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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022166936
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】車両の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20221027BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B62D25/08 E
B62D25/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072379
(22)【出願日】2021-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】川野 晃寛
(72)【発明者】
【氏名】黒田 一平
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB16
3D203BB34
3D203BB35
3D203BC14
3D203CA04
3D203CA23
3D203CA24
3D203CA33
3D203CA37
3D203CA43
3D203CA66
3D203CB06
3D203CB19
(57)【要約】
【課題】スモールオーバーラップ衝突時、車体の重量増加を招くことなくエプロンレインを内折れ制御することができる車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】車室CとエンジンルームEとを仕切るダッシュパネル2から前方に延びるフロントサイドフレーム10と、前後方向に延びるエプロンレイン20と、フアルミ合金製鋳造品からなるサスハウジング30と、このサスハウジング30とダッシュパネル2との間に配置された制動力倍力装置7と、引張強度がサスハウジング30よりも高い金属材料を用いて構成されると共にフロントサイドフレーム10とエプロンレイン20とに連結された連結部材40を有し、連結部材40は、サスハウジング30の後面部33aに固定された本体部41と、この本体部41の下端部から屈曲して後方に延びる壁部42とを備える。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室とエンジンルームとを仕切るダッシュパネルから車体前後方向前方に延びるフロントサイドフレームと、前記フロントサイドフレームの車幅方向外側且つ上方において車体前後方向に延びるエプロンレインフォースメントと、前記フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントに亙って配置され且つサスペンション取付部を備えたアルミ合金製鋳造品からなるサスペンションハウジングと、前記サスペンションハウジングとダッシュパネルとの間に配置された車両部品とを備える車両の前部車体構造において、
引張強度が前記サスペンションハウジングよりも高い金属材料を用いて構成されると共に前記フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとに連結された連結部材を有し、
前記連結部材は、前記サスペンションハウジングの後面部に固定された本体部と、前記本体部の下端部から屈曲して後方に延びる壁部とを備えたことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
前記本体部と壁部は稜線を介して断面略L字状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
前記本体部は、後方に延びて前記フロントサイドフレームの上面部に接合される第1フランジ部を下部に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
前記本体部は、後方に延びて前記エプロンレインフォースメントの車幅方向内側面部に支持される第2フランジ部を上部に有することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
前記本体部は、前記壁部の下端部から屈曲して後方に延びると共に前記ダッシュパネルに固定されたホイールハウスに連結された延長部を有し、
前記延長部の車幅方向内側端部に前記フロントサイドフレームの車幅方向外側面部に接合される第3フランジ部を設けたことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の車両の前部車体構造。
【請求項6】
前記フロントサイドフレームは、衝突時、車体前後方向前端側部分である第1領域をこの第1領域よりも後側に配置された第2領域よりも軸圧縮変形させて衝撃荷重を吸収する圧縮式衝撃エネルギ吸収機構を有することを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の車両の前部車体構造。
【請求項7】
前記サスペンションハウジングは、前記フロントサイドフレームの第1領域に固定され、
前記連結部材は、前記フロントサイドフレームの第2領域に固定されたことを特徴とする請求項6に記載の車両の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ合金製鋳造品からなるサスペンションハウジングと、このサスペンションハウジングとダッシュパネルとの間に配置された車両部品とを備える車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の車両には、その前部に形成されたエンジンルーム内の左右両側領域に、フロントサスペンションのダンパが取り付けられると共にサスペンション取付部を備えたサスペンションハウジング(以下、サスハウジングと略す)が設けられている。
このようなサスハウジングは、前後方向に延びるフロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとの間に亙って配置される。
【0003】
サスハウジングを鋼板のプレス成形ではなく、アルミ合金材料の鋳造品を用いて成形することで車体重量の軽量化と車体形状の自由度拡大を図る技術が提案されている。
特許文献1の車両の前部車体構造は、本体部と、この本体部よりも前方でサスペンションアームを支持する第1アーム支持部と、本体部よりも後方でサスペンションアームを支持する第2アーム支持部とを有するアルミダイキャスト製サスハウジングと、第1アーム支持部が固定される第1固定部と、第2アーム支持部が固定される第2固定部とを有するフロントサイドフレームとを備え、これら第1固定部と第2固定部が、車幅方向において異なる位置に配置されている。これにより、サスハウジングの前後方向回りの変位を抑制している。
【0004】
ところで、車体骨格部材であるフロントサイドフレームは、車両前突時、衝突による衝撃エネルギを吸収するために積極的に塑性変形するように構成されている。
フロントサイドフレームの衝撃エネルギ吸収機構として、フロントサイドフレームを車幅方向に山折れ或いは谷折れ、所謂横折れ変形させる折曲式衝撃エネルギ吸収機構と、フロントサイドフレームを前後方向に軸圧縮変形させる圧縮式衝撃エネルギ吸収機構との2種類の衝撃エネルギ吸収機構が存在している。同一の変形ストローク長で評価した場合、軸圧縮変形が、横折れ変形よりも衝撃エネルギを吸収することができるため、エネルギ吸収効率(EA効率)を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-044974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧縮式衝撃エネルギ吸収機構を採用したフロントサイドフレームであっても、車両前突時、乗員が着座している車室が変形し、乗員の居住性や快適性が阻害される虞がある。
図13に示すように、車両衝突のうちフルラップ前面衝突時、衝撃エネルギがバンパビーム53を介して左右のフロントサイドフレーム51に略均等に伝達されるため、フロントサイドフレーム51は、前端部からサスハウジング52の前部相当位置に亙る所定ストロークS1だけ軸圧縮変形する。一方、車両衝突のうちオフセット前面衝突時、衝撃エネルギが片方のフロントサイドフレーム51に集中して伝達されるため、フロントサイドフレーム51の変形は、ストロークS1よりも大きくなり、前端部からサスハウジング52の中間部相当位置に亙るストロークS2だけ軸圧縮変形する。
【0007】
アルミダイキャスト製サスハウジング52は、鋼製サスハウジングに比べて剛性が高いため、車両前突時、鋼製サスハウジングの場合に比べて後退量の増加が予想される。
圧縮式衝撃エネルギ吸収機構を備えたフロントサイドフレーム51に設けられたサスハウジング52は、折曲式衝撃エネルギ吸収機構を備えたフロントサイドフレームに設けられたサスハウジングよりも、衝撃エネルギ吸収のメカニズム上、後退量が大きくなる。
しかも、サスハウジング52とダッシュパネルとの間に制動力倍力装置等の大型の車両部品が配置されている場合、サスハウジング52の後方移動が車両部品を介して車室を区画するダッシュパネルに伝達されるため、ダッシュパネルの車室内部方向への変形が増加する。
【0008】
そこで、車両前突時における車室変形を抑制するため、車室を区画するダッシュパネルの板厚を増加することによりダッシュパネルの剛性を増加することが考えられる。
しかし、ダッシュパネルの板厚増加により、車両部品を介した衝突荷重入力時のダッシュパネルの後退移動を抑制することができ、車室変形を抑制することができるものの、ダッシュパネルの板厚増加に伴って車体重量の増加を招く虞がある。
即ち、車体重量の増加を招くことなく、衝突荷重入力時の車室変形を抑制することは容易ではない。
【0009】
本発明の目的は、車体重量の増加を招くことなく、衝突荷重入力時の車室変形を抑制可能な車両の前部車体構造等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の車両の前部車体構造は、車室とエンジンルームとを仕切るダッシュパネルから車体前後方向前方に延びるフロントサイドフレームと、前記フロントサイドフレームの車幅方向外側且つ上方において車体前後方向に延びるエプロンレインフォースメントと、前記フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントに亙って配置され且つサスペンション取付部を備えたアルミ合金製鋳造品からなるサスペンションハウジングと、前記サスペンションハウジングとダッシュパネルとの間に配置された車両部品とを備える車両の前部車体構造において、引張強度が前記サスペンションハウジングよりも高い金属材料を用いて構成されると共に前記フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとに連結された連結部材を有し、前記連結部材は、前記サスペンションハウジングの後面部に固定された本体部と、前記本体部の下端部から屈曲して後方に延びる壁部とを備えたことを特徴としている。
【0011】
この車両の前部車体構造では、引張強度が前記サスペンションハウジングよりも高い金属材料を用いて構成されると共に前記フロントサイドフレームとエプロンレインフォースメントとに連結された連結部材を有するため、サスペンションハウジングが破断してフロントサイドフレームから離脱(剥離)するような衝突荷重が入力された場合であっても、連結部材がフロントサイドフレームから離脱(剥離)することを回避できる。
前記連結部材は、前記サスペンションハウジングの後面部に固定された本体部と、前記本体部の下端部から屈曲して後方に延びる壁部とを備えたため、衝突荷重をサスペンションハウジングの後面部に当接する壁部によって有効に支持することができ、簡単な構成でサスペンションハウジングの後退を阻止することができる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記本体部と壁部は稜線を介して断面略L字状に形成されたことを特徴としている。この構成によれば、連結部材に形成された稜線を用いて壁部の前後方向剛性を増すことができる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記本体部は、後方に延びて前記フロントサイドフレームの上面部に接合される第1フランジ部を下部に有することを特徴としている。この構成によれば、サスペンションハウジングの外側後方に向かう変位を抑制することができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1~3の何れか1項の発明において、前記本体部は、後方に延びて前記エプロンレインフォースメントの車幅方向内側面部に支持される第2フランジ部を上部に有することを特徴としている。この構成によれば、サスペンションハウジングの変位を利用して第2フランジ部をエプロンレインフォースメントに押し付けることができ、連結部材とエプロンレインフォースメントの連結を向上することができる。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1~4の何れか1項の発明において、前記本体部は、前記壁部の下端部から屈曲して後方に延びると共に前記ダッシュパネルに固定されたホイールハウスに連結された延長部を有し、前記延長部の車幅方向内側端部に前記フロントサイドフレームの車幅方向外側面部に接合される第3フランジ部を設けたことを特徴としている。
この構成によれば、サスペンションハウジングの変位を利用して第3フランジ部をフロントサイドフレームに押し付けることができ、連結部材とフロントサイドフレームの連結を向上することができる。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1~5の何れか1項の発明において、前記フロントサイドフレームは、衝突時、車体前後方向前端側部分である第1領域をこの第1領域よりも後側に配置された第2領域よりも軸圧縮変形させて衝撃荷重を吸収する圧縮式衝撃エネルギ吸収機構を有することを特徴としている。この構成によれば、圧縮式衝撃エネルギ吸収機構を有するフロントサイドフレームであっても、衝突荷重入力時、サスペンションハウジングの後退を阻止することができる。
【0017】
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記サスペンションハウジングは、前記フロントサイドフレームの第1領域に固定され、前記連結部材は、前記フロントサイドフレームの第2領域に固定されたことを特徴としている。この構成によれば、衝突荷重入力時、確実にサスペンションハウジングの後退を阻止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両の前部車体構造によれば、連結部材の本体部下端から屈曲して後方に延びる壁部を設けることにより、車体重量の増加を招くことなく、簡単な構成で衝突荷重入力時の車室変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1に係る車両の前部車体構造の左側平面図である。
図2図1に示す車体部分を車幅方向外側下方から視た斜視図である。
図3図1に示す車体部分を車幅方向内側から視た側面図である。
図4図1に示す車体部分から連結メンバとカウルサイドパネルを省略した側面図である。
図5図1に示す車体部分を後側上方から視た斜視図である。
図6図1の要部拡大図である。
図7】連結部材を示す図であって、(a)は、正面図、(b)は、側面図である。
図8図5のVIII-VIII線断面図である。
図9図6のIX-IX線断面図である。
図10図6のX-X線断面図である。
図11図6のXI-XI線断面図である。
図12】オフセット衝突時における検証実験結果であって、(a)は、衝突初期、(b)は、衝突後期を示す図である。
図13】従来の車両の前部車体構造の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明は、本発明を車両の前部車体構造に適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。
【実施例0021】
以下、本発明の実施例1について図1図12に基づいて説明する。
図1図5に示すように、車両Vには、ダブルウィッシュボーン式のサスペンション(図示略)が搭載され、左右1対のフロントサイドフレーム10と、左右1対のエプロンレインフォースメント(以下、エプロンレインと略す)20と、左右1対のサスペンションハウジング(以下、サスハウジングと略す)30と、左右1対の連結部材40等が設けられている。車両Vが左右対称構造に構成されているため、以下、左側部分について主に説明する。また、図において、矢印F方向を車体前後方向前方とし、矢印L方向を車幅方向左方とし、矢印U方向を車体上下方向上方としている。
【0022】
まず、車両Vの全体構成について説明する。
車室Cの床面を形成するフロアパネル1の前端部から上方に立ち上がるダッシュパネル2が設けられている。このダッシュパネル2は、上下左右に延び、車体前部に形成されたエンジンルームEと車室Cとを前後に仕切るように形成されている。
ダッシュパネル2の上端部には、車幅方向に延びる桶状のカウルパネル3が形成されている。カウルパネル3の左右端部には、前後に延びる左右1対のサイドシル4の前端部から上方に延びた左右1対のヒンジピラー5が夫々連結されている。
【0023】
図2に示すように、ヒンジピラー5の中段部とエプロンレイン2の途中部を筋交い状に連結する連結メンバ6が設けられている。この連結メンバ6は、断面略ハット状に形成され、その下端部には下方に延びるフランジ部が形成されている。
エプロンレイン2の車幅方向内側位置で且つ連結メンバ6の車幅方向内側位置には、車体前後方向に延びるカウルサイドパネル3aが設けられている。このカウルサイドパネル3aによってエンジンルームEの車幅方向外側端部が区画されている。
【0024】
カウルサイドパネル3aの前側下方には、前輪(図示略)を収容するホイールハウス8が形成されている。ホイールハウス8は、カウルサイドパネル3aの車幅方向外側に固着された部分椀状のホイールハウスアウタと、カウルサイドパネル3aの車幅方向内側に固着された部分椀状のホイールハウスインナとにより構成されている。
例えば、厚さが0.6mmの鋼板製のホイールハウスインナの後端部は、後方に延長されエプロンリヤパネル9を一体的に形成している。エプロンリヤパネル9は、フロントサイドフレーム10とダッシュパネル2に車幅方向に延びるダッシュメンバ2aを介して連結されている。
【0025】
この車両Vは、左側前席が運転席であるため、図1図3に示すように、制動力倍力装置7(ブースタ)がダッシュパネル2の左側領域に設置されている。
制動力倍力装置7は、カウルサイドパネル3aの車幅方向内側近傍位置で且つエプロンリヤパネル9の上側位置において前方上り傾斜状姿勢でダッシュパネル2に対して固定されている。それ故、図3に示すように、制動力倍力装置7は、筒状本体部の下側部分が上側部分よりも前方位置に配置されている。
【0026】
次に、フロントサイドフレーム10について説明する。
フロントサイドフレーム10は、高張力鋼板からなり、車両前突時、衝撃エネルギをフロントサイドフレーム10の軸圧縮変形を用いて吸収可能に構成されている。
図5図8に示すように、フロントサイドフレーム10は、略ハット状のフロントサイドフレームアウタ11と略ハット状のフロントサイドフレームインナ12とを備え、各々の上下フランジを溶接して上下1対のフランジ部10aと略矩形状の前後に延びる閉断面とを構成している。
【0027】
衝撃エネルギを軸圧縮変形により吸収する圧縮式衝撃エネルギ吸収機構は、フロントサイドフレーム10の後側部分の剛性を前側部分の剛性よりも高くすることを前提構成にしている。具体的には、フロントサイドフレーム10の後側部分において、車幅方向に直交する板状補強部材がフロントサイドフレームアウタ11とフロントサイドフレームインナ12との間に介装されている。
【0028】
図4に示すように、フロントサイドフレームアウタ11には、前後ビード部13と、上下幅拡大部14と、上下ビード部15が形成されている。
前後ビード部13は、フロントサイドフレームアウタ11の上下方向中段部において前端側部分から後端側部分に亙って閉断面側に凹入した凹状ビード部に形成されている。
前後ビード部13の前端側位置には、前後ビード部13の上下幅が上下方向に拡大された上下幅拡大部14が設けられている。上下幅拡大部14の内部領域には、前後ビード部13よりも閉断面側に凹入した上下ビード部15が形成されている。
【0029】
図3に示すように、フロントサイドフレームインナ12には、フロントサイドフレームアウタ11と同様に、前後ビード部13と、上下幅拡大部14と、上下ビード部15が形成されている。以上により、圧縮式衝撃エネルギ吸収機構は、車両前突時、低剛性部(上下幅拡大部14、上下ビード部15)を折れ起点としてフロントサイドフレーム10に蛇腹状の圧縮変形を誘発している。それ故、図3図4に示すように、フロントサイドフレーム10は、車両衝突のうちフルラップ前面衝突の時、ストロークS1の範囲で軸圧縮変形し、車両衝突のうちオフセット前面衝突の時、ストロークS2の範囲で軸圧縮変形するように予め変形挙動が設定されている。
【0030】
次に、エプロンレイン20について説明する。
図1図5に示すように、エプロンレイン20は、フロントサイドフレーム10よりも所定間隔車幅方向外側で且つ上方位置に配置されている。このエプロンレイン20は、前半部を構成する前側エプロンレイン21と、後半部を構成する後側エプロンレイン22とを備えている。
【0031】
前側エプロンレイン21は、サスハウジング30の車幅方向外側において前後に延び、後側エプロンレイン22は、ヒンジピラー5と前側エプロンレイン21とを連結している。
前側エプロンレイン21は、前後に延びる上面部と、この上面部の車幅方向外側端部から下方に延びる側面部とを備えた略L字状断面に形成されている。
【0032】
図5図8に示すように、後側エプロンレイン22は、断面略ハット状に形成され、カウルサイドパネル3aと協働して前後に延びる略矩形状の閉断面を形成している。
前側エプロンレイン21と後側エプロンレイン22の連結部分は、連結メンバ6によって部分的に覆われている。前側エプロンレイン21と後側エプロンレイン22の連結部分の下端部には、連結メンバ6の前端側部分が溶接にて接合されている。
【0033】
次に、サスハウジング30について説明する。
サスハウジング30は、アルミダイキャストにて形成されたアルミ合金製鋳造品である。
アルミ合金製鋳造品は、軽量であるものの高剛性で且つ複雑形状のサスハウジング30を実現している。尚、このサスハウジング30の引張強度は、例えば、210MPaである。
【0034】
図1図5に示すように、サスハウジング30は、ホイールハウス8の上部を部分的に覆い、フロントサイドフレーム10とエプロンレイン20とに固定されている。
このサスハウジング30は、部分円柱状の本体部31と、この本体部31の前側に隣接した直方体状の前側支持部32と、本体部31の後側に隣接した直方体状の後側支持部33と、複数のリブ部等を一体的に備えている。
【0035】
本体部31は、略円環状の上壁部31aと、略円筒状のタワー部31bとを備えている。
上壁部31aは、サスペンションのダンパ上端部が固定されるダンパ固定部が設けられ、その上面には、放射状に配置された複数のリブ部が立設されている。この上壁部31aは、前側エプロンレイン21の上面部に複数のリベット(図示略)を用いて固定されている。
図3図4に示すように、タワー部31bは、上壁部31aの径方向外側端部から下方に延びるように形成されている。タワー部31bの下端部は、フロントサイドフレームアウタ11の上フランジに複数(例えば、3個)のリベットR1を用いて固定されている。
【0036】
前側支持部32は、サスペンションのアッパアームの前側アーム部を支持するように構成されている。前側支持部32の上部には、前側アーム部を上下方向に回動自在に支持する軸支部が設けられている。図4に示すように、前側支持部32の下端部は、フロントサイドフレームアウタ11の側面部に複数(例えば、3個)のリベットR2を用いて固定されている。
【0037】
後側支持部33は、サスペンションのアッパアームの後側アーム部を支持するように構成されている。後側支持部33の上部には、後側アーム部を上下方向に回動自在に支持する軸支部が設けられている。図2図5に示すように、後側支持部33は、前後方向に略直交した後面部33aを有している。図3図4に示すように、後側支持部33の下端部は、フロントサイドフレームアウタ11の上フランジに複数(例えば、2個)のリベットR3を用いて固定されている。
【0038】
次に、連結部材40について説明する。
図1図6に示すように、サスハウジング30の後端部に相当する後側支持部33(後面部33a)と後側ホイールハウス8との間に、鋼板製の連結部材40が配設されている。
連結部材40は、例えば、厚さが1.8mm、引張強度が440MPaの単一の鋼板をプレス成形することにより形成されている。尚、ホイールハウス8(ホイールハウスインナ)の引張強度と略同等の引張強度に設定しているが、連結部材40の引張強度をホイールハウスインナの引張強度よりも大きくなるように設定しても良い。
【0039】
図7(a)、図7(b)に示すように、連結部材40は、後側支持部33の後面部33aと面当接する本体部41と、この本体部41の下端部から後方に連なる壁部42と、この壁部42の下端部から後方に連なる延長部43等を備えている。
本体部41は、前後方向に直交するように配置されている。この本体部41の上端側部分は、後面部33aに対して複数(例えば、4個)のリベットR4(図5参照)を用いて固定されている。
【0040】
本体部41は、下端部に設けられた第1フランジ部41aと、上端部に設けられた第2フランジ部41bとを有している。図5図8に示すように、第1フランジ部41aは、後方に折り曲げられて上下方向に直交するフロントサイドフレームアウタ11の上面部に溶接にて接合されている。第2フランジ部41bは、後方に折り曲げられて車幅方向に直交するカウルサイドパネル3aの車幅方向内側面部に溶接にて接合されている。
【0041】
図9図11に示すように、壁部42は、本体部41の下端部から後方に屈曲されて稜線を形成している。壁部42と本体部41は、稜線を介した略L字状に構成されている。
壁部42は、稜線を介して本体部41の後側に隣接して上下方向に略直交するように配置されているため、車両前突時、前方から後方に向かう衝突荷重を壁部42によって有効に支持している。
【0042】
延長部43は、壁部42の後端部から後側下方に屈曲されて稜線を形成している。この延長部43は、車幅方向内側端部で且つ下端側部分に第3フランジ部43aを有している。
第3フランジ部43aは、下方に折り曲げられて車幅方向に直交するフロントサイドフレームアウタ11の側面部に溶接にて接合されている。延長部43の後端部は、ホイールハウス8の後側部分に溶接にて接合されている。これにより、車両前突時、前方から後方に向かう衝突荷重を連結部材40からホイールハウス8及びエプロンリヤパネル9を介してダッシュメンバ2aに分散している。
【0043】
次に、本発明の実施形態による車両Vの前部車体構造の作用効果について説明する。
作用効果の説明に当り、検証実験を行った。
この検証実験では、実施例1と同じ仕様の車両モデルを準備し、オフセット衝突時の変形挙動について、CAE(Computer Aided Engineering)による挙動解析を行った。
【0044】
図12(a)、図12(b)に基づいて、検証実験結果を説明する。
図12(a)に示すように、衝突初期、第1フランジ部41aと第2フランジ部41bは、後方に延び、第2フランジ部41bと第3フランジ部43aは、車幅方向に略直交するように構成されている。これにより、サスハウジング30が外側後方に変位する際、第1フランジ部41aと第3フランジ部43aがフロントサイドフレームアウタ11に押圧され、第2フランジ部41bがカウルサイドパネル3aを介して後側エプロンレイン22に押圧される。
【0045】
第1~第3フランジ部41a,41b,43aが、車両衝突時、フロントサイドフレーム10が軸圧縮変形しない領域(ストロークS2よりも後側領域)及びこの軸圧縮変形しない領域に対応したエプロンレイン20の部分に支持されているため、連結部材40の支持強度が向上する。これにより、図12(b)に示すように、衝突後期、サスハウジング30の外側後方変位が抑制されている。
【0046】
本実施形態によれば、引張強度がサスハウジング30よりも高い金属材料を用いて構成されると共にフロントサイドフレーム10とエプロンレイン20とに連結された連結部材40を有するため、サスハウジング30が破断してフロントサイドフレーム10から離脱(剥離)するような衝突荷重が入力された場合であっても、連結部材40がフロントサイドフレーム10から離脱(剥離)することを回避できる。
連結部材40は、サスハウジング30の後面部33aに固定された本体部41と、この本体部41の下端部から屈曲して後方に延びる壁部42とを備えたため、衝突荷重をサスハウジング30の後面部33aに当接する壁部42によって有効に支持することができ、簡単な構成でサスハウジング30の後退を阻止することができる。
【0047】
本体部41と壁部42は稜線を介して断面略L字状に形成されたため、連結部材40に形成された稜線を用いて壁部42の前後方向剛性を増すことができる。
【0048】
本体部41は、後方に延びてフロントサイドフレーム10の上面部に接合される第1フランジ部41aを下部に有するため、サスハウジング30の外側後方に向かう変位を抑制することができる。
【0049】
本体部41は、後方に延びてエプロンレイン20の車幅方向内側面部に支持される第2フランジ部41bを上部に有するため、サスハウジング30の変位を利用して第2フランジ部41bをカウルサイドパネル3aを介してエプロンレイン20に押し付けることができ、連結部材40とエプロンレイン20の連結を向上することができる。
【0050】
本体部41は、壁部42の下端部から屈曲して後方に延びると共にエプロンリヤパネル9を介してダッシュパネル2に固定されたホイールハウス8に連結された延長部43を有し、延長部43の車幅方向内側端部にフロントサイドフレーム10の車幅方向外側面部に接合される第3フランジ部43aを設けたため、サスハウジング30の変位を利用して第3フランジ部43aをフロントサイドフレーム10に押し付けることができ、連結部材40とフロントサイドフレーム10の連結を向上することができる。
【0051】
フロントサイドフレーム10は、衝突時、前端側部分であるストロークS2領域に相当する第1領域をこの第1領域よりも後側に配置された第2領域(ストロークS2領域よりも後側領域)よりも軸圧縮変形させて衝撃荷重を吸収する圧縮式衝撃エネルギ吸収機構を有するため、圧縮式衝撃エネルギ吸収機構を有するフロントサイドフレーム10であっても、衝突荷重入力時、サスハウジング30の後退を阻止することができる。
【0052】
サスハウジング30は、フロントサイドフレーム10の第1領域に固定され、連結部材40は、フロントサイドフレーム10の第2領域に固定されているため、衝突荷重入力時、確実にサスハウジング30の後退を阻止することができる。
【0053】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、ダッシュパネル2と後側支持部33との間に制動力倍力装置7が配設された例について説明したが、少なくとも、衝突時、衝突荷重がダッシュパネル2に伝達可能な車両部品であれば良く、例えば、補助バッテリ等であっても良い。
また、運転席が、左側前席である例について説明したが、右側前席が運転席である車両にも適用可能であり、サスペンションの型式に拘らず適用可能である。
【0054】
2〕前記実施形態においては、サスハウジング30と連結部材40とをリベットを用いて連結した例について説明したが、ボルト締め等の他の機械的結合法を用いて連結しても良く、任意の結合法を適用することが可能である。
【0055】
3〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0056】
2 ダッシュパネル
10 フロントサイドフレーム
20 エプロンレイン
30 サスハウジンク
40 連結部材
41 本体部
41a 第1フランジ部
41b 第2フランジ部
42 壁部
43 延長部
43a 第3フランジ部
V 車両
図1
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