(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167152
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F01M 1/16 20060101AFI20221027BHJP
F01M 1/02 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
F01M1/16 C
F01M1/16 F
F01M1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072748
(22)【出願日】2021-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 智明
【テーマコード(参考)】
3G313
【Fターム(参考)】
3G313BB08
3G313BB18
3G313BB25
3G313BB27
3G313BB34
3G313CA02
3G313FA01
3G313FA08
(57)【要約】
【課題】オイルのリリーフを適切に行うことができるエンジンを提供する。
【解決手段】オイルポンプ107を備えたエンジンにおいて、オイルポンプ107は、油圧が第1所定油圧以上になるとオイルをリリーフする第1リリーフ部201Cと、油圧が第1所定油圧より大きい第2所定油圧以上になるとオイルをリリーフする第2リリーフ部201Dとを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルポンプを備えたエンジンであって、
前記オイルポンプは、油圧が第1所定油圧以上になるとオイルをリリーフする第1リリーフ部と、油圧が前記第1所定油圧より大きい第2所定油圧以上になるとオイルをリリーフする第2リリーフ部とを備える、エンジン。
【請求項2】
前記第1リリーフ部及び前記第2リリーフ部のいずれか一方は、オイルを前記オイルポンプのローターの上流にリリーフするインナーリリーフ部であり、前記第1リリーフ部及び前記第2リリーフ部のいずれか他方は、オイルを前記オイルポンプの外にリリーフするアウターリリーフ部である、請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記第1リリーフ部は、オイルを前記オイルポンプのローターの上流にリリーフするインナーリリーフ部であり、前記第2リリーフ部は、オイルを前記オイルポンプの外にリリーフするアウターリリーフ部である、請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記第2リリーフ部がリリーフを行うとき、前記第1リリーフ部もリリーフを行う、請求項3に記載のエンジン。
【請求項5】
前記オイルポンプは、油圧に応じて前記第1リリーフ部及び前記第2リリーフ部からリリーフするオイル量を調整する調圧弁を含み、
前記調圧弁は、前記オイルポンプのローターの上流の低圧オイル側と、前記ローターの下流の高圧オイル側とに亘って設けられる、請求項1から4のいずれか1つに記載のエンジン。
【請求項6】
前記オイルポンプは、ギアケース内部に配置される、請求項1から5のいずれか1つに記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエンジンに関し、特に、オイルポンプを備えたエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、オイルポンプを備えたエンジンが開示されている。オイルポンプは、エンジン各部にオイル(潤滑油)を送り出す油圧を発生させる。
【0003】
エンジン運転中に油圧が高くなり過ぎることを防止するために、オイルポンプには調圧弁が設けられている。油圧が所定値以上になると、調圧弁によってオイルをリリーフ(排出)し、油圧を下げる構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えばエンジンの低温始動時などでは、通常のエンジン運転中(オイルが正常な油圧範囲にあるとき)と比較してオイル粘度が高くなりやすい。このような状況では、オイルのリリーフ量が不足し、油圧が高くなり過ぎる虞があった。
【0006】
この発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、オイルのリリーフを適切に行うことができるエンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためこの発明のある局面に従うと、オイルポンプを備えたエンジンにおいて、前記オイルポンプは、油圧が第1所定油圧以上になるとオイルをリリーフする第1リリーフ部と、油圧が前記第1所定油圧より大きい第2所定油圧以上になるとオイルをリリーフする第2リリーフ部とを備える。
【0008】
好ましくは、前記第1リリーフ部及び前記第2リリーフ部のいずれか一方は、オイルを前記オイルポンプのローターの上流にリリーフするインナーリリーフ部であり、前記第1リリーフ部及び前記第2リリーフ部のいずれか他方は、オイルを前記オイルポンプの外にリリーフするアウターリリーフ部である。
【0009】
好ましくは、前記第1リリーフ部は、オイルを前記オイルポンプのローターの上流にリリーフするインナーリリーフ部であり、前記第2リリーフ部は、オイルを前記オイルポンプの外にリリーフするアウターリリーフ部である。
【0010】
好ましくは、前記第2リリーフ部がリリーフを行うとき、前記第1リリーフ部もリリーフを行う。
【0011】
好ましくは、前記オイルポンプは、油圧に応じて前記第1リリーフ部及び前記第2リリーフ部からリリーフするオイル量を調整する調圧弁を含み、前記調圧弁は、前記オイルポンプのローターの上流の低圧オイル側と、前記ローターの下流の高圧オイル側とに亘って設けられる。
【0012】
好ましくは、前記オイルポンプは、ギアケース内部に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態の一つにおける、オイルポンプを備えたエンジンのギアケース内部の構成を示す図である。
【
図2】
図1のエンジンのオイルポンプ107について、駆動ギアを外した状態を示す図である。
【
図3】
図2のオイルポンプ107の内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施の形態の一つにおける、オイルポンプを備えたエンジンのギアケース内部の構成を示す図である。
【0015】
図を参照して、エンジンは、ギアケース101内部にクランクギア103と、アイドルギア105Aと、オイルポンプ107とを有している。ギアケース101の下にオイルパン109が設けられている。アイドルギア105Aがオイルポンプ107の歯車(ギア)107Aと噛み合い、アイドルギア105Aの回転によってオイルポンプ107内のローターが回転することで、オイルポンプ107は動作する(オイルを所定の油圧まで上げる)。説明の便宜上、
図1ではオイルポンプ107の歯車(ギア)107Aを透過させ、その後方に位置するオイルポンプ107を透けて見せている。
【0016】
オイルの吸入経路は、オイルパン109、オイルパン109内部のオイル吸入管、シリンダブロック内部の経路、及びオイルポンプ107の低圧側によって形成される経路である。オイルの吐出経路は、オイルポンプ107の高圧側、シリンダブロック内部のメインギャラリー、ギアケース101底部のドレン、及びオイルパン109によって形成される経路である。
【0017】
図2は、
図1のエンジンのオイルポンプ107について、駆動ギアを外した状態を示す図である。
【0018】
ここではオイルポンプ107として、トロコイドポンプが採用されているが、ギアポンプなど他のポンプを採用してもよい。オイルポンプ107は、ポンプシャフト201と、低圧室205と、高圧室203と、調圧弁207とを備えている。低圧室205のオイルは、後述するローターに流入し、ローターによって加圧され、上の高圧室203に送られる。
【0019】
調圧弁207は、オイルの油圧に応じて、後述する複数のリリーフ部からリリーフするオイル量を調整する。図示されるように調圧弁207は、オイルポンプ107のローターの上流の低圧室205と、ローターの下流の高圧室203とに亘って設けられている。
【0020】
図3は、
図2のオイルポンプ107の内部構造を示す図である。
【0021】
ここでは、
図2のポンプシャフト201の伸びる方向に垂直な平面であり、調圧弁207の中心軸を含む平面でオイルポンプ107を切った断面を太線で示している。細線で、断面の奥側にあるポンプの構成が示されている。
【0022】
インナーローター251とアウターローター252とポンプシャフト201とによって、トロコロイドポンプが形成される。ポンプシャフト201によって、インナーローター251はアウターローター252の内部で回転する。これにより、オイルポンプ107は動作する。オイルポンプ107の吸入ポート205Aは低圧室205に接続され、吐出ポート203Aは高圧室203に接続される。高圧室203は調圧弁207に接続されている。
【0023】
調圧弁207は、矢印“D”方向に軸が向けられるバネ207Bと、バネ207Bの一端に被せられるコップの形状を有する可動弁207Aとから構成される。可動弁207Aの上面は高圧室203の可動壁を構成する。高圧室203内の油圧がバネ207Bの反発力よりも大きくなると、可動弁207Aは矢印“D”方向に移動する。このとき、油圧が高ければ高いほど、可動弁207Aの移動量は大きくなる。バネ207Bが最も伸びた状態での可動弁207Aの上面の位置がP0で示されている(可動弁207Aの初期位置P0)。油圧が高くなるごとに、可動弁207Aの上面の位置は、P0から、P1、P2、…と矢印“D”方向に向けて移動する。油圧が低くなると、可動弁207Aの上面の位置は、矢印“D”とは反対の方向に向けて移動する。
【0024】
調圧弁207のオイルポンプ107の内側方向に、インナーリリーフ穴201Cが設けられ、外側方向に、アウターリリーフ穴201Dが設けられている。これらの穴は、円形の穴であってもよいし、楕円形であっても、正方形であっても、長方形であってもよい。また、可動弁207Aの初期位置P0からの移動量が大きくなるごとに、可動弁207Aの同じ移動距離に対するオイルのリリーフ量の増加量が増えるように、穴を三角形形状(その底辺は、矢印“D”方向に位置する)としてもよい。ここでは、アウターリリーフ穴201Dは丸穴とし、インナーリリーフ穴201Cは矢印“D”方向に長い穴としている。
【0025】
インナーリリーフ穴201Cは、低圧室205に接続されている。可動弁207Aの上面の位置が位置P1よりも矢印“D”方向に移動すると、高圧室203はインナーリリーフ穴201Cの少なくとも一部によって低圧室205と接続される。これにより、オイルは高圧側から低圧側に移動し、高圧室203内のオイルの圧力が下がる。正常な油圧範囲においては、可動弁207Aの上面は、位置P1からP2の範囲を移動し、インナーリリーフ穴201Cのみを用いた油圧制御が行われる。
【0026】
アウターリリーフ穴201Dは、オイルポンプ107の外であり、ギアケース101の内部にオイルを逃がす穴である。アウターリリーフ穴201Dを出たオイルは、ギアケース101からオイルパン109に送られる。低温始動時などオイル粘度が高い場合において、油圧が過度に大きくなり正常な油圧範囲を超え、可動弁207Aの上面が位置P2よりも矢印“D”方向に移動すると、高圧室203はアウターリリーフ穴201Dの少なくとも一部によってギアケース101内部の空間と接続される。これにより、オイルは高圧室203からギアケース101内部に移動し、高圧室203内のオイルの圧力が下がる。また、正常な油圧範囲を超え、可動弁207Aの上面が位置P2よりも矢印“D”方向に移動することで、高圧室203がギアケース101内部の空間と接続されているときにおいても、インナーリリーフ穴201Cは機能する。さらに、インナーリリーフ穴201Cは、位置P2を矢印“D”方向に超えても存在するため、可動弁207Aの上面が位置P2よりも矢印“D”方向に移動する量に応じて、インナーリリーフ穴201Cからのオイル流出量も大きくなる。
【0027】
インナーリリーフはローターで昇圧したオイルをローターの手前に戻すため、ローターの仕事が少なく、ポンプの駆動馬力がアウターリリーフよりも小さい。インナーリリーフはポンプの駆動馬力は小さいが、ポンプをコンパクトにする場合、リリーフ開口面積(インナーリリーフ穴201Cの面積)を十分に確保できず、調圧が不十分となり油圧が高くなってしまうことがある。特に、オイルが低温時にはオイル粘度が高いため、油圧が高くなる傾向がある。本実施の形態におけるエンジンのオイルポンプ107の調圧弁207のリリーフ構造として、アウターリリーフ、及びインナーリリーフの双方が採用されている。これにより、両者の欠点を補いあうことができる。
【0028】
すなわち、正常な油圧範囲(
図3の可動弁207Aの上面が位置P1,P2にある範囲)では、インナーリリーフのみが働く位置に、インナーリリーフ穴201Cとアウターリリーフ穴201Dが設けられている。過剰に油圧が上昇(過昇圧)した際(
図3の可動弁207Aの上面が位置P2よりも下側に移動した場合)、アウターリリーフ穴201Dからもリリーフが行われ、オイル圧力の上昇が抑制される。
【0029】
[実施の形態における効果]
以上のように、本実施の形態におけるオイルポンプ107の調圧弁207は、2種類のリリーフ部(リリーフ穴201C,201D)を備えている。低温始動時などオイル粘度が高く油圧が過度に大きくなる場合は、第1のリリーフ穴201Cと併せて第2のリリーフ穴201Dを使用することで、過酷な使用条件でもリリーフ性能を十分に確保することができる。駆動馬力の比較的小さいインナーリリーフと、リリーフ開口面積を十分に確保しやすいアウターリリーフとを併用することで、駆動馬力を小さくしながら、安定した調圧機能が得られる。通常使用時(オイルが正常な油圧範囲にあるとき)は、インナーリリーフのみで調圧されるため、ポンプ効率が良い。
【0030】
インナーリリーフ穴201Cは第1所定油圧以上でリリーフを行い、アウターリリーフ穴201Dは、第1所定油圧より大きい第2所定油圧以上でリリーフを行う。過度な油圧(第2所定油圧以上)に対しては、アウターとインナーの両リリーフを併用することでリリーフ量を増やして調圧機能を安定させることができる。
【0031】
また、インナーリリーフ穴201Cは、過度な油圧(第2所定油圧以上)に対してもリリーフを行うため、リリーフ量を増やすことができる。
【0032】
調圧弁207はバネ機構207Bを持っておりバネ伸縮方向に長い形状を有するため、オイルが流れる方向(低圧→ローター→高圧)に亘って設けることで、調圧弁207を含めたオイルポンプ107全体の形状をコンパクトにすることができる。
【0033】
オイルポンプ107の駆動ギアを、ギアケース101内部の他のギアと噛み合わせて駆動させているため、駆動力を伝えるための他の部品が不要となる。
【0034】
過昇圧は、オイルが低温時に発生することが多いが、アウターリリーフではポンプの駆動馬力が大きくなるため、油温が上昇するまでの暖機時間を短くすることができる。
【0035】
上述の実施の形態及び変形例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0036】
101 ギアケース
103 クランクギア
105A アイドルギア
107 オイルポンプ
107A オイルポンプの歯車(ギア)
109 オイルパン
201 ポンプシャフト
201C インナーリリーフ穴
201D アウターリリーフ穴
203 高圧室
203A 吐出ポート
205 低圧室
205A 吸入ポート
207 調圧弁
207A 可動弁
207B バネ
251 インナーローター
252 アウターローター
P0 初期位置