(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167040
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20221027BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221027BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221027BHJP
D06P 5/30 20060101ALN20221027BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 114
D06P5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072541
(22)【出願日】2021-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】駒田 良太郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FB03
2C056FC02
2H186AB12
2H186BA08
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4J039EA44
4J039EA48
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4J039GA24
(57)【要約】
【課題】分散性、保存安定性、及び形成される画像の画質に優れ、かつ摩擦堅ろう度に優れる捺染物を形成できるインクジェット捺染用インクを提供する。
【解決手段】インクは、水性媒体と、水性媒体に分散する着色粒子と、カルボジイミド基を有する第1架橋剤とを含有する。着色粒子は、染料を含む特定塩化合物と、特定ビニル樹脂とを含む。特定ビニル樹脂は、カルボキシ基を有する特定モノマーに由来する特定繰り返し単位を含む。特定ビニル樹脂の酸価は、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である。特定ビニル樹脂のガラス転移点は、50℃以上80℃以下である。インクは、水性媒体に分散又は溶解する遊離樹脂を含有しないか、又は遊離樹脂の含有割合が0.00質量%超0.50質量%以下である。インクは、水性媒体に分散又は溶解する遊離染料を含有しないか、又は遊離染料の含有割合が0.000質量%超0.050質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と、前記水性媒体に分散する着色粒子と、カルボジイミド基を有する第1架橋剤とを含有し、
前記着色粒子は、染料を含む特定塩化合物と、特定ビニル樹脂とを含み、
前記特定ビニル樹脂は、カルボキシ基を有する特定モノマーに由来する特定繰り返し単位を含み、
前記特定ビニル樹脂の酸価は、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、
前記特定ビニル樹脂のガラス転移点は、50℃以上80℃以下であり、
前記水性媒体に分散又は溶解する遊離樹脂を含有しないか、又は前記遊離樹脂の含有割合が0.00質量%超0.50質量%以下であり、
前記水性媒体に分散又は溶解する遊離染料を含有しないか、又は前記遊離染料の含有割合が0.000質量%超0.050質量%以下である、インクジェット捺染用インク。
【請求項2】
前記特定ビニル樹脂は、前記特定繰り返し単位を含む第1ブロックと、前記特定繰り返し単位を含まない第2ブロックとを有するブロック共重合体である、請求項1に記載のインクジェット捺染用インク。
【請求項3】
前記染料は、塩基性染料を含む、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用インク。
【請求項4】
ブロックイソシアナートである第2架橋剤を更に含有する、請求項1~3の何れか一項に記載のインクジェット捺染用インク。
【請求項5】
中和剤を更に含有し、
前記中和剤は、アミン化合物を含む、請求項1~4の何れか一項に記載のインクジェット捺染用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット捺染に用いられるインクジェット捺染用インクには、分散性、保存安定性及び形成される画像の画質に優れ、かつ摩擦堅ろう度に優れる捺染物を形成できることが要求されている。インクジェット捺染用インクとしては、例えば、顔料及び分散剤を含有するインクジェット捺染用インクと、染料及び樹脂を含む着色粒子を含有するインクジェット捺染用インクとが挙げられる。このうち、着色粒子を含有するインクジェット捺染用インクは、メリットとして、発色性に優れる点、前処理及び後処理を通常は必要としない点、記録ヘッドからインクを吐出する際にインク詰まりを発生させ難い点などが挙げられる。着色粒子を含有するインクジェット捺染用インクとして、例えば、油性染料及び樹脂を含む着色粒子を含有するインクジェット捺染用インクが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット捺染用インクは、分散性、保存安定性、形成される画像の画質、及び形成される捺染物の摩擦堅ろう度の全てを満足させるものではない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、分散性、保存安定性、及び形成される画像の画質に優れ、かつ摩擦堅ろう度に優れる捺染物を形成できるインクジェット捺染用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェット捺染用インクは、水性媒体と、前記水性媒体に分散する着色粒子と、カルボジイミド基を有する第1架橋剤とを含有する。前記着色粒子は、染料を含む特定塩化合物と、特定ビニル樹脂とを含む。前記特定ビニル樹脂は、カルボキシ基を有する特定モノマーに由来する特定繰り返し単位を含む。前記特定ビニル樹脂の酸価は、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である。前記特定ビニル樹脂のガラス転移点は、50℃以上80℃以下である。前記水性媒体に分散又は溶解する遊離樹脂を含有しないか、又は前記遊離樹脂の含有割合が0.00質量%超0.50質量%以下である。前記水性媒体に分散又は溶解する遊離染料を含有しないか、又は前記遊離染料の含有割合が0.000質量%超0.050質量%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るインクジェット捺染用インクは、分散性、保存安定性、及び形成される画像の画質に優れ、かつ摩擦堅ろう度に優れる捺染物を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。本明細書では、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0009】
なお、以下において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定された値である。
【0010】
酸価の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本産業規格)K0070-1992」に記載の方法に準拠して測定した値である。
【0011】
ガラス転移点(Tg)の測定値は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(例えば、株式会社島津製作所製「DSC-60」)を用いて「JIS(日本産業規格)K7121-2012」に従って測定した値である。示差走査熱量計で測定された吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度、昇温速度5℃/分)において、ガラス転移に起因する変曲点の温度(詳しくは、ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点の温度)が、Tg(ガラス転移点)に相当する。
【0012】
<インクジェット捺染用インク>
本発明の実施形態に係るインクジェット捺染用インク(以下、インクと記載することがある)は、水性媒体と、水性媒体に分散する着色粒子と、カルボジイミド基を有する第1架橋剤とを含有する。着色粒子は、染料を含む特定塩化合物と、特定ビニル樹脂とを含む。特定ビニル樹脂は、カルボキシ基を有する特定モノマーに由来する特定繰り返し単位を含む。特定ビニル樹脂の酸価は、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である。特定ビニル樹脂のガラス転移点は、50℃以上80℃以下である。水性媒体に分散又は溶解する遊離樹脂を含有しないか、又は遊離樹脂の含有割合が0.00質量%超0.50質量%以下である。水性媒体に分散又は溶解する遊離染料を含有しないか、又は遊離染料の含有割合が0.000質量%超0.050質量%以下である。
【0013】
本発明のインクは、捺染対象の捺染に用いる。本発明のインクを用いる捺染対象は、織物であってもよく、編み物であってもよい。捺染対象としては、例えば、木綿生地、絹生地、麻生地、アセテート生地、レーヨン生地、ナイロン生地、ウレタン生地、及びポリエステル生地が挙げられる。捺染対象としては、ポリエステル生地が好ましい。
【0014】
本発明のインクを用いた捺染方法の一例として、ダイレクト捺染方法(捺染対象に直接インクを吐出する捺染方法)を説明する。ダイレクト捺染方法は、本発明のインクを捺染対象の画像形成領域に吐出することで画像を形成する画像形成工程と、画像形成後の捺染対象を加熱する加熱工程とを備える。画像形成工程では、例えば、記録ヘッド(例えば、サーマル型記録ヘッド又はピエゾ型記録ヘッド)を備えるインクジェット捺染装置を用いることができる。加熱工程での加熱条件としては、例えば、加熱温度150℃以上220℃以下、加熱時間30秒以上120秒以下とすることができる。
【0015】
本発明のインクは、上述の構成を備えることにより、分散性、保存安定性、及び形成される画像の画質に優れ、かつ摩擦堅ろう度に優れる捺染物を形成できる。その理由は、以下のように推察される。本発明のインクは、着色成分として着色粒子を含む。着色粒子は、染料を含む特定塩化合物と、特定ビニル樹脂とを含む。特定塩化合物に含まれる造塩可能な染料は、他の染料(例えば、自己分散染料及び油性染料)と比較し、発色性に優れるものが多い。また、特定塩化合物は、特定ビニル樹脂との親和性に優れ、着色粒子において特定ビニル樹脂中に高度に分散して優れた発色性を発揮できる。これらの結果、本発明のインクは、鮮やかな画像を形成できる。
【0016】
更に、記録ヘッドでインクを吐出すると、記録ヘッドのノズル表面に少量のインクが残留する。もしインクに遊離樹脂及び遊離染料が過剰に含まれていると、ノズル表面に残留したインクが乾燥する際に遊離樹脂及び遊離染料が析出して固着し、画像不良の原因となる場合がある。これに対して、本発明のインクは、遊離樹脂及び遊離染料をほとんど含有しないため、上述の画像不良の発生を抑制できる。このように、本発明のインクは、鮮やかな画像を形成でき、かつ画像不良の発生を抑制できるため、画質に優れる画像を形成できる。
【0017】
更に、着色粒子に含まれる特定ビニル樹脂は、適度に高い酸価(50mgKOH/g以上)を有する。そのため、着色粒子は、優れた親水性を有し、水性媒体に高度に分散している。以上から、本発明のインクは、分散性に優れる。
【0018】
更に、本発明のインクは、着色粒子に含まれる特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)が適度に低い(80℃以下)。そのため、本発明のインクを捺染対象に吐出した後に上述の捺染対象を加熱することにより、着色粒子が適度に柔らかくなり、着色粒子が捺染対象に強固に固着する。更に、本発明のインクは、カルボジイミド基を有する第1架橋剤を含有する。本発明のインクを捺染対象に吐出した後に上述の捺染対象を加熱することにより、第1架橋剤は、着色粒子に含まれる特定ビニル樹脂が有するカルボキシ基と反応し、着色粒子同士を架橋する。その結果、着色粒子は、捺染対象の表面に更に強固に固着する。また、第1架橋剤により架橋された着色粒子は、特定ビニル樹脂が有していたカルボキシ基が架橋構造に取り込まれているため、架橋前よりも親水性が低下している。これらの結果、本発明のインクにより形成された捺染物は、乾燥状態又は湿潤状態で表面を摩擦されたとしても、捺染対象の表面から着色粒子が容易に脱離しない。そのため、本発明のインクは、摩擦堅ろう度に優れる捺染物を形成できる。
【0019】
一方で、着色粒子に含まれる特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)が過度に低い場合(例えば、50℃未満)、着色粒子が常温でも軟かくなり、インクの保存安定性が低下する。これに対して、本発明のインクにおいては、特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)は50℃以上であり、過度に低いわけではない。そのため、本発明のインクは保存安定性に優れる。
【0020】
[着色粒子]
着色粒子は、染料を含む特定塩化合物と、特定ビニル樹脂とを含む。着色粒子において、特定ビニル樹脂は、例えば、マトリックスを構成する。着色粒子において、特定塩化合物は、例えば、特定ビニル樹脂により構成されるマトリックスに分散した状態で存在する。
【0021】
着色粒子は、特定塩化合物及び特定ビニル樹脂のみを含むことが好ましいが、他の成分(例えば、特定ビニル樹脂以外の樹脂、染料以外の着色剤、及び後述する中和剤)を含んでいてもよい。着色粒子において、特定塩化合物及び特定ビニル樹脂の合計含有割合としては、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、99質量%以上が更に好ましい。
【0022】
着色粒子の体積中位径D50としては、40nm以上150nm以下が好ましく、80nm以上120nm以下がより好ましい。着色粒子の体積中位径D50を40nm以上とすることで、着色粒子の凝集を抑制できる。着色粒子の体積中位径D50を150nm以下とすることで、本発明のインクの吐出性能を向上できる。
【0023】
着色粒子において、特定ビニル樹脂100質量部に対する特定塩化合物の含有量としては、10質量部以上80質量部以下が好ましく、20質量部以上45質量部以下がより好ましい。特定塩化合物の含有量を10質量部以上とすることで、本発明のインクにより、所望する画像濃度を有する画像を形成し易くなる。特定塩化合物の含有量を80質量部以下とすることで、本発明のインクにより形成される捺染物の摩擦堅ろう度を更に向上できる。
【0024】
本発明のインクにおいて、着色粒子の含有割合としては、1.0質量%以上20.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以上10.0質量%以下がより好ましい。
【0025】
(特定塩化合物)
特定塩化合物は、染料を含む。特定塩化合物が含む染料としては、例えば、酸性染料及び塩基性染料が挙げられる。特定塩化合物が含む染料としては、塩基性染料が好ましい。
【0026】
塩基性染料としては、例えば、C.I.ベーシック・イエロー(より詳しくは、1、2、11、13、14、15、19、21、23、24、25、28、29、32、36、40、41、45、49、51、53、63、465、67、70、73、77、87、及び91)、C.I.ベーシック・レッド(より詳しくは、2、12、13、14、15、18、22、23、24、27、29、35、36、38、39、46、49、51、52、54、59、68、69、70、73、78、82、102、104、109、及び112)、C.I.ベーシック・ブルー(より詳しくは、1、3、5、7、9、21、22、26、35、41、45、47、54、62、65、66、67、69、75、77、78、89、92、93、105、117、120、122、124、129、137、141、147、及び155)、及びC.I.ベーシック・ブラック(より詳しくは、2、及び8)が挙げられる。
【0027】
酸性染料としては、例えば、C.I.アシッド・イエロー(より詳しくは、17、23、42、44、79、及び142)、C.I.アシッド・レッド(より詳しくは、1、8、13、14、18、26、27、35、37、42、52、82、87、89、92、97、106、111、114、115、134、186、249、254、及び289)、C.I.アシッド・ブルー(より詳しくは、9、29、45、92、及び249)、及びC.I.アシッド・ブラック(より詳しくは、1、2、7、24、26、及び94)が挙げられる。
【0028】
特定塩化合物は、例えば、「金属錯塩染料」又は「造塩染料」の名称で市販される。特定塩化合物の市販品としては、例えば、「VALIFAST(登録商標)BLACKシリーズ(例えば、1807、1821、3804、3810、3820、3830、3840、及び3870)」、「VALIFAST(登録商標)BLUEシリーズ(例えば、1603、1605、1621、及び2620)」、「VALIFAST(登録商標)GREEN 1501」、「VALIFAST(登録商標)ORANGE 3209」、「VALIFAST(登録商標)PINK 2310NN」、「VALIFAST(登録商標)REDシリーズ(例えば、1308、1320、1355、1364、2320、3304、3306、3311、3312、及び3325)」、「VALIFAST(登録商標)VIOLETシリーズ(例えば、1701、及び1704)」、「VALIFAST(登録商標)YELLOWシリーズ(例えば、1108、1151、1171、3120、3150、3170、3180、4120、及び4121)」が挙げられる。
【0029】
本発明のインクにおいて、特定塩化合物の含有割合としては、0.1質量%以上4.0質量%以下が好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。特定塩化合物の含有割合を0.1質量%以上とすることで、本発明のインクにより、所望する画像濃度を有する画像を形成し易くなる。特定塩化合物の含有割合を4.0質量%以下とすることで、本発明のインクにより形成される捺染物の摩擦堅ろう度を更に向上できる。
【0030】
(特定ビニル樹脂)
特定ビニル樹脂は、カルボキシ基を有する特定モノマーに由来する特定繰り返し単位を含む。特定繰り返し単位は、特定ビニル樹脂の酸価を増大させ、着色粒子の親水性を向上させる。なお、特定ビニル樹脂は、カルボキシ基を有しないモノマー(以下、他のビニルモノマーと記載することがある)に由来する繰り返し単位(以下、他の繰り返し単位と記載することがある)を更に含んでもよい。
【0031】
ここで、ビニル樹脂は、ビニル化合物に由来する繰り返し単位を有する樹脂をいう。ビニル化合物とは、ビニル基(CH2=CH-)、又はビニル基中の水素が置換された基を有する化合物である。ビニル化合物は、ビニル基又はビニル基中の水素が置換された基に含まれる炭素-炭素二重結合(C=C)により付加重合し、ビニル樹脂を形成する。
【0032】
特定モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、ビニル安息香酸、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸、及び(メタ)アクリル酸ダイマーが挙げられる。
【0033】
特定ビニル樹脂において、特定繰り返し単位の含有割合としては、3.0質量%以上30.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましい。特定繰り返し単位の含有割合を3.0質量%以上とすることで、本発明のインクの分散性を更に向上できる。特定繰り返し単位の含有割合を30.0質量%以下とすることで、本発明のインクにより形成される捺染物の摩擦堅ろう度を更に向上できる。
【0034】
他のビニルモノマーとしては、例えば、スチレン化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸フェニルエステル、(メタ)アクリロニトリル及び塩化ビニルが挙げられる。
【0035】
スチレン化合物としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、及びp-n-ドデシルスチレンが挙げられる。スチレン化合物としては、スチレンが好ましい。
【0036】
特定ビニル樹脂において、スチレン化合物に由来する繰り返し単位の含有割合としては、3.0質量%以上40.0質量%以下が好ましく、20.0質量%30.0質量%以下がより好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及び(メタ)アクリル酸ラウリルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-エチルヘキシル又はメタクリル酸ステアリルが好ましい。
【0038】
特定ビニル樹脂において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位の含有割合としては、20.0質量%以上75.0質量%以下が好ましく、30.0質量%45.0質量%以下がより好ましい。
【0039】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルが挙げられる。
【0040】
特定ビニル樹脂において、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルに由来する繰り返し単位の含有割合としては、3.0質量%以上10.0質量%以下が好ましい。
【0041】
(メタ)アクリル酸フェニルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジルが挙げられる。(メタ)アクリル酸フェニルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ベンジルが好ましい。
【0042】
特定ビニル樹脂において、(メタ)アクリル酸フェニルエステルに由来する繰り返し単位の含有割合としては、10.0質量%以上50.0質量%以下が好ましく、25.0質量%以上35.0質量%以下がより好ましい。
【0043】
特定ビニル樹脂としては、以下の組み合わせA~Eのモノマーに由来する繰り返し単位を有する樹脂が好ましい。
【0044】
組み合わせA:アクリル酸、スチレン、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸ベンジル
組み合わせB:メタクリル酸、スチレン、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸ベンジル
組み合わせC:アクリル酸、スチレン、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル及びアクリル酸2-エチルヘキシル
組み合わせD:メタクリル酸、スチレン、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチル
組み合わせE:アクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル及びメタクリル酸ステアリル
【0045】
特定ビニル樹脂は、特定繰り返し単位を含む第1ブロック(親水性ブロック)と、特定繰り返し単位を含まない第2ブロック(即ち、他の繰り返し単位のみを含む疎水性ブロック)とを有するブロック共重合体であることが好ましい。第1ブロックは、他の繰り返し単位を更に含んでもよい。第1ブロックにおいて、特定繰り返し単位の含有割合としては、25.0質量%以上75.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以上60.0質量%以下がより好ましい。
【0046】
特定ビニル樹脂の分子量に対する第1ブロックの分子量の割合(100×第1ブロックの分子量/特定ビニル樹脂の分子量)としては、5.0%以上50.0%以下が好ましく、15.0%以上25.0%以下がより好ましい。
【0047】
特定ビニル樹脂の酸価は、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、60mgKOH/g以上90mgKOH/g以下が好ましい。特定ビニル樹脂の酸価を50mgKOH/g以上とすることで、着色粒子の親水性を向上できる。その結果、本発明のインクの分散性を向上できる。特定ビニル樹脂の酸価を150mgKOH/g以下とすることで、着色粒子の親水性が過度に増大することを抑制できる。その結果、本発明のインクにより形成される捺染物の摩擦堅ろう度を向上できる。
【0048】
特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)は、50℃以上80℃以下であり、70℃以上80℃以下が好ましい。特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)を50℃以上とすることで、着色粒子が常温で過度に柔らかくなることを抑制できる。その結果、本発明のインクの保存安定性を向上できる。特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)を80℃以下とすることで、本発明のインクを捺染対象に吐出した後に上述の捺染対象を加熱した際に、着色粒子が捺染対象に強固に定着する。その結果、本発明のインクにより形成される捺染物の摩擦堅ろう度を向上できる。
【0049】
本発明のインクにおいて、特定ビニル樹脂の含有割合としては、1.0質量%以上15.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上7.0質量%以下がより好ましい。特定ビニル樹脂の含有割合を1.0質量%以上とすることで、本発明のインクにより形成される捺染物の摩擦堅ろう度を更に向上できる。特定ビニル樹脂の含有割合を15.0質量%以下とすることで、本発明のインクの保存安定性を更に向上できる。
【0050】
[水性媒体]
本発明のインクが含有する水性媒体は、水を含む媒体である。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体の具体例としては、水のみを含む水性媒体、及び水と水溶性有機溶媒とを含む水性媒体が挙げられる。
【0051】
(水)
本発明のインクにおいて、水の含有割合としては、30.0質量%以上80.0質量%以下が好ましく、45.0質量%以上65.0質量%以下がより好ましい。水の含有割合を30.0質量%以上80.0質量%以下とすることで、本発明のインクの吐出安定性を向上できる。
【0052】
水溶性有機溶媒としては、例えば、グリコール化合物、グリコールエーテル化合物、ラクタム化合物、含窒素化合物、アセテート化合物、チオジグリコール、グリセリン及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0053】
グリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールが挙げられる。
【0054】
グリコールエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0055】
ラクタム化合物としては、例えば、2-ピロリドン及びN-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0056】
含窒素化合物としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0057】
アセテート化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0058】
水溶性有機溶媒としては、グリセリン、又はグリコール化合物が好ましく、グリセリン、又はプロピレングリコールがより好ましい。
【0059】
本発明のインクにおける水溶性有機溶媒の含有割合としては、5.0質量%以上40.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上25.0質量%以下がより好ましい。
【0060】
[第1架橋剤]
第1架橋剤は、カルボジイミド基(-N=C=N-)を有する。第1架橋剤が有するカルボジイミド基の数としては、例えば、2以上30以下である。第1架橋剤としては、例えば、芳香族ポリカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、及び脂肪族ポリカルボジイミドが挙げられる。なお、ポリカルボジイミドとは、分子中にカルボジイミド基を有するポリマーを示す。芳香族ポリカルボジイミドとしては、例えば、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、及びポリ(トリイソプロピルフェニルカルボジイミド)が挙げられる。脂環族ポリカルボジイミドとしては、例えば、ポリ(ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)が挙げられる。脂肪族ポリカルボジイミドとしては、例えば、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)が挙げられる。第1架橋剤の市販品としては、例えば、日清紡績株式会社製「カルボジライト(登録商標)E-01」、「カルボジライト(登録商標)E-02」、及び「カルボジライト(登録商標)V-02」が挙げられる(何れもポリカルボジイミド)。
【0061】
本発明のインクにおける第1架橋剤の含有割合としては、0.5質量%以上10.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。第1架橋剤の含有割合を0.5質量%以上とすることで、本発明のインクにより形成される捺染物の摩擦堅ろう度を更に向上できる。第1架橋剤の含有割合を10.0質量%以下とすることで、本発明のインクの保存安定性を更に向上できる。
【0062】
[遊離樹脂]
遊離樹脂は、水性媒体に分散又は溶解する。遊離樹脂は、例えば、着色粒子を調製する際に粒子中に取り込まれなかった特定ビニル樹脂、又は着色粒子から溶出した特定ビニル樹脂である。遊離樹脂を多く含むインクは、ノズル詰まりを発生させることがある。そのため、本発明のインクは、遊離樹脂をなるべく含有しないことが好ましい。詳しくは、本発明のインクは、遊離樹脂を含有しないか、又は遊離樹脂の含有割合が0.00質量%超0.50質量%以下である。本発明のインクが遊離樹脂を含有する場合、遊離樹脂の含有割合としては、0.00質量%超0.35質量%以下が好ましい。
【0063】
[遊離染料]
遊離染料は、水性媒体に分散又は溶解する。遊離染料は、例えば、着色粒子を調製する際に粒子中に取り込まれなかった特定塩化合物、又は着色粒子から溶出した特定塩化合物である。遊離染料を多く含むインクは、ノズル詰まりを発生させることがある。そのため、本発明のインクは、遊離染料を含有しないことが好ましい。詳しくは、本発明のインクは、遊離染料を含有しないか、又は遊離染料の含有割合が0.000質量%超0.050質量%以下である。本発明のインクが遊離染料を含有する場合、遊離染料の含有割合としては、0.000質量%超0.030質量%以下が好ましい。
【0064】
なお、遊離樹脂及び遊離染料の含有割合は、実施例に記載の方法又はこれに準じる方法により測定される。
【0065】
[第2架橋剤]
第2架橋剤は、ブロックイソシアナートである。第2架橋剤は、着色粒子同士の架橋、又は着色粒子及び捺染対象の架橋を行う成分である。本発明のインクが第2架橋剤を含有することにより、本発明のインクにより形成される捺染物の摩擦堅ろう度を更に向上できる。
【0066】
ブロックイソシアナートとしては、例えば、イソシアネート化合物と、イソシアネート化合物の有するイソシアネート基をブロックするブロック剤とにより構成される化合物が挙げられる。イソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族イソシアネート化合物、芳香族イソシアネート化合物及びウレタンプレポリマーが挙げられる。ブロック剤としては、例えば、アルコール化合物、アミン化合物、イミド化合物、イミン化合物、尿素化合物、メルカプタン化合物、ジアリール化合物、フェノール化合物、活性メチレン化合物、オキシム化合物及びラクタム化合物が挙げられる。
【0067】
ブロックイソシアナートの市販品としては、例えば、明成化学工業株式会社製「NBP-8730」、「NBP-211」、「メイカネートCX」、「SU-268A」、「DM-6400」、「メイカネートDM-3031CONC」、「メイカネートDM-35HC」、及び「メイカネートTP-10」が挙げられる。
【0068】
本発明のインクにおける第2架橋剤の含有割合としては、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。第2架橋剤の含有割合を0.1質量%以上とすることで、本発明のインクにより形成される捺染物の摩擦堅ろう度を更に向上できる。第2架橋剤の含有割合を5.0質量%以下とすることで、本発明のインクの保存安定性を向上できる。
【0069】
[中和剤]
本発明のインクは、中和剤を更に含有することが好ましい。中和剤としては、例えば、塩基性化合物が挙げられる。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、アミン化合物、アルカリ金属塩、及びアルカリ土類金属塩が挙げられる。中和剤としては、アミン化合物が好ましい。
【0070】
ここで、捺染に用いたインク中の中和剤が捺染物に残留すると、捺染物の摩擦堅ろう度が低下する傾向がある。そのため、中和剤は、揮発性が高く、捺染時に行う加熱処理によって揮発する成分であることが好ましい。このような観点から、中和剤としては、揮発性に優れる成分であるアミン化合物が好ましい。中和剤としてアミン化合物を用いることにより、本発明のインクにより形成される捺染物の摩擦堅ろう度を更に向上できる。また、中和剤としてアミン化合物を用いることにより、他の中和剤を用いた場合と比較して、本発明のインクの保存安定性を更に向上できる。
【0071】
アミン化合物としては、例えば、アリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、トリ-n-オクチルアミン、t-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、n-プロパノールアミン、ブタノールアミン、2-アミノ-4-ペンタノール、2-アミノ-3-ヘキサノール、5-アミノ-4-オクタノール、3-アミノ-3-メチル-2-ブタノール、モノエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ネオペンタノールアミン、ジグリコールアミン、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,2-ジアミノプロパン、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ジアミノノナン、1,12-ジアミノドデカン、二量体脂肪酸ジアミン、2,2,4,-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、N-アミノプロピルピペラジン、N-アミノプロピルジピペリジプロパン及びピペラジンが挙げられる。アミン化合物としては、ジイソプロピルアミン又はトリエチルアミンが好ましい。
【0072】
アルカリ金属塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムが挙げられる。アルカリ金属塩としては、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0073】
本発明のインクにおいて、中和剤の含有量としては、着色粒子100質量部に対して、0.5質量部以上15.0質量部以下が好ましく、1.0質量部以上8.0質量部以下がより好ましい。
【0074】
[界面活性剤]
本発明のインクは、界面活性剤を更に含有することが好ましい。界面活性剤は、記録媒体に対する本発明のインクの浸透性(濡れ性)を向上させる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0075】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、モノデカノイルショ糖、及びアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が好ましい。
【0076】
本発明のインクが界面活性剤を含有する場合、本発明のインクにおける界面活性剤の含有割合としては、0.05質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。
【0077】
[その他の成分]
本発明のインクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、例えば、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0078】
[インクの製造方法]
本発明のインクは、例えば、攪拌機を用いて、着色粒子分散液と、水性媒体と、第1架橋剤と、必要に応じて添加される成分(例えば、界面活性剤、及び第2架橋剤)とを混合することにより製造される。混合時間としては、例えば、1分以上30分以下である。本発明のインクの調製では、各成分を均一に混合した後、フィルター(例えば、孔径5μmフィルター)により異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【0079】
着色粒子分散液は、着色粒子及び水を含有する。着色粒子分散液は、中和剤を更に含有することが好ましい。着色粒子分散液は、遊離樹脂及び遊離染料をなるべく含有しないことが好ましい。本発明のインクの製造において、着色粒子分散液から予め遊離樹脂及び遊離染料を可能な限り除去しておくことにより、遊離染料及び遊離樹脂の含有割合が低いインクを得ることができる。
【0080】
(着色粒子分散液の調製方法)
着色粒子分散液の調製方法としては、例えば、有機溶媒中で特定塩化合物及び特定ビニル樹脂を混合する第1工程と、第1工程で得られた混合物に中和剤を添加して中和する第2工程と、中和後の混合物を転相乳化法により粒子化する第3工程と、第3工程で得られた分散液をろ過することで着色粒子分散液を得る第4工程とを備える方法が挙げられる。
【0081】
(第1工程)
本工程では、有機溶媒中で特定塩化合物及び特定ビニル樹脂を混合する。有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトンが挙げられる。混合において、特定ビニル樹脂100質量部に対する特定塩化合物の使用量としては、10質量部以上80質量部以下が好ましく、20質量部以上45質量部以下がより好ましい。混合温度としては、70℃以上130℃以下が好ましい。
【0082】
(第2工程)
本工程では、第1工程で得られた混合物に中和剤を添加して中和(例えば、pH6~8)する。本工程では、中和剤そのものを上述の混合物に添加してもよく、中和剤を含む水溶液を上述の混合物に添加してもよい。
【0083】
(第3工程)
本工程では、中和後の混合物を転相乳化法により粒子化する。詳しくは、転相乳化法では、中和後の混合物に水を添加することで着色粒子を析出させる。次に、着色粒子が析出した混合物から有機溶媒を留去することにより、着色粒子、水及び中和剤を含む分散液を得ることができる。上述の分散液には、遊離染料及び遊離樹脂が一定量含まれる。
【0084】
(第4工程)
本工程では、第3工程で得られた分散液をろ過することで着色粒子分散液を得る。本工程により、第3工程で得られた分散液から遊離染料及び遊離樹脂を除去することができる。その結果、遊離染料及び遊離樹脂の含有割合が低い着色粒子分散液を得ることができる。なお、本工程の後、着色粒子分散液に水を添加して固形分濃度を調整してもよい。
【0085】
本工程でろ過に用いるフィルターの孔径としては、0.5μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましい。ろ過回数としては、7回以上20回以下が好ましい。
【0086】
なお、着色粒子分散液を形成する別の方法として、例えば、特定塩化合物及び特定ビニル樹脂を混練及び粉砕した後、得られた粉砕物を水に分散させる方法も挙げられる。
【実施例0087】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0088】
[特定ビニル樹脂の合成]
窒素導入管、温度計、コンデンサー及び攪拌機を備えた四つ口フラスコにメチルエチルケトン30質量部、アクリル酸10質量部、メタクリル酸メチル10質量部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.6質量部、及び2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸3.2質量部を投入した。反応容器内を窒素ガスで置換した後、内容物の温度を75℃に昇温し、内容物を3時間重合反応させた。これにより、特定繰り返し単位(アクリル酸に由来する繰り返し単位)を含む第1ブロックを形成した。その後、反応容器の内容物の温度が常温になるまで冷却した。その後、反応容器に、メチルエチルケトン60質量部、スチレン25質量部、アクリル酸n-ブチル5質量部、メタクリル酸メチル20質量部、及びメタクリル酸ベンジル30質量部を更に投入した。反応容器内を窒素ガスで置換した後に、内容物の温度を75℃に昇温し、内容物を3時間重合反応させた。これにより、第1ブロックの末尾に、特定繰り返し単位を含まない第2ブロックを形成した。反応後の反応容器内容物から反応生成物を精製することにより、特定ビニル樹脂(P-1)を得た。
【0089】
使用する各成分を下記表1に示す通りに変更した以外は、特定ビニル樹脂(P-1)と同様の方法により、特定ビニル樹脂(P-2)~(P-9)を合成した。
【0090】
下記表1における略語を以下に示す。なお、下記表1において、メチルエチルケトンの使用量は、第1ブロックの形成に使用したメチルエチルケトンの使用量と、第2ブロックの形成に使用したメチルエチルケトンの使用量との合計を示す。
AA:アクリル酸(特定モノマー)
MAA:メタクリル酸(特定モノマー)
St:スチレン
nBA:アクリル酸n-ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
BzMA:メタクリル酸ベンジル
HEA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
SMA:メタクリル酸ステアリル
DSCTSMPA:2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸
AIBN:2,2’-アゾビスイソブチロニトリル
MEK:メチルエチルケトン
【0091】
(酸価の測定)
以下の方法により、「JIS(日本産業規格)K0070-1992」に沿って特定ビニル樹脂(P-1)~(P-9)の酸価を測定した。測定結果を下記表1に示す。まず、測定対象(特定ビニル樹脂(P-1)~(P-9)の何れか)1.0gを精秤した。これを、測定対象の質量M[g]とした。次に、ビーカーに測定対象1.0gと、テトラヒドロフラン及びエタノールの混合溶媒(テトラヒドロフランの質量:エタノールの質量=2:1)25mLとを投入して攪拌した。次に、自動滴定測定装置(株式会社HIRANUMA製「COM-2500」)を用いて、測定対象の中和滴定を行った。滴定溶液としては、0.1mol/LのKOHエタノール溶液を用いた。測定対象の中和に必要とした滴定溶液の使用量をS[mL]とした。別途、上述の混合溶媒についても中和滴定を行った(ブランク測定)。混合溶媒の中和に必要とした滴定溶液の使用量をB[mL]とした。下記式に基づいて、測定対象の酸価を算出した。なお、下記式において、fは、滴定溶液のカタログ濃度に対する実際の濃度の比率(実際の濃度/カタログ濃度)を示すファクターである。
酸価[mgKOH/g]=(S-B)×f×5.61/M
【0092】
(ガラス転移点(Tg)の測定)
実施形態に記載の方法により、「JIS(日本産業規格)K0070-1992」に沿って特定ビニル樹脂(P-1)~(P-9)のガラス転移点(Tg)を測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0093】
【0094】
<インクの調製>
以下の方法により、実施例1~12及び比較例1~9のインクを調製した。
【0095】
[実施例1]
還流冷却管、攪拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、特定ビニル樹脂(R-1)12g、及び染料としての特定塩化合物(オリヱント化学工業株式会社「VALIFAST(登録商標)BLUE 1631」、塩基性染料を含む特定塩化合物)3gを投入した。次に、フラスコにメチルエチルケトン50gを投入し、内容物を40℃、300rpmで30分攪拌した。これにより、メチルエチルケトン中において、特定ビニル樹脂及び特定塩化合物が一体化した粒子(体積中位径:約100nm)を形成した。次に、フラスコの内容物に中和剤(1N水酸化ナトリウム水溶液)10.7gを添加して中和した。中和後、フラスコにイオン交換水を5mL/分の速度で計130g滴下した後、内容物を十分に攪拌して分散液を得た。その後、得られた分散液に対して、湿式ジェットミル(吉田機械興業株式会社製「ナノヴェイダL-AS」)を用いて、圧力180MPaでの分散処理を5回行った。次に、分散処理後の分散液を減圧下で60℃に加熱することにより、メチルエチルケトンを留去した。次に、留去後の分散液に対してタンジェンシャルフローろ過装置(日本ポール株式会社製「LVセントラメイトタンジェンシャルフローシステム」)を用いたろ過処理を行った。ろ過処理においては、スーポアメンブレン(孔径0.1μm)の膜を用い、流速150mL/分でろ過処理した。ろ過処理において、ろ過回数は、10回とした。ここで、ろ過回数とは、ろ過処理前の分散液の体積をA[mL]、流速(150mL/分)をB[mL/分]、ろ過処理時間をC[分]としたときに、「C×B/A」で算出される値である。例えば、ろ過処理前の分散液の体積が150mLである場合、1分間処理を行うとろ過回数は1回、5分間ろ過処理を行うとろ過回数は5回となる。ろ過後のろ液にイオン交換水を添加し、固形分が15質量%となるように濃度を調整した。これにより、着色粒子を含有する着色粒子分散液(固形分15質量%)を得た。
【0096】
上述の着色粒子分散液20.0g(着色粒子3.0gを含有)と、プロピレングリコール4.0gと、グリセリン4.0gと、ノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社「サーフィノール(登録商標)104」)0.1gと、イオン交換水8.0gと、架橋剤としての第1架橋剤(I-1)(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト(登録商標)E-05」)3.75gとを混合した。得られた混合物を孔径5μmのフィルターでろ過処理した。これにより、実施例1のインクを得た。なお、ろ過処理においては、後述の分散性の評価を行うため、フィルター上に残留した成分(ろ過されなかった粗大粒子)の質量を測定した。
【0097】
[実施例2~12及び比較例1~9]
着色粒子分散液の調製に使用する特定ビニル樹脂、染料及び中和剤の種類及び量と、ろ過処理におけるろ過回数と、インクの調製に使用する架橋剤の種類及び量とを下記表2~4に示す通りに変更した以外は、実施例1のインクの調製と同様の方法により、実施例2~12及び比較例1~9のインクを調製した。下記表2~4における略語を以下に示す。
【0098】
1631:オリヱント化学工業株式会社「VALIFAST(登録商標)BLUE 1631」、塩基性染料を含む特定塩化合物
613:オリヱント化学工業株式会社「OIL BLUE 613」、塩基性染料を含む特定塩化合物
314:オリヱント化学工業株式会社「OIL PINK 314」、塩基性染料を含む特定塩化合物
60:有本化学工業株式会社製「Plast Red 8375-N」、分散染料(Dispers Red)
NaOH:1N水酸化ナトリウム水溶液
DIPA:ジイソプロピルアミン(アミン化合物)
TEA:トリエチルアミン(アミン化合物)
第1架橋剤(I-1):日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト(登録商標)E-05」、有効成分濃度40質量%、カルボジイミド基を有する架橋剤
第1架橋剤(I-2):日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト(登録商標)V-02-L2」、有効成分濃度40質量%、カルボジイミド基を有する架橋剤
第2架橋剤(II-1):明成化学工業株式会社「メイカネートCX」、ブロックイソシアナート
第2架橋剤(II-2):明成化学工業株式会社「SU-268A」、ブロックイソシアナート
%:インクにおける含有割合[質量%]
【0099】
[遊離樹脂及び遊離染料の測定]
実施例1~12及び比較例1~9のインクについて、以下の方法により遊離樹脂及び遊離染料の含有割合を測定した。測定結果を下記表2~4に示す。
【0100】
質量Aの測定対象(実施例1~12及び比較例1~9のインクの何れか)に対して、超遠心分離機(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社製「himac(登録商標)CS150FNX」)を用いて、140000rpm、30分間の超遠心処理を行った後、上澄み液を回収した。上澄み液について、分光光度計(株式会社日立製作所製「U-3000」)を用いて、吸光度(詳しくは、測定対象の調製に用いた染料のピーク波長の吸光度)を測定した。測定された上澄み液の吸光度を、予め作成した検量線に当てはめることで、上澄み液における染料の濃度を算出した。検量線は、濃度の異なる複数種の染料水溶液(検量線作成用試料)の吸光度を測定することで作成した。上澄み液に含まれる染料は、測定対象に含まれていた遊離染料に相当する。下記式(1-1)に基づいて、上澄み液に含まれる染料の質量Bを算出した。染料の質量Bは、測定対象に含まれていた遊離染料の質量に相当する。下記式(1-2)に基づいて、測定対象における遊離染料の含有割合を算出した。
上澄み液に含まれる染料の質量B=上澄み液の質量×上澄み液における染料濃度・・・(1-1)
測定対象における遊離染料の含有割合=100×染料の質量B/測定対象の質量A・・・(1-2)
【0101】
次に、上澄み液の全量を乾燥させ、得られた固形分の質量Cを測定した。上述の固形分は、測定対象に含まれていた遊離染料及び遊離樹脂の混合物に相当する。そのため、固形分の質量Cから染料の質量Bを減じた値(固形分の質量C-染料の質量B)は、測定対象に含まれていた遊離樹脂の質量に相当する。下記式(1-3)に基づいて、測定対象における遊離樹脂の含有割合を算出した。
測定対象における遊離樹脂の含有割合=100×(固形分の質量C-染料の質量B)/測定対象の質量A
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
<評価>
以下の方法により、実施例1~12及び比較例1~9のインクについて、分散性、保存安定性、形成される画像の画質、及び形成される捺染物の摩擦堅ろう度(詳しくは、乾燥摩擦堅ろう度及び湿潤摩擦堅ろう度)を評価した。但し、比較例2のインクは、インクの分散性が低く(即ち、粗大粒子が多い)、分散性以外の評価を行うことが困難であるため、分散性のみを評価した。評価結果を下記表5~6に示す。
【0106】
[分散性]
実施例1~12及び比較例1~9のインクを調製する際のろ過処理において、フィルター上に残留した成分(ろ過されなかった粗大粒子)の質量に基づいて分散性を評価した。ろ過処理前の混合物に含まれていた着色粒子の質量に対する粗大粒子の質量の割合(100×粗大粒子の質量/着色粒子の質量)を算出した。算出結果をインクの分散性の評価値とした。インクの分散性は、以下の基準に沿って判定した。
【0107】
(分散性の基準)
特に良好(A):評価値が0質量%以上5質量%以下
良好(B):評価値が5質量%超10質量%以下
不良(C):評価値が10質量%超
【0108】
[保存安定性]
実施例1~12及び比較例1~9のインクについて、それぞれ、オーブン内で60℃、2週間の加熱処理を行った。その後、各インクを孔径5μmのフィルターでろ過処理した。ろ過処理後、フィルター上に残留した成分(ろ過されなかった粗大粒子)の質量を測定した。ろ過処理前のインクに含まれていた着色粒子の質量に対する粗大粒子の質量の割合(100×粗大粒子の質量/着色粒子の質量)を算出した。算出結果をインクの保存安定性の評価値とした。インクの保存安定性は、以下の基準に沿って判定した。
【0109】
(保存安定性の基準)
特に良好(A):評価値が0質量%以上5質量%以下
良好(B):評価値が5質量%超10質量%以下
不良(C):評価値が10質量%超
【0110】
(捺染物の作成)
評価機として、記録ヘッド(京セラ株式会社製「KJ4B」)を備える試験機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製)を用いた。評価機の記録ヘッドに、評価対象(実施例1~12及び比較例1~9のインクの何れか)を充填した。評価機を用いて、捺染対象(ポリエステル製テトロンポンジ生地)に対して50cm×50cmのソリッド画像を形成した。その後、捺染対象に対して180℃で60秒間の加熱処理を行った。これにより、ソリッド画像を捺染対象に定着させ、捺染物を得た。
【0111】
[画質]
上述の捺染物のソリッド画像について、ルーペ観察及び目視観察で画像不良(具体的には、画像スジの発生、及び画像濃度のムラ)の有無を確認した。捺染物のソリッド画像の画質は、以下の基準で判定し、評価3、4及び5を合格、評価1及び2を不合格とした。なお、画像スジは、記録ヘッドのノズルの詰まり、又は記録ヘッドからインクが正しい位置に吐出されないことに起因して発生する。
【0112】
(画質の基準)
評価5:ルーペ観察及び目視観察の何れにおいても画像不良が確認されない。
評価4:ルーペ観察では画像不良が若干確認されるが、目視観察では画像不良が確認されない。
評価3:ルーペ観察では画像不良が明確に確認されるが、目視観察では画像不良が確認されない。
評価2:ルーペ観察では画像不良が明確に確認され、目視観察では画像不良が若干確認される。
評価1:ルーペ観察及び目視観察の何れにおいても画像不良が明確に確認される。
【0113】
[摩擦堅ろう度]
JIS(日本産業規格)L-0849:2013(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に記載の摩擦試験機II形(学振形)法に従って、ソリッド画像を形成した捺染物の摩擦堅ろう度を測定した。
【0114】
詳しくは、捺染物においてソリッド画像が形成されている領域から、220mm×30mmの試験片を2枚切り出した。一方の試験片を乾燥摩擦堅ろう度の評価に用い、他方の試験片を湿潤摩擦堅ろう度の評価に用いた。
【0115】
(乾燥摩擦堅ろう度)
乾燥摩擦堅ろう度の評価では、試験片の中央部100mmの領域に対して、乾燥状態の摩擦用白綿布を毎分30往復の速度で1000往復摩擦させた(摩擦試験)。この際、摩擦用白綿布には、2Nの荷重を付加した。次いで、JIS L-0801:2011(染色堅ろう度試験方法通則)の箇条10(染色堅ろう度の判定)に記載の「変退色の判定基準」に準拠し、摩擦試験後の摩擦用白綿布の着色の程度を評価した。摩擦用白綿布の着色の程度は、9段階(汚染の程度が大きい順番に、1級、1.5級、2級、2.5級、3級、3.5級、4級、4.5級、及び5級)で判定した。乾燥摩擦堅ろう度は、摩擦用白綿布の着色の程度が小さい(5級に近い)ほど良好である。
【0116】
(湿潤摩擦堅ろう度)
以下の点を変更した以外は、乾燥摩擦堅ろう度の評価と同様の方法により、湿潤摩擦堅ろう度の評価を行った。湿潤摩擦堅ろう度の評価では、乾燥状態の摩擦用白綿布の代わりに、水で十分に湿潤させた摩擦用白綿布を用いた。また、湿潤摩擦堅ろう度の評価では、摩擦試験後に摩擦用白綿布を十分に風乾させてから着色の程度を評価した。
【0117】
捺染物の摩擦堅ろう度は、乾燥摩擦堅ろう度及び湿潤摩擦堅ろう度がいずれも3級以上(3級、3.5級、4級、4.5級又は5級)である場合を良好、それ以外の場合を不良と判断した。
【0118】
【0119】
【0120】
実施例1~12のインクは、水性媒体と、水性媒体に分散する着色粒子と、カルボジイミド基を有する第1架橋剤とを含有していた。着色粒子は、染料を含む特定塩化合物と、特定ビニル樹脂とを含んでいた。特定ビニル樹脂は、カルボキシ基を有する特定モノマーに由来する特定繰り返し単位を含んでいた。特定ビニル樹脂の酸価は、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であった。特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)は、50℃以上80℃以下であった。実施例1~12のインクは、遊離樹脂の含有割合が0.00質量%超0.50質量%以下であった。実施例1~12のインクは、遊離染料の含有割合が0.000質量%超0.050質量%以下であった。実施例1~12のインクは、分散性、保存安定性、及び形成される画像の画質に優れ、かつ摩擦堅ろう度に優れる捺染物を形成できた。
【0121】
一方、比較例1のインクは、特定ビニル樹脂の酸価が150mgKOH/g超であった。比較例1のインクは、特定ビニル樹脂の酸価が過度に高いことに起因して着色粒子の親水性が過度に高かったと判断される。その結果、比較例1のインクは、摩擦堅ろう度(特に、湿潤摩擦堅ろう度)に優れる捺染物を形成できなかった。
【0122】
比較例2のインクは、特定ビニル樹脂の酸価が50mgKOH/g未満であった。比較例2のインクは、特定ビニル樹脂の酸価が過度に低いことに起因して着色粒子の親水性が過度に低かったと判断される。その結果、比較例2のインクは、分散性が不良であった。
【0123】
比較例3のインクは、特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)が80℃超であった。比較例3のインクは、特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)が過度に高いことに起因して着色粒子が捺染対象に定着し難かった。その結果、比較例3のインクは、摩擦堅ろう度に優れる捺染物を形成できなかった。
【0124】
比較例4のインクは、特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)が50℃未満であった。比較例4のインクは、特定ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)が過度に低いことに起因して着色粒子が常温でも柔らかかった。その結果、比較例4のインクは、保存安定性が不良であった。
【0125】
比較例5のインクは、遊離染料の含有割合が0.050質量%超であった。比較例6のインクは、遊離樹脂の含有割合が0.50質量%超であった。比較例5及び6のインクは、遊離染料又は遊離樹脂が過剰に含まれているため、形成される画像の画質が不良であった。また、比較例5及び6のインクは、摩擦堅ろう度に優れる捺染物を形成できなかった。
【0126】
比較例7のインクは、着色粒子が特定塩化合物を含む代わりに、着色粒子が分散染料を含んでいた。比較例7のインクは、着色粒子において、分散染料が特定ビニル樹脂に十分に分散していなかったと判断される。その結果、比較例7のインクは、摩擦堅ろう度に優れる捺染物を形成できなかった。また、比較例7のインクは、形成される画像の画質が不良であった。
【0127】
比較例8及び9のインクは、第1架橋剤を含有していなかったため、着色粒子同士を十分に架橋することができなかったと判断される。これにより、比較例8及び9のインクにより形成された捺染物は、捺染対象の表面に着色粒子が十分に固着しなかったと判断される。また、比較例8及び9は、捺染後も着色粒子の親水性が高いままであったと判断される。その結果、比較例8及び9のインクは、摩擦堅ろう度(特に、湿潤摩擦堅ろう度)に優れる捺染物を形成できなかった。