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特開2022-166852抗菌および抗ウイルス特性を有する耐洗浄性の生物活性セルロース繊維
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  • 特開-抗菌および抗ウイルス特性を有する耐洗浄性の生物活性セルロース繊維 図1
  • 特開-抗菌および抗ウイルス特性を有する耐洗浄性の生物活性セルロース繊維 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166852
(43)【公開日】2022-11-02
(54)【発明の名称】抗菌および抗ウイルス特性を有する耐洗浄性の生物活性セルロース繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/83 20060101AFI20221026BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20221026BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20221026BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
D06M11/83
A01P3/00
A01N59/20 Z
A01N59/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022070199
(22)【出願日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】10 2021 110 053.4
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】516272973
【氏名又は名称】スマートポリマー、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング
【氏名又は名称原語表記】SMARTPOLYMER GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】フランク、ベンドラー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、シュルツェ
(72)【発明者】
【氏名】ヤニーネ、バウアー
【テーマコード(参考)】
4H011
4L031
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA10
4H011DD07
4L031AB21
4L031AB31
4L031BA04
4L031CA03
4L031DA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】医療、衛生、および衣類に使用するための、持続的な抗菌および抗ウイルス効果を有するセルロース成形品を製造する方法を提供する。
【解決手段】生物活性物質が混入されているセルロース繊維、およびその製造方法が開示される。前記方法は、以下の工程:a)イオン交換体を混入したセルロース繊維を製造する工程、b)このようにして製造された繊維を、抗菌活性および/または抗ウイルス活性を示す金属塩の水溶液で後処理する工程、およびc)前記混入した繊維を、固定水溶液で後処理して、前記金属塩を非水溶性形態に変換する工程、を含む。このようにして製造されたセルロース繊維は、織物繊維と混合し、加工して織物生地を形成することができる。これらは、また、創傷ドレッシング、衛生製品、特殊紙、または包装またはフィルター材料を製造するために使用することもできる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物活性物質が混入されているセルロース繊維を製造するための方法であって、以下の方法の工程:
a.イオン交換体を混入したセルロース繊維を製造する工程;
b.a)で製造された繊維を、抗菌活性および/または抗ウイルス活性を示す金属塩の水溶液で後処理する工程;
c.b)で混入した繊維を、固定水溶液で後処理して、前記金属塩を非水溶性形態に変換する工程
によって特徴付けられる、方法。
【請求項2】
前記金属塩が、水溶性の銀塩、銅塩、または亜鉛塩、好ましくはCuSO、AgNO、およびZnSOである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固定水溶液が、F、Cl、Br、I、ClO 、ClO 、CO 2-、HCO 、PO 3-、HPO 2-、HPO 、S2-、クエン酸塩、または脂肪酸の塩から選択されるアニオンを有する塩を含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記固定水溶液が、塩基および還元剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記塩基がNaOHまたはアンモニアであり、前記還元剤がアルデヒドであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5の方法によって製造される、セルロース繊維。
【請求項7】
織物繊維(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル酸、またはセルロース繊維)と混合した後に、織物生地に加工されることを特徴とする、請求項6に記載のセルロース繊維。
【請求項8】
創傷ドレッシング、衛生製品、特殊紙、ならびに包装およびフィルター材料を製造するために使用されることを特徴とする、請求項6に記載のセルロース繊維。
【請求項9】
不織フィルター生地および不織ジオテキスタイル生地のための内在性繊維保護材として使用されることを特徴とする、請求項6に記載のセルロース繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、持続性の耐洗浄性抗菌および抗ウイルス特性を有するセルロース成形品を製造するための方法に関する。この方法は、医療(白衣)、衛生(フェイスマスク)、衣類(スポーツおよびレジャー分野)、および寝具(マットレス)において使用される。
【背景技術】
【0002】
重金属イオン、例えば、ビスマス、銀、水銀、銅、亜鉛、スズ、またはジルコニウムイオンは、病原体、例えば、藻類、細菌、寄生生物、真菌、プリオン、原生生物、ウイルス、またはウイロイドなどに対して作用し、その作用は、増殖の阻害から死の原因に及ぶことが知られている(R.B.ThurmanおよびC.P. Gerba:The molecular mechanisms of copper and silver ion disinfection of bacteria and viruses.CRC Critical Reviews in Environmental Control,Vol.18,Issue 4(1989),pages 295-315)。銀、銅、および亜鉛イオンは、殺菌効果について特別な興味の対象である。他の殺菌金属イオン、例えば、Hg2と比較した、これらのイオンの決定的な利点は、ヒト代謝に対して実質的に非感受性であることである。殺菌濃度は、銀に関しては0.01~1mg/l、銅に関しては0.1~1mg/lと報告されている(Ullman’s Encyclopedia of Industrial Chemistry(5th edition),VCH 1993,Volume A 24,page 160)。
【0003】
さらに、銅について、非常に効果的な抗ウイルス効果が実証されている(S.L.Warnes、Z.R.Little、およびC.W. Keevil:Human Coronavirus 229E Remains Infectious on Common Touch Surface Materials.mBIO 6(6):e01697-15(2015))。銅は、幅広いスペクトルの無エンベロープ(例えば、ノロウイルス)およびエンベロープ(例えば、インフルエンザ、SARS-CoV-2)ウイルスを不活性化または死滅させることが可能である。Cu(II)とCu(I) ionsは、両方とも、過酸化によって微生物の細胞壁に損傷を与えることが可能である。Cu(I)イオンは、フェントン反応によって、細胞のタンパク質を破壊することができるヒドロキシルラジカルを生じさせるため、ここで特別な役割を果たす。さらに、これら2つのイオンが微生物のDNAに結合した場合、ウイルスの表面上のいわゆるスパイクタンパク質に対する障害を含む、遺伝的な妨害が起こる。
【0004】
重金属、特に、銀、銅、および亜鉛のこの効果は、長い間、多様な分野において利用されてきた。例えば、医療用デバイスおよび装置の感受性パーツ、または非常に頻繁に触れる表面、例えば、手すりまたはドアの取っ手などは、銅または真鍮でコートされている。織物の製造のケースでは、これらの金属の表面への適用(含浸、電着、プラズマコーティング、蒸着)が、主として使用されている。別の可能性として、金属イオンをドープしたゼオライトまたはセラミックの導入がある。さらに、銀単体または銅のフィラメントと組み合わせて非金属繊維の糸を製造することも可能である。
【0005】
EP2747792は、押出しの前に銅イオンと混合した合成繊維を使用する。このイオンは、固体または液体形態のコロイド形態である。
【0006】
DE69633817T2において、アクリロニトリルとメタクリレートからなり、かつメタリルスルホン酸ナトリウムを含むか、または含まない繊維が製造される。前記繊維は、ヒドラジンで架橋され、次いでカルボキシル基を導入する目的でNaOHによって加水分解される。金属イオンを適用した後、第5の工程において、還元剤および熱処理によって繊維中に析出させる。この手順は、非常に複雑であり、かつ化学的に激しい。銅に関しては、酸化銅(I)(これは、上述のように、抗ウイルス効果のために特に適している)に還元されない。
【0007】
EP2371893には、ナノスケールセルロース繊維、多価金属、および揮発性塩基からなる被膜形成懸濁液が記載されている。
【0008】
DE69219821T2において、セルロース繊維は、最初に金属塩溶液で、次いでポリカルボン酸溶液で処理される。第4の工程において、金属イオンを結合させるために、160℃で熱処理を行う。10回の洗浄サイクル後、Staphylococcus aureusに対する抗菌効果が検出された。50回の洗浄サイクル後、Klebsiella pneumoniaeに対する抗菌効果または抗ウイルス効果がなかったことが記載されている。
【0009】
CN107881763は、ナノスケール酸化銅をキトサンと共にセルロース繊維に混和することが開示されている。銅酸化物とキトサンの相乗効果によって、抗菌効果がもたらされる。高い洗浄耐性(さらに詳細な特定はないが)は、エタノールおよび水による繰り返し洗浄に基づく。
【0010】
さらなる手段は、天然または合成の第2の成分のセルロース繊維への混和である。
【0011】
DE10140772には、藻類を含有するリオセル成形品が記載されている。これらは、重金属イオンについて特異的な収着能を示す。しかしながら、結合するのは少量の金属イオンのみである。
【0012】
DE19917614には、織物イオン交換材料として使用するための、ポリスチレンまたはポリアクリレート樹脂に基づき、かつアニオンおよびカチオンに対する高い吸収能力を有するセルロース成形品の製造が記載されている。しかしながら、使い捨て(例えば煙草のフィルターおよび家事物品)だけが意図されているため、織物用途におけるイオン結合能に関する詳細は示されてない。
【0013】
上述のEP2747792は、また、1つの実施形態において、創傷ドレッシングのために、銅イオンと組み合わせて創傷分泌物の効果的な吸収および殺菌効果を示す、ある割合の超吸収性ポリマー(SAP)を使用する。
【0014】
文献(M.Turalija、P.Merschak、B.Redl、U Griesser、H.Duelli、およびT.Bechtold:Journal of Materials Chemistry/B,2015,3,5886-5892)に、酸化銅(I)粒子、バインダー、および分散剤からなる懸濁液を使用した織物ポリエステル生地の含浸が記載され、前記生地は、10回洗浄した後であっても、抗菌活性を有している。この処理した生地は、250mlボトル中で、洗浄溶液を使用して、60℃、30分間で10回洗浄された。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、医療、衛生、および衣類に使用するための、セルロース成形品(その焦点は、持続的な抗菌および抗ウイルス効果である)を製造するための方法を開発することである。本発明のさらなる目的は、繊維中に、織物処理工程に実質的に耐え、かつ織物の使用上の要求に応える、活性成分貯蔵所を形成することに関する。後者の目的は、50回を超える洗浄に対する洗浄耐性に関連する。さらに、本発明による方法によって製造される成形品、特に繊維およびフィルムは、その高い吸収能力に基づき、創傷ドレッシング、衛生製品、特殊紙、および包装およびフィルター材料を製造するために適切なように作成するべきである。最後に、他の繊維との混合物から構成される複合体が製造可能であるべきである。このケースにおいて、活性成分を混入した繊維を使用することによって可能であるべき例は、その殺真菌効果に基づく、不織フィルター生地および不織ジオテキスタイル生地のための内在性繊維保護材である。本発明のさらなる目的は、前記セルロース成形品を製造するための方法を、数工程に短縮することである。
【0016】
この目的は、例えばDE19917614(イオン交換繊維)から知られているような乾湿押出しプロセスによって製造される、高い吸収能力を有するセルロース成形品に、イオン性活性成分を混入することによって実現される。少なくとも50回洗浄した後であっても抗ウイルスおよび/または抗菌活性があるように、繊維またはフィルム中に形成される活性成分貯蔵所が少なくとも50回の工業規格の洗浄の期間にわたってその平衡濃度に従って活性成分を放出することが可能であるように、後処理工程によって活性成分を変化させる。平衡濃度は、実際の混入量と、全吸収能力の比によって調節可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、広角X線散乱(WAXS)によって生成された、銀イオンを混入した繊維(銀イオンは、塩化ナトリウムによって実質的に固定されている)のスペクトル(上)、および比較のための純粋な塩化銀のスペクトル(下)を示す。
図2図2は、実施した洗浄の回数に応じた、硫酸銅を混入したSAP繊維(炭酸ナトリウム溶液による固定あり、または固定なし)中の銅の割合を示す。
図3図3は、二価の銅イオンを混入し、次いで塩基性グルコース溶液で処理した繊維のWAXSスペクトル(上)、および比較のための純粋な酸化銅(I)のスペクトル(下)を示す。
【発明の具体的説明】
【0018】
洗浄耐性は、本発明による繊維が、少なくとも50回のDIN EN ISO 6330による工業規格の洗浄の後であっても、殺生物効果を完全に保持し続けるために十分な活性物質を含んでいることを意味する。抗ウイルス活性は、規格ISO 18184:2019-6に従って決定される。抗菌活性は、規格DIN EN ISO 20743:2013に従って決定される。
【0019】
吸収能力は、繊維における金属イオンの吸収を意味する。吸収能力は、規格DIN 54403:2009に従って決定される。DE19917614によれば、吸収能力は、混和したイオン交換体の性質および量に依存する。本発明による方法の好ましい実施形態によれば、押出しに使用される紡績溶液は、セルロースを基準にして、1重量%~200重量%、好ましくは10重量%~150重量%のイオン交換体を含有する。繊維中に高濃度のイオン交換体を組み込む可能性とは、繊維中に高濃度の金属イオンを含む活性成分貯蔵所を生成することが可能であることを意味する。
【0020】
本発明における活性成分は、水溶性であり、それゆえに後処理工程において繊維中に導入することができる全ての金属塩である。この導入は、金属イオンと、繊維中のイオン交換体のイオン性基との反応によって起こる。この金属塩は、その上、抗ウイルスおよび/または抗菌活性を示さなければならない。さらに、この金属塩は、さらなる後処理工程によって、水溶性が乏しい形態に変換できることが可能でなければならない。この変換は、例えば、塩の水溶液を加えることによって実現することができ、そのアニオンが、活性成分の金属カチオンと共に、水溶性に乏しい化合物を形成する。しかしながら、この変換は、また、それによって金属イオンの酸化状態が変化し、その結果として水溶性に乏しい金属塩、金属酸化物、または元素状金属が形成される後処理であってもよい。
【0021】
本発明において活性成分として使用することができる金属塩は、例えば、AgNO、AgFなどの水溶性銀塩、ZnSO、ZnI、ZnCl、ZnBr、Zn(ClOなどの水溶性亜鉛塩、およびCuSO、CuBr、Cu(ClO、CuCl、CuSiF、Cu(NOなどの水溶性銅塩である。この非水溶性形態への変換は、活性成分の金属塩と水溶性に乏しい塩を形成する、塩の水溶液による処理によって実現される。これには、ハロゲンの水溶性塩および炭酸塩だけではなく、クエン酸塩、リン酸塩、脂肪酸および硫化物の塩も含まれる。適切な塩は、例えば、NaCl、NaF、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、NaCO、NaHCO、NaPO、NaHPO、NaHPO、NaS、クエン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムである。
【0022】
あるいは、活性成分は、また、酸化還元反応によって異なる酸化状態に変換され、非水溶性化合物を生じさせてもよい。例えば、CuSO(これは、第1の工程においてイオン交換体を混入した繊維に吸収される)は、アルカリ環境中、還元剤の存在下で酸化銅(I)(これは非水溶性である)に還元されてもよい。また、アンモニアの水溶液と還元剤による処理によって銀(I)塩を還元して、銀単体(これは、同様に非水溶性であり、繊維中に残留する)を形成させることも可能である。
【0023】
DE10315749によれば、金属、好ましくは銀、銅、および亜鉛の濃度は、有利には、金属0.005g/繊維1kg>金属100g/繊維1kgである。
【0024】
好ましいイオン交換体は、ポリスチレンベースまたはポリアクリレートベースのポリマーである。これらは、酸誘導体化スチレン-ジビニルベンゼンまたはアクリル酸-ジビニルベンゼンコポリマー樹脂であり得る。原則として、前記交換基のための他の支持材料、例えばセルロースおよびセルロース誘導体として使用することも可能である。
【0025】
活性成分を混入した繊維は、活性成分の濃度を低下させるため、または制御するために、混入していないイオン交換繊維と混合してもよい。織物生地の製造のケースにおいて、活性成分を混入したイオン交換繊維は、他の天然および/または合成繊維、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル酸、またはセルロース繊維と混合してもよい。
【0026】
したがって、本発明は、好ましくはセルロースからなり、乾湿プロセス、例えばリオセルプロセスによって、または溶媒としてイオン性液体を用いて成形することができるステープルファイバーを提供する。製造プロセスとして、また、ビスコース法も考えられる。
【0027】
イオン交換繊維は、好ましくは、繊維を、例えば銀、銅、または亜鉛イオンを含有する塩溶液で浸漬する、浸漬プロセスによって混入(loaded)される。次いで、複数回、繊維を水で洗浄してスピンダウンする。仕上げ浴に浸漬した後、繊維をもう一度スピンダウンし、乾燥させる。
【0028】
洗浄実験によれば、この繊維は、低い洗浄耐性を示すだけである。わずか10回の洗浄後、およそ90%の金属の喪失が観察され得る。したがって、本発明による方法の好ましい実施形態によって、さらなる工程、すなわち繊維中の金属イオンを固定する工程によって、ローディング手順を延長した。驚くべきことに、すでに混入されている繊維を、塩素または炭酸イオンを含有する第2の塩溶液で処理することによって、水溶性に乏しく、繊維中により堅固に結合し、その結果、繊維に明らかにより高い洗浄耐性を与える化合物の形成を引き起こすことが観察された。塩化銀ならびに炭酸銅および炭酸亜鉛は、水に実質的に不溶性である。例えば、繊維中に、例えば、AgCl結晶が存在する明確な徴候が、広角X線散乱(WAXS)によって検出された。図1は、銀イオンを混入し、追加のNaCl固定が行われた繊維のWAXSスペクトルを、純粋なAgCl化合物のスペクトルと比較して示す。
【0029】
通例の強力な洗濯用洗剤を用いた家庭内洗浄を、40℃で、50回を超えて繰り返すことによって、明らかにより高い洗浄耐性が実証された。図2は、例として、NaCO固定あり、および固定なしの繊維の、銅含有量の測定値を示す。
【0030】
さらなる実施形態において、固定は、銅の酸化数の変化と同時に起こる。驚くべきことに、二価の銅イオンを混入した繊維は、塩基性グルコース溶液によって、組み込まれた一価の酸化銅を含む繊維に変換され得ることが見いだされた。この酸化銅(I)(CuO)は、繊維中に同様に堅固に結合している。その結晶構造は、WAXS測定によって確証された(図3参照)。より高い洗浄耐性のみならず、上述のように、効果的な抗ウイルス効果が実現される。銅(I)化合物は空気中で不安定であるため、徐々に酸化されて二価の銅に戻る。したがって、例えば、繊維にCuO粒子を混入することは好都合ではない。そのため、セルロース繊維への内在的なCuOの導入によって、酸化に対する保護がもたらされる。形成されるこのCuO貯蔵所によって、持続性の(永続的な)抗ウイルス効果が確保される。
【0031】
金属は、炭酸塩、塩化物、または酸化物としての固定化形態で混和されるにもかかわらず、表面平衡反応、例えば金属炭酸塩⇔金属イオン+炭酸イオンによって、セルロース構造中に存在する自由イオンは、依然として十分に存在する。残留含水量が15%におよぶ親水性ネットワーク形成ポリマーとしてのセルロースの効果によって、繊維の内部から表面への金属イオンの輸送は、常に確保されている。したがって、繊維の内部および繊維の表面の金属イオンは、微生物に対する抗菌または抗ウイルス効果を発揮するために十分に利用可能である。繊維の比較的長い使用期間の間であっても、表面レベルは、内部の活性成分貯蔵所から常に補充される。金属イオンの平衡濃度は、生物学的に有効な範囲であるために十分である。抗菌性(Ag、Cu、Zn)と抗ウイルス効果(Cu)の両方が検出された。50回の洗浄サイクル後であっても、抗菌または抗ウイルス効果の小幅な喪失が記録されたに過ぎなかった。
【実施例0032】
以下、実施例により、本発明の方法をさらに説明する。
【0033】
元素含有量の決定のための試験方法、ならびにセルロース繊維の抗菌および抗ウイルス活性を評価するための試験方法:
【0034】
繊維の抗菌効果は、試験規格DIN EN ISO 20743「繊維-繊維製品の抗菌活性の求め方」に従って、希薄栄養溶液中の規定の個数の細菌を繊維に適用し、それを37℃で24時間インキュベートすることによって決定した。次いで、振盪によって細菌を引き離し、残存する生き残った細菌の個数を平板法によって決定した。抗菌仕上げ(対象材料)をしていないサンプル、および抗菌繊維について得られた細菌細胞数の対数から差異を算出したが、この差異は、抗菌活性の程度を示し、logで2の減少は良好な抗菌活性を意味し、logで3の減少は非常に良好な活性を意味する。
【0035】
抗ウイルス活性は、試験規格ISO 18184「繊維-繊維製品の抗ウイルス活性の求め方」に従って決定した。この目的のために、バクテリオファージphi6をヒトエンベロープウイルスインフルエンザAまたはSARS-CoV-2のサロゲートウイルスとして使用し、規定の個数で繊維に適用し、25℃で2時間インキュベートした。次いで、振盪によってファージを引き離し、残存する生き残ったファージの個数をプラークタイターアッセイによって決定した。抗ウイルス仕上げ(対象材料)をしていないサンプル、および抗ウイルス繊維について得られたプラークタイターの対数から差異を算出した。この差異は、抗ウイルス活性の程度を示し、log2の減少は低い抗ウイルス活性を意味し、log3の減少は十分な抗ウイルス活性を意味する。
【0036】
銅、銀、および亜鉛含有量は、マイクロ波圧力分解の後、DIN EN ISO 11885に従ってICP-OESによって決定した。
【0037】
WAXS測定は、位置感受性列検出器を備えたBRUKER D8 ADVANCEシリーズ装置を使用して、対称透過法で実施した。測定は、波長λ=0.1542nm(ダブレット)のCuKα照射を使用し、管電圧40kV、アノード電流40mAで、Kβ位置をフィルターで除去して実施した。調製した試験試料は、均一な密度で厚さが2mmのタブレットであった。
【0038】
使用した化学物質:
ポリアクリル酸ナトリウム、架橋(CAS:9033-79-8、PRODUCT T 5066 F、Evonikから入手)
硫酸銅(II)五水和物(CAS:7758-99-8、純度≧98%、例えば、VWRから入手)
炭酸ナトリウム(CAS:497-19-8、純度≧98%、例えば、VWRから入手)
グルコース一水和物(CAS: 14431-43-7、純度≧98%、例えば、VWRから入手)
塩化ナトリウム(CAS番号:7647-14-5、純度≧98%、例えば、VWRから入手)
Afilan(登録商標)RA(オクタデカンアミド、CAS番号:10220-90-3、Archromaから入手)
【0039】
実施例1
DE19917614に従って製造し、15%の割合のポリアクリル酸ナトリウムを含有するイオン交換繊維を、硫酸銅溶液で処理する。この目的のために、15kgのイオン交換繊維を脱イオン水で洗浄し、次いで、0.15Mの硫酸銅水溶液を混入する。この溶液中に20分間激しく撹拌しながら置いた後、繊維をスピンダウンし、遠心した。第2の処理浴において、繊維は、通例の柔軟剤、例えば、Afilan(登録商標)RAを使用して仕上げられる。この繊維は、線密度が6.7dtex、伸びが10%、および破断強度が21cN/texである。銅濃度は、銅28000mg/kgである。50回の洗浄サイクル後、繊維は、依然として銅200mg/kgを含有していた。Staphylococcus aureusに対する抗菌効果の測定によって、log5.8の減少、および、50回の洗浄サイクル後、logで5.3の減少が示され;Klebsiella pneumoniaeに対しては、logで5.8の減少があり、50回の洗浄サイクル後、logで5.5の減少があった。両方の細菌種について、これは、50回の洗浄サイクル後であっても依然として保持されている強い抗菌活性を意味する。Pseudomonas sp.DSM 21482に対する抗ウイルス効果の測定によって、log3.0の減少が明らかにされたが、これは、強い抗ウイルス効果に相当する。
【0040】
実施例2
実施例1に従って製造されたイオン交換繊維は、銅を混入した後、さらに、10g/lの炭酸ナトリウム溶液が入った第2の浸漬浴の中に置かれ、その中で20分間撹拌される。次いで、この繊維をスピンダウンし、遠心する。第3の処理浴において、繊維は、実施例1に従って仕上げられる。銅濃度は、銅26500mg/kgである。50回の洗浄サイクル後、繊維は,依然として銅10400mg/kgを含有していた。これは、実施例1による非固定繊維と比較して、50回の洗浄後の、およそ0.7からおよそ39%への回収率の増加に相当する。
【0041】
実施例3
実施例1に従って製造されたイオン交換繊維は、銅を混入した後、さらに、10g/lのグルコースおよび5g/lのNaOHを含有する溶液が入った第2の浸漬浴の中に置かれ、その中で20分間撹拌される。次いで、中性反応が実現されるまで、複数回、この繊維を洗浄し、スピンダウンし、遠心する。第3の処理浴において、この繊維は、実施例1に従って仕上げられる。銅濃度は、銅7890mg/kgである。50回の洗浄サイクル後、繊維は、依然として銅321mg/kgを含有していた。50回の洗浄サイクル後の抗菌効果は、Staphylococcus aureusに対しては、log4.7の減少、Klebsiella pneumoniaeに対しては、log4.4の減少を示した。Pseudomonas sp.DSM 21482に対する抗ウイルス効果は、log4.5の減少を示し、50回の洗浄後、依然として4.1の減少を示した。これは、50回の洗浄後であっても強い抗ウイルス活性に相当する。
【0042】
実施例4
実施例1に従って製造されたイオン交換繊維を、純粋なリオセル繊維との6%混合物で、ニードルパンチ不織布に加工する。Staphylococcus aureusに対する抗菌効果は、log5.6の減少と決定され;20回の洗浄サイクル後、減少は依然としてlog5.3であった。Klebsiella pneumoniaeに対して、log5.9の減少であり;20回の洗浄サイクル後、log4.4の減少であった。
【0043】
実施例5
硫酸銅に代えて0.15Mの硝酸銀水溶液で処理した以外は実施例1に従ってイオン交換繊維を製造した。この繊維は、線密度が6.7dtexであり、伸びが11%であり、破断強度が23cN/texである。銀濃度は、銀51200mg/kgである。50回の洗浄サイクル後、繊維は、依然として銀2150mg/kgを含有していた。
【0044】
実施例6
実施例5に従って製造したイオン交換繊維は、銀を混入した後、さらに、10g/lの塩化ナトリウム溶液が入った第2の浸漬浴中に置かれ、その中で20分間撹拌される。この繊維は、スピンダウンされ、遠心され、実施例2に従って仕上げられる。銀濃度は、銀48300mg/kgである。50回の洗浄サイクル後、この繊維は、依然として銀14500mg/kgを含有していた。これは、実施例5による非固定繊維と比較して、50回の洗浄後の、およそ4%からおよそ30%への回収率の増加に相当する。Staphylococcus aureusに対する抗菌効果の測定によって、logで6.0の減少、および50回の洗浄サイクル後、logで5.8の減少が示され;Klebsiella pneumoniaeに対しては、logで6.0の減少があり、50回の洗浄サイクル後、logで5.6の減少があった。両方の細菌種について、これは、50回の洗浄サイクル後であっても依然として保持されている強い抗菌活性を意味する。
図1
図2
図3
【外国語明細書】