLCシフトバルブ(LC SFT VLV)46sに接続される。
【0040】
LCシフトバルブ46sの出力は一方ではトルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cのピストン室24c1に接続されると共に、他方ではその背面側の室24c2に接続される。
【0041】
LCシフトバルブ46sを介して作動油がピストン室24c1に供給される一方、背面側の室24c2から排出されると、ロックアップクラッチ24cが係合(オン)され、背面側の室24c2に供給される一方、ピストン室24c1から排出されると、解放(オフ)される。ロックアップクラッチ24cのスリップ量は、ピストン室24c1と背面側の室24c2に供給される作動油の量によって決定される。
【0042】
CRバルブ46hの出力は油路46tを介してLCコントロールバルブ46rとLCシフトバルブ46sに接続されると共に、油路46tには第4のリニアソレノイドバルブ(LS-LC)46uが介挿される。ロックアップクラッチ24cのスリップ量は、第4のリニアソレノイドバルブ46uのソレノイドの励磁・非励磁によって調整(制御)される。
【0043】
さらに、油圧ポンプ46aの下流でPH制御バルブ46cの上流に相当する位置には電動モータ46vに接続されるEOP(Electric Oil Pump:電動油圧ポンプ)46wがチェックバルブ46xを介して接続される。
【0044】
EOP46wも油圧ポンプ46aと同様にギヤポンプからなり、電動モータ46vで駆動され、リザーバ46bに貯留された作動油を汲み上げてPH制御バルブ(PH REG VLV)46cに圧送する。
【0045】
なお、トルクコンバータ24とCVT26と前後進切換機構28とからなる動力伝達系はトルクコンバータ24および前後進切換機構28を有する無段変速機として捉えることもできる。
【0046】
図2の説明に戻ると、エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ50が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には絶対圧センサ52が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
【0047】
DBW機構16のアクチュエータにはスロットル開度センサ54が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットルバルブの開度THに比例した信号を出力する。
【0048】
また前記したアクセルペダル56の付近にはアクセル開度センサ56aが設けられて運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度APに比例する信号を出力すると共に、ブレーキペダル40の付近にはブレーキスイッチ40aが設けられて運転者のブレーキペダル40の操作に応じてオン信号を出力する。
【0049】
さらに、エンジン10の冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ(図示せず)が設けられ、エンジン冷却水温TW、換言すればエンジン10の温度に応じた出力を生じる。
【0050】
上記したクランク角センサ50などの出力はエンジンコントローラ66に送られる。エンジンコントローラ66はCPU,ROM,RAM,I/Oなどからなるマイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいて目標スロットル開度を決定してDBW機構16の動作を制御すると共に、燃料噴射量を決定してインジェクタ20を駆動する。
【0051】
メインシャフトMSにはNTセンサ(回転数センサ)70が設けられ、タービン・ランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数NT、より具体的には変速機入力軸回転数(と前進クラッチ28aの入力軸回転数)を示すパルス信号を出力する。
【0052】
CVT26のドライブプーリ26aの付近の適宜位置にはNDRセンサ(回転数センサ)72が設けられてドライブプーリ26aの回転数NDR、換言すれば前進クラッチ28aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力する。
【0053】
ドリブンプーリ26bの付近の適宜位置にはNDNセンサ(回転数センサ)74が設けられてドリブンプーリ26bの回転数NDN、具体的にはカウンタシャフトCSの回転数、より具体的には変速機出力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
【0054】
またセカンダリシャフトSSのギヤ30bの付近にはVセンサ(回転数センサ)76が設けられてセカンダリシャフトSSの回転数と回転方向を示すパルス信号(具体的には車速Vを示す信号および進行方向を示す信号)を出力する。駆動輪12と従動輪(図示せず)からなる4個の車輪の付近にはそれぞれ車輪速センサ80が設けられ、車輪の回転速度を示す車輪速に比例するパスル信号を出力する。
【0055】
前記したレンジセレクタ44の付近にはレンジセレクタスイッチ44aが設けられ、運転者によって選択されたR,N,Dなどのレンジに応じた信号を出力する。
【0056】
図3に示す如く、油圧供給機構46においてCVT26のドリブンプーリ26bに通じる油路には油圧センサ82が配置されてドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室26b21に供給される油圧に応じた信号を出力する。リザーバ46bには油温センサ84が配置されて油温(作動油ATFの温度TATF)に応じた信号を出力する。
【0057】
上記したNTセンサ70などの出力は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ90に送られる。シフトコントローラ90もCPU,ROM,RAM,I/Oなどからなるマイクロコンピュータを備えると共に、エンジンコントローラ66と通信自在に構成される。
【0058】
シフトコントローラ90は、それら検出値に基づき、油圧供給機構46のリニアソレノイドバルブ46j,46k(LS-DR, LS-DN)を含む電磁ソレノイドを励磁・非励磁して前後進切換機構28とCVT26とトルクコンバータ24の動作を制御すると共に、油圧供給機構46の電動モータ46vに通電してEOP46wの動作を制御する。
【0059】
3.側圧増大制御
<構成>
図4に示すように、本実施形態によるCVT26の側圧制御方法(制御方法)はシフトコントローラ90に実装され得る。以下に述べるプーリ側圧制御部91、側圧増大補正量算出部92および油圧指令値算出部93の各機能は、図示しない記憶装置に格納されたプログラムをCPU上で実行することにより実現することが可能である。
【0060】
図4において、プーリ側圧制御部91は、レンジセレクタ44により選択されたシフトポジションの信号と、シフトポジションDあるいはRが選択され前後進切換機構28のクラッチがインギア状態であるか否かのインギア判定信号と、Vセンサ76から検出されるCVT26の出力軸の回転方向が正転か否かを示す進行方向の判定信号と、トルクコンバータ24に入力するエンジン回転数NEおよびCVT26の入力回転数Niとを入力する。プーリ側圧制御部91は、次に述べるトルクコンバータ24のスリップ率ETRを算出し、スリップ率ETRに対するトルクコンバータ24の特性に応じた側圧増大補正量Δを側圧増大補正量算出部92から入力する。側圧増大補正量算出部92が算出する側圧増大補正量Δについては後述する。
【0061】
プーリ側圧制御部91は、クランク角センサ50により検出されたエンジン回転数NE(トルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aの回転数)と、NTセンサ70により検出されたメインシャフトMSの回転数NT(トルクコンバータ24のタービン・ランナ24bの回転数)あるいはNDRセンサ72により検出されたドライブプーリ26の回転数NDRと、からトルクコンバータ24のスリップ率を算出する。たとえばトルクコンバータ(トルコン)のスリップ率ETRは、式:ETR(%)=(NDR/NE)×100により求めることができる。言い換えればトルクコンバータ24のスリップ率ETRは、入力側のポンプ・インペラ24aと出力側のタービン・ランナ24bとの回転差を示す指標の一例であり、回転差あるいは回転数の絶対値を用いてもよい。以下、トルクコンバータ24のタービン・ランナ24bがポンプ・インペラ24aに対して同じ方向に回転しているときはトルコンスリップ率ETRを正の値、逆回転しているときは負の値とする。なお、タービン・ランナ24bがポンプ・インペラ24aに対して逆回転しているときのエンジン回転数NEは正の回転方向となり、ドライブプーリ26aの回転数NDRは負の回転方向となるため、トルコンスリップ率の負の値は数値が小さくなる程、即ち-1に近い値となるほど回転差の絶対値は増大する。以下、負のトルコンスリップ率ETRを適宜、逆転トルコンスリップ率ETRという。トルクコンバータ24の逆回転は次のように検出される。
【0062】
プーリ側圧制御部91は、インギア判定信号、シフトポジションおよび進行方向判定信号を用いてトルクコンバータ24のタービン・ランナ24bが正回転しているか逆回転しているかを判定することができる。
図2を参照すれば、前後進切換機構28のクラッチが締結したインギア状態であれば、駆動輪12の回転がCVT26および前後進切換機構28を介してメインシャフトMSおよびタービン・ランナ24bに伝達される。したがって、たとえば前進(D)のシフトポジションが選択されたインギア状態で車両が後退していれば、トルクコンバータ24のタービン・ランナ24bはエンジン10の回転を示すポンプ・インペラ24aに対して逆回転する。こうしてインギア判定信号、シフトポジションおよび進行方向判定信号をモニタし、インギア状態でシフトポジションと車両の進行方向とが一致しないときにトルクコンバータ24が逆転していると判定することができる(たとえば特開2010-078024号公報を参照)。
【0063】
プーリ側圧制御部91は、側圧増大補正量算出部92から側圧増大補正量Δを受け取ると、後述するように通常走行時のベルトスリップ保証圧に加えて足軸変動トルクに対応できる側圧を確保するように側圧増大補正量Δを加算する側圧増大制御を行い、その結果を油圧指令値算出部93へ出力する。油圧指令値算出部93は、プーリ側圧制御部91から入力した側圧増大結果から油圧指令値を算出し、油圧供給機構46のリニアソレノイドバルブ46j,46k(LS-DR, LS-DN)へそれぞれ出力する。
【0064】
<動作>
図5において、プーリ側圧制御部91は、レンジセレクタ44のシフトポジション、車両の進行方向(Vセンサ76の回転方向検出信号)、前後進切換機構28のクラッチ締結の有無を示すインギア判定信号、エンジン回転数NE、メインシャフトMSの回転数NT、ドライブプーリ26aの回転数NDRを入力する(動作101)。
【0065】
続いて、プーリ側圧制御部91はシフトポジションと進行方向とが一致しているか否かを判断する(動作102)。たとえば、前進(D)のシフトポジションで車両が前進していれば一致(YES)、後退していれば不一致(NO)、後退(R)のシフトポジションで車両が後退していれば一致(YES)、前進していれば不一致(NO)と判断される。シフトポジションと進行方向とが一致していなければ(動作102のNO)、インギア状態であるか否かが判断される(動作103)。ここでインギア状態とは、上述したように前後切換機構28の前進クラッチあるいは後進ブレーキクラッチのいずれかが締結されている状態である。シフトポジションと進行方向とが一致していれば(動作102のYES)、側圧増大制御を終了する。
【0066】
インギア状態でなければ(動作103のNO)、プーリ側圧制御部91はスイッチバック操作をしているか否かを判断し(動作104)、スイッチバックであれば(動作104のYES)、クラッチ伝達トルクに対応する側圧増大補正量Δ1(第1の側圧増大補正量)を算出する(動作105)。スイッチバックでなければ(動作104のNO)、側圧増大制御を終了する。
【0067】
インギア状態であれば(動作103のYES)、プーリ側圧制御部91はトルクコンバータ24の逆転を検出し、トルコンスリップ率ETRを算出する(動作106)。側圧増大補正量算出部92は、算出されたトルコンスリップ率ETRとトルクコンバータ24の逆転特性とを用いて側圧増大補正量Δ2(第2の側圧増大補正量)を算出する(動作107)。この側圧増大補正量Δ2は、後述するように、トルクコンバータ24の逆転時の特性に応じてクラッチ伝達トルクの側圧増大補正量Δ1より小さい値に設定される。インギア状態では、スイッチバックように前後進切換機構28の締結(インギア)時の急激な慣性力増大がないので、後述するように足軸トルク変動に対応できる程度の側圧でよいためである。
【0068】
こうしてドライブプーリ26aおよびドリブンプーリ26bの側圧増大補正量Δが算出されると、プーリ側圧制御部91は、油圧指令値算出部93により油圧供給機構46のリニアソレノイドバルブ46j,46k(LS-DR, LS-DN)を制御し、ドライブプーリ26aおよびドリブンプーリ26bの側圧増大制御を実行する(動作108)。
【0069】
たとえばシフトポジションが前進(D)であるにもかかわらずインギア状態で車両が後退していると(動作102のNOおよび動作103のYES)、
図1(B)に示すように登坂逆行状態であることが分かる。登坂逆行状態であれば、トルクコンバータ24の逆転特性に応じて側圧増大補正量Δ2はクラッチ伝達トルクよりも小さい値に設定される(動作107)。これによりCVT26のドライブプーリ26aの側圧はクラッチ伝達トルクより小さくなり、ドリブンプーリ26bの側圧を所定値に増大させた場合の差圧を十分大きくすることができ、CVT26は変速比をLOWに保持することができる。以下、側圧増大補正量Δ2の算出方法について説明する。
【0070】
<側圧増大補正量Δ2>
図6に例示するように、側圧増大補正量算出部92は、逆転トルコンスリップ率ETRが所定範囲R(この例では-70%~0%の間)において、逆転トルコンスリップ率ETRが大きくなるに従って側圧増大補正量Δ2の大きさを減少させる。この例では、逆転トルコンスリップ率ETRが所定値ETR(1)=-70%以下であれば側圧増大補正量Δ2が最高値Δ2(H)に固定されているが、ETR(1)=-70%から上昇するに従って低下し、所定値ETR(2)で最低値Δ2(L)まで低下して固定される。側圧増大補正量算出部92は、プーリ側圧制御部91から与えられた逆転トルコンスリップ率ETRに対応する側圧増大補正量Δ2をプーリ側圧制御部91へ返す機能を有するものであり、
図6に例示する関係をテーブルとして保持してもよいし、数式として保持してもよい。
【0071】
側圧増大補正量Δ2は、次に述べるように、トルクコンバータ24の逆転特性において伝達トルクの変動(足軸トルク変動)が大きくなり始めるポイントに合わせて所定値ETR(2)および最低値Δ2(L)を、また足軸トルク変動の最大振幅に合わせて所定値ETR(1)および最高値Δ2(H)を設定し、所定範囲Rにおいて足軸変動トルクに対応する側圧を確保するように変化する。このように、本実施形態によれば、インギア状態でシフトポジションと進行方向とが一致していない場合(たとえば登坂逆行時にトルコンスリップ率ETRが負の場合)、逆転トルコンスリップ率ETRの所定範囲Rにおいて側圧増大補正量Δ2を
図6のように変化させる。以下、所定の逆転トルコンスリップ率ETR(1)=-70%として、側圧増大補正量Δ2の設定について説明する。
【0072】
図7に例示するように、トルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aとタービン・ランナ24bとが逆方向に回転している場合の逆転トルコン特性は逆転トルコンスリップ率ETRの絶対値が大きくなるに従ってトルク比の低下の割合が増大する負勾配領域を有する。また、トルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aとタービン・ランナ24bとが同じ方向に回転している場合には、逆に、トルコンスリップ率ETRの絶対値が大きくなるに従ってトルク比の低下の割合が減少する正勾配領域を有する。すなわち、トルクコンバータは、トルコンスリップ率ETRが正の値でも負の値でもトルコンスリップ率ETRの絶対値が小さい程、トルクコンバータ24のトルクの増幅率が大きくなる特性を有する。
【0073】
たとえば負勾配領域まで車両が登坂逆行すると、
図8に例示するようにトルコンジャダーによる足軸トルク変動が発生し始める。登坂逆行ではトルクコンバータ24のタービンがポンプと逆方向に回るため、車速が上がると回転差が大きくなり、車速が下がると回転差が小さくなる。したがって足軸トルク変動は、車速が上がると大きくなり、車速が下がると小さくなる傾向を示す。ここでは逆転トルコンスリップ率ETRが-70%より小さくなるあたりから足軸トルク変動が大きくなるが、-70%より大きくなる所定範囲Rではトルクコンバータ24から伝達される伝達トルクも比較的小さくトルコン変動も小さい。したがって、
図6に例示するように-70%より大きくなる所定範囲Rにおいて側圧増大補正量Δ2を足軸トルク変動に応じて減少させることができる。このようにインギア状態では、前後進切換機構28のクラッチ締結時の急激な慣性力増大がないので、足軸トルク変動に対応できる程度の側圧を発生させればよい。これにより、次に述べるように、ドライブプーリ26aの側圧を比較的小さくしてもベルトスリップを十分保証することができると共に、CVT26の変速比をLOWに保持することが可能となる。
【0074】
4.動作例
図9を参照しながら、シフトポジションをDに維持したまま登坂逆行から再発進を行う場合(
図1)を一例として本実施形態による駆動系の動作を説明する。
【0075】
CVT26を搭載した車両14がシフトポジションD(前進)で登坂しているときにブレーキを踏んで停止し、続いてシフトポジションをD(前進)にしたままでブレーキを外して時点t1で車両14が後退を開始したものとする(
図9a、b)。このときCVT26のプーリレシオはLOWである(
図9e)。インギア状態でシフトポジションDとは逆の方向に車両14が後退しているので、プーリ側圧制御部91はトルクコンバータ24が逆転していると判定し、ドリブンプーリ26bの側圧を増大制御すると共に、逆転トルコンスリップ率ETRと
図6に示す関係とから算出された側圧増大補正量Δ2を用いてドライブプーリ26aにかける側圧の増大制御を行う。
【0076】
側圧増大補正量Δ2は、上述したようにスイッチバック時の側圧増大補正量Δ1より小さい値であるから、
図9fに示すように、ドリブンプーリ26bの油圧(DN圧)とドライブプーリ26aの油圧(DR圧)との差(DN-DR差圧)を従来のDN-DR差圧より大きくすることができる。
【0077】
車両14はブレーキが外れた時点t1から徐々に車速Vを増大させて後退する(
図9b)。このとき時点t2でアクセルが踏まれて(
図9c)エンジン10の回転数NEが上昇すると(
図9d)、シフトポジションDでインギア状態にあるので前進方向の駆動力が増大する。これにより車両14は停止(時点t3)した後、前進(登坂)を開始するが、このときのドライブプーリ26aの側圧は比較的小さい側圧増大補正量Δ2が加算されているので、ドリブンプーリ26bの側圧を最大圧に増大させたとしても、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bとの間の油圧差を従来よりも大きくすることができる(
図9f)。したがってCVT26の変速比はLOW近傍に保持され(
図9e)、良好な登坂加速が得られる(
図9b)。
【0078】
5.効果
以上述べたように、本実施形態によれば、車両がインギア状態でシフトポジションとは逆の方向に進行(逆行)している場合、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bとの間の側圧差を最適化でき、ベルトスリップ防止と変速比のLOWからの逸脱防止とを共に達成することができる。以下、本実施形態の効果について
図10を参照しながら説明する。
【0079】
図10に示すように、従来例のスイッチバック操作ではインギヤ状態でないため、クラッチ締結時の急激な慣性力増大に備えた側圧をドライブプーリに与えることで逆走中のベルトスリップを保証していた。したがってドリブンプーリの側圧を上限まで増大させる場合、ドライブプーリに高い側圧がかかった状態にあると、ドライブプーリとドリブンプーリとの間の油圧差(DN-DR差圧)が十分ではなくなる可能性があり、
図1で説明したようにインギア状態でシフトポジションを前進(D)にしたままアクセル操作で後退車両を停止させて再発進する場合、CVTの変速比をLOWに保持することができなくなる。その結果、登坂逆行からの再加速での登坂性能が低下するという難点があった。
【0080】
これに対して、本実施形態によれば、インギア状態で逆行が検出されるとドライブプーリ26aの側圧を足軸トルク変動が考慮された側圧増大補正量Δ2だけ増大させ、この側圧増大補正量Δ2はスイッチバックを前提とした側圧増大補正量Δ1より小さく設定される。インギア状態ではスイッチバックのように前後進切換機構28のクラッチを締結した時の急激な慣性力増大がなく、足軸トルク変動に対応できる程度の側圧でよいためである。すなわち逆行中に発生する足軸トルク変動に対しては、側圧増大補正量Δ1より小さい側圧増大補正量Δ2によりベルトスリップの保証をすることができる。これにより、
図9に示すように、ドリブンプーリ26bの側圧を上限まで増大させる場合、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bとの間の油圧差(DN-DR差圧)を大きくすることができる。したがって、
図1で説明したようにインギア状態でシフトポジションを前進(D)にしたままアクセル操作で後退車両を停止させて再発進する場合でも、ベルトスリップを保証すると共にCVT26の変速比をLOWに保持することができる。すなわちCVT26のベルト26cの保護を確実に行いながら走行性能を低下させることがなく、運転者の違和感をなくすことができる。
【0081】
本実施形態によれば、インギア状態での逆行時に側圧増大補正量Δ2をトルクコンバータ24の逆転トルコン特性に基づいて算出する。たとえば逆転トルコン特性のトルコンスリップ率ETRが所定値(-70%)より大きい所定範囲Rでは足軸トルク変動が小さくなり、所定値(-70%)より小さい範囲で足軸トルク変動が大きくなる。この現象を利用することで、所定範囲Rで逆転スリップ率ETRが大きくほど側圧増大補正量Δ2をスイッチバック時の側圧増大補正量Δ1より小さく設定することができる。これによりドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bとの間の油圧差(DN-DR差圧)が大きくなり、上述したようにインギア状態での逆行から再発進する場合でもベルトスリップを保証すると共にCVT26の変速比をLOWに保持することが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
24 トルクコンバータ
26 CVT
26a ドライブプーリ
26b ドリブンプーリ
26c ベルト
28 前後進切換機構
44 レンジセレクタ
46 油圧供給機構
90 シフトコントローラ
91 プーリ側圧制御部
92 側圧増大補正量算出部
93 油圧指令値算出部