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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167095
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】光パルス試験器
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/00 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
G01M11/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072644
(22)【出願日】2021-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596157780
【氏名又は名称】横河計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】内山 晴義
(72)【発明者】
【氏名】青木 省一
(72)【発明者】
【氏名】太田 克志
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 明
【テーマコード(参考)】
2G086
【Fターム(参考)】
2G086CC03
(57)【要約】
【課題】測定精度の低下を招くことなく短時間で光ファイバの試験を行うことができる光パルス試験器を提供する。
【解決手段】光パルス試験器は、光ファイバに光パルスを入射させて得られる戻り光に基づいて、光ファイバの特性を試験する光パルス試験器において、互いに異なる波長帯の光パルスを射出する複数の光源素子と、複数の光源素子に対応して設けられた複数の受光素子と、複数の光源素子から射出される光パルスを空間的に波長合波して光ファイバに入射させる第1空間光学系と、光ファイバからの戻り光を空間的に波長分離して複数の受光素子に入射させる第2空間光学系と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバに光パルスを入射させて得られる戻り光に基づいて、前記光ファイバの特性を試験する光パルス試験器において、
互いに異なる波長帯の光パルスを射出する複数の光源素子と、
複数の前記光源素子に対応して設けられた複数の受光素子と、
複数の前記光源素子から射出される光パルスを空間的に波長合波して前記光ファイバに入射させる第1空間光学系と、
前記光ファイバからの戻り光を空間的に波長分離して複数の前記受光素子に入射させる第2空間光学系と、
を備える光パルス試験器。
【請求項2】
前記第2空間光学系は、前記光ファイバからの戻り光に含まれる波長成分のうち、前記光源素子から射出される光パルスの波長帯と同じ波長帯の成分が、対応する前記受光素子に入射するように前記光ファイバからの戻り光を空間的に波長分離する、請求項1記載の光パルス試験器。
【請求項3】
前記光源素子及び前記受光素子は、N(Nは2以上の整数)個ずつ設けられており、
前記第1空間光学系は、(N-1)個の波長合波素子を備え、
前記第2空間光学系は、少なくとも(N-1)個の波長分離素子を備える、
請求項1又は請求項2記載の光パルス試験器。
【請求項4】
複数の前記受光素子の少なくとも1つに設けられ、対応する前記光源素子から射出される光パルスの波長帯とは異なる波長帯の不要光を遮断する不要光遮断フィルタを備える、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の光パルス試験器。
【請求項5】
前記第1空間光学系及び前記第2空間光学系は、
前記第1空間光学系により波長合波された光パルスを透過又は反射させ、前記光ファイバからの戻り光を反射又は透過させるハーフミラーと、
前記ハーフミラーと前記光ファイバの一端との間に設けられた集光レンズと、
を共通して備える請求項1から請求項4の何れか一項に記載の光パルス試験器。
【請求項6】
複数の前記受光素子に対応して設けられ、対応する前記受光素子から出力される受光信号を処理する複数の信号処理回路を備える、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の光パルス試験器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルス試験器に関する。
【背景技術】
【0002】
光パルス試験器は、光パルスを試験対象である光ファイバに入射させ、光ファイバから得られる戻り光に基づいて光ファイバの特性を試験又は測定する装置である。この光パルス試験器の一種に、光ファイバ内で生ずるレイリー散乱光やフレネル反射光に基づいて光ファイバの伝送損失や障害点までの距離等を測定するOTDR(Optical Time Domain Reflectometer:光時間領域反射率計)がある。このようなOTDRは、例えば、光通信システムの通信媒体である光ファイバの敷設時における敷設工事作業の良否確認、又は敷設後の保守時における光ファイバの障害点の探索や損失の測定を行うために用いられる。
【0003】
上記のOTDRで測定を行う場合には、通常、通信で用いられている複数波長(例えば、1.31μm、1.55μm)の光パルスが用いられる。OTDRにおいて、波長毎に測定を行った場合には、測定に要する時間は波長の数だけ長くなる。以下の特許文献1には、複数波長の光パルスを光ファイバに入射させて同時に測定を行うこと(多波長同時測定)が可能なOTDRが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-24814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1に開示されたOTDRは、波長毎に異なるランダム符号で変調された試験光を光ファイバに入射させ、光ファイバから得られる戻り光の受光信号と上記ランダム符号との相関演算を行うことで多波長同時測定を実現している。しかしながら、このような相関演算を行うとスプリアス成分が発生し、測定精度の低下を招く虞があるという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、測定精度の低下を招くことなく短時間で光ファイバの試験を行うことができる光パルス試験器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による光パルス試験器は、光ファイバ(FUT)に光パルスを入射させて得られる戻り光に基づいて、前記光ファイバの特性を試験する光パルス試験器(1)において、互いに異なる波長帯の光パルスを射出する複数の光源素子(21a~21c)と、複数の前記光源素子に対応して設けられた複数の受光素子(28a~28c)と、複数の前記光源素子から射出される光パルスを空間的に波長合波して前記光ファイバに入射させる第1空間光学系(22a~22c、23、24、25、31)と、前記光ファイバからの戻り光を空間的に波長分離して複数の前記受光素子に入射させる第2空間光学系(24、25、26a~26c、27a~27c)と、を備える。
【0008】
また、本発明の一態様による光パルス試験器は、前記第2空間光学系が、前記光ファイバからの戻り光に含まれる波長成分のうち、前記光源素子から射出される光パルスの波長帯と同じ波長帯の成分が、対応する前記受光素子に入射するように前記光ファイバからの戻り光を空間的に波長分離する。
【0009】
また、本発明の一態様による光パルス試験器は、前記光源素子及び前記受光素子が、N(Nは2以上の整数)個ずつ設けられており、前記第1空間光学系が、(N-1)個の波長合波素子を備え、前記第2空間光学系が、少なくとも(N-1)個の波長分離素子を備える。
【0010】
また、本発明の一態様による光パルス試験器は、複数の前記受光素子の少なくとも1つに設けられ、対応する前記光源素子から射出される光パルスの波長帯とは異なる波長帯の不要光を遮断する不要光遮断フィルタ(32b、32c)を備える。
【0011】
また、本発明の一態様による光パルス試験器は、前記第1空間光学系及び前記第2空間光学系が、前記第1空間光学系により波長合波された光パルスを透過又は反射させ、前記光ファイバからの戻り光を反射又は透過させるハーフミラー(24)と、前記ハーフミラーと前記光ファイバの一端との間に設けられた集光レンズ(25)と、を共通して備える。
【0012】
また、本発明の一態様による光パルス試験器は、複数の前記受光素子に対応して設けられ、対応する前記受光素子から出力される受光信号を処理する複数の信号処理回路(14a~14c)を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、測定精度の低下を招くことなく短時間で光ファイバの試験を行うことができるという格別の作用効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態による光パルス試験器の要部構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態における双方向モジュールの要部構成を示す図である。
図3】本発明の実施形態における双方向モジュールの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による光パルス試験器について詳細に説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の実施形態の詳細について説明する。
【0016】
〔概要〕
本発明の実施形態は、測定精度の低下を招くことなく短時間で光ファイバの試験を行うことができるようにするものである。具体的には、光ファイバから得られる戻り光の波長成分を、複数の光源素子の各々から射出される光パルスの波長帯毎に分離し、分離した波長成分を複数の受光素子で個別に受光することで、測定精度を低下させることなく多波長同時測定を実現するものである。
【0017】
上述した特許文献1に開示されたOTDRは、複数波長の光パルスを光ファイバに入射させて同時に測定を行う多波長同時測定が可能である。このOTDRは、波長毎に異なるランダム符号で変調された試験光を光ファイバに入射させ、光ファイバから得られる戻り光の受光信号と上記ランダム符号との相関演算を行うことで多波長同時測定を実現している。しかしながら、このような相関演算を行うとスプリアス成分が発生する虞が考えられる。
【0018】
上記のスプリアス成分が発生すると、光ファイバの接続点等のイベントの位置の測定精度が低下したり、接続損失のレベル等の測定精度が低下したりする。測定精度の低下を防止するには、測定精度の低下を防止するための相関器等の高速な電気回路を付加することが考えられるが、このような電気回路は高価であるため、光パルス試験器のコストが大幅に上昇してしまう。
【0019】
本発明の実施形態は、互いに異なる波長帯の光パルスを射出する複数の光源素子から射出される光パルスを空間的に波長合波して光ファイバに入射させるようにしている。そして、光ファイバからの戻り光を空間的に波長分離して複数の光源素子に対応して設けられた複数の受光素子に入射させるようにしている。これにより、複数の光源素子の各々から射出される光パルスの波長帯毎に分離された戻り光の波長成分が、複数の受光素子で個別に受光されるため、測定精度の低下を招くことなく短時間で光ファイバの試験を行うことができる。
【0020】
〔詳細〕
〈光パルス試験器〉
図1は、本発明の実施形態による光パルス試験器の要部構成を示すブロック図である。図1に示す通り、本実施形態の光パルス試験器1は、双方向モジュール11、LD駆動部12、サンプリング部13、信号処理部14、表示部15、及びコネクタ16を備える。このような光パルス試験器1は、光ファイバFUTに光パルスを入射させて得られる戻り光に基づいて光ファイバFUTの特性を試験又は測定する。尚、光パルス試験器1は、OTDRとも呼ばれる。
【0021】
双方向モジュール11は、LD駆動部12から出力される駆動信号DSに基づいて、光ファイバFUTに入射させる光パルス(レーザ光)を出力するとともに、光ファイバFUTから得られる戻り光を受光して受光信号RSを出力する。尚、双方向モジュール11の詳細については後述する。
【0022】
LD駆動部12は、信号処理部14の制御の下で、双方向モジュール11を駆動する駆動信号DSを出力する。つまり、LD駆動部12は、光ファイバFUTに入射させる光パルスを双方向モジュール11から出力させるための駆動信号DSを出力する。サンプリング部13は、信号処理部14の制御の下で、双方向モジュール11から出力される受光信号RSをサンプリングする。
【0023】
信号処理部14は、LD駆動部12及びサンプリング部13を制御するとともに、サンプリング部13でサンプリングされた信号を用いて、光ファイバFUTの特性を求めるために必要となる演算を行う。表示部15は、例えば、液晶表示装置等の表示装置を備えており、信号処理部14の演算結果等を表示する。尚、信号処理部14の演算結果は、例えば、データファイルとして外部に出力されても良い。コネクタ16は、光ファイバFUTの一端を光パルス試験器1に接続するためのものである。
【0024】
〈双方向モジュール〉
図2は、本発明の実施形態における双方向モジュールの要部構成を示す図である。図2に示す通り、本実施形態における双方向モジュール11は、光源素子21a,21b(光源素子)、コリメートレンズ22a,22b(第1空間光学系)、波長合波素子23(第1空間光学系)、ハーフミラー24(第1,第2空間光学系)、集光レンズ25(第1,第2空間光学系)、波長分離素子26a,26b(第2空間光学系)、集光レンズ27a,27b(第2空間光学系)、及び受光素子28a,28bを備える。
【0025】
光源素子21a,21bは、例えば、半導体レーザを備えており、図1に示すLD駆動部12から出力される駆動信号DSが入力されると光パルスを射出する。光源素子21aは、波長λ1の光パルス(以下、「第1光パルス」という場合がある)を射出し、光源素子21bは、波長λ2の光パルス(以下、「第2光パルス」という場合がある)を射出する。波長λ1は、例えば、1.31μm帯であり、波長λ2は、例えば、1.55μm帯である。尚、波長λ2は、例えば、1.6μm帯であっても良い。
【0026】
コリメートレンズ22aは、光源素子21aから射出される第1光パルスを平行光に変換し、コリメートレンズ22bは、光源素子21bから射出される第2光パルスを平行光に変換する。波長合波素子23は、コリメートレンズ22a,22bで平行光に変換された第1光パルスと第2光パルスとを空間的に合波(波長合波)する。この波長合波素子23としては、例えば、第1光パルスを透過させ、第2光パルスを反射させるダイクロイックミラーや、ハーフミラーを用いることができる。
【0027】
ハーフミラー24は、入射する光を所定の分岐比(例えば、1対1)で分岐する。例えば、ハーフミラー24は、波長合波素子23から導かれた光パルスの50%を透過させ、残りの50%を反射させる。また、ハーフミラー24は、光ファイバFUTから得られた戻り光の50%を反射させ、残りの50%を透過させる。
【0028】
集光レンズ25は、ハーフミラー24を透過した光パルスを結合用光ファイバFBの一端に結合させる。尚、結合用光ファイバFBは、一端が双方向モジュール11に接続されて集光レンズ25と光学的に結合しており、他端がコネクタ16に接続されている。つまり、結合用光ファイバFBの他端には、光ファイバFUTの一端が接続される。また、集光レンズ25は、光ファイバFUTから得られる戻り光を平行光に変換してハーフミラー24に導く。
【0029】
波長分離素子26aは、ハーフミラー24で反射された戻り光を空間的に分離(波長分離)する。具体的には、戻り光に含まれる波長成分のうち、第1光パルスの波長λ1と同じ波長帯の成分を透過させ、それ以外の波長成分(第2光パルスの波長λ2と同じ波長帯の成分を含む)を反射させる。波長分離素子26bは、波長分離素子26aで反射された波長成分を空間的に分離(波長分離)する。具体的には、波長分離素子26aで反射された波長成分のうち、第2光パルスの波長λ2と同じ波長帯の成分を反射させ、それ以外の波長成分を透過させる。
【0030】
ここで、波長分離素子26bは、波長分離素子26aで反射された波長成分に含まれる第1光パルスの波長λ1と同じ波長帯の成分を除去するために設けられる。波長分離素子26aは、第1光パルスの波長λ1と同じ波長帯の成分を全て透過させ、第2光パルスの波長λ2と同じ波長帯の成分を全て反射させるのが理想である。しかしながら、実際には、波長分離素子26aで反射される波長成分には、第1光パルスの波長λ1と同じ波長帯の成分が含まれることがある。波長分離素子26bは、このような不要な波長成分を除去するために設けられる。尚、上記の不要な波長成分が無視できるのであれば、波長分離素子26bに代えて全反射ミラーを用いても良い。
【0031】
集光レンズ27aは、波長分離素子26aを透過した波長成分を、受光素子28aの受光面に結合させる。集光レンズ27bは、波長分離素子26bで反射された成分を、受光素子28bの受光面に結合させる。
【0032】
受光素子28a,28bは、例えば、アバランシェフォトダイオード(Avalanche Photo Diode:APD)を備えており、受光面に入射した波長成分を光電変換し、受光面に入射した波長成分に応じた受光信号RSを出力する。受光素子28aは、光源素子21aに対応して設けられており、波長分離素子26aを透過して集光レンズ27aで集光された成分(第1光パルスの波長λ1と同じ波長帯の成分)を受光して、受光信号RS1を出力する。受光素子28bは、光源素子21bに対応して設けられており、波長分離素子26bで反射されて集光レンズ27bで集光された成分(第2光パルスの波長λ2と同じ波長帯の成分)を受光して、受光信号RS2を出力する。
【0033】
ここで、コリメートレンズ22a,22b、波長合波素子23、ハーフミラー24、及び集光レンズ25は、光源素子21a,21bから射出される第1,第2光パルスを空間的に波長合波して光ファイバFUTに入射させる第1空間光学系をなす。また、集光レンズ25、ハーフミラー24、波長分離素子26a,26b、及び集光レンズ27a,27bは、光ファイバFUTからの戻り光を空間的に波長分離して受光素子28a,28bに入射させる第2空間光学系をなす。
【0034】
この第2空間光学系は、第1光パルスの波長帯と同じ波長帯の成分が、光源素子21aに対応する受光素子28aに入射し、第2光パルスの波長帯と同じ波長帯の成分が、光源素子21bに対応する受光素子28bに入射するように戻り光を空間的に波長分離する。尚、ハーフミラー24及び集光レンズ25は、第1空間光学系及び第2空間光学系で共用されていることから、第1空間光学系及び第2空間光学系は、ハーフミラー24及び集光レンズ25を共通して備えるということができる。
【0035】
図2に示す通り、受光素子28aには、サンプリング回路13a及び信号処理回路14aが対応して設けられており、受光素子28bには、サンプリング回路13b及び信号処理回路14bが対応して設けられている。サンプリング回路13a,13bは、図1に示すサンプリング部13に設けられる回路であり、信号処理回路14a,14bは、図1に示す信号処理部14に設けられる回路である。
【0036】
サンプリング回路13aは、対応する受光素子28aから出力される受光信号RS1をサンプリングする。信号処理回路14aは、サンプリング回路13aでサンプリングされた信号を用いて、光ファイバFUTの特性を求めるために必要となる演算を行う。サンプリング回路13bは、対応する受光素子28bから出力される受光信号RS2をサンプリングする。信号処理回路14bは、サンプリング回路13bでサンプリングされた信号を用いて、光ファイバFUTの特性を求めるために必要となる演算を行う。
【0037】
受光素子28aに対応するサンプリング回路13a及び信号処理回路14aと、受光素子28bに対応するサンプリング回路13b及び信号処理回路14bとを設けるのは、以下の理由による。つまり、受光素子28aから出力される受光信号RS1と受光素子28bから出力される受光信号RS2とを並行して処理することで、光ファイバFUTの特性を求めるために要する時間を短縮するためである。
【0038】
〈光パルス試験器の動作〉
光パルス試験器1の動作が開始されると、まず、図1に示す信号処理部14によってLD駆動部12が制御され、LD駆動部12から駆動信号DSが出力される。LD駆動部12から出力された駆動信号DSは、双方向モジュール11の光源素子21a,21bに供給される。駆動信号DSが供給されると、光源素子21aからは第1光パルスが射出され、光源素子21bからは第2光パルスが射出される。
【0039】
光源素子21aから射出された第1光パルスは、コリメートレンズ22aで平行光に変換され、光源素子21bから射出された第2光パルスは、コリメートレンズ22bで平行光に変換される。平行光に変換された第1光パルス及び第2光パルスは、波長合波素子23で合波される。合波された光パルスは、ハーフミラー24、集光レンズ25、及び結合用光ファイバFBを順に介した後に、コネクタ16に接続された光ファイバFUTに入射する。光パルスが、光ファイバFUTを伝播する従って、光ファイバFUT内ではレイリー散乱光やフレネル反射光が生ずる。これらは戻り光として、光ファイバFUTを逆方向(光パルスの伝播方向とは逆の方法)に伝播する。
【0040】
光ファイバFUTから出力された戻り光は、結合用光ファイバFB及び集光レンズ25を順に介した後にハーフミラー24で反射されて波長分離素子26aに入射する。波長分離素子26aに入射した戻り光に含まれる波長成分のうち、第1光パルスの波長λ1と同じ波長帯の成分は波長分離素子26aを透過し、第2光パルスの波長λ2と同じ波長帯の成分は反射される。
【0041】
波長分離素子26aを透過した波長成分(第1光パルスの波長λ1と同じ波長帯の成分)は、集光レンズ27aによって集光された後に、受光素子28aで受光される。これにより、受光素子28aからは、受光信号RS1が出力される。これに対し、波長分離素子26aで反射された波長成分(第2光パルスの波長λ2と同じ波長帯の成分)は、波長分離素子26bで反射されて集光レンズ27bによって集光された後に、受光素子28bで受光される。これにより、受光素子28bからは、受光信号RS2が出力される。
【0042】
受光素子28aから出力された受光信号RS1は、サンプリング回路13aでサンプリングされた後に、信号処理回路14aによって光ファイバFUTの特性を求めるために必要となる演算に用いられる。これと並行して、受光素子28bから出力された受光信号RS2は、サンプリング回路13bでサンプリングされた後に、信号処理回路14bによって光ファイバFUTの特性を求めるために必要となる演算に用いられる。
【0043】
信号処理回路14a,14bでは、例えば、光源素子21a,21bから第1,第2光パルスがそれぞれ出力されてから、戻り光が受光素子28a,28bで受光されるまでの時間に基づいて、例えば、光パルス試験器1から光ファイバFUTの障害点までの距離を求める演算が行われる。このようにして得られた信号処理回路14a,14bの演算結果(例えば、光ファイバFUTの伝送損失や障害点までの距離等)が、表示部15に表示される。
【0044】
以上の通り、本実施形態では、光源素子21aから射出される第1光パルスと光源素子21bから射出される第2光パルスとを空間的に波長合波して光ファイバFUTに入射させている。そして、光ファイバFUTからの戻り光を空間的に波長分離して受光素子28a,28bに入射させるようにしている。これにより、光源素子21a,21bの各々から射出される第1,第2光パルスの波長帯毎に分離された戻り光の波長成分が、受光素子28a,28bでそれぞれ個別に受光されるため、測定精度の低下を招くことなく短時間で光ファイバの試験を行うことができる。
【0045】
また、本実施形態では、双方向モジュール11を構成する光学素子が空間結合されている。これにより、本実施形態の双方向モジュール11は、光学素子が光ファイバ結合されているものに比べて結合損失を抑えることができ測定精度の向上を図ることができる。また、本実施形態の双方向モジュール11は、光学素子が光ファイバ結合されているものに比べて、省スペース及び低コストを図ることができる。
【0046】
〈変形例〉
図3は、本発明の実施形態における双方向モジュールの変形例を示す図である。尚、図3においては、図2に示す構成と同じ構成については同一の符号を付してある。図3に示す双方向モジュール11は、図2に示す双方向モジュール11に対し、光源素子21c、コリメートレンズ22c(第1空間光学系)、波長合波素子31(第1空間光学系)、波長分離素子26c(第2空間光学系)、集光レンズ27c(第2空間光学系)、受光素子28c、及び不要光遮断フィルタ32b,32cを追加した構成である。
【0047】
図2に示す双方向モジュール11は、2つの異なる波長の光パルスを光ファイバFUTに入射させて同時に測定を行う2波長同時測定を実現するものであった。これに対し、本変形例に係る双方向モジュール11は、3つの異なる波長の光パルスを光ファイバFUTに入射させて同時に測定を行う3波長同時測定を実現するものである。
【0048】
光源素子21cは、図2に示す光源素子21a,21bと同様に、例えば、半導体レーザを備えており、図1に示すLD駆動部12から出力される駆動信号DSが入力されると光パルスを射出する。光源素子21cは、波長λ3の光パルス(以下、「第3光パルス」という場合がある)を射出する。尚、波長λ3は、例えば、1.6μm帯である。
【0049】
コリメートレンズ22cは、コリメートレンズ22a,22bと同様のものであり、波長合波素子31は、波長合波素子23と同様のものである。波長分離素子26cは、波長分離素子26bを透過した波長成分を空間的に分離(波長分離)する。具体的には、波長分離素子26bを透過した波長成分のうち、第3光パルスの波長λ3と同じ波長帯の成分を反射させ、それ以外の波長成分を透過させる。
【0050】
ここで、波長分離素子26cは、波長分離素子26bを透過した波長成分に含まれる第1光パルスの波長λ1と同じ波長帯の成分や、第2光パルスの波長λ2と同じ波長帯の成分を除去するために設けられる。これは、図2に示す波長分離素子26bと同様の理由である。尚、上記の波長成分を除去する必要が無い場合には、波長分離素子26cに代えて全反射ミラーを用いても良い。
【0051】
集光レンズ27cは、集光レンズ27a,27bと同様のものである。受光素子28cは、受光素子28a,28bと同様のものである。尚、受光素子28cは、光源素子21cに対応して設けられており、波長分離素子26cで反射されて集光レンズ27cで集光された成分(第3光パルスの波長λ3と同じ波長帯の成分)を受光して、受光信号RS3を出力する。
【0052】
不要光遮断フィルタ32bは、集光レンズ27bと受光素子28bとの間に配置されており、不要な光(例えば、第2光パルスの波長λ2と同じ波長帯の光以外の光)を遮断するフィルタである。不要光遮断フィルタ32cは、集光レンズ27cと受光素子28cとの間に配置されており、不要な光(例えば、第3光パルスの波長λ3と同じ波長帯の光以外の光)を遮断するフィルタである。
【0053】
ここで、図3に示す例において、不要光遮断フィルタは、集光レンズ27aと受光素子28aとの間には配置されていない。これは、波長分離素子26aが、第1光パルスの波長λ1と同じ波長帯の成分以外の成分は透過させない(或いは、殆ど透過させない)という透過特性を有するためである。尚、波長分離素子26aの透過特性によっては、集光レンズ27aと受光素子28aとの間に不要光遮断フィルタを配置しても良い。
【0054】
ここで、コリメートレンズ22a,22b,22c、波長合波素子23、波長合波素子31、ハーフミラー24、及び集光レンズ25は、光源素子21a,21b,21cから射出される第1,第2,第3光パルスを空間的に波長合波して光ファイバFUTに入射させる第1空間光学系をなす。また、集光レンズ25、ハーフミラー24、波長分離素子26a,26b,26c、集光レンズ27a,27b,27c、及び不要光遮断フィルタ32b,32cは、光ファイバFUTからの戻り光を空間的に波長分離して受光素子28a,28b,28cに入射させる第2空間光学系をなす。
【0055】
この第2空間光学系は、第1光パルスの波長帯と同じ波長帯の成分が、光源素子21aに対応する受光素子28aに入射し、第2光パルスの波長帯と同じ波長帯の成分が、光源素子21bに対応する受光素子28bに入射し、第3光パルスの波長帯と同じ波長帯の成分が、光源素子21cに対応する受光素子28cに入射するように戻り光を空間的に波長分離する。尚、ハーフミラー24及び集光レンズ25は、第1空間光学系及び第2空間光学系で共用されていることから、第1空間光学系及び第2空間光学系は、ハーフミラー24及び集光レンズ25を共通して備えるということができる。
【0056】
図3に示す通り、受光素子28cには、サンプリング回路13c及び信号処理回路14cが対応して設けられている。サンプリング回路13cは、サンプリング回路13a,13bと同様に、図1に示すサンプリング部13に設けられる回路であり、信号処理回路14cは、信号処理回路14a,14bと同様に、図1に示す信号処理部14に設けられる回路である。
【0057】
サンプリング回路13cは、対応する受光素子28cから出力される受光信号RS3をサンプリングする。信号処理回路14cは、サンプリング回路13cでサンプリングされた信号を用いて、光ファイバFUTの特性を求めるために必要となる演算を行う。受光素子28cに対応するサンプリング回路13c及び信号処理回路14cを設けることで、受光素子28aから出力される受光信号RS1、受光素子28bから出力される受光信号RS2、及び受光素子28cから出力される受光信号RS3を並行して処理することができる。これにより、光ファイバFUTの特性を求めるために要する時間を短縮することができる。
【0058】
尚、本変形例に係る双方向モジュール11と図2に示す双方向モジュール11とは、本変形例に係る双方向モジュール11が3波長同時測定を実現し、図2に示す双方向モジュール11が2波長同時測定を実現する点において異なるだけである。このため、本変形例に係る双方向モジュール11を備える光パルス試験器の動作は、基本的に、図2に示す双方向モジュール11を備える光パルス試験器1の動作と同様であるから、動作の詳細な説明は省略する。
【0059】
以上の通り、本変形例では、光源素子21aから射出される第1光パルス、光源素子21bから射出される第2光パルス、及び光源素子21cから射出される第3光パルスを空間的に波長合波して光ファイバFUTに入射させている。そして、光ファイバFUTからの戻り光を空間的に波長分離して受光素子28a,28b,28cに入射させるようにしている。これにより、光源素子21a,21b,21cの各々から射出される第1,第2,第3光パルスの波長帯毎に分離された戻り光の波長成分が、受光素子28a,28b,28cでそれぞれ個別に受光されるため、測定精度の低下を招くことなく短時間で光ファイバの試験を行うことができる。
【0060】
また、本変形例においても、双方向モジュール11を構成する光学素子が空間結合されている。これにより、本変形例の双方向モジュール11も、光学素子が光ファイバ結合されているものに比べて結合損失を抑えることができ測定精度の向上を図ることができるとともに、省スペース及び低コストを図ることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態による光パルス試験器について説明したが、本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した実施形態による光パルス試験器は2波長同時測定が可能なものであり、上述した変形例に係る光パルス試験器は3波長同時測定が可能なものであったが、4波長以上の波長で同時測定が可能なものであっても良い。
【0062】
N(Nは2以上の整数)を波長の数とすると、N波長で同時測定を行う光パルス試験器は、光源素子及び受光素子をN個ずつ備える。また、この光パルス試験装置は、第1空間光学系に(N-1)個の波長合波フィルタを備えており、第2空間光学系に少なくとも(N-1)個の波長分離素子を備えたものとなる。
【0063】
また、上述した変形例に係る光パルス試験器では、光ファイバFUTからの戻り光を、短波長側から長波長側の順で分離する例について説明した。つまり、第1光パルスの波長λ1(例えば、1.31μm帯)と同じ波長帯の成分、第2光パルスの波長λ2(例えば、1.55μm帯)と同じ波長帯の成分、第3光パルスの波長λ3(例えば、1.6μm帯)と同じ波長帯の成分の順で分離する例について説明した。
【0064】
しかしながら、光ファイバFUTからの戻り光は、長波長側から短波長側の順で分離するようにしても良い。つまり、第3光パルスの波長λ3(例えば、1.6μm帯)と同じ波長帯の成分、第2光パルスの波長λ2(例えば、1.55μm帯)と同じ波長帯の成分、及び第1光パルスの波長λ1(例えば、1.31μm帯)と同じ波長帯の成分の順で分離しても良い。
【0065】
また、上述した実施形態及び変形例に係る光パルス試験器は、ハーフミラー24を透過した光パルスを光ファイバFUTに入射させ、光ファイバFUTからの戻り光をハーフミラー24で反射する構成であった。しかしながら、ハーフミラー24で反射された光パルスを光ファイバFUTに入射させ、光ファイバFUTからの戻り光を、ハーフミラー24で透過させる構成であっても良い。
【0066】
〈使用例〉
最後に、上述した光パルス試験器の使用例について説明する。以下では、「曲げの確認」、「多波長リアルタイム測定」、及び「被測定光ファイバの接続具合の確認」について順に説明する。
【0067】
《曲げの確認》
光ファイバのコアを伝播する光信号は、光ファイバが屈曲されている場合には、コアから外部(クラッド)に漏れ出ることがある。このようなコアから外部に漏れ出る光信号は損失になるため、光ファイバのコアを伝播する光信号のパワーが低下する。ここで、光ファイバのコアを伝播する光信号は、短波長の光信号よりも長波長の光信号の方が、コアから外部(クラッド)に出やすくなる。
【0068】
OTDRでは、光ファイバのコアを伝播する光信号のパワー変化が生じた位置を検出することができる。このため、光ファイバの曲げに鈍感な短波長(例えば、1.31μm)の光信号と、光ファイバの曲げに敏感な長波長(例えば、1.55μmや1.6μm)の光信号とを同時測定し、その測定結果を比較すれば光ファイバの曲げが発生している位置を短時間で確認することができる。
【0069】
光ファイバシステムのアクセス網サービスにおいて、基地局から配線された多芯ケーブルを単芯にしたり、スプリッタと言われる分配器等を収納したりするクロージャーがある。光ファイバの敷設作業において、光ファイバをクロージャーへ収納する際に、規定よりも曲げて収納したり、挟みこんで収納したりしてしまうと、通信障害や、光ファイバ劣化や破断の原因になることがある。上述した光パルス試験器を用いれば、上記の作業中に短時間で曲げを検出することができるため、上述した作業不具合の発生を防止することが可能になる。
【0070】
《多波長リアルタイム測定》
OTDRには、平均化処理時間/回数を少なくして測定を行うリアルタイム測定と呼ばれる機能がある。この機能の主な用途は、接続された光ファイバの接続状況の簡易確認や、最適な測定条件を導き出すための事前測定である。上述した光パルス試験器を用いれば、多波長同時のリアルタイム測定が実現できるため、従来の構成にて、波長毎に繰り返し行っている測定条件のためのリアルタイム測定を、同時に行うことができる。
【0071】
波長毎に測定条件が違う例としては、光ファイバの損失率(dB/km)が違うために、測定可能な範囲(DRダイナミックレンジ)に関わる測定光のパワー(パルス幅など)や平均化回数(時間)を変えることが挙げられる。また、光ファイバの屈折率が異なるために、接続点や全長の遠端位置を合わせるための群屈折率(IOR:Index Of Refraction)を変えること等である。群屈折率の事前変更は、END点位置の自動補正機能とすることができる。
【0072】
《被測定光ファイバの接続具合の確認》
測定開始前のOTDRとの接続チェック機能において、一度に測定する波長にて接続具合を確認できる。光コネクタの接続点では、波長により接続損失や反射にばらつきが生じることが有る。例えば、1.31μmで「OK」(反射が小さい)だが、1.55μmで「NG」(反射が大きい)といったことがある。上述した光パルス試験器を用いれば、このような確認を測定開始前に行うことができる。
【符号の説明】
【0073】
1 光パルス試験器
14a~14c 信号処理回路
21a~21c 光源素子
22a~22c コリメートレンズ
23 波長合波素子
24 ハーフミラー
25 集光レンズ
26a~26c 波長分離素子
27a~27c 集光レンズ
28a~28c 受光素子
31 波長合波素子
32b,32c 不要光遮断フィルタ
FUT 光ファイバ
図1
図2
図3