(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166848
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】仔魚用飼養水とそれによる仔魚の養殖方法と仔魚の養殖装置及び仔魚用飼養水の製造方法並びに製造装置
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20221026BHJP
A01K 61/10 20170101ALI20221026BHJP
【FI】
A01K63/04 C
A01K61/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069890
(22)【出願日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2021071604
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】398053550
【氏名又は名称】有限会社情報科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】石橋 泰典
(72)【発明者】
【氏名】上村 親士
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA01
2B104BA06
2B104CA01
2B104EB01
2B104EB05
2B104EB07
(57)【要約】
【課題】仔魚の養殖において、飼育が成功するかどうかを左右する最大の課題は、仔魚が水面に浮上した段階で、水の表面張力によって捕捉され、再度水中へ戻れなくなって死滅することで、仔魚の収率が低下することが課題である。
【解決手段】溶存酸素濃度を高くした水に、水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブルを含有させ、表面張力を低下させた飼養水を用いて、10日齢までの仔魚を飼育することで、仔魚の浮上死率を低減させ、生残率や鰾開腔率を高めることができ、養殖の歩留まりを向上させることができる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブルを有し、溶存酸素濃度が1.0mg/L以上有することを特徴とする仔魚用飼養水。
【請求項2】
前記ウルトラファインバブルは、1ml当たり700万個より多く20億個以下の密度であることを特徴とする請求項1に記載された仔魚用飼養水。
【請求項3】
請求項1または2の仔魚用飼養水を用いて仔魚を養殖することを特徴とする仔魚の養殖方法。
【請求項4】
水槽と、
前記水槽に水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブルを供給する微細気泡発生部と、
前記水槽内に酸素を供給する酸素供給部を有することを特徴とする仔魚の養殖装置。
【請求項5】
水に水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブルを含ませる工程と、
前記水に酸素を供給する工程を有することを特徴とする仔魚用飼養水の製造方法。
【請求項6】
水槽と、
前記水槽に水を供給する水供給手段と、
前記水槽に水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブルを供給する微細気泡発生部と、
前記水槽内に酸素を供給する酸素供給部と、
前記水槽中の水を排出できる飼養水送水部を有することを特徴とする仔魚用飼養水の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
魚介類の種苗生産及び仔魚の安定生産に係る表面張力低減飼養水とそれによる養殖方法と養殖装置及び飼養水の製造方法並びに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
仔稚魚の養殖に関する出願では、餌に関する出願、養殖水槽に関する出願は多いが、養殖水槽の水の性質に関する抜本的な改善の出願は少ない。本件出願と関連の深い水の表面張力による仔魚の捕捉防止に関する出願は2件ほど見られた。他は海面通気養殖法が出願されていた。
【0003】
特許文献1は、飼育水槽内の水質の悪化を引き起すことがなく、仔魚の正常な発育を阻害することなしに、仔魚を飼育し得る方法を提供することにある。解決手段としては、水槽の水表面へ波を形成するための造波装置を備えることを特徴とする。原理は、波の発生によって、仔魚が表面張力によって水面に囚われ遊泳不可能な状態となって死亡するといういわゆる「浮上へい死」を防止することにある。この出願では小波による上下振動によって仔魚の水中への開放を助長しているが、水の表面張力を低下させるものではない。
【0004】
特許文献2は、仔魚の魚体にダメージを与えることなく、飼育水中に適当な乱流強度を提供することで、仔稚魚の生残率を向上させる方法を提供することにある。解決手段としては、仔魚及び餌料を含む飼育水中に、水を吐出させて、乱流エネルギー散逸率が1.0×10-8~1.0×10-7m2s-3の範囲の乱流を飼育水中に生成させ、乱流エネルギーで表面張力に捕捉される仔魚を防止する方法である。この出願では乱流強度の調整で表面張力に影響を及ぼすことによって、仔魚の水中への開放を助長しているが、水の表面張力そのものを低下させるものではない。
【0005】
特許文献3は、魚貝類、海草等を養殖している海面において、養殖している生物がいるところの直下に導設した送気管から海水中に空気を噴き出すことを特徴とする海面通気養殖法であって、本出願のウルトラファインバブルと曝気を組み合わせた方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-325527号公報
【特許文献2】特開2006-325458号公報
【特許文献3】特開平02-200132号公報
【特許文献4】特許第6040345号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
魚の養殖とは、通常は受精卵から成魚までの育成とも受け止められる。しかし、孵化した直後から1か月程度(大きさにしておよそ2cm未満)の仔魚時代と、2cm以上の大きさ以降では、対象魚の死亡原因が全く異なる。これは、仔魚の時代は、プランクトンに属しており、見た目も透明で物に接触するたけで死んでしまうほど弱いが、どの魚種も変態が完了して稚魚になると、種が明確に判別できるような成魚と同じ形態になり、輸送したり、飼育したりすることが容易になるためである。したがって、養殖業界も種苗生産業者と種苗を購入して育てる養殖業者に区分され、当業者にとっては仔魚の間と稚魚以降の養殖は、全く異なる養殖と考えられる。
【0008】
仔魚の養殖において、飼育が成功するかどうかを左右する最大の課題は、仔魚が水面に浮上した段階で、水の表面張力によって捕捉され、再度水中へ戻れなくなって死亡したり、鰾の開腔を失敗し骨が変形し死亡することで、仔魚の収率が低下することが課題である。このような課題は稚魚以降の魚にとっては、考慮する必要のない課題である。
【0009】
高密度の水素や酸素のウルトラファインバブルには表面張力を低下させる機能があり、仔魚が水面で捕まったり、鰾開腔に失敗するといった仔魚の成長に伴い発生する死亡原因を解消できることが期待できる。しかし、水素や酸素を含んだ数百nmの大きさのウルトラファインバブル(ナノバブル)は水中の溶存酸素を駆逐し、水に貧酸素状態を発生させるので、仔魚及び幼生の呼吸が不可能で、生きることができない。但し、ウルトラファインバブルは、生成後は長期水中に漂い表面張力を低下させるが、新たに注入された溶存酸素を駆逐することはない。
【0010】
また、孵化後20日齢までの2cmに満たない大きさしかない仔魚に対して、数百μmの大きさのファインバブル(マイクロバブル)は、仔魚の水中への潜航を邪魔し、むしろ浮上死につながるとも考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するために相当されたものであり、十分な溶存酸素と表面張力を低下させた飼養水で仔魚を養殖するものである。
【0012】
まず、本発明に係る仔魚用飼養水は、水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブルを有し、溶存酸素濃度が1.0mg/L以上有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る仔魚の養殖方法は、上記の仔魚用飼養水を用いて仔魚を養殖することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る仔魚の養殖装置は、
水槽と、
前記水槽に水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブルを供給する微細気泡発生部と、
前記水槽内に酸素を供給する酸素供給部を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る仔魚用飼養水の製造方法は、
水に水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブルを含ませる工程と、
前記水に酸素を供給する工程を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る仔魚用飼養水の製造装置は、
水槽と、
前記水槽に水を供給する水供給手段と、
前記水槽に水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブルを供給する微細気泡発生部と、
前記水槽内に酸素を供給する酸素供給部と、
前記水槽中の水を排出できる飼養水送水部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、溶存酸素を一定以上の濃度にした水に、大きさがミクロン未満の水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブル(以下「UFB」とも記載する。)を生成させ、低表面張力水でありながら、高濃度の溶存酸素を保有する仔魚養殖用の飼養水を生成することができる。
【0018】
すなわち、本発明に係る飼養水は、表面張力が通所の水よりも小さく、かつ十分な溶存酸素濃度を有するので、仔魚は水面に出ても、水面の表面張力で捕捉されることなく水中に戻ることができ、また鰾開腔の失敗も回避させることができ、養殖において仔魚の段階で死滅することがなく、生残率の高い養殖が可能になる。その結果仔魚の種苗生産、養殖が安定する。
【0019】
また、UFBは、仔魚の摂餌行動を積極化させることが分かった。これは、仔魚の代謝を活発化させることが原因と考えられる。言い換えると、UFBがあれば、代謝が活発化するので、仔魚が癒され、健全になって摂餌数や生残率を向上させる。結果、生産効率の向上に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】仔魚のワムシ摂餌数に及ぼす空気、水素および酸素ウルトラファインバブル水の影響を示すグラフである。
【
図2】仔魚の成長に及ぼす空気、水素および酸素ウルトラファインバブル水の影響を示すグラフである。
【
図3】浮上死率に及ぼす空気、水素および酸素ウルトラファインバブル水の影響を示すグラフである。
【
図4】生残率に及ぼす空気、水素および酸素ウルトラファインバブル水の影響を示すグラフである。
【
図5】仔魚のワムシ摂餌数に及ぼす高密度酸素ウルトラファインバブル水の影響を示すグラフである。
【
図6】仔魚の成長に及ぼす高密度酸素ウルトラファインバブル水の影響を示すグラフである。
【
図7】仔魚の鰾開腔率に及ぼす高密度酸素ウルトラファインバブル水の影響を示すグラフである。
【
図9】仔魚用飼養水製造装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係る仔魚用飼養水とそれによる仔魚の養殖方法と養殖装置及び仔魚用飼養水の製造方法並びに製造装置について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0022】
本発明において、仔魚用飼養水とは、魚介類の仔魚を主として養殖するための水であって、淡水でも海水でもよい。仔魚は、15日齢より若ければよく、より好ましくは13日齢、最も好ましくは10日齢以下の仔魚であるのがよい。これより成長し、稚魚となると、変態が完了して脊椎骨数も定数になり、鰾は開腔しており、体の重さが以前の1000倍以上になって水の表面張力で水面に捕捉されることなく、自力で水中に戻ることができるからである。
【0023】
本発明において、水素、酸素若しくは空気のウルトラファインバブル(UFB)とは、水素、酸素若しくは空気で作られた気泡で、好ましくは直径が1nm以上1μm未満のものを言う。この大きさの水素、酸素若しくは空気のUFBは、水中に存在させることで、水の表面張力(通常およそ72mN/m)を低下させることができる。
【0024】
仔魚用飼養水の表面張力は、72mN/m未満であればよく、65mN/m以下であれば好ましく、最も好ましくは55mN/m以下であればよい。なお、表面張力はプレート法で測定することができる。
【0025】
仔魚用飼養水中の水素、酸素若しくは空気のUFBの密度は、1ml当たり700万個より多く20億個以下、より好ましくは5000万個以上20億個以下の密度であるのが望ましい。この範囲の密度であれば、通常の水の表面張力より低い50mN/m以下の表面張力の水を得ることができる。なお、UFBの密度は公知の測定装置で測定することができる。具体的には、粒子軌跡解析法、動的光散乱法、レーザー解析・散乱法、電気的検知帯法、共振式質量測定法、動的画像解析法などが利用できる。
【0026】
なお、本明細書では、Malvern社製の「NanoSight LM10V-HS/CMOSカメラ」を測定装置として利用した(測定は株式会社イズミテック。)。したがって、水素、酸素若しくは空気のUFBの密度において疑義が生じた場合は、この装置での直接測定、もしくはこの装置との相関が明らかにされた装置での換算値によって、測定するのがよい。
【0027】
本発明における仔魚用飼養水は、水素、酸素若しくは空気のUFBを含むだけでなく、溶存酸素濃度も仔魚を飼育するために十分な濃度であることが必要である。通常1mg/L未満であると、仔魚の半数は死滅する。したがって、仔魚用飼養水は溶存酸素濃度が1mg/L以上、好ましくは3mg/L以上、最も好ましくは6mg/L以上であるのが望ましい。なお、水中の溶存酸素濃度は、8~9mg/Lで飽和するとされており、溶存酸素濃度の範囲に特に上限を設ける必要はない。なお、酸素のUFBと溶存酸素濃度は異なる指標であり、酸素のUFB密度が高くなっても溶存酸素濃度が高くなるものではない。
【0028】
溶存酸素を上記の値に維持するための方法は特に限定されないが、曝気装置は好適に用いることができる。
【0029】
なお、水素、酸素若しくは空気のUFBを含有させた後に、溶存酸素濃度を増やす順が好ましいが、実際は、水槽の水を循環させながら、水素、酸素若しくは空気のUFBの付与と、溶存酸素の増大を行う。したがって、水素、酸素若しくは空気のUFBの含有と溶存酸素の増大は同時若しくは順番を逆に行ってもよい。
【0030】
図8に本発明に係る仔魚の養殖装置1を示す。養殖装置1は、養殖用水槽10と、微細気泡発生部12と、酸素供給部14で構成される。養殖用水槽10は養殖する卵もしくは仔魚を入れ、所定日数の間養殖する容器である。蓋はなくてもよい。微細気泡発生部12は、水素、酸素若しくは空気供給源12bと、気泡水発生部12aで構成される。養殖用水槽10とは、吸引管12cと吐出管12dで連結されている。
【0031】
水素、酸素若しくは空気供給源12bは水素か酸素若しくは空気の何れかを供給する。もちろん、水素と酸素と空気を共に供給できるようにしてもよいし、切換によって水素か酸素か空気の一種だけを供給できるようにしてもよい。
【0032】
微細気泡発生部12は、吸引管12cから養殖用水槽10中の飼養水を吸入し、その飼養水に水素、酸素若しくは空気供給源12bからの水素ガス、酸素ガス若しくは空気をウルトラファインバブルとして混入させ、吐出管12dから養殖用水槽10中に戻す。
【0033】
気泡水発生部12aは、吸引管12cから吸入した飼養水に水素、酸素若しくは空気をウルトラファインバブルとして混入させる部分で、エジェクタ方式、キャビテーション方式、共鳴発泡方式といった公知の方法を利用することができる。なお、特許文献4の装置は気泡水発生部12aとして好適に利用できる。なお、微細気泡発生部12は、UFB発生機(水素UFB発生機、酸素UFB発生機、空気UFB発生機)または、UFB発生装置(水素UFB発生装置、酸素UFB発生装置、空気UFB発生装置)といってもよい。
【0034】
酸素供給部14は、ブロア14aおよび散気管14cで構成される。ブロア14aで養殖用水槽10中に配置した散気管14cに空気を送り、曝気することで養殖用水槽10中の飼養水に酸素を供給する。なお、ブロア14aから散気管14cに送る空気中に酸素供給源14bから酸素を含有させてもよい。
【0035】
図9には本発明に係る仔魚用飼養水製造装置5を示す。飼養水製造装置5は養殖装置1とほぼ同じ要素で構成することができる。すなわち、養殖用水槽10、微細気泡発生部12、酸素供給部14は
図8の養殖装置1の場合と同じでよい。飼養水製造装置5には、水供給手段20と飼養水送水部22が設けられる。
【0036】
水供給手段20は、供給源20aと送水管20bで構成される。供給源20aは、養殖水として利用できるものであれば海水もしくは淡水のどちらでもよい。また、飼養水を供給した水槽からの還元された養殖水であってもよい。送水管20bに流すための水圧を付加する仕組みは供給源20aに含まれていてよい。飼養水送水部22は、養殖用水槽10中に配したポンプ22aと送水管22bで構成される。
【0037】
飼養水製造装置5は、水供給手段20から養殖用水槽10中に供給された養殖水に水素、酸素若しくは空気のUFBを付加し、さらに溶存酸素濃度も高め、所定の水素、酸素若しくは空気UFB密度と溶存酸素濃度にした本発明に係る仔魚用飼養水に改変し、送水管22bから養殖用の水槽などに供給される。
【実施例0038】
以下の実施例で用いた本発明に係る仔魚用飼養水は、水素UFB、酸素UFB若しくは空気UFBが含有され、表面張力は50mN/mとなっている。UFBの粒度分布は、全て100nm付近に最大度数を有し、400nmを超える大きさのUFBは存在しなかった。
【0039】
また、溶存酸素濃度は、対照区の飼養水も本発明に係る場合の仔魚用飼養水も6.6mg/L前後となるように、水槽中に配置した曝気装置で調節した。
【0040】
また、以下の実施例で、UFBの存在により摂餌数(1尾あたりのワムシの摂取個数をいう。摂餌率と呼ばれる場合もある。)や、生残率が高まる点を示す。これは、UFBがあれば、代謝が活発化するので、健全になって摂餌数や生残率を向上させていると解釈できる。これをUFBによる仔魚への「癒やし効果」と呼ぶ。酸素UFBの場合は,それが顕著なために鰾開腔率の上昇に結び付く
が,代謝が高いために成長が低下してしまう。しかし,結果的には生産効率の向上に
繋がる。
【0041】
(実施例1)
各種ガスを充填したUFBの癒やし効果による仔魚の活動促進について、仔魚のワムシ摂餌数に及ぼす空気、酸素および水素UFB水の影響を調べた。具体的には、対照区の飼養水と空気UFB飼養水、酸素UFB飼養水、水素UFB飼養水による仔魚の活動を比較するため、仔魚の摂餌数の比較を行った。なお、空気UFB飼養水、酸素UFB飼養水、水素UFB飼養水は単に空気UFB水、酸素UFB水、水素UFB水とも呼ぶ。
【0042】
試験方法
仔魚の日齢毎に成長に合わせ、対照区の飼養水とこれに空気、酸素、水素のUFBを含有させた空気UFB水、酸素UFB水、水素UFB水とを比較した。空気UFB水、酸素UFB水、水素UFB水は、すべて同一の飼養水(対照区で用いたものと同じ水)で製造した。空気UFB水、酸素UFB水、水素UFB水を使用した水槽群をそれぞれ空気UFB水区、酸素UFB水区、水素UFB水区とする(以下の実施例でも同じ)。各区は3~4槽の水槽で構成される。
【0043】
(1)実験開始前日に200L水槽のカートリッジろ過した34psu(Practical Salinity Unit:実用塩分単位)海水を23-24℃に設定にした。用いた飼養水は溶存酸素濃度を6.4mg/Lに調製されたものであった。
(2)実験開始日に空気UFB水区、酸素UFB水区、水素UFB水区の海水をUFB発生機に1回循環させ、バブル密度を高めた。粒子密度は1mlあたり、空気UFB水区が4200万粒、水素UFB水区が2200万粒、酸素UFB水区が2600万粒であり、気泡径の分布に顕著な区間差はなかった。
(3)0日齢: 換水時にUFB発生機を一巡させた空気UFB水、酸素UFB水、水素UFB水をそれぞれ作成し、30L/水槽ずつ換水した。
(4)1-10日齢:毎日の換水時に上記と同様の空気UFB水、酸素UFB水、水素UFB水を作成し、各区の水槽毎に15L/水槽ずつ換水した。摂餌数の測定は各水槽毎に5尾の仔魚中の腸管内に含まれるワムシ数を測定し、その平均とした。
【0044】
摂餌数の測定で癒やし効果による仔魚の活動促進に関する試験成績を
図1に示した。
図1を参照して、横軸は各試験区の4つの水槽を示し、縦軸は摂餌数(個体/尾)を示す。横軸では「区」は省略し、単に「水素UFB」、「酸素UFB」などと示している。無処理区はUFBを含ませていない区である。
【0045】
仔魚への給餌は2日齢から開始した。
図1は、2日齢の仔魚の給餌3時間後の腸管内のワムシ数を示している。酸素UFB水区および水素UFB水区は、いずれも摂餌数が無処理区よりも増加した。
【0046】
図1の2日齢の仔魚の摂餌数に続き、その後の仔魚の成長に及ぼす空気UFB水、酸素UFB水および水素UFB水の影響を調べた。
図2には、10日齢の仔魚の成長(体長(mm))を調べた。
図2を参照して、横軸は
図1と同じであり、縦軸は体長(mm)である。
【0047】
図2を参照し、空気UFB水および水素UFB水区が無処理区よりも高くなった。酸素UFB水区では摂餌が増えたが、代謝が活発になると考えられ、成長には効果がみられなかった。しかし、仔魚がストレスなどに強く、健全になっており、最終的には生産性は向上すると考えられる。一方、空気UFB水および水素UFB水は仔魚の摂餌と成長の両者に効果的に働くと考えられた。
【0048】
(実施例2)
仔魚の浮上死率に及ぼす空気UFB水、酸素UFB水および水素UFB水の影響を調べた。試験方法は、実施例1と同じとした。
【0049】
仔魚は、水の表面張力によって、水面まで浮上した場合、水面に捕捉されて水中に戻れず、浮上死する。空気UFB水、酸素UFB水および水素UFB水の表面張力低減効果によって無処理区と比べてどの程度の浮上死が軽減できるかを調べた。摂餌数の測定後、癒やし効果による仔魚の浮上死率に関する試験成績を
図3に示した。
図3の横軸は無処理区、空気UFB水区、水素UFB水区、酸素UFB水区の各水槽を示す。縦軸は10日齢の仔魚の浮上死率(%)を示す。
【0050】
図3を参照して、空気UFB水区、酸素UFB水区および水素UFB水区が無処理区よりも低くなった。UFBに、空気、酸素および水素のどれを使っても表面張力が低下し、仔魚の浮上死防止に効果的に働くと考えられた。
【0051】
図3の浮上死率の測定後、癒やし効果による仔魚の生残率に関する試験成績を
図4に示した。
図4を参照して、横軸は無処理区、空気UFB水区、水素UFB水区、酸素UFB水区の各水槽を示す。縦軸は10日齢の仔魚の生残率(%)を示す。
【0052】
図4を参照して、空気UFB水区、酸素UFB水区および水素UFB水区が無処理区よりも高くなった。特に、水素UFB区は統計的にバラツキが少なく最も高いと判断できた。空気UFB水、酸素UFB水、水素UFB水は仔魚の摂餌、浮上死と生残の3者に効果的に働くと考えられた。中でも摂餌や成長を高めるには癒やし効果のあると考えられる高溶存酸素濃度の水であって水素UFBが含まれる水素UFB水で最も優れることが確かめられた。また、酸素UFB水では摂餌が増えて代謝が活発化するために成長が劣ってしまうが、健全性が優れる可能性のあることも新たに示唆された。
【0053】
(実施例3)
次に鰾開腔率、摂餌数および成長に及ぼす酸素UFB密度の影響を調べた。
【0054】
試験方法
(1)実験前日に200L水槽のカートリッジろ過した34psu海水を23-24℃に設定した。用いた飼養水は溶存酸素濃度を6.8mg/L前後に調製されたものであった。
(2)実験開始前日および前々日に外部水槽に海水を止め、UFB発生機をそれぞれ6時間または24時間循環させ、ポンプを経由して飼育水槽に入れることで、UFB密度の異なる酸素UFB水とした。1mlあたりのUFB密度を測定した結果、低密度酸素UFB水区で700万粒、高密度酸素UFB水区で5100万粒となった。
(3)0-10日齢:無換水で10日間飼育した。
【0055】
図5には、摂餌数に及ぼす酸素UFB密度の影響の結果を示す。
図5を参照して、横軸は無処理区、低密度酸素UFB水区、高密度酸素UFB水区を示す。各区は3つの水槽で構成した。縦軸は10日齢での摂餌数(個体/尾)である。
【0056】
図5を参照して、高密度酸素UFB水区では、摂餌数が無処理区の2倍程度に顕著に増加した。実施例1(
図1)よりも結果が明確なことから、酸素UFB水の効果は高密度で顕著になることがわかった。一方、低密度酸素UFB水区の効果がほとんどなく、700万粒より高い粒子密度が必要なことがわかった。実施例1の再現性が確認できるとともに酸素UFBの密度に依存して効果のあることが検証された。
【0057】
図5の摂餌数の測定後、癒やし効果による仔魚の成長に関する試験成績を調べ、
図6に示した。
図6を参照して、横軸は無処理区、低密度酸素UFB水区、高密度酸素UFB水区を示す。各区は3つの水槽で構成した。縦軸は体長(mm)である。
【0058】
図6を参照して、高密度酸素UFB水区の成長が低下した。実施例1と同様に、高密度酸素UFB水で摂餌が増えたが、代謝が活発になると考えられ、成長は低下した。しかし、仔魚が元気でストレスなどに強く、健全になっており、最終的な生産効率の向上につながると考えられる。一方、低密度酸素UFB水の効果が摂餌と同様に成長にもほとんどなく、700万粒より高い粒子密度が必要なことが確認された。
【0059】
(実施例4)
仔魚の鰾開腔率に及ぼす高密度酸素UFB水の影響を調べた。クロマグロ、クエ、ブリなどの高級魚をはじめ、多くの魚種の仔魚は摂餌開始後に水面に出て空気を飲み込み、浮き袋の形成(鰾開腔)を行う。これに失敗するとほとんどの魚種は後に脊髄が湾曲する奇形になるため、極めて重要な指標である。そこで、鰾開腔率の測定で癒やし効果による仔魚の奇形防止に関する試験を行った。
【0060】
試験方法
(1)実験前日に200L水槽のカートリッジろ過した34psu海水を23-24℃に設定した。用いた飼養水は溶存酸素濃度を6.4mg/Lに調製されたものであった。
(2)実験開始前日および前々日に外部水槽に海水を止め、UFB発生機をそれぞれ6時間または24時間循環させ、ポンプを経由して飼育水槽に入れることで、密度の異なる酸素UFB水とした。1mlあたりのUFB密度を測定した結果、低密度酸素UFB水区で700万粒、高密度酸素UFB水区で5100万粒となった。
(3)0-10日齢: 無換水で10日間飼育した。
【0061】
図7に鰾開腔率の結果を示す。横軸は無処理区、低密度酸素UFB水区、高密度酸素UFB水区を示す。各区は3つの水槽で構成した。縦軸は鰾開腔率(%)である。
【0062】
高密度酸素UFB水の添加によって、鰾開腔率が90%から100%の極めて高い値を示し、無処理区の70%前後と大きな差がみられた。高密度酸素UFB水で、代謝が活発になり、鰾開腔行動が促進されたと考えられた。一方、低密度酸素UFB水の効果はほとんどなく、摂餌数や成長と同様に、鰾開腔率でも700万粒より高い粒子密度が必要なことがわかった。
【0063】
養殖業は世界の蛋白質供給事業として拡大しているが、日本食の需要も多く、今後に益々増加していく。しかし、そのネックとなっているところが、仔魚の種苗生産期における安定生産である。仔魚のステージは生体が大変に弱いので、奇形が無く、健全に大量生産できる技術の開発が極めて重要である。
【0064】
本技術は、その中でも問題となる水の表面張力低下や代謝の促進を主眼として、仔魚の収率を向上するもので、養殖業の基盤を確立する技術である。特に、水素または酸素ガスの種類を変えることで、摂餌、成長、生残率、鰾開腔率の向上と浮上死や奇形の防除に使い分けすることができる。
【0065】
例えば奇形の問題が深刻なクエなどのハタ類の場合は、鰾開腔を高める酸素UFB水が良く、生残率とともに成長を早めたいマグロ類には、水素UFB水が良いと考えられる。また、ハタ類では、鰾開腔が孵化後6日ころ、マグロ類では孵化後3日ころまでに完了するため、その頃までは酸素UFB水を使い、その後に水素UFB水に切り替えることで奇形防止、成長促進にも利用できる。
【0066】
魚種や発育段階によって摂餌、成長、生残率、浮上死、奇形などの問題の程度がそれぞれ異なるため、酸素または水素UFB水の幅広い使い分けが可能で、産業上の利用価値が極めて高い。