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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166844
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】土木建築材料用吸水防止材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
C09K3/18 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069575
(22)【出願日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2021071862
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593153428
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594147534
【氏名又は名称】大同塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 博邦
(72)【発明者】
【氏名】西田 直也
(72)【発明者】
【氏名】中村 尚武
(72)【発明者】
【氏名】河西 悠介
(72)【発明者】
【氏名】小林 勇輝
【テーマコード(参考)】
4H020
【Fターム(参考)】
4H020BA32
(57)【要約】
【課題】外部からの劣化因子の、土木建築材料へのさらなる浸入を抑制しつつ、すでに劣化因子が内在する土木建築材料であっても、鉄筋等の金属に対する腐食を十分に抑制することができる土木建築材料用吸水防止材を提供する。
【解決手段】
(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、ならびに(B)揺変剤を含んで成る土木建築材料用吸水防止材であって、
前記吸水防止材には、前記(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物ならびに前記(B)揺変剤に加え、(C)遅乾性の気化性防錆剤が含まれる、土木建築材料用吸水防止材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、ならびに(B)揺変剤を含んで成る土木建築材料用吸水防止材であって、
前記吸水防止材には、前記(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物ならびに前記(B)揺変剤に加え、(C)遅乾性の気化性防錆剤が含まれる、土木建築材料用吸水防止材。
【請求項2】
前記(C)遅乾性の気化性防錆剤の含有量は、前記(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、ならびに前記(B)揺変剤の総質量100質量%に対して0.03質量%~6質量%である、請求項1に記載の土木建築材料用吸水防止材。
【請求項3】
前記(B)揺変剤は、有機系揺変剤である、請求項1または2に記載の土木建築材料用吸水防止材。
【請求項4】
前記(B)揺変剤は、水素添加ひまし油系、アマイドワックス系、酸化ポリエチレン系揺変剤、ポリオレフィン系揺変剤、硫酸エステル系、ダイマー酸エステル系、ポリカルボン酸系、および植物油系揺変剤からなる群より選択される少なくとも1種の有機系揺変剤である、請求項1または2に記載の土木建築材料用吸水防止材。
【請求項5】
(D)極性溶媒をさらに含んで成る、請求項1または2に記載の土木建築材料用吸水防止材。
【請求項6】
(E)疎水性シリカ粉末をさらに含んで成る、請求項1または2に記載の土木建築材料用吸水防止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築材料用吸水防止材に関する。
【背景技術】
【0002】
吸水防止材は、土木建築用途に用いられる場合がある。例えば、吸水防止材は、鉄筋コンクリートに対して用いられることがある。例えば、特開2003-155582号公報(特許文献1)に記載の吸水防止材が鉄筋コンクリート中の鉄筋に対して腐食を防止することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-155582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物が土木建築材料(より具体的には、鉄筋コンクリート)に対する吸水防止材として有用である。例えば、吸水防止材を土木建築材料に塗布することで、塗布後の土木建築材料は、水および塩分等の劣化因子の外部からの浸入を抑制することができる。
【0005】
ところで、本発明者らは、鋭意検討した結果、アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物は、吸水防止材として有用であるものの、改善する余地があることを見出した。例えば、劣化因子がすでに土木建築材料内に浸入している場合は、鉄筋コンクリート中の鉄筋は、その劣化因子によって腐食される。かかる場合、吸水防止材を土木建築材料に塗布しても鉄筋等の金属に対する腐食(より具体的には、錆等)をより十分に抑制することができなかった。このような問題は、例えば、土木建築材料の中でも特に屋外に設置された既設の土木建築材料で顕在化しやすい。既設の土木建築材料は、劣化因子に対して暴露されている状態であり、雨天では風雨にさらされ、海辺では塩を含む水分にさらされ得る。
【0006】
本発明は係る課題に鑑みて為されたものである。すなわち、本発明の主たる目的は、外部からの劣化因子の、土木建築材料へのさらなる浸入を抑制しつつ、すでに劣化因子が内在する土木建築材料であっても、鉄筋等の金属に対する腐食をより十分に抑制できる土木建築材料用吸水防止材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、すでに劣化因子が内在している土木建築材料では、吸水防止材を塗布しても、劣化因子が鉄筋等の金属の周辺に浸透することを防止できないために、上記金属が腐食することを見出した。このような技術的知見に基づき、(B)気化性防錆剤の特性に着目し、土木建築材料中の、空隙のような微細構造を介して、劣化を防止したい鉄筋等の金属周辺に防錆剤を進入させ、鉄筋等の金属周辺を防錆雰囲気とすることで、鉄筋等の金属に対する腐食をより十分に抑制することができることに想到した。本明細書では、土木建築材料中の空隙とは、例えば、土木建築材料が鉄筋コンクリートである場合、コンクリートに含まれる水分が揮発して生じた微細な空隙をいう。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、下記項1に係る土木建築材料用吸水防止材を包含する。
項1.
(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、ならびに(B)揺変剤を含んで成る土木建築材料用吸水防止材であって、
前記吸水防止材には、前記(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、ならびに前記(B)揺変剤に加え、(C)遅乾性の気化性防錆剤が含まれる、土木建築材料用吸水防止材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の土木建築材料用吸水防止材は、外部からの劣化因子の、土木建築材料へのさらなる浸入を抑制しつつ、すでに劣化因子が内在する土木建築材料であっても、鉄筋等の金属に対する腐食をより十分に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で言及する数値範囲は、「未満」および「より多い/より大きい」などの特段の用語が付されない限り、下限値および上限値そのものも含むことを意図している。つまり、3質量%~10質量%といった数値範囲を例にとれば、その数値範囲は下限値「3質量%」および上限値「10質量%」を含むものとして解釈される。また、「約」および「程度」といった用語は、対象とする数値の数パーセント(例えば、±10%)の変動を含み得ることを意味する。
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る土木建築材料用吸水防止材(以下、単に「吸水防止材」と称する)を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、すでによく知られた事項の詳細な説明、あるいは実質的に同一の構成に対する重複設営を省略する場合がある。これは、説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、以下で説明する形態などは、本発明に係る実施形態を説明するためのものであって、本発明を特に限定するものではない。
【0012】
本実施形態に係る吸水防止材は、
(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、ならびに(B)揺変剤を含んで成る吸水防止材であって、
前記吸水防止材には、前記(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物ならびに前記(B)揺変剤に加え、(C)遅乾性の気化性防錆剤が含まれる。
本実施形態に係る吸水防止材は、(D)極性溶媒および/または(E)疎水性シリカ粉末をさらに含んで成ってもよい。以下、これら(A)~(E)成分を説明する。
【0013】
[(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物]
本実施形態に係る吸水防止材が(A)アルキルアルコキシランおよび/またはその縮合物を含むと、外部からの劣化因子の、土木建築材料へのさらなる浸入を抑制しつつ、すでに劣化因子が内在する土木建築材料であっても、鉄筋等の金属に対する腐食をより十分に抑制することができる。アルキルアルコキシシランおよびその縮合物は、土木建築材料の表面を改質し、その表面(より具体的には、内表面および外表面)に疎水性のアルキル基等が配向した吸水防止層を形成し、撥水を発現させ得る。この吸水防止層は、例えば、鉄筋コンクリート内の鉄筋の水との接触を抑制することで、鉄筋コンクリートに防錆効果を付与する。
【0014】
アルキルアルコキシシランは、アルコキシ基が土木建築材料の表面(内表面および外表面)とシランカップリング反応を起こしてアルキル基等を土木建築材料の表面に配列させる。配列したアルキル基が疎水基であるために、改質した土木建築材料表面は吸水防止性(撥水性)を有する。このようにアルキルアルコキシシランは、土木建築材料に撥水性を付与することができる。
【0015】
アルキルアルコキシシランとしては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1):
Si(OR4-n (1)
[一般式(1)中、Rは炭素原子数1~20のアルキル基を表し、Rは炭素原子数1~4のアルキル基を表し、nは1または2を表し、nが2を表す場合、複数のRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい]
で表される化合物が挙げられる。
【0016】
一般式(1)中、Rで表される炭素原子数1~20のアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状であってもよい。Rで表される炭素原子数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基およびイコシル基からなる群より選択される少なくとも1種である。炭素原子数が20以下であると、アルキルアルコキシシランの土木建築材料内部への進入しやすいため、好ましい。Rで表される炭素原子数1~20のアルキル基は、これらの中でも、アルキル基の疎水性を高め、吸水防止材の撥水性付与機能を向上させる点をより重視するならば、炭素原子数4~20のアルキル基が好ましく、炭素原子数4~12のアルキル基(より具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、および/またはドデシル基等)がより好ましく、炭素原子数4~8のアルキル基がさらに好ましく、炭素原子数5~7のアルキル基が特に好ましく、例えば、ヘキシル基が好ましい。
【0017】
で表される炭素原子数1~20のアルキル基は、置換基をさらに有していてもよい。このような置換基としては、例えば、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、クロロプロピル基、およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種である。これらの置換基を有する場合、通常置換基の数は1個である。
【0018】
一般式(1)中、Rで表される炭素原子数1~4のアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状であってもよい。Rで表される炭素原子数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、およびブチル基が挙げられる。Rで表される炭素原子数1~4のアルキル基は、これらの中でも、アルキルアルコキシシランの反応性を高め、容易に縮合でき、吸水防止材の吸水防止性を向上させる点をより重視するならば、炭素原子数1~3のアルキル基(より具体的には、メチル基、エチル基、およびプロピル基)が好ましい。さらに、炭素原子数1~3のアルキル基の中でも、作業性をより重視するならば、例えば、エチル基がより好ましい。アルキルアルコキシシランは、1または複数の置換基を有してもよい。複数の置換基を有する場合、複数の置換基が互いに同一であっても、または異なっていてもよい。置換基は、例えば、エポキシ基(グリシド基)、アミノ基、イソシアネート基、ビニル基、(メタ)アクリロイキシ基、およびハロゲン基からなる群より選択される。
【0019】
このようなアルキルアルコキシシランは、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、トリデシルトリメトキシシラン、トリデシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ペンタデシルトリメトキシシラン、ペンタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプタデシルトリメトキシシラン、ヘプタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、および3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0020】
アルコキシシランは、これらの中でも、入手が容易であり、吸水防止材の撥水性付与機能を向上させる点をより重視するならば、一般式(1)中のRで示されるアルキル基の炭素原子数が4以上であり、かつRで表されるアルキル基の炭素原子数が1~3のアルコキシシラン(より具体的には、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等)が好ましく、ヘキシルトリエトキシシランがより好ましい。これらのアルキルアルコキシシランは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい(すなわち、アルコキシシランの混合物として用いてもよい)。
【0021】
アルキルアルコキシシランは、気化性であってもよい。アルキルアルコキシシランが気化性であると、後述する(C)遅乾性の気化性防錆剤のように、土木建築材料の微細構造内へ進入しやすいため、土木建築材料の外表面だけでなく、内表面もより十分に改質して撥水性を付与することができる。本明細書において、アルコキシシランの気化性とは、後述する(C)遅乾性の気化性防錆剤の「気化性」と同義である。
【0022】
アルキルアルコキシシランの縮合物は、上記アルキルアルコキシシランの少なくとも1種が2分子以上で縮合した分子である。
【0023】
アルコキシシランの含有量は、吸水防止材100質量部に対して80~99質量部である。(A)アルコキシシランおよびまたはその縮合物の含有量は、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して、例えば、87~94質量部(87~94質量%)である。(A)の含有量は、防錆性および防錆剤浸透保持性(以下で詳細に説明する)をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して87~93質量部(87~93質量%)であることが好ましい。(A)の含有量は、撥水性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して90~94質量部(90~94質量%)であることが好ましい。(A)の含有量は、防錆性、撥水性および防錆剤浸透保持性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して90~93質量部(90~93質量%)であることが好ましい。
【0024】
[(B)揺変剤]
本実施形態に係る吸水防止材が(B)揺変剤を含むと、すでに劣化因子が内在する土木建築材料であっても、鉄筋等の金属に対する腐食をより十分に抑制することができる。その理由は、特定の理論に拘束されるわけではないが、以下のように推測される。吸水防止材が(B)揺変剤を含む場合、吸水防止材を土木建築材料の外表面に塗布し、塗布層を形成すると、比較的分子量の大きい揺変剤は、土木建築材料内部へ進入しにくく、塗布層表面に残留する傾向にある。このため、揺変剤は、塗布層において「ふた」のように作用し、(A)および(C)成分の大気中への揮発を抑制する。これにより、(A)および(C)成分の土木建築材料内部への進入を促進し、土木建築材料内部の内表面に(A)および(C)成分由来の吸水防止層を形成しやすいと考えられる。
【0025】
さらに(A)成分は土木建築材料内部の内表面に、例えば、カップリング反応により結合を形成するため、(A)成分に由来する吸水防止層はその機能(撥水性)を比較的安定して維持しやすい。これに対して、(C)成分は土木建築材料内部の内表面に物理吸着のような比較的弱い結合を形成するため、土木建築材料の内表面からの(C)成分の揮発および脱離により、通常、(C)成分に由来する吸水防止層はその機能(防錆性)を維持しにくい。しかしながら、本実施形態では、揺変剤が吸水防止層(吸水防止材の塗布層が乾燥した層)において残留し続けるために、特に(C)成分を土木建築材料内部に長期間留め、防錆性を維持すると考えられる。
【0026】
揺変剤としては、例えば、有機系揺変剤および/または無機系揺変剤が挙げられる。揺変剤は、これらの中でも、剥がれや白化を改善できる点をより重視するならば、有機系揺変剤が好ましい。
【0027】
有機系揺変剤は、好ましくは水素添加ひまし油系揺変剤、アマイドワックス系揺変剤、酸化ポリエチレン系揺変剤、ポリオレフィン系揺変剤、硫酸エステル系揺変剤、ダイマー酸エステル系揺変剤、ポリカルボン酸系揺変剤、および植物油重系揺変剤からなる群より選択される少なくとも1種である。有機系揺変剤は、これらの中でも、(A)成分との相溶性がよく、膨潤しやすいアマイドワックス系揺変剤がより好ましい。
【0028】
このような揺変剤として市販されているものとしては、例えば、ターレン5400-25(共栄社化学(株)製;アマイドワックス系揺変剤)、ターレン5500-25(共栄社化学(株)製;アマイドワックス系揺変剤)、フローノンSA-300(共栄社化学(株)製;酸化ポリエチレン系揺変剤)、ディスパロン(登録商標)4300(楠本化成(株)製;水素添加ひまし油系揺変剤)、ディスパロン(登録商標)6820-20M(楠本化成(株)製;アマイドワックス系揺変剤)、ディスパロン(登録商標)4200-20(楠本化成(株)製;酸化ポリエチレン系揺変剤)、A-S-A T-20(伊藤製油(株)製;水素添加ひまし油系揺変剤)、A-S-A T-1700(伊藤製油(株)製;アマイドワックス系揺変剤)、A-S-A D-10A(伊藤製油(株)製;酸化ポリエチレン系)等が挙げられる。市販の揺変剤は、これらの中でも、ターレン5400-25およびディスパロン(登録商標)6820-20Mが特に良好である。
【0029】
無機系揺変剤としては、例えば、ベントナイトが挙げられる。
【0030】
揺変剤の含有量は、吸水防止材に適度に粘度に調整して作業性を向上させ、かつ土木建築材料内部への進入を促進し、吸水防止性能をより長時間維持することができる点をより重視するならば、(A)成分100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、5~15質量部であることがより好ましい。
【0031】
(B)揺変剤の含有量は、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して、例えば、5.6~6.0質量部(5.6~6.0質量%)である。(B)の含有量は、防錆性および防錆剤浸透保持性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して5.6~5.9質量部(5.6~5.9質量%)であることが好ましい。(B)の含有量は、撥水性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して5.7~6.0質量部(5.7~6.0質量%)であることが好ましい。(B)の含有量は、防錆性、撥水性および防錆剤浸透保持性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して5.7~5.9質量部(5.7~5.9質量%)であることが好ましい。
【0032】
[(C)遅乾性の気化性防錆剤]
本実施形態に係る吸水防止材が(C)遅乾性の気化性防錆剤を含むと、外部からの劣化因子のさらなる浸入を抑制しつつ、すでに劣化因子が内在する土木建築材料であっても、鉄筋等の金属に対する腐食をより十分に抑制することができる。その理由は、特定の理論に拘束されるわけではないが、以下のように推測される。遅乾性の気化性防錆剤は、気化が比較的遅い気化性防錆剤である。吸水防止材を土木建築材料の外表面に塗布し塗布層を形成すると、塗布層中の遅乾性の気化性防錆剤は土木建築材料中の空隙のような微細構造を介して、土木建築材料内部へより効果的に進入する。そして、土木建築材料内部へ進入した状態を維持しやすい。これにより土木建築材料中の鉄筋等の金属周辺を防錆雰囲気とし、その状態を安定的に維持するため、金属の腐食を抑制することができる。
【0033】
本発明者らは、土木建築材料を構成する金属周辺を防錆雰囲気とするために、土木建築材料内部への効果的な進入に有利な遅乾性の気化性防錆剤の「遅乾性」に着目した。より具体的には、上述のように、遅乾性の気化性防錆剤は、気体形態で土木建築材料内部へ進入するため、微細構造へより効果的に進入しやすく、土木建築材料内部の内表面を被覆しやすい。特定の理論に拘束されるわけでないが、これは、遅乾性の気化性防錆剤が単分子レベルで孤立した状態の気体形態で土木建築材料内部へ十分に進入することができるためと考えられる。これに対して、例えば、液体形態の非気化性防錆剤(特に、液体形態が比較的長期間維持される非気化性防錆剤)では、複数の分子の集合体である液体形態で微細構造に進入するため、サイズの点で気体形態に比べ圧倒的に不利であり、このサイズの違いが進入しやすさに寄与していると考えられる。
【0034】
さらに、本発明者らは、金属周辺の防錆雰囲気を維持するために、遅乾性の気化性防錆剤の「遅乾性」に着目した。遅乾性の気化性防錆剤は、気化性が比較的遅く、適度な蒸気圧を有するため、金属周辺を継続して防錆雰囲気にしやすい。これに対して、速乾性の気化性防錆剤では、微細構造に進入すると考えられるものの、速乾性ゆえに微細構造から抜けやすいため、土木建築材料内部を長期間安定して防錆雰囲気に保持することが困難であると考えられる。
【0035】
このように、本発明は、微細構造へ進入(浸透)する性質と、微細構造で継続して保持される性質とをバランスよく兼ね備える遅乾性の気化性防錆剤の「遅乾性」に本発明者らが着目して完成させた発明である。本明細書では、このような遅乾性の気化性防錆剤の性質を「防錆剤浸透保持性」とも称する。
【0036】
なお、本明細書において、「気化性」とは、広義には、気化する性質をいい(特に、当業者において、通常「気化性」を有するものと認識されるものをいい)、狭義には、示差熱・熱重量測定機を用いて測定する質量減少率が後述する特定の数値範囲である場合をいう。また、「非気化性」とは、広義には、気化しない性質または気化しにくい性質をいい(特に、当業者において、通常「気化性」を有しないものと認識されるものをいい)、狭義には、示差熱・熱重量測定機を用いて測定する質量減少率が後述する特定の数値範囲である場合をいう。
【0037】
一方で、本発明者らは、遅乾性の気化性防錆剤を吸水防止材に単に含ませただけでは、遅乾性の気化性防錆剤の「気化性」によって、逆に防錆雰囲気をより十分に形成できないことを見出した。より具体的には、遅乾性の気化性防錆剤の「気化性」によって塗布層形成時にその大半が塗布層から揮発し、土木建築材料内部へより十分に進入できないこと、ならびに土木建築材料内部へ進入したわずかな量の遅乾性の気化性防錆剤も、その「気化性」によって土木建築材料内表面から徐々に揮発・脱離して減少し、防錆雰囲気を長期間維持できなくなることを見出した。
【0038】
本発明者らは、鋭意検討した結果、遅乾性の気化性防錆剤の「気化性」の有利な機能である「土木建築材料内部への進入しやすさ」を維持しつつ、不利な機能である「塗布膜形成時および吸水防止層形成後の大気中への蒸散」を抑制するために、(B)揺変剤と組み合わせることに想到した。より具体的には、揺変剤が比較的大きい分子量を有することに着目し、揺変剤を塗布層中および吸水防止層(塗布層が乾燥した形成された層)中で「ふた」のように作用させることで、遅乾性の気化性防錆剤の大気中への蒸散が抑制されることに想到した。本発明者によって、このようにして本実施形態に係る吸水防止材における(B)成分および(C)成分との組み合わせが想到された。換言すると、本実施形態の特徴は、吸水防止材の塗布層形成時は揺変剤によって遅乾性の気化性防錆剤の進入方向を土木建築材料内部へ制限しつつ、吸水防止層形成後は揺変剤によって気化性防錆剤を土木建築材料内部に留めることにある。なお、(A)成分も気化性を有し得ることから、かかる場合、同様の観点から、(A)成分は、(B)成分との組み合わせによって、土木建築材料に撥水機能を付与できる。
【0039】
遅乾性の気化性防錆剤は、吸水防止材を塗布して形成した塗布層から比較的短期間に気化する防錆剤であればよく、より具体的には、初期に固化状態を有し得る防錆剤であってもよい。このような気化性防錆剤としては、例えば、塩類(より具体的には、無機系酸塩類および/または有機系酸塩類)が挙げられ、特に鉄鋼用途をより重視するならば、無機系酸塩類としての硝酸系塩類および/または有機酸系塩類としてのカルボン酸塩類が挙げられる。硝酸系塩類としては、例えば、亜硝酸塩類(より具体的には、亜硝酸アミン塩類等)挙げられる。カルボン酸塩類としては、例えば、カルボン酸アミン塩類および/またはカルボン酸エステル類が挙げられる。これらの遅乾性の気化性防錆剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。遅乾性の気化性防錆剤は、これらの中でも、(A)成分との相溶性がよいものが好ましい。
【0040】
本明細書において「遅乾性」とは、広義には、気化が比較的遅いこと(気化性が比較的低いこと)をいう。「遅乾性」とは、狭義には、示差熱・熱重量測定機を用いて測定する質量減少率が後述する特定の数値範囲である場合をいう。また、本明細書において「速乾性」とは、広義には、気化が比較的速いこと(気化性が比較的高いこと)をいう。「速乾性」とは、狭義には、示差熱・熱重量測定機を用いて測定する質量減少率が後述する特定の数値範囲である場合をいう。
【0041】
気化性防錆剤の気化性は、常温常圧環境下(温度25℃、および1気圧の環境下)で示差熱・熱重量測定機(TG-DTA、(株)リガク社製「Thermo Plus EVO」)用いて測定することができる。所定量(15mg)の気化性防錆剤を測定器に入れ、特定の温度プロファイル(開始温度25℃→昇温(昇温速度10℃/分)→保持(60℃に到達した後、120分間60℃に保持))に沿って試料を加熱した際の試料の質量変化量を測定し、開始温度における質量に対する特定の温度における質量減少率(%)を算出する。なお、この気化性の判定は、本明細書では対象となる気化性防錆剤の成分が100%の状態で測定することによって行われる。本明細書において、「気化性」とは上記方法で算出した質量減少率(%)が0%を超える数値範囲に含まれる場合をいい(狭義の定義)、「非気化性」とは上記測定方法で決定される質量減少率(%)が0%以下(すなわち、0%)の数値範囲に含まれる場合をいう(狭義の定義)。さらに、「気化性」が「速乾性」であるとは、本明細書では、上記測定方法で決定される質量減少率(%)が25%を超える数値範囲に含まれる場合をいい(狭義の定義)、「気化性」が「遅乾性」であるとは、本明細書では、上記測定方法で決定される質量減少率(%)が0%を超えて25%以下の数値範囲に含まれる場合をいう(狭義の定義)。
【0042】
このような遅乾性の気化性防錆剤として市販されているものを用いてもよい。このような市販の気化性防錆剤としては、例えば、VERZONE Crystal#150(大和化成研究所(株)製;亜硝酸アミン塩類)、VERZONE Crystal#260(大和化成研究所(株)製;亜硝酸アミン塩類)および/またはVERZONE CRコート50(大和化成研究所(株)製;カルボン酸アミン塩類)等が挙げられる。
【0043】
遅乾性の気化性防錆剤の含有量は、(A)成分との相溶性にもよって決められるが、土木建築材料内部(より具体的には、鉄筋コンクリート内の細孔等)の防錆雰囲気を形成する点をより重視するならば、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.03~6質量部(0.1~20質量部)であり、より好ましくは0.3~6質量部(1~20質量部)である。鉄筋コンクリート内の細孔容積は、一般に鉄筋コンクリート総容積に対して0.1mL/gである。土木建築材料内部の細孔等の総体積に対する気化性防錆剤の質量が5mg/L程度では防錆効果を示し、20mg/Lでは錆が有意に認められない。これらを考慮すると、鉄筋を覆うコンクリートの厚み(いわゆる鉄筋かぶり)40mmの土木建築材料では、気化性防錆剤の含有量は、さらに好ましくは0.3~3質量部(1~10質量部)である。なお、上記(C)成分のかっこ書内の数値範囲は、本実施形態に係る吸水防止材を調製する際に使用する(C)成分を含む混合物(例えば、(C)成分溶液のような(C)成分含有混合物)の含有量の数値範囲を示す。混合物における(C)成分の含有率を30質量%とした場合の(C)成分含有混合物の含有量の数値範囲である。次段落のかっこ書内の数値範囲も同様である。
【0044】
気化性防錆剤の含有量は、(A)成分に由来する撥水性をより十分維持しつつ、かつ防錆雰囲気を形成する点をより重視するならば、1.5~4.5質量部(5~15質量部)がより好ましい。
【0045】
(C)遅乾性の気化性防錆剤の含有量は、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して、例えば、0.03~7.0質量部(0.03~7.0質量%)である。(C)の含有量は、防錆性および防錆剤浸透保持性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して1.5~7.0質量部(1.5~7.0質量%)であることが好ましい。(C)の含有量は、撥水性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して0.03~4.3質量部(0.03~4.3質量%)であることが好ましい。(C)の含有量は、防錆性、撥水性および防錆剤浸透保持性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して1.5~4.3質量部(1.5~4.3質量%)であることが好ましい。
【0046】
[(D)極性溶媒]
本実施形態に係る吸水防止材では、極性溶媒は、必ずしも必須ではないが、吸水防止材の粘度を適切に調整し、1回の塗布量を多くすることで作業性を向上させることができることから、(D)極性溶媒をさらに含んで成ることが好ましい。
【0047】
極性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、および/もしくはイソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、および/もしくはメチルイソブチルケトン等のケトン類;ならびに/またはアセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。極性溶媒は、これらの中でも、工業的に入手が容易で、経済的な点をより重視するならば、アルコール類であることが好ましく、エタノール、および/またはイソプロピルアルコール等がより好ましい。これらの極性溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0048】
極性溶媒の含有量は、吸水防止材の粘度を適度に調整して作業性を向上させる点をより重視するならば、(A)成分および(B)成分の総質量100質量部に対して、1~5質量部であることが好ましく、1~3質量部であることがより好ましい。
【0049】
[(E)疎水性シリカ粉末]
本実施形態に係る吸水防止材では、疎水性シリカ粉末は、必ずしも必須ではないが、吸水防止材での揺変剤の分散性を向上させるとともに、吸水防止材を土木建築材料の外表面に塗布し、吸水防止層を形成した後(施工後)には、被覆した土木建築材料の吸水防止性を向上させる点をより重視すれば、疎水性シリカ粉末をさらに含んで成ることが好ましい。
【0050】
疎水性シリカ粉末としては、特に限定されるものではなく、例えば、原料の四塩化ケイ素を1000℃以上の火焔法の乾式法で製造し、親水性のシリカ(SiO)を得た後、これに、シラン類;ジメチルジクロロシラン、ジメチルポリシロキサン、メタクリロキシシラン、および/またはヘキサメチルジシラザン等のシロキサン類等で表面処理したもの等が挙げられる。
【0051】
このような疎水性シリカ粉末(E)は、一般に市販されているものを使用してもよい。このような市販の疎水性シリカ粉末(E)としては、例えば、アエロジル(登録商標)R805、アエロジル(登録商標)R972、アエロジル(登録商標)R711、アエロジル(登録商標)R202、アエロジル(登録商標)RY50、アエロジル(登録商標)RY300、および/またはアエロジル(登録商標)RX300(いずれも日本アエロジル(株)の製品)等が挙げられる。これらの疎水性シリカ粉末(E)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0052】
さらに、疎水性シリカ粉末(E)は、吸水防止材で被覆した土木建築材料表面での凹凸形成を充分にして紫外線からの保護の役割機能を充分に発揮するとともに、意匠性を悪化させない、作業性に支障をきたさない点をより重視するならば、特に、平均2次粒子径が7~40μm、比表面積が50~300m/gであることが好ましい。粒子径と比表面積は逆比例の傾向を示し、粒子径が小さいことは、すなわち比表面積が大きいことを意味する。なお、疎水性シリカ粉末(E)の粒子径は、例えば、粒度分布測定装置(ベックマン・コールター(株)製「コールターカウンター」)を用いた電気抵抗法、またはレーザー回析式粒度分布測定装置(マルバーン・パナリティカル社製「「マスターサイザー3000」)を用いたレーザー回析式粒度分布測定法で測定することができる。比表面積は、例えば、比表面積測定機(マイクロトラック・ベル(株)製「BELSORP MR6」)を用いたBET法で、測定することができる。なお、粒子径が7~40μm、比表面積が50~300m/gである疎水性シリカ粉末(E)としては、前記一般に市販されている商品の中では、例えば、アエロジル(登録商標)R805、アエロジル(登録商標)R972、アエロジル(登録商標)R711、アエロジル(登録商標)R202(いずれも日本アエロジル(株)の製品)等が該当する。
【0053】
疎水性シリカ粉末の含有量は、揺変剤の分散性の向上および粉立ちを抑えて吸水防止材の調製を容易にするとともに、施工後の吸水防止性を向上させる点をより重視するならば、(A)成分100質量部に対して、0~2質量部(0~2質量%)、特に0.1~2質量部(0.1~2質量%)が好ましく、吸水防止材を調製する際の分散性、得られる吸水防止材を施工した土木建築材料表面保護の点をより重視するならば、0.2~1.5質量部(0.2~1.5質量%)がより好ましく、経済的な点をより重視するならば、0.3~1.5質量部(0.3~1.5質量%)がさらに好ましい。
【0054】
(A)、(B)および(C)の含有量は、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して、例えば、それぞれ87~94質量部(87~94質量%)、5.6~6.0質量部(5.6~6.0質量%)および0.03~7.0質量部(0.03~7.0質量%)である。
(A)、(B)および(C)の含有量は、防錆性および防錆剤浸透保持性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して、好ましくはそれぞれ87~93質量部(87~93質量%)、5.6~5.9質量部(5.6~5.9質量%)および1.5~7.0質量部(1.5~7.0質量%)である。
(A)、(B)および(C)の含有量は、撥水性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して、好ましくはそれぞれ90~94質量部(90~94質量%)、5.7~6.0質量部(5.7~6.0質量%)および0.03~4.3質量部(0.03~4.3質量%)である。
(A)、(B)および(C)の含有量は、防錆性、撥水性および防錆剤浸透保持性をさらに向上させる観点から、(A)、(B)および(C)の合計質量100質量部(100質量%)に対して、好ましくはそれぞれ90~93質量部(90~93質量%)、5.7~5.9質量部(5.7~5.9質量%)および1.5~4.3質量部(1.5~4.3質量%)である。
【0055】
本実施形態に係る吸水防止材は、防腐剤、防カビ剤、防藻剤、防蟻剤、および紫外線吸収剤等のような添加剤をさらに含んで成ってもよい。
【0056】
[土木建築材料用吸水防止材の製造方法]
本実施形態に係る吸水防止材の製造方法の一例を説明する。本実施形態に係る吸水防止材は、例えば、(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、(B)揺変剤、および(C)遅乾性の気化性防錆剤、ならびにさらに必要に応じて(D)極性溶媒および(E)疎水性シリカ粉末を、室温下で、ホモミクサー、ウルトラディゾルバー、および高圧ホモジナイザー等のせん断力の強い撹拌機を用いて混合分散させることにより製造することができる。
【0057】
[土木建築材料への塗布方法]
本実施形態に係る吸水防止材の、土木建築材料への塗布方法の一例を説明する。本実施形態に係る吸水防止材を、土木建築材料の外表面に塗布し、形成した塗布層を乾燥することで、土木建築材料の外表面に吸水防止材由来の吸水防止層を形成することができる。
【0058】
土木建築材料への塗布手段として、例えば、ローラー(より具体的には、マスチックローラー等)、刷毛、およびスプレー等のいずれも用いることができるが、マスチックローラーを用いることが好ましい。
【0059】
本実施形態に係る吸水防止材は、通常、土木建築材料の外表面1mあたり200~500gを1回で塗布可能である。また、一度塗布が完了した面へ再塗布しても、吸水防止材中に水を含有していないためにハジキ現象を起こすこともなく、2回以上の重ね塗りが可能である。この時の進入深さは、塗り重ね回数を増やすごとに増していく。ここで、進入深さとは、吸水防止材が建築材料内に進入した長さをいい、土木建築材料の外表面からその外表面に直交し吸水防止材が進入した土木建築材料内部までの最大長さである。この特長により、本実施形態に係る吸水防止材は、新設の土木建築材料に塗布するだけでなく、新設時に本実施形態に係る吸水防止材を塗布した土木建築材料に、数年後に再塗布することも可能である。
【0060】
本実施形態に係る吸水防止材を塗布する土木建築材料としては、無機質材料および有機質材料が挙げられる。無機質材料としては、例えば、打放しコンクリート、軽量コンクリート、プレキャストコンクリート、軽量発泡コンクリート(ALC)、モルタル、目地モルタル、石綿セメント板、パルプセメント板、木毛セメント板、セメント系押出成形板、ガラス繊維入りセメント板(GRC)、カーボン繊維入りセメント板、珪酸カルシウム板、石膏ボード、ハードボード、漆喰、石膏プラスター、ドロマイトプラスター、ブロック、レンガ、タイル、瓦、天然石、人工石、ガラスウール、ロックウール、およびセラミックファイバーが挙げられる。また、有機質材料としては、例えば、木材、合板、およびパーティクルボードが挙げられる。また、土木建築材料は、有機質材料および無機質材料が混合した材料であってもよい。
【0061】
本実施形態に係る吸水防止材は、塗布作業時の温度(より具体的には、気温)の影響を受けにくく、気温が0~40℃の範囲において塗布可能である。
【0062】
本実施形態に係る吸水防止材の粘度は、20℃で1,000~10,000mPa・sであることが好ましく、1,100~7,000mPa・sであることがより好ましい。吸水防止材の粘度が20℃で1,000mPa・s以上であると、吸水防止材の塗布作業時の気温が30℃以上であっても、吸水防止材の粘度を500mPa・s以上の粘度を確保しやすい。これにより、吸水防止材を1回の塗布で1mあたり200g以上塗布しやすくなり、作業性が向上する。また、吸水防止材の粘度が20℃で10,000mPa・s以下であると、吸水防止材の流動性が低下しにくく、作業性が向上する。なお、本明細書における吸水防止材の粘度は、B型粘度計(東京計器製)を用いて、測定温度20℃、ローターNo.4、30rpmの条件で測定した粘度である。
【0063】
塗布層の乾燥手段としては、室温(より具体的には、25℃)下での放置による乾燥、天日乾燥、および加熱乾燥が挙げられる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本実施形態は、本発明の適用範囲の典型例を示したに過ぎない。したがって、本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々の変更がなされ得ることは当業者に容易に理解されよう。本発明の実施形態は、例えば、以下の態様を包含する。
【0065】
[1]
(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、ならびに(B)揺変剤を含んで成る土木建築材料用吸水防止材であって、
前記吸水防止材には、前記(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物ならびに前記(B)揺変剤に加え、(C)気化性防錆剤が含まれる、土木建築材料用吸水防止材。
[2]
前記(C)気化性防錆剤は、気化が遅い遅乾性の気化性防錆剤である、[1]に記載の土木建築材料用吸水防止材。
[3]
前記(C)気化性防錆剤の含有量は、前記(A)アルキルアルコキシシランおよび/またはその縮合物、ならびに前記(B)揺変剤の総質量100質量%に対して0.03~6質量%(0.1質量%~20質量%)である、[1]または[2]に記載の土木建築材料用吸水防止材。
[4]
前記(B)揺変剤は、有機系揺変剤である、[1]~[3]のいずれかに記載の土木建築材料用吸水防止材。
[5]
前記(B)揺変剤は、水素添加ひまし油系、アマイドワックス系、酸化ポリエチレン系揺変剤、ポリオレフィン系揺変剤、硫酸エステル系、ダイマー酸エステル系、ポリカルボン酸系、および植物油系揺変剤からなる群より選択される少なくとも1種の有機系揺変剤である、[1]~[4]のいずれかに記載の土木建築材料用吸水防止材。
[6]
(D)極性溶媒をさらに含んで成る、[1]~[5]のいずれかに記載の土木建築材料用吸水防止材。
[7]
(E)疎水性シリカ粉末をさらに含んで成る、[1]~[6]のいずれかに記載の土木建築材料用吸水防止材。
なお、[3]におけるかっこ書内の数値範囲は、上述した(C)含有混合物の含有量を示す。この場合、(A)、(B)および(C)の総質量100質量%に対する割合(単位:質量%)となる。
【実施例0066】
以下、実施例および比較例によりさらに詳しく本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものでない。
【0067】
(実施例1)
アルキルアルコキシシラン(ヘキシルトリエトキシシラン)92質量部、有機系揺変剤(共栄社化学(株)製「ターレン5400-25」;アマイドワックス系)6質量部、極性溶媒(イソプロピルアルコール)1質量部、疎水性シリカ粉末(日本アエロジル(株)製の「アエロジル(登録商標)R805」)1質量部および気化性防錆剤(大和化成研究所(株)製の「VEZONE CRコート50」、カルボン酸アミン塩類、気化性防錆剤の含有率30質量%、後述する表1中での表記「CR50」)15質量部(すなわち、気化性防錆剤の実質的な含有量4.5質量部)を、ホモミキサーを用いて高速撹拌して吸水防止材を得た。得られた吸水防止材の25℃における溶液粘度は600mPa・sであった。
【0068】
(比較例1)
気化性防錆剤の質量を15質量部から0質量部に変更した(つまり、気化性防錆剤を使用しないこと)以外は実施例1と同様にして、吸水防止材を得た。得られた吸水防止材の25℃における溶液粘度は800mPa・sであった。
【0069】
(比較例2)
アルキルアルコキシシラン、有機系揺変剤、疎水性シリカ粉末の質量を0質量部とし、極性溶媒の質量を100質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして吸水防止材を調製した。
実施例1および比較例1~2で得られた吸水防止材の組成を表1にまとめた。
【0070】
【表1】
【0071】
<防錆剤の気化性の判定方法>
常温常圧環境下(温度25℃、および1気圧の環境下)で示差熱・熱重量測定機(TG-DTA、(株)リガク製「Thermo Plus EVO」)用いて測定した。所定量(15mg)の防錆剤を測定器に入れ、特定の温度プロファイル(開始温度25℃→昇温(昇温速度10℃/分)→保持(60℃に到達した後、120分間60℃に保持))に沿って試料を1気圧下、開放系で加熱した際の試料の質量変化量を測定した。得られた測定値と、開始温度における質量とを用いて、開始温度における質量に対する特定の温度における質量減少率(%)を算出した。算出した質量減少率(%)から下記気化性の判定基準に基づいて、防錆剤の気化性を判定した。
(気化性の判定基準)
気化性(速乾性):質量減少率(%)が25%を超える
気化性(遅乾性):質量減少率(%)が0%を超え25%以下である
非気化性 :質量減少率(%)が0%以下である
実施例1の気化性防錆剤では、質量減少率(%)が4.4%であり、気化性(遅乾性)を有していた。
【0072】
<評価方法>
以下に記載する評価方法によって、吸水防止材の防錆性、撥水性および防錆剤浸透保持性を評価した。なお、特段の記載がない限り、これらの評価は、室温(より具体的には、20℃)、大気下(より具体的には、1気圧)および開放系で行われた。
[試験例1:防錆性]
(1)供試体の作製
所定量のセメント(ポルトランドセメント)、砂(神奈川県足柄上郡産)および水(水道水)を練り混ぜて、モルタルを調製した。得られたモルタルは、セメントと砂が1:3(質量比)で水/セメント比50質量%であった。略直方体状の供試体成形型枠に異形鉄筋(共栄製鋼(株)製「D16」、直径16mm)を入れ、さらにモルタルを充填しこの異形鉄筋がかぶり厚40mmとなるように埋没させた。1日間静置した後、供試体成形体を取り外した(脱枠した)。脱枠後、室温20℃、湿度100%で28日間の標準養生し、さらに室温20℃、湿度60%で14日間の気中養生を行った。得られた供試体を「塩分無しの供試体」とした。塩分無しの供試体は、劣化因子が内在しない土木建築材料を想定していた。
【0073】
供試体の塩分濃度が3.5kg/mとなるようにモルタルに塩分(キシダ化学(株)製「塩化ナトリウム 特級」)をさらに添加した以外は、塩分無しの供試体と同様にして供試体を作製した。得られた供試体を「塩分有りの供試体」とした。塩分有りの供試体は、既設の土木建築材料に似せるために塩分をあらかじめ混入したものであり、劣化因子としての塩分が内在する土木建築材料を想定していた。
実施例1および比較例1~2につき、それぞれ2つの供試体(塩分有りおよび塩分無し)を作製した。
【0074】
(2)試験方法
実施例1および比較例1~2で調製した吸水防止材を供試体上面に塗布量230g/mで塗布した後、乾燥させて、評価用塗布面を形成した。なお、評価用塗布面を形成した供試体の面は、その表面から供試体内部40mmに鉄筋が存在する面であった。
評価用塗布面に対して30サイクルの腐食試験を行った。1サイクルの内容は、供試体の評価用塗布面を3質量%の塩水に浸漬させて40℃で3日間静置した後、20℃で4日間乾燥させるものであった。供試体の塩水への浸漬は、供試体の評価用塗布面のみが塩水に接触するように浸漬させた。その塩分有りの供試体、および塩分無しの供試体についてそれぞれ30サイクルの腐食試験を行った。
【0075】
(3)評価方法
自然電位測定法を用いて鉄筋腐食を推定し、吸水防止材の防錆性を評価した。自然電位測定法は、照合電極(飽和塩化銀電極)に対する鉄筋の自然電位を測定することにより、アノード反応による鉄筋電位の低下(卑な方向への変化)の有無を調べ、鉄筋腐食の進行を推定する。これは、錆の生成メカニズムを利用した方法である。具体的には、鉄筋の腐食では、金属鉄がイオン化して表面から溶け出し、電子が生成するアノード反応と、生成した電子が水および酸素と反応するカソード反応とが進行し、溶け出した鉄イオンは水酸化イオンと反応して水酸化鉄や含水酸化鉄等となり、錆が生成する。
腐食診断器「(株)四国総合研究所製「CM-V」」を用い、照合電極として飽和塩化銀電極を採用し、腐食試験を実施した供試体の鉄筋の自然電位を測定した。得られた自然電位から、下記の評価基準に基づいて吸水防止材の防錆性を評価した。評価基準の閾値は、ASTM C876における鋼材の腐食性の判定の閾値に相当する。評価結果を表2に示す。
(防錆性の評価基準)
○(非常に良い):自然電位(E)が-80mVより大きく、90%以上の確率で鉄筋腐食の可能性はない
△(良い) :自然電位が-230mVより大きく-80mV以下であり、10%未満の確率で鉄筋腐食の可能性がある
×(悪い) :自然電位が-230mV以下であり、90%以上の確率で鉄筋腐食の可能性がある
【0076】
(試験例2:撥水性)
試験例1の供試体と同様の方法で、評価用塗布面を有する塩分有りの供試体を作製した。塗布面が水平となるように供試体を設置した。供試体の評価用塗布面上に直径2mmの水滴をのせ、接触角測定装置(協和界面科学(株)、接触角計S-150)を用いて接触角を測定した。得られた接触角から下記の評価基準に基づいて吸水防止材の撥水性を評価した。評価結果を表2に示す。
(撥水性の評価基準)
〇(非常に良い):水滴の接触角が120゜以上である
△(良い) :水滴の接触角が80°以上120゜未満である
×(悪い) :水滴が形成されず評価用塗布面を有する供試体内に直ちに吸水される
【0077】
(試験例3:防錆剤浸透保持性)
試験例1において防錆性を評価した塩分有の供試体の鉄筋付近のモルタルを粉砕し、モルタル粉末を得た。モルタル粉末に防錆剤と親和性がよい溶媒(メタノール)を添加し、十分に攪拌した。モルタル粉末から防錆剤を溶出させた。得られた溶出液について、ガスクロマトグラフ質量分析計((株)島津製作所社製「GCMS-QP5000」)を用いて測定し、防錆剤の存在を確認した。測定結果から下記評価基準に基づいて吸水防止材の防錆剤浸透保持性を評価した。評価結果を表2に示す。
(防錆剤浸透保持性の評価基準)
〇(非常に良い):防錆剤が明確に検出される(防錆剤に由来するピークのS/N比が2以上である)
△(良い) :防錆剤がわずかに検出される(防錆剤に由来するピークのS/N比が1以上2未満である)
×(悪い) :防錆剤が検出されない(防錆剤に由来するピークのS/N比が1未満である)
【0078】
(総合評価)
防錆性(塩分の有無での2つ判定)、撥水性および防錆剤浸透保持性の評価結果(4項目の評価結果)から下記評価基準に基づいて、総合的に評価した。総合評価の判定結果を表2に示す。
(総合評価の評価基準)
◎(非常に良い):防錆性、撥水性および防錆剤浸透保持性の評価結果がいずれも○である
○(良い) :防錆性、撥水性および防錆剤浸透保持性の評価結果がいずれも×ではなく、それらのうち1つまたは2つが△である
×(悪い) :防錆性、撥水性および防錆剤浸透保持性の評価結果のうち少なくとも1つが×であるか、または少なくとも3つが△である
【0079】
【表2】
【0080】
(実施例2~14および比較例3~6)
さらに、(B)~(C)成分として以下の化合物をそれぞれ準備した。
(A)成分
・アミノアルコキシシラン(信越化学工業(株)製「KBE-903」)
(B)揺変剤
・有機系揺変剤:水素添加ひまし油系(表1中の表記)、伊藤製油(株)製「A-S-A T-20」
・有機系揺変剤:酸化ポリエチレン系(表1中の表記)、楠本化成(株)製「ディスパロン4200-20」
(C)防錆剤
・大和化成研究所(株)製「VERZONE Crystal#130」(表1中の表記:#130);その他の酸アミン塩類、防錆剤の含有率100質量%、質量減少率98%、気化性(速乾性)
・大和化成研究所(株)製「VERZONE Crystal#150」(表1中の表記:#150);亜硝酸アミン塩類、防錆剤の含有率100質量%、質量減少率24%、気化性(遅乾性)
・大和化成研究所(株)製「VERZONE Crystal#260」(表1中の表記:#260);亜硝酸アミン塩類、防錆剤の含有率100質量%、質量減少率2.4%、気化性(遅乾性)
【0081】
次いで、表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~14および比較例3~8の吸水防止材をそれぞれ調製した。また、表1に示す組成のうち、(C)は、市販製品に含まれる有効成分(すなわち、遅乾性の気化性防錆剤)の添加量を示している。市販製品の一部は混合物の形態で流通していることに留意されたい(有効成分である防錆剤の含有率(単位:質量%)は別途記載している)。対象となる成分の質量を対象としている。例えば、ある成分が混合物の形態で市販されている場合、表1中の組成は混合物の質量ではなく、対象とする成分の質量を示す。なお、気化性防錆剤♯130、♯150および♯260は、市場では有効成分100質量%の固体形態で流通するが、調製する吸水防止材での溶解性を向上させる観点から、30質量%となるように気化性防錆剤を溶媒(具体的には、アルコール系溶剤)に加えて溶液を予め調製した。その後に、他の成分(A)および(B)と混合して吸水防止材を調製した。
【0082】
実施例1と同様にして、実施例2~14および比較例3~8についての防錆性、撥水性、防錆剤浸透保持性、および総合評価をそれぞれ行った。評価結果を表2に示す。
【0083】
実施例1~14の吸水防止材は、表1に示すように(A)アルキルアルコキシシランと、(B)揺変剤と、(C)遅乾性の気化性防錆剤とを含んでいた。つまり、実施例1~14の吸水防止材は、請求項1に係る発明の範囲に包含される吸水防止材であった。
実施例1~14の吸水防止材は、表2に示すように総合評価の判定結果が◎(非常に良い)および○(良い)のいずれかであった。
【0084】
比較例1~8の吸水防止材は、表1に示すように(A)アルキルアルコキシシランと、(B)揺変剤と、(C)遅乾性の気化性防錆剤とのうちいずれかを欠いていた。つまり、比較例1~8の吸水防止材は、請求項1に係る発明の範囲外の吸水防止材であった。詳しくは、比較例1および3の吸水防止材は、(C)を含んでいなかった。比較例2の吸水防止材は、(A)および(B)を含んでいなかった。比較例4の吸水防止材は、(A)を含んでいなかった。比較例5~6の吸水防止材は、(C)を含んでいなかった。比較例7~8の吸水防止材は、速乾性の気化性防錆剤を含んでおり、(C)を含んでいなかった。
比較例1~8の吸水防止材は、表2に示すように総合評価の判定結果がいずれも×(悪い)であった。
【0085】
よって、請求項1に係る発明の範囲に包含される吸水防止材が、請求項1に係る発明の範囲に包含されない吸水防止材に比べ、優れた、防錆性、撥水性および防錆剤浸透保持性を兼ね備えることが明らかである。これにより、鉄筋等の金属に対する腐食をより十分に抑制することができるものと考えられる。
【0086】
以上から、本願発明に係る吸水防止材が、当該本願発明に相当しない吸水防止材に比べ、外部からの劣化因子の、土木建築材料へのさらなる浸入を抑制しつつ、すでに劣化因子が内在する土木建築材料であっても、鉄筋等の金属に対する腐食をより十分に抑制することができることが分かった。
【0087】
((A)、(B)および(C)の含有量)
(A)、(B)および(C)の含有量を表3に示す。これらの含有量(単位:質量%)は、(A)、(B)および(C)の合計質量に対する比率を示す。
【0088】
【表3】
【0089】
表2および3に示すように、(A)、(B)および(C)の含有量がそれぞれ87~93質量%、5.6~5.9質量%および1.5~7.0質量%である場合(実施例4~7)、防錆性および防錆剤浸透保持性の評価結果はいずれも○(非常に良い)であった。(A)、(B)および(C)の含有量がそれぞれ90~94質量%、5.7~6.0質量%および0.03~4.3質量%である場合(実施例2~5)、撥水性の評価結果はいずれも○(非常に良い)であった。(A)、(B)および(C)の含有量がそれぞれ90~93質量%、5.7~5.9質量%および1.5~4.3質量%である場合(実施例4~5)、総合評価の評価結果はいずれも◎(非常に良い)であった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、土木建築材料外表面を被覆するための土木建築材料用吸水防止材に関し、特に既設の土木建築材料へのさらなる浸入を抑制しつつ、鉄筋等の金属に対する腐食をより十分に抑制することを可能にする有効な技術に関する。