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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167075
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】半導体発振電子レンジ
(51)【国際特許分類】
   F24C 7/02 20060101AFI20221027BHJP
   H05B 6/64 20060101ALI20221027BHJP
   H05B 6/74 20060101ALI20221027BHJP
   H05B 6/68 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
F24C7/02 345J
F24C7/02 320M
H05B6/64 G
H05B6/74 E
H05B6/68 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072610
(22)【出願日】2021-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】501300436
【氏名又は名称】株式会社 クリスタル電器
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】徳山 良輔
【テーマコード(参考)】
3K086
3K090
3L086
【Fターム(参考)】
3K086AA01
3K086BA07
3K086CA02
3K086CB04
3K086CC02
3K090AA01
3K090AB02
3K090BA03
3K090DA17
3L086AA01
3L086CB10
3L086DA12
(57)【要約】
【課題】半導体発振器の特徴を利用して被加熱物をきめ細かく加熱できる電子レンジを開示する。
【解決手段】例えば加熱室2の底面部に、例えば5つのアンテナ9a~9eが花びら型等に配置されている。筐体1の上面部には、加熱室2の全体を個数のエリアに分けて温度を検知できる温度センサ12が配置されている。1回目加熱(初期工程)で被加熱物Wの形状及び質量と温度ムラとを検知し、温度が低い箇所のアンテナ9a~9eのみを駆動してから温度を検知し直す、という工程を繰り返すことにより、温度ムラを縮小させつつ被加熱物Wの全体を昇温させていく。これにより、被加熱物Wを目標温度に均等に加熱できる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉を備えた加熱室の下面部又は上面部に、半導体によるマイクロ波発振アンテナが水平方向に離れて複数個配置されており、
前記各マイクロ波発振アンテナは複数が同時駆動されず1個ずつ駆動される、
半導体発振電子レンジ。
【請求項2】
更に、前記加熱室に配置された被加熱物の表面温度を複数の部位において検知する温度センサが備えられており、前記被加熱物に温度ムラがあると判定した場合、前記温度センサで検知した温度に基づいて、温度ムラを是正しつつ予め設定された温度に昇温するように前記各マイクロ波発振アンテナが駆動される、
請求項1に移載した半導体発振電子レンジ。
【請求項3】
前記マイクロ波発振アンテナは少なくとも4個配置されている一方、
前記温度センサは、前記被加熱物を多数のエリアに分けて温度を検知可能であり、
前記被加熱物に温度ムラがあると判定した場合、温度が低い箇所に位置したマイクロ波発振アンテナを駆動することを1回又は複数回行うことにより、被加熱物の全体が所定温度までムラなく昇温するように制御される、
請求項2に記載した半導体発振電子レンジ。
【請求項4】
最初に1つ又は複数のマイクロ波発振アンテナを所定時間駆動してから被加熱物の温度を検知し、その検知結果に基づいて温度ムラがあると判定した場合は、前記各マイクロ波発振アンテナの駆動順序を決定するように制御される、
請求項2又は3に記載した半導体発振電子レンジ。
【請求項5】
前記各マイクロ波発振アンテナは複数の出力と駆動時間とを選択可能であり、前記各マイクロ波発振アンテナの駆動順序と出力と駆動時間とを組み合わせて前記被加熱物の温度ムラを縮小するように制御される、
請求項2~4のうちのいずれかに記載した半導体発振電子レンジ。
【請求項6】
温度ムラが異なる複数の基準パターンに対応して各マイクロ波発振アンテナの出力と駆動時間と駆動順序が設定された複数の基準マップを作成しておき、実際の被加熱物の温度ムラがいずれかの基準パターンと同一又は近似する場合は、その基準パターンに対応した基準マップに基づいて各マイクロ波発振アンテナが駆動される、
請求項4又は5に記載した半導体発振電子レンジ。
【請求項7】
被加熱物の一部は加熱しないように制御される、
請求項1~6のうちいずれかに記載した半導体発振電子レンジ。
【請求項8】
操作パネルに加熱エリアを選択できる操作部を設けている、
請求項1~7のうちのいずれかに記載した半導体発振電子レンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、マイクロ波の発振に半導体を使用している電子レンジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子レンジのマイクロ波発生手段としては一般にマグネトロンが使用されているが、マグネトロンは、加熱の指向性が低い問題や、周波数のバラツキが大きいなどの問題、鉄心やコイルで構成されていて重量が大きいと共に嵩張る問題、加熱性能を向上させるため導波管やターンテーブル又はアンテナが必要で構造が複雑化する問題、或いは寿命が短い等の問題がある。
【0003】
そこで半導体発振器を使用した電子レンジが注目されているが、従来の半導体発振電子レンジでは、被加熱物の材質、形、重さ等の違いにより、被加熱物を適温まで均一に加熱することが難しいという問題があった。すなわち、被加熱物の箇所によって電波の照射状態や被加熱物の状態(質、形、重さ等)に差があり、マイクロ波の吸収速度や温度上昇に差異が発生して被加熱物を均一に加熱できないのであった。このため、被加熱物の一部は過熱されているのに他の部分は加熱が不十分になっている、という現象が発生することがあった。
【0004】
この問題の解決手段として、複数のアンテナを設け、同時にマイクロ波を照射する方法も検討されている。その例が特許文献1,2に開示されている。
【0005】
特許文献1は、容器の色をカラーセンサーで検知するなどして加熱部位を特定しており、従って、例えば弁当のうちサラダは加熱しないというように、メリハリが効いた加熱をできるといえる。他方、特許文献2は、複数の発振アンテナからのマイクロ波の逆流を防止することを課題にしており、従って、複数の発振アンテナからマイクロ波を同時に発振していると云える。また、特許文献1も複数の発振アンテナを同時に駆動していると解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6486669号公報
【特許文献2】特開2020-155275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、半導体マイクロ波発振装置は、指向性が高い利点や周波数が安定している利点、軽量である利点、耐用時間が長い利点、出力の変更が容易である等の利点があるが、複数のアンテナを同時に駆動すると、特許文献2で問題にしているように、各アンテナから発振されたマイクロ波が互いに干渉し合って、発振素子の出力低減や均一性低下に繋がることが多く、適正な加熱を行い難い。従って、実用化は非常に難しい。
【0008】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、半導体素子を使用した発振方式の利点を有効利用しつつ、品質と現実性とに優れた電子レンジを開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は様々な構成を含んでおり、これらを各請求項で特定している。このうち請求項1の発明の半導体発振電子レンジは、
「扉を備えた加熱室の下面部又は上面部に、半導体によるマイクロ波発振アンテナが水平方向に離れて複数個配置されており、
前記各マイクロ波発振アンテナは複数が同時駆動されず1個ずつ駆動される」
という構成になっている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、
「更に、前記加熱室に配置された被加熱物の表面温度を複数の部位において検知する温度センサが備えられており、前記被加熱物に温度ムラがあると判定した場合、前記温度センサで検知した温度に基づいて、温度ムラを是正しつつ予め設定された温度に昇温するように前記各マイクロ波発振アンテナが駆動される」
という構成になっている。温度センサは赤外線センサやサーモビュアー等を使用できる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2において、
「前記マイクロ波発振アンテナは少なくとも4個配置されている一方、
前記温度センサは、前記被加熱物を多数のエリアに分けて温度を検知可能であり、
前記被加熱物に温度ムラがあると判定した場合、温度が低い箇所に位置したマイクロ波発振アンテナを駆動することを1回又は複数回行うことにより、被加熱物の全体が所定温度までムラなく昇温するように制御される」
という構成になっている。
【0012】
請求項4の発明は、請求項2又は3において、
「最初に1つ又は複数のマイクロ波発振アンテナを所定時間駆動してから被加熱物の温度を検知し、その検知結果に基づいて温度ムラがあると判定した場合は、前記各マイクロ波発振アンテナの駆動順序を決定するように制御される」
という構成になっている。
【0013】
請求項5の発明は、請求項2~4のうちのいずれかにおいて、
「前記各マイクロ波発振アンテナは複数の出力と駆動時間とを選択可能であり、前記各マイクロ波発振アンテナの駆動順序と出力と駆動時間とを組み合わせて前記被加熱物の温度ムラを縮小するように制御される」
という構成になっている。
【0014】
請求項6の発明は、請求項4又は5において、
「温度ムラが異なる複数の基準パターンに対応して各マイクロ波発振アンテナの出力と駆動時間と駆動順序が設定された複数の基準マップを作成しておき、実際の被加熱物の温度ムラがいずれかの基準パターンと同一又は近似する場合は、その基準パターンに対応した基準マップに基づいて各マイクロ波発振アンテナが駆動される」
という構成になっている。
【0015】
請求項7の発明は、請求項1~6のうちのいずれかにおいて、
「被加熱物の一部は加熱しないように制御される」
という構成になっている。
【0016】
請求項8の発明は、請求項1~7のうちのいずれかにおいて、
「操作パネルに加熱エリアを選択できる操作部を設けている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0017】
本願発明では、複数のマイクロ波発振アンテナは同時に駆動されないため、マイクロ波同士が互いに干渉する問題はない。従って、発振の不安定化を防止して安定した加熱を実現できる。また、マイクロ波発振アンテナは個別に駆動されるため、干渉を無くして加熱効率を向上して加熱時間の短縮に貢献できる。更に、複数のアンテナは1つのみが駆動されるため、半導体発振器(発振素子)は1つで足りる。従って、コストを抑制できると共に軽量化・コンパクト化が可能である。
【0018】
請求項2以下では、各マイクロ波発振アンテナの制御方法を特定している。そして、被加熱物は様々な種類があって熱の通り方も千差万別であるが、請求項2では、被加熱物の表面温度を温度センサによって検知して、この温度に基づいてマイクロ波発振アンテナを制御しているため、種類が相違する様々な被加熱物を目標温度にむらなく均一に加熱(加温)することができる。
【0019】
特に、請求項3のように、マイクロ波発振アンテナを4個以上配置すると共に、被加熱物を多数のエリア(グリッド、番地)に分けて温度を検知すると、被加熱物を決め細かく加熱することができて好適である。
【0020】
上記のとおり、被加熱物の種類は様々であると共に、加熱室への被加熱物の置き方によって熱の通り方は相違する。従って、被加熱物の種類や置き方が相違しても一様に加熱できる方法があると好適である。この点、請求項4の構成を採用すると、初期加熱によって被加熱物に発生した温度ムラを基準にして、ムラが無くなるように加熱されるため、どのような種類の被加熱物にも対応できる。
【0021】
既述のとおり、半導体式マイクロ波の特徴の1つは出力の調節が容易である点であるが、請求項5では、この特徴を利用して、加熱時間の短縮化や温度の均一化促進に貢献できる。また、出力と時間とを個別に調節すると制御が面倒であるが、請求項5では、出力と駆動時間(加熱時間)とは複数の値に設定が可能で任意の値を選択して駆動できるため、制御が容易になる。
【0022】
なお、被加熱物によって熱の通り方が相違するので、単位時間(例えば10秒や15秒)と出力との関係で単位時間・単位出力当たり昇温温度を記憶しておき、温度ムラに応じて各マイクロ波発振アンテナの駆動時間と出力とを制御すること(すなわち、フィードバック制御すること)も可能であり、好適である。
【0023】
各マイクロ波発振アンテナの制御態様としては、被加熱物の温度に基づいて、各マイクロ波発振アンテナの出力と駆動時間と駆動順序を設定することも可能であるが、請求項6のように基準パターンを用意しておいて、初期工程の後の温度ムラにマッチングしたパターンを選択して制御すると、制御方式を単純化できる利点がある。
【0024】
サラダや漬け物が付いている弁当のように、被加熱物の一部を加熱したくないと欲することがあるが、請求項7の構成を採用するとこの要望に応えることができる。この場合、加熱しない範囲の特定手段としては、特許文献1のようにカラーセンサーを設けて色彩(グリーン、黄色)から非加熱部を特定してもよいし、例えば、被加熱物の映像又は画像から非加熱部を特定してもよい。請求項8の半導体発振電子レンジでは、使用者の好みに応じて加熱できる。
【0025】
さて、マイクロ波の強さは出力に比例するが、周波数(波長)が変化すると、加熱室内のマイクロ波の反射や被加熱物への透過性等が変化するため、マイクロ波の周波数を変化させることにより、同じ加熱状態になるエリアを変更できる。そして、本件出願では、半導体発振器は周波数(波長)を法定範囲内(2400~2500Hz)で変更できるため、被加熱物の大きさ、配置や形状などに対応して周波数を変更することにより、マイクロ波のロスを抑制して被加熱物を効率良く加熱できる。従って、均一な加熱や加熱時間の短縮に貢献できる。
【0026】
具体的には、被加熱物の大きさ等と周波数との関係で加熱エリアがどのように変化するかを実験等で検証しておき、基準周波数(例えば2450Hz)で初期加熱した後の被加熱物の温度の分布と周波数との関係をパターン化しておくことにより、最適の周波数を選択できる。或いは、基準周波数で初期加熱した後の昇温が期待値どおりになっていない場合、周波数を上げるか下げるかして昇温の程度を確認することにより、最適な周波数を選択するということも可能である。このようにして取得された実際のデータに基づいてマップを追加したり、既存のマップを修正すたりするという自己学習機能を持たせることも可能である。
【0027】
周波数は法定範囲内で無段階に調節することも可能であるが、現実的には、2400Hz,2450Hz,2500Hzの3種類程度の選択枝で対応可能であり、制御回路も単純化できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】半導体発振電子レンジの実施形態の外観の一例を示す斜視図である。
図2】半導体発振電子レンジの大まかな平断面図である。
図3図2のIII-III 視縦断面図である。
図4】マイクロ波発振アンテナのスペックの表である。
図5】(A)は温度検知エリアの一例を示す図、(B)は第1加熱状態(初期工程)の例を示す図である。
図6】制御の基本態様を示す図である。
図7】より具体的な制御態様を示す図で、(A)は第1温度分布を示す図、(B)は第2加熱状態を示す図である。
図8】(A)は第2温度分布を示す図、(B)は第3加熱状態を示す図である。
図9】第2実施形態の平断面図である。
図10】第3実施形態の平断面図である。
図11】第4実施形態の平断面図である。
図12】第5実施形態の平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(1).第1実施形態の構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1~8に示す第1実施形態(基本実施形態)を説明する。電子レンジの基本構造は従来と同様であり、図1に示すように、角形の加熱室(調理室)2を前向きに開口させた直方体状の筐体1と、筐体1の前面部に配置されて加熱室2を開閉する水平回動式の扉3とを備えている。
【0030】
筐体1の右側部の前面は操作部4になっている。扉3は、その左側部がヒンジを介して筐体1に連結されている。把手5は門型で前向きに突出しているが、抉られた状態の引手タイプものもある。図2に簡単に示すように、筐体1の右側部には、電装品が配置されると共に放熱部を設けた電装室6が形成されている。また、加熱室2の底面には、アンテナ9a~9bを保護すると共に被加熱物Wを載せるフラットテーブル7が固定されている。
【0031】
筐体1はその後面を除いて二重構造になっており、下中空部8に、マイクロ波を発振する第1~第5の5つのアンテナ9a~9eが配置されている。5つのアンテナ9a~9eのうち1つは加熱室2の中央に位置されて、他の4つは加熱室2のコーナー部に配置されている。従って、5つのアンテナ9a~9eが花びら形に配置されている。
【0032】
5つのアンテナ9a~9eについて、中央に位置したものを第1アンテナ9a、図2で左奥に位置したものを第2アンテナ9b、右奥に位置したものを第3アンテナ9c、右手前に位置したものを第4アンテナ9d、左手前に位置したものを第5アンテナ9eと呼ぶこととする。
【0033】
各アンテナ9a~9eから放射されるマイクロ波の強度は距離に比例して低下するが、図2(及び図9~11)では、強いマイクロ波を照射できるエリア(強加振エリア)を実線で示し、マイクロ波が弱い範囲を一点鎖線で示している(図4(B)~図7では、強加振エリアは点線で表示している。)。もとより、マイクロ波の強度は距離に反比例して連続的に低下しているので、強い・弱いという表現が必ずしも妥当とは云えず、従って、図2において円で示したエリアの境界は便宜的なものではあるが、この図2から、加熱室2のほぼ全体に強いマイクロ波を照射できるようになっていることを理解できるであろう。
【0034】
筐体1のうち電装室6には、半導体発振器(発振素子)や、電源回路、制御回路など(いずれも図示せず)が配置されている。制御回路には、揮発性メモリー、不揮発性メモリー、CPUなどが含まれている。本実施形態では5つのアンテナ9a~9eは1つしか駆動されないので、半導体発振器(発振素子)は1つのみで足りる。各アンテナ9a~9eには、発振素子から切り換えスイッチを経由してマイクロ波が伝達される。
【0035】
図4(A)の表において、各アンテナ9a~9eのスペックを表示している。本例では、各アンテナ9a~9eは、周波数を2400MHz,2450MHz,2500MHzの3段階に切り換え可能であり、出力は100Wと200Wと300Wとの3段階を選択できる。また、発振時間は、それぞれ0秒(無発振)と10秒と15秒とを単位にして発振できるようになっているが、20秒等の他の単位も選択できるし、任意の時間を選択することも可能である。
【0036】
5個のアンテナ9a~9eがあるので、発振順序として3125種類の選択が可能であり、周波数は243種類の選択が可能であり、出力も243種類の選択が可能であり、発振時間は0秒を含めると243種類の選択が可能である。更に、発振順序と周波数と出力と発振時間との4つの要素の組み合わせると膨大になるが、被加熱物の標準的な種類や大きさ等をから使用される可能性が高いパターンを整理し、複数の基準パターンを作成しておく。
【0037】
筐体1の上中空部11のうち平面視で中央に位置した部位には、赤外線方式の温度センサ12が配置されている。温度センサ12では、加熱室2を多数のエリアに分けて、各エリアごとに温度を測定するようになっている。すなわち、本実施形態では、図4(B)に示すように、加熱室2を5×5=25の単位エリアE1~E25に分けて、各単位エリアE1~E25ごとに温度を測定している。
【0038】
この場合、個々の単位エリアE1~E25について全体の平均値をとって当該単位エリアE1~E25の温度として特定してもよいし、図6(A)にPの文字で示すように、各単位エリアE1~E25の中央部の温度(ポイント温度)をその単位エリアE1~E25の温度として特定してもよい。また、温度の特定方法としては、34℃、46℃というように現実の測定値をそのまま制御のベースに採用することも可能であるし、例えば25~29℃、30~35℃といった温度域として特定し、温度域をベースにして制御することも可能である。
【0039】
なお、温度センサ12は、複数箇所に配置することも可能である。操作部4の前面にはモニターやタッチボタンなどが配置されており、これらは1つ又は複数にユニット化されている。
【0040】
(2).第1制御例
図5(B)~図8で、制御の例を示している。これらの例は、被加熱物Wを加熱する(温める)場合でおり、目標値(被加熱物Wの表面温度)を例えば85~90℃として設定している。また、温度の検知態様としては、個別の単位エリアE1~E25について、それぞれのエリアの平均値を基準にしている。
【0041】
本実施形態の振電子レンジの制御態様は、予め用意された制御パターンに基づいて加熱する方式と、被加熱物Wの温度分布に基づいてその都度加熱態様を設定する方法とに大きく分けられるが(両者の折衷型もある)、図6では、前者の方式の例を示している。従って、複数のアンテナ9a~9eからのマイクロ波の出力・周波数・加熱時間についての多数の組み合わせを制御装置のメモリーに記憶させている。
【0042】
図6において、Hは強加熱処理(例えば300Wで15秒照射)、Mは中加熱処理(例えば200Wで15秒照射)、Lは低加熱処理(例えば100Wで15秒照射)をそれぞれ示している。2桁の数字は被加熱物Wの検知温度(温度域)である。
【0043】
図6において、まず、(A)に示すように、加熱室2の全域をむらなく強く加熱する。具体的には、各アンテナ9a~9eを順番に駆動するなどして、加熱室2の全域をほぼ同じ強度で強く加熱する。すなわち、初期工程(第1加熱工程、第1加熱サイクル)で、加熱室2の全域を均等に強く加熱(加振)する。
【0044】
被加熱物Wの全体が均質である場合は昇温の程度も均等になるが、実際の食品では複雑に素材が混ざっており、また各素材の加熱特性も同じではないため被加熱物が均一に加熱されることは殆どない。そこで、アンテナ9a~9eで、1サイクル加熱毎に実際にどのように各部の温度が上がったかを温度センサ12で検知して、各エリアに温度ムラがあれば、その温度ムラが縮小するように加熱パターンを選択して、次のサイクルを加熱する。
【0045】
このサイクルを繰り返すことによって被加熱物の温度差が縮小して、被加熱物Wを均一に昇温させることができる。従って、本制御例では、各加熱サイクルごとに被加熱物Wの温度が測定されて、それぞれの温度ムラに基づいて次のサイクルの加熱パターンが選択される。
【0046】
例えば、初期工程の後の昇温状態として、(B)に示すように、1番目と25番目のエリアの温度が45℃、第4,5,8,9のエリアと第16,17,21,22のエリアは20℃で他の部位には30℃又は35℃になっており、温度ムラが発生しているので、(B)の温度ムラを縮小すべく、比較回路を介してメモリーから(B)の温度分布に最も近いパターンの(C)を選択して、(C)の加熱パターンで2回目の加熱処理を実行する。
【0047】
すると、加熱室2の内部は(D)の温度分布になっており、そこで、(D)の温度分布に最も近い加熱パターンの(E)をメモリーから選択して、第3回加熱工程を(E)の加熱パターンで実行する。更に、(E)の加熱の後の音と分布を(F)として検知し、(F)に最も近いパターンの(G)を選択して第4回加熱を実行し、(H)の目標温度に到達する。これにより、加熱処理は終了する。
【0048】
図6では4回の加熱処理を施しているが、加熱処理の回数は当然ながら温度ムラの程度や目標温度によって相違する。初期工程の後の温度検知で温度ムラが見られない場合は、温度センサで温度を検知しつつ均等な加熱を継続して、目標温度に到達したら駆動を停止したらよい。
【0049】
(3).第2制御例
図7,8では、被加熱物Wの温度分布に基づいて、その都度加熱態様を設定する方式の例を示している。この例でも、初期工程として、被加熱物Wを予備加熱する。この場合、5つのアンテナ9a~9eを順次駆動してもよいし、図5(B)に網かけ表示して示すように、例えば第1アンテナ9aのみを所定の強さ・時間(例えば、300Wで25秒(15秒+10秒))駆動してもよい。
【0050】
図7(A)では、初期工程(1回目加熱工程)の後の温度分布を表示している。被加熱物Wから外れた箇所では抵抗は殆ど発生しないため温度の上昇は殆ど無く、被加熱物Wの箇所で昇温する。従って、加熱室2のうち外周寄りの部位で温度が低い場合は、その低い温度域には被加熱物Wが存在していないと判断して制御を進めることができる。つまり、温度ムラから被加熱物Wの形状を検知できると共に、マイクロ波の照射エネルギと温度上昇の程度との関係から被加熱物Wのおおよその質量を検知できる。
【0051】
さて、被加熱物Wの箇所での昇温の程度は、被加熱物Wの中身や素材、形状等によってまちまちである。例えば、幕の内弁当のように多数の中身・素材が入っている場合は温度ムラが大きく、カレーや焼きそばのように中身の数が少なくて中身が容器に略均等に広がっている場合は、温度ムラは少ないと云える。また、肉の塊のように密度が高い中身の場合は昇温の程度は低く、豆腐のように密度が小さい中身の場合は昇温しやすい。
【0052】
そこで、温度ムラを縮めるようにして、アンテナ9a~9eを1つずつ駆動していく。図7(B)では、図7(A)の温度ムラを縮小しつつ加熱していく第1加熱段階として、第4アンテナ9dを例えば300Wで15秒駆動しており、その結果、加熱室2の温度分布は図8(A)のように変化して、被加熱物Wの温度は全体的に上昇しつつ温度ムラは縮小している。そこで、第2加熱段階として、図8(B)に網かけ表示して示すように第2アンテナ9bを例えば300Wで15秒駆動する。
【0053】
第2加熱段階の後の加熱室2での温度分布は表示していないが、被加熱物Wは全体的に昇温しつつ、図8(A)よりも温度ムラは縮小している。このようにして、アンテナ9a~9eを1つずつ駆動していくことにより、被加熱物Wの全体を所定の温度(目標温度)まで上昇させていく。
【0054】
被加熱物Wの温度ムラがある程度(例えば10℃以内)に納まったら、各アンテナ9a~9eを順番に駆動して加熱していくことができる。例えば、図8(A)の上端から時計回りに駆動したり、反時計回りに駆動したりしていくことができる。対角方向に駆動することも可能である。例えば、第1アンテナ9a⇒第4アンテナ9d⇒5アンテナ9e⇒第3アンテナ9c、といった順序である。
【0055】
いずれにしても、加熱室2の中央部で昇温が弱い場合は、適宜、第1アンテナ9を駆動したらよい。すなわち、基本パターンで加熱していきつつ、温度のムラが拡大する場合は、温度が低い箇所に対応してアンテナ9a~9eを集中的に駆動するなどして、補正したらよい。
【0056】
各アンテナ9a~9eを駆動するに当たっては、出力と照射時間と周波数とを組み合わせることにより、温度上昇が均等化するように調節できる。加熱の順序と出力及び時間の選択は、実験によって作成したマップに基づいて設定しておいたらよい。加熱の中間段階において、予想温度と実際に上昇した温度とが相違する場合は、マップを補正していくフィードバック制御を採用できる。
【0057】
被加熱物Wの温度ムラの程度は、被加熱物Wの大きさ(平面積)によっても大きく相違する。例えば、被加熱物Wが第1アンテナ9aの強照射エリアに納まる大きさである場合は、温度ムラは殆どないと解されるので、この場合は、第1アンテナ9aのみを継続的に駆動して加熱することが可能できる。このように1つアンテナ9a~9eのみを継続使用することも、本願発明に含まれている。
【0058】
半導体方式のマイクロ波加振器の特徴は周波数の制御が容易である点であり、本実施形態では、この特徴を利用して周波数を3段階に変更できる。従って、被加熱物Wの大きさや形状等に応じて周波数を切り換えて、マイクロ波が強く照射される範囲を調節することにより、マイクロ波を被加熱物Wに効率よく照射することができる。なお、周波数は、法定範囲内で任意の数値を選択することも可能である。
【0059】
(4).他の実施形態
図9に示す第2実施形態では、9個のアンテナ13a~13iを間口方向と奥行き方向とに3列ずつ設けている。すなわち、図8の状態で、左から右に向かいつつ手前に向けて、アンテナに13a,13b,13cといった順番を付している。端的には、アンテナ13a~13iは3個ずつ3列配置されている。
【0060】
図9の実施形態のように多数個のアンテナ13a~13iを使用すると、強いマイクロ波が及ぶ範囲を加熱室2の全域に広げることができるため、きめ細かい加熱を実現できる利点がある。更に、図9の実施形態では、隣り合ったアンテナ13a~13iの強加振域エリアが重なる共通領域14が多数存在しており、隣り合ったアンテナ13a~13iを駆動するとこの共通領域14を利用してピンポイント的な加熱が可能になる。この面でも、きめ細かい加熱態様の実現に貢献できる。
【0061】
アンテナの数を増やすと均一な加熱を促進できると云えるが、コストは嵩んでしまう。また、現実の被加熱物Wについては、全体を一様に加熱・加温・解凍したいという要望が多いと云える。従って、アンテナの数をできるだけ少なくしつつ均一に加熱できるような構造が現実的である。
【0062】
このような現実的視点に立って、図10に示す第3実施形態では、第1実施形態のように5個のアンテナ9a~9eを使用した場合の変形例として、花びら形に配置された5個のアンテナ9a~9eが、互いの間隔を詰めた状態になっている。すなわち、通常の被加熱物Wは加熱室2の平面積よりもかなり小さいのが普通であり、加熱室2の全域を強く加熱せねばならない状況は現実には無いと云えるので、第1実施形態のように5つのアンテナ9a~9eを花びらに配置するに当たって、第1実施形態の場合よりも、第2~第5のアンテナ9b~9eを中央部に寄せている。
【0063】
この実施形態では、第2~第5のアンテナ9b~9eを周方向に又は対角方向に順番に駆動することを基本駆動パターンとすることにより、被加熱物Wをまんべんなく加熱できると云える。勿論、被加熱物Wの昇温の程度に応じて第1アンテナ9aを駆動したらよい。また、初期工程として、第2~第5のアンテナ9a~9eを例えば10秒ずつ駆動して、被加熱物Wを全体的に加熱すると云ったことも可能である(この点は、第1実施形態も同様である。)。
【0064】
図11に示す第4実施形態でも、第1実施形態と同様に5つのアンテナ9a~9eを使用しているが、この第4実施形態では、第1アンテナ9aと第4,5アンテナ9d,9eを奥側に寄せると共に、第4,5アンテナ9d,9eは左右間隔を狭めている。従って、隣り合ったアンテナ9a~9eの強発振エリアが互いに重なり合っている。
【0065】
この第4実施形態でも、被加熱物Wが置かれるエリアは、ほぼ強発振エリアで網羅されていると云える。また、この実施形態では、基本的には、奥側に3つのアンテナ9a~9eが左右に並んで、手前側に2つのアンテナ9a~9eが左右に並んでいて前後2列方式になっている。
【0066】
そして、加熱パターンとしては、第3アンテナ9d⇒9e⇒第2アンテナ9b⇒第1アンテナ9a⇒第3アンテナ9cといった横移動方式や、第2アンテナ9b⇒第4アンテナ9d⇒第1アンテナ9a⇒第5アンテナ9e⇒第3アンテナ9cのジグザグ方式など、様々な方式を採用できる。初期工程で検知した温度分布に基づいて、温度ムラを縮小する最適のパターンを採用したらよい。
【0067】
図12に示す第5実施形態では、6個のアンテナ15a~15fを前後2列方式に配置している。この実施形態でも、隣り合ったアンテナ15a~15fの強加振エリアは互いに重なっているため、被加熱物Wをできるだけ短時間で決め細かく加熱できる。
【0068】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、構造及び制御態様とも、様々に具体化できる。構造について述べると、例えば、アンテナを筐体の上部空間に配置することもできる。或いは、アンテナを上部空間と下部空間との両方に配置することも可能である。
【0069】
加熱室を複数の加熱エリアに分けつつ、そのエリアを操作部に非加熱選択エリアとして表示して、特定のエリアをタッチすると、その部分は加熱されない(或いは加熱が弱い)といった構造も採用可能である。加熱の程度については、無タッチの標準を基準にして、「強く加熱」と「弱く加熱」との選択ボタンを設けておくことも可能である。加熱と解凍との選択ボタンを設けることも可能である。
【0070】
制御の態様としては、初期加熱工程の後に、温度センサによって加熱室の内部の温度の違いをサーモブラフ化することにより、被加熱物の形状と温度ムラとを読み出し、被加熱物のうち温度が低い箇所を集中的に加熱していく、という工程を繰り返す方法も採用可能である。既に述べたが、被加熱物の外側の部位はマイクロ波が照射されても殆ど昇温しないので、温度差が明確に現れている境界(室温に近い温度域の境界)を被加熱物の外形として把握可能であり、このようにして把握した被加熱物の形状(及び質量)に基づき、被加熱物にマイクロ波を効率良く照射することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本願発明は、半導体発振電子レンジに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 筐体
2 加熱室
3 扉
4 操作部
6 電装室
7 フラットテーブル
8 下中空部
9a~9e アンテナ
11 上中空部
12 温度センサ
13a~13i アンテナ
14 強加振域エリアが重なる共通領域
15a~15f アンテナ
E1~E25 温度分布の単位エリア(番地)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12