(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167057
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】シール部材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20221027BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20221027BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20221027BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20221027BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20221027BHJP
H01R 13/52 20060101ALN20221027BHJP
【FI】
C09K3/10 G
C08L83/04
C08K3/36
C08L83/07
C08L91/00
C09K3/10 R
H01R13/52 301E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072577
(22)【出願日】2021-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】森田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】平井 亮
(72)【発明者】
【氏名】山岡 竜介
(72)【発明者】
【氏名】田島 梨沙
【テーマコード(参考)】
4H017
4J002
5E087
【Fターム(参考)】
4H017AB15
4H017AD03
4H017AE05
4J002AE034
4J002AE044
4J002AE054
4J002CP031
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5E087EE14
5E087FF08
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5E087MM05
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5E087RR12
5E087RR47
(57)【要約】
【課題】 低硬度で、相手部材の挿抜により挿入孔に切込み傷が発生しにくいシリコーンゴム系のシール部材を提供する。
【解決手段】 シール部材1は、相手部材8が挿入される複数の挿入孔20を有し、平均重合度が40以上1,700以下のポリジメチルシロキサンと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物であり、次の条件(a)~(d)を満足する。(a)該ポリジメチルシロキサン100質量部に対する該シリカ粒子の含有量をX質量部とした場合に、弾性回復率(%)/X(質量部)=5.7~19。(b)タイプAデュロメータ硬さは10以上15未満。(c)切断時引張強さは2.1MPa以上。(d)挿入孔20の表面の動摩擦係数は2.5以下。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手部材が挿入される複数の挿入孔を有するシール部材であって、
平均重合度が40以上1,700以下のポリジメチルシロキサンと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物であり、次の条件(a)~(d)を満足することを特徴とするシール部材。
(a)該ポリジメチルシロキサン100質量部に対する該シリカ粒子の含有量をX質量部とした場合に、弾性回復率(%)/X(質量部)=5.7~19。
(b)タイプAデュロメータ硬さは10以上15未満。
(c)切断時引張強さは2.1MPa以上。
(d)該挿入孔の表面の動摩擦係数は2.5以下。
【請求項2】
前記ポリジメチルシロキサンは、平均重合度が600以上1,700以下のポリジメチルシロキサンを有する請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
前記ポリジメチルシロキサンは、平均重合度が800以上1,700以下の高分子量ポリジメチルシロキサンと、平均重合度が40以上110以下の低分子量ポリジメチルシロキサンと、を有する請求項1に記載のシール部材。
【請求項4】
前記高分子量ポリジメチルシロキサンと前記低分子量ポリジメチルシロキサンとの配合比は、両者の合計質量を100質量部とした場合に、90:10~60:40である請求項3に記載のシール部材。
【請求項5】
前記ポリジメチルシロキサンは、一分子中に少なくとも二つのアルケニル基を有し、
前記シリコーンゴム組成物は、ヒドロシリル基(SiH基)を有する架橋剤を有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のシール部材。
【請求項6】
前記シリカ粒子の含有量は、前記ポリジメチルシロキサンの100質量部に対して5質量部以上15質量部以下である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のシール部材。
【請求項7】
前記挿入孔の表面の少なくとも一部に配置されるオイル皮膜を有する請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のシール部材。
【請求項8】
前記シリコーンゴム組成物は、オイルを有し、
前記オイル皮膜は、該オイルが前記挿入孔の表面に染み出て形成される請求項7に記載のシール部材。
【請求項9】
前記オイル皮膜は、前記挿入孔の表面にオイルを塗布して形成される請求項7または請求項8に記載のシール部材。
【請求項10】
前記オイルは、フェニル基含有オイル、エーテル変性オイル、流動パラフィンオイルから選ばれる一種以上である請求項8または請求項9に記載のシール部材。
【請求項11】
平板状の本体部を有し、複数の前記挿入孔は、各々、該本体部の厚さ方向に貫通して形成されている請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のシール部材。
【請求項12】
前記相手部材は、金属製であり角部を有する請求項1ないし請求項11のいずれかに記載のシール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相手部材が挿入される複数の挿入孔を有するシリコーンゴム系のシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクタハウジングの電線引出部に配置され、電線とコネクタハウジングとの間をシールするマットシールが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。当該マットシールはゴムなどの弾性材料からなり、厚さ方向に貫通する複数の挿入孔を有し、各々の挿入孔には電線が挿通される。電線の先端には端子が取り付けられている。マットシールの挿入孔に電線を挿通させる際には、まず端子を挿入孔に挿入し、挿入孔を押し広げながら通過させる。挿入孔を通過した端子は端子収容室に挿入され、端子から延びる電線は挿入孔内に配置される。挿入孔の内周面には環状のリップ部が形成されており、リップ部が電線の外周に密着することにより、コネクタハウジング内への水分の侵入が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-58138号公報
【特許文献2】特開2018-159020号公報
【特許文献3】特開2018-53237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年は、コネクタハウジングが小型化し、挿入される電線数も増加している。これに伴い、マットシールにおいても挿入孔の数の増加や、孔径の縮小化が求められる。電線の先端に取り付けられる端子は、金属製で角部を有する形状のものが多い。このため、端子が挿入孔を通過する際、挿入孔の表面を傷つけてしまい、シール性の低下を招くおそれがある。
【0005】
この点、特許文献1には、マットシールなどに用いられるシール部材の材料として、ポリロタキサンを配合したシリコーンゴムが記載されている。しかしながら、ポリロタキサンは比較的高価であるため、コストが増加する。特許文献1には、どのような傷の発生が低減されるのかは記載されていないが、段落[0009]、[0053]によると、ポリロタキサンを加えると、シリコーンゴムの分子同士を滑らせることができ、ゴム材料が伸長変形しやすくなることから、シール部材の傷付き性が低減されることが記載されている。
【0006】
従来は、シール部材の傷として、表面に存在していた切込みが進展した状態の「亀裂」を問題にしていた。このため、傷(亀裂)を抑制する対策として、切込みの進展性を加味した引裂強さを高める検討がなされてきた。特許文献1においても、特性の評価項目として引裂強さが挙げられている(表1、表2)。これに対して、本発明者がシール部材の傷について鋭意検討を重ねた結果、シール性の低下を抑制するためには、切込みが進展した状態の「亀裂」よりも、切込みそのものが入ることを抑制する必要があるという知見を得た。そのためには、引裂強さの向上だけでは解決できず、従来の材料では切込み傷の発生を充分に抑制することはできない。
【0007】
また、特許文献2においては、防水コネクタ用のシール部材の材料として、分子中にビニル基を少なくとも2つ有する第1シリコーン化合物と、分子中にヒドロシリル基を少なくとも2つ有する第2シリコーン化合物と、分子中にビニル基を少なくとも2つ有する有機化合物と、を含む組成物を硬化して得られる熱硬化型シリコーンゴムが記載されている。特許文献2の段落[0009]には、有機化合物を加えることにより、破断時モジュラス(JIS K6251に規定されている切断時引張強さTbに相当)が低下し、破断時伸びが増加するため、端子が挿入孔に挿入される際の応力が緩和され、裂傷が抑制されることが記載されている。
【0008】
前述したように、ハウジングの小型化や挿入される電線数の増加に伴い、シール部材においては、挿入孔の数をより多くし、孔径をより小さくすることが求められる。挿入孔の数が多く密になると、挿入孔同士の干渉が問題になる。例えば、シール部材が硬い場合には、端子などの相手部材を挿入する際に挿入孔に大きな応力が加わるため、隣接する挿入孔側を押圧して狭めてしまうおそれがある。挿入孔が狭くなると、相手部材を挿入する際に切込み傷が発生しやすくなる。したがって、挿入孔同士の干渉を抑制して切込み傷を発生しにくくするという観点から、シール部材を低硬度化する必要がある。
【0009】
シール部材には、硬さの調整や機械的強度の向上などを目的として、シリカなどの補強材が配合される場合がある。この場合、補強材の配合量を減らせば、シール部材を低硬度化することができる。しかしながら、例えばタイプAデュロメータ硬さが15未満の領域まで低硬度化すると、補強材の減少によるゴム材料の強度低下が著しく、ゴム材料そのものが脆弱になるため、切込み傷が発生しやすくなる。このように、シール部材における切込み傷の発生抑制と低硬度化とは背反関係にあり、これらを両立することは困難であった。ちなみに、先の特許文献1、2においては、シール部材の低硬度化についての検討はなされていない。
【0010】
例えば、特許文献3においては、ビニル基含有オルガノポリシロキサンとシリカ粒子とを含み、低硬度、高引裂強さであって引張り永久歪みが小さいシリコーンゴムが記載されている。しかしながら、特許文献3に記載されているシリコーンゴムの用途は、医療用チューブなどの医療用成形体である(段落[0126])。このため、同シリコーンゴムのタイプAデュロメータ硬さは23.4~39.0であり(表1)、相手部材が挿抜される複数の挿入孔を有するシール部材に要求される硬度としては適切ではない。また前述したように、引裂強さの向上だけでは切込み傷の発生を抑制することはできない。特許文献3には、医療用成形体の用途に着眼した課題として、引張り永久歪みの低減が記載されている。引張り永久歪みは、引き伸ばした後、元に戻らずに伸びが残存してしまうことを示す特性(引張り残存歪み)であり、圧縮して歪みが残る圧縮永久歪みとは異なる特性として認識されている(段落[0011])。特許文献3においては、端子などの相手部材の挿抜により生じる傷については検討の対象としていない。
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、低硬度で、相手部材の挿抜により挿入孔に切込み傷が発生しにくいシリコーンゴム系のシール部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のシール部材は、相手部材が挿入される複数の挿入孔を有するシール部材であって、平均重合度が40以上1,700以下のポリジメチルシロキサンと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物であり、次の条件(a)~(d)を満足することを特徴とする。
(a)該ポリジメチルシロキサン100質量部に対する該シリカ粒子の含有量をX質量部とした場合に、弾性回復率(%)/X(質量部)=5.7~19。
(b)タイプAデュロメータ硬さは10以上15未満。
(c)切断時引張強さは2.1MPa以上。
(d)該挿入孔の表面の動摩擦係数は2.5以下。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシール部材は、平均重合度が40以上1,700以下のポリジメチルシロキサンと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物である。本発明のシール部材は、シリカ粒子を含有する。これにより、シール部材の硬さの調整が容易であり、引張強さなどの機械的強度を向上させやすい。また、本発明のシール部材は、ベースポリマーとして平均重合度が特定範囲内のポリジメチルシロキサンを用いる。平均重合度を40以上1,700以下に限定することにより、架橋構造を最適化することができ、所望の機械的強度を実現することができる。したがって、シリカ粒子の配合量を少なくして低硬度化しても、それによる機械的強度の低下を補うことができる。さらに本発明のシール部材は、先の条件(a)~(d)を満足する。これら四つの条件は、低硬度化と、本発明者が見いだした切込み傷の発生抑制と、の両立を図るために特定された条件である。
【0014】
条件(a)に規定されるように、本発明のシール部材においては、シリカ粒子の含有量に対する弾性回復率の比が5.7以上19以下である。弾性回復率は、インデンテーション試験法により測定される弾性変形仕事率ηIT(%)であり、100%に近いほど弾性変形しやすい、換言すると、変形しても元の状態に戻りやすいことを示す。本発明者は、シール部材の挿入孔に相手部材を挿抜する際に発生する切込み傷には、シール部材の弾性回復率とシリカ粒子の含有量との両方が大きく影響するという知見を得て、両者の比において切込み傷の抑制に有効な範囲を特定した。例えば、弾性回復率のみに着目し、その値が大きければ繰り返しの変形に対する回復力が大きいため、切込み傷抑制の指標になりそうである。しかしながら、弾性回復率が大きくても、シリカ粒子の含有量が少なすぎればゴム材料自体が脆弱になるため、切込み傷は発生しやすくなる。このように、弾性回復率とシリカ粒子の含有量とのいずれか一方を規定するだけでは、切込み傷の発生を抑制することはできない。条件(a)を満足することにより、ゴム材料(シール部材)の弾性回復率と機械的強度とを両立することができる。結果、相手部材の挿抜に伴う圧縮や引張りによる残留歪みが低減され、挿抜を繰り返してもシール部材が疲労破壊しにくくなる。
【0015】
条件(b)に規定されるように、本発明のシール部材のタイプAデュロメータ硬さは10以上15未満である。条件(b)を満足することにより、シール部材の低硬度化が実現される。
【0016】
条件(c)に規定されるように、本発明のシール部材の切断時引張強さは2.1MPa以上である。条件(c)を満足する場合、ゴムの分子間結合が強固になるため、相手部材が挿抜される際に加わる力学的および熱的負荷により、ゴムの分子が切断されにくくなる。結果、ゴム材料(シール部材)の機械的強度が確保され、切込み傷の発生を抑制することができる。
【0017】
条件(d)に規定されるように、本発明のシール部材の挿入孔の表面の動摩擦係数は2.5以下である。条件(d)を満足することにより、挿入孔の表面(相手部材との摺接面)の摩擦が低減される。これにより、相手部材が挿抜される際に加わる力学的および熱的負荷が低減され、ゴムの分子が切断されにくくなる。結果、切込み傷の発生を抑制することができる。
【0018】
以上説明したように、本発明のシール部材においては、平均重合度が40以上1,700以下のポリジメチルシロキサンを用い、条件(a)~(d)を満足することにより、低硬度で、相手部材の挿抜を繰り返しても挿入孔に切込み傷が発生しにくい。よって、本発明のシール部材は、耐久性に優れ信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のシール部材の一実施形態であるマットシールの前面図である。
【
図3】マットシールの耐傷性の評価方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明のシール部材の一実施形態として、防水コネクタのマットシールとして使用される形態を説明する。
図1に、本実施形態のマットシールの前面図を示す。
図2に、
図1のII-II断面図を示す。
図1、
図2に示すように、マットシール1は、本体部10と五つの挿入孔20とを有している。
【0021】
本体部10は、長方形平板状を呈しており、ベースポリマーとしての二種類の末端ビニル基ポリジメチルシロキサン、架橋剤としてのオルガノハイドロジェンポリシロキサン、シリカ粒子、およびフェニル基含有シリコーンオイルを有するシリコーンゴム組成物の硬化物である。二種類の末端ビニル基ポリジメチルシロキサンのうちの一方は、平均重合度が40の低分子量ポリジメチルシロキサンであり、他方は、平均重合度が800の高分子量ポリジメチルシロキサンである。高分子量ポリジメチルシロキサンと低分子量ポリジメチルシロキサンとの配合比は90:10である。本体部10におけるシリカ粒子の含有量は、二種類のポリジメチルシロキサンの合計100質量部に対して5質量部であり、条件(a)の「弾性回復率/シリカ粒子の含有量」の値は19、条件(b)のタイプAデュロメータ硬さは14、条件(c)の切断時引張強さは2.7MPaである。
【0022】
五つの挿入孔20は、各々、本体部10の厚さ方向に貫通して形成されている。五つの挿入孔20は、各々、前面から見て円形状の開口部を有しており、左右方向一列に等間隔で配置されている。隣接する挿入孔20同士の距離Dは2.6mmである。五つの挿入孔20は、各々、内側に突出するリップ部21を有している。リップ部21は、環状を呈しており、本体部10の厚さ方向に平行に二つ配置されている。挿入孔20の表面(内周面)には、オイル皮膜(図略)が配置されている。オイル皮膜は、シリコーンゴム組成物の成分であるフェニル基含有シリコーンオイルが、挿入孔20の表面に染み出て形成されている。条件(d)の挿入孔20の表面の動摩擦係数は1.5である。五つの挿入孔20の形状、大きさなどは全て同じである。
【0023】
図2に示すように、五つの挿入孔20には、各々、後方から端子付き電線8が挿入される。端子付き電線8は、端子80と電線81とを有している。端子80は、金属製であり突起を有する直方体状を呈している。端子80は、電線81の先端(前端)に取り付けられている。端子付き電線8は、本発明における相手部材の概念に含まれる。
【0024】
防水コネクタは、主にマットシール1と、図示しないアウタハウジング(コネクタハウジング)およびインナハウジングと、から構成されている。アウタハウジングは四角形筒状の側壁部と、側壁部の後端開口を塞ぐ後壁部と、を有する箱状を呈しており、後壁部には端子付き電線8が通過可能な端子挿通孔が五つ形成されている。マットシール1はアウタハウジングの後壁部の内側に配置され、挿入孔20は端子挿通孔に対応するように配置されている。マットシール1の後面は、アウタハウジングの後壁部に密着して配置されている。インナハウジングは、マットシール1の前面に密着して配置されている。インナハウジングは、挿入孔20を通過した端子80を収容する端子収容部を有している。
【0025】
端子付き電線8は、アウタハウジングの端子挿通孔からマットシール20の挿入孔20に挿入される。端子80は、挿入孔20を押し広げながら前方に進み、挿入孔20を通過した後はインナハウジングの端子収容部に収容される。端子80から後方へ延びる電線81の外周には、挿入孔20のリップ部21が密着し、これにより挿入孔20と電線81との間がシールされる。
【0026】
本実施形態のマットシール1は、平均重合度が40以上1,700以下のポリジメチルシロキサンと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物であり、四つの条件(a)~(d)を満足する。特に条件(b)のタイプAデュロメータ硬さが14であることからわかるように、マットシール1は低硬度であり、条件(c)の切断時引張強さが2.7MPaであることからわかるように、マットシール1の機械的強度は高い。これにより、マットシール1においては、端子80の挿抜を繰り返しても、挿入孔20同士が干渉しにくく、挿入孔20に切込み傷が発生しにくい。したがって、マットシール1は、耐久性に優れ信頼性が高い。
【0027】
以上、本発明のシール部材の一実施形態を説明したが、本発明のシール部材は、当該形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0028】
[シール部材の構成]
本発明のシール部材は、相手部材が挿入される複数の挿入孔を有する。相手部材の種類、材質、形状、大きさなどは、特に限定されない。例えば、上記実施形態の端子のように、相手部材が金属製であり角部を有する場合には、切込み傷が発生しやすい。よって、切込み傷発生の抑制効果が高い本発明のシール部材は、そのような相手部材に対して好適である。
【0029】
挿入孔の数は、二つ以上であれば特に限定されない。挿入孔の数、配置形態、開口部の形状、開口部の直径などは、シール部材の用途、相手部材の数、材質、形状、大きさなどに応じて適宜決定すればよい。挿入孔は、シール部材の厚さ方向に貫通していてもしていなくてもよい。例えば、シール部材が平板状の本体部を有し、当該本体部に複数の挿入孔が形成されている場合、挿入孔同士の距離が近くなると、相手部材の挿抜時に挿入孔同士が干渉しやすくなる。すなわち、相手部材を任意の挿入孔に挿入した際、それに隣接する挿入孔が押圧されて狭くなりやすい。この場合、隣接する挿入孔に相手部材を挿入する際に、切込み傷が発生しやすくなる。このように、挿入孔の数が多く密になるほど、切込み傷は発生しやすくなると予想される。挿入孔同士の干渉を少なくするという観点から、挿入孔が形成されている本体部を相手部材の挿入方向から見た場合に、隣接する挿入孔の距離は1.3mm以上8.8mm以下であることが望ましい。ここで、隣接する挿入孔の距離とは、隣接する挿入孔の中心軸間の距離を意味する。
【0030】
挿入孔の表面の動摩擦係数を小さくするという観点から、挿入孔の表面の少なくとも一部にはオイル皮膜が配置されていることが望ましい。オイル皮膜は、シリコーンゴム組成物に含有されているオイルが挿入孔の表面に染み出て(ブリードして)形成されるものでもよく、挿入孔の表面にオイルを塗布して形成されるものでもよく、その両方でもよい。オイル皮膜を形成するオイルについては後述する。
【0031】
[シール部材の成分および特性]
本発明のシール部材は、平均重合度が40以上1,700以下のポリジメチルシロキサンと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物の硬化物である。ベースポリマーとしてのポリジメチルシロキサンは、液状ゴムでも固形(ミラブル)ゴムでもよい。リップ部などを含めて寸法精度よく成形できるという点において、液状ゴムが望ましい。本明細書において、平均重合度は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法(溶媒:トルエン)により測定したポリスチレン換算の重量平均重合度である。
【0032】
ポリジメチルシロキサンの平均重合度が40未満の場合には、ポリマー分子が短くなるため、架橋点が多くなり密集しやすくなる。架橋点が密集するとゴム自体が硬くなる。また、架橋点のC-C結合は、ポリマー分子のSi-O結合と比較して、弱く切断されやすい。よって、架橋点が密集すると、その部分に応力が集中して機械的強度の低下を招く。反対に、平均重合度が1,700より大きくなると、ポリマー分子が長くなる。このため、例えば架橋に寄与する反応基(アルケニル基など)がポリマー分子の末端に配置されている場合には、ポリマー分子間の反応基を介した架橋反応が生じにくくなる。結果、架橋が充分に進行せず、架橋密度が小さくなり、弾性回復率および機械的強度の低下を招く。シール部材の硬さおよび機械的強度を考慮すると、平均重合度が600以上1,700以下のポリジメチルシロキサンを有する形態がより好適である。
【0033】
機械的強度をより高めるという観点から、平均重合度が異なる複数のポリジメチルシロキサンを併用することが望ましい。例えば、平均重合度が800以上1,700以下の高分子量ポリジメチルシロキサンと、平均重合度が40以上110以下の低分子量ポリジメチルシロキサンと、を併用する形態が挙げられる。例えば、一種類のポリジメチルシロキサンを用いると、架橋点はゴム中に略均一に分散して形成される。この場合、応力は架橋点に均等に加わるため、応力を逃がしにくい。これに対して、平均重合度が異なる複数のポリジメチルシロキサンを用いると、ゴム中に架橋点の疎密が生じる。すなわち、分子量が小さいポリマーから形成される架橋点は、ポリマー分子が短いため、架橋点同士の距離が近くなり「密」の状態になる。架橋点のC-C結合は比較的弱いが、密集することにより強度を確保することができる。分子量が大きいポリマーから形成される架橋点は、ポリマー分子が長いため、架橋点同士の距離が遠くなり「疎」の状態になる。ポリマー分子が長い部分は、比較的伸縮しやすいため、加えられた応力を分散し減衰させることができる。このように、平均重合度が異なる複数のポリジメチルシロキサンを用いて架橋点の疎密を形成することにより、「疎」の部分で応力を減衰させつつ、「密」の部分で応力に耐える強度を確保して、全体としてシール部材の機械的強度を高めることができる。
【0034】
平均重合度が800以上1,700以下の高分子量ポリジメチルシロキサンと、平均重合度が40以上110以下の低分子量ポリジメチルシロキサンと、を併用する場合、高分子量ポリジメチルシロキサンと低分子量ポリジメチルシロキサンとの配合比は、両者の合計質量を100質量部として、高分子量:低分子量=90:10~60:40であることが望ましい。低分子量ポリジメチルシロキサンの配合割合が小さいと、シール部材の機械的強度が小さくなる傾向があり、反対に同配合割合が大きいと、シール部材が硬くなる傾向がある。
【0035】
ポリジメチルシロキサンは、その架橋機構(硬化機構)に応じて、所定の反応基を有する。反応基としては、アルケニル基(ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基など)、シラノール基などが挙げられる。前者のアルケニル基を有するポリジメチルシロキサンは、有機過酸化物を架橋剤とする過酸化物架橋反応や、ヒドロシリル基(SiH基)を有するオルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)を架橋剤とする付加反応により架橋される。付加反応には、白金触媒などのヒドロシリル化触媒を組み合わせて用いることができる。後者のシラノール基を有するポリジメチルシロキサンは、縮合反応により架橋される。縮合反応には、縮合用架橋剤を組み合わせて用いることができる。良好な弾性を有する硬化物を得るという観点から、ポリジメチルシロキサンは一分子中に少なくとも二つのアルケニル基を有し、架橋剤としてオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いる形態が望ましい。
【0036】
架橋剤のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが有するヒドロシリル基の数は、特に限定されないが、硬化速度が大きく、安定性に優れるなどの観点から、2以上50以下であることが望ましい。この場合、ヒドロシリル基の水素は異なるSiに結合されていることが望ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、鎖状のものでも環状のものでもよい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体などが挙げられる。架橋剤の配合量は、一分子中に少なくとも二つのアルケニル基を有するポリジメチルシロキサンの100質量部に対して、0.1質量部以上40質量部以下にするとよい。
【0037】
ポリジメチルシロキサンの架橋反応を促進するため、適宜触媒を配合してもよい。前述したヒドロシリル化触媒としては、白金触媒、ルテニウム触媒、口ジウム触媒などが挙げられる。白金触媒としては、微粒子状白金、白金黒、白金担持活性炭、白金担持シリカ、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフイン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
シリカ粒子としては、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカなどを用いればよい。シリカ粒子は、表面処理を施したものでもよい。例えば、疎水化処理を施したものは、シリコーンゴムへの分散性に優れ、充分な機械的強度を確保しやすいという点で好適である。シリカ粒子の配合量は、条件(a)~(c)を満足するように適宜調整すればよい。例えば、ポリジメチルシロキサンの100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下にするとよい。シリカ粒子の配合量が増加すると、硬化物(シール部材)が硬くなり、弾性回復率は小さくなる。反対に、シリカ粒子の配合量が減少すると、硬化物は軟らかくなり、弾性回復率は大きくなる。但し、シリカ粒子の配合量が少なすぎると、硬化物の機械的強度が低下してしまう。
【0039】
前述したように、挿入孔の表面の動摩擦係数を小さくするという観点から、挿入孔の表面の少なくとも一部にはオイル皮膜が配置されていることが望ましい。オイル皮膜は、シリコーンゴム組成物の成分としてのオイルを挿入孔の表面に染み出させて形成してもよく、挿入孔の表面に別途オイルを塗布して形成してもよい。前者の場合、シリコーンゴム組成物は、ベースポリマーのポリジメチルシロキサンと相溶性が低いオイルを有することが望ましい。ポリジメチルシロキサンとの相溶性が低くブリードしやすいオイルとしては、フェニル基含有オイル、エーテル変性オイル、流動パラフィンオイルなどが挙げられる。これらから選ばれる一種、または二種以上を混合して用いればよい。なかでも、ポリジメチルシロキサンからブリードするタイミングを制御しやすく、良好な成形加工性を確保することができるという観点から、フェニル基含有オイルが好適である。オイルの配合量は、条件(d)を満足するように適宜調整すればよい。例えば、ポリジメチルシロキサンの100質量部に対して、0.5質量部以上15質量部以下にするとよい。4質量部以上10質量部以下にするとより好適である。後者の場合(挿入孔の表面にオイルを塗布する場合)、オイルの種類は特に限定されないが、塗布したオイルがシール部材(シリコーンゴム組成物の硬化物)に染み込みにくく表面に留まるものが望ましい。このような観点から、前者の場合と同様に、ポリジメチルシロキサンと相溶性が低いオイルを採用することが望ましい。
【0040】
シリコーンゴム組成物は、条件(a)~(d)を満足できれば、前述した材料以外の添加剤を有してもよい。添加剤としては、架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋助剤、補強材、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、滑剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、防錆剤、顔料などが挙げられる。
【0041】
本発明のシール部材は、以下の四つの条件(a)~(d)を満足する。
【0042】
(a)弾性回復率(%)/X(質量部)=5.7~19
弾性回復率は、インデンテーション試験法により測定される弾性変形仕事率である。弾性変形仕事率ηIT(%)は、試験片の表面に圧子を押し込んで荷重変位曲線を作成し、得られた荷重変位曲線から、塑性変形仕事量(Wplast)および弾性変形仕事量(Welast)を求め、全機械的仕事量をWtotal(=Wplast+Welast)として、次式(i)より算出する。
ηIT=Welast/Wtotal×100 ・・・(i)
本明細書においては、算出された弾性変形仕事率ηIT(%)を弾性回復率と称し、弾性回復率の値を、ポリジメチルシロキサン100質量部に対するシリカ粒子の含有量(X質量部)で除して、条件(a)の「弾性回復率(%)/X(質量部)」を求める。
【0043】
シリカ粒子の含有量に対する弾性回復率の比が5.7未満の場合には、シール部材が硬くなり、変形後に元の状態に戻りにくいため、切込み傷が発生しやすくなる。19を超えると、シール部材が脆くなり機械的強度が低下して、切込み傷が発生しやすくなる。
【0044】
(b)タイプAデュロメータ硬さ:10以上15未満
タイプAデュロメータ硬さは、JIS K 6253-3:2012に準拠した方法により測定すればよい。タイプAデュロメータ硬さが10未満の場合には、シール部材が軟らかくなり機械的強度が低下するため、切込み傷が発生しやすくなる。15以上の場合には、シール部材が硬くなり、相手部材を挿抜しにくくなったり、相手部材の挿入時に隣接する挿入孔を狭めてしまうおそれがあるため、切込み傷が発生しやすくなる。
【0045】
(c)切断時引張強さ:2.1MPa以上
切断時引張強さは、JIS K 6251:2017に準拠した方法により測定すればよい。試験片としては、ダンベル3号形を使用する。切断時引張強さが2.1MPa未満の場合には、シール部材の機械的強度が低下するため、切込み傷が発生しやすくなる。
【0046】
(d)挿入孔の表面の動摩擦係数:2.5以下
本明細書においては、動摩擦係数として、自動摩擦摩耗解析装置(協和界面科学(株)製「Triboster 500」、面接触子)を用いて測定された値を採用する。測定条件は、荷重100gf(0.98N)、引張速度500mm/minとする。動摩擦係数が2.5を超えると、挿入孔の表面(相手部材との摺接面)の摩擦が大きくなり、切込み傷が発生しやすくなる。挿入孔の表面の動摩擦係数は、2.0以下であるとより好適である。
【0047】
[シール部材の製造方法]
本発明のシール部材は、平均重合度が特定範囲内のポリジメチルシロキサンと、シリカ粒子と、を有するシリコーンゴム組成物を硬化させて製造すればよい。例えば、射出成形機を用いて、金型にシリコーンゴム組成物を注入し、加熱して硬化させればよい。加熱温度は、140~170℃程度、硬化させる時間は5~10分程度にするとよい。
【実施例0048】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0049】
(1)シール部材の特性
<試験片の製造>
まず、所定の原料を後出の表1、表2に示す量にて配合し、プラネタリーミキサーを用いて混合することにより種々のシリコーンゴム組成物を調製した。次に、調製したシリコーンゴム組成物を温度170℃で10分間プレス成形することにより硬化して、後述する特性の測定方法に応じた試験片を製造した。表1に示す実施例1~15の試験片は、本発明のシール部材を構成する「シリコーンゴム組成物の硬化物」の概念に含まれる。使用した原料の詳細は次のとおりである。
【0050】
[ベースポリマー]
[超低分子量ポリジメチルシロキサン]
末端ビニル基ポリジメチルシロキサンA:Gelest社製「DMS-V05」、平均重合度9。
[低分子量ポリジメチルシロキサン]
末端ビニル基ポリジメチルシロキサンB:EVONIK社製「Polymer VS50」、平均重合度40。
末端ビニル基ポリジメチルシロキサンC:EVONIK社製「Polymer VS100」、平均重合度65。
末端ビニル基ポリジメチルシロキサンD:EVONIK社製「Polymer VS200」、平均重合度110。
[高分子量ポリジメチルシロキサン]
末端ビニル基ポリジメチルシロキサンE:EVONIK社製「Polymer VS65000」、平均重合度800。
末端ビニル基ポリジメチルシロキサンF:EVONIK社製「Polymer VS100000」、平均重合度1,700。
[超高分子量ポリジメチルシロキサン]
末端ビニル基ポリジメチルシロキサンG:EVONIK社製「Polymer VS165000」、平均重合度1,800。
【0051】
[架橋剤]
オルガノハイドロジェンポリシロキサン:信越化学工業(株)製「KF-9901」。
【0052】
[シリカ粒子]
シリカ粒子:ヘキサメチルジシラザンで表面処理された疎水性フュームドシリカ、日本アエロジル(株)製「AEROSIL(登録商標)RX200」。
【0053】
[オイル]
フェニル基含有シリコーンオイル:信越化学工業(株)製「KF-53」。
エーテル変性シリコーンオイル:信越化学工業(株)製「KF-354L」。
流動パラフィンオイル:富士フィルム和光純薬(株)製「流動パラフィン」。
【0054】
[触媒]
ヒドロシリル化白金触媒:ユミコアジャパン(株)製「Pt-VTSC-3.0X」。
【0055】
<特性の測定方法>
製造した試験片を用いて、シリコーンゴム組成物の硬化物の弾性回復率、タイプAデュロメータ硬さ、切断時引張強さ、動摩擦係数を測定した。以下に各々の測定方法を説明する。
【0056】
[弾性回復率]
インデンテーション試験法に基づく微小硬度計((株)フィッシャー・インストルメンツ製「FISCHERSCOPE(登録商標) H100C」)を用いて、以下の測定条件にて正方形シート状の試験片の表面に圧子を押し込んで、荷重変位曲線を作成した。試験片の大きさは、一辺の長さ30mm、厚さ2mmである。得られた荷重変位曲線から、塑性変形仕事量(Wplast)および弾性変形仕事量(Welast)を求め、全機械的仕事量をWtotal(=Wplast+Welast)として、先の式(i)より弾性変形仕事率ηIT(%)を算出した。算出された弾性変形仕事率ηIT(%)を弾性回復率とし、その値を、ベースポリマーのポリジメチルシロキサン100質量部に対するシリカ粒子の含有量(X質量部)で除して、条件(a)の「弾性回復率(%)/X(質量部)」を求めた。
測定条件
圧子:対面角度136°の四角垂型ダイヤモンド圧子。
初期荷重:0mN。
押込み最大荷重:10mN(定荷重)。
最大荷重到達時間:3sec。
最大荷重保持時間:5sec。
抜重時間:3sec。
測定温度:25℃。
【0057】
[タイプAデュロメータ硬さ]
JIS K 6253-3:2012に準拠した方法により、厚さ12mmの試験片のタイプAデュロメータ硬さを測定した。
【0058】
[切断時引張強さ]
JIS K 6251:2017に準拠した方法により、ダンベル3号形(厚さ2mm)の試験片の切断時引張強さTb(MPa)を測定した。
【0059】
[動摩擦係数]
厚さ2mm、30mm四方の正方形シート状の試験片の表面の動摩擦係数を、自動摩擦摩耗解析装置(協和界面科学(株)製「Triboster 500」、面接触子)を用いて測定した。測定条件は、荷重100gf(0.98N)、引張速度500mm/minとした。なお、表1中、オイル欄に「塗布」と記載されている実施例12~14の試験片については、試験片の表面にオイルを塗布して測定した。
【0060】
<特性の測定結果>
表1、表2に、試験片の製造に使用した原料および特性の測定結果をまとめて示す。
【表1】
【表2】
【0061】
表1に示すように、実施例1~15の硬化物は、四つの条件(a)~(d)を全て満足した。他方、表2に示すように、実施例1~15とはベースポリマーの平均重合度、配合比、シリカ粒子の配合量、オイルの有無などが異なる比較例1~20の硬化物によると、四つの条件(a)~(d)のうち満足しない条件があった。
【0062】
まず、ベースポリマーとして一種類のポリジメチルシロキサンを使用した実施例5と比較例3~5とを比較すると、両者はシリカ粒子の配合量のみが異なる。例えば、実施例5の硬化物と比較してシリカ粒子の配合量が少ない比較例4、5の硬化物においては、切断時引張強さが小さくなった。特にシリカ粒子の配合量が少ない比較例5の硬化物においては、タイプAデュロメータ硬さも小さくなった。反対に、実施例5の硬化物と比較してシリカ粒子の配合量が多い比較例3の硬化物においては、シリカ粒子の含有量に対する弾性回復率の比が小さくなり、タイプAデュロメータ硬さが大きくなった。
【0063】
比較例19の硬化物においては、平均重合度が40未満のポリジメチルシロキサンのみを使用した。この場合、タイプAデュロメータ硬さは大きく、切断時引張強さは小さくなった。反対に、比較例20の硬化物においては、平均重合度が1,700より大きいポリジメチルシロキサンのみを使用した。この場合、切断時引張強さは小さくなり、動摩擦係数は大きくなった。
【0064】
次に、ベースポリマーとして平均重合度が異なる二種類のポリジメチルシロキサンを使用したもののうち、高分子量ポリジメチルシロキサンが同じ「E」である実施例1~4と比較例6~11とを比較する。この場合、低分子量ポリジメチルシロキサンの配合割合が小さいと切断時引張強さが小さくなり(比較例6、8、10)、同配合割合が大きいとタイプAデュロメータ硬さが大きくなった(比較例7、9、11)。高分子量ポリジメチルシロキサンが同じ「F」である実施例6~9、11、15と比較例12~17とを比較した場合にも、同様の結果になった。
【0065】
次に、シリコーンゴム組成物におけるオイルの有無が異なる実施例11と実施例12~14とを比較する。この場合、オイルを配合した実施例11の硬化物よりも、オイルを配合せず後から塗布した実施例12~14の硬化物の方が、表面のオイル量が多くなるため、動摩擦係数が小さくなった。これに対して、比較例18の硬化物においては、オイルを配合せず、後から塗布もしていない。よって、表面のオイル皮膜が無く、動摩擦係数が大きくなった。
【0066】
(2)シール部材の耐傷性評価
前述した試験片の製造と同様に、表1、表2に示す配合にて種々のシリコーンゴム組成物を調製し、それをプレス成形して上記実施形態のマットシール1を製造した(前出
図1、
図2参照)。表1中、オイル欄に「塗布」と記載されている実施例12~14のマットシールについては、製造したマットシールの挿入孔の表面(内周面)にオイルを塗布した。表1に示す実施例1~15のマットシールは、本発明のシール部材の概念に含まれる。製造したマットシールをハウジングにセットして、端子を挿抜して切込み傷の入りにくさ(耐傷性)を評価した。評価方法は次のとおりである。
図3に、マットシールの耐傷性の評価方法の説明図を示す。
図3は、前出
図1に対応している。
【0067】
図3に示すように、マットシール1に形成されている五つの挿入孔20を、左側から順番にNo.1~5と番号付けした。そしてまず、端子付き電線の端子をNo.1からNo.5の順に挿入し、続いてNo.5からNo.1の順に電線を引き抜いた。この操作を3回繰り返し行った後、
図3中、一点鎖線Cで示すように、マットシール1の挿入孔20部分を左右方向に切断して、五つの挿入孔20の表面(内周面)に生じた切込み傷の数を数えた。
【0068】
結果を前出の表1、表2にまとめて示す。表1に示すように、四つの条件(a)~(d)を全て満足する実施例1~15のマットシールにおける切込み傷の数は20個以下であったのに対し、条件(a)~(d)のいずれか一つでも満たさない比較例1~20のマットシールにおける切込み傷の数は20を上回った。比較例1~20の結果から明らかなように、切断時引張強さで示される機械的強度が小さい場合や、タイプAデュロメータ硬さで示される硬度が所定の範囲内に無い場合には、切込み傷の発生を抑制することはできなかった。また、使用したポリジメチルシロキサンの平均重合度が40未満または1,700より大きい場合、挿入孔の表面の動摩擦係数が大きい場合にも、切込み傷の発生を抑制することはできなかった。以上より、本発明のシール部材においては、低硬度であっても、相手部材の挿抜により挿入孔に切込み傷が発生しにくいことが確認された。また、ベースポリマーとして平均重合度が異なる二種類のポリジメチルシロキサンを使用すると、一種類のポリジメチルシロキサンを使用する場合と比較して、切込み傷の発生抑制に必要な条件(a)~(d)を満足しやすいことが確認された。
本発明のシール部材は、自動車分野、産業機器分野、情報通信機器分野などにおける様々な部品に適用することができる。特に、防水コネクタなどの多極ゴム栓、多穴ゴムブッシュ、多穴グロメットなどに好適である。