(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166822
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】イオン移動度分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/623 20210101AFI20221026BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20221026BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20221026BHJP
H01J 49/30 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
G01N27/623
H01J49/06 200
H01J49/42 150
H01J49/30
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061502
(22)【出願日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】202110429155.7
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン シャオチィアン
(72)【発明者】
【氏名】ワン カカ
(72)【発明者】
【氏名】スン ウェンジャン
【テーマコード(参考)】
2G041
5C038
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041CA02
2G041GA03
2G041GA06
5C038HH07
5C038HH16
(57)【要約】
【課題】イオン移動度分光器領域に属し、イオン源と、第一イオン保管領域と、第二イオン保管領域と、イオン移動度分析器とを含む、デューティサイクルの高いイオン移動度分析装置及び分析方法を開示する。
【解決手段】イオン移動度分析器は第一、第二という二つのチャネルを含み、チャネル内にイオン移動方向と同軸な気流と、気流方向と反対する直流電界とが含まれ、両チャネル内の直流電界は電界強度が異なり、一つの連続的な走査周期内において、適切な走査条件に達していないイオン、又は適切な走査条件を逃して該イオン移動度分析器を通過できないイオンが、損失されることなく、二つの独立したイオン保管領域の中に一時的に保管され、該作動周期、又は次の作動周期の条件が適切になる時、移動度分析器を通過して分析される。本発明は、濾過型イオン移動度分光器のデューティサイクルを向上させ、その感度及び実際の分析のときの定性能力を向上させることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物イオンを含むイオンを連続的に生成するイオン源と、
前記イオン源の下流に位置する第一イオン保管領域と、
前記イオン源の下流に位置する第二イオン保管領域と、
前記イオン源の下流に位置し、前記イオン源から生成されるイオンを受け取り、移動度の分析を行うためのイオン移動度分析器と、を含み、
前記イオン移動度分析器はt0からt1までの一つの作動周期内において、少なくとも一つの作動パラメータf(t)を走査することで、異なる移動度のイオンを前記イオン移動度分析器を順次に通過させ、前記作動パラメータf(t)は時間tの単調関数であり、前記分析物イオンが前記イオン移動度分析器を通過できる作動パラメータ区間は[f(tA),f(tB)]であり、且つt0<tA<tB<t1であって、
前記作動周期は複数回繰り返され、且つ各作動周期内において、
t0≦t<tA段階では、該段階で前記イオン移動度分析器により濾過された前記分析物イオンの少なくとも一部が、前記第一イオン保管領域に輸送され保管され、
tB<t≦t1段階では、該段階で前記イオン移動度分析器により濾過された前記分析物イオンの少なくとも一部が、前記第二イオン保管領域に輸送され保管され、
tA≦t≦tB段階では、前記イオン源から生成される分析物イオン、同じ作動周期内において前記第一イオン保管領域に保管されている分析物イオン、及び一つ前の作動周期内において前記第二イオン保管領域に保管されている分析物イオンが、前記イオン移動度分析器を通過し、下段の分析装置に入るか又は検出器に検出されることができることを特徴とする、イオン移動度分析装置。
【請求項2】
前記イオン移動度分析器は第一チャネルと第二チャネルとを含み、移動度の分析を行う時に、前記イオン源から生成されるイオンが前記第一チャネルと前記第二チャネルとを順次に通過し、且つ、
設定されたイオン移動度K1よりも大きいイオンのみが第一チャネルを通過できるとともに、設定されたイオン移動度K2(K1<K2)よりも小さいイオンのみが第二チャネルを通過できることにより、移動度がK1とK2との間にあるイオンのみが前記イオン移動度分析器を通過でき、或は、
設定されたイオン移動度K1よりも小さいイオンのみが第一チャネルを通過できるとともに、設定されたイオン移動度K2(K2<K1)よりも大きいイオンのみが第二チャネルを通過できることにより、移動度がK1とK2との間にあるイオンのみが前記イオン移動度分析器を通過できることを特徴とする、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項3】
前記第一チャネルと前記第二チャネル内には、イオン移動方向と同軸な気流と、気流方向と反対する直流電界とが含まれ、前記第一チャネル内の直流電界は第二チャネル内の直流電界とは電界強度が異なることを特徴とする、請求項2に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項4】
前記作動パラメータf(t)は電界強度であることを特徴とする、請求項2又は3に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項5】
前記第一イオン保管領域は前記第二チャネルの前に位置し、前記第二イオン保管領域は前記第一チャネルの前に位置することを特徴とする、請求項2に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項6】
前記第一イオン保管領域は前記第一チャネルの前に位置し、前記第二イオン保管領域は前記第二チャネルの前に位置することを特徴とする、請求項2に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項7】
前記第一チャネルと第二チャネルはいずれも直線構造であり、且つ両者の間の夾角は90度以上であることを特徴とする、請求項4に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項8】
前記第一イオン保管領域と前記第二イオン保管領域内に、イオンを保管するためのRF電界と直流電界とが印加されることを特徴とする、請求項5又は6に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項9】
電界強度を走査する方法は、直線連続走査、曲線連続走査、分割走査又は上記走査方法の組み合わせであることを特徴とする、請求項4に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項10】
前記イオン移動度分析器の下流に位置する質量分析計をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項11】
前記質量分析計は四重極マスフィルタ又は磁気質量分析計であることを特徴とする、請求項10に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項12】
tA≦t≦tB段階では、前記分析物イオンが前記イオン移動度分析器を通過し、前記質量分析計に入り、この時、前記質量分析計の作動パラメータも該分析物イオンが該質量分析計を通過するのに適するように設置されることを特徴とする、請求項10に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項13】
分析物イオンを含むイオンを連続的に生成するイオン源を提供することと、
前記イオン源の下流に位置する第一イオン保管領域を提供することと、
前記イオン源の下流に位置する第二イオン保管領域を提供することと、
前記イオン源の下流に位置し、前記イオン源から生成されるイオンを受け取り、移動度の分析を行うためのイオン移動度分析器を提供することと、を含み、
前記イオン移動度分析器はt0からt1までの一つの作動周期内において、少なくとも一つの作動パラメータf(t)を走査することで、異なる移動度のイオンを前記イオン移動度分析器を順次に通過させ、前記作動パラメータf(t)は時間tの単調関数であり、前記分析物イオンが前記イオン移動度分析器を通過できる作動パラメータ区間は[f(tA),f(tB)]であり、且つt0<tA<tB<t1であって、
前記作動周期は複数回繰り返され、且つ各作動周期内において、
t0≦t<tA段階では、該段階で前記イオン移動度分析器により濾過された前記分析物イオンの少なくとも一部が、前記第一イオン保管領域に輸送され保管され、
tB<t≦t1段階では、該段階で前記イオン移動度分析器により濾過された前記分析物イオンの少なくとも一部が、前記第二イオン保管領域に輸送され保管され、
tA≦t≦tB段階では、前記イオン源から生成される分析物イオン、同じ作動周期内において前記第一イオン保管領域に保管されている分析物イオン、及び一つ前の作動周期内において前記第二イオン保管領域に保管されている分析物イオンが、前記イオン移動度分析器を通過し、下段の分析装置に入るか又は検出器に検出されることができることを特徴とする、イオン移動度分析方法。
【請求項14】
前記イオン移動度分析器は第一チャネルと第二チャネルとを含み、移動度の分析を行う時に、前記イオン源から生成されるイオンが前記第一チャネルと前記第二チャネルとを順次に通過し、且つ、
設定されたイオン移動度K1よりも大きいイオンのみが第一チャネルを通過できるとともに、設定されたイオン移動度K2(K1<K2)よりも小さいイオンのみが第二チャネルを通過できることにより、移動度がK1とK2との間にあるイオンのみが前記イオン移動度分析器を通過でき、或は、
設定されたイオン移動度K1よりも小さいイオンのみが第一チャネルを通過できるとともに、設定されたイオン移動度K2(K2<K1)よりも大きいイオンのみが第二チャネルを通過できることにより、移動度がK1とK2との間にあるイオンのみが前記イオン移動度分析器を通過できることを特徴とする、請求項13に記載のイオン移動度分析方法。
【請求項15】
前記第一チャネルと前記第二チャネル内には、イオン移動方向と同軸な気流と、気流方向と反対する直流電界とが含まれ、前記第一チャネル内の直流電界は第二チャネル内の直流電界とは電界強度が異なることを特徴とする、請求項14に記載のイオン移動度分析方法。
【請求項16】
前記作動パラメータf(t)は電界強度であることを特徴とする、請求項14又は15に記載のイオン移動度分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン移動度分光器に関し、特にデューティサイクルの高い濾過型イオン移動度分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン移動度分光器は、イオンの移動度又は微分移動度の分析に用いられる。イオン移動度分光器は、例えば、ドリフトセル式イオン移動度分光器(drift cell mobility)、進行波イオン移動度分光器(travelling wave ion mobility)、トラップ型イオン移動度分光器(trapped ion mobility)、高電界非対称波形イオン移動度分光器(FAIMS)、微分イオン移動度分光器(DMS)、及び微分イオン移動度分析器(DMA)など、多様な形態がある。これらのイオン移動度分光器はそれぞれ作動方法が異なり、そのうち、DMA、DMS、FAIMSは移動度濾過型(mobility filter)に属し、即ち、特定の作動条件では、移動度分光器は特定の移動度(又は微分移動度)範囲内のイオンのみを通過させ、他のイオンが濾過されてすべて損失されることになり、作動条件を走査することによって、異なる移動度(又は微分移動度)のイオンを順次に通過させてスペクトルを得ることができる。例えば、微分イオン移動度分析器(DMA)について、気流方向に直交する電界の振幅を走査し、異なる移動度のイオンを順次に受け取ったスリットを通過させて移動度スペクトルを得ることができる。特許CN2017104191571に記載されるU型イオン移動度分光器については、第一チャネルと第二チャネルの電界強度E1とE2を同時に走査でき、且つE1とE2の差を変わらないように保つことができるため、異なる移動度のイオンを順次に該装置を通過させて移動度スペクトルを得ることができる。一つの走査周期内において、このような濾過型イオン移動度分光器は、イオンの利用効率が極めて低い。以下では業界慣行に従い、このイオン利用効率を、装置のデューティサイクル(duty cycle)と定義し、特に分解能の高い濾過型移動度分光器については、該デューティサイクルが通常1%未満である。
【0003】
非濾過型の移動度分光器においては、既にデューティサイクルを向上させる先行技術がある。例えば、ドリフトセル式イオン移動度分光器、進行波イオン移動度分光器、又はトラップ型イオン移動度分光器において、移動度分析器の入口の前にイオン保管領域を一つ設置することができる。移動度分析を行う前に、連続的なイオンの流れが該領域において絶えずに蓄積及び保管され、そして分析のために移動度分析器にパルス放出され、このように、理論的に100%のデューティサイクルを達成できる。しかしながら、該過程では、例えば分解能又はダイナミックレンジ等、ほかの性能の低減をもたらすことが避けられない。それに対して濾過型のイオン移動度分光器においては、濾過行為自体によるデューティサイクルの低減という事情で、従来技術では、デューティサイクルの高いイオン移動度分析装置が提供されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記課題に鑑みて、本発明は、濾過型イオン移動度分光器が連続的な走査を行う時のイオン利用効率を向上させることで、装置の感度を向上させることができる、デューティサイクルの高いイオン移動度分析装置が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的及び他の関連目的を実現するために、本発明は、イオン移動度分析装置及び対応のイオン移動度分析方法が提供され、該イオン移動度分析装置は、
分析物イオンを含むイオンを連続的に生成するイオン源と、
イオン源の下流に位置する第一イオン保管領域と、
イオン源の下流に位置する第二イオン保管領域と、
イオン源の下流に位置し、イオン源から生成されるイオンを受け取り、移動度の分析を行うためのイオン移動度分析器と、を含み、
イオン移動度分析器はt0からt1までの一つの作動周期内において、少なくとも一つの作動パラメータf(t)を走査することで、異なる移動度のイオンをイオン移動度分析器を順次に通過させ、作動パラメータf(t)は時間tの単調関数であり、分析物イオンがイオン移動度分析器を通過できる作動パラメータ区間は[f(tA),f(tB)]であり、且つt0<tA<tB<t1であって、
作動周期は複数回繰り返され、且つ各作動周期内において、
t0≦t<tA段階では、該段階でイオン移動度分析器により濾過された分析物イオンの少なくとも一部が、第一イオン保管領域に輸送され保管され、
tB<t≦t1段階では、該段階でイオン移動度分析器により濾過された分析物イオンの少なくとも一部が、第二イオン保管領域に輸送され保管され、
tA≦t≦tB段階では、イオン源から生成される分析物イオン、同じ作動周期内において第一イオン保管領域に保管されている分析物イオン、及び一つ前の作動周期内において第二イオン保管領域に保管されている分析物イオンが、イオン移動度分析器を通過し、下段の分析装置に入るか又は検出器に検出されることができる。
【発明の効果】
【0006】
上記のように、本発明のイオン移動度分析装置及び方法は、下記のような有益な効果を有する。
【0007】
一つの連続的な走査周期内において、適切な走査条件に達していないイオン、又は適切な走査条件を逃して該イオン移動度分析器を通過できないイオンが、損失されることなく、二つの独立したイオン保管領域の中に一時的に保管されることになり、該作動周期、又は次の作動周期の条件が適切になる時、分析のためにイオン移動度分析器を通過させるように駆動する。そうすると、濾過型イオン移動度分光器についても、理論的に100%に近いイオン利用効率を達成でき、イオン移動度分光器のデューティサイクルが向上され、その感度及び実際の分析に応用されるときの定性能力が向上されるようになる。本発明のイオン移動度分析装置及び方法は、例えばDMA、DMS/FAIMS、U型イオン移動度分光器等、複数種のイオン移動度分光器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第一実施形態におけるイオン移動度分析装置の分析フローの模式図である。
【
図2】従来技術におけるイオン移動度分析装置の構造及び一つの周期内の分析過程の模式図である。
【
図3】本発明の第一実施形態におけるイオン移動度分析装置の構造及び一つの周期内の分析過程の模式図である。
【
図4】従来技術におけるイオン移動度分析装置の直流電界走査の模式図である。
【
図5】本発明の第一実施形態におけるイオン移動度分析装置の直流電界走査の模式図である。
【
図6】本発明の第一実施形態におけるイオン移動度分析装置が複数種の目的物のイオン分析を行う時の走査方法の模式図である。
【
図7】本発明の第一実施形態におけるイオン移動度分析装置の実験結果である。
【
図8A】は従来技術におけるイオン移動度分析装置の分析過程の模式図である。
【
図8B】本発明の第二実施形態におけるイオン移動度分析装置の分析過程の模式図である。
【
図9】本発明のイオン移動度分析装置と質量分析計とを直列して使用するシステムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を、特定の具体的な実施例で説明し、当業者は、本明細書に掲載される内容から、本発明の他の利点および効果を容易に理解することができる。
【0010】
なお、本明細書の図面に示される構造、比例、サイズ等はいずれも、当業者が理解・読解できるように、本明細書に掲載されている内容と合わせて使用されるだけであり、本発明を実施できる条件を制限するためのものではないため、技術上の実質的な意味がない。本発明の効果および達成できる目的に影響しない限り、如何なる構造の修正、比例関係の変更やサイズの調整等も、本発明に掲載されている技術的内容がカバーできる範囲内に含まれるべきである。また、本明細書で引用される「上」、「下」、「左」、「右」、「中」、「一」などの用語も、説明の便宜上のものであり、本発明を実施できる範囲を限定するためのものではない。それらの相対的関係の変更または調整も、技術的内容が実質的に変更されない限り、本発明の実施可能な範囲と見なされるべきである。
【0011】
本明細書で言う「移動度」や「移動度分光器」は、イオン衝突断面(CCS)に関する「移動度」や「移動度分光器」を含むだけでなく、電界強度に関する「微分移動度」や「微分移動度分光器」をも含む。本明細書で言うイオンが或る装置や分析器を「通過する」とは、イオンが空間的に該装置や分析器の作動領域を経過し、下段の装置に輸送されるのができることを指す。
【0012】
図1は、本発明の第一実施形態の分析フローの模式図である。該分析フローは、走査型のイオン移動度分光装置に適用される。該装置は一つのイオン源1を含み、該イオン源1はイオンを大量に生成し、そのうち分析される目的分析物イオン及び他のイオンが含まれる。イオン源1の下流はイオン移動度分析器4であり、イオンが該イオン移動度分析器4により分析された後、検出器5に輸送されて検出され、イオン移動度スペクトルが形成される。該イオン移動度分析器4は周期的に走査する形で作動するように設置される。一つの典型的な作動周期をt
0からt
1までと定義し、該作動周期内において、イオン移動度分析器4は少なくとも一つの作動パラメータf(t)を走査し、好ましくはイオン移動度分析器内の電界強度E(t)を走査することで、異なる移動度のイオンをイオン移動度分析器4を順次に通過させる。目的分析物イオンの移動度値に対応して目的分析物イオンがイオン移動度分析器4を通過できる作動パラメータ区間は[E(t
A),E(t
B)]であり、ここで、t
0<t
A<t
B<t
1である。該装置は、さらにイオンを一時的に保管する領域を二つ含み、具体的には、いずれもイオン源1の下流に位置する、第一イオン保管領域2及び第二イオン保管領域3を含む。
【0013】
例えば第N周期などの該実施形態のいずれの作動周期も、下記三つの段階に分けられる。
【0014】
第一段階であるt0≦t<tA段階では、イオン移動度分析器4の条件(例えば電界強度条件)は目的分析物イオンの通過に適していなく、該段階でイオン源から生成される目的分析物イオンは、該イオン移動度分析器の一部の領域を経由して第一イオン保管領域2に入ることになり、保管される該部分の目的分析物イオンは「イオンI1(N)」と表記され、添え字の1は第一イオン保管領域2に保管されていることを表し、Nは第N周期において保管されていることを表す。この時、第二イオン保管領域3には一つ前の周期において保管された目的分析物イオンI2(N-1)が保管されている。その生成と保管の過程は後で説明する。
【0015】
第二段階であるtA≦t≦tB段階では、イオン移動度分析器4の条件は目的分析物イオンの通過に適しているので、該段階でイオン源1から生成される目的分析物イオンは、同じ周期において第一イオン保管領域2に保管されている目的分析物イオンI1(N)、及び一つ前の周期において第二イオン保管領域3に保管されている特定の分析物イオンI2(N-1)とともに、イオン移動度分析器4に入って完全に通過し、そして検出器5に到達して検出される。該段階が完了された後、第一イオン保管領域2及び第二イオン保管領域3の中のイオンはクリアされる。
【0016】
第三段階であるtB<t≦t1段階では、イオン移動度分析器4の条件は再び目的分析物イオンの通過に適さなくなり、該段階でイオン源1から生成される目的分析物イオンは、該イオン移動度分析器4の一部の領域を経由して第二イオン保管領域3に入ることになり、保管される該部分の目的分析物イオンは「イオンI2(N)」と表記され、第一イオン保管領域2は依然としてイオンがクリアされた状態に保たれる。
【0017】
次の周期、即ち第N+1周期では、上記三つの段階が繰り返されることになる。例えば、第一段階ではイオンI1(N+1)が引き続き保管され、第二段階ではイオンが完全に輸送され、第三段階ではイオンI2(N+1)が保管されることになる。各周期は今回の分析が終わるまで順次に循環される。
【0018】
本実施形態では、第一周期ではI2(0)は実際に空のイオンパックであり、最後の周期のMでは、I2(M)はイオン移動度分析器4に入る機会がないため、一回の分析が終わるときには、次の分析に影響しないように、クリア段階を別途設置してI2(M)をクリアしてもよい。
【0019】
該実施形態では、二つのイオン保管領域が採用されるため、一つの連続的な作動周期内において、適切な走査条件に達していないイオン、又は適切な走査条件を逃して該イオン移動度分析器4を通過できないイオンが、損失されることなく、二つのイオン保管領域の中の一つに一時的に保管され、該作動周期、又は次の作動周期の条件が適切になる時、これらのイオンが輸送され、イオン移動度分析器4を通過して分析されることになる。上記の手段により、ほぼ全ての目的分析物イオンが最終的にイオン移動度分析器4を通過して分析・検出され、走査過程中のイオン損失が効果的に低減されるため、イオンの利用効率、言い換えれば該イオン移動度分析装置のデューティサイクルは、100%に近い水準に達することができる。それに対して従来の走査過程では、そのデューティサイクルは全周期にイオンが輸送に適している時間が占める割合に依存するが、該比例は常に分解能又は走査範囲と負の関連があるため、高い分解能又は広い走査範囲に達するにはデューティサイクルは常に極めて低くなり、装置の感度が制限されてしまう。
【0020】
図2から
図5は、従来技術と本発明の第一実施形態との相違点を比較している。そのうち、
図2と
図4は従来技術の装置図及び直流電界走査模式図であり、
図3と
図5は本発明の第一実施形態の装置図及び直流電界走査模式図である。従来技術におけるイオン移動度分析器は、特許CN2017104191571に記載されるU型移動度分析器である。該U型移動度分析器は、平行する第一チャネル40と第二チャネル41と、二つのチャネルが含まれている。各前記チャネルは、電極アレイが存在する基板42及びその上を覆う電極アレイ43(図面ではその中の一つの基板及び電極アレイにおける一つの電極のみが表記されている)に囲まれて形成され、且つチャネル内にはイオン移動方向と同軸な気流と、気流方向と反対する直流電界とがあり、第一チャネル40内の直流電界の電界強度(E
S1)は第二チャネル41内の電界強度(E
S2)よりも少し低く、これにより、一つの作動周期における特定のタイミングに、特定の設定されたイオン移動度K
1よりも大きいイオンのみが第一チャネル40を通過でき、且つ、設定されたイオン移動度K
2よりも小さいイオンのみが第二チャネル41を通過できる。ここで、K
1<K
2である。従って、移動度がK
1とK
2との間にあるイオンのみがU型移動度分析器を通過できることになり、即ち、該分析器は濾過型イオン移動度分析器である。
図4を参照して、一つの作動周期内において、E
S1とE
S2は徐々に増加している。例えば、E
S1はE
0からE
1まで直線的に走査され、そして全走査過程において両者の差ΔE=E
S2-E
S1が変わらないように保たれる。目的分析物イオンの移動度はK
Tであり、該目的分析物イオンの通過に適する条件はE
A<E
S1<E
Bである。該分析器について、概ねΔE=E
B-E
Aと認定してもよい。下記は
図4に示す従来技術の一つの作動周期内の走査過程である。
【0021】
図4における太い破線に示すように、走査が始まる時(t=t
0)、E
S1=E
0、E
S2=E
0+ΔEであり、そしてE
S1とE
S2は同期に増加し、t=t
Aになる時、E
S1=E
A、E
S2=E
A+ΔE=E
Bになる。t
0からt
Aまでの段階では、第一チャネル40内の電界強度が不足であるため、目的分析物イオンは気流に運ばれて第一チャネル40を通過し、偏向電界により第二チャネル41の右端に輸送されてから、気流に連れられて流され、損失されることになる。
【0022】
tAからtBまでの段階では、該イオン移動度分析装置は目的分析物イオンの通過に適するので、目的分析物が第一チャネル40を通過し、第二チャネル41の右端へ偏向されて、引き続き左に向かって第二チャネル41を通過し、最終的に第二チャネル41の出口を経由して下段に入る。該状態はt=tBまで続き、この時、ES1=EB、ES2=EB+ΔEになる。
【0023】
tBからt1までの段階では、ES1はEBからE1まで走査増加され、該段階では分析物イオンについて、第一チャネル40内の電界強度からイオンに印加される作用力の大きさは気流の影響を超えており、分析物イオンが第一チャネル40に入ってからすぐ電界強度により左に向かって左側末端まで押し付けられて損失されることになる。
【0024】
一方、
図3を参照して、本発明では、第二チャネル41の右側に第一イオン保管領域2が設置され、第一チャネル40の左側に第二イオン保管領域3が設置され、且つイオン保管領域の電界強度はイオン通過経路が覆う領域とは異なるように設置され、
図5に示すように、太い破線のE
S1とE
S2は走査過程におけるチャネル内の電界強度であり、太い実線はイオン保管領域内の電界強度であり、走査過程において変わらないように保たれることができる。下記は本発明における一つの走査過程である。
【0025】
走査が始まる時(t=t0)、ES1=E0、ES2=E0+ΔEであり、第二イオン保管領域3内の電界強度がE0であり、第一イオン保管領域2内の電界強度がE1であり、そしてES1とES2は同期に走査増加され、t=tAになる時、ES1=EA、ES2=EA+ΔE=EBになり、上記チャネル領域での電界強度の走査増加の過程において、イオン保管領域内の電界強度は変わらないように保たれる。t0からtAまでの段階では、チャネル内の電界強度が不足であるため、目的分析物イオンは気流に運ばれて第一チャネル40を通過し、偏向電界によって第二チャネル41の右端へ輸送され、該位置での第一イオン保管領域2内の電界強度が強いため、そのイオンに対する作用力が気流によって生成される作用力よりも大きく、分析物イオンは該領域から脱出することがなく、また、第二チャネル41内の電界強度はまだ弱いのでイオンを左へ輸送し続けることができず、イオンが第一イオン保管領域2内に保管されることになる。
【0026】
tAからtBまでの段階では、該イオン移動度分析装置は目的分析物イオンの通過に適するので、イオン源1から入った目的分析物イオンが第一チャネル40を通過し、第二チャネル41にU型偏向され、この時に第一イオン保管領域2内に保管されているイオンも同時に放出され、これらのイオンがともに第二チャネル41を通過し、そして第二チャネル41の出口を通過して下段に入る。該状態はt=tBまで続き、この時、ES1=EB、ES2=EB+ΔEになる。
【0027】
tBからt1までの段階では、ES1はEBからE1-ΔEまで走査増加され、該段階では分析物イオンについて、第一チャネル40内の電界強度は気流の影響を超えており、分析物イオンが第一チャネル40に入ってからすぐ電界強度により左に向かって左側まで押し付けられるが、左側にある第二イオン保管領域3内の電界強度が極めて低いのでイオンを引き続き押し付けられず、イオンは第二イオン保管領域3内に保管されることになり、これらのイオンは次の周期のtAからtBまでの段階において、第二イオン保管領域3から放出され、イオン源1から入ったイオンとともに第一チャネル40、第二チャネル41を通過して分析されることになる。
【0028】
実際の分析では、目的分析物イオンは一種類だけではない場合があり、或は非目的物分析の場合もある。本発明は、これらの場合にも適用される。
図6では、高、中、低移動度という三種類のイオンにそれぞれ対応する、三種類の目的物イオンの状況が示されている。走査過程において、高移動度のイオン(イオン源区から入ったものと一つ前の周期において第二イオン保管領域内に保管されているものとを含む)が先に走査され、中、低移動度のイオンが第一イオン保管領域2に保管され、それから、中移動度のイオン(イオン源1区から入ったものと第一イオン保管領域2内に保管されているものとを含む)が走査され、高移動度のイオンが第二イオン保管領域3に保管され、低移動度のイオンが引き続き第一イオン保管領域2に保管され、最後に、低移動度のイオン(イオン源1から生成されたものと第一イオン保管領域2内に保管されているものとを含む)が走査され、中、高移動度のイオンが第二イオン保管領域3内に保管されることになる。なお、該動的過程は走査過程において前記の電界強度の設置によって自然に発生するものであり、実際の操作中では、イオンがいつ保管領域から放出されるかを予め知る必要はない。即ち、該過程は走査範囲内におけるすべてのイオンにとって等価であり、無論、非目的物イオンの走査に適用することが可能であり、走査範囲内におけるすべてのイオンの利用効率(又はデューティサイクル)はいずれも100%に近い。
【0029】
図7は本発明の第一実施形態におけるイオン移動度分析装置が果たせる技術的効果を証明する実施例である。横軸は実験サンプルのm/zであり、縦軸は第一実施形態(即ち100%のデューティサイクルの走査方法)を採用するときに、得られるイオン信号強度が従来技術(即ち従来の走査方法)に比較して高められる倍数である。
図7では、異なる二種の作動周期(100ミリ秒と250ミリ秒)での結果が与えられている。より広い移動度範囲を選択して走査を行うと、本実施例ではイオン信号強度が顕著に向上され、一部のサンプルのイオン強度は1オーダーも向上されているとともに、分解能は変わらないように保たれ、或は少しだけ低減され、イオン移動度分析装置のデューティサイクルと分解能とが両立していることが分かる。
【0030】
図8では、従来技術(
図8Aを参照する)と本発明の第二実施形態におけるイオン移動度分析装置とが運転方法上の相違点を比較している。該実施形態のイオン移動度分析器は微分イオン移動度分析器(DMA)である。
図8Bに示すように、第二実施形態で提供されるイオン移動度分析装置では、従来のDMAを基に、イオン入口の下方に右側の第一イオン保管領域2と左側の第二イオン保管領域3を追加し、電界を走査することでイオンを順次にDMAを通過させ、その作動過程における輸送と保管は、UMAにおけるのとほぼ類似しており、適切な輸送条件に達していないものは第一イオン保管領域2内に一時的に保管され、適切な輸送条件を逃したイオンは第二イオン保管領域3内に一時的に保管され、輸送条件が適切になる時、すべてのイオンはともに輸送され分析される。
【0031】
図9は本発明の実施形態におけるイオン移動度分析装置と質量分析計とを直列して使用する場合の例である。本例における質量分析計は四重極-飛行時間型質量分析計であり、イオン移動度分析装置に使用されるイオン移動度分析器はU型イオン移動度分析器7であり、U型イオン移動度分析器の下段は順次に四重極マスフィルタ8(quadrupole mass filter)、コリジョンセル9(collision cell)及び飛行時間型質量分析計10(time of flight mass spectrometer)である。化学的特性が類似する特定の種類の物質(例えば脂肪系)の場合、イオンの移動度は質量電荷比(m/z)と一定の関連性があるため、イオン移動度の走査と質量電荷比の走査とを基本的に同期させることができる。即ち、特定の範囲内のまたは特定の移動度のイオンが通過する時に、四重極の条件を設置することで、対応する特定のm/z範囲内の又は特定のm/zのイオンを通過させることができる。このような操作方法により、現在一般的な多くのデータ収集方法の性能を向上させることができる。例えば、データ依存型収集(DDA)では、通常、複数種の親イオンを選択し、コリジョンセルを一つずつ通過させて開裂させ、子イオンのスペクトルが得られる。従来の方法では、イオン移動度走査自体のデューティサイクルが低いため、四重極走査と同期させても、親イオンの利用効率は低い。しかし、本発明の実施形態では、イオン移動度の走査はイオンを損失することがなく、四重極と同期してもイオンを損失することがないため、DDAの定量能力を大幅に高めることができる。一方、データ非依存型収集(DIA)では、このような方法はDIAの定性能力を向上させることができる。これらの収集過程では、イオン移動度分析器の走査は、直線的かつ連続的であってもよいが、非直線的、または非連続的であってもよい。走査過程が一方向であれば、即ち前記f(t)がtの単調関数であれば、100%に近いデューティサイクルを達成することができ、いずれも本発明の保護範囲内にある。
【0032】
本発明の変形例として、イオン移動度分析装置は、第一イオン保管領域2のみを有してもよく、または第二イオン保管領域3のみを有してもよく、言い換えれば、第一イオン保管領域2と第二イオン保管領域3とが一の領域に組み合わせられてもよい。従来技術と比較すると、単一のイオン保管領域を使用してもデューティサイクルは依然として向上されることができ、これらの場合も本発明の保護範囲内に含まれる。
【0033】
上記の実施形態及び実施例は、本発明の原理およびその効果を例示的に説明するためだけのものであり、本発明を制限するためのものではない。当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、上記の実施形態や実施例を修正または変更することができる。そのため、本発明に掲載された精神および技術的思想から逸脱しない限り、当該技術分野における通常の知識を有する者により行われるすべての同等の修正または変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0034】
1…イオン源
2…第一イオン保管領域
3…第二イオン保管領域
4…イオン移動度分析器
5…検出器
6…質量分析計
40…第一チャネル
41…第二チャネル
7…U型イオン移動度分析器
8…四重極マスフィルタ
9…コリジョンセル
10…飛行時間型質量分析計。