(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167101
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】塗料の塗布方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20221027BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20221027BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D7/00 K
B05D1/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072653
(22)【出願日】2021-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】岡村 康平
(72)【発明者】
【氏名】重成 有
(72)【発明者】
【氏名】菊地 康泰
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AC06
4D075AC09
4D075AC88
4D075AC91
4D075AC93
4D075AE03
4D075AE06
4D075BB26Z
4D075BB42Z
4D075CA13
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA23
4D075EA05
4D075EA15
4D075EA19
4D075EA21
4D075EA27
(57)【要約】
【課題】傾斜塗装面にも垂れを生じることなく均一な厚さの塗膜を形成し得る塗料の塗布方法を提供する。
【解決手段】塗布方法は、インクジェットプリントヘッドを塗布パスに沿って移動させながら塗料液滴を吐出することにより塗装面上に塗膜を形成するものであり、塗装面上において、傾斜勾配が最大の方向を第1方向、これと垂直な方向を第2方向とするとき、塗布パスは、それぞれが第2方向に延び、第1方向に互いに間隔をあけて配列された複数の第1パスと、第1方向に隣接する2つの第1パスの間で、これらから間隔をあけて配列された少なくとも1つの第2パスとを含み、以下の工程を含む。
(1)第1パスに沿って塗膜の第1層を形成する第1塗布工程
(2)塗膜の第1層を乾燥させる中間乾燥工程
(3)第2パスに沿って、隣接する2つの塗膜の第1層に密着するような態様で、塗膜の第2層を形成する第2塗布工程
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面に対して傾斜した塗装面にインクジェットプリントヘッドを用いて塗料を塗布するための方法であって、
前記インクジェットプリントヘッドは、前記塗装面上の塗布パスに沿って移動しながら前記塗料の液滴を吐出することにより、前記塗装面上に塗膜を形成するように構成されており、
前記塗装面上において、前記塗装面の前記水平面に対する傾斜の勾配が最も大きい方向を第1方向、前記第1方向と垂直な方向を第2方向とするとき、
前記塗布パスは、
それぞれが前記第2方向に延び、前記第1方向において互いに間隔をあけて配列された複数の第1パスと、
前記第1方向において隣接する2つの前記第1パスの間で、それぞれの前記第1パスから間隔をあけて配列された少なくとも1つの第2パスと、
を含み、
前記方法は、以下の工程を含む。
(1)前記インクジェットプリントヘッドを前記第1パスに沿って移動させることにより、前記塗装面上に塗膜の第1層を形成する第1塗布工程
(2)前記塗膜の第1層を乾燥させる中間乾燥工程
(3)前記インクジェットプリントヘッドを前記第2パスに沿って移動させることにより、前記塗装面上に、隣接する2つの前記塗膜の第1層に密着するような態様で、塗膜の第2層を形成する第2塗布工程
【請求項2】
前記第2塗布工程の終了後、前記塗装面に対して垂直な方向において、前記塗膜の第1層及び前記塗膜の第2層に重ねて、塗膜の更なる層を形成する第3塗布工程を更に含み、
前記第3塗布工程は、それぞれが前記第2方向に延び、前記第1方向において互いに間隔をあけて配列された複数の第3パスに沿って前記インクジェットプリントヘッドを移動させることにより、前記塗膜の更なる層を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第3塗布工程は、前記第2塗布工程の終了後、直ちに行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第3塗布工程は、前記第2塗布工程の終了後、前記塗膜の第2層を乾燥させる中間乾燥工程の終了後に行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1塗布工程は、
(1)前記インクジェットプリントヘッドを前記第1パスに沿って移動させることにより、前記塗装面上に塗膜の第1下層を形成する第1下層塗布工程
(2)前記インクジェットプリントヘッドを前記第1パスに沿って移動させることにより、前記塗膜の第1下層に重ねて、塗膜の第1上層を形成する第1上層塗布工程
を含み、
前記第1上層塗布工程は、前記第1下層塗布工程の終了後、直ちに行われるか、又は、前記塗膜の第1下層を乾燥させる中間乾燥工程の終了後に行われ、
前記第2塗布工程は、
(1)前記インクジェットプリントヘッドを前記第2パスに沿って移動させることにより、前記塗装面上に塗膜の第2層の第1レイヤーを形成する工程
(2)前記塗膜の第2層の前記第1レイヤーを形成する前記工程の終了後、直ちに、前記インクジェットプリントヘッドを前記第2パスに沿って移動させることにより、前記塗膜の第2層の前記第1レイヤーに重ねて、塗膜の第2層の第2レイヤーを形成する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記塗料は、主剤と硬化剤とから成る二液性塗料、時硬化塗料、熱硬化塗料、光硬化塗料若しくはホットメルトのいずれかの塗料、又は、当該塗料に希釈剤を添加したものであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記塗装面は、水平面に対して傾斜した平面であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記塗装面は、前記第2方向に垂直な平面との交線が上に凸の曲線であるような凸面、又は、前記第2方向に垂直な平面との交線が下に凸の曲線であるような凹面であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料の塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料を物品の塗装面に塗布する方法としては、従来、例えばスプレー塗装、刷毛塗り等が知られている。
【0003】
スプレー塗装は、噴霧器を用いてミスト状にした塗料を塗装面に吹き付けることにより塗布する方法である。吹き付けられるミストの径を均一化すべく、塗料の粘性を低く抑える必要があるため、塗料には希釈剤が添加される。噴霧器を手動で又は自動的に移動させることにより、塗装面の所望の領域に塗料の膜(塗膜)が形成される。塗料の粘性を低く抑えているため、1回の吹き付けにより形成される塗膜の厚さ(膜厚)は小さい。したがって、所望の膜厚を得るためには、1回の吹き付け工程の後に、当該工程で形成された塗膜を硬化させるための中間乾燥を行い、その後に次の吹き付け工程を行うという手順を繰り返す必要がある。
【0004】
刷毛塗りは、刷毛に付着させた塗料を塗装面に直接的に塗布する方法である。刷毛を手動で移動させることにより、塗装面の所望の領域に塗膜が形成される。所望の厚さの塗膜を得るために、通常、1回の塗布工程の後に、当該工程で形成された塗膜を硬化させるための中間乾燥を行い、その後に次の塗布工程を行うという手順が繰り返される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したスプレー塗装では、ミスト状の塗料が広範囲に拡散するため、塗装面の所望の領域にのみ塗膜を形成するためには、当該領域以外の領域にマスキングを施すと共に、塗装終了後に当該マスキングを除去する必要があり、多くの時間とコストが必要となる。また、ミスト状の塗料のうち空中に拡散したものを回収するために大掛かりな設備が必要となり、これもコスト増の要因となる。さらに、塗装面が複雑な形状を有している場合、膜厚を均一化することは困難である。
【0006】
また、上述した刷毛塗りは、膜厚を均一化することが困難であり、塗装の品質が作業者の技量に左右されるという欠点を有している。また、塗装面が水平面に対して傾斜している場合、塗布された塗料が下方へ流れる現象(垂れ)が生じやすいため、所望の厚さの塗膜を得るためには、小さな膜厚での塗布工程と中間乾燥工程とを多数回繰り返す必要があり、多くの時間が必要となる。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであって、水平面に対して傾斜している塗装面に対しても、垂れを生じることなく均一な厚さの塗膜を形成することができる、塗料の塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様の方法は、水平面に対して傾斜した塗装面にインクジェットプリントヘッドを用いて塗料を塗布するための方法であって、前記インクジェットプリントヘッドは、前記塗装面上の塗布パスに沿って移動しながら前記塗料の液滴を吐出することにより、前記塗装面上に塗膜を形成するように構成されており、前記塗装面上において、前記塗装面の前記水平面に対する傾斜の勾配が最も大きい方向を第1方向、前記第1方向と垂直な方向を第2方向とするとき、前記塗布パスは、それぞれが前記第2方向に延び、前記第1方向において互いに間隔をあけて配列された複数の第1パスと、前記第1方向において隣接する2つの前記第1パスの間で、それぞれの前記第1パスから間隔をあけて配列された少なくとも1つの第2パスと、を含み、前記方法は、以下の工程を含む:
(1)前記インクジェットプリントヘッドを前記第1パスに沿って移動させることにより、前記塗装面上に塗膜の第1層を形成する第1塗布工程
(2)前記塗膜の第1層を乾燥させる中間乾燥工程
(3)前記インクジェットプリントヘッドを前記第2パスに沿って移動させることにより、前記塗装面上に、隣接する2つの前記塗膜の第1層に密着するような態様で、塗膜の第2層を形成する第2塗布工程
【0009】
本発明の第2の態様の方法は、前記第2塗布工程の終了後、前記塗装面に対して垂直な方向において、前記塗膜の第1層及び前記塗膜の第2層に重ねて、塗膜の更なる層を形成する第3塗布工程を更に含み、前記第3塗布工程は、それぞれが前記第2方向に延び、前記第1方向において互いに間隔をあけて配列された複数の第3パスに沿って前記インクジェットプリントヘッドを移動させることにより、前記塗膜の更なる層を形成する。
【0010】
本発明の第3の態様の方法において、前記第3塗布工程は、前記第2塗布工程の終了後、直ちに行われる。
【0011】
本発明の第4の態様の方法において、前記第3塗布工程は、前記第2塗布工程の終了後、前記塗膜の第2層を乾燥させる中間乾燥工程の終了後に行われる。
【0012】
本発明の第5の態様の方法において、前記第1塗布工程は、
(1)前記インクジェットプリントヘッドを前記第1パスに沿って移動させることにより、前記塗装面上に塗膜の第1下層を形成する第1下層塗布工程
(2)前記インクジェットプリントヘッドを前記第1パスに沿って移動させることにより、前記塗膜の第1下層に重ねて、塗膜の第1上層を形成する第1上層塗布工程
を含み、
前記第1上層塗布工程は、前記第1下層塗布工程の終了後、直ちに行われるか、又は、前記塗膜の第1下層を乾燥させる中間乾燥工程の終了後に行われ、
前記第2塗布工程は、
(1)前記インクジェットプリントヘッドを前記第2パスに沿って移動させることにより、前記塗装面上に塗膜の第2層の第1レイヤーを形成する工程
(2)前記塗膜の第2層の前記第1レイヤーを形成する前記工程の終了後、直ちに、前記インクジェットプリントヘッドを前記第2パスに沿って移動させることにより、前記塗膜の第2層の前記第1レイヤーに重ねて、塗膜の第2層の第2レイヤーを形成する工程
を含む。
【0013】
本発明の第6の態様の方法において、前記塗料は、主剤と硬化剤とから成る二液性塗料、時硬化塗料、熱硬化塗料、光硬化塗料若しくはホットメルトのいずれかの塗料、又は、当該塗料に希釈剤を添加したものである。
【0014】
本発明の第7の態様の方法において、前記塗装面は、水平面に対して傾斜した平面である。
【0015】
本発明の第8の態様の方法において、前記塗装面は、前記第2方向に垂直な平面との交線が上に凸の曲線であるような凸面、又は、前記第2方向に垂直な平面との交線が下に凸の曲線であるような凹面である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水平面に対して傾斜している塗装面に対しても、垂れを生じることなく均一な厚さの塗膜を形成することができるという、優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態の方法を用いて塗料を塗布するために用いられる塗装装置の概略説明図である。
【
図2】本発明の実施形態の方法を用いて塗料を塗布する際の塗装面上における塗布パスを示す概略説明図である。
【
図3】本発明の実施形態の方法を用いて水平塗装面に塗料を塗布する際、水平塗装面上に形成される塗膜の断面の態様のバリエーションを示す概略説明図である。
【
図4】本発明の実施形態の方法を用いて傾斜塗装面に塗料を塗布する際、傾斜塗装面上に形成される塗膜の断面の態様のバリエーションを示す概略説明図である。
【
図5】互いに角度を成す複数の塗装面を有する物品に本発明の実施形態の方法を用いて塗料を塗布する手順を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態の方法を用いて塗料を塗布するために用いられる塗装装置の概略説明図である。図示した実施例において、この塗装装置は、インクジェットプリントヘッドが取り付けられた直交ロボットとして構成されている。なお、塗装装置は、直交ロボットに代えて多関節ロボットとして構成してもよい。
【0020】
図1において、Bは定盤、10はX方向に延びる第1スライド軸、20はY方向に延びる第2スライド軸、30はZ方向に延びる第3スライド軸、40はインクジェットプリントヘッドである。なお、X方向及びY方向は水平な平面内で互いに直交する方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0021】
第1スライド軸10は、X方向に延びており、定盤Bに固定されている。
【0022】
第2スライド軸20は、Y方向に延びており、スライダ(図示省略)を介して第1スライド軸10に取り付けられている。スライダが第1スライド軸10に沿って摺動することにより、第2スライド軸20は+X方向/-X方向に往復移動することができる(図中の矢印Mx参照)。
【0023】
第3スライド軸30は、Z方向に延びており、スライダ(図示省略)を介して第2スライド軸20に取り付けられている。スライダが第2スライド軸20に沿って摺動することにより、第3スライド軸30は+Y方向/-Y方向に往復移動することができる(図中の矢印My参照)。
【0024】
インクジェットプリントヘッド40は、スライダ(図示省略)を介して第3スライド軸30に取り付けられている。スライダが第3スライド軸30に沿って摺動することにより、インクジェットプリントヘッド40は+Z方向/-Z方向(上下方向)に往復移動することができる(図中の矢印Mz参照)。
【0025】
インクジェットプリントヘッド40は、シリンジ(図示省略)と、当該シリンジと吐出口とを接続する塗料流路と、当該吐出口を開閉するバルブとを備えている。シリンジは圧縮空気によって加圧されており、その内部に塗料が充填されている。吐出口を開閉するバルブの弁体はロッドの一端に取り付けられており、当該ロッドの他端はピエゾ素子に連結されている。ピエゾ素子にパルス状の電圧を印加すると、ロッドはその長手方向に往復移動し、当該ロッドの端部に取り付けられたバルブの弁体によって吐出口が開閉される。その結果、シリンジから塗料流路を経て供給された塗料が、吐出口から微小な液滴として吐出される。図示した実施例において、塗料の液滴は、吐出口から鉛直方向下向き(-Z方向)に吐出される。なお、第3スライド軸30に沿って摺動するスライダに対するインクジェットプリントヘッド40の取り付け角度を変更することにより、吐出口から液滴が吐出される方向を、鉛直方向下向き(-Z方向)以外の方向とすることもできる。
【0026】
このとき、ピエゾ素子に印加されるパルス状の電圧の持続時間を長く/短くすることにより、吐出口に向かう塗料の量が多く/少なくなるため、吐出される塗料の液滴径を大きく/小さくすることができる。また、ピエゾ素子に印加される電圧を高く/低くすることにより、ロッドの長手方向における移動量(ストローク)が大きく/小さくなり、吐出口に向かう塗料の量が多く/少なくなるため、これによっても、吐出される塗料の液滴径を大きく/小さくすることができる。シリンジに充填された塗料が、主剤と硬化剤とが混合された状態の二液性塗料である場合、当該塗料の粘性は時間の経過と共に増大するが、粘性の増大に合わせてピエゾ素子に印加される電圧を高くしてストロークを大きくすることにより、塗料の吐出量を一定に保つことができる。
【0027】
上述したように構成された塗装装置を用いて塗料を塗布する場合、塗装面Fを有するワーク(物品)Wを適宜の方法によって定盤Bに固定したうえで、上述した直交ロボットを以下に詳述するような態様で作動させる。
【0028】
なお、図示した実施例において、塗装面Fは、水平な平面である水平塗装面F1と、水平面に対して傾斜した平面である傾斜塗装面F2とを含んでおり、以下では、水平塗装面F1及び傾斜塗装面F2のそれぞれに塗料を塗布する方法について説明する。
【0029】
ここで、説明を簡単にするため、水平塗装面F1は、X方向に延びる長辺とY方向に延びる短辺とを有する長方形形状の平面であるものとする。また、傾斜塗装面F2は、水平面と角度θを成して交わる平面であり、その水平面に対する勾配が最も大きい方向は、Y軸をX軸の周りに角度θだけ回転させた方向、すなわちY’方向であるとする(
図2参照)。そして、傾斜塗装面F2は、X方向に延びる長辺とY’方向に延びる短辺とを有する長方形形状の平面であるものとする。なお、傾斜塗装面F2は、X方向に垂直な平面との交線が上(すなわち、傾斜塗装面F2に垂直な方向をZ’方向とするとき、+Z’方向)に凸の曲線であるような凸面(
図4(A)のF2
CVX参照)、又は、X方向に垂直な平面との交線が下(すなわち、-Z’方向)に凸の曲線であるような凹面(
図4(A)のF2
CCV参照)であってもよい。
【0030】
以下、
図2~4を参照しつつ、水平塗装面F1及び傾斜塗装面F2のそれぞれに塗料を塗布する方法について説明する。ここで、
図2は、本発明の実施形態の方法を用いて塗料を塗布する際の塗装面上における塗布パスを示す概略説明図、
図3、
図4は、本発明の実施形態の方法を用いてそれぞれ水平塗装面、傾斜塗装面に塗料を塗布する際、それぞれの塗装面上に形成される塗膜の断面の態様のバリエーションを示す概略説明図である。
【0031】
まず、水平塗装面F1に塗料を塗布する方法について説明する。
【0032】
水平塗装面F1に塗料を塗布する場合、水平塗装面F1までの距離が塗料液滴の吐出に適した距離となるよう、インクジェットプリントヘッド40を第3スライド軸30に沿ってZ方向(鉛直方向)に移動させ、適切な位置で固定する。この状態で、第3スライド軸30の第2スライド軸20に沿ったY方向の移動(
図1の矢印My参照)、及び、第2スライド軸20の第1スライド軸10に沿ったX方向の移動(
図1の矢印Mx参照)を制御することにより、インクジェットプリントヘッド40のX方向及びY方向における位置を制御し、当該インクジェットプリントヘッド40を、水平塗装面F1上の所定の塗布パスP1(
図2参照)に沿って移動させる。そして、上述したインクジェットプリントヘッド40の位置制御とは独立して、インクジェットプリントヘッド40のピエゾ素子に印加される電圧を制御することにより、塗布パスP1上の各位置において所定の液滴径で所定量の塗料を吐出させ、塗布パスP1に沿った塗布を実行する。
【0033】
図2に示した実施例において、水平塗装面F1上の塗布パスP1は、それぞれX方向に延びるP1x
1~P1x
n(ただし、nは、2以上の自然数)のn本のパスがそれぞれ間隔D
1~D
n-1をあけてY方向に配列されることにより構成されている。そして、インクジェットプリントヘッド40は、以下の<1>~<2n-1>の工程により、塗布パスP1に沿って塗料の塗布を実行する(ただし、iは、2≦i≦n-1を満たす自然数)。
<1>パスP1x
1に沿って+X方向又は-X方向に移動しながら塗布を実行する。
<2>+Y方向に距離D
1だけ移動する。
・・・
<2i-1>パスP1x
iに沿って+X方向又は-X方向に移動しながら塗布を実行する。
<2i>+Y方向に距離D
iだけ移動する。
<2i+1>パスP1x
i+1に沿って+X方向又は-X方向に移動しながら塗布を実行する。
・・・
<2n-1>パスP1x
nに沿って+X方向又は-X方向に移動しながら塗布を実行する。
ここで、前後する2つの塗布工程(例えば、工程<2i-1>と工程<2i+1>)における移動方向が同一である場合は、両工程の間の移動工程(例えば工程<2i>)において、インクジェットプリントヘッド40は、+Y方向に移動するだけでなく、前の塗布工程のパス(例えば、P1x
i)の終点から後の塗布工程のパス(例えば、P1x
i+1)の始点へ、+X方向又は-X方向にも移動する。逆に、前後する2つの塗布工程における移動方向が異なる場合は、両工程の間の移動工程において、インクジェットプリントヘッド40は、+Y方向に移動するのみである。
【0034】
なお、上述した距離D1~Dn-1(隣接するパスの間隔)は、塗装面上に形成すべき塗膜の厚さに応じて任意に設定され、全てが同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。ただし、距離D1~Dn-1は、前後する2つの塗布工程において形成される2つの直線状又は曲線状の塗膜が互いに密着するように選択される。
【0035】
なお、塗布パスP1の形状は、上述したものに限定されない。例えば、塗布パスP1に沿ったインクジェットプリントヘッド40の移動が、+Y方向又は-Y方向の移動が+X方向の移動を間に挟んで繰り返されるものとなるようにすることもできる。また、水平塗装面F1が塗料を塗布すべきではない領域を含む場合、塗布パスP1に沿って移動するインクジェットプリントヘッド40が当該領域にある間は、ピエゾ素子への電圧印加を中断することによって、吐出口が閉じられた状態を維持すればよい。
【0036】
ここで、本発明の実施形態に係る塗料の塗布方法においては、塗装面上に所望の厚さの塗膜を形成するために、当該塗膜を、単一の層又は複数の層から成るものとする。これについて、以下で詳述する。なお、単一の層とは、中間乾燥工程を伴わない単一の塗布工程によって形成される層を意味する。一方、複数の層とは、中間乾燥工程が介在する複数の塗布工程によってそれぞれ形成される層を意味する。
【0037】
以下、
図2及び
図3を参照しつつ、水平塗装面F1に塗料を塗布する方法について説明する。ここで、
図3は、本発明の実施形態の方法を用いて水平塗装面F1に塗料を塗布する際、水平塗装面F1上に形成される塗膜の断面の態様のバリエーションを示す概略説明図である。この図は、
図2における矢視X方向断面図であって、図中の各円は、X方向(
図3の紙面に垂直な方向)に延びるパスに沿って形成される直線状又は曲線状の塗膜の断面を模式的に示している。
【0038】
図3(A)は、単一の塗布パスによって形成された単一の層から成る塗膜を示している。上述したように、インクジェットプリントヘッド40から吐出される塗料の量は、ピエゾ素子に印加されるパルス状の電圧の持続時間によって調整することができる。したがって、必要とされる塗膜の厚さが、当該調整によって達成され得る場合には、当該塗膜を、
図3(A)に示すように、単一の塗布パスP1によって形成された単一の層S1から成るものとして実現することができる。この場合、インクジェットプリントヘッド40を、
図2に示した塗布パスP1に沿って1回だけ移動させることにより、水平塗装面F1に対する塗料の塗布が完了する。
【0039】
図3(B)は、複数の塗布パスによって形成された単一の層から成る塗膜を示している。上述したように、インクジェットプリントヘッド40から吐出される塗料の量は、ピエゾ素子に印加されるパルス状の電圧の持続時間によって調整することができる。しかしながら、当該調整によって達成され得る塗料の最大量によっても、必要とされる塗膜の厚さを得ることができない場合は、当該塗膜を、
図3(B)に示すように、複数(図示した例では2つ)の塗布パスP1によって形成された単一の層S1から成るものとして実現することができる。この場合、インクジェットプリントヘッド40は、
図2に示した塗布パスP1に沿った1回目の移動により塗膜の第1レイヤーL1を形成した後、直ちに塗布パスP1の始点に戻され、引き続き、塗布パスP1に沿った2回目の移動により、塗膜の第1レイヤーL1の上に塗膜の第2レイヤーL2を形成する。なお、塗布パスP1に沿った2回目の移動を開始する前に、必要に応じて、インクジェットプリントヘッド40を+Z方向(鉛直方向上向き)に移動させてもよい。このような塗布方法によれば、1回目と2回目の塗布は、間に中間乾燥工程が介在しない実質的に単一の塗布工程となるため、第1レイヤーL1と第2レイヤーL2が互いに強固に付着し、両レイヤーの界面における剥離の可能性を低く抑えることができる。
【0040】
なお、
図3(C)に示すように、第1レイヤーL1を形成する際の塗布パスP1と、第2レイヤーL2を形成する際の塗布パスP1とを、塗料液滴の直径の1/2だけY方向にずらすことにより、
図3(B)に示した場合と比較して、第1レイヤーL1と第2レイヤーL2との付着性をより高めることができ、両レイヤーの界面における剥離の可能性を更に低く抑えることができる。
【0041】
図3(D)は、複数の層から成る塗膜を示している。上述したように、インクジェットプリントヘッド40から吐出される塗料の量は、ピエゾ素子に印加されるパルス状の電圧の持続時間によって調整することができる。しかしながら、当該調整によって達成され得る塗料の最大量によっても、必要とされる塗膜の厚さを得ることができない場合は、当該塗膜を、
図3(D)に示すように、複数(図示した例では2つ)の層S1,S2から成るものとして実現することができる。この場合、
図2に示した塗布パスP1に沿ってインクジェットプリントヘッド40を移動させる第1塗布工程により第1層S1を形成した後、中間乾燥を行い、その後、塗布パスP1に沿ってインクジェットプリントヘッド40を移動させる第2塗布工程により、第1層S1の上に第2層S2を形成する。このような塗布方法は、塗料の量が多い場合に有利である。このような場合、
図3(B)に示した塗布方法では、実質的に単一の塗布工程と見なされる1回目と2回目の塗布によって形成される、単一の層から成る塗膜の厚さが非常に大きくなり、乾燥時に皺やひび割れが生じる可能性が高くなる。これに対して、
図3(D)に示した塗布方法では、塗料の量が多い場合であっても、1回の塗布によって形成される層(塗膜)の厚さが過剰に大きくなることが防止され、乾燥時における皺やひび割れの発生の可能性を低く抑えることができる。
【0042】
なお、
図3(E)に示すように、第1層S1を形成する際の塗布パスP1と、第2層S2を形成する際の塗布パスP1とを、塗料液滴の直径の1/2だけY方向にずらすことにより、
図3(D)に示した場合と比較して、第1層S1と第2層S2との付着性を高めることができ、両層の界面における剥離の可能性を低く抑えることができる。
【0043】
なお、水平塗装面F1に塗料を塗布する方法は、上述したものに限定されない。例えば、上述した実施例を適宜に組み合わせて実施することもできる。また、塗膜を複数の層から成るものとする場合に、当該層の数を3以上としてもよい。同様に、層を複数のレイヤーから成るものとする場合に、当該レイヤーの数を3以上としてもよい。更に、各層及び各レイヤーを形成する塗布においてインクジェットプリントヘッド40から吐出される塗料の量は、必ずしも同一である必要はなく、互いに異なっていてもよい。
【0044】
次に、傾斜塗装面F2に塗料を塗布する方法について説明する。
【0045】
傾斜塗装面F2に塗料を塗布する場合、水平塗装面F1の場合と同様に、インクジェットプリントヘッド40をZ方向(鉛直方向)(又はZ’方向)において適切に位置決めした状態で、そのX方向及びY’方向における位置を制御し、傾斜塗装面F2上の所定の塗布パスに沿って移動させる。そして、上述したインクジェットプリントヘッド40の位置制御とは独立して、インクジェットプリントヘッド40のピエゾ素子に印加される電圧を制御することにより、塗布パス上の各位置において所定の液滴径で所定量の塗料を吐出させ、塗布パスに沿った塗布を実行する。
【0046】
以下、
図2及び
図4を参照しつつ、傾斜塗装面F2に塗料を塗布する方法について説明する。ここで、
図4は、本発明の実施形態の方法を用いて傾斜塗装面F2に塗料を塗布する際、傾斜塗装面F2上に形成される塗膜の断面の態様のバリエーションを示す概略説明図である。この図は、
図2における矢視X方向断面図であって、図中の各円は、X方向(
図4の紙面に垂直な方向)に延びるパスに沿って形成される塗膜の断面を模式的に示している。なお、以下においては、傾斜塗装面F2上に、
図2に示すように直線状のパスに沿って直線状の塗膜を形成する場合について説明するが、曲線状のパスに沿って曲線状の塗膜を形成することも可能である。
【0047】
傾斜塗装面F2に塗料を塗布する場合、傾斜塗装面F2上に形成される塗膜は、後述するいずれの実施例においても、第1層S1を含む2つ以上の層から成っている。そこで先ず、当該塗膜が第1層S1及び第2層S2の2つの層のみから成る最もシンプルな実施例について、
図2及び
図4(A)を参照しつつ、以下で説明する。
【0048】
図4(A)は、第1層S1及び第2層S2の2つの層のみから成る塗膜を示している。この塗膜は、
図2に示した第1層塗布パスP21に沿ってインクジェットプリントヘッド40を移動させる第1塗布工程において第1層S1を形成し、中間乾燥工程の後、
図2に示した第2層塗布パスP22に沿ってインクジェットプリントヘッド40を移動させる第2塗布工程において第2層S2を形成することにより、実現される。
【0049】
第1層塗布パスP21は、
図2に示すように、水平面に対する傾斜塗装面F2の勾配が最も大きなY’方向(第1方向)にそれぞれ間隔D
1~D
n-1をあけた状態で、それぞれX方向(Y’方向に対して垂直な方向;第2方向)に延びるパスP21x
1~P21x
n(第1パス)が配列されることにより構成されている。そして、インクジェットプリントヘッド40は、以下の<1>~<2n-1>の工程により、第1塗布工程を実行する。
<1>パスP21x
1に沿って+X方向又は-X方向に移動しながら塗布を実行する。
<2>+Y’方向に距離D
1だけ移動する。
・・・
<2i-1>パスP21x
iに沿って+X方向又は-X方向に移動しながら塗布を実行する。
<2i>+Y’方向に距離D
iだけ移動する。
<2i+1>パスP21x
i+1に沿って+X方向又は-X方向に移動しながら塗布を実行する。
・・・
<2n-1>パスP21x
nに沿って+X方向又は-X方向に移動しながら塗布を実行する。
ここで、前後する2つの塗布工程(例えば、工程<2i-1>と工程<2i+1>)における移動方向が同一である場合は、両工程の間の移動工程(例えば工程<2i>)において、インクジェットプリントヘッド40は、+Y’方向に移動するだけでなく、前の塗布工程のパス(例えば、P21x
i)の終点から後の塗布工程のパス(例えば、P21x
i+1)の始点へ、+X方向又は-X方向にも移動する。逆に、前後する2つの塗布工程における移動方向が異なる場合は、両工程の間の移動工程において、インクジェットプリントヘッド40は、+Y’方向に移動するのみである。
また、上述した距離D
1~D
n-1(隣接するパスの間隔)は、後述する第2塗布工程において、隣接するパス(例えば、パスP21x
i及びパスP21x
i+1)に沿って形成された2つの塗膜の間に(例えば、パスP22x
1に沿って)形成される塗膜が、上述した2つの塗膜に密着するように選択される。
【0050】
この第1塗布工程においては、パスP21x
1~P21x
nのそれぞれに沿って形成され、それぞれ距離D
1~D
n-1だけ隔てられた塗膜の組が複数形成され、これらが第1層S1を構成する(
図4(A)には、第1層S1を構成する塗膜の組のうち1つのみが示されている)。
【0051】
なお、上述した各塗布工程(<1>、…<2i-1>、…<2n-1>)では、Z方向(鉛直方向)(又はZ’方向)における位置が異なるため、上述した各移動工程(<2>、…<2i>、…)において、必要に応じて、インクジェットプリントヘッド40をZ方向(鉛直方向)(又はZ’方向)において位置決めし直してもよい。
【0052】
上述した第1塗布工程の終了時点で、傾斜塗装面F2上には、パスP21x1~P21xnのそれぞれに沿って形成された塗膜の間に、塗膜が形成されていない領域が残存する。この領域に塗料を塗布するために、第2層塗布パスP22に沿ってインクジェットプリントヘッド40を移動させる第2塗布工程が実行される。
【0053】
第2層塗布パスP22は、
図2に示すように、隣接するパス(例えば、パスP21x
i及びパスP21x
i+1)に沿って形成された2つの塗膜の間にこれら2つの塗膜に密着する塗膜が形成されるよう、水平面に対する傾斜塗装面F2の勾配が最も大きなY’方向に間隔をあけた状態で、それぞれX方向に延びるパスP22x
1~P22x
n―1(第2パス)が配列されることにより構成されている。そして、インクジェットプリントヘッド40は、その都度+Y’方向に移動しつつ、パスP22x
1~P22x
n―1のそれぞれに沿って+X方向又は-X方向に移動しながら塗布を実行することにより、第2塗布工程を実行する。
【0054】
この第2塗布工程においては、パスP22x
1~P22x
n―1のそれぞれに沿って、隣接するパスに沿って既に形成された塗膜と密着する塗膜が形成され、これらが第2層S2を構成する(
図4(A)には、第2層S2を構成する塗膜のうち1つのみが示されている)。
【0055】
なお、
図4(A)には、第1層S1及び第2層S2が、それぞれ単一の第1層塗布パスP21及び第2層塗布パスP22によって形成される場合を示しているが、第1層S1及び第2層S2を、それぞれ複数の第1層塗布パスP21及び第2層塗布パスP22によって形成してもよい。この場合、第1層S1及び第2層S2のそれぞれは、上下に(より厳密には、傾斜塗装面F2に垂直なZ’方向(第3方向)に)互いに重なり合った複数のレイヤーから成ることになる。これにより、より厚い塗膜を傾斜塗装面F2上に形成することができる。
【0056】
上述した第2塗布工程で形成される塗膜(第2層S2)は、傾斜塗装面F2が水平面に対して傾斜しているにもかかわらず、垂れが生じることがない。これは、先行する第1塗布工程においてパスP21x1~P21xnに沿って既に形成された塗膜(第1層S1)が、いわば土手として作用することにより、第2塗布工程において当該土手の間に形成された塗膜が垂れることを防止するからである。より具体的には、傾斜塗装面F2上において上側に位置する塗膜(例えば、パスP21xiに沿って形成された塗膜)は、第2塗布工程で形成された塗膜との間に作用する付着力を介して、後者の塗膜が垂れることを防止し、下側に位置する塗膜(パスP21xi+1に沿って形成された塗膜)は、第2塗布工程で形成された塗膜の下方への流動を堰き止めることにより、後者の塗膜が垂れることを防止する。
【0057】
以上のように、傾斜塗装面F2に塗料を塗布する本発明の実施形態の方法は、先行する塗布工程で形成される塗膜を土手として作用させることにより、後続の塗布工程で塗布される塗膜の垂れを防止することを特徴としている。以下においては、当該方法の変形例について、主に
図4を参照しつつ説明する。
【0058】
図4(B)は、
図4(A)の塗膜を構成する第1層S1及び第2層S2に加えて、これら両層の上に(より厳密には、傾斜塗装面F2に垂直なZ’方向(第3方向)に重ねて)、これらを覆うように形成された第3層S3(更なる層)を含む塗膜を示している。この場合、第3層S3は、第1及び第2塗布工程に続く中間乾燥工程の後、第3塗布工程において形成される。なお、第3塗布工程は、第2塗布工程の終了後、直ちに、すなわち中間乾燥工程を経ることなく行われてもよい。第3塗布工程において、インクジェットプリントヘッド40は、水平塗装面F1に対する塗布パスP1(
図2参照)と同様に構成された塗布パス(図示省略)(第3パス)が所定の間隔をあけてY’方向に交互に配列されることにより構成された塗布パスに沿って移動する。
【0059】
このようにして形成された塗膜においては、最も上に位置する層(第3層S3)が単一の塗布工程(第3塗布工程)において形成される。したがって、最も上に位置する層(第1層S1及び第2層S2)がそれぞれ個別の塗布工程(第1塗布工程及び第2塗布工程)において形成される
図4(A)の塗膜と比較して、Y’方向に並んだ塗膜の境界が目立ちにくい。したがって、
図4(B)の塗膜においては、最も上に位置する層(第3層S3)の表面が平滑な外観を呈し、より高い塗装品質を達成することができる。
【0060】
なお、上述したものと同様の利点は、
図4(C)に示す塗膜によっても得ることができる。
図4(C)の塗膜は、
図4(B)における第3層S3を、第2層S2の第2レイヤーL2として形成したものである。すなわち、
図4(C)において、第2層S2は、第1層S1の隣接する塗膜の間に形成された第1レイヤーL1と、第2レイヤーL2とから構成されており、第2層S2の第2レイヤーL2は、第1層S1及び第2層S2の第1レイヤーL1を覆うように形成されている。この場合、インクジェットプリントヘッド40は、
図2に示した第2層塗布パスP22に沿った1回目の移動により第2層S2の第1レイヤーL1を形成した後、水平塗装面F1に対する塗布パスP1(
図2参照)と同様に構成された塗布パス(図示省略)(第3パス)が所定の間隔をあけてY’方向に交互に配列されることにより構成された塗布パスに沿って移動することにより第2層S2の第2レイヤーL2(更なる層)を形成する。
【0061】
このようにして形成された塗膜においても、最も上に位置する層(第2層S2の第2レイヤーL2)の表面が平滑な外観を呈し、より高い塗装品質を達成することができる。
【0062】
図4(D)は、
図4(C)の塗膜の変形例であって、
図4(C)における第2層S2を、傾斜塗装面F2にではなく第1層S1の塗膜に付着させた第1レイヤーL1を含む複数(図示した例では3つ)のレイヤーから構成したものである。
【0063】
ここで、第1レイヤーL1は、第1層S1の塗膜よりも小径の塗料液滴から形成された塗膜から成り、それぞれの塗膜は、Y’方向における両側で第1層S1の塗膜のそれぞれに付着している。また、第2レイヤーL2は、第1レイヤーL1と実質的に同径の塗料液滴から形成された塗膜から成り、それぞれの塗膜は、隣接する第1層S1の塗膜の間に形成された第1レイヤーL1の2つの塗膜のそれぞれに付着している。更に、第3レイヤーL3は、第1レイヤーL1及び第2レイヤーL2と実質的に同径の塗料液滴から形成された塗膜から成り、第1レイヤーL1及び第2レイヤーL2を覆うようにこれらに付着して、傾斜塗装面F2に平行に形成されている。
【0064】
このようにして形成された塗膜において、第2層S2を構成するそれぞれのレイヤーの塗膜は、先行して形成された塗膜と強固に付着することにより、垂れを生じることがない。また、最も上に位置する層(第2層S2の第3レイヤーL3)の表面は平滑な外観を呈するため、
図4(B)及び
図4(C)の場合と同様に、高い塗装品質を達成することができる。
【0065】
図4(E)は、
図4(A)の塗膜の変形例であって、第1下層塗布工程において形成される第1下層S1Lと、中間乾燥工程の後に第1上層塗布工程において第1下層S1Lの上に(より厳密には、Z’方向に重ねて)形成される第1上層S1Uとを、土手として作用させることを意図した態様の塗膜である。なお、第1上層塗布工程は、第1下層塗布工程の終了後、直ちに、すなわち中間乾燥工程を経ることなく行われてもよい。
【0066】
第1下層塗布工程及び第1上層塗布工程のそれぞれにおいて、インクジェットプリントヘッド40は、
図4(A)の塗膜における第1塗布工程と同様に、
図2に示した第1層塗布パスP21に沿って移動することにより、第1下層S1L及び第1上層S1Uを形成する。そして、第1下層塗布工程及び第1上層塗布工程の終了後、中間乾燥工程に続いて、第2塗布工程が実行される。第2塗布工程において、インクジェットプリントヘッド40は、
図2に示した塗布パスP22に沿った1回目の移動により塗膜の第1レイヤーL1を形成した後、直ちに塗布パスP22の始点に戻され、引き続き、塗布パスP22に沿った2回目の移動により塗膜の第1レイヤーL1の上に重ねて塗膜の第2レイヤーL2を形成することにより、第1レイヤーL1及び第2レイヤーL2から成る第2層S2を形成する。換言すれば、第2レイヤーL2を形成する工程は、第1レイヤーL1を形成する工程の終了後、直ちに 、すなわち中間乾燥工程を経ることなく行われる。このようにして、第1レイヤーL1及び第2レイヤーL2から成る第2層S2が、土手として作用する第1下層S1L及び第1上層S1Uから成る塗膜の間に形成される。
【0067】
このような塗布方法は、傾斜塗装面F2上に形成されるべき塗膜の厚さが大きい場合に有利である。
【0068】
なお、傾斜塗装面F2に塗料を塗布する方法は、上述したものに限定されない。例えば、上述した実施例を適宜に組み合わせて実施することもできる。また、塗膜を複数の層から成るものとする場合に、当該層の数を3以上としてもよい。同様に、塗膜の層を複数のレイヤーから成るものとする場合に、当該レイヤーの数は任意に設定することができる。
【0069】
また、以上においては、本発明の実施形態の方法を用いて塗料を塗布するために用いられる塗装装置において、インクジェットプリントヘッドの吐出口から塗料液滴が吐出される方向を、鉛直方向下向き(-Z方向)であるとして説明した。しかしながら、水平面と成す角度θが大きな傾斜塗装面F2に塗料を塗布する場合、例えば
図4(A)の塗膜において、先行して形成される第1層S1の隣接する2つの塗膜を-Z方向に見た場合の間隔は、第2層S2の塗膜を形成する塗料液滴の径と比較して、大幅に小さくなる。このような状況では、インクジェットプリントヘッドの吐出口から吐出された塗料液滴が、第1層S1の隣接する2つの塗膜の間を通過して傾斜塗装面F2に達することが困難となる。そのため、このような場合には、上述した塗装装置を構成する直交ロボットにインクジェットプリントヘッドを回転させる機能を付加し、吐出口から傾斜塗装面F2に対して垂直に塗料液滴が吐出されるようにしてもよい。更に、このような機能を実現するために、上述した塗装装置を構成するロボットとして、直交ロボットに代えて多関節ロボットを採用してもよい。
【0070】
なお、
図5に示すように、例えば3つの塗装面F1,F2,F3を有し、塗装面F1が水平となる状態(
図5(A)参照)において塗装面F2とF3が互いに異なる角度で水平面に対して傾斜した状態となるワークW’に塗料を塗布する場合であって、上述したようにインクジェットプリントヘッドを回転させる機能が付加された直交ロボットや多関節ロボットを使うことができない場合には、
図5(A)に示した状態では、水平面と成す角度が大きな塗装面F3に塗料を塗布することができない。このような場合には、以下のような方法を採用することにより、全ての塗装面に塗料を塗布することができる。
(1)
図5(A)に示した状態で、塗装面F1に対して、インクジェットプリントヘッド40を塗布パスP21及びP22(
図2参照)と同様の塗布パスに沿って移動させることにより、
図4に示したような断面を有する塗膜を形成する。(換言すれば、水平な状態の塗装面F1に、傾斜塗装面に対する塗布方法を適用する。)
(2)塗装面F2が水平となるようにワークW’を回転させた状態(
図5(B)参照)で、塗装面F2に対して、インクジェットプリントヘッド40を塗布パスP1(
図2参照)に沿って移動させることにより、
図3に示したような断面を有する塗膜を形成する。(換言すれば、ワークW’を回転させることにより水平な状態にした塗装面F2に、水平塗装面に対する塗布方法を適用する。)
(3)
図5(B)に示した状態で、塗装面F3に対して、インクジェットプリントヘッド40を塗布パスP21及びP22(
図2参照)に沿って移動させることにより、
図4に示したような断面を有する塗膜を形成する。(換言すれば、水平面に対して傾斜した状態の塗装面F3に、傾斜塗装面に対する塗布方法を適用する。)
【0071】
このように、互いに角度を成す複数の塗装面を有するワークに塗料を塗布する場合、各塗装面が水平となるようワークをその都度回転させれば、全ての塗装面に水平塗装面に対する塗布方法を適用することは一応可能である。しかしながら、2つ目以降の塗装面の塗布の際、先行して塗布が完了した塗装面は、水平面に対して傾斜した状態となる。したがって、後続の塗布工程において水平面に対して傾斜した状態となる塗装面については、たとえ当該塗装面が水平な状態で塗布が行われる場合であっても、傾斜塗装面に対する塗布方法を適用することにより、後続の塗布工程の際に、塗膜の垂れを防止することができる。
【0072】
なお、本発明の実施形態の方法は、任意の塗料を塗布するために適用することができる。例えば、本発明の実施形態の方法は、主剤と硬化剤とから成る二液性塗料、時硬化塗料、熱硬化塗料、光硬化塗料、ホットメルト等の塗料を塗布するために適用することができる。また、上述した塗料に希釈剤を添加して塗布するために適用することもできる。
【符号の説明】
【0073】
40 インクジェットプリントヘッド
F2 傾斜塗装面(塗装面)
X 第2方向
Y’ 第1方向
P21(P21x1~P21xn) 第1パス
P22(P22x1~P22xn―1) 第2パス
S1 塗膜の第1層
S2 塗膜の第2層